説明

艶消し塗装の補修方法および艶消し塗料組成物

【課題】艶消し塗装された塗膜の不良部分を、艶感が均一となるように補修する方法を提供する。
【解決手段】平均粒径が異なる粒子状艶消し材[A]および[B]を含む塗料組成物であって、塗料組成物の固形分100重量部中に、前記艶消し材[A]を1〜20重量部、前記艶消し材[B]を4〜35重量部含み、前記艶消し材[A]および前記艶消し材[B]の合計が10〜40重量部である第1補修用艶消し塗料を補修部に塗装し、この補修部周辺に第1補修用艶消し塗料よりも光沢値が高い第2補修用艶消し塗料を塗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消し塗膜中に生じたブツ等の塗装不具合を補修する艶消し塗装補修方法、この補修に用いられる艶消し塗料組成物およびこの艶消し塗料組成物を用いた艶消し塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
塗膜の艶消し感は、塗料中に含まれる艶消し材が、焼き付け時に塗膜の表層に配向して塗装表面を凹凸にし、光が乱反射することにより発現するもので、艶消し塗膜とはこうした鏡面反射率が低い塗膜をいう。車両をはじめとする種々のものに適用されている。
【0003】
ところで、艶消し塗装された被塗物の艶消し塗膜に、ブツなどによる塗装不良が生じると、全面再塗装に代えて部分的に補修塗装することもある。
【0004】
この種の艶消し塗装の補修方法には、塗装不具合が生じている補修部を研いで異物を除去したのち、艶消し塗装に用いた塗料と同一種類(同一組成)の艶消し塗料を塗装して補修する方法がある。しかし、従来の補修方法では艶消し塗料が補修部周辺にも飛散し塗料ダストが付着することによる凸状部分が生成されるため、塗装面の外観が損なわれる。
【0005】
このため、補修部周辺の凸状部分を研磨する必要があり、補修工程での研磨に要する時間が長くかかり、またこうした凸状部分の研磨作業は機械化が困難であって人手によらなければならず、コストアップにもつながると言う問題があった。
【0006】
そこで、補修部をペーパーで研ぎ、補修用の艶消し塗料を塗布した後、塗料ダストにぼかし液(艶消し材を含む艶消しクリヤー塗料)をスプレー塗装し、最後に焼き付けを行うことにより、塗装ダストが凸状に残るのを目立たなくし、外観が損なわれないようにする補修方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の補修方法では、補修が施された補修部は、補修部周辺の塗装不良とされる凸状部の生成が抑制されるものの、艶感が部分的に異なるという問題がある。上述したように、塗膜の艶消し感は、塗料中に含まれる艶消し材が、焼き付け時に塗膜の表層に配向して塗装表面を凹凸にするため、光が乱反射することにより得られる。したがって、膜厚や焼き付け条件によって、艶消し塗料中の艶消し材の塗膜表層での配向が異なり、艶消し感が異なる。
【特許文献1】特開昭62−124160公報
【発明の開示】
【0008】
本発明は、艶消し塗装された塗膜の不良部分を、艶感が均一となるように補修する方法、この補修に用いられる艶消し塗料組成物およびこの艶消し塗料組成物を用いた艶消し塗膜を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の艶消し塗料は、平均粒径が異なる粒子状艶消し材[A]および[B]を含む塗料組成物であって、塗料組成物の固形分100重量部中に、前記艶消し材[A]を1〜20重量部、前記艶消し材[B]を4〜35重量部含み、前記艶消し材[A]および前記艶消し材[B]の合計が10〜40重量部であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の艶消し塗装の補修方法は、上記艶消し塗料を塗装して形成された艶消し塗膜の補修部を研ぐ工程と、前記補修部に前記艶消しクリヤー塗料と実質的に同一組成の第1補修用艶消し塗料を塗装する工程と、前記補修部周辺に前記第1補修用艶消し塗料よりも光沢値が高い第2補修用艶消し塗料を塗装する工程と、塗装された第1補修用艶消し塗料および第2補修用艶消し塗料を焼き付ける工程とを、有することを特徴とする。
【0010】
本発明では、艶消し材[A],[B]を含む艶消し塗料と実質的に同一組成の第1補修用艶消し塗料で補修部を塗装した後、第1補修用艶消し塗料より光沢値が高い、より具体的には平均粒径が6μm未満の艶消し材を含む、第2補修用艶消し塗料で補修部周辺を塗装するので、補修塗膜の膜厚や焼き付け条件が周囲の非補修部に対して変動しても、これに起因する艶消し材の補修塗膜表層における配向のばらつきが極めて小さくなり、非補修部と補修部との艶消し感をほぼ実質的に均一にすることができる。その結果、補修部と補修部周辺の艶感が均一となり商品性が確保でき、また、補修部と補修部周辺との境界を研磨する必要がないため、補修に要する時間も短縮できる。
【発明の実施の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《艶消し塗料組成物》
本例の塗料組成物は、粒径の異なる艶消し材[A],[B]を含み、塗料組成物の固形分100重量部中に、艶消し材[A]を1〜20重量部、艶消し材[B]である樹脂ビーズを4〜35重量部含み、艶消し材[A]および艶消し材[B]である樹脂ビーズの合計が10〜40重量部である。
【0012】
また、艶消し材[A]は平均粒径が1〜15μmの艶消し材であり、艶消し材[B]は平均粒径が2〜30μmの艶消し材であり、これら艶消し材[A],[B]の平均粒径の比[A]/[B]は、1/20〜1/2である。
【0013】
すなわち、本例の艶消し塗料に含有される艶消し材[A]は、平均粒径が1〜15μm、より好ましくは2〜10μmである。1μm未満であると、シェード部のマット感、陰影感が減少したり無くなったり、また、補修部と非補修部および補修部と補修部周辺の艶感が均一にならなくなる。一方、平均粒径が15μmを超えると、塗膜外観および補修部と非補修部および補修部と補修部周辺の塗装外観が悪くなり意匠性が低下する。
【0014】
艶消し材[A]としては、市販されている不定形の艶消し材を使用することができ、例えば、シルクプロテイン(絹粉砕品)、ポリエチレンワックスなどの有機艶消し材、タルク・炭酸カルシウム、クレイ、カオリン、シリカなどの体質顔料等を挙げることができる。
【0015】
この艶消し材[A]は、塗料組成物の固形分100重量部中に、1〜20重量部含むことが好ましく、より好ましくは6〜18重量部である。1重量部未満であると、シェード部のマット感や陰影感が減少したりなくなったりする。一方、20重量部を超えると、傷による艶上がりが生じてしまう。
【0016】
特に本例においては、艶消し材[B]である樹脂ビーズを配合することにより、傷による艶上がりが生じにくくなる。
【0017】
艶消し材[B]である樹脂ビーズは、平均粒径が、好ましくは2〜30μm、より好ましくは5〜20μmである。2μm未満であると、艶消し効果が少なく、一方、30μmを超えると、塗膜外観が悪くなり意匠性が低下する。なお、艶消し材[B]である樹脂ビーズは、透明な樹脂ビーズであっても着色されていてもよい。
【0018】
本例の樹脂ビーズとしては、例えば、アクリル樹脂ビーズ、ウレタン樹脂ビーズ、ポリエステル樹脂ビーズ、ポリアミド樹脂ビーズ、ポリスチレン樹脂ビーズ、ポリエチレン樹脂ビーズ、メラミン樹脂ビーズ、尿素樹脂ビーズ、フツ素樹脂ビーズ、ポリアクリロニトリル樹脂ビーズ等を挙げることができる。
【0019】
艶消し材[B]である樹脂ビーズは、塗料組成物の固形分100重量部中に、4〜35重量部含むことが好ましい。4重量部未満であると、傷による艶上がりが生じる一方で、35重量部を超えると、傷による艶上がりは良いが、塗膜外観が悪くなり意匠性が低下する。
【0020】
本例においては、艶消し材[A]および艶消し材[B]である樹脂ビーズの合計は、塗料組成物の固形分100重量部中、10〜40重量部であることが好ましい。10重量部未満であると、低光沢の塗膜、つまり所望の艶消し感を有する塗膜を得ることができない。一方、40重量部を超えると、塗膜の凝集力が低下し、傷が付きやすくなる。
【0021】
本例の艶消し塗料組成物は、樹脂バインダー、必要に応じて硬化剤および添加剤を含む。
【0022】
本例の艶消し塗料組成物に含まれる樹脂バインダーとしては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂等を挙げることができる。この樹脂バインダーは、塗料組成物が溶剤系の場合には、用いる溶剤に溶解する樹脂であり、艶消し材[B]である樹脂ビーズとは異なるものである。また、この樹脂バインダーは、数平均分子量が1000〜30000であることが好ましい。1000未満であると、塗膜物性に劣り、30000を超えると、塗料組成物自体の粘度が高くなり、塗装作業性に劣る。
【0023】
本例の艶消し塗料組成物に含まれる硬化剤としては、特に限定されず、上記樹脂バインダーに応じて選択することができ、たとえばメラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0024】
本例の艶消し塗料組成物に含まれる添加剤としては、従来公知の添加剤、例えば、表面調整剤、粘性制御剤、ワキ防止剤、有機溶剤等を挙げることができる。
【0025】
この粘性制御剤としては、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドのリン酸塩等のポリアマイド系のものや、酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体等のポリエチレン系のものや、有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイトなどの有機ベントナイド系のものや、ケイ酸アルミ、硫酸バリウム等の無機顔料や、顔料の形状により粘性が発現する扁平顔料等が挙げられる。
【0026】
本例の艶消し塗料組成物の塗料形態は、溶剤系、ハイソリッド系、水性系又は粉体系の何れであってもよく、1液型、2液型、多液型等を問わない。また、色相も淡彩色、濃彩色を問わない。
【0027】
本例の艶消し塗料組成物は、艶消し材[A],[B]や樹脂バインダー、硬化剤、添加剤のほかに、さらに、着色顔料および/又は体質顔料を含むことができる。
【0028】
本例の艶消し塗料組成物に含まれる着色顔料としては、特に限定されず、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等の有機系着色顔料や、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等の無機着色顔料等が挙げられる。
【0029】
本例の艶消し塗料組成物に含まれる体質顔料としては、艶消し材[A]において例示した体質顔料を挙げることができる。艶消し効果を目的とせずに体質顔料として添加する場合には、平均粒径が1〜15μmのもので、かつ、塗料組成物の固形分100重量部中、3重量部以下で添加することができる。
【0030】
本例の艶消し塗料組成物に含まれる顔料としては、着色頗料および体質顔料のなかから、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
本例の艶消し塗料組成物は、上述した塗料形態に応じて、艶消し材[A],[B]並びに顔料、樹脂バインダーその他の成分を、サンドグラインダーミル、ディスパー等を用いて混練、分散する等の、当業者に周知の方法によって得ることができる。
【0032】
本例の艶消し塗料組成物は、種々の基材、例えばプラスチック、金属、ガラス、発泡体およびこれらの成形品等に用いることができる。また、塗装した塗膜の上に本例の艶消し塗料を塗装して使用することもできる。
【0033】
上記基材は予めプライマーを塗装したものが好ましく、その上にウェット・オン・ウェットで本例の塗料組成物を上塗り塗料として塗装し、これを乾燥させることで塗膜化することができる。プライマーとしては、通常プライマーとして要求される性質、すなわち、基材および本例の塗料組成物から形成される塗膜との密着性、並びに、耐溶剤性、塗膜硬度等が良好であるものであれば特に限定されず、既存のものを使用することができる。
【0034】
本例の塗料組成物を上記基材に塗布する方法としては特に限定されず、例えば、スプレー塗装、ロールコーター法等を挙げることができ、通常、乾燥膜厚20〜40μmに塗装することができる。上記乾燥、塗膜化する方法としても特に限定されず、例えば、常温乾燥、強制乾燥、常温硬化、焼き付け硬化等を挙げることができる。焼き付け時間としては、80〜150℃で5〜30分等を挙げることができる。
【0035】
艶消しクリヤーの下層であるベースコートには、顔料、光輝剤が含まれていても良く、また顔料や光輝剤が含まれていなくても良い。
【0036】
本例の塗料組成物から形成される塗膜は、60度光沢値が、好ましくは1〜60、より好ましくは5〜40である。本明細書における60度光沢値とは、JIS−K−5400−6.7に準拠して行う60度における鏡面反射率を意味するものである。この60度光沢値が1未満であると、傷による艶上がりが生じてしまう一方で、60を超えると、マット感がなくなる。
【0037】
以上が、本発明の実施形態に係る艶消し塗料組成物であり、着色顔料などの着色材を含まない透明乃至白濁のものを特に艶消しクリヤー塗料と称し、着色材を含むものを単に艶消し塗料と称する。また、以下に説明する艶消し塗装の補修方法において用いられる塗料は補修用塗料と称し、特にこの補修用塗料が艶消し材を含む場合は補修用艶消し塗料と称することで、正規の塗装工程で用いられる塗料と、補修工程で用いられる塗料とを明確化する。
【0038】
《艶消し塗装の補修方法》
次に、図1〜図6を参照して本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第1実施形態を説明する。
【0039】
図1に示す積層塗膜は、鋼板などの材料により構成される被塗物1の表面に、電着塗装などに代表される下塗り塗膜2を形成し、この下塗り塗膜2の表面に中塗り塗膜3を形成し、さらに中塗り塗膜3の表面に上塗りベース塗膜4を形成し、この上塗りベース塗膜4の表面に、上述した艶消し塗料(ここでは特に艶消しクリヤー塗料)による艶消しクリヤー塗膜5を形成したものである。なお、下塗り塗膜2、中塗り塗膜3はそれぞれ独立して焼付け硬化させ、上塗りベース塗膜4と艶消しクリヤー塗膜5はウェット・オン・ウェットで塗装したのち同時に焼付け硬化させる。
【0040】
さて、同図に示すように、艶消しクリヤー塗膜5に異物(いわゆるブツ)10が付着した場合の補修方法を説明する。
【0041】
本例の補修方法では、図2に示すように、まず艶消しクリヤー塗膜5(焼き付け硬化されている)に埋没するように付着した異物10を除去するためにサンドペーパーなどの研磨材を用いて研ぐ工程を有する。この研磨工程では、異物10を除去するとともに、除去した異物10の周囲を平滑にする。この範囲を補修部11という(図6参照)。
【0042】
次いで、図3に示すように、この補修部11に、艶消しクリヤー塗膜5を形成する艶消しクリヤー塗料と同一種類(同一組成)の艶消しクリヤー塗料6を塗装する。この艶消しクリヤー塗料は、艶消しクリヤー塗膜5を形成する艶消しクリヤー塗料と同じ塗料であるが、補修工程で用いることから、特に第1補修用艶消し塗料6と称する。
【0043】
つまり、第1補修用艶消し塗料6は、粒径の異なる艶消し材[A],[B]を含み、塗料組成物の固形分100重量部中に、艶消し材[A]を1〜20重量部、艶消し材[B]である樹脂ビーズを4〜35重量部含み、艶消し材[A]および艶消し材[B]である樹脂ビーズの合計が10〜40重量部であって、艶消し材[A]は平均粒径が1〜15μmの艶消し材であり、艶消し材[B]は平均粒径が2〜30μmの艶消し材であり、これら艶消し材[A],[B]の平均粒径の比[A]/[B]は、1/20〜1/2である塗料である。
【0044】
次いで、図4に示すように、上記の第1補修用艶消し塗料6を硬化させないで、ウェット・オン・ウェットで、補修部11の周辺に第2補修用艶消し塗料7を塗装する。この第2補修用艶消し塗料7は、補修部11に塗装した第1補修用艶消し塗料6より光沢値が高い艶消し塗料であって、具体的には平均粒径が6μm以下の艶消し材を含む塗料である。さらに具体的には、上述した艶消しクリヤー塗膜を形成する艶消しクリヤー塗料から粒径が大きい艶消し材[B]である樹脂ビーズを除いた艶消しクリヤー塗料である。
【0045】
この第2補修用艶消し塗料7は、第1補修用艶消し塗料6を塗布した補修部11の周辺に塗装する。図6に示すように、補修部周辺とは補修部11の外縁と一部オーバーラップする円周領域をいう。
【0046】
さらに、図5に示すように、補修部11と非補修部との境界部、換言すれば第1補修用艶消し塗料6及び第2補修用艶消し塗料7が塗装された部分と、これらが塗装されていない部分との境界部に、第1補修用艶消し塗料6及び第2補修用艶消し塗料7の溶剤であるシンナーを塗布したのち、これら第1補修用艶消し塗料6及び第2補修用艶消し塗料7を、例えば80℃×30分の条件で同時に焼き付ける。なお、補修部と非補修部との境界部にシンナーを塗装する工程は必須のものではなく省略することもできる。また塗布するのはシンナーに限定されず、第1補修用艶消し塗料6及び第2補修用艶消し塗料7の溶剤であれば良く、たとえば第1及び第2補修用艶消し塗料が水系塗料の場合は水を境界部に塗装する。
【0047】
以上の補修工程により、補修部11および補修部周辺と補修部以外の部分との艶感が均一になり、補修部周辺を研磨する必要がなくなって研磨作業に要する時間を短縮できる。
【0048】
図7〜図11は、本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第2実施形態を示す塗膜断面図であり、図7に示す積層塗膜の構成は上述した第1実施形態の積層塗膜と同じである。
【0049】
ただし、ブツなどの異物10が上塗りベース塗膜4に付着した状態で艶消しクリヤー塗料が塗布され、その結果、図7に示すように異物10が上塗りベース塗膜4まで埋没する不具合となるケースである。
【0050】
本例の補修方法では、図8に示すように、まず上塗りベース塗膜に埋没した異物10を除去するために、サンドペーパーなどの研磨材を用いて研ぐ工程を有する。本例では、異物10が上塗りベース塗膜4にまで達しているので、艶消しクリヤー塗膜5だけでなく、上塗りベース塗膜4の一部も研ぎ出し、異物10を除去するとともに、除去した異物10の周囲を平滑にする。
【0051】
次いで、図9に示すように、この補修部11に、上塗りベース塗膜4を形成する上塗りベース塗料と同一種類(同一組成)の上塗りベース塗料9を塗装し、上塗りベース塗膜を形成する。さらに、同図に示すように、この補修部11の上塗りベース塗料9の上に、ウェット・オン・ウェットで、艶消しクリヤー塗膜5を形成する艶消しクリヤー塗料と同一種類(同一組成)の艶消しクリヤー塗料6を塗装する。
【0052】
この艶消しクリヤー塗料6は、艶消しクリヤー塗膜5を形成する艶消しクリヤー塗料と同じ塗料であるが、補修工程で用いることから、特に第1補修用艶消し塗料6と称する。
【0053】
つまり、第1補修用艶消し塗料6は、粒径の異なる艶消し材[A],[B]を含み、塗料組成物の固形分100重量部中に、艶消し材[A]を1〜20重量部、艶消し材[B]である樹脂ビーズを4〜35重量部含み、艶消し材[A]および艶消し材[B]である樹脂ビーズの合計が10〜40重量部であって、艶消し材[A]は平均粒径が1〜15μmの艶消し材であり、艶消し材[B]は平均粒径が2〜30μmの艶消し材であり、これら艶消し材[A],[B]の平均粒径の比[A]/[B]は、1/20〜1/2である塗料である。
【0054】
次いで、図10に示すように、上記の上塗りベース塗料9及び第1補修用艶消し塗料6を硬化させないで、ウェット・オン・ウェットで、補修部11の周辺に第2補修用艶消し塗料7を塗装する。この第2補修用艶消し塗料7は、補修部11に塗装した第1補修用艶消し塗料6より光沢値が高い艶消し塗料であって、具体的には平均粒径が6μm未満の艶消し材を含む塗料である。さらに具体的には、上述した艶消しクリヤー塗膜を形成する艶消しクリヤー塗料から粒径が大きい艶消し材[B]である樹脂ビーズを除いた艶消しクリヤー塗料である。
【0055】
この第2補修用艶消し塗料7は、第1補修用艶消し塗料6を塗布した補修部11の周辺に塗装する。本例においても、補修部周辺とは、図6に示す補修部11の外縁と一部オーバーラップする円周領域をいう。
【0056】
さらに、図11に示すように、補修部11と非補修部との境界部、換言すれば第1補修用艶消し塗料6及び第2補修用艶消し塗料7が塗装された部分と、これらが塗装されていない部分との境界部に、第1補修用艶消し塗料6及び第2補修用艶消し塗料7の溶剤であるシンナーを塗布したのち、これら上塗りベース塗料9、第1補修用艶消し塗料6及び第2補修用艶消し塗料7を、例えば80℃×30分の条件で同時に焼き付ける。なお、補修部と非補修部との境界部にシンナーを塗装する工程は必須のものではなく省略することもできる。また塗布するのはシンナーに限定されず、第1補修用艶消し塗料6及び第2補修用艶消し塗料7の溶剤であれば良く、たとえば第1及び第2補修用艶消し塗料が水系塗料の場合は水を境界部に塗装する。
【0057】
以上の補修工程により、補修部11および補修部周辺と補修部以外の部分との艶感が均一になり、補修部周辺を研磨する必要がなくなって研磨作業に要する時間を短縮できる。
【実施例】
【0058】
表1は艶消しクリヤー塗膜の性能試験結果、図1および図2は本発明の艶消し塗装補修方法を示す。
【0059】
《塗板の作製》
実施例1〜10及び比較例1〜6の塗板は以下のようにして作製した。
【0060】
まず、リン酸亜鉛処理した厚さ0.8mm、70mm×150mmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(日本ペイント社製カチオン型電着塗料パワートップU600M)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装した後、160℃で30分間焼き付けた。その後、グレー中塗り塗料(日本油脂社製ハイエピコNo.560)を30μm塗装し、140℃で30分間焼き付けた。
【0061】
次に、第1層(ベースコート塗膜層)および第2層(艶消しクリヤー塗膜層)からなる積層塗膜を形成した。第1層は、溶剤型黒色塗料(日本油脂社製2液型ウレタン塗料ハイウレタンNo.7000)を乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装し、第2層は、溶剤型艶消しクリヤー塗料(日本合成化学工業社製ゴーセプレンA−1001に住友バイエルウレタン社製イソシアネート・スミジュールN75を100/30で混合したもの)を乾燥膜厚が30μmとなるようにウェット・オン・ウェットでスプレー塗装し、その後、80℃で30分間焼き付けた。
【0062】
なお、実施例1〜10及び比較例1〜6それぞれの、第2層を構成する溶剤型艶消しクリヤー塗料に含まれる艶消し材[A]の平均粒径、艶消し材[B]の平均粒径、艶消し材[A],[B]の含有量は表1のとおりである。
【0063】
《補修方法》
上記のようにして作製された実施例1〜10及び比較例1〜6のそれぞれの塗板について、図1〜図5に示す第1実施形態に係る補修方法と、図7〜図11に示す第2実施形態に係る補修方法を用いて補修した。その際に用いた第1補修用艶消し塗料は先に塗装された艶消しクリヤー塗料と同じ塗料であって、艶消し材[A]の平均粒径、艶消し材[B]の平均粒径、艶消し材[A],[B]の含有量は表1のとおりである。
【0064】
また、第2補修用艶消し塗料に含有される艶消し材の平均粒径と、この艶消し材の含有量は表1のとおりである。
【0065】
《塗膜性能》
得られた塗板の塗膜(補修前)の艶感は、非補修部を、光沢計を用いて60度光沢で評価し、光沢値が30度以下を◎、30〜60を○、60〜80を△、80以上を×とした。
【0066】
また、補修後の補修部と非補修部との艶感の差は目視にて評価し、艶感に全く差がないときを○、艶感に殆ど差がないときを△、艶感に差があるときを×とした。これらの結果を表1に示す。
【表1】

【0067】
この結果から明らかなように、実施例1〜10の補修部と非補修部との艶感の差は、比較例1〜6に比べて良好である。
【0068】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第1実施形態を示す塗膜断面図(補修前)である。
【図2】本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第1実施形態を示す塗膜断面図(研磨工程)である。
【図3】本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第1実施形態を示す塗膜断面図(第1補修用艶消し塗料塗装工程)である。
【図4】本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第1実施形態を示す塗膜断面図(第2補修用艶消し塗料塗装工程)である。
【図5】本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第1実施形態を示す塗膜断面図(シンナー塗装工程)である。
【図6】本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第1実施形態を示す塗膜断面図であり、補修部、補修部周辺及び補修部と非補修部の境界部の別を示す。
【図7】本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第2実施形態を示す塗膜断面図(補修前)である。
【図8】本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第2実施形態を示す塗膜断面図(研磨工程)である。
【図9】本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第2実施形態を示す塗膜断面図(上塗りベース塗料塗装工程、第1補修用艶消し塗料塗装工程)である。
【図10】本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第2実施形態を示す塗膜断面図(第2補修用艶消し塗料塗装工程)である。
【図11】本発明に係る艶消し塗装の補修方法の第2実施形態を示す塗膜断面図(シンナー塗装工程)である。
【符号の説明】
【0070】
1…被塗物
2…下塗り塗膜
3…中塗り塗膜
4…上塗りベース塗膜
5…艶消しクリヤー塗膜
6…第1補修用艶消し塗料
7…第2補修用艶消し塗料
8…シンナー
9…上塗りベース塗料
10…異物
11…補修部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が異なる粒子状艶消し材[A]および[B]を含む塗料組成物であって、塗料組成物の固形分100重量部中に、前記艶消し材[A]を1〜20重量部、前記艶消し材[B]を4〜35重量部含み、前記艶消し材[A]および前記艶消し材[B]の合計が10〜40重量部であることを特徴とする艶消し塗料。
【請求項2】
前記艶消し材[A]の平均粒径が1〜15μm、前記艶消し材[B]の平均粒径が2〜30μmであり、これら艶消し材[A]および[B]の平均粒径の比[A]/[B]が、1/20〜1/2であることを特徴とする請求項1記載の艶消し塗料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の艶消し塗料を塗装して形成された艶消し塗膜の補修部を研ぐ工程と、前記補修部に前記艶消しクリヤー塗料と実質的に同一組成の第1補修用艶消し塗料を塗装する工程と、前記補修部周辺に前記第1補修用艶消し塗料よりも光沢値が高い第2補修用艶消し塗料を塗装する工程と、塗装された第1補修用艶消し塗料および第2補修用艶消し塗料を焼き付ける工程とを、有することを特徴とする艶消し塗装の補修方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の艶消し塗料を、先に塗装されたベースコート塗料の上に塗装して形成された艶消し塗膜の補修部を研ぐ工程と、前記補修部に前記ベースコート塗料を塗装する工程と、塗装された前記ベースコート塗料の上に前記艶消し塗料と実質的に同一組成の第1補修用艶消し塗料を塗装する工程と、前記補修部周辺に前記第1補修用艶消し塗料よりも光沢値が高い第2補修用艶消し塗料を塗装する工程と、塗装されたベースコート塗料、第1補修用艶消し塗料および第2補修用艶消し塗料を焼き付ける工程とを、有することを特徴とする艶消し塗装の補修方法。
【請求項5】
前記第2補修用艶消し塗料は、平均粒径が6μm未満の艶消し材を含むことを特徴とする請求項3または4に記載の艶消し塗装の補修方法。
【請求項6】
前記ベースコート塗料又は前記艶消し塗料が、着色顔料および/または光輝材を含むことを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載の艶消し塗装の補修方法。
【請求項7】
前記焼き付ける工程において、前記補修部と非補修部との境界部分に溶剤を塗布した後に、焼き付けを行うことを特徴とする請求項3〜6の何れかに記載の艶消し塗装の補修方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の艶消し塗料を塗装してなることを特徴とする艶消し塗膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−84726(P2007−84726A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276526(P2005−276526)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】