説明

自動車用内装材

【課題】 機械的特性、耐熱性、耐薬品性、軽量化に優れたポリオレフィン系発泡成形体に、簡便で且つ経済的な製造方法にて発泡成形体に吸音性能を付与し、軽量化、機械的特性、吸音性、コストダウンの全てを満足する自動車用内装材を提供すること。
【解決手段】 厚み0.02mとしたときの空気流れ抵抗値が3000N・s/m3より大きく50000N・s/m3以下であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体を自動車用内装材に適用することで、機械的特性、吸音性、コストダウンに優れ、且つ両立できる。特に、乗員の下肢部を保護するための衝撃吸収材、側突衝突時に乗員を保護するための側突パッド材、ピラー内部の衝撃吸収材に用いることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂発泡体からなる自動車用内装材に関し、さらには、衝撃吸収性と車内静粛性の両立をなすポリオレフィン系樹脂発泡成形体からなる自動車用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては万一衝撃を受けたときに、その衝撃から乗員を保護するため、乗員室側のダメージを最小限に抑えることを目的とし、バンパー、ピラー、ドアの内部に発泡樹脂成形体を基材とする衝撃吸収材(特許文献1)を設けると共に、最近では内装部材にも乗員の脚部保護を目的とするニーパッド、あるいは下肢保護を目的に足裏からの衝撃を吸収するためのティビアパッド(特許文献2)が広く適用されつつある。
【0003】
特に、乗員室側に適用される内装材はリサイクルが容易で、軽量、且つ衝撃吸収性能の優れた発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレンが広く用いられつつある。最近ではこれらの発泡樹脂中でも、耐熱性並びにVOCの低減を図るために、発泡ポリプロピレンや発泡ポリエチレンが好適とされている。
【0004】
しかしながら、これらの発泡樹脂は軽量性、衝撃吸収特性は優れるが、車内静粛性に重要な要素である吸音性能が素材自体にないため、車内静粛性が要求される場合、例えば、フェルトを初めとした吸音素材と遮音性のフィルムを積層した遮音カーペットとの併用がなされていた。従ってこの様な場合、車内静粛性を維持するためには遮音素材の重量低減が図れず、軽量化に難があった。さらに、一部の車型では吸音性能を向上させるために、高性能つまり高価なフェルトが必要であるし、積層品を適用せざる得ないために、組付け工数増あるいは部品点数増により、総じてコストダウンは困難とされていた。
【0005】
一方、自動車のフロア嵩上げ材に、吸音性発泡プラスチックを適用した事例がある(特許文献3)。ここでは、金型の工夫あるいは後加工により発泡プラスチックに吸音性付与のための貫通孔あるいは有底孔を設けたものが紹介されてきている。この事例においては、特に製品に多数の吸音孔を設けるために金型が複雑になることでの費用増や、吸音性のない製品に後加工で吸音孔を設ける加工を施すなどの作業が必要となることでの加工費増の課題があった。
【0006】
また、下肢部保護材分野でも、衝撃吸収性と吸音性の両立を図ったものが開発されつつある(特許文献4)。この発明は従来の吸音性能を有さない発泡体に窪みを設け、この窪み(吸音室)にフェルトやスポンジなどの吸音材を詰め込むというものである。やはり2種以上の別素材を組み合わせる方法であることから、部品点数の増加、工数増並びに加工コスト増となるため、コストダウンと吸音性能の両方の課題を解決するには至っていない。
【特許文献1】特開平11―286217号公報
【特許文献2】特開2005―67481号公報
【特許文献3】特開2003−335893号公報
【特許文献4】特開2005−81958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、機械的特性、耐熱性、耐薬品性、軽量化に優れたポリオレフィン系発泡成形体の優れた特性を損なうことなく、簡便で且つ経済的な製造方法にて発泡成形体に吸音性能を付与した、自動車用内装材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、厚み0.02mとしたときの空気流れ抵抗値が3000N・s/m3より大きく50000N・s/m3以下であり、且つ、ひずみ率50%時の静的圧縮応力に対するひずみ率10%時の静的圧縮応力との比が0.3以上0.5以下であるポリオレフィン系樹脂発泡体を採用することで、機械的特性、耐熱性、耐薬品性、軽量化に優れたポリオレフィン系発泡成形体の優れた特性を損なうことなく、吸音性能を有した自動車用内装材が得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1は、厚み0.02mとしたときの空気流れ抵抗値が3000N・s/m3より大きく50000N・s/m3以下であり、ひずみ率50%時の静的圧縮応力に対するひずみ率10%時の静的圧縮応力との比が0.3以上0.5以下であるポリオレフィン系樹脂発泡体からなる自動車用内装材に関する。
【0010】
好ましい実施態様としては、
(1)前記ポリオレフィン系樹脂発泡体が、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子を金型内に充填し、水蒸気により加熱して該発泡粒子を発泡、融着した後、冷却工程を経て得られる発泡体であって、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子の平均L/Dが2以上3以下の柱状であり、セル径が30μm以上150μm以下、且つ示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、低温側ピークの融解熱量α(J/g)、高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたときのβ/(α+β)が0.35以上0.75以下であるポリオレフィン系樹脂発泡粒子からなり、得られた発泡体の空隙率が25%以上50%以下である、
(2)前記自動車用内装材が、下肢部保護材であることを特徴とする、
(3)前記自動車用内装材が、ピラー内に配置される頭部保護材であることを特徴とする、
(4)前記自動車用内装材が、側突パッドであることを特徴とする、
(5)前記ポリオレフィン系樹脂発泡体の乗員室側表面を、通気性を有するシートで覆ったことを特徴とする、
(6)前記ポリオレフィン系樹脂発泡体の乗員室側の表面を、通気性のないシートで覆ったこと
を特徴とする前記記載の自動車用内装材に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、搭乗者側の部材に厚み0.02mとしたときの空気流れ抵抗値が3000N・s/m3より大きく50000N・s/m3以下のものを用いることで、ポリオレフィン系樹脂発泡成形体に吸音性能を付与することが可能となる。さらに、ひずみ率50%時の静的応力に対するひずみ率10%時の静的圧縮応力との比が0.3以上0.5以下のものとしたことで、従来の衝撃吸収材と比較し、ソフトな衝撃吸収特性もった自動車用内装材が得られる。即ち、車内の静粛性を維持し、且つ乗員を保護するための衝撃エネルギー吸収を目的とした搭乗者側の部材に好適である。
【0012】
具体的には、乗員の足裏からの衝撃を吸収する為の下肢部保護材、あるいは車両の側面からの衝撃を吸収する為の側突パッド、頭部を保護するためのピラー内の頭部保護材に適用することで、衝撃エネルギー吸収性能は勿論、車外からの乗員室側に伝わる騒音、特にエンジン音を吸収することができるため、乗員室へノイズが伝わることを抑制できる。即ち、一つの車両用内装材で衝撃吸収性能と吸音性能の両立を図ることができる。つまり、ノイズ・バイブレーション(以下、NVと称す場合がある)性能を低下させることなく、その他吸音材あるいは遮音材の使用量低減を可能となし、結果として軽量化並びにコストダウンが実現できる。
【0013】
さらに、NV性能を高めるために遮音シートとの併用を行うことは、車外からのNVを遮断し、且つ車輌構成部の隙間から車内に伝わってくる音を吸収することができ好適である。また、通気性のあるシートとの併用の場合にも、車内に侵入したノイズを通気性のあるシート並びに吸音性を付与した本願発明の内装材の両方で吸音するため、より静粛性に寄与することができるため好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に用いるポリオレフィン系樹脂発泡体は、所定の予備発泡粒子を製造し、所定の成形条件にて型内成形することにより、成形体内に吸音に寄与する無数の小空隙を設ける、言い換えるならば通気性を有する構造を形成することが可能となる。
【0015】
これらの通気性を評価する方法として空気流れ抵抗の測定がある。空気流れ抵抗が大き過ぎても、小さすぎても最適な吸音効果は得られない。空気流れ抵抗値が大きすぎると、音が成形体中に侵入することができず、吸音効果が得られない。逆に、空気流れ抵抗が小さすぎると、成形体中を音が通過する際の粘性抵抗による熱エネルギー変換、あるいはヘルムホルツ効果による空気の共振を発生させることができず、吸音性能を発現することができない。本発明においては、厚み0.02mとしたときの空気流れ抵抗値が3000N・s/m3より大きく50000N・s/m3以下となるような空隙が必要である。より好ましくは8000N・s/m3以上30000N・s/m3以下である。本発明における空気流れ抵抗(R)とは、ISO 9053に準拠し、試料厚みを0.02mとし、流速v(m/s)、0.0005m/sを供給した時に、試料前後の圧力差△P(N/m2)より、得られるものであり、次式のように表される。
【0016】
【数1】

また、本発明に用いるポリオレフィン系樹脂発泡体は、発泡体内に無数の小空隙を有しているため、ひずみ率50%時の静的圧縮応力に対するひずみ率10%時の静的圧縮応力との比が0.3以上0.5以下、好ましくは0.3以上0.4以下である。
【0017】
ひずみ率50%時の静的圧縮応力に対するひずみ率10%時の静的圧縮応力との比が0.3以上0.5以下であることは、即ち、従来のポリオレフィン発泡樹脂、同素材・同密度との比較では、歪みに対する静的圧縮応力の立ち上がりが緩やかであることを示している。これは、圧縮が開始され間もない低歪み領域では、先ず成形体中の空隙部分が埋まり始めるため、空隙率がない発泡成形体と比較すると圧縮応力(反力)立ち上がりが緩やかとなる。歪みが大きくなり、成形体中の空隙が埋まった後は、発泡成形体の単純な圧縮となるため、従来ポリオレフィン発泡樹脂に近い挙動となるのである。このような衝撃エネルギー吸収波形は、下肢部保護材あるいは側突パッドのように衝撃から直接乗員を保護するための部材には好適である。但し、各車型毎に必要とされる衝撃応力値は異なるため、衝撃エネルギー吸収を考慮したエネルギー吸収設計並びに形状設計を行うことが好ましい。一般的には、発泡成形体に窪みを設ける構造、あるいはリブ構造を採用することで衝撃エネルギー吸収の調整を行っても良いし、発泡体の密度を調整することで目標とする荷重―変位曲線を設計してもよい。このような工夫を加えることで、各車型毎の所定の衝撃エネルギー吸収設計をある程度自由に行うことが可能となる。
【0018】
このように本発明の自動車用内装材にあっては、乗員の下肢部を保護するための衝撃吸収材(ティビアパッド)、膝部を保護するための衝撃吸収材(ニーパッド)、ピラー内部に配置した頭部保護のための衝撃吸収材、側面衝突時に乗員を保護するための衝撃吸収材(側突パッド)に好適に用いることできる。
【0019】
次に、本発明において用いる、吸音性能及びソフトな衝撃エネルギー吸収特性を有するポリオレフィン系樹脂発泡体を形成するための製造方法について説明する。
【0020】
本発明に用いることができるポリオレフィン系樹脂としては、低、中、高密度ポリエチレン、線状低、超低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体で代表されるエチレン系樹脂、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体で代表されるプロピレン系樹脂が挙げられる。これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂が好適に用いられ、中でもポリプロピレン系樹脂がより好適に使用される。
【0021】
本発明において使用可能なポリプロピレン系樹脂は、プロピレンモノマー単位が50重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上からなる重合体であり、チーグラー型塩化チタン系触媒またはメタロセン触媒で重合された、立体規則性の高いものが好ましい。具体例としては、例えば、プロピレン単独共重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、無水マレイン酸―プロピレンランダム共重合体、無水マレイン酸―プロピレンブロック共重合体、プロピレン−無水マレイン酸グラフト共重合体等が挙げられ、それぞれ単独あるいは混合して用いられる。特に、エチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテンランダム共重合体が好適に使用し得る。また、これらのポリプロピレン系樹脂は無架橋のものが好ましいが、架橋したものも使用できる。
【0022】
さらに、本発明に使用するポリプロピレン系樹脂は、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定したメルトインデックス(以下、MI)が0.1g/10分以上7g/10分以下であり、更に好ましくは2g/10分以上6g/10分以下である。MIが0.1g/10分未満では、予備発泡粒子を製造する際の発泡力が低く、高発泡倍率の予備発泡粒子を得るのが難しくなる傾向がある。また、発泡成形体としたときの予備発泡粒子間の融着強度を確保することが難しくなる傾向にある。MIが7g/10分を超えると、発泡成形体としたときの空隙率を安定した値で制御することが難しくなる傾向がある。
【0023】
また、前記ポリプロピレン系樹脂は、機械的強度、耐熱性に優れた発泡成形体を得るために、融点は、好ましくは130〜168℃、更に好ましくは135〜160℃、特に好ましくは140〜155℃である。融点が当該範囲内である場合、成形性と機械的強度、耐熱性のバランスが取り易い傾向が強い。ここで、前記融点とは、示差走査熱量計によって樹脂1〜10mgを40℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、その後40℃まで10℃/分の速度で冷却し、再度220℃まで10℃/分の速度で昇温した時に得られるDSC曲線における吸熱ピークのピーク温度をいう。
【0024】
本発明に用いるオレフィン系樹脂発泡粒子は、前記ポリオレフィン系樹脂を基材樹脂とするものであり、平均L/Dが2以上3以下の柱状のオレフィン系樹脂発泡粒子を使用することが好ましい。
【0025】
ここで、本発明にいう平均L/Dとは、図6示すように、Lは発泡粒子の最長部の長さ、DはL方向と垂直な断面における最大径Dmaxと最小径Dminの平均値であり、下記式にて計算される。
【0026】
【数2】

L方向に垂直な断面形状は、円、楕円等の凹部のない閉じた曲線であり、DmaxおよびDminはL方向に沿って略一定の値をとる。柱状形状のポリオレフィン系樹脂発泡粒子の具体例としては、円柱形状、楕円柱形状が挙げられる。
【0027】
L/Dを2以上3以下とすることにより、成形のため金型に充填した際に、発泡粒子同士の適度な接触面積を保って、高い空隙を形成することが可能となる。L/Dが2未満となると、金型に充填した際に十分な空隙率を有する発泡成形体を得ることが困難となる。L/Dが3を超えると、金型に充填する際の充填口での目詰まりが発生し易く、充填不良の原因となるばかりか、発泡成形体の局所間での空隙率にバラツキが生じ易くなる。
【0028】
また、本発明に用いるポリオレフィン系樹脂発泡粒子は、セル径が好ましくは30μm以上150μm以下、更に好ましくは、50μm以上100μm以下である。セル径がこの範囲にあると、金型への充填の際に生じた空隙を保持して、発泡粒子間を強固に融着させ易い。セル径が30μm未満の場合、発泡成形体とした時に、ヒケ、収縮が発生し易くなり、形状保持性が悪化する。セル径が150μmを超えると、発泡成形体とした時の空隙率が低くなる傾向となる。特に、金型面と接触した表面層において空隙率が低下し易い。
【0029】
更に、本発明に用いる発泡粒子は、示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、該低温側ピークの融解熱量α(J/g)、該高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたときのβ/(α+β)が0.35以上0.75以下、更に好ましくは0.55以上0.65以下である。β/(α+β)が0.35未満の場合、発泡成形体の空隙率を高くすることが困難となる。これは、発泡粒子の二次発泡力が高くなるため、成形の際に空隙率が低下するためと思われる。β/(α+β)が0.75を超えると発泡粒子間の融着が困難となる。融着を促進するために成形に用いる蒸気の温度を上げると、発泡成形体の空隙率が低下するため、空隙率の確保と融着の両立が困難となる。
【0030】
ここで、発泡粒子の示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線とは、発泡粒子1〜10mgを示差走査熱量計によって10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温したときに得られるDSC曲線のことである得られたDSC曲線の極大点Aを通る直線とDSC曲線との低温側の接点をB、高温側の接点をCとする。線分ABとDSC曲線で囲まれた面積から低温側ピークの融解熱量α(J/g)、線分ACとDSC曲線で囲まれた面積から高温側ピークの融解熱量β(J/g)が算出される。
【0031】
上記要件を満たした発泡粒子を用いることにより、好ましくは空隙率25%以上50%以下の発泡成形体を容易に得ることができる。発泡成形体の空隙率は吸音特性と強く関係しており、空隙率は好ましくは25%以上50%以下、更に好ましくは30%以上45%以下である。空隙率が25%未満となると、ピーク周波数における吸音率が低下し、十分な吸音特性が得られない場合がある。空隙率が50%を超えると、発泡粒子間の接触面積が低下して発泡成形体の割れが生じ易くなるばかりか、機械強度が低下して実用上の使用に耐えない場合がある。
【0032】
次に、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法について述べる。前記ポリプロピレン系樹脂は、既知の方法を用いて、例えば、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー(商標)、ロール等を用いて溶融して、柱状形状で、1粒の重量が0.2〜10mg、好ましくは0.5〜6mgの樹脂粒子に加工される。一般的には、押出機を用いて溶融し、ストランドカット法にて製造する。例えば、円形ダイスからストランド状に押出されたポリプロピレン系樹脂を水、空気等で冷却、固化させたものを切断して、所望の形状の樹脂粒子を得る。
【0033】
樹脂粒子から発泡粒子を製造する際の加熱処理により、樹脂粒子は残留歪の緩和を起こすため、延伸方向に収縮が発生する。従って、樹脂粒子製造に際しては、延伸方向の収縮を考慮に入れ、目的とするL/Dの発泡粒子が得られる樹脂粒子形状としておく必要がある。具体的には、目的とする発泡粒子のL/Dに対して、より大きなL/Dの樹脂粒子としておく必要がある。製造すべき樹脂粒子のL/Dは、使用するポリプロピレン系樹脂のMI、分子量分布、樹脂粒子製造の際の延伸度合い等によって異なり一概には規定できないが、概ね4〜9の範囲である。
【0034】
樹脂粒子製造の際、セル造核剤を添加することにより、発泡粒子のセル径を所望の値に調整する。セル造核剤としては、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、酸化チタン、ベントナイト、硫酸バリウム等の無機系造核剤が一般に使用される。セル造核剤の添加量は、使用するポリプロピレン系樹脂の種類、セル造核剤の種類により異なり一概には規定できないが、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、概ね0.001〜2重量部である。
【0035】
更に、樹脂粒子製造の際、必要により種々の添加剤を、ポリプロピレン系樹脂の特性を損なわない範囲内で添加することができる。添加剤としては、例えば、;カーボンブラック、有機顔料などの着色剤;アルキルジエタノールアミド、アルキルジエタノールアミン、ヒドロキシアルキルエタノールアミン、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライドなどのノニオン系界面活性剤からなる帯電防止剤;IRGANOX1010(商標)、IRGANOX1076(商標)、IRGANOX1330(商標)、IRGANOX1425WL(商標)、IRGANOX3114(商標)、ULTRANOX626(商標)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤;IRGAFOS168(商標)、IRGAFOS P−EPQ(商標)、IRGAFOS126(商標)、WESTON619(商標)等のリン系加工安定剤;HP−136(商標)等のラクトン系加工安定剤;FS042(商標)等のヒドロキシルアミン系加工安定剤、IRGANOX MD1024(商標)等の金属不活性剤;TINUVIN326(商標)、TINUVIN327(商標)等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;TINUVIN120(商標)等のベンゾエート系光安定剤;CHIMASSORB119(商標)、CHIMASSORB944(商標)、TINUVIN622(商標)、TINUVIN770(商標)等のヒンダードアミン系光安定剤;ハロゲン系難燃剤および三酸化アンチモン等の難燃助剤;FLAMESTAB NOR116(商標)、MELAPUR MC25(商標)等の非ハロゲン系難燃剤;ハイドロタルサイト、ステアリン酸カルシウム等の酸中和剤;IRGASTAB NA11(商標)等の結晶核剤;エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド等の滑剤などが例示される。
【0036】
本発明における発泡粒子の製造には、従来から知られている方法を利用できる。例えば、密閉容器内に、上記樹脂粒子、発泡剤、分散剤および分散助剤を含む水系分散媒を仕込み、攪拌しながら昇温して一定温度(以下、発泡温度という場合がある)として樹脂粒子に発泡剤を含浸させ、必要に応じて発泡剤を追加添加して、密閉容器内を一定圧力(以下、発泡圧力という場合がある)に保持した後、密閉容器下部から内容物を密閉容器内圧より低圧雰囲気下に放出する方法により発泡粒子が製造される。使用する密閉容器には特に限定はなく、発泡粒子製造時における容器内圧力、容器内温度に耐えられるものであればよいが、例えばオートクレーブ型の耐圧容器が挙げられる。
【0037】
前記発泡剤としては、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン等の脂肪族炭化水素およびそれらの混合物;空気、窒素、二酸化炭素等の無機ガス;水などが挙げられる。より高発泡倍率の発泡粒子を得るためにはイソブタン、ノルマルブタンおよびそれらの混合物を発泡剤として用いるのが好ましい。低発泡倍率で、発泡倍率バラツキの小さい発泡粒子を得るためには水を発泡剤として用いるのが好ましい。
【0038】
水を発泡剤として用いる場合には、前記樹脂粒子を製造する際にナトリウムアイオノマー、カリウムアイオノマー、メラミン、イソシアヌル酸等の吸水剤を添加しておくことが好ましい。
【0039】
発泡剤の使用量は、使用するポリプロピレン系樹脂の種類、発泡剤の種類、目的とする発泡倍率等により異なり、一概には規定できないが、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、概ね2〜60重量部の範囲である。
【0040】
前記分散剤として、例えば、塩基性第三リン酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム等の難水溶性無機化合物、分散助剤としては例えばドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、直鎖アルキルフィンスルホン酸ソーダ等のアニオン系界面活性剤が使用される。これらの中でも塩基性第三リン酸カルシウムと直鎖アルキルフィンスルホン酸ソーダの使用が良好な分散性を得る上で好ましい。これら分散剤及び分散助剤の使用量は、その種類や用いるポリプロピレン系樹脂の種類・量、発泡剤の種類などによって異なるが、通常、水100重量部に対して、分散剤0.1〜3重量部、分散助剤0.0001〜0.1重量部であることが好ましい。
【0041】
また、上記樹脂粒子の水中での分散性を良好なものにするために、通常、水100重量部に対して樹脂粒子20〜100重量部使用するのが好ましい。
【0042】
この様にして密閉容器内に調整されたポリプロピレン系樹脂粒子の水系分散物は、攪拌下、所定の発泡温度まで昇温され、一定時間、通常5〜180分間、好ましくは10〜60分間保持されるとともに、密閉容器内の圧力は上昇し、発泡剤が樹脂粒子に含浸される。この後、所定の発泡圧力になるまで発泡剤が追加供給され、一定時間、通常5〜180分間、好ましくは10〜60分間保持される。かくして、発泡温度、発泡圧力で保持されたポリプロピレン系樹脂粒子の水系分散物を、密閉容器下部に設けられたバルブを開放して低圧雰囲気下(通常は大気圧下)に放出することによりポリプロピレン系樹脂発泡粒子を製造することができる。
【0043】
樹脂粒子の水系分散物を低圧雰囲気に放出する際、流量調整、倍率バラツキ低減などの目的で2〜10mmφの開口オリフィスを通して放出することもできる。また、発泡倍率を高くする目的で、上記低圧雰囲気を飽和水蒸気で満たす場合もある。
【0044】
発泡温度は、用いるポリプロピレン系樹脂の融点[Tm(℃)]、発泡剤の種類等により異なり、一概には規定できないが、概ねTm−30(℃)〜Tm+10(℃)の範囲から決定される。また、発泡圧力は、用いるポリプロピレン系樹脂の種類、発泡剤の種類、所望の発泡粒子の発泡倍率によって異なり、一概には規定できないが、概ね1〜8MPa(ゲージ圧)の範囲から決定される。
【0045】
前記DSC曲線から算出される発泡粒子のβ/(α+β)の値は、発泡温度の調整により、調整することができる。発泡温度を高くするとβ/(α+β)は低くなり、発泡温度を低くするとβ/(α+β)は高くなる関係にある。但し、脂肪族炭化水素を発泡剤として用いた場合、可塑化効果によりポリプロピレン系樹脂の融点降下が生じるため、β/(α+β)の値は、発泡剤含浸量つまり発泡圧力の影響を受ける。よって、β/(α+β)の値は、発泡温度および発泡圧力を調整することにより、調整される。発泡圧力を高くするとβ/(α+β)は低くなり、発泡圧力を低くするとβ/(α+β)は高くなる関係にある。
【0046】
上記のようにして得たポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、従来から知られている成形方法により、空隙率が好ましくは25%以上50%以下のポリプロピレン系樹脂発泡成形体にすることができる。例えば、イ)発泡粒子を無機ガスで加圧処理して発泡粒子内に無機ガスを含浸させ所定の発泡粒子内圧を付与した後、金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法、ロ)特に前処理することなく発泡粒子を金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法、などの方法が利用し得る。
【0047】
上記の成形方法の中でも、発泡粒子を無機ガスで加圧処理して発泡粒子内に無機ガスを含浸させ所定の発泡粒子内圧を付与した後、金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法がより好ましく、該発泡粒子内圧を絶対圧力で0.12MPa以上0.18MPa以下とするのが更に好ましい。発泡粒子内圧を0.12MPa以上0.18MPa以下とすることにより、成形体の空隙率コントロールがより容易となり、空隙率25%以上50%以下の発泡成形体をより安定的に製造することができる。
【0048】
上記無機ガスとしては、空気、窒素、酸素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、炭酸ガスなどが使用できる。これらは単独で用いても、2種以上混合使用してもよい。これらの中でも、汎用性の高い空気、窒素が好ましい。
【0049】
本発明では、成形の際に発泡粒子を水蒸気により加熱、融着させる。この際の水蒸気温度が低すぎると融着が不十分となり、発泡成形体としての形状を保持できない。逆に、水蒸気温度が高すぎると発泡成形体の空隙率が低くなり、吸音性能が悪化する傾向にある。発泡粒子間の融着性と空隙率を両立させるには、基材樹脂として用いたポリプロピレン系樹脂の融点をTm(℃)としたとき、温度がTm−25(℃)〜Tm(℃)の水蒸気で成形することが好ましく、更には温度がTm−20(℃)〜Tm−5(℃)の水蒸気で成形することがより好ましい。
【0050】
次に、図1に本発明の下肢保護構造が適用されて構成された実施の形態に係る車両床構造を示す。本実施の形態に係る床構造は、乗員室における運転席側の床部を構成しており、板状のフロアパネル1を備えている。勿論、助手席側も同様の構成とすることが好ましい。フロアパネル1は前側(エンジンルーム側)に傾斜部であるダッシュパネル2を有しており、傾斜部は前斜め上方へ延伸されている。ダッシュパネル2の前方には一般的にはエンジンルーム3が配置されている。運転席側であれば、ダッシュパネル2の上方にはブレーキペダル及びアクセルペダル(図示省略)が配置される。
【0051】
フロアパネル1の上方、すなわちダッシュパネル2とその後方の水平部との境界部付において、下肢保護のための下肢部保護材4が配置される。下肢部保護材4の形状は略四角辺の板状にされ、前側部位がダッシュパネル2の上方に、後側部が水平部に配置される。その上方部に通気性を有するシート(吸音性のカーペット5)あるいは下肢部保護材側に通気性を有さないシートと乗員室側にフェルトなどの吸音素材とで略一体化されたシート(遮音性のカーペット5)が積層される。最終的に乗員者の足裏部(踵部)はこのカーペット5上部に配置されることになる。また、下肢部保護材4とダッシュパネル2との擦れ音を防止するために、下肢部保護材の車体側に繊維状の素材6を一体化しても良く、この場合は下肢部保護材4をコア材として、相対する二つの面に吸音カーペットあるいは遮音カーペットと、フェルトあるいは繊維質状の素材が積層されることになる。
【0052】
下肢部保護材4と吸音カーペット5との構成とすることで、エンジンルームからの透過音を本願発明の吸音性能を有する下肢部保護材4で吸収すると共に、乗員室側に入った雑音も、先ずカーペット5で吸音され、続いてカーペット5を透過した音を下肢部保護材4で吸収することができる。このように吸音性能を有する下肢部保護材4と吸音カーペット5を併用配置することにより、乗員室への入出する音を吸収できるためにNV性能の低下を防止できる。また、遮音カーペットとの構成とした場合には、エンジン室からの透過音を本願発明の下肢部保護材4が吸収、減衰させることになる。減衰した透過音は遮音カーペットにより容易に遮音できるため、このような構成とした場合にもNV性能の低下を効果的に防止できる。
【0053】
図2、図3に本発明が側突材に適用された実施の形態に係る車輌フロントサイドドア7構造を示す。本実施形態に係るフロントサイドドア7構造は、ドアアウタパネル8とドアインナパネル9とからなる閉断面形状のサイドドア10が設けられ、サイドドア本体7の乗員室側にはドアトリム11が設けられている。ドアトリム11には上側の衝撃吸収材12と下側の衝撃吸収材13とが搭乗者の胸部と腰部に対応させて乗員室側に突出状に設けられ、ドアインナパネル9とドアトリム11間において、上側突出部12と下側突出部13内部に本発明の側突パッド14が配置される。このような配置とすることで、ドアパネル間を伝わるロードノイズあるいはエンジン室からのNVを効果的に吸収することができ、車内を静粛に保持することが可能となる。
【0054】
本発明が自動車のフロントピラー15内部の衝撃吸収材16に適用された実施の形態について説明する。図4、図5に示すように、フロントピラー15にはピラーアウターパネル17とピラーインナパネル18とかならなる閉断面状のピラー本体19が設けられ、ピラー本体19の乗員室側にはピラートリム20が設けられている。ピラーインナパネル18とピラートリム120間には衝撃エネルギー吸収材16が設けられている。この衝撃エネルギー吸収材16に本願発明を適用することで、車外あるいはエンジンルームから侵入してくるNVを吸収し、車内を静粛に保持することができる。また、ここではフロントピラー15に適用したが、センターピラー21、リアピラー22に対しても同様に本発明を適用できる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例にてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
先ず、本願発明のポリプロピレン製の予備発泡粒子を作製するために、基材樹脂として、MI:4.5g/10分、融点:144℃、エチレン含量:2.8%、ブテン含量:1.3%を用い、セル造核剤としてタルク300ppmを添加して押出機内で溶融混練した後、円形ダイよりストランド状に押出し、水冷後、カッターで切断し、一粒の重量が1.8mg/粒、該円柱形状で、L/Dが6.3である樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子100重量部(65kg)、水200重量部、塩基性第三リン酸カルシウム0.5重量部、アルキルスルフォン酸ソーダ0.01重量部を容量0.35m3の耐圧オートクレーブ中に仕込み、攪拌下、発泡剤としてイソブタンを16部添加した後、オートクレーブ内容物を135℃の発泡温度まで加熱した。その後、イソブタンを追加圧入して2.2MPaの発泡圧力まで昇圧し、該発泡温度、発泡圧力で30分間保持した後、オートクレーブ下部のバルブを開き、4.4mmφの開口オリフィスを通して、オートクレーブ内容物を大気圧下に放出して発泡粒子を得た。得られた発泡粒子は、L/D:2.2、セル径:103μm、β/(α+β):0.60、嵩密度:30kg/m3であった。ここで得られたポリプロピレン系予備発泡粒子に空気加圧処理により空気を予備発泡粒子内に圧入し、最終的には予備発泡粒子内圧力は絶対圧力で0.14MPaであった。
【0057】
次に成形に関し説明する。金型は0.9×0.9×0.05mのブロック形状のものを用いた。まず、クラッキングを0.005mに設定し、金型を僅かに開いた状態で予備発泡粒子を金型内に充填した。加熱は排気工程5秒(固定、移動のドレン弁を開いた状態)で行い、一方加熱10秒、逆一方加熱5秒、両面加熱20秒(蒸気圧力0.18MPa)で加熱工程を完了し、予冷5秒(ドレン弁を閉じた状態で冷却)、水冷30秒を行った後、製品を離型した。続いて、大気放置での放冷を1時間行った後、75℃の乾燥室に24時間放置、乾燥室から取り出して常温化での3時間放冷を経て、以下の空隙率、空気流れ抵抗、吸音率、あるいは静的圧縮特性の性能評価を行った。乾燥後の発泡体密度は34kg/m3であった。
【0058】
それぞれの測定方法について以下に記す。
(空隙率)
得られた概寸法0.9×0.9×0.05mの発泡成形体から0.02×0.02×0.040mの直方体試料を、表面スキン層を含まないように切り出し、外形寸法より見掛け体積V1(m3)を求めた。更に、直方体試料を一定量のエタノールを入れたメスシリンダー中に浸漬し、その時の増加容積V2(m3)を測定し、次式により求めた。
【0059】
【数3】

(流れ抵抗)
ISO 9053に準拠し流れ抵抗の測定を行った。流速v(m/s)、0.0005m/sを供給した時に、試料前後の圧力差△P(N/m2)より、試料の所定厚さにおける流れ抵抗R(N・s/m3)は式1により算出される。特に、ここでの流れ抵抗の定義は、試料厚みが0.02mとした時のものとした。
(垂直入射式吸音測定)
JIS A1405に準拠し、試料厚み0.03mで500〜6400Hzでの垂直入射吸音率を測定した。試料は得られた発泡体より、表面スキン層を有する面が音波入射面となるように、厚み0.03mで切り出した。測定は、音波を反射する剛体壁と試料が密着した状態、つまり背後空気が無い状態でおこなった。測定には小野測器社製の垂直入射吸音率測定装置SR−4100を用いた。
(残響室による吸音測定)
残響室による測定は、JIS A1409に従い、9m3の残響室(日東紡音響エンジニアリング製)にて行った。試料は発泡体0.9×0.9×0.05mを0.7×0.7×0.03mにスライス加工した。残響室内での試料の設置は、試料の側面からの音の侵入を防止するために金属製の治具を周囲に取り付け、スキン面を上側(吸音面)に、スライス面を下側(床面)となるように設置し、周波数500〜5000Hzの範囲で測定した。また、通気性を有する繊維質との組合せの吸音測定は、スキン面を上側にした試料の上側に通気性を有する繊維質を積層した状態での吸音測定を行った。
(静的圧縮試験)
ここで本発明における静的圧縮応力の測定は、NDSZ0504に準拠して、温度23℃、湿度65%の恒温恒湿室にて、試料寸法0.1×0.1×0.025mを用い、圧縮スピード0.01m/分で圧縮測定を行った
(実施例2)
実施例1とまったく同様の操作にてポリプロピレン系樹脂発泡体を成形、吸音測定用の試料0.7×0.7×0.03mを作成した。この発泡成形品の上部に吸音特性を有する樹脂カーペットを積層し、残響室での吸音測定を行った。
(比較例1)
セル造核剤としてタルク100ppmを添加した以外は実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。成形に用いた発泡粒子は、L/Dが1.0、セル径が220μm、β/(α+β)が0.26のポリプロピレン系予備発泡粒子であった。ここで得られたポリプロピレン系予備発泡粒子に空気加圧処理により空気を予備発泡粒子内に圧入し、絶対圧力で0.2MPaとした。実施例と同じ金型を用いて成形した結果、該発泡粒子は従来から一般的に用いられている発泡粒子の特性を有しており、発泡粒子間に空隙のない発泡成形体が得られた。成形条件は、クラッキングを5mmに設定し金型が僅かに開いた状態で原料を充填した。加熱は排気工程5秒(固定、移動のドレン弁を開いた状態)で行い、一方加熱10秒、逆一方加熱5秒、両面加熱20秒(蒸気圧力0.32MPa)で加熱工程を完了し、予冷10秒(ドレン弁を閉じた状態で冷却)、水冷180秒を行った後、製品を離型した。これ以降の乾燥工程は実施例1と同様の操作を行うとともに、同様の物性測定を行った。乾燥後の発泡体密度は30kg/m3であった。
【0060】
本発明の実施例並びに比較例の性能について説明する。
【0061】
実施例1の試料の空隙率は28%、厚み0.02mの空気流れ抵抗値は12000N・s/m3であった。比較例1の試料は空隙率0%で、通気性がないため空気流れ抵抗の測定は行えなかった。
【0062】
先ず、吸音特性の比較を行った。実施例並びに比較例の垂直入射式測定による吸音曲線の比較(図7)では、実施例1は適切な空隙率及び空気流れ抵抗を有したため、最高吸音率0.97(周波数1650Hz)の良好な吸音曲線を示すのに対し、比較例1では連通した空隙がないため測定前周波数域で最高吸音率0.1以下であり、吸音性能を示さなかった。残響室測定方法による吸音測定結果からも、垂直入射式測定と同様傾向を示す結果が得られている(図8)。
【0063】
さらに、実車の状態に近づけるために、図9の吸音性能を有する樹脂カーペットと本発明品を積層した状態での残響室吸音測定を行った。この結果(図10)、本願発明の吸音性能に樹脂カーペットを積層することで、単体での吸音性能の和の吸音性能が発現し、格段に吸音性能が向上した。特に、本発明に樹脂カーペットが有する高周波数域の吸音特性が加わり、幅広い周波数域での吸音性能が得られている。このように、本発明は単体であっても良好な吸音性能を示すことは勿論、フェルトを含む繊維状のシートと併用することで、より吸音性能を高めることが可能となる。
【0064】
次に、静的圧縮特性について説明する。図11に実施例1と比較例1の歪み−圧縮応力曲線を示す。図11の10%歪み時の圧縮応力を発泡体密度に対してプロットしたものが図12であり、50%歪み時の圧縮応力を示したものが図13である。実施例1は密度34kg/m3、比較例1は密度30kg/m3の一例に過ぎないが、図12と図13ではさらに広い範囲の密度での測定を行い、比較を行った。図12から明らかなように10%歪み時の比較では、比較例1に対し実施例1の圧縮応力は60%程度となっており、低歪み領域では緩やかな荷重増加曲線となることがわかる。これは、低歪み領域では空隙を有する発泡体の空隙部分が主に圧縮されるために、比較例1(空隙を有さない)と比べ荷重値が低い値を示す。一方、50%歪み域部分では既に空隙部分はなくなり、発泡樹脂部分の圧縮が起きているために、実施例1と比較例1の差が小さくなる傾向にある(図13)。本発明の50%歪荷重に対する10%歪み荷重の比は、実施例で0.37、比較例1で0.6であった。
【0065】
このような特性を有する本発明は、乗員を保護するための衝撃吸収材に用いることが可能である。特に、乗員の下肢部の保護や側突時の衝突エネルギー吸収を行うに際し、極度の荷重値(反力値)を上昇させることなく衝突エネルギーを吸収することができるため、車内の乗員保護部材として好適である。
【0066】
以上、説明したように本願発明を適用することで、簡便で且つ経済的な製造方法にて吸音性能を有する発泡成形体を提供することが可能となる。さらに、本願発明を衝突時の衝撃エネルギー吸収材と吸音材の両方が必要とされる下肢部保護材、あるいは側突パッド、ピラー内部の衝撃吸収材に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動車用の下肢部保護構造図
【図2】本発明の実施の形態に係る自動車用のフロントドアの概略図
【図3】本発明の実施の形態に係る自動車用のフロントドアのA−A断面図
【図4】本発明の実施の形態に係る自動車用のピラーの概略図
【図5】本発明の実施の形態に係る自動車用のピラーのB−B断面図
【図6】本発明におけるL/Dの定義図
【図7】垂直入射式測定による吸音データ
【図8】残響室による吸音測定データ
【図9】樹脂カーペットの吸音データ(残響室測定)
【図10】樹脂カーペットと本発明を積層した場合の吸音データ(残響室測定)
【図11】本発明の静的圧縮特性(歪み−圧縮応力曲線)
【図12】静的圧縮測定での歪10%の圧縮応力
【図13】静的圧縮測定での歪50%の圧縮応力
【符号の説明】
【0068】
1 フロアパネル
2 ダッシュパネル
3 エンジンルーム
4 下肢部保護材
5 カーペット
6 繊維状素材
7 フロントサイドドア
8 ドアアウタパネル
9 ドアインナパネル
10 サイドドア
11 ドアトリム
12 上側の衝撃吸収材
13 下側の衝撃吸収材
14 側突パッド
15 フロントピラー
16 衝撃吸収材
17 ピラーアウターパネル
18 ピラーインナパネル
19 ピラー本体
20 ピラートリム
21 センターピラー
22 リアピラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み0.02mとしたときの空気流れ抵抗値が3000N・s/m3より大きく50000N・s/m3以下であり、ひずみ率50%時の静的圧縮応力に対するひずみ率10%時の静的圧縮応力との比が0.3以上0.5以下であるポリオレフィン系樹脂発泡体からなる自動車用内装材。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂発泡体が、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子を金型内に充填し、水蒸気により加熱して該発泡粒子を発泡、融着した後、冷却工程を経て得られる発泡体であって、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子の平均L/Dが2以上3以下の柱状であり、セル径が30μm以上150μm以下、且つ示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、低温側ピークの融解熱量α(J/g)、高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたときのβ/(α+β)が0.35以上0.75以下であるポリオレフィン系樹脂発泡粒子からなり、得られた発泡体の空隙率が25%以上50%以下である請求項1に記載の自動車用内装材。
【請求項3】
前記自動車用内装材が、下肢部保護材であることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用内装材。
【請求項4】
前記自動車用内装材が、ピラー内に配置される頭部保護材であることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用内装材。
【請求項5】
前記自動車用内装材が、側突パッドであることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用内装材。
【請求項6】
前記ポリオレフィン系樹脂発泡体の乗員室側表面を、通気性を有するシートで覆ったことを特徴とする請求項1〜5何れか一項に記載の自動車用内装材。
【請求項7】
前記ポリオレフィン系樹脂発泡体の乗員室側の表面を、通気性のないシートで覆ったことを特徴とする請求項1〜5何れか一項に記載の自動車用内装材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−45979(P2007−45979A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233617(P2005−233617)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】