説明

自動車用ドアトリム

【課題】アームレスト、特にアームレストアッパーの芯材に従来のような切欠きや貫通孔等を施すことなく、自動車の側突時における衝撃吸収部を構成した。
【解決手段】ドアトリム本体1より突設されたアームレストロア31の棚部31−1上に、アームレストアッパー32を配設してアームレスト30を構成た場合、棚部31−1に開口部31−2を設け、開口部31−2の裏面側肩部31−3にアームレストアッパー32の裏面側に突設した係合片35を係合することによってアームレストアッパー32をアームレストロア31に装着し、棚部31−1に連続してドアパネル2側に近接対向する略垂直壁部37に、衝撃吸収部3を一体に形成し、衝撃吸収部3−1を、ドアパネル2側に突設する突出支点部3−1と、突出支点部3−1に連続してドアパネル2に対して遠ざかりながら上方に傾斜延在する傾斜面部3−2とで構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドアパネルの車室側に張設して、当該ドアパネルを美装する自動車用ドアトリム、特に、ドアトリム本体に設けられたアームレストに衝撃吸収部を設けた自動車用ドアトリムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用ドアトリムは、図1に示すように、ドアトリム本体1にスピーカグリル10やポケット部20を設けるほか、車室側に膨出するアームレスト30を突設して構成している。
【0003】
そして、アームレスト30は、車室側に突出しているために、自動車の側突事故等により、ドアトリム本体1が張設されたドアパネル2が車室内に変形突入してきた場合等において、これに連動して乗員の肘や腰等を圧迫しないように、通常、圧潰変形する衝撃吸収構造を採用している。
【0004】
従来、このような衝撃吸収部を有するアームレスト30を採用したドアトリムとして、図7に示すものが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−212025号公報。
【0005】
図7によれば、アームレスト30は、ドアトリム本体1における乗員の肘を乗せることができる所定位置を車室側に膨出するように一体に形成したアームレストロア30a(別体構成のものを取付ける場合もある)と、アームレストロア30aの上向きの棚部30b上に配設するアームレストアッパー30cとで、構成している。
【0006】
また、アームレストアッパー30cは、PP樹脂等から成形された芯材30dの表面が、ウレタンなどの発泡体よりなる軟質層30eおよび塩化ビニールなどの表皮30fにより2重に被覆されて構成している。
【0007】
そして、アームレストアッパー30cをアームレストロア30aに取付けるには、アームレストアッパー30cの裏面側に複数の取付け片30g、30g−1・・・を突設すると共に、例えば、ドアパネル2側に近接する取付け片30gに、ドアパネル2側に突出するように取付けボス30hを一体に形成して、取付けボス30hに、取付け片30gを開口部30iに挿入した状態で、ドアトリム本体1に形成した取付け孔30oを挿通したビス30jを螺合することにより、アームレストアッパー30cとドアトリム本体1とを共締めし、また、車室側に近接する取付け片30g−1に取付け孔30o―1を設けるとともに、取付け孔30o−1を挿通したビス30j−1をアームレストロア30a側に形成した取付けボス30h−1に螺合して、アームレストロア30aとアームレストアッパー30bとを共締めすることによって、行っていた。
【0008】
また、他の従来例では、図8に示すように、ドアパネル2側に近接した部位においては、アームレストアッパー30cの芯材30dの下面に、係合片30kを突設して、係合片30kを開口部3iの内周壁部下面側に係合することによって、アームレストアッパー30cをアームレストロア30aに取付けるようにしている場合もある。
【0009】
アームレスト30を自動車の側突事故等に際して圧潰させる衝撃吸収部は、図7に示すように(図示しないが、図8に示す場合も同様である)、アームレストアッパー30cの芯材30dにおいて、たとえば、その湾曲角部に切欠き30mを形成することや、略水平部に貫通孔30n、更には、図示しないが芯材30dに形成した薄肉部等から構成する脆弱部を設けることによって構成していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のアームレスト30では、自動車の側方からの衝撃荷重に対して衝撃吸収性能を向上させるためには、切欠き30mや貫通孔30nを大きくすることや個数を増やす等を行うことが必要となってくる。
【0011】
この結果として、アームレスト30の通常使用時、乗員がアームレスト30部分に肘などを突くことによって上下方向の衝撃が加わった場合に、切欠き30mや貫通孔30n等の存在により、不用意にアームレスト30が変形しやすくなってしまうことになる。
【0012】
そこで、本発明は、アームレスト、特にアームレストアッパーの芯材に従来のような切欠きや貫通孔等を施すことなく、自動車の側突時における衝撃吸収部を構成した自動車用ドアトリムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る自動車用ドアトリムは、ドアパネルの車室側に張設されるドアトリム本体を有し、該ドアトリム本体より突設されたアームレストロアと該アームレストロアに形成された棚部上に配設するアームレストアッパーとによりアームレストを構成し、かつ、前記アームレストロアの棚部に開口部を設け、該開口部の肩部下面側に前記アームレストアッパーの裏面側に突設した係合片を係合することによって前記アームレストアッパーを前記アームレストロアに装着し、前記ドアトリム本体における前記棚部と該棚部に連続して前記ドアパネル側に近接対向する略垂直壁部との間に、衝撃吸収部を一体に形成し、該衝撃吸収部を、前記ドアパネル側に突設する突出支点部と、該突出支点部に連続して前記ドアパネルに対して遠ざかりながら上方に傾斜延在する傾斜面部とで構成し、自動車の側突時等において、前記ドアパネルが前記ドアトリム本体側に変形した際に、前記ドアパネルに前記突出支点部を衝接させて、前記傾斜面部を変形させることによって、前記開口部と係合片との係合関係が外すように構成したことを特徴とする。
【0014】
かかる構成により、自動車の側突時等において、ドアパネルがドアトリム本体側に変形した際に、ドアパネルが突出支点部に衝接して、傾斜面部を変形させることによって、開口部と係合片との係合関係が外れ、アームレストロアに対してアームレストアッパーが離脱する方向に移動して、乗員の側突による衝撃を吸収することになって、従来のような切欠き部や貫通孔等をアームレストアッパーの芯材に形成しなくとも、衝撃吸収部を構成することができ、しかも、通常の使用状態におけるアームレストの剛性を高めることができる。
【0015】
また、本発明は、前記傾斜面部における前記ドアトリム本体の前記略垂直壁部との連設部近傍に座屈部を形成して、前記傾斜面部の変形を助成するように構成したことを特徴とする。
【0016】
かかる構成により、衝撃吸収部の突出支点部がドアパネルに衝接して、傾斜面部を変形させる際に、当該傾斜面部が座屈部から変形して、開口部と係合片との係合関係を確実に外すことができる。
【0017】
また、本発明は、前記衝撃吸収部を構成する前記突出支点部を、前記ドアパネルに対して所定幅離間するように構成したことを特徴とする。
【0018】
かかる構成により、衝撃吸収部は、突出支点部とドアパネルとの離間幅を吸収しない限り、変形することはないことから、通常の使用状態におけるアームレストアッパーの変形を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成する本発明によれば、自動車の側突時等において、ドアパネルがドアトリム本体側に変形した際に、ドアパネルが突出支点部に衝接して、傾斜面部を変形させることによって、開口部と係合片との係合関係が外れ、アームレストロアに対してアームレストアッパーが離脱する方向に移動して、乗員の側突による衝撃を吸収することになって、従来のような切欠き部や貫通孔等をアームレストアッパーの芯材に形成しなくとも、衝撃吸収部を構成することができ、しかも、通常の使用状態におけるアームレストの剛性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について、図1乃至図4を用いて説明する。
【0021】
図1は一般的なドアトリムを描画した斜視図、図2は本発明に係る実施の形態を採用した場合の図1のA−A断面図、図3は同じく自動車側部衝突が発生した場合の初期段階の作用説明図、図4は同じく自動車側部衝突が発生した場合のさらに進んだ段階における作用説明図である。
【0022】
先ず、図1において、自動車用ドアトリムは、ドアトリム本体1にスピーカグリル10やポケット部20を設けるほか、車室側に膨出するアームレスト30を突設して構成している。
【0023】
そして、アームレスト30は、車室側に突出しているために、自動車の側突事故等により、ドアトリム本体1が張設されたドアパネル2が車室内に変形突入してきた場合等において、これに連動して乗員の肘や腰等を圧迫しないように、圧潰変形する衝撃吸収部3を採用している。
【0024】
次に、図2を用いて、衝撃吸収部3を具体的に説明する。
【0025】
即ち、アームレスト30は、ドアトリム本体1における乗員の肘を乗せることができる所定位置を車室側に膨出するように一体に形成したアームレストロア31(別体構成のものを取付ける場合もある)と、アームレストロア31の上向きの棚部31−1上に配設するアームレストアッパー32とで、構成している。
【0026】
また、アームレストアッパー32は、PP樹脂等から成形された芯材32−1の表面が、ウレタンなどの発泡体よりなる軟質層32−2および塩化ビニールなどの表皮32−3により2重に被覆されて構成している。
【0027】
アームレストアッパー32の裏面の車室4側において、下方に垂下する取付け片33を突設し、取付け片33の先端側に、取付け孔33−1を形成するとともに、取付け孔33−1に対向するように、アームレストロア31に設けた開口部31−2の内周壁に、取付けボス34を突設している。
【0028】
また、アームレストアッパー32の裏面のドアパネル2側において、下方に垂下する係合片35を形成し、係合片35の先端に係合突起35−1が形成されている。
【0029】
アームレストアッパー32をアームレストロア31に取付けるには、取付け片33および係合片35を開口部31−2の上部側から挿入し、取付け片33の取付け孔33−1を挿通したビス36を取付けボス34に螺合すると共に、係合片35の係合突起35−1を開口部31−2の肩部31−3の裏面側に係合することによって行っている。
【0030】
そして、ドアトリム本体1におけるアームレストロア31の棚部31−1に連続してドアパネル2に近接対向する略垂直壁部37に、衝撃吸収部3が設けられており、衝撃吸収部3は、棚部31−1に連続するようにドアパネル2側に突設する突出支点部3−1と、突出支点部3−1に連続してドアパネル2に対して遠ざかりながら上方に傾斜延在する傾斜面部3−2とで構成している。
【0031】
傾斜面部3−2の傾斜角は、好ましくは、ドアトリム本体1の垂直壁部7に対して、20°〜40°程度である。当該傾斜角が、20°未満であると、傾斜面部3−2が、側突事項等の際の衝撃に対して変形しにくく、逆に、40°以上の傾斜角に設定すると、通常のアームレスト30の使用等によって、変形しやすくなってしまう。
【0032】
突出支点部3−1は、ドアパネル2の内側に当接した状態となっており、また、取付け片33の中途部には、断面三角状の溝部33−2が形成されている。
【0033】
かかる構成において、自動車の側突時等において、ドアパネル2が、図3の一点鎖線視状態から、二点鎖線視するように車室4側に移動して、ドアトリム本体1側に変形した際には、ドアパネル2が突出支点部3−1に衝接することになり、この結果として、傾斜面部3−2が車室4側に移動しながら変形することになる。
【0034】
この状態から、傾斜面部3−2が、ドアパネル2の変形によりさらに押されて変形すると、図4に示すように、係合片35の係合突起35−1と肩部31−3との係合関係が解除され、一点鎖線視するように、アームレストロア31に対してアームレストアッパー32を車室4側に離脱する方向に移動させて、乗員の側突による衝撃を吸収することになる。
【0035】
この結果、従来のような切欠き部や貫通孔等をアームレストアッパー32の芯材32−1に形成しなくとも、衝撃吸収部3を構成することができ、しかも、通常の使用状態におけるアームレスト30の剛性を高めることができる。
【0036】
なお、上記実施の形態において、衝撃吸収部3の傾斜面3−2が自動車の側突事故等に際しさらに確実に変形するために、傾斜面3−2の上端部における垂直壁部37との連結部付近を若干肉薄にして、薄肉部部位3−3に形成してもよく、その他の方法として、図5に示す他の実施の形態のように、傾斜面3−2と垂直壁部37との連結部に、座屈部3−4を形成しておいてもよい。
【0037】
ただし、上記薄肉部位3−3の肉薄程度や座屈部3−4の形状の選択は、真に側突事故等の際の衝撃値に見合うように設定されるものであり、通常のアームレスト30の使用状態におけるアームレストアッパー32が変形しないような剛性を有するものである。
【0038】
図6は、本発明に係る更に他の実施の形態を示すものである。
【0039】
図6によれば、衝撃吸収部3の突出支点部3−1は、通常状態では、ドアパネル2に対して、所定幅の間隙Sだけ離間した状態となっている。間隙Sは、好ましくは、3〜5mm程度に設定されている。
【0040】
このように構成することにより、衝撃吸収部3は、突出支点部3−1とドアパネル2との離間幅である間隙Sを吸収しない限り、変形することはないことから、通常の使用状態におけるアームレストアッパー32の変形を確実に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明したように、本発明は、自動車の側突時等において、ドアパネルがドアトリム本体側に変形した際に、ドアパネルが突出支点部に衝接して、傾斜面部を変形させることによって、開口部と係合片との係合関係が外れ、アームレストロアに対してアームレストアッパーが離脱する方向に移動して、乗員の側突による衝撃を吸収することになって、従来のような切欠き部や貫通孔等をアームレストアッパーの芯材に形成しなくとも、衝撃吸収部を構成することができ、しかも、通常の使用状態におけるアームレストの剛性を高めることができるために、自動車のドアパネルの車室側に張設して、当該ドアパネルを美装する自動車用ドアトリム、特に、ドアトリム本体に設けられたアームレストに衝撃吸収部を設けた自動車用ドアトリム等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】一般的な自動車用ドアトリムを描画した斜視図である。
【図2】本発明に係る実施の形態を採用した場合の図1のA−A断面図である。
【図3】同じく自動車側部衝突が発生した場合の初期段階の作用説明図である。
【図4】同じく自動車側部衝突が発生した場合のさらに進んだ段階における作用説明図である。
【図5】本発明に係る他の実施の形態における要部断面図である。
【図6】本発明に係る更に他の実施の形態における要部断面図である。
【図7】従来の技術における図1のA−A断面図である。
【図8】従来の他の技術における要部断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ドアトリム本体
2 ドアパネル
3 衝撃吸収部
3−1 突出支点部
3−2 傾斜面部
30 アームレスト
31 アームレストロア
31−1 棚部
31−2 開口部
32 アームレストアッパー
32−1 芯材
35 係合片
37 垂直壁部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアパネルの車室側に張設されるドアトリム本体を有し、該ドアトリム本体より突設されたアームレストロアと該アームレストロアに形成された棚部上に配設するアームレストアッパーとによりアームレストを構成し、かつ、前記アームレストロアの棚部に開口部を設け、該開口部の肩部下面側に前記アームレストアッパーの裏面側に突設した係合片を係合することによって前記アームレストアッパーを前記アームレストロアに装着し、前記ドアトリム本体における前記棚部と該棚部に連続して前記ドアパネル側に近接対向する略垂直壁部との間に、衝撃吸収部を一体に形成し、該衝撃吸収部を、前記ドアパネル側に突設する突出支点部と、該突出支点部に連続して前記ドアパネルに対して遠ざかりながら上方に傾斜延在する傾斜面部とで構成し、自動車の側突時等において、前記ドアパネルが前記ドアトリム本体側に変形した際に、前記ドアパネルに前記突出支点部を衝接させて、前記傾斜面部を変形させることによって、前記開口部と係合片との係合関係が外すように構成したことを特徴とする自動車用ドアトリム。
【請求項2】
前記傾斜面部における前記ドアトリム本体の前記略垂直壁部との連設部近傍に座屈部を形成して、前記傾斜面部の変形を助成するように構成したことを特徴とする請求項1記載の自動車用ドアトリム。
【請求項3】
前記衝撃吸収部を構成する突出支点部を、前記ドアパネルに対して所定幅離間するように構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車用ドアトリム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−331564(P2007−331564A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165639(P2006−165639)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】