自律神経機能診断装置、生体モニタリングシステムおよびプログラム
【課題】LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは診断することができないような自律神経機能の異常の有無を判定する。
【解決手段】心電図モニタ14は、被診断者の心臓の動きを電気信号として得て心電データとして記録する。CCV(DC)算出部15は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における0.04Hz以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数(CCV(DC))を算出する。判定処理部16は、制御装置18から表示装置22を介して起立指示が行われた後に、CCV(DC)算出部15により算出されたCCV(DC)の値に基づいて、被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する。
【解決手段】心電図モニタ14は、被診断者の心臓の動きを電気信号として得て心電データとして記録する。CCV(DC)算出部15は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における0.04Hz以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数(CCV(DC))を算出する。判定処理部16は、制御装置18から表示装置22を介して起立指示が行われた後に、CCV(DC)算出部15により算出されたCCV(DC)の値に基づいて、被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律神経機能についての異常の有無を診断するための自律神経機能診断装置、生体状態を監視するための生体モニタリングシステムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会では、社会環境に基づく様々なストレスが増加している。そのため、近年、うつ病、自律神経失調症、起立性調節障害、慢性疲労症候群のような精神的な疾患を抱える患者の増加が大きな社会問題となっている。そして、このような精神的な疾患に陥ると、自律神経が正常に機能しなくなる機能障害が発生する。
【0003】
自律神経には、主に活性状態の時に機能する交感神経と、主に安静状態の時に機能する副交感神経とがある。生体が安静状態の時には、自律神経の状態が副交感神経優位の状態となり、血圧値、脈拍数は下降する。そして、生体が緊張・活性状態の時には、自律神経の状態は交感神経優位の状態となり、血圧値、脈拍数が上昇する。
【0004】
自律神経機能が正常な場合には、この交感神経と副交感神経とがバランスを保ちながら交感神経優位の状態と副交感神経優位の状態との間で切り替えが行われる。しかし、自律神経機能が異常になるとこのバランスがくずれてしまい、患者に対して負荷をかけた場合でも適切に自律神経機能が反応しなくなることが知られている。
【0005】
そのため、被診断者に対して起立試験等の負荷試験を行って自律神経機能の反応を観察することにより、自律神経機能の診断を行うための様々な方法が提案されている(例えば特許文献1〜4参照)。
【0006】
この特許文献1〜4に記載された従来の診断方法では、心拍数の分散を用いて自律神経機能の評価を行ったり、心電データから得られたR波間隔のデータをスペクトル解析して得られたパワースペクトルにおけるLF成分やHF成分を用いて、交感神経の活動度、副交感神経の活動度を測定したり、R波間隔の変動係数である心電図R−R間隔変動係数(CVRR:Coefficient of Variance of R-R intervals)を求めて自律神経機能が正常であるか否かの診断が行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−35896号公報
【特許文献2】特許第4327243号公報
【特許文献3】特許第4487015号公報
【特許文献4】特許第4516623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本願の発明者らは、上述したような従来の方法を用いてLF成分やHF成分またはCVRRをそれぞれ単独で観察しただけでは、自律神経機能の異常の有無を診断できない場合があることに気がついた。つまり、自律神経機能に異常がある可能性が高いと思われる被診断者に対して試験を行っても異常を検出できない場合があることに気がついた。
【0009】
本発明の目的は、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは診断することができないような自律神経機能の異常の有無を判定することが可能な自律神経機能診断装置、生体モニタリングシステムおよびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[自律神経機能診断装置]
上記目的を達成するために、本発明の自律神経機能診断装置は、被診断者の心電を測定する心電測定手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段とを備えている。
【0011】
また、本発明の他の自律神経機能診断装置は、心電測定装置により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段とを備えている。
【0012】
本発明によれば、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルのLF成分やHF成分または、心電図R−R間隔変動係数CVRRだけでなく、直流成分変動係数に基づいて自律神経機能の異常の有無を判定するようにしているので、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは診断することができないような自律神経機能の異常の有無を判定することが可能になる。
【0013】
さらに、前記判定手段は、前記算出手段により算出された直流成分変動係数が、前記指示手段により負荷試験の指示を行ってから所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合、前記被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定するようにしても良い。
【0014】
さらに、前記判定手段は、前記算出手段により算出された直流成分変動係数の心電図R−R間隔変動係数に対する割合が、前記指示手段により負荷試験の指示を行ってから所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合に、前記被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定するようにしても良い。
【0015】
本発明によれば、被診断者の年齢等の要因により直流成分変動係数の絶対値が変化した場合でも、心電図R−R間隔変動係数に対する割合に基づいて診断が行われるため、被診断者の年齢によらずに精度の高い診断を行うことが可能となる。
【0016】
さらに、前記算出手段は、パワースペクトルの周波数成分における0.04Hz以下の領域の積分値である直流成分DCと、R−R間隔の平均値AVRRから、
【数1】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出するようにしても良い。
【0017】
さらに、前記算出手段は、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における0.04〜0.15Hzの領域の積分値である低周波数成分LF及び0.15〜0.45Hzの領域の積分値である高周波成分HFと、R−R間隔の平均値AVRRと、心電図R−R間隔変動係数CVRRとから、
【数2】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出するようにしても良い。
【0018】
本発明によれば、直流成分変動係数を直接算出するのではなく、比較的短時間の測定で算出可能な心電図R−R間隔変動係数CVRR、低周波数成分LFおよび高周波数成分HFから直流成分変動係数を算出するようにしているので、測定時間を長くすることなく直流成分変動係数が算出可能になる。
【0019】
また、本発明の他の自律神経機能診断装置は、被診断者の脈波を測定する脈波測定手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記脈波測定手段により測定された脈波データに基づいて、脈波間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段とを備えている。
【0020】
本発明によれば、被診断者の心電データの替わりに脈波データを測定して直流成分変動係数を算出しているので、被診断者の自律神経機能についての異常の有無を簡便に判定することが可能となる。
【0021】
[生体モニタリングシステム]
また、本発明の生体モニタリングシステムは、生体の心電を測定する心電測定手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段とを備えている。
【0022】
また、本発明の他の生体モニタリングシステムは、心電測定装置により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段とを備えている。
【0023】
本発明によれば、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルのLF成分やHF成分または、心電図R−R間隔変動係数CVRRだけでなく、直流成分変動係数に基づいて生体の異常を監視しているので、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは検出することができないような被診断者の異常を検出することが可能になる。
【0024】
また、本発明の他の生体モニタリングシステムは、生体の脈波を測定する脈波測定手段と、
前記脈波測定手段により測定された脈波データに基づいて、脈波間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段とを備えている。
【0025】
本発明によれば、被診断者の心電データの替わりに脈波データを測定して直流成分変動係数を算出しているので、被診断者の異常の発生の監視を簡便に行うことが可能となる。
【0026】
[プログラム]
また、本発明のプログラムは、被診断者の心電を測定するステップと、
測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
負荷試験の指示が行われた後に、算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定するステップと、
判定結果を表示するステップとをコンピュータに実行させる。
【0027】
また、本発明の他のプログラムは、被診断者の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
負荷試験の指示が行われた後に、算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定するステップと、
判定結果を表示するステップとをコンピュータに実行させる。
【0028】
また、本発明の他のプログラムは、生体の心電を測定するステップと、
測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
算出された直流成分変動係数を表示するステップと、
算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告するステップとをコンピュータに実行させる。
【0029】
また、本発明の他のプログラムは、生体の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
算出された直流成分変動係数を表示するステップと、
算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0030】
以上、説明したように、本発明によれば、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは診断することができないような自律神経機能の異常の有無を判定することが可能となるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態の自律神経機能診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の自律神経機能診断装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】図1中の心電モニタ14により測定された心電データの心電波形の一例を示す図である。
【図4】R−R波間隔をプロットして再サンプリングしたデータに対してスペクトル解析を行って求めたパワースペクトルの一例を示す図である。
【図5】直流成分変動係数CCV(DC)を算出するための式を示す図である。
【図6】CVRR、CCV(LF)およびCCV(HF)から、CCV(DC)を間接的に算出する際の算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】CVRRを算出するための式を示す図(図7(A))、およびCCV(LF)、CCV(HF)を算出するための式を示す図である(図7(B))。
【図8】CVRR、CCV(LF)およびCCV(HF)を用いてCCV(DC)を算出可能であることを説明するための図である。
【図9】本発明の第1の実施形態の自律神経機能診断装置における表示装置22の具体的な表示例を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施形態の自律神経機能診断装置における表示装置22の具体的な別の表示例を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施形態の生体モニタリングシステムにおける具体的な表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態について説明する。本実施形態では、自律神経機能についての異常の有無を診断するための自律神経機能診断装置に対して本願発明を適用した場合について説明する。
【0034】
図1は本発明の第1の実施形態の自律神経機能診断装置の構成を示すブロック図である。本実施形態の自律神経機能診断装置は、図1に示されるように、被測定者の心電データを取得するための心電図モニタ14と、CCV(DC)算出部15と、判定処理部16と、制御装置18と、記憶装置20と、診断結果を表示するための表示装置22とから構成されている。
【0035】
心電図モニタ14は、被診断者の例えば喉元にマイナス電極を、左脇腹にプラス電極を、右脇腹にボディアースをそれぞれ装着し、心臓の動きを電気信号として得て心電データとして記録する。
【0036】
CCV(DC)算出部15は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における0.04Hz以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数(CCV(DC):component coefficient of variance (DC))を算出する。なお、このCCV(DC)の具体的な算出方法については後述する。
【0037】
判定処理部16は、制御装置18から表示装置22を介して起立指示が行われた後に、CCV(DC)算出部15により算出されたCCV(DC)の値に基づいて、被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する。具体的には、判定処理部16は、CCV(DC)算出部15により算出されたCCV(DC)が、制御装置18により起立試験の指示が行われてから、例えば60秒というような所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合、被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定する。
【0038】
ここで、自律神経機能についての異常とは、自律神経機能自体に異常がある場合だけでなく、自律神経機能に指示を出す機能に異常があり自律神経機能が正常に働かず自律神経機能に支障をきたすような異常がある場合をも含む。この自律神経機能について異常がある場合とは、具体的には、自律神経失調症、うつ病、起立性調節障害、慢性疲労症候群、迷走神経反射性失神、交感神経亢進失神等様々な場合が考えられる。また、糖尿病による自律神経障害等も自律神経機能についての異常に含まれる。
【0039】
ただし、CCV(DC)の絶対値は、被診断者の年齢等により大きく変化するため、判定処理部16は、CCV(DC)の値のCVRR(Coefficient of Variance of R-R intervals:心電図R−R間隔変動係数)に対する割合が、制御装置18により起立試験の指示が行われてから所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合に、被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定するようにしてもよい。なお、このCVRRの具体的な算出方法についても後述する。
【0040】
制御装置18は、例えばコンピュータからなり、被診断者の心電データの測定が開始された後、表示装置22を介して被診断者に対して負荷試験を指示し、判定処理部16によって得られた判定結果を記憶装置20に記憶し、あるいは表示装置22に表示する。
【0041】
具体的には、制御装置18は、心電図モニタ14により心電データの測定が開始され、CCV(DC)算出部15により被診断者の安静時のCCV(DC)が測定されCCV(DC)算出可能な状態になったと判断すると、表示装置22を介して被診断者に対して負荷試験として起立試験を行うよう指示し、判定処理部16により得られた被診断者に自律神経機能の異常の可能性があるか否かの判定結果を表示装置22に表示する。
【0042】
また、本実施形態では、制御装置18は、被診断者に対して起立試験を行う構成であるが、本発明はこれに限定されるものではない。制御装置18が行う負荷試験として、例えば、被診断者に対して深呼吸を行わせるような負荷試験や、被診断者に対して安静仰臥位から立ち上がらせるような負荷試験など、肉体的または精神的な負荷を被診断者に与える負荷試験であれば、起立試験以外の他の負荷試験を行うような場合でも、本発明は同様に適用可能である。
【0043】
次に、本実施形態の自律神経機能診断装置の動作を図2を参照して詳細に説明する。図2は本実施形態の自律神経機能診断装置の動作を示すフローチャートである。
【0044】
まず、初期設定として、診断が開始される前に、被診断者の氏名、年齢、ID番号、性別、既往歴(糖尿病、血管障害など)等の被診断者情報が制御装置18に入力される。(ステップS101)。
【0045】
そして、診断が開始されると、心電図モニタ14により被診断者の心電データの測定が行われる(ステップ102)。すると、制御装置18は、被診断者に対して起立指示を行い(ステップS103)、CCV(DC)算出部15は、被診断者の起立後に測定された心電データからCCV(DC)を算出する(ステップS104)。
【0046】
次に、判定処理部16は、CCV(DC)算出部15により算出された起立後のCCV(DC)の値に基づいて、被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する(ステップS105)。
【0047】
そして、判定処理部16により得られた診断結果は、制御装置18により記憶装置20に格納されるとともに表示装置22に表示され(ステップS106)、診断が終了する。
【0048】
次に、図2のステップS104示したCCV(DC)の算出方法の詳細について説明する。
【0049】
まずステップS104において、CCV(DC)算出部15は、心電図モニタ14から入力された心電データから心拍変動を算出する。この心拍変動の算出は、図3(A)及図3(B)に示すように、R波と次のR波との間隔をとってR−R間隔を測定し、次に図3(C)及び図3(D)に示すように、測定したR-R間隔データを後方のR波の時間的位置にプロットし、これを補間した後に、等間隔(図3(C)の点線)で再サンプリングしたデータを作成することにより行う。次に、この再サンプリングしたデータに対してスペクトル分析(周波数変換)を行ってパワースペクトルを求める。このパワースペクトルの一例を図4(A)に示す。この図4において横軸は、周波数であり、縦軸はPSD(Power spectral density:パワースペクトル密度)である。
【0050】
CCV(DC)算出部15は、図4(A)に示したパワースペクトルから、図4(B)に示すような0.04Hz以下の領域の積分値である直流成分DC(ms2)を算出する。ここで、直流成分DCとは、具体的には、超低周波数領域(0.03〜0.04Hz)の積分値VLFおよび極超低周波領域(0.03Hz以下)の積分値ULFを合わせたものである。
【0051】
なお、低周波成分LF(ms2)は、パワースペクトルの周波数成分における0.04〜0.15Hzの領域の積分値であり(図4(C))、高周波成分HF(ms2)は、パワースペクトルの周波数成分における0.15〜0.45Hzの領域の積分値である(図4(D))。
【0052】
そして、CCV(DC)算出部15は、上記で算出された直流成分DCと、心電データにおけるR波の間隔であるR−R間隔の平均値AVRRから、図5に示すような計算式に基づいて、CCV(DC)を算出する。
【0053】
ただし、周波数解析を行う計算方法の種類によっては、低い周波数の計算には長い測定時間が必要となる場合がある。例えば、周波数解析を行う計算方法としてフーリエ変換を用いたような場合、周波数fの演算を行うためには、測定時間T=1/fが必要となる。つまり、測定時間が30秒の場合、周波数約0.033Hz程度までしか演算できないことになり、0.04Hz以下の領域の演算を充分行うためには長時間の測定を行う必要がある。
【0054】
そのため、CCV(DC)算出部15は、CCV(DC)を直接算出するのではなく、低周波成分LF、高周波成分HFと、R−R間隔の平均値AVRRと、心電図R−R間隔変動係数CVRRとから、CCV(DC)を算出するようにしてもよい。低周波成分LF、高周波成分HFの算出には、直流成分DCの算出と比較して短時間の測定時間ですむため、このような算出方法を用いることにより、周波数解析の方法に限定されることなく短い測定時間でCCV(DC)を算出することが可能となる。
【0055】
なお、最大エントロピー法やウェーブレット解析により周波数変換を行えば、測定時間が短い場合でも低周波領域のスペクトル密度を推定することは可能である。
【0056】
このような方法によりCCV(DC)を算出する際のCCV(DC)算出部15における算出処理の流れを図6のフローチャートに示す。
【0057】
CCV(DC)算出部15は、先ず心電データからCVRRを算出する(ステップS201)。CVRRとは、心拍変動のばらつき度合いを示す指標であり、図3(B)およびその拡大図である図3(A)に示した心電波形におけるR−R間隔(心電波形のR波の頂点の間隔)のばらつき度合いを示す係数である。このCVRRは、具体的には、図7(A)に示すような式により算出される。この図7(A)に示す式において、SDRRとは、R−R間隔標準偏差であり、AVRRはR−R間隔平均である。
【0058】
ここで、R−R間隔標準偏差とは、例えば、30秒間という所定期間や100拍というような心拍の所定回数におけるR−R間隔の標準偏差である。また、R−R間隔平均とは、例えば、所定期間や心拍の所定回数におけるR−R間隔の平均である。
【0059】
次に、CCV(DC)算出部15は、CCV(DC)を算出したのと同様な方法により、低周波成分変動係数CCV(LF)および高周波成分変動係数CCV(HF)を算出する(ステップS202、S203)。具体的には、CCV(DC)算出部15は、パワースペクトルの周波数成分における0.04〜0.15Hzの領域の積分値である低周波成分LF、およびパワースペクトルの周波数成分における0.15〜0.45Hzの領域の積分値である高周波成分HFを求め、図7(B)に示すような計算式によりCCV(LF)およびCCV(HF)を算出する。なお、ステップS201〜S203の処理の順序については、このような順番で算出が行われる必要はなく、どのような順序で行われても良い。
【0060】
最後に、CCV(DC)算出部15は、CVRR、CCV(LF)およびCCV(HF)から、下記の式に基づいて、直流成分変動係数CCV(DC)を算出する(ステップS204)。
【0061】
【数3】
【0062】
なお、このような算出方法により直流成分変動係数CCV(DC)が算出可能である理由を以下に説明する。
【0063】
先ず、R−R間隔標準偏差SDRRの二乗であるSDRR2は、自律神経活動のトータルパワーと等しくなることが知られている。そして、直流成分DC、低周波成分LF、高周波成分HFの合計も、このトータルパワーと等しくなる。そのため、図8(A)に示すように、SDRR2は、DC+LF+HFとほぼ等しくなる。
【0064】
そして、図8(A)に示した式の両辺をR−R間隔平均AVRRの二乗であるAVRR2で割ると、図8(B)に示すような式に変形される。ここで、CVRRは、図7(A)に示すようにSDRR/AVRRであり、CCV(DC)、CCV(LF)、CCV(HF)は、図5、図7(B)に示すような式により定義されているため、図8(B)に示す式は、図8(C)に示すような式に変形することができる。
【0065】
その結果、直流成分変動係数CCV(DC)は、図8(D)に示すような式により、CVRR、CCV(LF)およびCCV(HF)を用いて算出可能であることが分かる。
【0066】
次に、直流成分変動係数に基づいて自律神経機能の異常の有無を判定することにより、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは診断することができないような自律神経機能の異常の有無を判定することができる理由を以下に説明する。
【0067】
本願の発明者らは、起立試験を行った場合でも、LF成分やHF成分、CVRRだけからだけでは自律神経機能の異常を検出することができない場合があることに気がついた。そして、このような場合でも、自律神経機能が正常な被診断者と異常がある被診断者との間では、交感神経の活動度合いの指標である低周波成分変動係数CCV(LF)の二乗と、副交感神経の活動度合いの指標である高周波成分変動係数CCV(HF)の二乗を合計した値と、CVRRの二乗の値とが異なることに気がついた。そして、自律神経機能に異常が無い被診断者では、起立試験を行った場合、このCCV(LF)の二乗とCCV(HF)の二乗の合計値とCVRRの二乗の値との間に大きな差が生じるのに対して、自律神経機能に異常がある被診断者では、CCV(LF)の二乗とCCV(HF)の二乗の合計値とCVRRの二乗の値との間には差が生じないことに気がついた。そして、本願の発明者らは、この差が直流成分変動係数CCV(DC)に基づくものであることに気がついた。
【0068】
起立試験により被診断者に対して負荷をかけた場合、心拍が変動を開始してから立位として安定な心拍に落ち着くまで、個人差はあるものの30秒から2分程度の時間がかかる。この30秒間から2分かけて心拍が起立負荷に応答し、その後安定な状態に向う際の心拍変動のゆらぎにおける周波数の範囲は、約0.033Hz〜0.008Hzに相当する。従って、直流成分変動係数CCV(DC)は、起立という負荷から立位安定までの心拍変動制御全体を示していることになる。そして、起立してから立位安定までの間に、被診断者の心拍が負荷に対して全く応答しない場合には、直流成分変動係数CCV(DC)が全く現れない。
【0069】
このように、本実施形態の自律神経機能診断装置では、起立してから立位安定に至るまでの心拍変動制御全体を直流成分変動係数CCV(DC)として数値化することにより、負荷に基づいた自律神経応答を測定できるようになった。
【0070】
なお、交感神経活動の亢進から5秒ほど遅れて発生するメイヤー(Mayer)波と呼ばれる血圧変動のゆらぎがあることが知られている。このメイヤー波の発生機序には、抹消説、中枢説、共鳴説などがあるが、その発生機序はまだ確定されていない。しかし、こうした血圧変動が血管の圧受容体により検知され、さらに遅れた応答が低周波数領域に直流成分変動係数CCV(DC)として現れたのではないかと推量される。
【0071】
次に、本実施形態の自律神経機能診断装置における表示装置22の具体的な表示例を図9、図10に示す。この図9、図10に示したグラフは、CCV(DC)を直接算出せずに、図6のフローチャートに示したような方法により、CVRR、CCV(LF)およびCCV(HF)からCCV(DC)を間接的に算出する場合の例である。
【0072】
先ず、被非診断者の自律神経の状態が正常な場合における測定結果を図9に示す。図9(A)には、CVRR、CCV(LF)、CCV(HF)の測定結果が示されている。そして、図9(B)には、この図9(A)に示した測定結果を用いて算出したCCV(DC)の値が示されている。
【0073】
この図9に示した例では、測定開始から3分結果後に被診断者に対して起立指示を行い、起立指示を行ってから1分間が経過するまでにCCV(DC)の値が5%を越えるか否かに基づいて、被診断者の自律神経機能に異常があるか否かの判定が行われるものとして説明を行なう。図9に示した例では、起立指示から1分以内にCCV(DC)の値が5%を越えているため、この被診断者の自律神経機能は正常であると判定される。
【0074】
次に、被非診断者が軽いうつ病の場合における測定結果を図10に示す。図9と同様に、図10(A)には、CVRR、CCV(LF)、CCV(HF)の測定結果が示され、図10(B)には、この図10(A)に示した測定結果を用いて算出したCCV(DC)の値が示されている。
【0075】
この図10に示した例では、起立指示が行われ被診断者が起立動作を行ったにもかかわらず自律神経が正常に反応していない。そのため、この図10に示した例では、起立指示から1分が経過するまでにCCV(DC)の値が5%を越えることはなく、この被診断者の自律神経機能には何等かの異常があると判定される。
【0076】
このように、本実施形態の自律神経機能診断装置によれば、直流成分変動係数CCV(DC)に基づいて自律神経機能の異常の有無を判定するようにしているので、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは診断することができないような自律神経機能の異常の有無を判定することが可能になる。
【0077】
なお、図9、図10では、起立指示から1分間が経過するまでにCCV(DC)の値が5%を越えれば被診断者の自律神経機能は正常であると判定しているが、CCV(DC)の値があまり大きすぎる場合には、何等かの異常があることも考えられる。そのため、CCV(DC)の値対する上限値を設け、CCV(DC)の値が5%を越えた場合でも、この上限値を超えた場合には、自律神経機能に何等かの異常があると判定するようにしてもよい。
【0078】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、生体状態を監視するための生体モニタリングシステムに対して本発明を適用した場合について説明する。
【0079】
なお、本実施形態の生体モニタリングシステムの構成は、図1に示した第1の実施形態の自律神経機能診断装置の構成と同様であるため、その詳細な説明については省略する。また、本実施形態における直流成分変動係数CCV(DC)の算出方法についても、上記で説明した第1の実施形態における算出方法と同様な算出方法を用いることができるため、その説明は省略する。
【0080】
本実施形態の生体モニタリングシステムは、例えば、歯科治療中の患者等の生体に異常が発生しないかを監視するために用いられる。本実施形態の生体モニタリングシステムでは、判定処理部16は、CCV(DC)算出部15により算出された直流成分変動係数CCV(DC)が予め設定されたしきい値を超えた場合、患者に何等かの異常が発生したものと判定し、制御装置18が表示装置22や、音声装置(不図示)等を介して、患者に異常が発生した旨の警告を行う。
【0081】
本実施形態の生体モニタリングシステムにより測定された測定結果の具体例を図11に示す。この図11に示した例では、患者に何等かの異常が発生しているか否かを判定するためのしきい値thとして7%が設定されているものとして説明する。
【0082】
図11に示した例は、監視の患者に脳貧血が発生した際のデータをグラフとして表示したものであり、監視中の患者のCCV(DC)の値が監視の途中でしきい値thを大幅に超えていることがわかる。
【0083】
このように本実施形態の生態モニタリングシステムによれば、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルのLF成分やHF成分または、心電図R−R間隔変動係数CVRRだけでなく、直流成分変動係数CCV(DC)に基づいて生体の異常を監視しているので、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは検出することができないような生体の異常を検出することが可能になる。
【0084】
[変形例]
なお、上記の実施形態では心電図データを測定するための心電モニタ14が、本発明の自律神経機能診断装置内部に設けられている場合を説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。心電図モニタ14を設けることなく、自律神経機能診断装置内部に外部からの心電図データを受け付けるための受付手段を設け、この受付手段が外部から受け付けた心電データからCVRRを算出するという構成にすることもできる。このような構成にすることにより、自律神経機能診断装置は、心電モニタ14のような心電測定装置を設ける必要がなくなる。
【0085】
また、本実施形態では、被診断者の心電データを測定し、その心電データから得られた心電図R−R間隔に基づいて自律神経機能についての異常の有無を判定していたが、本発明はこれに限定されるものではない。一般的に心電データを測定するためには複数の電極を被診断者に装着する必要がある。そのため、より手軽で簡便に測定ができるように、簡易的な方法ではあるが、心電データの替わりに被診断者の脈波を測定し、その脈波データから脈波間隔を得て、心電データの場合と同様に周波数解析を行うことによっても、自律神経機能についての異常の有無を判定することが可能である。
【0086】
具体的には、例えば生体の橈骨動脈に当てられた圧力センサを用いて被診断者の脈波を測定するような脈波測定器を、心電図モニタ14の替わりに用いるような構成とすることにより、本願発明の自律神経機能診断装置を構成することが可能となる。そして、このような構成の場合には、CCV(DC)算出部15は、脈波データに基づいて直流成分変動係数を算出することとなる。
【0087】
また、上記の実施形態では、直流成分変動係数、低周波成分変動係数、高周波変動係数を、それぞれ、CCV(DC)、CCV(LF)、CCV(HF)と標記しているが、文献によってはC−CV(DC)、C−CV(LF)、C−CV(HF)と標記される場合もある。しかし、これらは標記方法が異なるだけであり同一の値を示すものである。
【符号の説明】
【0088】
14 心電図モニタ
15 CCV(DC)算出部
16 判定処理部
18 制御装置
20 記憶装置
22 表示装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律神経機能についての異常の有無を診断するための自律神経機能診断装置、生体状態を監視するための生体モニタリングシステムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会では、社会環境に基づく様々なストレスが増加している。そのため、近年、うつ病、自律神経失調症、起立性調節障害、慢性疲労症候群のような精神的な疾患を抱える患者の増加が大きな社会問題となっている。そして、このような精神的な疾患に陥ると、自律神経が正常に機能しなくなる機能障害が発生する。
【0003】
自律神経には、主に活性状態の時に機能する交感神経と、主に安静状態の時に機能する副交感神経とがある。生体が安静状態の時には、自律神経の状態が副交感神経優位の状態となり、血圧値、脈拍数は下降する。そして、生体が緊張・活性状態の時には、自律神経の状態は交感神経優位の状態となり、血圧値、脈拍数が上昇する。
【0004】
自律神経機能が正常な場合には、この交感神経と副交感神経とがバランスを保ちながら交感神経優位の状態と副交感神経優位の状態との間で切り替えが行われる。しかし、自律神経機能が異常になるとこのバランスがくずれてしまい、患者に対して負荷をかけた場合でも適切に自律神経機能が反応しなくなることが知られている。
【0005】
そのため、被診断者に対して起立試験等の負荷試験を行って自律神経機能の反応を観察することにより、自律神経機能の診断を行うための様々な方法が提案されている(例えば特許文献1〜4参照)。
【0006】
この特許文献1〜4に記載された従来の診断方法では、心拍数の分散を用いて自律神経機能の評価を行ったり、心電データから得られたR波間隔のデータをスペクトル解析して得られたパワースペクトルにおけるLF成分やHF成分を用いて、交感神経の活動度、副交感神経の活動度を測定したり、R波間隔の変動係数である心電図R−R間隔変動係数(CVRR:Coefficient of Variance of R-R intervals)を求めて自律神経機能が正常であるか否かの診断が行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−35896号公報
【特許文献2】特許第4327243号公報
【特許文献3】特許第4487015号公報
【特許文献4】特許第4516623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本願の発明者らは、上述したような従来の方法を用いてLF成分やHF成分またはCVRRをそれぞれ単独で観察しただけでは、自律神経機能の異常の有無を診断できない場合があることに気がついた。つまり、自律神経機能に異常がある可能性が高いと思われる被診断者に対して試験を行っても異常を検出できない場合があることに気がついた。
【0009】
本発明の目的は、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは診断することができないような自律神経機能の異常の有無を判定することが可能な自律神経機能診断装置、生体モニタリングシステムおよびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[自律神経機能診断装置]
上記目的を達成するために、本発明の自律神経機能診断装置は、被診断者の心電を測定する心電測定手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段とを備えている。
【0011】
また、本発明の他の自律神経機能診断装置は、心電測定装置により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段とを備えている。
【0012】
本発明によれば、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルのLF成分やHF成分または、心電図R−R間隔変動係数CVRRだけでなく、直流成分変動係数に基づいて自律神経機能の異常の有無を判定するようにしているので、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは診断することができないような自律神経機能の異常の有無を判定することが可能になる。
【0013】
さらに、前記判定手段は、前記算出手段により算出された直流成分変動係数が、前記指示手段により負荷試験の指示を行ってから所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合、前記被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定するようにしても良い。
【0014】
さらに、前記判定手段は、前記算出手段により算出された直流成分変動係数の心電図R−R間隔変動係数に対する割合が、前記指示手段により負荷試験の指示を行ってから所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合に、前記被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定するようにしても良い。
【0015】
本発明によれば、被診断者の年齢等の要因により直流成分変動係数の絶対値が変化した場合でも、心電図R−R間隔変動係数に対する割合に基づいて診断が行われるため、被診断者の年齢によらずに精度の高い診断を行うことが可能となる。
【0016】
さらに、前記算出手段は、パワースペクトルの周波数成分における0.04Hz以下の領域の積分値である直流成分DCと、R−R間隔の平均値AVRRから、
【数1】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出するようにしても良い。
【0017】
さらに、前記算出手段は、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における0.04〜0.15Hzの領域の積分値である低周波数成分LF及び0.15〜0.45Hzの領域の積分値である高周波成分HFと、R−R間隔の平均値AVRRと、心電図R−R間隔変動係数CVRRとから、
【数2】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出するようにしても良い。
【0018】
本発明によれば、直流成分変動係数を直接算出するのではなく、比較的短時間の測定で算出可能な心電図R−R間隔変動係数CVRR、低周波数成分LFおよび高周波数成分HFから直流成分変動係数を算出するようにしているので、測定時間を長くすることなく直流成分変動係数が算出可能になる。
【0019】
また、本発明の他の自律神経機能診断装置は、被診断者の脈波を測定する脈波測定手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記脈波測定手段により測定された脈波データに基づいて、脈波間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段とを備えている。
【0020】
本発明によれば、被診断者の心電データの替わりに脈波データを測定して直流成分変動係数を算出しているので、被診断者の自律神経機能についての異常の有無を簡便に判定することが可能となる。
【0021】
[生体モニタリングシステム]
また、本発明の生体モニタリングシステムは、生体の心電を測定する心電測定手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段とを備えている。
【0022】
また、本発明の他の生体モニタリングシステムは、心電測定装置により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段とを備えている。
【0023】
本発明によれば、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルのLF成分やHF成分または、心電図R−R間隔変動係数CVRRだけでなく、直流成分変動係数に基づいて生体の異常を監視しているので、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは検出することができないような被診断者の異常を検出することが可能になる。
【0024】
また、本発明の他の生体モニタリングシステムは、生体の脈波を測定する脈波測定手段と、
前記脈波測定手段により測定された脈波データに基づいて、脈波間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段とを備えている。
【0025】
本発明によれば、被診断者の心電データの替わりに脈波データを測定して直流成分変動係数を算出しているので、被診断者の異常の発生の監視を簡便に行うことが可能となる。
【0026】
[プログラム]
また、本発明のプログラムは、被診断者の心電を測定するステップと、
測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
負荷試験の指示が行われた後に、算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定するステップと、
判定結果を表示するステップとをコンピュータに実行させる。
【0027】
また、本発明の他のプログラムは、被診断者の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
負荷試験の指示が行われた後に、算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定するステップと、
判定結果を表示するステップとをコンピュータに実行させる。
【0028】
また、本発明の他のプログラムは、生体の心電を測定するステップと、
測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
算出された直流成分変動係数を表示するステップと、
算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告するステップとをコンピュータに実行させる。
【0029】
また、本発明の他のプログラムは、生体の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
算出された直流成分変動係数を表示するステップと、
算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0030】
以上、説明したように、本発明によれば、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは診断することができないような自律神経機能の異常の有無を判定することが可能となるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態の自律神経機能診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の自律神経機能診断装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】図1中の心電モニタ14により測定された心電データの心電波形の一例を示す図である。
【図4】R−R波間隔をプロットして再サンプリングしたデータに対してスペクトル解析を行って求めたパワースペクトルの一例を示す図である。
【図5】直流成分変動係数CCV(DC)を算出するための式を示す図である。
【図6】CVRR、CCV(LF)およびCCV(HF)から、CCV(DC)を間接的に算出する際の算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】CVRRを算出するための式を示す図(図7(A))、およびCCV(LF)、CCV(HF)を算出するための式を示す図である(図7(B))。
【図8】CVRR、CCV(LF)およびCCV(HF)を用いてCCV(DC)を算出可能であることを説明するための図である。
【図9】本発明の第1の実施形態の自律神経機能診断装置における表示装置22の具体的な表示例を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施形態の自律神経機能診断装置における表示装置22の具体的な別の表示例を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施形態の生体モニタリングシステムにおける具体的な表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態について説明する。本実施形態では、自律神経機能についての異常の有無を診断するための自律神経機能診断装置に対して本願発明を適用した場合について説明する。
【0034】
図1は本発明の第1の実施形態の自律神経機能診断装置の構成を示すブロック図である。本実施形態の自律神経機能診断装置は、図1に示されるように、被測定者の心電データを取得するための心電図モニタ14と、CCV(DC)算出部15と、判定処理部16と、制御装置18と、記憶装置20と、診断結果を表示するための表示装置22とから構成されている。
【0035】
心電図モニタ14は、被診断者の例えば喉元にマイナス電極を、左脇腹にプラス電極を、右脇腹にボディアースをそれぞれ装着し、心臓の動きを電気信号として得て心電データとして記録する。
【0036】
CCV(DC)算出部15は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における0.04Hz以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数(CCV(DC):component coefficient of variance (DC))を算出する。なお、このCCV(DC)の具体的な算出方法については後述する。
【0037】
判定処理部16は、制御装置18から表示装置22を介して起立指示が行われた後に、CCV(DC)算出部15により算出されたCCV(DC)の値に基づいて、被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する。具体的には、判定処理部16は、CCV(DC)算出部15により算出されたCCV(DC)が、制御装置18により起立試験の指示が行われてから、例えば60秒というような所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合、被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定する。
【0038】
ここで、自律神経機能についての異常とは、自律神経機能自体に異常がある場合だけでなく、自律神経機能に指示を出す機能に異常があり自律神経機能が正常に働かず自律神経機能に支障をきたすような異常がある場合をも含む。この自律神経機能について異常がある場合とは、具体的には、自律神経失調症、うつ病、起立性調節障害、慢性疲労症候群、迷走神経反射性失神、交感神経亢進失神等様々な場合が考えられる。また、糖尿病による自律神経障害等も自律神経機能についての異常に含まれる。
【0039】
ただし、CCV(DC)の絶対値は、被診断者の年齢等により大きく変化するため、判定処理部16は、CCV(DC)の値のCVRR(Coefficient of Variance of R-R intervals:心電図R−R間隔変動係数)に対する割合が、制御装置18により起立試験の指示が行われてから所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合に、被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定するようにしてもよい。なお、このCVRRの具体的な算出方法についても後述する。
【0040】
制御装置18は、例えばコンピュータからなり、被診断者の心電データの測定が開始された後、表示装置22を介して被診断者に対して負荷試験を指示し、判定処理部16によって得られた判定結果を記憶装置20に記憶し、あるいは表示装置22に表示する。
【0041】
具体的には、制御装置18は、心電図モニタ14により心電データの測定が開始され、CCV(DC)算出部15により被診断者の安静時のCCV(DC)が測定されCCV(DC)算出可能な状態になったと判断すると、表示装置22を介して被診断者に対して負荷試験として起立試験を行うよう指示し、判定処理部16により得られた被診断者に自律神経機能の異常の可能性があるか否かの判定結果を表示装置22に表示する。
【0042】
また、本実施形態では、制御装置18は、被診断者に対して起立試験を行う構成であるが、本発明はこれに限定されるものではない。制御装置18が行う負荷試験として、例えば、被診断者に対して深呼吸を行わせるような負荷試験や、被診断者に対して安静仰臥位から立ち上がらせるような負荷試験など、肉体的または精神的な負荷を被診断者に与える負荷試験であれば、起立試験以外の他の負荷試験を行うような場合でも、本発明は同様に適用可能である。
【0043】
次に、本実施形態の自律神経機能診断装置の動作を図2を参照して詳細に説明する。図2は本実施形態の自律神経機能診断装置の動作を示すフローチャートである。
【0044】
まず、初期設定として、診断が開始される前に、被診断者の氏名、年齢、ID番号、性別、既往歴(糖尿病、血管障害など)等の被診断者情報が制御装置18に入力される。(ステップS101)。
【0045】
そして、診断が開始されると、心電図モニタ14により被診断者の心電データの測定が行われる(ステップ102)。すると、制御装置18は、被診断者に対して起立指示を行い(ステップS103)、CCV(DC)算出部15は、被診断者の起立後に測定された心電データからCCV(DC)を算出する(ステップS104)。
【0046】
次に、判定処理部16は、CCV(DC)算出部15により算出された起立後のCCV(DC)の値に基づいて、被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する(ステップS105)。
【0047】
そして、判定処理部16により得られた診断結果は、制御装置18により記憶装置20に格納されるとともに表示装置22に表示され(ステップS106)、診断が終了する。
【0048】
次に、図2のステップS104示したCCV(DC)の算出方法の詳細について説明する。
【0049】
まずステップS104において、CCV(DC)算出部15は、心電図モニタ14から入力された心電データから心拍変動を算出する。この心拍変動の算出は、図3(A)及図3(B)に示すように、R波と次のR波との間隔をとってR−R間隔を測定し、次に図3(C)及び図3(D)に示すように、測定したR-R間隔データを後方のR波の時間的位置にプロットし、これを補間した後に、等間隔(図3(C)の点線)で再サンプリングしたデータを作成することにより行う。次に、この再サンプリングしたデータに対してスペクトル分析(周波数変換)を行ってパワースペクトルを求める。このパワースペクトルの一例を図4(A)に示す。この図4において横軸は、周波数であり、縦軸はPSD(Power spectral density:パワースペクトル密度)である。
【0050】
CCV(DC)算出部15は、図4(A)に示したパワースペクトルから、図4(B)に示すような0.04Hz以下の領域の積分値である直流成分DC(ms2)を算出する。ここで、直流成分DCとは、具体的には、超低周波数領域(0.03〜0.04Hz)の積分値VLFおよび極超低周波領域(0.03Hz以下)の積分値ULFを合わせたものである。
【0051】
なお、低周波成分LF(ms2)は、パワースペクトルの周波数成分における0.04〜0.15Hzの領域の積分値であり(図4(C))、高周波成分HF(ms2)は、パワースペクトルの周波数成分における0.15〜0.45Hzの領域の積分値である(図4(D))。
【0052】
そして、CCV(DC)算出部15は、上記で算出された直流成分DCと、心電データにおけるR波の間隔であるR−R間隔の平均値AVRRから、図5に示すような計算式に基づいて、CCV(DC)を算出する。
【0053】
ただし、周波数解析を行う計算方法の種類によっては、低い周波数の計算には長い測定時間が必要となる場合がある。例えば、周波数解析を行う計算方法としてフーリエ変換を用いたような場合、周波数fの演算を行うためには、測定時間T=1/fが必要となる。つまり、測定時間が30秒の場合、周波数約0.033Hz程度までしか演算できないことになり、0.04Hz以下の領域の演算を充分行うためには長時間の測定を行う必要がある。
【0054】
そのため、CCV(DC)算出部15は、CCV(DC)を直接算出するのではなく、低周波成分LF、高周波成分HFと、R−R間隔の平均値AVRRと、心電図R−R間隔変動係数CVRRとから、CCV(DC)を算出するようにしてもよい。低周波成分LF、高周波成分HFの算出には、直流成分DCの算出と比較して短時間の測定時間ですむため、このような算出方法を用いることにより、周波数解析の方法に限定されることなく短い測定時間でCCV(DC)を算出することが可能となる。
【0055】
なお、最大エントロピー法やウェーブレット解析により周波数変換を行えば、測定時間が短い場合でも低周波領域のスペクトル密度を推定することは可能である。
【0056】
このような方法によりCCV(DC)を算出する際のCCV(DC)算出部15における算出処理の流れを図6のフローチャートに示す。
【0057】
CCV(DC)算出部15は、先ず心電データからCVRRを算出する(ステップS201)。CVRRとは、心拍変動のばらつき度合いを示す指標であり、図3(B)およびその拡大図である図3(A)に示した心電波形におけるR−R間隔(心電波形のR波の頂点の間隔)のばらつき度合いを示す係数である。このCVRRは、具体的には、図7(A)に示すような式により算出される。この図7(A)に示す式において、SDRRとは、R−R間隔標準偏差であり、AVRRはR−R間隔平均である。
【0058】
ここで、R−R間隔標準偏差とは、例えば、30秒間という所定期間や100拍というような心拍の所定回数におけるR−R間隔の標準偏差である。また、R−R間隔平均とは、例えば、所定期間や心拍の所定回数におけるR−R間隔の平均である。
【0059】
次に、CCV(DC)算出部15は、CCV(DC)を算出したのと同様な方法により、低周波成分変動係数CCV(LF)および高周波成分変動係数CCV(HF)を算出する(ステップS202、S203)。具体的には、CCV(DC)算出部15は、パワースペクトルの周波数成分における0.04〜0.15Hzの領域の積分値である低周波成分LF、およびパワースペクトルの周波数成分における0.15〜0.45Hzの領域の積分値である高周波成分HFを求め、図7(B)に示すような計算式によりCCV(LF)およびCCV(HF)を算出する。なお、ステップS201〜S203の処理の順序については、このような順番で算出が行われる必要はなく、どのような順序で行われても良い。
【0060】
最後に、CCV(DC)算出部15は、CVRR、CCV(LF)およびCCV(HF)から、下記の式に基づいて、直流成分変動係数CCV(DC)を算出する(ステップS204)。
【0061】
【数3】
【0062】
なお、このような算出方法により直流成分変動係数CCV(DC)が算出可能である理由を以下に説明する。
【0063】
先ず、R−R間隔標準偏差SDRRの二乗であるSDRR2は、自律神経活動のトータルパワーと等しくなることが知られている。そして、直流成分DC、低周波成分LF、高周波成分HFの合計も、このトータルパワーと等しくなる。そのため、図8(A)に示すように、SDRR2は、DC+LF+HFとほぼ等しくなる。
【0064】
そして、図8(A)に示した式の両辺をR−R間隔平均AVRRの二乗であるAVRR2で割ると、図8(B)に示すような式に変形される。ここで、CVRRは、図7(A)に示すようにSDRR/AVRRであり、CCV(DC)、CCV(LF)、CCV(HF)は、図5、図7(B)に示すような式により定義されているため、図8(B)に示す式は、図8(C)に示すような式に変形することができる。
【0065】
その結果、直流成分変動係数CCV(DC)は、図8(D)に示すような式により、CVRR、CCV(LF)およびCCV(HF)を用いて算出可能であることが分かる。
【0066】
次に、直流成分変動係数に基づいて自律神経機能の異常の有無を判定することにより、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは診断することができないような自律神経機能の異常の有無を判定することができる理由を以下に説明する。
【0067】
本願の発明者らは、起立試験を行った場合でも、LF成分やHF成分、CVRRだけからだけでは自律神経機能の異常を検出することができない場合があることに気がついた。そして、このような場合でも、自律神経機能が正常な被診断者と異常がある被診断者との間では、交感神経の活動度合いの指標である低周波成分変動係数CCV(LF)の二乗と、副交感神経の活動度合いの指標である高周波成分変動係数CCV(HF)の二乗を合計した値と、CVRRの二乗の値とが異なることに気がついた。そして、自律神経機能に異常が無い被診断者では、起立試験を行った場合、このCCV(LF)の二乗とCCV(HF)の二乗の合計値とCVRRの二乗の値との間に大きな差が生じるのに対して、自律神経機能に異常がある被診断者では、CCV(LF)の二乗とCCV(HF)の二乗の合計値とCVRRの二乗の値との間には差が生じないことに気がついた。そして、本願の発明者らは、この差が直流成分変動係数CCV(DC)に基づくものであることに気がついた。
【0068】
起立試験により被診断者に対して負荷をかけた場合、心拍が変動を開始してから立位として安定な心拍に落ち着くまで、個人差はあるものの30秒から2分程度の時間がかかる。この30秒間から2分かけて心拍が起立負荷に応答し、その後安定な状態に向う際の心拍変動のゆらぎにおける周波数の範囲は、約0.033Hz〜0.008Hzに相当する。従って、直流成分変動係数CCV(DC)は、起立という負荷から立位安定までの心拍変動制御全体を示していることになる。そして、起立してから立位安定までの間に、被診断者の心拍が負荷に対して全く応答しない場合には、直流成分変動係数CCV(DC)が全く現れない。
【0069】
このように、本実施形態の自律神経機能診断装置では、起立してから立位安定に至るまでの心拍変動制御全体を直流成分変動係数CCV(DC)として数値化することにより、負荷に基づいた自律神経応答を測定できるようになった。
【0070】
なお、交感神経活動の亢進から5秒ほど遅れて発生するメイヤー(Mayer)波と呼ばれる血圧変動のゆらぎがあることが知られている。このメイヤー波の発生機序には、抹消説、中枢説、共鳴説などがあるが、その発生機序はまだ確定されていない。しかし、こうした血圧変動が血管の圧受容体により検知され、さらに遅れた応答が低周波数領域に直流成分変動係数CCV(DC)として現れたのではないかと推量される。
【0071】
次に、本実施形態の自律神経機能診断装置における表示装置22の具体的な表示例を図9、図10に示す。この図9、図10に示したグラフは、CCV(DC)を直接算出せずに、図6のフローチャートに示したような方法により、CVRR、CCV(LF)およびCCV(HF)からCCV(DC)を間接的に算出する場合の例である。
【0072】
先ず、被非診断者の自律神経の状態が正常な場合における測定結果を図9に示す。図9(A)には、CVRR、CCV(LF)、CCV(HF)の測定結果が示されている。そして、図9(B)には、この図9(A)に示した測定結果を用いて算出したCCV(DC)の値が示されている。
【0073】
この図9に示した例では、測定開始から3分結果後に被診断者に対して起立指示を行い、起立指示を行ってから1分間が経過するまでにCCV(DC)の値が5%を越えるか否かに基づいて、被診断者の自律神経機能に異常があるか否かの判定が行われるものとして説明を行なう。図9に示した例では、起立指示から1分以内にCCV(DC)の値が5%を越えているため、この被診断者の自律神経機能は正常であると判定される。
【0074】
次に、被非診断者が軽いうつ病の場合における測定結果を図10に示す。図9と同様に、図10(A)には、CVRR、CCV(LF)、CCV(HF)の測定結果が示され、図10(B)には、この図10(A)に示した測定結果を用いて算出したCCV(DC)の値が示されている。
【0075】
この図10に示した例では、起立指示が行われ被診断者が起立動作を行ったにもかかわらず自律神経が正常に反応していない。そのため、この図10に示した例では、起立指示から1分が経過するまでにCCV(DC)の値が5%を越えることはなく、この被診断者の自律神経機能には何等かの異常があると判定される。
【0076】
このように、本実施形態の自律神経機能診断装置によれば、直流成分変動係数CCV(DC)に基づいて自律神経機能の異常の有無を判定するようにしているので、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは診断することができないような自律神経機能の異常の有無を判定することが可能になる。
【0077】
なお、図9、図10では、起立指示から1分間が経過するまでにCCV(DC)の値が5%を越えれば被診断者の自律神経機能は正常であると判定しているが、CCV(DC)の値があまり大きすぎる場合には、何等かの異常があることも考えられる。そのため、CCV(DC)の値対する上限値を設け、CCV(DC)の値が5%を越えた場合でも、この上限値を超えた場合には、自律神経機能に何等かの異常があると判定するようにしてもよい。
【0078】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、生体状態を監視するための生体モニタリングシステムに対して本発明を適用した場合について説明する。
【0079】
なお、本実施形態の生体モニタリングシステムの構成は、図1に示した第1の実施形態の自律神経機能診断装置の構成と同様であるため、その詳細な説明については省略する。また、本実施形態における直流成分変動係数CCV(DC)の算出方法についても、上記で説明した第1の実施形態における算出方法と同様な算出方法を用いることができるため、その説明は省略する。
【0080】
本実施形態の生体モニタリングシステムは、例えば、歯科治療中の患者等の生体に異常が発生しないかを監視するために用いられる。本実施形態の生体モニタリングシステムでは、判定処理部16は、CCV(DC)算出部15により算出された直流成分変動係数CCV(DC)が予め設定されたしきい値を超えた場合、患者に何等かの異常が発生したものと判定し、制御装置18が表示装置22や、音声装置(不図示)等を介して、患者に異常が発生した旨の警告を行う。
【0081】
本実施形態の生体モニタリングシステムにより測定された測定結果の具体例を図11に示す。この図11に示した例では、患者に何等かの異常が発生しているか否かを判定するためのしきい値thとして7%が設定されているものとして説明する。
【0082】
図11に示した例は、監視の患者に脳貧血が発生した際のデータをグラフとして表示したものであり、監視中の患者のCCV(DC)の値が監視の途中でしきい値thを大幅に超えていることがわかる。
【0083】
このように本実施形態の生態モニタリングシステムによれば、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルのLF成分やHF成分または、心電図R−R間隔変動係数CVRRだけでなく、直流成分変動係数CCV(DC)に基づいて生体の異常を監視しているので、LF成分やHF成分またはCVRRを用いただけでは検出することができないような生体の異常を検出することが可能になる。
【0084】
[変形例]
なお、上記の実施形態では心電図データを測定するための心電モニタ14が、本発明の自律神経機能診断装置内部に設けられている場合を説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。心電図モニタ14を設けることなく、自律神経機能診断装置内部に外部からの心電図データを受け付けるための受付手段を設け、この受付手段が外部から受け付けた心電データからCVRRを算出するという構成にすることもできる。このような構成にすることにより、自律神経機能診断装置は、心電モニタ14のような心電測定装置を設ける必要がなくなる。
【0085】
また、本実施形態では、被診断者の心電データを測定し、その心電データから得られた心電図R−R間隔に基づいて自律神経機能についての異常の有無を判定していたが、本発明はこれに限定されるものではない。一般的に心電データを測定するためには複数の電極を被診断者に装着する必要がある。そのため、より手軽で簡便に測定ができるように、簡易的な方法ではあるが、心電データの替わりに被診断者の脈波を測定し、その脈波データから脈波間隔を得て、心電データの場合と同様に周波数解析を行うことによっても、自律神経機能についての異常の有無を判定することが可能である。
【0086】
具体的には、例えば生体の橈骨動脈に当てられた圧力センサを用いて被診断者の脈波を測定するような脈波測定器を、心電図モニタ14の替わりに用いるような構成とすることにより、本願発明の自律神経機能診断装置を構成することが可能となる。そして、このような構成の場合には、CCV(DC)算出部15は、脈波データに基づいて直流成分変動係数を算出することとなる。
【0087】
また、上記の実施形態では、直流成分変動係数、低周波成分変動係数、高周波変動係数を、それぞれ、CCV(DC)、CCV(LF)、CCV(HF)と標記しているが、文献によってはC−CV(DC)、C−CV(LF)、C−CV(HF)と標記される場合もある。しかし、これらは標記方法が異なるだけであり同一の値を示すものである。
【符号の説明】
【0088】
14 心電図モニタ
15 CCV(DC)算出部
16 判定処理部
18 制御装置
20 記憶装置
22 表示装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被診断者の心電を測定する心電測定手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段と、
を備えた自律神経機能診断装置。
【請求項2】
心電測定装置により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段と、
を備えた自律神経機能診断装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記算出手段により算出された直流成分変動係数が、前記指示手段により負荷試験の指示を行ってから所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合、前記被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定する請求項1または2記載の自律神経機能診断装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記算出手段により算出された直流成分変動係数の心電図R−R間隔変動係数に対する割合が、前記指示手段により負荷試験の指示を行ってから所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合に、前記被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定する請求項1または2記載の自律神経機能診断装置。
【請求項5】
前記算出手段は、パワースペクトルの周波数成分における0.04Hz以下の領域の積分値である直流成分DCと、R−R間隔の平均値AVRRから、
【数4】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出する請求項1から4のいずれか1項記載の自律神経機能診断装置。
【請求項6】
前記算出手段は、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における0.04〜0.15Hzの領域の積分値である低周波数成分LF及び0.15〜0.45Hzの領域の積分値である高周波成分HFと、R−R間隔の平均値AVRRと、心電図R−R間隔変動係数CVRRとから、
【数5】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出する請求項1から4のいずれか1項記載の自律神経機能診断装置。
【請求項7】
被診断者の脈波を測定する脈波測定手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記脈波測定手段により測定された脈波データに基づいて、脈波間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段と、
を備えた自律神経機能診断装置。
【請求項8】
生体の心電を測定する心電測定手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段と、
を備えた生体モニタリングシステム。
【請求項9】
心電測定装置により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段と、
を備えた生体モニタリングシステム。
【請求項10】
前記算出手段は、パワースペクトルの周波数成分における0.04Hz以下の領域の積分値である直流成分DCと、R−R間隔の平均値AVRRから、
【数6】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出する請求項7または8記載の生体モニタリングシステム。
【請求項11】
前記算出手段は、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における0.04〜0.15Hzの領域の積分値である低周波数成分LF及び0.15〜0.45Hzの領域の積分値である高周波成分HFと、R−R間隔の平均値AVRRと、心電図R−R間隔変動係数CVRRとから、
【数7】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出する請求項7または8記載の生体モニタリングシステム。
【請求項12】
生体の脈波を測定する脈波測定手段と、
前記脈波測定手段により測定された脈波データに基づいて、脈波間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段と、
を備えた生体モニタリングシステム。
【請求項13】
被診断者の心電を測定するステップと、
測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
負荷試験の指示が行われた後に、算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定するステップと、
判定結果を表示するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
被診断者の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
負荷試験の指示が行われた後に、算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定するステップと、
判定結果を表示するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項15】
生体の心電を測定するステップと、
測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
算出された直流成分変動係数を表示するステップと、
算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項16】
生体の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
算出された直流成分変動係数を表示するステップと、
算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項1】
被診断者の心電を測定する心電測定手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段と、
を備えた自律神経機能診断装置。
【請求項2】
心電測定装置により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段と、
を備えた自律神経機能診断装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記算出手段により算出された直流成分変動係数が、前記指示手段により負荷試験の指示を行ってから所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合、前記被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定する請求項1または2記載の自律神経機能診断装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記算出手段により算出された直流成分変動係数の心電図R−R間隔変動係数に対する割合が、前記指示手段により負荷試験の指示を行ってから所定の時間が経過するまでの時間範囲内において、予め設定されたしきい値を越えない場合に、前記被診断者に自律神経機能についての異常の可能性があると判定する請求項1または2記載の自律神経機能診断装置。
【請求項5】
前記算出手段は、パワースペクトルの周波数成分における0.04Hz以下の領域の積分値である直流成分DCと、R−R間隔の平均値AVRRから、
【数4】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出する請求項1から4のいずれか1項記載の自律神経機能診断装置。
【請求項6】
前記算出手段は、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における0.04〜0.15Hzの領域の積分値である低周波数成分LF及び0.15〜0.45Hzの領域の積分値である高周波成分HFと、R−R間隔の平均値AVRRと、心電図R−R間隔変動係数CVRRとから、
【数5】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出する請求項1から4のいずれか1項記載の自律神経機能診断装置。
【請求項7】
被診断者の脈波を測定する脈波測定手段と、
前記被診断者に対する負荷試験を指示する指示手段と、
前記脈波測定手段により測定された脈波データに基づいて、脈波間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記指示手段により負荷試験の指示が行われた後に、前記算出手段により算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定する判定手段と、
前記判定手段における判定結果を表示する表示手段と、
を備えた自律神経機能診断装置。
【請求項8】
生体の心電を測定する心電測定手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段と、
を備えた生体モニタリングシステム。
【請求項9】
心電測定装置により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段と、
を備えた生体モニタリングシステム。
【請求項10】
前記算出手段は、パワースペクトルの周波数成分における0.04Hz以下の領域の積分値である直流成分DCと、R−R間隔の平均値AVRRから、
【数6】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出する請求項7または8記載の生体モニタリングシステム。
【請求項11】
前記算出手段は、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における0.04〜0.15Hzの領域の積分値である低周波数成分LF及び0.15〜0.45Hzの領域の積分値である高周波成分HFと、R−R間隔の平均値AVRRと、心電図R−R間隔変動係数CVRRとから、
【数7】
という式に基づいて、前記直流成分変動係数を算出する請求項7または8記載の生体モニタリングシステム。
【請求項12】
生体の脈波を測定する脈波測定手段と、
前記脈波測定手段により測定された脈波データに基づいて、脈波間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数を表示する表示手段と、
前記算出手段により算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告する警告手段と、
を備えた生体モニタリングシステム。
【請求項13】
被診断者の心電を測定するステップと、
測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
負荷試験の指示が行われた後に、算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定するステップと、
判定結果を表示するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
被診断者の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
負荷試験の指示が行われた後に、算出された直流成分変動係数に基づいて、前記被診断者の自律神経機能についての異常の有無を判定するステップと、
判定結果を表示するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項15】
生体の心電を測定するステップと、
測定された心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
算出された直流成分変動係数を表示するステップと、
算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項16】
生体の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、心電図R−R間隔のデータを周波数解析した結果得られるパワースペクトルの周波数成分における一定周波数以下の領域の積分値の変動係数である直流成分変動係数を算出するステップと、
算出された直流成分変動係数を表示するステップと、
算出された直流成分変動係数が予め設定されたしきい値を超えた場合、前記生体に何等かの異常が発生したものと警告するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−125382(P2012−125382A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278979(P2010−278979)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(504254998)株式会社クロスウェル (37)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(504254998)株式会社クロスウェル (37)
【Fターム(参考)】
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