説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその製造方法

本発明は、少量の無機充填材で高弾性を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。本発明は、芳香族ポリカーボネート(A成分)100重量部および珪酸塩充填材(B成分)0.01〜50重量部からなる樹脂組成物の製造方法であって、(I)B成分は、(i)珪素原子に結合した加水分解性基および/または水酸基を含有する有機珪素化合物(B−1−i成分)および(ii)有機チタネート化合物(B−1−ii成分)から選択される少なくとも1種の化合物(B−1成分)を、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B−2成分)に導入してなる珪酸塩充填材であり、(II)A成分のポリマー前駆体を、B成分の存在下で、かつ重合触媒の実質的な非存在下において界面重縮合反応させる、ことを特徴とする樹脂組成物の製造方法および樹指組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、芳香族ポリカーボネートと層状珪酸塩からなる樹脂組成物に関する。更に詳しくは、層状珪酸塩として有機珪素化合物および/または有機チタネート化合物が導入された層状珪酸塩を使用し、該層状珪酸塩の存在下、かつ重合触媒の実質的非存在下において界面重縮合法により製造された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、並びにその製造方法に関する。更に本発明は、従来にない少量の珪酸塩充填材によって高弾性を発揮する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、寸法精度、および耐熱性に優れることから、精密機器、自動車、およびOA機器などに代表される幅広い分野において使用されている。またその機械特性や耐熱性を更に改良するため、種々の無機充填材が混合されたポリカーボネート樹脂組成物が使用されている。
近年、比較的少量の無機充填材の配合によって、高剛性の樹脂組成物を達成する技術が活発に研究されている。その目的の1つは、可能な限り低密度であって、かつ高剛性または低膨張(即ち、高寸法精度)の樹指材料を提供することにある。かかる技術の代表例として、いわゆる膨潤性の層状珪酸塩を微分散した樹脂組成物がある。
現在、該組成物の最も一般的な製造方法は、膨潤性層状珪酸塩の層間イオンを各種の有機オニウムイオンでイオン交換させた、いわゆる有機化層状珪酸塩を樹脂と溶融混練する方法である(以下“混練法”と称する場合がある)。他の製造方法としては、ポリマー前駆体で膨潤させた層状珪酸塩を作成し、該前駆体を重合反応させる方法である(以下“重合法”と称する場合がある)。重合法においては、ポリマー前駆体が層状珪酸塩と高い親和性を有することが求められ、主としてポリアミドにおいて多くの検討がされてきた。
例えば、12−アミノドデカン酸アンモニウムイオンでイオン交換した層状珪酸塩を、ε−カプロラクタムおよび水と混合した後ε−カプロラクタムを重合させ、得られた層状珪酸塩とポリアミドとの組成物を、ポリカーボネート樹脂と溶融混練する方法により製造された樹脂組成物が知られている(特許文献1参照)。該方法はポリアミド中に分散した層状珪酸塩をポリカーボネート樹脂組成物に利用する技術である。
また同様の技術的思想の下、ポリエステル樹脂と層状珪酸塩とからなる樹脂組成物を重合法により製造した後、該樹脂組成物をポリカーボネート樹脂と溶融混練する方法により製造された樹脂組成物が知られている(特許文献2参照)。
一方、ポリカーボネート樹脂においては、混練法を中心に膨潤性層状珪酸塩、特に有機化層状珪酸塩を含有する樹脂組成物が検討されてきた。例えば、ポリカーボネート樹脂および炭素数12以上のアルキル基を含有する有機オニウムイオンでイオン交換された層状珪酸塩を溶融混練してなる樹脂組成物が知られている(特許文献3参照)。
ポリカーボネート樹脂およびポリエチレングリコール鎖を含有する有機オニウムイオンでイオン交換された層状珪酸塩を溶融混練してなる樹脂組成物が知られている(特許文献4参照)。
またポリカーボネート樹脂と、カップリング剤で処理されかつ有機オニウムイオンでイオン交換された層状珪酸塩とを溶融混練してなる樹脂組成物が知られている(特許文献5参照)。該文献によれば、カップリング剤および有機オニウムイオンのいずれの処理が欠けても十分な特性が発揮されないことは公知である。
更に上記文献3〜5によれば、有機オニウムイオンやカップリング剤により処理された層状珪酸塩を、重合前のポリマー原料に混合し溶融重合反応することにより同様の樹脂組成物が製造され得ること、並びに層状珪酸塩の混合においては溶融状態における機械的せん断力が肝要であることが知られている。但しこれらの文献には、具体的に溶融重合された樹脂組成物の開示はない。
重合法において、カップリング剤で処理された層状珪酸塩を利用する試みも既になされている。かかる層状珪酸塩とポリマー前駆体とを混合して該前駆体を重合させて樹脂組成物を得る方法は、特にポリアミド樹脂において提案されている(特許文献6参照)。
カップリング剤で処理された層状珪酸塩をジアルキルカーボネートまたは水と混合し、該混合物を更にビスフェノールAおよびジアルキルカーボネートと高圧下において混合し、その後減圧脱揮させて溶融重合を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法が知られている(特許文献7参照)。かかる方法は上記文献3〜5において知られた技術を利用したものといえ、即ち、かかる方法は機械的せん断力を作用させて溶融重合する方法である。一方で該文献によれば、ポリアリレート樹脂を層間移動触媒の存在下において界面重縮合させる際に、カップリング剤で処理された層状珪酸塩を混合することにより、層状珪酸塩を含有するポリアリレート樹脂組成物が得られることが開示されている。
また、混練法における層状珪酸塩含有ポリカーボネート樹脂組成物としては、ポリカーボネート樹脂、特定の有機化層状珪酸塩、およびスチレン−無水マレイン酸共重合体に代表される特定の基および性質を有する化合物からなる樹脂組成物が知られている(特許文献8参照)。曲げ弾性率を指標としたとき、上記文献7の重合法の組成物と、文献8の組成物とは同等の性能を有している。しかしながら、更に少量の無機充填材で高剛性を有するポリカーボネート樹脂組成物が要求される場合があり、その出現が期待されている。
【特許文献1】特開平3−215558号公報
【特許文献2】特開平9−143359号公報
【特許文献3】特開平7−207134号公報
【特許文献4】特開平7−228762号公報
【特許文献5】特開平7−331092号公報
【特許文献6】WO95/06090号パンフレット
【特許文献7】WO00/22042号パンフレット
【特許文献8】WO03/010235号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、少量の無機充填材で高弾性を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物並びにその製造方法を提供することにある。本発明の目的は、特に該無機充填材としていわゆる膨潤性の層状珪酸塩を利用して、高弾性の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく上記の従来技術を再検討した。上記より明らかなように、ポリカーボネートの界面重縮合を層状珪酸塩の存在下において行う樹脂組成物の製造方法は具体的に知られていない。また上記文献7のポリアリレートにおけるデータを見る限り、界面重縮合法に特段の優位点を認められなかったものの、本発明者らはその可能性について検討した。
当初、文献7におけるポリアリレートの界面重縮合反応の知見を参考にしてポリカーボネートの界面重縮合反応を行った。しかしながら、かかる方法では層状珪酸塩がポリカーボネート樹脂中にほとんど含まれないことが判明した。本発明者らはかかる原因を究明し、界面重縮合反応により層状珪酸塩を含有するポリカーボネート樹脂組成物を得るに至った。更に従来、層状珪酸塩のポリカーボネート樹脂中の分散には、撹拌や混練などのせん断力の作用が必要であるとされていた。しかしながら、驚くべきことに逆にせん断力を作用させることなく重合を行うことにより、より優れた特性を有する樹脂組成物が得られることを見出した。更に驚くべきことに、得られた樹脂組成物は従来知られた樹脂組成物の特性を大幅に上回る高弾性を有するものであることを見出した。本発明者らはこれらの知見から更に研究を進め、上記課題を解決する本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、芳香族ポリカーボネート(A成分)100重量部および珪酸塩充填材(B成分)0.01〜50重量部からなる樹脂組成物の製造方法であって、
(I)B成分は、(i)珪素原子に結合した加水分解性基および/または水酸基を含有する有機珪素化合物(B−1−i成分)および(ii)有機チタネート化合物(B−1−ii成分)から選択される少なくとも1種の化合物(B−1成分)を、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B−2成分)に導入してなる珪酸塩充填材であり、
(II)A成分のポリマー前駆体を、B成分の存在下で、かつ重合触媒の実質的な非存在下において界面重縮合反応させる、ことを特徴とする樹脂組成物の製造方法が提供される。
ここで第1の重要な点は、特定の層状珪酸塩に特定の有機珪素化合物(B−1−i成分)および/または有機チタネート化合物(B−1−ii成分)を導入した珪酸塩充填材(B成分)を用いることにある。かかるB成分を用いない場合には、層状珪酸塩を含有する樹脂組成物は得られるものの、その剛性が不十分となる。かかる理由は層状珪酸塩が樹脂マトリックス中において各層のアスペクト比に由来する特性を十分に発揮し得る状態で分散されていないためと考えられる。かかる状態とは層状珪酸塩の層間距離が拡大し、各層が個々に樹脂マトリックスを拘束する状態をいう。即ち、かかる状態でないとは、層状珪酸塩単独の場合と同様に各層が凝集し、かかる凝集した層状珪酸塩が一体として樹脂マトリックスを拘束する状態といえる。
原料の段階では層状珪酸塩は水中に分散されていることから、重合後、脱水し固体化する過程において、水相中において一旦剥離または層間距離の拡大した層状珪酸塩が再び凝集していることが予想される。かかる凝集の原因は、ポリカーボネートと層状珪酸塩との化学的親和性の不足にあると推察される。一方で、B成分は有機基を有するので、有機基の作用によって再凝集が抑制されるものと考えられる。
第2の重要な点は、重合触媒の実質的な非存在下において重縮合反応を行なう点である。かかる点が重要な理由は以下のように推察される。本発明の界面重縮合反応においては、反応系の水相として、大きくわけて層状珪酸塩の周囲の水相と層状珪酸塩の層間の水相とが存在する。ポリカーボネート生成の反応は、いずれの水相の界面においても生ずると考えられる。層間の水相で反応が生じた場合に、ポリカーボネートと層状珪酸塩との強い親和力による擬似的な結合が生成し、かかる結合によって層状珪酸塩はポリカーボネート中に取り込まれる。
ここで取り込まれるとは、珪酸塩充填材がポリカーボネートとある程度強い親和性を持って存在することを意味する。より具体的には得られたポリカーボネート樹脂組成物の精製のための水洗工程においても、水相に容易に移行せず、樹脂中にとどまる態様で存在する状態を指す。但し、本発明者らは得られたポリカーボネート樹脂組成物を有機溶剤に溶解させると、珪酸塩充填材が分離可能であることを確認している。したがってかかる強い親和性において共有結合による樹脂との結合は必ずしも必要とされない。
一方、ポリカーボネートの界面重縮合反応の重合触媒であるアミン化合物、4級アンモニウム塩化合物、4級ホスホニウム塩化合物(本発明における重合触媒とは、かかる3つの化合物を指す)が存在すると、これらの化合物は有機オニウムイオンとして層状珪酸塩の層間に容易に入り込みイオン交換する。その結果、層状珪酸塩は親油性となり、特にその層間においては水相が存在できないようになる。これにより層状珪酸塩はポリカーボネート鎖中に取り込まれなくなる。尚、B−1−i成分および/またはB−1−ii成分中にアミノ基を含有する場合であっても、層状珪酸塩がポリカーボネート中へ取り込まれることから、層間に入り込む有機化合物の存在が大きな影響を与える可能性が高い。以上が第2の点にかかる理由の推察である。
上記の推察の如く、重合触媒は層状珪酸塩の層間に取り込まれることにより触媒としての作用を失うだけでなく、層状珪酸塩のポリマーへの取り込みを阻害することから重合触媒を使用する特段の利点はないと考えられる。したがって、重合触媒が添加されず、反応系内に含有されない状態において重合を行うことが最も好ましい。しかしながら逆にかかる特性を利用して層状珪酸塩のポリマーへの取り込みを制御することも可能である。よって本発明において“重合触媒の実質的な非存在下”との術語は必ずしも重合触媒が全く存在しないことを意味するものではない。
即ち層状珪酸塩のポリマーへの取り込みが可能である範囲において、重合触媒は界面重縮合反応の系内に存在してもよいことを示す。ここで重合触媒の存在量は、A成分のポリカーボネートを誘導する二価フェノール1モル当たり、好ましくは0.5×10−4モル未満、より好ましくは1×10−8モル未満である。
本発明によれば上記製造方法から製造された樹脂組成物が提供される。かかる樹脂組成物は、少量の無機充填材を含有するにもかかわらず高弾性を有する。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例において表1および表2に記載されたデータを、横軸に600℃の電気炉において6時間処理した後の灰化残渣の重量割合から算出される層状珪酸塩含有量(重量%)、縦軸に貯蔵弾性率(MPa)にとった座標においてプロットしたグラフである。
【符号の説明】
1 実施例1のデータ
2 実施例2のデータ
3 実施例4のデータ
4 比較例1のデータ
5 比較例2のデータ
6 比較例3のデータ
7 比較例4のデータ
8 比較例5のデータ
9 比較例6のデータ
10 式1の上限を示す点線
11 式1の下限を示す点線
【発明を実施するための最良の形態】
以下更に本発明の詳細について説明する。
<A成分:芳香族ポリカーボネート>
本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネートのポリマー前駆体をB成分の存在下で、かつ重合触媒の実質的な非存在下において界面重縮合することにより製造することができる。
(ポリマー前駆体)
ポリマー前駆体の術語は、本発明においてはポリカーボネートに至る前段階の物質を総称するために用いられる。したがって、二価フェノール、二価フェノール類のカーボネート形成性誘導体(典型的にはクロロホルメート末端を有するカーボネートオリゴマー)、および二価フェノールの炭酸エステル類などがポリマー前駆体に含まれる。最も一般的なカーボネート前駆体であるホスゲンを使用する場合、そのポリマー前駆体の主成分は、クロロホルメート末端を有するカーボネートオリゴマーである。
ポリマー前駆体は、A成分の構成単位を誘導する二価フェノールとカーボネート前駆体とを、酸結合剤、有機溶媒および水の存在下において反応させることにより得ることができる。
さらに詳しくは、ポリマー前駆体は、好ましくは、二価フェノールと酸結合剤の水溶液とを混合して二価フェノールを溶解させた後、有機溶媒と混合して、カーボネート前駆体をかかる混合物に添加する方法により調製することができる。カーボネート前駆体としてホスゲンを利用する場合、ホスゲンの添加は、混合物へ吹き込む方法であっても、ホスゲン気相中へ混合物を噴霧する方法であってもよい。
反応系のpH値は好ましくは9以上とする。また反応温度は好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜30℃、更に好ましくは15〜25℃の範囲である。かかる温度範囲は、ホスゲンの溶解と反応性との両立に優れる。また反応時間は5〜120分間、より好ましくは10〜50分間である。
(二価フェノール)
二価フェノールとしては、例えばハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも耐衝撃性の点からビスフェノールA(以下“BPA”と略称することがある)が特に好ましい。
本発明では、汎用のポリカーボネートであるビスフェノールA系のポリカーボネート以外にも、他の二価フェノール類を用いてもよい。
例えば、2価フェノール成分の一部または全部として、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis−TMC”と略称することがある)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある)を用いたポリカーボネート(単独重合体または共重合体)は、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。これらのBPA以外の2価フェノールは、該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分全体の5モル%以上、特に10モル%以上、使用するのが好ましい。
殊に、高弾性かつより良好な耐加水分解性が要求される場合には、A成分が次の(1)〜(3)の共重合ポリカーボネートであるのが特に好適である。
(1)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつBCFが20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
(2)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPAが10〜95モル%(より好適には50〜90モル%、さらに好適には60〜85モル%)であり、かつBCFが5〜90モル%(より好適には10〜50モル%、さらに好適には15〜40モル%)である共重合ポリカーボネート。
(3)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつBis−TMCが20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
これらの特殊なポリカーボネートの製法および特性については、例えば、特開平6−172508号公報、特開平8−27370号公報、特開2001−55435号公報および特開2002−117580号公報等に詳しく記載されている。かかる製法に基づき、B成分の存在下かつ重合触媒の実質的な非存在下において界面重縮合反応を行い、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することができる。
なお、上述した各種のポリカーボネートの中でも、共重合組成を調整して、吸水率およびTg(ガラス転移温度)を下記の範囲内にしたものは、ポリマー自体の耐加水分解性が良好で、かつ成形後の低反り性においても格段に優れているため、形態安定性が要求される分野では特に好適である。
(i)吸水率が0.05〜0.15%、好ましくは0.06〜0.13%であり、かつTgが120〜180℃であるポリカーボネート、あるいは
(ii)Tgが160〜250℃、好ましくは170〜230℃であり、かつ吸水率が0.10〜0.30%、好ましくは0.13〜0.30%、より好ましくは0.14〜0.27%であるポリカーボネート。
ここで、ポリカーボネートの吸水率は、直径45mm、厚み3.0mmの円板状試験片を用い、ISO62−1980に準拠して23℃の水中に24時間浸漬した後の水分率を測定した値である。また、Tg(ガラス転移温度)は、JIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。
(カーボネート前駆体)
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、またはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、または二価フェノールのジハロホルメートなどが例示され、特に好ましくはホスゲンが挙げられる。
(酸結合剤)
酸結合剤としてはアルカリ(土類)金属の水酸化物が好ましく用いられ、かかる水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、および水酸化カルシウムなどが好適に例示され、中でも水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましい。
(有機溶媒)
有機溶媒は、水に対して実質的に不溶で、反応に対して不活性であり、かつ反応により生成するポリカーボネートを溶解する溶媒が用いられる。かかる有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエタン、およびクロロホルムなどの塩素化脂肪族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、およびクロロトルエンなどの塩素化芳香族炭化水素、アセトフェノン、シクロヘキサノン、並びにアニソールなどが例示され、これらは単独でも2種以上の混合物であってもよい。これらの中でも塩化メチレンが最も好ましい有機溶媒である。
(末端停止剤、酸化防止剤等)
本発明においては末端停止剤を使用してもよい。末端停止剤としては1価フェノールを使用することができる。かかる1価フェノールとしては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、およびp−クミルフェノールなどが好ましく使用される。さらに1価フェノールとしては、デシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノールなどが例示される。かかる比較的長鎖のアルキル基を有する1価フェノールは、流動性や耐加水分解性の向上が求められる場合に有効である。末端停止剤は単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
ポリカーボネートの界面重縮合反応においては、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。かかる酸化防止剤としては、ハイドロサルファイトに代表される還元剤が好ましく利用できる。
更に本発明のポリカーボネートは、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート、並びに芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。
かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
分岐ポリカーボネートにおける多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、2価フェノールから誘導される構成単位とかかる多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位との合計100モル%中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.9モル%、より好ましくは0.01〜0.8モル%、特に好ましくは0.05〜0.4モル%である。かかる分岐構造量についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。さらにポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
(重量平均分子量、分子量分布)
本発明のA成分の芳香族ポリカーボネートの重量平均分子量は、好ましくは10,000〜100,000の範囲、より好ましくは20,000〜80,000の範囲、更に好ましくは30,000〜70,000の範囲である。樹脂組成物におけるポリカーボネートの重量平均分子量は、樹脂組成物を塩化メチレンやクロロホルムなどの良溶媒に溶解させた後、可溶分をろ過により分離し、得られた可溶分について分子量測定を行うことにより算出される。
ここで、重量平均分子量は、次に示すGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により算出される値である。すなわち温度23℃、相対湿度50%の清浄な空気の環境下に置かれたGPC測定装置を用い、カラムとしてポリマーラボラトリーズ社製SECカラム「MIXED−D」(長さ300mm、内径7.5mm)、移動相としてクロロホルム、標準物質としてポリマーラボラトリーズ社製イージーキャルPS−2(標準ポリスチレン)、および検出器として示差屈折率計を用い、展開溶媒としてクロロホルムを使用し、かかるクロロホルム1ml当たり約2mgの試料を溶解した溶液を、GPC測定装置に100μl注入し、カラム温度35℃および流量1ml/分の条件によりGPC測定を行う。得られたデータに対してベースラインをチャートの立ち上がり点および収束点を結ぶことで定め、これよりポリカーボネートの重量平均分子量および数平均分子量を求める。
本発明においては、後述の如く安定して乳化状態が維持され、ポリカーボネートの界面重縮合反応が進行することにより、その分子量分布においても良好なポリカーボネートが合成される。本発明のA成分の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、好ましくは2〜30の範囲であり、より好ましくは2〜5の範囲、更に好ましくは2〜3の範囲である。本発明によれば、通常のポリカーボネート樹脂と同様に2〜3の範囲の分子量分布を有する、層状珪酸塩を含有するポリカーボネート樹脂組成物の界面重縮合反応方法が提供される。
<B成分:珪酸塩充填材>
B成分は、(i)珪素原子に結合した加水分解性基および/または水酸基を含有する有機珪素化合物(B−1−i成分)および(ii)有機チタネート化合物(B−1−ii成分)から選択される少なくとも1種の化合物(B−1成分)を50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B−2成分)に導入してなる珪酸塩充填材である。B成分にかかる成分を説明する。
(B−2成分:層状珪酸塩)
層状珪酸塩(B−2成分)は、SiO連鎖からなるSiO四面体シート構造とAl、Mg、Li等を含む八面体シート構造との組み合わせからなる層からなり、その層間に交換性陽イオンの配位した珪酸塩(シリケート)または粘土鉱物(クレー)である。
これらの珪酸塩(シリケート)または粘土鉱物(クレー)は、スメクタイト系鉱物、バーミキュライト、ハロイサイトおよび膨潤性雲母等に代表される。具体的には、スメクタイト系鉱物としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、フッ素ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、およびスチブンサイト等が挙げられ、膨潤性雲母としては、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、およびLi型四珪素フッ素雲母等の膨潤性合成雲母等が挙げられる。これらのB−2成分は、天然品および合成品のいずれであってもよい。合成品は、例えば、水熱合成、溶融合成、固体反応によって製造される。
層状珪酸塩のなかでも、陽イオン交換容量等の点から、モンモリロナイト、およびヘクトライト等のスメクタイト系粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、およびNa型四珪素フッ素雲母等の膨潤性を持ったフッ素雲母が好適に用いられ、ベントナイトを精製して得られるモンモリロナイトや合成フッ素雲母が、純度等の点からより好適である。
B−2成分の陽イオン交換容量(陽イオン交換能ともいう)は、50〜200ミリ当量/100gであることが必要とされ、好ましくは80〜150ミリ当量/100g、さらに好ましくは100〜150ミリ当量/100gである。
陽イオン交換容量は、土壌標準分析法として国内の公定法となっているショーレンベルガー改良法によってCEC値として測定される。かかる方法の概要は次のとおりである。長さ12cm、内径1.3cmの土壌浸出装置の浸透管に層状珪酸塩試料を約8cmの厚さになるように充填し、pH7の1N酢酸アンモニウム水溶液100mlを用い、4〜20時間かけて浸透させ、陽イオンを交換浸出する。次にpH7の80%メタノール100mlで洗浄し、過剰の酢酸アンモニウムを除去する。次いで10%塩化カリウム水溶液100mlで洗浄し、試料に吸着されたアンモニウムイオン(NH)を交換浸出させる。最後に水蒸気蒸留法またはConway微量拡散法により、浸出液中のNHを定量し、CECを算出する。土壌浸出装置は、ガラス製セットとして市販されているものが使用できる。尚、該改良法の基礎となるショーレンベルガー法については、Soil Sci.,59,13〜24(1945)において参照される。
陽イオン交換容量は、芳香族ポリカーボネートへの良好な分散性を得るためには50ミリ当量/100g以上が必要であり、一方200ミリ当量/100gより大きくなると芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の熱劣化が大きくなる。
B−2成分は、平均粒径が0.1μm以上5μm未満の層状珪酸塩であることが好ましい。ここで該平均粒径はレーザー回折・散乱法により測定された粒子径の累積度数50%に相当する粒径である。本発明においては、界面重縮合時に乳化状態を安定して維持することが、良好な樹脂組成物を製造する上で重要である。しかしながら珪酸塩充填材の存在は、乳化状態を不安定にさせる要因となる。乳化状態が不安定となることにより反応速度が低下し、ポリカーボネートの重合度(分子量)の増加が抑制されるようになる。かかる乳化状態の不安定さは、珪酸塩充填材の粒径が大きくなるに従い顕著となる。本発明においては、乳化状態を安定して維持するには平均粒径が上記の範囲であることが好ましい。かかる平均粒径の上限は好ましくは4μm、より好ましくは2μmである。平均粒径を上述の範囲にすることにより、実用上より好ましい分子量を有するポリカーボネートからなる樹脂組成物が得られる。
B−2成分の湿潤熱は、好ましくは1J/g以上、より好ましくは30J/g以上、更に好ましくは70J/g以上である。かかる湿潤熱は活性点が多いほど大きくなり、層状珪酸塩の表面積と活性点との数の指標となる。かかる湿潤熱が大きいほど、単位重量当たりの活性点は多くなる。その結果B−1成分の導入による効果も高まり、結果として珪酸塩充填材のより良好な樹脂中の分散が可能となる。
またB−2成分は、そのpHの値が7〜11.5であることが好ましい。pHの値が11.5より大きくなると、樹脂組成物の熱安定性が低下する傾向が現れてくる。
<B−1−i成分:有機珪素化合物>
B−1−i成分は、珪素原子に結合した加水分解性基および/または水酸基を含有する有機珪素化合物である。B−1−i成分は、加水分解性基および/または水酸基の他に、珪素原子に結合した加水分解性基以外の1価の有機基を有する。
(加水分解性基)
加水分解性基とは、水との反応によりシラノールを生成する基をいうが、具体的には、珪素原子に結合した、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ケトオキシム基、アシルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、およびアミド基が例示される。中でも好ましくは水素原子、ハロゲン原子、およびアルコキシ基である。更に好適にはアルコキシ基であり、その炭素数は好ましくは1〜5の範囲であり、特に好適にはメトキシ基およびエトキシ基である。B−1−i成分中の珪素原子に結合した加水分解性基および/または水酸基の割合は、好ましくは0.1〜6.5mol/100g、より好ましくは0.15〜2mol/100gの範囲である。
(有機基)
また、1価の有機基とは、ヘテロ原子を含有してもよい有機基であり、その炭素数は1〜60の範囲が好ましく、より好ましくは2〜30の範囲である。
有機基の源となる炭化水素としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および芳香族炭化水素のいずれであってもよく、またこれらは1以上の不飽和結合(炭素−炭素二重結合、または三重結合)を含有するものであってもよい。より具体的には、有機基としては、アルキル基、アルケニル基、フェニル基、ナフチル基、およびシクロアルキル基などが例示される。
有機基は、各種の官能基やヘテロ原子を含む結合を含有することができ、かかる官能基および結合の例としては、例えばアミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、アミド基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、ハロゲン原子、および水酸基、並びにエステル結合、エーテル結合、カルボニル結合、スルホニル結合、およびスルフィニル結合が例示される。これらの官能基や結合は、1つの珪素化合物中に2種以上が含有されてもよく、更に1つの有機基中に2種以上含有されてもよい。
B−1−i成分として、下記式(I)で表される有機珪素化合物が好ましい。

式(I)中、nは1〜3の整数である。n個のXおよび4−n個のRはそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。
Rはヘテロ原子を含有してもよい炭素数2〜30の1価の有機基である。有機基の源となる炭化水素として炭素数2〜30の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および芳香族炭化水素が挙げられる。これらは1以上の不飽和結合(炭素−炭素二重結合、または三重結合)を含有するものであってもよい。より具体的には、有機基としては、アルキル基、アルケニル基、フェニル基、ナフチル基、およびシクロアルキル基などが例示される。有機基は、前述の通り、各種の官能基やヘテロ原子を含む結合を含有することができる。
Xは加水分解性基または水酸基である。加水分解性基として前述のように水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ケトオキシム基、アシルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、およびアミド基が例示される。中でも好ましくは水素原子、ハロゲン原子、およびアルコキシ基である。更に好適にはアルコキシ基であり、その炭素数は好ましくは1〜5の範囲であり、特に好適にはメトキシ基およびエトキシ基である。
Rが炭素数2〜30の炭化水素基である場合の例としては、ドデシルトリメトキシシランの如き直鎖状の長鎖アルキル基(炭素数12以上のアルキル基)含有化合物、プロピルトリメトキシシランの如き低級アルキル基(炭素数11以下のアルキル基)含有化合物、2−エチルヘキシルトリメトキシシランの如き分岐状アルキル基含有化合物、2−ヘキセニルトリメチルシランの如き不飽和炭化水素基含有化合物、フェニルトリメトキシシランの如き芳香族炭化水素基含有化合物、およびベンジルトリメトキシシランの如きアラルキル基含有化合物が例示される。
Rが官能基を有する場合の例としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシランの如きアミノ基含有化合物、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの如きエポキシ基含有化合物、γ−(4−カルボキシフェニル)プロピルトリメトキシシランの如きカルボキシル基含有化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランの如きメルカプト基含有化合物、γ−ニトロプロピルトリメトキシシランの如きニトロ基含有化合物、γ−ニトロソプロピルトリメトキシシランの如きニトロソ基含有化合物、γ−シアノエチルトリメトキシシランの如きニトリル基含有化合物、γ−クロロプロピルトリメトキシシランの如きハロゲン含有化合物、およびN,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)アミノ−3−プロピルトリエトキシシランの如き水酸基含有化合物などが例示される。
Rがヘテロ原子を含む結合を有する場合の例としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの如きエステル結合含有化合物、2−エトキシエチルトリメトキシシランの如きエーテル結合含有化合物、γ−ユレイドプロピルトリメトキシシランの如きカルボニル結合含有化合物、γ−フェニルスルホニルプロピルトリメトキシシランの如きスルホニル結合含有化合物、およびγ−フェニルスルフィニルプロピルトリメトキシシランの如きスルフィニル結合含有化合物などが例示される。これらの化合物は、単位重量当たりの加水分解性基の割合が概して高く、層状珪酸塩に対する反応活性に富み、その結果層状珪酸塩の各層により一様に導入されると考えられる。
<B−1−ii成分:有機チタネート化合物>
有機チタネート化合物とは、チタン原子並びに有機基として加水分解性基と疎水基とを有する化合物である。かかる化学構造は、特に限定されず、従来チタネート系カップリング剤として公知のモノアルコキシ型化合物、キレート型化合物および配位型化合物のいずれであってもよい。
モノアルコキシ型有機チタネート化合物としては下記一般式(II)に示される化合物が挙げられる。

式(II)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは炭素数4〜20の1価の有機基であり、mは1〜3の整数である。
の炭素数1〜6のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。
の炭素数4〜20の1価の有機基とは、ヘテロ原子を含有してもよい有機基である。有機基の源となる炭化水素としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および芳香族炭化水素が挙げられる。またこれらは1以上の不飽和結合(炭素−炭素二重結合、または三重結合)を含有するものであってもよい。
有機基は、各種の官能基やヘテロ原子を含む結合を含有することができ、かかる官能基および結合の例としては、例えばアミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、アミド基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、ハロゲン原子、および水酸基、並びにエステル結合、エーテル結合、カルボニル結合、スルホニル結合、イミノ結合、およびスルフィニル結合が例示される。更に有機基は、ホスフェート単位およびピロホスフェート単位を含むことができる。これらの官能基、結合および単位は、1つの珪素化合物中に2種以上が含有されてもよく、更に1つの有機基中に2種以上含有されてもよい。
一般式(II)の具体例としては、下記式(II−i)〜(II−vii)の化合物が例示される。

キレート型有機チタネート化合物として、下記一般式(III)に示される化合物が挙げられる。

式(III)中、Rは炭素数1〜6の2価の有機基、Rは炭素数4〜20の1価の有機基である。
およびRの有機基の源となる炭化水素としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および芳香族炭化水素のいずれであってもよい。またこれらは1以上の不飽和結合(炭素−炭素二重結合、または三重結合)を含有するものであってもよい。
有機基は、各種の官能基やヘテロ原子を含む結合を含有することができ、かかる官能基および結合の例としては、例えばアミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、アミド基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、ハロゲン原子、および水酸基、並びにエステル結合、エーテル結合、カルボニル結合、スルホニル結合、およびスルフィニル結合が例示される。更に有機基は、ホスフェート単位およびピロホスフェート単位を含むことができる。これらの官能基、結合および単位は、1つの珪素化合物中に2種以上が含有されてもよく、更に1つの有機基中に2種以上含有されてもよい。
上記一般式(III)の具体例としては、下記式(III−i)〜(III−iv)の化合物が例示される。

配位型としては下記一般式(IV)に示される化合物が好適に例示される。

式(IV)中、Rは炭素数1〜20の1価の有機基であり、Rは炭素数4〜20のアルキル基である。
の有機基の源となる炭化水素としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および芳香族炭化水素のいずれであってもよい。またこれらは1以上の不飽和結合(炭素−炭素二重結合、または三重結合)を含有するものであってもよい。より具体的には、Rの有機基としては、アルキル基、アルケニル基、フェニル基、ナフチル基、およびシクロアルキル基などが例示される。
有機基は、各種の官能基やヘテロ原子を含む結合を含有することができ、かかる官能基および結合の例としては、例えばアミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、アミド基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、ハロゲン原子、および水酸基、並びにエステル結合、エーテル結合、カルボニル結合、スルホニル結合、およびスルフィニル結合が例示される。これらの官能基や結合は、1つの珪素化合物中に2種以上が含有されてもよく、更に1つの有機基中に2種以上含有されてもよい。
の炭素数4〜20のアルキル基としては、メチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。
一般式(IV)の具体例としては、下記式(IV−i)〜(IV−iii)の化合物が例示される。

上記B−1成分の有機珪素化合物および有機チタネート化合物は、いずれもアミノ基含有化合物が、ポリカーボネートとの反応中における親和性に優れることから好ましい。また上記B−1成分は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
<珪酸塩充填材(B成分)の調製>
B成分は、B−2成分を極性溶媒中に分散させた後、B−1成分を添加することにより製造することが好ましい。
極性溶媒とは水の他、水と相溶する有機溶媒、並びに水と該有機溶媒との混合溶媒を意味する。かかる有機溶媒としては、ホルムアミド、メチルホルムアミド、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテルテトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、およびジメチルスルホキシド等が挙げられる。特に、ホルムアミド、およびメチルホルムアミドは混合時に層状珪酸塩の分散性が低下しないため好適に使用される。
極性溶媒に対するB−2成分の重量比は、あまりに少ないとB−2成分の分散が不十分となり、あまりに多いと製造効率が劣るようになるので、好ましくは0.00015〜0.3、より好ましくは0.0015〜0.15である。
層状珪酸塩(B−2成分)は、シラノール(Si−OH)を含有することから、該シラノールとB−1成分の有機珪素化合物および/または有機チタネート化合物とを反応させることにより、容易に該化合物をB−2成分に導入することができる。かかる反応は、固体状のB−2成分に珪素化合物またはその溶液を直接接触させる方法で行うこともできる。かかる方法においては、ヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機、スクリュー型混合機、および各種のメカノケミカル装置などが利用できる。
しかしながら、より好ましくは層状珪酸塩を媒体により膨潤させた状態で、更に好ましくは媒体中で分散させた状態で、有機珪素化合物および/または有機チタネート化合物を層状珪酸塩に導入する方法が採用される。かかる状態の層状珪酸塩は、それぞれの層が十分に剥離しているかまたは容易に剥離し得る状態にある。シラノールは層状珪酸塩の端部に存在していると考えられることから層間の親水性を保ちつつ、B−1成分をかかるそれぞれの層に結合させて導入することが可能となる。これによってポリカーボネート樹脂中で層状珪酸塩の個々の層が有するアスペクト比によって樹脂マトリックスが拘束されるようになり、より改良された高弾性が得られると考えられる。
層状珪酸塩を膨潤または分散させる媒体は、極性溶媒であれば特に制限されない。しかしながら水が最も簡便かつ容易に取り扱え、また層状珪酸塩の各層を剥離する能力にも優れていることから好ましく使用される。水中に分散された層状珪酸塩に対して、有機珪素化合物および/または有機チタネート化合物を直接にまたは該化合物と極性溶媒からなる溶液を添加することにより、珪素化合物やチタネート化合物の導入の反応を行うことができる。かかる反応においては、珪素化合物やチタネート化合物の加水分解を促進して反応の活性を上げるために、酸触媒または塩基触媒、より好適には酸触媒を使用することができる。またかかる反応は通常室温において十分に進行するが、必要に応じて加温することができる。加温時の最高温度は用いる珪素化合物やチタネート化合物の分解温度未満であり、かつ反応において使用される水、またはかかる水と極性溶媒との混合物の沸点以下であれば、任意に設定できる。
(導入の確認)
層状珪酸塩(B−2成分)に有機珪素化合物および/または有機チタネート化合物(B−1成分)が導入できていることは種々の方法で確認し得る。例えば次の方法が確認の方法として挙げられる。まず、クロロホルムやジクロロメタンの如き有機溶媒、並びに水やメタノールの如き極性溶媒を用いて表面処理後の層状珪酸塩を洗浄する。かかる洗浄により層状珪酸塩に単に吸着しているだけの有機珪素化合物や有機チタネート化合物を除去する。吸着物の除去された洗浄後の層状珪酸塩を十分に乾燥する。次いで、かかる層状珪酸塩を重水中に懸濁させる。かかる懸濁液をH−NMR測定することにより、有機珪素化合物や有機チタネート化合物に由来するシグナルの有無を確認する。もしくは上記洗浄後の層状珪酸塩を臭化カリウムなどと所定の比率で十分に混合して加圧錠剤化し、FT−IRを用い、透過法等により珪素含有化合物またはチタン含有化合物に由来する吸収体を測定することでも確認できる。
また加水分解性基がアルコキシ基の場合には、その消失によっても反応の状態が確認できる。更には下記の如きTGA測定を行い、導入されたB−1成分由来の有機物の割合から、その導入量を定量することができる。
B成分においては、B−1成分の有機珪素化合物および/または有機チタネート化合物が層状珪酸塩に導入されることにより、かかる層状珪酸塩中にB−1成分に由来する有機物が導入される。B成分中の有機物の割合は、B成分100重量%中好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは1〜30重量%である。かかる有機物の割合が0.1重量%未満の場合には、樹脂組成物中での珪酸塩充填材の分散性が適切な状態となりにくい。また50重量%を超える場合には過剰であり経済的ではない。かかるB成分中の有機物の割合は、TGA(Thermo gravimetric Analysis:熱重量解析)測定機により、乾燥されたB成分のサンプルを窒素ガス雰囲気下、20℃/minの昇温速度で900℃まで昇温し、900℃に到達したときの重量減少値から算出される。また上記の有機物の割合は、B−1成分中の加水分解性基が実質的に認められない状態において満足することが好ましい。例えば加水分解性基がアルコキシ基である場合には、かかるアルコキシ基由来のNMR測定からその有無を確認することが可能である。
かかる有機物は、層状珪酸塩に対して一様に導入されることが好ましい。かかる導入に適正な珪素化合物の量は、層状珪酸塩の表面積や形状(反応に必要なシラノールは、層状珪酸塩の端面部により存在すると考えられている)により変化することとなる。しかしながら本発明のB−2成分として好適な層状珪酸塩を考慮した場合、上記の範囲が適切である。
(界面重縮合反応)
本発明においては重合触媒の実質的な非存在下において、界面重縮合反応がなされる。本発明において重合触媒とは、アミン化合物、4級アンモニウム塩化合物および4級ホスホニウム塩化合物をいう。ここでアミン化合物は、一般的な定義のとおりアンモニアの水素原子の1個またはそれ以上が炭化水素基で置換された化合物を指す。したがって官能基としてアミノ基の如くアンモニア置換単位を有するB−1−i成分の有機珪素化合物およびB−1−ii成分の有機チタネート化合物は、かかるアミン化合物には含まれない。実質的な非存在下とは、A成分のポリカーボネートを誘導する二価フェノール1モル当たり、好ましくは0.5×10−4モル未満、より好ましくは1×10−8モル未満である。
界面重縮合反応は乳化状態で行われることが好ましい。
界面重縮合反応は、A成分のポリマー前駆体に、B成分と極性溶媒との混合物を添加した後、行うことが好ましい。
珪酸塩充填材(B成分)のポリマー前駆体への添加は、固体状態であっても各種の分散媒体中に分散された状態であってもよい。界面重縮合反応の反応系には、水相が存在することから珪酸塩充填材は水相に含まれて剥離するかまたは容易に剥離可能となる。しかしながら予め極性溶媒中に層状珪酸塩を分散させておきポリマー前駆体に加える方法は、短時間で均一な混合状態を作り出せることからより好ましい。すなわち、A成分のポリマー前駆体に、B成分と極性溶媒との混合物を添加した後、界面重縮合反応させることが好ましい。特にかかる極性溶媒として、ポリマー前駆体を合成した反応系に存在する水を利用する方法が好ましい。即ちかかる反応系の水を一旦抜き取り該水に珪酸塩充填材を分散させ、得られた分散液を再度反応系に戻す方法が好ましく用いられる。したがってかかる方法によれば、より効率的に樹脂組成物を製造することができる。
<樹脂組成物の製造手順>
本発明の樹脂組成物は以下の手順で製造することができる。
(I)A成分の構成単位を誘導する二価フェノールとカーボネート前駆体とを、酸結合剤、有機溶媒および水の存在下において反応させ、ポリマー前駆体を得る工程(工程−i)、
(II)得られたポリマー前駆体に、B成分と極性溶媒との混合物を加え液状混合物を得る工程(工程−ii)、
(III)得られた液状混合物にせん断力を作用させて、該液状混合物を乳化状態にせしめた後、乳化状態においてポリマー前駆体を界面重縮合反応させる工程(工程−iii)、並びに
(IV)反応後の混合物から有機溶媒および水を分離し、固体状の樹脂組成物を得る工程(工程−iv)。
(工程−i)
工程−iはポリマー前駆体の合成工程である。前述の二価フェノール等の各成分を反応させポリマー前駆体を得る工程である。
(工程−ii)
工程−iiは、B成分の添加工程である。B成分の反応系への添加は、工程−iの開始時であってもよい。しかしながら反応条件の制御が困難となる場合があることから、かかる添加は工程−iの後に行なわれることが好ましい。またB成分を極性溶媒中に分散させて加えることが好ましい。極性溶媒として工程−i中の水を抜き取り利用することが好ましい。
尚、本発明の製造方法においては、通常のポリカーボネートの界面重縮合反応の技術を利用することができる。例えば、水酸化ナトリウムに代表される酸結合剤は、通常、ポリマー前駆体の生成工程後に追加添加される。即ち、比較的低めのpH値においてホスゲン化反応を行い、その後pH値を高めて反応させる方法が広く知られている。本発明においてもかかる技術を利用することができる。同様に例えば二価フェノールを乳化後に追加する技術も知られているが、本発明においてかかる技術を利用することもできる。
(工程−iii)
工程−iiiは、重縮合反応工程である。該工程は工程−iiの後、また後述する工程−αを含む場合には工程−iiおよび工程−αのいずれもが完全に終了した後に行われることが好ましいが、その終了前に行われてもよい。即ち工程−iiまたは工程−αは撹拌しながら行うこともできる。かかる反応は、通常のポリカーボネートの界面重縮合反応と同様に、反応系である液状混合物を乳化状態にせしめて行われることが好ましい。これにより反応速度が高められる。
乳化状態は、液状混合物にせん断力を作用させて作り出すことができる。せん断力を作用させる手段としてミキサーが用いられる。かかるミキサーは、スタティックミキサーや多孔質膜式乳液製造装置などのラインミキサー、並びに各種の攪拌機付きミキサーのいずれであってもよい。撹拌機の撹拌翼としては、プロペラ、パドル、およびリボン翼が代表的に例示され、撹拌機には、各種形状のロータおよびステータからなるホモジナイザーおよびホモミキサーを含む。
かかる重縮合反応において、反応系のpH値は好ましくは9以上である。反応温度は好ましくは20〜40℃、より好ましくは25〜35℃の範囲である。更に反応時間は、好ましくは0.35〜10.5時間、より好ましくは0.55〜5.5時間、更に好ましくは1.05〜3.5時間である。
工程−iiiは、乳化状態にせしめた液状混合物を、せん断力を実質的に作用させることなく界面重縮合反応させる工程であることが好ましい。
本発明では、上記の如くせん断力を作用させて乳化状態にせしめた後、乳化状態において界面重縮合反応を進行させることが好ましい。しかしながら本発明においては珪酸塩充填材(B成分)が反応系に存在することにより反応の進行と共に乳化状態が不安定化しやすい。したがって、せん断力の作用を継続すると相の分散よりも分散された相の会合する割合が増加し、乳化状態が破壊されるようになる。本発明者らはB成分を存在させたポリカーボネートの界面重縮合において、乳化状態を形成せしめた後に、せん断力を実質的に作用させないことによって、逆に良好な乳化状態が維持されることを見出した。
また従来、層状珪酸塩をポリカーボネート樹脂中に均一分散するためには、せん断力の作用が必要と考えられていた。しかしながら、本発明により得られるポリカーボネート樹脂組成物は、従来の層状珪酸塩含有ポリカーボネート樹脂組成物を大きく上回る高弾性を示すものであり、従来の知見からは全く予測できない効果を奏する。
上記においてせん断力を実質的に作用させないとは、反応の間、乳化状態が維持できる程度にせん断力の作用を、より具体的にはミキサーの作用を停止させることをいう。したがって、例えば混合物が通常の平滑な管中を流動する際に生ずる程度のせん断力、および分離した二相の界面を維持可能な程度のゆっくりとした攪拌は特に制限されるものではない。
かかる工程においてミキサーによりせん断力を作用させ乳化状態にせしめる時間は、好ましくは1〜30分間、より好ましくは3〜20分間である。その後該作用を停止させて界面重縮合反応を行う時間は、好ましくは0.3〜10時間、より好ましくは0.5〜5時間、更に好ましくは1〜3時間である。
即ち、好ましい工程−iiiは、工程−iiの後、または工程−αを含む場合には工程−iiおよび工程−αの後、得られた液状混合物にミキサーによりせん断力を1〜30分間作用させて、該液状混合物を乳化状態にせしめ、その後、ミキサーの作用を停止させてせん断力を実質的に作用させることなく乳化状態を維持せしめ、かかる乳化状態において0.3〜10時間ポリマー前駆体を界面重縮合反応させる工程である。
(工程−iv)
工程−ivは、反応後の混合物の中から、固体状の樹脂組成物を取り出す工程である。該混合物は、反応により生成したポリカーボネート、珪酸塩充填材、有機溶媒および水を主成分とし、その他反応により副生した塩化合物および未反応原料などの不純物を少量含有する混合物となる。工程−ivは、かかる混合物から少なくとも有機溶媒および水を分離し、固体状の樹脂組成物を得る工程である。
反応により得られる混合物は、後述するように反応が好適に進行した場合にはゲル状の混合物となる。したがってかかるゲル状混合物からその包含する有機溶媒および水を分離させることが必要である。かかる分離には吸引ろ過機、圧搾機、振動機、または遠心分離機などを用いてゲル状混合物に外力を作用させる方法が好ましく用いられる。その他の分離方法としては、加熱や減圧(凍結乾燥を含む)によって有機溶媒および水を揮発させる方法も例示される。加熱にはマイクロ波加熱を利用することもできる。上記方法によれば、樹脂組成物をより効率的に製造することができる。
工程−ivにおいては、反応後の混合物から有機溶媒および水を分離し、分離された残渣を水で洗浄して固体状の樹脂組成物を得ることが好ましい。
工程−iiiでは、反応が好適に進行した場合、液状混合物がゲル化し、最終的にゲル状の混合物が生成する。かかるゲルは上述の如く、ポリカーボネートが珪酸塩充填材(B成分)を介して擬似架橋構造を形成することにより生成すると考えられる。有機溶媒はポリカーボネートの側に含有され、水は珪酸塩充填材の側に含有され、その相の平衡が保たれると考えられる。一方、かかる擬似架橋に関与しない珪酸塩充填材は、ポリカーボネート中に十分に取り込まれた状態とならず、後の水洗工程などにより脱離してしまう。
したがって、本発明においては工程−iiiの後の混合物がゲル状であることが好ましい。かかるゲル状混合物からその包含される有機溶媒および水を分離させる方法は、上述の通りである。かかる分離により得られた樹脂組成物は、未だ塩化合物や未反応原料などの不純物を含有する。これらはポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性を損なう。よって本発明の樹脂組成物の熱安定性をより高めるためには、水洗によって上記の不純物をできる限り除去することが好ましい。水洗によって、熱安定性の良好なポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
(工程−α)
工程−iの後、かつ工程−iiiの前に、末端停止剤として1価フェノールをポリマー前駆体に加える工程(工程−α)を含むことが好ましい。
本発明において工程−αは必須ではない。しかしながらポリカーボネートの分子量制御を容易にし、得られた樹脂組成物の熱安定性を向上させられることから、末端停止剤を添加して反応を行うことが好ましい。更に末端停止剤の添加は、工程−iの後に行なわれることが好ましい。工程−αが含まれる場合、工程−iiおよび工程−αの順序は、いずれが先であっても、また同時であってもよい。末端停止剤を加えることにより、分子量が制御され、熱安定性の良好な樹脂組成物が得られる。
<樹脂組成物>
本発明によれば、芳香族ポリカーボネート(A成分)100重量部および珪酸塩充填材(B成分)0.01〜50重量部からなる樹脂組成物であって、
(I)B成分は、(i)珪素原子に結合した加水分解性基および/または水酸基を含有する有機珪素化合物(B−1−i成分)および(ii)有機チタネート化合物(B−1−ii成分)から選択される少なくとも1種の化合物(B−1成分)を、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B−2成分)に導入してなる珪酸塩充填材である樹脂組成物が得られる。
樹脂組成物におけるB成分の量は、100重量部のA成分を基準として0.01〜50重量部であり、好ましくは0.05〜20重量部、更に好ましくは0.05〜15重量部である。B成分の量がかかる下限を下回る場合には機械特性や寸法精度の向上効果が十分に発揮されず、かかる上限を上回る場合には熱安定性が低下しやすいため、汎用性に劣るようになる。一方、本発明は少量のB成分によって顕著な高弾性が発揮される点に特徴を有する。
また本発明の樹脂組成物の全量を100重量%としたとき、層状珪酸塩(B−2成分)の量の下限は好ましくは0.01重量%、より好ましくは0.1重量%、更に好ましくは0.5重量%である。一方かかる上限は好ましくは30重量%、より好ましくは15重量%、更に好ましくは12重量%である。
樹脂組成物の40℃における貯蔵弾性率(Y(MPa))は、好ましくは2,500MPa以上、さらに好ましくは、2,500〜10,000MPaである。
樹脂組成物は、600℃の電気炉において6時間処理した後の灰化残渣の重量割合から算出される無機化合物量をX重量%とし、該樹脂組成物の40℃における貯蔵弾性率をY(MPa)としたとき、下記式(1)を満足することが好ましい。
400X+1,500≦Y≦1,400X+1,500 (1)
かかる樹脂組成物は、少量の無機充填材の含有にもかかわらず高弾性を有する。本発明においては無機化合物の量(X重量%)は、B−2成分量に相当する。
ここで、貯蔵弾性率Yの値は、各種の動的粘弾性測定装置を用いて、応答の線形性が確保される歪みおよび周波数領域において測定される値である。かかる測定の一例としては、TA Instruments社製DMA983型動的粘弾性測定装置を用い、Resonant Frequency Mode(共振周波数モード)を用いて行う方法が例示される。
<他の付加的成分>
本発明の樹脂組成物には、更に必要に応じ、付加的成分として上記各成分以外のその他の添加剤を添加することができる。かかる添加剤は、本発明の方法により得られた反応後の樹脂組成物に添加されても、また反応中におけるいずれかの段階で配合されてもよい。更に同一の添加剤が反応時に添加され、得られた樹脂組成物を溶融混練する際に再度添加されてもよい。反応時に添加される添加剤は反応を阻害しないことが条件となるため、比較的少量で使用される熱安定剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などの各種安定剤が好ましい。
本発明の樹脂組成物は、界面重縮合反応により得られた樹脂組成物を直接に溶融法や流延法により成形して所望の形状にすることができる(即ち、層状珪酸塩の含有量は、重縮合反応により得られた樹脂組成物と同一である)。一方、界面重縮合反応により得られた樹脂組成物を別途ポリカーボネート、他の樹脂、または各種添加剤と溶融混練または溶液中もしくは分散液中で混合した後、溶融法や流延法により成形することもできる。
<付加的成分:重合体>
かかる付加的成分となり得る重合体としては、各種の樹脂またはエラストマーが挙げられる。樹脂としては、例えば芳香族ポリエステル樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、スチレン系樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂が例示される。
また、エラストマーとしては、例えばイソブチレン/イソプレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴム、アクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、コアシェル型のエラストマーであるMBS(メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエン)ゴム、MAS(メタクリル酸メチル/アクリロニトリル/スチレン)ゴムなどが例示される。
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン(PS)(シンジオタクチックポリスチレンを含む)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)が好ましく使用され、なかでもABS樹脂が最も好ましい。これらスチレン系樹脂2種以上混合して使用することも可能である。
芳香族ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリヘキシレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等の他、1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエチレンテレフタレート(いわゆるPET−G)、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレートのような共重合ポリエステルも使用できる。なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。また、成形性および機械的性質のバランスが求められる場合、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートが好ましく、さらに重量比でポリブチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレートが2〜10の範囲のブレンドや共重合体が好ましい。芳香族ポリエステル樹脂の分子量については特に制限されないが、o−クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した固有粘度が0.4〜1.2、好ましくは0.6〜1.15である。
尚、いわゆる膨潤性の層状珪酸塩を含有するポリカーボネート樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂と親和性を有し、かつ親水性成分を有する化合物を含有することにより、層状珪酸塩が良好に分散され、樹脂組成物は良好な剛性を有することが、例えばWO03/010235号パンフレットにおいて知られている。本発明においてもかかる化合物を更に含有することができ、その詳細は該パンフレットに記載されたとおりである。
中でも酸性基含有化合物は、樹脂組成物の熱安定性を向上させる点において好ましく使用される。更に中でもカルボキシル基およびその誘導体を含有するスチレン系重合体、特にスチレン−無水マレイン酸共重合体が好ましく使用される。
<付加的成分:添加剤>
本発明の樹脂組成物には、更には必要に応じ、離型剤(例えば、脂肪酸エステル、ポリオレフィンワックス、シリコーン化合物、およびフッ素オイルなど)、難燃剤(例えば、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリアクリレート、モノホスフェート化合物、ホスフェートオリゴマー化合物、ホスホネートオリゴマー化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、ホスホン酸アミド化合物、有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、およびシリコーン系難燃剤など)、難燃助剤(例えば、アンチモン酸ナトリウム、および三酸化アンチモンなど)、滴下防止剤(フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンに代表される)、酸化防止剤(例えば、ヒンダードフェノール系化合物、およびイオウ系酸化防止剤など)、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、摺動剤(例えばPTFE粒子および高分子量ポリエチレン粒子など)、着色剤(例えばカーボンブラックおよび酸化チタンなどの顔料、並びに染料)、光拡散剤(例えばアクリル架橋粒子、シリコーン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、および炭酸カルシウム粒子など)、無機系蛍光体(例えばアルミン酸塩を母結晶とする蛍光体)、帯電防止剤、導電剤(例えばカーボンブラック、気相成長炭素繊維、およびカーボンナノチューブなど)、流動改質剤(ポリカプロラクトン、およびスチレン系オリゴマーなど)、無機もしくは有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、および微粒子酸化亜鉛など)、赤外線吸収剤(ATO微粒子、ITO微粒子、ホウ化ランタン微粒子、ホウ化タングステン微粒子、およびフタロシアニン系金属錯体など)、フォトクロミック剤、並びに蛍光増白剤などを配合できる。
前記染料類のうち、好ましい染料としてはペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、アンスラキノン系染料、チオキサントン系染料、紺青等のフェロシアン化物、ペリノン系染料、キノリン系染料、キナクリドン系染料、ジオキサジン系染料、イソインドリノン系染料、フタロシアニン系染料等が例示される。さらに、アンスラキノン系染料、ペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、チオキサントン系染料等に代表される各種の蛍光染料が例示される。また、蛍光増白剤としては、ビスベンゾオキサゾリル−スチルベン誘導体、ビスベンゾオキサゾリル−ナフタレン誘導体、ビスベンゾオキサゾリル−チオフェン誘導体およびクマリン誘導体等の蛍光増白剤が例示される。これらの中でもクマリン誘導体が特に好適に使用され、該クマリン誘導体の市販品としては例えば、ハッコールケミカル(株)製ハッコールPSR(商品名)が例示される。蛍光増白剤の配合量は、A成分100重量部に対し好ましくは0.0005〜1重量部、より好ましくは0.001〜0.1重量部である。
酸化チタンとしては特に白色顔料である二酸化チタンが好適である。かかる二酸化チタンは、アルミニウム、シリコン、チタン、ジルコニウム、アンチモン、スズおよび亜鉛などの金属の酸化物で表面処理されていることが好ましい。かかる表面処理は高密度な処理および低密度(多孔質)な処理の何れも適用できる。更に好適な二酸化チタンは有機化合物で表面処理される。かかる表面処理剤としては、アミン類化合物、シリコーン化合物、およびポリオール化合物をそれぞれ主成分とする表面処理剤などが利用される。殊にアルキルハイドロジェンポリシロキサンで被覆した二酸化チタンが好適に使用される。二酸化チタンは、通常の着色剤として使用する場合には、A成分100重量部あたり、0.001重量部以上3重量部未満の範囲で使用される。一方、二酸化チタンを比較的高含有量とし、成形品に光反射特性を付与する場合には、A成分100重量部あたり、好ましくは3〜30重量部であり、特に好ましくは7〜18重量部である。
本発明の樹脂組成物に配合される紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、環状イミノエステル系紫外線吸収剤、およびシアノアクリレート系紫外線吸収剤などが例示され、これらのいずれも使用可能である。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、例えば2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、および2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]などが例示される。ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤としては例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノールおよび2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノールなどが例示される。環状イミノエステル系紫外線吸収剤としては、例えば2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)および2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、などが例示される。シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば1,3−ビス−[(2’−シアノ−3’,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパンが例示される。
さらに上記紫外線吸収剤は、ラジカル重合が可能な単量体化合物の構造をとることにより、かかる紫外線吸収性単量体および/または光安定性単量体と、アルキル(メタ)アクリレートなどの単量体とを共重合したポリマー型の紫外線吸収剤であってもよい。前記紫外線吸収性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルのエステル置換基中にベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格、トリアジン骨格、環状イミノエステル骨格、およびシアノアクリレート骨格を含有する化合物が好適に例示される。上記の中でも紫外線吸収能の点においてはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤およびヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤が好ましく、耐熱性や色相(透明性)の点では、環状イミノエステル系紫外線吸収剤およびシアノアクリレート系紫外線吸収剤が好ましい。上記紫外線吸収剤は単独であるいは2種以上の混合物で用いてもよい。紫外線吸収剤の配合量は、A成分100重量部に対して0.01〜2重量部、特に好ましくは0.05〜0.5重量部である。また本発明の樹脂組成物は、ヒンダードアミン系の光安定剤も含むことができる。光安定剤の配合量はA成分100重量部に対して0.0005〜3重量部が好ましい。
本発明の樹脂組成物にはリン含有熱安定剤が配合されることが好ましい。かかるリン含有熱安定剤としてはトリメチルホスフェート等のリン酸エステル、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等の亜リン酸エステル、並びに、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト等の亜ホスホン酸エステル等が例示される。かかるリン含有熱安定剤は全組成物100重量%中0.001〜1重量%を含むことが好ましく、0.01〜0.5重量%を含むことがより好ましく、0.01〜0.2重量%を含むことがさらに好ましい。かかるリン含有熱安定剤の配合によりさらに熱安定性が向上し良好な成形加工特性を得ることができる。
また、本発明の樹脂組成物がヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する場合にも、その好適な含有割合は上述のリン含有熱安定剤と同じ範囲である。
本発明においては、耐加水分解性の向上のため芳香族ポリカーボネート樹脂の加水分解改良剤として従来知られた化合物を、本発明の目的を損なわない範囲において配合することもできる。かかる化合物としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、シラン化合物およびホスホン酸化合物などが例示され、特にエポキシ化合物およびオキセタン化合物が好適に例示される。エポキシ化合物としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートに代表される脂環族エポキシ化合物、および3−グリシジルプロポキシ−トリエトキシシランに代表される珪素原子含有エポキシ化合物が好適に例示される。かかる化合物の加水分解改良剤としての配合は、A成分100重量部あたり1重量部以下とすることが好ましい。
<付加的成分を含有する樹脂組成物の製造方法>
本発明により得られた樹脂組成物は、前述の付加的成分との溶融混練により、該成分を含有させることができ、またかかる方法が製造効率の点においてより好ましい。
かかる溶融混練の具体的方法としては、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機などを挙げることができ、中でも混練効率の点から押出機が好ましく、更に二軸押出機などの多軸押出機が好ましい。かかる二軸押出機においてより好ましい態様は次の通りである。スクリュー形状は1条、2条、3条のネジスクリューを使用することができ、特に溶融樹脂の搬送能力やせん断混練能力の両方の適用範囲が広い2条ネジスクリューが好ましく使用できる。二軸押出機におけるスクリューの長さ(L)と直径(D)との比(L/D)は、20〜45が好ましく、更に28〜42が好ましい。L/Dが大きい方が均質な分散が達成されやすい一方、大きすぎる場合には熱劣化により樹脂の分解が起こりやすい。スクリューには混練性を上げるためのニーディングディスクセグメント(またはそれに相当する混練セグメント)から構成された混練ゾーンを1個所以上有することが必要であり、1〜3箇所有することが好ましい。
更に押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
付加的成分(添加剤)の押出機への供給方法は特に限定されないが、以下の方法が代表的に例示される。(i)添加剤を、反応後に得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物(以下、この例示において単に“樹脂組成物”とする)とは独立して押出機中に供給する方法。(ii)添加剤と樹脂組成物とをヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機を用いて予備混合した後、押出機に供給する方法。該方法では、必要な原材料を全て予備混合してもよく、添加剤を高濃度に含有するマスター剤を利用してもよい。尚、該マスター剤は粉末形態だけでなく、該粉末を圧縮造粒した形態であってもよい。また他の予備混合の手段は、例えばナウターミキサー、V型ブレンダー、メカノケミカル装置、および押出混合機などがある。(iii)添加剤と樹脂組成物とを予め溶融混練してマスターペレット化する方法。
二軸押出機より押出された樹脂は、直接切断してペレット化(いわゆるホットカット)するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。更に外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。
<成形品>
本発明により得られた樹脂組成物または付加的成分を含有する樹脂組成物からなるペレットは、射出成形して各種製品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
また本発明の樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物を回転成形やブロー成形などにより成形品とすることも可能である。
更に本発明の樹脂組成物からなる成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。ここでいう表面処理とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、塗装、コーティング、印刷などの樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常のポリカーボネート樹脂に用いられる方法が適用できる。表面処理としては、具体的には、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、並びにメタライジング(蒸着など)などの各種の表面処理が例示される。本発明の樹脂組成物は、良好な表面平滑性と高弾性を有することから、メッキやメタライジング加工は特に好ましい表面処理である。
発明の効果
本発明によれば、芳香族ポリカーボネート(A成分)のポリマー前駆体を、特定の珪酸塩充填材(B成分)の存在下で、かつ重合触媒の非存在下で界面重縮合させることにより、比較的少量のB成分の配合によって、高弾性の樹脂組成物を製造することができる。
また、重縮合反応を乳化状態で、攪拌せず、せん断力を作用させることなく行なうことにより、分子量分布の狭い芳香族ポリカーボネートからなる樹脂組成物を得ることができる。
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳述する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の各種特性の評価は、以下の方法により実施した。
(i)重量平均分子量
界面重縮合反応により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物約10mgをクロロホルム約7gに溶解させた。得られた液を0.5μmフィルター(DISMIC 25JP050AN)でろ過して不溶分を除去した。ろ過により得られた溶液中のポリカーボネートの重量平均分子量をWATERS製GPC測定機を用いて測定した。装置の雰囲気は温度23℃、相対湿度50%の清浄な空気の環境下であった。カラムとしてポリマーラボラトリーズ社製SECカラム「MIXED−D」(長さ300mm、内径7.5mm)、移動相としてクロロホルム、標準物質としてポリマーラボラトリーズ社製イージーキャルPS−2(標準ポリスチレン)、および検出器として示差屈折率計を用いた。GPC測定装置には上記ろ過後の溶液を100μl注入し、カラム温度35℃および流量1ml/分の条件によりGPC測定を行った。得られたデータに対してベースラインをチャートの立ち上がり点および収束点を結ぶことで定めて重量平均分子量を算出した。
(ii)層状珪酸塩(無機分)の含有量
界面重縮合反応により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の層状珪酸塩の含有量を、JIS K 7052の方法Aと同様の手順により測定した。即ち、反応により得られた粉末状の樹脂組成物を110℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥しデシケータ中で放冷した。かかる乾燥後の粉末をるつぼに入れ、600℃の電気炉において6時間処理した後、デシケータ中で放冷した。かかるるつぼに残った灰化残渣を秤量することで樹脂組成物中の層状珪酸塩(無機分)の含有量(重量%)を算出した。
(iii)貯蔵弾性率(Y)の測定
以下の手順に従い、40℃における貯蔵弾性係数(Y)の測定を実施した。
(iii−1)試験片作成
界面重縮合反応により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の粉末を、110℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥した。乾燥後の粉末を熱プレス装置(東洋精機(株)製ミニテストプレスMP−2FH)を使用し、成形温度240℃、成形圧力5MPa、保持時間5minの条件で熱プレス成形することにより、長さ60mm、幅7mm、および厚み1.5mmの試験片を作成した。
(iii−2)貯蔵弾性率(Y)の測定
TA Instruments社製DMA983型動的粘弾性測定装置を用い、Resonant Frequency Mode(共振周波数モード)を用いて、40℃における貯蔵弾性率(Y(MPa))の測定を実施した。
原料としては以下のものを用いた。
(B成分およびその他の成分)
(B−I:下記方法により作成された珪酸塩充填材)
平均粒径0.5μmの合成サポナイト(スメクトンSA(商品名):クニミネ工業(株)製、陽イオン交換容量:71.2ミリ当量/100g)100gをイオン交換水10Lに懸濁させ、そこに10gの3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−903(商品名):信越化学工業(株)製)を加え、1時間攪拌した後、遠心分離した。得られた固形分の水洗を3回繰り返し白色固体を得た。かかる固体を100℃で5時間乾燥し、表面処理された珪酸塩充填材(B−I)を得た。
かかる乾燥後の珪酸塩充填材からTGA測定用のサンプルを作成した。該サンプルをTA−Instruments社製のHi−Res TGA2950 Thermogravimetric Analyzerを使用し、N雰囲気下において20℃/minの昇温速度で900℃まで昇温し、900℃における減量割合を測定し、珪酸塩充填材中のシラン化合物に由来する有機物の割合とした。かかる割合は10重量%であった。
(B−II:下記方法により作成された珪酸塩充填材)
平均粒径5μmの合成雲母(ソマシフME−100(商品名):コープケミカル(株)製、陽イオン交換容量:115ミリ当量/100g)100gをイオン交換水10Lに懸濁させ、そこに10gの3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−903(商品名):信越化学工業(株)製)を加え、1時間攪拌した後、遠心分離した。得られた固形分の水洗を3回繰り返し白色固体を得た。かかる固体を100℃で5時間乾燥し、表面処理された珪酸塩充填材(B−II)を得た。B−Iと同様にして測定したTGA減量割合から算出した有機物の割合は10重量%であった。
(B−III:比較用の市販の合成サポナイト)
平均粒径0.5μmの合成サポナイト(スメクトンSA(商品名):クニミネ工業(株)製、陽イオン交換容量:71.2ミリ当量/100g)
(B−IV:比較用の下記方法により作成された合成雲母含有樹脂)
有機オニウムイオン(ジデシルジメチルアンモニウムイオン)でイオン交換され(いわゆる有機化処理された)合成雲母(MAE210(商品名):コープケミカル(株)製、有機化処理前の合成雲母の陽イオン交換容量:115ミリ当量/100g)43.5重量部と無水マレイン酸変性スチレン(DYLARK 332−80(商品名):ノヴァケミカルジャパン(株)製)56.5重量部とをベント付き2軸押出機によりシリンダー温度240℃、ダイス温度260℃、ベント部の真空度を27kPaに保持してストランドを溶融押出し、該ストランドを切断することによりペレット化した。
(B−V:下記方法により作成された珪酸塩充填材)
平均粒径2μmの合成雲母(ソマシフS1ME(商品名):コープケミカル(株)製、陽イオン交換容量:105ミリ当量/100g)100gをイオン交換水10Lに懸濁させ、そこに10gの上述の一般式(II−vi)で示される有機チタネート化合物(プレンアクトKR44(商品名):味の素ファインテクノ(株)製)を加え、1時間攪拌した後、遠心分離した。得られた固形分の水洗を3回繰り返し白色固体を得た。かかる固体を100℃で5時間乾燥し、表面処理された珪酸塩充填材(B−V)を得た。かかる乾燥後の珪酸塩充填材からTGA測定用のサンプルを作成した。該サンプルをB−Iと同様にして900℃における減量割合を測定し、珪酸塩充填材中のチタネート化合物に由来する有機物の割合とした。かかる割合は5重量%であった。
実施例1
(ポリマー前駆体の製造)
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水669.43重量部、48重量%水酸化ナトリウム水溶液117.49重量部を入れ、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下“ビスフェノールA”と略称することがある)156.91重量部およびハイドロサルファイト0.31重量部を加え、溶解を確認後、塩化メチレン459.79重量部を加えた。溶液温度15〜25℃で撹拌しながら、ホスゲン75.63重量部を60分を要して吹き込んだ。
(B成分の添加、界面重縮合)
ホスゲン吹き込み終了後、反応液の水層を抜き取り、8.85重量部の上記B−Iをかかる水層の液に懸濁させ反応器に戻した。さらにp−tert−ブチルフェノール3.61重量部を塩化メチレン29.27重量部に溶解した溶液および48重量%水酸化ナトリウム水溶液27.81重量部を加え、14分間ホモミキサーにより撹拌して乳化状態を得た後、ホモミキサーの作動を停止させ、35℃で3時間静置して反応を終了した。反応後の生成物は容器中の液が均一にゲル化したゲル状の混合物であった。
(分離)
ゲル状の混合物から有機溶媒および水を分離し、分離された残渣を水で洗浄して固体状の樹脂組成物をろ別した。かかる水洗はその母液のpH値が7以下、電気伝導度が50μS以下になるまで繰り返した。水洗後に得られた白色粉末を更に105℃で5時間乾燥して最終的な樹脂組成物を得た。尚、得られた樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂100重量部に対する有機珪素化合物が導入された層状珪酸塩の割合は、1.1重量部であり、かかる粉末における上記重量平均分子量測定により算出された分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、2.8であった。
実施例2
乳化後、35℃で3時間ホモミキサーにより攪拌して反応を行った以外は実施例1と同様にして反応を行い、生成したゲル状の混合物から白色粉末状の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂100重量部に対する有機珪素化合物が導入された層状珪酸塩の割合は、1.9重量部であり、かかる粉末における分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、28.5であった。
比較例1
(ポリマー前駆体の製造)
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水426.45重量部、48重量%水酸化ナトリウム水溶液91.19重量部を入れ、ビスフェノールA90.03重量部およびハイドロサルファイト0.18重量部を加え、溶解を確認後、塩化メチレン268.51重量部を加えた。溶液温度15〜25℃で撹拌しながら、ホスゲン46.91重量部を75分を要して吹き込んだ。
(B成分の添加、界面重縮合)
ホスゲン吹き込み終了後、反応液の水層を抜き取り、5.33重量部の上記B−Iをかかる水層の液に懸濁させ反応器に戻した。さらにp−tert−ブチルフェノール2.37重量部を塩化メチレン29.27重量部に溶解した溶液、48重量%水酸化ナトリウム水溶液16.28重量部および重合触媒であるトリエチルアミン1.07重量部を加え、14分間ホモミキサーにより撹拌して乳化状態を得た後ホモミキサーの作動を停止させ、35℃で3時間静置して反応を終了した。反応後の生成物において、明確なゲル状物は認められなかった。
(分離)
反応終了後、不溶物をろ取して水洗したが、熱可塑性を有さない白色の粉末が極少量得られたのみであった。一方、反応終了後得られた塩化メチレン溶液は分液された後、水洗液のpHが7以下、および電気伝導度が50μS以下になるまで繰り返して水洗した。水洗後の溶液を濃縮して乾燥後、粉砕し白色粉末を得た。
比較例2
層状珪酸塩(B−I)の代わりに(B−III)を5重量部使用した以外は実施例1と同様にして白色粉末を得た。
比較例3
ポリカーボネート樹脂パウダー(パンライトL−1225WX(商品名):帝人化成(株)製)99重量部と上記B−I:1重量部とを混合し、ベント付き2軸押出機によりシリンダ温度260℃、ダイス温度260℃、ベント部の真空度を27kPaに保持してストランドを溶融押出し、該ストランドを切断することによりペレット化した。
比較例4
ポリカーボネート樹脂パウダー(パンライトL−1225WX(商品名):帝人化成(株)製)92重量部と上記B−IV:8重量部とを混合し、ベント付き2軸押出機によりシリンダ温度260℃、ダイス温度260℃、ベント部の真空度を27kPaに保持してストランドを溶融押出し、該ストランドを切断することによりペレット化した。
比較例5
ポリカーボネート樹脂パウダー(パンライトL−1225WX(商品名):帝人化成(株)製)84重量部と上記B−IV:16重量部とを混合し、ベント付き2軸押出機により押出機温度260℃、ダイス温度260℃、ベント部の真空度を27kPaに保持して、ストランドを溶融押出し、該ストランドを切断することによりペレット化した。
比較例6
ポリカーボネート樹脂パウダー(パンライトL−1225WX(商品名):帝人化成(株)製)を、ベント付き2軸押出機により押出機温度260℃、ダイス温度260℃、ベント部の真空度を27kPaに保持して、ストランドを溶融押出し、該ストランドを切断することによりペレット化した。
これらについての測定結果を表1および表2に示す。尚、表中における製造条件における表記は、比較を容易にするために上述および後述の内容を簡便に記載したものである。
【表1】

【表2】


上記表から明らかなように、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は特定の珪酸塩充填材の存在下であって、かつ重合触媒の非存在下において製造されることにより、珪酸塩充填材の含有量が少量であっても高弾性を有する樹脂組成物となることがわかる。かかる効果は図1においてより顕著であることが確認される。
また、重縮合反応を乳化状態で、攪拌せず、せん断力を作用させることなく行なうことにより、分子量分布の狭い芳香族ポリカーボネートからなる樹脂組成物を得ることができる。
実施例3
層状珪酸塩(B−I)の代わりに(B−II)を8.85重量部使用した以外は実施例1と同様にして反応を行った。容器中の混合液は乳化状態の均一性に劣り、白色ゲル状の固体が容器中心部において成長する形で反応が進行した。かかる固体を実施例1と同様に処理して白色粉末を得た。得られた樹脂組成物におけるポリカーボネートの重量平均分子量は18,300であり、また層状珪酸塩の含有量は6.1重量%であった。
実施例4
層状珪酸塩(B−I)の代わりに(B−V)を8.85重量部使用した以外は実施例1と同様にして反応を行い、生成したゲル状の混合物から白色粉末状の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂100重量部に対する有機チタネート化合物が導入された層状珪酸塩の割合は、1.3重量部であり、かかる粉末における分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、4.4であった。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、高弾性のポリカーボネート樹脂組成物が得られる。かかる樹脂組成物は、各種電子・電気機器、OA機器、車両部品、機械部品、その他農業資材、漁業資材、搬送容器、包装容器、および雑貨などの各種用途に利用可能である。
また本発明の樹脂組成物は、成形加工性にも優れ、各種薄肉成形品にも好適である。薄肉射出成形品の具体例としては、電池ハウジングなどの各種ハウジング成形品、鏡筒、メモリーカード、スピーカーコーン、ディスクカートリッジ、面発光体、マイクロマシン用機構部品、銘板、パソコンのハウジング、CDやDVDドライブのトレーやシャシー、複写機のトレーやシャシー、液晶装置の直下型バックライト用光拡散板(特に大型液晶表示装置(15インチ以上の大型液晶テレビ)用直下型バックライト用光拡散板)およびICカードなどが例示される。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート(A成分)100重量部および珪酸塩充填材(B成分)0.01〜50重量部からなる樹脂組成物の製造方法であって、
(I)B成分は、(i)珪素原子に結合した加水分解性基および/または水酸基を含有する有機珪素化合物(B−1−i成分)および(ii)有機チタネート化合物(B−1−ii成分)から選択される少なくとも1種の化合物(B−1成分)を、50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B−2成分)に導入してなる珪酸塩充填材であり、
(II)A成分のポリマー前駆体を、B成分の存在下で、かつ重合触媒の実質的な非存在下において界面重縮合反応させる、
ことを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
ポリマー前駆体が、A成分の構成単位を誘導する二価フェノールとカーボネート前駆体とを、酸結合剤、有機溶媒および水の存在下において反応させ得られたものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
B成分は、B−2成分を極性溶媒中に分散させた後、B−1成分を添加することにより得られた珪酸塩充填材である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
B−2成分は、平均粒径が0.1μm以上5μm未満の層状珪酸塩であり、ここで該平均粒径はレーザー回折・散乱法により測定された粒子径の累積度数50%に相当する粒径である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
B−1−i成分は、下記式(I)で表される有機珪素化合物である請求項1に記載の方法。

式(I)中、nは1〜3の整数であり、Rはヘテロ原子を含有してもよい炭素数2〜30の1価の有機基であり、Xは加水分解性基または水酸基であり、n個のXおよび4−n個のRはそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。
【請求項6】
B−1−ii成分は、下記式(II)、(III)および(IV)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の有機チタネート化合物である請求項1に記載の方法。

式(II)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは炭素数4〜20の1価の有機基であり、mは1〜3の整数である。

式(III)中、Rは炭素数1〜6の2価の有機基、Rは炭素数4〜20の1価の有機基である。

式(IV)中、Rは炭素数1〜20の1価の有機基であり、Rは炭素数4〜20のアルキル基である。
【請求項7】
B成分中の有機物の割合は、0.1〜50重量%である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
A成分のポリマー前駆体に、B成分と極性溶媒との混合物を添加した後、界面重縮合反応させる請求項1に記載の方法。
【請求項9】
乳化状態で界面重縮合反応させる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(I)A成分の構成単位を誘導する二価フェノールとカーボネート前駆体とを、酸結合剤、有機溶媒および水の存在下において反応させ、ポリマー前駆体を得る工程(工程−i)、
(II)得られたポリマー前駆体に、B成分と極性溶媒との混合物を加え液状混合物を得る工程(工程−ii)、
(III)得られた液状混合物にせん断力を作用させて、該液状混合物を乳化状態にせしめた後、乳化状態においてポリマー前駆体を界面重縮合反応させる工程(工程−iii)、並びに
(IV)反応後の混合物から有機溶媒および水を分離し、固体状の樹脂組成物を得る工程(工程−iv)、
からなる請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程−iの後、かつ工程−iiiの前に、末端停止剤として1価フェノールをポリマー前駆体に加える工程(工程−α)を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程−iiiは、乳化状態にせしめた液状混合物を、せん断力を実質的に作用させることなく界面重縮合反応させる工程である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
工程−ivは、反応後の混合物から有機溶媒および水を分離し、分離された残渣を水で洗浄して固体状の樹脂組成物を得る工程である請求項10に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法で製造された樹脂組成物。
【請求項15】
600℃の電気炉において6時間処理した後の灰化残渣の重量割合から算出される無機化合物量をX重量%とし、40℃における貯蔵弾性率をY(MPa)としたとき、下記式(1)を満足する請求項14記載の樹脂組成物。
400X+1,500≦Y≦1,400X+1,500 (1)

【国際公開番号】WO2005/082972
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510527(P2006−510527)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003419
【国際出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】