説明

荷電粒子のビームにより表面を調査又は改変する装置及び方法

【課題】試料表面を荷電粒子により調査及び/又は改変するのを容易且つ費用効率的に可能にし、表面電荷蓄積に関係する問題が克服されるような装置及び方法を提供する。
【解決手段】荷電粒子により試料を調査及び/又は改変する装置、特には走査電子顕微鏡が提供される。この装置は、荷電粒子のビームと、該荷電粒子のビームが通過する開口30を持つ遮蔽エレメント10とを有し、該開口30は充分に小さく、上記遮蔽エレメント10は上記試料の表面20に対して十分に接近して配置されて、上記荷電粒子のビームに対する該表面における電荷蓄積効果の影響を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の調査及び/又は改変のために1以上の荷電粒子ビームを使用する装置及び方法に関する。特に、本発明は、例えば走査電子顕微鏡における、低電圧走査粒子ビームによる試料表面の調査及び/又は改変に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子又は走査イオン顕微鏡法等の多くの顕微鏡法技術においては、試料を横切って荷電粒子の収束ビームが走査される。試料から放出又は放散される粒子は、二次元画像を提供するために検出器により収集される。特に電子等の粒子の走査ビームは、例えば試料表面に対して材料を選択的に除去又は堆積することにより斯かる表面を改変するためにも使用される。このような技術は、例えばSPIE、第2780巻、第388頁のクープス(Koops)他による「三次元加算型(additive)電子ビームリソグラフィ」なる文献及び特許文献1に記載されている。高解像度での材料の選択的堆積又は除去は、半導体工業において使用されるマスクの修理にとり特に関心がある。
【0003】
特に、試料の電気的に分離する凹凸(features)を画像化する場合に、帯電効果は走査電子顕微鏡の画像品質を著しく悪化させ得ることは、一般的な知識である。荷電粒子の衝突ビーム(一次ビーム)は、試料表面の領域を、該一次ビームの特性及び極性に依存して、且つ、該一次ビームにより発生される(所謂、二次ビームを形成する)二次粒子の量及び極性に依存して任意の電圧まで帯電させる。結果としての電荷は、試料の表面にわたって、絶縁及び導電領域を伴う該試料の構造及び幾何学形状に依存すると共に、該試料を囲む領域の電気的特性に依存するような態様で分布する。
【0004】
上記表面電荷は収束一次ビームの変形(例えば、焦点ずれ、スティグメーション(stigmation))及び偏向(例えば、画像のずれ、画像歪)につながる。画像ずれは、CD−SEM(臨界寸法の測定のための走査電子顕微鏡法)等の計測学用途のための高精度走査電子顕微鏡法の最も重大な問題である。何故なら、斯かる顕微鏡法は試料上の導電性又は非導電性凹凸の幾何学構造に依存するからである。この構造は、試料から試料へと、視野(FOV)から視野へと、及び或る組の試料材料組成から他の組へと、変化し得る。
【0005】
更に、前記二次電子の量及び斯かる二次電子の軌道は表面電荷により影響を受ける。検出器により収集される二次電子の量は、発生される画像の局部的輝度を決定するために使用されるので、画像のコントラストも表面の帯電により影響を受ける。特に、走査電子顕微鏡法によるマスク又はウェファの検査のような高い位置精度が要求される場合、帯電効果は電気的に分離された凹凸の測定の精度を制限する。特に、低電圧電子顕微鏡法は電荷蓄積効果の影響を受ける。何故なら、高電圧電子顕微鏡法に較べて、一次ビームが、各経路において電界の影響を一層受け易いからである。
【0006】
この問題を克服するために、望ましくない電荷蓄積を除去すべく又は少なくとも斯かる電荷蓄積の影響を低減すべく、従来技術において種々の方法が開発された。
【0007】
絶縁物体上の電荷蓄積の問題に対する一つの普通に使用される解決策は、試料表面への導電層の被着である。しかしながら、斯様な層を被着することは常に可能であるとは限らず、半導体工業における幾つかのアプリケーションに対しては排除される。他の方法は、例えばFIB(収束イオンビーム)用のシステムにおける電荷中和電子フラッドガンの使用のように、試料に対して反対の電荷を供給するために荷電粒子の他のビームを追加的に設けることである。更なる方法は、試料表面の近くに適切な電位を印加して、二次電子が該試料表面から逃げるのを防止し、かくして過度な正の電荷の蓄積を禁止するものである。更に他の方法は、帯電状況を変化させ、過度な非対称帯電を防止するために走査条件を変化させるものである。
【0008】
電荷の蓄積に関係する問題を克服する幾つかの方法は、下記のリストの従来の特許及び公開文献に詳細に記載されている。
【0009】
特許文献2は、フラッドガンからの中和電子が最終レンズの下の偏向エレメントにより試料に向けられるようなシステムを開示している。特許文献3は、収束されたイオンビームの絶縁試料への収束及び位置決めの問題に対処している。中和電子ビームが開示され、該中和電子ビームは、試料の蓄積された正電荷の少なくとも一部を中和するために最終レンズを通過される。
【0010】
特許文献4は、走査電子顕微鏡画像において画像歪及び画像コントラスト変化となるような非対称帯電の問題に対処している。この特許に開示された解決策は、二重の走査手順、即ち画像フィールドの周囲領域を荷電する手順及び画像フィールド自体を走査する第2の手順、からなる。
【0011】
特許文献5は、走査電子顕微鏡の一次電子ビームによる絶縁試料の異なる領域の帯電に対処している。画像を獲得することを意図するものと、電荷蓄積を制御する他のものとの2つの異なる走査条件の間で多重化するような解決策が開示されている。
【0012】
特許文献6は、電荷蓄積により連続する走査の間に二次粒子検出効率に影響を与えると共に走査フィールドを暗黒化するような絶縁試料の帯電効果の問題に対処する。目標上の電極に印加される電圧を使用して、過度な正の電荷の蓄積を抑圧し、明瞭な画像を発生するような解決策が提示されている。これは、試料表面から放出される二次電子の軌道に作用する積極的な方法である。負の電圧が上記電極に対して、表面からの放出粒子(例えば、二次電子)の少なくとも幾つかが上記電極から該表面に向かって押し戻され、該表面上に蓄積された正の電荷を相殺するように印加される。この印加される電圧は、上記電極の中心からの一次ビーム走査の距離に依存して能動的に調整される。
【0013】
特許文献7は、走査電子顕微鏡の画像品質を最適化するという課題に、試料表面電荷を測定し、最適動作条件のための一群のSEMパラメータを計算することにより対処する。
【0014】
特許文献7及び特許文献6で参照されるアドバンテスト社の特許文献8は、過度の電荷蓄積を制御するために鞍点電位を用いる方法を開示している。
【0015】
【特許文献1】独国特許出願公開第DE10208043A1号明細書
【特許文献2】米国特許第4,818,872号明細書
【特許文献3】米国特許第6,683,320号明細書
【特許文献4】米国特許第6,344,750号明細書
【特許文献5】米国特許第6,570,154号明細書
【特許文献6】米国特許第6,586,736号明細書
【特許文献7】米国特許第6,664,546号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第DE4412415A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
これらの方法の全ては、装置全体に対して追加されねばならない所要の計装の点で、及び/又は画像を得るために要する処理ステップの点で非常に複雑である。加えて、斯かる従来技術のいずれもが、結果としての画像に対する表面帯電の影響を完全に除去することはできない。
【0017】
従って、本発明の課題は、試料表面を荷電粒子により調査及び/又は改変するのを容易且つ費用効率的に可能にし、表面電荷蓄積に関係する上述した問題が克服されるような装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の態様によれば、本発明は、荷電粒子により試料を調査及び/又は改変する装置、特には走査電子顕微鏡であって、荷電粒子のビームと、該荷電粒子のビームが通過する開口を有するような遮蔽エレメントとを有し、該開口は充分に小さく、前記遮蔽エレメントは前記試料の表面に対して、該表面における電荷蓄積効果の前記荷電粒子のビームに対する影響を低減するほど充分に接近して配置されるような装置に関するものである。
【0019】
本発明によれば、一種のアパーチャを形成するような開口を有する遮蔽エレメントは、好ましくは、一定の電位に維持されると共に、照射される試料表面の極近傍に配置される。好ましい実施例においては、上記遮蔽エレメントと上記表面との間の距離は、250μm以下であり、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、最も好ましくは10μm以下である。しかしながら、上記遮蔽エレメントは当該試料の表面に直接的に接触することもできる。もっとも、これは、殆どの場合、試料表面の意図せぬ損傷を防止するために望ましいものではない。
【0020】
上記開口は、好ましくは、充分な視界(FOV)を、即ち、この領域において一次及び/又は二次ビーム経路が実質的に妨害されないままとなるのを可能にするような幾何学構造を有する。好ましい実施例においては、上記開口は直径dを有し、ここで、dは150μm以下であり、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、最も好ましくは10μm以下である。上記開口の直径は、好ましくは、該開口と上記試料表面との間の距離より大きいか又は該距離に等しい。好ましい実施例においては、前記遮蔽エレメントの厚さは100μm以下、好ましくは10〜50μm、より好ましくは10μm以下である。
【0021】
上記FOVの外側では、本発明の上記遮蔽エレメントは試料表面に蓄積する電荷によって生じる電界を遮蔽する。この目的のために、該遮蔽エレメントは、好ましくは、0.2mm以上の、好ましくは2mm以上の、より好ましくは5mm以上の、最も好ましくは10mm以上の外側寸法(outer dimension)を有する。遮蔽無しでは、これら電荷は一次ビームの経路に進入するような電界を形成し、従って該一次ビームの打撃位置をずらすと共に二次ビームの放出特性に影響を与える。本発明を使用すれば、表面電荷により生じる電界は該遮蔽エレメントの表面において実質的に終端する。該遮蔽エレメントにおける上記開口の幾何学構造及び該開口の試料までの距離は、実質的に零の電荷蓄積効果までの低下が達成されるように選択することができる。
【0022】
本発明の基本原理は、電荷蓄積により発生される電界の受動的遮蔽を設けることであり、一次又は二次ビームの軌道に能動的に影響を与えることではないので、該遮蔽エレメントは、その有効性を損なうことなく如何なる一定の電位にも維持することができ、接地される必要はない。もっとも、接地された遮蔽エレメントも明らかに含まれる。
【0023】
第1実施例においては、上記遮蔽エレメントの開口は略円形の形状を有している。他の実施例においては、前記ビームが表面上を走査され、上記遮蔽エレメントの開口は、該表面のうちの走査される部分に対応する形状(例えば、略長方形の又は六角形の又は三角形の形状)を有する。更に他の実施例では、上記開口はスリット状の形状を有し、該スリットは幅d(好ましい値は前述した通りである)を有する。この実施例は、半導体プロセス工業において使用される電子ビームラスタ走査書込ツールにおいて特に価値がある。
【0024】
本発明の特に好ましい実施例においては、上記遮蔽エレメントは導電性格子を有し、好ましくは、該格子はインチ当たり200より大きなピッチ、好ましくはインチ当たり700以上のピッチ、及び/又は30%≦T≦80%の透過率T、及び/又は1〜30μmの厚さを備える網体を有する。このような遮蔽エレメントは、試料表面(該(半)透明な格子を介して検査することができる)に対するオペレータの(光学的)向きを容易にする。
【0025】
他の実施例では、上記遮蔽エレメントは導電性膜体を有し、該膜体における開口は、好ましくは、電子ビームリソグラフィ、収束イオンビーム技術(FIB)、レーザビームマイクロマシニング又はMEMS等のマイクロマシニング方法により形成されている。
【0026】
好ましくは、上記遮蔽エレメントに、例えば距離センサ及び/又は1以上のガス供給部等の、他のデバイスが組み込まれる。後者は、試料表面が観察されねばならないのみならず、例えば電子ビーム誘導化学反応により改変されねばならない場合に、特に有益である。
【0027】
記載される装置の更なる有利な変形例は、他の従属請求項の主題を形成する。
【0028】
他の態様によれば、本発明は、上述した装置により表面を調査及び/又は改変する方法に関するものである。好ましくは、該方法は、好ましくはマスクからの及び/又はマスクへの材料の選択的除去及び/又は堆積による、マスクの修理のために使用される。他の実施例においては、本発明による装置は、マスク及び/又は半導体製品の調査のための正確な基準を提供するためにCD−SEMに使用される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明が無い場合の、表面電荷及び該表面電荷の荷電粒子の一次及び二次ビームに対する影響の概念図である。
【図2】図2は、基礎となる物理的原理を示すための本発明の一実施例の概念図である。
【図3】図3は、本発明の一実施例における表面電荷に対する遮蔽効果の概念図である。
【図4】図4は、本発明の一実施例における関連する寸法の概念図である。
【図5a】図5aは、遮蔽エレメントの一実施例を示す。
【図5b】図5bは、遮蔽エレメントの別の実施例を示す。
【図5c】図5cは、遮蔽エレメントの別の実施例を示す。
【図6a】図6aは、材料の電子ビーム誘導堆積のためのガス供給部を有する本発明の他の実施例を示す。
【図6b】図6bは、材料の電子ビーム誘導堆積のためのガス供給部を有する本発明の他の実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下の詳細な説明においては、現在のところ好ましい実施例を、図面を参照して説明する。
【0031】
以下においては、本発明の目下好ましい実施例を、走査電子顕微鏡を特に参照して説明する。しかしながら、本発明は、電気的に荷電された粒子が、試料を該試料の表面又は内部領域に関して研究、画像化又は改変するために使用されるような如何なる装置に対しても使用することができると理解されるべきである。以下に図6a及び6bを参照して更に説明する特に重要な利用分野は、半導体工業のためのマスクの修理であり、ここでは、走査される電子ビームがマスクの表面へ又は斯かる表面から材料を選択的に堆積又は除去するために使用される。
【0032】
図1は、特に低エネルギの電子による走査電子顕微鏡法において典型的に遭遇する問題を図示している。電荷分布4は、一次ビーム1の電荷堆積(負の帯電)により、及び二次ビーム2における荷電粒子放出(正の帯電)により試料20の表面に形成される。図1は、正の帯電の一例を示す。二次のような“高次”の電子が一次ビーム着地点から離れて試料表面20上に着地する事象、又は二次粒子が表面を打撃すると共に更なる粒子を釈放する事象も、試料表面20上の局部的及び時間的電荷分布4に寄与する。更に、FOVから外側領域に延びる導通する又は部分的に導通する凹凸(features)も、不均一な電荷分布4につながる。
【0033】
蓄積された電荷分布4は対称であるか又は非対称であり得、第1のものは主に一次ビーム1の収束特性及び画像の輝度に影響し、第2のものは一次ビームの形状(例えば、スティグメーション:stigmation)及び一次ビームの偏向(例えば、画像歪及び画像ずれ)に影響する。図1は、大幅に簡略化された態様で、電界3による一次ビーム1及び二次ビーム2の軌道に対する電荷分布4の影響を図示している。
【0034】
図2ないし4は、本発明の原理を概念的に図示している。一次ビームは、遮蔽電極10のアパーチャ開口30を介して通過している。アパーチャ30の寸法は、一次ビームの走査フィールドを制限することなく、可能な限り小さくする。更に、遮蔽電極10は、上記アパーチャ開口の外側において試料表面電荷4により生じ又は存在し得る如何なる電界3も、効果的に遮蔽するように当該試料表面20に対し接近して配置される。これが、図3に示されている。図1と良く比較するように、表面電荷4及び結果としての電束のライン3は、簡略化のために、一次ビーム1の衝突点の左側の領域に関してのみ示されている。
【0035】
二次粒子ビーム2の一部は、遮蔽電極10の開口30を通過し、検出器50に到達する。該検出器の信号は一次ビーム着地点の情報との組み合わせで、画像を発生するために使用される。電極開口30の中心の周りの或る領域内の表面電荷4のみが、一次ビーム着地点の誤った情報につながる、従って発生される画像の歪につながるような一次ビームのずれに寄与し得る。遮蔽電極10は試料表面20上の一次ビーム1の着地点に非常に接近して配置されているので、二次の又はそれより高次の粒子は、アパーチャ開口30の外側の領域に到達するのが防止される。しかしながら、この目的のために、遮蔽電極10が、該電極の開口30の外側領域を完全に覆っていることは必要ではない。好ましくは、遮蔽電極の外側寸法d’(図5a参照)は、0.2mmに等しいかそれ以上、好ましくは2mmより大きいものとする。試料表面までの最終光学エレメント(例えば、最終レンズ)の距離(例えば、作業距離)に依存して、上記外径d’は5mmより大きい又は10mmさえもの値を有することもできる。
【0036】
電極10が遮蔽効果を有さないFOV内の領域における残存電荷は、帯電効果に寄与し得る。しかしながら、この領域が充分に小さければ、残存電荷蓄積の均一さ及び大きさに依存して、一次ビーム着地位置又は二次ビームのエネルギ若しくは放出角度等の特性に対する影響は充分に小さい。結果として、当該走査電子顕微鏡の検出器50により記録される画像の品質に対しては無視可能な影響しか存在しない。
【0037】
本発明は、特許文献6に開示されたような前述した従来技術の方法の多くとは対照的に、動作原理の点で受動的な解決策を開示している。言い換えると、本発明は、好ましくも、特有の走査手順、試料表面20の導電性又は追加の補償粒子ビームとは無関係である。本発明は、遮蔽電極10に印加される変化する電圧も必要とせず、零以外の電極電圧も必要とせず、2以上の電極10も必要としない。もっとも、これらの構成の全ては特定の作業に対して異なるように選択することができるものである。好ましい実施例においては、遮蔽電極10は一定の電位に維持され、これは該電極を接地することにより簡単に達成することができる。
【0038】
本発明による装置は、導電性であるか絶縁であるかに拘わらず如何なる材料、如何なる凹凸サイズ、及びアパーチャ30の自由開口d(図4参照)より小さい限りにおいて如何なる視野の調査及び/又は改変のために使用することもできる。後者は、非対称表面電荷の最大許容可能影響長により決まり、典型的には100ミクロンより小さい。より小さい値が好ましいが、150ミクロンまでの値も、特定の状況においては許容可能である。CD−SEM等の高い精度の用途に対しては、50ミクロン未満の又は10ミクロン未満さえもの直径dを持つ一層小さな開口が好ましい。
【0039】
試料面20までの開口面の距離35も、典型的には、100ミクロンより小さい。しかしながら、250ミクロンまでの距離35も可能である。他の極限は試料表面20を遮蔽電極10に接触させることであり、これも可能であるが、殆どの場合においては試料の完全性にとり望ましくない。距離35の好ましい値は、50ミクロンより小さく、又は10ミクロンよりさえ小さい。更に、開口30の直径dは、好ましくは、該開口30を備える遮蔽電極10と試料の表面20との間の距離35より大きいか又はこれに等しいということが分かった。好ましくは、遮蔽エレメント10は100μm以下の、好ましくは10〜50μmの、より好ましくは10μm以下の厚さを有する。
【0040】
本発明により採用された帯電効果を低減する物理的原理は、好ましくは、(a)関心FOVの外側の領域において試料に着地する(一次ビームにより発生する)二次粒子の抑圧、及び(b)該関心FOVの外側の領域における蓄積電荷により発生する電界の遮蔽である。アパーチャ30の導入により、FOVの外側の表面電荷により発生する電界は、アパーチャ表面10において実質的に終端され、該アパーチャ面より上の一次及び二次ビームの軌道に影響を及ぼさない。一次ビーム1及び二次ビーム2は、(a)当該アパーチャ開口の内側に蓄積された電荷、及び(b)アパーチャ面より下の縁部電界(electric fringe field)により依然として影響を受ける可能性がある。前者の影響はアパーチャ開口30を減少させることにより最小化することができ、後者は試料表面と開口面との間の距離35を減少させることにより最小化することができる。従って、本発明は、アパーチャ開口30を充分に小さくし、遮蔽電極10を該電極の開口30と共に試料表面20に充分に接近して配置することにより、電荷蓄積効果を如何なる所要の限界までも抑圧することができる。これは、電子ビームの進入深度が絶縁体の厚さより短いような厚い絶縁体でさえも研究及び改変することを初めて可能にする。
【0041】
遮蔽電極10は形成するのが容易なアパーチャ30を有し、該アパーチャは或る実施例では円形開口(図5a参照)であり、試料表面上の約100ミクロン又はそれより短い距離35(図4参照)に配置される。この開口の直径dは、残存帯電効果が所望の画像品質及び精度にとり充分に小さくなる程度に充分に小さい(例えば、dは数百ミクロン又はそれ以下の程度である)。この実施例は、現状技術の走査電子顕微鏡法から期待されるべき画像品質にとり通常は充分である。
【0042】
図5b及び5cに概略図示する他の実施例においては、遮蔽電極10は細かな網目状導電性格子11を有している。好ましい網目は、例えばインチ当たり700ピッチであり、約50%の総透過率T及び10μmの厚さを有する。例えばインチ当たり200ピッチのみであり、Tの値が30%から80%までの範囲であるような格子のように、他の値も可能である。また、該格子の厚さも、1から30ミクロンまで変化し得る。
【0043】
格子11は、試料表面20より約50μm上に配置され、一定の電位(好ましくは、接地電位)に維持される。数百ボルトと数キロボルトとの間のエネルギを有する一次電子ビーム1は、上記格子の空の正方形15のうちの1つを通過し、当該試料表面から二次電子を釈放する。格子11の遮蔽効果は図5aの実施例と同等であるが、上記格子構造は開口30の下の区域のみでなく、一層大きな量の表面20を示すので、該格子構造により操作者のナビゲーションが容易化される。更に、格子11は試料表面20に対する処理ガス(図示略)の一層良好なアクセスを可能にする。後者は、荷電粒子ビーム誘導化学反応による試料表面20の改変にとり特に重要であり、格子11の透過率Tにより影響を受け得る。
【0044】
図6a及び6bは本発明の他の重要な適用例を図示し、この場合において、電子ビームは、例えば半導体装置の製造のためのフォトリソグラフィに使用される高価なマスクを修理するために表面に材料を選択的に堆積し又は表面から材料を選択的に除去するために使用される。上記堆積は、適切な有機金属化合物等の前駆物質91を当該表面に接近させ、該物質が電子ビーム1により選択的に分解されるようすることにより達成される。この技術の分解能は、ビーム1が試料の表面に蓄積する電荷によりずらされ又は焦点が外された場合に影響を受けるであろうことは明らかである。
【0045】
図6aの実施例において、追加のガス供給部90が開口30の上に設けられている。該ガス供給部90の上記開口30からの距離及び該開口30の寸法は、この開口30を介して充分な分子又は原子91が表面20に到達し得るように選択されねばならない。
【0046】
図6bは他の実施例を示し、該実施例においては、遮蔽電極10が薄膜12内に非常に小さな、好ましくは長方形の開口30を有する。上記膜の表面は導電性で、該膜12は、透過型電子顕微鏡において通常使用されるので、好ましくは支持構造60(例えば、シリコンウェファ)に固定される。この箔、即ち膜12は、(例えば、電子ビームリソグラフィ、収束イオンビーム(FIB)又はレーザビームマイクロマシニングによって)穿孔されており、従って寸法が好ましくは10ミクロン又はそれ以下の開口30を表している。該アパーチャ開口の形状は、一次ビーム走査フィールドを最大の遮蔽効率で最適化するように調整することができる。図6bに示される型式の構造は、非常に平坦であり、例えば20ミクロン未満の距離で、当該試料表面に極接近させることができる。このタイプの実施例は、試料表面に接触することなしに、高精密一次ビーム位置決め精度を提供する。
【0047】
図6bの実施例は、前述したSEM電子ビーム誘導化学反応による表面改変にとり特に適している。この場合、遮蔽電極10と表面20との間の短い距離が、非常に小さな開口30との組み合わせで、約1のアスペクト比(試料/電極間距離対開口寸法)を可能にする。1以上の処理ガスインレット90を、例えば標準のMEMS技術により支持構造体60に組み込むことができる。遮蔽電極より下のガスインレットは、遮蔽電極10より上の測定チェンバ内の真空の全体的圧力を悪化させることなく、試料表面20におけるガス圧力が一層高くなるという更なる利点を有している。図6bの実施例は、電子ビーム誘導化学表面改変を数ナノメートルの範囲内の精度で可能にする。
【0048】
更なる実施例(図示略)では、上記遮蔽電極中の開口は長いスリットであり、この場合において、該開口の一方の寸法は他方の寸法より大幅に大きく、小さい方の寸法は適切な機能を保証するために充分に小さく(例えば、100ミクロンより小さく)、より大きい方の寸法は当該ビームの完全な走査長を可能にするために充分に大きい。上記小さい方の寸法は、他の実施例の寸法dに関して先に示したような値を有する。この代替例は、半導体プロセス工業において使用される電子ビームラスタ走査書込ツールにおいて特に価値がある。
【0049】
他の実施例においては、前記電極は上述したタイプの何れかのものの複数の開口を有する。これは、多ビーム露光システムにとり特に価値がある。というのは、斯かる多ビーム露光システムは、並列ビームシステムにおける作業速度(例えば、ウェファ検査時間、又はマスク書込時間)を増加させるために益々開発されているからである。
【0050】
前述したSEM用途においては、電子は、1より大きな二次電子係数のために好ましくは充分なエネルギを有する。これは、試料表面上の正の帯電につながり、この場合、該帯電は電極10により効果的に遮蔽することができる。この目的のために、電子のエネルギEは好ましくは5keVより低いものとする。しかしながら、一次ビームが、二次電子放出係数が1より小さく、試料表面上の負の電荷蓄積につながるようなエネルギの電子のビームである場合、(1より大きな二次電子係数のために充分なエネルギを持つ)低エネルギ電子又は光子の追加のビームを上記一次電子ビームと同じスポット上に収束させることができる。この追加のビームは、上記一次ビームにより生じる高い負の帯電を過度に補償し、結果として表面における低い正の帯電となる。本発明の範囲を低エネルギビームに限定することなしに、本発明は、上述した発明に加えて、より高いエネルギの電子ビームの場合の電荷蓄積の悪影響を更に最小化するために適用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特には走査電子顕微鏡のような、荷電粒子により試料を調査及び/又は改変する装置であって、
a.荷電粒子のビーム(1,2)と、
b.前記荷電粒子のビーム(1,2)が通過する開口(30)を有する遮蔽エレメント(10)と、
を有し、
c.前記荷電粒子のビーム(1,2)に対する前記試料の表面(20)における電荷蓄積効果の影響を低減するために、前記開口(30)が直径dを有し、ここでd≦150μmであり、前記遮蔽エレメントと前記試料の表面(20)との間の距離が250μm以下であることを特徴とする装置。
【請求項2】
特には走査電子顕微鏡のような、荷電粒子により試料を調査及び/又は改変する装置であって、
a.荷電粒子のビーム(1,2)と、
b.前記荷電粒子のビーム(1,2)が通過する開口(30)を有する遮蔽エレメント(10)と、
を有し、
c.前記開口(30)は充分に小さく、前記遮蔽エレメントは前記荷電粒子のビーム(1,2)に対する前記試料の表面(20)における電荷蓄積効果の影響を低減するために該試料の表面(20)に充分に接近して配置されるような装置において、
d.前記遮蔽エレメント(10)はスリット状の形状または導電性膜(12)を有することを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置において、前記遮蔽エレメント(10)が一定の電位に維持されることを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の装置において、前記開口(30)が直径dを有し、ここでd≦100μmであることを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載の装置において、前記遮蔽エレメント(10)と前記試料の表面(20)との間の距離が、100μm以下であることを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一項に記載の装置において、前記遮蔽エレメント(10)が外側寸法d’を有し、ここで、d’≧0.2mmであることを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の装置において、前記遮蔽エレメント(10)の厚さが、100μm以下であることを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項1および3から7までの何れか一項に記載の装置において、前記ビーム(1)が前記試料の表面(20)上を走査され、前記開口(30)が該表面(20)のうちの走査される部分に対応する形状を有することを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項1および3から7までの何れか一項に記載の装置において、前記開口(30)が六角形の又は三角形の形状を有することを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項1ないし9の何れか一項に記載の装置において、前記荷電粒子が5keVより低いエネルギを有する電子であることを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項1ないし10の何れか一項に記載の装置において、前記荷電粒子が、1より大きな二次電子係数のためにエネルギを持つ電子であることを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項1ないし11の何れか一項に記載の装置において、試料を調査及び/又は改変するための複数のビーム(1,2)について、一つ以上の遮蔽エレメント(10)において、複数の開口(30)を有することを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項1ないし12の何れか一項に記載の装置において、前記遮蔽エレメント(10)が、複数の開口から離れた連続する導電領域を有することを特徴とする装置。
【請求項14】
請求項1ないし13の何れか一項に記載の装置において、前記遮蔽エレメント(10)が距離センサを更に有することを特徴とする装置。
【請求項15】
請求項1ないし14の何れか一項に記載の装置において、前記遮蔽エレメント(10)より上及び/又は下に配置された1以上のガス供給部(90)を更に有することを特徴とする装置。
【請求項16】
請求項1ないし15の何れか一項に記載の装置において、前記遮蔽エレメント(10)が1以上のガス供給部(90)を更に有することを特徴とする装置。
【請求項17】
請求項1ないし16の何れか一項に記載の装置を用いて試料を調査及び/又は改変する方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記装置が、半導体工業において使用されるようなマスクの修理のために、特には前記マスクからの材料の選択的除去及び/又は前記マスクへの材料の選択的堆積のために使用されることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法により処理された、特にはフォトリソグラフィのための、マスク。
【請求項20】
請求項17に記載の方法において、前記装置がCD−SEM測定のために使用されることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図6a】
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【図6b】
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【公開番号】特開2011−253816(P2011−253816A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154093(P2011−154093)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【分割の表示】特願2007−507770(P2007−507770)の分割
【原出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(503178303)ナヴォテック・ゲーエムベーハー (4)
【Fターム(参考)】