説明

舗装用水系バインダー組成物およびそれを用いた舗装面の表面処理方法

【課題】作業時に臭気を発生せず、環境に優しく、耐摩耗性および耐水性に優れる舗装用水系バインダー組成物を提供すること。
【解決手段】水溶性または水分散性ポリエステルを保護コロイドとする合成樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする舗装用水系バインダー組成物である。合成樹脂は、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体または(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることが好ましい。また、水溶性または水分散性ポリエステルの量は、合成樹脂に対して2質量%〜50質量%の範囲であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舗装用水系バインダー組成物およびそれを用いた舗装面の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
公園、遊園地、遊歩道、車道等には、高意匠性、区画の明確化および滑り防止のために、珪砂や着色骨材等の無機物とバインダーとからなるバインダー組成物をアスファルトまたはコンクリート上に塗布、乾燥することにより形成した景観・カラー舗装が施行されている。
また、アスファルト舗装上に降雨が溜まるのを防止する目的で、開粒度アスファルトで空隙率を向上させた排水性舗装が近年盛んに行われている。このような舗装は通常のアスファルト舗装に比べ表面が脆弱で、車両等が通行した際に骨材が脱離しやすいため、骨材の固着力を向上させる目的で表面に樹脂を塗布することが多い。
【0003】
これら道路舗装用バインダーとしては、例えば、ビニルエステル樹脂、ビニルウレタン樹脂および不飽和ポリエステルと重合性単量体からなる組成物(例えば、特許文献1および2を参照)、エポキシ樹脂からなる組成物(例えば、特許文献3を参照)、アクリルシラップ(例えば、特許文献4を参照)等が数多く提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−98022号公報
【特許文献2】特開2006−124460号公報
【特許文献3】特開2005−256329号公報
【特許文献4】特開平5−222705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の組成物は、耐摩耗性、耐水性等の物性は良好であるものの、溶剤や硬化剤としてアミンを含有することから、作業時の臭気等の衛生上の問題や環境上の問題がある。
従って、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、作業時に臭気を発生せず、環境に優しく、耐摩耗性および耐水性に優れる舗装用水系バインダー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、水溶性または水分散性ポリエステルを保護コロイドとする合成樹脂エマルジョンを舗装用水系バインダーに用いることで上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、水溶性または水分散性ポリエステルを保護コロイドとする合成樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする舗装用水系バインダー組成物である。
本発明において、合成樹脂は、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体または(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることが好ましい。
また、本発明において、水溶性または水分散性ポリエステルは、カルボキシル基を有することが好ましく、その水溶性または水分散性ポリエステルのカルボキシル基と合成樹脂とが、カルボキシル基と反応可能な官能基、例えばエポキシ基を二つ以上有する架橋剤により架橋されていることが更に好ましい。
水溶性または水分散性ポリエステルの量は、合成樹脂に対して2質量%〜50質量%の範囲であることが好ましい。
また、本発明は、上記した舗装用水系バインダー組成物を舗装面に塗布し、乾燥させることを特徴とする舗装面の表面処理方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、作業時に臭気を発生せず、環境に優しく、耐摩耗性および耐水性に優れる舗装用水系バインダー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明による舗装用水系バインダー組成物は、水溶性または水分散性ポリエステルを保護コロイドとする合成樹脂エマルジョンを含有するものである。水溶性または水分散性ポリエステルの量としては、合成樹脂に対して2質量%〜50質量%であることが好ましく、5質量%〜40質量%であることがより好ましい。水溶性または水分散性ポリエステルが2質量%未満であると耐摩耗性が低下する場合があり、一方、50質量%を超えると耐水性が低下する場合がある。
【0009】
合成樹脂エマルジョンの不揮発分は、30質量%〜60質量%の範囲であることが好ましい。不揮発分が30質量%未満であると、乾燥性が遅くなるため好ましくなく、また、不揮発分が60質量%を超えると、合成樹脂エマルジョン粘度が高くなり過ぎるため好ましくない。合成樹脂エマルジョンの粘度は、舗装用水系バインダー組成物のハンドリング性や塗工性を考慮すると、3,000mPa・s以下であることが好ましい。
【0010】
本発明におけるこの合成樹脂エマルジョンは、水溶性または水分散性ポリエステルの存在下で、エチレン性不飽和単量体組成物をラジカル重合することで得ることができる。上述したように、水溶性または水分散性ポリエステルの使用量としては、エチレン性不飽和単量体組成物に対して2質量%〜50質量%であることが好ましく、5質量%〜40質量%であることがより好ましい。
本発明において使用するエチレン性不飽和単量体としては、少なくとも1個の重合可能なビニル基を有するものであればよく、例えば、直鎖状、分岐状または環状のアルキル鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキルアミノ(メタ)アクリレート、酢酸ビニルやアルカン酸ビニルに代表されるビニルエステル類、モノオレフィン類(エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等)、α,β−不飽和モノあるいはジカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等)、ダイアセトンアクリルアミド等のカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられる。これらのエチレン性不飽和単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、ラジカル重合の容易さや舗装用水系バインダー組成物の耐水性をより向上させるという点で、メチルメタクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびスチレンが好ましい。すなわち、合成樹脂としては、これらのエチレン性不飽和単量体を用いて得られるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体または(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることが好ましい。
【0011】
また、必要に応じて、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、ビニルトリエトキシシランやγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の加水分解性アルコキシシリル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、多官能ビニル化合物(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート等)等の架橋性モノマーを共重合体に導入し、それ自身同士を架橋をさせるか、もしくは活性水素基を持つエチレン性不飽和化合物成分と組み合わせて架橋させる、またはカルボニル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物(特にケト基含有のものに限る)等の架橋性モノマーを共重合体に導入し、ポリヒドラジン化合物(特に2つ以上のヒドラジド基を有する化合物;シュウ酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド等)と組み合わせて架橋させてもよい。このように共重合体に架橋性モノマーを導入することで、舗装用水系バインダー組成物の耐磨耗性を向上させることができる。
【0012】
本発明において使用する水溶性または水分散性ポリエステルは、多塩基酸とポリオールとを重合した重合体を中和して得られる公知のものである。
多塩基酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタリンジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、セバチン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
また、ポリエステルの水溶性または水分散性を更に向上させるために、カルボキシル基、スルホン酸基等の親水性基を有する重合成分を共重合させてもよい。
これらの具体例として、カルボキシル基をポリエステル分子内に導入するためには、例えば、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、トリメシン酸等を重合成分の一部に用い、得られた重合体をアミノ化合物、アンモニア、アルカリ金属等で中和すればよい。カルボキシル基を導入する場合、ポリエステルの酸価が1〜100となるよう調整することが好ましい。酸価が100を超えると、ポリエステルの耐水性が不十分となって舗装用水系バインダー組成物の耐水性を低下させる場合があり、一方、1未満であると、後述する架橋剤を添加しても舗装用水系バインダー組成物の耐水性を十分に向上させることができない場合がある。
また、スルホン酸基をポリエステル分子内に導入するには、例えば、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩を重合成分の一部として用い、得られた重合体をアミノ化合物、アンモニア、アルカリ金属等で中和すればよい。
【0014】
上述した水溶性または水分散性ポリエステルの中でも、官能基としてカルボキシル基を有するものが好ましい。カルボキシル基を有する水溶性または水分散性ポリエステルを用いることで、ラジカル重合中のエマルジョン粒子の安定性が向上する。更に、カルボキシル基は比較的容易に架橋反応を行うことが可能であるため、カルボキシル基と反応可能な架橋剤を添加することで水溶性または水分散性ポリエステルと合成樹脂とが架橋され、舗装用水系バインダー組成物の耐摩耗性および耐水性をより向上させることができる。
【0015】
このようなカルボキシル基を有する水溶性または水分散性ポリエステルとしては、市販のものをそのまま使用してもよく、例えば、プラスコートZ−561、Z−730およびRZ−142(互応化学工業株式会社製)、ペスレジンA−110、A−210およびA−620(高松油脂株式会社製)、バイロナール(登録商標)MD−1200、MD−1220、MD−1250、MD−1335、MD−1400、MD−1480およびMD−1500(東洋紡績株式会社製)等が挙げられる。
【0016】
本発明において使用する架橋剤としては、水溶性または水分散性ポリエステルのカルボキシル基と反応可能な官能基、例えばエポキシ基を二つ以上有するものであればよい。具体的には、少なくとも二つのエポキシ基(脂環式も含む)を含む架橋剤として、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレンレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグルシジルエーテル、トリメチルプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル、ビスフェノールAグリシジルエーテル等の多官能エポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、エマルジョンへの分散性に優れ、架橋効率が高いという点で、グリセリンポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0017】
架橋剤の使用量は、カルボキシル基を有する水溶性または水分散性ポリエステルに対して、1質量%〜40質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましい。架橋剤の使用量が1質量%未満であると、舗装用水系バインダー組成物の耐水性を十分に向上させることができない場合があり、一方、40質量%を超えると、舗装用水系バインダー組成物中に未反応の架橋剤が残存して耐水性の低下を招く場合がある。
【0018】
架橋剤の添加方法としては、水溶性または水分散性ポリエステルが有するカルボキシル基との反応性をより高めるという点で、ラジカル重合中に添加することが好ましい。より具体的には、エチレン性不飽和単量体組成物中に架橋剤を予め溶解しておき、ラジカル重合時に均一な状態で重合系内に投入すればよい。
【0019】
先に述べたように、本発明における合成樹脂エマルジョンは、水溶性または水分散性ポリエステルの存在下で、エチレン性不飽和単量体組成物をラジカル重合することで得られる。重合反応は、常圧反応器または耐圧反応器を用い、バッチ式、半連続式、連続式のいずれかの方法で行われる。反応温度は、通常、10℃〜100℃で行われるが、30℃〜90℃が一般的である。反応時間は、特に制限されることはなく、各成分の配合量および反応温度などに応じて適宜調整すればよい。ラジカル重合する際、保護コロイドである水溶性または水分散性ポリエステルがエマルジョン粒子の安定性に寄与するが、必要に応じてアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、反応性乳化剤等を重合系内に添加してもよい。乳化剤の種類や使用量は、水溶性または水分散性ポリエステルの使用量、エチレン性不飽和単量体の組成等に応じて適宜調節すればよい。
【0020】
このような乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステルが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、得られる舗装用水系バインダー組成物の耐水性を損なわない範囲で、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子を重合系内に添加してもよい。
【0021】
ラジカル重合に際して使用される重合開始剤としては、公知慣用のものであればよく、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、t−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。また、必要に応じて、これらの重合開始剤をナトリウムスルホキシレートホルムアルデヒド、アスコルビン酸類、亜硫酸塩類、酒石酸またはその塩類等と組み合わせてレドックス重合としてもよい。また、必要に応じて、アルコール類、メルカプタン類等の連鎖移動剤を使用してもよい。
【0022】
本発明の舗装用水系バインダー組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ウレタン系樹脂等の樹脂成分、イソシアネート系架橋剤、粘性改良剤、着色剤、ブロッキング防止剤、消泡剤、成膜助剤等の各種添加剤を添加してもよい。更に、本発明の舗装用水系バインダー組成物を通常のアスファルト舗装に塗布する場合には、着色骨材、珪砂、セメント類等と混和して使用することも可能である。
【0023】
本発明の舗装用水系バインダー組成物は、溶剤やアミン硬化剤を含有しないので、作業時に臭気を発生せず且つ環境に優しく、耐摩耗性および耐水性に優れるものである。本発明の舗装用水系バインダー組成物を通常のアスファルト、コンクリート等の舗装面に塗布し、常温で自然乾燥させることにより、耐摩耗性、耐水性等の物性に優れ、区画の明確化や滑り防止に有用な層を形成することができる。特に、本発明の舗装用水系バインダー組成物を排水性アスファルト舗装に塗布すると、舗装面を強固に補強することもできる。舗装用水系バインダー組成物の塗布方法としては、例えば、スプレー塗布、ローラー塗布、ジョウロによる散布、コテ塗り等を挙げることができる。舗装用水系バインダー組成物の塗布量は、舗装の種類に応じて適宜決定すればよいが、好ましくは0.2kg/m2〜2.0kg/m2である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例の樹脂エマルジョンの性状は下記の方法にて評価した。
(不揮発分)
直径5cmのアルミ皿に樹脂エマルジョン約1gを秤量し、105℃で1時間乾燥させ、残分を秤量することで算出した。
【0025】
(粘度)
ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、液温23℃、回転数60rpm、No.2ローターにて測定した。
【0026】
(ガラス転移温度(Tg))
樹脂エマルジョンを23℃、65%RHの条件下で1週間乾燥させた後、示差走査熱量計(DSC、セイコーインスツルメンツ株式会社製SSC5200)にて測定した。
【0027】
(最低成膜温度(MFT))
JIS K 6828に準じて測定した。
【0028】
(実施例1)
スチレン150質量部、メチルメタクリレート115質量部、2−エチルヘキシルアクリレート81質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7質量部、アニオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製ハイテノール(登録商標)08E)3質量部およびイオン交換水110質量部をホモミキサーにて混合乳化し、エチレン性不飽和単量体乳化組成物を調製した。
撹拌装置、温度計および還流冷却器を備えた四つ口フラスコ反応器に、水分散性ポリエステルとしてプラスコートZ−730(不揮発分25質量%、カルボキシル基含有タイプ、ガラス転移温度46℃、酸価58)138質量部、プラスコートZ−561(不揮発分25質量%、スルホン酸基含有タイプ、ガラス転移温度64℃、酸価2.5)207質量部およびイオン交換水33質量部を仕込み、80℃に昇温した。次に、反応器に過硫酸カリウム0.4質量部を投入するとともに、先に調製したエチレン性不飽和単量体乳化組成物の滴下を開始した。このエチレン性不飽和単量体乳化組成物と、過硫酸カリウム0.8質量部をイオン交換水46質量部で溶解したものとを3時間かけて滴下した。なお、滴下中、反応器内の温度は80℃に保った。滴下終了後、80℃で1時間保持した後、室温まで冷却した。成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(チッソ株式会社製CS−12)99質量部を添加し、実施例1の樹脂エマルジョンを得た。得られた樹脂エマルジョンの性状は、不揮発分50.0質量%、粘度300mPa・s、pH7.2、ガラス転移温度51℃、最低成膜温度0℃であった。合成樹脂に対する水分散性ポリエステルの量(質量%)を表1に示した。
【0029】
(実施例2)
スチレン150質量部、メチルメタクリレート115質量部、2−エチルヘキシルアクリレート81質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7質量部、アニオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製ハイテノール(登録商標)08E)3質量部、架橋剤としてのグリセリンポリグリシジルエーテル3.5質量部およびイオン交換水110質量部をホモミキサーにて混合乳化して調製したエチレン性不飽和単量体乳化組成物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で実施例2の樹脂エマルジョンを得た。得られた樹脂エマルジョンの性状は、不揮発分50.1質量%、粘度290mPa・s、pH7.2、ガラス転移温度52℃、最低成膜温度0℃であった。合成樹脂に対する水分散性ポリエステルの量(質量%)および水分散性ポリエステルに対する架橋剤の添加量(質量%)を表1に示した。
【0030】
(実施例3)
スチレン113質量部、メチルメタクリレート87質量部、2−エチルヘキシルアクリレート61質量部および2−ヒドロキシエチルメタクリレート5質量部を混合し、エチレン性不飽和単量体組成物を調製した。
撹拌装置、温度計および還流冷却器を備えた四つ口フラスコ反応器に、水分散性ポリエステルとしてプラスコートZ−730(不揮発分25質量%、カルボキシル基含有タイプ、ガラス転移温度46℃、酸価58)277質量部およびプラスコートZ−561(不揮発分25質量%、スルホン酸基含有タイプ、ガラス転移温度64℃、酸価2.5)416質量部を仕込み、80℃に昇温した。次に、反応器に過硫酸カリウム0.4質量部を投入するとともに、エチレン性不飽和単量体組成物の滴下を開始した。このエチレン性不飽和単量体組成物と、過硫酸カリウム0.8質量部をイオン交換水35部で溶解したものとを3時間かけて滴下した。なお、滴下中、反応器内の温度は80℃に保った。滴下終了後、80℃で1時間保持した後、室温まで冷却した。成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(チッソ株式会社製CS−12)50質量部を添加し、実施例3の樹脂エマルジョンを得た。得られた樹脂エマルジョンの性状は、不揮発分45.5質量%、粘度30mPa・s、pH7.0、ガラス転移温度42℃、最低成膜温度0℃であった。合成樹脂に対する水分散性ポリエステルの量(質量%)を表1に示した。
【0031】
(実施例4)
メチルメタクリレート210質量部、2−エチルヘキシルアクリレート136質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7質量部、アニオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製ハイテノール(登録商標)08E)3質量部、架橋剤としてのグリセリンポリグリシジルエーテル2.0質量部およびイオン交換水110質量部をホモミキサーにて混合乳化し、エチレン性不飽和単量体乳化組成物を調製した。
撹拌装置、温度計および還流冷却器を備えた四つ口フラスコ反応器に、水分散性ポリエステルとしてプラスコートZ−730(不揮発分25質量%、カルボキシル基含有タイプ、ガラス転移温度46℃、酸価58)138質量部、プラスコートZ−561(不揮発分25質量%、スルホン酸基含有タイプ、ガラス転移温度64℃、酸価2.5)207質量部およびイオン交換水33質量部を仕込み、80℃に昇温した。次に、反応器に過硫酸カリウム0.4質量部を投入するとともに、先に調製したエチレン性不飽和単量体乳化組成物の滴下を開始した。このエチレン性不飽和単量体乳化組成物と、過硫酸カリウム0.8質量部をイオン交換水46質量部で溶解したものとを3時間かけて滴下した。なお、滴下中、反応器内の温度は80℃に保った。滴下終了後、80℃で1時間保持した後、室温まで冷却した。成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(チッソ株式会社製CS−12)36質量部を添加し、実施例4の樹脂エマルジョンを得た。得られた樹脂エマルジョンの性状は、不揮発分50.0質量%、粘度110mPa・s、pH7.3、ガラス転移温度18℃、最低成膜温度0℃であった。合成樹脂に対する水分散性ポリエステルの量(質量%)および水分散性ポリエステルに対する架橋剤の添加量(質量%)を表1に示した。
【0032】
(比較例1)
水分散性ポリエステルであるプラスコートZ−561(不揮発分25質量%、スルホン酸基含有タイプ、ガラス転移温度64℃、酸価2.5)100質量部に、成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(チッソ株式会社製CS−12)4質量部を添加し、比較例1の樹脂エマルジョンを得た。
【0033】
(比較例2)
スチレン−アクリル酸エステル共重合体(昭和高分子株式会社製ポリゾール(登録商標)AP−4750、不揮発分46質量%、ガラス転移温度30℃、最低成膜温度0℃)を比較例2の樹脂エマルジョンとした。
【0034】
(比較例3)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(昭和高分子株式会社製ポリゾール(登録商標)P−3N、不揮発分50質量%、ガラス転移温度14℃、最低成膜温度2℃)を比較例3の樹脂エマルジョンとした。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例および比較例の樹脂エマルジョンを下記の方法にて評価した。
(耐磨耗性の評価)
実施例および比較例の樹脂エマルジョンを用いて下記表2の配合割合で舗装用水系バインダー組成物を調製した。なお、増粘剤の添加量は、舗装用水系バインダー組成物の粘度が約10,000mPa・sとなるように適宜調整した。
得られた舗装用水系バインダー組成物をスレート板に1kg/m2塗布し、23℃、65%RHの条件で1週間放置後、JIS K 5600 テーバー試験(磨耗輪法、荷重500g、500回転、回転数70rpm、磨耗輪CF−17)で磨耗量を測定した。磨耗量が1mgより少なければ、実用上十分な耐久性があると言える。結果を表3および4に示した。
【0037】
【表2】

【0038】
(耐水性の評価)
実施例および比較例の樹脂エマルジョンを6milのアプリケーターでガラス板に塗布し、23℃、65%RHの条件で1週間放置後、これを23℃の水に浸漬した。ほとんど白化しない場合を○、わずかに白化した場合を△、著しく白化した場合を×とした。結果を表3および4に示した。
【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
表3および4の結果から分かるように、実施例1、2および4の舗装用水系バインダー組成物は、比較例2および3のものと比較して、耐水性は同程度であるが、耐摩耗性は顕著に優れている。実施例3の舗装用水系バインダー組成物は、比較例2および3のものと比較すると耐水性が若干劣るが、実用上は問題のないレベルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性または水分散性ポリエステルを保護コロイドとする合成樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする舗装用水系バインダー組成物。
【請求項2】
前記合成樹脂が、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体または(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の舗装用水系バインダー組成物。
【請求項3】
前記水溶性または水分散性ポリエステルが、カルボキシル基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の舗装用水系バインダー組成物。
【請求項4】
カルボキシル基と反応可能な官能基を二つ以上有する架橋剤により、前記水溶性または水分散性ポリエステルと前記合成樹脂とが架橋されていることを特徴とする請求項3に記載の舗装用水系バインダー組成物。
【請求項5】
前記官能基がエポキシ基であることを特徴とする請求項4に記載の舗装用水系バインダー組成物。
【請求項6】
前記水溶性または水分散性ポリエステルの量が、前記合成樹脂に対して2質量%〜50質量%の範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の舗装用水系バインダー組成物。
【請求項7】
舗装面に、請求項1〜6のいずれか一項に記載の舗装用水系バインダー組成物を塗布し、乾燥させることを特徴とする舗装面の表面処理方法。

【公開番号】特開2009−215831(P2009−215831A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62812(P2008−62812)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】