説明

航行体の外壁及びその製造方法

【課題】弾性体層と繊維強化樹脂層とを空気が介在しないように確実に接着することができ、しかも水中生物の付着を防止することのできる航行体の外壁及びその製造方法を提供する。
【解決手段】弾性体層10の厚さ方向他方の面に布材層20を一体化するとともに、弾性体層10の厚さ方向他方の面に布材層20を覆うようにエポキシ樹脂層30を成形しているので、弾性体層10とエポキシ樹脂層30との間に空気が介在し難く、弾性体層10とエポキシ樹脂層30が布材層20を介して良好に接着する。また、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対側の面上に繊維強化樹脂層40を成形しているので、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40との間に空気が介在し難く、繊維強化樹脂層40が弾性体層10の影響を受けることなく硬化し、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40が良好に接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中物体を検知する探知センサを備えた船舶等の水上航行体または水中航行体に用いられる航行体の外壁及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の航行体としては、水中翼の中央にノーズコーンと呼ばれる中空体を有するとともに、ノーズコーン内に前方の水中障害物を超音波によって探知可能な探知センサが設けられ、ノーズコーンの前端側の外壁が、最も外側に配置されて外部の水と接する加硫ゴム層と、加硫ゴム層の内側面に接着するように設けられた繊維強化樹脂層とから成るものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−239089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記ノーズコーンの前端側の外壁は、加硫ゴム層と繊維強化樹脂層とを接着して成り、加硫ゴム層が外部の水と接するように最も外側に配置されているので、弾性体である加硫ゴム層によって繊維強化樹脂層が衝撃から保護される。また、加硫ゴム層と繊維強化樹脂層は超音波を透過し易い材質であることから、ノーズコーン内に設けられた探知センサの探知精度を向上する上で有利である。
【0004】
しかしながら、前記ノーズコーンの前端側の外壁は、所定形状に成形された加硫ゴム層と所定形状に成形された繊維強化樹脂層とを接着剤によって接着して製造されるが、接着の際に加硫ゴム層と繊維強化樹脂層との間に空気が介在し易く、介在する空気によって超音波の透過が阻害されるという問題点があった。
【0005】
一方、所定形状に成形された加硫ゴム層を繊維強化樹脂層を成形するための成形用型内に配置し、成形用型内の加硫ゴム層の上にガラス繊維等から成る強化繊維基材を配置するとともに、成形用型内にポリオール樹脂等の熱硬化性樹脂を注入し、熱硬化性樹脂の硬化によって加硫ゴム層と繊維強化樹脂層とを接着させることにより、加硫ゴム層と繊維強化樹脂層との間に空気が介在しないようにする場合もあるが、加硫ゴム層の加硫剤が熱硬化性樹脂の硬化を阻害し、加硫ゴム層と繊維強化樹脂層とを確実に接着させることができないという問題点があった。
【0006】
また、前記ノーズコーンの前端側の外壁は常に外部の水と接触しているので、最も外側に配置されている加硫ゴム層の表面にフジツボ等の水中生物が付着し易く、水中生物の付着によってノーズコーン内に設けられた探知センサの探知精度が低下するという問題点があった。
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、弾性体層と繊維強化樹脂層とを空気が介在しないように確実に接着することができ、しかも水中生物の付着を防止することのできる航行体の外壁及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記目的を達成するために、超音波を発信するとともに水中物体によって反射した超音波を受信することにより水中物体を探知可能な探知センサを備えた水上航行体または水中航行体に設けられ、探知センサから発信される超音波及び探知センサが受信する超音波が透過するとともに外部の水と接する航行体の外壁において、水中生物の付着を防止可能な弾性材料から成り、最も外側に配置されて厚さ方向一方の面が外部の水と接する弾性体層と、弾性体層の厚さ方向他方の面に一体化された布材層と、布材層が覆われるように弾性体層の厚さ方向他方の面に成形されたエポキシ樹脂層と、エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面に接着するように成形された繊維強化樹脂層とを備えている。
【0009】
これにより、弾性体層の厚さ方向他方の面に布材層を一体化するとともに、弾性体層の厚さ方向他方の面に布材層を覆うようにエポキシ樹脂層を成形していることから、弾性体層とエポキシ樹脂層との間に空気が介在し難く、且つ、弾性体層とエポキシ樹脂層が布材層を介して良好に接着する。また、繊維強化樹脂層はエポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面に接着するように成形されていることから、例えば繊維強化樹脂層を成形するための成形用型内にエポキシ樹脂層が成形された弾性体層を配置するとともに、エポキシ樹脂層の上に強化繊維基材を配置し、成形用型内に強化繊維基材に含浸させるポリオール樹脂等の含浸樹脂を注入することにより、エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面に接着するように繊維強化樹脂層が成形される場合は、エポキシ樹脂層と繊維強化樹脂層との間に空気が介在し難く、且つ、含浸樹脂が弾性体層の影響を受けることなく硬化し、エポキシ樹脂層と繊維強化樹脂層が良好に接着する。さらに、最も外側に配置されて外部の水と接する弾性体層が水中生物の付着を防止可能な弾性材料から成るので、水中生物の付着を防止することができる。
【0010】
また、本発明は、超音波を発信するとともに水中物体によって反射した超音波を受信することにより水中物体を探知可能な探知センサを備えた水上航行体または水中航行体に設けられ、探知センサから発信される超音波及び探知センサが受信する超音波が透過するとともに外部の水と接する航行体の外壁において、水中生物の付着を防止可能な弾性材料から成り、最も外側に配置されて厚さ方向一方の面が外部の水と接する弾性体層と、弾性体層の厚さ方向他方の面に成形された界面活性剤層と、弾性体層の厚さ方向他方の面に界面活性剤層を介して接着するように成形されたエポキシ樹脂層と、エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面に接着するように成形された繊維強化樹脂層とを備えている。
【0011】
これにより、弾性体層の厚さ方向他方の面に界面活性剤層を成形するとともに、弾性体層の厚さ方向他方の面に界面活性剤層を介して接着するようにエポキシ樹脂層を成形していることから、弾性体層とエポキシ樹脂層との間に空気が介在し難く、且つ、弾性体層とエポキシ樹脂層が良好に接着する。また、繊維強化樹脂層はエポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面に接着するように成形されていることから、例えば繊維強化樹脂層を成形するための成形用型内にエポキシ樹脂層が成形された弾性体層を配置するとともに、エポキシ樹脂層の上に強化繊維基材を配置し、成形用型内に強化繊維基材に含浸させるポリオール樹脂等の含浸樹脂を注入することにより、エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面に接着するように繊維強化樹脂層が成形される場合は、エポキシ樹脂層と繊維強化樹脂層との間に空気が介在し難く、且つ、含浸樹脂が弾性体層の影響を受けることなく硬化し、エポキシ樹脂層と繊維強化樹脂層が良好に接着する。さらに、最も外側に配置されて外部の水と接する弾性体層が水中生物の付着を防止可能な弾性材料から成るので、水中生物の付着を防止することができる。
【0012】
また、本発明は、超音波を発信するとともに水中物体によって反射した超音波を受信することにより水中物体を探知可能な探知センサを備えた水上航行体または水中航行体に設けられ、探知センサから発信される超音波及び探知センサが受信する超音波が透過するとともに外部の水と接する航行体の外壁を製造する航行体の外壁の製造方法において、水中生物の付着を防止可能な弾性材料を用い、最も外側に配置されて厚さ方向一方の面が外部の水と接する所定形状の弾性体層を成形するとともに、弾性体層の厚さ方向他方の面に布材層を一体化し、布材層が覆われるように弾性体層の厚さ方向他方の面にエポキシ樹脂層を成形した後、エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面上に繊維強化樹脂層を成形するようにしている。
【0013】
これにより、弾性体層の厚さ方向他方の面に布材層を一体化するとともに、弾性体層の厚さ方向他方の面に布材層を覆うようにエポキシ樹脂層を成形していることから、弾性体層とエポキシ樹脂層との間に空気が介在し難く、且つ、弾性体層とエポキシ樹脂層が布材層を介して良好に接着する。また、繊維強化樹脂層をエポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面上に成形することから、例えば繊維強化樹脂層を成形するための成形用型内にエポキシ樹脂層が成形された弾性体層を配置するとともに、エポキシ樹脂層の上に強化繊維基材を配置し、成形用型内に強化繊維基材に含浸させるポリオール樹脂等の含浸樹脂を注入することにより、エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面上に繊維強化樹脂層を成形する場合は、エポキシ樹脂層と繊維強化樹脂層との間に空気が介在し難く、且つ、含浸樹脂が弾性体層の影響を受けることなく硬化し、エポキシ樹脂層と繊維強化樹脂層が良好に接着する。さらに、最も外側に配置されて外部の水と接する弾性体層が水中生物の付着を防止可能な弾性材料から成るので、水中生物の付着を防止することができる。
【0014】
また、本発明は、超音波を発信するとともに水中物体によって反射した超音波を受信することにより水中物体を探知可能な探知センサを備えた水上航行体または水中航行体に設けられ、探知センサから発信される超音波及び探知センサが受信する超音波が透過するとともに外部の水と接する航行体の外壁を製造する航行体の外壁の製造方法において、水中生物の付着を防止可能な弾性材料を用い、最も外側に配置されて厚さ方向一方の面が外部の水と接する所定形状の弾性体層を成形するとともに、弾性体層の厚さ方向他方の面に界面活性剤層を成形し、弾性体層の厚さ方向他方の面に界面活性剤層を介して接着するようにエポキシ樹脂層を成形した後、エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面上に繊維強化樹脂層を成形するようにしている。
【0015】
これにより、弾性体層の厚さ方向他方の面に界面活性剤層を成形するとともに、弾性体層の厚さ方向他方の面に界面活性剤層を介して接着するようにエポキシ樹脂層を成形していることから、弾性体層とエポキシ樹脂層との間に空気が介在し難く、且つ、弾性体層とエポキシ樹脂層が良好に接着する。また、繊維強化樹脂層をエポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面上に成形することから、例えば繊維強化樹脂層を成形するための成形用型内にエポキシ樹脂層が成形された弾性体層を配置するとともに、エポキシ樹脂層の上に強化繊維基材を配置し、成形用型内に強化繊維基材に含浸させるポリオール樹脂等の含浸樹脂を注入することにより、エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面上に繊維強化樹脂層を成形する場合は、エポキシ樹脂層と繊維強化樹脂層との間に空気が介在し難く、且つ、含浸樹脂が弾性体層の影響を受けることなく硬化し、エポキシ樹脂層と繊維強化樹脂層が良好に接着する。さらに、最も外側に配置されて外部の水と接する弾性体層が水中生物の付着を防止可能な弾性材料から成るので、水中生物の付着を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、弾性体層とエポキシ樹脂層とを良好に接着させることができるとともに、エポキシ樹脂層と繊維強化樹脂層とを良好に接着させることができ、しかも、弾性体層とエポキシ樹脂層との間に空気が介在し難く、エポキシ樹脂層と繊維強化樹脂層との間にも空気が介在し難いので、弾性体層と繊維強化樹脂層とを空気が介在しないように確実に接着することができる。また、水中生物の付着を防止することができるので、探知センサの探知精度の向上を図る上で極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1乃至図8は本発明の第1実施形態を示すもので、図1は外壁の要部側面断面図、図2は船舶の要部側面図、図3は船舶の正面図、図4は厚さ方向他方の面に布材層が一体化された弾性体層の側面断面図、図5は厚さ方向他方の面に布材層が一体化された弾性体層の平面図、図6は厚さ方向他方の面にエポキシ樹脂層が成形された弾性体層の側面断面図、図7は成形用型に載置される前の弾性体層及び強化繊維基材の側面断面図、図8は成形用型に載置された弾性体層及び強化繊維基材の側面断面図である。
【0018】
本実施形態の航行体の外壁Wは、最も外側に配置されて厚さ方向一方の面が外部の水としての海水と接する弾性体層10と、弾性体層10の厚さ方向他方の面に一体化された布材層20と、布材層20が覆われるように弾性体層10の厚さ方向他方の面に成形されたエポキシ樹脂層30と、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対側の面に接着するように成形された繊維強化樹脂層40とを備えている。また、この航行体の外壁Wは中央部が前方に向かって凸状に形成された円板状部材であり、船舶1の前面壁2の一部を構成するように設けられている。船舶1は前端側の内部に探知センサ3を備えており、探知センサ3は前方に向かって超音波を発信するとともに水中物体によって反射した超音波を受信することにより水中物体を探知可能である。また、前記航行体の外壁Wは探知センサ3から発信される超音波及び探知センサ3が受信する超音波が透過するとともに海水と接するようになっている(図2及び図3参照)。
【0019】
この航行体の外壁Wを製造する場合は、先ず、中央部が凸状になるように成形された円板状の弾性体層10を成形する。弾性体層はフジツボ等の水中生物の付着を防止可能な加硫ゴムやゴム状弾性を有する樹脂等の弾性材料から成り、図示しない弾性体層成形用金型によって成形される。水中生物の付着を防止可能な加硫ゴムの例としては特開平8−20676号公報に開示されているものや、特開2001−21093号公報に開示されているようにシリコーンゴムが挙げられる。また、水中生物の付着を防止可能なゴム状弾性を有する樹脂の例としては特開平6−305913号公報に開示されているものが挙げられる。また、弾性体層成形用金型によって弾性体層10を成形する際に、弾性体層成形用金型内に布材層20を配置する。これにより、成形された弾性体層10の厚さ方向他方の面に布材層20を一体化させるとともに露出させることができる。
【0020】
布材層20はポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維等の有機繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維等の無機繊維から成り、エポキシ樹脂との接着性が良好である。また、布材層20を例えば網目状に織られた繊維から形成することも可能であり、不織布から成形することも可能である。また、繊維として例えば数μm乃至数mmの太さのものを使用することが可能である。
【0021】
続いて、弾性体層10の厚さ方向他方の面にエポキシ樹脂を塗布するとともに、エポキシ樹脂を硬化させる。これにより、布材層20が覆われるように弾性体層10の厚さ方向他方の面にエポキシ樹脂層30が成形される。
【0022】
続いて、繊維強化樹脂層40を成形するための成形用型50のプレート51上に布材層20及びエポキシ樹脂層30が上側になるように弾性体層10を載置する。プレート51は上面が弾性体層10に沿う凹状に形成され、図示しないヒータによって所定温度に加熱されるようになっている。次に、エポキシ樹脂層30の上に強化繊維基材41を載置する。強化繊維基材41はポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維等の有機繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維等の無機繊維から成る。
【0023】
続いて、弾性体層10及び強化繊維基材41を成形用型50の被覆カバー52によって被覆するとともに、被覆カバー52の周縁をプレート51の上面にシールテープ53によって貼り付ける。これにより、被覆カバー52内が密閉される。次に、成形用型50内の空気を図示しない吸引装置によって吸引しながら、成形用型50内に強化繊維基材41に含浸させるための含浸樹脂42を注入する。これにより、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対側の面上に繊維強化樹脂層40が成形される。繊維強化樹脂層40は成形用型50の熱等によって硬化し、硬化することによりエポキシ樹脂層30と接着する。ここで、繊維強化樹脂層40の含浸樹脂42はビニルエステル樹脂、布飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂から成り、エポキシ樹脂層30と良好に接着する材質である。
【0024】
以上のように、弾性体層10の厚さ方向他方の面に布材層20を一体化するとともに、弾性体層10の厚さ方向他方の面に布材層20を覆うようにエポキシ樹脂層30を成形しており、布材層20はエポキシ樹脂層30と接着性が良好であることから、弾性体層10とエポキシ樹脂層30との間に空気が介在し難く、且つ、弾性体層10とエポキシ樹脂層30が布材層20を介して良好に接着する。また、成形用型50内にエポキシ樹脂層30が成形された弾性体層10を配置するとともに、エポキシ樹脂層30の上に強化繊維基材41を配置し、成形用型50内に強化繊維基材41に含浸させるポリオール樹脂等の含浸樹脂42を注入することにより、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対側の面上に繊維強化樹脂層40が成形されることから、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40との間に空気が介在し難く、且つ、繊維強化樹脂層40の含浸樹脂42が弾性体層10の影響を受けることなく硬化し、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40が良好に接着する。
【0025】
このように、本実施形態によれば、弾性体層10とエポキシ樹脂層30とを良好に接着させることができるとともに、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40とを良好に接着させることができ、しかも、弾性体層10とエポキシ樹脂層30との間に空気が介在し難く、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40との間にも空気が介在し難いので、弾性体層10と繊維強化樹脂層40とを空気が介在しないように確実に接着することができる。また、最も外側に配置されて海水と接する弾性体層10がフジツボ等の水中生物の付着を防止可能な弾性材料から成り、水中生物の付着を防止することができるので、探知センサ3の探知精度の向上を図る上で極めて有利である。
【0026】
また、弾性体層10を成形する際に弾性体層成形用金型内に布材層を配置することにより、弾性体層10の厚さ方向他方の面に布材層20を一体化するようにしたので、弾性体層10と布材層20との一体化を容易且つ確実に行うことができる。
【0027】
また、繊維強化樹脂層40を成形するための成形用型50内にエポキシ樹脂層30が成形された弾性体層10を配置するとともに、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対の面側に強化繊維基材41を配置し、成形用型50内の空気を吸引しながら、強化繊維基材41に含浸させるための含浸樹脂42を成形用型50内に注入することにより、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対側の面上に繊維強化樹脂層40を成形するようにしたので、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40との間への空気の介在を確実に防止することができる。
【0028】
尚、本実施形態では、弾性体層10を成形する際に弾性体層成形用金型内に布材層20を配置することにより、弾性体層10の厚さ方向他方の面に布材層20を一体化するようにしたものを示したが、弾性体層10の厚さ方向他方の面に布材層20を接着によって一体化することも可能である。
【0029】
図9乃至図13は本発明の第2実施形態を示すもので、図9は外壁の要部側面断面図、図10は厚さ方向他方の面に界面活性剤層が成形された弾性体層の側面断面図、図11は厚さ方向他方の面にエポキシ樹脂層が成形された弾性体層の側面断面図、図12は成形用型に載置される前の弾性体層及び強化繊維基材の側面断面図、図13は成形用型に載置された弾性体層及び強化繊維基材の側面断面図である。尚、第1実施形態と同等の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0030】
本実施形態の航行体の外壁Wは、最も外側に配置されて厚さ方向一方の面が海水と接する第1実施形態と同等の弾性体層10と、弾性体層10の厚さ方向他方の面に成形された界面活性剤層60と、弾性体層10の厚さ方向他方の面に界面活性剤層60を介して接着するように成形された第1実施形態と同等のエポキシ樹脂層30と、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対側の面に接着するように成形された第1実施形態と同等の繊維強化樹脂層40とを備えている。また、この航行体の外壁Wは第1実施形態の航行体の外壁Wと同等の形状を有しており、第1実施形態と同様に船舶1の前面壁2の一部を構成するように設けられている。また、第1実施形態と同様に、この航行体の外壁Wは探知センサ3から発信される超音波及び探知センサ3が受信する超音波が透過するとともに海水と接するようになっている。
【0031】
この航行体の外壁Wを製造する場合は、先ず、第1実施形態と同様に弾性体層10を成形するとともに、弾性体層10の厚さ方向他方の面に液状ハロゲン化ゴム等の界面活性剤を塗布し、界面活性剤に所定温度(例えば150℃程度)を加えることにより、弾性体層10の厚さ方向他方の面に界面活性剤層60を成形する。ここで、前記界面活性剤は弾性体層10及びエポキシ樹脂層30と良好に接着する材質であり、界面活性剤としての液状ハロゲン化ゴムの例としては、天然ゴム、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、イソブチレンイソプレンゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムが挙げられる。
【0032】
続いて、弾性体層10の厚さ方向他方の面にエポキシ樹脂を塗布するとともに、エポキシ樹脂を硬化させる。これにより、弾性体層10の厚さ方向他方の面に界面活性剤層60を介して接着するようにエポキシ樹脂層30が成形される。
【0033】
続いて、繊維強化樹脂層40を成形するための成形用型50のプレート51上に界面活性剤層60及びエポキシ樹脂層30が上側になるように弾性体層10を載置する。成形用型50は第1実施形態と同等の構成を有する。次に、エポキシ樹脂層30の上に強化繊維基材41を載置する。
【0034】
続いて、弾性体層10及び強化繊維基材41を成形用型50の被覆カバー52によって被覆するとともに、被覆カバー52の周縁をプレート51の上面にシールテープ53によって貼り付ける。これにより、被覆カバー52内が密閉される。次に、成形用型50内の空気を図示しない吸引装置によって吸引しながら、成形用型50内に強化繊維基材41に含浸させるための含浸樹脂42を注入する。これにより、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対側の面上に繊維強化樹脂層40が成形される。繊維強化樹脂層40は成形用型50の熱等によって硬化し、硬化することによりエポキシ樹脂層30と接着する。
【0035】
以上のように、弾性体層10の厚さ方向他方の面に界面活性剤層60を成形するとともに、弾性体層10の厚さ方向他方の面に界面活性剤層60を介して接着するようにエポキシ樹脂層30を成形しており、界面活性剤層60は弾性体層10及びエポキシ樹脂層30との接着性が良好であることから、弾性体層10とエポキシ樹脂層30との間に空気が介在し難く、且つ、弾性体層10とエポキシ樹脂層30が良好に接着する。また、成形用型50内にエポキシ樹脂層30が成形された弾性体層10を配置するとともに、エポキシ樹脂層30の上に強化繊維基材41を配置し、成形用型50内に強化繊維基材41に含浸させるポリオール樹脂等の含浸樹脂42を注入することにより、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対側の面上に繊維強化樹脂層40が成形されることから、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40との間に空気が介在し難く、且つ、繊維強化樹脂層40の含浸樹脂42が弾性体層10の影響を受けることなく硬化し、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40が良好に接着する。
【0036】
このように、本実施形態によれば、弾性体層10とエポキシ樹脂層30とを良好に接着させることができるとともに、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40とを良好に接着させることができ、しかも、弾性体層10とエポキシ樹脂層30との間に空気が介在し難く、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40との間にも空気が介在し難いので、弾性体層10と繊維強化樹脂層40とを空気が介在しないように確実に接着することができる。また、最も外側に配置されて海水と接する弾性体層10が水中生物の付着を防止可能な弾性材料から成り、代用生物の付着を防止することができるので、探知センサ3の探知制度の向上を図る上で極めて有利である。
【0037】
また、繊維強化樹脂層40を成形するための成形用型50内にエポキシ樹脂層30が成形された弾性体層10を配置するとともに、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対の面側に強化繊維基材41を配置し、成形用型50内の空気を吸引しながら、強化繊維基材41に含浸させるための含浸樹脂42を成形用型50内に注入することにより、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対側の面上に繊維強化樹脂層40を成形するようにしたので、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40との間への空気の介在を確実に防止することができる。
【0038】
尚、第1及び第2実施形態では、エポキシ樹脂層30と繊維強化樹脂層40とを直接接着するものを示したが、エポキシ樹脂層30における弾性体層10と反対側の面にプライマを塗布し、エポキシ樹脂層30と強化繊維樹脂層40とをプライマを介して接着することも可能である。ここで、プライマの例としてはアクリル系プライマが挙げられる。
【0039】
また、第1及び第2実施形態では、中央部が前方に向かって凸状に形成された円板状の航行体の外壁Wを一例として示したが、他の形状の航行体の外壁を第1及び第2実施形態のように構成することも可能である。
【0040】
尚、第1及び第2実施形態では水上航行体である船舶1の外壁Wについて示したが、水中航行体の外壁を第1及び第2実施形態にように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態を示す外壁の要部側面断面図
【図2】船舶の要部側面図
【図3】船舶の正面図
【図4】厚さ方向他方の面に布材層が一体化された弾性体層の側面断面図
【図5】厚さ方向他方の面に布材層が一体化された弾性体層の平面図
【図6】厚さ方向他方の面にエポキシ樹脂層が成形された弾性体層の側面断面図
【図7】成形用型に載置される前の弾性体層及び強化繊維基材の側面断面図
【図8】成形用型に載置された弾性体層及び強化繊維基材の側面断面図
【図9】本発明の第2実施形態を示す外壁の要部側面断面図
【図10】厚さ方向他方の面に界面活性剤層が成形された弾性体層の側面断面図
【図11】厚さ方向他方の面にエポキシ樹脂層が成形された弾性体層の側面断面図
【図12】成形用型に載置される前の弾性体層及び強化繊維基材の側面断面図
【図13】成形用型に載置された弾性体層及び強化繊維基材の側面断面図
【符号の説明】
【0042】
1…船舶、2…前面壁、3…探知センサ、10…弾性体層、20…布材層、30…エポキシ樹脂層、40…繊維強化樹脂層、41…強化繊維基材、42…含浸樹脂、50…成形用型、51…プレート、52…被覆カバー、53…シールテープ、60…界面活性剤層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を発信するとともに水中物体によって反射した超音波を受信することにより水中物体を探知可能な探知センサを備えた水上航行体または水中航行体に設けられ、探知センサから発信される超音波及び探知センサが受信する超音波が透過するとともに外部の水と接する航行体の外壁において、
水中生物の付着を防止可能な弾性材料から成り、最も外側に配置されて厚さ方向一方の面が外部の水と接する弾性体層と、
弾性体層の厚さ方向他方の面に一体化された布材層と、
布材層が覆われるように弾性体層の厚さ方向他方の面に成形されたエポキシ樹脂層と、
エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面に接着するように成形された繊維強化樹脂層とを備えた
ことを特徴とする航行体の外壁。
【請求項2】
超音波を発信するとともに水中物体によって反射した超音波を受信することにより水中物体を探知可能な探知センサを備えた水上航行体または水中航行体に設けられ、探知センサから発信される超音波及び探知センサが受信する超音波が透過するとともに外部の水と接する航行体の外壁において、
水中生物の付着を防止可能な弾性材料から成り、最も外側に配置されて厚さ方向一方の面が外部の水と接する弾性体層と、
弾性体層の厚さ方向他方の面に成形された界面活性剤層と、
弾性体層の厚さ方向他方の面に界面活性剤層を介して接着するように成形されたエポキシ樹脂層と、
エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面に接着するように成形された繊維強化樹脂層とを備えた
ことを特徴とする航行体の外壁。
【請求項3】
超音波を発信するとともに水中物体によって反射した超音波を受信することにより水中物体を探知可能な探知センサを備えた水上航行体または水中航行体に設けられ、探知センサから発信される超音波及び探知センサが受信する超音波が透過するとともに外部の水と接する航行体の外壁を製造する航行体の外壁の製造方法において、
水中生物の付着を防止可能な弾性材料を用い、最も外側に配置されて厚さ方向一方の面が外部の水と接する所定形状の弾性体層を成形するとともに、
弾性体層の厚さ方向他方の面に布材層を一体化し、
布材層が覆われるように弾性体層の厚さ方向他方の面にエポキシ樹脂層を成形した後、
エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面上に繊維強化樹脂層を成形する
ことを特徴とする航行体の外壁の製造方法。
【請求項4】
前記弾性体層を成形する際に弾性体層成形用金型内に布材層を配置することにより、弾性体層の厚さ方向他方の面に布材層を一体化する
ことを特徴とする請求項3記載の航行体の外壁の製造方法。
【請求項5】
超音波を発信するとともに水中物体によって反射した超音波を受信することにより水中物体を探知可能な探知センサを備えた水上航行体または水中航行体に設けられ、探知センサから発信される超音波及び探知センサが受信する超音波が透過するとともに外部の水と接する航行体の外壁を製造する航行体の外壁の製造方法において、
水中生物の付着を防止可能な弾性材料を用い、最も外側に配置されて厚さ方向一方の面が外部の水と接する所定形状の弾性体層を成形するとともに、
弾性体層の厚さ方向他方の面に界面活性剤層を成形し、
弾性体層の厚さ方向他方の面に界面活性剤層を介して接着するようにエポキシ樹脂層を成形した後、
エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面上に繊維強化樹脂層を成形する
ことを特徴とする航行体の外壁の製造方法。
【請求項6】
前記繊維強化樹脂層を成形するための成形用型内にエポキシ樹脂層が成形された弾性体層を配置するとともに、エポキシ樹脂層における弾性体層と反対の面側に強化繊維基材を配置し、成形用型内の空気を吸引しながら強化繊維基材に含浸させるための含浸樹脂を成形用型内に注入することにより、エポキシ樹脂層における弾性体層と反対側の面上に繊維強化樹脂層を成形する
ことを特徴とする請求項3、4または5記載の航行体の外壁の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−12491(P2009−12491A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172957(P2007−172957)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】