説明

船舶用潤滑油

本発明は、潤滑油1グラム当たり水酸化カリウム40ミリグラム以上を含む、のASTM D−2896規格に定められたBNを有するシリンダー潤滑油であって、船舶エンジン用の潤滑油基油と、アルカリ性またはアルカリ土類金属をベースとする少なくとも1個の塩基性界面活性剤とからなるシリンダー潤滑油において、更に、少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸及び最大6個の炭素原子を含むアルコールのエステル類から選択された1以上の化合物(A)を潤滑油の全重量に対して0.01%〜10%重量含む、ことを特徴とするシリンダー潤滑油に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高硫黄含有燃料油及び低硫黄含有燃料油のいずれとも使用できる2サイクル船舶エンジン用シリンダー潤滑油に関する。更に詳しくは、高硫黄含有燃料の燃焼時に形成される硫酸に対して十分な中和力をもつ一方、低硫黄含有燃料油を使用中に堆積物が形成されるのを制限する潤滑油に関する。
【背景技術】
【0002】
低速2サイクル・クロスヘッドエンジンに使われる船舶用オイルには二つのタイプがある。すなわち、ピストン・シリンダーアセンブリの潤滑を確実に行うシリンダー油と、ピストン・シリンダーアセンブリを除く全ての可動部の潤滑を確実に行うシステム油とがある。ピストン・シリンダーアセンブリ内においては、酸化ガスを含む燃焼残留物が潤滑油と接触している。
酸化ガスは、特に硫黄酸化物(SO、SO)である燃料油の燃焼によって生じ、これが燃焼ガス及び/もしくは油に存在する蒸気と接触すると加水分解される。この加水分解によって亜硫酸(HSO)または(HSO)が生成される。
シリンダースリーブの表面を保護し、過度の腐食摩耗を避けるためにこれらの酸を中和させる必要があるが、これは通常潤滑油に含まれる基本部位との化学反応によって行われる
油の中和能は、その油の塩基性を特徴付ける基本数すなわちBNによって測られる。測定はASTM D−2896規格に準拠して行われ、油1グラム当たりのカリの当量すなわちmgKOH/gで表される。BNは、使用燃料油に含まれる硫黄によってシリンダー油の塩基性の調節を可能にする基準値であって、燃料に含まれる硫黄の総量を中和し、燃焼と加水分解によって硫酸に変えることができる値である。
従って、燃料油の硫黄含有量が高いほど船舶用オイルのBNが高くなければならない。このため市場では、BNが5〜100mgKOH/gまでの範囲で異なる船舶用オイルが見られる。
特定の地域とりわけ沿岸地域において環境問題が生じ、船舶で使用される燃料油の硫黄レベルを制限すべしとの機運が高まってきた。
かくして、2005年5月、IMO(国際海事機関)によるMARPOL(船舶による大気汚染防止のための規則)の付属文書6が施行された。燃料重油の最大硫黄含有量を4.5%m/mとし、SECA(硫黄酸化物の排出制限区域)創設を主眼としている。これらの区域に入る船舶は、最大硫黄含有量1.5%m/m、もしくは硫黄酸化物排出を制限する他の代替処理をおこなった燃料油を使用し、指定された値を遵守しなければならない。表記法%m/mは、燃料油または潤滑油の組成物の全重量に対する燃料油または潤滑油に含まれるある化合物の質量百分率を表す。
大陸間航路を運行する船舶は、その地域の環境規制に応じて数種類のタイプの異なる燃料重油を使うことになり、また、これにより船舶の運航コスト最適化することできる。
かくして、現在建造中の大部分のコンテナー搬送船舶は複数のバンカーリングタンクを備え、「高」硫黄含有の船舶用燃料油と硫黄含有量1.5%m/m以下の「SECA」燃料油に対応している。
二つの異なる種類の燃料油の切替えるためには、エンジンの運転条件への適応、とりわけ適切なシリンダー潤滑油の使用が求められる。
現在、高硫黄含有燃料油(3.5%m/m以上)の存在下で、BN70程度の船舶用潤滑油が使用されている。
低硫黄含有燃料油(1.5%m/m以下)の存在下では、BN40程度の船舶用潤滑油が使用されている。
上記2つのケースにおいて、船舶用潤滑油の基本部位の要求濃度は塩基性界面活性剤によって達成されているので、十分な中和能は達成されているが、燃料油のタイプを変えるごとに潤滑油を変えることが必要となる。
更に、以下のような所見から、これらの潤滑油には使用上の制限がある。すなわち、低硫黄含有量(1.5%m/m以下)の燃料の存在下でBN70のシリンダー潤滑油を設定潤滑レベルで使用すると、基本部位の相当な過剰(強BN)と、未使用の不溶性金属塩を含む塩基性界面活性剤のミセルに不安定化を生じる恐れがある。不安定化の結果、主にピストンジャンクにおいて、不溶性の金属塩(例えば、炭酸カルシウム)堆積物が形成され、シリンダースリーブの研磨タイプの過剰摩耗が生じる恐れさえもある。
その結果、低速2サイクルエンジンの潤滑を最適化するには、燃料油とエンジンの運転条件に適合したBNを有する潤滑油を選択することが必要となる。この最適化によって、エンジン運転上の柔軟性が減る一方、潤滑油を一方のタイプから他のタイプに切り替える条件を見極める高い技能が乗組員に求められる。
操作を簡単にするためには、高硫黄含有燃料油と低硫黄含有燃料油の両者がともに使用できる、2サイクル船舶エンジン用シリンダー潤滑油を得ることが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、船舶エンジンのシリンダーの適正な潤滑を確実に行うことができる潤滑油であって、高硫黄含有燃料油と低硫黄含有燃料油の両方の制約に耐えうる潤滑油を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的を達成するために本発明は、潤滑油1グラム当たり40ミリグラム以上のカリを含むASTM D−2896規格に定められたBNを有するシリンダー潤滑油であって、船舶エンジン用の潤滑油基油と、アルカリ性またはアルカリ土類金属をベースとする少なくとも1個の塩基性界面活性剤とからなるシリンダー潤滑油において、更に、少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸及び最大6個の炭素原子を含むアルコールのエステル類から選択された1以上の化合物(A)を潤滑油の全重量に対して0.01%〜10%重量含む、ことを特徴とするシリンダー潤滑油、を提案する。
【発明の効果】
【0005】
出願者は、所定のBNをもつシリンダー潤滑油の標準的な調合に、ある種の界面活性剤の化合物を導入すると、前記標準潤滑油において、意外にも硫黄含有量が4.5%以下の全てのタイプの燃料油が2サイクル船舶エンジン中で燃焼するときに形成される硫酸の中和効率が、大きく向上することに気がついた。特に、大量に形成される硫酸の中性化速度、すなわち反応速度に関わる性能が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は中和反応の温度と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
従来の参照潤滑油と界面活性添加剤を含む同潤滑油との間の性能の違いは、以下実施例で述べるエンタルピー試験によって測定した中和効率指数によって特徴付けることができる。
更に出願者は、これら界面活性剤の化合物を導入しても、ASTM D−2896規格によって測定した前記潤滑油のBN初期値が全くないし無視できる程度の影響しかないことに気づいた。
事実、出願者は、使用燃料油の硫黄含有量にたいする潤滑油の適合性を判断する上で、BNが唯一の基準ではないらしいということに気がついた。BNは中和能の指標を提供はするが、必ずしも中和すべき酸分子に関して、BNの構造的基本部位の可用性すなわち可触性を表すものではない。
このように、いかなる理論にも拘束されるものではないが、これらの界面活性剤の化合物はそれ自体、溶液に投入される潤滑油に新たな塩基性を与えるものではないと試量される。一方、所定のBNをもつ潤滑油に導入の間の親水性/親油性バランス(HLB)によって、潤滑油の塩基性界面活性剤の中に含まれる基本部位の可触性を増やすことにつながり、その結果、燃料油の燃焼中に形成される硫酸の中和反応がより効率的に行われる。
このことにより、高硫黄含有燃料油及び低硫黄含有燃料油の両者に適合する2サイクル船舶エンジン用シリンダー潤滑油の調合が可能となる。
本発明は、潤滑油1グラム当たり40〜70、好ましくは45〜60、更に好ましくは50〜58ミリグラムの範囲のカリを含む所定のBNをもつシリンダー潤滑油を提案する。
一実施形態によれば、本発明の潤滑油BNは47〜53、選択的には50である。
他の実施形態によれば、本発明の潤滑油のBNは54〜56、選択的には55である。
更に、本発明の潤滑油のBNは55〜59、選択的に56〜58、更に選択的には57からなる。
一実施形態によれば、化合物(A)は少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸及び最大6個の炭素原子を含むアルコール類のモノ及びジエステル類から選択される。
好ましくは、化合物(A)はミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ヘンエイコサン酸、ベヘン酸から選択された飽和脂肪酸のエステル類である。
好ましくは、化合物(A)はエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、エチレン・グリコール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ヘキサンジオール、トリエチレン・グリコールから選択されたアルコールのエステル類である。
ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ヘンエイコサン酸、ベヘン酸、及びエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、エチレン・グリコール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ヘキサンジオール、トリエチレン・グリコールのエステル類、とりわけ、モノエステル及びジエステル類が好適である。
一実施形態によれば、シリンダー潤滑油は分散剤添加剤、耐摩耗添加剤、消泡添加剤、抗酸化剤及び/または防錆添加剤から選択された1以上の機能性添加剤からなる。
一実施形態によれば、シリンダー潤滑油はカルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩で形成される基から選択された少なくとも1個の塩基性界面活性剤、及び少なくともこれらの2タイプの界面活性剤と結びつく混合塩基性界面活性剤、とりわけシリンダー潤滑油は、少なくとも10%の1以上の塩基性界面活性剤の化合物からなる。
一実施形態によれば、塩基性界面活性剤はカルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウム、選択的にカルシウムまたはマグネシウムで形成されるグループから選択された金属をベースとする化合物である。
一実施形態によれば、界面活性剤はアルカリ性及びアルカリ土類金属炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩のグループから選択された不溶性の金属塩により表面を覆われる。塩基性界面活性剤は、好ましくは、アルカリ性及びアルカリ土類金属炭酸塩または界面活性剤の少なくとも1個であって、更に炭酸カルシウムでベース表面を覆われる。
他の実施形態によれば、シリンダー潤滑油はPIBスクシンイミド族から選択された少なくとも0.1%の分散添加剤を含む。
本発明の他の目的は、上記潤滑油を、4.5%以下、好ましくは0.5〜4.5%m/mの硫黄を含むいかなるタイプの燃料油とでも使える単一のシリンダー潤滑油としての使用することができるようにすることである。
単一のシリンダー潤滑油は、好ましくは硫黄含有量が1.5%m/m以下の燃料油、及び硫黄含有量が2.5%m/m以上、選択的に3%m/m以上の燃料油の両者とともに使用することができる。
単一のシリンダー潤滑油は、好ましくは硫黄含有量が1%m/m以下の燃料油、及び硫黄含有量が2.5%m/m以上、選択的に3%m/m以上の燃料油の両者とともに使用することができる。
本発明の他の目的は、上記潤滑油を使用することにより、4.5%m/m以下の硫黄を含むいかなるタイプの燃料油の燃焼中においても、2サイクル船舶エンジン内部の腐食防止、及び/または不溶性の金属塩の堆積物の形成を減らすことである。
本発明の他の目的は、少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸及び最大6個の炭素原子を含むアルコールのエステル類から選択された1以上の化合物を、潤滑油1グラム当たり40ミリグラム以上のカリを含むASTM D−2896規格により測定したBNを有するシリンダー潤滑油の界面活性剤として使用することにより、2サイクル船舶エンジンにおいて4.5%m/m以下の硫黄を含むあらゆるタイプの燃料油の燃焼中に形成される硫酸の中性化速度に関し前記シリンダー潤滑油の効率を高めることである。
界面活性剤は、好ましくは潤滑油の全重量に対して0.01%〜10%重量、選択的に0.1%〜2%重量の量で存在する。
本発明の他の目的は、化合物(A)が潤滑油1グラム当たり40ミリグラム以上のカリを含むASTM D−2896規格に準じて測定したBNを有し、随意に1以上の機能性添加剤を添加されたシリンダー潤滑油の顕著な成分として添加される、上記潤滑油の製造方法に関する。
一実施形態によれば、潤滑油は化合物(A)が導入された船舶用潤滑油のための添加剤の濃縮物を希釈することによって作られる。
本発明の他の目的は、潤滑油1グラム当たり40mg以下のカリを含むASTM D−2896規格で測定したBNを有するシリンダー潤滑油のための添加剤の濃縮物に関し、前記濃縮物は、添加剤の濃縮物の全重量に対して0.05%〜30%、好ましくは0.5%〜25%重量の少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸及び最大6個の炭素原子を含むアルコールを含むエステル類から選択された1以上の化合物(A)からなる。
他の実施形態によれば、添加剤の濃縮物は少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸及び最大6個の炭素原子を含むアルコールのモノ及びジエステル類から選択された1以上の化合物(A)の添加剤濃縮物の全重量に対し、15%〜80%重量からなる。
本発明の添加剤の濃縮物おいて、好ましくはエステル類は少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸及び最大6個の炭素原子を含むアルコールのモノエステルまたはジエステル類である。
本発明の添加剤の濃縮物の化合物(A)は、好ましくはミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ヘンエイコサン酸、ベヘン酸から選択された飽和脂肪酸のエステル類である。
本発明の添加剤の濃縮物の化合物(A)は、好ましくはエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、エチレン・グリコール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ヘキサンジオール、トリエチレン・グリコールから選択されたアルコールのエステル類である。
本発明の添加剤の濃縮物において、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ヘンエイコサン酸、ベヘン酸、及びエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、エチレン・グリコール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ヘキサンジオール、トリエチレン・グリコールのエステル類が好適であり、とりわけ、上記の酸及びアルコール類のモノ及びジエステル類が好適である。
【0008】
(発明の実施形態の詳細な説明)
界面活性剤としてのエステル類:
界面活性剤は、親油性(すなわち疎水性)を有する鎖をもつ一方、他方で親水性(すなわち極性頭部)を有する基をもつ分子である。
本発明で使用されるエステル類は非イオン性界面活性剤であって、その親水性極性頭部はエステル基群と、それに付随する非エステル化水酸基群によって形成される単位によって表され、従って、かかる「極性頭部」を形成するためには互いに十分に接近していることが必要である。このように本発明のエステル類においては、エステル官能基群の数は選択的に1ないし2個に限定され、エステル官能基の酸素原子側から数えて最大でも4炭素原子分だけ選択的に互いに離れている。
また、非エステル化水酸基群は選択的に4個を越えない数に限定され、エステル官能基(群)のCOO基の酸素原子に対して、ベータポジションまたはガンマポジションに位置する。
親油性部分は、それ自体1ないし2個、選択的に最大2個の脂肪酸に由来する炭素鎖であって、従って、分子に親油性を付与するのに十分な量の炭素原子を含みかつ選択的に極性基と不飽和基の何れも持たないことが必要である。
本発明においては、エステル類は単独もしくは混合物として用いられ、少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸のエステル類から選択され、好ましくはモノ及びジエステル類から選択された最大6個の炭素原子を含むアルコール類からなる。
更に、飽和脂肪酸類の脂肪族鎖は好ましくは14〜22個、選択的には18〜20個の炭素原子からなる。これら脂肪酸類の脂肪族鎖は、選択的には線形であって、好ましくはメチル、エチルまたはプロピル基により随意に置換される。
これらの酸は、例えば、好ましくはミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ヘンエイコサン酸、ベヘン酸から選択される。
本発明のエステル類のアルコール類は、最大6個の炭素原子を含む。これらは、線形もしくは分岐モノまたはポリアルコール類である。好ましくは、これらはせいぜいテトラアルコール類である。これらのアルコール類は、好ましくはエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、エチレン・グリコール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ヘキサンジオール、トリエチレン・グリコールから選択される。
特に、モノ及びジエステル類においては、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ヘンエイコサン酸、ベヘン酸等のエステル類、及びエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、エチレン・グリコール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ヘキサンジオール、トリエチレン・グリコール等が好ましい。
好ましいエステル類の中で、例えばステアリン酸のメチルエステル類、グリセロールモノステアレート、ネオペンチルグリコールまたはエチレン・グリコールのモノ及びジエステル類、及びマルガリン及びステアリンなどの酸が挙げられる。
低界面活性特性または強親油性のために、これらの化合物はオイルの母材の溶液において安定であり、塩基性界面活性剤内の化学平衡物と入れ替わる傾向がある。従って、塩基性界面活性剤によって得られる基本部位が更に得やすくなり、塩基性界面活性剤により得られるこれら基本部位によって硫酸の中和反応がより効率的に行われる。
更に、これらの化合物はそれ自体では、溶液に投入される潤滑油に更に塩基性をくわえることはないことに注意されたい。
本発明においては、使用される界面活性剤の量は、潤滑油の全重量に対して0.01%〜10%重量の範囲である。
最終潤滑油の粘度すなわちゲル化レベルは、選択されたエステル類の性質によって異なるが、潤滑油の全重量に対して1以上のエステル類0.1%〜2%重量の範囲の分量でなるものが好ましく使用される。これによって、本発明の最終船舶用潤滑油は、適用仕様に応じて粘度グレードを保持することができる。
【0009】
本発明による潤滑油のBN
本発明の潤滑油のBNは、アルカリまたはアルカリ土類金属をベースとする塩基性界面活性剤によって得られる。ASTM D−2896に準拠して測定したこのBNは、船舶用潤滑油中のKOH/gの値が5〜100mg変化する。
設定BN値をもつ潤滑油は、潤滑油の使用条件、とりわけシリンダー潤滑油との関連と使用燃料油の硫黄含有量に応じて選択される。
本発明の潤滑油は、エンジン内で燃焼する燃料として使用される使用燃料油の硫黄含有量と関わりなく、シリンダー潤滑油としての使用に合わせて調節される。
従って本発明の2サイクル船舶エンジン用シリンダー潤滑油は、40以上、選択的には40〜70のBNをもつ。
本発明の好適な実施形態によれば、ASTM D−2896規格に準拠して測定した値で、潤滑油の調合はBNレベルで、現在使用されている燃料油の硫黄含有量を制限するのに必要なレベルの中間、すなわち、45〜60の間、好ましくは50〜58、選択的には57、更には55である。
一実施形態によれば、本発明の潤滑油のBNは47〜53の間、選択的には50である。
他の実施形態によれば、本発明の潤滑油のBNは、54〜56の間、選択的には55である。
更に、本発明の潤滑油のBNは、55〜59の間、選択的には56〜58の間、選択的には57である。
本発明の潤滑油の調合は、上記のようなエステルタイプの界面活性剤を含み、塩基性界面活性剤によって基本部位の加工しやすさが増し、その結果、高BNをもつ従来の調合と少なくとも同じくらい効果的に酸を中和する。
例えば、BN55または57の本発明の潤滑油の調合は、BN70の従来の調合と少なくとも同じくらい効果的に硫酸を中和する。
本発明によって再調合されたBN55または57の従来のオイルは、高硫黄含有量(3%m/m程度以上)燃料油を使用中に腐食の問題を適切に防ぐ性能が与えられる。
また本発明のオイルは、低硫黄含有燃料油(1.5%m/m以下、例えば1%以下)の使用時に、過剰塩基(例えばCACO)を供給することによって、不溶性の金属塩の堆積物の形成を減すことができる。この削減は、本調合によって可能となったBNの低下に直結する。
更に本発明の潤滑油は、BN(従って界面活性剤の存在量)は、高/低硫黄含有量の燃料油との使用に調合された場合、両燃料油に求められるレベルの中間レベルに設定できるので十分な界面活性能を維持できる。
本発明の潤滑油は、水中油型もしくは油中水滴型エマルション、あるいはBNが水相において存在する化合物によって得られるマイクロエマルションでないほうが好ましい。
【0010】
塩基性界面活性剤
本発明の潤滑油の組成に使われる塩基性界面活性剤は、当業者には周知の技術である。
潤滑組成物を調合するときに共通して使われる界面活性剤は、通常は長い親油性炭化水素鎖と親水性頭部を含むアニオン性化合物である。関係するカチオンは、通常はアルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属カチオンである。
界面活性剤はカルボン酸、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩及びフェナート等から選択的に選択されるアルカリ塩またはアルカリ土類金属である。
アルカリ塩またはアルカリ土類金属は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムから選択される。
これらの金属塩は、ほぼ化学量論量、あるいは過剰に(化学量論量を超える量)金属を含んでいてもよい。後者の場合は、いわゆる塩基性界面活性剤として扱う。
界面活性剤に塩基性の特徴を与える過剰金属はオイル中に不溶性の金属塩として存在し、例えば炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩及び選択的に炭酸塩として存在する。
同じ塩基性界面活性剤において、これら不溶性塩の金属は、界面活性剤のオイルに溶性の金属であってもよく、あるいは異なっていてもよい。これらはカルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムから選択的に選択される。
このように、塩基性界面活性剤は、界面活性剤によって潤滑組成物中にオイルに溶性の金属塩として懸濁して保持される不溶性の金属塩からなるミセルとして現れる。
これらミセルは、1以上のタイプの界面活性剤によって安定化された、1ないし複数のタイプの不溶性の金属塩を含んでもよい。
1タイプの溶性金属塩の界面活性剤を含む塩基性界面活性剤は、一般に後者の界面活性剤の疎水性鎖の性質に応じて指定される。
このように、この界面活性剤がフェネート、サリチル酸塩、スルホン酸塩またはナフテン酸塩であるかどうかによって、それぞれフェネート、サリチル酸塩スルホン酸塩、ナフテン酸塩のタイプと言われる。
塩基性界面活性剤は、疎水性鎖の性質によって互いに異なる複数のタイプの界面活性剤からなるミセルの場合、ミックスタイプといわれる。
本発明の潤滑油組成物の使用においては、オイルに溶性の金属塩は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウム、フェナート、スルホン酸塩、サリチル酸塩、及びミックスフェネート-スルホン酸塩及び/またはサリチル酸塩から選択される界面活性剤である。
本発明の好適な実施形態によれば、塩基性の特性を与えている不溶性の金属塩は炭酸カルシウムである。
本発明の潤滑油の組成物に使われる塩基性界面活性剤は、炭酸カルシウムでベースを覆われたフェナート、スルホン酸塩、サリチル酸塩及びフェネート―スルホン酸塩―サリチル酸塩選択される混合界面活性剤である。
本発明の実施形態によれば、少なくとも10%の塩基性界面活性剤の1以上の化合物が使われ、燃焼中に形成される酸を中和するのに十分な量の塩基性を潤滑油に供給する。
従来、ベース表面を覆う界面活性剤の量は、目標のBNに達するように決められる。
【0011】
基油
一般に、本発明の潤滑油を調合するために使用する基油は、鉱油、合成油または植物油及びその混合物でもよい。
一般に応用される鉱油または合成油は、下にまとめるように、API分類に定義されるいずれかの分類に入る。
【0012】
【表1】

【0013】
これらのグループ1の鉱油は、選択されたナフテン系原油またはパラフィン基原油の蒸留に続き、溶媒抽出、溶媒または触媒脱ろう、水素処理または水素添加等の方法でこれら蒸留物を精製することにより得られる。
グループ2及び3のオイルは、更に厳しい精製方法、例えば水素処理、水素化分解法、水素添加及び触媒脱ろうの組み合わせにより得られる。
グループ4及び5の合成基油の例として、ポリ―アルファ・オレフィン、ポリブテン、ポリイソブテン、アルキルベンゼンが含まれる。
これらの基油は単独または混合物として使われる。鉱油は合成油と組み合わせてもよい。
2サイクルディーゼル船舶エンジン用シリンダ油はSAE−40〜60の粘度測定等級を有し、一般に選択的に、100℃で16.3〜21.9mm2/sの動粘性率に等しいSAE-50である。専門用途によっては、シリンダ油の調合は、100℃で18〜21.5、選択的に19〜21.5の動粘性率のものが2サイクルディーゼル船舶エンジン用シリンダ油に好適である。この粘度は、例えば、添加剤とNetural・Solvent(例えば、500NSまたは600NS)基油及びブライトストックなどのグループ1の鉱基油を含む基油を混合することによって得られる。その他の鉱油、合成基油または植物由来の基油、SAE-50等級に匹敵する添加剤の粘度を有する混合物を用いてもよい。
通常は、従来の2サイクルディーゼル船舶エンジン用シリンダ油の調合は、SAE40〜60、選択的にSAE50(SAEJ300分類に準拠)及び少なくとも50%重量の船舶エンジンの使用に調整された、鉱油及び/または合成由来の潤滑基油、例えば、APIグループ1の等級、すなわち選択された原油を蒸留後、これらの蒸留物を溶媒抽出、溶媒または触媒
脱ろう、水素処理または水素添加の方法によって精製することによって得られる。これらの粘度指数(VI)は80〜120、 硫黄含有量は0.03%以上、飽和物質含有量は90%以下である。
【0014】
機能性添加剤
本発明の潤滑油の調合は、例えば、分散剤添加剤、耐摩耗添加剤、消泡添加剤、抗酸化剤及び/または防錆添加剤等の、その使用に適合した機能性添加剤を含んでもよい。後者は当業者に周知である。これらの添加剤は、0.1〜5%重量の含有量で存在する。
【0015】
分散剤添加
分散剤は、よく知られた添加剤であって、潤滑油組成調合、とりわけ船舶分野での応用目的で使用される。分散剤の主要な役割は、当初存在していた懸濁粒子またはエンジン内で使用中に潤滑油組成の中に現れる懸濁粒子を維持することである。立体障害に作用することで凝集を防ぐ。また、これらは中和に関して相乗効果を有する。
潤滑油の添加剤として使われる分散剤は、通常極性基を含み、一般に50〜400の炭素原子を含む比較的長い炭化水素鎖と結びつく。極性基は通常少なくとも1個の窒素、酸素またはリン元素を含む。
コハク酸に由来する化合物は特に潤滑添加剤として使われる分散剤である。特に無水コハク酸とアミンの縮合によって得られるスクシンイミド、エステル類無水コハク酸とアルコールまたはポリオールの縮合によって得られるコハク酸などが使われる。
これらの化合物は、様々な化合物、とりわけ硫黄、酸素、ホルムアルデヒド、カルボン酸及びホウ素または亜鉛を含む化合物で処理し、例えば、亜鉛でブロックされたホウ酸塩スクシンイミドまたはスクシンイミドを作ることができる。
マンニッヒ塩基は、アルキル基と置き換えたフェノール、ホルムアルデヒド及び第一または第二アミンの重縮合等も、潤滑油の分散剤として使われる化合物である。
本発明の一実施形態によれば、少なくとも0.1%の分散添加剤が使われる。PIBスクシンイミド族の分散剤、例えば亜鉛でブロックされたホウ酸塩が使える。
【0016】
その他の機能性添加剤
本発明の潤滑油の組成物は、随意にその他の添加剤を含むことができる。
例えば、ジチオリン酸亜鉛族から選択された耐摩耗添加剤、例えば有機金属界面活性剤またはチアジアゾールの抗酸化/防錆添加剤、及び、例えばポリメチルシロキサン、ポリアクリル酸等の界面活性剤の効果に対抗する極性高分子の消泡添加剤などがある。
本発明によれば、上記潤滑油の組成物は混合する前に個別に得られた化合物を意味し、これら化合物は、混合前後で同じ化学構造を保持するかそうでないかで理解され、別個に得られた化合物を混合することによって得られる本発明の潤滑油は、好ましくは、エマルションまたはマイクロ−エマルション構造でない方がよい。
本発明の潤滑油に含まれる界面活性剤の化合物はとりわけ、例えば既知の標準的潤滑油の調合の中和効果を増進するために、特別の添加剤として、潤滑油の中にくみこまれてもよい。
この場合、本発明の界面活性剤は、SAE40〜60、選択的にはSAE50(SAE J300分類に準拠)等級の低速2サイクル船舶ディーゼルエンジン用シリンダー潤滑油の標準的調合に含まれることが好ましい。この標準的調合は以下の通りである:
【0017】
・例えば、APIグループ1等級、すなわち、選択された原油を蒸留し、それらの蒸留物を溶媒抽出、溶媒または触媒脱ろう、水素処理または水素添加等の方法で精製することによって得られる、船舶エンジンでの使用に調整された鉱油及び/または合成由来の潤滑油基油の少なくとも50%重量。粘度指数(VI)は80〜120;硫黄含有量は0.03%以上;飽和物質含有量は90%以下。
・少なくとも10%の、燃焼中に形成される酸を中和するのに十分な量の、例えばスルホン酸塩、フェネート、サリチル酸塩タイプの界面活性剤から選択される潤滑油に塩基性を提供する1以上の塩基性界面活性剤の化合物。
・例えば、PIBスクシンイミド族から選択された少なくとも0.1%の分散添加剤;その主要な役割は、当初存在またはエンジン中で使用中に潤滑油の組成物に現れる粒子の懸濁を維持することであって、中和に関して相乗効果を有する;
・及び随意に、例えば、ジチオリン酸亜鉛族等の消泡剤、抗酸化剤及び/または防錆剤及び/または耐摩耗剤。
上記は、潤滑油の組成物の全重量の質量百分率により表される。
【0018】
船舶用潤滑油のための添加剤濃縮物
本発明の潤滑油に含まれるエステルタイプの界面活性剤の化合物は、船舶用潤滑油の添加剤の濃縮物に溶け込ませることもできる。
船舶用シリンダー潤滑油のための添加剤の濃縮物は、一般に上記の構成物質、界面活性剤、分散剤、その他の機能性添加剤の混合物からなり、この混合物は、基油またはシリンダー潤滑油中に希釈後、潤滑油1グラムあたり40mg以上のカリを含むASTM D−2896規格に準拠して定められたBNが得られる比率で混合される。この混合物は一般に、濃縮物の全重量をベースとして、界面活性剤の含有量が80%以上、好ましくは90%以上、分散添加剤の含有量が2〜15%、好ましくは5〜10%、その他の機能性添加剤の含有量が0〜5%、好ましくは0.1〜1%含む。
本発明の目的によれば、船舶用潤滑油のための添加剤の濃縮物は、本発明のシリンダー潤滑油は、0.1%〜10%、好ましくは0.1〜2%の比率で得られる1以上のエステルタイプの界面活性剤を含む。
このように、船舶用潤滑油のための添加剤の濃縮物は、濃縮物の全重量をベースとして、少なくとも14個の炭素原子、及び最大6個の炭素原子を含むアルコール類を含む飽和モノ脂肪酸のエステル類から選択された1以上の化合物(A)を好ましくは0.05%〜30%、好ましくは0.5〜25%重量含む。
一実施形態によれば、シリンダー潤滑油のための添加剤の濃縮物は、少なくとも14個の炭素原子及び最大6個の炭素原子を含むアルコール類の飽和モノ脂肪酸のエステル類から選択された1以上の化合物(A)を、濃縮物の全重量をベースとして、0.05〜80%、好ましくは0.5〜50%、2%〜40%、6%〜30%または10〜20%重量含む。
特定の実施形態によれば、添加剤の濃縮物は、濃縮物の全重量をベースとして上記に定義の1以上の化合物(A)を15%〜80%重量含む。
これらのパーセンテージは全て、濃縮物の全重量をベースとして、重量であらわされ、少量ではあるが添加剤の濃縮物と塗付を促進するのに十分な量の基油を含む。
【0019】
従来の参照潤滑油と本発明の潤滑油との性能差の測定
本測定は、基本部位を含む潤滑油を硫酸の存在下置いたとき、特に実施例においてエンタルピー試験の方法に準じて測定し、温度の上昇によって発熱中和反応の進行をチェックすることによって中和効率指数で表すことに特徴がある。
言うまでもなく、本発明は上記及び図示の例及び実施例に限定されるものではなく、当業者にとって実施可能な多くの代替がありうる。
【実施例】
【0020】
実施例1:
この実施例は硫酸に対する潤滑油の中和効率を測定するエンタルピー試験を記述することを目的とする。
潤滑油、とりわけ2サイクル船舶エンジン用シリンダー潤滑油内に含まれる基本部位の酸分子に対する可用性すなわち可触性は中性化速度すなわち反応速度を追跡するための動的試験によって定量化することができる。
【0021】
原理:
酸塩基の中和反応は、一般に発熱性の反応であり、従って、試験対象の潤滑油に対する硫酸の反応によって得られる熱の亢進で測定できる。この亢進はDEWAR型の断熱反応器内での時間依存性の温度変化によって追跡することができる。
これらの測定結果から、本発明の添加済潤滑油の効率を定量化する指数を、参照例の潤滑油に対比して計算することができる。
この指数は、参照オイルに100の値が割り当てこれとの対比で計算できる。これは、参照例(Sref)と測定サンプル(Smes)の中和に要する反応時間の比:
中和効率指数=Sref/Smes×100
これらの中和反応時間の値は数秒程度であるが、温度上昇取得曲線対中和反応時間で決まる(図1のグラフ参照)。
時間Sは反応終了温度のときの時間と反応開始温度のときの時間の差tf−tiに等しい。
反応開始温度のときの時間tiは、かくはん開始後の最初の温度上昇に対応する。
最終反応温度のときの時間trは、反応時間の半分より長い時間、温度信号が安定する時間である。
短い中和時間は高い指数となるので、従って潤滑油はいっそう効果的である。
【0022】
使用機器:
化学反応装置及びかくはん器の形状と動作条件は、化学的動作条件と同じになるように選択され、この時、オイル相における拡散制約影響が無視できるものとした。
従って、使用器具の形状においては、流体の高さは化学反応装置の内径と等しく、かくはんプロペラの位置は流体の高さの約1/3とする。
装置は、円筒型の300ml断熱反応器からなり、その内径は52mm、内側高さは185mm、かくはん棒は傾斜ブレード付の直径22mmのプロペラ付き、ブレードの直径はDEWARの直径の0.3〜0.5倍;15.6〜26mmとした。
プロペラの位置は化学反応装置の底から約15mmの距離にセットし、かくはんシステムは、温度を補足するシステムとともに、毎分10〜5、000回転の変速速度でモーターにより長時間駆動した。
このシステムを5〜20秒程度の反応時間の測定及び約20℃〜35℃、好ましくは約 30℃の温度から数十度の温度上昇の測定に調節し、DEWAR内の温度捕捉システムの位置を固定する。
かくはんシステムは、化学的運転条件で反応が起こるように調節し、回転速度は毎分2、000回転、システムの位置を固定した。
さらに、反応の化学的条件はDEWAR内へ導入されるオイルの高さに依存するので、DEWARの直径に等しくし、これは本実験の範囲内で約86gの試験潤滑油の質量に相当する。
BN70の潤滑油を試験するために、55BN点の中和に相当する量の酸を化学反応装置に導入する。
例えば、BN70の潤滑油を55BN点まで中和するため、4.13gの95%濃縮硫酸及び85.6gの潤滑油を化学反応装置内に導入する。
酸と潤滑油の混合物が2個の試験の間正しくかつ繰り返されるように、化学反応装置内にかくはんシステムを設置した後、化学的条件下で反応を追跡するためにかくはんを開始する。温度捕捉システムは恒常である。
【0023】
エンタルピー試験の応用−較正
上記の方法で本発明の潤滑油の効率指数を計算するために、参照例として、本発明の界面活性剤のいずれの添加剤も含まない、BN70(ASTM D−2896により測定)の2サイクル船舶エンジンシリンダ油のために測定した中和反応時間を選んだ。
15℃で比重が880〜900kg/mの蒸留物と、比重が895〜915kg/m(brightstock)の蒸留残留物を混合して得た蒸留物/残留物比が3の鉱基油からオイルをえた。
このベースにBNが70mgKOH/gの潤滑油を得るのに必要な量の、BNが400mgKOH/gのスルホン酸カルシウムと、分散剤、BNが250mgKOH/gのフェナートカルシウムを含む濃縮物を添加した。
このようにして、100℃で粘度が18〜20.5mm2/sの潤滑油を得た。
このオイル(以下、参照「Href」)の中和反応時間は10.3秒、中和効率指数は100にセットする。
それぞれ望みのBNにしたがって、最終的に100℃で粘度19〜20.5mm2/sになるように調整した1.25と1.7に希釈した潤滑油ベース、蒸留物及び残留物の混合物の同じ添加剤の濃縮物から、BN55と40の他の2個の潤滑油のサンプルを準備する。
以下、H55とH40と称するこれらの2個のサンプルも本発明の界面活性剤の添加剤を含まない。
表1は、添加剤を希釈して作ったBN40と55のサンプル及びBN70の参照オイルの中和指数の値を示す。
【0024】
【表2】

【0025】
実施例2:
本実施例は、一定のBN55を調合するうえでの、本発明の添加剤(化合物(A))の影響を説明するものである。
参照例は、上記実施例で本発明のBN70の2サイクル船舶エンジン用無添加シリンダ油と参照した、上記実施例Hrefである。
BN55のテスト添加サンプルは、上記実施例でH55と称した無添加済潤滑油から準備する。
これらのサンプルは、ビーカーの中で、温度60℃、H55の添加対象の潤滑油と選択されたエステルタイプの界面活性剤との混合物を均質にするために十分に撹拌しながら混合して得た。界面活性剤含有量x%m/mの混合物は、下のように行う:
―xgのエステル(化合物(A))を導入し、
―添加対象の潤滑油H55との混合を100まで行う。
表2は、このようにして準備した複数のサンプルの効率指数の値をグループ化したものである。
本発明の界面活性剤を導入する前後の潤滑油のBNは、ASTM D−2896規格に準拠して測定した。
【0026】
【表3】

【0027】
本発明の添加物を添加した潤滑油(NO.3−7及び11−12)は、BN55のとき、添加物を添加しないBN55の同オイルのものよりも大きい中和効率指数を有することが分かる。
本発明の添加物を添加したBN55のほとんどのオイルは、参照例の無添加のBN70のオイルよりも大きい中和効率指数を有する。
更に、本発明の定義から外れる、エステル類を添加したオイル(例8−10)は、中和効率指数は極めてわずかないし全く向上していないことに注目されたい。
BN55の本発明のオイルの計算された指数値は、全体的に参照例の数値よりも12〜25%大きく、本発明の添加剤を導入しても、BNの値には全くないしほとんど影響しない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明の船舶用潤滑油は、船舶以外の輸送機械に搭載される2サイクルエンジンにも適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油1グラム当たりカリ40ミリグラム以上のASTM D−2896規格に定められたBNを有するシリンダー潤滑油であって、船舶エンジン用の潤滑油基油と、アルカリ性またはアルカリ土類金属をベースとする少なくとも1個の塩基性界面活性剤とからなるシリンダー潤滑油において、更に、少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸及び最大6個の炭素原子を含むアルコールのエステル類から選択された1以上の化合物(A)を潤滑油の全重量に対して0.01%〜10%重量含む、ことを特徴とするシリンダー潤滑油。
【請求項2】
化合物(A)はモノエステル類及びジエステル類から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項3】
化合物(A)はモノアルコールモノエステル類から選択される、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項4】
化合物(A)は、ジエステル類から選択され、エステル官能基はエステル官能基の酸素側から数えて互いに最大炭素原子4個分だけ隔てられる、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項5】
化合物(A)は、好ましくはエステル官能基のCOO基の酸素原子に対してベータポジションまたはガンマポジションに位置する4個以下の非エステル化水酸基を有する、ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項6】
脂肪酸はミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ヘンエイコサン酸及びベヘン酸から選択される、ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項7】
アルコール類はエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、エチレン・グリコール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ヘキサンジオール及びトリエチレン・グリコールから選択される、ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項8】
潤滑油の全重量に対して、0.1%〜2%重量の化合物(A)からなる、ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項9】
潤滑油1グラム当たり40〜70、好ましくは45〜60、更に好ましくは50〜58mgの範囲のカリを含むASTM D−2896規格に定められたBNを有する、ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項10】
潤滑油1グラム当たり47〜53mgの範囲、好ましくは50mgのカリを含むASTM D−2896規格に定められたBNを有する、ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項11】
潤滑油1グラム当たり54〜56mgの範囲、好ましくは55mgのカリを含むASTM D−2896規格に定められたBNを有する、ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項12】
潤滑油1グラム当たり55〜59mg、好ましくは56〜58mgの範囲、更に好ましくは57mgのカリを含むASTM D−2896規格に定められたBNを有する、ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項13】
分散剤添加剤、耐摩耗添加剤、消泡添加剤、抗酸化剤及び/または防せい剤の添加剤から選択された1以上の機能性添加剤からなる、ことを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項14】
カルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、フェナートで形成されるグループから選択される少なくとも1個の塩基性界面活性剤と、これらのタイプの界面活性剤の少なくとも2個と結びつく混合塩基性界面活性剤とからなる、ことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項15】
少なくとも10%の1以上の塩基性界面活性剤化合物からなる、ことを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項16】
塩基性界面活性剤は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウム、好ましくはカルシウムまたはマグネシウムからなるグループから選択された金属をベースとする化合物である、ことを特徴とする請求項14または請求項15に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項17】
界面活性剤は、ベース表面を炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、アルカリのグルタミン酸塩及びアルカリ土類金属のグループから選択された不溶性の金属塩で覆われる、ことを特徴とする請求項14から請求項16のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項18】
塩基性界面活性剤は、アルカリまたはアルカリ土類金属の炭酸塩である、ことを特徴とする請求項14から請求項17のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項19】
界面活性剤の少なくとも1個はベース表面を炭酸カルシウムで覆われた、ことを特徴とする請求項14から請求項18のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項20】
少なくとも0.1%のPIBスクシンイミド族から選択された分散剤の添加剤からなる、ことを特徴とする請求項1から請求項19のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油。
【請求項21】
硫黄含有量4.5%m/m以下、好ましくは硫黄含有量0.5%〜4%m/mの、単一のシリンダー潤滑油としていかなるタイプの燃料油とも使用できる、ことを特徴とする請求項1から請求項20のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油の使用方法。
【請求項22】
硫黄含有量1.5%m/m以下の燃料及び硫黄含有量3%m/m以上の燃料の両者とも単一のシリンダー潤滑油として使用できる、ことを特徴とする請求項1から請求項20のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油の使用方法。
【請求項23】
硫黄含有量4.5%m/m以下のいかなるタイプの燃料油の燃焼中にも、2サイクル船舶エンジンの内部の腐食を防止及び/または不溶性金属塩の堆積物が形成されるの減らす、ことを特徴とする請求項1から請求項20のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油の使用方法。
【請求項24】
少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸及び最大6個の炭素原子を含むアルコール類のエステル類から選択された1以上の化合物の使用方法であって、潤滑油1グラム当たり40mg以上のカリを含むASTM D−2896規格に準じて測定されたBNを有するシリンダー潤滑油において、とりわけ2サイクル船舶エンジン内において、硫黄含有量が4.5m/m以下のいかなるタイプの燃料油の燃焼によって形成される硫酸の中性化速度に関わる前記シリンダー潤滑油の効率を向上させるために界面活性剤として含まれる、ことを特徴とする化合物の使用方法。
【請求項25】
潤滑油の全重量に対して0.01%〜10%重量、選択的に0.1%〜2%重量の界面活性剤が存在する、ことを特徴とする請求項24に記載の化合物の使用方法。
【請求項26】
請求項1から20のいずれかに定義の特徴を有するシリンダー潤滑油の、請求項21から請求項25のいずれか1項に記載の化合物の使用方法。
【請求項27】
化合物Aは、ASTM D−2896規格に定められたBNを有するシリンダー潤滑油とは違なる成分として、潤滑油1グラム当たり40mg以上のカリと1以上の機能性添加剤が随意に添加される、ことを特徴とする請求項1から請求項20のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油の製造方法。
【請求項28】
前記化合物Aが組み込まれている船舶用潤滑油用の添加剤の濃縮物を希釈することによって製造する、ことを特徴とする請求項1から請求項20のいずれか1項に記載のシリンダー潤滑油の製造方法。
【請求項29】
潤滑油1グラム当たり40ミリグラム以上のカリを有するASTM D−2896規格に定められたBNを有するシリンダー潤滑油のための添加剤の濃縮物であって、前記濃縮物は、添加剤濃縮物の全重量に対して0.05%〜30%、好ましくは0.5%〜25%重量からなり、少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸と最大6個の炭素原子を含むアルコール類のエステル類から選択された1以上の化合物(A)からなる、ことを特徴とする添加剤の濃縮物。
【請求項30】
潤滑油1グラム当たり40ミリグラム以上のカリを含むASTM D−2896規格に定められたBNを有するシリンダー潤滑油のための添加剤の濃縮物であって、前記濃縮物は、添加剤濃縮物の全重量に対して0.15%〜80%、重量からなり、少なくとも14個の炭素原子を含む飽和モノ脂肪酸最大6個の炭素原子を含むアルコール類のエステル類から選択された1以上の化合物(A)からなる、ことを特徴とする添加剤の濃縮物。
【請求項31】
化合物(A)はモノ及びジエステル類から選択される、ことを特徴とする請求項29または請求項30に記載の添加剤の濃縮物。
【請求項32】
脂肪酸はミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ヘンエイコサン酸、ベヘン酸から選択される、ことを特徴とする請求項29から請求項31のいずれか1項に記載の添加剤の濃縮物。
【請求項33】
アルコール類は、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、エチレン・グリコール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、ヘキサンジオール、トリエチレン・グリコールから選択される、ことを特徴とする請求項29から請求項32のいずれか1項に記載の添加剤の濃縮物。

【図1】
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【公表番号】特表2011−515529(P2011−515529A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500254(P2011−500254)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000287
【国際公開番号】WO2009/125083
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(510247397)
【Fターム(参考)】