自動車用フードパネル
【課題】繊維強化プラスチック製自動車用フードパネルにおいて、要求される軽量性かつ基本剛性を有しつつ、かつ、優れた歩行者頭部保護性能を有し、衝撃エネルギー吸収が確実に達成できる自動車用フードパネルを提供する。
【解決手段】外表面を形成する繊維強化プラスチック製アウターパネル2と、アウターパネル2に接合される繊維強化プラスチック製インナーパネル3とから構成される自動車用フードパネル1であって、インナーパネル3は、アウターパネル2の周縁部に配置されるインナー周縁部6と、インナー周縁部6と一体に形成されるインナー面状部7とからなる自動車用フードパネル。
【解決手段】外表面を形成する繊維強化プラスチック製アウターパネル2と、アウターパネル2に接合される繊維強化プラスチック製インナーパネル3とから構成される自動車用フードパネル1であって、インナーパネル3は、アウターパネル2の周縁部に配置されるインナー周縁部6と、インナー周縁部6と一体に形成されるインナー面状部7とからなる自動車用フードパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック(FRP)製の自動車用フードパネルに関し、より詳しくは、要求される軽量性かつ基本剛性を有しつつ、特に歩行者との衝突時の衝撃エネルギーを効果的に吸収し、歩行者を衝撃から保護することができる繊維強化プラスチック製の自動車用フードパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属製フードパネルに代えて、軽量化を第1目的とした繊維強化プラスチック製のフードパネルが盛んに開発されている。
これは、繊維強化プラスチックが比剛性や比強度の点で金属などの他材料に比べ大きいため、軽量でかつ高剛性/高強度の製品を得ることができるためである。
さらに、繊維強化プラスチックは、繊維、樹脂、繊維配向などを目的の要求性能に合わせて組み合わせることが可能であり、金属製フードパネルよりも、自由度の高い設計が可能である。
【0003】
このようなことから、フードパネル全体としての軽量性を確保しつつ必要な剛性を実現するために、外表面を形成する繊維強化プラスチック製のアウターパネルに、その周縁部全周にわたって延び、中央部が開口した額縁形状を有する繊維強化プラスチック製のインナーパネルを接合した自動車用フードパネル(たとえば特許文献1)などが提案されている。
【0004】
一方、上記のような軽量化、必要な剛性付与とは別に、近年、自動車には衝突時等における安全性を高めることが要求されており、特に、事故時の歩行者の安全性を確保することが求められている。歩行者が自動車に衝突した際には、歩行者は自動車のバンパーやフードパネル等に対し、脚部や頭部などに衝撃荷重を受けることになる。とりわけ、頭部へのダメージは、歩行者の死亡や重傷に至る危険性を高めるため、歩行者の頭部が衝突する可能性の高いフードパネルには歩行者の衝突時に高い衝撃吸収性を有し、歩行者頭部へのダメージを抑える構造であることが求められている。
【0005】
この歩行者頭部へのダメージの低減に関しては、歩行者の頭部衝撃の安全性を評価する基準(歩行者頭部保護基準)として、頭部がフードパネルとの衝突時に受ける加速度とその衝突時間より計算される頭部障害値(HIC値)が導入されており、このHIC値を所定のレベル以下に抑えることが要求される。
【0006】
この基準を満足するため、従来からあるアルミニウムや鋼などの金属製フードパネルにおいては、例えば、インナーパネルに略円錐台形状ディンプルを複数形成したもの(例えば特許文献2)や、車両前後方向に平行な凸状のビードを複数形成したもの(例えば特許文献3)など、インナーパネルに複雑な構造を設けたものが数多く提案されている。
【0007】
このような歩行者頭部保護性能に関して、前述したアウターパネルに額縁形状のインナーパネルを接合した繊維強化プラスチック製の自動車用フードパネルの場合には、額縁形状の内側に歩行者の頭部が衝突したとき、フードパネルがその中央部で大きく変形する可能性があり、変形したフードパネルを介してフードパネル下に存在するエンジンなどに二次衝突を起こし、大きなダメージを与えてしまうおそれがある。
【0008】
このような問題に対し、上述したような金属製フードパネルにおいて開発された技術を適用することが考えられるが、繊維強化プラスチック製の自動車用フードパネルは、使用される材料の特性が大きく異なること、また、それに伴って金属製と繊維強化プラスチック製ではインナーパネルのレイアウトが異なること、などの点から、そのまま簡単に適用することはできず、また同じ効果が得られる保証もない。
【0009】
そこで、繊維強化プラスチック製フードパネルにおいても、歩行者頭部保護性能の向上に関して、いくつかの構造が提案されている。例えば、特許文献4においては、額縁形状のインナーパネルの開口部に、梁形状インナーパネルを設けた構造が提案されている。ところが、上記特許文献4に提案されている構造では、梁形状インナーパネル上の箇所とそれ以外の箇所(アウターパネルのみ有する箇所)では、明らかに剛性に差があり、フードパネル全面において、剛性が均一化されていない。そのため、歩行者頭部が衝突する箇所によって衝撃吸収性能に差があり、また、HIC値基準を満足するためには、その箇所毎に適した設計を実施する必要がある。また、前記フードパネルは梁形状インナーパネルを含むインナーパネル全体をアウターパネルに接合して構成されているが、アウターパネルとインナーパネルとの接合部位に相当するアウターパネル表面意匠側には、アウターパネルとインナーパネルの剛性差による筋状の変形、いわゆるボンディングラインが現れる場合があり、特に、前記フードパネルは梁形状インナーパネルがフードパネル中央付近に設けられているため、表面の意匠性が損なわれるおそれがある。さらに、梁形状インナーパネルを設けることによって、インナーパネル自体の構造が複雑化するため、接着時のソリの発生など成形上の課題も増加する。
【0010】
このように従来の繊維強化プラスチック製フードパネルは、歩行者頭部保護性能を付与するために、設計の簡便性や、意匠性、成形性などを犠牲にしており、これらを全て満足させるものはこれまで無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−284038号公報
【特許文献2】特開2003−191865号公報
【特許文献3】特開2008−024185号公報
【特許文献4】特開2008−265696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術が有している問題点を解消し、繊維強化プラスチック製自動車用フードパネルにおいて、要求される軽量性かつ基本剛性を有しつつ、かつ、優れた歩行者頭部保護性能を有し、衝撃エネルギー吸収が確実に達成できる自動車用フードパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明の自動車用フードパネルは、次のいずれかの構成を有する。すなわち、
(1)外表面を形成する繊維強化プラスチック製アウターパネルと、前記アウターパネルに接合される繊維強化プラスチック製インナーパネルとから構成される自動車用フードパネルであって、前記インナーパネルは、前記アウターパネルの周縁部に配置されるインナー周縁部と、前記インナー周縁部と一体に形成されるインナー面状部とからなることを特徴とする自動車用フードパネル。
(2)前記インナー面状部は、前記アウターパネルとの間に空間を形成する(1)に記載の自動車フードパネル。
(3)前記インナー面状部は、実質的に前記アウターパネルの形状に沿う形状の面を有している(1)または(2)に記載の自動車用フードパネル。
(4)前記インナー周縁部は、実質的にフードパネルに必要な剛性を担う主剛性部材であり、前記インナー周縁部とアウターパネルとで形成される構造の少なくとも一部が略閉断面構造である(1)〜(3)のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
(5)前記インナー周縁部は、アウターパネルの外縁に沿ってアウターパネルとの接合部を有しており、前記接合部のうち少なくとも一部が前記アウターパネルと接合されている(1)〜(4)のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
(6)前記アウターパネルおよび/または前記インナーパネルが、繊維強化プラスチックの単板構造である(1)〜(5)のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
(7)前記アウターパネルおよび/または前記インナーパネルが、繊維強化プラスチックのスキン板間にコア材を介在させたサンドイッチ構造である(1)〜(5)のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
(8)前記繊維強化プラスチックに使用される強化繊維の少なくとも一部が炭素繊維である(1)〜(7)のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、繊維強化プラスチック製インナーパネルは、繊維強化プラスチック製自動車用フードパネルにおいて、要求される軽量性かつ基本剛性を有しつつも、衝撃エネルギー吸収が確実に達成でき、優れた歩行者頭部保護性能を有することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の繊維強化プラスチック製フードパネルの一実施態様にかかるフードパネルの平面概略図である。
【図2】本発明の繊維強化プラスチック製フードパネルの一実施態様にかかるフードパネルの分解概略図である。
【図3】図1におけるA1−A1矢視の断面概略図である。
【図4】図1におけるA2−A2矢視の断面概略図である。
【図5】図1におけるB1−B1矢視の断面概略図である。
【図6】図1におけるB2−B2矢視の断面概略図である。
【図7】本発明の繊維強化プラスチック製フードパネルに歩行者頭部が衝突した際の変形の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の繊維強化プラスチック製フードパネルに歩行者頭部が衝突した際の変形の一例を示す概略図である。
【図9】従来の繊維強化プラスチック製フードパネルの一例を示す平面概略図である。
【図10】図9におけるC1−C1矢視の断面概略図である。
【図11】図9におけるC2−C2矢視の断面概略図である。
【図12】図9におけるD1−D1矢視の断面概略図である。
【図13】図9におけるD2−D2矢視の断面概略図である。
【図14】従来の繊維強化プラスチック製フードパネルに歩行者頭部が衝突した際の変形の一例を示す概略図である。
【図15】従来の繊維強化プラスチック製フードパネルに歩行者頭部が衝突した際の変形の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の最良の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図示した実施形態はあくまで一例であり、以下の説明において何ら制限するものではない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動車用フードパネルをエンジン側から見た平面図であり、図2は図1で示すフードパネルの分解図である。また、図3〜図6は、それぞれ図1のA1−A1、A2−A2、B1−B1、B2−B2矢視の断面図である。
【0018】
図1において、1はフードパネル、2はアウターパネル、3はインナーパネルであり、これらアウターパネル2とインナーパネル3は繊維強化プラスチックで構成されている。
【0019】
また、アウターパネル2とインナーパネル3は互いに接合され、接合体全体としてフードパネル1が構成されている。このフードパネル1は車両前方に装着され、エンジンルームなどを覆うものである。
【0020】
アウターパネル2は外表面を形成する部材であり、車両に取り付けられた状態においては車両外観を構成する。
【0021】
インナーパネル3はエンジンルーム側に配され、フードパネル1に必要な剛性を担う主剛性部材として機能する。また、インナーパネル3には、締結部材として、フードパネル1の開閉を行う開閉機構部を構成する車体前方に取り付けられるフードロックストライカー4と、車体後方両端に取り付けられるヒンジ5がそれぞれ取り付けられており、これら締結部材を介してフードパネル1は車両に取り付けられる。本実施形態においては、フードロックストライカー4は1つ、ヒンジ5は2つを示したが、これらは限定されるものではなく、例えば、フードロックストライカー4は、車体前方両端に2つ取り付けられていたりしてもよい。
【0022】
さらに、インナーパネル3は、インナー周縁部6と、これらに連続して一体に形成されるインナー面状部7から構成される。
【0023】
インナー周縁部6は、本実施形態において図3〜図6に示すとおり、ハット形状の横断面を有しており、実質的にフードパネル1に必要な剛性を担っている。また、アウターパネル2の外縁に沿ってアウターパネル2との接着部8を有しており、この接着部8とアウターパネル2とを接着剤(図示せず)によって接合することで略閉断面構造を形成している。
【0024】
フードパネル1に所望の剛性を与えつつ軽量化を達成するためには、本実施形態に示したように、インナー周縁部6を略閉断面構造とし、さらに断面形状をハット形状に形成することが好ましい。他にも三角形などの断面形状が考えられるが、所望の剛性を与えるためには重量が嵩む場合が多く、また成形難易度も高くなりコストが高くなる場合が多い。
【0025】
このインナー周縁部6の高さや幅など断面形状寸法は、フードパネル1に必要とされる剛性を確保できるように適宜設計することができる。一方、例えば、エンジン等とのクリアランスの点からインナー周縁部6の断面高さを確保できないなど、所望の形状を設けることができない場合は、インナーパネル3上の接着部8は、アウターパネル2の外縁全周に沿うのに加えて、フードパネル1内部の必要に応じた箇所に接着部8を形成することで剛性を確保することも可能である。ここで、フードパネル1の内部とは、アウターパネル2の周縁以外の部位を指す。ただしその場合は、ボンディングラインがフードパネル1内部のアウターパネル2の表面に現れ意匠性が低下する可能性が考えられるため、接着部8周辺のアウターパネル2やインナーパネル3の板厚や積層構成を調整することで、アウターパネル2とインナーパネル3の剛性差を極力小さくし、ボンディングラインの発生を最小に抑える、また、車両全体デザインの一部でありデザインにメリハリを付ける等の点から、アウターパネル2に凹凸を付けることによって設けられるキャラクターラインに沿って接着部8を設けることでボンディングラインを見えにくくするなど、フードパネル1の内部における接着部8の位置に注意して設計する必要がある。
【0026】
インナー面状部7は、本実施形態において図3〜図6に示すとおり、インナー周縁部6と連続して一体に形成されている。一体に形成することで、フード周縁に配されるインナー周縁部6の前後左右それぞれを繋ぐことができ、これによりフードパネル1に必要とされる剛性を確保しやすくなる。
【0027】
従来の繊維強化プラスチック製フードパネルは、例えば特開2008−265696号公報(特許文献4)において開示されたフードパネルの平面概略図(図9)および断面概略図(図10〜図13)のように、様々な幅を有する額縁形状インナーパネル9や梁形状インナーパネル10のハット形状の両端に接着部8を形成し、アウターパネル2に接着することで閉断面を形成しているものがほとんどである。この場合、前述したとおり、アウターパネル2の内部に接着部8が形成されるため、意匠性に問題が起こる可能性がある。
【0028】
本実施形態においてはアウターパネル2の外縁に沿ってのみ接着し、アウターパネル2の内部には接着部8を形成しないため、略閉断面となり、閉断面より剛性が不足することが考えられるが、前述したように、インナー面状部7をインナー周縁部6と連続して一体に形成することで不足分を補填することが可能である。また、さらに不足する場合は、インナー周縁部6の断面形状を適宜調整することで対応することが可能である。このようにすることで本実施形態においては、高い意匠性を確保することができる。
【0029】
また、インナー面状部7は、アウターパネル2との間に、ある所定の距離を保った空間を有しており、実質的にアウターパネル2の形状に沿う形状の面を有している。
【0030】
前述したように、従来の繊維強化プラスチック製フードパネルは、例えば特開2008−265696号公報(特許文献4)において開示されたフードパネルの平面概略図(図9)および断面概略図(図10〜図13)のように、額縁形状インナーパネル9の開口部に、梁形状インナーパネル10を設けた構造を有している。このため、梁形状インナーパネル10上の箇所とそれ以外の箇所(アウターパネル2のみ有する箇所)とでは、剛性に差が生じ、フードパネル全面において、剛性が均一化されないといった問題を抱えていた。従って、例えば、図14および図15に示すように、歩行者頭部11が梁形状インナーパネル10上の箇所に衝突した場合と、それの箇所(アウターパネル2のみ有する箇所)に衝突した場合では、フードパネルの変形が異なるため、衝突した箇所の違いによって衝撃吸収性能に差が発生する。歩行者頭部11の保護、すなわちHIC値基準を満足させるためには、その打撃箇所毎に適した設計を実施する必要がある。
【0031】
これに対して、本実施形態では、インナー面状部7は、アウターパネル2との間にある所定の距離を保った空間を有していることが特徴である。特に、インナー面状部7が実質的にアウターパネル2の形状に沿う形状の面を有していると、フードパネル1全体に渡って剛性の均一化を図ることができる。これにより、図7および図8に示すように、歩行者頭部11が衝突する箇所が異なる場合でも、ほぼ同じ変形となり、ばらつきのない優れた衝撃吸収性能を確保できる。
【0032】
さらに、アウターパネル2との距離、インナー面状部7の板厚などを必要に応じて適正化することにより、必要とされる衝撃吸収性能をより適正化することが可能である。
【0033】
また、どの箇所もばらつきのない均一な性能となるため、フードパネル1全面に渡って一意に設計することができので、設計が簡便となり、かつ、設計期間が短縮でき、しいては、コスト低減も達成することができる。
【0034】
一方、設計の結果、アウターパネル2とインナー面状部7の距離があまりに近くなり過ぎると、走行時などの振動によってフードパネル1が損傷を受けたり、騒音が発生したりすること場合がある。このような損傷や振動を防ぐためには、例えば、金属製フードパネルでも用いられているように、比較的柔らかく、せん断変形を伝える能力の小さい弾性接着剤(マスチックシーラーなど)や充填材(発泡ウレタンなど)を、アウターパネル2とインナー面状部7の間に充填することも好ましい。また、発泡樹脂、ガラスウールなどからなるインシュレーターを挿入することも、損傷や振動防止効果を得る点で好ましい態様である。
【0035】
本発明においてアウターパネル2とインナーパネル3の接合構成としては、接着剤による接合の他、リベット接合、接着剤を併用したリベット接合等が選択肢として挙げられる。その他にも、インサートナットをアウターパネル2もしくはインナーパネル3にインサート成形してボルト締結する構成や、ボルトをアウターパネル2もしくはインナーパネル3に接着した上でナットで締結する構成や、アウターパネル2とインナーパネル3に締結用穴を設けてボルト・ナット締結する構成としても良い。いずれの場合も必要となる剛性や外観品位、耐環境性などを考慮して選択することができる。なかでも、接着剤による接合が好ましく、例えばネオプレン−フェノリック樹脂、ビニル−フェノリック樹脂、ニトリル−エポキシ樹脂、エポキシ−フェノリック樹脂、ナイロン−エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリサルファイド樹脂、弾性エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズイミタゾール樹脂、セメント系、低融点ガラス、アルカリ金属シソケート、ホスフェート樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂等の構造接着剤もしくは弾性接着剤と呼ばれる接着剤により接着することで、アウターパネル2とインナーパネル3の間において応力伝達がなされやすい構成とすることがより好ましい。
【0036】
本発明において、アウターパネル2およびインナーパネル3は、いずれも繊維強化プラスチックの単板構造のほか、繊維強化プラスチックからなるスキン板の間にコア材を介在させたサンドイッチ構造とすることも可能である。サンドイッチ構造を採用する場合のコア材としては、弾性体や発泡材、ハニカム材の使用が可能であり、軽量化のためには特に発泡材が好ましい。発泡材の材質としては、例えば、ポリウレタン樹脂やアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂などの高分子材料の発泡材などを使用できる。ハニカム材としては、例えば、アルミニウム合金、紙、アラミドペーパーなどを使用することができ、特にこれらに限定されるものではない。
【0037】
なお、サンドイッチ構造においても軽量化の効果を得ることができるが、単板構造を用いてインナーパネル3を好ましいスティフナ形状としてアウターパネル2と接合することにより、所望の剛性を確保できる場合は、軽量化の点から単板構造にすることがより好ましい。
【0038】
本発明において、繊維強化プラスチックとは、強化繊維層にマトリックス樹脂を含浸、硬化させたプラスチックを指す。強化繊維層を構成する強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維や、ケブラー繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維からなる強化繊維が挙げられる。面剛性の制御の容易性からは、特に強化繊維として炭素繊維を用いることが好ましい。ここで、「面剛性」とは、初期の所定の面形状を保つための剛性のことを言う。
【0039】
繊維強化プラスチックに用いるマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられ、さらには、アクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリブチレンテレプタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂、およびこれら樹脂をアロイ化した変性樹脂も使用可能である。
【0040】
なお、本発明の自動車用フードパネルは、ハンドレイアップ法、オートクレーブ法、RTM(Resin Transfer Molding)法、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)法、SCRIMP法、SPRINT法などの繊維強化プラスチック製造方法で製造することが可能である。これらのうち、RTM法や、VaRTM法、また、SCRIMP法などの注入成形法は、他の繊維強化プラスチック製造方法と比較して、成形サイクルが短く量産性に優れる、プリフォーム配置が一定であるため品質が安定する、形状自由度が高いなどの点から、繊維強化プラスチック製自動車部材の成形法として優れており、本発明の自動車用フードパネルにおいてもこれらの成形法を用いて成形することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は前述の実施形態に制限されることなく、様々な変更が可能である。例えば、自動車のフェンダパネルやドアパネル、ルーフパネル、トランクリッドパネルなどに本発明を適用することができるが、その応用範囲はこれらに限られるものではなく、衝突安全性が要求される自動車以外の車両、航空機等への適用も可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 フードパネル
2 アウターパネル
3 インナーパネル
4 フードロックストライカー
5 ヒンジ
6 インナー周縁部
7 インナー面状部
8 接着部
9 額縁形状インナーパネル
10 梁形状インナーパネル
11 歩行者頭部
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック(FRP)製の自動車用フードパネルに関し、より詳しくは、要求される軽量性かつ基本剛性を有しつつ、特に歩行者との衝突時の衝撃エネルギーを効果的に吸収し、歩行者を衝撃から保護することができる繊維強化プラスチック製の自動車用フードパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属製フードパネルに代えて、軽量化を第1目的とした繊維強化プラスチック製のフードパネルが盛んに開発されている。
これは、繊維強化プラスチックが比剛性や比強度の点で金属などの他材料に比べ大きいため、軽量でかつ高剛性/高強度の製品を得ることができるためである。
さらに、繊維強化プラスチックは、繊維、樹脂、繊維配向などを目的の要求性能に合わせて組み合わせることが可能であり、金属製フードパネルよりも、自由度の高い設計が可能である。
【0003】
このようなことから、フードパネル全体としての軽量性を確保しつつ必要な剛性を実現するために、外表面を形成する繊維強化プラスチック製のアウターパネルに、その周縁部全周にわたって延び、中央部が開口した額縁形状を有する繊維強化プラスチック製のインナーパネルを接合した自動車用フードパネル(たとえば特許文献1)などが提案されている。
【0004】
一方、上記のような軽量化、必要な剛性付与とは別に、近年、自動車には衝突時等における安全性を高めることが要求されており、特に、事故時の歩行者の安全性を確保することが求められている。歩行者が自動車に衝突した際には、歩行者は自動車のバンパーやフードパネル等に対し、脚部や頭部などに衝撃荷重を受けることになる。とりわけ、頭部へのダメージは、歩行者の死亡や重傷に至る危険性を高めるため、歩行者の頭部が衝突する可能性の高いフードパネルには歩行者の衝突時に高い衝撃吸収性を有し、歩行者頭部へのダメージを抑える構造であることが求められている。
【0005】
この歩行者頭部へのダメージの低減に関しては、歩行者の頭部衝撃の安全性を評価する基準(歩行者頭部保護基準)として、頭部がフードパネルとの衝突時に受ける加速度とその衝突時間より計算される頭部障害値(HIC値)が導入されており、このHIC値を所定のレベル以下に抑えることが要求される。
【0006】
この基準を満足するため、従来からあるアルミニウムや鋼などの金属製フードパネルにおいては、例えば、インナーパネルに略円錐台形状ディンプルを複数形成したもの(例えば特許文献2)や、車両前後方向に平行な凸状のビードを複数形成したもの(例えば特許文献3)など、インナーパネルに複雑な構造を設けたものが数多く提案されている。
【0007】
このような歩行者頭部保護性能に関して、前述したアウターパネルに額縁形状のインナーパネルを接合した繊維強化プラスチック製の自動車用フードパネルの場合には、額縁形状の内側に歩行者の頭部が衝突したとき、フードパネルがその中央部で大きく変形する可能性があり、変形したフードパネルを介してフードパネル下に存在するエンジンなどに二次衝突を起こし、大きなダメージを与えてしまうおそれがある。
【0008】
このような問題に対し、上述したような金属製フードパネルにおいて開発された技術を適用することが考えられるが、繊維強化プラスチック製の自動車用フードパネルは、使用される材料の特性が大きく異なること、また、それに伴って金属製と繊維強化プラスチック製ではインナーパネルのレイアウトが異なること、などの点から、そのまま簡単に適用することはできず、また同じ効果が得られる保証もない。
【0009】
そこで、繊維強化プラスチック製フードパネルにおいても、歩行者頭部保護性能の向上に関して、いくつかの構造が提案されている。例えば、特許文献4においては、額縁形状のインナーパネルの開口部に、梁形状インナーパネルを設けた構造が提案されている。ところが、上記特許文献4に提案されている構造では、梁形状インナーパネル上の箇所とそれ以外の箇所(アウターパネルのみ有する箇所)では、明らかに剛性に差があり、フードパネル全面において、剛性が均一化されていない。そのため、歩行者頭部が衝突する箇所によって衝撃吸収性能に差があり、また、HIC値基準を満足するためには、その箇所毎に適した設計を実施する必要がある。また、前記フードパネルは梁形状インナーパネルを含むインナーパネル全体をアウターパネルに接合して構成されているが、アウターパネルとインナーパネルとの接合部位に相当するアウターパネル表面意匠側には、アウターパネルとインナーパネルの剛性差による筋状の変形、いわゆるボンディングラインが現れる場合があり、特に、前記フードパネルは梁形状インナーパネルがフードパネル中央付近に設けられているため、表面の意匠性が損なわれるおそれがある。さらに、梁形状インナーパネルを設けることによって、インナーパネル自体の構造が複雑化するため、接着時のソリの発生など成形上の課題も増加する。
【0010】
このように従来の繊維強化プラスチック製フードパネルは、歩行者頭部保護性能を付与するために、設計の簡便性や、意匠性、成形性などを犠牲にしており、これらを全て満足させるものはこれまで無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−284038号公報
【特許文献2】特開2003−191865号公報
【特許文献3】特開2008−024185号公報
【特許文献4】特開2008−265696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術が有している問題点を解消し、繊維強化プラスチック製自動車用フードパネルにおいて、要求される軽量性かつ基本剛性を有しつつ、かつ、優れた歩行者頭部保護性能を有し、衝撃エネルギー吸収が確実に達成できる自動車用フードパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明の自動車用フードパネルは、次のいずれかの構成を有する。すなわち、
(1)外表面を形成する繊維強化プラスチック製アウターパネルと、前記アウターパネルに接合される繊維強化プラスチック製インナーパネルとから構成される自動車用フードパネルであって、前記インナーパネルは、前記アウターパネルの周縁部に配置されるインナー周縁部と、前記インナー周縁部と一体に形成されるインナー面状部とからなることを特徴とする自動車用フードパネル。
(2)前記インナー面状部は、前記アウターパネルとの間に空間を形成する(1)に記載の自動車フードパネル。
(3)前記インナー面状部は、実質的に前記アウターパネルの形状に沿う形状の面を有している(1)または(2)に記載の自動車用フードパネル。
(4)前記インナー周縁部は、実質的にフードパネルに必要な剛性を担う主剛性部材であり、前記インナー周縁部とアウターパネルとで形成される構造の少なくとも一部が略閉断面構造である(1)〜(3)のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
(5)前記インナー周縁部は、アウターパネルの外縁に沿ってアウターパネルとの接合部を有しており、前記接合部のうち少なくとも一部が前記アウターパネルと接合されている(1)〜(4)のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
(6)前記アウターパネルおよび/または前記インナーパネルが、繊維強化プラスチックの単板構造である(1)〜(5)のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
(7)前記アウターパネルおよび/または前記インナーパネルが、繊維強化プラスチックのスキン板間にコア材を介在させたサンドイッチ構造である(1)〜(5)のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
(8)前記繊維強化プラスチックに使用される強化繊維の少なくとも一部が炭素繊維である(1)〜(7)のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、繊維強化プラスチック製インナーパネルは、繊維強化プラスチック製自動車用フードパネルにおいて、要求される軽量性かつ基本剛性を有しつつも、衝撃エネルギー吸収が確実に達成でき、優れた歩行者頭部保護性能を有することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の繊維強化プラスチック製フードパネルの一実施態様にかかるフードパネルの平面概略図である。
【図2】本発明の繊維強化プラスチック製フードパネルの一実施態様にかかるフードパネルの分解概略図である。
【図3】図1におけるA1−A1矢視の断面概略図である。
【図4】図1におけるA2−A2矢視の断面概略図である。
【図5】図1におけるB1−B1矢視の断面概略図である。
【図6】図1におけるB2−B2矢視の断面概略図である。
【図7】本発明の繊維強化プラスチック製フードパネルに歩行者頭部が衝突した際の変形の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の繊維強化プラスチック製フードパネルに歩行者頭部が衝突した際の変形の一例を示す概略図である。
【図9】従来の繊維強化プラスチック製フードパネルの一例を示す平面概略図である。
【図10】図9におけるC1−C1矢視の断面概略図である。
【図11】図9におけるC2−C2矢視の断面概略図である。
【図12】図9におけるD1−D1矢視の断面概略図である。
【図13】図9におけるD2−D2矢視の断面概略図である。
【図14】従来の繊維強化プラスチック製フードパネルに歩行者頭部が衝突した際の変形の一例を示す概略図である。
【図15】従来の繊維強化プラスチック製フードパネルに歩行者頭部が衝突した際の変形の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の最良の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図示した実施形態はあくまで一例であり、以下の説明において何ら制限するものではない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動車用フードパネルをエンジン側から見た平面図であり、図2は図1で示すフードパネルの分解図である。また、図3〜図6は、それぞれ図1のA1−A1、A2−A2、B1−B1、B2−B2矢視の断面図である。
【0018】
図1において、1はフードパネル、2はアウターパネル、3はインナーパネルであり、これらアウターパネル2とインナーパネル3は繊維強化プラスチックで構成されている。
【0019】
また、アウターパネル2とインナーパネル3は互いに接合され、接合体全体としてフードパネル1が構成されている。このフードパネル1は車両前方に装着され、エンジンルームなどを覆うものである。
【0020】
アウターパネル2は外表面を形成する部材であり、車両に取り付けられた状態においては車両外観を構成する。
【0021】
インナーパネル3はエンジンルーム側に配され、フードパネル1に必要な剛性を担う主剛性部材として機能する。また、インナーパネル3には、締結部材として、フードパネル1の開閉を行う開閉機構部を構成する車体前方に取り付けられるフードロックストライカー4と、車体後方両端に取り付けられるヒンジ5がそれぞれ取り付けられており、これら締結部材を介してフードパネル1は車両に取り付けられる。本実施形態においては、フードロックストライカー4は1つ、ヒンジ5は2つを示したが、これらは限定されるものではなく、例えば、フードロックストライカー4は、車体前方両端に2つ取り付けられていたりしてもよい。
【0022】
さらに、インナーパネル3は、インナー周縁部6と、これらに連続して一体に形成されるインナー面状部7から構成される。
【0023】
インナー周縁部6は、本実施形態において図3〜図6に示すとおり、ハット形状の横断面を有しており、実質的にフードパネル1に必要な剛性を担っている。また、アウターパネル2の外縁に沿ってアウターパネル2との接着部8を有しており、この接着部8とアウターパネル2とを接着剤(図示せず)によって接合することで略閉断面構造を形成している。
【0024】
フードパネル1に所望の剛性を与えつつ軽量化を達成するためには、本実施形態に示したように、インナー周縁部6を略閉断面構造とし、さらに断面形状をハット形状に形成することが好ましい。他にも三角形などの断面形状が考えられるが、所望の剛性を与えるためには重量が嵩む場合が多く、また成形難易度も高くなりコストが高くなる場合が多い。
【0025】
このインナー周縁部6の高さや幅など断面形状寸法は、フードパネル1に必要とされる剛性を確保できるように適宜設計することができる。一方、例えば、エンジン等とのクリアランスの点からインナー周縁部6の断面高さを確保できないなど、所望の形状を設けることができない場合は、インナーパネル3上の接着部8は、アウターパネル2の外縁全周に沿うのに加えて、フードパネル1内部の必要に応じた箇所に接着部8を形成することで剛性を確保することも可能である。ここで、フードパネル1の内部とは、アウターパネル2の周縁以外の部位を指す。ただしその場合は、ボンディングラインがフードパネル1内部のアウターパネル2の表面に現れ意匠性が低下する可能性が考えられるため、接着部8周辺のアウターパネル2やインナーパネル3の板厚や積層構成を調整することで、アウターパネル2とインナーパネル3の剛性差を極力小さくし、ボンディングラインの発生を最小に抑える、また、車両全体デザインの一部でありデザインにメリハリを付ける等の点から、アウターパネル2に凹凸を付けることによって設けられるキャラクターラインに沿って接着部8を設けることでボンディングラインを見えにくくするなど、フードパネル1の内部における接着部8の位置に注意して設計する必要がある。
【0026】
インナー面状部7は、本実施形態において図3〜図6に示すとおり、インナー周縁部6と連続して一体に形成されている。一体に形成することで、フード周縁に配されるインナー周縁部6の前後左右それぞれを繋ぐことができ、これによりフードパネル1に必要とされる剛性を確保しやすくなる。
【0027】
従来の繊維強化プラスチック製フードパネルは、例えば特開2008−265696号公報(特許文献4)において開示されたフードパネルの平面概略図(図9)および断面概略図(図10〜図13)のように、様々な幅を有する額縁形状インナーパネル9や梁形状インナーパネル10のハット形状の両端に接着部8を形成し、アウターパネル2に接着することで閉断面を形成しているものがほとんどである。この場合、前述したとおり、アウターパネル2の内部に接着部8が形成されるため、意匠性に問題が起こる可能性がある。
【0028】
本実施形態においてはアウターパネル2の外縁に沿ってのみ接着し、アウターパネル2の内部には接着部8を形成しないため、略閉断面となり、閉断面より剛性が不足することが考えられるが、前述したように、インナー面状部7をインナー周縁部6と連続して一体に形成することで不足分を補填することが可能である。また、さらに不足する場合は、インナー周縁部6の断面形状を適宜調整することで対応することが可能である。このようにすることで本実施形態においては、高い意匠性を確保することができる。
【0029】
また、インナー面状部7は、アウターパネル2との間に、ある所定の距離を保った空間を有しており、実質的にアウターパネル2の形状に沿う形状の面を有している。
【0030】
前述したように、従来の繊維強化プラスチック製フードパネルは、例えば特開2008−265696号公報(特許文献4)において開示されたフードパネルの平面概略図(図9)および断面概略図(図10〜図13)のように、額縁形状インナーパネル9の開口部に、梁形状インナーパネル10を設けた構造を有している。このため、梁形状インナーパネル10上の箇所とそれ以外の箇所(アウターパネル2のみ有する箇所)とでは、剛性に差が生じ、フードパネル全面において、剛性が均一化されないといった問題を抱えていた。従って、例えば、図14および図15に示すように、歩行者頭部11が梁形状インナーパネル10上の箇所に衝突した場合と、それの箇所(アウターパネル2のみ有する箇所)に衝突した場合では、フードパネルの変形が異なるため、衝突した箇所の違いによって衝撃吸収性能に差が発生する。歩行者頭部11の保護、すなわちHIC値基準を満足させるためには、その打撃箇所毎に適した設計を実施する必要がある。
【0031】
これに対して、本実施形態では、インナー面状部7は、アウターパネル2との間にある所定の距離を保った空間を有していることが特徴である。特に、インナー面状部7が実質的にアウターパネル2の形状に沿う形状の面を有していると、フードパネル1全体に渡って剛性の均一化を図ることができる。これにより、図7および図8に示すように、歩行者頭部11が衝突する箇所が異なる場合でも、ほぼ同じ変形となり、ばらつきのない優れた衝撃吸収性能を確保できる。
【0032】
さらに、アウターパネル2との距離、インナー面状部7の板厚などを必要に応じて適正化することにより、必要とされる衝撃吸収性能をより適正化することが可能である。
【0033】
また、どの箇所もばらつきのない均一な性能となるため、フードパネル1全面に渡って一意に設計することができので、設計が簡便となり、かつ、設計期間が短縮でき、しいては、コスト低減も達成することができる。
【0034】
一方、設計の結果、アウターパネル2とインナー面状部7の距離があまりに近くなり過ぎると、走行時などの振動によってフードパネル1が損傷を受けたり、騒音が発生したりすること場合がある。このような損傷や振動を防ぐためには、例えば、金属製フードパネルでも用いられているように、比較的柔らかく、せん断変形を伝える能力の小さい弾性接着剤(マスチックシーラーなど)や充填材(発泡ウレタンなど)を、アウターパネル2とインナー面状部7の間に充填することも好ましい。また、発泡樹脂、ガラスウールなどからなるインシュレーターを挿入することも、損傷や振動防止効果を得る点で好ましい態様である。
【0035】
本発明においてアウターパネル2とインナーパネル3の接合構成としては、接着剤による接合の他、リベット接合、接着剤を併用したリベット接合等が選択肢として挙げられる。その他にも、インサートナットをアウターパネル2もしくはインナーパネル3にインサート成形してボルト締結する構成や、ボルトをアウターパネル2もしくはインナーパネル3に接着した上でナットで締結する構成や、アウターパネル2とインナーパネル3に締結用穴を設けてボルト・ナット締結する構成としても良い。いずれの場合も必要となる剛性や外観品位、耐環境性などを考慮して選択することができる。なかでも、接着剤による接合が好ましく、例えばネオプレン−フェノリック樹脂、ビニル−フェノリック樹脂、ニトリル−エポキシ樹脂、エポキシ−フェノリック樹脂、ナイロン−エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリサルファイド樹脂、弾性エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズイミタゾール樹脂、セメント系、低融点ガラス、アルカリ金属シソケート、ホスフェート樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂等の構造接着剤もしくは弾性接着剤と呼ばれる接着剤により接着することで、アウターパネル2とインナーパネル3の間において応力伝達がなされやすい構成とすることがより好ましい。
【0036】
本発明において、アウターパネル2およびインナーパネル3は、いずれも繊維強化プラスチックの単板構造のほか、繊維強化プラスチックからなるスキン板の間にコア材を介在させたサンドイッチ構造とすることも可能である。サンドイッチ構造を採用する場合のコア材としては、弾性体や発泡材、ハニカム材の使用が可能であり、軽量化のためには特に発泡材が好ましい。発泡材の材質としては、例えば、ポリウレタン樹脂やアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂などの高分子材料の発泡材などを使用できる。ハニカム材としては、例えば、アルミニウム合金、紙、アラミドペーパーなどを使用することができ、特にこれらに限定されるものではない。
【0037】
なお、サンドイッチ構造においても軽量化の効果を得ることができるが、単板構造を用いてインナーパネル3を好ましいスティフナ形状としてアウターパネル2と接合することにより、所望の剛性を確保できる場合は、軽量化の点から単板構造にすることがより好ましい。
【0038】
本発明において、繊維強化プラスチックとは、強化繊維層にマトリックス樹脂を含浸、硬化させたプラスチックを指す。強化繊維層を構成する強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維や、ケブラー繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維からなる強化繊維が挙げられる。面剛性の制御の容易性からは、特に強化繊維として炭素繊維を用いることが好ましい。ここで、「面剛性」とは、初期の所定の面形状を保つための剛性のことを言う。
【0039】
繊維強化プラスチックに用いるマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられ、さらには、アクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリブチレンテレプタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂、およびこれら樹脂をアロイ化した変性樹脂も使用可能である。
【0040】
なお、本発明の自動車用フードパネルは、ハンドレイアップ法、オートクレーブ法、RTM(Resin Transfer Molding)法、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)法、SCRIMP法、SPRINT法などの繊維強化プラスチック製造方法で製造することが可能である。これらのうち、RTM法や、VaRTM法、また、SCRIMP法などの注入成形法は、他の繊維強化プラスチック製造方法と比較して、成形サイクルが短く量産性に優れる、プリフォーム配置が一定であるため品質が安定する、形状自由度が高いなどの点から、繊維強化プラスチック製自動車部材の成形法として優れており、本発明の自動車用フードパネルにおいてもこれらの成形法を用いて成形することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は前述の実施形態に制限されることなく、様々な変更が可能である。例えば、自動車のフェンダパネルやドアパネル、ルーフパネル、トランクリッドパネルなどに本発明を適用することができるが、その応用範囲はこれらに限られるものではなく、衝突安全性が要求される自動車以外の車両、航空機等への適用も可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 フードパネル
2 アウターパネル
3 インナーパネル
4 フードロックストライカー
5 ヒンジ
6 インナー周縁部
7 インナー面状部
8 接着部
9 額縁形状インナーパネル
10 梁形状インナーパネル
11 歩行者頭部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面を形成する繊維強化プラスチック製アウターパネルと、前記アウターパネルに接合される繊維強化プラスチック製インナーパネルとから構成される自動車用フードパネルであって、前記インナーパネルは、前記アウターパネルの周縁部に配置されるインナー周縁部と、前記インナー周縁部と一体に形成されるインナー面状部とからなることを特徴とする自動車用フードパネル。
【請求項2】
前記インナー面状部は、前記アウターパネルとの間に空間を形成する請求項1に記載の自動車フードパネル。
【請求項3】
前記インナー面状部は、実質的に前記アウターパネルの形状に沿う形状の面を有している請求項1または2に記載の自動車用フードパネル。
【請求項4】
前記インナー周縁部は、実質的にフードパネルに必要な剛性を担う主剛性部材であり、前記インナー周縁部とアウターパネルとで形成される構造の少なくとも一部が略閉断面構造である請求項1〜3のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
【請求項5】
前記インナー周縁部は、アウターパネルの外縁に沿ってアウターパネルとの接合部を有しており、前記接合部のうち少なくとも一部が前記アウターパネルと接合されている請求項1〜4のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
【請求項6】
前記アウターパネルおよび/または前記インナーパネルが、繊維強化プラスチックの単板構造である請求項1〜5のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
【請求項7】
前記アウターパネルおよび/または前記インナーパネルが、繊維強化プラスチックのスキン板間にコア材を介在させたサンドイッチ構造である請求項1〜5のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
【請求項8】
前記繊維強化プラスチックに使用される強化繊維の少なくとも一部が炭素繊維である請求項1〜7のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
【請求項1】
外表面を形成する繊維強化プラスチック製アウターパネルと、前記アウターパネルに接合される繊維強化プラスチック製インナーパネルとから構成される自動車用フードパネルであって、前記インナーパネルは、前記アウターパネルの周縁部に配置されるインナー周縁部と、前記インナー周縁部と一体に形成されるインナー面状部とからなることを特徴とする自動車用フードパネル。
【請求項2】
前記インナー面状部は、前記アウターパネルとの間に空間を形成する請求項1に記載の自動車フードパネル。
【請求項3】
前記インナー面状部は、実質的に前記アウターパネルの形状に沿う形状の面を有している請求項1または2に記載の自動車用フードパネル。
【請求項4】
前記インナー周縁部は、実質的にフードパネルに必要な剛性を担う主剛性部材であり、前記インナー周縁部とアウターパネルとで形成される構造の少なくとも一部が略閉断面構造である請求項1〜3のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
【請求項5】
前記インナー周縁部は、アウターパネルの外縁に沿ってアウターパネルとの接合部を有しており、前記接合部のうち少なくとも一部が前記アウターパネルと接合されている請求項1〜4のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
【請求項6】
前記アウターパネルおよび/または前記インナーパネルが、繊維強化プラスチックの単板構造である請求項1〜5のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
【請求項7】
前記アウターパネルおよび/または前記インナーパネルが、繊維強化プラスチックのスキン板間にコア材を介在させたサンドイッチ構造である請求項1〜5のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
【請求項8】
前記繊維強化プラスチックに使用される強化繊維の少なくとも一部が炭素繊維である請求項1〜7のいずれかに記載の自動車用フードパネル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−20614(P2011−20614A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168697(P2009−168697)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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