説明

苗移植機

【課題】作業条件等に拘らず、苗植付部の苗取出口へ適正な苗量(苗本数)を精度良く供給し、適正な苗量で圃場に苗を植え付けることができる苗移植機を提供すること。
【解決手段】植付昇降操作部材(ノブ33又はレバー32)を上昇位置に移動させると制御装置200がエンジン回転数を上げ、油圧ポンプ29から油圧昇降シリンダ76への送油量を増やすため、該シリンダ76への送油が停滞しにくくなり苗植付部4の上昇操作が円滑に行われ、苗植付部4の上昇が遅れて走行車体2の旋回時に苗植付部4の下部が圃場面に接触することを防止でき、シリンダ76への送油量が増えることにより、シリンダ76の伸びる速さやシリンダ76を伸ばす力も増大するので、苗植付部4に積載された苗の重量にかかわらず苗植付部4を速やかに上昇させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗を圃場に機械的に植え付けながら運転できる苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
苗移植機の一例である乗用型田植機において、旋回時等には昇降シリンダにより植付装置を上昇させる。また 施肥装置を備えている乗用型田植機では苗の植付時に同時に施肥装置から肥料を散布している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−262625号公報
【特許文献2】特開2009−201377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記先行技術の乗用型田植機では、苗植付部の苗植付装置を上昇させる際にエンジン回転数を上げて油圧ポンプから昇降油圧シリンダへの送油量を増加させる機能がないため、作業開始時や苗の補充直後等に苗植付部に大量の苗が積載されて重量が増加すると、苗植付部の上昇速度が遅くなるため、田植機の旋回時に、万一植付部の上昇が遅れて苗植付部の下部が圃場面に接触すると苗植付部が破損するおそれがある。
【0005】
また、苗植付部が上昇すると走行車両の機体後部の重心位置が変わり、後方に機体が傾きやすくなるが、先行技術では機体後進状態で且つ苗植付部が上昇状態でもエンジン回転数を上げることができるので、後進時に機体がぐらついたり、不快感を与える。
そして、先行技術では施肥装置を起動してもエンジン回転数が変化しないので、施肥装置作動用の電動モータに十分な電力が供給されず、停止してしまうことがあり、圃場への肥料の散布にバラつきや未施肥区域が生じてしまい、収穫物の生育にバラつきが生じたり、これを防止するために作業者が手作業で施肥作業を行うこともあった。
このような発電量不足による施肥作業の中断を回避するために、従来構成では大型のジェネレータを搭載しており、高コスト化、ジェネレータの取付位置が広くなってしまうなどの問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、作業条件等に拘らず、苗植付部の苗取出口へ適正な苗量(苗本数)を精度良く供給し、適正な苗量で圃場に苗を植え付けることができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は次の解決手段により解決される。
請求項1記載の発明は、左右の前輪(6)と左右の後輪(7)を備える走行車体(2)と、走行車体(2)に駆動力を供給するエンジン(13)と、該エンジン(13)からの動力で駆動する油圧無段変速装置(15)と、エンジン(13)の燃料噴射量を制御する電子ガバナ(48)と、走行車体(2)の走行速及び前後進を操作する走行操作レバー(24)と、走行車体(2)の後部に連結した圃場に薬剤又は肥料を散布する施肥装置(5)と、走行車体(2)上に設けた電装装置(31)と、該電装装置の入切を操作する操作スイッチ(31a)と、走行車体(2)の後部にリンク機構(3)を介して設けた苗を植え付ける苗植付部(4)と、苗植付部(4)を昇降させる油圧昇降部材(76)と、該油圧昇降部材(76)に送油する送油装置(29)と、油圧昇降部材(76)を操作する昇降操作部材(ノブ33又はレバー32)を備えた苗移植機において、該昇降操作部材(ノブ33又はレバー32)を上昇位置にして送油装置(29)が作動すると、エンジン回転数を上げて送油装置の送油量を増やす制御を行う制御装置(200)を備えたことを特徴とする苗移植機である。
【0008】
請求項2記載の発明は、制御装置(200)は走行操作レバー(24)が後進位置にあり、且つ昇降操作部材(ノブ33又はレバー32)が上昇位置にある場合にエンジン回転数を下げて後進速度を減速させる制御をするとしたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機である。
【0009】
請求項3記載の発明は、走行車体(2)に発電装置(30)を設け、電装装置の入切を操作する操作スイッチ(31a)を入にすると、制御装置(200)はエンジン回転数を上げて発電装置(30)の発電量を増やすことを特徴とする請求項1記載の苗移植機である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、昇降操作部材(ノブ33又はレバー32)を上昇位置に移動させると制御装置(200)がエンジン回転数を上げ、送油装置(29)から油圧昇降部材(76)への送油量を増やすため、油圧昇降部材(76)への送油が停滞しにくくなり苗植付部(4)の上昇操作が円滑に行われ、苗植付部(4)の上昇が遅れて走行車体(2)の旋回時に苗植付部(4)の下部が圃場面に接触することを防止でき、苗植付部(4)の破損が防止される。
また、油圧昇降部材(76)への送油量が増えることにより、油圧昇降部材(76)の伸びる速さや油圧昇降部材(76)を伸ばす力も増大するので、苗植付部(4)に積載された苗の重量にかかわらず苗植付部(4)を速やかに上昇させることができ、苗植付部(4)の破損が防止される。
【0011】
請求項2記載の発明によれば請求項1記載の発明の効果に加えて、走行操作レバー(24)を後進位置に移動させた状態で苗植付部(4)を上昇させると、制御装置(200)がエンジン回転数を下げ、走行車体(2)の後進速度を減速させる構成としたため、苗植付部(4)の上昇により重心が移動して走行車体(2)の前後バランスが変化しても、走行速度が低速であるので走行姿勢が安定し、後進時の安全性が向上する。
また、低速で後進するため苗植付部(4)が上昇する時間が十分に確保されるので、苗植付部(4)の下部を圃場端にぶつけることや、苗植付部(4)の下部を地面に引きずったまま移動して傷付けてしまうことが防止できる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、操作スイッチ(31a)を「入」にすると制御装置(200)がエンジン回転数を上げ、発電装置(30)の発電量を増やす制御を行う構成としたことにより、施肥装置(5)やライト、メータパネル等に供給される電力が十分に確保されるので、施肥装置(5)、ライト、メータパネル等を同時に使用することができる。
【0013】
施肥装置(5)に十分な電力が供給されることにより、施肥装置(5)が作業途中に電力不足で停止することがないので、薬剤(肥料)を圃場に確実に散布することができ、施肥作業の能率が向上すると共に収穫物の生育が促進される。
また、電送装置(前照灯など)(31)に十分な電力が供給されることにより、夕方の作業中に前照灯(31)が消えて視認性が著しく低下することが防止されるので、走行車体(2)の走行方向を安定させることができ、作業の安全性が向上すると共に苗の植付精度が向上する。
【0014】
そして、メータパネルに十分な電力が供給されることにより、作業者は走行速度や苗の有無、施肥量、燃料残量等の情報を常時把握することができるので、苗を均等に植え付けることにより植付精度が向上すると共に、適切なタイミングで苗の補充や燃料の補給を行うことができるので、作業能率が向上する。
さらに、エンジン回転による発電量が増加するので、発電装置(30)を小型にすることができ、コストダウンが図られると共に発電装置(30)の設置位置がコンパクトになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例である田植機の側面図である。
【図2】図1の田植機の平面図である。
【図3】図1の田植機の走行操作レバーのグリップ部の拡大背面図(図3(a))と側面図(図3(b))である。
【図4】本発明の一実施例である田植機の側面図である。
【図5】図4の田植機の平面図である。
【図6】図1の田植機の制御ブロック図である。
【図7】図1の田植機の苗植付部をリフトアップしてときのエンジン回転数を上げ、油圧によるリフトアップ速度を確保するためのフローチャートである。
【図8】図1の田植機が後進時であり苗植付部が上昇させるときにエンジン回転数を適正に制御して油圧によるリフトアップ速度を確保するためのフローチャートである。
【図9】図1の田植機のブロアの作動時にエンジン回転数を上げ、発電装置の発電量を確保する制御を行って、充放電バランスがとれるようにするためのフローチャートである。
【図10】図1の田植機の施肥タンクから肥料をブロアを用いて圃場に向けて空気搬送するときにエンジン回転数を上げて、ブロアーモータの作動に必要な電力が確保してブロアへの電圧低下を防止し、肥料排出時間を短縮するためのフローチャートである。
【図11】図1の田植機のレギュレータを施肥装置の吸入ダクトで冷却する構成図(図11(a)の側面図と図11(b)の底面図)である。
【図12】図1の田植機のHSTのシリンダブロックとバルブプレートを示す側面図である。
【図13】従来の田植機のHSTのバルブプレートの例を示す側面図(図13(a)、図13(b))である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施の一形態を、以下に説明する。
図1及び図2は、6条植えの施肥装置付きの乗用型の田植機1を示すものであり、この乗用型の田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。
【0017】
走行車体2は、駆動輪である各左右一対の前輪6及び後輪7を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース8が配置され、そのミッションケース8の左右側方に左右一対の前輪ファイナルケース9が設けられ、該前輪ファイナルケース9の変向可能な左右一対の前輪支持部から外向きに突出する前輪車軸に前輪6が取り付けられている。また、ミッションケース8の背面部にメインフレーム10の前端部が固着されており、そのメインフレーム10の後端左右中央部に前後水平に設けた左右一対の後輪ローリング軸を支点にして左右一対の後輪ギヤケース12がローリング自在に支持され、その後輪ギヤケース12から外向きに突出する後輪車軸に後輪7が取り付けられている。
【0018】
原動機となるエンジン13はメインフレーム10の上に搭載されており、該エンジン13の回転動力が、ベルト伝動装置14を介して正逆転切替可能な伝動装置となる油圧式の前後進無段変速装置(HST)15へ入力される。本実施例のエンジン13はディーゼルエンジンであり、その燃料噴射制御を電子ガバナ48(図6)で行う方式のものである。そして、該HST15からの出力がミッションケース8に伝達される。ミッションケース8に伝達された回転動力は、該ミッションケース8内の伝動分岐部で走行用伝動経路と植付用伝動経路とに分岐して伝動され、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース9に伝達されて前輪6を駆動すると共に、残りが後輪ギヤケース12に伝達されて後輪7を駆動する。また、外部取出動力は、取出伝動軸17を介して走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース18に伝達され、それから植付伝動軸19によって苗植付部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構によって施肥装置5へ伝動される。
【0019】
エンジン13の上部はエンジンカバー20で覆われており、その上に座席21が設置されている。座席21の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー22があり、その上方に前輪6を操向操作するハンドル23が設けられている。ハンドル23の右側には、前記前後進無段変速装置(HST)15を操作する走行操作レバー24が設けられている。走行操作レバー24の操作位置を検出する走行操作レバー位置センサ24a(図6)を設けている。
この走行操作レバー位置センサ24aは、後述する苗植付装置37の作動速度を判断する植付速度センサとなる。また、図3に示すように走行操作レバー24に苗植付部4の昇降操作等を操作する昇降操作ノブ33と、植付クラッチケース18に内装した植付クラッチ(図示せず)を入切させて苗植付装置37への動力伝達を入切する植付操作スイッチ34を設けている。
【0020】
走行操作レバー24のグリップ部24b部分の背面図を図3(a)に示し、図3(b)には側面図を示す。走行操作レバー24のグリップ部24bに昇降操作ノブ33を設け、該昇降操作ノブ33を上方向に操作すると油圧昇降シリンダ74を伸長させて植付部4を上昇させ、また下方向に操作すると油圧昇降シリンダ74を収縮させて植付部4を下降させる。
【0021】
植付クラッチケース18に内装した植付クラッチ(図示せず)の入切により苗植付装置37への動力伝達の入切りを行う植付操作スイッチ34を設ける。そして、昇降操作ノブ33の操作位置を検出する検出スイッチ33a,33bをグリップ部24bに取り付ける。該検出スイッチ33a,33bは、昇降操作ノブ33の回動部に設ける方式としてもよく、また、昇降操作ノブ33を上昇方向又は下降方向に移動すると検知する位置に配置してもよい。
【0022】
前記昇降操作ノブ33の操作位置検出スイッチ33a,33bにより植付昇降操作ノブ33が苗植付部4を上昇させることを検出すると図6に示す制御装置200はエンジン回転数を上げて油圧ポンプ29(図6)の出力を高めて、昇降油圧シリンダ76への送油量を増やすため、昇降油圧シリンダ76への送油が停滞しにくくなり苗植付部4の上昇操作が円滑に行われ、苗植付部4の上昇が遅れて田植機1の旋回時に苗植付部4の下部が圃場面に接触することを防止でき、苗植付部4の破損が防止される。
また、昇降油圧シリンダ76への送油量が増えることにより、昇降油圧シリンダ76の伸びる速さや昇降油圧シリンダ76を伸ばす力も増大するので、苗植付部4に積載された苗の重量にかかわらず苗植付部4を速やかに上昇させることができ、苗植付部4の破損が防止される。
またミッションケース8は潤滑油を貯留した油タンクを兼ねており、該ミッションケース8の油は図示しない油圧ポンプ29によりミッションケース8内の変速装置のクラッチ機構、歯車伝動装置の係合・非係合用の油圧回路への送油制御を行う。
【0023】
エンジンカバー20及びフロントカバー22の下端左右両側は水平状のフロアステップ26になっている。また、走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく予備苗載台27が設けられている。
【0024】
昇降リンク装置3は、1本の上リンク70と左右一対の下リンク71を備えている。これらの上リンク70及び下リンク71は、その基部側がメインフレーム10の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム72に回動自在に取り付けられ、その先端側に縦リンク73が連結されている。そして、縦リンク73の下端部に苗植付部4に回転自在に支承された連結軸74が挿入連結され、連結軸74を中心として苗植付部4がローリング自在に連結されている。メインフレーム10に固着した支持部材と上リンク70に一体形成したスイングアームの先端部との間に昇降油圧シリンダ76が設けられており、該昇降油圧シリンダ76を油圧で伸縮させることにより、上リンク70が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0025】
苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース77、マット苗を載せて左右往復動し苗を一株分づつ各条の苗取出口78に供給するとともに横一列分の苗を全て苗取出口78に供給すると苗送りベルト79により苗を下方に移送する苗載台80、苗取出口78に供給された苗を苗植付具37aで圃場に植え付ける苗植付装置37等を備えている。
なお、苗の植付けは各2条分の植付クラッチを入切りする植付クラッチレバー133を入り方句に操作することで開始する。
【0026】
苗植付部4の下部には、中央2条分の苗植付位置を整地するセンターフロート100及び左右それぞれ外側2条分の苗植付位置を整地するサイドフロート101が設けられている。これらのフロートであるセンターフロート100及びサイドフロート101を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、センターフロート100及びサイドフロート101が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置37により苗が植え付けられる。各フロート100,101は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート100の前部の上下動が上下動検出機構(図示せず)により検出され、その検出結果に応じ図6に示す制御装置200が昇降油圧シリンダ76を制御する油圧バルブを切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0027】
施肥装置5は、肥料貯留タンク110に貯留されている肥料粉粒体を各条の繰出部63によって一定量づつ繰り出し、その肥料を肥料移送ホース111でセンターフロート100及びサイドフロート101に取り付けた施肥ガイド112まで導き、施肥ガイド112の前側に設けた作溝体113によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に吐出するようになっている。ブロアモータ114で駆動のブロア115で発生させた圧力風を左右方向に長いエアチャンバ116を経由して肥料移送ホース111内に吹き込み、肥料移送ホース111内の肥料を苗植付部4側の肥料吐出口施肥ガイド112へ強制的に移送するようになっている。施肥溝内に供給された肥料は、施肥ガイド112及び作溝体113の後方でセンターフロート100及びサイドフロート101に取り付けた覆土板117により覆土される。
【0028】
なお、施肥装置5は肥料を圃場に散布するための装置であるが、肥料に代えて除草剤、殺虫剤等の薬剤を圃場に散布するものとしても利用することができる。
また、本実施例のエンジン13はディーゼルエンジンで燃料噴射制御を電子ガバナ48(図6)で行う方式のエンジンであるので、エンジン回転数の制御が容易であるという特徴があるので次のような各種の制御を行うことができる。
たとえば、乗用型田植機1がバックする際又は旋回時などに苗植付部4がリフトアップされて上昇位置にある状態で油圧ポンプ29を作動させたときにはエンジン回転数を上げ、油圧によるリフトアップ速度を確保する。図7のフローチャートに示すように、エンジン回転数を最適に制御できるため、田植機1の走行操作レバー24を後進、さらに苗植付部4の上昇時にもエンジン回転数を適正に制御できる。
【0029】
ディーゼルエンジン13の燃料噴射制御を電子ガバナ48(図6)で行うので、苗植付部4をリフトアップする際に油圧ポンプ29を作動させた場合には、エンジン回転数を上げることで油圧による苗植付部4のリフトアップ速度を確保することができる。
【0030】
本実施例では電子ガバナ48によるエンジンの燃料制御をリニアタイプのアクチュエータと制御装置200で行うので、エンジン回転を最適に制御でき、アイドルアップ等で油圧ポンプ29の作動に十分な回転が確保できるため、苗植付部4の苗載台80に苗を満載していても、エンジン13の回転数を容易に上げて油圧ポンプ29の能力を上げることができるので、昇降油圧シリンダ76により苗植付部4をスムーズに上昇させることができる。
【0031】
また、図4の側面図と図5の平面図に他の実施例の田植機の構成例を示すように、前後進無段変速装置(HST)15を操作する走行操作レバー24をハンドル23の左右一側下方に設け、該ハンドル23の左右他側下方に、苗植付部4を昇降操作する昇降操作レバー32を設ける構成としてもよい。そして、該昇降操作レバー32の操作位置を検出する検出スイッチ32aを、昇降操作レバー32の近傍に配置することが望ましい。この実施例の場合は、図3に示す走行操作レバー24に苗植付部昇降操作ノブ33とを設ける代わりに昇降操作レバー32を設置している。
【0032】
すなわち、本実施例では昇降油圧シリンダ76を操作する植付昇降操作レバー32の操作位置を検出する位置センサ32aを設けており、該植付昇降操作レバー位置センサ32aにより植付昇降操作レバー32が苗植付部4を上昇させることを検出すると制御装置200はエンジン回転数を上げて油圧ポンプ29の出力を高めて、昇降油圧シリンダ76への送油量を増やすため、昇降油圧シリンダ76への送油が停滞しにくくなり苗植付部4の上昇操作が円滑に行われ、苗植付部4の上昇が遅れて田植機1の旋回時に苗植付部4の下部が圃場面に接触することを防止でき、苗植付部4の破損が防止される。
【0033】
また、昇降油圧シリンダ76への送油量が増えることにより、昇降油圧シリンダ76の伸びる速さや昇降油圧シリンダ76を伸ばす力も増大するので、苗植付部4に積載された苗の重量にかかわらず苗植付部4を速やかに上昇させることができ、苗植付部4の破損が防止される。
【0034】
従来採用されているディーゼルエンジンを搭載した乗用型田植機では、走行操作レバー24の操作に連動してエンジンスロットルが開閉制御されるため、田植機1を後進させるように走行操作レバー24を後進ポジションに操作すると、それに応じてエンジン回転数も制御され、苗の植え付け時の後進と苗植付部4をリフトアップしたときの区別ができない。そのため、苗植付部4が上昇した位置にあるときに機体のバランスが悪くなることがある。
【0035】
しかし、本実施例の電子ガバナ48で燃料噴射制御を行うディーゼルエンジン13を用いると、図8のフローチャートに示すように、エンジン回転数を最適な回転数に制御できるため、田植機1の走行操作レバー24を後進、さらに苗植付部4の上昇時にもエンジン回転数を適正に制御できる。
すなわち、作業操作レバー24が後進位置にあることを走行操作レバー位置センサ24aが検出し、且つ昇降操作レバー32が苗植付部4を上昇させる位置にあることを昇降操作レバー位置センサ32a(又は図4,図5に示す田植機の場合は、苗植付部昇降操作ノブ33の位置検出スイッチ33a,33b)が検出すると制御装置200はエンジン回転数を下げて油圧ポンプ29の出力を低下させ、後進速度を減速させる制御を行う。
【0036】
こうして、走行操作レバー24を後進位置に移動させた状態で苗植付部4を上昇させているときには、苗植付部4の上昇により重心が移動して走行車体2の前後バランスが変化しても、走行速度が低速であるので走行姿勢が安定し、後進時の安全性が向上する。またこのとき低速で後進するため苗植付部4が上昇する時間が十分に確保されるので、苗植付部4の下部を圃場端にぶつけることや、苗植付部4の下部を地面に引きずったまま移動して傷付けてしまうことが防止できる。
また、走行車体2上に発電装置(ジェネレータ)30を設け、該発電装置30の入切を操作する操作スイッチ30aを入にすると制御装置200がエンジン回転数を上げて発電装置30の発電量を増やすことができる構成としている。
【0037】
前記発電装置30の入切を操作する操作スイッチ30aを入にするとエンジン回転数が上がるので、発電装置30の発電量が増加し、施肥装置5や前照灯などのライト、メータパネル(図示せず)等に供給される電力が十分に確保されるので、これらの電装装置を同時に使用することができる。
また、施肥装置5に十分な電力が供給されることにより、施肥装置5が作業途中に電力不足で停止することがないので、肥料(肥料に代えて薬剤を用いる場合も同様)を圃場に確実に散布することができ、施肥作業の能率が向上すると共に収穫物の生育が促進される。そして、前照灯などのライトに十分な電力が供給されることにより、夕方の作業中にライトが消えて視認性が著しく低下することが防止されるので、走行車体2の走行方向を安定させることができ、作業の安全性が向上すると共に苗の植付精度が向上する。
【0038】
さらに、メータパネルに十分な電力が供給されることにより、作業者は走行速度や苗の有無、施肥量、燃料残量等の情報を常時把握することができるので、苗を均等に植え付けることにより植付精度が向上すると共に、適切なタイミングで苗の補充や燃料の補給を行うことができるので、作業能率が向上する。
また、エンジン回転数を上げると発電装置30の発電量が増加するので、発電装置30を小型にしても必要な電力を十分に供給することができるので、コストダウンが図られると共に発電装置30の設置位置がコンパクトになる。
【0039】
また、従来のディーゼルエンジンを搭載した機種では、施肥装置のブロアモータの消費電力が大きく、また、アイドリング時に使用する頻度が高いため、アイドリングでの電力量を確保するため、必要以上に大きい発電装置30を装着している。
しかし、本実施例の電子ガバナ48で燃料噴射制御を行うディーゼルエンジン13を用いると、図9に示すフローチャートのようにブロア115の作動時にはエンジン回転数を上げ、発電装置30の発電量を確保する制御を行って、充放電バランスがとれるようにする。
【0040】
また、本実施例の電子ガバナ48で燃料噴射制御を行うディーゼルエンジン13を用いているので、図10に示すフローチャートのように、施肥タンク110から肥料をブロア115を用いて圃場に向けて空気搬送するときにエンジン回転数を上げて、ブロアモータ114の作動に必要な電力を確保してブロア115への電圧低下を防止し、肥料排出時間を短縮することもできる。
【0041】
従来の電子ガバナで燃料噴射制御を行う方式でないディーゼルエンジンを搭載した機種では、施肥装置を使用する場合には、所定のエンジン回転数でブロア115を作動させて肥料の送風搬送をするため、肥料の送風搬送量の微調整を行えない。また、不要な肥料を排出しないために、肥料の送風搬送はエンジン13のアイドル回転数に合わせて行う構成としている。
このため、発電装置30の回転数が発電に十分な回転数に達さず、排出用ブロアモータ114に十分な電力が供給できなくなり、圃場に施肥する肥料の量がバラ付いてしまい、作物の生育速度が部分部分で異なり、収穫の適期がバラ付いて収穫作業が能率よく行えないという欠点がある。
しかし、本実施例のように、電子ガバナ制御のエンジン13の採用により、エンジン回転数を最適に制御でき、施肥用の排出用レバー35(図5)が肥料排出側へ移動されたことを施肥用排出用レバーセンサ35aが検知すると発電装置30の充放電バランスがとれるようエンジン回転数を適正にできる。
【0042】
このように施肥ブロア115の制御に限らず前照灯(図1又は図4)やメータパネルの照明装置などの電装装置31を設け、該施肥ブロア115又は前照灯などの電装装置31の入切を操作する操作スイッチ31aをハンドル23の近くに設けているので、該操作スイッチ31aなどが入りになると、制御装置200は、まずエンジン13の回転数を上昇させて前照灯などの電装装置31に電力を十分に供給することができる。
【0043】
ブロアモータ114で駆動するブロア115を用いて施肥タンク110から圃場へ肥料を排出する場合に施肥タンク110に接側した施肥ホース111を用いるが、電動モータ114の駆動用に直流と交流の変換器用のレギュレータ40(図11)を冷却するために、ブロア115への空気を導入する吸気ダクト41にレギュレータ40を取り付けると、レギュレータ40の冷却を効果的に行うことができる。
すなわち、図11(a)の側面図と図11(b)の底面図に示すようにブロア115の性能を落とさないために、レギュレータ40を施肥装置5の吸入ダクト41の途中にレギュレータ40を配置し、該吸入ダクト41への吸入風でレギュレータ40を冷却する構成を採用することができる。
【0044】
ブロア115の吸気ダクト41の途中にレギュレータ取付用の穴を設け、この取付穴にレギュレータ40を設置する。こうしてダクト35内に吸入される空気でレギュレータ40が冷却される。こうしてブロア115を回転させること吸気ダクト41からの空気によりレギュレータ40を冷却することができる。
【0045】
従来はレギュレータ40はエンジン13の熱風で冷却する構造を採用している場合が多いが、レギュレータ40の温度が100℃を超すため、レギュレータ40の耐久性が低下し、破損することもあり、またレギュレータ40の温度が上昇することで、ハーネス、カプラの温度も上昇し、カプラ部で接触不良も発生することもあったが、ブロア115の吸気ダクト41の途中の取付穴にレギュレータ40を設置する。こうしてダクト41内に吸入される空気でレギュレータ40が冷却でき、レギュレータ40の破損が減少し、耐久性が従来より向上する。
【0046】
また、従来の油圧式無段変速装置(HST)のピストンポンプ類において、使用するバルブプレート(弁板)42aは図13(a)に示すようにシリンダブロック43に発生するラジアル力を吸収できず、シリンダブロック43が片開き状態となり、漏れによる効率低下やバルブプレート42aの変形が発生おそれがある。また、その他、図13(b)に示す従来のバルブプレート(弁板)42bは球面バルブプレートを使用してラジアル力の解消を行っているが、シリンダブロック43とバルブプレート42bが共に加工が難しく、高コストになる難点がある。
【0047】
そこで、本実施例の乗用型田植機の油圧式無段変速装置(HST)では図12に示すように、皿バネ式バルブプレート45を用いた。HST15の一方の側壁を閉じた円筒状のシリンダブロック43の中心軸43c廻りに設けられた複数のシリンダ44にはそれぞれピストン44aが装着され、シリンダ44内を摺動する構成である。前記複数のシリンダ44と複数のピストン44aはそれぞれ同一形状であり、またピストン44aの先端部は各シリンダ44に設けられた開口部からシリンダブロック43の外部に突出しており、各シリンダ44に流入するオイルにより該ピストン44aの先端部がシリンダブロック43の外側に常時押圧されながら、シリンダブロック43の中心軸廻りを回転する皿バネ式バルブプレート45に当接する構成である。
バルブプレート45がシリンダブロック43の中心軸43c廻りを回転すると、該皿バネ式のバルブプレート45の表面が順次ピストンの先端部を押圧してシリンダ43a内に押し返すことでシリンダ44内のオイルをHST15内の油圧回路に出力ができる。
このとき皿バネ式のバルブプレート45は、そのバネ力により回転中に順次ピストン44aを押圧するが、シリンダ44から突出するピストン44aを押圧している部分のシリンダブロック43のシリンダ中心軸43cを挟んで反対側のシリンダブロック43側のバルブプレート45は、そのバネ力によりシリンダブロック43の壁面に追従し、シリンダブロック43の片開き現象を防止し、シリンダブロック43とバルブプレート45の密着性を高めることができる。また、皿バネ式のバルブプレート45はプレス加工により簡単に製造が可能であり、低コストで球面バルブプレート並みの性能を確保できる。
【0048】
また施肥タンク110から肥料を繰り出す繰出ロール(図示せず)が配置された繰出部63では、電動モータ(図示せず)による駆動する構成にすると同じくブロアモータ114で駆動するブロア115が回っていないときに苗の植付を行っている間には繰出ロールが回転しないようにして、肥料詰まりを防止することができる。
すなわちブロアモータ114の回転をブロアモータ114の電流値検出センサ46又はピックアップセンサ47で検出して、苗の植え付け中でもブロアモータ114が回っていないときに繰出ロールの回転を停止させ、施肥タンク110から肥料を繰り出すことを防止できる。このときランプなどで警報装置31bで警告することで、操縦者に警告を発することができるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 田植機 2 走行車体
3 昇降リンク装置 4 苗植付部
5 施肥装置 6 前輪
7 後輪 8 ミッションケース
9 前輪ファイナルケース 10 メインフレーム
12 後輪ギヤケース 13 エンジン
14 ベルト伝動装置
15 前後進無段変速装置(HST)
17 取出伝動軸 18 植付クラッチケース
19 植付伝動軸 20 エンジンカバー
21 座席 22 フロントカバー
23 ハンドル 24 走行操作レバー
24a 走行操作レバー位置センサ
24b グリップ部 26 フロアステップ
27 予備苗載台 29 油圧ポンプ
30 発電装置(ジェネレータ)
30a 発電装置操作スイッチ 31 電装装置(前照灯など)
31a 電装装置入切操作スイッチ
31b 警報装置 32 昇降操作レバー
32a 昇降操作レバー位置センサ
33 昇降操作ノブ
33a,33b 昇降操作位置センサ
34 植付操作スイッチ 35 施肥用排出用レバー
35a 施肥用排出用レバーセンサ
37 苗植付装置 37a 苗植付具
40 レギュレータ 41 吸入ダクト
42a、42b バルブプレート(弁板)
43 シリンダブロック 44 シリンダ
44a シリンダピストン 45 皿バネ式バルブプレート
46 ブロアモータ電流値検出センサ
47 ピックアップセンサ 48 電子ガバナ
63 繰出部 70 上リンク
71 下リンク 72 リンクベースフレーム
73 縦リンク 74 連結軸
76 昇降油圧シリンダ 77 伝動ケース
78 苗取出口 80 苗載台
100 センターフロート 101 サイドフロート
110 肥料貯留タンク 111 肥料移送ホース
112 施肥ガイド 113 作溝体
114 ブロアモータ 115 ブロア
116 エアチャンバ 117 覆土板
133 植付クラッチレバー 200 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の前輪(6)と左右の後輪(7)を備える走行車体(2)と、
走行車体(2)に駆動力を供給するエンジン(13)と、
該エンジン(13)からの動力で駆動する油圧無段変速装置(15)と、
エンジン(13)の燃料噴射量を制御する電子ガバナ(48)と、
走行車体(2)の走行速及び前後進を操作する走行操作レバー(24)と、
走行車体(2)の後部に連結した圃場に薬剤又は肥料を散布する施肥装置(5)と、
走行車体(2)上に設けた付けた電装装置(31)と、
該電装装置の入切を操作する操作スイッチ(31a)と、
走行車体(2)の後部にリンク機構(3)を介して設けた苗を植え付ける苗植付部(4)と、
苗植付部(4)を昇降させる油圧昇降部材(76)と、
該油圧昇降部材(76)に送油する送油装置(29)と、
油圧昇降部材(76)を操作する昇降操作部材(33又は32)を備えた苗移植機において、
該昇降操作部材(33又は32)を上昇位置にして送油装置(29)が作動すると、エンジン回転数を上げて送油装置の送油量を増やす制御を行う制御装置(200)を備えたことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
制御装置(200)は走行操作レバー(24)が後進位置にあり、且つ昇降操作部材(33又は32)が上昇位置にある場合にエンジン回転数を下げて後進速度を減速させる制御をするとしたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項3】
走行車体(2)に発電装置(30)を設け、電装装置(31)の入切を操作する操作スイッチ(31a)を入にすると、制御装置(200)はエンジン回転数を上げて発電装置(30)の発電量を増やすことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−229466(P2011−229466A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103201(P2010−103201)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】