説明

自動車用ラッゲージドア構造

【課題】アウタパネルを上下二分割したラッゲージドアにおいて上下のアウタパネルをロウ付けにより結合した場合に、ドア閉止時にロウ付け部に大きな応力が発生することを抑制することができ、しかも大幅なコストアップを招かない自動車用ラッゲージドア構造を得る。
【解決手段】ラッゲージドア14のアウタパネル上部16の上部側折り曲げ部16Aとアウタパネル下部18の下部側折り曲げ部18Aとはロウ付けされている。また、インナパネル22には車両後方側へ凹む凹部38が形成されており、該凹部38とアウタパネル下部18及びライセンスプレート30とを三枚重ねにしてライセンスプレート固定ボルト32で共締めすることで、ロウ付け部36の下方に閉断面部42が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウタパネルが上下二分割されたタイプのラッゲージドアに適用される自動車用ラッゲージドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ラッゲージドアのアウタパネルとインナパネルとを一部重合させ、該重合部にコンビネーションランプのフレームを重ねてボルト及びナットで共締めする構成が開示されている。これにより、アウタパネルとインナパネルとの重合部の接着を省くことができる。
【0003】
上記特許文献1に開示された技術もラッゲージドアのアウタパネルとインナパネルとを結合する手法の一つといえるが、別のボディー構造としてラッゲージドアのアウタパネルが上下二分割されたものがある。この上下二分割されたアウタパネルを結合する手法の一つとして、ガーニッシュレス構造が可能となりコスト削減に資することから、レーザロウ付けを用いることが検討されている。
【特許文献1】特開平06−016141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上下二分割されたアウタパネルをレーザロウ付けにより結合する構造を採ると、ラッゲージドアを閉めた際にレーザロウ付け部に大きな応力が発生し、これを繰り返していくうちに疲労が蓄積する。
【0005】
このため、上下のアウタパネルの合わせ部にスポット溶接の打点を打ち、レーザロウ付け部にかかる応力を低減することが考えられる。しかし、上下のアウタパネルの合わせ部にスポット溶接の打点を打つには、合わせ部に打点を打つための面精度が要求される。具体的には、皺を伸ばすためのしごき曲げといった特殊加工をする必要があるが、それを実施するとコストアップを招く。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、アウタパネルを上下二分割したラッゲージドアにおいて上下のアウタパネルをロウ付けにより結合した場合に、ドア閉止時にロウ付け部に大きな応力が発生することを抑制することができ、しかも大幅なコストアップを招かない自動車用ラッゲージドア構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る自動車用ラッゲージドア構造は、ラッゲージドアの後端上部を構成すると共に下端部に車両前方側へ向けて折り曲げられた上部側折り曲げ部を有するアウタパネル上部と、ラッゲージドアの後端下部を構成すると共に上端部に車両前方側へ向けて折り曲げられかつ上部側折り曲げ部に合わせた状態でロウ付けされる下部側折り曲げ部を有し、更に下部側折り曲げ部よりも下方側にライセンスプレート締結用の締結面を備えたアウタパネル下部と、下端部がアウタパネル下部の下端部に結合されると共に、中間部がアウタパネル下部の締結面の前面に重ねられてライセンスプレートも含めて共締めされることでロウ付け部位の下方に閉断面部を形成するインナパネルと、を有している。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載の自動車用ラッゲージドア構造において、前記インナパネルには、前記締結面と対応する位置にアウタパネル下部側へ凹む凹部が形成されており、当該凹部の底部を前記締結面に合わせて共締めする、ことを特徴としている。
【0009】
請求項1記載の本発明によれば、ラッゲージドアのアウタパネルはアウタパネル上部とアウタパネル下部とに分割されており、アウタパネル上部の下端部に設けられた上部側折り曲げ部とアウタパネル下部の上端部に設けられた下部側折り曲げ部とを合わせてロウ付けすることにより結合される。
【0010】
ここで、本発明では、ラッゲージドアのインナパネルの中間部をアウタパネル下部のライセンスプレート締結用の締結面の前面に重ねて、ライセンスプレートも含めて共締めすることとしたので、ロウ付け部位の下方に閉断面部が形成される。その結果、ドア閉止時に、ラッゲージドアの下端部から入力された衝撃力は、一旦閉断面部で受け止められてから締結部を経由してロウ付け部へと伝達される。つまり、ドア閉止時に作用する衝撃力は、充分に緩和された状態でロウ付け部に伝達される。このため、衝撃力によってアウタパネル下部が太鼓腹状に変形することを防止又は抑制することができる。従って、ロウ付け部に大きな引張応力が発生することはない。その結果、ロウ付け部を補強するべく、アウタパネル上部の上部側折り曲げ部とアウタパネル下部の下部側折り曲げ部との合わせ部にスポット溶接の打点を打つ必要がなくなり、ひいてはスポット溶接の打点を打つために必要となる合わせ部の面精度を出すための特殊加工も不要になる。
【0011】
請求項2記載の本発明によれば、インナパネルには、締結面と対応する位置にアウタパネル下部側へ凹む凹部が形成されており、その凹部の底部を締結面に合わせて共締めする構成としたので、インナパネルに別部品のブラケットを設定しかつそのブラケットに設けた座面を締結面に合わせて共締めする構成に比し、部品点数が少なくて済む。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る自動車用ラッゲージドア構造は、アウタパネルを上下二分割したラッゲージドアにおいて上下のアウタパネルをロウ付けにより結合した場合に、ドア閉止時にロウ付け部に大きな応力が発生することを抑制することができ、しかも大幅なコストアップを招かないという優れた効果を有する。
【0013】
請求項2記載の本発明に係る自動車用ラッゲージドア構造は、コストを抑制しつつ簡単に閉断面部を設定することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1〜図4を用いて、本発明に係る自動車用ラッゲージドア構造の一実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0015】
図2には、車両の外観背面図が示されている。また、図1には、図2の1−1線断面図が示されている。これらの図に示されるように、車両10の後部上面側には、ラッゲージルーム12(図1参照)を開閉するラッゲージドア14が配設されている。ラッゲージドア14は車両前後方向に沿って切断した断面形状が略L字状に形成されており、前端部に配設された図示しないラッゲージドアヒンジ回りに車両上下方向に回動可能に支持されている。
【0016】
上記ラッゲージドア14の後端部は、当該後端部の上部側に配置されるアウタパネル上部16と、当該後端部の下部側に配置されてアウタパネル上部16と結合されるアウタパネル下部18と、これらのアウタパネル上部16及びアウタパネル下部18の車両前方側(ラッゲージルーム12側)に配置されるインナパネル22と、によって構成されている。すなわち、本実施形態では、アウタパネル24がアウタパネル上部16とアウタパネル下部18とに上下二分割されている。
【0017】
アウタパネル下部18の車両幅方向の中央部には、車両後面側から見て略矩形状とされた凹部26が形成されている。さらに、凹部26の上縁側には、車両後方側へ帯状に膨出された膨出部28が一体に形成されている。この膨出部28に矩形平板状のライセンスプレート30が当接状態で配置されて、左右一対のライセンスプレート固定ボルト32及びナット34で締結固定されている。
【0018】
次に、本実施形態の要部について詳細に説明する。
【0019】
図1に拡大して示されるように、アウタパネル上部16の下端部は車両前方側へ折り曲げられている。以下、この部位を「上部側折り曲げ部16A」と称す。なお、この上部側折り曲げ部16Aが凹部26の上面を形成している。また、アウタパネル下部18の上端部も、車両前方側へ折り曲げられている。以下、この部位を「下部側折り曲げ部18A」と称す。下部側折り曲げ部18Aは上部側折り曲げ部16Aの下面の前端部に当接状態で配置されて、上部側折り曲げ部16Aと下部側折り曲げ部18Aとの合わせ目がレーザロウ付けされることにより、アウタパネル上部16とアウタパネル下部18とが結合されている。以下、レーザロウ付けされた部位を「ロウ付け部36」と称す。
【0020】
一方、アウタパネル上部16及びアウタパネル下部18のラッゲージルーム12側に配置されたインナパネル22の下端部は、アウタパネル下部18の下端部にヘミング加工により結合されている。さらに、インナパネル22の膨出部28と車両前後方向に対向する部位には車両後方側へ凹む凹部38が形成されている。この凹部38の底部38Aが膨出部28の前面に当接状態で配置されて、ライセンスプレート30と一緒に三枚重ねの状態でライセンスプレート固定ボルト32及びナット34で締結固定されている。
【0021】
これにより、アウタパネル下部18とアウタパネル上部16との結合部位であるロウ付け部36の下方に、アウタパネル下部18の膨出部28、インナパネル22の凹部38の底部38A及びライセンスプレート30の三部材の共締め部40が配置され、更に共締め部40とアウタパネル下部18の下端部との間にアウタパネル下部18とインナパネル22とで構成される車両幅方向に長い閉断面部42が形成されている。
【0022】
(本実施形態の作用並びに効果)
【0023】
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0024】
図3には、対比例に係る自動車用ラッゲージドア構造の縦断面図が示されている。なお、対比例中、本実施形態と同一構成部分については同一番号を付して、その説明を適宜省略する。この図に示されるように、この対比例においても、アウタパネル24がアウタパネル上部16とアウタパネル下部18とに分割されており、上部側折り曲げ部16Aと下部側折り曲げ部18Aとがロウ付け部36にてロウ付けされている。但し、ロウ付けするだけでなく、上部側折り曲げ部16A及び下部側折り曲げ部18Aはこれらの前端部にてスポット溶接されている(スポット溶接の打点を×印で図示すると共に、符合「50」を付す。)。また、この対比例では、インナパネル52がアウタパネル24の内側に離間して配置されている。従って、ライセンスプレート30は、膨出部28の後面に当接状態で配置され、二枚重ねの状態でライセンスプレート固定ボルト32及びナット34で締結固定される構成となっている。
【0025】
図4に示されるように、仮に上部側折り曲げ部16Aと下部側折り曲げ部16Bとの合わせ部にスポット溶接による打点50を設定しなかったとすると、以下の問題が生じる。すなわち、ラッゲージドア14の閉止時に、ロック部54を介して大きな荷重が車両上方側へ向けて入力される。このため、アウタパネル下部18が太鼓腹状に変形し(撓み)、ロウ付け部36に大きな引張力が作用する。
【0026】
上記問題を解消するため、図3に示されるように、上部側折り曲げ部16A及び下部側折り曲げ部18Aにスポット溶接の打点50を設定しているが、両者の合わせ面の面精度が低いと表面に皺がより、打点50を打つことができない。従って、両者の合わせ面にしごき曲げといった特殊加工が必要となり、その分、コストも上昇するという別の問題が生じる。。
【0027】
これに対し、本実施形態では、ラッゲージドア14のインナパネル22の中間部をアウタパネル下部18のライセンスプレート締結用の膨出部28の前面に重ねて、ライセンスプレート30も含めて共締めすることとしたので、ロウ付け部36の下方に閉断面部42が形成される。その結果、ドア閉止時に、ラッゲージドア14の下端部から入力された衝撃力は、一旦閉断面部42で受け止められてから共締め部40を経由してロウ付け部36へと伝達される。つまり、ドア閉止時に作用する衝撃力は、充分に緩和された状態でロウ付け部36に伝達される。このため、衝撃力によってアウタパネル下部18が太鼓腹状に変形することを防止又は抑制することができる。従って、ロウ付け部36に大きな引張応力が発生することはない。その結果、ロウ付け部36を補強するべく、アウタパネル上部16の上部側折り曲げ部16Aとアウタパネル下部18の下部側折り曲げ部18Aとの合わせ部にスポット溶接の打点を打つ必要がなくなり、ひいてはスポット溶接の打点を打つために必要となる合わせ部の面精度を出すための特殊加工も不要になる。
【0028】
以上より、本実施形態によれば、アウタパネル24を上下二分割したラッゲージドア14においてアウタパネル上部16及びアウタパネル下部18をロウ付けにより結合した場合に、ドア閉止時にロウ付け部36に大きな応力が発生することを抑制することができ、しかも大幅なコストアップを招くこともない。
【0029】
さらに、本実施形態では、インナパネル22には、締結面と対応する位置にアウタパネル下部18側へ凹む凹部38が形成されており、その凹部38の底部38Aを膨出部28に合わせてライセンスプレート固定ボルト32及びナット34で共締めする構成としたので、インナパネルに別部品のブラケットを設定しかつそのブラケットに設けた座面を締結面に合わせて共締めする構成に比し、部品点数が少なくて済む。その結果、コストを抑制しつつ簡単に閉断面部を設定することができる。
【0030】
〔実施形態の補足説明〕
【0031】
なお、本実施形態では、インナパネル22に凹部38を設け、該凹部38をアウタパネル下部18の膨出部28に合わせてライセンスプレート30と共に共締めしたが、請求項1記載の発明には、インナパネル22に凹部38を形成せず、その代わりにブラケット等を設定し、該ブラケットとアウタパネル下部18、ライセンスプレート30を共締めする構成も含まれる。なお、この場合には、ブラケットに予めウエルドナットを溶着しておくとよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態に係る自動車用ラッゲージドア構造の要部を拡大して示す図2の1−1線断面図である。
【図2】本実施形態に係る車両の外観背面図である。
【図3】対比例に係る自動車用ラッゲージドア構造の要部を示す図1に対応する縦断面図である。
【図4】図3に示される対比例に係る自動車用ラッゲージドア構造を採用した場合の課題を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0033】
10 車両
12 ラッゲージルーム
14 ラッゲージドア
16 アウタパネル上部
16A 上部側折り曲げ部
18 アウタパネル下部
18A 下部側折り曲げ部
22 インナパネル
24 アウタパネル
28 膨出部(締結面)
30 ライセンスプレート
32 ライセンスプレート固定ボルト
34 ナット
36 ロウ付け部
38 凹部
38A 底部
40 共締め部
42 閉断面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラッゲージドアの後端上部を構成すると共に下端部に車両前方側へ向けて折り曲げられた上部側折り曲げ部を有するアウタパネル上部と、
ラッゲージドアの後端下部を構成すると共に上端部に車両前方側へ向けて折り曲げられかつ上部側折り曲げ部に合わせた状態でロウ付けされる下部側折り曲げ部を有し、更に下部側折り曲げ部よりも下方側にライセンスプレート締結用の締結面を備えたアウタパネル下部と、
下端部がアウタパネル下部の下端部に結合されると共に、中間部がアウタパネル下部の締結面の前面に重ねられてライセンスプレートも含めて共締めされることでロウ付け部位の下方に閉断面部を形成するインナパネルと、
を有する自動車用ラッゲージドア構造。
【請求項2】
前記インナパネルには、前記締結面と対応する位置にアウタパネル下部側へ凹む凹部が形成されており、
当該凹部の底部を前記締結面に合わせて共締めする、
ことを特徴とする請求項1記載の自動車用ラッゲージドア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−111357(P2010−111357A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287950(P2008−287950)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】