説明

茶製造のための改良された方法

本発明は、葉茶製品を製造する方法を提供する。本方法は、生茶葉を準備する工程と、生茶葉から香りを回収する工程と、生茶葉を乾燥して葉茶製品を形成する工程とを含む。香りは、生葉を低対流乾燥機中で少なくとも部分的に乾燥する間に回収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葉茶製品の製造のための方法に関する。本発明は、特に、それによって製造される茶の品質を低下させることなく、茶製造の間に茶の香りを回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
葉茶製品の製造は、通常少なくとも1つの乾燥工程を含む。
【0003】
緑茶葉は、一般的に、摘みたての葉を熱処理することによって(例えば、蒸すまたは鍋で炒ることによって)酵素作用を止め、次いで葉に一連の乾燥及び揉みの工程を施すことによって調製される。
【0004】
紅茶葉は、一般的に、摘みたての茶葉を、生茶葉の萎凋及び浸漬に続いて、主に紅茶の特徴的な色、風味及び香りに寄与する発酵を含む一連の加工条件下に置くことによって調製される。茶葉を、発酵後に高温で乾燥させて、酵素作用を止め、且つ水分を低いレベルまで下げる。
【0005】
香りは茶の品質を決定するための最も重要な要素の1つである。最終的な茶製品の香りプロフィールは、かなりの程度まで、製造の間に使用される加工条件によって決定される。特に、一部の香り化合物は、乾燥工程などの熱処理工程の間に生成される。従って、かなり加工された茶製品(「インスタント」茶粉末及び茶濃縮物など)の香りプロフィールを向上させようとする場合は、「荒茶」(すなわち乾燥工程をすでに終えた茶)から回収された香りを添加することが知られている。かかる方法の1つは国際公開第2003/101215号(Goodricke、2003年)に記載されており、(a)紅茶葉を60〜105℃の範囲内の温度の温硬水で処理することによって抽出物を形成させる工程と、(b)茶抽出物を部分的な真空下でフラッシュ蒸発器に滞留時間約30秒間〜360秒間通過させることによって抽出物からその香り揮発物を回収する工程と、(c)抽出物を繰り返し清澄化及びポリッシングして、清澄化された濃縮物を得ることによって、少なくとも約12重量%を不溶性茶固形物として抽出物から分離する工程と、(d)清澄化された濃縮物から6〜10%の可溶性茶固形物を分離する工程と、(e)食用酸を添加することによって濃縮物のpHを中性に調節する工程と、(f)工程(b)で得た香り揮発物を濃縮物に加える工程と、(g)熱水中で再構成されて曇り及びかすみを実質的に含まないインスタント茶を生成することが可能な、実質的に水分を含まない茶粉末を得る工程とを含む、熱水に可溶なインスタント茶の製造方法を開示している。
【0006】
荒茶からの香りの回収は、米国特許第4880656号(SKW Troatberg Aktiengesellschaft)及び英国特許第1333362号(HAG Aktiengesellschaft)でも開示されている。
【0007】
本発明者らは、従来の茶の乾燥の間に失われる香りは茶に保持される量のほとんど2倍であることを測定した。従って、本発明者らは、乾燥の間に失われる香りは、最終茶の品質を低下させることなく、回収することが可能であると認めた。さらに、本発明者らは、こうして製造された香りは、香りが荒茶ではなく生茶から回収されたとしても、茶製品の香りを高めるために使用することが可能であると認めた。
【0008】
米国特許第5182926号(Nestec S.A.、1993年)は、コーヒー、茶またはココアなどの飲物の加工の間に発生する気体からの香りの霜の捕集及び回収の方法を開示している。香りの気体は、コーヒーの加工におけるいくつかの時点のうちの任意の1つ、例えば、グリーンコーヒーの焙煎、焙煎全粒豆の粉砕で発生するもの、及び浸出の間に発生するものでよい。しかし、米国特許第5182926号は、生茶葉からの香りの回収は開示していない。
【0009】
米国特許第3477854号(Affico S.A.、1969年)は、生葉からの茶抽出物(すなわち、インスタント茶)の製造方法を開示している。生葉は粉末化してもよく、また香料の少なくとも一部分は抽出の前に回収されてもよい。しかし、米国特許第3477854号は、葉茶製品の製造方法は開示していない。
【0010】
英国特許第1097661号(Marshall's Tea Machinery Company Ltd)は、茶乾燥機中の発酵茶葉の焙煎の間に放出される蒸気の少なくとも一部分を凝縮させること、凝縮物中の精油の少なくとも一部分を凝縮物の残りから分離すること、及び分離された精油の少なくとも一部分を同じまたはもう1つの茶乾燥機中で既に焙煎した茶の中に導入することを開示している。しかし、英国特許第1097661号は、低対流乾燥機中での茶の乾燥は開示していない。
【0011】
日本国特許出願第2002/330698号(Kojima Makoto)は、焙煎乾燥機から排出される排出気体を、熱交換器を通じて導き、風味成分を含有する水溶液を集めることを開示している。前記成分は緑茶飲料に添加することが可能である。しかし、やはり特許出願第2002/330698号も低対流乾燥機中で茶を乾燥することは開示していない。
【特許文献1】国際公開第2003/101215号
【特許文献2】米国特許第4880656号
【特許文献3】英国特許第1333362号
【特許文献4】米国特許第5182926号
【特許文献5】米国特許第3477854号
【特許文献6】英国特許第1097661号
【特許文献7】日本国特許出願第2002/330698号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、製造された葉茶が伝統的な荒茶のすべての品質を有することを確保しつつ、茶の製造中に茶の香り化合物を回収する経済的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
さらに、本発明者らは、香りの源としての生茶葉の使用は、低対流乾燥法と組み合わせると独特の香りを生成することを見出した。
【0014】
従って、第1の態様において、本発明は葉茶製品を製造する方法を提供し、本方法は、
(a)生茶葉を準備する工程と、
(b)生茶葉から香りを回収する工程と、
(c)生茶葉を乾燥して葉茶製品を形成させる工程と
を含み、香りは工程(b)において低対流乾燥機中で生葉を少なくとも部分的に乾燥する間に回収される。
【0015】
本発明は、現在は乾燥の間に失われている香りの回収を可能にする。そうして回収された香りは葉茶製品に加え戻して、その風味/香りを高めたり変更したりすることができる。あるいは、この香りをインスタント及び/またはそのまま飲める茶製品の製造のために使用することもできる。
【0016】
荒茶ではなく生茶の使用は、生茶が、荒茶を製造するためには必要であり、その際に香りが失われ且つ化学的に変化させられる焙煎をされていないので、独特の香りプロフィールを提供する。
【0017】
香りは、生茶を低対流乾燥機中で少なくとも部分的に乾燥することによって回収される。本発明者らは、茶を低対流乾燥機中で乾燥する場合に、簡単で経済的な方法で香りを捕集して濃縮することが可能であることを見出した。これは、従来型の乾燥機では必要とされる大量の気体によって香りが希釈されないからである。さらに、低対流乾燥は(特に真空下で行う場合は)通常、従来型の乾燥機よりも低い温度しか必要とせず、そのため香りは乾燥工程によって化学的に変化させられない。また、低対流乾燥機の使用は、二酸化炭素などの高価で危険及び/または環境に有害な物質を使用する必要性及び/または極低温工程の使用を回避する。
【0018】
特に好ましい一実施形態において、本方法は、紅茶製造の間に香りを回収する方法であると言うことができ、
i)茶葉から得られた発酵マスを乾燥し、乾燥の少なくとも一部分は低対流乾燥機中で行われ、前記低対流乾燥機中に送入される非凝縮性気体の量は、蒸発する水1kg当たり前記気体5kg未満である工程と、
ii)前記低対流乾燥機からの排出気体を冷却して香りに富む凝縮物を調製する工程と
を含む。
【0019】
本発明の他の一態様においては、葉茶製品及びそのまま飲める茶から選択される、高められた香りを有する茶製品が提供される。この茶製品は、本発明の方法によって回収されたものである添加された茶の香りを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[茶]
本発明の目的のための「茶」は、チャノキ中国種(Camellia sinensis var. sinensis)またはチャノキアッサム種(Camellia sinensis var. assamica)からの材料を意味する。これはまた、アスパラサス・リネアリス(Aspalathus linearis)から得られるルイボス茶も含む。「茶」は、これらの材料のいずれか2つ以上をブレンドした製品も含むものとする。
【0021】
本発明の目的のための「茶葉」は、1つまたは複数の茶由来のものを未浸出の形態で含む茶製品を意味する。
【0022】
「生茶葉」は、30重量%未満の水含有量まで乾燥されたことが一度もない茶葉のことを言うものであり、通常35〜90%の範囲内の水含有量を有する。
【0023】
「葉茶製品」は30重量%未満の水分含有量まで乾燥された茶葉のことを言うものであり、通常1〜10重量%の範囲内の水含有量を有する(すなわち「荒茶」)。本発明の葉茶製品は、例えば葉茶製品を沸騰水などの水性媒体と接触させることによって、直接飲料を調製するために適当な形態の飲料前駆物質である。本発明の葉茶製品は、好ましくはパッケージされている。葉茶製品は浸出用パッケージ(例えば、ティーバッグ)中及び/またはホイルバッグなどの気密な包みにパッケージされていてもよい。葉茶製品は脱カフェインされていないことが好ましい。
【0024】
本発明の葉茶製品は、発酵茶(すなわち、紅茶)、半発酵茶(すなわち、ウーロン茶)及び/または実質的に未発酵の茶(すなわち、緑茶)を含むことができる。「発酵」は、ある種の内在する酵素と基質が、例えば浸漬による葉の細胞の機械的破壊によって、一緒になったときに茶が受ける酸化的加水分解過程のことを言うものである。この過程の間に葉中の無色のカテキンが、黄色及びオレンジから濃い茶色のポリフェノール系物質の複雑な混合物に転化される。
【0025】
「そのまま飲める茶」は、茶固形物を含む飲物を意味する。そのまま飲める茶は、普通は少なくとも80%、最適には85〜99.9重量%の間の水含有量を有する。そのまま飲める茶は缶またはボトルなどの気密の容器中にパッケージされていてよい。そのまま飲める茶の茶固形物含有量は、通常0.001〜5重量%、好ましくは0.01〜3重量%、最も好ましくは0.1〜1重量%の範囲内である。
【0026】
[葉茶製品を製造する方法]
葉茶製品を製造する方法は、
(a)生茶葉を準備する工程と、
(b)生茶葉から香りを回収する工程と、
(c)生茶葉を乾燥して葉茶製品を形成させる工程と
を含む。
【0027】
<生茶葉の準備>
最も単純な形態では、生茶葉は摘みたての形態で、すなわちそれ以上何らの加工もせずに準備する。好ましくは、生茶葉は、葉及び茎の材料を含む。最も好ましくは、生茶葉は、活発に発育中の芽を、例えば最初の2枚または3枚の葉をまだ開いていない芽と一緒にした形態で含む(いわゆる「一芯二葉」及び/または「一芯三葉」の材料)。
【0028】
生茶葉は、工程(b)の前に萎凋されてもよい。茶葉は、通常約12〜36時間萎凋される。萎凋は、ある種の化学的及び生化学的変化が起こることを可能にし、また葉の水分含有量を約35〜70%まで低下させる。
【0029】
萎凋の間に起こる生化学的及び/または化学的変化は、茶の中の揮発性風味化合物の収量を増加させることがある。
【0030】
生茶葉は、加えてまたは代わりに工程(b)の前に浸漬されてもよい。浸漬は、例えば葉を揉捻及び/または破砕することによって葉に傷をつけて、すなわち植物組織構造を壊すことを含む。紅茶の製造において、これは発酵可能な基質及び発酵酵素を、植物細胞及び組織の内部から開放する効果を有する。浸漬は、好ましくは生茶葉を切断機に通すことによって達成される。従って、本発明の目的のために、生茶葉をCTC、ローターベーン、ボールミルもしくはグラインダーもしくはハンマーミルもしくはLawriティープロセッサーもしくはLegg切断機を使用する浸漬工程によって浸漬するか、または正統派の茶加工のように茶揉み機を使用して揉捻してよい。これらの浸漬工程の組合せも使用することができる。
【0031】
紅茶及びウーロン茶の場合は、この工程は生葉を少なくとも部分的に発酵させる追加の工程を含む。この発酵を工程(b)の前に行って、特徴的な発酵茶の香り化合物を工程(b)で回収することを可能にしてもよい。茶を、加えてまたは代わりに、工程(b)の後で発酵させてもよい。
【0032】
緑茶の場合は、通常、内在する発酵酵素を失活させるために生茶葉を工程(b)の前に処理する(例えば、熱で)ことによって発酵を防ぐ。伝統的には、かかる処理は葉を蒸す且つ/または鍋で炒ることによって達成される。
【0033】
<香りの回収>
香りは、生茶葉を少なくとも部分的に乾燥する間に回収される。
【0034】
香りを回収するために、低対流乾燥機を使用する。本明細書で使用する「低対流乾燥機」という用語は、送入非凝縮性気体の量が、蒸発する水1kg当たり20kg未満、好ましくは蒸発する水1kg当たり5kg未満、より好ましくは蒸発する水1kg当たり1.0kg未満、より好ましくは蒸発する水1kg当たり0.5kg未満、最も好ましくは蒸発する水1kg当たり0.001kg〜0.05kgである種類の乾燥機のことを言うものである。「非凝縮性気体」という用語は、大気圧において-10℃未満、より好ましくは-20℃未満、最も好ましくは-35℃未満の沸点を有する物質のことを言うものである。
【0035】
本発明の方法のために適当な様々な種類の乾燥機には、これらだけには限定されないが、真空乾燥機、回転式真空乾燥機、真空プレート乾燥機、過熱スチーム乾燥機、中空翼蒸発器またはジャケット付スクリュー乾燥機などのバッチ式及び連続式のうちの1つまたは複数が含まれる。これらの種類の乾燥機の大部分では、熱は乾燥機の表面からの伝導によって伝達される。低対流乾燥機の伝熱表面の温度は40〜150℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは90〜140℃の範囲内である。低対流乾燥機中で乾燥する場合は、生茶葉は70℃よりも高い温度までは加熱されないことが望ましく、好ましくは30〜55℃の範囲内の温度まで加熱される。
【0036】
低対流乾燥機中での乾燥は、好ましくは真空下で行われる。好ましい真空の範囲は、絶対圧力0.3気圧未満、より好ましくは絶対圧力0.01〜0.15気圧の範囲内、最も好ましくは絶対圧力0.05〜0.15気圧の範囲内である。
【0037】
香りが生葉茶から回収されるのにかかる時間は(例えば、1つまたは複数の低対流乾燥機中で乾燥することによって)、通常8時間未満、より好ましくは5時間未満、さらにより好ましくは5分間〜5時間の範囲内である。香りの回収に要する時間は、使用する乾燥機の種類とサイズに依存する。バッチ式の乾燥機を使用する場合は、香りの回収時間は好ましくは1〜5時間の範囲内である。連続式の乾燥装置を使用する場合は、乾燥機中の茶の滞留時間5〜30分間で十分な香りが回収される可能性がある。
【0038】
香りは、好ましくは凝縮物として回収される。例えば、乾燥機からの排出気体は凝縮器に導かれ、香り化合物は水とともに50℃未満、好ましくは35℃未満、さらにより好ましくは-5℃〜30℃の凝縮器温度を使用して凝縮される。
【0039】
得られた凝縮物を、既知の方法の任意の1つによって濃縮することができる。例えば、香りを、逆浸透圧法、蒸留、低温濃縮法、凍結乾燥、及び/または工程的凝縮/分縮によって濃縮して、茶の香りの濃縮物を調製することができる。濃縮のためには、蒸留法を使用するのが特に好ましい。茶の香りは、好ましくは少なくとも25mg/lの香り含有量、より好ましくは少なくとも1000mg/l、さらにより好ましくは少なくとも5000mg/l、最も好ましくは10000mg/lの範囲の香り含有量から純粋に香りオイル(例えば、900g/l)である濃縮物まで濃縮する。
【0040】
あるいは、凝縮物を、活性炭、樹脂、ゼオライト、及び茶(例えば、紅茶)から選択される1つまたは複数の吸着剤に吸着させてもよい。この吸着剤をカラムまたは流動床に充填し、後で熱処理、有機溶媒または超臨界CO2を使用して香り成分を脱着し、放出させればよい。排出気体を茶自体に吸着させる場合は、さらなる脱着は必要でない。
【0041】
<乾燥>
本発明の方法は、生茶葉を乾燥して葉茶製品を形成させる工程を含む。
【0042】
紅茶及びウーロン茶の場合は、乾燥工程は通常焙煎を含む。焙煎は発酵させた茶を加熱及び乾燥して発酵酵素を破壊し、それによって発酵を止めることを含む。
【0043】
本発明の乾燥工程は、「完全な乾燥」をもたらすものでなければならない。「完全な乾燥」は、茶の水分含有量の30%未満、より好ましくは1〜10%の間、最適には水分含有量約5重量%までの低減を意味する。乾燥はまた、茶のさらなる化学的酸化及び茶の香りの変化ももたらす。
【0044】
従来法による乾燥は、高対流乾燥機中で茶に熱い乾燥空気を強く吹き付けることを含む。この加工工程の間に発生する香りの大部分は、かかる高対流乾燥機において約120℃で茶を乾燥する間に、排出気体の状態で失われる。さらに、たとえかかる高対流乾燥機から香りを集めたとしても、使用する大容積の気体は非常に希釈された香りしかもたらさず、過度の濃縮が必要になる。また、それにともなう高い温度は、例えばメイラード化合物が生成されることにより、香りを化学的に変える。
【0045】
従って、本発明によれば、乾燥工程(c)は、生茶葉を低対流乾燥機中で少なくとも部分的に乾燥することによって、工程(b)の間に少なくとも部分的に達成される。実際に、本発明によって香りを回収する間に生茶葉を完全に乾燥することも可能である。例えば、生茶葉(例えば、発酵マスの形態の)を低対流乾燥機中で完全に乾燥することができる。あるいは、生茶葉をまず香りの回収(例えば、低対流乾燥機中で)の間に部分的に乾燥することができる可能性があり、次いで従来型の乾燥機中で完全に乾燥する。もう1つのあり得る代替法は、生茶葉をまず従来型の乾燥機中で部分的に乾燥し、次いで低対流乾燥機中で完全に乾燥することであり得る。こうした可能性のある複数の切替えを考慮することもできるであろう。理論に拘束されたくはないが、より高めの水分含有量で香りの回収をすると、より多くの「緑茶の特徴」を有する香りを生成し、より低めの水分含有量で香りを回収すると、より多くの「紅茶の特徴」を有する香りを生成すると考えられている。従って、捕らえることを所望する香り化合物の種類に応じて、選択された水分含有量の範囲で香りを回収することができる。
【0046】
「従来型の乾燥機」は、大量の空気の流れ、すなわち蒸発する水1kg当たり5kgを超える空気、通常は蒸発する水1kg当たり20kgを超える空気を利用する乾燥機を意味する。流動床乾燥機、及び棚段式乾燥機は、バッチ式または連続式のどちらも、かかる従来型乾燥機の2種類である。流動床乾燥機での乾燥は、通常90〜140℃の範囲内の入口空気温度、90℃未満の出口空気温度、及び45〜90℃の床温度で行われる。
【0047】
[高められた香りを有する茶製品]
本発明はまた、添加された本発明の方法の工程(b)で回収された香りを含んで高められた香りを有する茶製品も提供する。好ましくは、香りは濃縮物の形態である。茶製品は、葉茶製品またはそのまま飲める茶である。葉茶製品は、紅茶、緑茶またはウーロン茶である。香り濃縮物は、好ましくは葉茶製品の重量に対して10%未満で加えられる。茶の香り濃縮物をそのまま飲める茶に添加する場合は、そのまま飲める茶の中に存在する茶固形物の500重量%まで添加することができる。そのまま飲める茶の中の添加される香りの量は、少なくとも10ppmのTOC(すなわち、飲物1リットル当たり10mgの総有機炭素)を提供するような量であることが好ましく、より好ましくは添加される香りの量は50〜2000ppmの範囲内、さらにより好ましくは75〜750ppmの範囲内、最も好ましくは100〜500ppmの範囲内である。
【0048】
茶製品は脱カフェインされていないことが好ましい。
【実施例】
【0049】
<実施例1>
この実施例は、本発明による方法によって作製された茶の香り凝縮物の分析を詳しく述べるものである。
【0050】
ダベラショラ(Daverashola)(南インドにある)からの茶葉を、従来の萎凋、浸漬及び発酵の工程によって加工し、次いで水分71.6%から5%まで回転式真空乾燥機(RVD)中で乾燥し、そこでの送入空気量と蒸発させた水分の量との比は約0.05kg/kgであった。香り凝縮物は、5℃で作動している凝縮器を使用して捕集された。
【0051】
香り凝縮物を、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー(HSGC)で分析し、その手順を以下に示す。
【0052】
(HSGCの条件)
揮発性有機化合物を、Perkin Elmer(登録商標)XLガスクロマトグラフ(GC)及びヘッドスペースTurbomatrix(登録商標)40を使用して分析した。ヘッドスペースは、50分間のサイクルタイムの間95℃に維持された。ヘッドスペースからの気体を、Varian製CP-Sil(登録商標)8 CB分析カラムを備えたGC装置中に注入した。圧力17psiのヘリウムガスを使用し、且つ分子を220℃でFID検出器を使用して検出した。
【0053】
データは、凝縮物が所望の茶の香りの強力な指標である化合物を含有していたことを示した。次の3つの主要な茶の香り化合物群が観察された。
(1)脂肪酸分解生成物:1-ペンテン-3-オール、ヘキサナール、シス-3-ヘキセノール、トランス-2-ヘキセナール、ヘプタナール、オクタナール、シス-3-ペンテノール、
(2)テルペン類:リナロオール、ゲラニオール、ネロール、リナロオールオキシド、並びに
(3)芳香族:フェニルアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、2-フェニルエタノール、及びサリチル酸メチル。
【0054】
<実施例2>
この実施例は、本発明による方法によって作製された高品質な紅茶を示す。
【0055】
2件の試行を本発明による方法を使用して行った(サンプル1及び2)。茶葉を萎凋し、浸漬し、発酵させ、次いで送入空気量と蒸発させた水分の量との比が、蒸発させた水分1kg当たり0.05kg未満の空気である、500リットルの回転式真空乾燥機(RVD)中で乾燥した。RVDは、110℃の伝熱表面温度、及び真空下すなわち絶対圧力0.15気圧の圧力で運転した。茶を、当初の水分含有量70%から水分含有量50%まで乾燥し、その後、茶を従来型の乾燥機(送入空気量と蒸発させた水分の量の比が、蒸発させた水分1kg当たり空気40kgである流動床乾燥機)中で最終水分含有量5重量%まで乾燥した。
【0056】
2件の試行を従来の方法を使用して行った(サンプルA及びB)。茶葉を萎凋し、浸漬し、発酵させ、次いで送入空気量と蒸発させた水分の量の比が、蒸発させた水分1kg当たり空気40kgである、流動床乾燥機中で乾燥した。茶を、当初の水分含有量70%重量から最終水分含有量5重量%まで乾燥した。入口空気温度を120℃に維持し、出口空気温度は80〜90℃の範囲にわたった。
【0057】
サンプル1及び2、並びに比較例サンプルA及びBから作製された紅茶の熱水浸出液が、茶のテイスターによって液質(Q)、液明度(B)、液色(C)、液口当たり(M)について1〜10の等級で評価され、平均値が表1にまとめられており、値が高いほど好ましい。
【0058】
【表1】

【0059】
表1のデータは、本発明の方法によって作製された茶が、従来法によって作製されたものと同等の品質のものであることを示している。サンプル1及びサンプルAを、揮発性有機化合物について、ヘッドスペースガスクロマトグラフ(HSGC)を使用して分析した。そのデータは、本発明の方法によって作製された紅茶の香り含有量が、従来法によって作製されたものと同等であることを示した。
【0060】
<実施例3>
この実施例は、茶の香りを高めるために添加された香りの使用を示す。
【0061】
茶の香りは、実施例2のサンプル1及び2の作製の間に、RVD中で、20〜30℃の冷却温度で操作されている凝縮器を使用して捕捉された。約90kgの茶のバッチから、約35kgの茶の香りが捕捉された。加えて、香りの強さの1つの指標である、茶の香り凝縮物の総有機炭素(TOC)を、CO2分析機を使用して測定し、すべての炭素化合物を二酸化炭素に酸化するために白金電極を使用した。TOCの平均値は、約300mg/L茶の香り凝縮物であることが分かった。
【0062】
本発明の方法を使用して調製された茶の香り凝縮物の紅茶への添加についての実験を、対照サンプルを用いて得られた生成物の比較によって行った。45名のパネリストそれぞれに、2杯の茶を与えた。第1のカップには、紅茶から調製された茶の浸出液が入っていた。第2のカップには、同一の紅茶から調製された茶の浸出液が入っており、且つこの浸出液には茶の香り凝縮物2mlが添加されていた。パネリストに両カップの茶を香りについて7点満点で評価させた。得点を集計して平均値を求めた。紅茶単独の得点3.62点に対して、茶の香り凝縮物を添加された茶は有意により高い4.64点を得点したことが分かった。
【0063】
<実施例4>
この実施例は、様々な工程パラメーターが本発明による方法における香りの回収に与える影響を示す。
【0064】
水含有量66重量%を有する茶ドールの90kgバッチを、140分間発酵させた後、回転式真空乾燥機中で500mmHg(0.65気圧)の真空及び120℃の表面温度を使用して91分間乾燥した。ドールを、水分含有量45%まで乾燥した。凝縮物を、5リットルのバッチ(「留分」)に分けて捕集し、乾燥の間の香り凝縮物の生成速度を下記表2にまとめた。
【0065】
【表2】

【0066】
総有機炭素含有量それぞれの留分について測定したところ、約680mg/リットル〜約90mg/リットルの範囲であり、平均値は約260mg/リットルであった。
【0067】
様々な留分を個々の香り化合物の存在について、実施例1で記載したとおりHSGCを使用し、且つ固相微量抽出(SPME)ヘッドスペースガスクロマトグラフィーを使用して分析した。豊富な量で生成される香り化合物を測定するためにHSGCを使用し、より少ない化合物であってもそれらの匂いの強い性質の故に重要な化合物を測定するためにSPME-HSGCを使用する。
【0068】
(SPME-HSGCの条件)
この方法では、サンプル中の揮発性化合物は、密封されたバイアル中のヘッドスペースと平衡させられ、続いてポリマー被覆溶融シリカ繊維への吸収によって抽出される。被分析物質は、加熱されたGC注入ポートへの直接露出によって繊維から熱的に脱着される。
【0069】
サンプルが、65℃で5分間インキュベートされた後、ヘッドスペースが20分間SPME繊維を使用してサンプリングされる。これは、Agilent(登録商標)6890ガスクロマトグラフに取り付けられたCombi Pal(登録商標)自動サンプラーを使用して行われる。GCにはCP-Wax(登録商標)52 CBまたは等価なBP-20 Carbowax(登録商標)分析カラムが取り付けられ、ヘリウムをキャリアガスとした。化合物を、FID検出装置を260℃で使用して検出した。
【0070】
実施例4からのサンプルについてのHSGC及びSPME-HSGC分析からのデータは、次の化合物の存在を示した:ヘキサナール、トランス-2-ヘキサナール、1-ペンテン-3-オール、z-2-ペンテン-1-オール、ヘキサン-1-オール、z-3-ヘキセン-1-オール、リナロオール、アセトアルデヒド、2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、リナロオールオキシド(トランス)、フェニルアセトアルデヒド、及びサリチル酸メチル。これらの化合物はすべて、独特の茶の香りに大いに寄与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)生茶葉を準備する工程と、
(b)生茶葉から香りを回収する工程と、
(c)生茶葉を乾燥して葉茶製品を形成させる工程と
を含み、工程(b)において低対流乾燥機中で生葉を少なくとも部分的に乾燥する間に香りが回収されることを特徴とする、葉茶製品を製造する方法。
【請求項2】
低対流乾燥機が、真空乾燥機、回転式真空乾燥機、バッチ式もしくは連続式の真空プレート乾燥機、または過熱スチーム乾燥機である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低対流乾燥機中へ送入される非凝縮性気体の量が、蒸発する水1kg当たり前記気体5kg未満である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記非凝縮性気体が空気である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記低対流乾燥機からの排出気体が、香りに富む凝縮物を調製するために冷却される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記低対流乾燥機中の茶の温度が70℃未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)における少なくとも部分的な乾燥が真空下で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記真空が絶対圧力0.01〜0.15気圧に相当する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
低対流乾燥機からの排出気体が、-5℃〜+35℃の凝縮器温度で冷却される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
香りが凝縮物として回収される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
凝縮物を濃縮して香り濃縮物を調製する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
香り濃縮物が5000mg/l〜900g/lの範囲の香り含有量を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
生茶葉が工程(b)の前に萎凋される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
生茶葉が工程(b)の前に浸漬される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
生葉中の酵素を失活させ、それによって発酵を防ぐために生茶葉が処理される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
茶製品が緑茶である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
生茶葉を少なくとも部分的に発酵させる追加の工程を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも部分的な発酵が工程(b)の前に実施される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(b)の後に、生茶葉をさらに発酵させる追加の工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
茶製品が紅茶である、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程(b)で回収された香りの少なくとも一部分を、乾燥工程(c)によって作製された葉茶製品と合わせる追加の工程を含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
葉茶製品をパッケージする追加の工程を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
葉茶製品が浸出用パッケージ中にパッケージされる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか一項に記載の方法の工程(b)において回収されるか、または回収可能な香り組成物。
【請求項25】
請求項1から23のいずれか一項に記載の方法の工程(b)において回収された添加された香りを含む、高められた香りを有する葉茶製品またはそのまま飲める茶。
【請求項26】
香りが香り濃縮物の形態であり、且つ添加された香り濃縮物の量が、葉茶製品の10重量%未満またはそのまま飲める茶の茶固形物に対して500%までである、請求項25に記載の茶製品。

【公表番号】特表2009−508477(P2009−508477A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530358(P2008−530358)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008164
【国際公開番号】WO2007/039018
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(590003065)ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ (494)
【Fターム(参考)】