説明

自走農用高所作業機の走行速度牽制装置

【課題】 果樹園等において、農用高所作業機で高所作業を行う場合の安全を確保し、操作性が良く構造が簡単で耐久性の有る農用高所作業機を提供する。
【解決手段】 搭乗作業部に設けた、走行油圧トランスミッションの変速操作レバーの変速操作範囲を低速操作範囲と高速操作範囲に切換える切換え装置を装備し、切換え装置が高速側で、かつ搭乗作業部が所定高さ以上の位置にある時は、エンジンの作動を阻止する牽制装置を設け、機体の安定性が不利な状態の搭乗作業部が高所に位置する状態では、高速での走行ができないように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹園での収穫作業や管理作業等を行う際に使用する自走農用高所作業機に関するもので、特に搭乗作業部が高所にある時の、安全を確保するための走行速度の牽制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
果樹園において、収穫作業や管理作業を、先端部に搭乗作業部を有したブームを上下揺動させる農用高所作業機で行う場合、搭乗作業部が高所にあり機体のバランスが不利な状態で、台車を高速で走行させると、不整地や障害物の多い果樹園ではバランスを崩しての転倒などの危険が考えられる。このため、特公平5−44246号公報で公知であるが、搭乗作業部が所定以上の高さでは台車の走行速度が一定以上にならないように、エンジンのアクセルバーを強制的に低速に戻し、走行速度を規制する高所作業台車の車速制御方法が提案されている。
【特許文献1】特公平5−44246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来技術における自走農用高所作業機において、一つのエンジンで台車の走行と搭乗作業部を有したブームを作動させている場合、搭乗作業部が上昇して所定の高さになると、エンジンのアクセルバーが強制的に戻されるため、ブームの作動もエンジンの回転が低い状態で操作することになる。このため、ブームの作動の負荷の状態によっては、エンジンの動力が足りずエンジンが停止したり、作動が遅くなったりする問題があった。
【0004】
また、果樹園内での管理・収穫作業はほとんどの場合高所での作業となり、この場合牽制装置によりエンジンの回転は常に低速で使用されることになり、本来のエンジンの性能を発揮する高回転域ではほとんど使用されず、エンジン内に不完全燃焼によりカーボン等が堆積し、エンジンの寿命が短くなったり、メンテナンスに負担を用する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、油圧トランスミッションを介して駆動され走行する自走可能な台車に、上下揺動可能にブームを装備し、該ブームの先端に搭乗作業部を連結した自走農用高所作業機において、搭乗作業部に設けた前記走行用油圧トランスミッションの変速操向レバーの変速操作範囲を、低速操作範囲と高速操作範囲に切換える切換え装置を装備し、切換え装置が高速側で、かつ搭乗作業部が所定高さ以上の高さ位置にある状態では、エンジンの作動を阻止する牽制装置を設けた。
【発明の効果】
【0006】
以上のように構成することにより、搭乗作業部が所定高さ以上になり、かつ低速と高速の切換装置が高速の場合は、エンジンの作動が阻止されるため、搭乗作業部を所定高さ以上に上昇させて高速で走行することは防止され、作業者の切換え忘れ等による事故防止ができ、安全な作業ができる。
【0007】
また、牽制装置では走行用油圧トランスミッションの操作レバーの変速操作範囲を規制して安全な走行速度を確保するため、搭乗作業部が高所にあってもエンジン回転数は任意に設定可能であり、エンジンの性能も十分に発揮可能でエンジンの寿命も良くなる。
【0008】
このように、低速と高速を切換えて使用できるため、搭乗作業部が低い位置の走行台車が安定性の良い状態では、高速で走行が可能で果樹園内や他の果樹園への移動等を効率良く行え、搭乗作業部が高所の時は、低速のみの走行のため安全な作業ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明を実施した自走農用高所作業機の全体側面図、図2は本発明を実施した自走農用高所作業機の一部断面した平面図、図3は搭乗作業部の首振部側面説明図、図4は動力系統図、図5は変速操向レバー部横断面図、図6は変速操向レバー部要部の斜視図、図7は牽制装置の構成を示す電気回路図を示したものである。
【0010】
図1において、1は果樹等の高所管理・収穫作業をする作業者が搭乗する搭乗作業部を示したものである。5はブーム装置を示し、上下昇降するブーム23を設け、このブーム23の先端には、前記した搭乗作業部を首振部4を介して取り付けられている。ブーム23の基部は縦枠22に対して16の支軸を介して取り付けられ、ブーム23と縦枠22は昇降シリンダ15が掛け渡されて、これの伸縮によりブーム23は上下に回動する。
【0011】
2はブーム23の先端に縦方向に設けた回動軸を示し、搭乗作業部1の背面部を水平回動自在に連結したものである。首振部4は、ブーム23の回動軸2を中心として搭乗作業部1を左右へ水平に回動させる。
【0012】
3は収納部を示し、搭乗作業部1の背面部に設けた受金具12に取り付けたものである。収納部3は底面と側枠とから形成される荷枠13からなる。6は移動台車を示し、左右一対のクローラ30を配置されて前進・後進する。7はエンジンを示し、このエンジンを動力源として台車の走行およびブームの昇降と旋回を行う。
【0013】
縦枠22は移動台車6の後部に立設したフレームを示し、前方に向けて5のブーム装置を支承する。ブーム装置5は縦枠22に対して支軸16を支点として起伏自在に設けたブーム23と、ブーム23を起伏させる昇降シリンダ15を具備してなる。14は平行リンクロットを示し、ブーム23が起伏作動する際に搭乗作業部1が支点軸21を基点として、自在金具24を介して常に地上部と平行状態を保持するためのものである。26は変速操向レバーで走行運転をするものである。
【0014】
31は主軸を示し、移動台車6に対してブーム装置5を備えた縦枠22を水平方向左右に回動可能に支持しているものである。
【0015】
図2において、移動台車6に対してブーム23の先端に回動軸2を介して設けた搭乗作業部1は、進行方向に対して左右水平方向に回動される。A−A´線は、ブーム装置5を備えた縦枠22を、主軸31を支軸として回動シリンダ27の伸縮によって左右に振った場合の搭乗作業部1の移動軌跡を示したものである。
【0016】
B−B´線はブーム23の先端の回動軸2を支軸として搭乗作業部1が首振り回動する時の移動軌跡を示したものである。果樹木の管理収穫作業にあたって希望する作業位置に対し、前記したブーム23自体の左右移動と搭乗作業部1の首振り旋回作用との組み合わせにより果樹木の枝の間等の最適位置に調整する。
【0017】
この首振り時に、搭乗作業部1の背面側で回動軸2よりブーム23基部側に位置する収納部3の重心位置は移動台車6の中心線側に寄る。従って、収穫物が収納部へ積載されるにともない、積載重量が移動台車の中心に対してバランスされる作用が発揮される。
【0018】
7はエンジンを示し、エンジンの出力軸に固着されたエンジン出力プーリ50から、ベルトで連結連動された昇降油圧ユニット8a、旋回油圧ユニット8b、および左右の油圧トランスミッション10に動力が伝達され駆動される。油圧トランスミッション10は、油圧ポンプと油圧モータを一体に構成して、油圧ポンプは可変容積型油圧ポンプで、ポンプのHSTレバー操作によってモータの出力回転を、正逆転および0〜最大回転数まで無段階に変化させることができる装置である。
【0019】
油圧トランスミッション10は、左右一対設けた減速機9にそれぞれ連結され、減速機9の出力軸端に設けた駆動スプロケット32を正逆回転させてクローラ30を駆動する。28はペダルを示し、昇降油圧ユニット8aと旋回油圧ユニット8bに内蔵されたバルブの操作アームと、ペダル用ケーブルで連結し操作することで、昇降シリンダ15及び回動シリンダ27を作動させる。29は首振りスイッチで、搭乗作業部1の首振部4の電動モータ17に運転指示を与えるものである。
【0020】
図3において、ブーム23に対する搭乗作業部1の首振り作用を説明する。ブーム23の先端には自在金具24が支点軸21を介して設けられる。自在金具24の先端には垂直方向のボス軸20が設けられて、搭乗作業部1の背面に固着された支持ケース25とを垂直方向の回動軸2によって支承されている。17は電動モータを示し、支持ケース25に固着されピニオン19を設けてある。18はラック板を示し、前記したボス軸20に円弧状の歯を設けたもので、前記ピニオン19と減速するためのカウンターギヤ33を介して歯合するものである。搭乗作業部1内に搭乗している運転作業者は、首振りスイッチ29を操作して必要とする左右方向へ電動モータ17を回転させて搭乗作業部の回動指示を与える。
【0021】
ブーム23に固着されたカム41は、ブームの先端に取り付けられた搭乗作業部が、所定高さ以上の時に感知する上下スイッチ40を作動させるためのもので、カム41のカム面に、カムアーム42の先端部に回転自在に取り付けられたカムローラ42aを当接させ、搭乗作業部1が上昇しブーム23の角度が変わるとカム41によりカムローラ42aが押されカムアーム42を回動させ、カムアーム42の回動ボスに設けたスイッチプレート42bが上下スイッチ40を押し、所定の高さ以上に搭乗作業部が位置する時は、カムの作用により上下スイッチ40を押し続ける。
【0022】
図4は本発明を実施した自走農用高所作業機の動力系統図を示したもので、動力源であるエンジン7の出力軸に固着したエンジン出力プーリ50からベルトで連結連動されて各部へ動力が伝達される。エンジン出力プーリ50は2本のベルト溝が設けてあり、一方は、昇降油圧ユニット8aのユニットプーリ50eにベルトが掛け渡され駆動されることで、昇降シリンダ15を作動する油圧を発生する。他方は、カウンタ軸11に固着したカウンタ入力プーリ50aとベルトが掛け渡され、カウンタ軸11が回転駆動される。
【0023】
また、旋回油圧ユニット8bは、カウンタ軸11の中間プーリ50cと旋回油圧ユニット8bのユニットプーリ50fにベルトが掛け渡され駆動することで、回動シリンダ27を作動する油圧を発生することができる。さらに、カウンタ軸11の両端に固着させたプーリ50b,50bと、油圧トランスミッションの入力プーリであるミッションプーリ50d,50dはベルトで連結連動され、エンジン7から動力は伝達される。
【0024】
油圧ユニットは、油圧を発生させる油圧ポンプと油圧オイルを貯留するタンクと油圧を切換える切換バルブとが一体で構成されたもので、ブーム23を昇降揺動させる昇降シリンダ15用の昇降油圧ユニット8aと、ブーム23を水平方向に回動させる回動シリンダ27用の旋回油圧ユニット8bが設けてあり、各切換えバルブを切換えるレバーと、搭乗作業部1に設けたペダル28とをペダル用ケーブル52で連結連動させ、ペダル28を前後左右に操作することでブームの昇降揺動および左右の水平回動を行うことができる。
【0025】
左右に配置された油圧トランスミッション10,10の無段変速レバーであるHSTレバー51,51と、搭乗作業部1に設けた変速操向レバー26は、プッシュプルワイヤ47で連結連動させて、変速操向レバー26を操作することで油圧トランスミッション10,10は無段階に変速される。変速された動力は、油圧トランスミッション10に連結された減速機9に伝達され、これの出力軸端に設けた駆動スプロケット32,32を正逆転させてクローラ30,30を正転,逆転駆動する。
【0026】
図5は走行台車を運転する変速操向レバー26部の横断面を示したもので、図6は変速操向レバー26部の要部の斜視図を示したものである。操向レバー支軸26aを回動中心として、変速操向レバー26を前後に操作すると、これと一体の操向レバーアーム26bに連結されたプッシュプルワイヤ47が押し引きされて、これの他端に連結された油圧トランスミッション10のHSTレバー51が回動され、油圧トランスミッションが正逆転および0〜最大回転数まで無段階に変化し走行速度をコントロールすることができる。変速走行レバー26を中立位置から前方へ回動させると前進し、後方へ回動させると後進する。
【0027】
44は変速操向レバー26の前後方向の操作範囲を規制する牽制金具で、これに固着させた変速ハンドル44cを操作し、変速操向レバー26の操向レバー支軸26aと直交する方向に回動軸を有した牽制金具支軸44aを回動支点として変速操向レバー26側に牽引金具44を回動させると、変速操向レバー26の操作範囲は、牽制金具44の切欠部に阻止されて低速操作範囲Aとなり、牽制金具44を解除すると、レバーガイドケース43に設けた切欠部の高速操作範囲Bの操作範囲となる。
【0028】
バネ46は、牽制金具44の牽制金具支軸44aの中心より上方に設けた支持ピンと、レバーガイドケース43に設けてあって、牽制金具支軸44aの中心より下方に設けた支持ピンに掛け渡し張着され、牽制金具44が低速側と高速側に回動された時に、牽制金具支軸44aの中心を境に支点越えを起こさせ、牽制金具44をそれぞれの方向に保持するためのものである。
【0029】
牽制金具支軸44aと同軸に固着された牽制カム44bは、牽制金具44を高速側に回動すると、レバー牽制スイッチ45を押し、後述する電気回路により搭乗作業部1が所定高さ以上の時は、エンジンの作動を停止する。
【0030】
図7は牽制装置の構成を示す電気回路図を示したもので、メインスイッチ34を操作し、スタータ7aを回転させエンジン7を始動させる。又、メインスイッチ34を停止位置にするとエンジン7は停止する。ブーム23の先端部には搭乗作業部1が上昇し所定高さ以上になると、閉じ状態に切換わる前記した上下スイッチ40が設けてある。
【0031】
一方、搭乗作業部1の変速操向レバー26部に設けたレバー牽制スイッチ45は、牽制金具44が高速位置の状態では、前述した機構により閉じ状態に切換わる。上下スイッチ40とレバー牽制スイッチ45の両スイッチが閉じ状態になると、メインスイッチ34を介して行われるバッテリー35から点火回路7bへの通電を阻止してエンジンを停止するようになっている。
【0032】
つまり、操向レバー26の操作範囲が高速操作範囲に設定されていて、なおかつ搭乗作業部1が所定高さ以上の時は、エンジン7の作動が阻止される牽制装置となっていて、搭乗作業部1が高所にあり、機体が安定性の不利な状態の時は、高速走行が阻止され低速走行の安全な作業が行える。首振りスイッチ29は搭乗作業部1内に設けてあり、首振部4の電動モータ17を正転・逆転させ搭乗作業部1を水平方向に回動させる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】自走農用高所作業機の全体側面図
【図2】自走農用高所作業機の一部断面平面図
【図3】搭乗作業部の首振部側面説明図
【図4】動力系統図
【図5】変速操向レバー部横断面図
【図6】変速操向レバー部要部の斜視図
【図7】牽制装置の構成を示す電気回路図
【符号の説明】
【0034】
1 搭乗作業部
2 回動軸
3 収納部
4 首振部
5 ブーム装置
6 移動台車
7 エンジン
7a スタータ
7b 点火回路
8a 昇降油圧ユニット
8b 旋回油圧ユニット
9 減速機
10 油圧トランスミッション
11 カウンタ軸
12 受金具
13 荷枠
14 平行リンクロット
15 昇降シリンダ
16 支軸
17 電動モータ
18 ラック板
19 ピニオン
20 ボス軸
21 支点軸
22 縦枠
23 ブーム
24 自在金具
25 支持ケース
26 変速操向レバー
26a 操向レバー支軸
26b 操向レバーアーム
27 回動シリンダ
28 ペダル
29 首振りスイッチ
30 クローラ
31 主軸
32 駆動スプロケット
33 カウンターギヤ
34 メインスイッチ
35 バッテリー
40 上下スイッチ
41 カム
42 カムアーム
42a カムローラ
42b スイッチプレート
43 レバーガイドケース
44 牽制金具
44a 牽制金具支軸
44b 牽制カム
44c 変速ハンドル
45 レバー牽制スイッチ
46 バネ
47 プッシュプルワイヤ
50 エンジン出力プーリ
50a カウンタ入力プーリ
50b プーリ
50c 中間プーリ
50d ミッションプーリ
50e ユニットプーリ
50f ユニットプーリ
51 HSTレバー
52 ペダル用ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧トランスミッションを介して駆動され走行する自走可能な台車に、上下揺動可能にブームを装備し、該ブームの先端に搭乗作業部を連結した自走農用高所作業機において、搭乗作業部に設けた前記走行用油圧トランスミッションの変速操向レバーの変速操作範囲を、低速操作範囲と高速操作範囲に切換える切換え装置を装備し、切換え装置が高速側で、かつ搭乗作業部が所定高さ以上の高さ位置にある状態では、エンジンの作動を阻止する牽制装置を有した自走農用高所作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−27782(P2006−27782A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206640(P2004−206640)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000171746)株式会社ササキコーポレーション (192)
【Fターム(参考)】