説明

船体用制御装置及び船体用制御プログラム並びに船体用制御プログラムを組み込んだ自動操舵装置

【課題】補助推進装置の設置や舵の制御が不要で、目標位置を設定するだけで目標位置までの経路上に船体を漂流させる船体用制御装置及び船体用制御プログラム並びに船体用制御プログラムを組み込んだ自動操舵装置を提供する。
【解決手段】船体は、船体用制御装置1とGPS航法装置2とクラッチ制御装置3とスパンカーとを備える。繰船者が目標位置を設定すると、現在位置から目標位置までの設定経路が算出され、船体と設定経路との離間距離が限界偏位量を超えた場合、クラッチ制御装置3がクラッチ4を嵌めて船体を推進させ、船体が設定経路上に復帰するとクラッチ制御装置3がクラッチ4を脱して船体を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体の制御に係るものであり、船体を設定漂流経路上に保持する船体用制御装置及び船体用制御プログラム並びに船体用制御プログラムを組み込んだ自動操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船上での釣りには対象魚種によって、流し釣りやポイント釣りなどの釣り方がある。ポイント釣りとは船体を定点に保持させ釣りをするものであり、流し釣りとは船体を漂流させながら釣りをするものである。流し釣りの場合、種々の魚が潮の流れに沿って泳ぐため、潮の流れに沿って釣れば、釣果を上げることが期待できる。
【0003】
このような流し釣りをするため、主推進装置とは別途補助推進装置を2基備えた船体において、船体の現方位及び現位置と、目的地点との距離及び乖離角度θを算出して、目的地点からの離間距離rmと所定の離間許容限界距離Rmとの関係が、rm≧Rmの場合に、乖離角度θに基づき2つの補助推進装置を駆動制御して船体を目的地に向けて進行制御する制御装置を備えた自動復帰航行装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この発明によると、魚を釣りたいポイントで主推進装置を停止した船体は漂流を開始し、船体の現在位置と目的地点との離間距離rmが、あらかじめ設定した限界離間距離Rmを越えると、左右2つの補助推進装置が駆動制御され、船体が目的地点に復帰する。その後、補助推進装置を停止し、再び船体を漂流させる。このように、これら一連の動作を繰り返すことで、目的地点を中心として限界離間距離Rmを半径とする領域内で船体は自動的に往復航行することとなり、この領域内で流し釣りができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る発明は、目的地点を中心とした一定領域内で釣りができるが、殆どの場合に海上では風が吹いているので、停止した船体は潮と風の双方の影響によって押し流される。そのため、船体が漂流する方向と潮の流れる方向とにズレが生じることとなる。また、特許文献1に係る発明は、流し釣りを制御するものと言うよりは、従来から多数提案されている定点保持制御における閾値の設定を変更したものであり、従来の定点保持制御と本質的には変わらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−315474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように特許文献1に記載の自動復帰航行装置には、以下の点で改良すべき余地がある。
1)定点に船体を自動復帰させるための制御装置であり、当該定点を中心とする領域内での流し釣りは可能であるが、当該制御装置では設定領域外での船体の制御並びに流し釣りができない。
2)設定領域内において流し釣りをする場合にも、風の影響を受け、船体が漂流する方位と潮の流れの方位とにズレが生じるが、これを自動的に修正できない。
3)主推進装置とは別途、補助推進装置の設置が必須であるため、制御が複雑となり、かつ、コストもかかる。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、補助推進装置の設置や舵の制御が不要であり、潮流に沿った目標位置又はその他目標位置を設定するだけで、初期位置から目標位置までの設定漂流経路上を船体が漂流するように制御する船体用制御装置及び船体用制御プログラム並びに船体用制御プログラムを組み込んだ自動操舵装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために本発明に係る船体用制御装置は、風の方向に対し船首を風上に向けて船体を立てるためのスパンカーと推進機とクラッチと該クラッチを制御するクラッチ制御装置とGPS航法装置とを有する船体を、設定漂流経路上に保持するための船体用制御装置であって、
前記GPS航法装置は、前記船体の位置(初期位置及び現在位置)を検出する位置検出手段と、目標位置を入力する目標位置入力手段と、前記船体の初期位置から設定した目標位置までの設定漂流経路を算出する設定漂流経路算出手段と、前記現在位置と前記設定漂流経路との偏位量(ズレ)を算出する偏位量算出手段と、を有し、
前記偏位量を前記GPS航法装置より受信する偏位量受信手段と、前記偏位量の閾値を限界偏位量として設定する限界偏位量設定手段と、前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチを嵌める指令を前記クラッチ制御装置に出力するクラッチ嵌指令出力手段と、前記クラッチ嵌指令により前記クラッチが嵌まることにより前記船体が推進し、前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に、前記クラッチを脱する指令を前記クラッチ制御装置に出力するクラッチ脱指令出力手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、停止した船体を、漂流させたい方位上の点を目標位置に設定するだけで、船体の初期位置から目標位置までの設定漂流経路が算出され、船体はこの設定漂流経路に沿って漂流するように制御される。従って、操船者は初期位置から目標位置までの間、船体の操舵をすることなく流し釣りをすることができる。また、潮流方位上の点を目標位置に設定することで、容易に、潮流に沿って船体を漂流させることができる。
【0011】
また、本発明の制御は、スパンカーを設置した船体のクラッチの嵌脱動作を制御するものであり、船体の位置と設定漂流経路との偏位量が所定の範囲を超えた場合にクラッチを嵌め、船体が設定漂流経路に帰着するとクラッチを脱するという制御である。そのため、補助推進装置の設置や舵の制御は不要である。これは、スパンカーによって船首が常時風上の方向を向くこととなるため、クラッチを嵌めれば船体は風に向かって前進することとなる。つまり、風の影響を打ち消す方向に船体が推進して設定漂流経路に復帰するため、原則として舵の制御や補助推進機自体も不要となる。
【0012】
ここで、以下語句について説明する。
・「スパンカー」とは、船体を風上に向けて立たせるためのセール(帆)のことであり、一般的には船尾に設置する。例えば、船尾に取り付けたマストからセールを左右後方に向けて末広がりに拡開するように配置する。そうすると、風が吹けば、左右のマストが均等に風を受けるよう、風に対してマストを先頭とする方向に船体が回転し、風に対し船体が立つ。このように、スパンカーとは風見鶏のような役目をするものである。したがって、スパンカーを設置した船体は、常時、風上に対し船首を先頭に向けた状態に維持することができる。
・「目標位置」とは、操船者が目的とする位置を設定するというよりむしろ、船体を漂流させたい方向を決めるための、仮の目標位置をいう。なお、目標位置は操船者が任意に設定することができる。
・「設定漂流経路」とは、初期位置から目標位置まで船体を漂流させる設定経路をいう。この設定漂流経路の算出方法は、従来からある中分緯度航法や大圏航法、漸長緯度航法などを用いればよい。
・「偏位量」とは、船体の現在位置の設定漂流経路からのズレ量、つまりクロストラックエラー(XTE)のことをいう。
・「限界偏位量」とは、例えば、1.8m、18m、180mなど、操船者によって任意に定めた偏位量の閾値をいう。つまり、限界偏位量とは、偏位量の境界を定めるものである。また、この限界偏位量に0.1mといった余りに短い距離を設定するのは、各機器の保守上好ましくない。このように設定すると、船体の揺れや多少の波の影響で制御が行われてしまい、常時船体用制御装置等が作動することとなるからである。
【0013】
請求項2に係る船体用制御装置は、風の方向に対し船首を風上に向けて船体を立てるためのスパンカーと推進機とクラッチと該クラッチを制御するクラッチ制御装置とを有する船体を、設定漂流経路上に保持するための船体用制御装置であって、
前記船体の位置(初期位置及び現在位置)を検出する位置検出手段と、目標位置を入力する目標位置入力手段と、前記初期位置から前記目標位置までの設定漂流経路を算出する設定漂流経路算出手段と、前記現在位置と前記設定漂流経路との偏位量(ズレ)を算出する偏位量算出手段と、前記偏位量の閾値を限界偏位量として設定する限界偏位量設定手段と、前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチを嵌める指令を前記クラッチ制御装置に出力するクラッチ嵌指令出力手段と、前記クラッチ嵌指令により前記クラッチが嵌まることにより前記船体が推進し、前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に、前記クラッチを脱する指令を前記クラッチ制御装置に出力するクラッチ脱指令出力手段と、を備えることとしてもよい。
【0014】
この構成によれば、船体用制御装置がGPS航法装置の機能を兼ね備えることとできる。
【0015】
請求項3に係る船体用制御装置は、前記目標位置に代えて、目標方位を入力することにより、前記設定漂流経路として、前記初期位置から前記目標方位へ向けての漂流経路を用いてもよい。
【0016】
このようにすれば、目標位置の代わりに目標方位を入力するだけで、船体の初期位置から目標方位への漂流経路が算出され、船体はこの設定漂流経路に沿って流されるように制御される。
【0017】
請求項4に係る船体用制御装置は、前記クラッチ脱指令出力手段が、前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に代えて、前記船体が前記設定漂流経路を横切って、再度前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチを脱する指令を出力する手段であることを備えることとしてもよい。
【0018】
この構成によれば、船体が設定漂流経路上に帰着した場合にクラッチを脱する制御に代えて、船体が設定漂流経路を超えて再度限界偏位量に達した場合にクラッチを脱する制御とすることもできる。そうすることで、クラッチの嵌・脱動作の間隔を約2倍にすることができ、クラッチやクラッチ制御装置の頻繁な作動を防止できる。
【0019】
請求項5に係る船体用制御装置は、前記クラッチ制御装置が、手動操作用スロットルレバーとシフトレバーを備えたプッシュプルケーブル式のコントロールヘッドを介して前記エンジンの前記クラッチを中立状態・前進状態・後進状態に遠隔操作できる制御装置であって、前記シフトレバーの位置を切り換える駆動力を発生させるモータと、このモータの駆動力をプッシュプルケーブルを介して前記シフトレバーに伝達あるいは伝達を解除する電磁クラッチとを備えたアクチュエータユニットを設け、このアクチュエータユニットに電気式リモートコントローラとしてのポータブル発信器を接続し、前記コントロールヘッドのシフトレバーをプッシュプルケーブルを介して位置制御可能に構成し、前記ポータブル発信器には、ダイヤル式のツマミを中立位置から時計方向と反時計方向とへ回転可能に設け、前記ツマミを前記中立位置から一方へ最大回転角の範囲内で最大回転位置へ回転させると前進し、前記ツマミを前記中立位置から他方へ最大回転角の範囲内で最大回転位置へ回転させると後進するとともに、前記ツマミを中立位置から両方向にそれぞれ前記最大回転角より狭い範囲内で回転させると、それぞれ前進潮立てと後進潮立てとを行い、前進潮立ておよび後進潮立てとも前記ツマミの回転角で前進時間あるいは後進時間および中立時間の長短で複数段階に分かれており、前進時間あるいは後進時間および中立時間についてはあらかじめ各段階ごとに設定され、前進潮立て・後進潮立てともに前記エンジンの回転数はアイドリングに近い微速で航行される一方、中立時間の間はスクリューの回転が停止するようにしたこととしてもよい。
【0020】
この構成によれば、流し釣り制御に加え、一つのツマミを回転させてツマミの位置を決めるだけで、船体の前進・後進とともに、前進潮立ておよび後進潮立てを自動的に行えるため、操作が楽なうえに、潮の流れが変化してもツマミの位置の変更で対応でき、操船ポジションから離れて魚釣りに専念することができる。具体的には、潮の流れや風の強さを考慮してスイッチのON/OFFで中立時間や前進時間および後進時間を手動で選択できるので、自動制御に加えて、手動操作によって操船者の詳細な調整が可能である。
【0021】
請求項6に係る船体用制御プログラムは、風の方向に対し船首を風上に向けて船体を立てるためのスパンカーと推進機とクラッチと該クラッチを制御するクラッチ制御装置とGPS航法装置とを有する船体を、設定漂流経路上に保持するための船体用自動制御プログラムであって、
前記GPS航法装置は前記船体の位置(初期位置及び現在位置)を検出し、前記船体の初期位置から、設定した目標位置までの設定漂流経路を算出して、前記現在位置と前記設定漂流経路との偏位量(ズレ)を算出し、前記偏位量を前記GPS航法装置より受信して、前記偏位量の閾値を限界偏位量として設定し、前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチを嵌める指令を前記クラッチ制御装置に出力し、前記船体の推進により、前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に、前記クラッチを脱する指令を前記クラッチ制御装置に出力することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、本発明のプログラムを、船体用制御装置をはじめ、例えば自動操舵装置やクラッチ制御装置、航法装置などに組み込むことによって、船体を漂流させたい方位上の点を目標位置に設定するだけで、船体の初期位置から目標位置までの設定漂流経路が算出され、船体をこの設定漂流経路に沿って流されるように制御できる。従って、操船者は初期位置から目標位置までの間、船体を操舵することなく流し釣りができる。また、潮流方位上の点を目標位置に設定することで、容易に、潮流に沿って船体を漂流させることができる。
【0023】
なお、本発明の制御は、スパンカーを設置した船体のクラッチの動作を制御するものであり、離間距離が所定の範囲を超えるとクラッチを嵌め、船体が設定漂流経路に帰着するとクラッチを脱する制御である。そのため、補助推進装置の設置や舵の制御は不要である。これは、スパンカーにより船首が常時風の方向を向くこととなるため、クラッチを嵌めると船体は風に向かって前進することとなる。つまり、風の影響を打ち消す方向に船体が推進して設定漂流経路に復帰するため、原則として舵の制御や補助推進機自体が不要となる。
【0024】
請求項7に係る船体用制御プログラムは、風の方向に対し船首を風上に向けて船体を立てるためのスパンカーと推進機とクラッチと該クラッチを制御するクラッチ制御装置とを有する船体を、設定漂流経路上に保持するための船体用自動制御プログラムであって、
前記船体の位置(初期位置及び現在位置)を検出し、目標位置を入力し、前記初期位置から、前記目標位置までの設定漂流経路を算出して、前記現在位置と前記設定漂流経路との偏位量(ズレ)を算出し、前記偏位量の閾値を限界偏位量として設定し、前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチを嵌める指令を前記クラッチ制御装置に出力し、前記船体の推進により、前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に、前記クラッチを脱する指令を前記クラッチ制御装置に出力することとしてもよい。
【0025】
このようにすれば、船体用制御プログラムにGPS航法装置の機能を兼ね備えることができる。
【0026】
請求項8に係る船体用制御プログラムは、前記目標位置に代えて、目標方位を入力することにより、前記設定漂流経路として、前記初期位置から前記目標方位へ向けての漂流経路を用いてもよい。
【0027】
請求項9に係る船体用制御プログラムは、前記クラッチを脱する指令が、前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に代えて、前記船体が前記設定漂流経路を横切って、再度前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチ制御装置へ出力されてもよい。
【0028】
請求項10に係る自動操舵装置は、前記船体の船首方位及び船体位置を検出する検出手段と、目的地点を設定する設定手段と、前記船体の当初船体位置から前記目的地点までの設定航路を算出する航路算出手段と、前記設定航路と前記船体の現在船首方位と現在船体位置とから前記船体に設定航路上を航行させるため舵の動作を制御する制御手段とを備え、請求項6〜9のいずれか1項に記載の船体用制御プログラムが組み込まれていてもよい。
【0029】
このようにすれば、自動操舵装置が、船体用制御機能を備えることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る船体用制御装置及び船体用制御プログラム並びに船体用制御プログラムを組み込んだ自動操舵装置は、上記の構成からなるため、次のような優れた効果がある。
目標位置を設定するだけで、船体を設定漂流経路上に沿って漂流するように制御できる。この時、潮流の方位上に目標位置を設定すれば、潮流に沿って流し釣りができる。
また、主としてクラッチの嵌・脱制御であるため、舵の制御や補助推進機の設置が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1に係る船体用制御装置(GPS機能なし)及びこれに接続する機器を示すブロック図である。
【図2】船体に取り付けた状態のスパンカーを示す図である。
【図3】(a)は、本発明の実施例1に係る船体用制御装置又は船体用制御プログラムを用い、船体の復帰を、設定漂流経路上への復帰に設定した場合の船体制御の一例を示す図である。(b)は、(a)における制御フローを示すフローチャートである。
【図4】(a)は、本発明の実施例1に係る船体用制御装置又は船体用制御プログラムを用い、船体の復帰を、設定漂流経路上を越えて再度限界偏位量へ達した場合、と設定した時の船体制御の一例を示す図である。(b)は、(a)における制御フローを示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施例2に係る船体用制御装置(GPS機能あり)及びこれに接続する機器を示すブロック図である。
【図6】(a)は、本発明の実施例2に係る船体用制御装置又は船体用制御プログラムを用い、船体の復帰を、設定漂流経路上への復帰に設定した場合の、船体制御の一例を示す図である。(b)は、(a)における制御フローを示すフローチャートである。
【図7】(a)は、本発明の実施例2に係る船体用制御装置又は船体用制御プログラムを用い、船体の復帰を、設定漂流経路上を越えて再度限界偏位量への復帰に設定した場合の船体制御の一例を示す図である。(b)は、(a)における制御フローを示すフローチャートである。
【図8】(a)は、本発明の変形例に係るクラッチ制御装置を備えた全体のレイアウトを示す説明図である。(b)は、同クラッチ制御装置のポータブル発信器の一部拡大図である。
【図9】偏位量(クロストラックエラー)の算出方法の一例を示すための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る船体用制御装置及び船体用制御プログラムについての実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0033】
1.[船体用制御装置1及びその他機器の構成]
本発明の船体用制御装置1は、図1に示すように、船体用制御装置1に、GPS航法装置2、クラッチ制御装置3が接続されている。
【0034】
(GPS航法装置2)
GPS航法装置2は、船体Aの位置(初期位置及び現在位置)を検出する検出部と、目標位置を設定・入力する目標位置入力部と、船体Aの初期位置から目標位置までの設定漂流経路を算出し、船体Aの現在位置と設定漂流経路との偏位量(クロストラックエラー)を算出する制御部とを有する。なお、目標位置の設定・入力に代えて、目標方位を設定・入力した場合には、初期位置から目標方位へ向けての設定漂流経路が算出される。
【0035】
(クラッチ制御装置3)
クラッチ制御装置3は、推進機のエンジンに配されたクラッチ4と接続されており、船体Aの推進・停止をクラッチ4の嵌脱により制御する。そして、船体用制御装置1は、クラッチ制御装置3に対して、クラッチ4の嵌脱指令を出力する。
【0036】
(船体用制御装置1)
船体用制御装置1は、制御部1aと記憶部1bと入力部1cとを備える。
入力部1cは、偏位量の閾値を限界偏位量として設定するための入力部である。また、本実施例1においては、設定する限界偏位量は1.8m〜18mまで1.8m刻みで設定でき、船体用制御装置1に設けたツマミ(図示せず)を回してこれを設定する。なお、ツマミによる入力に代えて、別体の入力装置を船体用制御装置1に別途接続する構成としてもよい。
【0037】
記憶部1bは、GPS航法装置2が算出した偏位量や、入力部1cにより設定した限界偏位量などのデータを記憶する。
【0038】
制御部1aは、これらデータより偏位量が限界偏位量を超えるか否かを判定し、超えている場合にはクラッチ制御装置3にクラッチ4の嵌指令を出力する。また、一旦嵌指令を出力した後は、偏位量が0(又は、あらかじめ設定した範囲内)となった場合にクラッチ制御装置3に対してクラッチ4の脱指令を出力する。なお、偏位量が0(又は、あらかじめ設定した範囲内)となった場合に代えて、偏位量が一旦0となり、再度限界偏位量に達した場合に、クラッチ制御装置3に対してクラッチ4の脱指令を出力する設定としてもよい。
【0039】
(スパンカー5)
また、図2に示すように、船体Aの後方にはスパンカー5が取り付けられている。スパンカー5は船体Aの後方にマストを取り付け、このマストから左右後方に向けて末広がりに拡開するように配置する。船体Aに風が吹いた場合、左右のマストが均等に風を受けるように、風に対してマストを先頭とする方向に船体が回転し、風に対し船体Aが船首を先頭に立つこととなる。このように、スパンカーとは風見鶏のような役目をする。したがって、スパンカーを設置すると、原則として常時、風上に対し船首を先頭に向けた状態に船体を維持することができる。
【0040】
2.[制御フロー1]
次に、船体用制御プログラムを用いた場合の、船体Aを設定漂流経路上へ保持する制御フローについて、図3(a)、(b)を用いて説明する。
【0041】
(ステップS1)
流し釣りを開始しようとする操船者は、船体Aを停止し、船体Aを漂流させたい経路を決めて、GPS航法装置2の入力部2cより目標位置を入力する。そうすると、GPS航法装置2は船体Aの初期位置を検出し、船体Aの初期位置から目標位置までの設定漂流経路を算出する。なお、操船者は、目標位置の代わりに目標方位をGPS航法装置2に入力することもできる。目標方位を入力すると、GPS航法装置2は、船体Aの初期位置を検出し、船体Aの初期位置から目標方位に向けての設定漂流経路を算出する。
【0042】
(ステップS2)
次に操船者は、設定漂流経路と船体Aとの偏位量の限界を定め、それに基づき船体用制御装置1の入力部1cから限界偏位量Xを入力する。この時、限界偏位量Xを小さく設定すればするほど、船体Aは設定漂流経路上に沿って漂流するが、あまりに小さく設定してしまうと常時船体用制御装置1やクラッチ制御装置3、クラッチ4等の動作・停止が頻繁に繰り返されることとなり、各機器の保守上好ましくない。
そして、入力部1cに入力した限界偏位量Xは、限界偏位量データとして記憶部1bに送信(出力)される。なお、ステップS1とステップS2とは、順不同である。
【0043】
(ステップS3)
そして、船体Aが漂流を開始すると、GPS航法装置2は各時点における船体Aの位置(現在位置)を随時検出し、ステップS1で算出した設定漂流経路と現在位置との偏位量(現在偏位量a1)を随時算出し、現在偏位量データとして船体用制御装置1に送信される。なお、現在偏位量は随時変化するが、その都度、現在偏位量データとして船体用制御装置1に送信される。
【0044】
(ステップS4)
続いて、船体用制御装置1が、GPS航法装置2で算出された偏位量データを受信して記憶部1bに格納する。そして、記憶部1bから現在偏位量データ及び限界偏位量データを取り出し、制御部1aがその大小を判定する。
この時、(現在偏位量a1)≦(限界偏位量X)の場合、ステップS3に戻る。一方、(現在偏位量a1)>(限界偏位量X)の場合には、ステップS5に進む。
【0045】
(ステップS5)
船体用制御装置1の制御部1aが、(現在偏位量a1)>(限界偏位量X)と判定すると、制御部1aがクラッチ4の嵌指令をクラッチ制御装置3に対して送信する。そうすると、クラッチ4が嵌まり、船体Aは前進する。なお、前記の通り、船体Aにはスパンカー5が取り付けられ、風上の方向に船首が向いているため、船体Aは風上の方向に前進することとなる。
【0046】
(ステップS6)
推進機が作動し、船体Aが前進状態にある時にも、随時GPS航法装置2は現在偏位量a2を算出し、船体用制御装置1に対し現在偏位量データを送信する。
【0047】
(ステップS7)
続いて、船体Aが設定漂流経路上に復帰したか否かを判定するため、現在偏位量データを受信した船体用制御装置1の制御部1aは、随時現在偏位量データがあらかじめ設定した範囲内であるか否かを判定する。
【0048】
あらかじめ設定した範囲とは、例えば−0.5m〜+0.5mなどの範囲をいい、現在偏位量がこの範囲内にあると、船体Aが設定経路上に復帰したと制御部1aが認識する。ここで、現在偏位量が0の場合にのみ、船体Aが設定経路上に復帰というように設定することも可能であるが、船体Aは海上の潮流・風の影響を常に受けており、現在偏位量が完全に0となる瞬間は少ない。したがって、所定の範囲を定めなければ、制御部1aが船体Aの設定漂流経路上への復帰との認識に時間を要することとなってしまうため、好ましくない。
【0049】
そして、現在偏位量があらかじめ設定した範囲内(例えば、−0.5m〜+0.5m)にある、つまり船体Aが設定漂流経路上に復帰したと制御部1aが判定した場合(|現在偏位量a2|≦0.5m)、ステップS8へ進む。一方、範囲外と判定した場合(|現在偏位量a2|>0.5m)には、ステップS6に戻る。
【0050】
(ステップS8)
船体用制御装置1の制御部1aが、|現在偏位量a2|≦0.5mと判定し、船体Aが設定経路上に復帰したと判断すると、制御部1aはクラッチ4の脱指令をクラッチ制御装置3に送信する。そうすると、クラッチ制御装置3がクラッチ4を脱し、船体Aが停止して、船体Aが漂流状態に戻る。
【0051】
その後、ステップS3に戻り、以後ステップS3〜ステップS8を繰り返す。
【0052】
なお、ステップS1、ステップS2の目標位置及び限界偏位量Xの設定は、フローの途中でも随時変更可能であり、これらを変更した場合は、ステップS1に戻り、再度フローがスタートする。
【0053】
また、上記船体用制御プログラムを、従来の自動操舵装置(オートパイロット)に組み込むことで、通常の自動操舵に加え、本発明の船体用制御を行うことができる。
【0054】
3.[制御フロー2]
次に、別の制御フローについて、図4(a)、(b)を用いて説明する。なお、制御フロー2は、前記制御フロー1と(ステップS7)のみが相違する制御であるため、(ステップS7b)についてのみ説明する。
ステップS7bとステップS7との相違点は、船体Aの停止のタイミングである。ステップS7は船体Aが設定経路上へ復帰した場合に船体Aを停止させる制御であるが、ステップS7bは、一旦船体Aが前進した後、船体Aが設定経路上を超えて、現在偏位量が再度限界偏位量に達した場合に、船体Aを停止させる制御である。具体的には、以下の制御となる。
【0055】
(ステップS7b)
クラッチ4が嵌まり前進する船体Aは、随時GPS航法装置2から送信される現在偏位量データを船体用制御装置1が受信して、現在偏位量a2が再度限界偏位量Xを超えたか否かを制御部1aが判定する。そして、(現在偏位量a2)>(限界偏位量X)となった場合に、船体Aを停止させるべくステップS8へと進む。一方、(現在偏位量a2)≦(限界偏位量X)の場合、ステップS6へ戻る。
【0056】
船体Aの停止をステップS7bのように設定すれば、ステップS7と比べ、クラッチ4の嵌・脱動作のスパンが略2倍となる。そうすると、クラッチ4の嵌・脱の頻度を1/2とすることができ、クラッチ4及びクラッチ制御装置3の保守という観点からは好ましい。
【0057】
このステップS7とステップS7bとの船体Aの停止タイミングの設定は、魚群の位置等に応じて簡単に変更できるよう、船体用制御装置1に切替スイッチ(図示せず)を設けてもよい。
【0058】
なお、上記船体用制御プログラムを、従来の自動操舵装置(オートパイロット)に組み込むめば、自動操舵装置を用いて本発明の船体用制御を行うことができる。
【実施例2】
【0059】
次に、実施例2について説明する。実施例2においては、前記実施例1のGPS航法装置2の各種機能を、船体用制御装置1に組み込んだ場合の実施例である。
【0060】
1.[船体用制御装置21の構成]
本発明の船体用制御装置21は、図5に示すように、船体用制御装置21に、クラッチ制御装置23が接続されている。
【0061】
(船体用制御装置21)
船体用制御装置21は、船体Aの位置(初期位置及び現在位置)を検出する検出部21eと、目標位置(又は目標方位)を設定・入力する目標位置(目標方位)入力部21cと、船体Aの初期位置から目標位置までの設定漂流経路を算出して、船体Aの現在位置と設定漂流経路との偏位量(ズレ)を算出する制御部21aと、偏位量の閾値を限界偏位量として設定・入力する限界偏位量入力部21dと、これら種々のデータを記憶する記憶部21bと、を備える。
【0062】
なお、目標位置の設定・入力に代えて、目標方位を設定・入力した場合には、初期位置から目標方位へ向けての漂流経路が算出される。
【0063】
また、制御部21aは、現在位置と設定漂流経路との現在偏位量が限界偏位量を超えるか否かを判定し、超えている場合にはクラッチ制御装置23にクラッチ24の嵌指令を出力する。また、一旦嵌指令を出力した後は、現在偏位量が0(又は所定の範囲内、例えば−0.5m〜+0.5m)となった場合にクラッチ制御装置23に対してクラッチ24の脱指令を出力する。なお、現在偏位量が0となった場合に代えて、現在偏位量が一旦0となった後、現在偏位量が再度限界偏位量に達した場合に、クラッチ制御装置23に対してクラッチ24の脱指令を出力する設定としてもよい。
【0064】
(クラッチ制御装置23)
クラッチ制御装置23は、推進機のエンジンに接続されたクラッチ24と接続されており、船体Aの推進・停止をクラッチ24の嵌脱により制御する。船体用制御装置21は、クラッチ制御装置23に対して、クラッチ24の嵌脱指令を出力する。
【0065】
(スパンカー5)
また、実施例1と同様、船体Aの後方にはスパンカー5が取り付けられている。したがって、スパンカー5を設置すれば、原則として常時、風上に対して船首を先頭に向けた状態に船体Aを保持することができる。
【0066】
2.[制御フロー1]
次に、船体Aの設定漂流経路への制御フローについて、図6(a)、(b)を用いて説明する。
【0067】
(ステップS101)
流し釣りを開始する操船者は、船体Aを停止すると、船体用制御装置21の検出部21eが、その時点の船体Aの位置を初期位置として検出し、初期位置データとして記憶部21bに格納される。
【0068】
(ステップS102)
操船者は、船体Aを漂流させたい経路を決めて、入力部21cより目標位置を入力する。そうすると、制御部21aは、記憶部21bより船体Aの初期位置データを取り出し、船体Aの初期位置から目標位置までの設定漂流経路を算出し、設定漂流経路データとして記憶部21bに格納する。(また、操船者は、目標位置の代わりに目標方位を入力部21cから入力することもできる。目標方位を入力すると、制御部21aは、記憶部21bより船体Aの初期位置データを取り出し、船体Aの初期位置から目標方位に向けての設定漂流経路を算出し、設定漂流経路データとして記憶部21bに格納する。)
【0069】
なお、操船者は、設定漂流経路と船体Aとの偏位量(ズレ)の限界を決め、それに基づき船体用制御装置21の入力部21dから限界偏位量Yをあらかじめ入力しておく。そして、入力部21dから入力した限界偏位量Yは、限界偏位量データとして記憶部21bに格納される。この時、限界偏位量を小さく設定すればするほど、船体Aは設定漂流経路上に沿って漂流するが、あまりに小さく設定してしまうと常時船体用制御装置21やクラッチ制御装置23、クラッチ24等の動作・停止が繰り返されることとなり、各機器の保守上好ましくない。
【0070】
(ステップS103)
そして、船体Aが漂流を開始すると、検出部21eは各時点における船体Aの位置(現在位置)を随時検出して、記憶部21bに現在位置データとして格納される。なお、現在位置は随時変化するため、その度、記憶部21bにおける現在位置データは更新される。
【0071】
(ステップS104)
制御部21aは、記憶部21bから設定漂流経路データと現在位置データとを取り出し、これらの偏位量(現在偏位量b1)を随時算出し、現在偏位量データとして記憶部21bに格納される。なお、船体Aの現在位置は随時変化するから、それに伴い現在偏位量b1も変化する。そのため、随時、記憶部21bにおいて現在偏位量データは更新されることとなる。
【0072】
この現在偏位量b1の算出方法は、従来のGPS航法装置におけるクロストラックエラーの算出方法を用いればよい。その他、次のような算出方法を用いることもできる。例えば、図11に示すように、船体Aの初期位置を始点(0,0)とする座標をとる。そして、始点(0,0)と目標位置(a,b)とを通る直線αと、船体Aの現在位置(x、y)と始点(0,0)とを結ぶ線分βとを座標上に引く。次に、始点を中心として直線αと線分βとの角度θと、線分βの長さLを算出する。この長さLにsinθを乗じ、絶対値をとることで、現在位置から直線αに引いた垂線の長さが算出でき、これを設定漂流経路と現在位置との偏位量として算出する。
【0073】
(ステップS105)
続いて、制御部21aは、記憶部21bから現在偏位量データと限界偏位量データとを取り出し、その大小を判定する。この時、(現在偏位量b1)≦(限界偏位量Y)の場合、ステップS103に戻る。一方、(現在偏位量b1)>(限界偏位量Y)の場合には、ステップS106に進む。
【0074】
(ステップS106)
そして、制御部21aが、(現在偏位量b1)>(限界偏位量Y)と判定すると、制御部21aは船体Aを推進させるべく、クラッチ24の嵌指令をクラッチ制御装置23に送信する。そうすると、クラッチ制御装置23がクラッチ24を嵌め、船体Aは前進する。なお、前記の通り、船体Aにはスパンカー5が取り付けられ、風上の方向に船首が向いているため、船体Aは風上の方向に前進することとなる。
【0075】
(ステップS107)
船体Aが推進状態にある時にも、検出部21eは随時船体Aの現在位置を検出し、現在位置データとして記憶部21bに格納される。
【0076】
(ステップS108)
制御部21aは、記憶部21bから設定漂流経路データと現在位置データとを取り出し、これらから現在偏位量b2を随時算出し、現在偏位量データとして記憶部21bに格納される。なお、現在偏位量b2は随時変化するため、その度、記憶部21bにおいて現在偏位量データは更新される。
【0077】
(ステップS109)
続いて、船体Aが設定漂流経路上に復帰したか否かを判定するため、制御部21aは現在偏位量データを記憶部21bから取り出し、現在偏位量b2があらかじめ設定した所定の範囲内(例えば、−0.5m〜+0.5m)であるか否かを判定する。
そして、船体Aが設定漂流経路上に復帰したと制御部21aが判定した場合(|現在偏位量b2|≦0.5m)、ステップS110へ進む。一方、範囲外と判定した場合(|現在偏位量b2|>0.5m)、ステップS107に戻る。
【0078】
(ステップS110)
制御部21aが、|現在偏位量b2|≦0.5mと判定し、船体Aが設定経路上に復帰したと判断すると、制御部21aは船体Aを停止させるべく、クラッチ24の脱指令をクラッチ制御装置23に対して送信する。そうすると、クラッチ制御装置23がクラッチ24を脱し、船体Aは停止して、漂流状態に戻る。
【0079】
その後、ステップS103に戻り、以後ステップS103〜ステップS110を繰り返す。
【0080】
なお、上記船体用制御プログラムを、従来の自動操舵装置(オートパイロット)に組み込むことで、自動操舵装置で本発明の船体用制御を行うことができる。
【0081】
3.[制御フロー2]
次に、別の制御フローについて、図7(a)、(b)を用いて説明する。なお、制御フロー2は、制御フロー1とステップS109のみ相違する制御であるため、ステップS109bについてのみ説明する。
【0082】
ステップS109bとステップS109との相違点は、船体Aの停止のタイミングである。ステップS109は、船体Aの設定経路上への復帰によって船体Aを停止させる制御である。一方、ステップS109bにおいては、船体Aの停止のタイミングを、一旦クラッチ24を嵌め船体Aが推進した後、船体Aが設定経路上を超えて、現在偏位量b2が再度限界偏位量Yに達した場合とする。具体的には、以下の制御となる。
【0083】
(ステップS109b)
クラッチ24が嵌り推進する船体Aにおいて、制御部21aは、随時記憶部21bから現在偏位量データを取り出して、再度現在偏位量b2が限界偏位量Yを超えたか否かを判定する。そして、(現在偏位量b2)>(限界偏位量Y)となった場合に、船体Aを停止させるべくステップS110へと進む。一方、(現在偏位量b2)≦(限界偏位量Y)の場合、ステップS107へ戻る。
【0084】
なお、上記船体用制御プログラムを、従来の自動操舵装置(オートパイロット)に組み込むことで、通常の自動操舵に加え、本発明の船体用制御を行うことができる。
【0085】
4.[その他の変形例]
続いて、前記実施例1のクラッチ制御装置3又は実施例2のクラッチ制御装置23に代えて、自動制御に加え手動制御も可能であって、手動制御用の遠隔装置(ポータブル発信器)が接続されたクラッチ制御装置103を用いた実施例3について説明する。なお、その他船体用制御装置1、GPS航法装置2等の構成については変更しないため、これらの構成については説明を省略する。
【0086】
上記の通り、クラッチ制御装置103は、手動制御機能が付加されているため、船体Aの自動制御に加えて、操船者が手動により船体Aの前進・中立・後進の微調整が可能である。さらに手動制御用遠隔装置によって、操作を操船者の手元で行うことができる。
【0087】
このクラッチ制御装置103は、図10に示すようにエンジン108のガバナを制御して回転数を調整するスロットル110と、クラッチ109を中立状態から前進または後進に切り換えるシフト111とを、それぞれプッシュプルケーブルを介して手動での操作も可能なメカ式のコントロールヘッド105を制御するためのアクチュエータユニット104aを備える。
【0088】
クラッチ制御装置103のアクチュエータユニット103aには、電気式リモートコントローラとしてのポータブル発信器(手動制御用遠隔装置)103bが接続されている。アクチュエータユニット103a内にはモータMと電磁(励磁)クラッチCとレバーLおよび制御部(図示せず)が配され、モータMの回転により電磁クラッチCを介して特定方向に移動するレバーLがプッシュプルケーブルによりコントロールヘッド105のシフトレバー106の回転操作部(図示せず)に接続されている。
【0089】
ポータブル発信器103bは、図8(b)に示すようにダイヤル式のツマミ103cを中立位置から時計方向と反時計方向とへ回転可能に備えている。ツマミ103cは最大150°両方向に回転可能で、時計方向へ150°回転した位置が前進(連続)、反時計方向へ150°回転した位置が後進(連続)である。また、中立位置から両方向に25°〜108°の範囲が、それぞれ前進潮立てと後進潮立てとであり、前進潮立ておよび後進潮立てとも前進または後進時間と中立時間の長短で1〜7段階に分かれている。前進時間についてはあらかじめ1段目が1秒、7段目が30秒に設定され、2段目〜6段目は5秒・10秒・15秒・20秒・25秒に設定されている。図10(a)中の符号107はスロットル110を手動操作するためのスロットルレバーである。
【0090】
上記時間の設定は一例であって、限定されるものではない。なお、上記(連続)とは、潮立ての時間設定により、前進−中立あるいは後進−中立を繰り返すのではなく、常に前進あるいは後進を継続する状態であることを言う。また、前後進ともにエンジン108の回転数はアイドリングに近い微速で航行される。
【0091】
さらに、中立時間も前進時間あるいは後進時間に対応してツマミ103cの位置で各段階ごとにあらかじめ設定されているが、図示を省略した2つのディップスイッチのON/OFFで前進時間と同じ・その75%・同125%・同150%の4通りに設定できるようになっている。後進時間は別の1つのディップスイッチのON/OFFで前進時間と同じまたはその150%の2通りに設定できるようになっている。なお、ここに記載した具体的な数値はあくまで一例であって、限定されるものではない。
【符号の説明】
【0092】
A 船体
1 船体用制御装置
1a 制御部
1b 記憶部
1c 入力部
2 GPS航法装置
3 クラッチ制御装置
4 クラッチ
5 スパンカー
21 船体用制御装置
21a 制御部
21b 記憶部
21c 入力部
21d 入力部
21e 検出部
21f 表示部
23 クラッチ制御装置
24 クラッチ
103 クラッチ制御装置
103a アクチュエータユニット
103b ポータブル発信器
103c ツマミ
M モータ
C 電磁クラッチ
L レバー
105 コントロールヘッド
106 シフトレバー
107 スロットルレバー
108 エンジン
109 クラッチ
110 スロットル
111 シフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風の方向に対し船首を風上に向けて船体を立てるためのスパンカーと推進機とクラッチと該クラッチを制御するクラッチ制御装置とGPS航法装置とを有する船体を、設定漂流経路上に保持するための船体用制御装置であって、
前記GPS航法装置は、前記船体の位置(初期位置及び現在位置)を検出する位置検出手段と、目標位置を入力する目標位置入力手段と、前記船体の初期位置から設定した目標位置までの設定漂流経路を算出する設定漂流経路算出手段と、前記現在位置と前記設定漂流経路との偏位量(ズレ)を算出する偏位量算出手段と、を有し、
前記偏位量を前記GPS航法装置より受信する偏位量受信手段と、
前記偏位量の閾値を限界偏位量として設定する限界偏位量設定手段と、
前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチを嵌める指令を前記クラッチ制御装置に出力するクラッチ嵌指令出力手段と、
前記クラッチ嵌指令により前記クラッチが嵌まることにより前記船体が推進し、前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に、前記クラッチを脱する指令を前記クラッチ制御装置に出力するクラッチ脱指令出力手段と、を備えたことを特徴とする船体用制御装置。
【請求項2】
風の方向に対し船首を風上に向けて船体を立てるためのスパンカーと推進機とクラッチと該クラッチを制御するクラッチ制御装置とを有する船体を、設定漂流経路上に保持するための船体用制御装置であって、
前記船体の位置(初期位置及び現在位置)を検出する位置検出手段と、
目標位置を入力する目標位置入力手段と、
前記初期位置から前記目標位置までの設定漂流経路を算出する設定漂流経路算出手段と、
前記現在位置と前記設定漂流経路との偏位量(ズレ)を算出する偏位量算出手段と、
前記偏位量の閾値を限界偏位量として設定する限界偏位量設定手段と、
前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチを嵌める指令を前記クラッチ制御装置に出力するクラッチ嵌指令出力手段と、
前記クラッチ嵌指令により前記クラッチが嵌まることにより前記船体が推進し、前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に、前記クラッチを脱する指令を前記クラッチ制御装置に出力するクラッチ脱指令出力手段と、を備えたことを特徴とする船体用制御装置。
【請求項3】
前記目標位置に代えて、目標方位を入力することにより、
前記設定漂流経路として、前記初期位置から前記目標方位へ向けての漂流経路を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の船体用制御装置。
【請求項4】
前記クラッチ脱指令出力手段が、
前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に代えて、
前記船体が前記設定漂流経路を横切って、再度前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチを脱する指令を出力する手段であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の船体用制御装置。
【請求項5】
前記クラッチ制御装置が、
手動操作用スロットルレバーとシフトレバーを備えたプッシュプルケーブル式のコントロールヘッドを介して前記エンジンの前記クラッチを中立状態・前進状態・後進状態に遠隔操作できる制御装置であって、前記シフトレバーの位置を切り換える駆動力を発生させるモータと、このモータの駆動力をプッシュプルケーブルを介して前記シフトレバーに伝達あるいは伝達を解除する電磁クラッチとを備えたアクチュエータユニットを設け、このアクチュエータユニットに電気式リモートコントローラとしてのポータブル発信器を接続し、前記コントロールヘッドのシフトレバーをプッシュプルケーブルを介して位置制御可能に構成し、前記ポータブル発信器には、ダイヤル式のツマミを中立位置から時計方向と反時計方向とへ回転可能に設け、前記ツマミを前記中立位置から一方へ最大回転角の範囲内で最大回転位置へ回転させると前進し、前記ツマミを前記中立位置から他方へ最大回転角の範囲内で最大回転位置へ回転させると後進するとともに、前記ツマミを中立位置から両方向にそれぞれ前記最大回転角より狭い範囲内で回転させると、それぞれ前進潮立てと後進潮立てとを行い、前進潮立ておよび後進潮立てとも前記ツマミの回転角で前進時間あるいは後進時間および中立時間の長短で複数段階に分かれており、前進時間あるいは後進時間および中立時間についてはあらかじめ各段階ごとに設定され、前進潮立て・後進潮立てともに前記エンジンの回転数はアイドリングに近い微速で航行される一方、中立時間の間はスクリューの回転が停止するようにしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の船体用制御装置。
【請求項6】
風の方向に対し船首を風上に向けて船体を立てるためのスパンカーと推進機とクラッチと該クラッチを制御するクラッチ制御装置とGPS航法装置とを有する船体を、設定漂流経路上に保持するための船体用制御プログラムであって、
前記GPS航法装置は前記船体の位置(初期位置及び現在位置)を検出し、前記船体の初期位置から、設定した目標位置までの設定漂流経路を算出して、前記現在位置と前記設定漂流経路との偏位量(ズレ)を算出し、
前記偏位量を前記GPS航法装置より受信して、
前記偏位量の閾値を限界偏位量として設定し、
前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチを嵌める指令を前記クラッチ制御装置に出力し、
前記クラッチが嵌まり前記船体が推進することにより、前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に、前記クラッチを脱する指令を前記クラッチ制御装置に出力することを特徴とする船体用制御プログラム。
【請求項7】
風の方向に対し船首を風上に向けて船体を立てるためのスパンカーと推進機とクラッチと該クラッチを制御するクラッチ制御装置とを有する船体を、設定漂流経路上に保持するための船体用制御プログラムであって、
前記船体の位置(初期位置及び現在位置)を検出し、
目標位置を入力し、
前記初期位置から、前記目標位置までの設定漂流経路を算出して、前記現在位置と前記設定漂流経路との偏位量(ズレ)を算出し、
前記偏位量の閾値を限界偏位量として設定し、
前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチを嵌める指令を前記クラッチ制御装置に出力し、
前記クラッチが嵌まり前記船体が推進することにより、前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に、前記クラッチを脱する指令を前記クラッチ制御装置に出力することを特徴とする船体用制御プログラム。
【請求項8】
前記目標位置に代えて、目標方位を入力することにより、
前記設定漂流経路として、前記初期位置から前記目標方位へ向けての漂流経路を用いることを特徴とする請求項6又は7に記載の船体用制御プログラム。
【請求項9】
前記クラッチを脱する指令が、
前記船体が前記設定漂流経路上に帰着した場合に代えて、
前記船体が前記設定漂流経路を横切って、再度前記偏位量が前記限界偏位量を超えた場合に、前記クラッチ制御装置へ出力されることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の船体用制御プログラム。
【請求項10】
前記船体の船首方位及び船体位置を検出する検出手段と、目的地点を設定する設定手段と、前記船体の当初船体位置から前記目的地点までの設定航路を算出する航路算出手段と、前記設定航路と前記船体の現在船首方位と現在船体位置とから前記船体に設定航路上を航行させるため舵の動作を制御する制御手段とを備えた自動操舵装置であって、
請求項6〜9のいずれか1項に記載の船体用制御プログラムが組み込まれたことを特徴とする自動操舵装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−17057(P2012−17057A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156711(P2010−156711)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(392000497)マロール株式会社 (9)
【Fターム(参考)】