説明

船舶用インバータシステム

【課題】電気推進装置の消費電力を減らして、ディーゼル発電装置の燃料消費を抑制する船舶用インバータシステムを提供する。
【解決手段】インバータ4および5はそれぞれ遮断器6および7を介して船内母線8に接続される。速度検出器9はパルスジェネレータ3の出力するパルス信号から推進用誘導電動機1の回転速度検出信号ωrを出力する。速度制御器10は回転速度検出信号ωrを速度設定器11からの回転速度指令信号ωr*から減じた誤差を演算増幅してトルク指令信号τe*をインバータ4および5へ出力する。電流検出器12および13はそれぞれインバータ4および5の3相出力電流値iu,iv,iwを検出し、それぞれインバータ4および5へ出力する。トルク制限値設定器14は、定格トルク以下のトルク制限値指令をインバータ4及び5に与え、インバータ4および5はトルク制限値指令以下にトルクを制限するよう動作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気推進装置の消費電力を減らして発電装置の運転台数を最小とする船舶用インバータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ケミカル船などにおいては、荷役作業の高効率化や環境負荷低減などの目的で電動機の採用が進んでいる。特に船内機器の中では最も環境負荷の大きい推進装置を、従来のディーゼル機関から電動機に置換した、いわゆる電気推進装置の採用が拡大している。
【0003】
図3は一般的な電気推進装置を用いた船内電気系統を示す。この船内電気系統において、通常、船舶の航行中には推進用誘導電動機1がインバータ4および5により駆動され、推進用プロペラ2が駆動されて船舶の推進力を得る。インバータ4および5の運転に必要な電力は船内母線8よりインバータ用遮断器6および7を介して給電される。また、推進装置以外の船内負荷58が消費する電力は船内負荷用遮断器57を介して船内母線8より供給される。電気推進装置及びその他の船内負荷が消費する電力はディーゼル発電装置51ないし53が発電し、発電装置用遮断器54ないし56を介して船内母線8へ供給される。ディーゼル発電装置51ないし53はその時々の船内負荷状況により適宜台数制御する、いわゆる発電機台数制御が行われる。例えば、発電装置1台当りの定格発電量をA[kW]、その負荷率を最大80[%]、電気推進装置の消費電力をB[kW]、その他の船内消費電力をC[kW]とし、発電量と消費電力の関係が
A×0.8<(B+C)<2×A×0.8・・・(1)
である場合には、船内の負荷は発電装置2台分で賄うことが可能であるので、ディーゼル発電装置51及び52を使用して発電し、ディーゼル発電装置53は休止状態とする。
【0004】
また、式(1)において、(B+C)[kW]が減少し、
(B+C)<A×0.8・・・(2)
となった場合には、ディーゼル発電装置51を使用して発電し、ディーゼル発電装置52及び53は休止状態とする。
【0005】
ところで、ディーゼル発電装置の運転には発電機に付随するディーゼルエンジンの運転が必要であるため、船内の燃料消費量抑制のためには可能な限り運転するディーゼル発電装置を停止することが望ましい。したがって、上記のように発電機台数制御を行うことで、必要最小限の発電装置を駆動して船内で必要な電力を供給するようにして燃料消費量を抑制する。
【0006】
次に、図3の船内電気系統において使用される電気推進装置の一般的な例を図4に示す。図4は船舶用インバータシステムを用いた電気推進装置であり、図3の電気推進装置に更に速度検出器9、速度制御器10、速度設定器11、電流検出器12,13が追加された構成であるので、図3の電気推進装置と同一構成要素については同一符号を付して説明する。
【0007】
図4の電気推進装置において、推進用プロペラ2は推進用誘導電動機1により駆動される。インバータ4および5はそれぞれ遮断器6および7を介して船内母線8に接続される。パルスジェネレータ3は推進用誘導電動機1と同軸に配置され、推進用誘導電動機1の回転に応じてパルス信号を出力する。速度検出器9はパルスジェネレータ3の出力するパルス信号から推進用誘導電動機1の回転速度を検出し、回転速度検出信号ωrを出力する。速度設定器11は推進用誘導電動機1の目標とする回転速度基準信号ωrを出力する。速度制御器10は回転速度検出信号ωrを回転速度指令信号ωrから減じた誤差を演算増幅してトルク指令信号τeをインバータ4および5へ出力する。電流検出器12および13はそれぞれインバータ4および5の3相出力電流値iu,iv,iwを検出し、それぞれインバータ4および5へ出力する。
【0008】
インバータ4および5はトルク指令信号τeと推進用誘導電動機1の回転速度検出信号ωrおよび電流検出器で検出した3相出力電流値iu,iv,iwに基づいてベクトル制御演算を行い、推進用誘導電動機1に印加する電圧を操作して推進用誘導電動機1の巻線に流れる電流を制御する。インバータ4および5が消費する電力は、船内母線8より供給される。
【0009】
上記説明ではインバータの数は2台の場合について説明しているが、インバータの数は2台に限定されず、推進用誘導電動機1の巻線を1とし、インバータの数を1台としても上記と同様の機能が得られる。また推進用誘導電動機1の巻線数を増やし、各巻線毎にインバータを上記と同様に設置しても上記と同様の機能が得られる。また、このような多巻電動機を複数のインバータによって駆動すると、インバータ故障時に縮退運転が可能であるメリットもある(特許文献1参照)。
【0010】
図4に示す従来の電気推進装置において、インバータ4および5が推進用誘導電動機1を駆動する場合、インバータ4および5はベクトル制御を行う。ベクトル制御は例えば後記図6に示す誘導電動機のT型等価回路に基づいて後記図5に示すインバータ4および5のベクトル制御演算ブロック図の制御演算およびインバータ制御を行うことで、誘導電動機の磁束を一定に制御しながらトルクを電流のトルク成分に比例させて制御することができ、直流電動機と同様のトルク制御を可能とするものである(非特許文献1参照)。
【0011】
図6の誘導電動機のT型等価回路において、V1は端子電圧、I1は1次電流、R1は1次抵抗成分、αは励磁リアクタンス/(2次漏れリアクタンス+励磁リアクタンス)、Lσは1次漏れリアクタンス+α×2次漏れリアクタンス、M’はα×励磁リアクタンス,R2’はα×α×2次抵抗成分、I2’は2次電流/α、sはすべりを示す。
【0012】
また、図5のベクトル制御演算ブロック図において、30,31は比例要素、32は積分要素、33,34は除算器、35,36は減算器、37は加算器、38,40は座標変換器、39は電流制御器、41は電力変換器、42はトルク制限器を示す。
【0013】
図5のインバータ4,5のベクトル制御演算ブロック図において、比例要素30は磁束指令Φ2’に前記M’の逆数を乗じて1次電流の磁化成分電流指令i1dを出力する。トルク制限器42はあらかじめ定められたトルク制限値以下になるようにトルク指令τeに制限をかけ、内部トルク基準τe’を作る。除算器33は内部トルク基準τe’を磁束指令Φ2’で除して1次電流のトルク成分電流指令i1qを出力する。比例要素31は前記i1qに前記R2’を乗じ、除算器34は比例要素31の出力信号を磁束指令Φ2’で除してすべり周波数指令ωsを出力する。加算器37は誘導電動機の速度検出信号ωrと前記ωsを加算して1次周波数ω1を出力し、積分器32はω1を積分して磁束位相θを出力する。座標変換器38は検出したインバータの3相出力電流値iu,iv,iwを前記θに基づいて固定子座標系から回転磁界座標系へ座標変換する周知の座標変換器であり、誘導電動機1次電流の磁化成分電流検出信号i1dとトルク成分電流検出信号i1qを出力する。減算器35は前記i1dからi1dを減じた誤差を出力し、減算器36は前記i1qからi1qを減じた誤差を出力し、電流制御器39はこれらの誤差をそれぞれ例えばPI制御演算を行って回転磁界座標系における電圧指令v1dとv1qを出力する。
【0014】
座標変換器40はv1dとv1qを前記θに基づいて回転磁界座標系から固定子座標系へ座標変換する周知の座標変換器であり、誘導電動機へ印加する電圧の3相電圧指令Vu,Vv,Vwを出力する。電力変換器41は例えば電圧型PWMインバータであり、交流入力電圧を直流電圧に変換した後、出力電圧が前記Vu,Vv,Vwとなるように直流電圧を交流電圧に変換して出力する。
【0015】
図7はトルク制限器42の特性の一例を示す図であり、横軸はトルク制限器の入力であるトルク指令τe、縦軸はトルク制限器の出力である内部トルク基準τe’である。
【0016】
以上説明したベクトル制御の作用により、図4の推進用誘導電動機1のトルクは、磁束指令Φ2’と内部トルク基準τe’に比例して制御可能となるが、トルクを高速に制御するために通常はΦ2’を一定とし、内部トルク基準τe’により電動機のトルクを制御する方法がとられる。
【0017】
一方、インバータ4および5に供給される電力のうちほとんどは推進用誘導電動機1で消費される。推進用誘導電動機1、インバータ4および5の効率を無視すると、電気推進装置が消費する電力は
P=ωr×τ・・・(3)
となる。ここで、Pは消費電力[W]、ωrは推進電動機1の回転速度[rad/s]、τは推進電動機1の発生トルク[N/m]を表す。この式(3)において、ωrを定格速度、τを定格トルクとしたときの消費電力Pを定格消費電力と呼ぶ。
【0018】
船舶を通常航行する場合、速度設定器11の出力する速度指令ωrは、0〜定格航行速度までの値を取り得る。また、トルク制限器42による制限は固定値であり、定格トルクに設定される。従って、消費電力Pは0〜定格消費電力までの値を取り得る。
【特許文献1】特開2006−166507号公報
【非特許文献1】電気学会発行電気工学ハンドブック第6版884頁および885頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記のように、図4及び図5に示す従来の船舶用インバータシステムにおいては、その消費電力は0〜定格消費電力の値を取る。従って、図3に示される船内電気系統において、ディーゼル発電装置は電気推進装置の定格消費電力及びその他の船内負荷をまかなえる台数を運転しなければならない。例えば、発電装置1台当りの発電量をA[kW]、その負荷率を最大80%、電気推進装置の定格消費電力をB’[kW]、その他の船内負荷の消費電力をC[kW]としたとき、
A×0.8<(B’+C)<2×A×0.8・・・(4)
であるならば、ディーゼル発電装置は2台以上運転する必要がある。
【0020】
しかし、電気推進装置は常に定格速度及び定格トルクで運転する必要はなく、運転状況によっては出力を落として運転することもある。例えば出入港時など、船舶を微速運転する場合には電気推進装置も微速運転するので、消費電力は減少する。しかしながら、速度指令ωrの値によっては定格速度まで運転される可能性があり、かつ発生トルクτも定格トルクまで出力される可能性があるので、ディーゼル発電装置は定格航行時と同じ台数だけ運転しなければならず、ディーゼル発電装置の燃料消費を抑制するためにディーゼル発電装置の運転台数を減ずることができない。また、例えば船舶を停止状態から加速する場合、まず発生トルクτが定格トルクに達して推進電動機の回転速度が上昇し、推進電動機の回転速度が回転速度指令に近づくに従って発生トルクτが徐々に減少し最終的にはそのときの負荷に見合ったトルクに整定する。このとき発生トルクτが定格トルクに達してしまうので、電気推進装置の消費電力は推進電動機の回転速度の上昇に従って急速に増加し、整定状態での電気推進装置の消費電力を超過する。電気推進装置の消費電力が急速に増加するためディーゼル発電装置の発電量を超過する可能性があるので、休止状態のディーゼル発電装置を起動したり、あらかじめディーゼル発電装置を起動したりしておかなければならない。そうすると、真に必要な発電量に対してディーゼル発電装置を余分に運転することとなり、燃費が悪化してしまうという問題がある。
【0021】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その課題は、インバータを用いた電気推進装置において、電気推進装置のトルクを低減することで消費電力を減らしてディーゼル発電装置の運転台数を最小とし、ディーゼル発電装置の燃料消費を抑制する船舶用インバータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために請求項1記載の発明は、船舶のプロペラを駆動する1または2以上の巻線を持つ推進用誘導電動機と、前記誘導電動機の各巻線毎に接続され、ベクトル制御に従って船内母線から前記誘導電動機へ供給する電力を変換して前記誘導電動機の1次電流を供給する各巻線毎に設けられたインバータと、前記インバータに速度指令信号を与える速度設定器と、前記誘導電動機の回転速度を検出する速度検出器と、前記速度指令信号から前記速度検出器の速度検出信号を減じた誤差信号を演算増幅し、前記インバータのベクトル制御のトルク指令信号として出力する速度制御器と、前記誘導電動機の各巻線の1次電流を検出する電流検出器と、前記トルク指令信号とトルク制限値を比較してトルク指令信号がトルク制限値を超えないように動作するトルク制限器と、前記トルク制限器にトルク制限値を出力するトルク制限値設定器とを備え、前記インバータが速度検出信号と電流検出信号とトルク指令信号に基づいてベクトル制御演算を行うことを特徴とする。
【0023】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の船舶用インバータシステムにおいて、前記トルク制限値設定器が出力するトルク制限値指令信号が、任意の関数を発生する関数発生器により与えられることを特徴とする。
【0024】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の船舶用インバータシステムにおいて、前記トルク制限値設定器が出力するトルク制限値指令信号が、前記速度検出信号の関数により与えられることを特徴とする。
【0025】
請求項4記載の発明は、請求項1または請求項2記載の船舶用インバータシステムにおいて、前記トルク制限値設定器が出力するトルク制限値指令信号が、前記速度指令信号の関数により与えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、インバータで駆動する推進用誘導電動機を備えた船舶用インバータシステムにおいて、インバータの消費電力を適宜抑制することが可能となり、ディーゼル発電装置の運転台数を最小に抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図を参照し説明する。
図1は本発明の第1実施形態の船舶用インバータシステムの構成図である。
同図において、図4で説明した従来の船舶用インバータシステムの構成と相違する構成は、トルク制限値設定器14を新たに追加した点であり、その他の構成は同一であるので、同一構成要素には同一符号を付して説明する。
【0028】
図1に示すように、本発明の第1実施形態である船舶用インバータシステムにおいて、推進用誘導電動機1により推進用プロペラ2は駆動される。インバータ4および5はそれぞれ遮断器6および7を介して船内母線8に接続される。パルスジェネレータ3は推進用誘導電動機1と同軸に配置され、推進用誘導電動機1の回転に応じてパルス信号を出力する。速度検出器9はパルスジェネレータ3の出力するパルス信号から推進用誘導電動機1の回転速度を検出し、回転速度検出信号ωrを出力する。速度設定器11は推進用誘導電動機1の目標とする回転速度基準信号ωを出力する。速度制御器10は回転速度検出信号ωrを回転速度指令信号ωrから減じた誤差を演算増幅してトルク指令信号τeをインバータ4および5へ出力する。電流検出器12および13はそれぞれインバータ4および5の3相出力電流値iu,iv,iwを検出し、それぞれインバータ4および5へ出力する。トルク制限値設定器14は、定格トルク以下のトルク制限値指令をインバータ4及び5に与え、インバータ4および5は前記トルク制限値指令以下にトルクを制限するよう動作する。
【0029】
インバータ4および5はトルク指令信号τeと推進用誘導電動機1の回転速度検出信号ωrおよび電流検出器で検出した3相出力電流値iu,iv,iwに基づいてベクトル制御演算を行い、推進用誘導電動機1に印加する電圧を操作して推進用誘導電動機1の巻線に流れる電流を制御する。インバータ4および5が消費する電力は、船内母線8より供給される。
【0030】
図2はインバータ4および5が推進用誘導電動機1を駆動する場合に使用するベクトル制御演算ブロック図である。このベクトル制御演算ブロック図において、比例要素30は磁束指令Φ2’に前記M’の逆数を乗じて1次電流の磁化成分電流指令i1dを出力する(図5の説明を参照)。トルク制限器42はトルク制限値τL以下になるようにトルク指令τeに制限をかけ、内部トルク基準τe’を作る。除算器33は内部トルク基準τe’を磁束指令Φ2’で除して1次電流のトルク成分電流指令i1qを出力する。比例要素31は前記i1qに前記R2’を乗じ、除算器34は比例要素31の出力信号を磁束指令Φ2’で除してすべり周波数指令ωsを出力する。加算器37は誘導電動機の速度検出信号ωrと前記ωsを加算して1次周波数ω1を出力し、積分器32はω1を積分して磁束位相θを出力する。座標変換器38は検出したインバータの3相出力電流値iu,iv,iwを前記θに基づいて固定子座標系から回転磁界座標系へ座標変換する周知の座標変換器であり、誘導電動機1次電流の磁化成分電流検出信号i1dとトルク成分電流検出信号i1qを出力する。減算器35は前記i1dからi1dを減じた誤差を出力し、減算器36は前記i1qからi1qを減じた誤差を出力し、電流制御器39はこれらの誤差をそれぞれ例えばPI制御演算を行って回転磁界座標系における電圧指令v1dとv1qを出力する。
【0031】
座標変換器40はv1dとv1qを前記θに基づいて回転磁界座標系から固定子座標系へ座標変換する周知の座標変換器であり、誘導電動機へ印加する電圧の3相電圧指令Vu,Vv,Vwを出力する。電力変換器41は例えば電圧型PWMインバータであり、交流入力電圧を直流電圧に変換した後、出力電圧が前記Vu,Vv,Vwとなるように直流電圧を交流電圧に変換して出力する。また、トルク制限器42が制限するトルク制限値τLは固定ではなく、インバータ4及び5の外部からトルク制限値設定器14によってトルク制限指令値として与えられ、インバータ4及び5が停止中・運転中にかかわらず可変することができる。
【0032】
本実施形態は上記のように構成されているので、トルク制限器42に与えるトルク制限値τLを定格トルクの50%とした場合、インバータ4および5が消費する電力は定格消費電力の50%以下となるので、電気推進装置へ電力を供給するディーゼル発電装置の運転台数を抑制することが可能となる。
【0033】
図8は本発明の第2実施形態に係るトルク制限値設定器の構成図である。
図8に示すように、本実施形態ではトルク制限器42に与えられるトルク制限値τLの設定は、運転者が任意の関数を発生する関数発生器により変更することができる。
【0034】
すなわち、61,62は切換スイッチであり、それぞれ独立して操作され、同時に閉じることがないように構成されている。切換スイッチ61を閉じると、トルク制限値設定器14はトルク制限指令値として50%を出力し、切換スイッチ62を閉じるとトルク制限値設定器14はトルク制限指令値として100%を出力する。
【0035】
また、図8において切換スイッチ61を閉じた場合のトルク指令τeと内部トルク基準τe’の関係を図11に示す。内部トルク基準τe’は、トルク制限値50%に抑制することができるので、ディーゼル発電装置の運転台数を低減することが可能となる。図12は図8において切換スイッチ62を閉じた場合のトルク指令τeと内部トルク基準τe’の関係を示す特性図である。内部トルク基準τe’は100%まで達することができるので、電気推進装置を定格で使用することができる。
【0036】
上記第2実施形態では、切換えられるトルク制限指令値の数は2種類であるが、必要に応じて切換スイッチの数と設定値の数を増やすことができる。また、トルク制限器14のトルク制限指令値の設定値は0〜100%の間で任意に決定することができる。
【0037】
図9は本発明の第3実施形態に係るトルク制限器の構成図である。
図9に示すように、本実施形態ではトルク制限器42に与えるトルク制限指令値は推進用誘導電動機の回転速度検出信号の関数として与えられる。すなわち、関数63はあらかじめ決められた回転速度の関数である。トルク制限値設定器14には推進用誘導電動機の回転速度検出信号ωrが与えられ、関数63の演算結果がトルク制限指令値として出力される。関数63は0〜100%までの値を出力することができるように設計されている。関数63の出力が50%の時のトルク指令τeと内部トルク基準τe’は第2実施形態の場合と同様に図11の特性図に示すとおりとなり、内部トルク基準τe’は50%に制限されるので、電気推進装置の消費電力は最大で定格消費電力の50%に抑制することができる。関数63を適切に設計することにより、推進用誘導電動機の回転速度に応じてトルクを制限することが可能となるので電気推進装置の消費電力を抑制することができ、電気推進装置へ電力を供給するディーゼル発電装置の台数を抑制することが可能となる。
【0038】
図10は本発明の第4実施形態に係るトルク制限値設定器の構成図である。
図10に示すように、本実施形態ではトルク制限器42に与えるトルク制限値は推進用誘導電動機の回転速度指令信号の関数として与えられる。すなわち、関数64はあらかじめ決められた回転速度指令信号の関数である。トルク制限値設定器14には推進用誘導電動機の回転速度指令信号ωrが与えられ、関数64の演算結果がトルク制限指令値として出力される。関数64は0〜100%までの値を出力することができるように設計されている。関数64の出力が50%の時のトルク指令τeと内部トルク基準τe’は第2または第3実施形態の場合と同様に図11の特性図に示すとおりとなり、内部トルク基準τe’は50%に制限される。関数64を適切に設計することにより、回転速度指令信号に応じてトルクを制限することが可能となるので、運転者は推進用誘導電動機の回転速度とトルクを同時に操作することが可能となる。このように、電気推進装置の消費電力を抑制するように操作することができるので、電気推進装置へ電力を供給するディーゼル発電装置の台数を抑制することが可能となる。
【0039】
なお、トルク制限値の算出方法は、第2実施形態では手動によりあらかじめ段階的に設定されたトルク制限値を切換えることにより与えられ、第3実施形態では推進電動機の回転速度に従って与えられ、第4実施形態では速度指令信号に従って与えられる。
【0040】
以上説明した本実施形態では2巻線の推進用誘導電動機と2台のインバータの組合せを示したが1巻線の推進用誘導電動機と1台のインバータの組合せにおいても同様の方法をとることで同じ作用が得られる。また、3巻線以上の推進用誘導電動機と該巻線数と同数のインバータの組合せにおいても同様の方法をとることで同じ作用が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の実施形態の構成図。
【図2】図1のインバータのベクトル制御演算ブロック図。
【図3】従来の船舶用インバータシステムを用いた船内電気系統図。
【図4】図3の船舶用インバータシステムの構成図。
【図5】図4の船舶用インバータシステムのインバータのベクトル制御演算ブロック図。
【図6】誘導電動機の等価回路図。
【図7】図5の船舶用インバータシステムのトルク制限器の入出力特性図。
【図8】本発明の第2実施形態に係るトルク制限値設定器の構成図。
【図9】本発明の第3実施形態に係るトルク制限値設定器の構成図。
【図10】本発明の第4実施形態に係るトルク制限値設定器の構成図。
【図11】図8のトルク制限値設定器の出力が50%のときのトルク指令τeと内部トルク基準τe’の関係を表す特性図。
【図12】図8のトルク制限値設定器の出力が100%のときのトルク指令τeと内部トルク基準τe’の関係を表す特性図。
【符号の説明】
【0042】
1…推進用誘導電動機、2…推進用プロペラ、3…パルスジェネレータ、4,5…インバータ、6,7…遮断器、8…船内母線、9…速度検出器、10…速度制御器、11…速度設定器、12,13…電流検出器、14…トルク制限値設定器、30,31…比例要素、32…積分要素、33,34…除算器、35,36…減算器、37…加算器、38,40…座標変換器、39…電流制御器、41…電力変換器、42…トルク制限器、51〜53…発電装置、54〜57…遮断器、58…負荷。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のプロペラを駆動する1または2以上の巻線を持つ推進用誘導電動機と、前記誘導電動機の各巻線毎に接続され、ベクトル制御に従って船内母線から前記誘導電動機へ供給する電力を変換して前記誘導電動機の1次電流を供給する各巻線毎に設けられたインバータと、前記インバータに速度指令信号を与える速度設定器と、前記誘導電動機の回転速度を検出する速度検出器と、前記速度指令信号から前記速度検出器の速度検出信号を減じた誤差信号を演算増幅し、前記インバータのベクトル制御のトルク指令信号として出力する速度制御器と、前記誘導電動機の各巻線の1次電流を検出する電流検出器と、前記トルク指令信号とトルク制限値を比較してトルク指令信号がトルク制限値を超えないように動作するトルク制限器と、前記トルク制限器にトルク制限値を出力するトルク制限値設定器とを備え、前記インバータが速度検出信号と電流検出信号とトルク指令信号に基づいてベクトル制御演算を行うことを特徴とする船舶用インバータシステム。
【請求項2】
請求項1記載の船舶用インバータシステムにおいて、前記トルク制限値設定器が出力するトルク制限値指令信号が、任意の関数を発生する関数発生器により与えられることを特徴とする船舶用インバータシステム。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の船舶用インバータシステムにおいて、前記トルク制限値設定器が出力するトルク制限値指令信号が、前記速度検出信号の関数により与えられることを特徴とする船舶用インバータシステム。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の船舶用インバータシステムにおいて、前記トルク制限値設定器が出力するトルク制限値指令信号が、前記速度指令信号の関数により与えられることを特徴とする船舶用インバータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−194993(P2009−194993A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31940(P2008−31940)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000195959)西芝電機株式会社 (172)
【Fターム(参考)】