説明

芳香族炭化水素類の酸化における活性剤としてのアントラセン及び他の多環式芳香族化合物

本発明は、アントラセン又は他の多環式芳香族化合物の少なくとも1により活性化される少なくとも1の重金属酸化触媒及び臭素の存在下での芳香族カルボン酸類を製造するための芳香族炭化水素の液相酸化に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラセン又は他の多環式芳香族化合物により活性化される少なくとも1の重金属酸化触媒及び臭素の存在下で、芳香族カルボン酸類を製造するための芳香族炭化水素類の液相酸化に関する。本発明は、多価触媒、臭素源及び多環式芳香族炭化水素を含む触媒の存在下で、トリメリット酸(TMLA)を製造するプソイドクメン(PSC)(1,2,4−トリメチルベンゼン)の液相酸化を含む。本発明は、多価金属酸化触媒、臭素源及びアントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの組み合わせから選択される多環式芳香族炭化水素を含む触媒の存在下で、TMLAを製造するためのPSCの液相酸化に関する。トリメリット酸は、脱水されてトリメリット酸無水物(TMA)を生成する。TMA及びTMLAは、ポリエステル材料の製造用原料として商業的に価値がある。トリメリット酸エステル類は、温度安定性及び低揮発性の基本的な特徴を有するので、ポリビニルクロライドの可塑剤として、特に高性能ワイヤ及びケーブル絶縁物用の可塑剤として用いられている。トリメリット酸無水物は、電着及び粉末被覆用樹脂の製造において、また、ガラス繊維、砂及び他の集合体用のバインダーとして用いられる。トリメリット酸無水物は、ビニル床材用のエンボス加工剤として、また、エポキシ樹脂用の硬化剤として用いられている。表面コーティング化学、接着剤、ポリマー、染料印刷インク、医薬品及び農薬の合成の中間体としても用いられている。
【背景技術】
【0002】
ベンゼンジカルボン酸及びナフタリンジカルボン酸などの芳香族カルボン酸は、繊維、膜、樹脂その他多くの石油化学化合物を製造するために用いられるポリエステル材料の製造用の原料として商業的に価値がある。米国特許2,833,816号明細書(本願に援用する)は、臭素の存在下で、コバルト及びマンガン成分を有する触媒を用いるキシレン異性体群の対応するベンゼンジカルボン酸への液相酸化を開示する。米国特許5,103,933号明細書(本願に援用する)に記載されているように、臭素とコバルト及びマンガン成分を有する触媒の存在下で、ジメチルナフタリン類のナフタリンジカルボン酸類への液相酸化もまた達成され得る。典型的には、芳香族カルボン酸類は、例えば、米国特許3,584,039号明細書、米国特許4,892,972号明細書及び米国特許5,362,908号明細書に記載されているように後続のプロセスにおいて精製される。
【0003】
芳香族炭化水素類の芳香族カルボン酸類への液相酸化は、芳香族炭化水素類及び溶媒を含む反応混合物を用いて行われる。典型的には、溶媒は、例えば 酢酸、安息香酸などのC1〜C8モノカルボン酸又はこれらと水との混合物を含む。本明細書において、「芳香族炭化水素」とは、好ましくは、炭素原子及び水素原子を主として含み、1以上の芳香族環を有する分子、特にジメチルベンゼン類、トリメチルベンゼン類及びジメチルナフタリン類を意味する。芳香族カルボン酸を製造する液相酸化に適する芳香族炭化水素類は、一般に、カルボン酸基まで酸化され得る少なくとも1の置換基を有する芳香族炭化水素を含む。本明細書において「芳香族カルボン酸」とは、好ましくは、少なくとも1のカルボキシル基を有する芳香族炭化水素を意味する。
【0004】
臭素助触媒及び触媒は、酸化剤ガスの存在下で反応する反応混合物に添加される。典型的には、触媒は、少なくとも1の適切な重金属成分を含む。適切な重金属としては、約23〜約178の範囲にある原子量を有する重金属を挙げることができる。例としては、コバルト、マンガン、バナジウム、モリブデン、ニッケル、ジルコニウム、チタン、セリウム又はハフニウムなどのランタニド金属を挙げることができる。これらの金属の適切な形態としては、例えば、酢酸塩、水酸化物及び炭酸塩を挙げることができる。液相酸化による芳香族カルボン酸の製造に臭素を用いることで、反応原系の転化を改良する。
【0005】
ソ連(USSR)特許239936号(I. V. Zakharov)は、触媒−コバルト塩及びジブロムアントラセン−の存在下、90℃〜110℃の温度で、アルキル芳香族炭化水素の分子状酸素による酢酸溶液中での液相酸化方法を開示する。この方法では、プロセスを活性化する目的で、1〜3%のコバルト塩濃度の容量のマンガン塩が反応混合物に追加導入される。
【0006】
芳香族カルボン酸の品質は、芳香族カルボン酸生成物中に不純物として見出される中間生成物の濃度によって決定されることが多い。これらの不純物のタイプ及び濃度は、用いられる触媒及び助触媒のタイプ及び濃度と共に、また、所望の特定の芳香族カルボン酸生成物と共に変動する。このような不純物の存在は、カルボン酸生成物の使用に影響を与えるか、又はカルボン酸生成物をある目的にとってあまり望ましくないものとする。例えば、テレフタル酸がポリエステル類調製における直接凝縮プロセスで用いられる場合、テレフタル酸中の不純物は、ポリエステルの望ましくない着色を引き起こし、連鎖停止剤として作用し得る。
【0007】
アントラセン及び他の多環式芳香族炭化水素類は、たとえ非常に少量の添加であっても、アルキル芳香族類の芳香族カルボン酸類への酸化を活性化することが開示されている。この活性化は、酸素取り込み量の増加、温度上昇、より少量の中間体及び反応時間の短縮及び一次生成物の高収率に反映される。
【0008】
アントラセン、ナフタリン及び他の多環式芳香族炭化水素類をキシレン類、トリメチルベンゼン類及びジメチルナフタリン類などのアルキル芳香族類の酸化に添加することは、予想できない顕著な活性化を引き起こし、テレフタル酸(TA)、イソフタル酸(IPA)、トリメリット酸(TMLA)及びナフタリンジカルボン酸(NDA)などの芳香族酸の製造を高めることができる。これらの酸化(Co、Mn及びBrにより触媒される)における高活性は、中間体及び副産物を減少させ、触媒コストを低減し、Brによって引き起こされる腐食及び排出を減少させることができる。非常に少量のアントラセン又は他の多環式芳香族炭化水素がこの活性化に必要とされるだけである。アントラセン又は他の多環式芳香族炭化水素を活性剤として使用することで、より少ない触媒金属で所望の芳香族カルボン酸への出発芳香族炭化水素の良好な転化を得ることができるので、触媒コストを削減することができる。例えば、より少ないコバルトを使用できることは、プロセスの顕著なコスト節約につながる。
【0009】
アントラセンなどの多環式芳香族による芳香族炭化水素類の芳香族カルボン酸への酸化の活性化は、触媒濃度を顕著に減少させることができ、特に触媒パッケージのコスト高の成分であるコバルトの量を減少させることができるならば、触媒コストを顕著に低減できるであろう。より少量の触媒を使用する能力は、コスト節約及びより経済的なプロセスを提供することができる予測できない利点である。これは、コバルトなどの高価な触媒成分の回収及びリサイクルが困難であるか又は可能ではないプロセスにおいて、特別のコスト節約を提供する。
【0010】
さらに、芳香族炭化水素類の芳香族カルボン酸への酸化を活性化させるためにアントラセンを用いることで、酸化プロセスをより低い温度で実行することが可能になる。これは、プロセスに用いられるべきエネルギーをより少なくできることを意味する。こうしてコストも節約でき、さらに、より少量のエネルギーを使用することは環境の観点からも望ましい。
【0011】
芳香族カルボン酸を形成する芳香族炭化水素類の液相酸化での別の困難性は、溶媒及び芳香族炭化水素の燃焼である。液相酸化反応は、典型的には、溶媒の少なくとも2%及び芳香族炭化水素の2%超過の燃焼を生じさせる。我々は、多環式芳香族炭化水素を助触媒として使用することで、溶媒及び炭化水素の燃焼を有害に増加させることなく、芳香族カルボン酸の生成收率を増加させることを開示する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、液相条件下、少なくとも1の適切な重金属、臭素源及び少なくとも1の多環式芳香族炭化水素を含む触媒系の存在下で、芳香族炭化水素を分子状酸素源で酸化して、芳香族カルボン酸を形成するプロセスに関する。本発明は、プソイドクメンのトリメリット酸への液相酸化プロセスを含み、このプロセスはプソイドクメンを少なくとも1の適切な重金属、臭素源及び少なくとも1の多環式芳香族炭化水素を含む触媒の存在下で酸化することを含む。
【0013】
また本発明は、芳香族炭化水素類の液相酸化による芳香族カルボン酸製造用の触媒系に関する。この触媒系は、
a)少なくとも1の重金属酸化触媒;
b)臭素源;及び
c)多環式芳香族炭化水素を含む。
【0014】
また、本発明は、トリメリット酸へのプソイドクメンの液相酸化プロセスにも関する。このプロセスにおいて、触媒は、少なくとも1の適切な重金属、臭素源及びアントラセンを含む。
【0015】
本発明は、さらに、約50℃〜約250℃の範囲にある温度で、少なくとも1の適切な重金属、臭素源及び好ましくはアントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの混合物から選択される少なくとも1の多環式芳香族炭化水素を含む触媒系でのトリメリット酸へのプソイドクメンの液相酸化プロセスにも関する。
【0016】
本発明の触媒系において、多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの組み合わせでよい。別の多環式芳香族炭化水素源として、多環式芳香族炭化水素類を含む石油精製からの重質副産物流でもよい。
【0017】
重金属は、コバルトと、マンガン、セリウム、ジルコニウム、チタン及びハフニウムから選択される1以上の二次金属を含み、約100 ppmw〜約6,000 ppmwの範囲にある量で存在する。典型的には、元素状臭素:重金属の原子比は、約0.1:1〜約4:1;例えば約0.2:1〜約2:1;例えば、約0.3:1〜約1:1の範囲にある。多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリンまたはテトラセンを単独もしくは組み合わせで含む。
【0018】
本発明の一実施形態は、C1〜C8モノカルボン酸を含む反応溶媒中で、液相条件下、約120℃〜約250℃の範囲にある温度で、プソイドクメンを酸化剤ガスで酸化して、トリメリット酸を形成するプロセスに関する。このププロセスは、少なくとも1の適切な重金属、臭素源及び1以上の多環式芳香族炭化水素類を含む触媒の存在下でプソイドクメンを酸化することを含む。
【0019】
臭素源は、Br2、HBr、NaBr、KBr、NH4Br、臭化ベンジル、ブロム酢酸、ジブロム酢酸、テトラブロモエタン、二臭化エチレン及びブロモアセチルブロミドから選択される1以上の臭素化合物を含むことができる。
【0020】
添加される総臭素は、単独の臭素源、例えば、イオン性臭素源類(HBr、NaBr、NH4Brなど)からのものでも、または臭素の結合形態、例えば、臭化ベンジル、テトラブロモエタンその他の有機ブロミドからのものでよい。
【0021】
多環式芳香族炭化水素は、好ましくはアントラセン、ナフタリン、テトラセンまたはこれらの混合物を含み、アントラセンがより好ましい。
【好ましい実施形態】
【0022】
本発明は、アルキル芳香族のコバルト触媒酸化を利用するプロセスにおいてアントラセンまたは他の多環式芳香族炭化水素を触媒活性剤として使用することに関する。特に、パラキシレン(PX)をテレフタル酸(TA)へ、次いで精製して精製テレフタル酸(PTA)を与え、メタキシレン(MX)をイソフタル酸(IPA)へ、プソイドクメン(1,2,4−トリメチルベンゼン)をトリメリット酸(TMLA)へ、2,6−ジメチルナフタリン(2,6-DMN)を2,6−ナフタリンジカルボン酸(NDA)へ酸化する。アントラセン及び類似の化合物により与えられる活性の増加は、製品ラインに応じて種々の態様で利用することができる。
【0023】
本発明は、液相条件下で、重金属酸化触媒、臭素源及び多環式芳香族炭化水素活性剤を含む触媒系の存在下、分子状酸素によるプソイドクメン(PSC)のトリメリット酸(TMLA)への酸化プロセスを含む。
【0024】
初期触媒中に又は連続的に(すなわち、テールアウト(tailout)触媒)アントラセン又は他の多環式芳香族炭化水素を添加することで、より少量のコバルトを触媒系において用いる場合に、望ましくないメチル二塩基酸(methyl diacid)副産物は少量で、プソイドクメンをトリメリット酸まで転化することが可能となる。アントラセンの活性効果は、触媒をテールアウト(tailout)触媒中に連続的に添加する場合により顕著である。
【0025】
一実施形態において、触媒系は、コバルト−マンガン−セリウム−臭素触媒及びアントラセンを含む。
別の実施形態において、触媒系は、セリウム チタン−コバルト−マンガン−臭素触媒及びアントラセンを含む。別の実施形態において、触媒系は、セリウム ジルコニウム−コバルト−マンガン−臭素触媒及びアントラセンを含む。
【0026】
本発明は、C1〜C8モノカルボン酸を含む反応溶媒中、液相条件下、約50℃〜約250℃の範囲、例えば約100℃〜約250℃の範囲、例えば約100℃〜約200℃の範囲、例えば約120℃〜約250℃の範囲、例えば約120℃〜約210℃の範囲にある温度で、芳香族炭化水素類を酸化剤ガスで酸化して芳香族カルボン酸類を形成するプロセスも提供する。アントラセン又は他の多環式炭化水素を使用することで、所望であれば、より低い温度で酸化を実行することができる。
【0027】
本プロセスは、少なくとも1の適切な重金属、臭素及び1以上の多環式芳香族炭化水素類を含む触媒の存在下で、芳香族炭化水素類を酸化することを含む。重金属は、コバルトと、マンガン、セリウム、ジルコニウム、チタン及びハフニウムから選択される1以上の二次金属とを含むものでよい。重金属は、好ましくは約100 ppmw〜約6000 ppmw、例えば約500 ppmw〜約3000 ppmwの範囲にある量で存在する。
【0028】
酸化は、約1〜約40 kg/cm2 gauge(約15 psig〜約569 psig)、例えば約90 psig〜約450 psig、例えば約90 psig〜約400 psigの範囲にある圧力で行われる。DMNからNDAへの酸化は、約300〜約450 psig、好ましくは約350〜約400 psigの圧力で行われる。
【0029】
芳香族炭化水素類は、好ましくは、パラキシレン、メタキシレン、プソイドクメン及びジメチルナフタリンを含む。多環式芳香族炭化水素類は、好ましくは、アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの混合物を含み、アントラセンがより好ましい。いくつかの実施形態において、アントラセンを活性剤として用いることで、触媒要求を約75%以下にまで減少させることができるので、少量の重金属を触媒中で用いることができる。
【0030】
本発明は、約50℃〜約250℃の範囲、例えば約100℃〜約250℃の範囲、例えば約150℃〜約200℃の範囲、例えば約120℃〜約220℃の範囲、例えば約170℃〜約210℃の範囲、例えば約170℃〜約220℃の範囲にある温度で、芳香族カルボン酸を形成する芳香族炭化水素類の液相酸化用触媒系を提供する。
【0031】
本発明の一実施形態において、プソイドクメンを酸化してトリメリット酸を形成する場合、温度は、酸化の開始時には約170℃であり、約210℃〜220℃の反応温度に達するまで上昇する。
【0032】
プソイドクメン酸化は、典型的には、約90 psig〜約400 psigの範囲、例えば約90 psig〜約300 psigの範囲、例えば約100 psig〜290 psigの範囲、例えば約105 psig〜280 psigの範囲の圧力で行われる。
【0033】
触媒系で用いられる多環式化合物の量は、約5 ppm〜約10,000 ppm、例えば約5ppm〜約5,000 ppm、例えば約5 ppm〜約1000 ppm、例えば約5 ppm〜約200ppmでよい。
触媒系は、少なくとも1の適切な重金属、臭素源及び1以上の多環式芳香族炭化水素類を含む。好ましくは、重金属及びアントラセン又は他の多環式芳香族炭化水素は、C1〜C8モノカルボン酸を含む溶媒中に存在する。重金属は、好ましくは、コバルトと、マンガン、セリウム、ジルコニウム、チタン及びハフニウムから選択される1以上の二次金属を含み、好ましくは約100 ppmw〜約6,000 ppmwの範囲にある量で存在する。好ましくは、元素状臭素:重金属の原子比は、約 0.1:1〜約4:1、より好ましくは約0.3:1〜約1:1の範囲にある。多環式芳香族炭化水素は、好ましくは、アントラセン、ナフタリン、テトラセン又はこれらの混合物を含む。別の多環式芳香族炭化水素源は、石油精製からの多環式芳香族炭化水素含有副産物流でもよい。
【0034】
本発明において、芳香族炭化水素類から芳香族カルボン酸への酸化は、約1〜約40 kg/cm2 gauge、例えば約5〜約40 kg/cm2 gauge、例えば約14〜約32 kg/cm2 gauge、例えば約22〜約29 kg/cm2 gaugeの範囲にある圧力で行われる。芳香族炭化水素類としては、限定されるものではないが、アルキル芳香族炭化水素類、好ましくはパラキシレン、メタキシレン、プソイドクメン及びジメチルナフタリンなどの1〜4個のメチル基を含むアルキル芳香族炭化水素類を挙げることができる。多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの混合物から選択される。別の多環式芳香族炭化水素源は、石油精製からの多環式芳香族炭化水素含有副産物流でもよい。
【0035】
本発明は、液相条件下、アントラセンにより活性化される触媒の存在下で、分子状酸素による芳香族炭化水素類から芳香族カルボン酸類への酸化プロセスに関する。好ましい実施形態において、触媒は、アントラセンにより活性化されるコバルト−マンガン−臭素触媒であり、追加の金属活性剤を含んでいてもよい。
【0036】
本発明はまた、約100℃〜約250℃の範囲にある温度で、芳香族カルボン酸を形成する芳香族炭化水素類の液相酸化用触媒系も提供する。触媒系は、少なくとも1の適切な重金属、臭素源及び1以上の多環式芳香族炭化水素類を含む。臭素源は、好ましくは、Br2、HBr、NaBr、KBr、NH4Br、臭化ベンジル、ブロム酢酸、ジブロム酢酸、テトラブロモエタン、二臭化エチレン及びブロムアセチルブロミドから選択される1以上の臭素化合物である。好ましくは、重金属、臭素源及び多環式芳香族炭化水素は、C1〜C8モノカルボン酸を含む溶媒中に存在する。重金属は、好ましくは、コバルトと、マンガン、セリウム、ジルコニウム及びハフニウムから選択される1以上の二次金属とを含み、好ましくは約100 ppmw〜約6,000 ppmwの範囲にある量で存在する。好ましくは、元素状臭素:重金属の原子比は、約0.1:1〜約4:1、例えば約0.2:1〜約2:1、例えば約0.3:1〜約1:1の範囲にある。多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリン、テトラセン又はこれらの混合物を含む。
【0037】
本発明の一実施形態において、プソイドクメンをトリメリット酸まで酸化する場合、触媒はセリウム、ジルコニウム、コバルト及びマンガンを含む1以上の重金属酸化触媒を含み、セリウム含量は約9〜約30 wt%であり、ジルコニウム含量は約2〜約5 wt%であり、マンガン含量は約25〜約40 wt%であり、コバルト含量は約30〜約70 wt%であり、存在する各金属の量は存在する総金属のwt%で与えられ;臭素源は、添加された臭素の総モル比が存在する総金属触媒の約30〜約100%となるように添加され;多環式芳香族炭化水素は、多環式芳香族炭化水素の約5 ppm〜約10,000 ppm、例えば多環式芳香族炭化水素の約5ppm〜約5,000 ppm、例えば多環式芳香族炭化水素の約5ppm〜約1000ppm、例えば多環式芳香族炭化水素の約5 ppm〜約200ppmとなるように添加される。
【0038】
多価触媒及び臭素助触媒を用いるプソイドクメンからTMLAへの液相酸化方法は、米国特許4,755,622号明細書及び4,992,579号明細書(ともに本願に援用する)に記載されている。
【0039】
米国特許4755622号明細書は、臭素源により促進される多価触媒の存在下でのプソイドクメンの液相酸化を開示する。ここで、酸化は2段で行われ、第1段で添加される臭素の量は添加される総臭素の約10〜約 35%であり、残量は第2段で添加される。
【0040】
米国特許4992579号明細書は、プソイドクメン(PSC)の液相酸化を開示する。ここで、反応の最初の部分は半連続モード又はバッチモードで行われ、続いてバッチテールアウト(tail-out)が行われる。バッチテールアウトにおいて、臭素助触媒及びプラス3(+3)の原子価状態にあるセリウムの大部分がバッチテールアウト(tail-out)段で添加される。よって、ポリカルボン酸部位とコバルト−マンガン−臭素触媒もしくはジルコニウム−コバルト−マンガン−臭素触媒との接触時間は短縮され、PSCからのトリメリット酸(TMLA)の收率は改良される。
【0041】
本発明の一実施形態は、プソイドクメンをトリメリット酸へ転化するプロセスに関する。本プロセスは、液相条件下、コバルト源と、マンガン源プラス臭素源と、多環式芳香族炭化水素とを含み、ジルコニウム源を有するか又は有しない触媒の存在下、約100℃〜約250℃の範囲にある温度で、2段で、プソイドクメン含有供給原料を分子状酸素源で接触酸化することを含む。第1段はバッチ式又は半連続式に行われ、第2段はバッチ式で行われる。臭素成分の添加は、総臭素の約10〜約35 wt%が第1段で行われ、残量が第2段で添加されるように行われる。第2段の温度は約175℃から約250℃まで上昇し、第1段の温度は約125℃〜約165℃の間である。臭素成分の2段添加は、分子状酸素源を供給原料に導入しながら行われる。
【0042】
本発明の別の実施形態は、液相条件下、プラス3(+3)の原子価を有するセリウム、ジルコニウム、コバルト及びマンガンを含みプソイドクメンのグラムモル当たり約3〜約10 ミリグラム原子の総金属を提供する1以上の重金属酸化触媒と臭素源と多環式芳香族炭化水素とを含む触媒の存在下、約100℃〜約275℃の範囲にある温度で、プソイドクメンを分子状酸素でトリメリット酸まで酸化するプロセスに関する。本プロセスは、少なくとも2段での臭素成分の段階的添加を含む。総臭素の0〜約35 wt%が第1段で添加され、残量は最後段で添加され、全セリウムは最後段で添加される。最後段の温度は約175℃から約275℃に上昇し、先行する段の温度は約125℃〜約165℃の間である。
【0043】
芳香族カルボン酸類を製造する芳香族炭化水素類の液相酸化は、バッチプロセス、連続プロセス又は半連続プロセスで行うことができる。酸化反応は、1以上の反応器内で行われてもよい。反応混合物は、芳香族炭化水素供給物、溶媒、重金属酸化触媒、臭素源及び多環式芳香族炭化水素活性剤を組み合わせることにより形成される。連続プロセス又は半連続プロセスにおいて、反応混合物成分は酸化反応器に導入される前に混合容器内で組み合わせられることが好ましいが、反応混合物は酸化反応器内で形成されてもよい。
【0044】
本発明が適する芳香族カルボン酸類としては、1以上の芳香族環を有するモノもしくはポリカルボキシル化種を挙げることができ、液相系中での気体状反応原系と液体反応原系との反応により、特に、固体反応生成物が生成され及び/又は反応混合物の液体成分が反応器内の液相よりも上の蒸気相に入る反応により、製造することができる。本発明が特に適する芳香族カルボン酸の例としては、トリメシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、安息香酸及びナフタリンジカルボン酸を挙げることができる。
【0045】
適切な芳香族炭化水素供給物は、一般に、カルボン酸基まで酸化され得る少なくとも1の基を有する芳香族炭化水素を含む。酸化され得る1又は複数の置換基は、メチル基、エチル基又はイソプロピル基などのアルキル基でよい。ヒドロオキシアルキル基、ホルミル基又はケト基などのすでに酸素を含有する基であってもよい。置換基は同一種でも異種でもよい。供給原料化合物の芳香族部分は、ベンゼン核であってもよく、ナフタリン核などの二環式もしくは多環式であってもよい。供給原料化合物の芳香族部分における酸化され得る置換基の数は、芳香族部分において利用可能なサイトの数に等しくてもよいが、一般にそのようなサイトの全数よりは少なく、好ましくは1〜約4、より好ましくは1〜3である。有用な供給化合物の例としては、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、1−ホルミル−4−メチルベンゼン、1−ヒドロキシメチル−4−メチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1−ホルミル−2,4−ジメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、2,6−もしくは2,7−ジメチルナフタリン、2−アシル−6−メチルナフタリン、2−ホルミル−6−メチルナフタリン、2−メチル−6−メチルナフタリン及び2,6−ジエチルナフタリンなどのアルキル−、ヒドロキシメチル−、ホルミル−及びアシル−置換ナフタリン化合物を挙げることができる。
【0046】
対応する芳香族炭化水素前駆体の酸化による芳香族カルボン酸類の製造、例えば、メタ2置換ベンゼン類からのイソフタル酸の製造、パラ2置換ベンゼン類からのテレフタル酸の製造、1,2,4−トリメチルベンゼンからのトリメリット酸の製造、2置換ナフタリン類からのナフタリンジカルボン酸の製造にとって、比較的純粋な供給物質、より好ましくは、所望の酸に対応する前駆体の含量が少なくとも約95 wt.%、より好ましくは少なくとも98 wt.%以上である供給物質を用いることが好ましい。テレフタル酸を製造するために用いる好ましい芳香族炭化水素供給物はパラキシレンを含む。イソフタル酸を製造するために用いる好ましい供給物はメタキシレンを含む。トリメリット酸を製造するために用いる好ましい供給物はプソイドクメンを含む。2,6−ナフタリンジカルボン酸を製造するために用いる好ましい供給物は、2,6−ジメチルナフタリンである。トルエンは安息香酸を製造するために用いる好ましい供給物質である。
【0047】
本発明の一実施形態において、トリメリット酸を製造するプソイドクメンの液相酸化は、バッチプロセス、連続プロセス又は半連続プロセスとして行うことができる。酸化反応は、1以上の反応器内で行うことができる。反応混合物は、プソイドクメン供給物、溶媒、触媒、臭素助触媒及び多環式芳香族炭化水素助触媒を組み合わせることにより形成される。連続又は半連続プロセスにおいて、反応混合物成分は酸化反応器に導入される前に混合容器内で組み合わせられることが好ましいが、反応混合物は酸化反応器内で形成されてもよい。
【0048】
水性カルボン酸、特に低級アルキル(例えば、C1〜C8)モノカルボン酸、例えば酢酸又は安息香酸を含む溶媒が好ましい。なぜなら、これらは芳香族酸類の製造に用いられる典型的な酸化反応条件下でほんの僅か酸化しやすい傾向にあり、酸化における触媒的効果を増強することができるからである。このようなカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸及びこれらの混合物を挙げることができる。芳香族酸酸化反応条件下でモノカルボン酸まで酸化されるエタノール及び他の共溶媒物質もまた、そのまま又はカルボン酸と一緒に用いることができ、好結果を得る。プロセス全体の効率を高め、分離を最小化するために、モノカルボン酸及びそのような共溶媒の混合物を含む溶媒を用いる場合には、共溶媒は、一緒に用いられるモノカルボン酸を酸化し得るものであるべきことが好ましい。
【0049】
本発明にしたがって用いられる触媒は、芳香族炭化水素供給物から芳香族カルボン酸への酸化を触媒するために有効な物質を含む。好ましくは、触媒は液体酸化反応体中に可溶性であり、触媒、酸素及び液体供給物の間の接触を促進する。しかし、不均質触媒又は触媒成分もまた用いることができる。典型的には、触媒は、約23〜約178の範囲にある原子量を有する金属などの少なくとも1の適切な重金属成分を含む。適切な重金属の例としては、コバルト、マンガン、バナジウム、モリブデン、クロム、鉄、ニッケル、ジルコニウム、チタン、セリウム、又はハフニウムなどのランタニド金属を挙げることができる。これらの金属の適切な形態としては、例えば、酢酸塩、水酸化物及び炭酸塩を挙げることができる。本発明の触媒は、好ましくは、コバルト化合物単独又はコバルト化合物とマンガン化合物、セリウム化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物又はハフニウム化合物の1以上との組み合わせを含む。
【0050】
臭素助触媒は、好ましくは望ましくないタイプ又はレベルの副産物の生成なしに、触媒金属の酸化活性を促進するために用いられ、好ましくは液体反応混合物中に可溶性である形態で用いられる。慣用の臭素助触媒は、Br2、HBr、NaBr、KBr、NH4Br及び有機臭化物を含む。
【0051】
我々は、アントラセン及びナフタリン及びテトラセン(2,3−ベンズアントラセン)などの他の多環式化合物が芳香族カルボン酸を製造するための炭化水素類の液相酸化用の活性剤として有効であることを開示する。芳香族カルボン酸を形成する芳香族炭化水素の液相酸化は、アントラセン、ナフタリン又はテトラセンを含む助触媒及び好ましくはコバルトとマンガン、セリウムもしくは他の金属添加剤のいずれかとを含む金属触媒の存在下で行うことができる。
【0052】
キシレン類、ジメチルナフタリン類などのアルキル芳香族の均質酸化へのアントラセン、ナフタリン及び/又は他の多環式芳香族炭化水素の添加は、テレフタル酸(TA)、イソフタル酸(IPA)、トリメリット酸/無水物(TMLA/TMA)及びナフタリンジカルボン酸(NDA)などの芳香族酸の製造を増強することができる予測できない顕著な活性化をもたらす。これらの酸化におけるより高度の活性化(Co、Mn及びBrによって触媒される)は、中間体及び副産物を減少させ、触媒コストを削減することができる。この活性化を引き起こすために、非常に少量の多環式芳香族炭化水素が必要である。
【0053】
特定の反応に応じて、バッチ酸化において最初に、連続酸化において、テールアウト(tailout)触媒において、バッチ酸化において又はバッチモード及びテールアウト(tailout)モードの両者において連続的に、アントラセン又は他の多環式芳香族炭化水素を添加してもよい。活性化有効量は、アントラセン又は他の多環式芳香族炭化水素活性剤の濃度により、及び添加のモードにより変動し得る。いくつかの反応について、触媒活性剤としてのアントラセンの使用により、より低い反応温度を用いることができ、あるいは触媒金属、特にコバルトの量を減少させることができる。いくつかの反応について、触媒系がすでに最適に作用している場合には、アントラセンは触媒活性をさらに増加させないかもしれない。しかし、これらの系において、より低い温度又はより少量の触媒金属などの最適条件未満で反応が操作される場合にはアントラセンは正に活性化効果を発現する。これは、プロセス運転のコストを削減するという有利な効果を有する。
【0054】
酸化反応は、酸化反応器内で行われる。酸化反応器は1以上の反応容器を含み得る。酸化剤ガスもまた酸化反応器中に導入される。本発明にしたがって用いられる酸化剤ガスは、分子状酸素を含む。空気が分子状酸素源として簡便に用いられる。富酸素空気、純酸素及び少なくとも約5%の分子状酸素を含む他のガス状混合物も有用である。少なくとも約10%の分子状酸素を含むこのような富酸素源が有利である。理解されるように、酸素源の分子状酸素含有率が増加するにつれて、コンプレッサ要求及び反応器オフガス中の不活性ガスの取り扱いは減少する。
【0055】
供給物、触媒、酸素及び溶媒の割合は、本発明にとって重要ではなく、供給物質及び目的生成物の選択ばかりでなくプロセス要求及び運転因子の選択によっても変動する。供給物に対する溶媒の質量比は、適切には約1:1〜約10:1の範囲である。酸化剤ガスは、典型的には少なくとも供給物を基準とする化学量論量で用いられるが、液体からオーバーヘッド気相へと逃げる未反応酸素が気相の他の成分と一緒に引火性混合物を形成するほど多量ではない。触媒は、適切には、芳香族炭化水素供給物及び溶媒の質量を基準として、約100 ppmw超過、好ましくは約500 ppmw超過で、約10,000 ppmw未満、好ましくは約6,000 ppmw未満、より好ましくは約3000 ppmw未満の触媒金属濃度で用いられる。臭素助触媒は、好ましくは臭素:触媒金属の原子比が適切には約0.1:1よりも大きく、好ましくは約0.2:1よりも大きく、好ましくは約0.3:1よりも大きく、及び適切には約4:1よりも小さく、好ましくは約3:1よりも小さくなるような量で存在する。本発明によれば、臭素:触媒金属の原子比が最も好ましくは約0.25:1〜約2:1の範囲となる量で、助触媒は1以上の多環式芳香族炭化水素を慣用の臭素助触媒との組み合わせで含む。
【0056】
反応容器内の圧力は、少なくとも、供給物及び溶媒を含む多量の液相を容器内に維持するために十分高い。一般に、約5〜約40 kg/cm2ゲージの圧力が適切であり、特定のプロセスに好ましい圧力は、供給物及び溶媒組成、温度その他の因子によって変動する。反応容器内での溶媒滞留時間は、所与の処理量及び条件に適するように変動してよく、プロセスの範囲について約20〜約150分間が一般に適切である。芳香族酸類製造の当業者には明らかであるように、好ましい条件及び運転パラメータは異なるプロセス及び生成物に応じて変動し、上記特定の範囲内で又は範囲を超えてさえ変動し得る。
【0057】
液体から回収された芳香族カルボン酸生成物は、そのまま使用することも保存することもあるいは精製その他の処理に供することもできる。精製は、回収された芳香族カルボン酸と共に存在するかもしれない副産物及び不純物を除去するために有益である。テレフタル酸及びイソフタル酸類などの芳香族カルボン酸類にとって、精製は、高められた温度及び圧力で、典型的にはカーボン、チタニア又は他の適切な触媒金属用化学物質耐性担体又はキャリアに担持されているルテニウム、ロジウム、白金又はパラジウムなどの水素添加触媒活性を有する金属を含む触媒の存在下で、典型的には水又は他の水性溶媒中に溶解している酸化生成物の水素添加を含むことが好ましい。精製プロセスは、例えば、米国特許3,584,039号明細書、米国特許4,782,181号明細書、米国特許4,626,598号明細書及び米国特許4,892,972号明細書から公知である。精製が溶媒として水を用いて行われる場合には、乾燥の代わりに、水で洗浄して残留酸化溶媒を固体芳香族カルボン酸から除いてもよい。このような洗浄は、米国特許5,679,846号明細書、米国特許5,175,355号明細書及び米国特許5,200,557号明細書に記載されているようなフィルターなどの適切な溶媒交換デバイスを用いて達成することができる。
【0058】
典型的には、例えば、濾過、遠心分離又は公知の方法の組み合わせなど当該分野で公知の分離技術を介して、母液は芳香族カルボン酸生成物から分離される。母液の少なくとも一部をリサイクルすることが好ましく、商業的運転は典型的には母液の大部分をリサイクルする。
【0059】
いくつかの条件下で2,6−ナフタリンジカルボン酸(NDA)が2,6−ジメチルナフタリン(DMN)のMC−酸化により製造される場合に、アントラセン添加によりNDA収率が約2 wt%増加することがわかった。2 wt%の増加は商業的運転において顕著である。
【0060】
アントラセン添加により、さもなければ実施できないような緩やかな条件で酸化プロセスを実行することができ、より高いNDA収率をもたらすようである。より緩やかな条件での実施は、コストがより低いという利点を有するであろう。
【0061】
触媒中コバルトを減少させる能力は、特にDMNからNDAへの酸化に有用である。DMNからNDAへの酸化はpXからTAへの酸化よりも困難であるから、NDAを製造するために著しく多量の高価な酸化触媒金属が用いられる。アントラセン又は他の多環式芳香族炭化水素をDNMからNDAへの酸化用活性剤として用いることは、触媒金属の使用量を少量にし、より緩やかな条件で反応を実行可能とし、及び/又はDMN及び酢酸の燃焼を低下させることによって、コスト削減という利点を有するであろう。
【0062】
2,6−ジメチルナフタリン(DMN)のMC−酸化により2,6−ナフタリンジカルボン酸(NDA)を製造する場合、NDA収率が最適値であると、アントラセンの添加はNDAの収率を上昇させなかったことがわかっている。選択された条件における最適な活性及び選択性で酸化反応が生じ、アントラセンの添加によって更に活性化されないかもしれない。
【0063】
NDAを製造するDMNの酸化の場合、アントラセンの活性化効果はアントラセンの連続添加によっては見られたが、アントラセンを初期反応混合物に添加した場合には見られなかった。
【0064】
プソイドクメンからのトリメリット酸の製造において、触媒中、少量のコバルトを使用する能力ゆえに触媒コストを低下させることができる。アントラセンを用いることにより生じる酢酸溶媒及びプソイドクメン供給物の燃焼減少もまた、コスト節約をもたらす。
【0065】
アントラセン又は他の適切な多環式芳香族炭化水素を活性剤として使用することで、酸化速度を増加させ、プソイドクメン酸化反応をより低い温度で行うことができるが、これは酢酸の燃焼が減少し、生成物の色がよくなり、生成物に対する選択性が良くなることを意味する。より低い温度及びより少量のコバルトで、より良好な色の生成物を得ることができる。
【0066】
アントラセン及びナフタリン及びテトラセン(2,3−ベンズアントラセン)などの他の多環式化合物は、トリメリット酸を製造するためのプソイドクメンの液相酸化用活性剤として有効である。トリメリット酸を形成するプソイドクメンの液相酸化は、好ましくはアントラセン、ナフタリン、テトラセン又はこれらの組み合わせから選択される多環式化合物と、好ましくはコバルトとマンガン、セリウムのいずれか又は両方とを含む金属触媒とを臭素源と一緒に含む活性剤の存在下で行うことができる。アントラセン又は他の多環式化合物を助触媒として用いる場合には、多環式活性剤化合物が触媒系にない場合に使用するコバルトの量よりも2〜3倍低いレベルまで触媒中コバルトの量を減少させることができ、得られる収率及び変換率は慣用のコバルト量を用いる反応で得られる収率及び変換率に匹敵する。
【0067】
一実施形態において、本発明のプロセスは、液相条件下で、ジルコニウム−コバルト−マンガン−セリウム−臭素触媒又はコバルト−マンガン−セリウム−臭素触媒及び触媒活性剤としてのアントラセンの存在下で、プソイドクメンを分子状酸素でトリメリット酸まで酸化することを含む。
【0068】
Zr、Mn及びCoの各々は、酢酸溶媒の存在下でプソイドクメンを酸化する場合に、酢酸塩として簡便に用いることができる。ジルコニウムはZrO2酢酸溶液として商業ベースで入手可能であり、反応溶媒として酢酸を用いる液相酸化に理想的である。セリウムが触媒の1成分である場合、セリウムは好ましくはテールアウト(tail-out)反応において添加される。+3の原子価を有する適切なセリウム化合物は、テールアウト(tail-out)溶液中に可溶性でなければならず、これらは炭酸セリウム及び酢酸セリウムを含む。本発明の強化された酸化のための分子状酸素源は、空気中のO2含量〜酸素ガスまでO2含量が変動してよい。空気は、120℃〜275℃までの温度で行われる酸化にとって好ましい分子状酸素源である。分子状酸素で行われる酸化にとって、好ましい温度は100℃〜200℃の範囲である。このような酸化にとって最小圧力は、純プソイドクメン、又はプソイドクメンと酢酸70-80%のいずれかの反応媒体の70-80%の実質的な液相を維持する圧力であろう。酢酸溶媒が用いられる場合には、酢酸溶媒は、適切にはプソイドクメン1質量部当たり1〜10質量部の範囲にあり得る。反応熱による気化ゆえに液相ではないプソイドクメン及び/又は酢酸は凝縮されることが有利であり、凝縮物は熱を除去して発熱酸化反応を温度制御する手段として酸化に戻される。このようなプソイドクメン反応体及び/又は酢酸溶媒の気化もまた、低沸点副産水の気化と一緒に起こる。液相酸化から酢酸及び反応水を抜き出す利益を利用することが望ましい場合には、凝縮物は酸化に戻されない。
【0069】
強化された酸化のための分子状酸素源は、空気のO2含量から酸素ガスまでO2含量が変動して良い。空気は、120℃〜275℃以下の温度で行われる酸化にとって好ましい分子状酸素源である。分子状酸素で行われる酸化にとって、好ましい温度は100℃〜200℃の範囲にある。このような酸化にとって最小の圧力は、純プソイドクメン(PSC)、又はPSCと酢酸70-80%のいずれかの反応媒体の70-80%の実質的な液相を維持する圧力である。酢酸溶媒が用いられる場合には、酢酸溶媒は、PSC1質量部あたり1〜10質量部の量であってよい。反応熱による気化ゆえに液相にはないPSC及び/又は酢酸は凝縮されることが有利であり、凝縮物は熱を除去して発熱酸化反応を温度制御する手段として酸化に戻される。このようなPSC反応体及び/又は酢酸溶媒の気化もまた、低沸点副産物水の気化と一緒に起こる。液相酸化から酢酸及び反応水を抜き出す利益を利用することが望ましい場合には、後述するように、凝縮物は酸化に戻されない。
【0070】
供給物、触媒、酸素及び溶媒の割合は本発明にとって重要ではなく、供給物及び目的生成物の選択のみならずプロセス要求及び運転因子の選択によっても変動する。溶媒:供給物の質量比は、適切には約1:1〜約10:1の範囲にある。酸化剤ガスは、典型的には少なくとも供給物を基準とする化学量論量で用いられるが、液体からオーバーヘッド気相へ逃げる未反応酸素が気相の他の成分と一緒に引火性混合物を形成するほど多量ではない。触媒は、芳香族炭化水素供給物及び溶媒の質量を基準として、約100 ppmw超過、好ましくは約500 ppmw超過で、約10,000 ppmw未満、好ましくは約6,000 ppmw未満、より好ましくは約3000 ppmw未満の触媒金属の濃度で適切には用いられる。アントラセンを活性剤として使用することで、最大約75%までコバルト要求を低下させることができ、触媒金属中のコバルト使用量を少量にして、触媒金属全体の使用量を少量にすることができる。
【0071】
臭素助触媒は、好ましくは臭素:触媒金属の原子比が適切には約0.1:1よりも大きく、好ましくは約0.3:1よりも大きく、適切には約4:1よりも小さく、好ましくは約1:1よりも小さくなるような量で存在する。本発明によれば、臭素源は、臭素:触媒金属の原子比が最も好ましくは約0.3:1〜約1:1の範囲となるような量で存在する。
【0072】
酢酸又は酢酸水溶液は好ましい溶媒であり、溶媒:供給物の比率は約1:1〜約5:1、例えば約1.8:1〜約4:1、例えば約1.5:1〜約3:1である。触媒は、好ましくはマンガン、セリウム、ジルコニウム、チタン、ハフニウム又はこれらの組み合わせとの組み合わせにおいてコバルトを含む。臭素源は、好ましくは助触媒として用いられる。触媒は適切には、芳香族炭化水素及び溶媒の質量を基準として、約600 ppmw〜約2500 ppmwの触媒金属を与える量で存在する。臭素助触媒は最も好ましくは、臭素:触媒金属の原子比が約0.3:1〜約1:1の範囲となるような量で存在する。
【0073】
液体から回収されたトリメリット酸生成物は、そのまま使用することも保存することもでき、あるいは精製若しくは他の処理に供されてもよい。精製は、回収された芳香族カルボン酸と一緒に存在するかもしれない副産物及び不純物を取り除くために有益である。典型的には、例えば、濾過、遠心分離又は公知の方法の組み合わせなど当該分野で公知の分離技術を介して、母液は芳香族カルボン酸生成物から分離される。
【0074】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例は本明細書に開示された発明の特定の実施形態を説明するために与えられる。しかし、これらの実施例は本明細書に含まれる新規な発明の範囲を制限するものではなく、当業者には認識されるように開示された発明の範囲を逸脱しない限りにおいて多くの変更がなされても良い。
【実施例】
【0075】
[実施例1〜5]
メタキシレンからイソフタル酸への酸化:実験手順及び結果
実験は、300 mLチタン Parr mini-reactor反応器内で行った。初期反応器仕込みは、触媒及び95%酢酸(HOAc)76gを含んでいた。反応器をN2下で400 psigまで加圧して所望の温度まで加熱した。所望の温度に達した後、窒素雰囲気をN2中8 vol%O2の連続フローに切り替えた。反応器を8%O2(ベントガス中O2のレベルで決定した)で飽和させた後、25〜30mLのMXを60分間の酸化時間中ポンプで引いた。同時に、追加の25mLのHOAcを同じ時間中、連続的に添加した。アントラセンを初期反応器仕込みに添加した(バッチ添加という)か又はHOAc溶液として酸化時間中(60分間)連続的に添加した。60分後、8%O2を窒素に切り替え、反応器を室温まで冷却し、反応器の内容物を取りだしてHPLC分析にかけた。ベントガスは、O2、CO2、COについて、酸化中、連続的に分析した。さらに、ベントガスを各実験中2〜3回採取して、実験室用(in-lab)GCを用いて揮発性有機化合物について分析した。全ての実施例において、初期仕込み中の触媒は、Co(OAc)2・4H2O = 0.264 g;Mn(OAc)2・4H2O = 0.278 g;48% HBr = 0.240 gからなるものであった。実施例2及び4において、アントラセン(AC)は、95/5 wt% HOAc/H2O中飽和溶液(0.12〜0.14 wt% AC)として添加した。実施例5において、AC(0.300 g)を初期反応器仕込みに添加した。
【0076】
アントラセンの効果を典型的なCo-Mn-Br 酸化触媒を用いて、180℃と195℃の2種の異なる温度で、アントラセン添加の2種のモード(連続及びバッチ)で探求した。結果をTable 1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
実験結果の議論:
IPA収率におけるアントラセン(AC)の効果
MXの酸化へのアントラセン連続添加は、生成物IPAの収率に予期しなかった改良を与えた。実施例1と2を比較すると、ACの連続添加がIPA収率を73mol%から92 mol%に増加させたことがわかる。このIPA収率の増加は燃焼増加を生じさせず、これは追加の予期できない有利な効果である。
【0079】
IPA収率におけるアントラセン添加の効果は、酸化温度によって変動し得る。この効果は、より高い温度では小さい(実験条件がその他の点では理想的であると仮定して)。非常に顕著な効果が180℃で見られるが(実施例1及び2)、195℃では改良が見られなかった(実施例3及び4参照)。より高い温度では、酸化反応は既に最適条件で行われているかもしれない。
【0080】
アントラセンはより低い温度で酸化を可能とする
180℃と195℃の対照実験(実施例1及び4)を比較すると、180℃での酸化は195℃での酸化(91%)よりも遙かに低いIPA収率(73%)を与えることがわかる。したがって、高いIPA収率を達成するために、商業的な酸化は190℃〜200℃で行われる。しかし、より高温での酸化は、大幅に高い燃焼損失及び高レベルの臭化メチル(MeBr)−規制対象のオゾン層破壊物質を生じさせる。実施例1及び4からわかるように、180℃でのアントラセンの連続添加による酸化は、195℃でACなしの酸化(91%)よりも高いIPA収率(92%)を生じる。同時に、180℃での燃焼は190℃での燃焼の約1/3である。180℃でのMeBr形成は、195℃の場合に比べて80%減少する。したがって、アントラセンの添加により、IPA収率を損なうことなく、酸化温度を低くすることができ、燃焼損失を減少させMeBr形成を減少させる。
【0081】
アントラセンのバッチ添加の効果
実施例3は、アントラセンをバッチモードで添加することができることを示す。0.3 gのアントラセンの添加(すなわち初期仕込み中0.4 wt%)は、IPA収率を73mol%から80mol%に増加させた。
【0082】
少量のアントラセン所要量
酸化反応を改良するために、ほんの少量のアントラセンが必要である。実施例2及び5において、60分間に供給されたアントラセンの総量は、MXの量の0.06 mol%であった。実施例3において、バッチ充填アントラセンは供給されたMXの0.6 mol%であった。
【0083】
[実施例6及び7]
パラキシレンからテレフタル酸への酸化
実験は300 mL チタン Parr mini-reactor反応器内で行った。初期反応器仕込みは触媒及び95% HOAc 100 gを含んでいた。反応器をN2下で400 psigまで加圧して、170℃まで加熱した。所望温度に達した後、窒素雰囲気をN2中8 vol%O2の連続フローに切り替えた。反応器を8%O2(ベントガス中O2のレベルで決定した)で飽和させた後、供給原料(パラキシレン)を0.5 mL/minの速度で60分間、ポンプで引いた。60分後、8% O2を窒素に切り替え、反応器を室温まで冷却し、総反応器流出物(TRE)を取り出し、HPLC分析にかけた。ベントガスをO2、CO2、COについて連続的に分析した。さらに、ベントガスを各実験中に2〜3回採取して、実験室用(in-lab)ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて揮発性有機化合物を分析した。実施例6及び7において、初期仕込み中の触媒は、Co(OAc)2・4H2O = 0.400 g;Mn(OAc)2・4H2O = 0.115 g;48% HBr = 0.127 gからなっていた。実施例7において、AC(0.300 g)を初期反応器仕込みに添加した。
【0084】
【表2】

【0085】
実施例6及び7の議論
実施例6及び7は、170℃でのp-キシレンからTAへの酸化を示す。
対照実験(実施例6、アントラセン無)は、燃焼レベル0.08でTA収率が24 mol%であることを示す。初期反応器仕込みへの0.3 wt%のアントラセンのバッチ添加は、TA収率を44 mol%に増加させ、燃焼レベルは0.08のままであった。よって、実施例6及び7は、アントラセンがp−キシレンからTAへの酸化を改良すること、及びこの改良は有害な燃焼を増加させないことであることを説明する。
【0086】
[実施例8〜14]
アントラセンの連続添加による2,6−ナフタリンジカルボン酸(NDA)を製造するための2,6−ジメチルナフタリン(DMN)の酸化
反応器に、所望量の酢酸コバルト、酢酸マンガン及びHBrを仕込んだ。水を初期仕込みに添加して、反応終時の水濃度を8〜10%に調節した。約108 mlの氷酢酸も初期反応器仕込み中に入れた。実験中、18 mlの酢酸溶媒及び27 gのDMNを60分間かけて反応器に添加した。酸素源は8 mol% O2であった。2種のアントラセン溶液源をこの実験に用いた。72゜F(22.2℃)で氷酢酸をアントラセンで飽和させることによって、1750 ppmwのアントラセンを含む溶液を調製した。72゜F(22.2℃)で95/5 (wt/wt) 酢酸/水溶液をアントラセンで飽和させることによって、530 ppmwを含む別の溶液を調製した。これら2種のアントラセン源を用いて、酸化反応器に添加するアントラセンの量を制御した。実施例8は、反応混合物にアントラセンを添加しなかった対照実験であった。実施例9及び10において、アントラセンは初期反応器仕込みにだけ添加して、酸化実験中にはアントラセンをさらに添加しなかった。実施例11及び12において、72゜F(22.2℃)でのアントラセン飽和氷酢酸を反応器初期仕込み用の溶媒として用い、さらに酸化実験中に連続的に添加する溶媒として用いた。実施例13において、反応器初期仕込みはアントラセンを含んでいなかったが、72゜F(22.2℃)でのアントラセン飽和氷酢酸を酸化実験中連続的に添加した。実施例14において、反応器初期仕込みはアントラセンを含んでいなかったが、72゜F(22.2℃)でのアントラセン飽和95/5酢酸/水混合溶媒を酸化実験中、連続的に添加した。
【0087】
異なる実験に存在するアントラセンの実際の量をTable 3に示す。
【0088】
【表3−1】

【0089】
【表3−2】

【0090】
実施例8〜12の結果は、アントラセン添加はより少量のコバルト添加を可能とし、さらに触媒系中でより少量のコバルトの使用と一緒にアントラセンが連続的に添加される場合にNDA収率を増加させ得ることを示す。
【0091】
実施例8及び9において、初期仕込中のアントラセンは利益を生じなかった。
実施例10において、初期仕込中のより少量のコバルトとアントラセンの組み合わせは利益を生じなかった。
【0092】
実施例11において、基本系コバルト濃度では、連続アントラセン添加は利益を生じなかった。
実施例12において、30 %未満コバルト濃度及び連続アントラセン添加では、2,6-NDA収率が76 mole%から82.3 mole%へ増加した。これは、生成物収率における大幅な増加である。
【0093】
アントラセン濃度の効果
実施例8、13及び14において、酸化反応器に連続的に添加されたアントラセンの量を除いて、すべての酸化条件は基本系の値であった。これらの実施例すべてにおいて、アントラセンは反応器初期仕込み中には存在していなかった。2,6-NDA収率は70 ppmw アントラセン添加時に76 mole%から86.7 mole%に増加した。しかし、230 ppmwのより高いアントラセン添加値では、2,6-NDA収率は84.5 mole%に低下した。明らかに、反応器溶媒中のアントラセン濃度が2,6-NDA収率に影響している。最適なアントラセン濃度は、アントラセンが初期仕込み中に存在していたか又は実験中に連続的に添加されたかに依存し、さらに反応混合物中のコバルト、マンガン及び臭素の濃度及び反応温度にも依存するようである。
【0094】
実施例11において、アントラセンは初期反応器仕込み中に1392 ppmwの濃度で存在しており、230 ppmwの添加アントラセンが実験中に連続的に添加された。しかし、実施例13において、初期反応器仕込み中にアントラセンは存在せず、230 ppmwのアントラセンが実験中に連続的に添加された。アントラセン初期濃度が高いので、実施例13の84.5 mole%と比較して実施例11において2,6-NDA収率はわずかに74.4 mole%であった。これは、酸化の前に反応器中の初期アントラセンが高濃度であると基本条件では2,6-NDA収率が減少することを明らかに示す。
【0095】
プソイドクメン(PSC)の液相酸化の実施例
[比較例A]
0. 87g コバルトアセテートテトラヒドレート、1.74g マンガンアセテートテトラヒドレート、0.29g 臭化水素溶液(48%)及び0.086g ジルコニルアセテート溶液(17% Zr)を529g 氷酢酸、28g 水及び293g プソイドクメンを有する2リットルチタン製オートクレーブに仕込む。
【0096】
この初期仕込みを緩慢な窒素パージ下で320゜F(160℃)まで加熱し、次いで加圧空気(24.5%O2まで富化)を54 標準フィート立方/時間(SCFH)で約15分間かけて添加した。この最初の15分ステージ中、圧力を約105 psigに維持することによって温度を330゜F(165.6℃)に維持した。空気添加後3分で、テールアウト(tailout)触媒溶液を0.8g/minで、40.0 gが添加されるまで、添加した。テールアウト(tailout)溶液は、328g 酢酸、60g 水、1.31 g マンガンアセテートテトラヒドレート、0.91g ジルコニウム溶液、12.39g HBr溶液及び2.10g 酢酸セリウムを混合することによって調製した。
【0097】
酸化を始めてから15分で、圧力及び温度は、345 ゜F(173.9℃)及び105 psigから410 ゜F(210℃)及び280 psigまでそれぞれ直線的に増加した。最終温度及び圧力には酸化を始めてから約40分で到達した。次いで、酸化の完了を示す14%までベント酸素が迅速に上昇するまで、温度及び圧力をこれらのレベルに維持した。
【0098】
温度及び圧力の傾斜に加えて、空気速度を15分での54 SCFHから20分での60 SCFHまで徐々に上げた。58 SCFHに45分まで維持し、次いで50 SCFHまで7分間かけて徐々に下げた。酸化が完了するまで、空気速度を50 SCFHに維持した。空気をこの態様で傾斜させて酸素消費を最大にして、ベント酸素が引火性範囲まで上昇しないようにした。
【0099】
この酸化の生成物を集めて、サンプルを固体まで乾燥させて分析した。Table 4は、この実験及び実施例15及び16からの関連するデータである。
【0100】
[実施例15]
0.5 g アントラセンを初期反応混合物に添加した以外は比較例Aと同様の態様でこの酸化を行った。
【0101】
[実施例16]
テールアウト(tailout)触媒をアントラセンで320ppmで飽和させ、初期触媒に何も添加しなかった以外は比較例Aと同様の態様でこの酸化を行った。
【0102】
【表4】

【0103】
Table 4は、最初に添加された場合及びテールアウト触媒を介して添加された場合(すなわち、バッチ酸化中、低いレベルで連続的に添加された)の両者のアントラセンの活性化効果を示す。トリメリット酸(TMLA)の収率はより高い。なぜなら、第一の中間体、メチル二酸(メチル二塩基性酸又はMDBsとしても知られている)が高い活性の結果として記録的に減少するからである。
【0104】
通常の市販濃度よりも2〜3倍低いレベルでコバルトを用いた反応は、アントラセンが触媒コストを大幅に削減する方法を提供する可能性を有することを示す。比較例A、実施例15及び実施例16におけるコバルト濃度は、仕込んだプソイドクメンを基準として0.07 wt%である。典型的な商業的反応において、コバルト濃度は0.16 wt%である。したがって、実施例15及び16の結果と比較例Aの結果とを比較すると、アントラセンを初期又はテールアウト触媒に添加することで、より少量のコバルト(すなわち、0.07 wt%)を触媒系で用いる場合に、少量のメチル二酸副産物を伴うトリメリット酸へのプソイドクメンの良好な転化を得ることができることがわかる。上記実施例で用いた少量のコバルトは、典型的な0.16 wt%のコバルトと比較してコバルトが56%減少したことを示す。許容可能な活性を維持しながらこのようにコバルトを大幅に減少し得ることで、触媒コストを大幅に節約することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1の重金属酸化触媒;
b)臭素源;及び
c)多環式芳香族炭化水素
を含む触媒の存在下、液相条件下で、芳香族炭化水素を分子状酸素源で酸化して芳香族カルボン酸を形成するプロセス。
【請求項2】
前記多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記多環式芳香族炭化水素はアントラセンである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記臭素源は、Br2、HBr、NaBr、KBr、NH4Br、臭化ベンジル、ブロム酢酸、ジブロム酢酸、テトラブロモエタン、二臭化エチレン及びブロモアセチルブロミドから選択される1以上の臭素化合物を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記重金属は、コバルトと、マンガン、セリウム、ジルコニウム、チタン、バナジウム、モリブデン、ニッケル及びハフニウムから選択される1以上の二次金属と、を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記重金属は、約100 ppmw〜約6000 ppmwの範囲にある量で存在する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
酸化は、約50℃〜約250℃の範囲にある温度にて行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
酸化は、約120℃〜約250℃の範囲にある温度で行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
酸化は、約90 psig〜約450 psigの範囲にある圧力で行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
酸化は、約100 psig〜約400 psigの範囲にある圧力で行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記芳香族カルボン酸は、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸及び2,6−ナフタリンジカルボン酸から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
芳香族炭化水素類の液相酸化により芳香族カルボン酸を製造するための触媒系であって、
a)少なくとも1の重金属酸化触媒;
b)臭素源;及び
c)多環式芳香族炭化水素
を含む触媒系。
【請求項13】
前記多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの組み合わせから選択される、請求項12に記載の触媒系。
【請求項14】
前記多環式芳香族炭化水素はアントラセンである、請求項12に記載の触媒系。
【請求項15】
前記臭素源は、Br2、HBr、NaBr、KBr、NH4Br、臭化ベンジル、ブロム酢酸、ジブロム酢酸、テトラブロモエタン、二臭化エチレン及びブロモアセチルブロミドから選択される1以上の臭素化合物を含む、請求項12に記載の触媒系。
【請求項16】
前記重金属は、コバルトと、マンガン、セリウム、ジルコニウム、チタン、バナジウム、モリブデン、ニッケル及びハフニウムから選択される1以上の二次金属とを含む、請求項12に記載の触媒系。
【請求項17】
前記重金属は約100 ppmw〜約6000 ppmwの範囲にある量で存在する、請求項12に記載の触媒系。
【請求項18】
酸化は約100℃〜約250℃の範囲にある温度で行われる、請求項12に記載の触媒系。
【請求項19】
酸化は約120℃〜約250℃の範囲にある温度で行われる、請求項12に記載の触媒系。
【請求項20】
酸化は約90 psig〜約450 psigの範囲にある圧力で行われる、請求項12に記載の触媒系。
【請求項21】
酸化は約300 psig〜約400 psigの範囲にある圧力で行われる、請求項12に記載の触媒系。
【請求項22】
前記芳香族カルボン酸は、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸及び2,6−ナフタリンジカルボン酸から選択される、請求項12に記載の触媒系。
【請求項23】
a)少なくとも1の重金属酸化触媒;
b)臭素源;及び
c)多環式芳香族炭化水素
を含む触媒の存在下、液相条件下でパラキシレンを分子状酸素源で酸化してテレフタル酸を形成する請求項1に記載のプロセス。
【請求項24】
前記多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの組み合わせから選択される、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
前記多環式芳香族炭化水素はアントラセンである、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
a)少なくとも1の重金属酸化触媒;
b)臭素源;及び
c)多環式芳香族炭化水素
を含む触媒の存在下、液相条件下で、メタキシレンを分子状酸素源で酸化してイソフタル酸を形成する請求項1に記載のプロセス。
【請求項27】
前記多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの組み合わせから選択される、請求項26に記載のプロセス。
【請求項28】
前記多環式芳香族炭化水素はアントラセンである、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
a)少なくとも1の重金属酸化触媒;
b)臭素源;及び
c)多環式芳香族炭化水素
を含む触媒の存在下、液相条件下で、2,6−ジメチルナフタリンを分子状酸素源で酸化して2,6−ナフタリンジカルボン酸を形成する請求項1に記載のプロセス。
【請求項30】
前記多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの組み合わせから選択される、請求項29に記載のプロセス。
【請求項31】
前記多環式芳香族炭化水素はアントラセンである、請求項30に記載のプロセス。
【請求項32】
プソイドクメンをトリメリット酸まで酸化する請求項1に記載のプロセスであって、
a)少なくとも1の重金属酸化触媒;
b)臭素源;及び
c)多環式芳香族炭化水素
を含む触媒の存在下、液相条件下で、プソイドクメン含有供給原料を分子状酸素源で接触酸化することを含むプロセス。
【請求項33】
前記多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの組み合わせから選択される、請求項32に記載のプロセス。
【請求項34】
前記多環式芳香族炭化水素はアントラセンである、請求項33に記載のプロセス。
【請求項35】
前記重金属は、コバルトと、マンガン、セリウム、ジルコニウム、チタン及びハフニウムから選択される1以上の二次金属と、を含む、請求項32に記載のプロセス。
【請求項36】
前記重金属は、約100 ppmw〜約6000 ppmwの範囲にある量で存在する、請求項32に記載のプロセス。
【請求項37】
プソイドクメンをトリメリット酸まで転化する請求項32に記載のプロセスであって、
a)コバルト−マンガン−セリウム触媒;
b)臭素源;及び
c)アントラセン
を含む触媒の存在下、液相条件下で、プソイドクメン含有供給原料を分子状酸素源で接触酸化することを含むプロセス。
【請求項38】
プソイドクメンをトリメリット酸まで転化する請求項32に記載のプロセスであって、
a)ジルコニウム−コバルト−マンガン−セリウム触媒;
b)臭素源;及び
c)アントラセン
を含む触媒の存在下、液相条件下でプソイドクメン含有供給原料を分子状酸素源で接触酸化させることを含むプロセス。
【請求項39】
酸化は、約50℃〜約250℃の範囲にある温度で行われる、請求項32に記載のプロセス。
【請求項40】
酸化は約100℃〜約250℃の範囲にある温度で行われる、請求項32に記載のプロセス。
【請求項41】
酸化は約90 psig〜約300 psigの範囲にある圧力で行われる、請求項32に記載のプロセス。
【請求項42】
プソイドクメンをトリメリット酸まで転化するプロセスであって、
a)少なくとも1の重金属酸化触媒;
b)臭素源;及び
c)アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの組み合わせから選択される多環式芳香族炭化水素を含む触媒の存在下、
約130℃〜約220℃の範囲にある温度、約90 psig〜約300 psigの範囲にある圧力で、液相条件下で、プソイドクメン含有供給原料を分子状酸素源で接触酸化させることを含むプロセス。
【請求項43】
酸化は、約170℃〜約220℃の範囲にある温度、約105 psig〜約280 psigの範囲にある圧力で行われ、
前記多環式芳香族炭化水素はアントラセンである、請求項42に記載のプロセス。
【請求項44】
前記重金属は、コバルトと、マンガン、セリウム、ジルコニウム、チタン及びハフニウムから選択される1以上の二次金属とを含み、
前記重金属は約100 ppmw〜約6000 ppmwの範囲にある量で存在する、請求項42に記載のプロセス。
【請求項45】
プソイドクメンをトリメリット酸まで転化する請求項1に記載のプロセスであって、
液相条件下で、コバルト源と、マンガン源及び臭素源と、多環式芳香族炭化水素とを含みジルコニウム源を含むか又は含まない触媒の存在下、約100℃〜約250℃の範囲にある温度で、2段で、プソイドクメン含有供給原料を分子状酸素源で接触酸化させることを含み、第1段はバッチ式又は半連続式で行われ、第2段はバッチ式で行われ、臭素成分の添加は第1段で総臭素の約10 wt%〜約35 wt%が添加され、残量は第2段で添加されるように行われ、第2段の温度は約175℃から約250℃に上昇し、第1段の温度は約125℃〜約165℃の間にあり、臭素成分の2段添加は分子状酸素源を供給原料に導入しながら行われる、プロセス。
【請求項46】
前記多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの組み合わせから選択される、請求項45に記載のプロセス。
【請求項47】
液相条件下、プソイドクメンを分子状酸素でトリメリット酸まで酸化する請求項1に記載のプロセスであって、プソイドクメンのグラムモル当たり総金属約3〜約10ミリグラム原子を提供するプラス3(+3)の原子価を有するセリウム、ジルコニウム、コバルト及びマンガンを含む1以上の重金属酸化触媒と臭素源と多環式芳香族炭化水素とを含む触媒の存在下、約100℃〜約275℃の範囲にある温度で、少なくとも2段での臭素成分の段階的添加を含み、総臭素の0〜約35 wt%が第1段で添加され、残りは最後段で添加され、全セリウムは最後段で添加され、最後段の温度は約175℃から約275℃に上昇し、先行する段の温度は約125℃〜約165℃の間にある、プロセス。
【請求項48】
前記多環式芳香族炭化水素は、アントラセン、ナフタリン、テトラセン及びこれらの組み合わせから選択される、請求項47に記載のプロセス。
【請求項49】
前記多環式芳香族炭化水素は、多環式芳香族炭化水素含有石油精製副産物流を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項50】
前記多環式芳香族炭化水素は、多環式芳香族炭化水素含有石油精製副産物流を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項51】
前記多環式芳香族炭化水素は、多環式芳香族炭化水素含有石油精製副産物流を含む、請求項12に記載の触媒系。

【公表番号】特表2007−514780(P2007−514780A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545641(P2006−545641)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/037751
【国際公開番号】WO2005/066106
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(503259381)ビーピー・コーポレーション・ノース・アメリカ・インコーポレーテッド (84)
【Fターム(参考)】