説明

舶用SCR還元剤供給システム

【課題】還元剤として毒性の強いアンモニア水を選択し、舶用SCR還元剤供給システムを構成する構成要素のいずれかからアンモニア水が漏洩してしまった場合でも、乗組員の安全性を確保することができる舶用SCR還元剤供給システムを提供すること。
【解決手段】還元剤貯蔵タンク11を収容する還元剤貯蔵タンク室31と、還元剤噴射ノズル13の基端部を収容する還元剤噴射ノズル室36と、還元剤供給管21,23を収容するダクト34,38と、を備え、還元剤が船内に漏洩しないよう、二重化構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、船舶の主機として用いられる2サイクル低速ディーゼル機関から排出される排気ガス中から窒素酸化物を除去する舶用SCR還元剤供給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境保全に対する関心の高まりに伴い、例えば、船舶の主機として用いられる2サイクル低速ディーゼル機関から排出される排気ガスに含まれる窒素酸化物(以下、「NOx」という。)を削減する必要性が生じている。NOx削減を図るためには、ディーゼル機関の排気ガスを脱硝触媒に通す方法が一般的に知られている(例えば、特許文献1参照)。
ここで、脱硝触媒としては、アンモニア等を還元剤として窒素に還元する選択的還元法(SCR法)に基づく触媒が一般的に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−288040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、還元剤として毒性の強いアンモニア水を選択し、舶用SCR還元剤供給システムを構成する構成要素のいずれかからアンモニア水が漏洩してしまった場合、乗組員の安全性を確保することができなくなってしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、還元剤として毒性の強いアンモニア水を選択し、舶用SCR還元剤供給システムを構成する構成要素のいずれかからアンモニア水が漏洩してしまった場合でも、乗組員の安全性を確保することができる舶用SCR還元剤供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明に係る舶用SCR還元剤供給システムは、還元剤が貯蔵された還元剤貯蔵タンクと、舶用内燃機関から排出された排気ガスに含まれる窒素酸化物を還元する触媒を備えた脱硝反応器と、前記舶用内燃機関と前記脱硝反応器とを連通する煙道内に、その先端部が露出するようにして設けられ、前記還元剤貯蔵タンクに貯蔵された還元剤を、前記煙道内を通過する排気ガスに向かって噴出させる還元剤噴射ノズルと、前記還元剤貯蔵タンクに貯められた還元剤を前記還元剤噴射ノズルに導く還元剤供給管と、を備え、前記舶用内燃機関から排出された排気ガスに含まれる窒素酸化物を還元する舶用SCR還元剤供給システムであって、前記還元剤貯蔵タンクを収容する還元剤貯蔵タンク室と、前記還元剤噴射ノズルの基端部を収容する還元剤噴射ノズル室と、前記還元剤供給管を収容するダクトと、を備え、前記還元剤が船内に漏洩しないよう、二重化構造とした。
【0007】
本発明に係る舶用SCR還元剤供給システムによれば、当該舶用SCR還元剤供給システムを構成する構成要素、例えば、還元剤貯蔵タンク、還元剤噴射ノズル、還元剤供給管から還元剤が漏れ出したとしても、漏れ出した還元剤は二重化構造の内側に存することになり、二重化構造の外側に漏れ出すことはないので、還元剤として毒性の強いアンモニア水を選択し、当該舶用SCR還元剤供給システムを構成する構成要素のいずれかからアンモニア水が漏洩してしまった場合でも、乗組員の安全性を確保することができる。
【0008】
上記舶用SCR還元剤供給システムにおいて、船外に開口する外気取入口から取り入れられた外気を、前記二重化構造の内側に導き、前記二重化構造の内側の換気に利用した後、船外に開口する排気口から排出させるようにするとさらに好適である。
【0009】
このような舶用SCR還元剤供給システムによれば、二重化構造の内側を流通する外気により、当該舶用SCR還元剤供給システムを構成する構成要素、例えば、還元剤貯蔵タンク、還元剤噴射ノズル、還元剤供給管が冷却され、その内側に存する還元剤が冷却されて、還元剤の気化(沸騰)を防止し、当該舶用SCR還元剤供給システムの性能低下を防止することができる。
【0010】
上記舶用SCR還元剤供給システムにおいて、前記還元剤貯蔵タンク室内の上方、前記還元剤噴射ノズル室内の上方に、ガス検出器がそれぞれ設けられているとさらに好適である。
【0011】
このような舶用SCR還元剤供給システムによれば、気化した還元剤が滞留しやすい還元剤貯蔵タンク室内の上方、還元剤噴射ノズル室内の上方にガス検知器が設けられることになるので、ガス検知器の誤検知を防止することができ、いずれの場所で気化した還元剤が検出されたかを素早く特定することができる。
【0012】
上記舶用SCR還元剤供給システムにおいて、前記還元剤貯蔵タンクに、内圧を所定の範囲内に保つ内圧調整手段が設けられているとさらに好適である。
【0013】
このような舶用SCR還元剤供給システムによれば、還元剤貯蔵タンク内の圧力が所定の範囲内に保たれることになるので、内圧の変化による還元剤貯蔵タンクの損傷を防止することができ、還元剤貯蔵タンクからの還元剤の漏洩を防止することができる。
【0014】
上記舶用SCR還元剤供給システムにおいて、前記還元剤貯蔵タンク室内または前記還元剤貯蔵タンクに、前記還元剤貯蔵タンクを冷却して、前記還元剤貯蔵タンク内に存する還元剤を冷却する第1の冷却手段が設けられているとさらに好適である。
【0015】
このような舶用SCR還元剤供給システムによれば、第1の冷却手段により還元剤貯蔵タンクが冷却され、還元剤貯蔵タンク内に存する還元剤が冷却されることになるので、還元剤貯蔵タンク内に存する還元剤の気化(沸騰)を防止することができる。
【0016】
上記舶用SCR還元剤供給システムにおいて、前記還元剤噴射ノズルに加圧された還元剤を吐出するポンプの吸入口近傍に、前記還元剤供給管を介して前記還元剤貯蔵タンクから供給された還元剤を冷却する第2の冷却手段が設けられているとさらに好適である。
【0017】
このような舶用SCR還元剤供給システムによれば、ポンプに吸入される還元剤が予め冷却されることになるので、ポンプ内における還元剤の気化(沸騰)を防止し、還元剤を正常に供給することができる。
【0018】
本発明に係る舶用排気ガス脱硝装置は、上記いずれかの舶用SCR還元剤供給システムを具備している。
【0019】
本発明に係る舶用排気ガス脱硝装置によれば、還元剤として毒性の強いアンモニア水を選択し、舶用SCR還元剤供給システムを構成する構成要素のいずれかからアンモニア水が漏洩してしまった場合でも、乗組員の安全性を確保することができる信頼性の高い舶用SCR還元剤供給システムを具備していることになるので、乗組員の安全性を確保することができて、船舶全体の信頼性を向上させることができる。
【0020】
本発明に係る船舶は、上記いずれかの舶用SCR還元剤供給システムまたは上記舶用排気ガス脱硝装置を具備している。
【0021】
本発明に係る船舶によれば、還元剤として毒性の強いアンモニア水を選択し、舶用SCR還元剤供給システムを構成する構成要素のいずれかからアンモニア水が漏洩してしまった場合でも、乗組員の安全性を確保することができる信頼性の高い舶用SCR還元剤供給システムを具備していることになるので、乗組員の安全性を確保することができて、船舶全体の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る舶用SCR還元剤供給システムによれば、還元剤として毒性の強いアンモニア水を選択し、舶用SCR還元剤供給システムを構成する構成要素のいずれかからアンモニア水が漏洩してしまった場合でも、乗組員の安全性を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムを具備した船舶の概略の構成を示す図である。
【図2】還元剤貯蔵タンク室における配置状態を示す平面図である。
【図3】還元剤貯蔵タンク室における配置状態を示す図であって、図2を下方から見た側面図である。
【図4】還元剤貯蔵タンク室における配置状態を示す図であって、図2を左方から見た正面図である。
【図5】フレームの一部を拡大して示す平面図であって、(a)はフレームに平面視円形状を呈する丸穴が形成されたもの、(b)はフレームに平面視アーチ形状を呈する切欠が形成されたものを示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムを具備した船舶の概略の構成を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムを具備した船舶の概略の構成を示す図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムを具備した船舶の概略の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムについて、図1から図5を参照しながら説明する。
図1は本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムを具備した船舶の概略の構成を示す図、図2は還元剤貯蔵タンク室における配置状態を示す平面図、図3は還元剤貯蔵タンク室における配置状態を示す図であって、図2を下方から見た側面図、図4は還元剤貯蔵タンク室における配置状態を示す図であって、図2を左方から見た正面図、図5はフレームの一部を拡大して示す平面図であって、(a)はフレームに平面視円形状を呈する丸穴が形成されたもの、(b)はフレームに平面視アーチ形状を呈する切欠が形成されたものを示す図である。
【0025】
本実施形態に係る船舶1は、舶用内燃機関2と、舶用SCR還元剤供給システム10とを備えている。
舶用内燃機関2としては、例えば、図示しないシリンダ部と、排気レシーバー(排気集合管:排気マニホールド)と、過給機とを備え、船舶1の主機として用いられる2サイクル低速ディーゼル機関を一具体例として挙げることができる。
各シリンダ部内には、クランク軸(図示せず)と連結されたピストン(図示せず)が配置されている。また、各シリンダ部の排気ポート(図示せず)は、排気管(図示せず)を介して排気レシーバーと連通(接続)されており、各排気管におけるシリンダに対する開口部には、当該開口部を開閉する排気弁(図示せず)が配置されている。
【0026】
舶用SCR還元剤供給システム10は、還元剤貯蔵タンク11と、還元剤供給装置12と、還元剤噴射ノズル13と、脱硝反応器14と、制御装置(図示せず)とを備えている。
還元剤貯蔵タンク11には、アンモニア水や尿素水等の還元剤(本実施形態では「25重量%のアンモニア水」)が貯蔵されている。また、還元剤貯蔵タンク11と還元剤供給装置12とは、(第1の)還元剤供給管(内管)21を介して連通(接続)されており、随時必要に応じて、還元剤貯蔵タンク11から還元剤供給装置12に還元剤が供給されるようになっている。
【0027】
還元剤供給装置12には、清水供給管(図示せず)と、空気供給管(図示せず)とが接続されており、随時必要に応じて、船舶1の船底に設けられた清水タンク(図示せず)から還元剤供給装置12に清水が供給され、船舶1内に設けられた空気タンク(図示せず)から還元剤供給装置12に制御空気が供給されるようになっている。
還元剤噴射ノズル13は、舶用内燃機関2(より詳しくは、過給機)と脱硝反応器14とを連通(接続)する(第1の)煙道(排気管)22内に、その先端部が露出するようにして複数本(例えば、四本)設けられている。また、還元剤噴射ノズル13の基端部は、分配管(図示せず)を介して連通(接続)され、この分配管と還元剤供給装置12とは、(第2の)還元剤供給管(内管)23を介して連通(接続)されており、随時必要に応じて、還元剤供給装置12から還元剤が供給されるようになっている。そして、還元剤噴射ノズル13から煙道22内に向かって、霧状の還元剤が供給される(還元剤が噴霧される)ようになっている。
なお、還元剤供給装置12に供給される清水の量および制御空気の量、還元剤噴射ノズル13に供給される還元剤の量は、制御装置により制御されるようになっている。
【0028】
脱硝反応器14の内部には、例えば、外観が直方体形状を呈するとともに、ハニカム(ハチの巣)構造を有する触媒(図示せず)が複数個設けられており(配置されており)、これら触媒の中を排気ガスが通過(通気)する際に、NOxが窒素と水に分解され、排気ガス中のNOxが除去されることになる。そして、NOxが除去された排気ガスは、脱硝反応器14と煙突(図示せず)とを連通(接続)する(第2の)煙道(排気管)24を介して煙突に導かれ、煙突から大気中に排出されるようになっている。
【0029】
さて、本実施形態において還元剤貯蔵タンク11および還元剤供給装置12は、船舶1の暴露甲板3上に設けられた還元剤貯蔵タンク室31内および還元剤供給装置室32内にそれぞれ収容されている。
また、還元剤供給管21のうち、還元剤貯蔵タンク室31と還元剤供給装置室32との間に位置する還元剤供給管21は、その一端が還元剤貯蔵タンク室31の一側壁(一外壁)の下方(下部)に接続され、その他端が還元剤供給装置室32の一側壁(一外壁)の下方(下部)に設けられた貫通穴33に接続されて還元剤供給装置室32内と連通する(第1の)ダクト(外管)34内に収容されている。
なお、還元剤貯蔵タンク室31の一側壁には、還元剤供給管21を通す(挿通させる)だけの貫通穴(図示せず)が設けられており、この貫通穴と還元剤供給管21との間は、溶接ビードやシール材等により塞がれている(密封されている)。
【0030】
さらに、還元剤供給管23のうち、還元剤供給装置室32と分配管との間に位置する還元剤供給管23は、その一端が還元剤供給装置室32の他側壁(他外壁)の下方(下部)に設けられた貫通穴35に接続されて還元剤供給装置室32内と連通し、その他端が、分配管を収容する分配管チャンバー(拡大空間部:還元剤噴射ノズル室)36の一側壁(一外壁)の上方(上部)に設けられた貫通穴37に接続されて分配管チャンバー36内と連通する(第2の)ダクト(外管)38内に収容されている。分配管チャンバー36には、貫通穴39が設けられており、この貫通穴39には、その一端が暴露甲板3よりも上方に開口する外気取入口(吸気口)40とされた(第3の)ダクト(外管)41の他端が接続されている。
【0031】
一方、還元剤貯蔵タンク室31の一側壁(一外壁)の上方(上部)には、貫通穴42が設けられ、ダクト34の周壁には、貫通穴43が設けられており、貫通穴42と貫通穴43とは、(第4の)ダクト44を介して連通(接続)されている。また、還元剤貯蔵タンク室31の天井面には、貫通穴45が設けられており、この貫通穴45には、その一端が還元剤貯蔵タンク室31の天井面よりも上方に開口する排気口46とされた(第5の)ダクト47の他端が接続されている。
【0032】
還元剤貯蔵タンク11の天井面には、少なくとも一つの貫通穴(図示せず)が設けられており、この貫通穴には、その一端が貫通穴45の近傍あるいは貫通穴45内に位置して開口する少なくとも一本(本実施形態では二本)の配管48の他端がそれぞれ接続されている。また、各配管48の途中には、還元剤貯蔵タンク11内の圧力が第1の規定値以上になると、自動的に開いて還元剤貯蔵タンク11内の気化した還元剤を放出し、還元剤貯蔵タンク11内の圧力を第1の規定値以下に保つとともに、還元剤貯蔵タンク11内の圧力が第1の規定値よりも低い第2の規定値以下になると、自動的に開いて還元剤貯蔵タンク11内に還元剤貯蔵タンク室31内の空気(外気)を取り込み、還元剤貯蔵タンク11内の圧力を第2の規定値以上に保つように構成されたブリーザーバルブ(内圧調整手段)49が接続されている。そして、ダクト47内には、排気ファン50が設けられており、ブリーザーバルブ49が開いて配管48の一端開口から放出された気化した還元剤、および外気取入口40から取り入れられてダクト41→分配管チャンバー36→ダクト38→還元剤供給装置室32→ダクト34→ダクト44を順に通って貫通穴42から還元剤貯蔵タンク室31内の上方に導かれた外気は、排気ファン50により吸引され、排気口46から船外に放出されることになる。
さらには、排気ファン50は、換気機能分のみの誘引ファン(図示せず)と、排気を希釈する機能の排気ファン(図示せず)とに分けることが可能である。
【0033】
還元剤貯蔵タンク室31内の上方、還元剤供給装置室32内の上方、および分配管チャンバー36内の上方には、ガス検出器51がそれぞれ設けられており、ガス検出器51が気化した還元剤を検出(検知)すると、制御装置に検出信号が出力され、還元剤貯蔵タンク室31内、還元剤供給装置室32内、分配管チャンバー36内のいずれの場所で気化した還元剤が検出されたかを特定し得るようになっている。
【0034】
図2から図4に示すように、還元剤貯蔵タンク11は、還元剤貯蔵タンク室31の床面上に、還元剤貯蔵タンク室31の一側壁から他側壁に向かって、互いに平行になるようにして設けられた複数本(本実施形態では三本)のフレーム61上に固定されており、還元剤貯蔵タンク室31の一側壁と他側壁との間に位置する(第三の)側壁の上方(上部)には、還元剤貯蔵タンク室31内に存する空気(外気)を冷却する空気冷却装置(空気調和装置:第1の冷却手段)62が取り付けられている。また、各フレーム61には、図5(a)に示すような平面視円形状を呈する丸穴63、あるいは図5(b)に示すような平面視アーチ形状を呈する切欠64が、長手方向に沿って複数個ずつ設けられており、空気冷却装置62から吹き出された冷気が、これらの丸穴63あるいは切欠64を通って流通し、還元剤貯蔵タンク室31内に、冷気の循環流(図中の矢印参照)が形成されるようになっている。
なお、図3中および図4中の符号65は、設置面(本実施形態では暴露甲板3)に固定されて還元剤貯蔵タンク室31の(床面の)下面を支持する支持プレート(支持部材)である。また、支持プレート65の上面と還元剤貯蔵タンク室31の下面とは、溶接接合されている。
【0035】
本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システム10によれば、当該舶用SCR還元剤供給システム10を構成する構成要素、例えば、還元剤貯蔵タンク11、還元剤供給装置12、還元剤噴射ノズル13、還元剤供給管21,23から還元剤が漏れ出したとしても、漏れ出した還元剤は二重化構造の内側に存することになり、二重化構造の外側に漏れ出すことはないので、還元剤として毒性の強いアンモニア水を選択し、当該舶用SCR還元剤供給システム10を構成する構成要素のいずれかからアンモニア水が漏洩してしまった場合でも、乗組員の安全性を確保することができる。
また、本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システム10によれば、二重化構造の内側を流通する外気により、当該舶用SCR還元剤供給システム10を構成する構成要素、例えば、還元剤貯蔵タンク11、還元剤供給装置12、還元剤噴射ノズル13、還元剤供給管21,23が冷却され、その内側に存する還元剤が冷却されて、還元剤の気化(沸騰)を防止し、当該舶用SCR還元剤供給システム10の性能低下を防止することができる。
さらに、本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システム10によれば、気化した還元剤が滞留しやすい還元剤貯蔵タンク室31内の上方、還元剤供給装置室32内の上方、還元剤噴射ノズル室36内の上方にガス検知器51がそれぞれ設けられることになるので、ガス検知器51の誤検知を防止することができ、いずれの場所で気化した還元剤が検出されたかを素早く特定することができる。
【0036】
さらにまた、本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システム10によれば、還元剤貯蔵タンク11に、内圧を所定の範囲内に保つブリーザーバルブ(内圧調整手段)49が設けられており、還元剤貯蔵タンク11内の圧力が所定の範囲内に保たれることになるので、内圧の変化による還元剤貯蔵タンク11の損傷を防止することができ、還元剤貯蔵タンク11からの還元剤の漏洩を防止することができる。
さらにまた、本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システム10によれば、還元剤貯蔵タンク室31内に、還元剤貯蔵タンク11を冷却して、還元剤貯蔵タンク11内に存する還元剤を冷却する空気冷却装置(空気調和装置:冷却手段)62が設けられており、空気冷却装置62により還元剤貯蔵タンク11が冷却され、還元剤貯蔵タンク11内に存する還元剤が冷却されることになるので、還元剤貯蔵タンク11内に存する還元剤の気化(沸騰)を防止することができる。
さらにまた、貫通穴42を介して還元剤貯蔵タンク室31内に流入してくる外気の流れ方向と、還元剤貯蔵タンク室31内を循環する冷気の主たる流れ方向とが、直交するようになっているので、外気と冷気との熱交換を最小限にとどめることができて、還元剤貯蔵タンク11を効率よく冷却することができる。
また、冷気は下方に、アンモニアは上方にと分離作用を利用できる。
【0037】
本実施形態に係る船舶1によれば、還元剤として毒性の強いアンモニア水を選択し、舶用SCR還元剤供給システム10を構成する構成要素のいずれかからアンモニア水が漏洩してしまった場合でも、乗組員の安全性を確保することができる信頼性の高い舶用SCR還元剤供給システム10を具備していることになるので、乗組員の安全性を確保することができて、船舶1全体の信頼性を向上させることができる。
【0038】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムについて、図6を参照しながら説明する。
図6は本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムを具備した船舶の概略の構成を示す図である。
図6に示すように、本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システム10は、ブリーザーバルブ49の代わりに、シールタンク71が設けられているという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0039】
シールタンク(内圧調整手段)71内には、所定量の水(例えば、清水)が貯められており、還元剤貯蔵タンク11から揮発するガスを水に溶かすことで、シールタンク71から出てくる(各配管48より出る)揮発ガスは十分に低濃度になる。
なお、図6中の符号72は、シールタンク71内に水を補給するための補給用配管である。
【0040】
本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システム10によれば、還元剤貯蔵タンク11から揮発するガスは、シールタンク71内に貯められた水に溶け込んでしまうので、シールタンク71から出てくる(各配管48より出る)揮発ガスを十分に低濃度なものとすることができる。
また、排気ファン50が、換気機能分のみの誘引ファン(図示せず)と、排気を希釈する機能の排気ファン(図示せず)とに分けられている場合には、上述した第1実施形態における排気を希釈する機能の排気ファン(図示せず)を不要とすることができる。
その他の作用効果は、上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0041】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムについて、図7を参照しながら説明する。
図7は本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムを具備した船舶の概略の構成を示す図である。
図7に示すように、本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システム10は、シールタンク71の代わりに、ドラフター(内圧調整手段)81が設けられているという点で上述した第2実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第2実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0042】
ドラフター81は、常時揮発ガスをタンク外へ排出する手段であり、還元剤貯蔵タンク11からの漏洩を誤検知しないようにドラフター81内の流速を設定することで第2実施形態のシールタンク71の代替えとなる。
また、換気空気だけで希釈排出できない場合は、ドラフター81等を使って希釈空気を追加して安全濃度にすることが可能となる。
なお、図6中の符号72は、シールタンク71内に水を補給するための補給用配管である。
【0043】
本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システム10によれば、還元剤貯蔵タンク11からの漏洩を誤検知しないようにドラフター81内の流速を設定することにより、還元剤貯蔵タンク11からの漏洩の誤検知を防止することができる。
その他の作用効果は、上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0044】
〔第4実施形態〕
本発明の第4実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムについて、図8を参照しながら説明する。
図8は本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システムを具備した船舶の概略の構成を示す図である。
図8に示すように、本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システム10は、還元剤貯蔵タンク11および還元剤供給装置12が、船舶1の暴露甲板3よりも下方に設けられた還元剤貯蔵タンク室31内および還元剤供給装置室32内にそれぞれ収容されているという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0045】
上述した第1実施形態では、還元剤貯蔵タンク11および還元剤供給装置12が、船舶1の暴露甲板3上に設けられた還元剤貯蔵タンク室31内および還元剤供給装置室32内にそれぞれ収容されていたのに対して、本実施形態では、還元剤貯蔵タンク11および還元剤供給装置12が、船舶1の暴露甲板3よりも下方に設けられた還元剤貯蔵タンク室31内および還元剤供給装置室32内にそれぞれ収容されている。
すなわち、上述した第1実施形態では、ダクト38の一端が他端よりも鉛直方向において上方に位置し、ダクト38が他端から一端にかけて上り勾配になるようにして、ダクト38内を通過する外気が他端から一端にかけて上昇していくようにダクト38が配置されているのに対して、本実施形態では、ダクト38の一端が他端よりも鉛直方向において下方に位置し、ダクト38が他端から一端にかけて下り勾配になるようにして、ダクト38内を通過する外気が他端から一端にかけて下降していくようにダクト38が配置されている。
【0046】
本実施形態に係る舶用SCR還元剤供給システム10によれば、ダクト38の一端が他端よりも鉛直方向において下方に位置し、ダクト38が他端から一端にかけて下り勾配になるようにして、ダクト38内を通過する外気が他端から一端にかけて下降していくようにダクト38を配置したことにより、以下の作用効果を奏する。
(1)還元剤供給管23内部で気泡が発生した場合でも、気泡は還元剤供給管23の内部を上方へ行くため、還元剤供給装置12を構成するとともに、還元剤噴射ノズル13に加圧された還元剤を吐出する(供給する)ポンプに影響を及ぼすことなく、還元剤を安定して供給することができる。
(2)還元剤貯蔵タンク11が船舶1内(船内)にあるため、外気からの入熱(直射日光等含む)を防ぐことができ、冷却を容易なものとすることができる。
(3)還元剤が還元剤供給管23から漏洩した場合でも、換気の流れと同じ方向に落下するため、ダクト38内に残り難くすることができる。
(4)還元剤供給装置室32の床面と還元剤噴射ノズル室36の床面とを連通するようにして配置された船外排出管(ドレンライン)91を廃止する(不要とする)ことができ、船外排出管91を短くすることができて、還元剤による危険を減らすことができる。
その他の作用効果は、上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0047】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形あるいは変更して実施することができる。
例えば、還元剤供給管21および/または還元剤供給管23の内周面および/または外周面に、フィンやディンプルを設けるようにして、還元剤供給管21,23の熱伝達性を向上させるようにしてもよい。
【0048】
また、上述した実施形態では、空気冷却装置62を用いて還元剤貯蔵タンク室31内に存する空気を冷却し、冷却された空気で還元剤貯蔵タンク11を冷却して、還元剤貯蔵タンク11内に存する還元剤を冷却するようにしていたが、空気冷却装置62の代わりに還元剤貯蔵タンク11の側壁(外壁)、天井面、床面の少なくともいずれかを、海水等を流通させて冷却する水冷壁(第1の冷却手段)とし、還元剤貯蔵タンク11内に存する還元剤を冷却するようにしてもよい。
【0049】
さらに、還元剤供給装置12を構成するとともに、還元剤噴射ノズル13に加圧された還元剤を吐出する(供給する)ポンプ(例えば、ダイアフラムポンプ)の吸入口(近傍)に、還元剤供給管21を介して還元剤貯蔵タンク11から供給された還元剤を冷却する(第2の)冷却手段(例えば、海水等と熱交換させて還元剤を冷却する熱交換器)を配置し、ポンプに吸入される還元剤の温度を予め低下させるようにして、ポンプ内における還元剤の気化(沸騰)を防止し、ポンプ効率を向上させるようにしてもよい。
【0050】
さらにまた、還元剤貯蔵タンク室31の床面、還元剤供給装置室32の床面、還元剤噴射ノズル室36の床面には、少なくとも一つの貫通穴(図示せず)がそれぞれ設けられており、この貫通穴には、船外排出管91の一端が接続されているとさらに好適である。
これにより、還元剤が漏れ出して(漏洩して)、還元剤貯蔵タンク室31の床面、還元剤供給装置室32の床面、還元剤噴射ノズル室36の床面に還元剤が貯まってしまった場合でも、還元剤を安全に船外に排出することができて、乗組員の安全性をさらに確保することができるようになる。
【符号の説明】
【0051】
1 船舶
2 舶用内燃機関
10 舶用SCR還元剤供給システム
11 還元剤貯蔵タンク
13 還元剤噴射ノズル
14 脱硝反応器
21 (第1の)還元剤供給管
22 (第1の)煙道
23 (第2の)還元剤供給管
31 還元剤貯蔵タンク室
34 (第1の)ダクト
36 分配管チャンバー(還元剤噴射ノズル室)
38 (第2の)ダクト
40 外気取入口
46 排気口
49 ブリーザーバルブ(内圧調整手段)
51 ガス検出器
62 空気冷却装置(第1の冷却手段)
71 シールタンク(内圧調整手段)
81 ドラフター(内圧調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤が貯蔵された還元剤貯蔵タンクと、
舶用内燃機関から排出された排気ガスに含まれる窒素酸化物を還元する触媒を備えた脱硝反応器と、
前記舶用内燃機関と前記脱硝反応器とを連通する煙道内に、その先端部が露出するようにして設けられ、前記還元剤貯蔵タンクに貯蔵された還元剤を、前記煙道内を通過する排気ガスに向かって噴出させる還元剤噴射ノズルと、
前記還元剤貯蔵タンクに貯められた還元剤を前記還元剤噴射ノズルに導く還元剤供給管と、を備え、
前記舶用内燃機関から排出された排気ガスに含まれる窒素酸化物を還元する舶用SCR還元剤供給システムであって、
前記還元剤貯蔵タンクを収容する還元剤貯蔵タンク室と、
前記還元剤噴射ノズルの基端部を収容する還元剤噴射ノズル室と、
前記還元剤供給管を収容するダクトと、を備え、
前記還元剤が船内に漏洩しないよう、二重化構造としたことを特徴とする舶用SCR還元剤供給システム。
【請求項2】
船外に開口する外気取入口から取り入れられた外気を、前記二重化構造の内側に導き、前記二重化構造の内側の換気に利用した後、船外に開口する排気口から排出させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の舶用SCR還元剤供給システム。
【請求項3】
前記還元剤貯蔵タンク室内の上方、前記還元剤噴射ノズル室内の上方に、ガス検出器がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の舶用SCR還元剤供給システム。
【請求項4】
前記還元剤貯蔵タンクに、内圧を所定の範囲内に保つ内圧調整手段が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の舶用SCR還元剤供給システム。
【請求項5】
前記還元剤貯蔵タンク室内または前記還元剤貯蔵タンクに、前記還元剤貯蔵タンクを冷却して、前記還元剤貯蔵タンク内に存する還元剤を冷却する第1の冷却手段が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の舶用SCR還元剤供給システム。
【請求項6】
前記還元剤噴射ノズルに加圧された還元剤を吐出するポンプの吸入口近傍に、前記還元剤供給管を介して前記還元剤貯蔵タンクから供給された還元剤を冷却する第2の冷却手段が設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の舶用SCR還元剤供給システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の舶用SCR還元剤供給システムを具備していることを特徴とする舶用排気ガス脱硝装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の舶用SCR還元剤供給システムまたは請求項7に記載の舶用排気ガス脱硝装置を具備していることを特徴とする船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−82796(P2012−82796A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231669(P2010−231669)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(510273787)株式会社赤阪鐵工所 (2)
【出願人】(592250540)株式会社大島造船所 (32)
【出願人】(595055162)社団法人日本舶用工業会 (25)
【Fターム(参考)】