説明

艶消粉体塗料組成物及び塗膜形成方法

【課題】低温硬化性及び耐水性に優れ、光沢が安定し、表面平滑性に優れた塗膜を形成する艶消粉体塗料組成物及び塗膜形成方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、β−ヒドロキシアルキルアミド架橋剤及び体質顔料として炭酸カルシウムと硫酸バリウムを含む複数の粉体塗料組成物を乾式混合して得られる艶消粉体塗料組成物及び基材に該艶消粉体塗料組成物を塗装する塗膜形成方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温硬化性及び耐水性に優れ、光沢が安定し、表面平滑性に優れた塗膜を形成する艶消粉体塗料組成物及び塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体塗料は、塗装時に有機溶剤の大気中への揮発がないことから、低公害型の塗料として注目されている。特にポリエステル樹脂と架橋剤を組み合わせて用いるポリエステル樹脂系粉体塗料は、優れた塗膜性能から、鋼製家具、電化製品、自動車部品等の金属製品に適用される塗料として知られている。これらの金属製品に高級な質感を付与するために艶消し塗膜が要求される場合がある。
【0003】
ポリエステル樹脂系粉体塗料において艶調整する手法として、従来からシリカ等の艶消し材やワックスを添加する手法が知られている。しかしながら、塗装して得られる塗膜の60度鏡面光沢度を30〜40程度の低光沢に調整するためには艶消し材やワックスの添加量を多くする必要があり、そのため表面平滑性が低下する可能性が懸念される。
【0004】
また、特許文献1には、酸価が70mgKOH/g以上のゲル化していないポリエステルと酸価が10〜50mgKOH/gのゲル化していないポリエステル及びヒドロキシルアルキルアミド系硬化剤からなる粉体塗料用ポリエステル樹脂組成物が記載されている。しかし、塗料製造時の混練条件や、塗装後の焼付温度により塗膜の光沢が変動する問題が懸念される。さらに塗膜に耐湿負荷を与えると白化したり、素地からのハガレが生じる問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−7944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低温硬化性及び耐水性に優れ、光沢が安定し、表面平滑性に優れた塗膜を形成する艶消粉体塗料組成物及び塗膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
1.カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、β−ヒドロキシアルキルアミド架橋剤及び体質顔料として炭酸カルシウムと硫酸バリウムを含む複数の粉体塗料組成物を乾式混合して得られる艶消粉体塗料組成物、
2.乾式混合する粉体塗料組成物が2種類である1項に記載の艶消粉体塗料組成物、
3.一方の粉体塗料組成物が含むカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の酸価が10〜40mg/KOHの範囲内であり、且つ他方の粉体塗料組成物が含むカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の酸価が45〜200mg/KOHの範囲内である2項に記載の艶消粉体塗料組成物、
4.前記粉体塗料組成物が含むカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の一部又は全部が分岐型ポリエステル樹脂である2項又は3項に記載の艶消粉体塗料組成物、
5.上記酸価が10〜40mg/KOHの範囲内カルボキシル基含有ポリエステル樹脂と酸価が45〜200mg/KOHのカルボキシル基含有ポリエステル樹脂との質量比が、固形分として30:70〜90:10の範囲内となるように2種類の粉体塗料組成物を混合して得られるである3項又は4項に記載の艶消粉体塗料組成物
6.基材に1〜5項のいずれか1項記載の艶消粉体塗料組成物を塗装する塗膜形成方法
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の艶消粉体塗料組成物は、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、β−ヒドロキシアルキルアミド架橋剤及び体質顔料として炭酸カルシウムと硫酸バリウムを含む複数の粉体塗料組成物を乾式混合して得られるものであり、低温硬化性及び耐水性に優れ、光沢が安定し、表面平滑性に優れた塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の艶消粉体塗料組成物は、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、β−ヒドロキシアルキルアミド架橋剤及び体質顔料として炭酸カルシウムと硫酸バリウムを含む複数の粉体塗料組成物を乾式混合して得られる。
【0010】
本発明において、乾式混合とは、いわゆるドライブレンドのことであり、2種以上の粉体を液体の分散媒体を用いることなく乾燥状態で混合する方法を意味する。この乾式混合は、室温で行なうことができるが、後述する粉体塗料組成物に含まれる樹脂の融点未満の温度条件下で行なうことが、製品の品質や製造時の作業性の点から好ましい。該粉体塗料組成物に含まれる樹脂が複数である場合においては、融点が最も低い樹脂の融点以下で乾式混合を行なうことが好ましい。融点とは、示差走査熱量計(DSC)により昇温速度20℃/分で測定した値を、軟化点とは、JIS K7206の方法により求められるビカット軟化温度を意味する。
【0011】
本発明において乾式混合せしめる複数の粉体塗料組成物は、各々にカルボキシル基含有ポリエステル樹脂を含有する。具体的には、一塩基酸や多価カルボン酸を主成分とした酸成分と、アルコール成分を原料として通常の方法で重縮合反応することにより得ることができる。
【0012】
本発明においては特に二官能成分と三官能成分とを併用して合成される分岐型カルボキシル基含有ポリエステル樹脂を使用することが、低温硬化性の点から好ましい。ここで低温硬化性とは、140℃〜160℃で10〜20分間の加熱乾燥によって、優れた塗膜性能が得られることを意味する。
【0013】
上記酸成分としては、特に限定されず、例えば、安息香酸、クロトン酸、p−t−ブチル安息香酸などの一塩基酸や無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンニ酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ダイマー酸などのニ塩基酸及び、これらの酸の低級アルキルエステル化物や無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸などの3価以上の多塩基酸を用いることができる。
【0014】
また、アルコール成分としては、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコールなどの1価のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物などのニ価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールを用いることができる。これらのアルコール成分は単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
上記酸成分とアルコール成分とのエステル化又はエステル交換反応は、それ自体既知の方法によって行うことができ、例えば、前記酸成分とアルコール成分とを100〜250℃の温度で縮重合させることによって得ることができる。
【0016】
本発明においては、前記酸成分とアルコール成分とから水酸基を有するポリエステル樹脂を得た後にさらに、得られたポリエステル樹脂が有する水酸基に、マレイン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、ヘキサヒロド無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、などの多塩基酸を反応させることによって樹脂中にカルボキシル基を導入しカルボキシル基含有ポリエステル樹脂としたものを使用しても良い。
【0017】
本発明において乾式混合せしめる複数の粉体塗料組成物は、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂の架橋剤として、β−ヒドロキシアルキルアミドを含有する。β−ヒドロキシアルキルアミドとしては、一分子当たりの官能基を2個以上有しているものが、低温硬化性や塗装して得られる塗膜の耐湿性の点から特に好ましい。例えば、次式で示されるβ−ヒドロキシアルキルアミドを使用することができる。(ここで、nは1以上の整数を意味する。低温硬化性及び粉体塗料の耐ブロッキング性の点から、nは、3〜8の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、4〜6の範囲内である。)
【0018】
【化1】

【0019】
上記β−ヒドロキシアルキルアミドと前記カルボキシル基含有ポリエステル樹脂との配合割合は任意であるが、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂中のカルボキシル基とβ−ヒドロキシアルキルアミドが有する官能基との当量比が1/0.7〜0.7/1の範囲内となるような配合割合とすることが塗装して得られた塗膜の耐湿性や耐沸騰水性の点から好ましく、より好ましくは、1/0.9〜0.9/1の範囲内である。
【0020】
本発明において乾式混合せしめる複数の粉体塗料組成物は、体質顔料として、塗装して得られる塗膜の耐湿性や耐沸騰水性の点から炭酸カルシウム及び硫酸バリウムを含有する。
【0021】
炭酸カルシウムには、化学的合成によって得られる沈降性炭酸カルシウム(軽質タンカル)や大理石、石灰石、棘皮、動物化石等を粉砕して得られる天然産炭酸カルシウム(重質タンカル)がある。本発明においてはこれらのうちいずれも使用することができる。
【0022】
硫酸バリウムには、天然の重晶石と呼ばれるバライト鉱物の粉砕品(バライト粉)や化学反応で製造した沈降性硫酸バリウムとがある。粒子の大きさを選択することが可能な沈降性硫酸バリウムを使用することができる。
【0023】
粉体塗料組成物が体質顔料として炭酸カルシウムを含有し硫酸バリウムを含有しない場合には、塗装して得られた塗膜が、耐湿、耐水負荷を受けた際に塗膜光沢が低下する不都合を生じる場合がある。また、硫酸バリウムを含有するが、炭酸カルシウムを含有しない場合においては、耐湿、耐水負荷を受けた際に2次密着性が低下する不都合を生じる場合がある。
【0024】
体質顔料として、さらに含水珪酸マグネシウム(タルク)、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム(石膏)、珪藻土、マイカ(雲母粉)、クレー(カオリン)、シリカ等を使用しても良い。
【0025】
上記体質顔料としては、通常、平均粒径が0.01〜30μmであるものが好ましく、0.5〜10μmのものがさらに好ましい。平均粒径が30μmより大きい場合、薄膜時に外観不良になる恐れがあり、0.1μmより小さい場合は溶融分散が困難になる恐れがある。そしてその最大粒径は200μm以下が好ましく、50μm以下のものがさらに好ましい。
【0026】
上記体質顔料は、微粒子になるはど表面の活性が強く、凝集塊をつくりやすいので,凝集化を防止することやビヒクル形成成分との親和性を高めることを目的として、表面処理を行なったものを使用しても良い。表面処理としては、脂肪酸とその塩,樹脂酸,その他の有機カルポン酸とその塩及び界面活性剤などを単独又は併用処理や、チタネート系及びシラン系カップリング剤による処理、無機物の酸,アルカリ,シリカ、アルミナ,亜鉛化合物による表面処理を挙げることができる。
【0027】
上記体質顔料の含有量は、特に限定されないが、得られる塗膜の平滑性の点から、上記カルボキシル基含有ポリエステル樹脂と上記架橋剤との合計100質量部に対して5〜40質量部の範囲内であることが好ましく、10〜25質量部であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明において乾式混合せしめる複数の粉体塗料組成物は、さらに防錆顔料を含んでいてもよい。防錆顔料としては、塗料用として従来公知のものを使用することができ、例えば、リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、酸化亜鉛(亜鉛華)等を使用することができる。特に防錆力と塗料の貯蔵安定性の点から、トリポリリン酸二水素アルミニウムを使用することができる。さらに顔料表面を亜鉛、カルシウム、ナトリウム、マンガン、錫、チタン等の化合物で処理されたものを使用してもよい。
【0029】
本発明において、防錆顔料を使用する場合、その配合量は、塗膜の防錆性と平滑性の点から上記カルボキシル基含有ポリエステル樹脂と上記架橋剤との合計100質量部に対して、1〜20質量部の範囲内であることが好ましく、3〜10質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明において乾式混合せしめる複数の粉体塗料組成物は、さらに着色顔料を含んでいてもよい。該着色顔料としては、インク用、塗料用として従来公知の顔料を1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。着色顔料の具体例としては、酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物顔料、チタンイエロー等の複合酸化金属顔料、カーボンブラック、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサン系顔料、インジゴ系顔料等を挙げることができる。
【0031】
上記着色顔料の配合量は、得られる塗膜の着色力や仕上がり外観の点から上記カルボキシル基含有ポリエステル樹脂と上記架橋剤との合計100質量部に対して、1〜150質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜100質量部の範囲内である。
【0032】
本発明において乾式混合せしめる複数の粉体塗料組成物には、上記各成分の外に、必要に応じて通常の粉体塗料において用いられる光輝性顔料、流動性調整剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、表面調整剤、ワキ防止剤、帯電制御剤、硬化促進剤、エポキシ樹脂等を含有することができる。
【0033】
本発明において乾式混合せしめる複数の粉体塗料組成物のうちの1種類の粉体塗料組成物におけるカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の酸価は、10〜40mg/KOHの範囲内であり、且つ別の1種類の粉体塗料組成物におけるカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の酸価が45〜200mg/KOHの範囲内であることが、塗装して得られる塗膜の光沢や平滑性の点から好ましい。
【0034】
本発明の乾式混合せしめる複数の粉体塗料組成物は、公知の方法で製造することができるが例えば、上記カルボキシル基含有分岐型ポリエステル樹脂とβ−ヒドロキシアルキルアミド架橋剤、体質顔料及び必要に応じて配合せしめる成分を溶融混合後、冷却し粉砕することによって製造することができるが、溶融混合後に冷却したペレットの状態にしておいても良い。その場合は、複数の粉体塗料組成物のペレットを所定の比率となるように計量した後に粉砕すればよい。
【0035】
具体的には、上記成分を、混合、分散した後、押し出し混練機、一軸または二軸エクストルーダー等を使用して、通常80〜150℃程度で、溶融混合を行い、ペレット状とした後冷却する。これを衝撃粉砕機、気流式粉砕機等により微粉砕し、分級することにより、製造することができる。
【0036】
本発明の乾式混合せしめる複数の粉体塗料組成物の粒径は、体積平均粒径で10μm〜80μmの範囲内に調整することが粉体としての流動性や塗装して得られる塗膜の仕上がり外観及び平滑性の点から好ましく、20μm〜45μmの範囲内とすることがさらに好ましい。
【0037】
上記にて得られた各々の粉体塗料組成物を乾式混合して、艶消粉体塗料組成物を製造する方法について説明する。複数の粉体塗料組成物の混合比は以下のように決定することができる。
【0038】
本発明において乾式混合せしめる複数の粉体塗料組成物が2種類の場合、これらの粉体塗料組成物を混合して得られた艶消粉体塗料組成物においては、酸価が10〜40mg/KOHの範囲内カルボキシル基含有ポリエステル樹脂と酸価が40〜200mg/KOHのカルボキシル基含有ポリエステル樹脂との質量比が、固形分として30:70〜90:10の範囲内となるように複数の粉体塗料組成物の混合比を設定することが好ましい。高酸価ポリエステル樹脂の比率をこの範囲よりも高くすると、光沢を低下せしめる効果は上がらずに、高価な架橋剤を多く配合せしめることになり原材料費が高くなる。逆に高酸価ポリエステル樹脂の比率を下げると、十分に光沢を低下させることが困難になる。
【0039】
具体的な乾式混合方法としては次に示す2つの手法を挙げることができる。第1の手法は、粉砕、分級された粉粒体の粉体塗料組成物を所定の混合比となるように計量し、混合する方法である。粉砕には、衝撃粉砕機を使用することができ、混合には、容器回転型や機械攪拌型の粉粒体混合機を使用することができる。第2の手法は、原材料を溶融混錬し、冷却したペレット状態の粉体塗料組成物を、所定の混合比となるように計量し、粉砕、分級する方法である。この場合、粉砕から分級する工程が1回になるため、省工程の点から好ましい。
【0040】
本発明の塗膜形成方法は、基材に、上記の艶消粉体塗料組成物を乾燥膜厚として5〜500μmの塗膜を形成する。本発明で使用する基材は特に制限されるものではないが、合金化亜鉛めっき材、鋳鉄材、溶融亜鉛めっき材、マグネシウム合金材、アルミニウム・ダイキャスト材等の金属素材や、これらの金属素材に脱脂、化成処理等の表面処理を施した素材、さらに導電性プライマー等を塗布して導電処理したプラスチック素材及び前記素材を各種の方法で加工した加工品等を挙げることができる。
【0041】
本発明の艶消粉体塗料組成物を基材に塗装するには、静電塗装法、流動浸漬法、吹き付け法、インモールド等の公知の方法で行うことができるが、粉体塗装ガンを用いた静電粉体塗装法を採用することが好ましい。静電粉体塗装法とは、基材である金属素材を接地した後、コロナ帯電型塗装ガン、摩擦帯電型塗装ガン、例えばメサック社製の静電電界クラウド流動浸漬塗装装置等の粉体塗装装置を用いて粉体塗料組成物をスプレーする方法を意味する。
【0042】
上記コロナ帯電型塗装ガンを使用する場合、コロナ放電処理により艶消粉体塗料組成物に加える荷電圧は、好ましくは−50〜−100KV、さらに好ましくは塗着効率と仕上がり性の点から−60〜−90KVに設定する。一方、摩擦帯電型塗装ガンを使用する場合、粉体塗料 組成物の内部発生電流値は、塗着効率と仕上がり性の点から1.0〜8.0μAとなるように摩擦帯電処理することが好ましい。
【0043】
また、上記各塗装ガンの好ましい吐出量は、50〜400g/分、吐出圧は、4.9×104〜4.9×105Paである。さらに、塗装ガン先端から被塗基材までの距離は、10〜50cmが好ましく、これらの範囲で塗装することにより、粉体塗料 組成物の粒子を塗着効率良く、導電性被塗基材に静電的に付着させて粉体塗膜層を形成させることができる。
【実施例】
【0044】
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ここで「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0045】
1)ポリエステル樹脂1〜6の合成
温度計、攪拌機、加圧装置及び精留塔を具備した反応装置に、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン又はアジピン酸を表1に示す質量部投入し、攪拌しながら130℃まで昇温して透明は液体となった後にモノブチル錫オキサイト0.12部及びテレフタル酸を表1に示す質量部投入し、180℃まで昇温した。ついで内容物を180℃から240℃まで4時間かけて昇温し、昇温後、溶液が透明になるまで240℃に保持して。その後、精留塔を水分離器と置換し、反応装置にキシレン60部を投入し、水分離器にもキシレンを入れ、水とキシレンとを共沸させて縮合水を除去した。キシレン添加の30分後から10分毎にサンプリングを行ない、酸価を測定した。表1に示した酸価(反応停止時の酸価)となった時点で加熱を停止した。酸価の測定には、ピリジンを溶媒とし、1/10規定のアルコール性KOH溶液で滴定する方法を用いた。
【0046】
【表1】

【0047】
最後にキシレンを減圧除去して加熱残分100%のポリエステル樹脂1〜7を得た。得られたポリエステル樹脂1〜7の理論上のTg(ガラス転移温度)、酸価、Mn(数平均分子量)は、表1に示した通りである。
【0048】
2)粉体塗料組成物(ペレット)の調製
表2に示した組成(質量部)の原材料を、ハイスピードミキサー(商品名、深江工業株式会社製、容量2リットル)に投入し、アジテーター500rpm、チョッパー4000rpmで1分間攪拌して均一に混合し、次に80℃〜150℃の温度条件で押し出し混練機(商品名、ブスコニーダーPR46、ブス社製)を用いて溶融混練を行い、冷却して、粉砕前のペレット状の粉体塗料組成物1〜11を得た。
【0049】
【表2】

【0050】
3)艶消粉体塗料組成物の製造(乾式混合)
2)で製造した粉体塗料組成物をハンマーで粗粉砕し、表3に示した組成(質量部)となるように計量し、ハンマー式衝撃粉砕機で微粉砕した後、200メッシュの金網で分級することにより、平均粒径35μmの実施例1〜16及び比較例1〜8に使用する艶消粉体塗料組成物を得た。
【0051】
【表3】

【0052】
4)試験板の調製
3)で得られた艶消粉体塗料組成物を静電塗装機PG−1(商品名、松尾産業社製)を使用して基材(日本パーカライジング社製、パルボンド#3118にてリン酸亜鉛処理された0.8mm厚SPCC鋼板)に硬化膜厚が60μmになるように静電粉体塗装し、140℃に20分間素材温度を維持する条件、150℃に20分間素材温度を維持する条件及び160℃に20分間素材温度を維持する条件の3つの条件で加熱乾燥を行ない実施例及び比較例各々について3水準の試験板を得た。得られた試験板の塗膜性能の評価結果を表3に示した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の艶消粉体塗料組成物及び塗膜形成方法は、家電、鋼製家具、建材、道路資材、自動車等の部品等に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、β−ヒドロキシアルキルアミド架橋剤及び体質顔料として炭酸カルシウムと硫酸バリウムを含む複数の粉体塗料組成物を乾式混合して得られる艶消粉体塗料組成物。
【請求項2】
乾式混合する粉体塗料組成物が2種類である請求項1に記載の艶消粉体塗料組成物。
【請求項3】
一方の粉体塗料組成物が含むカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の酸価が10〜40mg/KOHの範囲内であり、且つ他方の粉体塗料組成物が含むカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の酸価が45〜200mg/KOHの範囲内である請求項2に記載の艶消粉体塗料組成物。
【請求項4】
前記粉体塗料組成物が含むカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の一部又は全部が分岐型ポリエステル樹脂である請求項2又は3に記載の艶消粉体塗料組成物。
【請求項5】
上記酸価が10〜40mg/KOHの範囲内カルボキシル基含有ポリエステル樹脂と酸価が45〜200mg/KOHのカルボキシル基含有ポリエステル樹脂との質量比が、固形分として30:70〜90:10の範囲内となるように2種類の粉体塗料組成物を混合して得られるである請求項3又は4に記載の艶消粉体塗料組成物。
【請求項6】
基材に請求項1〜5のいずれか1項記載の艶消粉体塗料組成物を塗装する塗膜形成方法。

【公開番号】特開2009−215372(P2009−215372A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58255(P2008−58255)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】