説明

色素増感太陽電池素子及びその製造方法

【課題】有機導電性ポリマーとの高い密着性を有する集電電極材料を搭載した素子を提供する。
【解決手段】導電性透明基板1上に、バッファ層2、色素が表面付着した半導体粒子3、有機導電性ポリマー層4、銀集電電極層5をこの順に備える色素増感太陽電池素子。銀集電電極層5はペースト状のものを有機導電性ポリマー層4の上から塗布して乾燥させたものである。
【効果】素子製造プロセスを簡略化することが可能であり、素子の低コスト化に大きく寄与すると期待できる。また銀集電電極層5と有機導電性ポリマー層4との高い密着性により、素子の長寿命化が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電荷移動層を有する色素増感太陽電池素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化への懸念が高まる中、新たな太陽光発電技術にかかる期待が大きい。次世代の太陽電池として、大量生産、低コスト化の観点から、従来のシリコン系太陽電池に変わる色素増感太陽電池素子が有望視されている。1991年のGr舩zelらの報告に端を発し、シリコン半導体を用いずにヨウ素溶液を介した電気化学的色素増感太陽電池素子の構造、いわゆる湿式型太陽電池が世界的に着目され、変換効率15%以上を目指した研究が精力的に行われている。現在では高効率光電変換10〜11%が報告される一方、腐食性の強いヨウ素を用いることは液漏れの恐れもあり、素子の長期耐久性を実現する上で問題視されている。
【0003】
ヨウ素溶液の酸化還元を利用しないで、導電性ポリマーであるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)などを固体電荷移動層に用いたヨウ素フリー太陽電池の低コスト化のための開発が進められている。ここでは、集電電極材料としてFTO(フッ素ドープ酸化錫)基板に金をスパッタしたものが採用されているが、光電変換効率をより向上させ、素子作製工程をより簡単にしたいという要望がある。なお「集電電極」とは光非入射側のカソード電極をいう。
【0004】
このような点を改善する好適な手法として、例えば、色素増感太陽電池素子の構造中、固体電荷移動層の上に、集電電極としてカーボンペースト層と金属含有ペースト層とを順次塗布形成する手法が知られている(特許文献1参照)。
特許文献1では、固体電荷移動層としてヨウ素系の無機材料であるCuIを用い、その上にカーボンペースト層を介して、金、銀、銅、ニッケルなどの金属含有ペースト層を塗布した色素増感太陽電池素子を作製し、その光電変換特性を測定している。この測定結果によれば、高い変換効率を得るにはカーボンペースト層の存在が必須であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-319872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
色素増感太陽電池素子の製造において、低コスト化を考慮して、電極材料をさらに単純化させることが望まれている。
特許文献1記載の色素増感太陽電池素子の製造では、固体電荷移動層と集電電極との間にカーボンペースト層が介在されているが、発明者はこのカーボンペースト層を省略し、固体電荷移動層に直接、金属含有層を形成するという新しい構造を検討した。
【0007】
特許文献1では、色素増感太陽電池素子からカーボンペースト層を省略して、金属層を直接接触させると顕著な特性の劣化が見られたと報告されているが、発明者は、固体電荷移動層の材料に着目し、固体電荷移動層を非ヨウ素系の有機材料に変更することにより、カーボンペースト層のない色素増感太陽電池素子が製造可能であるという知見に至った。
本発明の目的とするところは、色素増感太陽電池素子作製のための集電電極として、カーボンペースト層を省略し、導電性に優れた金属含有ペーストのみを用いたものを形成することにより、製造が容易であり、かつ光電変換効率に優れた色素増感太陽電池素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の色素増感太陽電池素子は、導電性透明基板上に、バッファ層と、色素が表面付着した複数の半導体粒子と、非ヨウ素系有機導電性ポリマーを含む固体電荷移動層と、金、銀、銅、ニッケル、白金、鉄、亜鉛、モリブデン、タングステンからなる群から選ばれる一種以上の金属若しくはその化合物、又は前記群から選ばれる二種以上の金属の合金若しくはその化合物で形成される集電電極層とをこの順に積層した構造である。
【0009】
この構造の色素増感太陽電池素子の構成部材として、非ヨウ素系有機導電性ポリマーに金属集電電極を接合させているので、従来から示されてきた色素増感太陽電池素子と異なり、素子製造プロセスを簡略化することが可能であり、素子の低コスト化に大きく寄与すると期待できる。
前記非ヨウ素系有機導電性ポリマーは、硫黄を含む有機導電性ポリマーであることが好ましい。
【0010】
前記硫黄を含む有機導電性ポリマーは、ポリチオフェン系化合物であることが好ましい。
前記硫黄を含む有機導電性ポリマーは、チオフェン骨格から構成されるp型の有機半導体であることが好ましい。
前記集電電極層を構成する金属は、粒子径が1〜50nmの銀粒子の形で存在していることが好ましい。
【0011】
本発明の色素増感太陽電池素子の製造方法は、導電性透明基板上にバッファ層を形成し、前記バッファ層上に、複数の半導体粒子を設置するとともに、前記半導体粒子に色素を付着させ、前記バッファ層上に、前記複数の半導体粒子の周りを充填するようにして、非ヨウ素系有機導電性ポリマーを含む固体電荷移動層を形成し、前記固体電荷移動層の上に集電電極層として、金、銀、銅、ニッケル、白金、鉄、亜鉛、モリブデン、タングステンからなる群から選ばれる一種以上の金属若しくはその化合物、又は前記群から選ばれる二種以上の金属の合金若しくはその化合物を含有する金属層を形成することを特徴とする。
【0012】
この太陽電池素子の製造方法によれば、非ヨウ素系有機導電性ポリマーを含む固体電荷移動層を形成し、前記固体電荷移動層の上に集電電極層として、金属若しくはその化合物を含有する金属層を形成するため、従来から示されてきたFTOなどの電極基板を使用する必要がなく、素子製造プロセスを簡略化することが可能であり、素子の低コスト化に大きく寄与すると期待できる。
【0013】
前記金属層を形成する工程は、前記固体電荷移動層上に、前記金属層を構成する物質を含有するペーストを塗布する工程を含むことが好ましい。この場合、「塗布」とは、前記ペーストを乾燥させない状態で、すなわち湿式プロセスによって固体電荷移動層上に物理的に付着させて乾燥させる工程を言う。固体電荷移動層の全面に付着させてもよく、印刷用マスクを通して部分的に付着させても良い。前記ペーストを塗布して空気中で乾燥処理することにより、有機導電性ポリマー/集電電極の界面の密着性が高まり、高密度の電流が効率よく流れることが期待できる。
【0014】
前記金属層を構成する物質を含有するペーストは、例えば、粒子径1〜50nmの金属微粒子を有機溶媒に分散させたものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】色素増感太陽電池素子の概略断面図である。
【図2】フィルム上に形成した金属又はその金属の化合物を、固体電荷移動層4に接触・接合させて、集電電極層5を形成する方法を示す工程図である。
【図3】固体電荷移動層4上に、集電電極層5として、金属又はその金属の化合物を直接形成する方法を示す工程図である。
【図4】カソード極に銀ペースト、PEDOT/FTO、カーボンペーストを用いて作製した各太陽電池素子の電流密度−電圧曲線を示すグラフである。
【図5】太陽電池素子の安定性評価試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
<色素増感太陽電池素子>
色素増感太陽電池素子の一般的な構造は、図1に示すように、カソード及びアノードとなる導電性基板を張り合わせたいわゆるサンドイッチ構造である。
本発明の実施形態の色素増感太陽電池素子は、導電性透明基板1上に、バッファ層2と、色素を表面付着させた複数の半導体粒子3(「複数」とは、実際数え切れないくらいの多数を含む)と、有機導電性ポリマーを含有する固体電荷移動層4と、少なくとも一種の金属を含有する集電電極層5とをこの順に集積した構造である。
【0017】
導電性透明基板1の材質は特に限定されないが、ガラス、石英、透明合成樹脂等の基板1aに、酸化インジウム・スズ、酸化亜鉛、酸化スズなどの導電性薄膜1bを形成したものである。この薄膜中にアルミニウム、ガリウム、フッ素、アンチモンなどの元素がドープされていてもよい。
バッファ層2は、導電性透明基板1から半導体粒子3への逆電子移動を抑制する目的で挿入される。バッファ層2の材質は、酸化チタン、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物半導体を用いることができる。これらのうち電子輸送特性に優れ、低コストである点で酸化チタンが最も好ましい。バッファ層2の厚みは、1〜100nmの範囲が好ましい。この範囲より薄いと、逆電子移動を抑制できなくなり、この範囲より厚いと電子がバッファ層2を通過(トンネリング)できなくなる。
【0018】
半導体粒子3は、金属酸化物半導体の粒子であることが好ましい。特に、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化セシウム及び酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる1種上の金属酸化物半導体粒子であることが、光電変換効率の点で好ましい。酸化チタン又は酸化亜鉛がより好ましく、酸化チタンが最も好ましい。半導体粒子3の直径は、1〜100nmであることが好ましく、特に15〜25nmであることが好ましい。
【0019】
半導体粒子3は2種類の半導体がコア−セル構造で組み合わされていてもよい。また半導体粒子3は、色素の吸着面積を広げるために、多孔質であることが好ましい。特に孔の直径がナノメートルのオーダーを持ったナノ・ポーラス構造であることが好ましい。半導体粒子3の形状は限定されないが、球状、柱状、星状、直方体状、円錐状、角錐状などであれば良い。
【0020】
半導体粒子3の表面に付着される色素としては、有機色素、金属錯体色素、有機顔料、無機顔料、無機蛍光体などを使用できる。特に光電変換効率の点で、有機色素及び金属錯体色素からなる群より選ばれる1種以上の色素が好ましい。
有機導電性ポリマーとしては、固体電荷移動層4と集電電極層5との界面が分子レベルでの相互作用によりオーミックコンタクトできるように、その材質を選択する必要がある。
【0021】
有機導電性ポリマーの材質は、ヨウ素を含まないものが好ましい(以下「非ヨウ素系有機導電性ポリマー」という)。
非ヨウ素系有機導電性ポリマーの材質は、特に、硫黄を含むものであることが好ましい。
さらに、有機導電性ポリマーの材質は、導電性に優れる点でポリチオフェン系化合物であることが好ましい。
【0022】
また、導電性ポリマーはチオフェン骨格から構成されるp型の有機半導体であることが好ましい。
具体例としては、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)、ポリ(3-オクチルチオフェン-2,5-ジイル)(P3OT)、ポリ(3-ドデシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3DDT)などのポリアルカンチオフェン類が挙げられる。
【0023】
また、ポリ(3-(2-メトキシエトキシ)エトキシメチルチオフェン-2,5-ジイル)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(3-ウンデシ-2,2’-ビチオフェン)やポリ(4-ウンデシ-2,2’-ビチオフェン)などのポリビチオフェン類が挙げられる。
さらに、ポリ[[2,2’-ビチオフェン]-5,5’-ジイル(9,9-ジオクチル-9H-フルオレン-2,7-ジイル)]、ポリ[[2,5-ジデシロキシ-1,4-フェニレン]-alt-(2,5-チエニレン)]、ポリ(チエノ[3,2-b]チオフェン-2,5-ジイル)類、ポリ(ジチエノ[3,2-b:2’,3’-d]チオフェン-2,6-ジイル)類が挙げられる。
【0024】
集電電極層5としては、金、銀、銅、ニッケル、白金、鉄、亜鉛、モリブデン、タングステンからなる群から選ばれる一種以上の金属若しくはその化合物を用いるのが良い。または前記群から選ばれる二種以上の金属の合金若しくはそれらの化合物を用いても良い。合金の例として、金−白金、銀−タングステンなどが挙げられる。
集電電極層5は、特にコスト及び性能の点で、金属粒子含有ペーストを固体電荷移動層4上に塗布して得られた電極であることが、製造容易の意味で好ましい。
【0025】
集電電極層5を構成する金属として、特に銀を用いることが好ましい。銀粒子含有ペーストを選択して固体電荷移動層4上に塗布する場合、塗布後の導電性に優れる点で、銀粒子の粒子径は、1〜50nmであることが好ましく、1〜20nmの銀微粒子がより好ましい。
固体電荷移動層4の上には、腐食防止のための保護膜が形成されていることが好ましい。
【0026】
この色素増感太陽電池素子では、半導体粒子3の表面上に吸着した色素が光吸収することで、電子が励起されて電荷分離が起こる。半導体粒子3内に注入された電子は、導電性透明基板1に到達した後、外部負荷回路を通り、カソード電極である集電電極層5へ移動し、集電電極上で有機導電性ポリマーへ電子を放出するという、光励起で酸化された色素へ電子を受け渡す原理により、光電変換サイクルが行われる。
【0027】
特に、固体電荷移動層4に非ヨウ素系有機導電性ポリマーを用い、金属若しくはその化合物からなる集電電極層5を、固体電荷移動層4に接合させているので、接合の構造が簡単になり、製造の容易化、製造コストの低下が期待できる。また、非ヨウ素系有機導電性ポリマーと金属集電電極とが良好な界面を形成する、と考えられ、大きな電流密度で安定した電流を流すことができる。
<製造方法>
まず、導電性透明基板1の導電性薄膜1b上にバッファ層2を形成する。バッファ層2の形成方法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電解折出法、ティップコート法、ソルゲル法などが適用できる。
【0028】
次にバッファ層2上に、複数の半導体粒子3を設置する。設置方法は、スピンコート法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ドクターブレード法などの印刷プロセスを適用してもよく、電気泳動法、電析法、CVD法、スプレー法、スプレーパイロリシス法などの膜形成プロセスを適用してもよい。低コスト及び大面積化が可能である点で印刷プロセスが好ましい。
【0029】
バッファ層2上に半導体粒子3を設置した後に、半導体粒子3に色素を表面付着させる。色素の付着方法としては、溶媒に色素を溶解若しくは分散させてできた液体を、バッファ層2上に設置された半導体粒子3に塗布してもよく、あるいは真空プロセスで色素を半導体粒子3の表面に蒸着してもよい。前記の方法のうち塗布法が、コスト及び効率の点で好ましい。
【0030】
なお他の付着方法として、あらかじめ色素が表面付着した半導体粒子3をバッファ層2上に設置してもよい。あらかじめ半導体粒子3の表面に色素を付着させる方法としては、色素を溶媒に溶解若しくは分散させてできた液体中に半導体粒子3を浸漬する方法がある。このようにして溶媒に浸漬された半導体粒子3を、溶媒とともにそのままバッファ層2上に塗布して乾燥させる方法が、プロセスの連続性及びコストの点で好ましい。
【0031】
次に、有機導電性ポリマーからなる固体電荷移動層4を、前記バッファ層2上に、かつ前記複数の半導体粒子3の間に充填するようにして堆積させる。固体電荷移動層4は塗布法によって半導体粒子3層に堆積させてもよく、電解重合法によって堆積させても良い。
次に、集電電極層5を形成する。その形成方法には、フィルム上に形成した金属若しくは合金(金属、合金をまとめて「金属」という)又はその金属の化合物を、固体電荷移動層4に接合させる方法と、固体電荷移動層4上に、金属又はその金属の化合物を直接形成する方法がある。
【0032】
前者の場合、図2に示すように、アルミニウムなどの金属フィルムやプラスチックフィルム(代表して「フィルム」という)5aの表面に、金属又はその化合物の薄膜5bを、スパッタリングなどの蒸着法で付着させ、あるいは塗布法若しくは印刷法で堆積させて、固体電解移動層4上に載置して接合させる。このとき熱及び/又は圧力を加えて接合を促進することが好ましい。この方法では、フィルム5aがそのまま集電電極層5の保護膜となるので、別に保護膜で覆う工程を省略できる。
【0033】
後者の場合、図3に示すように、固体電荷移動層4上に直接、金属又はその化合物の薄膜5cを、塗布、蒸着などの方法で形成する。前記形成方法のうち、工程の簡素な塗布法を採用することが好ましい。塗布法を採用する場合、金属又はその化合物の粒子を有機溶媒に分散させ、スプレー法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ドクターブレード法、スピンコート法などの湿式プロセスによって固体電荷移動層4上に塗布して乾燥させる。このようして出来た固体電荷移動層4と集電電極層5との界面は、金属又はその金属の化合物からなる集電電極層5を固体電荷移動層4上に載置して接合させてできる界面よりも密着性が高く、高密度の電流が少ないロスで流れることが期待でき、高密度の電流が低損失で流れることが期待できる。
【0034】
その後、集電電極層5の上に、腐食防止のための保護膜6を形成して、色素増感太陽電池素子が完成する。
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0035】
<実施例1>
有機導電性ポリマーとしてPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)を使用し、集電電極層5として銀ペーストを使用して、固体型色素増感太陽電池素子を作製した。
まずFTO基板 (F-SnO2 でコートしたソーダライムガラス:シート抵抗13Ω/□, 日本板硝子製)をアノード基板として用い、ここへテトライソプロピルオルトチタネ―ト、水、エタノール、硝酸を混合して得られた溶液をスピンコート法により塗布して、100℃で50分、500℃で30分焼成し、酸化チタン層から成るバッファ層2を形成した。
【0036】
続いてその上に、ナノ結晶酸化チタンであるNanoxide-T: Solaronix粒子をドクターブレード法により塗布し、275℃〜500℃で40分焼成し、多孔質酸化チタン粒子からなる薄膜を形成した。
次にRu色素であるcis-Ru(dhtbpy)(dcbpy)(NCS)2, [dhtbpy = 4,4「-di(hexylthienylvinyl)-2,2「-bipyridyl; dcbpy = 4,4「-dicarboxy-2,2「-bipyridyl] を用いて、3.0×10-4 M のacetonitrile/tert-butanol (1:1, (v/v))溶液を調製し、得られた多孔質酸化チタン薄膜に塗布して、24時間、60℃で色素を吸着させた。
【0037】
その後、0.01 M 2,2「-bis(3,4-ethylene-dioxythiophene) (bis-EDOT, Azuma) 及び0.1 M lithium bis(trifluoromethane-sulfonyl)imide (LiTFSI, Fluka)を用いて、色素吸着した多孔質酸化チタン薄膜の上に、電解重合により有機導電性ポリマーPEDOT膜を形成した。
続いて、1-ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethan-sulfonyl)imide (EMIm-TFSI)中、0.2 M LiTFSI, 0.2 M tBP(4-tert-butylpyridine)となるよう調製し、これを有機導電性ポリマーPEDOT膜上に塗布後、12時間放置した。このようなイオン性液体を含む添加剤は、酸化チタン内での電子の核散長を増大させる効果があり、Jsc(短絡電流密度)やFF(フィルファクター)の向上が期待できる。
【0038】
最後に、銀の微粒子を含む銀ペーストを塗布して集電電極層5を形成し、色素増感太陽電池素子を得た。銀ペーストには、D-362, σ=〜1.4×105 S m-1(Fujikura Kasei)を用いた。
この製造方法では、有機導電性ポリマーPEDOTを酸化チタン半導体粒子3の隙間に充填した後、銀ペーストを薄く塗布して、空気中で乾燥処理するだけで集電電極が形成されるため、色素増感太陽電池素子の作製プロセスが簡単にできる。
【0039】
また、次のような動作機構上の利点がある。すなわち、集電電極として基板状の金属を固体電荷移動層4に物理的に接触させるのに比べ、銀ペーストを薄く塗布して空気中で乾燥処理するので、有機導電性ポリマーPEDOT /集電電極の界面の密着性が高まり、高密度の電流を効率よく流すことが期待できる。
(比較例1〜4)
比較例1〜4として、実施例1におけるカソード材料であった銀微粒子を、有機導電性ポリマーPEDOT/FTO、Au/FTO、FTO、又はカーボンペーストに置き換えた素子をそれぞれ同様に作製し、特性評価した。ここで「X/FTO」という表示は、フッ素ドープ酸化錫フィルムの上に物質“X”を塗布して、その“X”の塗布面を有機導電性ポリマーPEDOTに接合させた構造を意味する。カーボンペーストには XC-223, σ=〜3.3×103 S m-1(Fujikura Kasei)を用いた。
【0040】
得られた素子の受光部面積は0.30 cm2であった。山下電装製太陽光シミュレータ(YSS-80)、AM 1.5 (100 mW cm-2)にて評価を行った。
その結果を実施例1の場合と合わせて表1に示す。また、その際測定したJ-V(電流密度−電圧)曲線を図4に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1では、太陽電池素子の性能パラメータは、それぞれJsc(短絡電流密度):5.69mA・cm-2、Voc(開放電圧):0.781V、FF (フィルファクター) :0.72となり、η(光電変換効率)は3.19%となった。
比較例1〜4と比べると、Voc(開放電圧)については、導電率が一桁大きい銀ペースト(実施例1)の方が、Voc(開放電圧)の大きさが顕著に表れている(図4参照)。
【0043】
FF 因子を見ると、銀集電電極(実施例1)では0.72、有機導電性ポリマーPEDOT/FTO(比較例1)では0.63となっているので、銀集電電極(実施例1)のほうがFF 因子が向上することが示されている。
η(光電変換効率)については、集電電極として汎用されているAu/FTO(比較例2)などに比べ、銀ペースト材料を用いた素子(実施例1)のほうがη(光電変換効率)は著しく高くなっている。比較例1〜4では、光電変換効率は実施例1の半分以下の値にしかならない。
【0044】
このように、実施例1が、Voc(開放電圧)、FF 因子、η(光電変換効率)、Jsc(短絡電流密度)の各要素において優れている理由は、銀と有機導電性ポリマーPEDOTとの高い密着性にあると考えられる。これは、前述したように接触表面積が大きいことに加え、銀と有機導電性ポリマーPEDOTの硫黄原子との高い親和性に起因する相互作用が一因であると示唆される。つまり、HSAB 理論 (Hard-Soft Acid-Base Theory)に基づくと、銀や金は典型的な「ソフトな」金属であり、「ソフトな」硫黄原子と親和性がよく、PEDOTのような有機導電性ポリマーの硫黄原子と集電電極とが分子レベルで相互作用し、良好な界面を形成すると考えられる。
【0045】
Au/FTO(比較例2)の場合は、FTO(フッ素ドープ酸化錫)上に金を蒸着した電極を示している。この場合、金と有機導電性ポリマーPEDOTの硫黄原子との親和性の高さが期待できるにもかかわらず、光電変換効率に反映されていない点について明確な理由はわかっていないが、おそらくFTOに蒸着した金と固体電荷移動層4との接触表面積が小さくなると推定される。
【0046】
したがって、金粒子をペースト状にして固体電荷移動層4上に塗布した場合、銀ペーストと同様、有機導電性ポリマーの硫黄原子と相互作用し、良好な界面を形成し、大きな電流密度の許容値が得られると考えられる。よって金も、銀と同様、集電電極層5の有望な構成材料となる。金、銀以外に、銅、ニッケル、白金、鉄、亜鉛、モリブデン、タングステンを使用してもよい。
【0047】
また、カーボンペーストを用いた比較例4は、Jsc(短絡電流密度):4.90mA・cm-2、Voc(開放電圧):0.456V、FF (フィルファクター) :0.52、η(光電変換効率):1.17%と、それぞれ実施例1と比べて低い値になっているが、これは、カーボンペーストは銀ペーストよりも導電率σが2桁小さな値になっている(電流が流れにくい)ことが大きな要因のひとつと考えられる。
<実施例2>
集電電極材料に銀ペーストを用いて得られた色素増感太陽電池素子の安定性評価を行った。保護膜で封止せず、室温で暗所に保存し、一定経過時間ごとに光電変換効率ηを測定して得られた結果を図5に示す。少なくとも550時間性能が維持することを確認できた。これは、本発明の色素増感太陽電池素子の長寿命性を裏付けるデータとなる。
【符号の説明】
【0048】
1 導電性透明基板
2 バッファ層
3 色素が表面付着した半導体粒子
4 固体電荷移動層
5 集電電極層
6 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性透明基板と、
該導電性透明基板上に形成されたバッファ層と、
前記バッファ層上に設置され、色素が表面付着した複数の半導体粒子と、
前記バッファ層上に、前記複数の半導体粒子の周りを充填するように形成された固体電荷移動層と、
前記固体電荷移動層上に形成された集電電極層とを備え、
前記固体電荷移動層は非ヨウ素系有機導電性ポリマーを含み、前記集電電極層は、金、銀、銅、ニッケル、白金、鉄、亜鉛、モリブデン、タングステンからなる群から選ばれる一種以上の金属若しくはその化合物、又は前記群から選ばれる二種以上の金属の合金若しくはその化合物で形成されていることを特徴とする色素増感太陽電池素子。
【請求項2】
前記非ヨウ素系有機導電性ポリマーは、硫黄を含む有機導電性ポリマーである、請求項1に記載の色素増感太陽電池素子。
【請求項3】
前記硫黄を含む有機導電性ポリマーは、ポリチオフェン系化合物である、請求項2に記載の色素増感太陽電池素子。
【請求項4】
前記硫黄を含む有機導電性ポリマーは、チオフェン骨格から構成されるp型の有機半導体である、請求項2に記載の色素増感太陽電池素子。
【請求項5】
前記集電電極層を構成する金属は銀であり、粒子径が1〜50nmの銀粒子の形で存在している、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の色素増感太陽電池素子。
【請求項6】
導電性透明基板上にバッファ層を形成し、
前記バッファ層上に、複数の半導体粒子を設置するとともに、前記半導体粒子に色素を表面付着させ、
前記バッファ層上に、前記複数の半導体粒子の周りを充填するようにして、非ヨウ素系有機導電性ポリマーを含む固体電荷移動層を形成し、
前記固体電荷移動層の上に集電電極層として、金、銀、銅、ニッケル、白金、鉄、亜鉛、モリブデン、タングステンからなる群から選ばれる一種以上の金属若しくはその化合物、又は前記群から選ばれる二種以上の金属の合金若しくはその化合物を含有する金属層を形成することを特徴とする色素増感太陽電池素子の製造方法。
【請求項7】
前記金属層を形成する工程は、前記固体電荷移動層上に、前記金属層を構成する物質を含有するペーストを塗布する工程を含む、請求項6に記載の色素増感太陽電池素子の製造方法。
【請求項8】
前記金属層を構成する物質を含有するペーストは、粒子径1〜50nmの金属微粒子を有機溶媒に分散させたものである、請求項7に記載の色素増感太陽電池素子の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−108514(P2011−108514A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262783(P2009−262783)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】