説明

自己流動性水硬性組成物

【課題】 塗り床仕上げコンクリート床構造体を形成するにあたり、コンクリート床面の凹凸や傾斜が塗り床仕上げ面に及ぼす影響を回避でき、塗り床材を好適に施工できる下地条件となる塗り床下地層の含水率5%未満(D値が690未満)を短期間に達成でき、さらに、塗り床仕上げコンクリート床構造体として優れた強度特性が得られる塗り床下地用の組成物を提供することを目的とした。
【解決手段】 本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機粉末、細骨材及び樹脂粉末を含み、さらに、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗り床仕上げのコンクリート床構造体の形成に用いられる自己流動性水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスや事務所をはじめとして工場や倉庫などの建築物では、一般的にコンクリート床面の仕上げに各種樹脂系塗り床材や各種ポリマーセメント系塗り床材が用いられることが多く、これらの塗り床材をコンクリート床の仕上げ材として用いた場合、床面の耐磨耗性や耐薬品性などが向上する効果が得られる。
これらの塗り床材を施工する場合の下地層施工法としては、コンクリート直押え工法とモルタル類やセルフレベリング材等を用いる打ち継ぎ工法がある。
【0003】
特許文献1には、コンクリート床の上面に塗り床材を施工した場合に、各種樹脂を含む塗り床材の塗膜硬化層は通気性に乏しいことに起因して発生することがある上塗り材の塗膜硬化層のふくれを防止する方法として、コンクリート下地面の上にセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタルを使用して通気性を備えた単独層を新たに打ち継ぎ、この上に非通気性床仕上げ材を施工することにより、非通気性床仕上げ材の下に位置する該通気層に、下地コンクリート組織内部の水分を散逸させる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、床下地材としてセメント、骨材、及び保水剤を主成分とし、合成樹脂として酢酸ビニル樹脂、バーサチック酸ビニル樹脂、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、SBRの中の一、又は二以上の混合物を含有するセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)を使用することによって、セルフレベリング材の施工後、乾燥中に合成樹脂が表面に集合し、その状態で硬化することにより、優れたセルフレベリング性と表面に鏡面に近い緻密さが得られ、合成樹脂様の表面状態を得ることができることが記載されている。さらに、コンクリート、木質或いは金属等下地の上に、このセルフレベリング材を使用して下地を形成し、その上面に貼り床などを施工して供用し、貼り床材が老朽化した場合には容易に除去することが可能なため、改装時等に接着剤付き床材を貼りかえる作業の効率が著しく向上し、作業時間も大幅に短縮されることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−3551号公報
【特許文献2】特開2003−20263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的にコンクリート床に塗り床材を施工して仕上げる場合、コンクリート床の表面に塗り床材用プライマー層を設け、塗り床材用ベースコート層、さらに塗り床材用トップコート層が施工される。また、特別な機能付与が求められない場合は、塗り床材用トップコート層が施工されない場合もある。
塗り床材の種類を選定することにより、耐過重性、耐磨耗性、耐衝撃性、耐水性、耐薬品性、耐候性、美観性、防音性等の機能を有するコンクリート床構造体を形成できる。
塗り床材を施工して得られるこれらの多様な機能は、特に塗り床材ベースコートの硬化層の性状、すなわち、塗り床材ベースコートの硬化層の厚さ、均一さなどに大きく依存する。また、この塗り床材ベースコート硬化層の性状は、下地を形成しているコンクリート表面の性状によっても大きく影響される。
通常、新設建築物のコンクリート床は、生コンクリートを打設・締固めを行ってある程度の平面性を持たせた後、コンクリート表面の水が引いた段階で左官鏝などを用いて表面を均し、粗い凹凸を均す作業を行って、コンクリートを養生して硬化させており、塗り床材を施工する段階の硬化したコンクリート床全体の表面には多種多様な小さな凹凸や微妙な傾斜が入り組んだ状態になっている。
また、既設の建築物のコンクリート床を改修するような場合、当初施工されていた塗り床材や貼り床材を除去し、コンクリート床面を研磨処理して粗い凹凸を均す作業を行った上で新たに塗り床材が施工されるが、この場合もコンクリート床全体の表面には多種多様な小さな凹凸や微妙な傾斜が入り組んだ状態になっている。
図1に示すように、上記のようなコンクリート床11に塗り床材12を施工した場合、塗り床材12の性能を充分引き出そうとして、プライマー層13、ベースコート層14、トップコート層15の施工厚さが一定になるように施工すると、塗り床材12を施工した床面16は、下地であるコンクリート床11表面の多種多様な小さな凹凸17や微妙な傾斜18がそのまま反映されたものとなり、実際に供用する上で、また、美観上も好ましくない仕上りとなる。
一方、塗り床材12を施工した床面16の平面性を高め、供用性や美観の良好な仕上りを求める場合、プライマー層13、ベースコート層14、トップコート層15を施工する過程で、図2のようにコンクリート床11表面の多種多様な小さな凹凸17や微妙な傾斜18を塗り床材12(ベースコート層14)の施工量を調整する必要があり、より平面性が良好な仕上りを求めると、塗り床材ベースコート層14を過剰に施工することが必要となる。この場合、図1の場合と比較して平面性が改善された仕上りは得られるものの、塗り床材ベースコート14の使用量が増加して経済性が低下するという問題がある。
逆に図3のように、単位面積当たりの塗り床材ベースコート層14の使用量を、推奨される平均的な施工量とした場合、ベースコート層14の硬化層の厚さが、凹部19では厚く、凸部20では薄くなり、特にベースコート層14の施工量が少ない凸部20ではベースコート層14を適正量施工した場合と比較して性能的に不充分な事態も発生することが考えられる。
【0007】
上記課題に対し、コンクリート床面にセルフレベリング材を施工して塗り床下地を形成した場合、コンクリート床面の凹凸や傾斜が塗り床仕上げ面に及ぼす影響を回避できるが、一般的なセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)を使用するとその施工のための工程が増えるのみならず、施工したセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)の硬化体層が所定の強度を発現するまで養生期間が必要となる。このため、塗り床材を好適に施工できる下地条件、即ちセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)の硬化体層の含水率が5%未満(D値が690未満)に低下するまで数日から1週間の期間待機せねばならず、工事スケジュール上に大きなマイナス面があった。
【0008】
本発明は、塗り床仕上げコンクリート床構造体を形成するにあたり、コンクリート床面の凹凸や傾斜が塗り床仕上げ面に及ぼす影響を回避でき、塗り床材を好適に施工できる下地条件となる塗り床下地層の含水率5%未満(D値が690未満)を短期間に達成でき、さらに、塗り床仕上げコンクリート床構造体として優れた強度特性が得られる塗り床下地用の組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意試行錯誤を繰り返した結果、セルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)スラリーを安定して施工するに充分な可使時間(ハンドリングタイム)を保持しながらも、工事スケジュールの延長を最小限に留めることが可能な速硬性・速乾性を有しつつ、優れた水平レベル精度を有する塗り床下地を形成できる特定のセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)を見出した。
さらにコンクリート床にこのセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)を施工し、その上面に塗り床材を施工することにより、施工効率と水平レベル精度に優れ、供用時にも良好な耐久性を有する塗り床仕上げコンクリート構造体が得られることを見出して本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の第1は、アルミナセメント20〜80質量%、ポルトランドセメント10〜70質量%及び石膏5〜45質量%からなる水硬性成分(100質量%)と、無機粉末、細骨材及び樹脂粉末を含み、さらに、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物である。
本発明の第2は、前記本発明の第1の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるスラリーである。
本発明の第3は、前記本発明の第1の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるスラリー硬化体である。
【0011】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法について好ましい様態を以下に示す。これらは複数組合せることができる。
1)水硬性成分と無機成分と細骨材の合計質量(100質量%)中、水硬性成分は26〜60質量%であること。
2)自己流動性水硬性組成物は、水硬性成分100質量部に対して、樹脂粉末を0.5〜20質量部含むこと。
3)樹脂粉末は、酢酸ビニルベオバアクリル共重合体系の再乳化型樹脂粉末及び/又はアクリル酸エステル−メタアクリル酸エステル共重合体系の再乳化型樹脂粉末であること。
4)自己流動性水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリーの硬化体表面ショア硬度は、スラリーを打設(施工)したのち6時間後に50以上であること。
5)自己流動性水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリーの硬化体表面の水分量は、スラリー打設(施工)したのち24時間後に5%未満(D値=690未満)であること。
6)自己流動性水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリー硬化体は、長さ変化率の膨張が0〜0.08%であり、長さ変化率の収縮が−0.08〜0%であること。
7)自己流動性水硬性組成物は、該水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリーの硬化体の上面に、エポキシ樹脂系塗り床材、ウレタン樹脂系塗り床材、メタクリル樹脂系塗り床材、アクリル樹脂系塗り床材、ポリエステル樹脂系塗り床材、ビニルエステル系塗り床材及びポリマーセメント系塗り床材から選ばれるいずれか1種の塗り床材が塗布・施工されて形成される塗床仕上げコンクリート床構造体用であること。
【発明の効果】
【0012】
通常、多種多様の凹凸や傾斜を有するコンクリート床の上面に、本発明の自己流動性水硬性組成物を施工・硬化させて優れた水平レベルを有する下地層を形成した後に塗り床材を施工することによって、塗り床材の仕上り面もまた優れた水平レベルを有し、良好な供用性と美観が得られる。
また、本発明では自己流動性水硬性組成物(セルフレベリング材)として、アルミナセメントを適正量含む水硬性成分を前記水硬性組成物中に一定割合含有させることで、速硬性・速乾性に優れ、優れた水平レベル性を有する床面を形成でき、極めて効率的に且つ安定的に塗り床下地を施工することが可能となる。
また、従来課題となることがあったコンクリート床から離脱しようとする水分による塗り床材硬化層の膨れについても、本発明では、寸法変化率及び通気性が極めて小さい前記の自己流動性水硬性組成物(セルフレベリング材)を選択して用い、緻密で高強度な硬化体層を下地コンクリートと塗り床材硬化体層の中間層に設けることによって解消することができ、床構造体として優れた耐久特性が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機粉末、細骨材及び樹脂粉末を必須成分として含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物である。
さらに、本発明の自己流動性水硬性組成物は、アルミナセメント20〜80質量%、ポルトランドセメント10〜70質量%及び石膏5〜45質量%からなる水硬性成分(100質量%)と、無機粉末、細骨材及び樹脂粉末を含み、さらに、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物である。
【0014】
本発明で使用するアルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0015】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いるができる。
【0016】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0017】
本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いる。
水硬性成分は、好ましくは
アルミナセメント20〜80質量部、ポルトランドセメント10〜70質量部及び石膏5〜45質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、さらに好ましくはアルミナセメント25〜70質量部、ポルトランドセメント15〜60質量部及び石膏10〜40質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、より好ましくはアルミナセメント30〜60質量部、ポルトランドセメント20〜50質量部及び石膏15〜35質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)、特に好ましくはアルミナセメント40〜50質量部、ポルトランドセメント30〜40質量部及び石膏20〜30質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成のものを用いることにより、急硬性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少ない硬化体を得られやすいために好ましい。
【0018】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、硬化体層の乾燥クラックを防止することにより硬化体の通気性を大幅に低下させる効果を有し、さらに、硬化体の引張り強度がより高まることから樹脂粉末を使用することが好ましい。
本発明の自己流動性水硬性組成物は、構成成分の配合比率を厳格に品質管理できることから、構成成分をプレミックス化して現場に供給することが好ましい。このため使用する樹脂粉末についても粉末状の再乳化樹脂粉末であることが好ましい。
樹脂粉末は、乾燥によって発生する収縮応力がひび割れ発生に繋がる過程で、ひび割れの発生に対する抵抗性を向上させる効果及び硬化体組織を緻密化する効果がある。
樹脂粉末としては、樹脂の粉末化方法などの製法については特にその種類は限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂粉末の表面に付着しているものを用いることができる。
樹脂粉末は、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化型の樹脂粉末を用いることが好ましい。
粉末樹脂としては、ポリアクリル酸エステル樹脂系、スチレンブタジエン合成ゴム系、又は酢酸ビニルベオバアクリル共重合系のものを使用することができ、特に、酢酸ビニルベオバアクリル共重合系の再乳化型樹脂粉末やアクリル酸エステル−メタアクリル酸エステル共重合系の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができる。
樹脂粉末の粒子径は、315μmふるい上残分が3%以下、さらに300μmふるい上残分が3%以下、特にさらに300μmふるい上残分が2%以下のものを好ましく用いることが出来る。
樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜15質量部、さらに好ましくは2〜10質量部、特に好ましくは3〜8質量部を配合したものを用いることができる。
粉末樹脂の割合が、上記範囲より大きい場合、水を加えて得られるスラリーの粘度が高くなり施工性が低下するとともに、硬化体の圧縮強度が低下する傾向がある。また、上記範囲より小さい場合には、硬化体の引張り強度の向上効果、通気性の低減効果が小さくなる傾向がある。
【0019】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機粉末、細骨材及び樹脂粉末を含み、さらに凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことが好ましい。
【0020】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、炭酸カルシウム微粉末及びドロマイト微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含むものであり、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。
自己流動性水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは19〜171質量部、より好ましくは23〜162質量部、さらに好ましくは28〜154質量部、特に好ましくは34〜151質量部とするのが好ましい。
【0021】
自己流動性水硬性組成物において、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは19〜171質量部、より好ましくは23〜162質量部、さらに好ましくは28〜154質量部、特に好ましくは34〜151質量部とするのが好ましい。
高炉スラグ微粉末の添加量が、少なすぎると硬化体の乾燥収縮が大きくなり、多すぎると初期強度の低下を招くことがある。
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0022】
自己流動性水硬性組成物では、細骨材を使用する。
細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは27〜205質量部、より好ましくは33〜195質量部、さらに好ましくは40〜185質量部、特に好ましくは49〜181質量部の範囲が好ましい。
細骨材としては、粒径2mm以下の骨材、好ましくは粒径0.075〜1.5mmの骨材、さらに好ましくは粒径0.1〜1mmの骨材、特に好ましくは0.15〜0.6mmの骨材を主成分としていることが好ましい。
細骨材の種類は、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、アルミナクリンカー、シリカ粉、粘土鉱物、廃FCC触媒、石灰石などの無機材料、ウレタン砕、EVAフォーム、発砲樹脂などの樹脂粉砕物などを用いることができる。
特に細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末、アルミナクリンカーなどが好ましく用いることが出来る。
細骨材の粒径は、JIS Z 8801に規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0023】
自己流動性水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ好適な流動性を確保するために流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を用いる。
水硬性成分であるアルミナセメントの発現強度は、水/セメント比の影響を大きく受けることから、減水効果を有する流動化剤を使用して水/水硬性成分比を小さくすることが特に好ましい。
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が好ましい。
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.01〜2.0質量部、さらに好ましくは0.02〜1.0質量部、特に好ましくは0.05〜0.5質量部を配合することができる。添加量が余り少ないと好適な効果(優れた流動性と高い硬化体強度)を発現せず、また添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、場合によっては粘稠性も大きくなり所要の流動性を得るための混練水量が増大して強度性状が悪化する場合が考えられる。
【0024】
凝結調整剤は、使用する水硬性成分や自己流動性水硬性組成物の構成成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結遅延剤及び凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して調製するスラリーの可使時間と速硬性・速乾性とを調整することができ、前記スラリーの使用が非常に容易になるため好ましい。
【0025】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどの有機酸など、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩、オキシカルボン酸類などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることが出来る。
【0026】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
特に重炭酸ナトリウムや酒石酸一ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0027】
凝結遅延剤は、1種または2種類以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜1.5質量部であり、より好ましくは0.1〜1.2質量部、さらに好ましくは0.2〜1.0質量部、特に好ましくは0.25〜0.8質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0028】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることが出来、例えば、凝結促進効果を有するリチウム塩を好適に用いることが出来る。
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0029】
凝結促進剤としては、特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、粒径は50μm以下にするのが好ましい。
特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒径は50μm以下、さらに30μm以下、特に10μm以下が好ましく、粒径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0030】
凝結促進剤は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜1質量部であり、より好ましくは0.01〜0.5質量部、さらに好ましくは0.02〜0.3質量部、特に好ましくは0.02〜0.2質量部の範囲で用いることによって、自己流動性水硬性組成物スラリーの可使時間を確保したのち好適な速硬性・速乾性が得られることから好ましい。
【0031】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることが出来る。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.05〜0.8質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0032】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、自己流動性水硬性組成物スラリーの硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0033】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、1種類の消泡剤を用いる場合、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜3.5質量部、さらに好ましくは0.005〜3.0質量部、より好ましくは0.01〜2.5質量部、特に0.02〜2.2質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
また、2種類以上の消泡剤を併用する場合の消泡剤の添加量は、それぞれの消泡剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.7質量部、より好ましくは0.01〜1.5質量部、特に0.02〜1.3質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0034】
自己流動性水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、粉末樹脂、無機成分、珪砂などの細骨材と、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤とを含むものである。
【0035】
水硬性成分及び樹脂粉末、無機成分、細骨材、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤などを混合機で混合し、自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0036】
自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、スラリー状の自己流動性(セルフレベリング性)を有するスラリー(モルタル)を製造することができ、そのスラリーを硬化させて自己流動性水硬性組成物の硬化体を得ることができる。
【0037】
自己流動性水硬性組成物は、水と混合・攪拌してスラリー(モルタル)を製造することができ、水の添加量を調整することにより、スラリー(モルタル)の流動性、可使時間、材料分離性、スラリー(モルタル)硬化体の強度などを調整することができる。
本発明で用いる自己流動性水硬性組成物スラリーは、自己流動性水硬性組成物(C)と水(W)とを質量比(W/C)が好ましくは0.16〜0.28の範囲、さらに好ましくは0.18〜0.26の範囲、より好ましくは、0.19〜0.25の範囲、特に好ましくは0.20〜0.24の範囲になるように配合して混練することが好ましい。
【0038】
本発明で使用する自己流動性水硬性組成物は、水と混合して調製した自己流動性(セルフレベリング性)を有するスラリー(モルタル)のフロー値が、好ましくは190〜270mm、さらに好ましくは200〜260mm、特に好ましくは210〜255mmに調整されていることが、施工の容易さ及び平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0039】
自己流動性水硬性組成物スラリーの施工厚さは、コンクリート床スラブ表面の凹凸状態やスラブ面の傾斜状態によって異なり、個々の施工現場毎に適宜厚さを設定することができ、床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして、好ましくは施工厚さ2mm〜70mmの範囲、さらに好ましくは施工厚さ2mm〜50mmの範囲、より好ましくは施工厚さ2mm〜40mmの範囲、特に好ましくは施工厚さ2mm〜30mmの範囲で流し込み施工することが好ましい。
自己流動性水硬性組成物スラリーを床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして2mm〜5mmの高さまで薄く施工する場合は、前記スラリーを流し込み施工しながら、スパイクローラー、とんぼ、コテなどを用いてスラリーを均等に広げる操作を行い、床スラブ全体に薄層で高い水平レベルの前記スラリーを形成することが好ましい。
自己流動性水硬性組成物スラリーを床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして5mm〜70mmの高さまで厚く施工する場合には、前記スラリーを流し込み施工しながら、とんぼなどを用いてスラリーが均等に広がるように補助的な操作を行い、床スラブ全体に厚層で高い水平レベルの前記スラリーを形成することが好ましい。
【0040】
本発明で用いる自己流動性水硬性組成物スラリーは、良好な施工性を確保するために充分な可使時間(ハンドリングタイム)を有している。
自己流動性水硬性組成物スラリーの可使時間は、スラリー調製から好ましくは60分間であり、さらに好ましくは50分間であり、特に好ましくは40分間である。
【0041】
自己流動性水硬性組成物スラリーは、施工場所の温度や湿度の条件にもよるが、施工終了後1時間〜3時間の間に硬化を開始し、硬化の進行に伴って硬化体の表面硬度が上昇し、硬化体表面の含水量が低下する。
自己流動性水硬性組成物スラリー硬化体表面のショア硬度は、スラリーの打設(施工)から好ましくは6時間後に50以上、さらに好ましくは4時間後に50以上、より好ましくは3.5時間後に50以上、特に好ましくは3時間後に50以上であり、スラリー施工が終了した後、速やかに硬化が進行することによって自己流動性水硬性組成物スラリーの施工が完了する。
【0042】
また、自己流動性水硬性組成物スラリー硬化体表面の含水量は、塗り床材の施工に適した含水量である5%未満(D値が690未満)に到達するまでの時間(スラリーの打設からの経過時間)が、好ましくは12時間〜24時間であり、さらに好ましくは12時間〜22時間であり、より好ましくは12時間〜20時間であり、特に好ましくは12時間〜18時間である。
本発明の自己流動性水硬性組成物は速硬性・速乾性に優れた特性を有していることから、速やかに良好な硬化状態と表面乾燥状態を得ることができ、次工程である塗り床材の施工工程への移行が翌日には可能となる。
また、本発明の自己流動性水硬性組成物は、上記のようにスラリーの打設後、短期間にスラリー硬化体表面の含水量が5%未満の状態を得ることができることから、スラリー硬化体の上面に塗り床材を施工した場合にも、下地を形成する自己流動性水硬性組成物の硬化体からの水分離脱と拡散を極力抑制でき、上層の塗り床材硬化層に膨れが生じるという事態を回避することができる。
【0043】
自己流動性水硬性組成物スラリー硬化体の長さ変化率の膨張は、好ましくは0〜0.08%、さらに好ましくは0〜0.06%、特に好ましくは0〜0.05%の範囲であり、長さ変化率の収縮は、好ましくは−0.08〜0%、さらに好ましくは−0.06〜0%、特に好ましくは−0.05〜0%の範囲である。
前記の膨張または収縮の特性を有する自己流動性水硬性組成物が、硬化体自体のクラック発生を防止でき、さらに下地となるコンクリート床及び上層に施工される塗り床材との間で高い接着力を保持できることから好ましい。
自己流動性水硬性組成物スラリー硬化体の長さ変化率が、上記範囲を外れた場合には、スラリー硬化体の硬化収縮によってクラックが生じることがあり、そのクラックを介して下地のコンクリート床の離脱水分が拡散して、上層の塗り床材硬化層に膨れが生じたり、スラリー硬化体のクラックがその上層を形成する塗り床材層にまで伝播することがあるため好ましくない。
【0044】
本発明の自己流動性水硬性組成物を用いて、塗床仕上げコンクリート床構造体を形成する場合の実施形態について、図4a〜図4dに一例を示す。
【0045】
図4aは、コンクリート床31を示す部分断面図である。
本発明では、まず図4bに示すように、凹凸(小さな凹凸)32や微妙な傾斜33を有するコンクリート床31上面に、自己流動性水硬性組成物用プライマー34を施工する。
次に、自己流動性水硬性組成物用プライマー34が乾燥して造膜したのち、その上面に図4cに示すように自己流動性水硬性組成物スラリー35を打設する。
【0046】
自己流動性水硬性組成物スラリーの調製および施工は、セルフレベリング材を袋物の形態で施工現場に搬入し、施工場所の近傍で現場設置型の混合・混練装置やハンドミキサー等の混合機を用いて、所定量の水とセルフレベリング材とを混合してスラリーを調製することができる。
【0047】
コンクリート床面に供給・施工された図4cに示す自己流動性水硬性組成物スラリー35が硬化し、スラリー硬化体表面の水分量が5%未満(D値が690未満)に低下したのち、図4dに示すように自己流動性水硬性組成物スラリー硬化体層36の上面に塗り床材用プライマー層37を設け、その上面に塗り床材ベースコート層38を打設して硬化させる。
【0048】
また、本発明では、コンクリート床31上面に、自己流動性水硬性組成物用プライマー34を施工し、自己流動性水硬性組成物スラリー35を打設して硬化させたのち、前記スラリー硬化体層36の表面を研磨装置などを用いて表面研磨処理し、その上面に塗り床材用プライマー層を設け、塗り床材ベースコート層を打設して硬化させることが、自己流動性水硬性組成物硬化体表面と塗り床材用プライマー層及び塗り床材ベースコート硬化体層との間の接着をより以上に高めることができることからさらに好ましい。
研磨処理を行う場合には、例えばライナックス社製研磨機等が好適に使用でき、研磨する深さとしては0.1〜0.5mmの深さまで研磨することが好ましい。
【0049】
また、塗り床材用ベースコート硬化体層38の上面に、ベースコート硬化層の表層を保護したり、耐久性向上或いは滑り防止などの機能向上を目的として、塗り床材用トップコート39を設けることが好ましい。
【0050】
本発明の自己流動性水硬性組成物を用いて形成した平面性に優れた下地面に施工する塗り床材の種類としては、要求される特性に応じて有機質系塗り床材又は無機質系塗り床材から適宜選択して用いることができる。
【0051】
塗り床材は、一般にプライマー層、ベースコート層およびトップコート層から構成される。また、目的・用途によってはプライマー層とベースコート層とを用いて構成され、さらにプライマー層を設けたのち、ベースコート層およびトップコート層をそれぞれ複数層設けて構成されることがある。
【0052】
塗り床材プライマー層は、塗り床材の下地との付着性向上や下地への吸い込み防止、塗り床材のピンホール防止のために用いられ、塗り床材ベースコートの種類に合わせて、有機質系塗り床材用プライマー、無機質系塗り床材用プライマー等を適宜選択して使用することができる。
【0053】
本発明の自己流動性水硬性組成物を用いて形成した平面性に優れた下地面に施工する塗り床材のベースコートとしては、ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、超速硬セメント、特殊速硬形セメントおよびアルミナセメントからなる1種あるいは2種以上を組み合わせたセメント系塗り床材ベースコートや、エチレン酢酸ビニル、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリル、エポキシ等の合成樹脂エマルションからなる1種あるいは2種以上を組み合わせた樹脂系塗り床材ベースコートを適宜選択して用いることができる。また、塗り床材ベースコートは、用途により有機系顔料、無機系顔料あるいはタルク、炭酸カルシウム、粉末状シリカ等の充填材を含有したものも用いることができる。
【0054】
本発明で用いる塗り床材トップコート層は、耐候性、耐汚染性、防滑性あるいはつや消し仕上げ等のベースコート層の保護や各種機能を付与することを目的として有機質系または無機系の塗り床材用トップコートを適宜選択して用いられる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明について実施例に基づいて詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例により制限されるものでない。
【0056】
(特性の評価方法)
(1)セルフレベリング材スラリーの流動性評価:
・フロー値の測定法:
JASS・15M−103に準拠して測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの樹脂製パイプ(内容積100ml)を設置し、練り混ぜたセルフレベリング材スラリーを樹脂製パイプの上端まで充填した後、パイプを鉛直方向に引き上げる。スラリーの広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とし、スラリーの流動性を評価する。
・SL値の測定方法:
SL値は、図6に示すSL測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のスラリーを所定量満たして成形する。成形直後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL0とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L0)(秒/200mm)とする。
同様に成形後20分又は30分後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL20又はL30とし、堰板より200mm流れる時間を測定してその測定時間をそれぞれSL流動速度(L20、L30)(秒/200mm)とする。
・評価条件は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。
【0057】
(2)セルフレベリング材スラリー硬化体の長さ変化の評価:
・長さ変化率の測定は、図7に示す装置を用いる。長さ変化率の測定は、混練直後のスラリーを型内部の型枠の高さまで打設し、打設直後より長さ変化の測定を開始し、測定間隔は5分毎で行い、材齢28日まで測定する。測定条件は、20℃、RH65%の気中で行う。
セルフレベリング材スラリーの硬化時の長さ変化率は、図7(a)に示すSUS製円盤75bと変位センサー74の端部(SUS製円盤75b側の端部)との間隔の変化量(mm)を、SUS製円盤75aとSUS製円盤75cとの間隔(480mm)で除した値とする。
図8、図9及び図10は、セルフレベリング材スラリーが硬化する過程の試料の長さ変化の一例を模式的に表した図である。
図8では、測定試料の材齢0日(a点)を基長として、硬化と共に膨張し、b点で最も膨張し、その後次第に収縮し、材齢28日(c点)の長さとなる。数式(1)〜数式(3)において、Bはa点の試料の長さであり、Cはb点の試料の長さであり、Aはc点の試料の長さである。
図9では、測定試料の材齢0日(a点)を基長として、硬化と共に膨張することなく、次第に収縮し、材齢28日(c点)の長さとなる。数式(1)〜(3)において、BとCはa点の試料の長さであり、Aはc点の試料の長さである。
図10では、測定試料の材齢0日(a点)を基長として、硬化と共に収縮することなく、次第に膨張し、材齢28日(c点)の長さとなる。数式(1)〜(3)において、Bはa点の試料の長さであり、AとCはc点の試料の長さである。
【0058】
・長さ変化率の測定法:図7に示す装置を用いて測定し、下記数式(1)に従い、長さ変化率を算出する。
測定試料は、セルフレベリング材スラリーを型詰めし、打設直後を材齢0日とする。測定条件は、20℃、RH65%の気中で行う。
長さ変化率の(−)は収縮を意味し、(+)は膨張を意味する。
【0059】
【数1】

・長さ変化率の収縮の測定法:図7に示す装置を用いて、長さ変化率の測定法で作製した測定試料を用いて測定する。長さ変化率の膨張は、試料の最も膨張したときの試料の長さ(C)であり、数式(2)に従い、算出する。
【0060】
【数2】

・長さ変化率の収縮の測定法:図7に示す装置を用いて、長さ変化率の測定法で作製した測定試料を用いて測定する。長さ変化率の収縮は、試料の最も膨張したときの長さを基長として、数式(3)に従い、算出する。
【0061】
【数3】

【0062】
(3)セルフレベリング材スラリー硬化体の表面特性の評価:
・ショア硬度の測定法:セルフレベリング材スラリー流し込み後から所定の経過時間において、硬化した表面にスプリング式硬度計タイプD型(上島製作所製)を用いて任意の3〜5カ所に垂直に押し付ける。その時のスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間のショア硬度とし表面硬度を評価する。
・引っかき強さの測定法:セルフレベリング材スラリー流し込み後から所定の経過時間において、硬化した表面を引っかき試験器(日本建築仕上学会式日本塗り床工業会認定品)を用いて任意の3〜5カ所に、定規に沿って2cm/秒の速さで約10cmの長さの引っかき傷をつける。荷重1.0kgでの引っかき傷幅をクラックスケールおよびルーペを用いて測定し、その時間の引っかき強さとし表面硬度を評価する。
・硬化体表面の水分量
セルフレベリング材スラリー流し込み後から所定の経過時間において、コンクリート・モルタル水分計(ケット科学研究所社製)を用いて、硬化した表面の水分量(D値)を測定する。日本床施工技術研究協議会の「コンクリート床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」に基づき、測定値D値(HI−500)が690未満となった場合に、5%未満の水分量であると判定する。
・硬化体表面の性状:
スラリー硬化体表面の性状は、セルフレベリング材スラリーを、13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込んで硬化させ、材齢24時間時点で、粉化及び微細な凹凸の有無を目視で観察することで評価した。評価は以下の通りとする。
評価条件は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。
○:無し、×:有り。
【0063】
(4)セルフレベリング材スラリー硬化体の圧縮強度(N/mm)および曲げ強度(N/mm)の評価:
・JIS・R−5201に示される4×4×16cmの型枠に生成モルタルを型詰めして、温度20℃、湿度65%で24時間気中養生した後、脱型し、さらに気中で所定期間(7日、28日)追加養生して成型体を得る。成型体は、JIS・R−5201記載の方法に従い測定する。
【0064】
(5)接着強さの評価:
・接着強さの測定法:
NNK−005:2000(日本塗り床工業会)の塗り床材の付着強さ試験方法に準拠して測定する。セルフレベリング材スラリー流し込み後から材齢1日後および材齢14日後のセルフレベリング材スラリー硬化体層の上に、塗り床材用プライマー層を設け、その上に塗り床材を塗布し硬化体層を設ける。材齢7日後の塗り床材硬化体層に付着面が40mm×40mmの正方形の鋼製ジグを接着剤にて5ヶ所に接着させる。接着剤が硬化した後、鋼製ジグの周囲に沿ってセルフレベリング材スラリー硬化体層に達するまでダイヤモンドカッターなどで切り込みを入れ、鋼製ジグを建研式接着試験機に取り付て徐々に引張り荷重を加え、破断するまで加圧を行なう。破断するまでの最大荷重を最大引張り荷重とし、5ヶ所の平均値を塗り床材との接着強さとして接着強さを評価する。
塗り床材との接着強さは数式(4)に従い算出する。
【0065】
【数4】

【0066】
(6)耐動荷重性の評価:
・キャスター性試験の測定法:
セルフレベリング材スラリー流し込み後から材齢14日後のセルフレベリング材スラリー硬化体層の上に、塗り床材用プライマー層を設け、その上に塗り床材を塗布し硬化体層を設け、材齢7日まで養生期間をおいた後、およびセルフレベリング材スラリー流し込み後から材齢1日後のセルフレベリング材スラリー硬化体層の上に、塗り床材用プライマー層を設け、その上に塗り床材を塗布し硬化体層を設け、材齢27日まで養生期間をおいた後、EN13892−5(2003)の試験方法に準拠してへこみ量(耐動荷重性)を測定する。試験装置は、試験体を載せる載台を直角方向及び平行方向に作動させる運転装置をもち、載台とキャスターの回転軸とは互いに直角に位置し、水平に動くようになっている。試験条件は、2000±10Nの荷重がかかった1輪のスチール製キャスターを用い、試験体の載った載台のストロークが、一方向は390±2mmストローク幅で7±0.4rpmとし、もう一方向は260±2mmストローク幅で1.72±0.1rpmとする。供試体上の所定面積を往復する過程を1回として、1万回繰返し運転を行うこととする。測定は、運転終了後に試験体表面の直角方向及び平行方向にそれぞれ等間隔に4本の線を引き各線の交点(16点)のへこみ量を測り、その平均へこみ量を求める。
【0067】
(使用材料):以下の材料を使用した。
1)セルフレベリング材用プライマー : 宇部興産社製、UプライマーQ
2)セルフレベリング材 : 下記の原材料を表1に示す配合割合で混合したセルフレベリング材を使用した。
・アルミナセメント : フォンジュ、ラファージュアルミネート社製、ブレーン比表面積3100cm/g。
・ポルトランドセメント : 早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g。
・石膏 : II型無水石膏、セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g。
・細骨材 : 珪砂:6号珪砂。
・無機成分 : 高炉スラグ微粉末、リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g。
・樹脂粉末 : 酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル/アクリル酸エステルの共重合体、ニチゴー・モビニール社製、DM2071P。
・凝結調整剤a : 重炭酸ナトリウム、東ソー社製。
・凝結調整剤b : L−酒石酸ニナトリウム、扶桑化学工業社製。
・凝結調整剤c : 炭酸リチウム、本荘ケミカル社製。
・流動化剤 : ポリカルボン酸系流動化剤、花王社製。
・増粘剤 : ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤、マーポローズMX−30000、松本油脂社製。
・消泡剤a : ポリエーテル系消泡剤、サンノプコ社製。
・消泡剤b : ポリエーテル系消泡剤、ADEKA社製。
3)塗り床材用プライマー
・プライマーa : エポキシ系、インフィックスEF、富士丸化学工業社製。
・プライマーb : エポキシ系、ケミクリートEプライマー、ABC商会社製。
・プライマーc : ウレタン系、ウレタン用プライマー、ABC商会社製。
・プライマーd : エポキシ系、JE−70、AICA社製。
4)塗り床材用ベースコート
・ベースコートa : エポキシ系、オンクリート73R、富士丸化学工業社製。
・ベースコートb : エポキシ系、ケミクリートE、ABC商会社製。
・ベースコートc : ウレタン系、カラートップDL、ABC商会社製。
・ベースコートd : エポキシ系、JE−10、AICA社製。
・ベースコートe : ウレタン系、JU−20、AICA社製。
5)塗り床材用トップコート
・トップコート : エポキシ系、オンクリート#58、富士丸化学工業社製。
【0068】
(セルフレベリング材のスラリー調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、表1に示す配合割合で調製したセルフレベリング材と水とを、実施例1及び実施例2についてはセルフレベリング材100質量部に対して水22質量部の割合でそれぞれ配合し、参考例1についてはセルフレベリング材100質量部に対して水26質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、セルフレベリング材スラリーを調製した。
【0069】
富士丸化学工業社製のエポキシ系塗り床材の調製は以下に示す方法で行った。
(塗り床材用プライマーの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材用エポキシ系プライマーのA剤100質量部に対してB剤50質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材用エポキシ系プライマーを調製した。
(塗り床材用ベースコートの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材用エポキシ系ベースコートの基剤A100質量部に対して硬化剤B25質量部および7号珪砂125質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材用エポキシ系ベースコートを調製した。
(塗り床材用トップコートの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材用エポキシ系トップコートの基剤A100質量部に対して硬化剤B12.5質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材用エポキシ系トップコートを調製した。
【0070】
ABC商会社製のエポキシ系塗り床材の調製は以下に示す方法で行った。
(塗り床材用プライマーの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材用エポキシ系プライマーのA剤100質量部に対してB剤50質量部およびプライマー用フィラー75質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材用エポキシ系プライマーを調製した。
(塗り床材用ベースコートの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材用エポキシ系ベースコートの基剤A100質量部に対して硬化剤B20質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材用エポキシ系ベースコートを調製した。
【0071】
ABC商会社製のウレタン系塗り床材の調製は以下に示す方法で行った。
(塗り床材用プライマーの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材用ウレタン系プライマーのA剤100質量部に対してプライマー用フィラー50質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材用ウレタン系プライマーを調製した。
(塗り床材用ベースコートの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材用ウレタン系ベースコートの基剤A100質量部に対して硬化剤B100質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材用ウレタン系ベースコートを調製した。
【0072】
AICA社製のエポキシ系塗り床材の調製は以下に示す方法で行った。
(塗り床材用プライマーの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材用エポキシ系プライマーのA剤100質量部に対してB剤100質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材用エポキシ系プライマーを調製した。
(塗り床材用ベースコートの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材用エポキシ系ベースコートの基剤A100質量部に対して硬化剤B50質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材用エポキシ系ベースコートを調製した。
【0073】
AICA社製のウレタン系塗り床材の調製は以下に示す方法で行った。
(塗り床材用プライマーの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材用エポキシ系プライマーのA剤100質量部に対してB剤100質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材用エポキシ系プライマーを調製した。
(塗り床材用ベースコートの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、塗り床材用ウレタン系ベースコートの基剤A100質量部に対して硬化剤B100質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、塗り床材用ウレタン系ベースコートを調製した。
【0074】
[実施例1〜2、参考例1]
表1に示す成分を配合したセルフレベリング材を用いてセルフレベリング材スラリーを調製した。スラリーの流動性(フロー値、SL値)の測定結果を表2に示す。
【0075】
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、JIS・A5304舗装用コンクリート平板に規定する300mm×300mm×60mmのコンクリート平板にセルフレベリング材用プライマーの3倍液(原液150g/m2に水を300g/m2加える)を塗布して乾燥した。プライマー造膜後、セルフレベリング材スラリーを施工厚さが10mmになるよう流し込んで硬化させ、セルフレベリング材スラリー硬化体層を得た。スラリー硬化体の表面硬度(ショア硬度)、引っかき強さ、表面水分量及び表面性状を評価した結果を表3に示す。
【0076】
また、前記3種類の配合のセルフレベリング材スラリーを、JIS・R−5201に示される4×4×16cmの型枠に型詰めして、長さ変化率、圧縮強度及び曲げ強度測定のための供試体を得た。スラリー硬化体の長さ変化率、圧縮強度及び曲げ強度を評価した結果を表3に示す。
【0077】
[実施例3〜4、参考例2]
JIS・A5304舗装用コンクリート平板にセルフレベリング材用プライマーを塗布・乾燥してプライマー層が造膜した後、セルフレベリング材スラリーを施工厚さが10mmになるよう流し込んで硬化させ、JASS 15 M−13(セルフレベリング材の品質基準)に記載の表面接着試験用供試体の規定にしたがって、材齢14日間養生してセルフレベリング材スラリー硬化体層を得た。次に、セルフレベリング材スラリー硬化体層の上に各種塗り床材をそれぞれ施工し、塗り床材が硬化した後7日間養生して塗り床仕上げコンクリート構造体の供試体を得た。
【0078】
[実施例5〜9、参考例3]
JIS・A5304舗装用コンクリート平板にセルフレベリング材用プライマーを塗布・乾燥してプライマー層が造膜した後、セルフレベリング材スラリーを施工厚さが10mmになるよう流し込んで硬化させ、材齢1日養生してセルフレベリング材スラリー硬化体層を得た。次に、セルフレベリング材スラリー硬化体層の上に各種塗り床材をそれぞれ施工し、塗り床材が硬化した後7日間養生して接着強さ試験用の塗り床仕上げコンクリート構造体の供試体を得た。
JIS・A5304舗装用コンクリート平板にセルフレベリング材用プライマーを塗布・乾燥してプライマー層が造膜した後、セルフレベリング材スラリーを施工厚さが10mmになるよう流し込んで硬化させ、材齢1日養生してセルフレベリング材スラリー硬化体層を得た。次に、セルフレベリング材スラリー硬化体層の上に各種塗り床材をそれぞれ施工し、塗り床材が硬化した後27日間養生してキャスター性試験用の塗り床仕上げコンクリート構造体の供試体を得た。
【0079】
富士丸化学工業社製のエポキシ系塗り床材の施工は以下に示す方法で行った。
塗り床材用エポキシ系プライマーを150g/mになるようローラーを用いて塗布・乾燥してプライマー層を造膜後、塗り床材用エポキシ系ベースコートを1kg/mになるようコテを用いて塗り付け施工してベースコート層を設けた。塗り床材用ベースコートが硬化した後、塗り床材用エポキシ系トップコートを1.5kg/mになるようコテを用いて塗り付け施工してトップコート層を設けた。
【0080】
ABC商会社製のエポキシ系塗り床材の施工は以下に示す方法で行った。
塗り床材用エポキシ系プライマーを200g/mになるようローラーを用いて塗布・乾燥してプライマー層を造膜後、塗り床材用エポキシ系ベースコートの1層目を300g/mになるようコテを用いて塗り付け施工してベースコート1層目を設けた。塗り床材用エポキシ系ベースコート1層目が硬化した後、塗り床材用エポキシ系ベースコートの2層目を800g/mになるようコテを用いて塗り付け施工してベースコート層を設けた。
【0081】
ABC商会社製のウレタン系塗り床材の施工は以下に示す方法で行った。
塗り床材用ウレタン系プライマーを200g/mになるようローラーを用いて塗布・乾燥してプライマー層を造膜後、塗り床材用ウレタン系ベースコート層を1.5kg/mになるようコテを用いて塗り付け施工してベースコート層を設けた。
【0082】
AICA社製のエポキシ系塗り床材の施工は以下に示す方法で行った。
塗り床材用エポキシ系プライマーを200g/mになるようローラーを用いて塗布・乾燥してプライマー層を造膜後、塗り床材用エポキシ系ベースコートの1層目を200g/mになるようローラーを用いて塗り付け施工してベースコート1層目を設けた。塗り床材用エポキシ系ベースコート1層目が硬化した後、塗り床材用エポキシ系ベースコートの2層目を200g/mになるようローラーを用いて塗り付け施工してベースコート層を設けた。
【0083】
AICA社製のウレタン系塗り床材の施工は以下に示す方法で行った。
塗り床材用エポキシ系プライマーを200g/mになるようローラーを用いて塗布・乾燥してプライマー層を造膜後、塗り床材用ウレタン系ベースコートの1層目を500g/mになるようコテを用いて塗り付け施工してベースコート1層目を設けた。塗り床材用エポキシ系ベースコート1層目が硬化した後、塗り床材用エポキシ系ベースコートの2層目を1.0kg/mになるようコテを用いて塗り付け施工してベースコート層を設けた。
【0084】
使用したセルフレベリング材と塗り床材の組み合わせ、及び、これらの供試体について、接着試験及びキャスター性試験(耐動荷重性の評価)を行った結果を表4および表5に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
【表5】

【0090】
(1)参考例1のセルフレベリング材は、スラリーの流動特性が優れるとともに、水硬性成分100質量%中にアルミナセメントを44質量%含むことから良好な速硬性を示し、スラリー施工後6時間でショア硬度66が得られている。(ショア硬度45以上の場合、硬化体層の上に作業者が乗ることが可能)
(2)実施例1および実施例2のセルフレベリング材は、スラリーの流動特性において、フロー値、SL値ともに参考例1とほぼ同等の流動性を示し、スラリー流動速度については参考例1以上に良好な特性が得られている。さらに、硬化体表面のショア硬度においては、施工から3時間で70以上のショア硬度を示し、硬化体表面の引っかき強さについても参考例1を上回る強さを示している。また、硬化体表面の水分量については、スラリー施工後24時間で、塗り床材を好適に施工できるとされる水分量5%未満を満足し、極めて優れた速硬性・速乾性を示している。
スラリー硬化体の収縮率についても参考例1よりも小さい値を示し、硬化体表面の仕上りについても参考例と同等の良好な性状が得られている。
さらに、スラリー硬化体の圧縮強度および曲げ強度についても参考例1を凌ぐ強度特性が得られている。
(3)セルフレベリング材スラリー硬化体の上面に塗り床材を施工した供試体に関する接着強さ試験結果では、実施例3及び実施例4ともに参考例2を上回る接着強さが得られており、また、キャスター性試験(耐動荷重性の評価)の結果では、実施例3及び実施例4では参考例2の場合のへこみ量を大幅に下回る値が得られている。
(4)実施例1と比較して樹脂粉末の添加量が多い実施例2のセルフレベリング材では、曲げ強度(表3)と接着強さ(表4・実施例4)において優れた特性を示している。逆に実施例2と比較して樹脂粉末の添加量が少ない実施例1のセルフレベリング材では、圧縮強度(表3)と耐動荷重性(表4、キャスター性試験・実施例3)において優れた特性を示している。さらに、実施例1のセルフレベリング材を用いた場合、材齢1日の短材齢で各種塗り床材を施工した場合においても、各種塗り床材に対して高い接着強さ(表5)が得られると共に、耐動荷重性(表5、キャスター性試験)においては、実施例5に示すようにより優れた特性を示している。
【0091】
多種多様な凹凸や傾斜を有するコンクリート床の上面に、塗り床材を用いてコンクリート床構造体を形成する場合、本発明の自己流動性水硬性組成物を施工・硬化させて優れた水平レベルを有する下地層を形成した後に、塗り床材を施工することによって、塗り床材の仕上り面もまた優れた水平レベルを有し、良好な供用性と美観を有するコンクリート床構造体が得られる。
また、本発明では自己流動性水硬性組成物として、アルミナセメントを適正量含む水硬性成分を前記水硬性組成物中に一定割合含有させることで、速硬性・速乾性に優れ、優れた水平レベル性を有する床面を形成でき、極めて効率的に且つ安定的に塗り床下地を施工することが可能となる。
また、従来課題となることがあったコンクリート床から離脱しようとする水分による塗り床材硬化層の膨れについても、本発明では、寸法変化率及び通気性が極めて小さい前記の自己流動性水硬性組成物を選択して用い、緻密で高強度な硬化体層を下地コンクリートと塗り床材硬化体層の中間層に設けることによって解消することができる。
さらに、本発明の自己流動性水硬性組成物を用いて塗床下地を形成し、塗り床仕上げ施工を行うことで、塗り床仕上げコンクリート構造体は、高い水平レベル性を有するとともに、高強度で高耐磨耗な特性を有することから、床構造体として優れた耐久特性が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】コンクリート床に塗り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図2】コンクリート床に塗り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図3】コンクリート床に塗り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図4】コンクリート床にセルフレベリング材を施工し、塗り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図5】SL測定器を用いて水硬性スラリーのセルフレベリング性を評価する概略を示す模式図である。
【図6】セルフレベリング材が硬化する過程の長さ変化を測定する装置の模式図である。
【図7】セルフレベリング材の硬化時の長さ変化の一例を示す模式図である。
【図8】別のセルフレベリング材の硬化時の長さ変化の一例を示す模式図である。
【図9】別のセルフレベリング材の硬化時の長さ変化の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0093】
10 : コンクリートスラブ
11 : コンクリート床
12 : 塗り床材
13 : プライマー層
14 : ベースコート層
15 : トップコート層
16 : 塗り床材を施工した床面
17 : 小さな凹凸
18 : (微妙な)傾斜
19 : 凹部
20 : 凸部
30 : コンクリートスラブ
31 : コンクリート床
32 : 小さな凹凸
33 : (微妙な)傾斜
34 : セルフレベリング材用プライマー
35 : セルフレベリング材スラリー
36 : セルフレベリング材スラリー硬化体
37 : 塗り床材用プライマー層
38 : 塗り床材用ベースコート層
39 : 塗り床材用トップコート層
40 : 塗り床表面
51 : 長さ変化測定装置
52 : 型枠
53 : 緩衝材
54 : 渦電流式変位センサー
55 : SUS製円盤(75a,75b,75c)
56 : SUS棒(76a,76b)
57 : フッ素樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント20〜80質量%、ポルトランドセメント10〜70質量%及び石膏5〜45質量%からなる水硬性成分(100質量%)と、無機粉末、細骨材及び樹脂粉末を含み、さらに、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物。
【請求項2】
水硬性成分と無機成分と細骨材の合計質量(100質量%)中、水硬性成分は26〜60質量%であることを特徴とする請求項1に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項3】
自己流動性水硬性組成物は、水硬性成分100質量部に対して、樹脂粉末を0.5〜20質量部含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項4】
樹脂粉末は、酢酸ビニルベオバアクリル共重合体系の再乳化型樹脂粉末及び/又はアクリル酸エステル−メタアクリル酸エステル共重合体系の再乳化型樹脂粉末であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項5】
自己流動性水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリーの硬化体表面ショア硬度は、スラリーを打設(施工)したのち6時間後に50以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項6】
自己流動性水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリーの硬化体表面の水分量は、スラリー打設(施工)したのち24時間後に5%未満(D値=690未満)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項7】
自己流動性水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリー硬化体は、長さ変化率の膨張が0〜0.08%であり、長さ変化率の収縮が−0.08〜0%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項8】
自己流動性水硬性組成物は、該水硬性組成物と水とを混練して調製したスラリーの硬化体の上面に、エポキシ樹脂系塗り床材、ウレタン樹脂系塗り床材、メタクリル樹脂系塗り床材、アクリル樹脂系塗り床材、ポリエステル樹脂系塗り床材、ビニルエステル系塗り床材及びポリマーセメント系塗り床材から選ばれるいずれか1種の塗り床材が塗布・施工されて形成される塗床仕上げコンクリート床構造体用であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるスラリー。
【請求項10】
請求項1〜8に記載の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるスラリー硬化体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−214178(P2008−214178A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334021(P2007−334021)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】