説明

色収差補正方法および色収差補正可能な光学装置

【課題】少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を同一平面上に結像させる。
【解決手段】各光ファイバーの光出射端面を同一平面になるよう研磨した、7芯光ファイバー120を用い、7芯光ファイバー120の中心の光ファイバーのコア100の出射端面101から信号光1を出射させ、7芯光ファイバー120の周辺の光ファイバーのコア201の出射端面から信号1と波長の異なる制御光21を出射させ、信号光1は、信号光と制御光の波長の違いによる集光点のずれ、すなわち色収差を補正するための光学平板4に設けられた穴3を通過させ、制御光21は7芯光ファイバー120の出射端面に接触させて配置された光学平板4の穴3を避けて透過させ、信号光1と制御光21は、共通の結像のための光学手段としての集光レンズ5および6を通過し、熱レンズ形成素子7の光吸収層71の光入射側の同一平面上に結像される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信、光情報処理などの光エレクトロニクスおよびフォトニクスの分野において有用な、色収差補正方法および色収差が補正された光学装置に関するものである。特に、熱レンズ効果による屈折率の変化に基づいて光の偏向を行う熱レンズ方式の光路偏向方法および装置に係る色収差補正方法および色収差補正可能な光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱レンズ形成光素子に光を照射することで引き起こされる透過率変化や屈折率変化を利用し、直接、光で光の強度や周波数を変調する、全光型熱レンズ形成光素子や光制御方式の研究が盛んに行われている。本発明者らは、全光型光素子等による新たな情報処理技術の開発を目指して、有機色素凝集体をポリマーマトリックスに分散した有機ナノパーティクル光熱レンズ形成素子(非特許文献1参照)を用いて、光制御方式の研究を行って来た。現在、制御光(660nmおよび980nm)により信号光(780nmおよび1550nm)の変調を行う方式で、制御光と信号光を同軸・同焦点入射させることを特徴とし、制御光の吸収により過渡的に形成される熱レンズにより信号光が屈折されるという動作原理の素子を開発しており、約20ナノ秒の高速応答が達成されている。光応答性組成物からなる熱レンズ形成光素子に制御光を照射し、制御光とは異なる波長帯域にある信号光の透過率および/または屈折率を可逆的に変化させることにより前記熱レンズ形成光素子を透過する前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御方法であって、前記制御光および前記信号光を各々収束させて前記熱レンズ形成光素子へ照射し、かつ、前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点の近傍(ビームウエスト)の光子密度が最も高い領域が前記熱レンズ形成光素子中において互いに重なり合うように前記制御光および前記信号光の光路を調整することを特徴とする光制御方法が開示されている(特許文献1から特許文献7参照)。光応答性組成物からなる熱レンズ形成光素子に、互いに波長の異なる制御光および信号光を照射し、前記制御光の波長は前記光応答性組成物が吸収する波長帯域から選ばれるものとし、前記光応答性組成物が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に発生する温度上昇に起因する密度変化の分布に基づいた熱レンズを可逆的に形成させ、前記熱レンズを透過する信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御方法が開示されている(特許文献8参照)。そして、上記熱レンズ形成光素子として例えば色素/樹脂膜や色素溶液膜が用いられ、制御光のパワー2ないし25mWにおける制御光照射に対する信号光の応答時間は、2マイクロ秒未満と記載されている(特許文献8参照)。これらの方法は光で光を制御する点で優れ、かつ高速応答も可能であるが、制御光照射時に形成され光束形状がドーナツ型になり、そのために光ファイバーへの結合効率が小さいという問題がある。
【0003】
上記問題を解決する方法として、本発明者等は、光吸収層を含む熱レンズ形成光素子中の光吸収層に、制御光と信号光とを前記光吸収層にて収束するように照射し、かつ前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が光軸に対して垂直方向で相異なるように照射され、前記制御光と前記信号光は、光の進行方向で前記光吸収層の入射面またはその内部において収束したのち拡散することによって、前記光吸収層内における前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に形成される熱レンズにより、屈折率が変化して、前記信号光の進行方向を変える(偏向させる)方法(特願2006−46027号)、前記制御光が照射されず進行方向が変わらなかった信号光と、前記制御光が照射され進行方向が変えられた(偏向した)信号光とを、分離して検出することを特徴とする光路切替方法(特願2006−46028号および特願2006−46029号)を出願している。この方法では、進行方向が変えられた(偏向した)信号光の光束形状がドーナツ型にならず、元の光束形状に近いので光ファイバーへの結合効率が小さいという課題は解消される。特願2006−46027号、特願2006−46028号、および、特願2006−46029号では、信号光および制御光の入射方法として、1つのフェルールに複数の光ファイバーを近接して並べる方法を開示している。しかし、用いるレンズが色収差補正をしてない場合は、信号光の波長(例えば1550nm)と制御光の波長(例えば980nm)が異なるため、熱レンズ形成光素子中の光吸収層に集光した集光点が異なり、信号光の偏向量を大きくできない、偏向した信号光形状がコマ収差を起こしたような形状になり、検出に用いた光ファイバーへの結合効率が悪くなるという課題が生じた。
【0004】
ここで熱レンズ効果とは、光吸収の中心部分において光を吸収した分子などが光を熱に変換し、この熱が周囲に伝搬されることにより温度分布が生じ、その結果、光透過媒体の屈折率が光吸収中心から外部へ向けて球状に変化して光吸収中心の屈折率が低く外部へ向けて屈折率が高くなる分布を生じ、これが凹レンズのように機能するような光の屈折効果を示す。熱レンズ効果は分光分析の分野で古くから利用されており、現在では分子1個による光吸収をも検出するような超高感度分光分析も可能になっている(非特許文献2および非特許文献3参照)。
【0005】
【非特許文献1】平賀隆、田中教雄、早水紀久子、守谷哲郎著、色素会合体・凝集体の作成・構造評価・光物性、「電子技術総合研究所彙報」、通商産業省工業技術院電子技術総合研究所発行、第59巻、第2号、29−49頁(1994年)
【非特許文献2】藤原祺多夫、不破敬一郎、小林孝嘉著、レーザ誘起熱レンズ効果とその比色法への応用、「化学」、化学同人発行、第36巻、第6号、432−438頁(1981年)
【非特許文献3】北森武彦、澤田嗣郎著、光熱変換分光分析法、「ぶんせき」、日本分析化学会発行、1994年3月号、178−187頁
【特許文献1】特開平8−286220号公報
【特許文献2】特開平8−320535号公報
【特許文献3】特開平8−320536号公報
【特許文献4】特開平9−329816号公報
【特許文献5】特開平10−90733号公報
【特許文献6】特開平10−90734号公報
【特許文献7】特開平10−148852号公報
【特許文献8】特開平10−148853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を、同一面上に配置された各々の出射領域からそれぞれ出射させ、非球面単レンズを用いて収束させるとき、前記非球面単レンズが色収差補正をしていなくとも、前記少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を同一平面上に結像させることを目的とする。
【0007】
本発明は、また、近接して出射する波長の異なる複数の光を、同一の色収差補正が十分でない安価な光学系を用いて熱レンズ形成素子に集光する場合に、色収差により生じる熱レンズ素子での集光点の違いを補正し、制御光による信号光の偏向角度を大きくし、かつ偏向した信号光のビーム形状を悪くせず、ビーム断面におけるエネルギー分布をガウス分布状態に保つことを目的とする。これにより、小型で安価な光学系で、複雑で高価な電気回路や機械的可動部品を用いずに光偏向を可能とすることができるとともに、故障が極めて少なく、耐久性の高い、偏波依存性の極めて少ない、信号光の光強度減衰が少なく、小さい制御光パワーにより偏向角度を大きく調整することができ、調整が容易で動作の安定した、光偏向方法および光偏向装置および消光比の高い1入力複数出力が可能な小型な光路切替装置および光路切替方法を提供することも可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の特徴を有する。
【0009】
(1)少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を、同一面上に配置された各々の出射領域からそれぞれ出射させ、前記2つ以上の光の少なくとも1つは前記2つ以上の光の波長毎に厚みtの定まった光学平板を通過させて実質的光路長を補正し、
前記2つ以上の光に共通の、結像のための光学手段を通過させて前記2つ以上の光を同一面上に結像させる色収差補正方法である。
【0010】
(2)少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を、同一面上に配置された各々の出射領域からそれぞれ出射させる光源と、
前記2つ以上の光の少なくとも1つの出射領域に隣接ないし接して設けられた、前記2つ以上の光の波長毎に実質的光路長を補正するための厚みtの定まった光学平板と、
前記2つ以上の光に共通の、前記2つ以上の光を同一面上に結像させるための光学手段と、を少なくとも備えることを特徴とする色収差補正可能な光学装置である。
【0011】
(3)前記(1)の色収差補正方法であって、さらに、前記光学平板の厚さtが、以下の式〔1〕で表される。
【0012】
t≦(d−c)/2N …〔1〕
(ここで、cは前記出射領域を円形に近似したときの平均直径、dは円形に近似した前記出射領域間の平均距離、Nは前記出射領域から出射する光の開口数である。)
【0013】
(4)前記(2)の色収差が補正された光学装置であって、さらに、前記光学平板の厚さtが、以下の式〔1〕で表される。
【0014】
t≦(d−c)/2N …〔1〕
(ここで、cは前記出射領域を円形に近似したときの平均直径、dは円形に近似した前記出射領域間の平均距離、Nは前記出射領域から出射する光の開口数である。)
【0015】
(5)前記(1)または(3)に記載の色収差補正方法であって、さらに、少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を各々出射させる、同一面上に配置された出射領域が、各々の端面が同一面上に配置されて束ねられたコア・クラッド構造の複数の光ファイバーのコアである。
【0016】
(6)前記(2)または(4)に記載の色収差補正可能な光学装置であって、さらに、少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を各々出射させる、同一面上に配置された出射領域が、各々の端面が同一面上に配置されて束ねられたコア・クラッド構造の複数の光ファイバーのコアである。
【0017】
(7)少なくとも光吸収層を含む熱レンズ形成光素子中の光吸収層に、制御光と信号光とを入射させ、
前記制御光および前記信号光は、前記光吸収層またはその近辺にて収束するように照射されかつ前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が相異なるように照射され、
前記制御光の波長と前記信号光の波長を異ならせ、前記制御光の波長は前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれ、前記信号光の波長は前記光吸収層が吸収しない波長帯域から選ばれ、
前記制御光と前記信号光は、前記光吸収層内における前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に形成される熱レンズにより、屈折率が変化して、前記信号光の進行方向を変えることを特徴とする光偏向方法において、
さらに、前記制御光および前記信号光を、同一面上に配置された各々の出射領域からそれぞれ出射させ、前記制御光および前記信号光の少なくとも1つは前記制御光および前記信号光の光の波長毎に厚みtの定まった光学平板を通過させて実質的光路長を補正し、
前記制御光および前記信号光に共通の、結像のための光学手段を通過させて前記制御光および前記信号光を同一面上に結像させることを特徴とする色収差補正方法である。
【0018】
(8)1種類以上の波長の信号光を出射する領域と、
前記信号光の出射領域と同一平面に設けられた、
前記信号光とは異なる波長の制御光を出射する領域と、
前記信号光は透過し、前記制御光を選択的に吸収する光吸収層を含む熱レンズ形成光素子と、
前記光吸収層またはその近辺に前記制御光と前記信号光とを各々収束点を異ならせて集光させる集光手段と、を有し、
前記熱レンズ形成光素子は、前記制御光と前記信号光が、前記光吸収層内における前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に形成される熱レンズにより、屈折率が変化して、前記信号光の進行方向を変えることを特徴とする光偏向装置であって、
さらに、実質的光路長を補正するため、前記制御光および前記信号光の光の波長毎に厚みtの定まった光学平板を、
前記制御光および前記信号光の少なくとも1つを通過させる位置に設けることを特徴とする色収差補正可能な光学装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を、同一平面上に配置された各々の出射領域からそれぞれ出射させ、非球面単レンズを用いて収束させるとき、前記非球面単レンズが色収差補正をしていなくとも、前記少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を同一平面上に結像させることができる。
【0020】
本発明によれば、また、波長の異なる複数の信号光と制御光を、同一平面上に配置された各々の出射領域からそれぞれ出射させ、非球面単レンズを用いて収束させるとき、前記非球面単レンズが色収差補正をしていなくとも、同一平面に集光して照射することが可能となり、制御光の照射により生じた屈折率の変化を効率良く信号光に及ぼすことができ、また、偏向した信号光の形状を悪化させずに低パワーで偏向が可能となる。また、信号光の偏向を利用した光路切替が可能となる。さらに、偏向された信号光は、集光前のビーム断面と同じ形状で熱レンズ形成光素子より出力され、細密状に並べた光ファイバーに入射して取り出すことができるので、小型で複数の方向に光路を切り替える光スイッチが可能となる。また、低パワーの半導体レーザを用いることができるので、小型で安価な装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、本実施の形態では、「色収差」は、特に1つの色から他の色への光軸上での像点位置の差、軸上色収差をいう。
【0022】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る色収差補正可能な光偏向型光路切替装置の概略構成図である。ここで、光は、光の進行方向1001に沿って進行する。
【0023】
また、図3aに、7芯光ファイバー120の7芯光ファイバー120の出射側端面を模式的に示す。
【0024】
さらに、図5に、7芯光ファイバー120の光出射側端面から出射する信号光1および制御光21の拡がりを模式的に示す。
【0025】
図1,図3aおよび図5において、少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を、同一面上に配置された各々の出射領域からそれぞれ出射させる光源として、2本以上のシングルモード光ファイバーを束ね、各光ファイバーの光出射端面を同一平面になるよう研磨した、7芯光ファイバー120を用い、各光ファイバーのコアを前記の出射領域とし、7芯光ファイバー120の中心の光ファイバーのコア100の出射端面101から信号光1を出射させ、7芯光ファイバー120の周辺の光ファイバーのコア201出射端面から制御光21を出射させ、信号光1と制御光21は異なる波長とし、信号光1は、信号光と制御光の波長の違いによる集光点のずれ、すなわち色収差を補正するための光学平板4に設けられた穴3を通過するようにし、制御光21は7芯光ファイバー120の出射端面に接触させて配置された光学平板4を、穴3を避けて透過するようにし、信号光1と制御光21は共通の、結像のための光学手段としての集光レンズ5および6を通過し、熱レンズ形成素子7の光吸収層71またはその近辺の同一平面上に結像される。熱レンズ形成素子7の光吸収層71は信号光1の波長を吸収せず、制御光21の波長は吸収するような光吸収スペクトル特性を有するものを用いるものとする。制御光21が照射されない場合、信号光1は熱レンズ形成素子7を直進し、制御光21が照射される場合、熱レンズ形成素子7の光吸収層71が制御光21を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇にともなう屈折率変化、すなわち、温度が高い領域ほど屈折率が小さくなる屈折率分布(これを熱レンズ効果という)によって、信号光1は光路が偏向され、光路偏向された信号光2として出射する。
【0026】
7芯光ファイバー120としては、屈折率の異なる2種類の石英ガラスからなるコアおよびクラッドで構成されるシングルモード光ファイバー7本の一端を束ね、フェルール121の穴に挿入し、接着剤122で固定し、光ファイバー7本の出射端面を揃えて同一平面になるよう研磨したものであって、例えば、中心コア100および周辺コア201,202,203,204,205および206の直径はすべて9.5μm、中心クラッド110および周辺クラッド211,212,213,214,215および216の直径はすべて39.0μmのものを用いた。この場合、中心コア100と、周辺コア201,202,203,204,205または206のコア中心間距離は39.0μmであり、また、隣接する周辺コアの中心間距離も39.0μmである。
【0027】
7芯光ファイバー120を構成する7本のシングルモード光ファイバーはコア直径9.5μmのシングルモード石英光ファイバーのクラッド層をフッ酸で所望の太さにエッチングして用いた。エッチングする部分は、光ファイバーの先端数mmとした。エッチングした後の光ファイバーの太さは、光吸収層71に収束(集光)した信号光と制御光の収束(集光)点の光軸に直角方向の所望の距離から算出した。本実施の形態では、エッチングした後の光ファイバーの直径を39.0μmとした。
【0028】
7芯光ファイバー120の束ねられていない片方の末端(図示せず)は、7本とも独立しており、クラッドの直径はいずれも125μmであり、中心の光ファイバーは信号光1の光源1基(図示せず)へ、周辺の光ファイバー6本は、各々、制御光21〜26の光源6基(図示せず)に接続される。
【0029】
信号光1の光源としては、例えば、発振波長1550nm、出力1ないし20mWの半導体レーザを1つ用いた。
【0030】
制御光21〜26の光源としては、例えば、発振波長980nm、出力10ないし20mWの半導体レーザを最大6基用いた。制御光の光源の数は用途に応じて、1ないし6の範囲で任意に選択される。
【0031】
なお、信号光および制御光の波長および出力には、特に制限はなく、用途に応じて入手可能なものを任意に選択して使用することができる。
【0032】
熱レンズ形成素子7としては、直径10mm厚さ1mmの石英ガラスの丸板に直径10mm内径8mmのリング状石英ガラスを溶融・接着したものを精密研磨して、厚さ500μmの液膜を保持できるように加工したものへ、後述の色素溶液を入れ、もう1枚の直径10mm厚さ1mmの石英ガラスを紫外線硬化樹脂で接着したものを用いた。
【0033】
熱レンズ形成素子7の光吸収層71としては、例えば、赤外線吸収シアニン色素の8-[2-Chloro-3-(2,4-diphenyl-6,7-dihydro-5H-chromone-8-ylmethylene)-cyclohex-1-enylmethylene]-2,4-diphenyl-5,6,7,8-tetorahydro-chromenylium perchlorateを1,2-ジクロロベンゼンに0.2重量%で溶解させたものを、セルギャップ500μmの前記石英セルに充填して用いた。
【0034】
熱レンズ形成光素子7の光吸収層で制御光が吸収されると、光吸収層の温度が上昇し、屈折率が変わる。温度が上昇するので、一般に屈折率は下がる方向に変化する。通常のレーザ光源から出射するレーザ光、および、通常のレーザ光源から出射し光ファイバーを透過してきたレーザ光の強度分布はガウス分布である。また、前記レーザ光をレンズ等で集光した光もガウス分布をしている。よって、制御光が照射された光吸収層での屈折率分布は、制御光の光軸で屈折率が一番低下し、制御光の周辺では屈折率の低下が少なくなる。また、熱伝導があるので、光の照射されていない部分でも屈折率が変化する。さらに、集光して入射させているので、集光点の近辺での屈折率の変化が大きい。信号光は制御光に近接して入射するので、信号光は制御光による屈折率の変化の影響で偏向する(進行方向が曲がる)。偏向角は、制御光の強さにほぼ比例して変化する。
【0035】
集光レンズ5および6としては、ともに、焦点距離2mmの非球面レンズを用いた。本実施の形態では、集光(結像)倍率は、1とした。集光レンズ5および6の代わりに1つの単レンズを用いても良い。いずれにしても、屈折率の異なる凸レンズと凹レンズを複数枚数組み合わせた大がかりな、色収差補正レンズを用いない限り、レンズ構成材料の屈折率波長分散により、波長が短い光ほど焦光点は近く、波長が長い光ほど焦光点は遠くなる、という色収差が発生することを避けることはできない。本実施の形態でも、焦点距離2mmの第1のレンズ5と焦点距離2mmの第2のレンズ6で、同一面から出射する波長1550nmの信号光と波長980nmの制御光を熱レンズ形成光学素子7の光吸収層71またはその近辺に集光しているが、信号光と制御光の集光点は光の進行方向で約50μmずれてしまう。もし、焦点距離2mmの1枚のレンズで集光したとすると、ずれ量はこの約2倍になってしまう。信号光と制御光とで、このような集光点位置ずれが生じると、制御光の集光点の近辺では信号光は未だ集光しきれず拡がっており、信号光に対する屈折率の影響が光軸に垂直な断面位置により異なり、信号光分布がガウス分布から大きくはずれてしまう。その結果、全体として偏向効率が悪くなってしまう。
【0036】
そこで、本実施の形態では、信号光1は、信号光と制御光の波長の違いによる集光点のずれ、すなわち色収差を補正するための光学平板4に設けられた穴3を通過するようにし、制御光21は7芯光ファイバー120の出射端面に接触させて配置された光学平板4を、穴3を避けて透過するようにした。穴3は、コア100の光出射端面101から出射する信号光1の開口角に合わせて、テーパー状にすることが好ましい。また、光学平板4に穴3を加工する方法としては、サンドブラスト法、エキシマーレーザーアブレーション法などが好適に用いられるが、いずれの場合も、径が一定の穴を開けるよりも、テーパー状の穴を開ける方が加工が容易である。因みに、フッ化アルゴン(ArF)のエキシマレーザーを用いると、直径数μmの穴を開けることもできる。
【0037】
図4に光学平板4に設けられたテーパー付き穴3と7芯光ファイバー120の出射側端面の位置関係を示す。言うまでもなく、テーパー付き穴3は、7芯光ファイバー120の出射側端面に隣接する穴30が小さく、光学平板4の出射側の穴31が大きい。7芯光ファイバー120のコア直径が9.5μm、クラッド直径が39.0μmであることから、穴30の直径は10〜20μm、穴31の直径は40μm程度が好ましい。このようなテーパー状穴3と拡がりながら出射する信号光1とが干渉しないようにするためには、光学平板4の厚さtを、以下の式〔1〕を満たすように設定すれば良い。
【0038】
t≦(d−c)/2N …〔1〕
(ここで、cは前記出射領域を円形に近似したときの平均直径[光ファイバーのコア直径]、dは円形に近似した前記出射領域間の平均距離[隣接コア間距離]、Nは前記出射領域[コア]から出射する光の開口数である。)
【0039】
シングルモード光ファイバーの開口数Nは、通常、約0.11である。従って、本実施の形態において、dを39.0μm、cを9.5μmとすると、tは134μm以下であれば良い。
【0040】
一方、前記の色収差(信号光と制御光の集光点は光の進行方向で約50μm)を補正するために必要な光学平板4の厚さtは、光学平板4の材質として、波長980nmでの屈折率1.883という高屈折率のものを用いた場合、100μmで良い。この値は、上記の式〔1〕も満足する。言うまでもなく、制御光(980nm)に対する色収差補正効果を最大にするためには、信号光(1550nm)を屈折率1の空気(穴3)を通過させるのが好適である。
【0041】
用いたシングルモード光ファイバーのコア径は9.5μmで点光源と見なせる。用いたシングルモード光ファイバーの開口数は約0.11であるので、光ファイバー120のコア100からの信号光1は、色収差補正のための光学平板4を光ファイバー120の光出射端面に密着させると、光学平板4の出射面(光ファイバーの反対側の面)での信号光太さは約30μmとなる。前述のように光学平板4の出射面には約40μmの穴を開けているので、信号光1は光学平板4と干渉することなく、穴3を通過することができる。
【0042】
図5に示すように、信号光は、コア100の出射端面101から光学平板4の穴を通過して、空気中に直接出射する。一方、制御光21は、コア201の端面2011からコア材料よりも高屈折率の光学平板4を通過した後、光学平板4の出射面2112から空気中に出射される。従って、制御光は空気よりも高屈折率の光学平板4を通過する結果、見かけ上は約50μm光の進行方向に進んだところから出射したようになり、前記の色収差(信号光と制御光の集光点は光の進行方向で約50μm)は補正される。
【0043】
制御光22〜26についても、制御光21と全く同様にして、色収差が補正される。
【0044】
(第2の実施の形態)
図2は本発明の第2の実施の形態に係る光偏向型光路切替装置の概略構成図である。
【0045】
本発明の第2の実施の形態において、第1の実施の形態と同じ光学部材については、同一の番号を付けた。図2において、第1の実施の形態と異なるのは、熱レンズ素子7を通過した信号光を集光レンズ8および9によって受光し、コリメートした後、受光側光ファイバー130へ入射させていることである。その他の構成は第1の実施形態と同様である。レンズ8は焦点距離2mmの非球面レンズ、レンズ9は焦点距離2.75mmの非球面レンズを用いた。本実施の形態では、2つのレンズで信号光を収束(集光)させたが、1つのレンズで収束(集光)させるようにしても良いことは言うまでもない。焦点距離は2mmおよび2.75mmである必要はないが、小型化にすることと、7芯光ファイバー130の受光側端面に入射する信号光の分離と入射効率の関係から前述の焦点距離のものを用いることとした。
【0046】
図3aは図2のA−A’線に沿った断面図であり、7芯光ファイバー120の光出射側端面を模式的に表している。
【0047】
また、図3bは図2のB−B’’線に沿った断面図であり、7芯光ファイバー130の受光側端面を模式的に表している。
【0048】
7芯光ファイバー120の中心コア100からは信号光1が出射し、制御光21〜26が照射されない場合、信号光1は集光レンズ5および6、熱レンズ形成素子7、集光レンズ8および9を直進し、7芯光ファイバー130の中心コア300へ入射する。このような7芯光ファイバー130の任意のコアへの入射は、7芯光ファイバー130の出射側末端(図示せず;独立して存在)の各々に光検出器を設けることで検知することができる。7芯光ファイバー130を用いず、直接、光検出器を設置しても良いことは言うまでもない。
【0049】
受光側光ファイバー130のコア300〜306への選択的入射の調整は、直進信号光1を検出するコア300の位置調整をまず行い、その後、制御光21および22の制御光パワーを調整して例えばコア301への入射効率向上をはかった。7芯光ファイバーの光出射側と受光側で中心コア100および300の中心を回転軸として、回転方向にずれが生じていると、制御光が1つしか入射しない場合は、受光側コアへの入射が十分にできない。光軸に直角方向のずれは、制御光の強度を変えることで調整できるが、回転方向の調整ができない。よって、受光側コアへの入射の調整は、次のように行った。
【0050】
1.まず、光照射側7芯光ファイバー120と受光側7芯光ファイバーとの上下左右の位置、および中心コア100および300の中心を中心にした回転方向の位置を、粗く合わせる。
【0051】
2.次に、制御光を照射せず、出射側7芯光ファイバー120の中心コア100から出射する直進信号光1を受光側7芯光ファイバー130の中心コア300で完全に受光できるよう、受光側7芯光ファイバー130の位置を3軸方向に動かし、微調整する。
【0052】
3.次いで、出射側7芯光ファイバー120の周辺コアの1つ、例えばコア201から制御光21を出射させ、出射側7芯光ファイバー120の中心コア100から出射する信号光1の光路を偏向させ、受光側7芯光ファイバー130を中心コア300の中心軸を回転の中心として回転させ、偏向された信号光221が、受光側7芯光ファイバー130の周辺コアの1つ、例えばコア301で完全に受光できるよう精密に調整する。次いで、制御光21を消灯し、出射側7芯光ファイバー120の周辺コア202から制御光22を出射させ、その光強度を微調整することによって、偏向された信号光222を受光側7芯光ファイバー130の周辺コア302で完全に受光できるよう調整する。7芯光ファイバー120および130の加工精度の関係で、制御光22の強度のみで、上記コア302での信号光受光が完全に行えない場合は、制御光22の出射するコア202に隣接する周辺コア201または203からも制御光21または23を(制御光22よりも弱い強度で)出射させ、上記コア302で信号光を完全に受光できるよう微調整する。以下、同様にして、制御光23〜26の照射によって、信号光が受光側7芯光ファイバー130の周辺コア303〜306で各々完全に受光できるよう調整する。
【0053】
以上、本実施の形態で述べたように、信号光1は、信号光と制御光の波長の違いによる集光点のずれ、すなわち色収差を補正するための光学平板4に設けられた穴3を通過するようにし、制御光21〜26は7芯光ファイバー120の出射端面に接触させて配置された光学平板4を、穴3を避けて透過するようにすることで、出射側7芯光ファイバー120の中心コア100から出射する信号光1の光路を偏向させ、受光側7芯光ファイバー130の周辺コア303〜306で各々完全に受光できるよう調整することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、光通信分野および光情報処理分野において有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光偏向型光路切替装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る光偏向型光路切替装置の概略構成図である。
【図3a】図2のA−A’線に沿った断面図であり、7芯光ファイバー120の光出射側端面を模式的に表す図である。
【図3b】図2のB−B’線に沿った断面図であり、7芯光ファイバー130の受光側端面を模式的に表す図である。
【図4】光学平板4に設けられたテーパー付き穴3と7芯光ファイバー120の出射側端面の位置関係を表す図である。
【図5】図4のC−C’線に沿った断面図であり、7芯光ファイバー120の光出射側端面から出射する信号光1および制御光21の拡がりを模式的に表す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 7芯光ファイバー120の中心コア100から出射した信号光、2 熱レンズ形成素子7によって光路偏向された信号光、3 光学平板4に設けられた穴、4 光学平板、5,6 集光レンズ、7 熱レンズ形成素子、8,9 集光レンズ、21,22,23,24,25,26 7芯光ファイバー120の周辺コア201、202、203、204、205および206から各々出射した制御光、30 テーパー状の穴(小)、31 テーパー状の穴(大)、71 光吸収層、100 7芯光ファイバー120の中心コア、101 コア100の出射端面、110 7芯光ファイバー120の中心クラッド、120 光出射側の7芯光ファイバー、121 7芯光ファイバー120のフェルール、122 接着剤、130 受光側の7芯光ファイバー、131 7芯光ファイバー130のフェルール、132 接着剤、201,202,203,204,205,206 7芯光ファイバー120の周辺コア、211,212,213,214,215,216 7芯光ファイバー120の周辺クラッド、221,222 熱レンズ形成素子7によって光路偏向された信号光、300 7芯光ファイバー130の中心コア、301,302,303,304,305,306 7芯光ファイバー130の周辺コア、310 7芯光ファイバー130の中心クラッド、311,312,313,314,315,316 7芯光ファイバー130の周辺クラッド、1001 光の進行方向、2011 7芯光ファイバー120の周辺クラッド201の出射端面、2112 光学平板4から出射する制御光21の出射面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を、同一面上に配置された各々の出射領域からそれぞれ出射させ、前記2つ以上の光の少なくとも1つは前記2つ以上の光の波長毎に厚みtの定まった光学平板を通過させて実質的光路長を補正し、
前記2つ以上の光に共通の、結像のための光学手段を通過させて前記2つ以上の光を同一面上に結像させることを特徴とする色収差補正方法。
【請求項2】
少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を、同一面上に配置された各々の出射領域からそれぞれ出射させる光源と、
前記2つ以上の光の少なくとも1つの出射領域に隣接ないし接して設けられた、前記2つ以上の光の波長毎に実質的光路長を補正するための厚みtの定まった光学平板と、
前記2つ以上の光に共通の、前記2つ以上の光を同一面上に結像させるための光学手段と、を少なくとも備えることを特徴とする色収差補正可能な光学装置。
【請求項3】
さらに、前記光学平板の厚さtが、以下の式〔1〕で表されることを特徴とする請求項1に記載の色収差補正方法。
t≦(d−c)/2N …〔1〕
(ここで、cは前記出射領域を円形に近似したときの平均直径、dは円形に近似した前記出射領域間の平均距離、Nは前記出射領域から出射する光の開口数である。)
【請求項4】
さらに、前記光学平板の厚さtが、以下の式〔1〕で表されることを特徴とする請求項2に記載の色収差補正可能な光学装置。
t≦(d−c)/2N …〔1〕
(ここで、cは前記出射領域を円形に近似したときの平均直径、dは円形に近似した前記出射領域間の平均距離、Nは前記出射領域から出射する光の開口数である。)
【請求項5】
少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を各々出射させる、同一面上に配置された出射領域が、各々の端面が同一面上に配置されて束ねられたコア・クラッド構造の複数の光ファイバーのコアであることを特徴とする請求項1または請求項3に記載の色収差補正方法。
【請求項6】
少なくとも1つの波長が異なる2つ以上の光を各々出射させる、同一面上に配置された出射領域が、各々の端面が同一面上に配置されて束ねられたコア・クラッド構造の複数の光ファイバーのコアであることを特徴とする請求項2または請求項4に記載の色収差補正可能な光学装置。
【請求項7】
少なくとも光吸収層を含む熱レンズ形成光素子中の光吸収層に、制御光と信号光とを入射させ、
前記制御光および前記信号光は、前記光吸収層またはその近辺にて収束するように照射されかつ前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が相異なるように照射され、
前記制御光の波長と前記信号光の波長を異ならせ、前記制御光の波長は前記光吸収層が吸収する波長帯域から選ばれ、前記信号光の波長は前記光吸収層が吸収しない波長帯域から選ばれ、
前記制御光と前記信号光は、前記光吸収層内における前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に形成される熱レンズにより、屈折率が変化して、前記信号光の進行方向を変えることを特徴とする光偏向方法において、
さらに、前記制御光および前記信号光を、同一面上に配置された各々の出射領域からそれぞれ出射させ、前記制御光および前記信号光の少なくとも1つは前記制御光および前記信号光の光の波長毎に厚みtの定まった光学平板を通過させて実質的光路長を補正し、
前記制御光および前記信号光に共通の、結像のための光学手段を通過させて前記制御光および前記信号光を同一面上に結像させることを特徴とする色収差補正方法。
【請求項8】
1種類以上の波長の信号光を出射する領域と、
前記信号光の出射領域と同一平面に設けられた、
前記信号光とは異なる波長の制御光を出射する領域と、
前記信号光は透過し、前記制御光を選択的に吸収する光吸収層を含む熱レンズ形成光素子と、
前記光吸収層またはその近辺に前記制御光と前記信号光とを各々収束点を異ならせて集光させる集光手段と、を有し、
前記熱レンズ形成光素子は、前記制御光と前記信号光が、前記光吸収層内における前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に形成される熱レンズにより、屈折率が変化して、前記信号光の進行方向を変えることを特徴とする光偏向装置であって、
さらに、実質的光路長を補正するため、前記制御光および前記信号光の光の波長毎に厚みtの定まった光学平板を、
前記制御光および前記信号光の少なくとも1つを通過させる位置に設けることを特徴とする色収差補正可能な光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−83094(P2008−83094A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259704(P2006−259704)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】