説明

自己変位検出型カンチレバーおよび走査型プローブ顕微鏡

【課題】光を照射しながら走査型プローブ顕微鏡の測定を同時に行うことが可能で変位検出部の機能を損なうことなしに機能性の被膜を容易に行うことができ、光、電気、磁気などの物性を高精度で容易に測定可能となる自己変位検出型カンチレバー及び走査型プローブ顕微鏡を提供する。
【解決手段】先端に探針2を有し末端に基端部3を有するカンチレバー4と、カンチレバー4に設けられカンチレバー4の変位を検出するための変位検出部5と、変位検出部5に接続され基端部3に連通する電極部6からなる自己変位検出型カンチレバー1において、カンチレバー4上の電極部6と変位検出部5に絶縁膜7を設け、絶縁膜7上に任意の機能性材料8を被膜した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に探針を有するカンチレバーを試料に近接又は接触させてサンプルの表面形状の測定や表面の物性の分析を行う走査型プローブ顕微鏡用の自己変位検出型カンチレバーおよびそれを備えた走査型プローブ顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属、半導体、セラミック、樹脂、高分子、生体材料、絶縁物等のサンプルを微小領域にて測定し、サンプル表面の形状や電気、磁気、光、機械的特性などの物性情報の測定を行う装置として、走査型プローブ顕微鏡が知られている。
【0003】
これら走査型プローブ顕微鏡では、先端に探針を有するカンチレバーをサンプル表面に近接または接触させて、3軸微動機構によりサンプルと探針をサンプル面内(XY方向)で相対的に走査し、この走査中にカンチレバーの変位量を変位検出機構により測定しながら、サンプルまたは探針をサンプル表面と直交する方向(Z方向)に動作させて、サンプルと探針の距離制御を行うことにより、表面形状や各種物性情報を測定するようになっている。
【0004】
ここで、カンチレバーの変位検出機構は、カンチレバー背面にレーザを照射し、カンチレバーからの反射光をフォトディテクタで検出し、フォトディテクタ上のスポット位置により変位量の検出を行う「光てこ方式」と呼ばれる変位検出機構が一般に使用されている。しかしながら、光てこ方式による変位検出機構では、測定前にレーザ光をカンチレバー背面に照射し、カンチレバーからの反射光をフォトディテクタの検出面内に入射させるための光軸合わせが必要で、これらの作業には非常に手間がかかっていた。また、走査型プローブ顕微鏡ではサンプル上方や下方に光学顕微鏡を配置し光学顕微鏡によりサンプルと探針を同時に観察し、光学顕微鏡像によりサンプルの被測定箇所を探針先端に位置合わせを行うことが一般に行われているが、光学顕微鏡の対物レンズとサンプルやカンチレバーの間に光てこ方式の変位検出機構が介在するために、作動距離が短く、開口数の大きい対物レンズを使用することができず解像度の高い光学顕微鏡観察が不可能であった。
【0005】
また、サンプル表面の光学特性を走査型プローブ顕微鏡により測定する走査型近接場顕微鏡の場合にも、光源からの光を集光しサンプル表面にエバネッセント場を励起したり、探針先端とサンプルとの相互作用により発生した光を集光する目的で対物レンズが使用されるが、これらの対物レンズも変位検出機構が介在するために、開口数の大きいものが使用できず励起光率や集光効率が悪くなったり、光てこの光が、光学特性の検出光に混ざってしまうため、ノイズの増加や分解能が低下し正確な測定ができない場合があった。
【0006】
以上のような光てこ方式による課題を解決するために、カンチレバーに自己の変位を検出するための変位検出部を設けた自己変位検出型カンチレバーが実用化されている。
【0007】
ここで、特許文献1を参照し、従来の自己変位検出型カンチレバーの構造を説明する。
【0008】
従来の自己変位検出型カンチレバーは図9に示すように、基端部116から延出した二本のビーム112aと112bによりカンチレバー部112が構成される。この二本のビーム112aと112bは先端で一体化して三角形状の自由端を形作り、この自由端には先端が鋭く尖った探針114が設けられている。カンチレバー部112は、シリコン層120とピエゾ抵抗層122と絶縁層124とが積層され形成されている。このうちピエゾ抵抗層は変位検出部として作用しカンチレバー部を構成するシリコン層の表面にボロンを打ち込むことにより形成される。また、絶縁層は酸化シリコンを堆積することにより形成される。さらに、カンチレバー部112の基端部では、ピエゾ抵抗層122に電気的に接続された電極118がコンタクトホール126を介して設けられている。
【0009】
このように構成された自己変位検出型カンチレバーは、電極118を介して、外部に設置された変位測定回路に接続される。変位測定回路は、電圧印加回路と電流検出回路とを含み、所定の直流電圧をピエゾ抵抗層に印加する。このとき流れる電流は変位測定回路140の内部の電流検出回路で常に測定されている。カンチレバー部に変位が生じると、この変位に伴ってピエゾ抵抗層122の抵抗率が変化するため、ピエゾ抵抗層122を流れる電流が変化する。従って、変位測定回路の内部の電流検出回路で測定される電流値の変化を検出することにより、カンチレバー部112の変位が測定される。
【0010】
なお、自己変位検出型カンチレバーには絶縁層が設けられていなタイプものもある。
【特許文献1】特開平5−248810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の自己変位検出型カンチレバーには以下に述べるような課題があった。
【0012】
すなわち、カンチレバー部が半導体で構成されているため、カンチレバー部に光が照射された場合には、光電流が発生し、電流検出回路にカンチレバー部の変位とは無関係の電流が流れてしまい、変位検出回路が光ノイズにより誤動作を起こしたり、測定データのノイズ成分が増加してしまうことがあった。
【0013】
そのため、カンチレバーに光を照射しながら同時に走査型プローブ顕微鏡の測定を行うことが不可能であり、光照射と走査型プローブ顕微鏡の測定を交互に行う必要があった。
【0014】
このためサンプルを探針に近接させたままの状態で光学顕微鏡の観察を行うことができず光学顕微鏡像による被測定箇所の位置決め精度が悪化していた、
また、探針とサンプルを近接させたままの状態で励起光を照射する必要がある走査型近接場顕微鏡の場合には、励起光により光ノイズが発生してしまい、距離制御が不可能であった。
【0015】
また、走査型プローブ顕微鏡により電気特性や磁気特性の測定を行う場合や、サンプル表面に発生させた近接場を探針先端で散乱させて光学測定を測定する場合には、探針先端を含むカンチレバー部に導電性や磁性あるいは光増強効果を有する機能性被膜を行う必要がある。これらの機能性被膜は一般に金属などの導電性を有する場合が多いため、カンチレバーの変位検出部や電極部に直接被膜した場合には電極部やピエゾ抵抗体がショートしてしまい変位検出部が動作しない場合があった。このため、電極部やピエゾ抵抗体部を保護しながら機能性被膜を行う必要があり成膜工程が複雑で製造時間とコストがかかってしまっていた。
【0016】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、光を照射しながら同時に走査型プローブ顕微鏡の測定を行うことが可能で、変位検出部やそれに連通する電極部がカンチレバーに設けられた場合でも、機能性の被膜を容易に成膜することができる自己変位検出型カンチレバーを提供するとともに、この自己変位検出型カンチレバーを使用して光、電気、磁気などの物性を高精度で容易に測定可能な走査型プローブ顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明の自己変位検出型カンチレバーは、先端に探針を有し末端に基端部を有するカンチレバーと、前記カンチレバーに設けられ前記カンチレバーの変位を検出するための変位検出部と、前記変位検出部に接続され前記基端部に連通する電極部からなり、少なくとも前記カンチレバー上の電極部または/および変位検出部に絶縁膜が設けられた自己変位検出型カンチレバーにおいて、前記絶縁膜上に任意の材料を被膜するように構成した。前記絶縁膜上の被膜は金属膜で、前記絶縁膜は窒化シリコンまたは酸化シリコンであることが好ましい。
【0018】
このように構成された自己変位検出型カンチレバーの前記絶縁膜上の前記被膜を遮光膜として作用するようにした。また、前記絶縁膜自体を遮光膜としてもよい。
【0019】
以上のように構成することで、変位検出部が光による誤作動やノイズの影響を受けずに変位検出を行うことが可能となる。
【0020】
また、本発明では、自己変位検出型カンチレバーの絶縁膜上の被膜が、探針先端まで連続して被膜されるようにした。前記絶縁膜上の前記被膜は導電性膜、磁化膜、光強度増強効果を有する機能性被膜とした。
【0021】
以上のように自己変位検出型カンチレバーを構成することで、変位検出部やそれに連通する電極部がカンチレバーに設けられた場合でも、機能性の被膜が可能となり電気、磁気、光などの物性を高精度で容易に測定可能となる。
【0022】
さらに、本発明では、遮光膜を有する自己変位検出型カンチレバーを照明装置を有する光学顕微鏡の光路上に配置し、前記照明装置によりサンプルに照明光を照射しながら、前記自己変位検出型カンチレバーにより走査型プローブ顕微鏡測定を同時に実施する光学顕微鏡複合型の走査型プローブ顕微鏡を構成した。
【0023】
このように構成することで、高い解像度での光学顕微鏡観察を行いながら同時に走査型プローブ顕微鏡の観察が可能となる。
【0024】
また、本発明の自己変位検出型カンチレバーをサンプルまたは/および探針に光を照射するための光源を有する走査型プローブ顕微鏡に使用し、前記光源によりサンプルまたは/および探針に光を照射しながら、前記自己変位検出型カンチレバーにより走査型プローブ顕微鏡測定を同時に実施するようにした。また、前記光源により前記自己変位検出型カンチレバーの探針先端近傍にエバネッセント場が形成されるようにした。さらに、前記探針先端によりエバネッセント場を散乱させてサンプル表面の光学特性を測定するようにした。さらに、前記自己変位検出型カンチレバーの探針先端に開口部を設け、前記探針の開口部以外を前記遮光膜により被膜し、前記開口部近傍にエバネッセント場を発生させてサンプル表面に照射し、または前記開口部よりエバネッセント光を集光することによりサンプル表面の光学特性を測定するようにした。
【0025】
以上のように走査型プローブ顕微鏡を構成することで、自己変位検出型カンチレバーに光が照射されたまま走査型近接場顕微鏡の測定が可能となる。この場合、光信号検出用の対物レンズなどを探針近傍まで接近させることができ励起効率あるいは集光効率の向上がはかられる。また、操作性も向上する。
【0026】
また、本発明では、自己変位検出型カンチレバーの一部または全部を溶液中に浸して走査型プローブ顕微鏡の測定を行うようにした。前記自己変位検出型カンチレバーは絶縁膜で覆われているため溶液中でもリーク電流などが発生することなく測定を行うことが可能となる。
【0027】
さらに、本発明では液浸レンズを使用して、前記液浸レンズとサンプルの間に溶液を満たし、該溶液中に前記自己変位検出型カンチレバーの一部または全部を浸して走査型プローブ顕微鏡の測定を行うようにした。このように構成することで、開口数が高い対物レンズで測定することができ光学顕微鏡観察時の分解能が向上する。また分光を行う場合や走査型近接場顕微鏡として使用する場合には、前記液浸レンズを使用することで励起効率や集光効率が向上し、シグナル/ノイズ比を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、光を照射しながら走査型プローブ顕微鏡の測定を同時に行うことが可能となり、走査型プローブ顕微鏡に複合される光学顕微鏡の解像度や、光学特性測定時の励起効率や集光効率の向上がはかられ、位置決め精度や操作性も向上する。また、変位検出手段やそれに連通する電極部がカンチレバーに設けられた場合でも、変位検出部の機能を損なうことなしに機能性の被膜を容易に行うことができ、光、電気、磁気などの物性を高精度で容易に測定可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
<第1の実施形態>
図1に本発明の第1実施形態に係る自己変位検出型カンチレバー1の概観図を示す。図1(a)は探針が設けられている面の平面図であり後述する窒化シリコンよりなる絶縁膜7とアルミニウムの金属膜8を取り付ける前の状態である。また、図1(b)(c)はそれぞれ図1(a)のA-A線断面図、B-B線断面図であり絶縁膜7と金属膜8も取り付けられた状態である。
【0030】
図1の自己変位検出型カンチレバー1では、先端に探針2を有し末端に基端部3を有するカンチレバー4に、カンチレバー4の変位を検出するための変位検出部5と、変位検出部5に接続され基端部3に連通する電極部6が設けられている。また、探針2が設けられている面のカンチレバー4から基端部3にかけて電極部6および変位検出部5を含む領域に絶縁膜7が設けられており、さらに絶縁膜7上には金属膜8が被膜された構造である。
【0031】
基端部3はシリコン9の上に酸化シリコン10が積層された構造となっている。酸化シリコン10の上側には、n型シリコン基板11が基端部3からカンチレバー4の先端まで連続して積層されており、このn型シリコン基板11が主要な材料となってカンチレバー4を形成している。
【0032】
n型シリコン基板11の表面のカンチレバー4の末端から基端部3の一部にかけてカンチレバー4の長手方向と平行に2本の直線状にp型不純物シリコン5a、5bが注入されており、このp型不純物シリコン5a、5bがピエゾ抵抗体として作用し、カンチレバーの変位検出部5を構成している。
【0033】
n型シリコン基板11とp型不純物シリコン5a、5bの表面には、電極6a、6b、6cとn型シリコン基板11とp型シリコン基板5a、5b間のリーク電流を防止するために絶縁用の酸化シリコン膜12が形成されて、酸化シリコン膜12の表面の一部にはアルミニウムが膜付けされ電極6a、6b、6cを形成している。
【0034】
この電極部6は、酸化シリコン膜12の一部を除去して、2つの直線状のp型不純物シリコン部5a、5bのカンチレバー上の先端部分同士を電極6cにより電気的に接続し変位検出部5をU字状に構成するとともに、基端部3に設けられたU字の末端の2箇所からそれぞれ電極6a、6bが連通している。
【0035】
これらの電極部6a、6bは基端部3に設けられた、メタルコンタクト部13a、13bまで連通しており、このメタルコンタクト部13a、13bが外部の電気回路に電気的に接続される。
【0036】
従来の自己変位検出型カンチレバーでは上記のように最表面に電極6a、6b、6cと酸化シリコンの絶縁部12が構成されていたが、本実施形態ではさらにメタルコンタクト部13a、13bを除き、カンチレバー部4の探針2が設けられる面およびその背面と探針2の先端まで全面に渡って窒化シリコンで絶縁膜7を被膜するようにした。さらに、本実施形態では、窒素シリコン7の表面にスパッタによりアルミニウムの金属被膜8を行った。
【0037】
以上のように構成することで、電極部6a、6b、6cは窒化シリコン7で絶縁されていてショートすることなくアルミニウムの金属被膜8を行うことが可能となった。
【0038】
次に、本実施形態の自己変位検出型カンチレバー1を走査型プローブ顕微鏡へ適用した例を図2、図3により説明する。図2は図1の自己変位検出型カンチレバー1を使用した正立型の光学顕微鏡複合型の走査型プローブ顕微鏡の概観図である。また図3は図2に使用される走査型プローブ顕微鏡モジュール29の断面図である。
【0039】
この装置では、走査型プローブ顕微鏡部20と光学顕微鏡部21よりユニットが構成される。
【0040】
走査型プローブ顕微鏡部20は、自己変位検出型カンチレバー1を固定するためのカンチレバーホルダ22と、カンチレバーホルダ22が固定されて、サンプル23と探針2の距離制御を行うためにサンプル表面に垂直な方向にカンチレバー1を移動させるZ軸微動機構24と、自己変位検出型カンチレバー1の探針2の先端と対向する位置に設けられサンプル23が載置されるサンプルホルダ25と、サンプルホルダ25が固定されてサンプル面内方向にサンプル23を移動させるXY微動機構26と、XY微動機構26の下側に設けられサンプル面内でXY微動機構26よりも粗くかつ広範囲に位置決めを行うXYステージ27と、サンプル23と自己変位検出型カンチレバー1の探針2を近接させるために用いられる粗動用のZステージ28により構成される。
【0041】
走査型プローブ顕微鏡部20のうち、カンチレバーホルダ22とZ軸微動機構24は図3に示されるような走査型プローブ顕微鏡モジュール29として構成され、後述する光学顕微鏡部21の対物レンズ30を固定するためのレボルバ31に固定される。走査型プローブ顕微鏡モジュール29は円筒状の鏡体32内に絶縁座33を介して円筒型圧電素子より構成されるZ軸微動機構24が固定され、先端部分にカンチレバーホルダ22が固定される。カンチレバーホルダ22は、自己変位検出型カンチレバー1の基端部3のメタルコンタクト部13a、13bに接触するような電気的な接点が設けられており、電気的接点はプリアンプ部34を経由して制御部(図示せず)に接続される。また、カンチレバーホルダ22には加振用の圧電素子35が組み込まれている。カンチレバー4を振動させずに探針2とサンプル23を近づけたときの変位を検出することで探針2とサンプル23の距離制御を行うコンタクト方式の原子間力顕微鏡測定機能のほか、カンチレバー4を圧電素子35により共振周波数近傍で加振させながら探針2とサンプル23を近づけた際の振幅や位相、共振周波数変化などにより距離制御を行う振動方式の原子間力顕微鏡機能も可能である。
【0042】
円筒型圧電素子24の中空内部にはレンズ36が固定されており、光学顕微鏡21によりカンチレバー4とサンプル23を観察可能な構成となっている。なお、自己変位検出型カンチレバー1をカンチレバーホルダ22に取り付けた場合には、前記レンズ36の光軸上に探針2の先端が位置決めされる構造となっている。
【0043】
XY微動機構26は、平行バネ機構を積層型圧電素子で駆動させるフラット型のステージが用いられている。このXY微動機構26はXYステージ27上に載せられる。
【0044】
XYステージ27と、Zステージ28はそれぞれステッピングモータと送りネジを用いた電動ステージを使用した。Zステージ28には光学顕微鏡21が取り付けられており、光学顕微鏡21全体を動かすことで光学顕微鏡21のレボルバ31に取り付けられた走査型プローブ顕微鏡モジュール29をサンプル23に接近させることができる。
【0045】
一方、光学顕微鏡部21は対物レンズ30と、対物レンズ30および走査型プローブ顕微鏡モジュール29が取り付けられるレボルバ31、顕微鏡鏡筒部37、接眼レンズ部38、光学顕微鏡部21が取り付けられる支柱部(図示せず)、支柱部に取り付けられて光学顕微鏡部21を動かしてサンプル23に対してフォーカシングを行うZステージ28から構成される。このうちZステージ28は前述した走査型プローブ顕微鏡20の粗動用Zステージ28と兼用である。
【0046】
さらに、光学顕微鏡部21の鏡筒37にはハロゲン照明39と、レーザ顕微鏡ユニット40、分光器41がそれぞれ取り付けられており測定目的に応じて各々のポートを切り替えて使用することが可能である。なお、レーザ顕微鏡40は光学系にピンフォールを入れることでコンフォーカル顕微鏡として使用することも可能である。
【0047】
次に、本実施形態での測定方法を説明する。本実施形態では、まず光学顕微鏡21の対物レンズ30の焦点をサンプルステージ25上に置かれたサンプル23の表面に合わせてサンプル表面の観察を行う。このときハロゲン照明39によりサンプル23を照射し観察を行ってもよいし、より解像度やコントラストの高い観察を行いたい場合には、コンフォーカル顕微鏡40によりレーザ光をサンプル23に照射して測定を行ってもよい。光学顕微鏡21により観察を行う場合にはZステージ28により対物レンズ30の焦点をサンプル23の表面に合わせて、サンプル23側のXYステージ27により被測定箇所を対物レンズ30の焦点に位置合わせする。
【0048】
次に、レボルバ31を回転させて対物レンズ30から走査型プローブ顕微鏡モジュール29に切り替える。なお、走査型プローブ顕微鏡モジュール29に設けられたレンズ36でもサンプル23の観察が可能なため、初めから走査型プローブ顕微鏡モジュール29で光学顕微鏡21の観察を行ってもよい。走査型プローブ顕微鏡モジュール29と対物レンズ30は光軸中心の位置と同焦距離はほぼ等しくなるようにあらかじめ調整されているので対物レンズ30と走査型プローブ顕微鏡モジュール29を切り替えても測定箇所や焦点はほとんどずれない。
【0049】
走査型プローブ顕微鏡モジュール29に切り替えた後は光学顕微鏡21の像から走査型プローブ顕微鏡20による高分解能の観察を行う箇所を決め、XYステージ27により探針2の先端を被測定箇所に大まかに位置合わせする。
【0050】
次にZステージ28によりサンプル23と探針2を走査型プローブ顕微鏡20の測定が可能な距離まで接近させた後、Z微動機構24により探針2とサンプル23間の距離制御を行う。ここで、Z微動機構24により距離制御を行ったままの状態で、再び光学顕微鏡21の像を確認しながら被測定箇所を特定し、XY微動機構26により精密に被測定箇所に探針2を位置決めする。その後、XY微動機構26でサンプル23をラスタスキャンして、走査型プローブ顕微鏡20の像を測定する。
【0051】
探針2とサンプル23を近づけていくと、両者に働く原子間力や接触力、あるいはカンチレバー4を振動させている場合には間欠的な接触力などによりカンチレバー4の変位や振幅が変化してカンチレバー4のひずみ量が変化する。
【0052】
変位検出部5のp型シリコン5a、5bはプリアンプ34内に設けられたブリッジ回路に組み込まれており、ブリッジ回路にバイアス電圧を印加しておく。このときカンチレバー4にひずみ量が生じるとp型シリコン5a、5bの抵抗値が変わり、抵抗値の変化をブリッジ回路で検出することでカンチレバー4の変位や振幅量の変化を検出することが可能となる。
【0053】
このとき従来の自己変位検出型カンチレバーでは、n型シリコン11とp型シリコン5a、5bの上に設けられる酸化シリコン膜12は光学顕微鏡21の波長に対して透明であるため、光学顕微鏡21のハロゲン照明39やレーザ照明40などを照射しながら走査型プローブ顕微鏡21の測定を行うと、変位検出部5に用いられているp型シリコン5a、5bがこれらの照明に反応して光ノイズが生じてしまいカンチレバー4に生ずるひずみ量を正確に検出することができなかった。従来装置で、変位検出部5の信号をもとにZ微動機構24で探針2とサンプル23の距離制御を行う場合には、光学顕微鏡21の照明を切る必要があり、光学顕微鏡21との走査型プローブ顕微鏡20の同時測定は不可能であった。このため、探針2を被測定箇所に位置決めする場合には、探針2の破損防止のためにいったんZステージ28により探針2をサンプル23から退避させて、光学顕微鏡21の像により探針2とサンプル23を観察して位置決めを行った後、光学顕微鏡21の照明を切った状態で、再び走査型プローブ顕微鏡20の測定領域までZステージ28で接近させる必要があった。Zステージ28を動かした際にはZステージ28の直進性の精度に応じてサンプル面内方向で位置ずれが発生してしまう。また、高倍率の対物レンズを使用した場合には焦点深度が浅いので探針2とサンプル23を離した状態では、両者に焦点を合わせて同時観察することが不可能である。特にコンフォーカル顕微鏡40による観察では、焦点深度がより浅くなるので探針2とサンプル23が離れた状態ではサンプル23の表面に焦点をあわせた観察と、探針2に焦点を合わせた観察を別に行う必要があった。このため、光学顕微鏡像21により測定箇所の位置合わせを行っても再び探針2とサンプル23を接近させると位置がずれてしまうことがあった。
【0054】
しかしながら本実施形態の自己変位検出型カンチレバー1は、カンチレバー4の表面に絶縁膜7を介してアルミニウムの金属膜8が設けられているため光学顕微鏡21の照明がアルミニウム8により遮光されるので、照明を照射しながら光学顕微鏡21の観察と走査型プローブ顕微鏡20の観察を同時に行うことが可能となった。このため、探針2とサンプル23を近接させたままの状態で光学顕微鏡像によりXY微動機構26により位置合わせを行うことが可能となった。
【0055】
なお、光学顕微鏡21の残りの1つのポートには分光器41が設けられている。この分光器41はラマン分光分析により異物やサンプルの物性の分析を行う場合などに用いられる。異物分析を行う場合には、走査型プローブ顕微鏡20の測定を行った後、走査型プローブ顕微鏡20の形状像からサンプル23上の微小な異物を特定し、XY微動機構26により光軸中心に異物を移動し、レーザ顕微鏡40の光源によりサンプル23に励起光を照射して、反射光を分光器41に導入し、ラマン散乱スペクトルを測定することで異物分析を行うことができる。このように分光分析を行う場合にも本実施形態の自己変位検出型カンチレバー1を使うことで励起光が遮光されて変位検出部5に直接当たらないので、光ノイズが発生せず、走査型プローブ顕微鏡20を動作させながら同時に分光分析を行うことが可能となる。このため、探針2とサンプル23を近接させたままの状態で分光分析を行うことが可能となる。
【0056】
なお、図1の自己変位検出型カンチレバー1は背面から観察したときに探針2の先端がカンチレバー4で隠れる構成となっているが、カンチレバー4の先端に対して探針2の先端がカンチレバー4の自由端側に飛び出した構成として、カンチレバー4の背面から光学顕微鏡21で観察可能な形状のものでもよい。このような形状にした場合には、光学顕微鏡21で探針2の先端が観察できるので光学顕微鏡21の像により探針2の先端を測定したい場所に容易に精度よく位置決めすることが可能となる。また、レーザ光を照射して異物分析を行う場合にもカンチレバー4が光路の邪魔にならず、励起効率や散乱光の集光効率が向上し、分光分析を行う場合のシグナル/ノイズ比が向上する。
【0057】
なお、n型シリコン11とp型シリコン5a、5bの上に設けられる酸化シリコン層12はリーク電流防止のために少なくとも電極下部6a、6b、6cに設けた方が好ましいが、必ずしも必須の構成ではなく、酸化シリコン層12を電極6a、6b、6cの下部のみに設けてその他の部分には設けず、直接窒化シリコン層7を設けてもよい。
<第2の実施形態>
図4は本発明の第2実施形態に係る自己変位検出型カンチレバー50を示す。図4(a)は探針2が設けられている面の平面図であり後述する窒化シリコンよりなる絶縁膜51と銀の金属膜52を取り付ける前の状態である。また、図4(b)(c)はそれぞれ図4(a)のA-A線断面図、B-B線断面図であり絶縁膜51と金属膜52も取り付けられた状態である。
【0058】
本実施形態の自己変位検出型カンチレバー50は図1の自己変位検出型カンチレバー1の表面の金属膜8、その下の窒化シリコン膜7以外の構造は同じ構造であるため、重複する部分は同一の符号を付け、詳細な説明は省略する。
【0059】
本実施形態では、探針2が設けられる面のみに窒化シリコン層51と金属層52を設け、探針2に対して背面側には窒化シリコン層51と金属層52を設けない構造とした。このような構造とすることで背面側の成膜の工程を省略することができ製造時間が短縮でき、コストも安くなる。
【0060】
また、本実施形態のカンチレバー表面に設けられる金属膜52には銀を蒸着した。
【0061】
次に、図4のカンチレバー50を用いて近接場光により高分解能で局所的なラマン分光を行うための散乱型の近接場ラマン顕微鏡53の概観図を図5に示す。近接場ラマン顕微鏡は走査型プローブ顕微鏡の1種であり、本実施形態は倒立型顕微鏡と走査型プローブ顕微鏡が複合された構造である。
【0062】
本実施形態では、透明なサンプルホルダ54の下に開口数が1以上の対物レンズ55(ここでは開口数1.4の油浸レンズ)を配置した。この対物レンズ55にレーザ56からの光を導入する。レーザ光はサンプルに応じて任意の波長が用いられるが通常は300〜900nm程度の波長が用いられる。レーザ光はビームエクスパンダー57により平行光に変換され、ハーフミラー58により90度曲げられて対物レンズ55に導かれる。このとき、ビームエクスパンダー57とハーフミラー58間の光路上に対物レンズ55に入射する光のうち開口数が1以下の部分の光をカットするように、円盤状の遮光板59を挿入する。このような光学系により、対物レンズ55から開口数が1以上の部分の光を透過性のサンプル56に入射することにより光はサンプル56の表面に全反射角で入射し、エバネッセント光のスポット57が形成される。
【0063】
サンプル56はサンプルホルダ54上に載置されており、サンプルホルダ54には平行バネ機構を積層型圧電素子で駆動することにより、2次元平面内でのスキャンと高さ方向のサーボ動作が可能な3軸微動機構58が取り付けられている。
【0064】
一方、サンプル56の上方には、カンチレバーホルダ59が配置され、カンチレバーホルダ59に図4の自己変位検出型カンチレバー50が取付けられる。
【0065】
カンチレバーホルダ59は、探針2とサンプル56表面とを近接させるための粗動用のZステージ60に搭載されている。粗動用のZステージ60はステッピングモータ61と送りネジ62による機構を用いてマイクロメータヘッド63の脚を支点にして、カンチレバーホルダ59が搭載された粗動用Zステージ60をサンプル56に対して近接させるような構成である。
【0066】
このように構成された装置で、探針2とサンプル56を原子間力が作用する領域まで近づけた場合、探針2の先端に作用する原子間力によりカンチレバー4にたわみが生ずる。このとき、p型シリコンよりなるピエゾ抵抗体5a、5bにひずみが生じ、抵抗値が変化する。この抵抗変化をプリアンプ64で増幅し検出することによって、たわみ量を測定する。プリアンプ64とピエゾ抵抗体5a、5bはブリッジ回路を構成しておりピエゾ抵抗体5a、5bにバイアス信号を印加し、抵抗値の変化に応じた出力信号が増幅して検出される。プリアンプ64での検出信号は差動アンプ(図示せず)に入力され基準信号と比較することによってたわみ量が測定される。このたわみ量は探針2とサンプル56間の距離に依存するため、たわみ量が一定となるように微動機構58をサーボ機構(図示せず)によりサーボ動作させることによってサンプルと探針の距離を一定に保つことが可能となる。
【0067】
サンプル56の表面に発生するエバネッセント光57は一般的にはサンプル56の表面から約100nm以内の間に存在しサンプル56の表面から遠ざかるにしたがって指数関数曲線に乗って減衰する。探針2とサンプル56をサーボ動作させながら、この領域に位置決めすることにより、探針2の先端でエバネッセント光57が散乱されラマン散乱光とレーリー散乱光が発生する。さらに、探針2の先端で散乱されたラマン散乱光は銀52の電場増強作用により増強され、伝播光に変換される。
【0068】
この散乱光は、励起光の入射に用いたレンズと同一のレンズ55で集光される。集光を行う場合には、開口数1以下の部分も含め対物レンズ55全体で集光が行われる。集光された光信号はハーフミラー58を通り、全反射ミラー65で90度に曲げられて、レーリー散乱光をノッチフィルタ66で除去し結像レンズ67により結像された後、分光器68に導かれ分光分析が行われる。また分光器68で選択された特定の波長の強度を測定するために光強度検出器69が分光器に接続される。本実施形態では光強度検出器69にアバランシェフォトダイオードを使用した。
【0069】
このように構成された近接場ラマン顕微鏡53において、3軸微動機構58によりサンプル56と探針2の高さを一定に保ちながら、2次元平面内でサンプル56をスキャンさせ、形状像を測定し、形状像から分析したい部分を特定して、3軸微動機構58により被測定箇所に探針2の先端とエバネッセント光が発生するスポット57に測定箇所を位置決めして分光分析を行うことで、回折限界を超える分解能で局所的なラマン分光分析を行うことが可能である。また分光器68により特定の波長を選択し、光強度を測りながら3軸微動機構58でスキャンすることにより、サンプル表面での光学情報のマッピングを回折限界を超える高分解能で測定することも可能となる。
【0070】
従来の近接場ラマン顕微鏡では強い励起光を当てた場合には励起光や散乱光成分が自己変位検出型カンチレバーの変位検出部に照射されて光ノイズを発生し、探針とサンプル間の距離制御が不可能であったが、本実施形態では表面が銀の金属膜52で遮光されるため、光ノイズの影響なしに近接場ラマン顕微鏡の測定が可能となる。このためサンプルに強い励起光を当てながら近接場ラマン分光分析を行うことが可能となった。また、従来光てこ方式でカンチレバーの変位検出を行っていた場合には光てこの波長と分光分析で検出したい波長が近い場合には光てこの波長がノイズとなっていたが、本実施形態では自己変位検出型カンチレバー50を使用することでこのようなノイズも防止される。
【0071】
また、金属膜52に銀を用いることでラマン散乱光の増強効果と遮光効果を同時に達成することが可能となる。
【0072】
本実施形態のように倒立型の顕微鏡と組み合わせる場合にはカンチレバー4の背面側にはほとんど光が当たらないので、探針2が設けられる側のみに金属の遮光膜52を設ければよい。
【0073】
なお、第1の実施形態の正立型の顕微鏡21においてもレーザ顕微鏡40のレーザ光と分光器41を用いて近接場の分光分析を行うことが可能となる。この場合には光を透過しないサンプルでも測定でき、従来、カンチレバーの背面に設けられていた光てこ光学系を省略できるので励起、集光用の対物レンズを探針先端に近づけることが可能となる。このため作動距離の短い開口数の大きな対物レンズを使用でき、励起、集光効率を高めることが可能である。
【0074】
表面の金属52は、銀以外にも金など他の任意の金属が使用できる。さらにラマン分光以外にも光源や検出器や光学系を変更することで蛍光分析や赤外分光分析などにも応用することが可能である。
<第3の実施形態>
図6に第3の実施形態の自己変位検出型カンチレバー80を示す。図6(a)は探針2が設けられている面の平面図であり後述する絶縁膜81を取り付ける前の状態である。また、図6(b)(c)はそれぞれ図6(a)のA-A線断面図、B-B線断面図であり絶縁膜81が取り付けられた状態である。
【0075】
本実施形態と図1に示した第1実施形態との違いは電極6a、6b、6cとn型シリコン11、p型シリコン5a、5bおよび酸化シリコン膜12の上の絶縁膜81自体が、光学顕微鏡の照明光に対して遮光性を有し、絶縁膜81上に金属被膜を設けていない。さらに本実施形態では物性測定は行わず形状像の観察のみを目的としているため、探針2の先端が太くなって形状像測定時の分解能の低下を防ぐために探針部2への絶縁膜のコートは行わない構成とした。その他の構成は、第1実施形態と同様であるため、同じ構成部には同一の符号を付け、詳細な説明は省略する。
【0076】
本実施形態の絶縁膜81は、着色されたポリマー塗料をコートした。絶縁膜81自体が遮光性を有するため、絶縁膜81上に金属膜などの遮光膜を設けることなしに、光学顕微鏡で照明光を照射しながら測定を行うことが可能となる。
<第4の実施形態>
図7に第4の実施形態の自己変位検出型カンチレバー85を示す。図7(a)は探針2が設けられている面の平面図であり後述する絶縁膜87と金属膜88とを取り付ける前の状態である。また、図7(b)(c)はそれぞれ図7(a)のA-A線断面図、B-B線断面図であり絶縁膜87と絶縁膜88が取り付けられた状態である。本実施形態においても、図4に示した第3実施形態と同じ機能を有する箇所は同一の符号を付け詳細な説明は省略する。
【0077】
本実施形態では、カンチレバー4の末端部分の変位検出部5は図4と同じ構成であり、カンチレバー4の先端部分86には可視光に対して透明な酸化シリコンでカンチレバーを構成し両者を接合した構造である。このように構成された自己変位検出型カンチレバー85の探針2側の表面に窒素シリコンよりなる絶縁膜87を設け、さらにアルミニウム88でコートを行った。さらに探針先端部分のアルミニウムを除去して先端に直径50nm程度の開口89を設けた。このように自己変位検出型カンチレバー85を構成することで探針を構成する酸化シリコン86と窒素シリコン膜87に波長300〜1200nm程度を光を透過させることができ、探針先端の開口89近傍にエバネッセント場を形成することができる。このような自己変位検出型カンチレバー85を走査型近接場顕微鏡に使用することで開口89からサンプルに近接場を照射したり、あるいはサンプルに発生した近接場を開口89で集光することで局所的な光学特性の分析を行うことが可能となる。
<第5の実施形態>
図8に本発明の第5の実施形態の液浸レンズを使用した走査型プローブ顕微鏡の概観図を示す。なお、図8では本実施形態に係わる主要部の構造のみ記載し光学顕微鏡や走査型プローブ顕微鏡の詳細な構造は省略する。
【0078】
本実施形態では正立型の光学顕微鏡に液浸対物レンズ96を取り付け、サンプル23と液浸対物レンズ96の先端との間に水97を満たしている。液浸対物レンズ96とサンプル23の間の溶液中97には自己変位検出型カンチレバー95が配置され、探針2とカンチレバー4及び基端部3の一部が溶液97に浸されている。自己変位検出型カンチレバー95は背面から見たときにカンチレバー部4の先端から探針2が飛び出しており、探針2の先端が光学顕微鏡で測定可能な形状となっている。また、絶縁膜として窒化シリコンが設けられ、絶縁膜上には耐食性や耐薬品性に優れた金がコートされている。自己変位検出型カンチレバー95のその他の構成は図1の実施形態と同じ構成である。
【0079】
このように走査型プローブ顕微鏡を構成することで、開口数が高い対物レンズで測定することができ光学顕微鏡観察時の分解能が向上する。また分光を行う場合や走査型近接場顕微鏡として使用する場合には、前記液浸レンズ96を使用することで励起効率や集光効率が向上し、シグナル/ノイズ比を向上させることが可能となる。特に散乱型の近接場顕微鏡として使用する場合には金の光信号増強効果により、より効率よく散乱光を集光することが可能となる。
<その他の実施形態>
図1や図4、図7、図8の実施形態のカンチレバー1、50、85の外側の金属膜部分8、52、88に例えば金や白金、あるいはロジウムなどの導電性の被膜をコートし、導電性被膜を外部の検出器に接続することでサンプル表面の表面電位、電流、静電容量などの電気特性の測定も行うことができる。この場合にも導電性被膜8、52、88が遮光膜の機能も兼ねることができる。また例えば外部からサンプルに光を励起しながらサンプルの電流値の変化の測定などを行う場合にもサンプルの励起光によりカンチレバーの変位検出部にノイズが発生することを防止できる。
【0080】
また、金属膜8、52、88として磁性を持った膜をコートすることによりサンプル表面の磁気特性を測定することが可能となる。例えば光磁気材料の特性などを測定する場合にはサンプルに光を照射しながら磁気特性を測定することが可能となる。
【0081】
さらに第5実施形態の液浸レンズとの組み合わせ以外でも、絶縁膜7,51,87上に被膜される金属8、52、88として金やチタンなど耐食性、耐薬品性に優れた材料を被膜し、例えば培養液中での生体サンプルなど、任意の溶液中での走査型プローブ顕微鏡や散乱型近接場顕微鏡の測定も可能である。このとき変位検出部5や電極部6は絶縁膜で被膜されており溶液中でリーク電流が発生したり電極部6が腐食することなしに測定を行うことが可能である。
【0082】
これらの電気的、磁気的特性を測定する機能性被膜の場合には測定時に光照射を伴わない場合でも本発明に含まれる。このような自己変位検出型カンチレバーは機能性被膜作成時に電極上に絶縁膜が設けられているので機能性被膜により電極がショートすることを防止できる。
【0083】
なお、変位検出部の上に被膜される絶縁膜は窒化シリコン以外にも酸化シリコンなど任意のものが使用できる。また遮光膜も測定に使われる照明光に対して遮光あるいは減光性能がある膜であれば任意のものが使用できる。遮光を必要としない場合には測定目的に応じて任意の機能性被膜が使用できる。またカンチレバーや変位検出部の材質もn型シリコンやp型シリコン以外にも任煮の材料が使用できる。例えば、窒化シリコンによりカンチレバーを作製し圧電薄膜をカンチレバーに膜付けすることで変位検出部を構成したカンチレバーなども本発明に含まれる。
【0084】
また絶縁膜や絶縁膜上の機能性被膜は必ずしもカンチレバー全面に設ける必要はない。
【0085】
以上のように、本発明の自己変位検出型カンチレバーを走査型プローブ顕微鏡の測定し使用することで、光を照射しながら走査型プローブ顕微鏡の測定を同時に行うことが可能となり、走査型プローブ顕微鏡に複合される光学顕微鏡の解像度や、光学特性測定時の励起効率や集光効率の向上がはかられ、位置決め精度や操作性も向上する。また、変位検出手段やそれに連通する電極部がカンチレバーに設けられた場合でも、変位検出部の機能を損なうことなしに機能性の被膜を容易に行うことができ、光、電気、磁気などの物性を高精度で容易に測定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1(a)】本発明の第1実施形態に係る自己変位検出型カンチレバーの平面図である。
【図1(b)】図1(a)のA−A線断面図である。
【図1(c)】図1(a)のB−B線断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡の概観図である。
【図3】図2の走査型プローブ顕微鏡に使用される走査型プローブ顕微鏡モジュールの断面図である。
【図4(a)】本発明の第2実施形態に係る自己変位検出型カンチレバーの平面図である。
【図4(b)】図1(a)のA−A線断面図である。
【図4(c)】図1(a)のB−B線断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る散乱型近接場ラマン顕微鏡の概観図である。
【図6(a)】本発明の第3実施形態に係る自己変位検出型カンチレバーの平面図である。
【図6(b)】図1(a)のA−A線断面図である。
【図6(c)】図1(a)のB−B線断面図である。
【図7(a)】本発明の第4実施形態に係る自己変位検出型カンチレバーの平面図である。
【図7(b)】図1(a)のA−A線断面図である。
【図7(c)】図1(a)のB−B線断面図である。
【図8】本発明の第5実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡の概観図である。
【図9】従来の自己変位検出型カンチレバーの概観図である。
【符号の説明】
【0087】
1、50、80、85、95 自己変位検出型カンチレバー
2 探針部
4 カンチレバー部
5 p型シリコン基板(変位検出部)
6 電極部
7、51、81、87 絶縁膜
8、52、88 金属膜(遮光膜、機能性被膜)
11 n型シリコン基板
13 メタルコンタクト部
20 走査型プローブ顕微鏡部
21 光学顕微鏡部
22、59 カンチレバーホルダ
23、56 サンプル
24 Z微動機構
25、54 サンプルホルダ
26 XY微動機構
27 XYステージ
28、60 Zステージ
29 走査型プローブ顕微鏡モジュール
30、55 対物レンズ
31 レボルバ
34、64 プリアンプ
36 レンズ
39 ハロゲン照明
40 レーザ顕微鏡(コンフォーカル顕微鏡)
41、68 分光器
53 近接場ラマン顕微鏡
56 レーザ
58 3軸微動機構
69 光強度検出器
86 酸化シリコン基板
89 開口部
96 液浸レンズ
97 溶液



【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に探針を有し末端に基端部を有するカンチレバーと、前記カンチレバーに設けられ前記カンチレバーの変位を検出するための変位検出部と、前記変位検出部に接続され前記基端部に連通する電極部からなり、少なくとも前記カンチレバー上の電極部または/および変位検出部に絶縁膜が設けられた自己変位検出型カンチレバーにおいて、前記絶縁膜上に任意の材料が被膜されることを特徴とする自己変位検出型カンチレバー。
【請求項2】
前記絶縁膜上の被膜が金属膜であることを特徴とする請求項1に記載の自己変位検出型カンチレバー。
【請求項3】
前記絶縁膜が窒化シリコンまたは酸化シリコンであることを特徴とする請求項1、請求項2に記載の自己変位検出型カンチレバー。
【請求項4】
前記自己変位検出型カンチレバーの前記絶縁膜上の被膜が、前記探針先端まで連続して被膜された請求項1乃至請求項3に記載の自己変位検出型カンチレバー。
【請求項5】
前記自己変位検出型カンチレバーの前記絶縁膜上の前記被膜が導電性を有することを特徴とする請求項4に記載の自己変位検出型カンチレバー。
【請求項6】
前記自己変位検出型カンチレバーの前記絶縁膜上の前記被膜が磁化膜であることを特徴とする請求項4、請求項5に記載の自己変位検出型カンチレバー。
【請求項7】
前記自己変位検出型カンチレバーの前記絶縁膜上の前記被膜が光強度増強効果を有する膜であることを特徴とする請求項4乃至請求項6に記載の自己変位検出型カンチレバー。
【請求項8】
前記自己変位検出型カンチレバーの前記絶縁膜上の前記被膜が遮光膜として作用する請求項1乃至請求項7に記載の自己変位検出型カンチレバー。
【請求項9】
先端に探針を有し末端に基端部を有するカンチレバーと、前記カンチレバーに設けられ前記カンチレバーの変位を検出するための変位検出部と、前記変位検出部に接続され前記基端部に連通する電極部からなり、少なくとも前記カンチレバー上の電極部または/および変位検出部に絶縁膜が設けられた自己変位検出型カンチレバーにおいて、前記絶縁膜が遮光膜として作用することを特徴とする自己変位検出型カンチレバー。
【請求項10】
請求項1乃至9に記載の自己変位検出型カンチレバーを使用した走査型プローブ顕微鏡。
【請求項11】
請求項8、請求項9に記載の自己変位検出型カンチレバーが照明装置を有する光学顕微鏡の光路上に配置され、前記照明装置によりサンプルに照明光を照射しながら、前記自己変位検出型カンチレバーにより走査型プローブ顕微鏡測定を同時に実施する光学顕微鏡複合型の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項12】
請求項8、請求項9に記載の自己変位検出型カンチレバーがサンプルまたは/および探針に光を照射するための光源を有する走査型プローブ顕微鏡に使用され、前記光源により光を照射しながら、前記自己変位検出型カンチレバーにより走査型プローブ顕微鏡測定を同時に実施する走査型プローブ顕微鏡。
【請求項13】
前記光源により前記自己変位検出型カンチレバーの探針先端近傍にエバネッセント場が形成されることを特徴とする請求項12に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項14】
前記探針先端によりエバネッセント場を散乱させてサンプル表面の光学特性を測定することを特徴とする請求項13に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項15】
前記自己変位検出型カンチレバーの探針先端に開口部を設け、前記探針の開口部以外を前記遮光膜により被膜し、前記開口部近傍にエバネッセント場を発生させてサンプル表面に照射し、または前記開口部よりエバネッセント光を集光することによりサンプル表面の光学特性を測定することを特徴とする請求項13に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項16】
前記自己変位検出型カンチレバーの一部または全部を溶液中に浸して測定を行う請求項10乃至15に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項17】
液浸レンズを有し、前記液浸レンズとサンプルの間に溶液を満たし、該溶液中に前記自己変位検出型カンチレバーの一部または全部を浸して測定を行う請求項16に記載の走査型プローブ顕微鏡。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図1(c)】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図6(c)】
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【図7(a)】
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【図7(b)】
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【図7(c)】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−127754(P2010−127754A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302429(P2008−302429)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)