説明

自動車フェンダーライナー用水性エマルジョン組成物

【課題】本発明は、剛性、保型性、撥水性、着氷防止性に優れた自動車フェンダーが経済的に生産することができる自動車フェンダー用樹脂エマルジョン組成物を提供することにある。
【解決手段】ビニル樹脂(A)の水性エマルジョンと、その樹脂分100重量部に対し10〜70重量部の融点90〜160℃、平均粒子径5〜700μmのポリエチレン又はポリプロピレンからなる熱溶融樹脂(B)、および(A)と(B)の樹脂分の合計100重量部に対し0.5〜20重量部の水性ウレタン樹脂又はシリコーンの撥水剤(C)を含有してなる自動車フェンダー用樹脂エマルジョン組成物が前記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織布又は不織布に含浸又は塗布することにより、剛性、保型性、撥水性、着氷防止性に優れた自動車フェンダーを製造するための水性エマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車フェンダーは、道路から跳ね上がる水、泥、砂、石などから自動車車体を保護するための部品であり、従来は鉄板などの金属を素材として製造されていた。しかし近年は自動車の軽量化を目的として、プロピレン(PP)やポリエチレンテレフタレート(PET)などを素材とした織布又は不織布を熱可塑性樹脂のエマルジョンに含浸、乾燥したものが使用されるようになってきた。
【0003】
自動車フェンダーに求められる性能としては、上記の飛び跳ねた石や砂利から自動車車体を保護するという耐衝撃特性の他に、走行時に振動音を制御するための制振性、車内の静粛性を維持するための遮音性などがあり、その対策も講じられてはいる(特許文献1)。
しかしながら、ポリエチレンやポリプロピレンを使用したフェンダーは、耐衝撃特性は満たしているものの、寒冷地における雨天走行時にタイヤから飛び散った水がフェンダー素材である織布又は不織布内に浸透、凍結し、そこから氷の層が徐々に成長し最終的にはタイヤと接触するという着氷による問題点が指摘されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3955707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑み、フェンダー用不織布に含浸、乾燥、加熱、硬化させることにより、防水、着氷防止効果に優れ、経済的にも有利に自動車フェンダーを製造することができる水性エマルジョン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記の課題を解決することを目的に鋭意検討をおこなった結果、ビニル樹脂水性エマルジョンにポリエチレン又はポリプロピレの熱溶融樹脂の紛体および撥水性を有するウレタン樹脂又はシリコーンを配合して得られる水性エマルジョン組成物が、この課題を悉く解決することを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)ビニル樹脂(A)の水性エマルジョンと、その樹脂分100重量部に対し10〜70重量部の融点90〜160℃、平均粒子径5〜700μmのポリエチレンおよびポリプロピレンから選ばれた熱溶融樹脂(B)の少なくとも1種、および(A)と(B)の樹脂分の合計100重量部に対し0.5〜20重量部のポリウレタン樹脂およびシリコーンから選ばれた撥水剤(C)の少なくとも1種を含有してなる自動車フェンダーライナー用水性エマルジョン組成物である。
【0008】
本発明でいうビニル系樹脂水性エマルジョンとは、重合性ビニル系単量体の1種または2種以上を界面活性剤及び/又は保護コロイドの存在下又は不存在下、水性媒体中で乳化重合したり、乳化重合以外の方法により重合した重合体を後乳化したりして得られる単独重合体または共重合体の水性エマルジョンの単独物、又は、複数の重合体エマルジョンのブレンド物をいう。しかし製造の容易性、経済性等の理由から、通常重合性ビニル系単量体の乳化重合によってえられる単独または共重合体エマルジョンの単独物又は複数の重合体エマルジョンのブレンド物が好適に用いられる。
【0009】
重合性ビニル系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル系単量体、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル単量体、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等の芳香族ビニル系単量体、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の飽和脂肪酸ビニル系単量体、例えば、アクロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン等のオレフィン系単量体、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のエチレン系カルボン酸、例えば、無水マレイン酸等のエチレン系カルボン酸無水物、例えばモノブチルマレイン酸などのエチレン系ジカルボン酸のモノアルキルエステル、及びこれらのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩等のエチレン系カルボン酸塩類、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のエチレン系カルボン酸の酸アミド類、例えば、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メチロール化ジアセトンアクリルアミド及び、これらの単量体と炭素数1〜8個のアルコール類とのエーテル化物(例えば、N−イソブトキシメチルアクリルアミド)等のエチレン系カルボン酸アミド類のメチロール化物及びその誘導体、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエチレン系カルボン酸とエポキシ基を有するアルコールとのエステル類、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシメタクリレート等のエチレン系カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のエチレン系カルボン酸とアミノ基を有するアルコールとのエステル類など、エチレン性不飽和結合を1個有する単量体や、例えばジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等の2個以上の非共役性不飽和結合を有する単量体を挙げることができる。
これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチルが特に好ましい。
【0010】
これらの共重合性ビニル系モノマーに、その100重量に対して0.1〜3重量部、好ましくは0.5〜2重量部の、例えばジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート等の架橋剤を併用してもよい。
【0011】
本発明に用いられるビニル系樹脂水性エマルジョンは、自体公知の共重合可能なビニル系単量体の乳化重合によっても製造することができるが、この際重合開始剤としては過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素水、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の水性ラジカル重合開始剤またはこれらの混合物が用いることができる。重合開始剤の使用量は、モノマー全重量に対して通常は0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。重合開始剤はまた、還元剤と組み合わせレドックス系を形成することができる。そのような還元剤としては亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩、L−アスコルビン酸、酒石酸などのカルボン酸類が挙げられ、使用量はモノマー全重量に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部である。
なお、本発明の共重合体の製造法においては、硫酸第一鉄、硫酸アンモニウム第一鉄、ナフテン酸第一銅などの鉄、銅、ニッケル、コバルト、クロモ、モリブテン、バナジウム、セリウムのような遷移金属の塩なども用いることができるが、組成物に着色などが観られる場合がある。
【0012】
乳化重合に用いられる界面活性剤は少なくとも1種のアニオン性、ノニオン性、または両性界面活性剤、またはその混合物を用いることができる。アニオン性界面活性剤の例としてはアルキルまたはアルキルアリル硫酸塩、アルキルまたはアルキルアリルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩などのアルカリ金属塩、またはアンモニウム塩が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。両性界面活性剤としてはベタイン、アミノ酸の誘導体が挙げられる。これら界面活性剤の使用量はモノマー全重量に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜3重量部である。この使用量が0.1重量部よりも少ない場合は反応が不安定となり、凝集物が生成する場合がある。反対に5重量部よりも多い場合は乾燥性、耐水性が悪くなる場合がある。
【0013】
また、乳化重合は、必要に応じてエチレンジアミン4酢酸ナトリウムなどのキレート剤、ポリカルボン酸塩などの分散剤、リン酸塩、炭酸塩などの無機塩、チオール化合物、ハロゲン化合物などの連鎖移動剤の存在下に行ってもよい。
重合は通常0〜100℃の温度で、単量体の添加率が99%以上に達するまで行なうのがよい。
水性エマルジョン中の微粒子の平均粒子径は、通常0.5〜100μm、好ましくは1〜50μmである。微粒子の形状は特に限定されないが、球形、回転楕円体などが好ましい。
【0014】
本発明に用いられるポリエチレンやポリプロピレンは、融点が90〜160℃、好ましくは95〜155℃で、平均粒子径が5〜700μm、好ましくは50〜500μmの粉末である。
ポリエチレンやポリプロピレンの融点が低すぎると熱成形時に熱溶融したポリエチレンやポリプロピレンが金型に接着し熱成形が出来ず、逆に融点が高すぎると不織布原反に塗布し乾燥させた際にポリエチレンやポリプロピレンがフィルム化しないために十分な着氷防止効果および耐水性を得る事が出来ない。また粒子径も大きすぎると水性エマルジョンをフェンダー用不織布に含浸、乾燥した後、加熱溶融する際時間が掛かって余計な熱エネルギーコストがかかったり、完全には溶融しない粒子が残存する。逆に粒子が小さ過ぎると微粉化のためのコストがかかりすぎて不経済となり、飛散しやすいので取り扱いが困難なことや、均一混合に時間が掛かるなどの点で好ましくない。
ポリエチレンは、次の物性を有するものが市販されているので、その中から適当なものを選んで使用することができる。
MFR:0.25〜45g/10min(測定規格JIS K 6922-2)
密度0.915〜0.928g/cm(測定規格JIS K 6922-1,2)
曲げ弾性率110〜280mPa(測定規格JIS K 6922-2)
引張衝撃強さ150〜230kJ/m(測定規格JIS K 6922-2)
デュロメータ硬さ43〜55(HDD)(測定規格JIS K 7215)
ビカット軟化点79〜103℃(測定規格JIS K 7206)
融点(DSC法)102〜123℃(測定規格ISO 11357-3)
【0015】
また、ポリプロピレンも、次の物性を有するものが市販されているので、その中から適当なものを選んで使用することができる。
MFR:0.5〜60g/10min(測定規格JIS K 7210:1999)
密度0.9g/cm(測定規格 JIS K 7112:1999)
融点(DSC法)125〜170℃(測定規格 ISO 11357-3)
曲げ弾性率650〜2900mPa(測定規格 JIS K 7171:1994)
曲げ強さ23〜71mPa(測定規格 JIS K 7171:1994)
引張弾性率650〜2900mPa(測定規格 JIS K7161,7162:1994)
荷重たわみ温度(0.45MPa)70〜125℃(測定規格 JIS K 7191-1,2:1996)
光沢40〜90%(測定規格 JIS Z8741:1997)
【0016】
本発明に使用可能なポリウレタン樹脂としては、水に乳化又は可溶化させることができるものであれば特に限定はない。
ポリウレタン樹脂は一般に、イソシアネート化合物とポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオールとを反応させて得られるポリウレタン樹脂である。このポリウレタン樹脂組成物のうち、ポリウレタン樹脂を水に乳化させてなるもの(以下「ポリウレタンエマルジョン」という。)が好ましく用いられる。
ポリウレタン樹脂は、ポリオールなどの活性水素化合物とイソシアネート化合物及び鎖延長剤を化学的に結合させて製造することができる。
【0017】
本発明に用いることができるシリコーンとしては、(1)反応性シリコンオイル、(2)ポリアルキレンオキサイド変性の反応性シリコンオイル(3)水を含有してなる水性エマルジョンが挙げられる。
【0018】
上記成分(1)の反応性シリコンオイルは、メチルハイドロジェン変性、シラノール変性、アルコキシ変性、エポキシ変性、アミノ変性、カルボキシ変性、アルコール変性等の変性シリコンオイルが挙げられ、いずれも本発明で使用できる。これらは、1種または2種以上混合して使用しても構わない。
【0019】
上記成分(2)のポリアルキレンオキサイド変性の反応性シリコンオイルの添加量は、成分(1)の反応性シリコンオイルの特性を阻害しない範囲で加えるのが好ましい。添加量は少ないと希釈時の安定性及び防汚性が低下し、多いと反応性シリコンオイルの特性である撥水性及び被膜の耐久性を阻害してしまう。
これらの理由から、ポリアルキレンオキサイド変性の反応性シリコンオイルの添加量は、反応性シリコンオイル100重量部に対して1〜10000重量部が好ましく、更に10〜1000重量部であることが好ましい。
ビニル樹脂(A)、熱溶融性樹脂(B)、撥水剤(C)の使用割合は、(A)の樹脂分100重量部に対して、(B)が10〜70重量部、好ましくは20〜50重量部である。(C)は、(A)の樹脂分と(B)の合計量に対して0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%である。
熱溶融性樹脂が少なすぎると不織布原反に塗布、乾燥、過熱させた際にポリエチレンやポリプロピレンがフィルム化しないために十分な着氷防止効果を得る事が出来ず、逆に多すぎるとフェンダーとして熱成形の際に熱溶融した熱溶融性樹脂が金型に接着し熱成形が出来なくなる。撥水剤は量が少なすぎると十分な耐水性を得る事が出来ず、逆に多すぎるとフェンダーとして求められる剛性や保型性を損なう。
【0020】
また、本発明の優れた効果を妨げない使用範囲において、無機充填剤、分散剤、増粘剤、湿潤剤、発泡剤、製泡剤、消泡剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤等が使用できる。
本発明の水性エマルジョン組成物を、自動車フェンダー用の織布、不織布原反、好ましくは不織布の原反の一面または両面に塗布または含浸させ、100〜200℃、好ましくは120〜180℃の温度で乾燥して、ポリエチレンまたはポリプロピレン粉末を熱溶融することにより自動車フェンダーの材料とすることができる。
織布または不織布に対する本発明の樹脂エマルジョン組成の塗布または含浸量は、織布、不織布の材質、目付などによっても異なるが、たとえばPET製不織布で目付400g/mのものに対しては、乾燥重量で100〜500g/m、好ましくは200〜400g/mが目安となる。
得られた樹脂含有自動車フェンダー用原反を、常法に従って150〜250℃程度に加熱して柔軟性を持たせ、コールドプレス法によりフェンダーに成形加工することによってフェンダーの製品とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の樹脂エマルジョン組成は、合成繊維性織布、不織布からなる自動車フェンダー用原反に含浸、乾燥、加熱硬化させると、剛性、保型性、着氷防止性、耐水性に優れ、かつ成形性に優れた自動車のフェンダーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
【0023】
(1)樹脂水性エマルジョンの調製
ステンレス製反応釜にアクリル系共重合体水性エマルジョンを樹脂分100重量部とポリエチレンパウダー1を乾燥重量で15部を加え、攪拌機(T.K. HOMO DISPER モデルL)を用いて回転数2000rpmでよく攪拌し、更にシリコーンを乾燥重量で1.5部を少量ずつ加えて15〜30撹拌し、全固形分50重量%、粘度4000cps、pH9.0の自動車フェンダー用樹脂水性エマルジョン組成物を得た。
上記水性エマルジョン組成物の調製に用いられた各組成の規格は次のとおりである。
アクリル樹脂
アクリル系共重合体エマルジョン 固形分50重量%、Tg=45℃
ガンツ化成製「クロスレンOBX−F−20(商標)」
ポリエチレン(PE)パウダー1
平均粒径20〜30μm、真密度0.918g/cm、かさ密度0.2g/cm、軟化点85℃、融点106℃
セイシン企業製「SK−PE−20L(商標)」
(2)エマルジョンを用いた試験片の調製
自動車フェンダー用樹脂水性エマルジョン組成物を400目付の不織布PET原反(20cm×30cm)にフロス加工で乾燥重量が300g/mになるように塗布し、170℃で10分間乾燥して試験片を得た。
【0024】
(3)剛性試験方法
先ず試験片を30mm×250mmに切断し、それを図1に示すように先端10cmを試験台の外側にせり出させ他端は試験台に固定した。せり出させた先端に20gの荷重を吊り下げた。試験片の先端が垂下した距離xの長さを測定した。試験片10片の平均値を垂下剛性値とした。
判定基準
15mm未満:合格(○)
15mm以上:不合格(×)
(4)耐熱成型保型性試験方法
(i)試験片を75mm×135mmに切断した。
(ii)試験片を180℃ 2分間加熱成型した。
(iii)図2におけるA−B間の距離xを測定した。
(iv)図2に示すように、下端に60gの錘を吊るし、温度80℃で16時間放置し、再びA−B間の距離yの長さを測定した。
(v)次式にしたがって保型性率(%)を求めた。
(y−x)÷x×100=保型性率(%)
y−x=拡がり具合(mm)
判定基準
拡がり具合25mm未満:合格(○)
拡がり具合25mm以上:不合格(×)
(5)フェンダーの撥水性試験
(2)で準備した試験片を水の中に10分間浸漬し、その前後の重量変化を測定した。
重量変化の差が20g未満:○
重量変化の差が20g以上:×
(6)着氷防止効果試験
(2)で準備した試験片に水を噴霧し、−5℃で10時間放置し氷結状態を観察した。
氷結してない:○
氷結が著しい:×
【0025】
実施例2〜8、比較例1〜7
実施例1に準じた操作により、表1に示す配合(配合比:重量部)のとおりの材料を用い、樹脂水性エマルジョン組成物を得た。
すなわち、ステンレス製反応釜にアクリル樹脂(ガンツ化成製:Tg=45℃)またはSBR樹脂(BASF製:ブレンド品)を樹脂分100重量部とポリエチレンパウダー1、ポリエチレンパウダー2、ポリプロピレンパウダー1およびポリプロピレンパウダー2から選ばれた少なくとも1種を加え、攪拌機(T.K. HOMO DISPER モデルL)を用いて回転数2000rpmでよく攪拌し、更にシリコーン(東レ・ダウコーニング製:固形分65%)またはウレタン樹脂(三井化学ポリウレタン製:固形分30%)を加えて15分以上撹拌し、その後、必要に応じて増粘剤(ガンツ化成製:品名V−280 固形分:30%、pH:2.5、Tg:25℃)とpH調整剤(アンモニア水 濃度:25%)で粘度とpHを調整して全固形分50%、粘度4000cpsの樹脂水性エマルジョン組成物を得た。
【0026】
上記水性エマルジョン組成物の調製に用いられた各組成の規格は次のとおりである。
アクリル樹脂
アクリル系共重合体エマルジョン:固形分50%、Tg=45℃
ガンツ化成製「クロスレンOBX−F−20(商標)」
SBR樹脂
スチレン・ブタジエン共重合体エマルジョン:固形分50%、Tg=100℃ BASF製「SD902ap」とスチレン・ブタジエン共重合体エマルジョン:固形分51%、Tg=31℃ BASF製「SD2904ap」を乾燥重量で6:4にブレンドした。
ポリエチレン(PE)パウダー1
平均粒径20〜30μm、真密度0.918g/cm、かさ密度0.2g/cm、軟化点85℃、融点106℃
セイシン企業製「SK−PE−20L(商標)」
ポリエチレン(PE)パウダー2
平均粒径250μm、融点106℃
日本ポリエチレン製「ノバテックLD PS31(商標)」
ポリプロピレン(PP)パウダー1
平均粒径5μm、密度0.9g/cm、溶融粘度(CP/160℃)5300、酸価0、軟化点153℃、平均分子量15,000
セイシン企業製「PPW−5(商標)」
ポリプロピレン(PP)パウダー2
平均粒径2〜3mm、軟化点153℃
日本ポリプロ製「ノバテックPP MA3(商標)」
シリコーン
シリコーン・エマルジョン
固形分:65%、比重:0.98(25℃)
東レ・ダウコーニング製「DOW CORNING(R) 52 ADDITIVE(商標)」
ウレタン樹脂
水性ウレタン樹脂
固形分:30%、pH:7.8、粘度:20mPa・s、平均粒子径:60nm、マクロポリオール:カーボネート系
イオン性:アニオン、Tg:120℃
三井化学ポリウレタン製「タケラックWS−5100(商標)」
【0027】
垂下剛性、保型性、撥水性、着氷防止効果試験
該組成物を400目付の不織布PET原反(20cm×30cm)にフロス加工に樹脂塗布で乾燥重量が300g/mになるように塗布し、170℃で10分間乾燥して試験片を得た。
次いで、実施例1と同様の方法で、垂下剛性、保型性、撥水性、着氷防止効果の評価を実施した。評価結果を表1及び表2に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
比較例1はPEパウダーおよびPPパウダーの割合が発明の範囲より少ないので、撥水性と着氷防止効果が不十分となる。
比較例2はPEパウダーおよびPPパウダーの割合が発明の範囲より多いので、剛性と保型性が不十分となる。
比較例3と6はシリコーンおよびウレタン樹脂の割合が発明の範囲より少ないので、撥水性が不十分となる。
比較例4と7はシリコーンおよびウレタン樹脂の割合が発明の範囲より多いので、剛性と保型性が不十分となる。
比較例5はPPパウダー2の平均粒子径が発明の範囲より大きすぎるので、PPパウダーが十分に熱溶融せず着氷防止効果などが不十分となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の樹脂エマルジョン組成を合成繊維性不織布からなる自動車フェンダーに含浸、乾燥させたフェンダーは、剛性、保型性、着氷防止性に優れ、かつ成形性及び経済性に優れるところから、寒冷地で使用される自動車フェンダーとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】剛性試験に用いた装置の斜視図
【図2】耐熱成型保型性試験に用いた装置の斜視図
【符号の説明】
【0033】
1:試験片
2:錘
3:固定具
4:試験台
5:吊り下げ糸
6:フェンダー用成型品
A、B:A−B間の型の開き具合計測点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル樹脂(A)の水性エマルジョンと、その樹脂分100重量部に対し10〜70重量部の融点90〜160℃、平均粒子径5〜700μmの粉末であるポリエチレンおよびポリプロピレン粉末から選ばれた熱溶融樹脂粉末(B)の少なくとも1種、および(A)と(B)の樹脂分の合計100重量部に対し0.5〜20重量部のポリウレタン樹脂およびシリコーンから選ばれた撥水剤(C)の少なくとも1種を含有してなる自動車フェンダーライナー用水性エマルジョン組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−173790(P2009−173790A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14801(P2008−14801)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000149446)株式会社オーツカ (7)
【出願人】(592230542)ガンツ化成株式会社 (38)
【Fターム(参考)】