説明

自動車用樹脂シート

【課題】転写箔へのヘアライン加工が容易であり、エンボス加工性が良好で、真空成形後の表面光沢度の上昇率が小さく、耐摩耗性、耐傷付き性、三次元成形性に優れたメタリック調の自動車用樹脂シートを提供する。
【解決手段】上層(ア)として、上側に保護転写層として(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔を有する(B)透明熱可塑性ウレタンエラストマー層、中間層(イ)として、上層(ア)と接する面に印刷層を有する(C)非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂層又は(D)ポリ塩化ビニル系樹脂層、下層(ウ)として、(E)不透明熱可塑性樹脂層が積層されてなることを特徴とする自動車用樹脂シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用樹脂シートに関する。さらに詳しくは、本発明は、転写箔へのヘアライン加工が容易であり、エンボス加工性が良好で、真空成形後の表面光沢度の上昇率が小さく、耐摩耗性、耐傷付き性、三次元成形性に優れたメタリック調の自動車用樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のコンソールボックスの蓋、パワーウィンドウのスイッチボックスなどに、ヘアラインを有するメタリック調の材料が用いられている。このような材料としては、従来は、ヘアライン加工を施したアルミニウム箔、合成樹脂のメッキ品などが使用されていたが、工程の簡略化とコストダウンを目指して、ヘアライン模様を有するメタリック調の化粧シートの開発が進められている。
例えば、最終製品でのポリエステルフィルムの金属蒸着層での剥がれがなく、成形加工性を損なうことなく、優れた耐指紋性、耐傷付き性、ヘアライン意匠性を有する化粧フィルムとして、ポリエステルフィルムの片面にヘアライン加工が施され、該ヘアライン加工面に金属蒸着層が設けられ、その金属蒸着面に熱可塑性樹脂フィルムが設けられているヘアラインを有する金属調化粧フィルムが提案されている(特許文献1)。しかし、この化粧フィルムは、真空成形などの三次元成形を行った際に、金属蒸着面に割れが生じやすく
、三次元成形性に劣るという問題がある。
また、樹脂製品の表面に所望の金属調加飾を施すとともに、転写箔表面の耐摩耗性、耐腐食性、耐候性を向上させた車両用樹脂製金属調加飾部品の製造方法として、樹脂材料により成形される車両用樹脂製金属調加飾部品の樹脂層の表面に、下面にヘアライン加工が施されたベースフィルム上にハードコート層、着色層、アンカー層、金属調を表現するための金属蒸着層、アンカー層、接着層が順次形成された転写箔をインモールド成形により樹脂層の表面に図柄を転写絵付けし、インモールド成形後にベースフィルムを剥離して成形品の表面を金属ヘアライン調に仕上げる方法が提案されている(特許文献2)。しかし、この製造方法は、転写箔を作製するために必要な工程が長く、しかも金属蒸着工程を有するので、経済的に実施することは困難である。
本発明者らは、先に、厚さ0.05〜1mmの透明アクリル樹脂を上地とし、厚さ0.05〜1mmの不透明熱可塑性樹脂を下地として積層してなる自動車用樹脂シートにおいて、樹脂シートの表面にマット転写箔層を有し、さらにエンボス加工されてなる自動車用樹脂シートは、高級感と深み感のある艶消し性を有し、真空成形、インサート成形などの後加工によってもその艶消し性が失われないことを見いだしたが、この構成を応用して、樹脂シートの表面の熱可塑性ウレタンエラストマー層にマット転写箔を積層し、さらにヘアラインエンボス加工を施した自動車用樹脂シートは、真空成形に際して表面光沢度の上昇率が大きく、十分満足し得るものではない。
【特許文献1】特開2005−169740号公報
【特許文献2】特開平11−321478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、転写箔へのヘアライン加工が容易であり、エンボス加工性が良好で、真空成形後の表面光沢度の上昇率が小さく、耐摩耗性、耐傷付き性、三次元成形性に優れたメタリック調の自動車用樹脂シートを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上層として、上側に保護転写層としてヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔を有する透明熱可塑性ウレタンエラストマー層、中間層として、メタリック印刷を施した非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂層又はポリ塩化ビニル系樹脂層、下層として、不透明熱可塑性樹脂層が積層されてなる樹脂シートは、転写箔へのヘアライン加工が容易であり、優れたメタリック感を有し、エンボス加工性が良好で、真空成形後の表面光沢度の上昇率が小さく、耐摩耗性、耐傷付き性、三次元成形性にも優れることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)上層(ア)として、上側に保護転写層として(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔を有する(B)透明熱可塑性ウレタンエラストマー層、中間層(イ)として、上層(ア)と接する面に印刷層を有する(C)非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂層又は(D)ポリ塩化ビニル系樹脂層、下層(ウ)として、(E)不透明熱可塑性樹脂層が積層されてなることを特徴とする自動車用樹脂シート、
(2)(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔が、ヘアラインイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔である(1)記載の自動車用樹脂シート、
(3)(C)非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂が、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、グリコール成分がエチレングリコール60〜90モル%とシクロヘキサンジメタノール10〜40モル%であるシクロヘキサンジメタノール共重合非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂である(1)記載の自動車用樹脂シート、
(4)(E)不透明熱可塑性樹脂が、ABS樹脂である(1)記載の自動車用樹脂シート、
(5)印刷層が、メタリック印刷層である(1)記載の自動車用樹脂シート、
(6)印刷層が、ヘアライン印刷層である(1)又は(5)記載の自動車用樹脂シート、及び、
(7)(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔と(B)透明熱可塑性ウレタンエラストマーとが、押出ラミネートされてなる(1)記載の自動車用樹脂シート、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の自動車用樹脂シートにおいて、保護転写層として用いるヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔は、ヘアライン加工が容易であり、美麗なヘアラインを透明熱可塑性ウレタンエラストマー層に転写することができる。本発明においては、中間層の印刷層をメタリック印刷層とすることにより、金属蒸着のような複雑な工程を経由することなく、容易にメタリック感の豊かな自動車用樹脂シートを得ることができる。本発明の自動車用樹脂シートは、エンボス加工性が良好であり、真空成形による光沢度の上昇が少なく、耐摩耗性と耐傷付き性がともに良好であり、三次元成形性にも優れている。本発明の自動車用樹脂シートは、自動車のコンソールボックスの蓋、パワーウィンドウのスイッチボックスなどのメタリック調の部品の原材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の自動車用樹脂シートは、上層(ア)として、上側に保護転写層として(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔を有する(B)透明熱可塑性ウレタンエラストマー層、中間層(イ)として、上層(ア)と接する面に印刷層を有する(C)非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂層又は(D)ポリ塩化ビニル系樹脂層、下層(ウ)として、(E)不透明熱可塑性樹脂層が積層されてなる樹脂シートである。
本発明において、(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔を形成するポリエチレンテレフタレート系フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系フィルム、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート系フィルム、ネオペンチルグリコール共重合ポリエチレンテレフタレート系フィルムなどを挙げることができる。これらの中で、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系フィルムは、エンボス加工において、エンボスロールの模様を正確に転写することができ、かつ三次元成形性が良好なので好適に用いることができる。
本発明において、ポリエチレンテレフタレート系フィルムにヘアライン加工を施す方法に特に制限はなく、例えば、ヘアライン加工機を用い、不織布に砥粒を付着させたヘアライン用研磨材や金属ブラシなどにより、フィルム面にヘアライン模様を形成することができる。本発明において、ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔の厚さに特に制限はないが、10〜100μmであることが好ましく、15〜75μmであることがより好ましい。フィルム転写箔の厚さが10μm未満であると、フィルムの剛性が小さいために、ヘアラインの密度や深さにばらつきが生じ、安定したヘアライン加工が困難となるおそれがある。フィルム転写箔の厚さが100μmを超えると、フィルムの剛性が大きくなりすぎて、三次元成形性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明に用いる透明熱可塑性ウレタンエラストマーに特に制限はなく、ジイソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどを挙げることができる。これらの中で、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートをジイソシアネート成分とする透明熱可塑性ウレタンエラストマーは、黄変しにくいので好適に用いることができ、ヘキサメチレンジイソシアネートをジイソシアネート成分とする透明熱可塑性ウレタンエラストマーを特に好適に用いることができる。
本発明に用いる透明熱可塑性ウレタンエラストマーのポリオール成分としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオールなどを挙げることができる。これらの中で、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールをポリオール成分とする透明熱可塑性ウレタンエラストマーは、耐湿性と耐候性が良好なので、好適に用いることができる。
【0008】
本発明において、(B)透明熱可塑性ウレタンエラストマー層の厚さは、50〜250μmであることが好ましく、75〜175μmであることがより好ましい。透明熱可塑性ウレタンエラストマー層の厚さが50μm未満であると、自動車用樹脂シートの耐摩耗性が不足するおそれがある。透明熱可塑性ウレタンエラストマー層の厚さは250μm以下で自動車用樹脂シートとして十分な性能を有し、通常は厚さ250μmを超える透明熱可塑性ウレタンエラストマー層は必要ではない。
本発明においては、(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔と(B)透明熱可塑性ウレタンエラストマーとが、押出ラミネートにより積層されてなることが好ましい。ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔と透明熱可塑性ウレタンエラストマーとの押出ラミネートは、ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔のヘアライン加工面に、加熱により溶融した熱可塑性ウレタンエラストマーをTダイなどから押し出して積層することにより行うことができる。溶融した粘度の低い状態の熱可塑性ウレタンエラストマーを押出ラミネートすることにより、ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔のヘアライン模様を透明熱可塑性ウレタンエラストマーに正確に転写することができる。
【0009】
本発明の自動車用樹脂シートは、中間層(イ)として、上層(ア)と接する面に印刷層を有する(C)非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂層又は(D)ポリ塩化ビニル系樹脂層を有する。本発明において、中間層として用いる非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂としては、例えば、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、グリコール成分がエチレングリコール60〜90モル%とシクロヘキサンジメタノール10〜40モル%であるシクロヘキサンジメタノール共重合非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、グリコール成分がエチレングリコール60〜90モル%とネオペンチルグリコール10〜40モル%であるネオペンチルグリコール共重合非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ジカルボン酸成分がテレフタル酸60〜98モル%とイソフタル酸2〜40モル%であり、グリコール成分がエチレングリコールであるイソフタル酸共重合非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂などを挙げることができる。これらの中で、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、グリコール成分がエチレングリコール60〜90モル%とシクロヘキサンジメタノール10〜40モル%であるシクロヘキサンジメタノール共重合非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂を好適に用いることができる。
本発明において、中間層として用いるポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体などを挙げることができる。ポリ塩化ビニル系樹脂には、必要に応じて、フタル酸エステル系可塑剤、直鎖二塩基酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エポキシ化植物油系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などの可塑剤、鉛塩系安定剤、金属せっけん系安定剤、有機すず系安定剤などの安定剤、高級脂肪酸又はその誘導体、ワックス類などの滑剤、紫外線吸収剤などを配合することができる。
本発明において、中間層(イ)の厚さは、30〜200μmであることが好ましく、50〜150μmであることがより好ましい。中間層の厚さが30μm未満であると、機械的強度が低下し、印刷時の加工適性が低下するおそれがある。中間層の厚さが200μmを超えると、印刷時の加工適性が低下し、さらに経済性が損なわれるおそれがある。
【0010】
本発明の自動車用樹脂シートは、中間層(イ)が上層(ア)と接する面に印刷層を有する。印刷層は、上層に設けることも可能であるが、(B)透明熱可塑性ウレタンエラストマー層よりも、(C)非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂層又は(D)ポリ塩化ビニル系樹脂層の方が印刷適性が良好なので、中間層に印刷層を設けることが好ましい。本発明において印刷方法に特に制限はなく、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などを挙げることができる。これらの中で、グラビア印刷を好適に用いることができる。
本発明においては、印刷層がメタリック印刷層であることが好ましい。印刷層をメタリック印刷層とすることにより、自動車用樹脂シートにメタリック感の豊かな高度な意匠性を与えることができる。メタリック印刷層を形成するためのメタリックインクとしては、例えば、アクリル樹脂、スチレン化アルキッド、メラミン樹脂などのクリヤーワニス、エナメルなどに、リーフィングしない金属粉顔料を配合したインクなどを挙げることができる。金属粉顔料としては、例えば、アルミニウムフレーク、ブロンズ粉、二酸化チタン被覆マイカなどを挙げることができる。メタリック印刷層を設ける工程は、金属蒸着工程に比べて設備が簡単であり、短時間に大量のフィルムを印刷することができるので、経済的に自動車用樹脂シートを製造することができる。
本発明において、印刷層の模様に特に制限はなく、例えば、ヘアライン模様、微細木目調模様、抽象模様、幾何学的模様などを挙げることができる。これらの中で、ヘアライン模様を特に好適に用いることができる。印刷層をヘアライン印刷層とすることにより、上層に転写されたヘアライン模様と、印刷層のヘアライン模様が相乗的に作用しあって、自動車用樹脂シートに優れたメタリック感を与えることができる。
【0011】
本発明の自動車用樹脂シートにおいて、下層(ウ)の(E)不透明熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ABS樹脂、アクリル樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などを挙げることができる。ABS樹脂、耐衝撃性ポリスチレン樹脂などの樹脂そのものが不透明である熱可塑性樹脂は、そのままで又はさらに顔料、充填剤などを配合して不透明熱可塑性樹脂として使用することができる。ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などの樹脂そのものが透明である熱可塑性樹脂は、顔料、充填剤などの配合により不透明化して不透明熱可塑性樹脂として使用することができる。これらの中で、ABS樹脂は、強靭で寸法安定性に優れ、成形加工性が良好なので、好適に用いることができる。下層として用いるABS樹脂としては、例えば、スチレンとアクリロニトリルの共重合体とポリブタジエンとの混合物、ポリブタジエンにスチレンとアクリロニトリルとをグラフト重合した樹脂、スチレンとアクリロニトリルの共重合体とポリブタジエンにスチレンとアクリロニトリルとをグラフト重合した樹脂との混合物、スチレンとアクリロニトリルの共重合体とブタジエンとアクリロニトリルの共重合体との混合物などを挙げることができる。
本発明の自動車用樹脂シートは、加熱ヒーターで軟化させ、シート表面温度が150℃に到達後、真空成形したときの60度鏡面光沢度の上昇率が40%未満であることが好ましく、25%未満であることがより好ましい。60度鏡面光沢度は、JIS K 7105 5.2にしたがって測定することができる。真空成形したときの60度鏡面光沢度の上昇率が40%以上であると、自動車用樹脂シートの真空成形により自動車部品を製造したとき、自動車部品の外観にむらを生ずるおそれがある。
【0012】
図1は、本発明の自動車用樹脂シートの製造方法の一態様の工程系統図である。第一原材料ロ−ル1から、保護転写層として(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔を有する(B)透明熱可塑性ウレタンエラストマー層からなる上層(ア)フィルムが、ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔が加熱ドラムに接するように巻き出され、予熱ロール2により予熱されたのち、プレスロール3により、加熱ドラム4に圧着される。第二原材料ロール5から、印刷層を有する(C)非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂層からなる中間層(イ)フィルムが、印刷層が上層フィルムと接するように巻き出され、予熱ロール6で予熱されたのち、プレスロール7により、加熱ドラム上の上層フィルムに重ねて圧着される。第三原材料ロール8から、(C)不透明熱可塑性樹脂層からなる下層(ウ)フィルムが巻き出され、予熱ロール9で予熱されたのち、プレスロール10により、加熱ドラム上で上層フィルムに積層された中間層フィルムに重ねて圧着される。加熱ドラムの表面温度は、120〜160℃であることが好ましく、130〜150℃であることがより好ましい。
加熱ドラム上で積層された上層フィルム、中間層フィルム及び下層フィルムの3層からなる積層シートは、次いでエンボスロール11とゴム圧ロール12の対からなるロールに掛けられ、エンボス加工される。エンボスロールの表面温度は、120〜140℃であることが好ましく、125〜135℃であることがより好ましい。エンボス加工された積層シートは、ガイドロール13を経由して冷却ロール14で冷却されたのち、製品の自動車用樹脂シートとして巻き取りロール(図示しない。)に巻き取られる。ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔は、製品の自動車用樹脂シートとともに巻き取ることができ、あるいは、製品の自動車樹脂シートを巻き取る前に除去することもできる。
図2は、本発明の自動車用樹脂シートの一態様の模式的断面図である。本態様の自動車用樹脂シートは、上層フィルム15、中間層フィルム16及び下層フィルム17が熱ラミネートにより積層されている。本態様の自動車用樹脂シートは、表面側から順に(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔18、(B)透明熱可塑性ウレタンエラストマー層19、印刷層20、(C)非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂層21、(E)不透明熱可塑性樹脂層22が積層された構成である。
【実施例】
【0013】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、評価は、ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔などを取り外したのち、下記の方法により行った。
(1)エンボス加工性
加熱ドラム温度が140℃のダブリング装置と冷却ドラムの中間に、温度130℃の金属製彫刻ロールと半硬質ゴムで被覆した圧ロールからなるエンボス機を設置し、エンボス加工を行い、エンボス加工によって得られた自動車用樹脂シートについて、表面性を目視により観察し、下記の基準により判定する。
○:良好
△:やや不良
×:不良
(2)真空成形による光沢度上昇率
自動車用樹脂シートから30cm×30cmの試験片を切り出し、JIS K 7105 5.2にしたがって、成形前の60度鏡面光沢度を測定する。次いで、試験片を150℃に加熱し、真空成形により、半径12.5cmの円形部分に、半径50cmの球面を形成する。半径12.5cmの円形部分の中心1点と、該中心を中心とする半径8cmの円周を8等分する8点の計9点において、同様にして成形後の60度鏡面光沢度を測定し、平均値を求める。成形後の60度鏡面光沢度の平均値から成形前の60度鏡面光沢度を減じた値を成形前の60度鏡面光沢値で除して、真空成形による光沢度上昇率を算出する。
○:光沢度上昇率25%未満
△:光沢度上昇率25%以上40%未満
×:光沢度上昇率40%以上
(3)耐摩耗性
JIS K 7204にしたがい、H18摩耗輪を用い、総荷重9.8Nで2,000回転したのちの質量の減少を測定する。
○:質量減少1,200mg未満
△:質量減少1,200mg以上2,000mg未満
×:質量減少2,000mg以上
(4)耐傷付き性
JIS L 0849にしたがい、荷重2Nで、JIS L 0803に規定する3号(綿)を用いて往復200回の学振試験を行い、表面状態を目視により観察し、下記の基準により判定する。
○:変化がまったく認められない。
△:変化はわずかであるが、明らかに認められる。
×:変化が著しい。
(5)三次元成形性
自動車用樹脂シートの下面に剥離紙と粘着剤層の積層体を貼り付け、剥離紙を剥ぎ取って粘着剤層を形成する。端面が曲面である図3に示す形状の厚さ50mmの試験板23のコーナー部に、自動車用樹脂シート24をドライヤーで加熱しながら延伸して施工する。施工後の仕上がりについて、目視により下記の基準にもとづいて判定する。
○:クラックも変色も認められない。
△:わずかにクラックあるいは変色が認められる。
×:クラックと変色が著しい。
(6)メタリック感−目視による評価
10人のパネラーが自動車用樹脂シートを目視により観察し、下記の3段階で評価し、10人の評価点の平均値を求める。
3点:金属材料と変わらないメタリック感を有する。
2点:金属材料に近いメタリック感を有する。
1点:一目でプラスチック製品であることが分かる。
○:平均2.4点以上
△:平均1.9点以上2.4点未満
×:平均1.9点未満
(7)メタリック感−触感による評価
10人のパネラーが自動車用樹脂シートに手で触れ、下記の3段階で評価し、10人の評価点の平均値を求める。
3点:金属材料と変わらない又は非常に近い触感を有する。
2点:金属材料に似通った触感を有する。
1点:金属材料の触感が感じられない。
○:平均2.4点以上
△:平均1.9点以上2.4点未満
×:平均1.9点未満
【0014】
また、自動車用樹脂シートに用いた樹脂材料を以下に示す。
(1)TPU(1):無黄変エーテル系透明熱可塑性ウレタンエラストマー、ディーアイシーバイエルポリマー(株)、テキシン(登録商標)DP7−3041、ショアD硬度55。
(2)TPU(2):エーテル系透明熱可塑性ウレタンエラストマー、ディーアイシーバイエルポリマー(株)、パンデックス(登録商標)T−8195、ショアA硬度95。
(3)TPU(3):エーテル系透明熱可塑性ウレタンエラストマー、ディーアイシーバイエルポリマー(株)、パンデックス(登録商標)T−8160D、ショアD硬度60。
(4)アイオノマー:金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸共重合体、三井デュポンポリケミカル(株)、ハイミラン(登録商標)1601、ショアD硬度59。
(5)TPEE:熱可塑性ポリエステルエラストマー、東洋紡績(株)、ペルプレン(登録商標)P55B、ショアA硬度94。
(6)PETG:シクロヘキサンジメタノール共重合非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂、イーストマン・ケミカル社、PETG6763。
(7)PVC:塩化ビニル樹脂フィルム、リケンテクノス(株)、S12027、FC24671。
(8)ABS:ABS樹脂フィルム、リケンテクノス(株)、SST087、FZ91834。
(9)IPA共重合PET:イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム、帝人デュポンフィルム(株)、テフレックス(登録商標)FT3、厚さ25μm又は50μm。
(10)PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、帝人デュポンフィルム(株)、テイジンテトロン(登録商標)フィルム、厚さ25μm。
(11)CPP:無延伸ポリプロピレンフィルム、リケンテクノス(株)、TPP092、XZ025(ポリプロピレン80質量%と水添SBR20質量%の混合樹脂をTダイを用いて製膜したフィルム)、厚さ70μm。
(12)マット転写箔:尾池工業(株)、CL−E130(ポリエチレンテレフタレートフィルムマット転写箔上に剥離コート層、樹脂コート層及びホットメルト層から形成されたフィルム)、厚さ12μm。
【0015】
実施例1
イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム[帝人デュポンフィルム(株)、テフレックス(登録商標)FT3、厚さ25μm]に、ブラッシング方式によるヘアライン表面処理加工を施した。フィルム面に、美麗なヘアラインを容易に形成することができた。
このヘアライン加工フィルムに無黄変エーテル系透明熱可塑性ウレタンエラストマー[ディーアイシーバイエルポリマー(株)、テキシン(登録商標)DP7−3041、ショアD硬度55]を厚さ100μmに押出ラミネートして、上層フィルムを作製した。
シクロヘキサンジメタノール共重合非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂[イーストマン・ケミカル社、PETG6763]にグレー系顔料を添加した材料のカレンダー加工により、厚さ100μmの着色フィルム[リケンテクノス(株)、SET470、FZ25871]を製膜し、表面にメタリック調インキ[大日本インキ化学工業(株)、ファインラップ(登録商標)スーパーメタリック シルバー]を用いて、グラビア印刷によりヘアライン模様を印刷し、中間層フィルムを作製した。
ABS樹脂のカレンダー加工により、厚さ150μmのABS樹脂フィルム[リケンテクノス(株)、SST087、FZ91834]を製膜し、下層フィルムを作製した。
図1に示す装置の第一原材料ロールに、上層フィルムを、ヘアライン加工フィルムが加熱ドラムと接するように取り付け、第二原材料ロールに中間層フィルムを印刷面が上層フィルムと接するように取り付け、第三原材料ロールに下層フィルムを取り付けた。各原材料ロールから、上層フィルム、中間層フィルム及び下層フィルムを4m/分の速度で巻き出し、予熱ロールで予熱したのち、プレスロールにより表面温度140℃の加熱ドラムに圧着して積層し、表面温度130℃の鏡面エンボスロールによりエンボス加工を施し、ガイドロールを経由して冷却ロールで冷却し、自動車用樹脂シートとして巻き取った。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、良好であった。60度鏡面光沢度は、真空成形前42%、真空成形後の平均値48%であり、上昇率は14.3%であった。耐摩耗性試験において、質量減少は962mgであった。耐傷付き性試験において、変化がまったく認められなかった。三次元成形性試験において、クラックも変色も認められなかった。メタリック感の評価において、目視平均2.6点、触感平均2.7点であった。
実施例2
上層フィルムに、エーテル系透明熱可塑性ウレタンエラストマー[ディーアイシーバイエルポリマー(株)、パンデックス(登録商標)T−8195、ショアA硬度95]を用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、良好であった。60度鏡面光沢度は、真空成形前42%、真空成形後の平均値50%であり、上昇率は19.0%であった。耐摩耗性試験において、質量減少は385mgであった。耐傷付き性試験において、変化はわずかであるが、明らかに認められた。三次元成形性試験において、クラックも変色も認められなかった。メタリック感の評価において、目視平均2.5点、触感平均2.4点であった。
実施例3
上層フィルムに、エーテル系透明熱可塑性ウレタンエラストマー[ディーアイシーバイエルポリマー(株)、パンデックス(登録商標)T−8160D、ショアD硬度60]を用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、良好であった。60度鏡面光沢度は、真空成形前42%、真空成形後の平均値48%であり、上昇率は14.3%であった。耐摩耗性試験において、質量減少は1,630mgであった。耐傷付き性試験において、変化がまったく認められなかった。三次元成形性試験において、クラックも変色も認められなかった。メタリック感の評価において、目視平均2.5点、触感平均2.5点であった。
【0016】
実施例4
イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム[帝人デュポンフィルム(株)、テフレックス(登録商標)FT3、厚さ50μm]に、実施例1と同様にして、ヘアライン加工を施した。フィルム面に、美麗なヘアラインを容易に形成することができた。このヘアライン加工フィルムに無黄変エーテル系透明熱可塑性ウレタンエラストマー[ディーアイシーバイエルポリマー(株)、テキシン(登録商標)DP7−3041、ショアD硬度55]を厚さ120μmに押出ラミネートして、上層フィルムを作製した。
塩化ビニル樹脂のカレンダー加工により、厚さ80μmの塩化ビニル樹脂フィルム[リケンテクノス(株)、S12027、FC24671]を製膜し、表面にメタリック調インキ[大日本インキ化学工業(株)、ファインラップ(登録商標)スーパーメタリック シルバー]を用いて、グラビア印刷によりヘアライン模様を印刷し、中間層フィルムを作製した。
ABS樹脂のカレンダー加工により、厚さ150μmのABS樹脂フィルム[リケンテクノス(株)、SST087、FZ91834]を製膜し、下層フィルムを作製した。
図1に示す装置を用い、実施例1と同様にして、上層フィルム、中間層フィルム及び下層フィルムを積層して、自動車用樹脂シートを作製した。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、良好であった。60度鏡面光沢度は、真空成形前42%、真空成形後の平均値48%であり、上昇率は14.3%であった。耐摩耗性試験において、質量減少は958mgであった。耐傷付き性試験において、変化がまったく認められなかった。三次元成形性試験において、クラックも変色も認められなかった。メタリック感の評価において、目視平均2.6点、触感平均2.7点であった。
実施例5
シクロヘキサンジメタノール共重合非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂[イーストマン・ケミカル社、PETG6763]のカレンダー加工により、厚さ180μmのPETG樹脂フィルム[リケンテクノス(株)、SET470、FZ25871]を製膜し、下層フィルムとして用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、良好であった。60度鏡面光沢度は、真空成形前43%、真空成形後の平均値49%であり、上昇率は14.0%であった。耐摩耗性試験において、質量減少は960mgであった。耐傷付き性試験において、変化がまったく認められなかった。三次元成形性試験において、クラックも変色も認められなかった。メタリック感の評価において、目視平均2.6点、触感平均2.7点であった。
実施例6
ポリエチレンテレフタレートフィルム[帝人デュポンフィルム(株)、テイジンテトロン(登録商標)フィルム、厚さ25μm]に、実施例1と同様にして、ヘアライン加工を施した。フィルム面に、美麗なヘアラインを容易に形成することができた。
このヘアライン加工フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、ポリエチレンテレフタレートフィルムの加熱ドラムへの密着性が不十分で、外観性に劣り、やや不良であった。60度鏡面光沢度は、真空成形前42%、真空成形後の平均値57%であり、上昇率は35.7%であった。耐摩耗性試験において、質量減少は953mgであった。耐傷付き性試験において、変化がまったく認められなかった。三次元成形性試験において、わずかにクラックが認められた。メタリック感の評価において、目視平均2.4点、触感平均2.7点であった。
【0017】
比較例1
無延伸ポリプロピレンフィルム[リケンテクノス(株)、TPP092、XZ025、厚さ70μm]に、ブラッシング方式によるヘアライン表面処理加工を施した。無延伸ポリプロピレンフィルムは軟らかいために削れず、フィルム面に美麗なヘアラインを形成することができなかった。
このヘアライン加工フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、良好であった。耐摩耗性試験において、質量減少は958mgであった。耐傷付き性試験において、変化がまったく認められなかった。メタリック感の評価において、目視平均1.6点、触感平均1.7点であった。真空成形と三次元成形性の評価は、行わなかった。
比較例2
ポリエチレンテレフタレートフィルムマット転写箔[尾池工業(株)、CL−E130]に無黄変エーテル系透明熱可塑性ウレタンエラストマー[ディーアイシーバイエルポリマー(株)、テキシン(登録商標)DP7−3041、ショアD硬度55]を厚さ100μmに押出ラミネートして、上層フィルムを作製した。
この上層フィルムを用い、表面温度130℃のヘアライン模様のエンボスロールによりエンボス加工を施した以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、ポリエチレンテレフタレートフィルムマット転写箔の加熱ドラムへの密着性が不十分で、外観性に劣り、やや不良であった。60度鏡面光沢度は、真空成形前30%、真空成形後の平均値45%であり、上昇率は50.0%であった。耐摩耗性試験において、質量減少は923mgであった。耐傷付き性試験において、変化がまったく認められなかった。三次元成形性試験において、クラックも変色も認められなかった。メタリック感の評価において、目視平均1.7点、触感平均2.3点であった。
比較例3
ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にヘアライン加工が施され、該ヘアライン加工面に金属(アルミニウム)蒸着層を設け、さらに加工面にホットメルトタイプ接着層を設けて、上層フィルムを作製した。
この上層フィルムを用い、印刷層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、ポリエチレンテレフタレートフィルムの加熱ドラムへの密着性が不十分で、外観性に劣り、やや不良であった。得られた自動車用樹脂シートは、耐摩耗性試験において、質量減少は1,100mgであった。耐傷付き性試験において、変化がまったく認められなかった。三次元成形性試験において、クラックと変色が著しかった。メタリック感の評価において、目視平均2.1点、触感平均2.0点であった。真空成形は、行わなかった。
【0018】
比較例4
塩化ビニル樹脂のカレンダー加工により、厚さ100μmの塩化ビニル樹脂フィルム[リケンテクノス(株)、S12027、FC24617]を製膜し、中間層フィルムを作製した。
比較例3で作製した上層フィルムと、上記の中間層フィルムを用い、印刷層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、ポリエチレンテレフタレートフィルムの加熱ドラムへの密着性が不十分で、外観性に劣り、やや不良であった。得られた自動車用樹脂シートは、耐摩耗性試験において、質量減少は1,110mgであった。耐傷付き性試験において、変化がまったく認められなかった。三次元成形性試験において、クラックと変色が著しかった。メタリック感の評価において、目視平均2.1点、触感平均2.0点であった。真空成形は、行わなかった。
比較例5
無黄変エーテル系透明熱可塑性ウレタンエラストマーの代わりに、金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸共重合体[三井デュポンポリケミカル(株)、ハイミラン(登録商標) 1601、ショアD硬度59]を用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、良好であった。60度鏡面光沢度は、真空成形前42%、真空成形後の平均値49%であり、上昇率は16.7%であった。耐摩耗性試験において、質量減少は1,500mgであった。耐傷付き性試験において、著しい傷がついた。三次元成形性試験において、クラックも変色も認められなかった。メタリック感の評価において、目視平均2.5点、触感平均2.5点であった。
比較例6
無黄変エーテル系透明熱可塑性ウレタンエラストマーの代わりに、熱可塑性ポリエステルエラストマー[東洋紡績(株)、ペルプレン(登録商標)P55B、ショアA硬度94]を用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
得られた自動車用樹脂シートのエンボス加工の表面性は、良好であった。60度鏡面光沢度は、真空成形前42%、真空成形後の平均値50%であり、上昇率は19.0%であった。耐摩耗性試験において、質量減少は1,750mgであった。耐傷付き性試験において、著しい傷がついた。三次元成形性試験において、クラックも変色も認められなかった。メタリック感の評価において、目視平均2.5点、触感平均2.4点であった。
実施例1〜6の結果を第1表に、比較例1〜6の結果を第2表に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
実施例1〜5において用いたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系フィルムは、ヘアライン加工が容易であり、フィルム面に美麗なヘアラインを形成することができる。このヘアライン加工フィルムに、透明熱可塑性ウレタンエラストマーを押出ラミネートすると、ヘアライン模様が、透明熱可塑性ウレタンエラストマー層に転写される。第1表に見られるように、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔と透明熱可塑性ウレタンエラストマーからなる上層フィルムを用いた実施例1〜5の自動車用樹脂シートは、エンボス加工性が良好であり、真空成形による光沢度の上昇が少なく、三次元成形性も良好である。ショアD硬度55のやや硬めの透明熱可塑性ウレタンエラストマーを用いた実施例1、実施例4〜6の自動車用樹脂シートは、耐摩耗性と耐傷付き性がともに良好であり、ざらつき感がよく出てメタリック感にも優れている。ショアA硬度95の軟らかい透明熱可塑性ウレタンエラストマーを用いた実施例2の自動車用樹脂シートは、耐傷付き性がやや劣り、触感検査のとき指に引っかかる感じで、金属の触感とは異なる。ショアD硬度60の硬い透明熱可塑性ウレタンエラストマーを用いた実施例3の自動車用樹脂シートは、耐摩耗性がやや劣る。ヘアライン加工フィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた実施例6の自動車用樹脂シートは、エンボス加工性がやや劣り、真空成形による光沢度の上昇がやや大きく、三次元成形性もやや劣る。
ヘアライン加工フィルムとして無延伸ポリプロピレンフィルムを用いた比較例1では、フィルムが軟らかすぎて削れず、フィルム面に美麗なヘアラインを形成することができない。マット転写箔に透明熱可塑性ウレタンエラストマーを押出ラミネートして上層フィルムとし、加熱ドラムに圧着して積層後、ヘアライン模様のエンボスロールによりエンボス加工を施した比較例2の自動車用樹脂シートは、真空成形のときにシボが流れてしまい、光沢度の上昇が大きい。上層フィルムとしてヘアライン加工したポリエチレンテレフタレートフィルムにアルミニウムを蒸着したフィルムを用いた比較例3〜4の自動車用樹脂シートは、三次元成形の際にアルミニウム膜の破損によるクラックが発生し、三次元成形性が不良であり、成形品にレインボー(虹彩)による色調変化が現れる。上層フィルムとして、ヘアラインイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔に、金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸メチル共重合体又は熱可塑性ポリエステルエラストマーを押出ラミネートした比較例5〜6の自動車用樹脂シートは、いずれも耐傷付き性が不良である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の自動車用樹脂シートにおいて、保護転写層として用いるヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔は、ヘアライン加工が容易であり、美麗なヘアラインを透明熱可塑性ウレタンエラストマー層に転写することができる。本発明においては、中間層の印刷層をメタリック印刷層とすることにより、金属蒸着のような複雑な工程を経由することなく、容易にメタリック感の豊かな自動車用樹脂シートを得ることができる。本発明の自動車用樹脂シートは、エンボス加工性が良好であり、真空成形による光沢度の上昇が少なく、耐摩耗性と耐傷付き性がともに良好であり、三次元成形性にも優れている。本発明の自動車用樹脂シートは、自動車のコンソールボックスの蓋、パワーウィンドウのスイッチボックスなどのメタリック調の部品の原材料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の自動車用樹脂シートの製造方法の一態様の工程系統図である。
【図2】本発明の自動車用樹脂シートの一態様の模式的断面図である。
【図3】三次元成形性の評価方法の説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 第一原材料ロ−ル
2 予熱ロール
3 プレスロール
4 加熱ドラム
5 第二原材料ロール
6 予熱ロール
7 プレスロール
8 第三原材料ロール
9 予熱ロール
10 プレスロール
11 エンボスロール
12 ゴム圧ロール
13 ガイドロール
14 冷却ロール
15 上層フィルム
16 中間層フィルム
17 下層フィルム
18 (A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔
19 (B)透明熱可塑性ウレタンエラストマー層
20 印刷層
21 (C)非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂層
22 (E)不透明熱可塑性樹脂層
23 試験板
24 自動車用樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層(ア)として、上側に保護転写層として(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔を有する(B)透明熱可塑性ウレタンエラストマー層、中間層(イ)として、上層(ア)と接する面に印刷層を有する(C)非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂層又は(D)ポリ塩化ビニル系樹脂層、下層(ウ)として、(E)不透明熱可塑性樹脂層が積層されてなることを特徴とする自動車用樹脂シート。
【請求項2】
(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔が、ヘアラインイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔である請求項1記載の自動車用樹脂シート。
【請求項3】
(C)非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂が、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、グリコール成分がエチレングリコール60〜90モル%とシクロヘキサンジメタノール10〜40モル%であるシクロヘキサンジメタノール共重合非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂である請求項1記載の自動車用樹脂シート。
【請求項4】
(E)不透明熱可塑性樹脂が、ABS樹脂である請求項1記載の自動車用樹脂シート。
【請求項5】
印刷層が、メタリック印刷層である請求項1記載の自動車用樹脂シート。
【請求項6】
印刷層が、ヘアライン印刷層である請求項1又は請求項5記載の自動車用樹脂シート。
【請求項7】
(A)ヘアラインポリエチレンテレフタレート系フィルム転写箔と(B)透明熱可塑性ウレタンエラストマーとが、押出ラミネートされてなる請求項1記載の自動車用樹脂シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−307945(P2007−307945A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136616(P2006−136616)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】