説明

荷電粒子ビーム照射システム

【課題】照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向に垂直な方向おける線量分布を精度良く計測することができ、その結果、照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向に垂直な方向の各位置における照射線量の制御精度を高めることができ、所望の線量分布を担保することができる荷電粒子ビーム照射システムを提供する。
【解決手段】二次元線量モニタ212と照射制御装置300を設け、線量カウンタ装置304aにより、二次元線量モニタ212のモニタ平面の領域毎に計測した線量をモニタ平面の領域毎に独立して積算してモニタ平面の領域毎に積算線量を計測する。また、比較部306により、モニタ平面の領域毎に計測した積算線量がモニタ平面の領域毎に予め設定した目標線量に到達するとビーム照射を停止する制御信号を出力し、目標線量に到達した領域へのビーム照射を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子ビーム照射システムに係り、特に、陽子および炭素イオン等の荷電粒子ビーム(イオンビーム)を照射対象である患部に照射して治療する粒子線治療装置に適用するのに好適な荷電粒子ビーム照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者の患部に陽子および炭素イオン等の荷電粒子ビーム(イオンビーム)を照射する治療方法が知られている。この治療に用いる荷電粒子ビーム照射システムは、イオン源、前段加速器、円形加速器等で構成されるイオンビーム発生装置、ビーム輸送系、および照射野形成装置を備えた例えば回転式の照射装置により構成されている。円形加速器は、周回軌道に沿って周回するイオンビームを目標のエネルギーまで加速させた後に出射させ、ビーム輸送系を経て照射野形成装置に輸送させる。照射野形成装置は、患者の患部形状に合わせてイオンビームの線量分布を整形し患部に照射する。
【0003】
円形加速器としては、例えば特許文献1に記載のように、イオンビームを周回軌道に沿って周回させる手段、共鳴の安定限界内でイオンビームのベータトロン振動振幅を増大させる手段、およびイオンビームを周回軌道から取り出す出射用デフレクタを備えたシンクロトロンが知られている。イオンビームのベータトロン振動振幅を増大することにより、イオンビームは安定限界外に移動され、シンクロトロンからビーム輸送系へ出射される。
【0004】
通常加速器から出射されるビームは進行方向と垂直な方向(以下、横方向という)にガウス分布をしており、ビームサイズはおよそ1〜5mm程度である。通常、患部は横方向にそれ以上の大きさを持っているため、患部全体の横方向に渡ってイオンビームを効果的に照射するには、横方向で患部大の広く一様度の高い線量分布を形成する必要がある。
【0005】
このような観点から、従来のイオンビーム照射システムとして、例えば非特許文献1に記載のように、横方向にガウス分布形状のビームを走査電磁石により円形もしくはジグザグ状に走査して一様な線量領域を形成する方法が知られている。そのうち、ウォブラー法はビームサイズとビームの走査半径とを最適な値とすることで、中心部に一様度の高い線量分布を形成する。また、特許文献2には、ビームをリサージュ形状に走査して一様な線量分布を形成する方法が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特許第2596292号公報
【特許文献2】特開2006−208200号公報
【非特許文献1】REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS 64巻 8号 (1993年8月;P2084−2089)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術では、加速器から出射されるビームの出射量が必ずしも一定ではなく、ビームを走査する間にビーム出射量が時間的に変化する可能性があるため、極端なビーム強度変化が起こった場合には予定照射線量内で一様な照射が不可能になる状況が生じ得る。このような状況を避けるためには、ビーム強度の時間変化よりもビームの走査速度を十分に速くすると共に、照射領域内を多数回走査することで、ビーム出射量の変化を時間的に平均化する必要がある。しかしながら、その場合でも、走査したビームの線量分布をリアルタイムに精度良く計測可能な手段がなかったため、線量分布の計測結果に基づいた照射線量の制御を行うことができず、照射終了時に所望の線量分布が得られるかどうかが確率事象となり、その結果、所望の線量分布を担保することが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向に垂直な方向おける線量分布を精度良く計測することができ、その結果、照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向に垂直な方向の各位置における照射線量の制御精度を高めることができ、所望の線量分布を担保することができる荷電粒子ビーム照射システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、荷電粒子ビーム(イオンビーム)を加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを走査する走査電磁石を有し、この走査電磁石を通過した前記荷電粒子ビームを照射対象に照射するビーム照射装置とを備える荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記ビーム照射装置に設けられ、前記走査電磁石により走査された荷電粒子ビームの走査範囲を複数の領域に分割したモニタ平面を有し、このモニタ平面の領域毎に独立して照射線量を測定可能な二次元線量モニタと、前記二次元線量モニタの前記モニタ平面の領域毎に計測した線量を入力し、この計測線量を前記モニタ平面の領域毎に独立して積算して前記モニタ平面の領域毎に積算線量を計測し、前記モニタ平面の領域毎に計測した積算線量が前記モニタ平面の領域毎に予め設定した目標線量に到達するとビーム照射を停止する制御信号を出力し、前記目標線量に到達した領域へのビーム照射を停止させる照射制御装置とを備えることにある。
【0010】
このように二次元線量モニタと照射制御装置を設け、照射制御装置において、二次元線量モニタのモニタ平面の領域毎に計測した線量をモニタ平面の領域毎に独立して積算してモニタ平面の領域毎に積算線量を計測することにより、照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向に垂直な方向おける線量分布を精度良く計測することができる。また、その計測した積算線量を用い、モニタ平面の領域毎に計測した積算線量がモニタ平面の領域毎に予め設定した目標線量に到達するとビーム照射を停止する制御信号を出力し、目標線量に到達した領域へのビーム照射を停止させることにより、照射線量の計測結果を反映した照射制御が可能となり、照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向に垂直な方向の各位置における照射線量の制御精度を高めることができ、所望の線量分布を担保することができる。
【0011】
また、本発明の特徴は、前記照射制御装置は、前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量を前記モニタ平面の領域毎にカウントする線量カウンタ装置と、前記線量カウンタ装置によりカウントした線量を前記積算線量として前記モニタ平面の領域毎に保存する第1記憶部および前記モニタ平面の領域毎に前記目標線量を保存する第2記憶部を含む記憶装置と、前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値を入力し、前記モニタ平面の複数の領域のうち前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値に対応する領域を計測領域として同定する照射領域判定装置とを有し、前記線量カウンタ装置は、前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の計測線量のみを選択してカウントすることにある。
【0012】
これにより万一、二次元線量モニタのモニタ平面におけるビーム照射領域以外の領域でノイズ等による誤計測が発生したとしても、そのような誤計測による影響が排除され、精度の良い照射線量の計測が可能となる
また、本発明の特徴は、前記照射領域判定装置は、前記モニタ平面の複数の領域のうち、前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値に対応するビーム照射領域の中心が位置する領域を中心計測領域として同定するとともに、前記中心計測領域の周辺に位置し前記ビーム照射領域の一部を構成する複数の領域を同時計測領域として同定し、前記線量カウンタ装置は、前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記中心計測領域および同時計測領域の計測線量を選択してカウントすることにある。
【0013】
これにより照射形成装置に散乱体を設け、この散乱体により荷電粒子ビームの横方向分布を拡大し、ビーム径がモニタ平面の分割領域の幅よりも大きくなった場合でも、照射線量を精度良く計測することができる。
【0014】
また、本発明の特徴は、前記照射制御装置は、前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域(中心計測領域)の積算線量を選択して前記第2記憶部に保存した目標線量と比較し、前記積算線量が前記目標線量に到達したとき前記ビーム照射を停止する制御信号を出力する第1照射管理装置とを有することにある。
【0015】
このように積算線量が目標線量に到達していない領域にのみ選択的に荷電粒子ビームを照射することにより、ビーム進行方向に直角な方向における線量分布を制御することができる。また、荷電粒子ビームを照射中の領域であっても、目標線量に達すると直ちにその領域に対するビーム照射を停止することにより、リアルタイムにビーム照射線量を制御することが可能となり、照射線量の制御精度を高めることができる。
【0016】
また、本発明の特徴は、前記照射制御装置は、前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量が前記第2記憶部に保存した前記目標線量に到達しているか否かを読み取り、積算線量が目標線量に到達している場合は前記ビーム照射を停止する制御信号を出力する第2照射管理装置と、前記第1照射管理装置および第2照射管理装置の少なくとも一方が前記ビーム照射を停止する制御信号を出力するとき、前記荷電粒子ビーム発生装置に対してビーム出射OFF信号を出力する出力装置とを有することである。
【0017】
これにより励磁電流指令値の更新時に対応する領域の積算線量が目標線量に到達していた際、第1照射管理装置の誤作動により、万一、ビーム照射を指令する信号を出力したとしても、第2照射管理装置がビーム照射を停止する制御信号を出力し、出力装置がビーム出射OFF信号を出力するため、荷電粒子ビームの誤照射が確実に防止され、高い安全性が確保される。
【0018】
また、本発明の特徴は、前記第2照射管理装置は、前記モニタ平面の全ての領域で前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量が前記第2記憶部に保存した目標線量に到達したとき、エネルギー更新指令を出力するとともに、前記出力装置に前記ビーム照射を停止する制御信号を出力することにある。
【0019】
これによりすべての領域で積算線量が目標線量に到達した際、万一、第1照射管理装置の誤作動により、ビーム照射を指令する信号を出力したとしても、第2照射管理装置がビーム照射を停止する制御信号を出力し、出力装置がビーム出射OFF信号を出力するため、荷電粒子ビームの誤照射が確実に防止され、高い安全性が確保される。
【0020】
また、本発明の特徴は、前記第2照射管理装置は、前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量と前記第2記憶部に保存した目標線量との比較結果に応じて、前記出力装置に前記ビーム照射を指令する制御信号と前記ビーム照射を停止する制御信号のいずれかを出力するとともに、前記ビーム照射を指令する制御信号を出力したときは、前記照射領域判定装置によって同定される前記中心計測領域が次の領域に移動する時点より所定時間前に前記ビーム照射を停止する制御信号を出力することにある。
【0021】
これにより中心計測領域が目標線量に到達していない一方で、周辺の同時計測領域が目標線量に到達している場合であっても、周辺の同時計測領域へのビーム照射量抑えつつ、目標線量に到達していない中心計測領域へのビーム照射を行うことができ、照射精度を向上することができる。
【0022】
また、本発明の特徴は、前記記憶装置は、前記モニタ平面の領域毎に前記積算線量が前記目標線量に到達したことを記録する第3記憶部を更に含み、前記第1照射管理部は、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量が前記第2記憶部に保存した目標線量に到達したとき、前記ビーム照射を停止する制御信号を出力すると同時に、前記積算線量が前記目標線量に到達したことを前記第3記憶装置に記録し、前記第2照射管理装置は、前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量が前記第2記憶部に保存した前記目標線量に到達しているか否かを前記第3記憶装置から読み取ることにある。
【0023】
これにより第2照射管理装置は、第3記憶装置の記録を参照するだけで、照射領域判定装置によって同定した計測領域の積算線量が目標線量に到達しているか否かを瞬時に読み取ることができ、制御精度の信頼性が向上する。
【0024】
また、本発明は、前記荷電粒子ビーム発生装置は、荷電粒子ビームが所望のエネルギーまで加速された後、ビーム出射開始指令により荷電粒子ビームを出射し、1回の加速動作により生成した荷電粒子ビームを出射可能な時間が経過すると、ビーム出射停止指令により荷電粒子ビームの出射を停止させるシンクロトロンであり、前記照射制御装置は、前記ビーム出射開始指令およびビーム出射停止指令を入力し、このビーム出射開始指令およびビーム出射停止指令に同期して前記走査電磁石の励磁電流指令値の更新指令、走査制御開始指令および走査制御終了指令を出力する第1ビーム走査管理装置とを有することにある。
【0025】
これによりビーム出射停止指令による荷電粒子ビーム発生装置からのビーム出射停止後、荷電粒子ビームが所望のエネルギーまで加速され、ビーム出射開始指令によりビーム出射および患部へのビーム照射を再開するとき、走査電磁石を空励磁することなく、ビーム出射停止時にビーム照射を停止した位置からビーム照射を再開することができ、領域管理が容易となる。
【0026】
また、本発明の特徴は、前記照射制御装置は、前記走査電磁石の励磁電流指令値が更新される都度、前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の次にビーム照射を行う領域の積算線量が前記第2記憶部に保存した前記目標線量に到達しているか否かを読み取り、積算線量が目標線量に到達している場合は、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域から最短の目標線量に到達していない領域を探査し、この領域に対応する励磁電流指令値の更新指令を出力しかつ前記ビーム照射を停止する制御信号を出力する第2ビーム走査管理装置と、前記照射管理装置および第2ビーム走査管理装置の少なくとも一方が前記ビーム照射を停止する制御信号を出力するとき、前記荷電粒子ビーム発生装置に対してビーム出射OFF信号を出力する出力装置とを更に有することにある。
【0027】
これにより次にビーム照射を行う領域の積算線量が目標線量に到達している場合は、計測領域は目標線量に到達していない最短の領域に直ちに移動するため、計測領域が目標線量に到達していない領域に移動するまでの待機時間がなくなり、照射時間(治療時間)短縮することができる。また、目標線量に到達していない領域に移動する間のビーム誤照射を防止することができる。
【0028】
また、本発明の特徴は、前記照射制御装置は、前記線量カウンタ装置として、前記モニタ平面の分割領域数よりも少ない数のカウンタを有する線量カウンタ装置を有するとともに、前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量のうち前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域に対応する計測線量を選択して前記線量カウンタ装置のカウンタに送信する第1マルチプレクサと、前記線量カウンタ装置のカウンタによりカウントした線量を、前記第1記憶部のメモリ領域のうち前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域に対応するメモリ領域に送信し保存する第2マルチプレクサとを有することにある。
【0029】
これにより線量カウンタ装置のカウンタの数を低減することが可能となり、製作コストを低減することができる。
【0030】
また、本発明の特徴は、前記ビーム照射装置は、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームのビーム径を前記モニタ平面の前記複数の領域の分割幅よりも拡大するビーム径拡大装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームに複数のエネルギー領域を形成し、深さ方向に形成される複数のブラッグピークを重ね合わせることで、深さ方向に一様な線量分布を形成するエネルギー分布拡大装置とを更に有し、前記照射制御装置の前記第2照射管理装置は、前記モニタ平面の全ての領域で前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量が前記第2記憶部に保存した目標線量に到達したとき、エネルギー更新指令を出力することにある。
【0031】
これにより照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向に垂直な方向だけでなく、荷電粒子ビーム進行方向(照射対象内の深さ方向)においても線量分布を精度良く計測し、照射線量の制御精度を高めることができる。
【0032】
また、本発明の特徴は、前記モニタ平面の領域毎の計測線量を表示する表示装置を更に備えることにある。
【0033】
これにより運転者はビーム照射の進捗状況を確認することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向に垂直な方向おける線量分布を精度良く計測することができる。その結果、照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向に垂直な方向の各位置における照射線量の制御精度を高めることができ、所望の線量分布を担保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用い詳細に説明する。
<実施の形態1>
図1は本発明の第1の実施の形態の荷電粒子ビーム照射システム(粒子線治療装置)の全体構成を示す図である。
【0036】
本実施形態の荷電粒子ビーム照射システムは、治療ベッド217に固定された患者216の患部218(図2参照)に対してイオンビーム(荷電粒子ビーム、例えば陽子線や炭素線)を照射するものであり、イオンビーム発生装置1、高エネルギービーム輸送系11、照射野形成装置200(ビーム照射装置)、中央制御装置100および照射制御装置300を備える。中央制御装置100は、治療計画装置(図示せず)から提示される治療に必要な情報(照射ビームエネルギー、照射角度(ガントリー回転角度)、走査電磁石パターン、散乱体種類、リッジフィルタ種類、レンジシフタ挿入量等)をメモリに保存しており、その治療情報に基づき、機器の種類、設置位置、設定値等のノズル機器パラメータの選択や、ビームエネルギー、ビーム強度パターン等の加速器運転パラメータの選択を行い、荷電粒子ビーム照射システムを構成する機器を制御する。ノズル機器パラメータは、中央制御装置100から照射制御装置300に伝送され、照射野形成装置200に設定される。加速器運転パラメータはイオンビーム発生装置1を構成する機器に設定される。
【0037】
イオンビーム発生装置1は、所望のビームエネルギーのイオンビーム2を発生させるための装置であり、前段加速器3、低エネルギービーム輸送系4、シンクロトロン5を備える。イオンビーム2は、前段加速器3でシンクロトロン5への入射エネルギーまで加速され、低エネルギービーム輸送系4を経てシンクロトロン5に供給される。
【0038】
シンクロトロン5は、図1に示すように、その周回軌道上に位置する複数の電磁石(図示せず)や加速装置(図示せず)、出射用高周波電極6、出射用高周波発振器10等の出射装置13で構成される。シンクロトロン5の周回軌道を周回するイオンビーム2は、加速装置に設けられた加速空胴に高周波電圧を印加することによって、所望のエネルギー(例えば70〜250MeV)まで加速される。イオンビーム2が所望のエネルギーまで加速された後、出射用高周波発振器10から出力される出射用高周波電圧を出射用高周波電極6に印加することで、シンクロトロン5から高エネルギービーム輸送系11に出射される。この際、出射用高周波電極6に印加する高周波電圧は、患者216へ安全に照射可能である条件が確立した状態でのみ印加できるように、中央制御装置100からのインターロック信号によりビーム照射を停止するインターロック用スイッチ8と、照射制御装置300からの照射制御信号により照射制御中のビーム照射停止条件に対応してビーム照射を停止する出射ゲート用スイッチ9の二つのスイッチを高周波電圧の伝送線路上に設置してある。なお、本実施の形態ではインターロック用スイッチ8を制御するインターロック信号は中央制御装置100から出力されているが、粒子線治療装置を構成する機器の運転条件を専門に監視する安全系インターロック制御装置(図示せず)を別途用意し、安全系インターロック制御装置でインターロック用スイッチ8を制御しても構わない。
【0039】
高エネルギービーム輸送系11はシンクロトロン5と照射野形成装置200を連絡し、シンクロトロン5から出射されたイオンビーム2は、高エネルギービーム輸送系11により照射野形成装置200に供給される。この際、患者216の患部218を任意の角度から照射可能とする回転ガントリー12を経てビームを供給することが多い。イオンビーム発生装置1から供給されるイオンビーム2は、このようにして照射野形成装置200まで供給される。
【0040】
照射野形成装置200の詳細について、図2を用いて説明する。照射野形成装置200は、イオンビーム発生装置1により生成されたイオンビームを、患者216の患部217aの形状に合わせて整形する装置である。照射野形成装置200は、ビーム走査電磁石202,202、散乱体206、リッジフィルタ208、レンジシフタ210、線量モニタ212、ボーラス214およびコリメータ215を備える。
【0041】
走査電磁石202,202はビームの照射位置を時間的に走査することで、患部218の横方向において一様な線量分布を形成する。走査電磁石202,202には、走査電磁石電源219,219および走査電磁石電源制御装置220が設けられている。走査電磁石202,202は例えば各々直交する横方向に走査する一組の電磁石であり、ビーム進行方向に垂直な平面内において直交する2方向にビームが走査できるよう構成される。走査電磁石電源219,219は、一対の走査電磁石202,202に電流を供給して磁場を発生させ、ビームを偏向させる。供給する励磁電流により、ビームの偏向量が決定されるため、励磁電流を調整することで、横方向の任意の地点にビームを照射することができる。走査電磁石202,202には走査電磁石電源219,219により走査電磁石電源制御装置220から設定された電流が供給される。なお、本実施の形態では、走査電磁石電源制御装置220を照射制御装置300と独立に設けているが、走査電磁石電源制御装置220の機能を照射制御装置300内に設けても構わない。
【0042】
散乱体206は、物質によるイオンの散乱現象によりイオンビームの横方向分布を拡大するためのもの(ビーム径拡大装置)である。散乱体206によりビームはほぼガウス分布に拡げられる。散乱体206は、一般に散乱量に対するエネルギー損失が少ないタングステン等の原子番号の大きい物質によって構成される。この散乱体206は、複数の物質の混合物でもよく、厚みの異なる複数の板部材を重ねて構成し、イオンビーム進行方向の合計厚みを変化させることも可能である。本実施の形態では、散乱体206は、走査電磁石202,202の下流側に配置されているが、それよりも上流側に配置することも可能である。
【0043】
リッジフィルタ208は、ビームに複数のエネルギー領域を形成し、深さ方向に形成される複数のブラッグピークを重ね合わせることで、広く一様な線量分布を形成するためのもの(エネルギー分布拡大装置)である。リッジフィルタ208は、複数の楔形構造物208aと楔型構造物の支持部208bを有する。隣り合う楔形構造物208aの間にはそれぞれ開口が形成されている。楔形構造物208aは階段状に配置された複数の平面領域を有しており、ビーム軸方向におけるリッジフィルタ208の底面から各平面領域までの各厚みが異なっている。楔形構造物208aは、両側に位置する開口から、軸方向において最も高い位置にある平面領域に向かって軸方向の厚みが段階的に増加するように形成されている。すなわち、リッジフィルタ208は、ビーム通過位置に応じてイオンビームが通過する部分の厚みが変化する。これにより、リッジフィルタ208通過後のビームエネルギーが変化し、それぞれのビームエネルギーに対応した、異なる深さにブラッグピークを形成することで、患部216a内の所望の深さの広い領域に一様な照射野を形成できる。リッジフィルタ208は、楔形構造物208aの厚みが異なる方向の幅を小さくし、通過位置によるビームエネルギーの違いを緩和することで、横方向位置におけるエネルギー分布の違いを低減している。リッジフィルタ208は、各平面領域までの厚みの違いに起因したイオンビームの散乱量の違いを補償するため、散乱補償体を取り付けてもよい。本実施の形態では、リッジフィルタ208は、階段状に配置された複数の変面領域を有した複数の楔形構造物208aを備える構成となっているが、厚みが異なる構成であればよい。また、リッジフィルタ208に、楔形構造物208aの厚みの差によるビーム散乱量を補償するために楔形構造物208aの厚みが異なる方向に厚みの異なる散乱補償体を取り付けてもよい。
【0044】
レンジシフタ210は、イオンビームの最大飛程を患部216aの最大深さと一致させるものである。レンジシフタ210は、一般にエネルギー損失に対してビーム散乱量の小さい樹脂等の原子番号の小さな物質によって構成される。イオンビームがレンジシフタ210を通過するとエネルギーを失うので、イオンビームの最大飛程を減らすことができる。これにより、イオンビームの最大飛程を患部216aと一致させることができる。レンジシフタ210は、厚みの異なる複数の板部材を重ねて構成し、板部材の組み合わせによりイオンビーム進行方向の合計厚みを変化させことも可能である。また、レンジシフタ210を用いず、シンクロトロン5によるイオンビームの加速エネルギーを減らす、あるいは、高エネルギービーム輸送系16でイオンビームのエネルギーを損失させても良い。
【0045】
上記の過程を経て、横方向に走査され、深さ方向に拡大されたイオンビームは線量モニタ212に入射し、通過したビーム量が計測される。線量モニタ212をビーム下流側に配置すると、より患部216aに照射する直前のイオンビーム通過量を計測できる。線量モニタ212をビーム上流側、例えば、リッジフィルタ208、レンジシフタ210など、イオンビームのエネルギーを変化させる機器の上流に配置すると、エネルギーの違いによる線量モニタ212からの出力信号の補正計算等の手間を省ける。
【0046】
ボーラス214は、例えば樹脂製のブロック体を掘削加工したものであり、横方向のビーム入射位置に応じてビームの樹脂通過厚が変化する。これにより、イオンビームのボーラス214通過後のエネルギーを入射位置ごとに変化させることが可能で、イオンビームの到達深さを患部216aの深さ方向形状と合致させる。コリメータ215は、放射線遮蔽体によって構成され、患部216aに対応する貫通孔を形成している。コリメータ215は、横方向に拡大されたビームのうち、その貫通孔を通過したイオンビームのみを患部216aに照射する。ボーラス214とコリメータ215は、通常、患部216aの形状に合わせて加工され、患部216a毎に交換される。コリメータ215としてマルチリーフコリメータを用い、リーフを移動して患部216aの横方向形状に合わせることで、加工、交換の手間を省いてもよい。
【0047】
本発明を実現する走査電磁石電源制御装置220および線量モニタ212と照射制御装置300を含む照射制御システムについて、図3を用いて説明する。
【0048】
まず、本実施の形態では、走査電磁石202,202によるビーム走査は、照射制御とは独立に実施する。そのため、中央制御装置100から走査電磁石電源制御装置220に一対の走査電磁石202,202の励磁電流指令値である励磁データ(Ix_data, Iy_data)(後述)、励磁データ更新周期および走査制御指令を伝送する。走査制御指令は走査制御開始指令と走査制御終了指令を含む。走査制御開始指令が中央制御装置100から伝送されると、走査電磁石電源制御装置220は、中央制御装置100から伝送された励磁データ更新周期にて、各走査電磁石電源219に対して励磁データ(Ix_data, Iy_data)を更新し出力する(自走走査制御)。走査電磁石電源219は、励磁データに基づいた励磁電流(Ix, Iy)を走査電磁石202に対して出力する。走査制御開始指令が中央制御装置100から伝送されると同時或いはその直後に中央制御装置100からシンクロトロン5の出射装置13に出射開始指令が出力されており、走査電磁石電源219から励磁電流(Ix, Iy)が走査電磁石202に対して出力されると、この励磁電流により走査電磁石202の磁極間に発生する磁場で、シンクロトロン5から出射され照射野形成装置200に供給されるイオンビームは走査される。走査されたビームは、線量モニタ212を透過しながら患部に照射される。線量モニタ212は、分割された領域毎に照射線量を測定して出力する二次元線量モニタ(多チャンネル方式線量モニタ)であり(後述)、その測定結果は分割された領域毎に計測線量信号224として照射制御装置300に伝送される。走査制御終了指令が中央制御装置100から伝送されると、走査電磁石電源制御装置220は、各走査電磁石電源219に対する励磁データ(Ix_data, Iy_data)の更新、出力を停止する。また、走査制御終了指令が中央制御装置100から伝送されると同時或いはその直前に中央制御装置100からシンクロトロン5の出射装置13に出射停止指令が出力されており、少なくとも走査電磁石電源制御装置220が走査制御終了指令により励磁データ(Ix_data, Iy_data)の更新、出力を停止する時点で、ビームの照射も停止する。
【0049】
ここで、前述したように、走査電磁石202,202においては、供給する励磁電流によりビームの偏向量が決定されるため、励磁電流を調整することで、横方向の任意の地点にビームを照射することができる。したがって、各走査電磁石電源219に対する励磁データ(Ix_data, Iy_data)を更新することは、ビームの照射位置を更新することにより線量モニタ212の計測領域を更新することを意味する。また、走査電磁石電源制御装置220は、励磁データ更新周期に走査電磁石電源219,219の励磁データを更新し、照射対象である患部の1つの層に対して全ての領域の積算線量が目標線量に到達するまで、励磁データの更新を繰り返し、1つの層を複数回走査させる。
【0050】
照射制御装置300は、制御プロセッサ301、照射領域判定部302(照射領域判定装置)、照射管理部303(第2照射管理装置)、線量カウンタ装置304(線量カウンタ装置)、照射制御用メモリ装置305(記憶装置)、比較器306(第1照射管理装置)、カウンタ制御部307(線量カウンタ装置)、比較器制御部308(第1照射管理装置)、AND回路309(出力装置)から構成される。
【0051】
照射制御装置300の制御プロセッサ301は、中央制御装置100と照射制御装置300間の伝送データを統括的に制御する。制御プロセッサ301のメモリ301には、照射治療に用いる全照射ビームエネルギーに応じた二次元線量モニタ212の領域毎の目標線量値(図5(c))や、照射領域判定部302で利用する励磁データ(励磁電流指令値)から照射領域を換算するテーブルデータ(図5(a)および(b))を保存しておく。また制御プロセッサ301は、照射線量の管理に用いるメモリ装置305や照射領域判定部302とデータ通信が可能な手段で接続することで、中央制御装置100から伝送される治療に必要なデータの伝送や保存・更新を容易に可能とする。
【0052】
照射線量の管理に用いるメモリ装置305は、積算線量メモリ305a、目標線量メモリ305b、照射管理メモリ305cから構成され、それぞれ二次元線量モニタ212のモニタ平面の領域数に合わせて複数のメモリ領域を確保する(後述)。また、これらのメモリ305a,305b,305cの複数のメモリ領域へのアクセスは、並列して同一領域へのアクセスが可能なアドレス構造とすることで、各領域の線量管理を容易に実現する。
【0053】
照射領域判定部302は、制御プロセッサ301から伝送された励磁データから照射領域を換算するテーブルデータ(図5(a)および(b))を保存しており、照射領域判定部302は、走査電磁石電源制御装置220が走査電磁石電源219,219に設定する励磁データ(Ix_data, Iy_data)を更新する都度(つまり、計測領域を更新する都度)、その励磁データを走査電磁石電源219,219と並列して取り込み、照射ビームの重心位置を中心とした照射領域を中心計測領域222a(後述)として同定するとともに、イオンビームの直径(ビーム径)が二次元モニタ212のモニタ平面の領域の分割幅より大きい場合は、モニタ平面上のビーム照射位置(ビーム照射領域)が含まれる、中心計測領域222aの周辺の複数の領域を同時計測領域223(後述)として同定する。この際、照射ビームのエネルギーによって、走査電磁石202の励磁量に対する偏向量(走査量)が異なるため、患部216aの深さ方向を複数の層に分割してイオンビームを照射する場合は、照射ビームのエネルギーが更新される度に、照射領域を換算するデータを更新する。このデータの更新は、照射管理部303から制御プロセッサ301に与えられるエネルギー更新指令(後述)により行われる。
【0054】
線量カウンタ装置304は、二次元線量モニタ212の領域毎に用意された、二次元線量モニタ212の領域と同じ数のカウンタ304aを有し、照射治療中は二次元線量モニタ212から伝送された計測線量信号224を入力し、領域毎の計測線量を常にカウントし続ける。ここで、線量カウンタ装置304はカウンタ制御部307に接続されており、カウンタ制御部307は照射領域判定部302からビーム照射位置に対応する中心計測領域222aおよび同時計測領域223(イオンビームの直径(ビーム径)が二次元モニタ212のモニタ平面の領域の分割幅より小さい場合は中心計測領域222aのみ)の情報を入力し、二次元線量モニタ212から入力したモニタ平面の領域毎の計測線量のうち、中心計測領域222aおよび同時計測領域223に対応する計測線量のみを選択してカウントするよう線量カウンタ212を制御する。線量カウンタ装置304にてカウントされた線量値(積算線量)は、逐次、積算線量メモリ305aに伝送され、保存、更新される。このようにカウンタ制御部307を設け、照射領域判定部302で同定した同時計測領域223に対応する計測線量のみを選択してカウントして積算することにより、万一、二次元線量モニタ212のモニタ平面において中心計測領域222a或いは同時計測領域223以外の領域でノイズ等による誤計測が発生したとしても、そのような誤計測による影響は排除され、精度の良い照射線量の計測が可能となる。また、積算線量メモリ305aを用意することで、制御プロセッサ301からの逐次アクセスが可能となり、中央制御装置100や表示装置320へのデータ伝送やデータ保存などの処理が容易に可能となる。
【0055】
比較器306は、積算線量メモリ305aに保存された測定値と目標線量メモリ305bに保存された目標線量とを領域毎に逐次比較する。比較器306は比較器制御部308を介して照射領域判定部302に接続されており、比較器制御部308は照射領域判定部302からビーム重心位置に対応する中心計測領域或222aの情報を入力し、積算線量メモリ305aに保存した領域毎の測定値(積算線量)のうち、中心計測領域222aに対応する領域の積算線量のみを選択して目標線量メモリ305bに保存した目標線量と比較するよう比較器306を制御する。比較の結果、測定線量の積算値が目標線量に到達していない場合は、AND回路309にビーム照射を指令する制御信号であるビームON信号(例えばレベルHighの信号)を出力し、測定線量の積算値が目標線量に到達している場合は、比較器306はAND回路309にビーム照射を停止する制御信号であるビームOFF信号(例えばレベルLowの信号)を出力し、同時に照射管理メモリ305cの当該領域について目標線量に到達した旨を示すデータを書き込む。また、比較の結果、測定線量の積算値が目標線量に到達しておらず、ビームON信号を出力した場合であっても、イオンビームの照射中に中心計測領域222aに対応する領域の積算線量が目標線量に達した場合は、比較器306は直ちにAND回路309にビームOFF信号を出力する。AND回路309は比較器306からビームON信号を入力すると、シンクロトロン5の出射装置13にビーム照射制御指令としてビーム出射ONのゲート信号を出力し、これにより照射野形成装置200はビーム照射を行う。AND回路309は比較器306からビームOFF信号を入力すると、シンクロトロン5の出射装置13にビーム出射OFFのゲート信号を出力し、これにより照射野形成装置200はビーム照射を停止する。このように走査電磁石電源219,219に設定する励磁データ(Ix_data, Iy_data)を更新する都度(計測領域を更新する都度)、積算線量が目標線量に到達している領域に対するイオンビームの照射を停止し、積算線量が目標線量に到達していない領域にのみ選択的にイオンビームを照射することにより、ビーム進行方向に直角な方向における線量分布を制御することができる。また、イオンビームを照射中の領域であっても、目標線量に達すると直ちにその領域に対するイオンビームの照射を停止することにより、リアルタイムでのビーム照射線量の制御が可能となり、照射線量の制御精度を高めることができる。このような目標線量と測定線量の積算値の比較とビーム照射制御を、ビームを走査しながらすべての領域で目標線量に到達するまで逐次実施する。また、照射対象である患部の1つの層に対して全ての領域の積算線量が目標線量に到達するまで、複数回走査する。
【0056】
照射管理部303は、走査電磁石電源219,219に設定する励磁データ(Ix_data, Iy_data)が更新され(計測領域が更新され)、照射領域判定部302がその励磁データを取り込む都度、ビーム重心位置に対応する中心計測領域222aにおける目標線量到達度(中心計測領域222aの積算線量が目標線量に到達しているか否か)を照射管理メモリ305cから読み取り、目標線量に到達した領域に対するビーム照射を停止する制御信号の出力を実施する。また、照射管理部303は、すべての領域で積算線量が目標線量に到達した際のエネルギー更新信号の出力およびビーム照射を停止する制御信号の出力と、すべてのエネルギーにおいて目標線量に到達した際の照射完了信号の出力およびビーム照射を停止する制御信号の出力を実施する。
【0057】
まず、照射管理部303は、励磁データの更新の都度、照射領域判定部302からビーム重心位置に対応する中心計測領域或222aの情報を入力し、中心計測領域222aの積算線量が目標線量に到達しているか否かを照射管理メモリ305cの対応する領域から読み取り、積算線量が目標線量に到達していない場合は、ビーム照射を指令する制御信号であるビームON信号(例えばレベルHighの信号)をAND回路309に出力し、積算線量が目標線量に到達している場合は、ビーム照射を停止する制御信号であるビームOFF信号をAND回路309に出力する。
【0058】
AND回路309は、照射管理部303からの出力と比較器306からの出力とでAND論理を構成し、両方の出力がビームON信号(例えばレベルHighの信号)であるときは、シンクロトロン5の出射装置13にビーム出射ONのゲート信号(ビーム照射制御信号)を出力し、それ以外のとき(照射管理部303からの出力と比較器306からの出力の少なくとも一方がビームOFF信号(例えばレベルLowの信号)であるとき)は、シンクロトロン5の出射装置13にビーム出射OFFのゲート信号を出力する。シンクロトロン5の出射装置13は、AND回路309からビーム出射ONのゲート信号が出力されると、スイッチ9のを閉じ、照射野形成装置200にイオンビームを供給し、AND回路309からビーム出射OFFのゲート信号が出力されると、スイッチ9を開いてイオンビームの出射を停止し、ビーム照射を停止する。
【0059】
また、ビーム走査による患部への照射治療では、患部216aの体内深さに合わせて照射ビームのエネルギーを変化させて照射する。本実施の形態の場合、リッジフィルタ208により患部の体内深さに合わせてエネルギー幅を広げているが、リッジフィルタ208を用いる場合であっても、深さ方向の照射精度を高めるために、患部216aの体内深さ方向を複数の層に分け、イオンビーム発生装置1から供給するビームエネルギーを変更する。また、リッジフィルタ208を用いない場合は、患部216aの体内深さ方向を複数の層に分け、イオンビーム発生装置1から供給するビームエネルギーを変更する必要がある。そのため、患部のある層においてすべての領域で目標線量に到達した場合は、照射管理部303はエネルギー更新信号を制御プロセッサ301経由で中央制御装置100に伝送するとともに、そのエネルギー更新信号を走査電磁石電源制御装置220に出力する。中央制御装置100は、エネルギー更新信号を受け取ると、イオンビーム発生装置1から供給するビームエネルギーの制御パラメータを変更し、次の照射層に合わせたエネルギーのビームを照射装置200に供給する。走査電磁石電源制御装置220は、エネルギー更新信号の入力により、一度走査励磁を停止し、次の照射層に合わせたエネルギーの励磁データを更新した後、走査励磁を開始する。この際、走査電磁石電源制御装置220の励磁データ更新処理は、エネルギー更新信号を受け取った中央制御装置100から指令しても構わない。
【0060】
また、照射管理部303は、すべての領域で積算線量が目標線量に到達した場合も、ビームOFF信号(例えばレベルLowの信号)をAND回路309に出力する。
【0061】
さらに、照射管理部303は、患部216aのすべての層に対して目標線量に到達したことを確認したら、照射完了信号を中央制御装置100に対して出力する。中央制御装置100は、照射完了信号により患部への照射治療を終了する。この際、他の角度からビーム照射が計画されている場合、回転ガントリー14を所望の角度に回転させることで、照射角度を変更し、上記の一連の処理に合わせた制御を開始する。また、照射管理部303は、患部216aのすべての層に対して目標線量に到達したことを確認した場合も、ビームOFF信号(例えばレベルLowの信号)をAND回路309に出力する。
【0062】
このように励磁データの更新時に対応する領域の積算線量が目標線量に到達していた際のビームOFF信号の出力と、すべての領域で積算線量が目標線量に到達した際のビームOFF信号の出力と、すべてのエネルギーにおいて目標線量に到達した際のビームOFF信号の出力を実施することにより、万一、励磁データの更新時に対応する領域の積算線量が目標線量に到達した際、すべての領域で積算線量が目標線量に到達した際、すべてのエネルギーにおいて目標線量に到達した際のそれぞれにおいて、その後何かの誤作動等により比較器306の出力がビームON信号に切り換わったとしても、AND回路309はビーム出射OFFのゲート信号を出力し続けるため、イオンビームの誤照射が確実に防止され、高い安全性を確保できる。
【0063】
本実施の形態で使用する二次元線量モニタ212について詳細に説明する。二次元線量モニタ212は、図4に示すようなビーム進行方向に垂直なモニタ平面をXY方向に間隔aの等間隔でm×nの領域222に分割し、各領域222で独立に線量の測定が可能な線量モニタである。本明細書中では、これらの領域222を「計測領域」と呼んでいる。この計測領域222の位置は、例えば、図示左上コーナ部のOz点を座標軸の原点とした座標系(Ax, Ay)で表すことができる。このような二次元線量モニタ212を採用することにより、二次元内の任意の計測領域222(Ax, Ay)に対応した線量を正確に測定することが可能となる。
【0064】
先に示したように、各走査電磁石202の励磁電流(Ix, Iy)に対する照射ビームの重心位置は、照射領域判定部302で同定できる。本実施の形態では、この照射ビームの重心位置に対して、計測領域222(Ax, Ay)を定義付け、二次元線量モニタ212の各計測線量信号224での線量測定結果を管理する。具体的には、図5(a)および(b)に示したような、X方向、Y方向毎に走査電磁石の設定走査励磁電流に対応した走査位置の範囲に基づき、走査範囲に対応した二次元線量モニタ212の中心計測領域222aおよび同時計測領域223を対応付ける。この際、走査電磁石の励磁電流によりビーム重心が偏向される量は、照射ビームのエネルギーにより異なるため、図5(a)および(b)に示したテーブルデータは、照射ビームのエネルギー毎に用意しておく必要がある。このようなエネルギー毎に用意したテーブルデータは、領域判定部302に保存されており、これらの情報は中央制御装置100から照射制御装置300の制御プロセッサ301のメモリに照射治療開始前に予め取り込まれる。
【0065】
また、各領域の目標線量の設定方法は、走査電磁石202の励磁電流に対する計測領域222の関連付けと同様に実施する。具体的には、図5(c)に示したように、計測領域222の中心領域(Ax_i, Ay_j)に対して、各目標線量Dとその許容値ΔD(D±ΔD)を設定する。各目標線量Dとその許容値ΔDは、目標線量メモリ305bに保存される。
【0066】
本実施の形態では、照射領域判定部302がメモリ装置305の各メモリ305a,305b,305cにメモリバスで接続されており、これにより走査電磁石202,202に対する励磁データの更新に応じて、照射制御装置300の照射領域判定部302に保存されている図5(a)および(b)に示した計測領域222のメモリアドレスの更新と同時に、照射制御で用いるメモリ装置305の各メモリ305a,305b,305cに保存されているデータのアクセスを可能とする。つまり、走査電磁石202の励磁電流に対応した中心計測領域222aおよび同時計測領域223の同定と、積算線量メモリ305a、目標線量メモリ305b、照射管理メモリ305cといった照射制御に用いるメモリへのアクセスが管理可能である。
【0067】
ここで、走査電磁石202の励磁電流(Ix, Iy)に対する計測領域222(Ax, Ay)の対応について説明する。図4に示したように、ビームは計測領域222の中心を通るように走査する。本実施の形態では、X方向に走査している。また、線量モニタ212上の計測領域222は、X方向、Y方向ともにaの幅で区切られている。これに対し、本発明では、照射野形成装置200に散乱体206を設け、イオンビームの横方向分布を拡大することにより、ビーム径φBは、計測領域222の幅aよりも大きく(φB>a)している。これは、各計測領域222に対して離散的にビームを走査して照射する場合(シンクロトロン5からのイオンビームの出射を停止し、この状態で走査電磁石の励磁電流を更新して照射位置を変更し、この変更後にイオンビームの出射を開始し、その照射位置にビームを照射する場合)、ビーム径φBが計測領域222の幅aよりも小さくても構わないが、連続的にビームを走査して照射する場合、ビーム径φBが計測領域222の幅aよりも小さいと、Y方向平面で均一に照射できない恐れがあるためである。一方、ビーム径φBが計測領域222の幅aよりも大きいため、照射しているビームの中心に対応した計測領域222からはみ出た領域にもビームは照射される。そのため、線量を計測する際には、ビーム中心に対応した計測領域222とその周辺の計測領域222を同時に計測する必要がある。そこで、本実施の形態では、ビーム中心に対応した計測領域222(中心計測領域223a)とその周辺の計測領域222(同時計測領域223)のそれぞれで同時に線量を計測する。
【0068】
X方向に走査する際の計測領域222の選択について説明する。図5(a)に示したように、X方向の励磁電流範囲を各計測領域222の走査範囲(各計測領域222の開始位置と終了位置)に対応して分割する。この分割対応により、励磁電流からビーム中心の計測領域222aが対応づけられる。次に、ビーム中心の計測領域222aに対応した周辺の計測領域を設定する。本実施の形態では、図4に示すように、周辺の計測領域数がビーム径φBのビーム中心の計測領域222a(Ax_i, Ay_j)を取り囲む8つの領域である場合、ビーム中心の計測領域222a(Ax_i)の前後(Ax_(i-1)およびAx_(i+1))を同時計測領域223として設定する。つまり、ビーム中心がある計測領域222に到達したら、ビーム径φBが掛かる前後の照射範囲の計測領域222を同時に計測する。同様に、Y方向もX方向と同様にビーム中心の計測領域222aに対応した周辺の計測領域222に同時計測領域223を設定する。つまり、一つの計測領域222(中心計測領域222a)を指定する場合、X方向の計測領域222とY方向の計測領域222を指定することで、図5(c)に示した、各計測領域222の目標照射ビーム量(D)とその許容値(ΔD)を読み取る。ビームをX方向に走査する場合、Y方向へのビーム位置の変化はない。そのため、Y方向の同時計測領域223としては、ビーム径φBが掛かる上下の照射範囲の計測領域222を同時に計測すればよい。
【0069】
ビームを離散的に走査して照射する場合は、上記に示した同時計測領域223の制御方法で構わないが、ビームを連続的に走査して照射する場合、同時計測領域の制御が複雑になる。ここで、図6を用いてビームを連続的に走査する場合の同時計測領域の制御方法について説明する。図6は、図4のビーム中心の計測領域222a周辺の拡大図である。ビーム中心がある領域(Ax_i, Ay_j)の点Pから点Qに連続的に走査された場合を考える。照射ビームの中心が点Pから点Qに、X方向にΔxだけ走査されたとする。このΔxの走査により、点Pの位置では領域222a(Ax_i, Ay_j)を中心に周辺の8つの領域(同時計測領域幅:3a×3a)を同時計測領域223aとして設定されていたが、点Qに移動することで、ビーム径φBが掛かる計測領域222が3つ増加する(図中のAx_i+2の領域223b)。この場合、精度良く照射ビーム量を管理する上では、同時計測領域を増やす(領域223aに領域223bを追加する)必要がある。この同時計測領域223bを追加する条件は、ビーム径φBと同時計測領域幅na(図6の場合、n=3で示される)より示すことができる。同時計測領域223bを追加する変化量をΔxとすると、式1で示される。
【0070】
【数1】

【0071】

つまり、計測領域222の中心位置(ここで、各計測領域222での中心位置は、(2na−a)/2で示される)からビーム中心がΔxだけ移動した場合、同時計測領域223aに対してさらに隣の同時計測領域223bを追加することで、所望の線量計測が可能となる。さらにビームが点Pから点Rの位置にΔx’だけ走査されると、同時計測領域223は、(Ax_i+1, Ay_j)を中心とした8つの同時計測領域に遷移する。この際の同時計測領域の遷移条件Δx’は、式2で示される。
【0072】
【数2】

【0073】

走査電磁石202,202の励磁電流の更新に合わせて、ビーム中心位置が計測領域222の中心位置に対してΔxおよびΔx’の条件が成立した場合、同時計測領域223を変更する制御を実施することにより、治療照射中における各計測領域222に照射されるビームの照射量を適切に計測可能となる。
【0074】
以上に示した制御を実施した際、中心計測領域222aが目標線量に到達していない一方で、周辺の同時計測領域223で目標線量に到達している場合、目標線量に到達していない中心計測領域222aへのビーム照射が困難になることが想定される。このような現象が生じる要因として、各計測領域222を中心にビームを照射した際に、周辺領域への僅かな照射量が蓄積されることで計測領域222によっては目標線量に対する照射量のずれの発生が起こり得る。また、照射制御装置300におけるAND回路309のビーム出射OFF(停止)指令(ゲート信号)の出力からシンクロトロン5において実際にビームの出射が停止されるまでの時間は有限値であるため、ビーム出射OFF指令の出力から実際にビームが停止するまでに僅かながら隣接する計測領域222にビームを照射してしまうおそれがある。このような僅かな照射が繰り繰り返された場合、各計測領域222の計測値に積算されて許容値を超えてしまうおそれがある。これらの対策として、本実施の形態では、中心計測領域222aの周辺に位置する同時計測領域223のある領域内で目標線量に到達した場合にビームの照射時間を短くする。
【0075】
図7に領域i−1から領域i+1までビームを走査して照射した場合の隣接する照射領域におけるビーム照射制御のタイミングチャートを示す。図7(a)は照射ビームの照射時間を短くしない場合のビーム照射制御のタイミングチャートであり、図7(b)は本実施の形態により照射ビームの照射時間を短くした場合のビーム照射制御のタイミングチャートである。図7(a)に示したように、照射領域iの両端の領域(領域i±1)で照射線量が目標線量満了となっている場合、ビーム出射ゲート信号は、領域iの照射領域でONとし、領域i±1の照射領域でOFFする。ビームONからOFFへの制御遷移時間(ビーム出射OFF(停止)指令の出力から実際にビームの出射が停止されるまでの時間)をTOFFとすると、TOFFの時間だけ次の隣接領域i+1にビームは照射されてしまう。一方、図7(b)に示したように、ビームONからOFFへの制御遷移時間TOFFを考慮して、ビームが領域iから領域i+1に移動する前にその制御遷移時間TOFF分だけ早くビーム出射ゲート信号をOFFすることで、隣接領域i+1へのビーム照射抑えることができる。
【0076】
本実施の形態において、そのようなビーム出射ゲート信号のON,OFF制御は照射制御装置300の照射管理部303によって行われる。すなわち、照射管理部303は、前述したように、励磁データの更新時に、照射領域判定部302が励磁データを取り込む都度、照射領域判定部302からのビーム重心位置に対応する中心計測領域222aにおける目標線量到達度を照射管理メモリ305cから読み取り、目標線量に到達した領域に対するビーム照射を停止する制御信号(ビームON信号)の出力を実施する。照射管理部303は、目標線量に到達した領域に対するビームON信号の出力後、励磁データの更新周期である領域毎の走査時間Tscanから制御遷移時間TOFFを差し引いた時間が経過すると、ビームOFF信号を出力する。AND回路309は照射管理部303からの出力と比較器306からの出力とでAND論理を構成するため、比較器306からの出力ビームON信号であったとしても、照射管理部303からの出力がビームOFF信号に切り換わると、シンクロトロン5の出射装置13にビーム出射OFFのゲート信号を出力する。これによりビームが領域iから領域i+1に移動する前に時間TOFF分だけ早く(次のビーム出射ONのゲート信号を出力する時点より時間TOFF前に)ビーム出射OFFのゲート信号が出力され、中心計測領域222aが目標線量に到達していない一方で、周辺の同時計測領域223が目標線量に到達している場合であっても、周辺の同時計測領域223へのビーム照射量抑えつつ、目標線量に到達していない中心計測領域222aへのビーム照射を行うことができ、照射精度を向上することができる。
【0077】
表示装置320(図3参照)は、制御プロセッサ301を介して中央制御装置100に接続され、走査電磁石電源制御装置220により設定される図5(a)および(b)に示す走査電磁石電源202の励磁データを表示する。また、表示装置320は、制御プロセッサ301を介してメモリ装置305に接続され、線量モニタ212で計測され積算線量メモリ305aに保存した領域毎の積算線量値、目標線量メモリ305bに保存した図5(c)に示す領域毎の目標値、照射管理メモリ305cに保存した領域毎の目標線量到達度(積算線量が目標線量に到達しているか否か)をビーム照射中に逐次表示することで、ビーム照射の進捗状況を運転者に知らせる。また、全領域の合計線量カウンタ値や照射パラメータ、使用している機器を表示してもよく、照射パラメータ、使用している機器を表示すると、運転者はビーム照射条件を容易に把握できる。また、領域毎のイオンビーム照射量と合計イオンビーム照射量との比率を表示しても良い。これにより、照射が偏り無く進行していることを運転者に知らせることができる。
【0078】
以上のように構成した本実施の形態によれば次の効果が得られる。
【0079】
(1)本実施の形態においては、二次元線量モニタ212と照射制御装置300を設け、照射制御装置300において、二次元線量モニタ212のモニタ平面の領域毎に計測した線量をモニタ平面の領域毎に独立して積算してモニタ平面の領域毎に積算線量を計測するため、照射対象である患部216a内の荷電粒子ビーム(イオンビーム)進行方向に垂直な方向おける線量分布を精度良く計測することができる。また、その計測した積算線量を用い、モニタ平面の領域毎に計測した積算線量がモニタ平面の領域毎に予め設定した目標線量に到達するとビーム照射を停止する制御信号を出力し、目標線量に到達した領域へのビーム照射を停止させるため、照射線量の計測結果を反映した照射制御が可能となり、照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向に垂直な方向の各位置における照射線量の制御精度を高めることができ、所望の線量分布を担保することができる。
【0080】
(2)照射制御装置300は、二次元線量モニタ212から入力したモニタ平面の領域毎の計測線量をモニタ平面の領域毎にカウントする線量カウンタ装置304と、線量カウンタ装置304によりカウントした線量を積算線量としてモニタ平面の領域毎に保存する積算線量メモリ305a(第1記憶部)およびモニタ平面の領域毎に目標線量を保存する目標線量メモリ305b(第2記憶部)を含むメモリ305(記憶装置)と、走査電磁石202,202のそのときの励磁データ(励磁電流指令値)を入力し、モニタ平面の複数の領域のうち走査電磁石202,202のそのときの励磁データに対応する領域を計測領域222a,223として同定する照射領域判定部302(照射領域判定装置)とを有し、線量カウンタ装置304は、二次元線量モニタ212から入力したモニタ平面の領域毎の計測線量のうち、照射領域判定部302によって同定した計測領域222a,223の計測線量のみを選択してカウントする。
【0081】
これにより万一、二次元線量モニタ212のモニタ平面におけるビーム照射領域以外の領域でノイズ等による誤計測が発生したとしても、そのような誤計測による影響が排除され、精度の良い照射線量の計測が可能となる
(3)照射領域判定部302は、モニタ平面の複数の領域のうち、走査電磁石202,202のそのときの励磁データ(励磁電流指令値)に対応するビーム照射領域の中心が位置する領域を中心計測領域222aとして同定するとともに、中心計測領域の周辺に位置しビーム照射領域の一部を構成する複数の領域を同時計測領域223として同定し、線量カウンタ装置304は、二次元線量モニタ212から入力したモニタ平面の領域毎の計測線量のうち、照射領域判定部302によって同定した中心計測領域222aおよび同時計測領域223の計測線量を選択してカウントする。
【0082】
これにより照射形成装置200に散乱体206を設け、この散乱体206により荷電粒子ビームの横方向分布を拡大し、ビーム径がモニタ平面の分割領域の幅よりも大きくなった場合でも、照射線量を精度良く計測することができる。
【0083】
(4)照射制御装置300は、積算線量メモリ305a(第1記憶部)に保存した領域毎の積算線量のうち、照射領域判定部302によって同定した中心計測領域222aの積算線量を選択して目標線量メモリ305b(第2記憶部)に保存した目標線量と比較し、積算線量が目標線量に到達したときビーム照射を停止する制御信号を出力する比較器306および比較器制御部308(第1照射管理装置)とを有する。
【0084】
このように積算線量が目標線量に到達していない領域にのみ選択的に荷電粒子ビームを照射することにより、ビーム進行方向に直角な方向における線量分布を制御することができる。また、荷電粒子ビームを照射中の領域であっても、目標線量に達すると直ちにその領域に対するビーム照射を停止することにより、リアルタイムにビーム照射線量を制御することが可能となり、照射線量の制御精度を高めることができる。
【0085】
(5)照射制御装置300は、積算線量メモリ305aに保存した領域毎の積算線量のうち、照射領域判定部302によって同定した中心計測領域222aの積算線量が目標線量メモリ305bに保存した目標線量に到達しているか否かを照射管理メモリ305c(第3記憶部)から読み取り、積算線量が目標線量に到達している場合はビーム照射を停止する制御信号を出力する照射管理部303(第2照射管理装置)と、上記第1照射管理装置(比較器306および比較器制御部308)および第2照射管理装置(照射管理部303)の少なくとも一方がビーム照射を停止する制御信号を出力するとき、シンクロトロン5(荷電粒子ビーム発生装置)に対してビーム出射OFF信号を出力するAND回路309(出力装置)とを有する。
【0086】
これにより励磁データ(励磁電流指令値)の更新時に対応する領域の積算線量が目標線量に到達していた際、比較器306および比較器制御部308の誤作動により、万一、ビーム照射を指令する信号を出力したとしても、照射管理部303がビーム照射を停止する制御信号を出力し、AND回路309がビーム出射OFF信号を出力するため、荷電粒子ビームの誤照射が確実に防止され、高い安全性が確保される。
【0087】
(6)照射管理部303は、モニタ平面の全ての領域で積算線量メモリ305aに保存した領域毎の積算線量が目標線量メモリ305bに保存した目標線量に到達したとき、エネルギー更新指令を出力するとともに、AND回路309にビーム照射を停止する制御信号を出力する。
【0088】
これによりすべての領域で積算線量が目標線量に到達した際、万一、比較器306および比較器制御部308の誤作動により、ビーム照射を指令する信号を出力したとしても、照射管理部303がビーム照射を停止する制御信号を出力し、AND回路309がビーム出射OFF信号を出力するため、荷電粒子ビームの誤照射が確実に防止され、高い安全性が確保される。
【0089】
(7)照射管理部303は、積算線量メモリ305aに保存した領域毎の積算線量のうち、照射領域判定部302によって同定した中心計測領域222aの積算線量と目標線量メモリ305bに保存した目標線量との比較結果に応じて、AND回路309にビーム照射を指令する制御信号とビーム照射を停止する制御信号のいずれかを出力するとともに、ビーム照射を指令する制御信号を出力したときは、照射領域判定部302によって同定される中心計測領域222aが次の領域に移動する時点より所定時間TOFF前にビーム照射を停止する制御信号を出力する。
【0090】
これにより中心計測領域が目標線量に到達していない一方で、周辺の同時計測領域が目標線量に到達している場合であっても、周辺の同時計測領域へのビーム照射量抑えつつ、目標線量に到達していない中心計測領域へのビーム照射を行うことができ、照射精度を向上することができる。
【0091】
(8)メモリ305(記憶装置)は、モニタ平面の領域毎に積算線量が目標線量に到達したことを記録する照射管理メモリ305c(第3記憶部)を更に含み、照射管理部303は、照射領域判定部302によって同定した中心計測領域222aの積算線量が目標線量メモリ305bに保存した目標線量に到達したとき、ビーム照射を停止する制御信号を出力すると同時に、積算線量が目標線量に到達したことを照射管理メモリ305cに記録し、比較器306および比較器制御部308は、積算線量メモリ305aに保存した領域毎の積算線量のうち、照射領域判定部302によって同定した中心計測領域222aの積算線量が目標線量メモリ305bに保存した目標線量に到達しているか否かを照射管理メモリ305cから読み取る。
【0092】
これにより比較器306および比較器制御部308は、照射管理メモリ305cの記録を参照するだけで、照射領域判定部302によって同定した中心計測領域222aの積算線量が目標線量に到達しているか否かを瞬時に読み取ることができ、制御精度の信頼性が向上する。
【0093】
(9)照射野形成装置200(ビーム照射装置)は、シンクロトロン5から出射された荷電粒子ビームのビーム径をモニタ平面の複数の領域の分割幅よりも拡大する散乱体206(ビーム径拡大装置)と、シンクロトロン5から出射された荷電粒子ビームに複数のエネルギー領域を形成し、深さ方向に形成される複数のブラッグピークを重ね合わせることで、深さ方向に一様な線量分布を形成するリッジフィルタ208(エネルギー分布拡大装置)とを更に有し、照射制御装置300の比較器306および比較器制御部308は、モニタ平面の全ての領域で積算線量メモリ305aに保存した領域毎の積算線量が目標線量メモリ305bに保存した目標線量に到達したとき、エネルギー更新指令を出力する。
【0094】
これにより照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向に垂直な方向だけでなく、荷電粒子ビーム進行方向(照射対象内の深さ方向)においても線量分布を精度良く計測し、照射線量の制御精度を高めることができる。
【0095】
(10)本実施の形態は、モニタ平面の領域毎の計測線量を表示する表示装置320を更に備える。
【0096】
これにより運転者はビーム照射の進捗状況を確認することができる。
<実施の形態2>
本発明の第2の実施の形態を図8を用いて説明する。図8は、本実施の形態の荷電粒子ビーム照射システム(粒子線治療装置)における照射制御装置の構成を示す図である。
【0097】
本実施の形態では、中央制御装置100は走査電磁石電源制御装置220に走査電磁石202,202の励磁データ(Ix_data, Iy_data)のみを送る構成とし、その代わりに、照射制御装置300A内にビーム走査管理部311(第1および第2ビーム走査管理装置)を設け、ビーム走査管理部311から走査電磁石電源制御装置220にデータ更新指令および走査制御指令(走査制御開始指令および走査制御終了指令)を伝送する。また、ビーム走査管理部311はAND回路309Aに接続され、ビーム走査管理部311からAND回路にビーム照射制御信号(ビームON信号又はビームOFF信号)を出力することで、ビーム走査管理部311によってもシンクロトロン5からのビーム出射のON、OFFを制御可能とする。それ以外の構成は図3に示した第1の実施の形態における照射制御装置300と同一である。
【0098】
第1の実施の形態では、走査電磁石電源制御装置220は中央制御装置から電送された励磁データ更新周期に基づいて自走走査制御していたのに対し、本実施の形態では、ビーム走査管理部311が中央制御装置100から伝送されるビーム照射状態信号に基づいて励磁データ更新指令および走査制御指令(走査制御開始指令および走査制御終了指令)を生成して走査電磁石電源制御装置220に伝送する。ここで、ビーム照射状態信号とは、例えば、シンクロトロン5内でイオンビームが所望のエネルギーまで加速された後に中央制御装置100からシンクロトロン5の出射装置13に出力される出射開始指令、或いは出射開始指令出力後、シンクロトロン5内のビームエネルギーと出射量により予め定められた照射時間(1回の加速動作により生成したイオンビームを出射および照射可能な時間)経過後に中央制御装置100からシンクロトロン5の出射装置13に出力される出射停止指令を含む信号である。走査電磁石電源制御装置220は、そのデータ更新指令および走査制御指令に基づいてビーム照射時のみ走査電磁石電源219,210に対して励磁データ(Ix_data, Iy_data)の出力更新を行い、走査電磁石電源219,210の励磁データを更新する。これにより、走査電磁石202,202により走査するビームの位置を照射制御装置300Aにより制御することが可能となり、ビーム照射時のビーム重心位置、つまり計測領域222の管理が容易となる。すなわち、シンクロトロン5の出射装置13に出力されるビーム出射開始指令およびビーム出射停止指令に同期して励磁データ更新指令、走査制御開始指令および走査制御終了指令を出力することにより、走査電磁石電源制御装置220は、ビーム照射中のみ走査電磁石電源219,219の励磁データを更新し、走査開始位置(線量モニタ212の走査開始領域)と照射開始位置(線量モニタ212の照射開始領域)および走査終了位置(線量モニタ212の走査終了領域)と照射終了位置(線量モニタ212の照射終了領域)をそれぞれ一致させることができる。これによりビーム出射停止指令によるシンクロトロン5からのビーム出射停止後、イオンビーム2が所望のエネルギーまで加速され、ビーム出射開始指令によりシンクロトロン5からのビーム出射および患部へのビーム照射を再開するとき、走査電磁石電源制御装置220は走査電磁石電源219,219を空制御(走査電磁石202,202を空励磁)することなく、ビーム出射停止時にビーム照射を停止した位置からイオンビームの照射を再開することができ、計測領域222の管理が容易となる。
【0099】
また、照射治療の開始から照射制御が進み、目標線量に到達していない領域のみを照射する場合、第1の実施の形態の場合は、走査電磁石電源制御装置220が自走走査制御であるため、ビームが所望の走査位置に到達するまでビーム照射を停止して待機するため、照射時間が長くならざるを得ない。本実施の形態では、ビーム走査管理部311の設置によりそのような問題も解決する。
【0100】
すなわち、ビーム走査管理部311は照射領域判定部302とメモリ装置305に接続されており、照射領域判定部302とメモリ装置305の照射管理メモリ305cの両方にアクセス可能である。ビーム走査管理部311は、走査電磁石電源219,219に設定する励磁データ(Ix_data, Iy_data)が更新され(計測領域が更新され)、照射領域判定部302がその励磁データを取り込む都度、照射領域判定部302で同定したビーム重心位置に対応する中心計測領域222aの次にビーム照射を行う計測領域222における目標線量到達度(積算線量が目標線量に到達しているか否か)を照射管理メモリ305cから読み取り、次の計測領域222が目標線量に到達しているとき、照射領域判定部302で同定した現在のビーム重心位置つまり中心計測領域222aから最短の目標線量に到達していない領域を探査する。そして、ビーム走査管理部311は、次のビーム照射領域をその領域とするためのデータ更新信号を走査電磁石電源制御装置220に送信し、走査電磁石電源制御装置220はそのデータ更新信号に基づいて励磁データ(Ix_data, Iy_data)を更新し、走査電磁石電源219は、その励磁データに基づいた励磁電流(Ix, Iy)を走査電磁石202に対して出力する。これにより計測領域222は目標線量に到達していない最短の領域に直ちに移動するため、目標線量に到達していない領域に移動するまでの待機時間がなくなり、照射時間(治療時間)短縮することができる。
【0101】
一方、計測領域222の移動の際には、ビーム走査管理部311は走査電磁石202,202の励磁データを判定し、AND回路309AにビームOFFのビーム照射制御信号を出力し、シンクロトロン5からのビーム出射を停止させ、その後計測領域222の移動が完了すると、AND回路309AにビームONのビーム照射制御信号を出力する。これにより目標の計測領域222までの走査位置移動でのビーム誤照射を防止することが可能となる。これ以外の効果は第1の実施の形態と同じである。
<実施の形態3>
本発明の第3の実施の形態を図9を用いて説明する。図9は、本実施の形態の荷電粒子ビーム照射システム(粒子線治療装置)における照射制御装置の構成を示す図である。
【0102】
第1の実施の形態では、線量カウンタ装置304は、二次元線量モニタ212の計測チャンネル(分割領域数或いは数計測領域数)に合わせてそれと同じ数のカウンタ304aを用意したため、すべての計測チャンネルを並列して制御することが可能である一方、カウンタ304aを計測チャンネル数と同じ数だけ用意する必要があり、照射制御装置300のコストが高くなる傾向がある。一方、ビームを走査して照射する本発明においては、照射野形成装置200に設けた散乱体206によりイオンビームの横方向分布を拡大しているが、拡大後のビーム径φBは二次元線量モニタ212全域を囲うような大きさではないため、実質的に照射される領域(中心計測領およびと同時計測領域)は図4や図6に示したように全計測チャンネルの数領域である。そこで、本実施の形態では、照射制御装置300Bの線量カウンタ装置304Bは、二次元線量モニタ212の計測チャンネル数よりも少ない数のカウンタ304a、例えば中心計測領域222aと同時計測領域223の合計の最大数(図6の場合、12個)のカウンタ304aを有するものとし、二次元線量モニタ212からの計測線量信号224と線量カウンタ304Bの間および線量カウンタ304Bと積算線量メモリ305aとの間にそれぞれマルチプレクサ313,314を設け、これらマルチプレクサ313,314をマルチプレクサ制御部307Bを介して照射領域判定部302に接続する。
【0103】
走査電磁石電源制御装置220から出力される励磁データが照射領域判定部302に取り込まれ、中心計測領域222aおよび同時計測領域223が選択される。そして、選択された情報に基づき、積算線量メモリ305a、目標線量メモリ305b、照射管理メモリ305cの対象データアドレスが示される。照射領域判定部302は、このメモリアドレスの指定と並行して、そのアドレス情報を中心計測領域222aおよび同時計測領域223の選択情報としてマルチプレクサ制御部307Bに送り、マルチプレクサ制御部307Bは、その選択情報に基づきマルチプレクサ313を制御し、二次元線量モニタ212が出力する計測線量信号224のうちそのときのメモリアドレスに対応する計測線量信号224を選択してカウンタ304Bに送信する。また、マルチプレクサ制御部307Bは、当該選択情報に基づきマルチプレクサ314を制御し、積算線量メモリ305aのメモリ領域のうちそのときのメモリアドレスに対応するメモリ領域を選択し、これらのメモリ領域にカウンタ304Bのカウント値を送信し、積算保存させる。このようにメモリアドレスに対応してマルチプレクサ313,314を制御することにより、線量計測信号224、線量カウンタ304B、積算線量メモリ305a間で中心計測領域222aおよび同時計測領域223と整合したデータ伝送の実現が可能となる。
【0104】
以上に示した構成により、線量カウンタ装置304Bのカウンタ204aの数を低減することが可能となり、製作コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第1の実施の形態の荷電粒子ビーム照射システム(粒子線治療装置)の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の荷電粒子ビーム照射システムに備えられる照射野形成装置の詳細を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態の荷電粒子ビーム照射システムに備えられる走査電磁石電源制御装置および線量モニタと照射制御装置を含む照射制御システムの構成を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態の荷電粒子ビーム照射システムに備えられる二次元線量モニタの計測領域の概念および照射ビーム径に対する中心計測領域および同時計測領域の関係を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態の荷電粒子ビーム照射システムの照射制御装置に備えられる照射領域判定部および目標線量メモリに保存されるテーブルデータを示す図であり、図5(a)は、X方向の励磁電流範囲と走査範囲との関係、およびそれらと中心計測領域および同時計測領域との関係を、図5(b)はY方向の励磁電流範囲と走査範囲との関係、およびそれらと中心計測領域および同時計測領域との関係を、図5(c)は、計測領域222の中心領域と目標線量Dおよびその許容値ΔD(D±ΔD)の関係をそれぞれ示すものである。
【図6】本発明の第1の実施の形態の荷電粒子ビーム照射システムに備えられる二次元線量モニタの照射ビーム径に対する中心計測領域および同時計測領域の関係およびビーム移動による中心計測領域および同時計測領域の変化を示す図である。
【図7】領域i−1から領域i+1までビームを走査して照射した場合の隣接する照射領域におけるビーム照射制御のタイミングチャートである。
【図8】本発明の第2の実施の形態の荷電粒子ビーム照射システム(粒子線治療装置)の全体構成を示す図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態の荷電粒子ビーム照射システム(粒子線治療装置)の全体構成を示す図である。
【符号の説明】
【0106】
1…イオンビーム発生装置
2…イオンビーム(荷電粒子ビーム)
3…前段加速器
4…低エネルギービーム輸送系
5…シンクロトロン(荷電粒子ビーム発生装置)
6…出射用高周波電極
7…電力増幅器
8…インターロック用スイッチ
9…出射ゲート用スイッチ
10…出射用高周波発振器
11…高エネルギービーム輸送系
12…回転ガントリー
13…出射装置
100…中央制御装置
200…照射野形成装置(ビーム照射装置)
202…走査電磁石
206…散乱体(ビーム径拡大装置)
208…リッジフィルタ(エネルギー分布拡大装置)
210…レンジシフタ
212…二次元線量モニタ
214…ボーラス
215…コリメータ
216…患者
216a…患部
217…治療ベッド
219…走査電磁石電源
220…走査電磁石電源制御装置
222…計測領域
222a…中心計測領域
223,223a,223b…同時計測領域
300,300A,300B…照射制御装置
301…制御プロセッサ
302…照射領域判定部(照射領域判定装置)
303…照射管理部(第2照射管理装置)
304,304B…線量カウンタ装置
305…照射制御用メモリ装置(記憶装置)
306…比較器(第2照射管理装置)
307…カウンタ制御部(線量カウンタ装置)
308…比較器制御部(第2照射管理装置)
309,309A…AND回路(出力装置)
311…ビーム走査管理部(第1及び第2ビーム走査管理装置)
313,314…マルチプレクサ。
320…表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを走査する走査電磁石を有し、この走査電磁石を通過した前記荷電粒子ビームを照射対象に照射するビーム照射装置とを備える荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記ビーム照射装置に設けられ、前記走査電磁石により走査された荷電粒子ビームの走査範囲を複数の領域に分割したモニタ平面を有し、このモニタ平面の領域毎に独立して照射線量を測定可能な二次元線量モニタと、
前記二次元線量モニタの前記モニタ平面の領域毎に計測した線量を入力し、この計測線量を前記モニタ平面の領域毎に独立して積算して前記モニタ平面の領域毎に積算線量を計測し、前記モニタ平面の領域毎に計測した積算線量が前記モニタ平面の領域毎に予め設定した目標線量に到達するとビーム照射を停止する制御信号を出力し、前記目標線量に到達した領域へのビーム照射を停止させる照射制御装置とを備えることを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
前記照射制御装置は、
前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量を前記モニタ平面の領域毎にカウントする線量カウンタ装置と、
前記線量カウンタ装置によりカウントした線量を前記積算線量として前記モニタ平面の領域毎に保存する第1記憶部および前記モニタ平面の領域毎に前記目標線量を保存する第2記憶部を含む記憶装置と、
前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量を前記第2記憶部に保存した目標線量と比較し、前記積算線量が前記目標線量に到達したとき前記ビーム照射を停止する制御信号を出力する第1照射管理装置とを有することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
前記照射制御装置は、
前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量を前記モニタ平面の領域毎にカウントする線量カウンタ装置と、
前記線量カウンタ装置によりカウントした線量を前記積算線量として前記モニタ平面の領域毎に保存する第1記憶部および前記モニタ平面の領域毎に前記目標線量を保存する第2記憶部を含む記憶装置と、
前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値を入力し、前記モニタ平面の複数の領域のうち前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値に対応する領域を計測領域として同定する照射領域判定装置とを有し、
前記線量カウンタ装置は、前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の計測線量のみを選択してカウントすることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
前記照射領域判定装置は、前記モニタ平面の複数の領域のうち、前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値に対応するビーム照射領域の中心が位置する領域を中心計測領域として同定するとともに、前記中心計測領域の周辺に位置し前記ビーム照射領域の一部を構成する複数の領域を同時計測領域として同定し、
前記線量カウンタ装置は、前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記中心計測領域および同時計測領域の計測線量を選択してカウントすることを特徴とする請求項5記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
前記照射制御装置は、
前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量を前記モニタ平面の領域毎にカウントする線量カウンタ装置と、
前記線量カウンタ装置によりカウントした線量を前記積算線量として前記モニタ平面の領域毎に保存する第1記憶部および前記モニタ平面の領域毎に前記目標線量を保存する第2記憶部を含む記憶装置と、
前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値を入力し、前記モニタ平面の複数の領域のうち前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値に対応する領域を計測領域として同定する照射領域判定装置と、
前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量を選択して前記第2記憶部に保存した目標線量と比較し、前記積算線量が前記目標線量に到達したとき前記ビーム照射を停止する制御信号を出力する第1照射管理装置とを有することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
前記照射領域判定装置は、前記モニタ平面の複数の領域のうち、前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値に対応するビーム照射領域の中心が位置する領域を中心計測領域として同定し、
前記第1照射管理装置は、前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記中心計測領域の積算線量を選択して前記第2記憶部に保存した目標線量と比較し、前記積算線量が前記目標線量に到達したとき前記ビーム照射を停止する制御信号を出力することを特徴とする請求項3記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項7】
前記照射制御装置は、
前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量を前記モニタ平面の領域毎にカウントする線量カウンタ装置と、
前記線量カウンタ装置によりカウントした線量を前記積算線量として前記モニタ平面の領域毎に保存する第1記憶部および前記モニタ平面の領域毎に前記目標線量を保存する第2記憶部を含む記憶装置と、
前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値を入力し、前記モニタ平面の複数の領域のうち前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値に対応する領域を計測領域として同定する照射領域判定装置と、
前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量のみを選択して前記第2記憶部に保存した目標線量と比較し、前記積算線量が前記目標線量に到達したとき前記ビーム照射を停止する制御信号を出力する第1照射管理装置と、
前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量が前記第2記憶部に保存した前記目標線量に到達しているか否かを読み取り、積算線量が目標線量に到達している場合は前記ビーム照射を停止する制御信号を出力する第2照射管理装置と、
前記第1照射管理装置および第2照射管理装置の少なくとも一方が前記ビーム照射を停止する制御信号を出力するとき、前記荷電粒子ビーム発生装置に対してビーム出射OFF信号を出力する出力装置とを有することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項8】
前記照射領域判定装置は、前記モニタ平面の複数の領域のうち、前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値に対応するビーム照射領域の中心が位置する領域を中心計測領域として同定し、
前記第1照射管理装置は、前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記中心計測領域の積算線量を選択して前記第2記憶部に保存した目標線量と比較し、前記積算線量が前記目標線量に到達したとき前記ビーム照射を停止する制御信号を出力し、
前記第2照射管理装置は、前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記中心計測領域の積算線量が前記第2記憶部に保存した前記目標線量に到達しているか否かを読み取り、積算線量が目標線量に到達している場合は前記ビーム照射を停止する制御信号を出力することを特徴とする請求項7記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項9】
前記第2照射管理装置は、前記モニタ平面の全ての領域で前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量が前記第2記憶部に保存した目標線量に到達したとき、エネルギー更新指令を出力するとともに、前記出力装置に前記ビーム照射を停止する制御信号を出力することを特徴とする請求項7又は8記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項10】
前記第2照射管理装置は、前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量と前記第2記憶部に保存した目標線量との比較結果に応じて、前記出力装置に前記ビーム照射を指令する制御信号と前記ビーム照射を停止する制御信号のいずれかを出力するとともに、前記ビーム照射を指令する制御信号を出力したときは、前記照射領域判定装置によって同定される前記中心領域が次の領域に移動する時点より所定時間前に前記ビーム照射を停止する制御信号を出力することを特徴とする請求項8記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項11】
前記記憶装置は、前記モニタ平面の領域毎に前記積算線量が前記目標線量に到達したことを記録する第3記憶部を更に含み、
前記第1照射管理部は、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量が前記第2記憶部に保存した目標線量に到達したとき、前記ビーム照射を停止する制御信号を出力すると同時に、前記積算線量が前記目標線量に到達したことを前記第3記憶装置に記録し、
前記第2照射管理装置は、前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量が前記第2記憶部に保存した前記目標線量に到達しているか否かを前記第3記憶装置から読み取ることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項12】
前記荷電粒子ビーム発生装置は、荷電粒子ビームが所望のエネルギーまで加速された後、ビーム出射開始指令により荷電粒子ビームを出射し、1回の加速動作により生成した荷電粒子ビームを出射可能な時間が経過すると、ビーム出射停止指令により荷電粒子ビームの出射を停止させるシンクロトロンであり、
前記照射制御装置は、
前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量を前記モニタ平面の領域毎にカウントする線量カウンタ装置と、
前記線量カウンタ装置によりカウントした線量を前記積算線量として前記モニタ平面の領域毎に保存する第1記憶部および前記モニタ平面の領域毎に前記目標線量を保存する第2記憶部を含む記憶装置と、
前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値を入力し、前記モニタ平面の複数の領域のうち前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値に対応する領域を計測領域として同定する照射領域判定装置と、
前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量を選択して前記第2記憶部に保存した目標線量と比較し、前記積算線量が前記目標線量に到達したとき前記ビーム照射を停止する制御信号を出力する照射管理装置と、
前記ビーム出射開始指令およびビーム出射停止指令を入力し、このビーム出射開始指令およびビーム出射停止指令に同期して前記走査電磁石の励磁電流指令値の更新指令、走査制御開始指令および走査制御終了指令を出力する第1ビーム走査管理装置とを有することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項13】
前記照射制御装置は、
前記走査電磁石の励磁電流指令値が更新される都度、前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の次にビーム照射を行う領域の積算線量が前記第2記憶部に保存した前記目標線量に到達しているか否かを読み取り、積算線量が目標線量に到達している場合は、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域から最短の目標線量に到達していない領域を探査し、この領域に対応する励磁電流指令値の更新指令を出力しかつ前記ビーム照射を停止する制御信号を出力する第2ビーム走査管理装置と、
前記照射管理装置および第2ビーム走査管理装置の少なくとも一方が前記ビーム照射を停止する制御信号を出力するとき、前記荷電粒子ビーム発生装置に対してビーム出射OFF信号を出力する出力装置とを更に有することを特徴とする請求項12記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項14】
前記照射制御装置は、
前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量を前記モニタ平面の領域毎にカウントする線量カウンタ装置であって、前記モニタ平面の分割領域数よりも少ない数のカウンタを有する線量カウンタ装置と、
前記線量カウンタ装置によりカウントした線量を前記積算線量として前記モニタ平面の領域毎に保存する第1記憶部および前記モニタ平面の領域毎に前記目標線量を保存する第2記憶部を含む記憶装置と、
前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値を入力し、前記モニタ平面の複数の領域のうち前記走査電磁石のそのときの励磁電流指令値に対応する領域を計測領域として同定する照射領域判定装置と、
前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量のうち、前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域の積算線量のみを選択して前記第2記憶部に保存した目標線量と比較し、前記積算線量が前記目標線量に到達したとき前記ビーム照射を停止する制御信号を出力する照射管理装置と、
前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量のうち前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域に対応する計測線量を選択して前記線量カウンタ装置のカウンタに送信する第1マルチプレクサと、
前記線量カウンタ装置のカウンタによりカウントした線量を、前記第1記憶部のメモリ領域のうち前記照射領域判定装置によって同定した前記計測領域に対応するメモリ領域に送信し保存する第2マルチプレクサとを有することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項15】
前記ビーム照射装置は、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームのビーム径を前記モニタ平面の前記複数の領域の分割幅よりも拡大するビーム径拡大装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームに複数のエネルギー領域を形成し、深さ方向に形成される複数のブラッグピークを重ね合わせることで、深さ方向に一様な線量分布を形成するエネルギー分布拡大装置とを更に有し、
前記照射制御装置は、
前記二次元線量モニタから入力した前記モニタ平面の領域毎の計測線量を前記モニタ平面の領域毎にカウントする線量カウンタ装置と、
前記線量カウンタ装置によりカウントした線量を前記積算線量として前記モニタ平面の領域毎に保存する第1記憶部および前記モニタ平面の領域毎に前記目標線量を保存する第2記憶部を含む記憶装置と、
前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量を前記第2記憶部に保存した目標線量と比較し、前記積算線量が前記目標線量に到達したとき前記ビーム照射を停止する制御信号を出力する第1照射管理装置と、
前記モニタ平面の全ての領域で前記第1記憶部に保存した領域毎の積算線量が前記第2記憶部に保存した目標線量に到達したとき、エネルギー更新指令を出力する第2照射管理装置とを有することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項16】
前記モニタ平面の領域毎の計測線量を表示する表示装置を更に備えることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−50468(P2009−50468A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220229(P2007−220229)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】