説明

苦味の抑制されたアミノ酸含有組成物

【課題】苦味が抑制されたアミノ酸含有組成物及び組成物中のアミノ酸の苦味の新規な抑制方法を提供する。
【解決手段】苦味を有する少なくとも一種のアミノ酸を含有する組成物に、増粘剤とγ−PGAと、好ましくは高甘味度甘味料とを配合する。当該組成物は、不快な苦味が抑制されているので、食品又は医薬品に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘剤とポリ−γ−グルタミン酸(以下「γ−PGA」と略す)を含有し、好ましくは、さらに高甘味度甘味料を含有する組成物に関する。本発明はまた、増粘剤、ポリ−γ−グルタミン酸、高甘味度甘味料を用いたアミノ酸の苦味の抑制方法に関する。当該組成物は、アミノ酸の苦味が抑制されて、食品、医薬品用途として好適である。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は、3大栄養素の一つである蛋白質の構成要素であり、生命を維持するのに重要な役割を担っている。また、アミノ酸は、それぞれの種類により、甘味、うま味など特徴的な味を有しているが、独特の苦味を有しているものが多く、特に必須アミノ酸のほとんどは、独特の苦味を有している。
【0003】
必須アミノ酸は、体内で合成することができず、食物から摂取する必要があるが、アミノ酸を効率的に摂取するためには、アミノ酸を直接摂取するのがよい。しかし、独特の苦味のために、そのまま摂取することは困難である。特に、分岐鎖アミノ酸(イソロイシン、ロイシン、バリン)やメチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンは、独特の苦味が非常に強い。
【0004】
官能評価の表現法の一つであるTI法(Time-Intensity法)は、時間と味の強さを評価の両軸とし、ある呈味の強度を時間と共にプロットして曲線を得て、この曲線を基に、評価するサンプルのバランスやマスキング物質等の添加効果を評価する手法である。この方法を用いると、一般的な苦味物質(カフェイン、キニーネ等)は、当該物質が舌と接触した直後に発現する苦味(以下、「先味の苦味」と定義する)を感じるが、先味が消失した後に発現し、当該物質を飲み込んだ後も口内に継続的に残る苦味(以下、「後味の苦味」と定義する)を感じない。
【0005】
一般的な苦味物質の苦味低減方法及びそのための組成物としては、苦味のある物質にゲル化剤を添加し、ゼリー状の形態にすることで苦味を低減させる方法及び食品組成物がある(例えば、特許文献1参照)。また、塩基性薬剤の苦味低減と嚥下を容易にするためにアニオン性高分子物質を添加し、粘ちょう性のある液体を調製する方法及び食品組成物がある(例えば、特許文献2参照)。しかし、これらはいずれもアミノ酸の苦味抑制については言及していない。さらに、特許文献3は、分岐鎖アミノ酸を含有するゼリー剤について開示するが、ゼリー化する目的が、アミノ酸の苦味抑制ではなく、食感のざらつきを改善することである。
【0006】
アミノ酸の苦味低減方法、及び組成物としては、γ−PGAを添加する方法及び食品組成物がある(特許文献4)。その明細書で開示されたゼリー飲料においてゲル化剤とγ−PGAとを併用しているが、ゲル化剤によるアミノ酸の苦味抑制効果は認められず、アミノ酸の苦味の完全な抑制はできていない。
【0007】
【特許文献1】特開平4−346937号公報
【特許文献2】特開2003−104912号公報
【特許文献3】特許第3341770号公報
【特許文献4】WO00/21390号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
TI法を用いた苦味曲線に基づいて解析すると、アミノ酸独特の苦味は、「先味の苦味」と「後味の苦味」の両方を感じ、特に「後味の苦味」を強く感じるのが特徴である。従来技術における苦味の改善策では、「先味の苦味」、「後味の苦味」を定義し、それぞれに対応するマスキング物質の選択をしていないため、アミノ酸の苦味マスキング物質の種類、量が適切でなく、このためアミノ酸の苦味の抑制が不充分であった。本発明の課題は、アミノ酸の苦味の特徴に合わせて適切なマスキング剤を選択し、これらを組み合わせることによって苦味が抑制されたアミノ酸含有組成物を提供することにある。また、これらのマスキング剤を用いて、組成物中のアミノ酸の苦味の新規な抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討し、増粘剤と、γ−PGAと、さらに好ましくは高甘味度甘味料とを組み合わせることにより、分岐鎖アミノ酸などの不快な苦味を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、以下の内容を包含する。なお、本発明における組成物には、粉体等の固体状の組成物であって喫食事に水等を加えて液状組成物とするもの、および液状組成物が含まれる。
【0010】
(1)アミノ酸と、増粘剤と、ポリ−γ−グルタミン酸と、を含有することを特徴とする粉体状又は液状の食品組成物。
(2)さらに高甘味度甘味料を含有することを特徴とする(1)に記載の食品組成物。
(3)前記アミノ酸が、粉体状組成物中に2〜20重量%含まれる(1)又は(2)に記載の食品組成物。
(4)喫食時において液状であり、当該液状組成物中に前記アミノ酸を0.25〜2.5重量%含み、かつ当該液状組成物の粘度が100〜3000mPa・秒であることを特徴とする(1)〜(3)何れか記載の食品組成物。
(5)前記アミノ酸、増粘剤、ポリ−γ−グルタミン酸、及び高甘味度甘味料の配合比率(重量)が、1:0.1〜2.0:0.03〜1.0:0.003〜0.2であることを特徴とする(2)〜(4)何れか記載の食品組成物。
(6)前記増粘剤が、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、タマリンド種子ガム、タラガム、アルギン酸(ナトリウム)、ジェランガム、ペクチン、カラギーナンのいずれか1種以上である(1)〜(5)何れか記載の食品組成物。
(7)前記高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム、サッカリン(ナトリウム)、及びステビア抽出物から選ばれる1種以上と、アスパルテーム、スクラロース、ネオテーム、及びタウマチンから選ばれる1種以上との組み合わせである(2)〜(6)何れか記載の食品組成物。
(8)前記アミノ酸が、イソロイシン、ロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン(塩酸塩)、リジン(塩酸塩)、スレオニン、アルギニン(塩酸塩)、オルニチン(塩酸塩)、(ヒドロキシ)プロリン、シトルリンから選ばれる1種以上である(1)〜(7)何れか記載の食品組成物。
(9)苦味を有する少なくとも一種のアミノ酸を含有する組成物に、増粘剤とポリ−γ−グルタミン酸とを配合することを特徴とするアミノ酸の苦味抑制方法。
(10)さらに、高甘味度甘味料を配合することを特徴とする(9)に記載のアミノ酸の苦味抑制方法。
(11)前記増粘剤が、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、タマリンド種子ガム、タラガム、アルギン酸(ナトリウム)、ジェランガム、ペクチン、カラギーナンのいずれか1種以上である(9)又は(10)に記載のアミノ酸の苦味抑制方法。
(12)前記高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム、サッカリン(ナトリウム)、ステビア抽出物から選ばれる1種以上と、アスパルテーム、スクラロース、ネオテーム、タウマチンから選ばれる1種以上との組合せである(10)〜(11)何れか記載のアミノ酸の苦味抑制方法。
(13)前記アミノ酸が、イソロイシン、ロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン(塩酸塩)、リジン(塩酸塩)、スレオニン、アルギニン(塩酸塩)、オルニチン(塩酸塩)、(ヒドロキシ)プロリン、シトルリンから選ばれる1種以上である(9)〜(12)何れか記載のアミノ酸の苦味の抑制方法。
(14)前記アミノ酸、増粘剤、ポリ−γ−グルタミン酸、及び高甘味度甘味料の配合比率(重量)が、1:0.1〜2.0:0.03〜1.0:0.003〜0.2であることを特徴とする(10)〜(13)何れか記載のアミノ酸の苦味抑制方法。
(15)前記組成物が液状であり、当該液状組成物の粘度を100〜3000mPa・秒とすることを特徴とする(9)〜(14)何れか記載のアミノ酸の苦味抑制方法。
(16)(9)〜(15)何れか記載の方法により、アミノ酸の苦味が抑制された組成物。
(17)増粘剤と、ポリ−γ−グルタミン酸と、好ましくは高甘味度甘味料と、を含有することを特徴とするアミノ酸の苦味抑制剤。当該苦味抑制剤を、苦味を有するアミノ酸と混合するときの各成分の配合比率は上述したとおりである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、アミノ酸の苦味として特徴的な先味及び後味の両方の苦味が抑制された組成物が提供される。そのため、アミノ酸を含有する飲食品(食品組成物)、医薬品(医薬組成物)に本発明を適用すると、喫食しやすい飲食品、服用しやすい医薬品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る食品組成物は、形態として、粉体状食品として提供され、喫食時に冷水、温水または熱水に分散するもの、また、予め、液状に加工された食品として提供され、そのまま、または、温度調節(冷やす、温める等)して、喫食するものである。冷水に分散した例としては、シェイク、ヨーグルトまたは焼肉のつけだれ等の食品が挙げられ、温水または熱水に分散した例としては、ホットドリンク、スープまたは、ハンバーグソース等の食品が挙げられる。さらに本発明の食品組成物は、必要に応じ、蛋白質、食物繊維、糖類、ミネラル、ビタミン、香料、果汁、酸味料、調味料等を配合した低カロリーのダイエット食品、あるいは、高カロリー流動食やチューブ流動性、低浸透圧、耐加熱処理性を有する液状栄養食等の医療用食品として利用することができる。
【0013】
本発明に用いられる増粘剤とは、例えばキサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、タマリンド種子ガム、タラガム、アルギン酸(ナトリウム)、ジェランガム、ペクチン、カラギーナンなど、食品の製造に使用できるものを言う。これらは、1種又は2種以上の組み合わせで使用することができる。増粘剤は、当該食品組成物を冷水、温水または熱水に分散させた時に、粘度を発現し、アミノ酸の舌への接触を物理的に緩和し「先味の苦味」を和らげる。
【0014】
本発明で用いられるγ−PGAは、D−グルタミン酸とL−グルタミン酸がおよそ8:2の比率で存在するアミノ酸のポリマー(高分子体)である。本発明に使用するγ−PGAは、遊離体、塩類、分解物のいずれでも良く、その由来を問わないが、分子量が1×10〜3×10が好ましい。
【0015】
本発明に用いられるγ−PGAは、納豆の粘質物質中のγ−PGAを抽出して用いてもよく、納豆菌等のバチルス属の菌体外に分泌するγ−PGAを用いてもよい。また、納豆粘出物中の、あるいは納豆菌が同時に分泌するレバンを含んでいても何ら支障ない。上記分子量のγ−PGAを生成するには、当該分子量より大きいγ−PGAを酸あるいはγ結合を分解する腸内には存在しない特殊な酵素により低分子化する方法と、納豆菌等の培養により当該分子量のγ−PGAを分泌させる方法があるが、そのどちらのγ−PGAを用いても何ら影響ない。
【0016】
微生物の発酵によるγ−PGAの生産能を増大させるための方法としては、γ−PGA生産能を有し、低アンモニア性酸性の納豆菌変異株を培養する方法(特開平8−154616号)、醤油麹若しくはその抽出物、醤油醸造物又はそれらの混合物を含有する培地で、γ−PGA生産能を有する微生物を培養する方法(特開平8−242880号)、γ−PGA生産能を有し、かつグルタミン酸合成酵素活性が欠損若しくは減少した変異株を培養する方法(特開2000−333690号)などが知られており、これらのいずれの方法で生産されたものでもよく、特にこれらに限定されるものではない。
【0017】
本発明で用いられる高甘味度甘味料は、先味に効く甘味料として、例えば、アセスルファムカリウム、サッカリン(ナトリウム)、ステビア抽出物など、後味に効く甘味料として、例えば、アスパルテーム、スクラロース、ネオテーム、タウマチンなど、食品製造に使用できるものを言う。これらは、先味に効く甘味料1種又は2種以上と後味に効く甘味料1種又は2種以上の組み合わせで使用することができる。ここで定義される先味とは、当該物質が舌と接触した直後に発現する味であり、後味とは、先味が消失した後に発現し、当該物質を飲み込んだ後も口内に継続的に残る味である。
【0018】
本発明に用いられるアミノ酸は、例えば、イソロイシン、ロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン(塩酸塩)、リジン(塩酸塩)、スレオニン、アルギニン(塩酸塩)、オルニチン(塩酸塩)、(ヒドロキシ)プロリン、シトルリンなど苦味のあるアミノ酸で、食品製造に使用できるものを言う。アミノ酸は、遊離の状態でも、或いは塩の形態であってもよい。アミノ酸の苦味は、独特なものを有しており、一般的な苦味物質(カフェイン、キニーネ等)は、「先味の苦味」を感じるが、先味が消失した後に発現し、当該物質を飲み込んだ後も口内に継続的に残る苦味(「後味の苦味」と定義する)を感じないのに対し、アミノ酸独特の苦味は、「先味の苦味」と「後味の苦味」の両方を感じ、特に「後味の苦味」を強く感じるのが特徴である。
【0019】
好ましい実施形態における本発明の食品組成物は、喫食時に水を加えて液状となし、当該液状組成物中に前記アミノ酸を0.25〜2.5重量%含み、かつ当該液状組成物の粘度が、100〜3000mPa・s、好ましくは、300〜1000mPa・s、より好ましくは、400〜900mPa・sとなるように調整する。これによって、主にアミノ酸の先味の苦味が抑制される。尚、本発明の液状組成物の粘度は、公知の測定機器を用いて測定することができ、例えば、B型粘度計ビスメトロンVDA2粘度計(芝浦システム社製)などを用いることができる。測定時間はサンプル調製120秒後、設定温度は20℃、ローターはNo.2、回転数は12rpmの条件が好適である。
【0020】
本発明の食品組成物は、アミノ酸の総量で、粉体状組成物中に2〜20重量%含まれることが好ましく、さらに好ましくは4〜10重量%である。また、本発明の食品組成物は、喫食時においては、粉体に水を加えて液状となしたものであり、最良の条件で調製したときの液状組成物中のアミノ酸の総量は、0.25〜2.5重量%、好ましくは0.5〜1.25重量%である。
【0021】
本発明の組成物に配合する各成分の配合比率(重量)については、アミノ酸総量1に対して、増粘剤は、0.1〜2.0、好ましくは、0.3〜1.2、より好ましくは、0.4〜0.6、γ−PGAは、0.03〜1.0、好ましくは、0.1〜0.6、より好ましくは、0.2〜0.4の比率で配合する。さらに、高甘味度甘味料(先味用、後味用含む)は、0.003〜0.2、好ましくは、0.006〜0.10、より好ましくは、0.012〜0.07の比率で配合する。先味用高甘味度甘味料と後味用高甘味度甘味料の比率は、1:99〜99:1、好ましくは、20:80〜80:20、より好ましくは、40:60〜60:40とする。アミノ酸総量に対して、増粘剤が0.1より低いと喫食時に粘度が発現せず、アミノ酸の「先味の苦味」が低減せず、また、2.0より高いと喫食時の粘度が高すぎて、食感が悪くなること、また、増粘剤自体の持つ風味、味が発現し、好ましくない。アミノ酸総量に対して、γ−PGAが0.03より低いと喫食時に「後味の苦味」が低減せず、1.0より高いとγ−PGA自体の持つ風味、味が発現し、好ましくない。
【0022】
アミノ酸総量に対して、高甘味度甘味料(先味用、後味用含む)が0.003より低いと先味、後味ともに甘味が弱すぎて、「先味の苦味」、「後味の苦味」ともに低減せず、0.2より高いと甘すぎて、食品に使用することができない。また、先味用高甘味度甘味料と後味用高甘味度甘味料の比率が、1:99〜99:1の範囲外であると、「先味の苦味」または、「後味の苦味」のどちらかが低減せず好ましくない。
【0023】
本発明の食品組成物の製造方法は、特に困難なく、当業者に公知の方法で、ミキサー等により、混合するのみでもよいが、当業者に公知の方法で、造粒および乾燥により顆粒状、又は粉末状の乾燥物として成型してもよい。ここで言う造粒方法は、流動造粒、攪拌造流、押出し造粒、転動造粒、圧扁造粒などを言うがこれらに限定されない。また、乾燥方法は、温風流動乾燥、振動乾燥、棚段式乾燥、各種真空乾燥など適宜用いることができる。上記のように設定された各成分を混合、粉砕して粉砕物を得る。粉砕物の平均粒子径は、好ましくは10μm〜1mmであり、更に好ましくは、100μm以下である。この粉砕物に適量の加水をして流動層造粒で、好ましくは、粒径100μm〜500μmに造粒して、造粒物を得て、さらに造粒物を乾燥することにより、本発明の粉体状組成物が得られる。また、当該食品組成物のうち、一部の組成物を上記製法で造粒、乾燥した後に、残りの組成物を混合して、本発明の粉体状組成物を得てもよい。
【0024】
本発明の異なる観点において、食品又は医薬品組成物中における苦味を有するアミノ酸の苦味を抑制する方法、又は苦味を有するアミノ酸の苦味抑制剤が提供される。本発明の苦味抑制方法に使用し、又は苦味抑制剤に含まれる増粘剤、γ−PGA、及び高甘味度甘味料は、上述したとおりである。増粘剤は、ある程度の粘度を発現すればよく、ゲル化剤のようにゼリー化しなくてもよい。アミノ酸の拡散速度を低下させて苦味の受容体への物理的な接触を阻害し、これによって先味の苦味を抑制するからである。
【0025】
一方、本発明の方法で使用するγ−PGAは、その特殊な構造に基づいて、苦味の受容体か、或いはアミノ酸の何れか一方又は両方に吸着し、これらの結合を阻害することによって後味の苦味を抑制するのではないかと考えられる。高甘味度甘味料についても、甘味曲線で示される甘味の発現速度に基づいて、2種類の甘味料を併用することで、アミノ酸の苦味の先味及び後味の低減が可能である。
【0026】
以下、本発明を実施例に則して説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
[実施例1]増粘剤+γ−PGA
必須アミノ酸ミックス3.6g(L−ヒスチジン0.22g、L−イソロイシン0.44g、L−ロイシン0.87g、L−リジン塩酸塩0.57g、L−メチオニン0.13g、L−フェニルアラニン0.38g、L−スレオニン0.38g、L−トリプトファン0.12g、L−バリン0.47gを含む)、キサンタンガム1.5g(商品名:ビストップ(登録商標)CN−150(三栄源エフエフアイ株式会社)、以下同じ)、γ−PGA0.8g(商品名:「カルテイク」(商標)(味の素株式会社)、以下同じ)を混合し、水350gに添加し、粘度を700〜800mPa・sに調整した。粘度の測定は、B型粘度計ビスメトロンVDA2粘度計(芝浦システム社製)を用い、測定時間はサンプル調製120秒後、設定温度は20℃、ローターはNo.2を使用し、回転数は12rpmとした。
【0028】
[比較例1]マスキング剤なし
必須アミノ酸ミックス3.6g(組成は実施例1と同じである。)、水350gに添加した。粘度は20mPa・s以下であった。粘度の測定条件は、実施例1と同じである。
【0029】
[比較例2]増粘剤のみ
必須アミノ酸ミックス3.6g(組成は実施例1と同じである。)、キサンタンガム1.5gを混合し、水350gに添加し、粘度を700〜800mPa・sに調整した。粘度の測定条件は、実施例1と同じである。
【0030】
[比較例3]γ−PGAのみ
必須アミノ酸ミックス3.6g(組成は実施例1と同じである。)、γ−PGA0.8gを混合し、水350gに添加した。粘度は20mPa・s以下であった。粘度の測定条件は、実施例1と同じである。
【0031】
[試験例1]
実施例1、比較例1、比較例2、比較例3について、苦味抑制効果を熟練されたパネル5名で官能評価を行い、「先味の苦味」、「後味の苦味」について、苦味レベルを0〜3点で点数化した。その結果を表1に示す。また、その時のTI法で得られた苦味曲線を図1に示す。
【0032】
【表1】

3点 非常に苦い
2点 苦い
1点 やや苦い
0点 苦味は感じない
【0033】
比較例1のマスキングをしていない系では、アミノ酸独特の苦味が顕著にあり、比較例2では、「先味の苦味」のみ抑制、比較例3では、「後味の苦味」のみが抑制された。これに対して、実施例1では、「先味の苦味」、「後味の苦味」の両方が抑制された。
【0034】
[実施例2]高甘味度甘味料の効果(先味用+後味用)
必須アミノ酸ミックス3.6g(L−ヒスチジン0.22g、L−イソロイシン0.44g、L−ロイシン0.87g、L−リジン塩酸塩0.57g、L−メチオニン0.13g、L−フェニルアラニン0.38g、L−スレオニン0.38g、L−トリプトファン0.12g、L−バリン0.47gを含む)、キサンタンガム1.5g、γ−PGA0.8g、アセスルファムカリウム0.05g(サネット(登録商標)(キリンフードティク株式会社)、以下同じ)、アスパルテーム0.05g(商品名:「PAL SWEET DIET」(商標)(味の素株式会社)、以下同じ)を混合し、水350gに添加し、粘度を700〜800mPa・sに調整した。粘度の測定は、B型粘度計ビスメトロンVDA2粘度計(芝浦システム社製)を用い、測定時間はサンプル調製120秒後、設定温度は20℃、ローターはNo.2を使用し、回転数は12rpmとした。
【0035】
[実施例3]高甘味度甘味料の効果(先味用のみ)
必須アミノ酸ミックス3.6g(組成は実施例2と同じである。)、キサンタンガム1.5g、γ−PGA0.8g、アセスルファムカリウム0.05g、を混合し、水350gに添加し、粘度を700〜800mPa・sに調整した。粘度の測定条件は、実施例2と同じである。
【0036】
[実施例4]高甘味度甘味料の効果(後味用のみ)
必須アミノ酸ミックス3.6g(組成は実施例2と同じである。)、キサンタンガム1.5g、γ−PGA0.8g、アスパルテーム0.05gを混合し、水350gに添加し、粘度を700〜800mPa・sに調整した。粘度の測定条件は、実施例2と同じである。
【0037】
[試験例2]
実施例1、実施例2、実施例3、及び実施例4について、苦味抑制効果を熟練されたパネル5名で官能評価を行い、「先味の苦味」、「後味の苦味」について、苦味レベルを0〜3点で点数化した。その結果を表2に示す。また、その時のTI法で得られた苦味曲線を図2に示す。
【0038】
【表2】

3点 非常に苦い
2点 苦い
1点 やや苦い
0点 苦味は感じない
【0039】
実施例1と比較して、実施例2では、よりアミノ酸の苦味の抑制効果があり、「先味の苦味」、「後味の苦味」ともにほとんど感じない。実施例3では、「先味の苦味」が、実施例4では、「後味の苦味」が、実施例1より効果的に抑制された。
【0040】
[実施例5]シェイク系の評価(増粘剤+γ−PGA)
必須アミノ酸ミックス3.6g(L−ヒスチジン0.22g、L−イソロイシン0.44g、L−ロイシン0.87g、L−リジン塩酸塩0.57g、L−メチオニン0.13g、L−フェニルアラニン0.38g、L−スレオニン0.38g、L−トリプトファン0.12g、L−バリン0.47gを含む)、γ−PGA0.8g、大豆たん白10g、乳たん白10g、食物繊維6g、ブドウ糖6g、ビタミンミックス0.1g(商品名:Vitamin Premix TYPE RD-2005(DSMニュートリションジャパン株式会社)、以下同じ)、ドロマイト1.2g、ピロリン酸第二鉄0.8g、ミネラル含有酵母0.15g(商品名:High Zinc Yeast、High Copper Yeast、High Manganese Yeast (セティ株式会社)などを配合、以下同じ)を混合し、流動層造粒にて平均粒子径200μmの造粒物を得て、乾燥後に炭酸カリウム0.5g、リン酸二水素カリウム1.6g、キサンタンガム1.5g、バナナパウダー4g、香料1.5gを混合し、粉体状組成物を得た。喫食時に、この粉体状組成物を水350gに添加し、粘度を500〜600mPa・sのバナナ風味シェイクを得た。粘度の測定は、B型粘度計ビスメトロンVDA2粘度計(芝浦システム社製)を用い、測定時間はサンプル調製120秒後、設定温度は20℃、ローターはNo.2を使用し、回転数は12rpmとした。
【0041】
[実施例6]シェイク系の評価 増粘剤+γ−PGA+高甘味度甘味料
必須アミノ酸ミックス3.6g(組成は実施例5と同じである。)、γ−PGA0.8g、大豆たん白10g、乳たん白10g、食物繊維6g、ブドウ糖6g、ビタミンミックス0.1g、ドロマイト1.2g、ピロリン酸第二鉄0.8g、ミネラル含有酵母0.15gを混合し、流動層造粒にて平均粒子径200μmの造粒物を得て、乾燥後に炭酸カリウム0.5g、リン酸二水素カリウム1.6g、キサンタンガム1.5g、アセスルファムカリウム0.05g、アスパルテーム0.05g、バナナパウダー4g、香料1.5gを混合し、粉体状組成物を得た。喫食時に、この粉体状組成物を水350gに添加し、粘度を500〜600mPa・sのバナナ風味シェイクを得た。粘度の測定条件は、実施例5と同じである。
【0042】
[比較例4]シェイク系の評価 増粘剤のみ
必須アミノ酸ミックス3.6g(組成は実施例5と同じである。)、大豆たん白10g、乳たん白10g、食物繊維6g、ブドウ糖6g、ビタミンミックス0.1g、ドロマイト1.2g、ピロリン酸第二鉄0.8g、ミネラル含有酵母0.15gを混合し、流動層造粒にて平均粒子径200μmの造粒物を得て、乾燥後に炭酸カリウム0.5g、リン酸二水素カリウム1.6g、キサンタンガム1.5g、バナナパウダー4g、香料1.5gを混合し、粉体状組成物を得た。喫食時に、この粉体状組成物を水350gに添加し、粘度を500〜600mPa・sのバナナ風味シェイクを得た。粘度の測定条件は、実施例5と同じである。
【0043】
[比較例5]シェイク系の評価 γ−PGAのみ
必須アミノ酸ミックス3.6g(組成は実施例5と同じである。)、γ−PGA0.8g、大豆たん白10g、乳たん白10g、食物繊維6g、ブドウ糖6g、ビタミンミックス0.1g、ドロマイト1.2g、ピロリン酸第二鉄0.8g、ミネラル含有酵母0.15gを混合し、流動層造粒にて平均粒子径200μmの造粒物を得て、乾燥後に炭酸カリウム0.5g、リン酸二水素カリウム1.6g、バナナパウダー4g、香料1.5gを混合し、粉体状組成物を得た。喫食時に、この粉体状組成物を水350gに添加し、バナナ風味シェイクを得た。粘度は、20mPa・s以下であった。粘度の測定条件は、実施例5と同じである。
【0044】
[試験例3]上記例の評価
実施例5、実施例6、比較例4、比較例5について、苦味抑制効果を熟練されたパネル5名で官能評価を行い、「先味の苦味」、「後味の苦味」について、苦味レベルを0〜3点で点数化した。その結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

3点 非常に苦い
2点 苦い
1点 やや苦い
0点 苦味は感じない
【0046】
比較例4では、「先味の苦味」のみ抑制、比較例5では、「後味の苦味」のみが抑制された。これに対して、実施例5、実施例6では、「先味の苦味」、「後味の苦味」の両方が抑制された。さらに実施例6では、アミノ酸独特の苦味が、完全にマスキングされ、苦味を全く感じないため、非常に風味良好なバナナシェークが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1及び比較例1〜3で調製した組成物について、試験例1における官能評価の結果をTI法で表した苦味曲線である。
【図2】実施例1〜4で調製した組成物について、試験例2における官能評価の結果をTI法で表した苦味曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸と、増粘剤と、ポリ−γ−グルタミン酸と、を含有することを特徴とする粉体状又は液状の食品組成物。
【請求項2】
さらに高甘味度甘味料を含有することを特徴とする請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
前記アミノ酸が、粉体状組成物中に2〜20重量%含まれる請求項1又は2に記載の食品組成物。
【請求項4】
喫食時において液状であり、当該液状組成物中に前記アミノ酸を0.25〜2.5重量%含み、かつ当該液状組成物の粘度が100〜3000mPa・秒であることを特徴とする請求項1〜3何れか記載の食品組成物。
【請求項5】
前記アミノ酸、増粘剤、ポリ−γ−グルタミン酸、及び高甘味度甘味料の配合比率(重量)が、1:0.1〜2.0:0.03〜1.0:0.003〜0.2であることを特徴とする請求項2〜4何れか記載の食品組成物。
【請求項6】
前記増粘剤が、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、タマリンド種子ガム、タラガム、アルギン酸(ナトリウム)、ジェランガム、ペクチン、カラギーナンのいずれか1種以上である請求項1〜5何れか記載の食品組成物。
【請求項7】
前記高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム、サッカリン(ナトリウム)、及びステビア抽出物から選ばれる1種以上と、アスパルテーム、スクラロース、ネオテーム、及びタウマチンから選ばれる1種以上との組み合わせである請求項2〜6何れか記載の食品組成物。
【請求項8】
前記アミノ酸が、イソロイシン、ロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン(塩酸塩)、リジン(塩酸塩)、スレオニン、アルギニン(塩酸塩)、オルニチン(塩酸塩)、(ヒドロキシ)プロリン、シトルリンから選ばれる1種以上である請求項1〜7何れか記載の食品組成物。
【請求項9】
苦味を有する少なくとも一種のアミノ酸を含有する組成物に、増粘剤とポリ−γ−グルタミン酸とを配合することを特徴とするアミノ酸の苦味抑制方法。
【請求項10】
さらに、高甘味度甘味料を配合することを特徴とする請求項9に記載のアミノ酸の苦味抑制方法。
【請求項11】
前記増粘剤が、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、タマリンド種子ガム、タラガム、アルギン酸(ナトリウム)、ジェランガム、ペクチン、カラギーナンのいずれか1種以上である請求項9又は10に記載のアミノ酸の苦味抑制方法。
【請求項12】
前記高甘味度甘味料が、アセスルファムカリウム、サッカリン(ナトリウム)、ステビア抽出物から選ばれる1種以上と、アスパルテーム、スクラロース、ネオテーム、タウマチンから選ばれる1種以上との組合せである請求項10〜11何れか記載のアミノ酸の苦味抑制方法。
【請求項13】
前記アミノ酸が、イソロイシン、ロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン(塩酸塩)、リジン(塩酸塩)、スレオニン、アルギニン(塩酸塩)、オルニチン(塩酸塩)、(ヒドロキシ)プロリン、シトルリンから選ばれる1種以上である請求項9〜12何れか記載のアミノ酸の苦味の抑制方法。
【請求項14】
前記アミノ酸、増粘剤、ポリ−γ−グルタミン酸、及び高甘味度甘味料の配合比率(重量)が、1:0.1〜2.0:0.03〜1.0:0.003〜0.2であることを特徴とする請求項10〜13何れか記載のアミノ酸の苦味抑制方法。
【請求項15】
前記組成物が液状であり、当該液状組成物の粘度を100〜3000mPa・秒とすることを特徴とする請求項9〜14何れか記載のアミノ酸の苦味抑制方法。
【請求項16】
請求項9〜15何れか記載の方法により、アミノ酸の苦味が抑制された組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−118743(P2009−118743A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292882(P2007−292882)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】