説明

荷電粒子ビーム照射システム

【課題】スポットスキャン法において、スポット数が多くなった場合でも照射時間を短縮し、かつ目標照射量のビームを精度良く各スポットに照射できるようにする。
【解決手段】中央制御装置46は、事前に目標照射量に応じて、スポット毎に照射時間がほぼ一定となるように目標ビーム電流値を決定し、加速器制御部47は、その目標ビーム電流値が得られるようシンクロトロン4から出射する荷電粒子ビームの電流値を調整する。また、中央制御装置46は事前にビーム電流値に対する遅延照射量を計算し、照射装置制御部48及び加速器制御部47は目標照射量から遅延照射量を引いた設定照射量に達した時点で出射停止信号を出力してビーム出射を停止する制御を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを腫瘍等の患部に照射して治療する荷電粒子ビーム照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌(腫瘍)などの患者に陽子線などの荷電粒子ビーム(イオンビーム)を照射して癌を治療する方法が知られている。この荷電粒子ビームの照射に用いる荷電粒子ビーム照射システムは、荷電粒子ビーム発生装置,ビーム輸送系、及び治療室を備えている。
【0003】
荷電粒子ビーム発生装置で加速された荷電粒子ビームはビーム輸送系を経て治療室の照射装置に達し、照射装置により分布を拡大し、患者の体内で患部形状に適した照射野を形成する。
【0004】
照射装置で分布を拡大する方法として、細いビームによる照射の位置(スポット)を順次変更(スキャン)するスポットスキャン法と呼ばれる方法がある。スポットスキャン法は照射装置内に走査電磁石を備え、走査電磁石の励磁量を一定にしてスポットの照射位置にビームを照射し、ビームの出射を停止した後、励磁量を変更して照射位置を次のスポットに変更し、ビームを再び出射して照射する方法である。各スポットに付与する照射量は目標照射量として予め決められており、照射装置内の線量モニタで計測した照射量が目標照射量に達するとビームの出射を停止する(特許文献1及び2)。
【0005】
各スポットにビームを照射する際のビーム電流値は、通常、各スポットの目標照射量の大きさに係わらず一定である。これに対し、特許文献2では、目標照射量のビームを精度良く各スポットに照射するため、各スポットの照射中にビーム電流値を変更し、出射停止時は小さなビーム電流値で照射する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−50824号公報
【特許文献2】特開2007−311125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スポットスキャン法において、各スポットの照射中に目標照射量に係わらずビーム電流値を一定にしてビームを照射する従来の方法では、各スポットの目標照射量が多くなると、それに応じて各スポットの照射時間も長くなる。その結果、特にスポットの数が多いときは、トータルとしての照射時間が長くなり、治療時間が長くなる。
【0008】
特許文献2の方法では、照射中にビーム電流値を変更し、出射停止時は小さなビーム電流値で照射している。しかし、各スポットの照射中のビーム電流値の切り替えに時間を要するため、その分、各スポットの照射時間が長くなる可能性がある。その結果、トータルとしての照射時間が長くなり、治療時間が長くなる。
【0009】
本発明の第1の目的は、スポットスキャン法において、スポット数が多くなった場合でも照射時間を短縮し、治療時間を短縮することのできる荷電粒子ビーム照射システムを提供することである。
【0010】
本発明の第2の目的は、スポットスキャン法において、スポット数が多くなった場合でも照射時間を短縮し、かつ目標照射量のビームを精度良く各スポットに照射することのできる荷電粒子ビーム照射システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記第1の目的を達成するため、本発明は、荷電粒子ビーム発生装置に出射する荷電粒子ビームの電流値を調整する機能を持たせ、各スポットの目標照射量に応じて出射する荷電粒子ビームの電流値を調整する。また、そのために、各スポットの目標照射量に応じて目標ビーム電流値を決定する。このとき、好ましくは、目標照射量を参照し、スポット毎に照射時間がほぼ一定となるようにビーム電流値を決定する。
【0012】
また、上記第2の目的を達成するため、本発明は、各スポットの照射位置に照射される荷電粒子ビームの照射量が目標照射量に達する前に荷電粒子ビーム発生装置に出射停止信号を出力して荷電粒子ビームの出射を停止させる。
【0013】
荷電粒子ビーム発生装置は出射停止信号受信後、ビームが停止するまでに若干の応答遅れによる時間が必要な場合があり、その間に照射される遅延照射量と呼ばれる照射量がある。本発明者らは前記遅延照射量がビーム電流値に依存することを発見した。
【0014】
そこで、本発明は、荷電粒子ビームの照射量が目標照射量に達する前に荷電粒子ビーム発生装置に出射停止信号を出力する。
【0015】
好ましくは、前記遅延照射量を考慮して以下の方法により照射量の精度を向上させる。
【0016】
予めビーム電流値と遅延照射量の関係を測定し計算しておく。算出した前記関係に基づき決定したビーム電流値に対する遅延照射量を計算し、目標照射量から遅延照射量を引いた設定照射量を設ける。線量モニタにより計測した照射量が設定照射量に達した時点で出射停止信号を出力してビーム出射を停止する制御を開始する。以上により遅延照射量を含めた照射量が目標照射量になり、短い照射時間で目標照射量のビームを精度良く照射することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スポットスキャン法において、スポット数が多くなった場合でも照射時間を短縮し、治療時間を短縮することができる。
【0018】
また、照射時間を短縮し、かつ目標照射量のビームを精度良く各スポットに照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態である荷電粒子ビーム照射システムの全体概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態である荷電粒子ビーム照射システムに備えられる照射装置の構成を示す横断図面である。
【図3】照射対象にイオンビームを照射した場合に得られる深さ方向の線量分布(照射対象の深さとイオンビームのエネルギーとの関係)を示す図であり、図3(a)は、単一エネルギーのイオンビームを照射した場合のもの、図3(b)は、いくつかのエネルギーのイオンビームを適切な強度の割合で照射して、ブラッグピークを重ね合わせた場合のものをそれぞれ示している。
【図4】照射対象にイオンビームを照射した場合に得られる横方向の線量分布を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態である荷電粒子ビーム照射システムのデータベースに記憶される照射パラメータを示す概念図である。
【図6】中央制御装置が目標ビーム電流値等の各値を算出する手順を示すフローチャートである。
【図7】照射対象にイオンビームを照射する際のビーム電流値の変化を表す概念図であり、図7(a)は二つのスポットを照射するときのビーム電流値の時間変化を示し、図7(b)は図7(a)のひとつのスポットを抜き出したものである。
【図8】本発明の一実施の形態である荷電粒子ビーム照射システムの中央制御装置が算出する目標照射量と目標ビーム電流値と各照射量の例を示す図である。
【図9】本発明の一実施の形態である荷電粒子ビーム照射システムによるイオンビームの照射手順を示すフローチャートである。
【図10】照射対象にイオンビームを照射する際のビーム電流値の変化を示す図であり、図10(a)は従来の目標ビーム電流値が一定である場合を示し、図10(b)は本発明にしたがってビーム電流値をスポット毎に変更する場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態である荷電粒子ビーム照射システムについて、図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態である荷電粒子ビーム照射システムの全体概略構成を示す図である。
【0022】
本実施の形態の荷電粒子ビーム照射システム10は、荷電粒子ビーム発生装置1,ビーム輸送系2,放射線治療室17及び制御システム7を備える。
【0023】
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源(図示せず),ライナック3(前段荷電粒子ビーム加速装置)及びシンクロトロン4(加速器)を有する。シンクロトロン4は、高周波印加装置5,加速装置6を有する。高周波印加装置5はシンクロトロン4の周回軌道に配置された高周波印加電極(図示せず)及び高周波印加電源(図示せず)を備える。高周波印加電極と高周波印加電源はスイッチ(図示せず)により接続される。加速装置6はイオンビームの周回軌道に配置された高周波加速空洞(図示せず)及び高周波加速空洞に高周波電力を印加する高周波電源(図示せず)を備える。出射用デフレクタ11がシンクロトロン4とビーム輸送系2を接続する。
【0024】
ビーム輸送系2は、ビーム経路12,四極電磁石(図示せず),偏向電磁石14,偏向電磁石15及びU字状偏向電磁石16を有する。ビーム経路12が、治療室17内に設置された照射装置21に接続される。
【0025】
治療室17内には略筒状のガントリー18が設置されている。ガントリー18には、ビーム輸送系2の一部であるU字状の偏向電磁石16、及び照射装置21が設置されている。ガントリー18の内部にはカウチ24と呼ばれる治療用ベッドが設置されている。
【0026】
ガントリー18は、モーターにより回転可能な構造をしている。ガントリー18の回転と共にU字状偏向電磁石16と照射装置21が回転する。この回転により、照射対象25をガントリー18の回転軸に垂直な平面内のいずれの方向からも照射することができる。
【0027】
図2を用いて、照射装置21の構成について説明する。照射装置21は、走査電磁石31,走査電磁石32,ビーム位置検出器33,線量モニタ(照射量検出装置)34を有する。本実施の荷電粒子ビーム照射システム10は、照射装置21が二台の走査電磁石31,32を備え、ビーム進行方向と垂直な面内の二つの方向(X方向,Y方向)にそれぞれイオンビームを偏向し、照射位置を変更する。ビーム位置検出器33は、イオンビームの位置とイオンビームの広がりを計測する。線量モニタ34は、照射されたイオンビームの量を計測する。ビーム位置検出器33は、X方向,Y方向それぞれ一定間隔毎に平行にワイヤーが張られている。ワイヤーには高電圧がかけられており、イオンビームが通過すると検出器内の空気が電離され、電離された荷電粒子は最も近いワイヤーに集められる。集められた荷電粒子量を測定する。イオンビームの広がりよりも十分に小さい間隔でワイヤーを張ることにより、ビームの分布を得ることができ、ビーム位置(分布の重心)とビーム幅(分布の標準偏差)を算出することができる。線量モニタ34は、二つの電極が平行平板型構造をしており、電極間に電圧が印加されている。イオンビームが線量モニタ(照射量検出装置)34を通過すると、イオンビームにより、検出器内の空気が電離され、電離された荷電粒子は検出器内電場により電極に集積し、信号となって読み出される。ここで、イオンビーム量と、電極に集積する電荷が比例するので通過したイオンビーム量を計測することができる。照射対象25内には照射標的37があり、イオンビームを照射することで照射標的を覆うような線量分布を照射対象25内に形成する。ここで癌などの治療の場合は、照射対象は人であり照射標的は腫瘍(患部)である。
【0028】
本実施の形態の粒子線照射システム10が備えている制御システム7について、図1を用いて説明する。制御システム7は、データベース(記憶装置)42,中央制御装置46,加速器制御部47及び照射装置制御部48を備える。データベース42はX線CT装置40に接続された照射計画システム41に接続されている。照射計画システム42が作成する照射に必要なデータはデータベース42に記録される。中央制御装置46は、加速器制御部47及び照射装置制御部48に接続される。また、中央制御装置46は、データベース42に接続される。中央制御装置46は、データベース42からデータを受け取り、加速器制御部47と照射装置制御部48に必要な情報を送信し制御する。加速器制御部47は、荷電粒子ビーム発生装置1,ビーム輸送系2及びガントリー18に接続され、これらを制御する。照射装置制御部48は、走査電磁石31,32に流れる励磁電流量の制御と照射装置21内の各モニタ信号の処理を行う。
【0029】
図3を用いて本実施の形態による粒子線照射システム10における標的の深さとイオンビームのエネルギーとの関係について説明する。図3は、照射対象の深さとイオンビームのエネルギーとの関係を説明した図である。
【0030】
図3(a)は、単一エネルギーのイオンビームが照射対象内に形成する線量分布を深さの関数として示している。図3(a)におけるピークをブラッグピークと称する。ブラッグピークの位置はエネルギーに依存するため、照射標的の深さに合わせイオンビームのエネルギーを調整することでブラッグピークの位置で照射標的を照射することができる。照射標的は深さ方向に厚みを持っているが、ブラッグピークは鋭いピークであるので、図3(b)に表すようにいくつかのエネルギーのイオンビームを適切な強度の割合で照射し、ブラッグピークを重ね合わせることで深さ方向に照射標的と同じ厚みを持った一様な高線量領域(SOBP)を形成する。
【0031】
図4を用いて、ビーム軸に垂直な方向(XY平面の方向)の照射標的の広がりとイオンビームの関係について説明する。ビーム軸に垂直な方向を横方向と呼ぶ。イオンビームは照射装置21に達した後、互いに垂直に設置された二台の走査電磁石31,32により横方向の所望の位置へと到達する。イオンビームの横方向の広がりはガウス分布形状で近似することができる。ガウス分布を等間隔で配置し、その間の距離をガウス分布の標準偏差程度にすることで、足し合わされた分布は一様な領域を有する。このように配置されるガウス分布状の線量分布をスポットと呼ぶ。走査電磁石31,32の励磁量(励磁電流量)を一定にして1つのスポットの照射位置にイオンビームを照射し、イオンビームの出射を停止した後、励磁量を変更して次のスポットの照射位置に変更し、イオンビームを再び出射して照射する(スポットスキャン法)。このようにスポットスキャン法によりイオンビームを走査し複数のスポットを等間隔に配置することで横方向に一様な線量分布を形成することができる。
【0032】
以上により、走査電磁石による横方向へのビーム走査と、ビームエネルギー変更による深さ方向へのブラッグピークの移動により均一な照射野を形成することができる。なお、同一のエネルギーで照射され、走査電磁石によるイオンビーム走査により横方向へ広がりを持つ照射野の単位をスライスと呼ぶ。
【0033】
イオンビームを照射標的37に照射する前に、事前に照射計画システム41が照射に必要な各パラメータを決定する。照射計画システム41によるパラメータの決定方法について説明する。
【0034】
予め照射対象25をX線CT装置40にて撮影する。X線CT装置40は、取得した撮像データに基づいて照射対象25の画像データを作成し、画像データを照射計画システム41に送信する。照射計画システム41は、受け取った画像データを、表示装置(図示せず)の画面上に表示する。オペレータが画像上で照射したい領域を指定すると、照射計画システム41は照射に必要なデータを作成し、そのデータで照射したときの線量分布を求める。照射計画システム41は、求めた線量分布を表示装置に表示する。照射したい領域は照射標的37を覆うように指定する。照射計画システム41は、指定された領域に線量分布を形成できるような照射対象の設置位置,ガントリー角度,照射パラメータを求めて決定する。
【0035】
照射計画システム41が求める照射パラメータには、イオンビームのエネルギー,ビーム軸に垂直な平面内の各スポットの位置情報(X座標,Y座標)、各位置に照射するイオンビームの目標照射量が含まれる。つまり、照射計画システム41は、オペレータが入力した患者情報に基づいて、照射標的(患部)37を深さ方向の複数のスライスに分割し、必要となるスライス数N,スライス番号iを決定する。また、照射計画システム41は、それぞれのスライス(スライス番号i)の深さに応じた照射に適したイオンビームのエネルギーEiを求める。照射計画システム41は、さらに、各スライスの形状に応じて、イオンビームを照射する照射スポットの数Ni,スポット番号j,各スポットの照射位置(Xij,Yij)、各スポットの目標照射量Dijを決定する。スポットの照射位置(Xij,Yij)が、照射対象のビーム進行方向(深さ方向)と垂直な平面における目標照射位置となる。
【0036】
照射計画システム41は、医師等の指示に基づいて、決定したこれらの情報をデータベース42に送信する。送信のタイミングは、情報の決定直後でもよいし、照射標的37にイオンビームを照射する治療当日の照射準備開始時であってもよい。データベース42は、照射計画システム41から出力されたデータを記録する。データベース42に登録される各データのうち、照射パラメータのデータ構造を図5に示す。照射パラメータはスライス数Nと各スライスのデータを持つ。各スライスのデータはスライス番号i,エネルギーEi,スポット数Ni,各スポットのデータから構成される。スポットのデータはさらにスポット番号j,照射位置(Xij,Yij),目標照射量Dijから構成される。
【0037】
本実施の形態の荷電粒子ビーム照射システム10の運転方法について説明する。照射を開始するため照射対象をカウチ上に設置し、照射計画システムが指定した位置にカウチ24と照射対象25を移動する。荷電粒子ビーム照射システム10は、データベース42に記憶された情報に基づいて、以下のように照射の準備を行う。
【0038】
中央制御装置46はデータベース42に登録されたデータを読み出し、照射パラメータから各スポットを照射する際のビーム電流値と、出射停止信号出力後に照射される遅延照射量と、出射停止信号を出力する設定照射量と、出射停止制御で実際に用いる設定積算照射量を決定する。
【0039】
図6は、中央制御装置46が上記各値を決定するための処理手順を示すフローチャートである。中央制御装置46は、例えば医師等の指示により処理手順を開始する。中央制御装置46は、データベース42が照射計画システム41から出力されたデータを記録するのに連動して処理手順を開始してもよい。
【0040】
図6のステップ201において、まず、中央制御装置46は目標照射量から目標ビーム電流値を求める。次に、ステップ202において、目標ビーム電流値から遅延照射量を求める。次に、ステップ203において、目標照射量と遅延照射量から設定照射量を算出する。最後にステップ204において、設定照射量から設定積算照射量を算出する。
【0041】
以下に上記各値の決定方法の詳細を説明する。
【0042】
[ステップ201:目標照射量から目標ビーム電流値を決定]
各スポットの照射時間は全体の照射時間短縮のため短いことが好ましい。しかし、ビーム電流値が設定された目標となる値Iij(以後目標ビーム電流値と呼ぶ)に達する時間が必要であり、極度に短時間で照射した場合、目標ビーム電流値Iijに到達しない。このことに留意してスポット毎に目標照射量Dijを参照し目標ビーム電流値Iijを設定する。最も簡単な方法は、目標照射量Dijに比例した目標ビーム電流値Iijを設定する場合である。すなわち
Dij=T0×Iij(T0:目標時間定数)
とする。図7(a)に二つのスポットを照射するときのビーム電流値の時間変化を示す。縦軸はビーム電流値I、横軸は時間tである。この例はひとつ目のスポット51の目標照射量が小さく、二つ目のスポット52の目標照射量が大きな場合を示している。スポット51の目標ビーム電流値53を小さくし、スポット52の目標ビーム電流値54を大きくすることで二つのスポットの照射時間はほぼ等しくなる。
【0043】
なお、目標時間定数はひとつである必要はない。例えば照射量が大きいスポットを照射する場合、目標ビーム電流値は大きくすることが望ましい。しかし、荷電粒子出射装置の出射可能な最大のビーム電流値は高周波印加装置の性能に依存して決まっている。よって照射量が大きい場合、長い目標時間定数を設定し目標ビーム電流値を装置の出射可能な範囲内に調整する必要がある。
【0044】
また、目標ビーム電流値は、各スポットをその照射量に基づいて区分けし、区分けされたそれぞれに対して設定してもよい。このことにより必要な目標ビーム電流値の数を削減することができる。
【0045】
[ステップ202:目標ビーム電流値から遅延照射量を決定]
図7(b)は図7(a)のひとつのスポットを抜き出したものである。縦軸はビーム電流値I、横軸は時間tである。図が示す面積全体201はスポットに照射される照射量に等しい。ビーム電流値は出射が開始されると立ち上がりに要する時間202の後、目標ビーム電流値Iijまで増加し、時刻204にて出射停止信号を受け取るとビーム電流値は小さくなり出射停止に至る。このとき、出射停止信号受信後に出射された電荷を遅延照射量QLと呼ぶ。図7(b)の斜線で塗りつぶされた部分205の面積が遅延照射量に等しい。時刻206はその時刻まで照射すると照射量が目標照射量Dijに到達する時刻を示す。すなわち、本発明は時刻204で出射停止信号を出力することにより時刻206で直ちにビームが停止した場合と同じ照射量をスポットに照射するように制御する。
【0046】
発明者らは遅延照射量QLが出射停止信号を出力する瞬間のビーム電流値に依存することを発見した。本実施の形態では出射停止信号を出力する瞬間のビーム電流値は目標ビーム電流値と見なすことができる。よって目標ビーム電流値Iijと遅延照射量QLの関係を予め求めておく。異なる複数の目標ビーム電流値に対して遅延照射量の値を測定し、測定されたデータを近似することにより遅延照射量を目標ビーム電流値の関数で表す。すなわちQL=QL(Iij)を予め求めておく。遅延照射量と目標ビーム電流値が比例すると仮定することで最も簡単にQLとIijの関係を表すことができる。なお、ここでは遅延照射量と目標ビーム電流値の関係として求めたが、遅延照射量と出射停止信号を出力するときのビーム電流値の関係として求め代用してもよい。
【0047】
[ステップ203:目標照射量と遅延照射量から設定照射量を算出]
各スポットの出射停止信号を出力する設定照射量D0ijは目標照射量から遅延照射量の分を引き、
D0ij=Dij−QL(Iij)=Dij−QL(Dij/T0)
により決定する。
【0048】
前述したように遅延照射量QLと目標ビーム電流値Iijとの関係を表す最も簡易なケースは遅延照射量QLと目標ビーム電流値Iijが比例すると仮定する場合である。このとき、比例定数T1を用いてQL=T1×Iijと表すことができる。一方、目標ビーム電流値IijはDij=T0×Iij(T0:目標時間定数)から求めることができる。これらの値を用いて、設定照射量D0ijを求めるD0ij=Dij−QL(Iij)の式は下記のように変形することができる。
【0049】
D0ij=Dij−QL(Iij)=(T0×Iij)−(T1×Iij)
=(T0−T1)Iij
T2=T0−T1と置けば、
D0ij=T2×Iij
よって、上記の式を用いれば(比例定数T2を用いれば)、目標ビーム電流値Iijから設定照射量D0ijを直接求めることができる。
【0050】
[ステップ204:設定照射量から設定積算照射量を算出]
各スポットに対し設定積算照射量D1ijを設定する。あるスポットの設定積算照射量D1ijはそのスポットより前に照射されるスポットの目標照射量Dijの合計にそのスポットの設定照射量D0ijを足した値とする。
【0051】
図8は、中央制御装置46が算出する目標照射量及び目標ビーム電流値と、遅延照射量、設定照射量及び設定積算照射量の一例を示す図である。
【0052】
前述したように最も簡易なケースは遅延照射量QLと目標ビーム電流値Iijが比例すると仮定する場合であり、その場合、比例定数T1を用いてQL=T1×Iijと表すことができる。また、目標ビーム電流値IijはDij=T0×Iij(T0:目標時間定数)と表すことができる。
【0053】
図8は、そのように目標ビーム電流値Iijと目標照射量Dijとの関係及び遅延照射量QLと目標ビーム電流値Iijとの関係を比例関係で表し、T0=5、T1=0.5とした場合(T2=4.5)の例である。目標照射量Dijは照射計画システムから出力される値であり、目標ビーム電流値Iijは目標照射量DijをT0で割ることにより得られる。遅延照射量QLは目標ビーム電流値IijにT1を掛けることで得られる。目標ビーム照射量Dijから遅延照射量QLを引くことで設定照射量D0ijを算出する。
【0054】
設定積算照射量をスポット番号3を例にして説明する。スポット番号3の設定積算照射量はスポット番号1、スポット番号2の目標照射量の合計100+150=250と、スポット番号3の設定照射量117を足すことで250+117=367となる。その他のスポットの設定積算照射量も同様にして求める。なお、この表は照射量についてのみ記載しているが、各スポットのデータは目標ビーム電流値、照射位置、照射エネルギーなどの値も同時に持ち合わせる。
【0055】
なお、目標ビーム電流値を決定する際、目標照射量と目標ビーム電流値の間の比例定数は照射するエネルギー毎に異なっても良い。また、目標ビーム電流値と遅延照射量の関係は全てのエネルギーに対してデータを計測し求めることが好ましい。しかし、エネルギー数が多い場合、ひとつのエネルギーの目標ビーム電流値と遅延照射量の関係で代用することができる。或いは全てのエネルギーのうちのいくつかを選抜し、目標ビーム電流値と遅延照射量の関係を表すデータを取得し近似式を求めてもよい。
【0056】
中央制御装置46は、以上説明した目標ビーム電流値と照射量の計算の他、各スポットに対し照射位置とそのエネルギーから走査電磁石31,32を励磁する電流量(励磁量)を算出する。
【0057】
以上の計算により、中央制御装置46は照射パラメータ、設定照射量、設定積算照射量、走査電磁石励磁電流値を照射装置制御部48へ送信する。
【0058】
中央制御装置46は、データベース42から照射パラメータの他、ガントリー角度情報を受け取る。中央制御装置46は、ガントリー角度情報と目標ビーム電流値を加速器制御部47に送信する。
【0059】
加速器制御部47は、受け取ったガントリー角度情報に基づいてガントリー18を所望のガントリー角度へ移動する。
【0060】
また、中央制御装置46は、受け取った照射パラメータに基づいて、各スライスのエネルギーEiに対応したシンクロトロン4とビーム輸送系2の電磁石を励磁する励磁電流量,高周波印加装置5が印加する高周波の値、加速装置6に印加する高周波の値を、中央制御装置46が有するメモリ(図示せず)から参照し、加速器制御部47へ送信する。
【0061】
高周波印加装置5は印加する高周波の強度を変更可能に構成されており、高周波印加装置5が印加する高周波の強度を変更することによりシンクロトロン4から出射するイオンビームの電流値が調整される。中央制御装置46から加速器制御部47に高周波印加装置5が印加する高周波の値が送信されると、加速器制御部47は、高周波印加装置5が印加する高周波の強度がその値となるよう高周波印加装置5を制御し、シンクロトロン4から出射するイオンビームの電流値を調整する。すなわち、荷電粒子ビーム発生装置1は、シンクロトロン4から出射するイオンビーム(荷電粒子ビーム)の電流値を調整する機能を有している。
【0062】
図9を用いて、荷電粒子ビーム照射システム10によるイオンビームの照射手順を説明する。
【0063】
中央制御装置46は、医師等の指示に基づいて、照射開始信号と共に、スライス番号i,スポット番号j,エネルギー情報Eiを加速器制御部47に出力する。最初の照射開始が合図されると、スライス番号i=1,スポット番号j=1から照射を開始する。照射開始信号を受け取った加速器制御部47はイオン源を起動する。イオン源で発生したイオン(例えば陽子(又は炭素イオン))は、ライナック3に入射される。ライナック3は、イオンを加速して出射する。ライナック3からのイオンビームは、シンクロトロン4へ入射される。ステップ101で、加速器制御部47は、シンクロトロン4の電磁石と加速装置6を制御し、ライナック3から入射されたイオンビームをスライス番号1のエネルギーE1まで加速する。つまり、加速器制御部47が、荷電粒子ビーム発生装置を制御し、イオンビームを所望のエネルギーまで加速する。この加速は、高周波電源から、高周波加速空洞に高周波を印加すること(シンクロトロン4を周回するイオンビームに、高周波電力によってエネルギーを与えること)によって行われる。また、加速器制御部47は、ビーム輸送系2の電磁石の励磁量を制御し、加速したエネルギーのイオンビームを照射装置21へ輸送できる状態とする。
【0064】
ステップ102でイオンビームの加速が完了しビーム輸送系2の準備が整うと、加速器制御部47は、照射装置制御部48へ出射準備完了信号を送信する。
【0065】
ステップ103で、出射準備完了信号を受け取った照射装置制御部48は、スライス1,スポット1に対応する中央制御装置46が計算した励磁電流量で走査電磁石31及び走査電磁石32を励磁する。また、照射装置制御部48は、線量モニタからの信号をカウントする線量カウンタを0にリセットし、スライス1、スポット1の設定積算照射量を設定する。
【0066】
ステップ104で照射装置制御部48は、走査電磁石31,32に流れる電流が所望の値になったことを確認し、出射信号を加速器制御部47へ送信する。
【0067】
ステップ105で出射信号を受け取った加速器制御部47は、高周波印加装置5を制御してシンクロトロン4からのイオンビームの出射を開始する。つまり、スイッチを繋ぎイオンビームに高周波印加装置5により高周波を印加する。安定限界内でシンクロトロン4内を周回していたイオンビームは、安定限界外に移行し、出射用デフレクタ11を通ってシンクロトロン4から出射される。出射されるイオンビームの電流値は印加される高周波の強度に依存する。出射されたイオンビームはビーム輸送系2を通過して照射装置21へ入射し走査電磁石31,32で走査された後、ビーム位置検出器33,線量モニタ34を通過して照射対象に到達し線量を付与して停止する。
【0068】
ステップ106で出射中、照射装置制御部48は、線量モニタ34から受け取った信号から照射量を線量カウンタでカウントすると共に、ビーム電流値を算出し加速器制御部47へ送信し続ける。ステップ107で加速器制御部47は照射中のスライス番号1、スポット番号1の目標ビーム電流値を参照し、照射中のビーム電流値が目標ビーム電流値に等しくなるように高周波印加装置5を制御して印加する高周波の強度を調整する。
【0069】
線量カウンタによりカウントした照射量が設定積算照射量に達するとステップ108で照射装置制御部48は加速器制御部47に対し出射停止信号を送信する。
【0070】
ステップ109で出射停止信号を受信した加速器制御部47は高周波印加装置5を制御して出射を停止する。高周波印加電極と高周波印加電源をつなぐスイッチを切り高周波の印加を停止することにより、シンクロトロン4からのイオンビームの出射が停止する。照射装置制御部48が出射停止信号を送信した後もシンクロトロン4の応答の遅れの分だけビームが照射される。ビームの照射が完全に停止したところでスライス番号1,スポット番号1の照射を完了する。
【0071】
照射装置制御部48は、位置検出信号に基づいてビーム位置を算出し、算出したビーム位置とスポットデータの照射位置との差が所定の閾値以下であることを確認する。
【0072】
ステップ110で照射装置制御部48は、スライス番号1のスポット数N1とスポット番号jを比較する。スポット番号jがスポット数に達しない場合、次のスポット番号j+1のスポットの照射を開始するためステップ103の動作を開始する。スポット番号jがスポット数N1に達した場合、照射装置制御部48は加速器制御部47へ減速信号を出力し、ステップ111で加速器制御部47はシンクロトロン4の電磁石を制御してシンクロトロン4内に残っているイオンビームを減速する。
【0073】
ステップ112でスライス番号iとスライス数Nを比較しスライス番号iがスライス数Nに達しない場合ステップ101に移り次のスライスi+1の照射準備を開始する。スライス番号iがスライス数Nに達すると照射完了となる。
【0074】
以上において、照射装置制御部48のステップ106及び加速器制御部47の図9のステップ107の処理機能は、各スポットの目標照射量に応じて出射する荷電粒子ビームの電流値を調整するよう荷電粒子ビーム発生装置1を制御する第1制御手段を構成し、照射装置制御部48のステップ108及び加速器制御部47の図9のステップ109の処理機能は、各スポットの照射位置に照射される荷電粒子ビームの照射量が目標照射量に達する前に荷電粒子ビーム発生装置1に出射停止信号を出力して、荷電粒子ビームの出射を停止させよう荷電粒子ビーム発生装置1を制御する第2制御手段を構成する。
【0075】
また、中央制御装置46の図6のステップ201の処理機能は、各スポットの目標照射量に応じて目標ビーム電流値を決定する第1演算手段を構成し、図6のステップ202〜204の処理機能は、目標ビーム電流値に応じて設定照射量を決定する第2演算手段を構成する。
【0076】
照射モニタ34は、各スポットの照射位置へ照射される荷電粒子ビームの照射量を計測する照射量検出装置を構成し、上記第2制御手段は、その照射量検出装置で計測された照射量を入力し、照射量が目標照射量より小さい設定照射量に達したときに荷電粒子ビーム発生装置1に出射停止信号を出力して、荷電粒子ビームの出射を停止させよう荷電粒子ビーム発生装置1を制御する。照射量が目標照射量より小さい設定照射量に達したかどうかの判定は照射量と設定積算照射量を比較して行う。
【0077】
なお、ステップ108で照射量と設定積算照射量を比較してビーム出射停止信号を出力する代わりに、照射時間を計測し照射時間が予め設定された時刻に到達したとき出射停止信号を出力することもできる。照射時間は出射開始信号を出力した時刻からの時間を計測し、予め設定した時間までとする。設定する時間は前記目標時間定数である。設定した時間が経過した後、出射停止信号を出力し、ビーム出射が停止した後、照射量と目標照射量を比較する。照射量は必ずしも目標照射量に一致しないため、その差分は次のスポットに照射する目標照射量に足し合わせる。次のスポットの目標照射量を変更するため、次のスポットの照射時間を変更する、またはビーム電流値を変更する。具体的には照射量が目標照射量より多い場合、次のスポットの設定時間を予め設定した時刻から短くする、または目標ビーム電流値を小さくする。照射量が目標照射量より小さい場合、設定時間を長くする、または目標ビーム電流値を大きくする。全体の照射量を所望の値に近づけるため、照射量と目標照射量の差分は前記の通り次のスポットの照射量にて調整する。
【0078】
以上、説明したシステムを用いることにより得られる効果を説明する。
【0079】
各スポットの目標照射量に応じて目標ビーム電流値を決定することから、全てのスポットを必要最低限の時間で照射することができる。よって、照射時間を短縮し、治療時間を短縮することができる。
【0080】
また、各スポットの照射位置の照射量が目標照射量に達する前に出射停止信号を出力して荷電粒子ビームの出射を停止させることから、目標照射量に応じて目標ビーム電流値を変更しても、目標照射量のビームを精度良く各スポットに照射することができる。
【0081】
図10は、後者の効果を従来技術と比較して説明するための図である。
【0082】
出射停止信号を出力した後に照射される遅延照射量はビーム電流値に依存する。よってスポット毎に異なるビーム電流値で照射する場合、遅延照射量はスポット毎に大きくばらつく。
【0083】
従来の設定照射量を設けない場合について説明する。図10(a)に目標ビーム電流値が一定の場合を示す。ひとつ目のスポットの出射停止信号を出力する時刻までの照射量をA、遅延照射量をB、ふたつ目のスポットの出射停止信号を出力する時刻までの照射量をC、遅延照射量をDとする。線量モニタから出力される照射量の計測値の積算照射量により出射停止信号を出力することで、連続するスポットの遅延線量が差し引きされるためスポット照射量の誤差は小さい。すなわち、図10(a)のふたつ目のスポットを例にとると、線量モニタにより計測される照射量はB+Cとなるが実際にふたつ目のスポットに照射される照射量はC+Dである。目標ビーム電流値が等しい場合、遅延照射量BとDはほぼ等しいため精度良く照射することができる。
【0084】
一方、図10(b)にビーム電流値をスポット毎に変更する場合を示す。図9(a)の場合と同様にひとつ目のスポットの照射量と遅延照射量をE,F、ふたつ目のスポットの照射量と遅延照射量をG,Hとする。遅延照射量はビーム電流値に依存するため、FとHは異なることが予想される。
【0085】
本実施の形態では、ビーム電流値に依存した遅延照射量を予め求めておき、その遅延照射量の分、差し引いた照射量のとき出射停止信号を出力することで遅延照射量を含めた照射量が各スポットの目標照射量と等しくなるようにする。このことにより目標照射量のビームを精度良く各スポットに照射することができる。
【0086】
また、遅延照射量は特に出射停止信号を出力する瞬間のビーム電流値に依存する。本実施の形態によれば、出射開始直後のビーム電流値に関係無く設定照射量に達する瞬間に照射中のビーム電流値が目標ビーム電流値に一致していればよいという利点がある。
【0087】
なお、本実施の形態は荷電粒子ビーム出射装置としてシンクロトロンを用いて説明したが、サイクロトロンの場合でもイオンビームの出射停止に際し遅延照射量は発生するため、同様の制御で照射時間の短縮が可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 荷電粒子ビーム発生装置
2 ビーム輸送系
3 ライナック
4 シンクロトロン
5 高周波印加装置
6 加速装置
7 制御システム
11 出射用デフレクタ
12 ビーム経路
14,15 偏向電磁石
16 U字状偏向電磁石
17 治療室
18 ガントリー
21 照射装置
24 カウチ
25 照射対象
31,32 走査電磁石
33 ビーム位置検出器
34 線量モニタ
37 照射標的
40 X線CT装置
41 照射計画システム
42 データベース
43 機器制御システム
44 位置決めシステム
45 照射野確認システム
46 中央制御装置
47 加速器制御部
48 照射装置制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを出射する荷電粒子ビーム発生装置と、
荷電粒子ビーム走査装置を有し、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを照射対象の照射標的に照射する照射装置と、
前記荷電粒子ビーム走査装置の走査電磁石の励磁量を一定にして前記照射標的に設定された1つのスポットの照射位置に前記荷電粒子ビームを照射し、前記荷電粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームの出射を停止した後、前記励磁量を変更して照射位置を次のスポットに変更し、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記荷電粒子ビームを再び出射して照射するよう前記荷電粒子ビーム発生装置と前記照射装置を制御する制御装置とを備え、
前記荷電粒子ビーム発生装置は、出射する荷電粒子ビームの電流値を調整する機能を有し、
前記制御装置は、各スポットの目標照射量に応じて出射する荷電粒子ビームの電流値を調整するよう前記荷電粒子ビーム発生装置を制御する第1制御手段を有することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記各スポットの目標照射量に応じて目標ビーム電流値を決定する第1演算手段を更に有し、
前記第1制御手段は、前記第1演算手段で決定した目標ビーム電流値を用いて前記荷電粒子ビーム発生装置から出射する荷電粒子ビームの電流値を調整することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記各スポットの照射位置に照射される前記荷電粒子ビームの照射量が前記目標照射量に達する前に前記荷電粒子ビーム発生装置に出射停止信号を出力して、前記荷電粒子ビームの出射を停止させるよう前記荷電粒子ビーム発生装置を制御する第2制御手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記各スポットの照射位置へ照射される前記荷電粒子ビームの照射量を計測する照射量検出装置を更に備え、
前記第2制御手段は、前記照射量検出装置で計測された照射量を入力し、前記照射量が前記目標照射量より小さい設定照射量に達したときに前記荷電粒子ビーム発生装置に出射停止信号を出力して、前記荷電粒子ビームの出射を停止させるよう前記荷電粒子ビーム発生装置を制御することを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記各スポットの目標照射量に応じて目標ビーム電流値を決定する第1演算手段と、前記目標ビーム電流値に応じて前記設定照射量を決定する第2演算手段とを更に有し、
前記第1制御手段は、前記第1演算手段で決定した目標ビーム電流値を用いて前記荷電粒子ビーム発生装置から出射する荷電粒子ビームの電流値を調整し、
前記第2制御手段は、前記照射量検出装置で計測された照射量が前記第2演算手段で決定した設定照射量に達したときに前記荷電粒子ビーム発生装置に出射停止信号を出力することを特徴とする請求項4記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
前記第1演算手段は、前記目標照射量と前記目標ビーム電流値の比が一定となる目標照射量と目標ビーム電流値との関係式を予め記憶しておき、この関係式を用いて前記目標照射量から前記目標ビーム電流値を算出することを特徴とする請求項2又は5に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項7】
前記第1演算手段は、スポット毎の照射時間が一定となるよう前記各スポットの目標照射量に応じて目標ビーム電流値を決定することを特徴とする請求項2又は5に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項8】
前記第2演算手段は、前記目標ビーム電流値に応じて前記出射停止信号出力後に照射される遅延照射量を決定し、前記目標照射量から前記遅延照射量を引いて前記設定照射量を決定することを特徴とする請求項5に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項9】
前記制御装置は、前記荷電粒子ビームの電流値と前記出射停止信号の出力後に照射される遅延照射量との関係を記憶する記憶装置を更に備え、
前記第2演算手段は、前記目標ビーム電流値を前記関係に参照して前記遅延照射量を決定することを特徴とする請求項8に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項10】
前記第2演算手段は、前記荷電粒子ビームの電流値と前記出射停止信号の出力後に照射される遅延照射量との関係を 測定データを近似した関数として予め設定しておき、この関数を用いて前記目標ビーム電流値から前記遅延照射量を決定することを特徴とする請求項8に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項11】
前記第2演算手段は、前記目標ビーム電流値と前記設定照射量の比が一定となる目標ビーム電流値と設定照射量の関係式を予め記憶しておき、この間形式を用いて前記目標ビーム電流値から前記設定照射量を算出することを特徴とする請求項5に記載の荷電粒子ビーム照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−378(P2011−378A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147664(P2009−147664)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】