説明

色処理装置およびその方法

【課題】 色域と他の画質項目を考慮した色変換プロファイルを低工数で生成する。
【解決手段】 生成条件入力部203は、生成すべき色変換プロファイルの格子点の合計色材量を含む情報を入力する。頂点色分解部204は、生成すべき色変換プロファイルに類似する色変換プロファイルとその色域データを取得し、合計色材量に基づき、取得した色変換プロファイルの頂点格子点の出力値から、生成すべき色変換プロファイルの頂点格子点の出力値を決定する。頂点再現色予測部205は、決定された頂点格子点の出力値によって再現される色値を予測する。格子点目標色決定部206は、予測された頂点格子点の色値と色域データに基づき、生成すべき色変換プロファイルの中間格子点の色値を設定する。格子点色分解部207は、設定された中間格子点の色値を再現する中間格子点の出力値を決定し、頂点格子点および中間格子点の出力値から、生成すべき色変換プロファイルの格子点の出力値を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号値を、色材量を表す出力値に変換する色変換プロファイルを生成する色処理に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷装置に用いる記録剤が、例えばシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのインクやトナーなどの場合、印刷データを生成する画像処理は、RGBデータを記録剤それぞれに対応するCMYKデータに色変換する。色変換処理には、通常、ルックアップテーブル(LUT)を用いる。つまり、このテーブルの内容が、RGBデータの組み合わせに対して、どの記録剤を組み合わせるかという、色変換の仕方を定めている。
【0003】
こうした色変換処理の規則を定めたものを色変換プロファイルと呼び、とくにRGBデータの組み合わせをCMYKデータに変換する規則を定めた色変換プロファイルを色分解プロファイルと呼ぶ。上述のLUTは、この色分解プロファイルの一形態である。
【0004】
色分解プロファイルは、印刷媒体や記録剤の組み合わせ、印刷速度や印刷品質など、各種印刷条件に応じて変更することが望ましい。言い換えれば、高い印刷画質を得るには、印刷条件ごとに一つの色分解プロファイルを用意する必要がある。なお、印刷画質には、再現可能な色域の広さと形状、粒状性、光沢性、カラーコンスタンシ、階調性、色安定性などの項目が挙げられる。
【0005】
一方、印刷装置が対応すべき印刷媒体や印刷条件の数は年々増大する傾向にある。つまり、印刷装置を開発する際、多数の色分解プロファイルを作成する必要があり、低工数・低コストによる色分解プロファイルの生成が重要になっている。
【0006】
作成工数、コストを削減する方法として、色分解プロファイルを自動生成することが考えられる。例えば、特許文献1は、出力側のM変数のうち、M-N変数に反復的に定数を与える。そして、残るN変数の第二の色信号については、ノイゲバウアの式を用いたプリンタモデルを構築し、ニュートン法などの反復法を用いてプリンタモデルを反転し、所望の色空間上の座標を再現する色分解プロファイルを求める技術を開示する。こうした反転したプリンタモデルを用いて、色分解プロファイルを自動設計する手法も知られている。
【0007】
また、インクジェットプリンタにおいては、粒状性の低減を目的とし、シアン、マゼンタ、イエローの基本色およびブラックの記録剤(以下、濃色材)に加え、グレイ、淡シアン、淡マゼンダなど、相対的に濃度が低い記録剤(以下、淡色材)を用いる場合がある。濃色材の一部を淡色材に置き換えて印刷することにより、良好な粒状性を得ることができる。しかし、淡色材の使用量が増えるに従い再現可能な色域が狭まる傾向にある。また、CMYK四色のプリンタにおいても粒状性などの観点から100%UCRを行わず、補色と墨を併用して低明度部を色分解することが多く、この場合も再現可能な色域が狭まる傾向にある。基本的に、こうした印刷装置において、色域の広さと粒状性はトレードオフの関係にある。
【0008】
しかし、再現色以外の画質項目についても所望の画質を得る色分解プロファイルを低工数で自動生成するには困難がある。これは、RGBの三変数のデータをCMYKなどの四変数以上のデータに変換するため、変換後のデータの次元数が変換前のデータの次元数より増大し、解が一意に決定しないことによる。
【0009】
特許文献1の手法は、第二の色信号の一部に定数を反復的に与えることにより、色空間上の所望の座標を再現する色分解値を得ることはできる。しかし、記録剤の量を粒状性を加味して最適化することはできず、印刷物において部分的に粒状性が劣化する危惧や、充分な広さの色域が得られない危惧がある。
【0010】
また、特許文献2は、再現色と同様に画質を推定するプリンタモデルを構築し、再現色、粒状性、モアレを同時に評価し、色分解プロファイルを自動設計する方法を開示する。特許文献2の手法によれば、好適な画質を得る墨量を予め決定することができる。しかし、色の測定に比べて、粒状性の測定工数が非常に大きいなどの理由から、画質を予測するプリンタモデルの構築自体に膨大な工数を必要とし、工数の削減は難しい。
【0011】
【特許文献1】特許3174509号公報
【特許文献2】特開2000-078418公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、色域と他の画質項目を考慮した色変換プロファイルを低工数で生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記の目的を達成する一手段として、以下の構成を備える。
【0014】
本発明にかかる色処理は、入力信号値を、色材量を表す出力値に変換する色変換プロファイルを生成する際に、生成すべき色変換プロファイルの格子点の合計色材量を含む情報を入力し、前記入力した情報に基づき、前記生成すべき色変換プロファイルに類似する色変換プロファイルとその色域データを取得し、前記合計色材量に基づき、前記取得した色変換プロファイルの頂点格子点の出力値から、前記生成すべき色変換プロファイルの頂点格子点の出力値を決定し、前記決定した頂点格子点の出力値によって再現される色値を予測し、前記予測した頂点格子点の色値と前記色域データに基づき、前記生成すべき色変換プロファイルの前記頂点格子点の間に位置する中間格子点の色値を設定し、前記設定した中間格子点の色値を再現する前記中間格子点の出力値を決定し、前記頂点格子点および前記中間格子点の出力値から、前記生成すべき色変換プロファイルの格子点の出力値を計算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、色域と他の画質項目を考慮した色変換プロファイルを低工数で生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明にかかる実施例の色処理を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
[装置の構成]
図1は実施例の印刷システムの構成例を示すブロック図で、インクジェット記録方式のプリンタ102と、画像処理装置として機能するコンピュータ(ホスト装置)101を備える。
【0018】
●ホスト装置
ホスト装置101のオペレーティングシステム(OS)上では、アプリケーションプログラム(AP)104が稼働する。AP104は、ユーザインタフェイス(UI)を後述するモニタ1209に表示する。ユーザは、このUIを操作して画像データをホスト装置101に入力する。
【0019】
画像データの入力は、例えば、メモリカードに記録されたディジタルカメラで撮像されたJPEG形式の画像データをメモリカードリーダを介して入力する。また、スキャナが読み取ったTIFF形式の画像データをUSBなどの後述するシリアルバス1211を介して入力したり、CD-ROMに記録された画像データをディスクドライブを介して入力することができる。勿論、後述するネットワーク1210上のサーバやWebサイトから画像データを入力してもよい。
【0020】
画像データを入力すると、AP104は、画像データが表す画像をUIに表示する。ユーザは、UIを操作して、画像を編集、加工して、印刷を指示する。印刷指示に応じて、AP104(またはOS)は、例えばsRGB規格のデータ(各色8ビット)に変換した画像データをOS上で稼働するプリンタドライバ103に渡す。
【0021】
プリンタドライバ103は、カラーマッチング処理105を実行し、入力された画像データを色域マッピングする。つまり、カラーマッチング処理105は、sRGB規格の画像データが再現可能な色域と、プリンタ102が再現可能な色域の関係を示す三次元LUT(3DLUT)を用いる補間演算により、sRGBデータをプリンタ用のRGBデータに変換する。なお、以下では、sRGB規格の画像データが再現可能な色域をsRGB色域、プリンタ102が再現可能な色域をプリンタ色域と呼ぶ場合がある。
【0022】
次に、プリンタドライバ103は、色分解処理106を実行し、色域マッピングされたRGBデータCMYKデータ(各色8ビット)に色分解する。色分解処理には、カラーマッチング処理105と同様、3DLUTと補間演算を用いる。
【0023】
次に、プリンタドライバ103は、ガンマ補正107を実行し、CMYKデータの各色データごとに、その階調値を補正(ガンマ補正)する。具体的には、プリンタ102の各色材の階調特性に応じた一次元LUT(1DLUT)を用いて、各色データをプリンタ102の階調特性に対応付ける変換処理を行う。
【0024】
次に、プリンタドライバ103は、ハーフトーニング108を実行し、例えば誤差拡散法を用いて、8ビットの色データを4ビットの色データに変換(量子化)する。この4ビットデータは、プリンタ102におけるドットの配置パターンを表すインデックスデータである。
【0025】
次に、プリンタドライバ103は、印刷データ生成109を実行し、4ビットのインデックスデータに印刷制御情報を加えて、印刷データを生成する。
【0026】
図2はホスト装置101の構成例を示すブロック図である。
【0027】
マイクロプロセッサ(CPU)1201は、ランダムアクセスメモリ(RAM)1202をワークメモリとして、OS、AP104、プリンタドライバ103などのプログラムを実行する。なお、OS、AP104、プリンタドライバ103などのプログラムは、読出専用メモリ(ROM)1203やハードディスクドライブ(HDD)1204に格納されている。
【0028】
CPU1201は、システムバス1205を介して、シリアルバスインタフェイス(I/F)1206、ネットワークインタフェイスカード(NIC)1207を制御し、シリアルバス1211やネットワーク1210を介して各種データを入出力する。さらに、ビデオカード1208を介してモニタ1209にUIなどを表示する。
【0029】
●プリンタ
プリンタ102は、ホスト装置101から入力されるCMYK印刷データそれぞれにドット配置処理110およびマスク処理111を施す。ドット配置処理110は、印刷画像の画素(以下、印刷画素)ごとに、4ビットのインデックスデータ(階調値情報)に従いドットを配置する。つまり、4ビットデータで表される階調値に対応するドットパターンを各印刷画素に割り当て、印刷画素の複数のセルに対応するドットそれぞれのオンオフを定義し、セルごとに‘1’または‘0’の吐出データを配置する。
【0030】
マスク処理111は、吐出データにマスク処理を施す。つまり、副走査方向に所定幅の走査領域(以下、バンド)の記録を、複数回の記録ヘッド113の走査により完成するために、各走査に対応するマスクで吐出データをマスク処理して、各走査用の吐出データを生成する。走査ごとのC、M、Y、Kの吐出データは、適切なタイミングで、ヘッド駆動回路112に送られる。ヘッド駆動回路112は、吐出データに従い各色材を吐出するように、記録へッド113を駆動する。
【0031】
なお、ドット配置処理およびマスク処理は、専用のハードウェア回路を用いて、プリンタ102の制御部を構成するCPUの制御の下に実行される。勿論、プリンタ102のCPUがドット配置処理およびマスク処理を行ってもよいし、ホスト装置101のプリンタドライバ103がドット配置処理およびマスク処理を行うこともできる。
【0032】
なお、本実施例において、画素は、階調表現が可能な最小単位のことで、多値データの画像処理(カラーマッチング処理105、色分解処理106、ガンマ補正107、ハーフトーニング108など)の最小単位データである。また、印刷データ生成109、ドット配置処理110における印刷画素は4×4セルのドットパターンに対応する。つまり、セルは、ドットのオンオフが定義可能な最小単位である。
【0033】
また、カラーマッチング処理105、色分解処理106、ガンマ補正107における画像データは、画素の集合を表し、各画素は例えば各色8ビットの階調値を有するRGBまたはCMYKデータによって表される。さらに、ハーフトーニング108によって、各色8ビットのCMYKデータは、各色4ビットの階調値を有するインデックスデータに変換される。
【0034】
[色分解プロファイルの生成]
図3は本実施例における色分解プロファイルを生成する装置の構成例を示すブロック図で、CPU1201が色分解プロファイルの生成プログラムを実行することで実現される。
【0035】
●色分解プロファイルDB
HDD1204などに格納された色分解プロファイルデータベース(DB)201は、種々の条件で最適化された複数の既存の色分解プロファイル(3DLUT)と、色分解プロファイルに対応するガンマ補正テーブル(1DLUT)を格納する。さらに、それらLUTによって再現可能な色域データを格納する。
【0036】
色分解プロファイルは、入力RGB値に対する色分解後のCMYK値を記述した3DLUTと補間演算部から構成される。本実施例の補間演算部は、各色分解プロファイルに共通である。従って、本実施例における色分解プロファイルの生成は3DLUTの生成と同義である。
【0037】
●色変換部
色変換部209は、プリンタモデル部210とプリンタモデル反転部211を有し、CMYKデータと表色系の色座標値Labの間の相互変換機能を提供する。プリンタモデル部210は、ノイゲバウアの式を用いて、色分解プロファイルの印刷条件において、CMYKデータを印刷した際に再現される色値(再現色値)Labを予測する。
【0038】
なお、目標とする工数以内に収まれば、通常のノイゲバウアの式に代えて、色材空間を多数のセルに細分化し、精度を向上したセル化ノイゲバウアの式を用いてもよい。勿論、ノイゲバウアの式に限らず、他の色予測手法によってプリンタモデルを構築してもよい。また、プリンタモデル部210は、色値Labの予測だけではなく、種々の画質評価項目を予測してもよい。
【0039】
しかし、色分解プロファイルの生成(プリンタモデルの構築)における工数の低減が目的であるから、目標工数に収まる範囲の評価によってプリンタモデルを構築する。例えば、カラーコンスタンシの評価値であるCIIはLab値を算出する過程で得られる分光反射率特性から計算可能であり、CIIをプリンタモデルの評価に使用することは好適である。
【0040】
プリンタモデル反転部211は、ニュートンの反復法によりプリンタモデル部210を繰り返し実行し、解を収束させることで、色分解プロファイルの印刷条件において、Lab値を再現可能なCMYKデータを予測する。ただし、解であるCMYKデータの次元数が、入力であるLab値の次元数よりも高いので、一意に解が収束しない場合がある。本実施例は、予め設定した合計色材量からCMYKの三変数を減算して、残るCMYKの一変数を求める。従って、実質的に入出力とも三変数にすることが可能で、反復法によってプリンタモデルを反転することが可能である。
【0041】
なお、プリンタモデルの反転手法は、ニュートンの反復法に限らず、種々の最適化手法、探索手法が適用可能である。例えばシンプレックス法や粒子群最適化手法などを用いてもよい。
【0042】
●プロファイル生成部
プロファイル生成部202は、生成条件入力部203(CPU1201が提供するUI)からのユーザ入力に従い色分解プロファイルを生成する。ユーザは、生成条件入力部203を操作して、色分解プロファイルの生成に必要な諸条件を入力する。本実施例においては、色分解プロファイル(3DLUT)の各格子点における合計色材量の最大値、生成する色分解プロファイルに対応するガンマ補正テーブルの情報、および、生成する色分解プロファイルの対象印刷媒体の種類を示す情報を入力する。
【0043】
頂点色分解決定部204は、生成条件である合計色材量の最大値と印刷媒体の種類に基づき、色分解プロファイルDB201から既存の色分解プロファイルを検索し、その3DLUTデータを取得する。検索する色分解プロファイルは、生成条件である合計色材量の最大値と印刷媒体の種類と類似する印刷条件を有する色分解プロファイルである。類似する複数の色分解プロファイルを検出した場合は、例えば、印刷媒体の種類、合計色材量の最大値の差、ガンマ補正テーブルの種類を考慮して、一つの色分解プロファイルを選択する。
【0044】
色分解プロファイルDB201に格納されている色分解プロファイルは、様々な条件設定により検索可能であることが望ましいが、ユーザが生成条件入力部203において色分解プロファイルを直接指定する方式でもよい。また、色分解プロファイルDB201外のサーバなどに存在する色分解プロファイルと色域データを、ユーザが生成条件入力部203を操作して指定してもよい。
【0045】
頂点色分解決定部204は、取得した3DLUTデータの合計色材量の最大値と、生成条件の合計色材量の最大値が異なる場合、生成条件の合計色材量の最大値に合致するように3DLUTの頂点格子点(以下、頂点)の色分解値(出力値)を調整する。3DLUTの頂点とは、入力値であるRGB値のうち少なくとも一つが最小値0または最大値255になる八頂点を指す。以降、この八頂点を下記のように呼ぶ。
K点 (R, G, B)=( 0, 0, 0)、
R点 (R, G, B)=(255, 0, 0)、
G点 (R, G, B)=( 0, 255, 0)、
B点 (R, G, B)=( 0, 0, 255)、
C点 (R, G, B)=( 0, 255, 255)、
M点 (R, G, B)=(255, 0, 255)、
Y点 (R, G, B)=( 0, 0, 255)、
W点 (R, G, B)=(255, 255, 255)
【0046】
頂点再現色予測部205は、頂点色分解決定部204が調整した八頂点の色分解値に対する再現色値Lab(目標色)を、プリンタモデル部210によって計算する。
【0047】
格子点目標色決定部206は、八頂点の目標値と、色分解プロファイルDB201から取得した既存の色分解プロファイルの色域データに基づき、生成する色分解プロファイル(3DLUT)の外郭面とグレイラインに相当する各格子点の目標色を決定する。なお、3DLUTの外郭面は色域の境界に対応する。
【0048】
目標色の決定は、既に目標色か色分解値が決定されている二つの格子点(両端点)を選択し、両端点の間に位置する中間格子点(以下、中間点)の目標色を決定する。まず、両端点と中間点の各格子点に対応する、既存の色分解プロファイルの格子点の再現色値を、既存の色分解プロファイルの色域データから抽出する。つまり、両端点と中間点と同一の入力値(RGB値)をもつ格子点の再現色値を取得する。
【0049】
次に、両端点と中間点の各格子点に対応する再現色値に、後述する移動・変形を任意順、任意回数、適用して、両端点に対応する再現色値がプリンタモデル部210によって計算した目標色に一致するように、再現色値を調整する。そして、調整後の中間点の再現色値を中間点の目標色にする。
【0050】
各点(両端点と中間点)に対応する再現色値の調整は、再現色値の並びによって表される曲線に下記の移動・変形を任意回数、施す。
(1) Lab空間における平行移動、
(2) 各点の明度値Lの相対的な間隔を維持した、L軸方向の伸縮、
(3) 各点の彩度値Cの相対的な間隔を維持した、C軸方向の伸縮、
(4) 各点の色相値Hの相対的な間隔を維持した、H軸方向の伸縮、
(5) 各点の相対的な位置を維持した、L軸を中心とする回転
【0051】
上記の調整により、両端点の目標色を維持し、既存の色分解プロファイルの色域境界の形状と相似の色域境界をもつ色分解プロファイルの目標色を決定することができる。勿論、既存の色分解プロファイルの色域境界の形状と相似の色域境界をもつ色分解プロファイルの目標色を生成することが可能であれば、再現色値の調整方法は上記に限るものではない。
【0052】
図4は新たな色分解プロファイルのC点-K点間の目標色を決定する調整をLC平面上で示す図である。頂点再現色予測部205によって、C点304、K点303の目標色が得られているとする。
【0053】
格子点目標色決定部206は、既存の色分解プロファイルの色域データから、C点304とK点303に対応するC点301とK点302の再現色値、および、C-K間の中間点に対応する、実線で示す再現色値の軌跡(曲線)305を取得する。次に、格子点目標色決定部206は、C点301とK点302を結ぶ曲線305に上記の変形・移動を任意回数施して、C点301がC点304に、K点302がK点303に一致するように曲線305を変形・移動する。図4に破線で示す曲線306は、調整後のC点304-K点303間の中間点の目標色を示す。
【0054】
格子点目標色決定部206は、生成する色分解プロファイル(3DLUT)の八頂点の色分解値に基づき、上記の調整を繰り返して、3DLUTの外郭面とグレイライン上の全格子点の目標色を決定する。
【0055】
格子点色分解決定部207は、プリンタモデル反転部211によって、格子点目標色決定部206が目標色を決定した格子点の色分解値CMYKを決定する。さらに、格子点色分解決定部207は、補間演算により、3DLUTの外殻面とグレイライン上の各格子点の色分解値から3DLUT内部の各格子点の色分解値を計算する。
【0056】
なお、3DLUT内の格子点の色分解値の決定は、当該格子点の目標色を格子点目標色決定部206により決定し、プリンタモデル反転部211を用いて色分解値を決定してもよい。また、3DLUTの各辺と外郭面の対角線上の格子点について目標色を決定し、プリンタモデル反転部211を用いて色分解値を決定し、外郭面上の残る格子点と3DLUT内の格子点の色分解値を補間演算によって計算してもよい。何れの方法を用いても、色域境界の形状が既存の色分解プロファイルの色域形状によって最適化される。
【0057】
プロファイル出力部208は、格子点色分解決定部207によって決定された3DLUTのデータを、所定形式で記述した色分解プロファイルをユーザが指定する出力先に出力する。色分解プロファイルの出力先はユーザ指示に従うが、同時に、生成した色分解プロファイルを色分解プロファイルDB201に登録してもよい。
【0058】
このように、既存の色分解プロファイルを参照して、生成する色分解プロファイルの各格子点の目標色を決定することにより、色域の形状と他の画質項目を考慮した色分解プロファイルを低工数で生成することができる。つまり、既存の色分解プロファイルの画質項目の特性を引き継いで、新たな色分解プロファイルを生成することができる。
【0059】
つまり、既存の色分解プロファイルの色域形状と相似の色域形状をもつ新しい色分解プロファイルを生成することができ、色材や印刷媒体などの印刷条件が充分に近ければ、既存の色分解プロファイルとほぼ同等の再現特性を有する色分解プロファイルが得られる。従って、既存の色分解プロファイルとして、色域と他の画質項目のバランスが充分に最適化されたものを使用することにより、工数を増大させることなく、良好な再現特性を有する色分解プロファイルを生成することが可能になる。
【実施例2】
【0060】
以下、本発明にかかる実施例2の色処理を説明する。なお、実施例2において、実施例1と略同様の構成については、同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0061】
以下では、CMYKに加えて、淡色材のフォトシアンLc、フォトマゼンタPm、グレイGyの計七色の色材を使用するプリンタ用の色分解プロファイルの生成を説明する。装置の構成は、実施例1と同様であるが、色分解処理は七色の色材に対応するデータを生成するように拡張されている。また、色変換部209も七色の色材に対応するように拡張されている。
【0062】
前述したように、出力信号の次元数が入力信号の次元数より高い場合、反転プリンタモデル(プリンタモデル反転部211)の解が一意に収束しないという問題がある。実施例2における反転プリンタモデルの出力値はCMYKLcLmGyであり、合計記色材量が設定されていることから実質的に六次元の出力であり、三次元の入力値(Lab値)に対する一意の解を得ることはできない。そのため、反転プリンタモデルの出力値のうち三値について何らかの値を与え、反転プリンタモデルの入力値と同じ三次元まで解空間を落とし込む必要がある。
【0063】
実施例2の格子点色分解決定部207は、プリンタモデル反転部211へLab値を入力するのに先立ち、固定値を与える色材の選択と、既存の色分解プロファイルの色分解値に基づき与える固定値の設定を行う。
【0064】
まず、中間格子点に対応する、既存の色分解プロファイルの格子点において使用されない色材(出力値=0)の色分解値に0を設定する。残る色材が五色以上(つまり四次元以上)の場合、既存の色分解プロファイルの濃色材(C、M、K)の出力値を評価する。そして、出力値が所定値以上(閾値以上)の濃色材に対応する淡色材Lc、Lm、Gyの色分解値に固定値を設定し、出力値が所定値未満の濃色材の色分解値に固定値を設定する。
【0065】
色分解値として与える固定値は、既に色分解値が決定されている近傍の格子点と比較して色分解値が急激に変化しないように、既存の色分解プロファイルの色分解値を調整して設定する。そのため、固定値は、格子点ごとに設定するのではなく、所定範囲の複数の格子点の固定値をまとめて設定することが望ましい。例えば、格子点目標色決定部206が選択した両端点と中間点の一部または全部を一括して固定値の設定を行うことで、両端点の間の色分解値のジャンプの発生を抑制することができる。
【0066】
以上の処理によって、格子点色分解決定部207は、プリンタモデル反転部211によって入力値を再現可能な色分解値を取得する。言い換えれば、既存の色分解プロファイルの色分解の特徴を引き継ぐように固定値を設定して、色分解プロファイルを生成することができる。
【0067】
このように、五色以上の色材を使用するプリンタ用の、既存の色分解プロファイルの画質項目の特性を引き継いだ、新たな色分解プロファイルを生成することができる。
【0068】
[変形例]
上記では、表色系にCIELabを用いる例を説明したが、他の表色系を用いても構わない。例えばCIEXYZ、CIELuv、CIECAM02などを利用してもよい。また、入力信号もsRGBに限らず、CMYK信号を入力として五色以上の色材量を示す色分解値を出力する色分解プロファイルを生成することも可能である。
【0069】
また、プリンタの記録方式は、複数色の色材を使用するものであればよく、色材ごとに製版を伴う各種の印刷方式でもよいし、インクジェット方式、電子写真方式、熱転写方式、ドットインパクト方式などの製版を伴わない記録方式でもよい。インクジェット方式においては、記録領域に対して記録ヘッドを縦横に走査するシリアル型でもよいし、記録領域の幅に合わせて記録ノズルを配置し、一方向にのみ走査を行うラインヘッド型でもよい。
【0070】
また、色分解プロファイルのデータベース、および/または、色分解プロファイルを生成するソフトウェアをサーバに搭載し、クライアントからの操作によってサーバが色分解プロファイルを生成してもよい。
【0071】
[他の実施例]
なお、本発明は、複数の機器(例えばコンピュータ、インタフェイス機器、リーダ、プリンタなど)から構成されるシステムに適用しても、一つの機器からなる装置(例えば、複写機、ファクシミリ装置、制御装置など)に適用してもよい。
【0072】
また、本発明の目的は、上記実施例の機能を実現するコンピュータプログラムを記録した記憶媒体をシステムまたは装置に供給し、そのシステムまたは装置のコンピュータ(CPUやMPU)が前記コンピュータプログラムを実行することでも達成される。この場合、記憶媒体から読み出されたソフトウェア自体が上記実施例の機能を実現することになり、そのコンピュータプログラムと、そのコンピュータプログラムを記憶する、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体は本発明を構成する。
【0073】
また、前記コンピュータプログラムの実行により上記機能が実現されるだけではない。つまり、そのコンピュータプログラムの指示により、コンピュータ上で稼働するオペレーティングシステム(OS)および/または第一の、第二の、第三の、…プログラムなどが実際の処理の一部または全部を行い、それによって上記機能が実現される場合も含む。
【0074】
また、前記コンピュータプログラムがコンピュータに接続された機能拡張カードやユニットなどのデバイスのメモリに書き込まれていてもよい。つまり、そのコンピュータプログラムの指示により、第一の、第二の、第三の、…デバイスのCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、それによって上記機能が実現される場合も含む。
【0075】
本発明を前記記憶媒体に適用する場合、その記憶媒体には、先に説明したフローチャートに対応または関連するコンピュータプログラムが格納される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例の印刷システムの構成例を示すブロック図、
【図2】ホスト装置の構成例を示すブロック図、
【図3】実施例における色分解プロファイルを生成する装置の構成例を示すブロック図、
【図4】新たな色分解プロファイルのC点-K点間の目標色を決定する調整をLC平面上で示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号値を、色材量を表す出力値に変換する色変換プロファイルを生成する色処理装置であって、
生成すべき色変換プロファイルの格子点の合計色材量を含む情報を入力する入力手段と、
前記入力した情報に基づき、前記生成すべき色変換プロファイルに類似する色変換プロファイルとその色域データを取得する取得手段と、
前記合計色材量に基づき、前記取得した色変換プロファイルの頂点格子点の出力値から、前記生成すべき色変換プロファイルの頂点格子点の出力値を決定する決定手段と、
前記決定した頂点格子点の出力値によって再現される色値を予測する予測手段と、
前記予測した頂点格子点の色値と前記色域データに基づき、前記生成すべき色変換プロファイルの前記頂点格子点の間に位置する中間格子点の色値を設定する設定手段と、
前記設定した中間格子点の色値を再現する前記中間格子点の出力値を決定し、前記頂点格子点および前記中間格子点の出力値から、前記生成すべき色変換プロファイルの格子点の出力値を計算する計算手段とを有することを特徴とする色処理装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記生成すべき色変換プロファイルの色域形状が前記取得した色変換プロファイルの色域形状と相似になるように、前記中間格子点の色値を設定することを特徴とする請求項1に記載された色処理装置。
【請求項3】
前記計算手段は、前記合計色材量を利用して前記出力値の次元数を低減し、反復法により、前記中間格子点の色値を再現する出力値を決定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された色処理装置。
【請求項4】
前記計算手段は、前記取得した色分解プロファイルの格子点の出力値が0の色材に相当する前記中間格子点の出力値に0を設定し、前記取得した色分解プロファイルの格子点の出力値が所定値以上の濃色材に対応する淡色材と、前記所定値未満の濃色材に相当する前記中間格子点の出力値に固定値を設定した後、前記合計色材量を利用して前記出力値の次元数を低減し、反復法により、前記中間格子点の色値を再現する出力値を決定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された色処理装置。
【請求項5】
前記計算手段は、前記頂点格子点および前記中間格子点の出力値に基づき、前記生成すべき色変換プロファイルの色域の外郭面に位置する格子点の出力値を計算することを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載された色処理装置。
【請求項6】
入力信号値を、色材量を表す出力値に変換する色変換プロファイルを生成する色処理方法であって、
生成すべき色変換プロファイルの格子点の合計色材量を含む情報を入力し、
前記入力した情報に基づき、前記生成すべき色変換プロファイルに類似する色変換プロファイルとその色域データを取得し、
前記合計色材量に基づき、前記取得した色変換プロファイルの頂点格子点の出力値から、前記生成すべき色変換プロファイルの頂点格子点の出力値を決定し、
前記決定した頂点格子点の出力値によって再現される色値を予測し、
前記予測した頂点格子点の色値と前記色域データに基づき、前記生成すべき色変換プロファイルの前記頂点格子点の間に位置する中間格子点の色値を設定し、
前記設定した中間格子点の色値を再現する前記中間格子点の出力値を決定し、前記頂点格子点および前記中間格子点の出力値から、前記生成すべき色変換プロファイルの格子点の出力値を計算することを特徴とする色処理方法。
【請求項7】
コンピュータ装置を制御して、請求項1から請求項5の何れか一項に記載された色処理を実行することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載されたコンピュータプログラムが記録されたことを特徴とするコンピュータが読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−147755(P2009−147755A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324012(P2007−324012)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】