説明

色素増感型太陽電池およびその製造方法

【課題】温度が大きく変動しても電解液を揮発させることなく確実に封止するとともに、外気の酸素や水分が侵入して電解液が変質することを防止できる色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】第一ガラス基板21には、負極11と正極12との間に電解液14を充填するための注入口31が形成されている。注入口31には、ガラスを主体として形成された栓32が融着され、注入口31が封止されている。栓32は、注入口31が形成されている部材、即ち第一ガラス基板21を形成するガラス材料に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスを主体として形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、色素増感型太陽電池およびその製造方法に関し、詳しくは、電解液の注入口の封止に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、太陽光などの光エネルギーを有効に利用する手段の1つとして、光エネルギーを電気エネルギーに直接変換する太陽電池が広く用いられている。この太陽電池は、シリコンの多結晶、または単結晶を用いたシリコン型太陽電池が良く知られており、すでに住宅用の電力供給用から電卓等の微弱電力用電源として利用されている。
【0003】
しかしながら、こうしたシリコン型太陽電池の製造にあたって必須となるシリコンの単結晶や多結晶、あるいはアモルファスシリコンを製造するためには、シリコン高純度化でのプロセスや高温での溶融プロセスを必要とするために多大なエネルギーを消費する。このため、シリコン型太陽電池を製造するために費やしたエネルギー量の総和が、この太陽電池の発電可能期間に発電できる総発電エネルギー量よりも大きいという危惧が出ている。
【0004】
このようなシリコン型太陽電池の課題を解決する太陽電池として、近年、色素増感型太陽電池が注目されている。色素増感型太陽電池は、スイスのミカエル・グレツェルらがその基礎となる構造を開発したもので、光電変換効率が高く、かつ、シリコン型太陽電池のように単結晶シリコンなどの製造に多大なエネルギーを消費する材料が必要ではないため、太陽電池を作製するためのエネルギーも桁違いに少なく、且つ低コストで量産が可能なものであり、その普及が期待される。
【0005】
従来の色素増感型太陽電池は、例えば以下の作製方法によって得られる。即ち、例えばガラスからなる基板の一面に透明導電膜を形成する。そして、この透明導電膜に重ねて、Ag,Cu,Ni等の金属からなる集電用配線を所定の配線パターンで形成する。さらに、この集電用配線を覆う絶縁性の被覆層と酸化チタン膜とを形成し、酸化チタン膜に色素を吸着させる。そして、逆電子移動防止用にカルボン酸や有機金属塩等で処理することにより、負極(電極)が得られる。一方、透明導電膜を形成したガラス基板に、蒸着法、熱分解法、電界メッキ等などの方法でPt膜を形成することで正極(電極)が得られる。この負極と正極とを対面させて、周縁部に封止部を形成する。そして、この封止部によって負極と正極とを周縁部で接着、封止する。その後、負極と正極との間に電解液を充填することで、色素増感型太陽電池が得られる。
【0006】
このようなプロセスで作製される色素増感型太陽電池において、負極と正極との間に電解液を充填する工程では、負極を構成する第一ガラス基板、正極を構成する第二ガラス基板、封止部のうち、少なくともいずれか1つに注入口を形成し、この注入口から電解液を真空注入、圧力注入等によって負極と正極との間に注入している。そして、電解液を注入した後、注入口にガラスやゴムなどの栓を挿入し、栓の上から紫外線硬化樹脂等を塗布して硬化させ注入口を封止している。
【0007】
こうした注入口の封止方法として、例えば、液晶ディスプレーの製造工程では、液晶を注入口から真空注入により充填後、紫外線硬化樹脂によって注入口を封止している(特許文献1参照)。また、紫外線硬化樹脂に含まれるモノマーや未反応物による変質が懸念される色素増感型太陽電池では、ガラス管を注入口に差し込んで電解液を注入した後、このガラス管をバーナーで溶かして封止する方法も考えられている(特許文献2参照)。
【0008】
その他にも、注入口に封止ブロックを挿入し、封止ブロックをエポキシ樹脂で固定する方法(特許文献3参照)、50〜40000CPS程度の熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、シリコン樹脂、弗素樹脂などを用いて注入口を塞ぐ方法(特許文献4参照)が挙げられる。更に、ガラス管を注入口に挿入して電解液を注入した後、このガラス管を電解液の循環系として使用する方法(特許文献5参照)、色素増感型太陽電池を電解液を満たしたビニール袋に色素増感型太陽電池を入れ、このビニール袋の口を封止する方法(特許文献6参照)などが挙げられる。
【特許文献1】特開平9−090386号公報
【特許文献2】特開2000−348783号公報
【特許文献3】特開2000−200627号公報
【特許文献4】特開2000−030767号公報
【特許文献5】特開2001−185244号公報
【特許文献6】特開2005−228613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
色素増感型太陽電池の電解液は、電解質を溶媒となる低分子系の有機溶剤に溶解したものが一般的に用いられている。しかしながら、上述した各特許文献に記載された発明において、注入口を樹脂などの有機物を用いて封止する方法では、電解質の溶媒である低分子系の有機溶剤によって、注入口を封止している樹脂が浸蝕され、接着が剥離して電解液が揮発するという課題があった。特に電解質の溶媒として、プロピレンカーボネイト、アセトニトリル、エチレンカーボネイト、エタノール、エチルケトンなどが用いられている場合、注入口の封止に樹脂を用いると、樹脂の接着界面にこれら有機溶媒が浸透し、また樹脂を膨潤させて剥離が進行する。こうした有機溶媒による注入口を封止する樹脂の浸蝕は、特に温度が高くなると顕著になるため、屋外での高温環境に晒される色素増感型太陽電池では大きな問題である
【0010】
一方、こうした電解液の有機溶媒によって、注入口を封止する樹脂が浸蝕されると、外部の空気や水が色素増感型太陽電池の内部に浸透し、色素が吸着している多孔質層に吸着して光電変換効率が大きく損なわれるという問題もあった。また、注入口にガラス管を挿入して封止した場合には、第一ガラス基板、第二ガラス基板、封止部など注入口が形成された部材と、この注入口を塞ぐガラス管との間で、温度変動などによってクラックなどが生じ、注入口付近が破損するという課題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、温度が大きく変動しても電解液を揮発させることなく確実に封止するとともに、外気の酸素や水分が侵入して電解液が変質することを防止できる色素増感型太陽電池を提供することを目的とする。
【0012】
また、簡易な工程で電解液を確実に封止し、温度変動によって注入口が破損することがない色素増感型太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、色素増感型太陽電池の注入口を塞ぐ栓の材質を特定し、注入口が形成された材料に対する線膨張率の差を特定の範囲にすることによって、電解液を揮発させることなく安定して封止できることを見出した。
即ち、本発明の請求項1に記載の色素増感型太陽電池は、互いに対面する負極および正極、およびこの負極と正極とを周縁部で接着し、負極と正極との間に電解液を封止する封止部を有する色素増感型太陽電池であって、
前記負極を構成する第一ガラス基板、前記正極を構成する第二ガラス基板、前記封止部のうち、少なくともいずれか1つに形成されて前記電解液を注入する注入口と、前記注入口を塞ぐ栓とを備え、前記封止部を成す部材はガラスが主体であり、前記栓を成す部材は、前記第一ガラス基板、前記第二ガラス基板、および前記封止部に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスを主体とすることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の色素増感型太陽電池は、請求項1において、前記栓を成すガラスは、軟化点が400℃以上600℃以下の範囲であることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の色素増感型太陽電池は、請求項1または2において、前記栓を成すガラスは、レーザー光線を吸収する材料である、Fe,Cr,Mn,Ni,Cu,Co,Moの元素のうち少なくとも一種類以上、または炭素化合物を含有することを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の色素増感型太陽電池は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記注入口およびその周辺領域には、前記栓および前記注入口を覆う密封部が更に形成され、前記密封部を成す部材は、少なくとも酸素および水分を透過させない材料から形成されることを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の色素増感型太陽電池は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記栓を貫通する補充管を更に形成したことを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の色素増感型太陽電池は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記栓の一部には、更に樹脂層を形成したことを特徴とする。
本発明の請求項7に記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、互いに対面する負極および正極、およびこの負極と正極とを周縁部で接着し、負極と正極との間に電解液を封止する封止部を有する色素増感型太陽電池の製造方法であって、
前記負極を構成する第一ガラス基板、前記正極を構成する第二ガラス基板、ガラスを主体として形成された前記封止部のうち、少なくともいずれか1つに形成された注入口から前記電解液を注入する工程と、前記第一ガラス基板、前記第二ガラス基板、および前記封止部に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスを主体とする栓を前記注入口に挿入する工程と、レーザー光線によって前記栓の周面および/または前記注入口の周面を軟化させ、前記栓を前記注入口に融着させる工程とを備えたことを特徴とする。
本発明の請求項8に記載の色素増感型太陽電池の製造方法は、請求項7において、前記栓の周面と前記注入口の周面との隙間が0.2mm以下になるように、前記栓と前記注入口とが融着されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の色素増感型太陽電池によれば、注入口を封止する栓を、この注入口が形成された第一ガラス基板に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスによって構成することにより、互いの線膨張率の差によって、注入口から栓が外れてしまったり、注入口と栓との融着部分に亀裂や破損が発生することを効果的に防止できる。これによって、注入口への栓の融着工程や、その後の使用時において急激な温度変動などがあっても、注入口と栓との融着、封止部分から電解液が漏出、蒸発することを確実に防止することが可能になる。
【0015】
また、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法によれば、注入口が形成されている部材、即ち、第一ガラス基板に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスによって栓を形成することによって、注入口と栓との融着、封止部分から電解液が漏出、蒸発してしまうことがないので、光電変換効率の劣化を防止し、長期にわたって安定した発電が可能な色素増感型太陽電池を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る色素増感型太陽電池の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこのような実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0017】
図1(a)は、本発明の色素増感型太陽電池の一例を模式的に示す斜視図である。また、図1(b)は、図1(a)の断面図である。これらの図面は特に、紙面の上下方向(層厚み方向)が横方向よりも拡大して表現されていることに留意されたい。
色素増感型太陽電池10は、大別して、互いに対向して配された負極(電極)11及び正極12と、この負極11と正極12とを周縁で接着する封止部13を備えている。また、負極11と正極12との間には、電解液14が充填されている。
【0018】
負極(電極)11は、一面21aに透明導電膜22が形成された第一ガラス基板21と、集電用配線23と、酸化チタン層24とを備えている。第一ガラス基板21には、負極11と正極12との間に電解液14を充填するための注入口31が形成されている。また、この注入口31には、ガラスを主体として形成された栓(封止栓とも呼ぶ)32が融着され、注入口31が封止されている。
【0019】
注入口31は、接合強度を上げる点からも、第一ガラス基板21の外面側から正極12と対向する内面側に向かってその直径が狭められるようにテーパーを付けた方が良く、このテーパーの大きさとして注入口31の中心軸に対して45°以下が好ましい。また、注入口31は直径が1〜5mm程度の大きさに形成すればよい。
【0020】
注入口31を封止する栓32は、注入口31が形成されている部材、即ちこの第一実施形態においては、第一ガラス基板21を形成するガラス材料に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスを主体として形成されている。このような栓32と注入口31とは、レーザー光線の照射によって栓32の周面32aおよび/または注入口31の周面31aを軟化させ、栓32の周面32aを注入口31の周面31aに融着させる。このため、栓32は、融着時のレーザー光線を吸収する材料、例えば、Fe,Cr,Mn,Ni,Cu,Co,Moの元素のうち少なくとも一種類以上、または炭素化合物を含有しているのが好ましい。また、栓32を成すガラスは、加工や融着を容易にするという点からも、軟化点が400℃以上600℃以下の範囲の低軟化点ガラスであることが好ましい。
【0021】
栓32の周面32aと注入口31の周面31aとの隙間は、電解液14の漏出、蒸発を確実に防止する観点からも、0.1mm以下に保つことが好ましい。
【0022】
このような栓32を形成するガラスの具体例としては、SiO−Bi−MO系、又はB−Bi−MO系、SiO−CaO−Na(K)O−MO系、P−MgO−MO系(Mは一種以上の金属元素とする)などが挙げられ、基本的にはSiO骨格、B骨格、P骨格に融点の制御及び化学的な安定性のために他の金属酸化物が含有されたものである。
【0023】
各ガラス系の主成分であるB、P、Bi3、SiOに加えられるアルカリ金属やアルカリ土類金属、その他の金属元素等は融点を下げるものである。線膨張率の制御には例えば酸化物フィラーとしてアルミナ,チタニア,ジルコン,シリカ,コーディエライト,ムライト,β−ユークリプタイト,スポジューメン,アノーサイト,セルシアン,フォルステライト及びチタン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0024】
このようなガラスを主体とした栓32に対して、第一ガラス基板21および第二ガラス基板27は、例えばソーダライムガラス、石英ガラスやホウ酸ガラス、鉛ガラス等から構成され、栓32を構成するガラスに対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内であれば、特にガラスの種類や組成に限定されるものではない。また、第一ガラス基板21および第二ガラス基板27は、線膨張率が75×10−7〜85×10−7/Kの範囲であることが好ましい。
【0025】
第一ガラス基板21の一面21aには、透明導電膜22が形成されている。この透明導電膜22は、例えば、ITO、FTOなどの透明な金属酸化膜から形成される。
【0026】
図2に示すように、透明導電膜22に重ねて、集電用配線23が形成されている。この集電用配線23は、例えば、第一ガラス基板21の一面21a上で所定の間隔を空けて柵状に広がるように形成される。この集電用配線23を成す部材は、例えば、Au,Ag,Pt等の導電性の金属やその合金、あるいは導電性樹脂等が挙げられる。集電用配線23は、その外面を被覆層(図示せず)で覆われていればよい。こうした被覆層は、例えば、ガラスや樹脂などの絶縁材から形成されていればよい。
【0027】
酸化チタン層24は、第一ガラス基板21の一面21a上で柵状に広がる集電用配線23どうしの間に形成されている。この酸化チタン層24は、例えば、緻密な下地層と多孔質層の2形態の酸化チタンから構成されればよく、多孔質層には、増感用の色素を吸着させる。
【0028】
再び図1(a),図1(b)を参照して、正極(電極)12は、第二ガラス基板27の一面27aに形成された透明導電膜28と、この透明導電膜28に重ねて形成された、Ptなどの金属導電層29とを備えている。なお、金属導電層29は、Pt以外にも、導電性に優れた各種金属を用いることができ、場合によってはカーボンも用いることが出来る。
【0029】
負極11と正極12とは、周縁部で封止部13によって、互いに対面するように接着されている。この封止部13ガラスを主体として形成されている。
【0030】
周縁部を封止部13によって接着された負極11と正極12との間には、注入口31から電解液14が注入され、栓32によって封止されている。この電解液14は、ヨウ素を含む溶液、例えば、ヨウ素、リチウムアイオダイド、ターシャルブチルピリジンをアセトニトリルに溶解させたものが挙げられる。
【0031】
以上のような構成の本発明の色素増感型太陽電池によれば、注入口31を封止する栓32を、この注入口31が形成された第一ガラス基板21に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスによって構成することにより、互いの線膨張率の差によって、注入口31から栓32が外れてしまったり、注入口31と栓32との融着部分に亀裂や破損が発生することを効果的に防止できる。これによって、注入口31への栓32の融着工程や、その後の使用時において急激な温度変動などがあっても、注入口31と栓32との融着、封止部分から電解液14が漏出、蒸発することを確実に防止することが可能になる。
【0032】
そして、このような注入口31が形成されている部材、即ち、第一ガラス基板21に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスによって栓32を形成した色素増感型太陽電池10は、注入口31と栓32との融着、封止部分から電解液14が漏出、蒸発してしまうことがないので、色素増感型太陽電池10の光電変換効率の劣化を防止し、長期にわたって安定した発電が可能になる。
【0033】
なお、上述した実施形態では、注入口31を第一ガラス基板21に形成した例を示したが、電解液の注入口の形成部材はこれに限定されるものではない。注入口は、正極を構成する第二ガラス基板、および封止部に形成されていても良い。また、注入口は、第一ガラス基板、第二ガラス基板、および封止部のうち2つ以上の部材に形成されていても良く、注入口の形成箇所も1箇所に限定されるものではなく、2箇所以上、複数箇所形成されていてもよい。そして、この注入口を封止する栓は、少なくとも注入口が形成されているガラスからなる部材に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスによって構成されていればよい。
【0034】
以下、本発明の色素増感型太陽電池を構成する各部における、より具体的な構成を説明する。なお、本発明の色素増感型太陽電池は、以下の具体的な構成に限定されるものではない。
【0035】
[栓]
注入口を封止する栓を構成する部材であるガラスの成分について、更に詳細に説明すると、それぞれの酸化物の重量パーセントとして、SiO−Bi−MO系としては、20<SiO<60,20<Bi<60,0<MO<30、またB−Bi−MO系では、20<B<60,20<Bi<60,0<MO<40、P−MgO−MO系では、20<P<70,0<MgO<30,0<MO<40の範囲にあることが望ましい。これら酸化物に限定されるものではなく、これら酸化物に他の元素の酸化物を添加物として入れても良い。
【0036】
このような栓の形成方法としては、金型プレスを用いてガラス粉を加圧成型して、注入口の周面を象った栓形状に加工すればよい。または、金型成型した後に、300から500℃程度で焼結しても良い。もしくは、ガラス棒を切削加工して注入口の周面を象った栓形状に加工にしても同様な効果が得られる。
【0037】
[ガラス基板]
色素増感型太陽電池を構成する負極、正極の第一ガラス基板、第二ガラス基板としては、少なくとも一方のガラス基板は太陽光を透過可能であり、光電変換を行なう領域に十分な太陽光が到達できる状態にあればよい。具体的には、例えばソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、鉛ガラス、石英ガラス、アルミノケイ酸塩ガラスなどが挙げられる。ソーダライムガラス系の材料を用いた場合、Si,Ca,Na,K,Mg,Alの酸化物を主成分に含んだものより構成されればよい。
【0038】
より具体的には、ソーダガラスとしてはSiOが70〜73%前後で含有し、Na,Kの酸化物が10〜15%程度、CaOが7〜12%程度含有されており、軟化温度が720〜730℃、線膨張率として85〜90×10−7/K前後のものを挙げることができる。ホウケイ酸ガラスとしては、SiOが65〜75%前後で含有し、Bが15〜25%前後で含有し、その他にアルカリ土類金属、またはアルカリ金属の酸化物が5〜25%前後で含有したものが挙げられる。軟化温度は700〜900℃であり、線膨張率は30〜35×10−7/K前後である。
【0039】
[集電用配線]
集電用配線は、Au,Ag,Pt等の貴金属系元素及びその元素を含む合金や、Ni,Cu等の元素及びその元素を含む合金、またはカーボン及びカーボンを含む化合物、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマー等が挙げられる。
【0040】
[透明導電膜]
ガラス基板の上に形成する透明導電膜としては、例えば、フッ素ドープの酸化錫(FTO)やITOが挙げられる。その他として金属薄膜として100nm以下にして透明導電膜として用いても良い。透明導電膜のシート抵抗は、10〜100Ωcm程度が好ましい。
【0041】
[酸化チタン層]
酸化チタン層としては、アナターゼ型結晶構造の酸化チタンが好ましく、それ以外にも、Sn,Zn,Al,Mgの酸化物を含ませても良く、また酸化チタンもルチル型結晶構造を持つものが含まれたものでも良い。酸化チタンからなる電極(負極)としては、酸化チタンがネット構造を形成し、多孔質膜となっているものが好ましい。基本的には酸化チタンを含めて、金属酸化物系で負極電極膜となるものであれば良く、特に、貫通型の多孔質体、多数の空隙が相互に繋がった形態の多孔質体であればより好ましい。
【0042】
金属酸化物の多孔質膜からなる負極電極膜に吸着させる色素としては、例えばルテニウムビピリジン系色素、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポリフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ベリレン系色素、インジゴ系色素、ナフタロシアニン系色素などが挙げられる。
【0043】
金属酸化物の多孔質膜からなる負極電極膜に色素を吸着させる方法としては、例えば、ガラス基板上に形成された多孔質の酸化チタン層を、色素を溶解した溶液(色素吸着用溶液)に浸漬する方法が挙げられる。色素を溶解させる溶剤としては、色素を溶解するものであればよく、具体的には、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリルなどの窒素化合物類、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類が挙げられる。これらの溶剤は2種類以上を混合して用いることもできる。溶液中の色素濃度は、使用する色素および溶剤の種類により適宜調整することができるが、吸着機能を向上させるためにはできるだけ高濃度である方が好ましいが、濃度が高すぎると酸化チタン層の表面に、過剰に色素が吸着した領域が形成されるので、3×10−4モル/リットル以上が好ましい。
【0044】
[電解液]
電解液を構成する酸化還元対としては、I3−/I系の電解質、Br3−/Br系の電解質などのレドックス電解質等が挙げられるが、酸化還元対を構成する酸化体がI3−であり、かつ、前記酸化還元対を構成する還元体がIであるI3−/I系の電解質がより好ましく、LiI、NaI、KI、CsI、CaIなどの金属ヨウ化物、およびテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩などのヨウ化物と、Iとの組み合わせが好ましく挙げられる。このような電解液において、ヨウ素系レドックス溶液からなる電解質が用いられる場合には、正極としては、白金又は導電性炭素材料、及び、触媒粒子が白金又は導電性炭素材料を用いることが好ましい
【0045】
電解質を溶解する溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物;3−メチル−2−オキサゾリジノンなどの複素環化合物;ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物;エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのエーテル類;メタノール、エタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類;アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物;ジメチルスルフォキシド、スルフォランなど非プロトン極性物質などが挙げられる。
【0046】
電解液中の電解質の濃度は、電解質や溶剤の種類などにより適宜設定すればよく、例えば、0.01〜1.5モル/リットル、好ましくは0.01〜0.7モル/リットルである。具体的な電解液の一例としては、リチウムアイオダイド0.06モル/リットル、ヨウ素0.06モル/リットル、ターシャルブチルピリジン0.3モル/リットルの濃度となるようにそれぞれをアセトニトリルに溶解させたものが挙げられる。このような電解液に色素を含ませても良い。
【0047】
次に、本発明の色素増感型太陽電池の注入口を封止する栓について、その他の構成をいくつか列挙する。なお、各実施形態のうち、図1に示す第一実施形態と同様の構成については、同一の番号を付し、重複する説明を略す。
図3に示すように、注入口41を封止する栓42に、更に栓42を貫通する補充管43を形成した構造であるのも好ましい。このように、栓42を貫通する補充管43を形成することによって、栓42を注入口41に融着させた後に電解液を注入したり、あるいは、電解液を後から追加、ないし交換することも可能になる。この場合、補充管43は、色素増感型太陽電池の使用中は外側の先端部を溶融して封止しておけばよい。そして、電解液の補充、交換時にこの封止部分を取り除いて古い電解液を排出し、新しい電解液を注入、補充するなどして、補充後に再びこの補充管43の先端部を溶融して封止しておけばよい。
【0048】
図4に示すように、注入口45およびその周辺領域には、栓46および注入口45を覆う密封部47が形成されていることも好ましい。密封部47は、例えば、酸素や有機溶媒に対するバリア性に優れた水ガラスを塗布して乾燥、凝固させた水ガラス層47aと、この水ガラス層47aを覆う耐湿性の高い有機材料からなる樹脂材料層47bとから構成されていればよい。
【0049】
また、図5に示すように、栓51および注入口52の周辺を覆う密封部53として、例えば、栓51に重ねてガラス小片53aを配し、このガラス小片53aの周縁部分に水ガラスを乾燥、凝固させた水ガラス層53bを形成し、更に、このガラス小片53aおよび水ガラス層53bを、エポキシ樹脂やアクリル樹脂からなる樹脂材料層53cによって覆う構成であっても良い。
【0050】
このように、栓および注入口の周辺を覆う密封部を形成することによって、注入口における栓による電解液の封止を一層確実にするとともに、外部の酸素や水分など、電解液を劣化させる原因となる物質が、栓で封止された注入口から侵入することも防止することができる。
【0051】
このような密封部は、少なくとも酸素および水分を透過させない材料から形成されていれば良く、例えば、栓の上に紫外線硬化樹脂を塗布して硬化させた後に、この上に低融点ハンダを用いてガスバリア膜を形成しても良い。この時用いる低融点ハンダとしては、In、Ag、Bi、Te、Pbのいずれかを主成分に含んだものが好ましく、融点としては、300℃以下が好ましい。この低融点ハンダを用いて超音波によって栓を固着することにより、封止強度を更に良好にすることができる。また、低融点ハンダの上に、更に酸素バリア性の高い紫外線硬化樹脂を塗布して硬化させることにより、低融点ハンダが酸化によって劣化することを防ぎ、長期にわたって安定して注入口を密封することができる。
【0052】
栓を覆う密封層の最上部を成す材料としては、特に非極性樹脂が好ましい。樹脂を非極性化にすることにより樹脂に含まれる水を低減し、且つ樹脂中への水の含浸を防ぐことができる。このような非極性樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレンプロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂が挙げられる。これらの樹脂を注入口を封止する栓の上に熱圧着し、この上に更に接着剤を塗布して硬化固定するのが好ましい。
【0053】
また、栓を貫通する補充管と、栓を覆う密封層とを組み合わせた構成であってもよい。図6に示すように、栓55に補充管56を形成するとともに、この栓55および注入口57の周辺を覆う密封層58を形成してもよい。密封層58は、例えば、低融点ハンダからなる第一ハンダ層58aおよび第二ハンダ層58bと、第二ハンダ層58bを覆う樹脂材料層58cとから構成されていれば良い。
【0054】
図7に示すように、注入口61を封止する栓62は、ガラス材料からなるガラス層62aと有機樹脂材料からなる樹脂層62bとを組み合わせた構成であっても良い。このように、栓62の一部を樹脂で形成することにより、栓62の注入口61に対する密着性を高め、より一層確実に電解液を封止することができる。
【0055】
注入口を封止する栓をガラス基板と一体に形成しても良い。図8に示す色素増感型太陽電池71では、電解液72を注入するための注入口73が、負極74を構成する第一ガラス基板75に形成されている。そして、正極76を構成する第二ガラス基板77には、この注入口73を封止する栓78が一体に形成されている。このような色素増感型太陽電池71では、負極74と正極76とを封止部79で接着した後、注入口73と栓78との隙間から電解液72を注入し、この後、注入口73と栓78とを融着させることにより、注入口73は塞がれ、電解液72が封止される。
【0056】
注入口は負極と正極とを接着する封止部に形成されていても良い。図9に示す色素増感型太陽電池81では、負極82と正極83とを接着する封止部84に、電解液85を注入する注入口86が形成されている。そして、この注入口86は栓87によって封止されている。封止部84はガラスペーストを固化させたものであり、栓87は、この封止部84を成すガラスに対して線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスを主体として形成されている。
【0057】
次に、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法について、注入口を封止する工程を中心に説明する。
まず、図10(a)に示すように、負極91と正極92とを対面させて、周縁を封止部93で接着する。そして、負極91を成す第一ガラス基板94に形成された注入口95から、電解液96を注入する(注入口から電解液を注入する工程)。
【0058】
図10(b)に示すように、負極91と正極92との間に電解液96が満たされた後、注入口95に栓97を挿入する(栓を注入口に挿入する工程)。栓97は、第一ガラス基板94を成すガラスに対して線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスを主体として形成される。
【0059】
そして、図10(c)に示すように、注入口95に向けてレーザー光Lを照射する。注入口95に向けてレーザー光Lを照射すると、レーザー光を吸収する材料を含む栓97は加熱され、栓97の周面97aと注入口95の周面95aとが溶解して融着部Mが形成され、栓97は注入口95に融着される。この時、注入口95の周面95aと栓97の周面97aとの隙間tが0.2mm以下になるように融着するのが好ましい。これにより、負極91と正極92との間に電解液96が確実に封止され、電解液96が注入口95から漏出、蒸発することのない、長期間安定した光電変換が可能な色素増感型太陽電池99を得ることができる。
【0060】
栓97と注入口95との融着に用いるレーザー光の光源としては、炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー、YAGレーザー、HeNeレーザー等が挙げられる。特に、ガラスに対するレーザー光の透過性やフォーカス径等の観点からYAGレーザーを用いることが好ましい。
【0061】
レーザー光の照射の方法としては、一つのレーザー光により局所的な加熱で接合することもできるが、二つ以上のレーザー光を用いて接合することもできる。具体的には、一つのレーザー光を用いて局所的な熱勾配を作らないように数百から数千nmの波長で連続照射しておき、もう一つのレーザー光によりガラスを軟化、または溶融させる温度まで加熱することにより接合するものである。この時、二つのレーザーを用いないでも、ガラス基板全体をホットプレート等の加熱装置によって150℃以下程度まで加熱し、一つのレーザーにより局部的にガラスを軟化、または溶融させる温度まで加熱することにより、栓を注入口に融着することもできる。
【0062】
レーザー光源の発振モードとしては連続発振モードよりもパルスモードの方がガラス基板の割れが抑えられる。例えば、発振周波数は10〜10000Hz レーザー光のパワーは少なくとも10W以上であることが好ましい。レーザー光の照射時に、レーザーヘッドに傷や汚れがつかないようにアシストガスを流しても良い。こうしたアシストガスとしては、例えば空気、酸素、二酸化炭素、窒素等のガスが挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の色素増感型太陽電池の効果を検証した実験例を列記する。
[実験1]
実験に使用した色素増感型太陽電池を図11に示す。ガラス基板として厚み3mm,幅5cm,長さ10cmのソーダライムガラスを用いた。このガラス基板の線膨張率は88×10−7/Kであった。このガラス基板を複数枚用意し、それぞれにスプレー法によりITOからなる透明導電膜を成膜した。透明導電膜のシート抵抗は30Ωであった。このガラス基板のうち、正極とする第二ガラス基板に対して、スパッタリング法によりPtを成膜し、ドリルにより電解液に接する面は1mmΦ、外面は2mmΦとなるようなテーパーをもつ注入口を、対角線方向の両端に形成し、正極(電極)を得た。
【0064】
一方、負極とする第一ガラス基板には、Agペーストからなる集電用配線に被覆層を形成した後、このガラス基板の上にスクリーン印刷法により酸化チタン(Degussa社製、商品名;「P25」)のペーストを20μmの厚みで塗布した。この際、ガラス板の周端部から6mmの部分には酸化チタンペーストが付かないように印刷を行った。酸化チタンペーストはテルピオーネに固形分濃度として70重量パーセント加えたものを用いた。この塗膜に450℃で一時間の熱処理を加えた。この後、ルテニウム錯体系の色素ルテニウム(SOLARONIX(製品名: ルテニウム535))を濃度5×10−4モル/リットルにしたエタノール溶液に浸漬して8時間保持した。無水エタノールに浸漬して過剰の色素を取り除き、乾燥し負極(電極)を得た。
【0065】
負極の第一ガラス基板の外側から3mmより内側に、厚み60μmのアイオノマー樹脂(例えば、三井デュポン・ポリケミカル製(商品名:ハイミラン))を幅3mmで付着させ、この上に正極を設置して100gf/cmの荷重を掛けながら120℃にて熱融着させた。作製したセルにLiIとIを溶かしたアセトニトリル電解液を注入口より入れて、セル全体に均一になるように注入した。
【0066】
このセルに注入口を封止する栓として、高さ3mm、底面2mmΦ、上面1mmΦのガラス製の円錐形の栓を使用した。この栓を注入口に挿入した時の隙間は0.1mm以下になるように加工した。用いた栓のガラス材料の組成はB−Bi−ZnO系低融点ガラスを用いた。この材料の軟化点は523℃であり、線膨張率は82×10−7/Kであり、ガラス基板に対する線膨張率の差は6×10−7/Kであった。線膨張率の制御は、ガラスに酸化チタン,酸化マグネシウム,酸化アルミニウム等を添加して行った。
【0067】
そして、このガラスからなる栓をガラス基板に形成した注入口に挿入した後、栓と注入口との接触部分に対して、YAGレーザーによるレーザー光を照射した。レーザー光のフォーカス径を100μmΦに設定し、40Wから100Wの出力でパルスモードにて、栓と注入口とを熱融着させた。この際、レーザー光の照射位置は栓と注入口の境目までを均等に加熱できるようにスキャンした。以上のようにレーザー光によって栓と注入口とを封止した色素増感型太陽電池を実施例1とした。
【0068】
一方、エポキシ系接着剤(製品名:アラルダイト)を用いて、注入口の内部と注入口の近傍に渡って5mmΦに塗布し、ガラス基板面から高さ1mm厚になるように接着剤を盛り付けて硬化させ、注入口をエポキシ系接着剤によって封止した色素増感型太陽電池を比較例1とした。なお、注入口の封止部分以外の構成は実施例1と共通である。
【0069】
こうして作製した実施例1および比較例1の色素増感型太陽電池を60℃飽和水蒸気中にて一週間保持し、電解液の揮発量と封止状態を調べた。この実験1の結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示す結果から、従来の比較例1のように、注入口の封止にエポキシ系接着剤を用いたものでは、注入口を封止したエポキシ系接着剤と、注入口を形成したガラス基板との界面から、電解液が漏洩、揮発して電解液の量が大幅に減少した。一方、本発明の実施例1のように、ガラスからなる栓をレーザー光によって注入口に融着したものでは、電解液は全く減少せず、優れた封止性を有することが確認された。
【0072】
なお、上記実験1において、注入口挿入する栓を図7に示したような樹脂(ブチルゴム)とガラスからなるものを用い、ガラス部分をレーザーで軟化させて注入口に融着させ、それ以外の構成は実施例1と同様な条件のサンプルを用いた場合でも、実施例1と同等な効果が得られた。
【0073】
[実験2]
上記実施例1において、栓の軟化点が520から550℃の間になるように制御しつつ、栓の線膨張率を10段階に変化させた10種類の色素増感型太陽電地を用い、ガラス基板に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のものを実施例2〜8、線膨張率の差が±20×10−7/Kよりも大きいものを比較例2〜4として、栓とガラス基板の注入口との融着状態を観察した。線膨張率の制御はアルミナにより行なった。この実験2の結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2に示す結果から、注入口を形成したガラス基板と、ガラスからなる栓との線膨張率の差が小さいほど、ガラス基板の割れを抑制できることが確認された。この結果から、少なくともガラス基板と封止部を成すガラスとの線膨張率の差を±20×10−7/K以内、好ましくは±10×10−7/K以内にすれば、注入口から電解液が漏出、蒸発することを効果的に抑制できることが確認された。
【0076】
なお、上記実験2に用いた栓を構成するガラスには、添加剤は加えなかったが、栓を構成するガラスに対して、カーボンブラック、炭化珪素粉、Fe,Cr,Mn,Ni,Cu,Co,Mo等の金属粉、またはFe,NiO,CuO,CuO,Cr,CrO,CoO,Mn、CoFe,MnFe等の金属酸化物粉、CuSO,NiSO,CoCl,MnCO等の粉を0.5重量パーセント添加したものを用いても、実験2の結果と同様な傾向であった。
【0077】
また、上記実験2に用いた栓を構成するガラスには、レーザー光を吸収する材料を添加したが、レーザー光を吸収する材料を添加せず、代わりに栓の上に塗布法により第二酸化鉄を厚さ0.1μ程度に塗膜形成した場合も、実験2の結果と同様であった。この第二酸化鉄に代えて、Fe,NiO,CuO,CuO,Cr,CrO,CoO,Mn等を用いても実験2の結果と同様であった。更に、Cu,Ni粉(住友金属鉱山製)、Fe粉(戸田工業製)を用いても実験2の結果と同様であった。
【0078】
[実験3]
上記実験2において、栓と注入口との融着に用いるレーザー光のパワーを7段階に変化させた7種類の色素増感型太陽電地を用い、実施例9〜15として、栓とガラス基板の注入口との融着状態を観察した。ガラス基板の線膨張率に対して、栓を構成するガラスの線膨張率の差を±5×10−7/K以内に保ち、栓のガラス材料に対して、固形分において1重量パーセントのCrを添加した。その他の条件は実験2と同様である。この実験3の結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3に示す結果から、0.1mmΦの面積に加えるレーザー光のパワーとしては、20〜100W程度が好ましいことが分かった。単位面積あたりのレーザー光のパワー密度にすると、2.5×10〜1.3×10W/cmの範囲が最適であることが分かった。
【0081】
[実験4]
ガラス基板として厚み3mm,5cm角のソーダライムガラスを用いた。このガラス基板の線膨張率は88×10−7/Kであった。このガラス基板を複数枚用意し、それぞれにスプレー法によりITOからなる透明導電膜を厚さ1μmで成膜し、大気中にて450℃で1時間の焼成を行った。この透明導電膜を形成したガラス基板のうち、正極とする第二ガラス基板に対して、スパッタリング法によりPtを30nm成膜し、ドリルにより1mmΦの径の穴を二箇所、対角線方向の両端に形成し、正極(電極)を得た。
【0082】
一方、負極とする第一ガラス基板には、Agペーストからなる集電用配線や被覆層を形成した後、このガラス基板の上にスクリーン印刷法により酸化チタン(Degussa社製、商品名;「P25」)のペーストを30μmの厚みで塗布した。この際、ガラス板の周端部から6mmの部分には酸化チタンペーストが付かないように印刷を行った。酸化チタンペーストはテルピオーネに固形分濃度として70重量パーセント加えたものを用いた。この酸化チタン層が形成された第一ガラス基板を大気中において120℃で乾燥させ、その後450℃で一時間の熱処理を加えた。この後、ルテニウム錯体系の色素ルテニウム(SOLARONIX(製品名: ルテニウム535))を濃度5×10−4モル/リットルにしたエタノール溶液に浸漬して8時間保持した。無水エタノールに浸漬して過剰の色素を取り除き、乾燥し負極(電極)を得た。
【0083】
なお、この第一ガラス基板には、色素を吸着させる前に、図8に示すように、P−SnO系ガラスからなり、高さ8mm,外径1mmΦの円柱状の栓を、第二ガラス基板に形成した注入口の位置に合致するように融着形成した。この円柱状の栓を成すガラスは、東洋ガラス製のP−SnO系ガラスにNiOを1重量パーセント添加し、P−WO−ZrO系フィラーにより線膨張率を84×10−7/Kにしたものを用いた。
【0084】
負極を成す第一ガラス基板に外側から3mmより内側に厚み60μmのアイオノマー樹脂(三井デュポン・ポリケミカル製(商品名:ハイミラン))を幅2mmで塗布し、もう一枚のPt膜を形成した正極を成す第二ガラス基板を対面させ、この第一と第二のガラス基板の間にアイオノマー樹脂を挟むようにしたまま、第一と第二のガラス基板を120℃で熱融着させた。その後、注入口から電解液を注入した後、注入口から突出している円柱状の栓をYAGレーザーによって軟化させ、注入口を封止し、実施例16の色素増感型太陽電池を得た。
【0085】
一方、エポキシ系接着剤(製品名:アラルダイト)を用いて、注入口の内部と注入口の近傍に渡って5mmΦに塗布し、ガラス基板面から高さ1mm厚になるように接着剤を盛り付けて硬化させ、注入口をエポキシ系接着剤によって封止した色素増感型太陽電池を比較例5とした。なお、注入口の封止部分以外の構成は実施例16と共通である。
【0086】
こうして作製した実施例16および比較例5の色素増感型太陽電池を50℃飽和水蒸気中にて一週間保持し、電解液の揮発量と封止状態を調べた。この実験4の結果を表4に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
表4に示す結果から、従来の比較例5のように、注入口の封止にエポキシ系接着剤を用いたものでは、注入口を封止したエポキシ系接着剤と、注入口を形成したガラス基板との界面から、電解液が漏洩、揮発して電解液の量が大幅に減少した。一方、本発明の実施例16のように、ガラスからなる栓をレーザー光によって注入口に融着したものでは、電解液は全く減少せず、優れた封止性を有することが確認された。
【0089】
[実験5]
上記実験4において、P−SnO系ガラスからなり、高さ5mm,外径1mmΦの円柱状の栓の線膨張率と、電極を構成するガラス基板の線膨張率との差を±10×10−7/K以内に保ちつつ、栓を成すガラスの軟化点を6段階に変化させた6種類の色素増感型太陽電地を用い、実施例17〜22として、栓とガラス基板の注入口との融着状態を観察した。その他の条件は実験4と同様である。この実験5の結果を表5に示す。
【0090】
【表5】

【0091】
表5に示す結果から、栓を構成するガラスの軟化点は593℃以下、好ましくは565℃以下が良いことが分かった。
【0092】
[実験6]
実験に使用した色素増感型太陽電池を図9に示す。ガラス基板として厚み3mm,10cm角のソーダライムガラスを用いた。このガラス基板の線膨張率は89×10−7/Kであった。このガラス基板を複数枚用意し、それぞれにスプレー法によりITOからなる透明導電膜を厚さ10μmで成膜し、大気中にて450℃で1時間の焼成を行った。この透明導電膜を形成したガラス基板のうち、正極とする第二ガラス基板に対して、スパッタリング法によりPtを300nm成膜し、正極(電極)を得た。
【0093】
一方、負極とする第一ガラス基板には、Agペーストからなる集電用配線や被覆層を形成した後、このガラス基板の上にスクリーン印刷法により酸化チタン(Degussa社製、商品名;「P25」)のペーストを20μmの厚みで塗布した。この際、ガラス板の周端部から6mmの部分には酸化チタンペーストが付かないように印刷を行った。酸化チタンペーストはテルピオーネに固形分濃度として70重量パーセント加えたものを用いた。
【0094】
次に、封止部として、第一ガラス基板の周端部には側縁から5mmの部分まで低融点ガラスペーストを厚み100μmになるようにスクリーン印刷で塗布した。低融点ガラスペーストとしては、SiO−CaO−Na(K)O系ガラスに、特にNaOとAlフィラーの添加量により軟化点を500℃以下にして線膨張率を84×10−7/℃にしたものを用いた。そして、大気中で120℃にて乾燥し、510℃にて一時間焼成し負極(電極)を得た。
【0095】
この負極と正極とを互いに、Pt膜を付けた側と酸化チタン膜を付けた側が向かい合うように重ね合わせ、二枚のガラス板に50gf/cmの荷重を掛けながら525℃にて1時間焼成し、低融点ガラスペーストを封止部として熱融着させた。この後、負極と正極とを接着する封止部にドリルで1.5mmΦの穴を開けて注入口を形成し、この注入口からルテニウム錯体系の色素ルテニウム(SOLARONIX(製品名: ルテニウム535))を濃度5×10−4モル/リットルにした溶液を循環させて色素を吸着させた。
【0096】
この後、作製したセルにLiIとIを溶かしたアセトニトリル電解液を注入口より入れ、セル全体に均一になるように注入した。そして、封止部に形成した注入口に合致するように形成したSiO−CaO−Na(K)O系ガラスからなる栓を注入口に挿入し、YAGレーザーにて加熱し、栓を注入口に熱融着させた。この栓を成すガラスの軟化点及び線膨張率は485℃で84×10−7/Kであった。こうして得た色素増感型太陽電池を実施例23とした。
【0097】
一方、エポキシ系接着剤(製品名:アラルダイト)を用いて、注入口の内部と注入口の近傍に接着剤を盛り付けて硬化させ、注入口をエポキシ系接着剤によって封止した色素増感型太陽電池を比較例6とした。なお、注入口の封止部分以外の構成は実施例23と共通である。
【0098】
このような、実施例23の色素増感型太陽電地と、比較例6の色素増感型太陽電地をそれぞれ60℃の定温環境下にて、30日保持させた。そして、実施例23、および比較例6のそれぞれの30日経過前(初期品)と30日経過後(耐久品)の太陽電池としての特性を調べた。
測定項目として、色素増感型太陽電池の短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクタ(F.F.)、及びエネルギー変換効率(η(%))を測定した。色素増感型太陽電池のエネルギー変換効率(η(%))は、式1で表される。
η=100×(Voc×Jsc×F.F.)/P・・・式1
式1中、Pは入射光強度[mWcm−2]、Vocは開放電圧[V]、Jscは短絡電流密度[mA・cm−2]、F.F.は曲線因子(Filling Factor)を示す。
【0099】
電池特性評価試験は、ソーラーシミュレータ(山下電装製、商品名;「YS−100H型」)を用い、AMフィルター(AM1.5)を通したキセノンランプ光源からの疑似太陽光の照射条件を、100mW/cmとする(いわゆる「1Sun」の照射条件)測定条件の下で行った。光電変換効率の結果を表6に示す。
【0100】
【表6】

【0101】
表6に示す実験6の結果から、30日経過前(初期品)の特性は、実施例23と比較例6とで大きな変化は見られないが、30日経過後(耐久品)においては、ガラスからなる栓によって注入口を封止した本発明の実施例23が、従来の比較例6よりも、各特性において大きく改善されていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の色素増感型太陽電池の一例を示す斜視図、および断面図である。
【図2】集電用配線の形成例を示す模式図である。
【図3】注入口を封止する栓の他の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の色素増感型太陽電池の他の実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の色素増感型太陽電池の他の実施形態を示す断面図である。
【図6】注入口を封止する栓の他の実施形態を示す断面図である。
【図7】注入口を封止する栓の他の実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明の色素増感型太陽電池の他の実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明の色素増感型太陽電池の他の実施形態を示す断面図である。
【図10】本発明の色素増感型太陽電池の製造方法を段階的に示す断面図である。
【図11】実施例の色素増感型太陽電池を示す断面図である。
【符号の説明】
【0103】
10 色素増感型太陽電池、11 負極(電極)、12 正極(電極)、13 封止部、14 電解液、21 第一ガラス基板、27 第二ガラス基板、31 注入口、32 栓。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対面する負極および正極、およびこの負極と正極とを周縁部で接着し、負極と正極との間に電解液を封止する封止部を有する色素増感型太陽電池であって、
前記負極を構成する第一ガラス基板、前記正極を構成する第二ガラス基板、前記封止部のうち、少なくともいずれか1つに形成されて前記電解液を注入する注入口と、前記注入口を塞ぐ栓とを備え、
前記封止部を成す部材はガラスが主体であり、
前記栓を成す部材は、前記第一ガラス基板、前記第二ガラス基板、および前記封止部に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスを主体とすることを特徴とする色素増感型太陽電池。
【請求項2】
前記栓を成すガラスは、軟化点が400℃以上600℃以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項3】
前記栓を成すガラスは、レーザー光線を吸収する材料である、Fe,Cr,Mn,Ni,Cu,Co,Moの元素のうち少なくとも一種類以上、または炭素化合物を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項4】
前記注入口およびその周辺領域には、前記栓および前記注入口を覆う密封部が更に形成され、前記密封部を成す部材は、少なくとも酸素および水分を透過させない材料から形成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項5】
前記栓を貫通する補充管を更に形成したことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項6】
前記栓の一部には、更に樹脂層を形成したことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項7】
互いに対面する負極および正極、およびこの負極と正極とを周縁部で接着し、負極と正極との間に電解液を封止する封止部を有する色素増感型太陽電池の製造方法であって、
前記負極を構成する第一ガラス基板、前記正極を構成する第二ガラス基板、ガラスを主体として形成された前記封止部のうち、少なくともいずれか1つに形成された注入口から前記電解液を注入する工程と、
前記第一ガラス基板、前記第二ガラス基板、および前記封止部に対する線膨張率の差が±20×10−7/K以内のガラスを主体とする栓を前記注入口に挿入する工程と、
レーザー光線によって前記栓の周面および/または前記注入口の周面を軟化させ、前記栓を前記注入口に融着させる工程とを備えたことを特徴とする色素増感型太陽電池の製造方法。
【請求項8】
前記栓の周面と前記注入口の周面との隙間が0.2mm以下になるように、前記栓と前記注入口とが融着されることを特徴とする請求項7に記載の色素増感型太陽電池の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−226552(P2008−226552A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60510(P2007−60510)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】