説明

自己修復機能を備えた鉄筋コンクリート構造物

【課題】耐久性を向上させることができるとともに、メンテナンス間隔を広げることができて、メンテナンス費用の低減化を図ることができる鉄筋コンクリート構造物を提供すること。
【解決手段】主筋13および配力筋14を備えた鉄筋と、この鉄筋を包含するように打設されたコンクリート15とを具備してなる鉄筋コンクリート構造物であって、その内部に、空気に触れると次第に固化する接着剤が封入された管材16が、前記主筋13および/または前記配力筋14に沿って、複数本配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己修復機能を備えた鉄筋コンクリート構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁または高架道路等において路面を構成(形成)する鉄筋コンクリート構造物としては、鋼・コンクリート合成床版なるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−180420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
鋼・コンクリート合成床版は、鋼製のデッキプレート(鋼床版)の上に、鉄筋コンクリート構造物が配置されたものであり、鉄筋コンクリート構造物を構成するコンクリートには、ひび割れが生じることがある。そして、このひび割れを生じた部分に雨水等が入り込むと、このひび割れが生じた部分におけるコンクリート同士が噛み合わなくなり(コンクリート同士の噛み合いが弱くなり)、鉄筋(主筋および配力筋)に加わる荷重が大きくなって、鉄筋コンクリート構造物の耐久性が低下してしまうおそれがあった。
【0004】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、耐久性を向上させることができるとともに、メンテナンス間隔を広げることができて、メンテナンス費用の低減化を図ることができる鉄筋コンクリート構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明による鉄筋コンクリート構造物は、主筋および配力筋を備えた鉄筋と、この鉄筋を包含するように打設されたコンクリートとを具備してなる鉄筋コンクリート構造物であって、その内部に、空気に触れると次第に固化する接着剤が封入された管材が、前記主筋および/または前記配力筋に沿って、複数本配置されている。
このような鉄筋コンクリート構造物によれば、コンクリートにひび割れが生じると、そのひび割れの近傍に配置された管材が損傷して(管材が割れて、あるいは管材にひびが入って)、管材の内部に封入された接着剤が管材の外部に流れ出てきて、そのひび割れを生じた部分に充填されていくこととなる。そして、そのひび割れを生じた部分を埋めつくした(に充填された)接着剤は、空気(または酸素)に触れて徐々に固化していき、そのひび割れを生じた部分が自動的に修復されることとなる。
これにより、鉄筋コンクリート構造物の耐久性を向上させることができるとともに、鉄筋コンクリート構造物のメンテナンス間隔を広げることができて、メンテナンス費用の低減化を図ることができる。
【0006】
上記の鉄筋コンクリート構造物において、前記管材が、前記主筋および/または前記配力筋よりも下方に取り付けられているとさらに好適である。
このような鉄筋コンクリート構造物によれば、コンクリートを打設する前の骨組みの状態(鉄筋(主筋および配力筋)がむき出しの状態)において、管材に損傷を与えることなく、作業者が鉄筋(主筋および/または配力筋)の上を歩いて移動することができる。
【0007】
本発明による鉄筋コンクリート構造物は、主筋および配力筋を備えた鉄筋と、この鉄筋を包含するように打設されたコンクリートとを具備してなる鉄筋コンクリート構造物であって、前記コンクリートの上側表面に、水に触れると水に溶けて流動性を有し、その後、乾燥すると次第に固化する材料が塗布されている。
このような鉄筋コンクリート構造物によれば、コンクリートにひび割れが生じて、そこへ雨や雪等が降ってくると、コンクリートの上側表面に塗られた材料が溶け、そのひび割れを生じた部分に流れ込んで、材料がそのひび割れを生じた部分に充填されていくこととなる。そして、そのひび割れを生じた部分を埋めつくした(に充填された)材料は、水分が抜けて乾燥していくと徐々に固化していき、そのひび割れを生じた部分が自動的に修復されることとなる。
これにより、鉄筋コンクリート構造物の耐久性を向上させることができるとともに、鉄筋コンクリート構造物のメンテナンス間隔を広げることができて、メンテナンス費用の低減化を図ることができる。
【0008】
本発明による鋼・コンクリート合成床版は、上記いずれかの鉄筋コンクリート構造物が、鋼製のデッキプレートの上に配置されている。
このような鋼・コンクリート合成床版によれば、デッキプレートによりコンクリートの下側表面が覆われる(塞がれる)ようになっているので、例えば、図5に示すように、仮にコンクリートに生じたひび割れがデッキプレートの上側表面まで達してしまったような場合でも、接着剤または材料がそのひび割れを生じた部分から出ていってしまうことがなく、そのひび割れを生じた部分に確実に充填されていくこととなる。
これにより、コンクリートのひび割れを生じた部分を確実に修復することができる。
【0009】
本発明による橋梁は、上記の鋼・コンクリート合成床版を具備している。
このような橋梁によれば、耐久性の向上化が図られた鋼・コンクリート合成床版を具備しているので、橋梁のメンテナンス間隔を広げることができて、メンテナンス費用の低減化を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐久性を向上させることができるとともに、メンテナンス間隔を広げることができて、メンテナンス費用の低減化を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の第1実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物を備えた鋼・コンクリート合成床版について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態による鉄筋コンクリート構造物を備えた鋼・コンクリート合成床版10は、例えば、橋梁(または高架道路等)1に適用されるものである。図1において左右方向が橋梁1の幅方向(路面の幅員方向)、上下方向が橋梁1の軸方向であり、この橋梁1の幅は、例えば、10m程度である。
また、この橋梁1は、図示しない主桁の上に多数の鋼・コンクリート合成床版10を接合してなる床版を備えており、各鋼・コンクリート合成床版10の表面には、図示しないアスファルト舗装部が設けられている。そして、このアスファルト舗装部の上を車両が走行することとなる。
【0012】
図2および図3に示すように、鋼・コンクリート合成床版10は、鋼製のデッキプレート(鋼床版)11と、デッキプレート11の表面にコンクリートのずれ止め部材として突設された多数の鋼製のスタッド12と、デッキプレート11の上方に配設された鉄筋(主筋13および配力筋14)と、デッキプレート11の上に打設されたコンクリート15と、その内部に接着剤が圧入された管材16とを有してなるオープンサンドイッチ構造のものである。
【0013】
鋼・コンクリート合成床版10は、その1枚のパネル幅(橋梁1の幅方向の長さ)が、例えば、10m程度であり、1枚のパネル長さ(橋梁1の軸方向の長さ)が、例えば、2m程度のものである。なお、鋼・コンクリート合成床版10としては、橋梁1の軸方向だけでなく、橋梁1の幅方向にも分割される場合もある。
【0014】
管材16は、例えば、直径10mm、長さ300mmの中空のガラス管と、その一端部を閉塞する栓部材と、その他端部を閉塞するゴムスポイド(圧力供給用のゴム風船)とを備えており、ガラス管の内部およびゴムスポイドの内部には、接着剤(空気(あるいは酸素)に触れると次第に固化する接着剤(例えば、一液性のエポキシ樹脂))が封入されている。そして、この接着剤には、ゴムスポイドが収縮しようとする力を利用して、若干の圧力(例えば、0.01MPa程度の圧力)がかけられるようになっている。
【0015】
図4に示すように、管材16は、配力筋14に沿うとともに、互いに所定距離離間するように配置されている。すなわち、上方(あるいは下方)から見ると、管材16は、千鳥状に配置されていることになる。
また、図2および図3に示すように、各管材16は、配力筋14の略真下に(配力筋14とデッキプレート11との間に)配置されている。そして、各管材16は、図示しない取付部材(例えば、針金等)を介して、配力筋14から吊り下げられるようにして配力筋14に取り付けられている。
なお、図4において上下方向に延びる3本の波線は、補修が必要となるひび割れを示している。
【0016】
図5は、図4に示すひび割れの縦断面図であり、図5中の符号wはひび割れの幅を、符号tはコンクリート15の厚みを示している。
さて、管材16の内部に充填される接着剤の容量V(mm)は、例えば、w(mm)×t(mm)×1000(mm)×1.2に設定されている。
なお、wの値としては一般的に0.2が使用されている。これは、ひび割れの幅wが0.2mm以下のものについては、一般的に補修が不要とされているからである。また、式中の1.2という値は安全率のようなものであり、ひび割れの幅wが0.2mmよりも大きかった場合に備えて、予め少し多めに接着剤を充填しておくための値である。
【0017】
本実施形態による鉄筋コンクリート構造物を備えた鋼・コンクリート合成床版10によれば、コンクリート15にひび割れ(例えば、補修が必要とされる幅wが0.2mmよりも大きいひび割れ)が生じると、そのひび割れの近傍に配置された管材16のガラス管が損傷して(ガラス管が割れて、あるいはガラス管にひびが入って)、管材16の内部に圧入された接着剤が管材16の外部に押し出されて(飛び出してきて)、そのひび割れを生じた部分に充填されていくこととなる。そして、そのひび割れを生じた部分を埋めつくした(に充填された)接着剤は、空気(または酸素)に触れて徐々に固化していき、そのひび割れを生じた部分が自動的に修復されることとなる。
これにより、鋼・コンクリート合成床版10の耐久性を向上させることができるとともに、鋼・コンクリート合成床版10のメンテナンス間隔を広げることができて、メンテナンス費用の低減化を図ることができる。
【0018】
また、デッキプレート11によりコンクリート15の下側表面(図2、図3、および図5において下側の端面)が覆われる(塞がれる)ようになっているので、例えば、図5に示すように、仮にコンクリート15に生じたひび割れがデッキプレート11の上側表面まで達してしまった場合でも、接着剤がそのひび割れを生じた部分から出ていってしまうことがなく、そのひび割れを生じた部分に確実に充填されていくこととなる。
これにより、コンクリート15のひび割れを生じた部分を確実に修復することができる。
【0019】
さらに、管材16は配力筋14の略真下にくるよう、配力筋14から吊り下げられるようにして配置されているので、コンクリート15を打設する前の骨組みの状態(鉄筋(主筋13および配力筋14)がむき出しの状態)において、管材16に損傷を与えることなく、作業者が鉄筋(主筋13および配力筋14)の上を歩いて移動することができる。
【0020】
本発明の第2実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物を備えた鋼・コンクリート合成床版について、図6を用いて説明する。
本実施形態による鉄筋コンクリート構造物を備えた鋼・コンクリート合成床版20は、管材16の代わりに、コンクリート15の上側表面(図6において上側の端面)全体に、水に触れると水に溶けて流動性を有し、その後、乾燥すると次第に固化する材料(例えば、プラスター(石膏))21が塗布されているという点で前述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については前述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、各鋼・コンクリート合成床版20の表面には、図示しないアスファルト舗装部が設けられており、このアスファルト舗装部の上を車両が走行することとなる。
【0021】
本実施形態による鉄筋コンクリート構造物を備えた鋼・コンクリート合成床版20によれば、コンクリート15にひび割れが生じて、そこへ雨や雪等が降ってくると、コンクリート15の上側表面に塗られた材料21が溶け、そのひび割れを生じた部分に流れ込んで、材料21がそのひび割れを生じた部分に充填されていくこととなる。そして、そのひび割れを生じた部分を埋めつくした(に充填された)材料21は、水分が抜けて乾燥していくと徐々に固化していき、そのひび割れを生じた部分が自動的に修復されることとなる。
これにより、鋼・コンクリート合成床版20の耐久性を向上させることができるとともに、鋼・コンクリート合成床版20のメンテナンス間隔を広げることができて、メンテナンス費用の低減化を図ることができる。
【0022】
また、デッキプレート11によりコンクリート15の下側表面(図6において下側の端面)が覆われる(塞がれる)ようになっているので、例えば、図5に示すように、仮にコンクリート15に生じたひび割れがデッキプレート11の上側表面まで達してしまった場合でも、材料21がそのひび割れを生じた部分から出ていってしまうことがなく、そのひび割れを生じた部分に確実に充填されていくこととなる。
これにより、コンクリート15のひび割れを生じた部分を確実に修復することができる。
【0023】
なお、上述した実施形態では、橋梁(または高架道路等)に適用した例を具体例として挙げて説明したが、本発明はこれらに限定して適用されるものではなく、それ以外にも浮き桟橋やメガフロート(Mega Float:超大型浮体式構造物)、あるいは鉄筋コンクリート製建築物等にも適用することができ、特に、これら構造物の天板部や天井部等、管材16の内部に圧入された接着剤やコンクリート15の上側表面に塗られた材料21が、ひび割れを生じた部分に自然に流れ込んでいくことができる箇所(部位)に適用されているとさらに好適である。
【0024】
また、上述した実施形態では説明しなかったが、第1実施形態のところで説明したコンクリート15の上側表面全体、あるいは第2実施形態のところで説明した材料21の上側表面全体に、防水工(防水層あるいは防水膜)を設ける(施す)ようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鋼・コンクリート合成床版を備えた橋梁の概略平面図である。
【図2】図1のII−II矢視断面図である。
【図3】図1のIII−III矢視断面図である。
【図4】図1と同様の図であって、鉄筋および管材の配置がわかるように描いた橋梁の概略平面図である。
【図5】図4に示すひび割れの縦断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る鋼・コンクリート合成床版の概略全体斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
1 橋梁
10 鋼・コンクリート合成床版
11 デッキプレート
13 主筋
14 配力筋
15 コンクリート
16 管材
20 鋼・コンクリート合成床版
21 材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主筋および配力筋を備えた鉄筋と、この鉄筋を包含するように打設されたコンクリートとを具備してなる鉄筋コンクリート構造物であって、
その内部に、空気に触れると次第に固化する接着剤が封入された管材が、前記主筋および/または前記配力筋に沿って、複数本配置されていることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物。
【請求項2】
前記管材が、前記主筋および/または前記配力筋よりも下方に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項3】
主筋および配力筋を備えた鉄筋と、この鉄筋を包含するように打設されたコンクリートとを具備してなる鉄筋コンクリート構造物であって、
前記コンクリートの上側表面に、水に触れると水に溶けて流動性を有し、その後、乾燥すると次第に固化する材料が塗布されていることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の鉄筋コンクリート構造物が、鋼製のデッキプレートの上に配置されていることを特徴とする鋼・コンクリート合成床版。
【請求項5】
請求項4に記載の鋼・コンクリート合成床版を具備してなることを特徴とする橋梁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−277947(P2007−277947A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106151(P2006−106151)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】