自動車用ヘッドレスト支持装置
【課題】通常時にはシート共振を改善するためにバネ定数を低減でき、後突時には鞭打ち症を抑制するためにバネ定数を増大できる自動車用ヘッドレスト支持装置の提供。
【解決手段】サポート20とブラケット40との間、ステー12とサポート20との間、およびステー12とブラケット40との間、の少なくとも1つの部位に、かつ、ブラケット40の少なくとも上下方向端部に対応する部位で少なくとも車両前後方向部位に、ダイラタント特性部材50が配置されている。通常時は部材50が硬化しておらずヘッドレスト支持装置10のバネ定数が小さいため、シートのアイドル共振が低減される。後突時には衝撃荷重により部材50が硬化しヘッドレスト支持装置10のバネ定数が大きくなり、鞭打ち症対策をはかることができる。
【解決手段】サポート20とブラケット40との間、ステー12とサポート20との間、およびステー12とブラケット40との間、の少なくとも1つの部位に、かつ、ブラケット40の少なくとも上下方向端部に対応する部位で少なくとも車両前後方向部位に、ダイラタント特性部材50が配置されている。通常時は部材50が硬化しておらずヘッドレスト支持装置10のバネ定数が小さいため、シートのアイドル共振が低減される。後突時には衝撃荷重により部材50が硬化しヘッドレスト支持装置10のバネ定数が大きくなり、鞭打ち症対策をはかることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ヘッドレスト支持装置に関し、とくに通常時のシート共振の改善と後突時の鞭打ち症対策とを両立させた自動車用ヘッドレスト支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ヘッドレストステーと、ヘッドレストステーを支持する樹脂製のヘッドレストサポートと、ヘッドレストサポートを支持するヘッドレストブラケットと、を有する自動車用ヘッドレスト支持装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平06−058750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示のものを含み従来のヘッドレスト支持装置にはつぎの課題がある。
乗り心地に影響を及ぼすシート共振を改善するためには、シートの共振周波数を車両のエンジンアイドル周波数からずらす必要がある。
この場合のシートの目標共振周波数は、シートの骨格剛性を必要とする他性能を満足すると、共振周波数を下げる必要がある。
【0005】
図12の2質点系振動モデルにおいて、シートの等価マスをm1 、シートの等価バネ定数をk1 、ヘッドレストの等価マスをm2 、ヘッドレスト支持装置の等価バネ定数をk2 とすると、2質点系の共振周波数fn はつぎの(1)のようになる。共振周波数fn を下げるには、バネ定数k2 を下げることが有効である。
fn =(1/2π)・(A/B)1/2 -------------------------------- (1)
ここで、
A=m2 k1 +m1 k2 +m2 k2
−{(m1 k2 +m2 k1 +m2 k2 )2 −4m1 m2 k1 k2 }1/2
B=2m1 m2
一方、車両後突時には鞭打ち症低減のため頭部を後方から十分に拘束する必要があり、そのためにはヘッドレスト支持装置の剛性、したがってヘッドレストのバネ定数k2 を上げる必要がある。
すなわち、従来装置では、ヘッドレスト支持装置の等価バネ定数k2 を下げて通常時におけるシート共振を改善するという要望と、ヘッドレスト支持装置の等価バネ定数k2 を上げて後突時における鞭打ち症抑制をはかるという要望とが、両立しない。
【0006】
本発明の目的は、通常時にはシート共振を改善するためにバネ定数を低減でき後突時には鞭打ち症を抑制するためにバネ定数を増大できる自動車用ヘッドレスト支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明に係る自動車用ヘッドレスト支持装置は、ヘッドレストステー挿通孔を有し該ヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際に該ヘッドレストステーを支持するヘッドレストサポートと、筒状に構成されヘッドレストサポートが挿通された際に該ヘッドレストサポートを支持するヘッドレストブラケットと、を有する。該自動車用ヘッドレスト支持装置では、ヘッドレストサポートとヘッドレストブラケットとの間、ヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際のヘッドレストステーとヘッドレストサポートとの間、およびヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際のヘッドレストステーとヘッドレストブラケットとの間、の少なくとも1つの部位に、かつ、ヘッドレストブラケットの少なくとも上下方向端部に対応する部位で少なくとも車両前後方向部位に、ダイラタント特性を有する部材が配置されている。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明の自動車用ヘッドレスト支持装置によればつぎの効果が得られる。
ダイラタント特性部材は、低荷重が低速でかかった時にはゲル状態または可撓状態にあり、したがって低バネ定数をもち、高荷重が高速でかかった時には瞬時に硬化して固体ポリマとなり、高バネ定数をもつ。高速の高荷重負荷が休止状態になると、ゆるやかに元のゲル状態または可撓状態に戻る。
【0009】
通常時にはダイラタント特性部材には荷重がかからないか、またはかかっても荷重は低荷重かつ低速である。その状態では、ダイラタント特性部材は硬化しておらず、そのバネ定数は低い。したがって、シートの等価マスをm1 、シートの等価バネ定数をk1 、ヘッドレストの等価マスをm2 、ヘッドレスト支持装置の等価バネ定数をk2 とする2質点振動系の共振周波数fn は上記(1)式よりダイラタント特性部材が設けられない従来装置に比べて下がり、シート共振が改善され車両の乗り心地が向上する。
【0010】
後突時には車体と乗員胴体が前方に移動し乗員の頭部が慣性で元の位置に止まろうとするので、頭部がヘッドレストに向かって相対移動しヘッドレストに当たる。この時ヘッドレストからヘッドレストステーを介してダイラタント特性部材に入る荷重は高荷重かつ高速である。したがって、ダイラタント特性部材は瞬時に固体ポリマとなり、ダイラタント特性部材のバネ定数は瞬時に高くなる。その結果、頭部がヘッドレストに当たった時におけるヘッドレストの後方への逃げは極めて小さく、ヘッドレストは乗員頭部を後方から効果的に拘束でき、乗員の鞭打ち症を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例に係る自動車用ヘッドレスト支持装置(単に、ヘッドレスト支持装置ともいう)とその近傍の分解斜視図である。
【図2】図1のヘッドレスト支持装置の車両左右方向から見た側面図である。
【図3】図2のヘッドレスト支持装置の車両前後方向から見た正面図である。
【図4】図2のヘッドレスト支持装置のA−A断面図である。
【図5】図3のヘッドレスト支持装置の平面図である。
【図6】図2のヘッドレスト支持装置のB−B拡大断面図である。
【図7】図2のヘッドレスト支持装置の、ダイラタント特性部材の配置を図6から変えた例の、図2のB−B拡大断面図である。
【図8】図2のヘッドレスト支持装置のC−C拡大断面図である。
【図9】図2のヘッドレスト支持装置の、ダイラタント特性部材の配置を図8から変えた例の、図2のC−C拡大断面図である。
【図10】図2のヘッドレスト支持装置の振動モデル図である。
【図11】図2のヘッドレスト支持装置の荷重対変位特性図である。
【図12】(イ)はシート装置とヘッドレスト支持装置とからなる装置の側面図であり、(ロ)はそれを振動モデルで表した2質点系振動モデル図である。
【図13】本発明の変形例のヘッドレスト支持装置の、図2のB−B断面およびC−C断面に対応する部位での、拡大断面図である。
【図14】本発明のもう一つの変形例のヘッドレスト支持装置の、図2のB−B断面およびC−C断面に対応する部位での、拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施例〕
本発明の一実施例に係る自動車用ヘッドレスト支持装置(以下、単にヘッドレスト支持装置という)を、図1〜図14を参照して説明する。
図中、FRは車両前後方向前方を示し、RLは車両左右方向を示し、UPは上方を示す。
【0013】
〔全体構成〕
本発明の一実施例に係るヘッドレスト支持装置10は、図1に示すように、ヘッドレスト11をヘッドレストステー12部位で支持するヘッドレストサポート20と、ヘッドレストサポート20を支持するヘッドレストブラケット40と、ダイラタント特性を有する部材50と、を有する。
ヘッドレストサポートを、以下、サポートともいい、ヘッドレストブラケットを、以下、単にブラケットともいい、ダイラタント特性を有する部材を、以下、ダイラタント特性部材ともいい、ヘッドレストステーを、以下、ステーともいう。
【0014】
図1〜図5に示すように、ステー12は金属製であり円形断面を有する。ステー12は左右2本あり、ヘッドレスト11の車両左右方向両端部から下方に延び、サポート20のステー挿通孔21に上下方向に挿入される。
【0015】
サポート20は樹脂製である。サポート20は上下方向に延びる。サポート20は、上下方向に延びるヘッドレストステー挿通孔(以下、単にステー挿通孔と云う)21を有しステー挿通孔21にステー12が挿通された際にステー12を支持する。
【0016】
ブラケット40は金属製であり、上下方向に延びる。図1および図6〜図9に示すように、ブラケット40は、四角形で角が丸みをおびた断面を有する筒状に構成され、筒状部内にサポート20が挿通された際にサポート20を支持する。図1に示すように、ブラケット40は金属製のシートフレーム13のパイプを局部的につぶした部分13aに溶接等で固定される。
【0017】
ダイラタント特性部材50は主には樹脂製である。図6〜図9または図13および図14に示すように、ダイラタント特性部材50は、サポート20とブラケット40との間(図6〜図9)、ステー挿通孔21にステー12が挿通された際のステー12とサポート20との間(図14)、およびステー挿通孔21にステー12が挿通された際のステー12とブラケット40との間(図13)、の少なくとも1つの部位に、かつ、少なくとも車両前後方向部位でブラケット40の少なくとも上下方向端部に対応する部位に、配置される。
【0018】
〔各部材の詳細構成〕
以下、各部材20、40および50をさらに詳細に説明する。
図2〜図5に示すように、樹脂製サポート20は互いに一体に形成された頭部22と首部23と胴部24とを有し、円形状のステー挿通孔21がサポート20全長にわたって上下方向に貫通している。ステー12はステー挿通孔21に上下方向に挿入される。
【0019】
図5に示すように、頭部22は平面視において角部が丸みをおびた矩形状の外形を有する。また、図2〜図4に示すように、頭部22は、車両前後、幅方向に首部23と胴部24より幅広である。
【0020】
図2〜図4に示すように、首部23は頭部22の下方に位置して頭部22に連接している。首部23は、外形が平面視において角部が丸みを帯びた矩形状であり、車両前後、左右方向に胴部24より幅広である。サポート20がブラケット40を挿通した状態では、首部23はブラケット40から上方に出ており、首部23の下面がブラケット40の上端面に圧接している。
【0021】
胴部24は、角部が丸みをおびた断面外形がほぼ矩形状の胴部上部25と、断面外形がほぼ円形状の胴部下部26とを有する。
サポート20がブラケット40内に挿入された時、胴部上部25がブラケット40内に位置する。
図2〜図4に示すように、ブラケット40はブラケット上部41、ブラケット下部42、ブラケット中間部43を有する。ブラケット40は前後壁40fと左右壁40rを有する。図6〜図9および図2〜図4に示すように、ブラケット上部41、ブラケット下部42、ブラケット中間部43はそれぞれ前後壁41f、42f、43fと左右壁41r、42r、43rを有する。
【0022】
図4に示すように、胴部上部25は、ブラケット上部41内面に対向し角部が丸みをおびた外形がほぼ矩形状の上部対向部27と、ブラケット下部42内面に対向し角部が丸みをおびた外形がほぼ矩形状の下部対向部28と、ブラケット中間部43内面に対向し上部対向部27と下部対向部28との間で上下方向に延びる中間部29とを有する。
【0023】
図6に示すように、上部対向部27の前後壁27fとブラケット上部41の前後壁41fとの間には車両前後方向に空間があり、この空間にダイラタント特性部材50が配置されている。ダイラタント特性部材50の前後方向端部と、上部対向部27の前後壁27fおよびブラケット上部41の前後壁41fとの間には隙間がない。ダイラタント特性部材50は上部対向部27の前後壁27fとブラケット上部41の前後壁41fの何れか一方の面に接着剤などにより取り付けられる。この構造では、サポート20の上部対向部27とブラケット40の上部41との間に、車両前後方向にガタがなくなる。
【0024】
図7に示すように、ダイラタント特性部材50は上部対向部27の外面のうち前後壁27fのみならず車両左右壁27rに回り込んで配置されていてもよい。その場合は、上部対向部27の左右壁27rとブラケット上部41の左右壁41rとの間には車両左右方向に空間があり、この空間にダイラタント特性部材50が配置される。ダイラタント特性部材50の車両左右方向端部と、上部対向部27の左右壁27rおよびブラケット上部41の左右壁41rとの間には隙間がない。ダイラタント特性部材50は上部対向部27の左右壁27rとブラケット上部41の左右壁41rの何れか一方の面に接着剤などにより取り付けられる。この構造では、サポート20の上部対向部27とブラケット40の上部41との間に、車両前後方向および車両左右方向にガタがなくなる。
【0025】
下部対向部28も上部対向部27と同様の構造をとる。
すなわち、図8に示すように、下部対向部28の前後壁28fとブラケット下部42の前後壁42fとの間には車両前後方向に空間があり、この空間にダイラタント特性部材50が配置されている。ダイラタント特性部材50の前後方向端部と、下部対向部28の前後壁28fおよびブラケット下部42の前後壁42fとの間には隙間がない。
【0026】
図9に示すように、ダイラタント特性部材50は下部対向部28の外面のうち車両前後壁28fのみならず車両左右壁28rに回り込んで配置されていてもよい。その場合は、下部対向部28の左右壁28rとブラケット下部42の左右壁42rとの間には車両左右方向に空間があり、この空間にダイラタント特性部材50が配置される。ダイラタント特性部材50の車両左右方向端部と、下部対向部28の左右壁28rおよびブラケット下部42の左右壁42rとの間には隙間がない。
【0027】
図2および図4に示すように、胴部上部25の中間部29の前後壁29fには一対の上下方向に延びるステー押圧部30が形成されている。ステー押圧部30は該押圧部30の両側のスリット31によりまわりの中間部前後壁29fから切り離されており、上下方向と直交する方向にかつ車両左右方向に弾性変形可能である。図4に示すように、ステー押圧部30は上下端部30aと、上下端部30aの中間部位に形成された外方に突出する外方突起部30bと、上下端部30aと外方突起部30bとの間で内方に湾曲して突出する内方突起部30cとを有する。図6および図8のようにダイラタント特性部材50がサポート20とブラケット40間の車両左右方向スペースに設けられずサポート20とブラケット40間の車両左右方向スペースが小さい場合には、図4に示すように、ステー12がステー挿通孔21に挿入された時に、ステー12が内方突起部30cを外方に押し、外方突起部30bがブラケット中間部43の左右壁43rの内面に押し付けられる。その結果、ステー12とサポート20間、およびサポート20とブラケット40間には、車両左右方向にガタがなくなる。また、押し付け部でステー12とサポート20とブラケット40間に摩擦すべりが生じない範囲で車両前後方向にもガタがなくなる。
【0028】
図2〜図4に示すように、胴部下部26の左右壁26rにはサポート20がブラケット40に挿入された後ブラケット40から抜けるのを阻止する一対の爪部32が形成されている。爪部32はスリット33によって爪部32の下端部を除きまわりの胴部下部部分から切り離されており、爪部32の下端部で胴部下部26に連結している。サポート20をブラケット40内に挿通する時には、爪部32が内側に弾性変位して爪部32がブラケット40を通過し、通過後爪部32が外側に弾性復帰し、爪部32上端面がブラケット40の下面に係合する。
【0029】
〔ダイラタント特性シート状部材〕
ダイラタント特性部材50は、直接、ヘッドレスト支持装置10に装着されてもよいし、あるいは樹脂製または布製または樹脂コーティングされた布製等からなる袋状で可撓性を有する包囲体で包んでまたは包囲体の中に充填した状態でヘッドレスト支持装置10に装着されてもよい。包囲体自体はダイラタント特性を有しない。
【0030】
ダイラタント特性部材50に衝撃力が加わった時には、その衝撃力が加わった部分のみならず、その衝撃力が伝達された部分および急激に変形する部分も瞬時に剛性が増して固体エラストマとして振る舞う。ダイラタント特性部材50が一部に衝撃力を受けても、その衝撃が該一部につながっているダイラタント特性部材50のほぼ全域に伝わるので、ダイラタント特性部材50のほぼ全域が瞬時に硬化し固体エラストマとなる。
【0031】
ダイラタント特性部材50には、たとえば英国のd3oTMlab社が製造し、市販されている、公知のd3oTM材を使用することができる。「d3o」は登録商標でディースリーオーと呼ぶ。d3oTMは樹脂を主成分とする。図示例ではダイラタント特性部材50がd3oTM材からなる場合を示している。d3oTM材は、受ける衝撃の強さで分子の結束が変化する。強い衝撃を受けると瞬時に分子同士が結束して固体状となり、衝撃が吸収、消散され、エネルギの多くが熱に変換される。衝撃力がかからなくなると分子の結束が解かれ元の柔軟な状態に戻る。d3oTM材からなるダイラタント特性部材50はオレンジ色の粘度状物で垂直姿勢をとっても形状を維持できるので、ダイラタント特性部材50を可撓性包囲体で包囲することなく直接、ヘッドレスト支持装置10に組み付けることができる。ただし、d3oTM材を袋状の可撓性包囲体で包囲してヘッドレスト支持装置10に組み付けてもよい。
【0032】
ダイラタント特性部材50は、d3oTM材に代えて、樹脂シート、樹脂フィルム、樹脂コーティング布などからなる袋状の包囲体とその中に充填されたダイラタント特性を有する材料から構成されてもよい。包囲体に充填されるダイラタント特性を有する材料は、荷重がかかっていない状態でゲル状であり、ダイラタント特性を示すポリマ組成物、および潤滑剤と充填剤を含む。
ダイラタント特性を示すポリマ組成物は、ポリボロシロキサン、キサンタンガム、ガーゴムおよびポリビニルアルコール四ホウ酸ナトリウムよりなる群から選択された1種以上のポリマである。これらのポリマ組成物、たとえばポリボロシロキサンは、低速で力が印加されると容易に変形してポリマ組成物に接触する対象物外形に順応し、高速で力が加わると瞬時に粘性が増加して固体ポリマとなり衝撃エネルギを吸収する。固体ポリマを休止状態にすると元のゲル状態にゆるやかに復帰する。
潤滑剤は、たとえば炭化水素系グリースまたは流体であり、充填剤は、微小粒または粉末のプラスチック、セラミック、金属または繊維材料である。
【0033】
ダイラタント特性を示すポリマ組成物、潤滑剤、充填剤の混合割合は、重量百分率で、上記ポリマ(ポリボロシロキサン、キサンタンガム、ガーゴムおよびポリビニルアルコール四ホウ酸ナトリウムよりなる群から選択された1種以上のポリマ)を90%乃至20%未満、上記潤滑剤を20%未満(たとえば、10%)乃至60%以上(たとえば、80%)、上記充填剤を0%乃至90%を含む。それらの混合割合を調整することによりダイラタント特性材料の粘性、可撓性を容易に調整できる。高速衝突時に硬化し低速衝突時に良好な可撓性を示す混合割合の一例を挙げると、70%のポリボロシロキサン、20%の潤滑剤および10%の充填剤である。ただし、この配合割合に限るものではない。
以上では、ダイラタント特性を示す材料として、d3oTMと、包囲体の中に充填されたダイラタント特性を示すポリマ組成物からなる場合を示したが、これらと同様の構成、作用をもつものであれば、使用可能である。
【0034】
〔ダイラタント特性部材を具備したヘッドレスト支持装置の振動性状と耐荷重特性〕
ダイラタント特性部材50を具備したヘッドレスト支持装置10の車両前後方向振動の振動モデルは図10に示すようになり、ヘッドレスト支持装置10の車両前後方向振動のバネ特性は図11に示すようになる。シート系を第1の質点系としヘッドレスト支持装置10を第2の質点系とした2質点振動モデルは図12に示すようになる。
図12で、m1 はシートの等価質量であり、m2 はヘッドレストの等価質量であり、k1 はシートの等価バネ定数であり、k2 はヘッドレスト支持装置の等価バネ定数である。
【0035】
図10の振動モデルにおいて、樹脂サポート20は上部対向部27および下部対向部28の部位でダイラタント特性部材50を介してブラケット40から支持され、外方突起部30b(図4)の横方向に位置する回転中心Rまわりに車両前後方向に回転振動する。ダイラタント特性部材50がバネ定数k2 を構成する。
【0036】
ダイラタント特性部材50を具備したヘッドレスト支持装置10の、ダイラタント特性部材50が硬化していない時の通常時振動における等価バネ定数k2 は、ダイラタント特性部材50が設けられていなかった従来装置におけるヘッドレスト支持装置等価バネ定数k2 ’以下となる。図11はバネ定数k2 とk2 ’を荷重F対ストロークSのグラフ上で示している。バネ定数k2 ’のk2 への低下により、通常時における図12の2質点系の共振周波数fn が低下される。
【0037】
後突時に乗員頭部がヘッドレストに当たってステー12から衝撃荷重がダイラタント特性部材50に入力されると、ダイラタント特性部材50は瞬時に硬化して固体ポリマとなり、その時点以後、等価バネ定数k2 は従来の等価バネ定数k2 ’より増大する。したがって、ダイラタント特性部材50の等価バネ定数k2 は、硬化前と硬化後で変化して、図11において折れ線を描く。dはバネ定数変化点の横座標値である。
【0038】
〔作用、効果〕
通常時にはダイラタント特性部材50には荷重がかからないか、またはかかっても荷重は低荷重かつ低速である。したがって、ダイラタント特性部材50は硬化しておらず、そのバネ定数k2 は低い。その結果、図12の2質点振動系の共振周波数fn は上記(1)式よりダイラタント特性部材が設けられない従来装置に比べて下がる。したがって、シートのアイドル共振が改善され、車両の乗り心地が向上する。
【0039】
後突時にはヘッドレストが乗員の頭部に向かって相対移動し当たる。この時ヘッドレスト11からステー12を介してダイラタント特性部材50に入る荷重は高荷重かつ高速である。したがって、ダイラタント特性部材50は瞬時に固体ポリマとなり、ヘッドレスト支持装置10は前後方向に高剛性となる。その結果、頭部がヘッドレスト11に当たった時におけるヘッドレスト11の後方への逃げは極めて小さく、ヘッドレスト11は乗員頭部を後方から効果的に拘束でき、乗員の鞭打ち症を抑制できる。
【0040】
〔ダイラタント特性部材50の配置を変えた変形例〕
図6〜図9では、ダイラタント特性部材50がサポート20とブラケット40との間に配置されているが、ダイラタント特性部材50の配置部位はこれに限らない。
【0041】
図13の本発明の変形例では、サポート20の上部対向部27の前後壁27fと、サポート20の下部対向部28の前後壁28fに、上部対向部27と下部対向部28を車両前後方向に貫通する貫通孔27pと28pが形成されている。この貫通孔27pと28pにダイラタント特性部材50が配置されている。ダイラタント特性部材50は、ステー12とブラケット上部41の前後壁41fとの間にわたって車両前後方向に延び、また、ステー12とブラケット下部42の前後壁42fとの間にわたって車両前後方向に延びる。この構成においても、図10〜図12に準じる振動モデル、および振動特性と耐荷重特性が得られ、上記実施例と同じ作用、効果が得られる。その他の部分は本発明の実施例に準じる。
【0042】
図14の本発明の変形例では、サポート20の上部対向部27の前後壁27fおよび左右壁27rと、サポート20の下部対向部28の前後壁28fおよび左右壁28rに、上部対向部27と下部対向部28を車両左右方向に貫通する貫通孔27qと28qが形成されている。この貫通孔27qと28qにダイラタント特性部材50が配置されている。ダイラタント特性部材50は、車両左右方向に延び、その中間部でステー12とサポート20の上部対向部27の前後壁27fとの間の空間を車両前後方向に埋め、また、ステー12とサポート20の下部対向部28の前後壁28fとの間の空間を車両前後方向に埋める。この構成においても、図10〜図12に準じる振動モデル、および振動特性と耐荷重特性が得られ、上記実施例と同じ作用、効果が得られる。その他の部分は本発明の実施例に準じる。
図13および図14の変形例は何れも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
10 ヘッドレスト支持装置
12 ヘッドレストステー(ステー)
20 ヘッドレストサポート(サポート)
21 ヘッドレストステー挿通孔(ステー挿通孔)
40 ヘッドレストブラケット(ブラケット)
50 ダイラタント特性部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ヘッドレスト支持装置に関し、とくに通常時のシート共振の改善と後突時の鞭打ち症対策とを両立させた自動車用ヘッドレスト支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ヘッドレストステーと、ヘッドレストステーを支持する樹脂製のヘッドレストサポートと、ヘッドレストサポートを支持するヘッドレストブラケットと、を有する自動車用ヘッドレスト支持装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平06−058750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示のものを含み従来のヘッドレスト支持装置にはつぎの課題がある。
乗り心地に影響を及ぼすシート共振を改善するためには、シートの共振周波数を車両のエンジンアイドル周波数からずらす必要がある。
この場合のシートの目標共振周波数は、シートの骨格剛性を必要とする他性能を満足すると、共振周波数を下げる必要がある。
【0005】
図12の2質点系振動モデルにおいて、シートの等価マスをm1 、シートの等価バネ定数をk1 、ヘッドレストの等価マスをm2 、ヘッドレスト支持装置の等価バネ定数をk2 とすると、2質点系の共振周波数fn はつぎの(1)のようになる。共振周波数fn を下げるには、バネ定数k2 を下げることが有効である。
fn =(1/2π)・(A/B)1/2 -------------------------------- (1)
ここで、
A=m2 k1 +m1 k2 +m2 k2
−{(m1 k2 +m2 k1 +m2 k2 )2 −4m1 m2 k1 k2 }1/2
B=2m1 m2
一方、車両後突時には鞭打ち症低減のため頭部を後方から十分に拘束する必要があり、そのためにはヘッドレスト支持装置の剛性、したがってヘッドレストのバネ定数k2 を上げる必要がある。
すなわち、従来装置では、ヘッドレスト支持装置の等価バネ定数k2 を下げて通常時におけるシート共振を改善するという要望と、ヘッドレスト支持装置の等価バネ定数k2 を上げて後突時における鞭打ち症抑制をはかるという要望とが、両立しない。
【0006】
本発明の目的は、通常時にはシート共振を改善するためにバネ定数を低減でき後突時には鞭打ち症を抑制するためにバネ定数を増大できる自動車用ヘッドレスト支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明に係る自動車用ヘッドレスト支持装置は、ヘッドレストステー挿通孔を有し該ヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際に該ヘッドレストステーを支持するヘッドレストサポートと、筒状に構成されヘッドレストサポートが挿通された際に該ヘッドレストサポートを支持するヘッドレストブラケットと、を有する。該自動車用ヘッドレスト支持装置では、ヘッドレストサポートとヘッドレストブラケットとの間、ヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際のヘッドレストステーとヘッドレストサポートとの間、およびヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際のヘッドレストステーとヘッドレストブラケットとの間、の少なくとも1つの部位に、かつ、ヘッドレストブラケットの少なくとも上下方向端部に対応する部位で少なくとも車両前後方向部位に、ダイラタント特性を有する部材が配置されている。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明の自動車用ヘッドレスト支持装置によればつぎの効果が得られる。
ダイラタント特性部材は、低荷重が低速でかかった時にはゲル状態または可撓状態にあり、したがって低バネ定数をもち、高荷重が高速でかかった時には瞬時に硬化して固体ポリマとなり、高バネ定数をもつ。高速の高荷重負荷が休止状態になると、ゆるやかに元のゲル状態または可撓状態に戻る。
【0009】
通常時にはダイラタント特性部材には荷重がかからないか、またはかかっても荷重は低荷重かつ低速である。その状態では、ダイラタント特性部材は硬化しておらず、そのバネ定数は低い。したがって、シートの等価マスをm1 、シートの等価バネ定数をk1 、ヘッドレストの等価マスをm2 、ヘッドレスト支持装置の等価バネ定数をk2 とする2質点振動系の共振周波数fn は上記(1)式よりダイラタント特性部材が設けられない従来装置に比べて下がり、シート共振が改善され車両の乗り心地が向上する。
【0010】
後突時には車体と乗員胴体が前方に移動し乗員の頭部が慣性で元の位置に止まろうとするので、頭部がヘッドレストに向かって相対移動しヘッドレストに当たる。この時ヘッドレストからヘッドレストステーを介してダイラタント特性部材に入る荷重は高荷重かつ高速である。したがって、ダイラタント特性部材は瞬時に固体ポリマとなり、ダイラタント特性部材のバネ定数は瞬時に高くなる。その結果、頭部がヘッドレストに当たった時におけるヘッドレストの後方への逃げは極めて小さく、ヘッドレストは乗員頭部を後方から効果的に拘束でき、乗員の鞭打ち症を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例に係る自動車用ヘッドレスト支持装置(単に、ヘッドレスト支持装置ともいう)とその近傍の分解斜視図である。
【図2】図1のヘッドレスト支持装置の車両左右方向から見た側面図である。
【図3】図2のヘッドレスト支持装置の車両前後方向から見た正面図である。
【図4】図2のヘッドレスト支持装置のA−A断面図である。
【図5】図3のヘッドレスト支持装置の平面図である。
【図6】図2のヘッドレスト支持装置のB−B拡大断面図である。
【図7】図2のヘッドレスト支持装置の、ダイラタント特性部材の配置を図6から変えた例の、図2のB−B拡大断面図である。
【図8】図2のヘッドレスト支持装置のC−C拡大断面図である。
【図9】図2のヘッドレスト支持装置の、ダイラタント特性部材の配置を図8から変えた例の、図2のC−C拡大断面図である。
【図10】図2のヘッドレスト支持装置の振動モデル図である。
【図11】図2のヘッドレスト支持装置の荷重対変位特性図である。
【図12】(イ)はシート装置とヘッドレスト支持装置とからなる装置の側面図であり、(ロ)はそれを振動モデルで表した2質点系振動モデル図である。
【図13】本発明の変形例のヘッドレスト支持装置の、図2のB−B断面およびC−C断面に対応する部位での、拡大断面図である。
【図14】本発明のもう一つの変形例のヘッドレスト支持装置の、図2のB−B断面およびC−C断面に対応する部位での、拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施例〕
本発明の一実施例に係る自動車用ヘッドレスト支持装置(以下、単にヘッドレスト支持装置という)を、図1〜図14を参照して説明する。
図中、FRは車両前後方向前方を示し、RLは車両左右方向を示し、UPは上方を示す。
【0013】
〔全体構成〕
本発明の一実施例に係るヘッドレスト支持装置10は、図1に示すように、ヘッドレスト11をヘッドレストステー12部位で支持するヘッドレストサポート20と、ヘッドレストサポート20を支持するヘッドレストブラケット40と、ダイラタント特性を有する部材50と、を有する。
ヘッドレストサポートを、以下、サポートともいい、ヘッドレストブラケットを、以下、単にブラケットともいい、ダイラタント特性を有する部材を、以下、ダイラタント特性部材ともいい、ヘッドレストステーを、以下、ステーともいう。
【0014】
図1〜図5に示すように、ステー12は金属製であり円形断面を有する。ステー12は左右2本あり、ヘッドレスト11の車両左右方向両端部から下方に延び、サポート20のステー挿通孔21に上下方向に挿入される。
【0015】
サポート20は樹脂製である。サポート20は上下方向に延びる。サポート20は、上下方向に延びるヘッドレストステー挿通孔(以下、単にステー挿通孔と云う)21を有しステー挿通孔21にステー12が挿通された際にステー12を支持する。
【0016】
ブラケット40は金属製であり、上下方向に延びる。図1および図6〜図9に示すように、ブラケット40は、四角形で角が丸みをおびた断面を有する筒状に構成され、筒状部内にサポート20が挿通された際にサポート20を支持する。図1に示すように、ブラケット40は金属製のシートフレーム13のパイプを局部的につぶした部分13aに溶接等で固定される。
【0017】
ダイラタント特性部材50は主には樹脂製である。図6〜図9または図13および図14に示すように、ダイラタント特性部材50は、サポート20とブラケット40との間(図6〜図9)、ステー挿通孔21にステー12が挿通された際のステー12とサポート20との間(図14)、およびステー挿通孔21にステー12が挿通された際のステー12とブラケット40との間(図13)、の少なくとも1つの部位に、かつ、少なくとも車両前後方向部位でブラケット40の少なくとも上下方向端部に対応する部位に、配置される。
【0018】
〔各部材の詳細構成〕
以下、各部材20、40および50をさらに詳細に説明する。
図2〜図5に示すように、樹脂製サポート20は互いに一体に形成された頭部22と首部23と胴部24とを有し、円形状のステー挿通孔21がサポート20全長にわたって上下方向に貫通している。ステー12はステー挿通孔21に上下方向に挿入される。
【0019】
図5に示すように、頭部22は平面視において角部が丸みをおびた矩形状の外形を有する。また、図2〜図4に示すように、頭部22は、車両前後、幅方向に首部23と胴部24より幅広である。
【0020】
図2〜図4に示すように、首部23は頭部22の下方に位置して頭部22に連接している。首部23は、外形が平面視において角部が丸みを帯びた矩形状であり、車両前後、左右方向に胴部24より幅広である。サポート20がブラケット40を挿通した状態では、首部23はブラケット40から上方に出ており、首部23の下面がブラケット40の上端面に圧接している。
【0021】
胴部24は、角部が丸みをおびた断面外形がほぼ矩形状の胴部上部25と、断面外形がほぼ円形状の胴部下部26とを有する。
サポート20がブラケット40内に挿入された時、胴部上部25がブラケット40内に位置する。
図2〜図4に示すように、ブラケット40はブラケット上部41、ブラケット下部42、ブラケット中間部43を有する。ブラケット40は前後壁40fと左右壁40rを有する。図6〜図9および図2〜図4に示すように、ブラケット上部41、ブラケット下部42、ブラケット中間部43はそれぞれ前後壁41f、42f、43fと左右壁41r、42r、43rを有する。
【0022】
図4に示すように、胴部上部25は、ブラケット上部41内面に対向し角部が丸みをおびた外形がほぼ矩形状の上部対向部27と、ブラケット下部42内面に対向し角部が丸みをおびた外形がほぼ矩形状の下部対向部28と、ブラケット中間部43内面に対向し上部対向部27と下部対向部28との間で上下方向に延びる中間部29とを有する。
【0023】
図6に示すように、上部対向部27の前後壁27fとブラケット上部41の前後壁41fとの間には車両前後方向に空間があり、この空間にダイラタント特性部材50が配置されている。ダイラタント特性部材50の前後方向端部と、上部対向部27の前後壁27fおよびブラケット上部41の前後壁41fとの間には隙間がない。ダイラタント特性部材50は上部対向部27の前後壁27fとブラケット上部41の前後壁41fの何れか一方の面に接着剤などにより取り付けられる。この構造では、サポート20の上部対向部27とブラケット40の上部41との間に、車両前後方向にガタがなくなる。
【0024】
図7に示すように、ダイラタント特性部材50は上部対向部27の外面のうち前後壁27fのみならず車両左右壁27rに回り込んで配置されていてもよい。その場合は、上部対向部27の左右壁27rとブラケット上部41の左右壁41rとの間には車両左右方向に空間があり、この空間にダイラタント特性部材50が配置される。ダイラタント特性部材50の車両左右方向端部と、上部対向部27の左右壁27rおよびブラケット上部41の左右壁41rとの間には隙間がない。ダイラタント特性部材50は上部対向部27の左右壁27rとブラケット上部41の左右壁41rの何れか一方の面に接着剤などにより取り付けられる。この構造では、サポート20の上部対向部27とブラケット40の上部41との間に、車両前後方向および車両左右方向にガタがなくなる。
【0025】
下部対向部28も上部対向部27と同様の構造をとる。
すなわち、図8に示すように、下部対向部28の前後壁28fとブラケット下部42の前後壁42fとの間には車両前後方向に空間があり、この空間にダイラタント特性部材50が配置されている。ダイラタント特性部材50の前後方向端部と、下部対向部28の前後壁28fおよびブラケット下部42の前後壁42fとの間には隙間がない。
【0026】
図9に示すように、ダイラタント特性部材50は下部対向部28の外面のうち車両前後壁28fのみならず車両左右壁28rに回り込んで配置されていてもよい。その場合は、下部対向部28の左右壁28rとブラケット下部42の左右壁42rとの間には車両左右方向に空間があり、この空間にダイラタント特性部材50が配置される。ダイラタント特性部材50の車両左右方向端部と、下部対向部28の左右壁28rおよびブラケット下部42の左右壁42rとの間には隙間がない。
【0027】
図2および図4に示すように、胴部上部25の中間部29の前後壁29fには一対の上下方向に延びるステー押圧部30が形成されている。ステー押圧部30は該押圧部30の両側のスリット31によりまわりの中間部前後壁29fから切り離されており、上下方向と直交する方向にかつ車両左右方向に弾性変形可能である。図4に示すように、ステー押圧部30は上下端部30aと、上下端部30aの中間部位に形成された外方に突出する外方突起部30bと、上下端部30aと外方突起部30bとの間で内方に湾曲して突出する内方突起部30cとを有する。図6および図8のようにダイラタント特性部材50がサポート20とブラケット40間の車両左右方向スペースに設けられずサポート20とブラケット40間の車両左右方向スペースが小さい場合には、図4に示すように、ステー12がステー挿通孔21に挿入された時に、ステー12が内方突起部30cを外方に押し、外方突起部30bがブラケット中間部43の左右壁43rの内面に押し付けられる。その結果、ステー12とサポート20間、およびサポート20とブラケット40間には、車両左右方向にガタがなくなる。また、押し付け部でステー12とサポート20とブラケット40間に摩擦すべりが生じない範囲で車両前後方向にもガタがなくなる。
【0028】
図2〜図4に示すように、胴部下部26の左右壁26rにはサポート20がブラケット40に挿入された後ブラケット40から抜けるのを阻止する一対の爪部32が形成されている。爪部32はスリット33によって爪部32の下端部を除きまわりの胴部下部部分から切り離されており、爪部32の下端部で胴部下部26に連結している。サポート20をブラケット40内に挿通する時には、爪部32が内側に弾性変位して爪部32がブラケット40を通過し、通過後爪部32が外側に弾性復帰し、爪部32上端面がブラケット40の下面に係合する。
【0029】
〔ダイラタント特性シート状部材〕
ダイラタント特性部材50は、直接、ヘッドレスト支持装置10に装着されてもよいし、あるいは樹脂製または布製または樹脂コーティングされた布製等からなる袋状で可撓性を有する包囲体で包んでまたは包囲体の中に充填した状態でヘッドレスト支持装置10に装着されてもよい。包囲体自体はダイラタント特性を有しない。
【0030】
ダイラタント特性部材50に衝撃力が加わった時には、その衝撃力が加わった部分のみならず、その衝撃力が伝達された部分および急激に変形する部分も瞬時に剛性が増して固体エラストマとして振る舞う。ダイラタント特性部材50が一部に衝撃力を受けても、その衝撃が該一部につながっているダイラタント特性部材50のほぼ全域に伝わるので、ダイラタント特性部材50のほぼ全域が瞬時に硬化し固体エラストマとなる。
【0031】
ダイラタント特性部材50には、たとえば英国のd3oTMlab社が製造し、市販されている、公知のd3oTM材を使用することができる。「d3o」は登録商標でディースリーオーと呼ぶ。d3oTMは樹脂を主成分とする。図示例ではダイラタント特性部材50がd3oTM材からなる場合を示している。d3oTM材は、受ける衝撃の強さで分子の結束が変化する。強い衝撃を受けると瞬時に分子同士が結束して固体状となり、衝撃が吸収、消散され、エネルギの多くが熱に変換される。衝撃力がかからなくなると分子の結束が解かれ元の柔軟な状態に戻る。d3oTM材からなるダイラタント特性部材50はオレンジ色の粘度状物で垂直姿勢をとっても形状を維持できるので、ダイラタント特性部材50を可撓性包囲体で包囲することなく直接、ヘッドレスト支持装置10に組み付けることができる。ただし、d3oTM材を袋状の可撓性包囲体で包囲してヘッドレスト支持装置10に組み付けてもよい。
【0032】
ダイラタント特性部材50は、d3oTM材に代えて、樹脂シート、樹脂フィルム、樹脂コーティング布などからなる袋状の包囲体とその中に充填されたダイラタント特性を有する材料から構成されてもよい。包囲体に充填されるダイラタント特性を有する材料は、荷重がかかっていない状態でゲル状であり、ダイラタント特性を示すポリマ組成物、および潤滑剤と充填剤を含む。
ダイラタント特性を示すポリマ組成物は、ポリボロシロキサン、キサンタンガム、ガーゴムおよびポリビニルアルコール四ホウ酸ナトリウムよりなる群から選択された1種以上のポリマである。これらのポリマ組成物、たとえばポリボロシロキサンは、低速で力が印加されると容易に変形してポリマ組成物に接触する対象物外形に順応し、高速で力が加わると瞬時に粘性が増加して固体ポリマとなり衝撃エネルギを吸収する。固体ポリマを休止状態にすると元のゲル状態にゆるやかに復帰する。
潤滑剤は、たとえば炭化水素系グリースまたは流体であり、充填剤は、微小粒または粉末のプラスチック、セラミック、金属または繊維材料である。
【0033】
ダイラタント特性を示すポリマ組成物、潤滑剤、充填剤の混合割合は、重量百分率で、上記ポリマ(ポリボロシロキサン、キサンタンガム、ガーゴムおよびポリビニルアルコール四ホウ酸ナトリウムよりなる群から選択された1種以上のポリマ)を90%乃至20%未満、上記潤滑剤を20%未満(たとえば、10%)乃至60%以上(たとえば、80%)、上記充填剤を0%乃至90%を含む。それらの混合割合を調整することによりダイラタント特性材料の粘性、可撓性を容易に調整できる。高速衝突時に硬化し低速衝突時に良好な可撓性を示す混合割合の一例を挙げると、70%のポリボロシロキサン、20%の潤滑剤および10%の充填剤である。ただし、この配合割合に限るものではない。
以上では、ダイラタント特性を示す材料として、d3oTMと、包囲体の中に充填されたダイラタント特性を示すポリマ組成物からなる場合を示したが、これらと同様の構成、作用をもつものであれば、使用可能である。
【0034】
〔ダイラタント特性部材を具備したヘッドレスト支持装置の振動性状と耐荷重特性〕
ダイラタント特性部材50を具備したヘッドレスト支持装置10の車両前後方向振動の振動モデルは図10に示すようになり、ヘッドレスト支持装置10の車両前後方向振動のバネ特性は図11に示すようになる。シート系を第1の質点系としヘッドレスト支持装置10を第2の質点系とした2質点振動モデルは図12に示すようになる。
図12で、m1 はシートの等価質量であり、m2 はヘッドレストの等価質量であり、k1 はシートの等価バネ定数であり、k2 はヘッドレスト支持装置の等価バネ定数である。
【0035】
図10の振動モデルにおいて、樹脂サポート20は上部対向部27および下部対向部28の部位でダイラタント特性部材50を介してブラケット40から支持され、外方突起部30b(図4)の横方向に位置する回転中心Rまわりに車両前後方向に回転振動する。ダイラタント特性部材50がバネ定数k2 を構成する。
【0036】
ダイラタント特性部材50を具備したヘッドレスト支持装置10の、ダイラタント特性部材50が硬化していない時の通常時振動における等価バネ定数k2 は、ダイラタント特性部材50が設けられていなかった従来装置におけるヘッドレスト支持装置等価バネ定数k2 ’以下となる。図11はバネ定数k2 とk2 ’を荷重F対ストロークSのグラフ上で示している。バネ定数k2 ’のk2 への低下により、通常時における図12の2質点系の共振周波数fn が低下される。
【0037】
後突時に乗員頭部がヘッドレストに当たってステー12から衝撃荷重がダイラタント特性部材50に入力されると、ダイラタント特性部材50は瞬時に硬化して固体ポリマとなり、その時点以後、等価バネ定数k2 は従来の等価バネ定数k2 ’より増大する。したがって、ダイラタント特性部材50の等価バネ定数k2 は、硬化前と硬化後で変化して、図11において折れ線を描く。dはバネ定数変化点の横座標値である。
【0038】
〔作用、効果〕
通常時にはダイラタント特性部材50には荷重がかからないか、またはかかっても荷重は低荷重かつ低速である。したがって、ダイラタント特性部材50は硬化しておらず、そのバネ定数k2 は低い。その結果、図12の2質点振動系の共振周波数fn は上記(1)式よりダイラタント特性部材が設けられない従来装置に比べて下がる。したがって、シートのアイドル共振が改善され、車両の乗り心地が向上する。
【0039】
後突時にはヘッドレストが乗員の頭部に向かって相対移動し当たる。この時ヘッドレスト11からステー12を介してダイラタント特性部材50に入る荷重は高荷重かつ高速である。したがって、ダイラタント特性部材50は瞬時に固体ポリマとなり、ヘッドレスト支持装置10は前後方向に高剛性となる。その結果、頭部がヘッドレスト11に当たった時におけるヘッドレスト11の後方への逃げは極めて小さく、ヘッドレスト11は乗員頭部を後方から効果的に拘束でき、乗員の鞭打ち症を抑制できる。
【0040】
〔ダイラタント特性部材50の配置を変えた変形例〕
図6〜図9では、ダイラタント特性部材50がサポート20とブラケット40との間に配置されているが、ダイラタント特性部材50の配置部位はこれに限らない。
【0041】
図13の本発明の変形例では、サポート20の上部対向部27の前後壁27fと、サポート20の下部対向部28の前後壁28fに、上部対向部27と下部対向部28を車両前後方向に貫通する貫通孔27pと28pが形成されている。この貫通孔27pと28pにダイラタント特性部材50が配置されている。ダイラタント特性部材50は、ステー12とブラケット上部41の前後壁41fとの間にわたって車両前後方向に延び、また、ステー12とブラケット下部42の前後壁42fとの間にわたって車両前後方向に延びる。この構成においても、図10〜図12に準じる振動モデル、および振動特性と耐荷重特性が得られ、上記実施例と同じ作用、効果が得られる。その他の部分は本発明の実施例に準じる。
【0042】
図14の本発明の変形例では、サポート20の上部対向部27の前後壁27fおよび左右壁27rと、サポート20の下部対向部28の前後壁28fおよび左右壁28rに、上部対向部27と下部対向部28を車両左右方向に貫通する貫通孔27qと28qが形成されている。この貫通孔27qと28qにダイラタント特性部材50が配置されている。ダイラタント特性部材50は、車両左右方向に延び、その中間部でステー12とサポート20の上部対向部27の前後壁27fとの間の空間を車両前後方向に埋め、また、ステー12とサポート20の下部対向部28の前後壁28fとの間の空間を車両前後方向に埋める。この構成においても、図10〜図12に準じる振動モデル、および振動特性と耐荷重特性が得られ、上記実施例と同じ作用、効果が得られる。その他の部分は本発明の実施例に準じる。
図13および図14の変形例は何れも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
10 ヘッドレスト支持装置
12 ヘッドレストステー(ステー)
20 ヘッドレストサポート(サポート)
21 ヘッドレストステー挿通孔(ステー挿通孔)
40 ヘッドレストブラケット(ブラケット)
50 ダイラタント特性部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドレストステー挿通孔を有し該ヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際に該ヘッドレストステーを支持するヘッドレストサポートと、筒状に構成されヘッドレストサポートが挿通された際に該ヘッドレストサポートを支持するヘッドレストブラケットと、を有する自動車用ヘッドレスト支持装置であって、
ヘッドレストサポートとヘッドレストブラケットとの間、ヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際のヘッドレストステーとヘッドレストサポートとの間、およびヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際のヘッドレストステーとヘッドレストブラケットとの間、の少なくとも1つの部位に、かつ、ヘッドレストブラケットの少なくとも上下方向端部に対応する部位で少なくとも車両前後方向部位に、ダイラタント特性を有する部材が配置されている自動車用ヘッドレスト支持装置。
【請求項1】
ヘッドレストステー挿通孔を有し該ヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際に該ヘッドレストステーを支持するヘッドレストサポートと、筒状に構成されヘッドレストサポートが挿通された際に該ヘッドレストサポートを支持するヘッドレストブラケットと、を有する自動車用ヘッドレスト支持装置であって、
ヘッドレストサポートとヘッドレストブラケットとの間、ヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際のヘッドレストステーとヘッドレストサポートとの間、およびヘッドレストステー挿通孔にヘッドレストステーが挿通された際のヘッドレストステーとヘッドレストブラケットとの間、の少なくとも1つの部位に、かつ、ヘッドレストブラケットの少なくとも上下方向端部に対応する部位で少なくとも車両前後方向部位に、ダイラタント特性を有する部材が配置されている自動車用ヘッドレスト支持装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−218458(P2012−218458A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82611(P2011−82611)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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