説明

自動車の後部車体構造

【課題】ロアバックパネルの軽量化,低コスト化を図りつつ、バンパブラケット全体の剛性とロアバックパネルの断面剛性との両方を確保できる自動車の後部車体構造を提供する。
【解決手段】バンパブラケット14に、上下方向に延びる第1ビード14fを形成し、ロアバックインナ又はロアバックアウタの何れか一方の下フランジ部10d′に、上下方向に延びる第2ビード10jを形成し、該第1ビード14fと第2ビード10jは、互いに反対側に突出する凸条をなしており、車両前後方向に見たとき、前記第1ビード14fの上部14f′と第2ビード10jの下部10j′とがラップしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックドア開口の下辺部を形成する閉断面構造のロアバックパネルに、上下方向に延びるバンパブラケットの上端部を結合した自動車の後部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のリヤバンパを取り付ける構造として、従来、断面剛性の高いロアバックパネルの下フランジ部間にバンパブラケットの上端部を結合し、該バンパブラケットの下端部にリヤバンパの下縁部を取り付ける構造が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平4−67558号公報
【特許文献2】実開平3−108562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の自動車においては、軽量化,低コスト化を図る観点から、ロアバックパネルに必要な剛性を確保しつつ、断面形状をできるだけ小さくするようにしている。この場合、ロアバックパネルの断面形状が小さくなる分、バンパブラケットの上下長さが長くなることから、リヤバンパの支持剛性が低下する懸念がある。
【0005】
このようなバンパブラケットの剛性低下に対応するには、該バンパブラケットに例えばビードを形成して補強することが考えられる。しかしながら、バンパブラケットにビードを設ける場合の構造如何では、以下の問題が生じる。
【0006】
ビードをバンパブラケットの、ロアバックパネルの下フランジ部より下方にのみ設ける場合は、バンパブラケットとロアバックパネルのフランジ部との結合剛性が確保できない。そこでバンパブラケットのビードをロアバックパネルの閉断面内まで延長形成し、下フランジ部にビードとの干渉を回避する逃げ凹部を設けることが考えられるが、この場合はバンパブラケットの剛性は確保できるものの、ロアバックパネルの断面剛性の確保が難しくなる。
【0007】
前記バンパブラケットは、比較的大型のリヤバンパを支持するものであることから、ロアバックパネルの少なくとも車幅方向両端部に設けられる。ところが、ロアバックパネルの両端部、つまりバックドア開口の下辺コーナー部には、後輪からの突き上げ荷重による捩じり応力が集中し易いことから、前述のようなロアバックパネルの下フランジ部に断点となる逃げ凹部を形成することはできない。
【0008】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、ロアバックパネルの軽量化,低コスト化を図りつつ、バンパブラケット全体の剛性とロアバックパネルの断面剛性との両方を確保できる自動車の後部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車両後端部に形成されたバックドア開口の下辺部を構成し、ロアバックインナとロアバックアウタとの上フランジ部同士及び下フランジ部同士を結合してなる閉断面部を有するロアバックパネルと、上下方向に延び、その上端部が前記ロアバックパネルの前記下フランジ部間に結合され、下端部にリヤバンパの下縁部が取り付けられるバンパブラケットとを備えた自動車の後部車体構造において、前記バンパブラケットに、上下方向に延びる第1ビードを形成し、前記ロアバックインナ又はロアバックアウタの何れか一方の下フランジ部に、上下方向に延びる第2ビードを形成し、前記第1ビードと第2ビードは、互いに反対側に突出する凸条をなしており、かつ車両前後方向に見たとき、前記第1ビードの上部と前記第2ビードの下部とがラップしていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る後部車体構造によれば、バンパブラケットに形成した第1ビードと、ロアバックインナ又はロアバックアウタの何れか一方の下フランジ部に形成した第2ビードとを互いに反対側に突出する凸条をなすものとし、かつ第1ビードの上部と第2ビードの下部とを車両前後方向にラップさせる構成とした。
【0011】
このように構成したので、バンパブラケットの第1ビードが第2ビードによってロアバックパネルの閉断面内まで擬似的に延びる構造となり、バンパブラケット全体の剛性を高めることができ、ひいてはリヤバンパの支持剛性を向上できる。
【0012】
また第1ビードと第2ビードのラップ部分が、互いに反対側に突出する筒状の閉断面を形成することとなり、バンパブラケットとロアバックパネルとの結合剛性を向上できる。
【0013】
また、ロアバックパネルの下フランジ部から稜線部分に、バンパブラケットの第1ビードを逃げる凹部を形成する必要がないので、ロアバックパネルの下フランジ部における断点をなくすことができ、バックドア開口の下辺コーナー部に集中する捩じり応力に対する剛性を高めることができる。
【0014】
このように、本発明では、軽量化,低コスト化を図るためにロアバックパネルを必要最小限の断面形状とすることができ、かつ断面縮小化に伴ってバンパブラケットを長尺とした場合でもバンパ支持剛性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1による自動車の後部車体の背面図である。
【図2】前記後部車体のロアバックパネルの下辺コーナー部の背面図である。
【図3】前記ロアバックパネルの断面図(図1のIII-III線断面図)である。
【図4】前記ロアバックパネルの断面図(図1のIV-IV線断面図)である。
【図5】前記ロアバックパネルのバンパブラケットとの結合部の断面図である。
【図6】前記バンパブラケットの斜視図である。
【図7】本発明の実施例2によるロアバックパネルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
図1ないし図6は、本発明の実施例1による自動車の後部車体構造を説明するための図である。
【0018】
図において、1は自動車の後部車体を示している。この後部車体1の後端部には、これの全域に広がる大きさのバックドア開口1aが形成されており、該バックドア開口1aには、跳ね上げ式のバックドア2が配設されている。
【0019】
前記後部車体1は、前記バックドア開口1aの左,右側辺部を形成する上下方向に延びる左,右のリヤピラー3,3と、該バックドア開口1aの上辺部を形成する車幅方向に延びるアッパバックパネル4と、前記バックドア開口1aの下辺部を形成する車幅方向に延びるロアバックパネル5とを備えている。
【0020】
前記アッパバックパネル4には、前記バックドア2を回動可能に支持するヒンジ部材(不図示)が取り付けられている。
【0021】
前記ロアバックパネル5の後側には、樹脂製のリヤバンパ6が配設されている。このリヤバンパ6は、前記バックドア開口1aの上縁に沿って車幅方向に延びる上下幅広のバンパ本体6aと、該バンパ本体6aの上縁に続いて上方に突出形成された上取付け部6bと、前記バンパ本体6aの下縁にインテグラルヒンジ6dを介して一体に起立形成された下取付け部6cとを有する。
【0022】
前記ロアバックパネル5は、前記バックドア開口12aの下辺中央部を構成するロアバック中央部9と、左,右コーナー部を構成するロアバックコーナー部10,10とに分割されている。
【0023】
前記ロアバック中央部9は、ロアバックインナ9aとロアバックアウタ9bとの上フランジ部9c,9c同士及び下フランジ部9d,9d同士をスポット溶接により結合することにより、車幅方向に延びる筒状の閉断面部aを形成した構造を有する(図3参照)。
【0024】
前記ロアバック中央部9の上フランジ部9cによりバックドア開口1aが形成されている。この上フランジ部9cには、全閉時位置のバックドア2との間をシールするシール部材11が装着されており、該シール部材11はバックドア開口1aの全周に渡って配置されている。
【0025】
前記ロアバックインナ9aの下フランジ部9dには、下方に延びるライセンスプレート取付け部9eが延長形成されている。
【0026】
前記左,右のロアバックコーナー部10は、ロアバックインナ10aとロアバックアウタ10bとの上フランジ部10c,10c同士及び下フランジ部10d′,10d同士をスポット溶接により結合することにより、筒状の閉断面部bを形成した構造を有する(図4参照)。
【0027】
前記左,右のロアバックコーナー部10は、前記リヤピラー3とロアバック中央部9とに連続した閉断面をなすよう結合されている。これにより、バックドア開口1aの下辺コーナー部は連続した閉断面構造となっており、後輪からの突き上げ荷重に対するバックドア開口1aの下辺コーナー部の剛性を高めている。
【0028】
前記左,右のロアバックアウタ10bの上部には、不図示のリヤコンビネーションランプを収容する凹部10eが車両前方に凹設されており、下部には断面ハット形状をなす凸部10fが車両後方に凸設されている。この凸部10fの上縁に前記上フランジ部10cが、下縁に前記下フランジ部10dが形成されている。
【0029】
また前記ロアバックインナ10aの下フランジ部10d′は、ロアバックアウタ10bの下フランジ部10dより下方に延びるよう延長形成されている。この延長形成された下フランジ部10d′の下端部には、断面Z型形状をなす屈曲部10gが形成されている。
【0030】
前記左,右のロアバックコーナー部10には、板金製のバンパブラケット14,14が配設されている。この左,右のバンパブラケット14は同一構造のものである。
【0031】
前記左,右のバンパブラケット14は、車両上下方向に延びる帯板状のブラケット本体14aと、該ブラケット本体14aの上縁に続いて上方に延びる上取付け部14bと、前記ブラケット本体14aの下縁に続いて後方に屈曲して延び、クリップ装着孔14eが形成された下取付け部14cとを有する。
【0032】
また前記ブラケット本体14a及び下取付け部14cには、フランジ14dが折り曲げ形成されており、これにより前後方向の外力に対する強度を高めている。
【0033】
前記バンパブラケット14の上取付け部14bは、前記ロアバックコーナー部10の下フランジ部10d′,10d間に挿入され、該下フランジ10d′,10dに3枚重ねてスポット溶接により結合されている。また前記ブラケット本体14aは、前記ロアバックインナ10aの下フランジ部10d′の延長部分にスポット溶接により結合されている(図2の×印参照)。
【0034】
前記バンパブラケット14の下取付け部14cには、前記リヤバンパ6の下取付け部6cが下方から装着されたクリップ16を介して取り付けられている(図4参照)。
【0035】
前記リヤバンパ6の上取付け部6bは、前記ロアバック中央部9のロアバックアウタ9bに形成された左,右取付け孔9fに後方から装着されたクリップ17を介して取り付けられている(図3参照)。
【0036】
前記バンパブラケット14の車幅方向中央部には、上下方向に延びる凸条の補強ビード(第1ビード)14fが車両後方に突出するように形成されている。この補強ビード14fは、横断面視で略半円形状をなしており、ブラケット本体14aの上,下取付け部14b,14cを除く部分全長に渡って形成されている。
【0037】
前記ロアバックインナ10aの下フランジ部10d′の、前記バンパブラケット14に対向する部分には、上下方向に延びる凸ビード(第2ビード)10jが車両前方に突出するように形成されている。
【0038】
この凸ビード10jは、断面視で略半円形状をなしており、その上部は下フランジ部10dより上方に位置し、かつロアバックコーナー部10の閉断面部b内まで延びるよう形成され、その下部は前記下フランジ部10d′の屈曲部10gの近傍に位置するように形成されている。即ち、凸ビード10jの下端は、下フランジ部10d′の下端に達していない。
【0039】
そして前記補強ビード14fと、前記凸ビード10jとは、互いに反対側に突出する凸条をなしており、かつ前記補強ビード14fの上部14f′と、前記凸ビード10jの下部10j′とは、車両前後方向に見たときラップするように配置されている。即ち、車両前方に開口する補強ビード14fと、後方に開口する凸ビード10jとを対向させた構造となっており、全体として上下方向に直線状をなすよう連続しており、かつ上部14f′と下部10j′とで概ね円筒形状の閉断面部cを形成している。
【0040】
本実施例によれば、バンパブラケット14に上下方向に延びる凸条の補強ビード14fを後方に突出するように形成し、ロアバックインナ10aの下フランジ部10d′に上下方向に延びる凸条の凸ビード10jを前方に突出するように形成し、前記補強ビード14fの上部14f′と凸ビード10jの下部10j′とを突出側の反対側同士が対向するよう車両前後方向にラップさせる構成とした。
【0041】
このように構成したので、バンパブラケット14の補強ビード14fが、凸ビード10jによりロアバックコーナー部10の閉断面部b内まで擬似的に延びることとなり、バンパブラケット14全体の剛性を高めることができ、ひいてはリヤバンパ6の支持剛性を向上できる。
【0042】
また補強ビード14fの上部14f′と凸ビード10jの下部10j′とを円筒状の閉断面部cをなすよう対向させたので、バンパブラケット14の剛性を確保しつつ、ロアバックコーナー部10の断面剛性を高めることができる。
【0043】
また補強ビード14fを逃げる凹部をロアバックパネルに形成する必要がないので、ロアバックコーナー部10の下フランジ部10dにおける断点をなくすことができ、バックドア開口1aの下辺コーナー部に集中する捩じり応力に対する剛性を高めることができる。
【0044】
このように、本実施例では、軽量化,低コスト化を図るためにロアバックパネル5全体を必要最小限の断面形状とすることができ、かつロアバックパネル5の断面縮小化に伴ってバンパブラケット14を長尺とした場合でもバンパ支持剛性を確保することができる。
【0045】
また前記凸ビード10j及び補強ビード14fを、全体として筒状をなすよう形成したので、ロアバックパネル5内に進入した雨水や洗浄水を凸ビード10jから閉断面部cを通って補強ビード14fから外部に排出させることができる。
【実施例2】
【0046】
図7は、本発明の実施例2による後部車体構造を説明するための図である。図中、図4と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0047】
本実施例は、バンパブラケット14に、補強ビード14fを車両前方に突出する凸条に形成し、ロアバックアウタ10bの下フランジ部10dに、凸ビード10kを車両後方に突出する凸条に形成した構造を有する。
【0048】
前記凸ビード10kは、これの上部がロアバックアウタ10bの下フランジ部10dの稜線Aを跨ぐことなくロアバックコーナー部10の閉断面部b内まで延設されている。また下部は、下フランジ部10dの下縁に達しない中途部まで延設され、具体的には、下フランジ部10dの下縁に形成された屈曲部10gの手前まで延びている。つまり、下フランジ部10dの稜線Aと屈曲部10gとの間に位置するよう形成されている。
【0049】
またロアバックインナ10aは、断面ハット形状をなすよう前方に凸設されている。該ロアバックインナ10aの下フランジ部10d′の稜線Bは、前記凸ビード10kの上縁より下側に位置している。
【0050】
そして前記補強ビード14fの上部14f′と、前記凸ビード10kの下部10k′とは、突出側の反対側同士が円筒状の閉断面部cをなすよう対向し、かつ車両前後方向に見たときラップするように配置されている。
【0051】
本実施例では、ロアバックアウタ10bに形成した凸ビード10kを、該ロアバックアウタ10bの稜線Aを跨ぐことなく、かつ下フランジ部10dの下縁に達することのないよう形成したので、稜線Aを凸ビード10kにより途切れたりすることなく直線状に設定することができ、かつ下フランジ部10dの下端に応力が集中する断点をなくすことができる。これにより、ロアバックパネルの断面剛性をより高めることができ、バックドア開口下辺コーナー部の剛性をより一層高めることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 後部車体
1a バックドア開口
5 ロアバックパネル
6 リヤバンパ
6c 下取付け部(下縁部)
10a ロアバックインナ
10b ロアバックアウタ
10c 上フランジ部
10d,10d′ 下フランジ部
10j,10k 凸ビード(第2ビード)
10j′,10k′ 下部
14 バンパブラケット
14f 補強ビード(第1ビード)
14f′ 上部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両後端部に形成されたバックドア開口の下辺部を構成し、ロアバックインナとロアバックアウタとの上フランジ部同士及び下フランジ部同士を結合してなる閉断面部を有するロアバックパネルと、
上下方向に延び、その上端部が前記ロアバックパネルの前記下フランジ部間に結合され、下端部にリヤバンパの下縁部が取り付けられるバンパブラケットとを備えた自動車の後部車体構造において、
前記バンパブラケットに、上下方向に延びる第1ビードを形成し、
前記ロアバックインナ又はロアバックアウタの何れか一方の下フランジ部に、上下方向に延びる第2ビードを形成し、
前記第1ビードと第2ビードは、互いに反対側に突出する凸条をなしており、かつ車両前後方向に見たとき、前記第1ビードの上部と前記第2ビードの下部とがラップしている
ことを特徴とする自動車の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−254730(P2012−254730A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129170(P2011−129170)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】