説明

芳香族アルデヒド化合物の製造方法

【課題】芳香環を有し、且つ、この芳香環を構成する炭素原子にメチル基が結合しているメチル基含有芳香族化合物を酸化させて、メチル基をアルデヒド基に変換する方法であって、変換効率が高く、メチル基含有芳香族化合物の構造に依存することなく、選択的且つ効率的に芳香族アルデヒド化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、反応溶媒として、メタノールを15体積%以上含む有機溶媒を用い、アントラキノン及びその誘導体から選ばれた少なくとも1種の触媒の存在下、上記メチル基含有芳香族化合物に、酸素を含むガスを接触させながら光を照射する工程を備える芳香族アルデヒド化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アルデヒド化合物の製造方法に関し、更に詳しくは、芳香環を有し、且つ、この芳香環を構成する炭素原子にメチル基が結合しているメチル基含有芳香族化合物を酸化させて、メチル基をアルデヒド基に変換する芳香族アルデヒド化合物の製造方法に関する。この芳香族アルデヒド化合物は、医薬品、殺虫剤、染料、香料等の製造中間体等として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、アルデヒド化合物の製造方法としては、メチル基の酸化反応、カルボキシル基の還元反応、ニトリル基の還元的加水分解反応等を利用した製造方法が知られている。
特許文献1には、光触媒としてアクリジニウムイオン誘導体の存在下、酸化剤として酸素を用い、アルキルベンゼンに光線を照射することにより、アルキルベンゼンを酸素化させ、芳香族アルデヒドを選択的に製造する方法が開示されている。
特許文献2には、脂肪族性炭化水素置換基を少なくとも1個有する芳香族炭化水素を低極性炭化水素溶媒中に溶解し、二酸化チタン等の光触媒の存在下に光照射することによって、この置換基をアルデヒド(CHO)基に変化させることを特徴とする芳香族アルデヒドの製造方法が開示されている。
また、特許文献3には、メチル基をアルデヒド基に光酸化するに際して、特定構造を有するハロゲン化芳香族ニトリル化合物からなる触媒の存在下に光酸化反応することを特徴とするアルデヒド類の製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献4には、芳香族カルボン酸の製造方法として、アセトニトリル等のニトリル化合物、酢酸エチル等のカルボン酸エステル化合物を反応溶媒として、1級アルカノール、2級アルカノール、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアルケニル基が芳香環に結合した芳香族化合物、及びベンジル位に水酸基を有するアルコール、のいずれかを反応基質とし、三環以上の多環式芳香族化合物(アントラセン、アントラキノン等)の存在下で光を照射しながら酸素と接触させる方法が開示されている。
また、この特許文献4には、4−tert−ブチルトルエンを、アセトニトリル溶媒中、アントラキノン触媒又はアントラセン触媒の存在下、光酸化させて、4−tert−ブチル安息香酸が、各々、収率90%及び75%をもって製造されたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−114735号公報
【特許文献2】特開2003−81905号公報
【特許文献3】国際公開WO2003−22431号公報
【特許文献4】特開2008−201747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法によれば、アルキルベンゼンとしてキシレン及びトルエンを用いた例が示されている。キシレンを酸化させた場合には、アルデヒドへの変換率が高い一方、トルエンを酸化させた場合には、未反応のトルエンが大量に残存しており、この製造方法は、基質依存性を有している。
本発明の課題は、芳香環を有し、且つ、この芳香環を構成する炭素原子にメチル基が結合しているメチル基含有芳香族化合物を酸化させて、メチル基をアルデヒド基に変換する方法であって、変換効率が高く、即ち、基質(メチル基含有芳香族化合物)の構造に依存することなく、選択的且つ効率的に芳香族アルデヒド化合物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特定の触媒を用い、メタノールを主とする反応溶媒において、メチル基含有芳香族化合物を酸化させて、メチル基を、カルボキシル基にではなく、アルデヒド基に選択的且つ効率的に変換し、芳香族アルデヒド化合物を製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下のとおりである。
1.芳香環を有し、且つ、この芳香環を構成する炭素原子にメチル基が結合しているメチル基含有芳香族化合物を酸化させて芳香族アルデヒド化合物を製造する方法であって、反応溶媒として、メタノールを15体積%以上含む有機溶媒を用い、アントラキノン及びその誘導体から選ばれた少なくとも1種の触媒の存在下、上記メチル基含有芳香族化合物に、酸素を含むガスを接触させながら光を照射する工程を備えることを特徴とする芳香族アルデヒド化合物の製造方法。
2.上記有機溶媒が、メタノール及び他の有機溶剤からなり、両者の体積を100体積%とした場合に、両者の割合が、それぞれ、20〜100体積%及び0〜80体積%である上記1に記載の芳香族アルデヒド化合物の製造方法。
3.上記他の有機溶剤が、ニトリル化合物及びケトン化合物から選ばれた少なくとも1種である上記2に記載の芳香族アルデヒド化合物の製造方法。
4.上記メチル基含有芳香族化合物が、下記一般式(1)で表される化合物である上記1乃至3のいずれかに記載の芳香族アルデヒド化合物の製造方法。
【化1】

[式中、Rは、炭素原子数2以上の炭化水素基、アルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基、ハロゲン原子、シリル基又はシロキシ基である。]
【発明の効果】
【0007】
本発明の芳香族アルデヒド化合物の製造方法によれば、基質の構造に依存することなく、メチル基からアルデヒド基への酸化を効率よく進めることができる。また、反応溶媒及び触媒として、汎用な材料を用いることができ、極めて低コストで、反応率を70モル%より高く(反応原料であるメチル基含有芳香族化合物の残存率が30モル%より低く)、反応生成物全体に占める芳香族アルデヒド化合物の割合を、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、特に好ましくは80モル%以上とすることができる。
【0008】
上記有機溶媒が、メタノール及び他の有機溶剤からなり、両者の体積を100体積%とした場合に、両者の割合が、それぞれ、20〜100体積%及び0〜80体積%である場合には、特に選択的且つ効率的に芳香族アルデヒド化合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例及び比較例で用いた反応装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の芳香族アルデヒド化合物の製造方法は、芳香環を有し、且つ、この芳香環を構成する炭素原子にメチル基が結合しているメチル基含有芳香族化合物を酸化させて芳香族アルデヒド化合物を製造する方法であって、反応溶媒として、メタノールを15体積%以上含む有機溶媒を用い、アントラキノン及びその誘導体から選ばれた少なくとも1種の触媒の存在下、上記メチル基含有芳香族化合物に、酸素を含むガス(以下、「酸素含有ガス」という。)を接触させながら光を照射する工程(以下、「光照射工程」という。)を備えることを特徴とする。
【0011】
上記メチル基含有芳香族化合物を構成する芳香環は、単環型及び多環型のいずれでもよい。また、芳香族炭素環及び複素環のいずれでもよく、好ましくは5〜8員環である。尚、複素環を構成する炭素原子以外の原子としては、N、O、S等が挙げられ、これらの原子は、複素環に1種のみ含まれてよいし、2種以上含まれてもよい。また、同一原子が、複素環に1つのみ含まれてよいし、2つ以上含まれてもよい。
【0012】
上記メチル基含有芳香族化合物を構成する炭素原子の数は、好ましくは5〜30、より好ましくは6〜22、更に好ましくは7〜14である。
また、上記メチル基含有芳香族化合物は、芳香環においてメチル基以外の置換基を有してもよく、例えば、炭化水素基、アルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基、ハロゲン原子、シリル基、シロキシ基等が挙げられる。これらの置換基は、上記芳香環に1つのみ結合されていてよいし、2つ以上(通常、3つ以下)結合されていてもよい。
上記炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基及び芳香族炭化水素基(ナフチル基、ビフェニレン基等を含む)のいずれでもよい。また、その炭素原子数は、好ましくは1〜40、より好ましくは2〜14である。
上記アルコキシ基としては、炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基を有するものが好ましい。
上記シロキシ基としては、炭素原子数3〜16の炭化水素基を有するものが好ましい。
【0013】
本発明において、好ましいメチル基含有芳香族化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化2】

[式中、Rは、炭素原子数2以上の炭化水素基、アルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基、ハロゲン原子、シリル基又はシロキシ基である。]
【0014】
上記一般式(1)で表される化合物のうち、Rが、好ましくは炭素原子数2以上の炭化水素基、より好ましくは炭素原子数3〜14の炭化水素基である化合物が、選択性に優れる。
尚、本発明において、芳香環を構成する炭素原子に、2つ以上のメチル基が結合しているメチル基含有芳香族化合物を酸化させた場合、すべてのメチル基がアルデヒド基に変換されず、通常、1つのメチル基がアルデヒド基となる。
【0015】
本発明に係る光照射工程において用いられる反応溶媒は、メタノールを15体積%以上、好ましくは20〜100体積%、より好ましくは25〜100体積%、更に好ましくは50〜100体積%含む有機溶媒である。上記反応溶媒が、メタノールを15体積%以上含むことにより、基質(メチル基含有芳香族化合物)の構造に依存することなく、選択的且つ効率的に芳香族アルデヒド化合物を製造することができる。また、基質の反応率を向上させることもできる。
尚、上記反応溶媒に対するメチル基含有芳香族化合物及び触媒の溶解性は、特に限定されない。即ち、メタノールを含む反応溶媒中に、メチル基含有芳香族化合物及び触媒が共存する限りにおいて、その溶解性に関わらず、選択的且つ効率的に芳香族アルデヒド化合物を製造することができる。従って、上記反応溶媒に対するメチル基含有芳香族化合物及び触媒の溶解性が低い場合には、反応系は、例えば、懸濁状態等であるが、この態様であっても、芳香族アルデヒド化合物を製造することができる。この場合、反応溶媒、メチル基含有芳香族化合物及び触媒の組み合わせによっては、反応が進行するにつれて、触媒が溶解し始めることがある。
【0016】
また、上記反応溶媒は、メタノールのみであってもよいが、メタノールと他の有機溶剤との組み合わせであってもよい。他の有機溶剤としては、メタノールとの相溶性を有するものが好ましく、例えば、ニトリル化合物、ケトン化合物、脂肪族エステル化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
上記ニトリル化合物としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
上記ケトン化合物としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセチルアセトン等が挙げられる。
また、上記脂肪族エステル化合物としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸ペンチル、プロピオン酸ヘキシル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、酪酸ペンチル、酪酸ヘキシル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、イソ酪酸ペンチル、イソ酪酸ヘキシル等が挙げられる。
【0018】
他の有機溶剤としては、ニトリル化合物及びケトン化合物が好ましく、ニトリル化合物としては、アセトニトリルが特に好ましい。
【0019】
本発明に係る光照射工程において用いられる触媒は、アントラキノン及びその誘導体から選ばれた少なくとも1種である。
【0020】
上記アントラキノンの誘導体としては、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【化3】

[式中、R〜R12は、それぞれ、同一又は異なって、水素原子、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基、シリル基、シロキシ基、炭素原子数1〜14の炭化水素基、又は、ハロゲン原子である。]
【0021】
上記触媒としては、アントラキノンの誘導体が好ましく、R及びR〜R12が水素原子であり、Rがカルボキシル基である、アントラキノン−2−カルボン酸が好ましい。
【0022】
上記触媒の使用量は、上記メチル基含有芳香族化合物に対して、好ましくは0.0001〜1当量、より好ましくは0.001〜0.5当量、更に好ましくは0.05〜0.3当量の範囲から選択される。上記触媒の使用量が0.0001〜1当量の範囲にあれば、芳香族アルデヒド化合物への変換を効率よく進めることができる。
【0023】
本発明における好ましい反応溶媒及び触媒の組み合わせは、以下に示される。
(a)反応溶媒がメタノール及びニトリル化合物からなり且つその割合が両者の合計を100体積%とした場合に、それぞれ、好ましくは25〜85体積%及び15〜75体積%、より好ましくは35〜80体積%及び20〜65体積%であり、触媒がアントラキノン誘導体であり、好ましくはアントラキノン−2−カルボン酸である態様
(b)反応溶媒がメタノール及びケトン化合物からなり且つその割合が両者の合計を100体積%とした場合に、それぞれ、好ましくは40〜90体積%及び10〜60体積%、より好ましくは45〜85体積%及び15〜55体積%であり、触媒がアントラキノン誘導体であり、好ましくはアントラキノン−2−カルボン酸である態様
(c)反応溶媒がメタノール及び脂肪族エステル化合物からなり且つその割合が両者の合計を100体積%とした場合に、それぞれ、好ましくは40〜55体積%及び45〜60体積%であり、触媒がアントラキノン誘導体であり、好ましくはアントラキノン−2−カルボン酸である態様
【0024】
本発明に係る光照射工程において用いられる酸素含有ガスの構成は、特に限定されず、酸素ガスであってよいし、空気であってもよい。即ち、酸素の含有量が好ましくは20体積%以上の酸素含有ガスを用いる。
【0025】
本発明に係る光照射工程においては、反応溶媒中、触媒の共存下、メチル基含有芳香族化合物に酸素含有ガスを接触させながら光を照射する。反応溶媒中におけるメチル基含有芳香族化合物の濃度は、光透過性の観点から、反応溶媒100質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは0.5〜80質量部、更に好ましくは0.8〜50質量部である。
【0026】
この工程の具体的な方法としては、以下に例示される。
(1)メチル基含有芳香族化合物、触媒及び反応溶媒を均一系とした後、酸素含有ガスを液面に供給し、光照射を行う方法
(2)メチル基含有芳香族化合物、触媒及び反応溶媒を均一系とした後、酸素含有ガスを液中に供給し、光照射を行う方法
【0027】
照射する光は、可視光線及び紫外線を用いることができる。自然の太陽光、キセノンランプ、水銀ランプ等の人工照明灯を用いることができる。
【0028】
光の照射時間、即ち、反応時間は、基質(メチル基含有芳香族化合物)の種類及び反応溶媒中における濃度、反応系の構成、光量等により異なるが、反応溶媒中における基質の濃度を1〜15体積%とした場合には、通常、1〜24時間、好ましくは1〜5時間である。尚、反応時間が長すぎると、芳香族アルデヒド化合物の収率が高くなる場合があるが、芳香族アルデヒド化合物以外の化合物が大量に副生する場合もある。
【0029】
上記光照射工程は、反応溶媒が揮発しない温度、例えば、15℃〜40℃の範囲の温度で行われる。
【0030】
本発明においては、上記光照射工程の後、未反応のメチル基含有芳香族化合物、触媒、反応溶媒等を除去するために、クロマトグラフィー、蒸留等を用いた精製工程を行うことにより、高純度の芳香族アルデヒド化合物を回収することができる。
クロマトグラフィーによる精製方法の一例としては、反応生成物を、薄層クロマトグラフィー(展開液として、例えば、ヘキサン/ジエチルエーテル=4/1)により展開、分離し、目的の芳香族アルデヒド化合物を回収することができる。
【0031】
本発明の芳香族アルデヒド化合物の製造方法によれば、メチル基含有芳香族化合物の構造に依存することなく、メチル基からカルボキシル基への酸化を抑制しつつ、メチル基からアルデヒド基への酸化を効率よく進めることができる。また、反応溶媒及び触媒として、汎用な材料を用いることができ、極めて低コストで、70モル%より高い反応率とすることができ、芳香族アルデヒド化合物への変換率を向上させることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
実施例1
基質(メチル基含有芳香族化合物)として、44.5mg(0.3mmol)の4−tert−ブチルトルエン、触媒として、3.8mg(0.015mmol、0.05equiv.)のアントラキノン−2−カルボン酸(以下、「AQC」という。)、及び、反応溶媒として、5mlのメタノールを、Pylex(登録商標)試験管に入れた。次いで、図1に示すように、試験管の開口部に酸素風船1を取付け、試験管内を酸素雰囲気とし、反応系を撹拌することなく、試験管の外側に配設した高圧水銀ランプを用いて、紫外光(400W)を、室温(25℃)にて2時間照射した。
その後、試験管の中の基質(未反応物)及び反応生成物の含有量を、H−NMR分析(溶媒:CDCl3、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析した。未反応の基質の含有量は、反応前の仕込み量を100モル%として算出した。また、反応生成物は、下記一般式(3)で表される化合物の混合物であり、4種の、異なるRを有する芳香族化合物の合計を100モル%として、各化合物の収率を算出した(表1参照)。
【化4】

[式中、Rは、−CHOH(以下、「R」で表す)、−CHOOH(以下、「R」で表す)、−CHO(以下、「R」で表す)、あるいは、−COOH(以下、「R」で表す)である。]
【0034】
実施例2
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、2.5mlのメタノール及び2.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0035】
実施例3
反応溶媒として、2.5mlのメタノール及び2.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒に代えて、3.0mlのメタノール及び2.0mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0036】
実施例4
反応溶媒として、2.5mlのメタノール及び2.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒に代えて、3.5mlのメタノール及び1.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0037】
実施例5
反応溶媒として、2.5mlのメタノール及び2.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒に代えて、4mlのメタノール及び1mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0038】
実施例6
反応溶媒として、2.5mlのメタノール及び2.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒に代えて、4.5mlのメタノール及び0.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0039】
実施例7
反応溶媒として、2.5mlのメタノール及び2.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒に代えて、2mlのメタノール及び3mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0040】
実施例8
反応溶媒として、2.5mlのメタノール及び2.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒に代えて、1.5mlのメタノール及び3.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0041】
実施例9
触媒として、AQCに代えて、2−tert−ブチルアントラキノン(以下、「2−tBu−AQN」という。)を用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0042】
実施例10
触媒として、AQCに代えて、アントラキノン(以下、「AQN」という。)を用いた以外は、実施例1と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0043】
実施例11
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、2.5mlのメタノール及び2.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0044】
実施例12
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、3mlのメタノール及び2mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0045】
実施例13
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、3.5mlのメタノール及び1.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0046】
実施例14
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、4mlのメタノール及び1mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0047】
実施例15
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、2mlのメタノール及び3mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0048】
実施例16
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、1.5mlのメタノール及び3.5mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0049】
実施例17
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、1mlのメタノール及び4mlのアセトニトリルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0050】
実施例18
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、2.5mlのメタノール及び2.5mlの酢酸エチルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0051】
実施例19
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、3mlのメタノール及び2mlの酢酸エチルからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0052】
実施例20
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、2.5mlのメタノール及び2.5mlのアセトンからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0053】
実施例21
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、3mlのメタノール及び2mlのアセトンからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0054】
実施例22
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、3.5mlのメタノール及び1.5mlのアセトンからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0055】
実施例23
反応溶媒として、5mlのメタノールに代えて、4mlのメタノール及び1mlのアセトンからなる混合溶媒を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表1に併記した。
【0056】
比較例1
反応溶媒として、メタノールに代えて、エタノールを用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0057】
比較例2
反応溶媒として、メタノールに代えて、イソプロピルアルコール(iPrOH)を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0058】
比較例3
反応溶媒として、メタノールに代えて、酢酸エチル(EtOAc)を用いた以外は、実施例10と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0059】
比較例4
反応溶媒として、メタノールに代えて、アセトンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0060】
比較例5
反応溶媒として、メタノールに代えて、クロロホルムを用いた以外は、実施例1と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0061】
比較例6
触媒として、AQNに代えて、AQCを用いた以外は、比較例6と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0062】
比較例7
触媒として、AQCに代えて、ローズベンガルを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0063】
比較例8
触媒として、AQCに代えて、メチレンブルーを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0064】
比較例9
触媒として、AQCに代えて、ピレンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0065】
比較例10
触媒として、AQCに代えて、ナフタセンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0066】
比較例11
触媒として、AQCに代えて、ヒドロキノンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0067】
比較例12
触媒として、AQCに代えて、ベンゾフェノンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0068】
比較例13
触媒として、AQCに代えて、ベンゾキノンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0069】
比較例14
触媒として、AQCに代えて、1,4−ナフトキノンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0070】
比較例15
試験管の雰囲気を、酸素雰囲気に代えて、アルゴン雰囲気とした以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造し、反応生成物を分析し、上記一般式(3)で示される成分の収率を表2に併記した。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
実施例24
基質として、4−tert−ブチルトルエンに代えて、トルエンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物(ベンズアルデヒド)を製造した。そして、芳香族アルデヒド化合物(ベンズアルデヒド)の収率を測定したところ、15モル%であった(表3参照)。他の反応生成物の収量は未測定である。
【0074】
【表3】

【0075】
実施例25
基質として、4−tert−ブチルトルエンに代えて、4−エチルトルエンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物(表4の下に記載)を分析し、その収率を表4に示した。
【0076】
実施例26
触媒として、AQCに代えて、AQNを用いた以外は、実施例25と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、反応生成物を分析し、その収率を表4に併記した。
【0077】
【表4】

【0078】
実施例27
基質として、4−tert−ブチルトルエンに代えて、4−メチルビフェニルを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、芳香族アルデヒド化合物の収率を測定したところ、75モル%であった(表5参照)。他の反応生成物の収量は未測定である。
【0079】
実施例28
基質として、4−tert−ブチルトルエンに代えて、4−メトキシトルエンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、芳香族アルデヒド化合物の収率を測定したところ、36モル%であった(表5参照)。他の反応生成物の収量は未測定である。
【0080】
実施例29
基質として、4−tert−ブチルトルエンに代えて、1,3,5−トリメチルベンゼンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、芳香族アルデヒド化合物の収率を測定したところ、69モル%であった(表5参照)。他の反応生成物の収量は未測定である。
【0081】
実施例30
基質として、4−tert−ブチルトルエンに代えて、1,2,4,5−テトラメチルベンゼンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、芳香族アルデヒド化合物の収率を測定したところ、49モル%であった(表5参照)。他の反応生成物の収量は未測定である。
【0082】
実施例31
基質として、4−tert−ブチルトルエンに代えて、2−メチルチオフェンを用いた以外は、実施例2と同様にして、芳香族アルデヒド化合物を製造した。そして、芳香族アルデヒド化合物の収率を測定したところ、23モル%であった(表5参照)。他の反応生成物の収量は未測定である。
【0083】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明により製造された芳香族アルデヒド化合物は、医薬品、殺虫剤、染料、香料等の製造中間体等として有用である。
【符号の説明】
【0085】
1:試験管
2:酸素風船

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環を有し、且つ、該芳香環を構成する炭素原子にメチル基が結合しているメチル基含有芳香族化合物を酸化させて芳香族アルデヒド化合物を製造する方法であって、
反応溶媒として、メタノールを15体積%以上含む有機溶媒を用い、アントラキノン及びその誘導体から選ばれた少なくとも1種の触媒の存在下、上記メチル基含有芳香族化合物に、酸素を含むガスを接触させながら光を照射する工程を備えることを特徴とする芳香族アルデヒド化合物の製造方法。
【請求項2】
上記有機溶媒が、メタノール及び他の有機溶剤からなり、両者の体積を100体積%とした場合に、両者の割合が、それぞれ、20〜100体積%及び0〜80体積%である請求項1に記載の芳香族アルデヒド化合物の製造方法。
【請求項3】
上記他の有機溶剤が、ニトリル化合物及びケトン化合物から選ばれた少なくとも1種である請求項2に記載の芳香族アルデヒド化合物の製造方法。
【請求項4】
上記メチル基含有芳香族化合物が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1乃至3のいずれかに記載の芳香族アルデヒド化合物の製造方法。
【化1】

[式中、Rは、炭素原子数2以上の炭化水素基、アルコキシ基、フェノキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、スルフェニル基、スルフィニル基、スルホニル基、ハロゲン原子、シリル基又はシロキシ基である。]

【図1】
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【公開番号】特開2010−202556(P2010−202556A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48546(P2009−48546)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【Fターム(参考)】