荷電粒子線分析装置および分析方法
【課題】 X線のエネルギーに依らず、微小領域における高効率・高感度分析が可能な荷電粒子線分析装置を提供する。
【解決手段】 真空容器(5、6)内で荷電粒子線17を試料14に照射し、試料14から発生するX線3をX線検出器28で検出して試料14を分析する荷電粒子線分析装置4において、構成の異なるX線レンズ1(1a、1b)を真空容器(5、6)内に2個以上備える。X線レンズ交換に伴う真空容器の大気開放や真空引きが不要になり、高効率・高感度分析が可能となる。
【解決手段】 真空容器(5、6)内で荷電粒子線17を試料14に照射し、試料14から発生するX線3をX線検出器28で検出して試料14を分析する荷電粒子線分析装置4において、構成の異なるX線レンズ1(1a、1b)を真空容器(5、6)内に2個以上備える。X線レンズ交換に伴う真空容器の大気開放や真空引きが不要になり、高効率・高感度分析が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を用いて試料中に含まれる元素を高分解能且つ高感度に分析する荷電粒子線分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルオーダー領域でのX線分析技術として、極微小の電子プローブを試料上で走査し、電子線を照射した局所領域から発生するX線を分光するS(T)EM−EDXやS(T)EM−WDXが知られている。(EDX;Energy Dispersive X−ray Spectroscopy, WDX;Wavelenght Dispersive X−ray Spectroscopy)。S(T)EM−EDXまたはS(T)EM−WDXは、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)にエネルギー分散型X線検出器(EDX)を搭載、または波長分散型X線検出器(WDX)を搭載した装置である。なお、X線分光技術については、例えば特許文献1に、X線集束技術については特許文献2に、又X線分析技術については特許文献3に開示されている。
【0003】
EDX検出器では、検出器としてリチウムドリフトシリコン半導体検出器や、近年ではシリコンドリフト半導体検出器(SDD;Silicon Drift Detector)が用いられ、半導体検出器で発生するパルス信号を多波波高分光器で分光する事によりパラレル検出を可能としている。WDXでは、単色化するための回折格子と単色化したX線を検出する検出器が用いられ、回折格子と検出器を駆動させながら検出するシリアル検出となる。WDX検出器は、EDX検出器のエネルギー分解能120eVと比較して、エネルギー分解能が数eV〜十数eVと1ケタ以上高いために、X線スペクトルの重なりをなくせるため高感度な分析が可能である。
【0004】
WDX検出器では、電子線を試料に照射した点から放射状に発生するX線を高い収率で検出するために、図1に示すマルチキャピラリX線レンズ1(またはポリキャピラリX線レンズ)と呼ばれるX線集光レンズが搭載されている(例えば、特許文献1)。マルチキャピラリX線レンズ1は径が数um程度の中空細管(キャピラリ2)を数十万から数百万本束ねた構造をしており、図2に示す様に、キャピラリに入射したX線3はキャピラリ2の中で全反射を繰返しながらマルチキャピラリX線レンズ後段面から放出される。一般的に、WDXに搭載されているマルチキャピラリX線レンズは、平板形状回折格子に平行なX線を入射させるために、図1に示すようにマルチキャピラリX線レンズ後段の放出面側は平行な形状をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−294168号公報
【特許文献2】特開2007−93316号公報
【特許文献3】特開2007−17350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今後益々要求が高まると思われる微量元素(含有量が1%以下)のX線分析が可能な高分解能、高感度化への対応策について検討した。先に述べたようにエネルギー分解能はWDX検出器が優れていることから、WDX検出器について更に検討した。
【0007】
WDX検出器においては上述したように、マルチキャピラリに入射したX線3は、キャピラリ2内で全反射を繰返しながら、マルチキャピラリX線レンズ後段面より放出される。全反射条件は、キャピラリ2に入射するX線の角度が、式(1)に示す臨界角θcより以下の時である。
【0008】
【数1】
【0009】
式(1)中のρはキャピラリ2の密度(g/cc)、EはX線のエネルギー(kV)を示している。臨界角θcより大きな角度でX線が入射した場合には、X線は反射せずにキャピラリ側壁に吸収され、結果としてX線の収率は低下する。現状のWDXでは、低エネルギーの軽元素から高エネルギーの重元素領域まで対応した形状および材質(密度)のマルチキャピラリX線レンズを1つ装備している。しかしながら、1つのマルチキャピラリX線レンズで広範囲のX線エネルギーに対応している分、それぞれのX線エネルギーにおけるX線収率を最大限引出すこと出来ず、収率は不十分であった。X線の収率を最大限引上げるためには、X線のエネルギーに応じて、マルチキャピラリX線レンズに入射するX線が臨界角θcより以下となるよう、テーパー形状の異なるマルチキャピラリX線レンズ1、または材質(密度)の異なるマルチキャピラリX線レンズ1を用いることが必要となる。
【0010】
特許文献2では、マルチキャピラリレンズとフレネルゾーンプレートと呼ばれるX線レンズを組み合わせ、X線発生源とマルチキャピラリX線レンズ間のX線光軸上にフレネルゾーンプレートを設置したものがある。フレネルゾーンプレートを用いることでX線の集光点を小さくすることが可能となっている。フレネルゾーンプレートは、X線を透過させる物質と遮断する物質を同心円状に配置した構造となっている。X線を遮断する領域がおよそ面積の半分を占めるために、検出されるX線強度は半減してしまう。
【0011】
特許文献3では、軽元素に対応した回折格子と重元素に対応した回折格子および検出器をそれぞれ2つ備えた構成を取っている。前記2つの回折格子は、マルチキャピラリX線レンズにより平行にされた光軸上に設置され、同時に軽元素と重元素を検出できるシステムである。しかしながら、マルチキャピラリX線レンズにより放射される平行X線を2分割して検出することから、検出される各々のX線の量は半減してしまう。
【0012】
上記のS(T)EM−WDX装置を用いた局所領域の分析技術においては、今後高分解能、高感度化を進めるに際し、次のような問題点のあることが本発明者により見い出された。
【0013】
すなわち、上述したように、1つのマルチキャピラリX線レンズを用いて分析を行う場合には、X線エネルギーに対応した最適な構成をしていないために、X線の収率が不十分となる。
【0014】
上述したようにX線を高く収率する場合には、対象としたX線エネルギーに適したマルチキャピラリX線レンズを用いる。そのため、分析対象のX線エネルギー毎にマルチキャピラリX線レンズを交換する必要がある。X線レンズの交換作業には、S(T)EM−WDX装置の真空を一度大気開放し、マルチキャピラリX線レンズを交換して再度真空を引くため、数時間から半日を要する。
【0015】
また、上述したマルチキャピラリX線レンズの交換に伴うS(T)EM−WDX装置の大気開放により、1度大気開放した装置ではカーボンコンタミとなる成分がS(T)EM−WDX装置内に付着するといった問題が生じる。これは、カーボンコンタミとなる成分はX線分析におけるバックグランドとなるために、1%未満と非常に濃度の低い元素検出を困難にさせる。さらに、1%未満の微量濃度の元素分析が可能になるまでコンタミの成分の量を減少させるには、マルチキャピラリX線レンズ交換後から1ヶ月または数ヶ月以上連続排気しなければならないこと、従って時間的ロスが非常に大きくなることが分かった。
【0016】
本発明の目的は、X線のエネルギーに依らず、微小領域における高効率・高感度分析が可能な荷電粒子線分析装置および分析方法を提供することにある。
【0017】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0019】
真空容器内で荷電粒子線を試料に照射し、前記試料から発生するX線を検出して前記試料を分析する荷電粒子線分析装置において、構成の異なるX線レンズを前記真空容器内に2個以上装備していることを特徴とする荷電粒子線分析装置とする。
また、真空容器内で荷電粒子線を試料に照射し、前記試料から発生するX線を検出して前記試料を分析する荷電粒子線分析方法において、前記真空容器内には、構成の異なる2個以上のX線レンズが備えられ、前記X線のエネルギーに応じた前記X線レンズを用いて分析することを特徴とする荷電粒子線分析方法。
【発明の効果】
【0020】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、構成の異なるX線レンズを真空容器内に2個以上装備することにより、エネルギーに依らず、微小領域における高効率・高感度分析が可能な荷電粒子線分析装置および分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】マルチキャピラリX線レンズの概略断面図である。
【図2】マルチキャピラリX線レンズを構成するキャピラリの内部でのX線軌道を説明するためのキャピラリの概略断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子分析装置(電子線分析装置)の全体概略構成図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)の操作部の一例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)の操作部における画像表示部の一例を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)のX線レンズ検出系構成部を説明するための側面図である。
【図7】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)のX線レンズ検出系構成部を説明するための側面図である。
【図8】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)のX線レンズ検出系構成部を説明するための上面図である。
【図9】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)のX線レンズ検出系構成部を説明するための正面図である。
【図10】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)のX線レンズ検出系構成部を説明するための正面図である。
【図11】本発明の第2の実施例に係る荷電粒子分析装置(電子線分析装置)の全体概略構成図である。
【図12】図3に示す荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)を用いたX線分析方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施例を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
(実施例1)
第1の実施例について図3〜図10を用いて荷電粒子線分析装置の一つである電子線分析装置を例に説明するが、電子線の代わりにイオン線を用いることもできる。図3は、本実施例1における電子線分析装置の全体構成例を示す概略図である。図3に示す電子線分析装置4は、走査電子顕微鏡5、X線分析装置6、制御系7、操作部8より構成される。
【0023】
走査電子顕微鏡5は、電子銃9、コンデンサレンズ10、電子線偏向器11、対物レンズ12、試料ステージ13、二次電子検出器16により構成される。X線分析装置6は、X線レンズ1(1a、1b)、回折格子26(26a、26b、26c、26d、26e)、X線検出器28により構成される。制御系7は、電子銃制御部18、コンデンサレンズ制御部19、電子線偏向器制御部20、対物レンズ制御部21、二次電子検出系回路制御部22、ステージ制御部23、X線レンズ駆動系制御部29、X線検出系回路制御部30、回折格子交換部制御部31により構成される。操作部8は、画像表示部32、スペクトル表示部33、マルチキャピラリX線レンズ位置および回折格子選択条件を記憶する記憶部43、操作画面34により構成される。なお、符号42はX線レンズ保持部、符号25はX線レンズ駆動部、符号27は回折格子交換部を示す。
【0024】
電子銃9から発生した一次電子線17を、対物レンズ12で絞り試料14に照射し、かつ試料14に照射する際には偏向器11によって走査スピードおよび走査領域を制限する。走査のスピードに応じて、一次電子線17の照射箇所から発生する二次電子15を二次電子検出器16で検出する。二次電子検出器16で検出される二次電子信号を一次電子線17の走査信号と同期させて出力することで、図4に示すように、画像表示部32に試料14の二次電子像35を表示できる。
【0025】
X線分析装置6は波長分散型X線検出器(WDX)を含み、一次電子線17を試料14に照射した箇所から発生するX線3を、マルチキャピラリX線レンズ1で取込み、マルチキャピラリX線レンズ1により平行なX線3aにする。次に、マルチキャピラリX線レンズ1後段から放射されるX線を、平行光のX線3aを回折格子26で単色化したのち、X線検出器28で検出する。回折格子を用いることにより、高エネルギー分解能分析を行なうことができる。なお、符号3bは単色化されたX線を示す。検出されたX線は、図4に示すように、スペクトル表示部33にスペクトル36表示する。前記二次電子像35を取得する場合と同様に、X線検出器28で検出したX線信号を一次電子線17の走査信号と同期させて出力することで、画像表示部32に元素マップ像37を表示する事もできる。画像表示部32の画像出力を切り替えることで二次電子像35または元素マップ像37を表示する事も可能である。また、図5に示す様に、画像表示部32aに2つの画面を設けて、二次電子像35と元素マップ像37を同時に表示できるようにもなっている。
【0026】
本実施例の電子線分析装置を用いて含有量が1%以下の微量元素のX線分析を行なった結果、良好な結果がえられた。
【0027】
本X線分析装置では、X線分析装置6に複数のキャピラリで構成されたマルチキャピラリX線レンズ1を、真空容器内に複数個設けている。図3には、テーパー角度の異なる2つのマルチキャピラリX線レンズ1aおよびマルチキャピラリX線レンズ1bと便宜上記載しているが、2個とは限らず、構成の異なるものが2個以上設置されている事が望ましい。図3に示したマルチキャピラリX線レンズ1a、マルチキャピラリX線レンズ1bの側面図を図6に示す。マルチキャピラリX線レンズ1aは、高エネルギーのX線に対応したもので、マルチキャピラリX線レンズ1bは、低エネルギーのX線に対応したものである。キャピラリ2の材質が同じである場合、式(1)から、高エネルギーのX線の臨界角は小さくなり、反対に低エネルギーのX線の臨界角は大きくなる。
【0028】
先に述べたように、臨界角以下でキャピラリ2の側壁に入射したX線3は、図2に示す様に、キャピラリ2内で反射を繰返しながらマルチキャピラリX線レンズ1後段より放出される。しかしながら、臨界角より大きくキャピラリ2に入射したX線3は、キャピラリ側壁に侵入し側壁で吸収されるために、マルチキャピラリX線レンズ1後段より放出されない。すなわち、マルチキャピラリX線レンズ1後段面から放出されるX線量を多くしたい場合には、臨界角の小さい高エネルギーのX線に対してはテーパー角度の小さいマルチキャピラリX線レンズ1aを、臨界角の大きい低エネルギーのX線に対してはテーパー角度の大きいマルチキャピラリX線レンズ1bを用いるのが適している。ここでは、密度(材質)が同じマルチキャピラリX線レンズ1を用いたという仮定のためマルチキャピラリX線レンズ1のテーパー角の異なるマルチキャピラリX線レンズを用いたが、材質が異なるマルチキャピラリX線レンズを用いてもよい。なお、本実施例ではX線レンズとしてマルチキャピラリを用いたが、ゾーンプレートを用いることもできる。
【0029】
測定対象のX線が高エネルギーである場合、図6に示す様に、X線レンズ駆動部25により、高エネルギーX線に適用したテーパー角の浅いマルチキャピラリX線レンズ1aをX線3のX線の光軸中心に設置する。反対に、測定対象のX線が低エネルギーである場合、図7に示す様に、X線レンズ駆動部25により、低エネルギーX線に適用したテーパー角の深いマルチキャピラリX線レンズ1bをX線3のX線光軸中心に設置する。本実施例の構成では、X線レンズ保持部とX線レンズ交換部が一体型となっている。また、測定対象のX線のエネルギーに応じて用いる回折格子を交換する。例えば、回折格子26a〜回折格子26eを低エネルギー用(軽元素用)〜高エネルギー用(重元素用)とすることができる。この場合、マルチキャピラリX線レンズ1aを用いる場合には、回折格子26c〜回折格子26eのいずれかが選択され、マルチキャピラリX線レンズ1bを用いる場合には、回折格子26a〜回折格子26cのいずれかが選択される。マルチキャピラリX線レンズの数をM、回折格子の数をNとした場合、N≧Mが望ましい。
【0030】
図6および図7に示したように、マルチキャピラリX線レンズ1a、1bそれぞれの配置は、電子線17から試料14へ入射する方向をZ軸として、Z軸に対して垂直に配置している。また、図8に示す様に、マルチキャピラリX線レンズ1から試料14を見た方向をX軸とし、電子線17から試料14へ入射する方向Z軸のX−Z平面に垂直なY方向にマルチキャピラリX線レンズ1を配置しても構わない。前記複数のマルチキャピラリX線レンズ1の配置は、マルチキャピラリX線レンズそれぞれがX線光軸上に重ならい限り、X線3のX線光軸に対し垂直な面上(Y−Z面)に任意に設置される。なお、X線レンズは、X線レンズ駆動部25により、又は別途設けた駆動部により試料に近づける等、試料との距離を変えることができる。
【0031】
図9に示したものは、X線レンズ駆動部25上に円形のレンズ保持部42を設け、構成の異なるマルチキャピラリX線レンズ1a、1b、1c、1d、1eの5つを備えたものである。前記5つのマルチキャピラリX線レンズはX線レンズ交換軸38を回転させることで、図10に示す様に各々のマルチキャピラリX線レンズ位置を変えることが可能となっている。例えば、X線レンズ交換軸38を回転させて、図9に示したマルチキャピラリX線レンズ1aの箇所に図10に示す様にマルチキャピラリX線レンズ1bを移動・設置する。この場合、X線の光軸調整は、予め図9に示したマルチキャピラリX線レンズ1aをX線レンズ駆動部25でX線3のX線光軸中心に設置すれば、後はX線レンズ交換軸38を回転させるだけで、他のマルチキャピラリX線レンズ1b〜1eをX線光軸中心に設置する事が可能となる。なお、マルチキャピラリX線レンズを5つ設置したことにより、5つの回折格子を一つずつマルチキャピラリX線レンズに対応して割り当てることが可能となり、X線分析の感度が向上する。
【0032】
マルチキャピラリX線レンズを5つ設置した電子線分析装置を用いて含有量が1%以下の微量元素のX線分析を行なった結果、良好な結果がえられた。
【0033】
前記マルチキャピラリX線レンズ1は、電子線17から試料14へ入射するZ軸に対して垂直に設置されているが、これはX線回折格子26をZ軸に対して垂直に設置してあるためで、Z軸に対して必ず垂直に設置するとは限らない。マルチキャピラリX線レンズは、試料14と回折格子26とを結ぶ軸上に対して垂直であれば、任意に設置されるもので、回折格子26の設置条件が変化すれば、それに応じてマルチキャピラリX線レンズ1の設置位置も変化することは当然のこととなる。
【0034】
本実施例により、マルチキャピラリX線レンズ交換部により分析対象としたX線に対応した構成のマルチキャピラリX線レンズを選択する事が可能となり、エネルギーの異なるX線に応じてそれぞれ高収率なX線強度を得ることが可能となった。また、大気開放することなくレンズ交換部およびX線レンズ駆動部でマルチキャピラリX線レンズを選択出来るために、従来マルチキャピラリX線レンズを交換する際に必要であった大気開放、レンズ交換作業、再度真空引きが不要となった。
【0035】
さらに、マルチキャピラリX線レンズ作業に必要なS(T)EM−WDX装置の大気開放せずに済むため、大気開放で生じていたコンタミ成分の付着がなくなった。このため、従来コンタミ成分が微量検出に影響をなくすために真空引きから数ヶ月の連続的な真空排気状態にしておく必要があったが、それが不用となり、短期間での微量濃度の元素検出が可能となった。
【0036】
以上述べたように、本実施例によれば、X線のエネルギーに依らず、微小領域における高効率・高感度分析が可能な荷電粒子線分析装置を提供することができる。
(実施例2)
第2の実施例について、図11を用いて説明する。なお、実施例1に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り本実施例にも適用することができる。図11は本実施例に係る荷電粒子線分析装置(本実施例では、電子線分析装置4a)の全体概略構成図である。本実施例では、X線分析装置を走査透過電子顕微鏡に搭載した例について説明する。図11は、走査透過電子顕微鏡5aにX線分析装置6を搭載したものである。
【0037】
基本的な構成は、図3に示す走査電子顕微鏡5にX線分析装置6を搭載したものと同等である。走査透過電子顕微鏡5aの場合には、走査電子顕微鏡5の二次電子15を検出する二次電子検出器16に加えて、電子線17を試料14に照射して、試料14を透過および散乱した電子39を検出する透過散乱電子検出器40が、試料14下方に設置してある。透過・散乱電子検出器40で得られた信号を透過散乱電子検出系回路部41にて信号処理する。透過・散乱電子検出器40で検出される透過・散乱電子信号を一次電子線17の走査信号と同期させて出力することで、画像表示部32に試料14の透過・散乱電子像44(図示せず)を表示できる。一般的に散乱した電子の強度は、試料中に含まれる原子番号(Z)に比例することから、Zコントラスト像と呼ばれる。
【0038】
走査透過電子顕微鏡5aでは、図11に示す様に、対物レンズは上磁極12aと下磁極12bで構成され、X線を取り込むマルチキャピラリX線レンズ1aは対物レンズ上磁極12aと下磁極12bの間に設置する。対物レンズ上磁極12aと下磁極12b間のスペースは制限されるため、図11に示した様に、X線レンズ交換部24とX線レンズ駆動部25を分離した構成をとっている。即ち、分析に使うX線レンズを未使用の他のX線レンズと分離して移動できる構成とし、狭い領域への移動、試料への接近を容易とした。本実施例の構成では、X線レンズ保持部とX線レンズ交換部が分離型となっている。また、X線レンズ保持部42は、マルチキャピラリX線レンズ1a後段から放出されるX線が透過出来るように、中空の構造をしている。X線レンズを交換する場合には、X線レンズ駆動部25によりX線レンズ1aをX線レンズ交換部24まで移動してマルチキャピラリX線レンズ1bに交換する。すなわち、本装置においても、マルチキャピラリX線レンズ1a、1bの交換作業を真空内で実施可能となった。
【0039】
このため、実施例1同様、走査透過電子顕微鏡5aにX線分析装置6を搭載した装置においても、エネルギーの異なるX線に応じてそれぞれ高収率なX線強度を得ることが可能となった。また、レンズ交換作業に伴う大気開放、レンズ交換作業、再度真空引きが不要となった。さらに、大気開放で生じていたコンタミ成分の付着がなくなり短期間での微量濃度の元素検出が可能となった。
【0040】
本実施例によれば、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、分析に使うX線レンズを未使用の他のX線レンズと分離して移動できる構成とすることにより、狭い領域への移動が可能となり、試料への接近を容易に行なうことができる。
(実施例3)
第3の実施例について、図12を用いて説明する。なお、実施例1又は2に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り本実施例にも適用することができる。本実施例では、図3に示したX線分析装置を走査電子顕微鏡に搭載した電子線分析装置(分析電子顕微鏡装置)を用いたX線分析方法について図12のフローチャートを用いて説明する。
【0041】
まず、マルチキャピラリX線レンズ1(1a、1b)のX線光軸調整用試料14a(図示せず)を分析電子顕微鏡装置4に搬入し、一次電子線17の電子光学系の軸調整を行う(S101)。X線のエネルギー毎にマルチキャピラリX線レンズ1(1a、1b)の光軸調整を行うため、X線光軸調整用試料14aには既知の元素が高濃度で多数種含まれている試料を用いる。
【0042】
次に、構成の異なるマルチキャピラリX線レンズ1(1a、1b)のX線光軸調整を行う(S102)。ここで、構成の異なるマルチキャピラリX線レンズ1(1a、1b)のX線光軸調整例について説明する。たとえば、重元素Aを含む試料を用いた場合、図3に示したテーパー角度の浅い形状のマルチキャピラリX線レンズ1aをX線駆動部25にてX線光軸上に設置する。また、回折格子交換部27により、重元素Aに感度の高い回折格子26dをX線光軸上に設置する。そして、X線光軸調整用試料14aに電子線を照射しX線3を発生させた状態で、マルチキャピラリX線レンズ1aを、図7に示したX、Y、Z軸方向に任意に移動させながら、X線検出器28にて重元素AのX線強度を計測する。マルチキャピラリX線レンズ1aを移動してX線強度が最大となった位置がマルチキャピラリX線レンズ1aのX線光軸中心に来た条件である。前記最大となったX線信号量時のマルチキャピラリX線レンズ1aの位置および回折格子26dの種類を記憶部43に記憶する。次に、他の構成のマルチキャピラリX線レンズ1bの光軸を行う。前記マルチキャピラリX線レンズ1aの調整と同様の操作を行い、マルチキャピラリX線レンズ1bのX線光軸中心位置および回折格子26aの種類を記憶部43にて記憶する。上記操作を元素に対して構成の異なるマルチキャピラリX線レンズ毎に軸調整を行い、X線光軸位置および回折格子の種類を記憶させておく。
【0043】
次に、マルチキャピラリX線レンズ1光軸調整用の試料を搬出し(S103)、分析する被検査試料14を電子線分析装置4に搬入する(S104)。
【0044】
次に、操作画面34にて分析する元素を選択する(S105)。この時選択した元素を元に、前記ステップ(S102)で記憶した条件を読み出し、元素に対応したマルチキャピラリX線レンズおよび回折格子が選択される。また、マルチキャピラリX線レンズは、X線レンズ駆動部25によりX線光軸の中心位置に設置される。
【0045】
次に、被検査試料14の二次電子像35取得し、二次電子像35の分析領域を選択して、分析をスタートさせる(S106)。二次電子像35は画像表示部32に表示され、分析領域は点分析、ライン分析、画像全体領域分析が出来るようになっている。ここでは二次電子像35を用いているが、図11に示す電子線分析装置4aを用いた場合には、二次電子像35とは別に、透過・散乱電子像44を用いてもよい。
【0046】
次に、分析箇所の元素スペクトル36をスペクトル表示部33に表示、もしくは元素マップ像37に表示させる(S107)。
【0047】
次に、他の元素を分析する場合には、S105の操作に戻り、他の元素を選択する。他の元素を選択した時は、前記同様、S102で記憶した条件を読み出し、目的の元素に対応したマルチキャピラリX線レンズおよび回折格子が選択され、マルチキャピラリX線レンズはX線光軸の中心位置に設置される。
【0048】
次に、S106同様に所望の分析箇所を選択し分析をスタートさせ、S107同様に分析結果(元素スペクトルまたは元素マップ)を表示させる。目的の元素分析を行うまで前記S105からS107の一連の操作を順次繰り返す。目的の元素分析が終了し、他に評価する試料がない場合には、分析装置4から被検査試料14を搬出し(S108)し、測定を終了する(S109)。
【0049】
他に評価する試料がある場合には、評価が終了した試料を搬出した(S108)の後、再度、他の評価試料14を分析装置に搬入し(S104)、S105〜S107の操作を繰返し行い、目的とする1種もしくは複数種の元素分析を行う。目的の元素分析および他に評価する試料がない場合には、評価試料を搬出し(S108)、測定を終了する(S109)。
【0050】
前記一連の分析では、記憶部43により元素毎に対応したマルチキャピラリX線レンズと回折格子が選択・設置されるため、自動的に高感度な分析が可能となる。
【0051】
上記ステップを踏むことによって、マルチキャピラリX線レンズおよび回折格子をエネルギーの異なるX線に応じてそれぞれ組合せて用いることが出来、高収率なX線強度を得ることが可能となった。また実施例1同様に、レンズ交換作業に伴う大気開放、レンズ交換作業、再度真空引きが不要となった。さらに、実施例で述べたように、大気開放で生じていたコンタミ成分の付着がなくなり短期間での微量濃度の元素検出が可能となった。
【0052】
以上述べたように、本実施例によれば、X線のエネルギーに依らず、微小領域における高効率・高感度分析が可能なX線分析方法を提供することができる。
【0053】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明による分析電子顕微鏡装置および分析方法は、デバイスの不良解析に有益な技術であり、これに限らず、新材料開発における微量濃度元素を高感度に分析する技術として広く適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…マルチキャピラリX線レンズ、1a…テーパー角の浅いマルチキャピラリX線レンズ、1b…テーパー角の深いマルチキャピラリX線レンズ、2…キャピラリ、3…X線、4…電子線分析装置、4a…電子線分析装置、5…走査電子顕微鏡、6…X線分析装置、7…制御系、8…操作部、9…電子銃、10…コンデンサレンズ、11…偏向器、12…対物レンズ、13…試料ステージ、14…試料、14a…X線光軸調整用試料、15…二次電子、16…二次電子検出器、17…一次電子、18…電子銃制御部、19…コンデンサレンズ制御部、20…偏向器制御部、21…対物レンズ制御部、22…二次電子検出系回路制御部、23…ステージ制御部、24…X線レンズ交換部、25…X線レンズ駆動部、26、26a…回折格子、27…回折格子交換部、28…X線検出器、29…X線レンズ駆動系制御部、30…X線検出系回路制御部、31…回折格子交換制御部、32…画像表示部、33…スペクトル表示部、34…操作画面、35…二次電子像、36…スペクトル、37…元素マップ像、38…X線レンズ交換軸、39…透過・散乱電子、40…透過・散乱電子検出器、41…透過・散乱電子検出系回路部、42…X線レンズ保持部、43…記憶部、44…透過・散乱電子像。
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を用いて試料中に含まれる元素を高分解能且つ高感度に分析する荷電粒子線分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルオーダー領域でのX線分析技術として、極微小の電子プローブを試料上で走査し、電子線を照射した局所領域から発生するX線を分光するS(T)EM−EDXやS(T)EM−WDXが知られている。(EDX;Energy Dispersive X−ray Spectroscopy, WDX;Wavelenght Dispersive X−ray Spectroscopy)。S(T)EM−EDXまたはS(T)EM−WDXは、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)にエネルギー分散型X線検出器(EDX)を搭載、または波長分散型X線検出器(WDX)を搭載した装置である。なお、X線分光技術については、例えば特許文献1に、X線集束技術については特許文献2に、又X線分析技術については特許文献3に開示されている。
【0003】
EDX検出器では、検出器としてリチウムドリフトシリコン半導体検出器や、近年ではシリコンドリフト半導体検出器(SDD;Silicon Drift Detector)が用いられ、半導体検出器で発生するパルス信号を多波波高分光器で分光する事によりパラレル検出を可能としている。WDXでは、単色化するための回折格子と単色化したX線を検出する検出器が用いられ、回折格子と検出器を駆動させながら検出するシリアル検出となる。WDX検出器は、EDX検出器のエネルギー分解能120eVと比較して、エネルギー分解能が数eV〜十数eVと1ケタ以上高いために、X線スペクトルの重なりをなくせるため高感度な分析が可能である。
【0004】
WDX検出器では、電子線を試料に照射した点から放射状に発生するX線を高い収率で検出するために、図1に示すマルチキャピラリX線レンズ1(またはポリキャピラリX線レンズ)と呼ばれるX線集光レンズが搭載されている(例えば、特許文献1)。マルチキャピラリX線レンズ1は径が数um程度の中空細管(キャピラリ2)を数十万から数百万本束ねた構造をしており、図2に示す様に、キャピラリに入射したX線3はキャピラリ2の中で全反射を繰返しながらマルチキャピラリX線レンズ後段面から放出される。一般的に、WDXに搭載されているマルチキャピラリX線レンズは、平板形状回折格子に平行なX線を入射させるために、図1に示すようにマルチキャピラリX線レンズ後段の放出面側は平行な形状をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−294168号公報
【特許文献2】特開2007−93316号公報
【特許文献3】特開2007−17350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今後益々要求が高まると思われる微量元素(含有量が1%以下)のX線分析が可能な高分解能、高感度化への対応策について検討した。先に述べたようにエネルギー分解能はWDX検出器が優れていることから、WDX検出器について更に検討した。
【0007】
WDX検出器においては上述したように、マルチキャピラリに入射したX線3は、キャピラリ2内で全反射を繰返しながら、マルチキャピラリX線レンズ後段面より放出される。全反射条件は、キャピラリ2に入射するX線の角度が、式(1)に示す臨界角θcより以下の時である。
【0008】
【数1】
【0009】
式(1)中のρはキャピラリ2の密度(g/cc)、EはX線のエネルギー(kV)を示している。臨界角θcより大きな角度でX線が入射した場合には、X線は反射せずにキャピラリ側壁に吸収され、結果としてX線の収率は低下する。現状のWDXでは、低エネルギーの軽元素から高エネルギーの重元素領域まで対応した形状および材質(密度)のマルチキャピラリX線レンズを1つ装備している。しかしながら、1つのマルチキャピラリX線レンズで広範囲のX線エネルギーに対応している分、それぞれのX線エネルギーにおけるX線収率を最大限引出すこと出来ず、収率は不十分であった。X線の収率を最大限引上げるためには、X線のエネルギーに応じて、マルチキャピラリX線レンズに入射するX線が臨界角θcより以下となるよう、テーパー形状の異なるマルチキャピラリX線レンズ1、または材質(密度)の異なるマルチキャピラリX線レンズ1を用いることが必要となる。
【0010】
特許文献2では、マルチキャピラリレンズとフレネルゾーンプレートと呼ばれるX線レンズを組み合わせ、X線発生源とマルチキャピラリX線レンズ間のX線光軸上にフレネルゾーンプレートを設置したものがある。フレネルゾーンプレートを用いることでX線の集光点を小さくすることが可能となっている。フレネルゾーンプレートは、X線を透過させる物質と遮断する物質を同心円状に配置した構造となっている。X線を遮断する領域がおよそ面積の半分を占めるために、検出されるX線強度は半減してしまう。
【0011】
特許文献3では、軽元素に対応した回折格子と重元素に対応した回折格子および検出器をそれぞれ2つ備えた構成を取っている。前記2つの回折格子は、マルチキャピラリX線レンズにより平行にされた光軸上に設置され、同時に軽元素と重元素を検出できるシステムである。しかしながら、マルチキャピラリX線レンズにより放射される平行X線を2分割して検出することから、検出される各々のX線の量は半減してしまう。
【0012】
上記のS(T)EM−WDX装置を用いた局所領域の分析技術においては、今後高分解能、高感度化を進めるに際し、次のような問題点のあることが本発明者により見い出された。
【0013】
すなわち、上述したように、1つのマルチキャピラリX線レンズを用いて分析を行う場合には、X線エネルギーに対応した最適な構成をしていないために、X線の収率が不十分となる。
【0014】
上述したようにX線を高く収率する場合には、対象としたX線エネルギーに適したマルチキャピラリX線レンズを用いる。そのため、分析対象のX線エネルギー毎にマルチキャピラリX線レンズを交換する必要がある。X線レンズの交換作業には、S(T)EM−WDX装置の真空を一度大気開放し、マルチキャピラリX線レンズを交換して再度真空を引くため、数時間から半日を要する。
【0015】
また、上述したマルチキャピラリX線レンズの交換に伴うS(T)EM−WDX装置の大気開放により、1度大気開放した装置ではカーボンコンタミとなる成分がS(T)EM−WDX装置内に付着するといった問題が生じる。これは、カーボンコンタミとなる成分はX線分析におけるバックグランドとなるために、1%未満と非常に濃度の低い元素検出を困難にさせる。さらに、1%未満の微量濃度の元素分析が可能になるまでコンタミの成分の量を減少させるには、マルチキャピラリX線レンズ交換後から1ヶ月または数ヶ月以上連続排気しなければならないこと、従って時間的ロスが非常に大きくなることが分かった。
【0016】
本発明の目的は、X線のエネルギーに依らず、微小領域における高効率・高感度分析が可能な荷電粒子線分析装置および分析方法を提供することにある。
【0017】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0019】
真空容器内で荷電粒子線を試料に照射し、前記試料から発生するX線を検出して前記試料を分析する荷電粒子線分析装置において、構成の異なるX線レンズを前記真空容器内に2個以上装備していることを特徴とする荷電粒子線分析装置とする。
また、真空容器内で荷電粒子線を試料に照射し、前記試料から発生するX線を検出して前記試料を分析する荷電粒子線分析方法において、前記真空容器内には、構成の異なる2個以上のX線レンズが備えられ、前記X線のエネルギーに応じた前記X線レンズを用いて分析することを特徴とする荷電粒子線分析方法。
【発明の効果】
【0020】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、構成の異なるX線レンズを真空容器内に2個以上装備することにより、エネルギーに依らず、微小領域における高効率・高感度分析が可能な荷電粒子線分析装置および分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】マルチキャピラリX線レンズの概略断面図である。
【図2】マルチキャピラリX線レンズを構成するキャピラリの内部でのX線軌道を説明するためのキャピラリの概略断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子分析装置(電子線分析装置)の全体概略構成図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)の操作部の一例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)の操作部における画像表示部の一例を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)のX線レンズ検出系構成部を説明するための側面図である。
【図7】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)のX線レンズ検出系構成部を説明するための側面図である。
【図8】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)のX線レンズ検出系構成部を説明するための上面図である。
【図9】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)のX線レンズ検出系構成部を説明するための正面図である。
【図10】本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)のX線レンズ検出系構成部を説明するための正面図である。
【図11】本発明の第2の実施例に係る荷電粒子分析装置(電子線分析装置)の全体概略構成図である。
【図12】図3に示す荷電粒子線分析装置(電子線分析装置)を用いたX線分析方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施例を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
(実施例1)
第1の実施例について図3〜図10を用いて荷電粒子線分析装置の一つである電子線分析装置を例に説明するが、電子線の代わりにイオン線を用いることもできる。図3は、本実施例1における電子線分析装置の全体構成例を示す概略図である。図3に示す電子線分析装置4は、走査電子顕微鏡5、X線分析装置6、制御系7、操作部8より構成される。
【0023】
走査電子顕微鏡5は、電子銃9、コンデンサレンズ10、電子線偏向器11、対物レンズ12、試料ステージ13、二次電子検出器16により構成される。X線分析装置6は、X線レンズ1(1a、1b)、回折格子26(26a、26b、26c、26d、26e)、X線検出器28により構成される。制御系7は、電子銃制御部18、コンデンサレンズ制御部19、電子線偏向器制御部20、対物レンズ制御部21、二次電子検出系回路制御部22、ステージ制御部23、X線レンズ駆動系制御部29、X線検出系回路制御部30、回折格子交換部制御部31により構成される。操作部8は、画像表示部32、スペクトル表示部33、マルチキャピラリX線レンズ位置および回折格子選択条件を記憶する記憶部43、操作画面34により構成される。なお、符号42はX線レンズ保持部、符号25はX線レンズ駆動部、符号27は回折格子交換部を示す。
【0024】
電子銃9から発生した一次電子線17を、対物レンズ12で絞り試料14に照射し、かつ試料14に照射する際には偏向器11によって走査スピードおよび走査領域を制限する。走査のスピードに応じて、一次電子線17の照射箇所から発生する二次電子15を二次電子検出器16で検出する。二次電子検出器16で検出される二次電子信号を一次電子線17の走査信号と同期させて出力することで、図4に示すように、画像表示部32に試料14の二次電子像35を表示できる。
【0025】
X線分析装置6は波長分散型X線検出器(WDX)を含み、一次電子線17を試料14に照射した箇所から発生するX線3を、マルチキャピラリX線レンズ1で取込み、マルチキャピラリX線レンズ1により平行なX線3aにする。次に、マルチキャピラリX線レンズ1後段から放射されるX線を、平行光のX線3aを回折格子26で単色化したのち、X線検出器28で検出する。回折格子を用いることにより、高エネルギー分解能分析を行なうことができる。なお、符号3bは単色化されたX線を示す。検出されたX線は、図4に示すように、スペクトル表示部33にスペクトル36表示する。前記二次電子像35を取得する場合と同様に、X線検出器28で検出したX線信号を一次電子線17の走査信号と同期させて出力することで、画像表示部32に元素マップ像37を表示する事もできる。画像表示部32の画像出力を切り替えることで二次電子像35または元素マップ像37を表示する事も可能である。また、図5に示す様に、画像表示部32aに2つの画面を設けて、二次電子像35と元素マップ像37を同時に表示できるようにもなっている。
【0026】
本実施例の電子線分析装置を用いて含有量が1%以下の微量元素のX線分析を行なった結果、良好な結果がえられた。
【0027】
本X線分析装置では、X線分析装置6に複数のキャピラリで構成されたマルチキャピラリX線レンズ1を、真空容器内に複数個設けている。図3には、テーパー角度の異なる2つのマルチキャピラリX線レンズ1aおよびマルチキャピラリX線レンズ1bと便宜上記載しているが、2個とは限らず、構成の異なるものが2個以上設置されている事が望ましい。図3に示したマルチキャピラリX線レンズ1a、マルチキャピラリX線レンズ1bの側面図を図6に示す。マルチキャピラリX線レンズ1aは、高エネルギーのX線に対応したもので、マルチキャピラリX線レンズ1bは、低エネルギーのX線に対応したものである。キャピラリ2の材質が同じである場合、式(1)から、高エネルギーのX線の臨界角は小さくなり、反対に低エネルギーのX線の臨界角は大きくなる。
【0028】
先に述べたように、臨界角以下でキャピラリ2の側壁に入射したX線3は、図2に示す様に、キャピラリ2内で反射を繰返しながらマルチキャピラリX線レンズ1後段より放出される。しかしながら、臨界角より大きくキャピラリ2に入射したX線3は、キャピラリ側壁に侵入し側壁で吸収されるために、マルチキャピラリX線レンズ1後段より放出されない。すなわち、マルチキャピラリX線レンズ1後段面から放出されるX線量を多くしたい場合には、臨界角の小さい高エネルギーのX線に対してはテーパー角度の小さいマルチキャピラリX線レンズ1aを、臨界角の大きい低エネルギーのX線に対してはテーパー角度の大きいマルチキャピラリX線レンズ1bを用いるのが適している。ここでは、密度(材質)が同じマルチキャピラリX線レンズ1を用いたという仮定のためマルチキャピラリX線レンズ1のテーパー角の異なるマルチキャピラリX線レンズを用いたが、材質が異なるマルチキャピラリX線レンズを用いてもよい。なお、本実施例ではX線レンズとしてマルチキャピラリを用いたが、ゾーンプレートを用いることもできる。
【0029】
測定対象のX線が高エネルギーである場合、図6に示す様に、X線レンズ駆動部25により、高エネルギーX線に適用したテーパー角の浅いマルチキャピラリX線レンズ1aをX線3のX線の光軸中心に設置する。反対に、測定対象のX線が低エネルギーである場合、図7に示す様に、X線レンズ駆動部25により、低エネルギーX線に適用したテーパー角の深いマルチキャピラリX線レンズ1bをX線3のX線光軸中心に設置する。本実施例の構成では、X線レンズ保持部とX線レンズ交換部が一体型となっている。また、測定対象のX線のエネルギーに応じて用いる回折格子を交換する。例えば、回折格子26a〜回折格子26eを低エネルギー用(軽元素用)〜高エネルギー用(重元素用)とすることができる。この場合、マルチキャピラリX線レンズ1aを用いる場合には、回折格子26c〜回折格子26eのいずれかが選択され、マルチキャピラリX線レンズ1bを用いる場合には、回折格子26a〜回折格子26cのいずれかが選択される。マルチキャピラリX線レンズの数をM、回折格子の数をNとした場合、N≧Mが望ましい。
【0030】
図6および図7に示したように、マルチキャピラリX線レンズ1a、1bそれぞれの配置は、電子線17から試料14へ入射する方向をZ軸として、Z軸に対して垂直に配置している。また、図8に示す様に、マルチキャピラリX線レンズ1から試料14を見た方向をX軸とし、電子線17から試料14へ入射する方向Z軸のX−Z平面に垂直なY方向にマルチキャピラリX線レンズ1を配置しても構わない。前記複数のマルチキャピラリX線レンズ1の配置は、マルチキャピラリX線レンズそれぞれがX線光軸上に重ならい限り、X線3のX線光軸に対し垂直な面上(Y−Z面)に任意に設置される。なお、X線レンズは、X線レンズ駆動部25により、又は別途設けた駆動部により試料に近づける等、試料との距離を変えることができる。
【0031】
図9に示したものは、X線レンズ駆動部25上に円形のレンズ保持部42を設け、構成の異なるマルチキャピラリX線レンズ1a、1b、1c、1d、1eの5つを備えたものである。前記5つのマルチキャピラリX線レンズはX線レンズ交換軸38を回転させることで、図10に示す様に各々のマルチキャピラリX線レンズ位置を変えることが可能となっている。例えば、X線レンズ交換軸38を回転させて、図9に示したマルチキャピラリX線レンズ1aの箇所に図10に示す様にマルチキャピラリX線レンズ1bを移動・設置する。この場合、X線の光軸調整は、予め図9に示したマルチキャピラリX線レンズ1aをX線レンズ駆動部25でX線3のX線光軸中心に設置すれば、後はX線レンズ交換軸38を回転させるだけで、他のマルチキャピラリX線レンズ1b〜1eをX線光軸中心に設置する事が可能となる。なお、マルチキャピラリX線レンズを5つ設置したことにより、5つの回折格子を一つずつマルチキャピラリX線レンズに対応して割り当てることが可能となり、X線分析の感度が向上する。
【0032】
マルチキャピラリX線レンズを5つ設置した電子線分析装置を用いて含有量が1%以下の微量元素のX線分析を行なった結果、良好な結果がえられた。
【0033】
前記マルチキャピラリX線レンズ1は、電子線17から試料14へ入射するZ軸に対して垂直に設置されているが、これはX線回折格子26をZ軸に対して垂直に設置してあるためで、Z軸に対して必ず垂直に設置するとは限らない。マルチキャピラリX線レンズは、試料14と回折格子26とを結ぶ軸上に対して垂直であれば、任意に設置されるもので、回折格子26の設置条件が変化すれば、それに応じてマルチキャピラリX線レンズ1の設置位置も変化することは当然のこととなる。
【0034】
本実施例により、マルチキャピラリX線レンズ交換部により分析対象としたX線に対応した構成のマルチキャピラリX線レンズを選択する事が可能となり、エネルギーの異なるX線に応じてそれぞれ高収率なX線強度を得ることが可能となった。また、大気開放することなくレンズ交換部およびX線レンズ駆動部でマルチキャピラリX線レンズを選択出来るために、従来マルチキャピラリX線レンズを交換する際に必要であった大気開放、レンズ交換作業、再度真空引きが不要となった。
【0035】
さらに、マルチキャピラリX線レンズ作業に必要なS(T)EM−WDX装置の大気開放せずに済むため、大気開放で生じていたコンタミ成分の付着がなくなった。このため、従来コンタミ成分が微量検出に影響をなくすために真空引きから数ヶ月の連続的な真空排気状態にしておく必要があったが、それが不用となり、短期間での微量濃度の元素検出が可能となった。
【0036】
以上述べたように、本実施例によれば、X線のエネルギーに依らず、微小領域における高効率・高感度分析が可能な荷電粒子線分析装置を提供することができる。
(実施例2)
第2の実施例について、図11を用いて説明する。なお、実施例1に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り本実施例にも適用することができる。図11は本実施例に係る荷電粒子線分析装置(本実施例では、電子線分析装置4a)の全体概略構成図である。本実施例では、X線分析装置を走査透過電子顕微鏡に搭載した例について説明する。図11は、走査透過電子顕微鏡5aにX線分析装置6を搭載したものである。
【0037】
基本的な構成は、図3に示す走査電子顕微鏡5にX線分析装置6を搭載したものと同等である。走査透過電子顕微鏡5aの場合には、走査電子顕微鏡5の二次電子15を検出する二次電子検出器16に加えて、電子線17を試料14に照射して、試料14を透過および散乱した電子39を検出する透過散乱電子検出器40が、試料14下方に設置してある。透過・散乱電子検出器40で得られた信号を透過散乱電子検出系回路部41にて信号処理する。透過・散乱電子検出器40で検出される透過・散乱電子信号を一次電子線17の走査信号と同期させて出力することで、画像表示部32に試料14の透過・散乱電子像44(図示せず)を表示できる。一般的に散乱した電子の強度は、試料中に含まれる原子番号(Z)に比例することから、Zコントラスト像と呼ばれる。
【0038】
走査透過電子顕微鏡5aでは、図11に示す様に、対物レンズは上磁極12aと下磁極12bで構成され、X線を取り込むマルチキャピラリX線レンズ1aは対物レンズ上磁極12aと下磁極12bの間に設置する。対物レンズ上磁極12aと下磁極12b間のスペースは制限されるため、図11に示した様に、X線レンズ交換部24とX線レンズ駆動部25を分離した構成をとっている。即ち、分析に使うX線レンズを未使用の他のX線レンズと分離して移動できる構成とし、狭い領域への移動、試料への接近を容易とした。本実施例の構成では、X線レンズ保持部とX線レンズ交換部が分離型となっている。また、X線レンズ保持部42は、マルチキャピラリX線レンズ1a後段から放出されるX線が透過出来るように、中空の構造をしている。X線レンズを交換する場合には、X線レンズ駆動部25によりX線レンズ1aをX線レンズ交換部24まで移動してマルチキャピラリX線レンズ1bに交換する。すなわち、本装置においても、マルチキャピラリX線レンズ1a、1bの交換作業を真空内で実施可能となった。
【0039】
このため、実施例1同様、走査透過電子顕微鏡5aにX線分析装置6を搭載した装置においても、エネルギーの異なるX線に応じてそれぞれ高収率なX線強度を得ることが可能となった。また、レンズ交換作業に伴う大気開放、レンズ交換作業、再度真空引きが不要となった。さらに、大気開放で生じていたコンタミ成分の付着がなくなり短期間での微量濃度の元素検出が可能となった。
【0040】
本実施例によれば、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、分析に使うX線レンズを未使用の他のX線レンズと分離して移動できる構成とすることにより、狭い領域への移動が可能となり、試料への接近を容易に行なうことができる。
(実施例3)
第3の実施例について、図12を用いて説明する。なお、実施例1又は2に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り本実施例にも適用することができる。本実施例では、図3に示したX線分析装置を走査電子顕微鏡に搭載した電子線分析装置(分析電子顕微鏡装置)を用いたX線分析方法について図12のフローチャートを用いて説明する。
【0041】
まず、マルチキャピラリX線レンズ1(1a、1b)のX線光軸調整用試料14a(図示せず)を分析電子顕微鏡装置4に搬入し、一次電子線17の電子光学系の軸調整を行う(S101)。X線のエネルギー毎にマルチキャピラリX線レンズ1(1a、1b)の光軸調整を行うため、X線光軸調整用試料14aには既知の元素が高濃度で多数種含まれている試料を用いる。
【0042】
次に、構成の異なるマルチキャピラリX線レンズ1(1a、1b)のX線光軸調整を行う(S102)。ここで、構成の異なるマルチキャピラリX線レンズ1(1a、1b)のX線光軸調整例について説明する。たとえば、重元素Aを含む試料を用いた場合、図3に示したテーパー角度の浅い形状のマルチキャピラリX線レンズ1aをX線駆動部25にてX線光軸上に設置する。また、回折格子交換部27により、重元素Aに感度の高い回折格子26dをX線光軸上に設置する。そして、X線光軸調整用試料14aに電子線を照射しX線3を発生させた状態で、マルチキャピラリX線レンズ1aを、図7に示したX、Y、Z軸方向に任意に移動させながら、X線検出器28にて重元素AのX線強度を計測する。マルチキャピラリX線レンズ1aを移動してX線強度が最大となった位置がマルチキャピラリX線レンズ1aのX線光軸中心に来た条件である。前記最大となったX線信号量時のマルチキャピラリX線レンズ1aの位置および回折格子26dの種類を記憶部43に記憶する。次に、他の構成のマルチキャピラリX線レンズ1bの光軸を行う。前記マルチキャピラリX線レンズ1aの調整と同様の操作を行い、マルチキャピラリX線レンズ1bのX線光軸中心位置および回折格子26aの種類を記憶部43にて記憶する。上記操作を元素に対して構成の異なるマルチキャピラリX線レンズ毎に軸調整を行い、X線光軸位置および回折格子の種類を記憶させておく。
【0043】
次に、マルチキャピラリX線レンズ1光軸調整用の試料を搬出し(S103)、分析する被検査試料14を電子線分析装置4に搬入する(S104)。
【0044】
次に、操作画面34にて分析する元素を選択する(S105)。この時選択した元素を元に、前記ステップ(S102)で記憶した条件を読み出し、元素に対応したマルチキャピラリX線レンズおよび回折格子が選択される。また、マルチキャピラリX線レンズは、X線レンズ駆動部25によりX線光軸の中心位置に設置される。
【0045】
次に、被検査試料14の二次電子像35取得し、二次電子像35の分析領域を選択して、分析をスタートさせる(S106)。二次電子像35は画像表示部32に表示され、分析領域は点分析、ライン分析、画像全体領域分析が出来るようになっている。ここでは二次電子像35を用いているが、図11に示す電子線分析装置4aを用いた場合には、二次電子像35とは別に、透過・散乱電子像44を用いてもよい。
【0046】
次に、分析箇所の元素スペクトル36をスペクトル表示部33に表示、もしくは元素マップ像37に表示させる(S107)。
【0047】
次に、他の元素を分析する場合には、S105の操作に戻り、他の元素を選択する。他の元素を選択した時は、前記同様、S102で記憶した条件を読み出し、目的の元素に対応したマルチキャピラリX線レンズおよび回折格子が選択され、マルチキャピラリX線レンズはX線光軸の中心位置に設置される。
【0048】
次に、S106同様に所望の分析箇所を選択し分析をスタートさせ、S107同様に分析結果(元素スペクトルまたは元素マップ)を表示させる。目的の元素分析を行うまで前記S105からS107の一連の操作を順次繰り返す。目的の元素分析が終了し、他に評価する試料がない場合には、分析装置4から被検査試料14を搬出し(S108)し、測定を終了する(S109)。
【0049】
他に評価する試料がある場合には、評価が終了した試料を搬出した(S108)の後、再度、他の評価試料14を分析装置に搬入し(S104)、S105〜S107の操作を繰返し行い、目的とする1種もしくは複数種の元素分析を行う。目的の元素分析および他に評価する試料がない場合には、評価試料を搬出し(S108)、測定を終了する(S109)。
【0050】
前記一連の分析では、記憶部43により元素毎に対応したマルチキャピラリX線レンズと回折格子が選択・設置されるため、自動的に高感度な分析が可能となる。
【0051】
上記ステップを踏むことによって、マルチキャピラリX線レンズおよび回折格子をエネルギーの異なるX線に応じてそれぞれ組合せて用いることが出来、高収率なX線強度を得ることが可能となった。また実施例1同様に、レンズ交換作業に伴う大気開放、レンズ交換作業、再度真空引きが不要となった。さらに、実施例で述べたように、大気開放で生じていたコンタミ成分の付着がなくなり短期間での微量濃度の元素検出が可能となった。
【0052】
以上述べたように、本実施例によれば、X線のエネルギーに依らず、微小領域における高効率・高感度分析が可能なX線分析方法を提供することができる。
【0053】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明による分析電子顕微鏡装置および分析方法は、デバイスの不良解析に有益な技術であり、これに限らず、新材料開発における微量濃度元素を高感度に分析する技術として広く適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…マルチキャピラリX線レンズ、1a…テーパー角の浅いマルチキャピラリX線レンズ、1b…テーパー角の深いマルチキャピラリX線レンズ、2…キャピラリ、3…X線、4…電子線分析装置、4a…電子線分析装置、5…走査電子顕微鏡、6…X線分析装置、7…制御系、8…操作部、9…電子銃、10…コンデンサレンズ、11…偏向器、12…対物レンズ、13…試料ステージ、14…試料、14a…X線光軸調整用試料、15…二次電子、16…二次電子検出器、17…一次電子、18…電子銃制御部、19…コンデンサレンズ制御部、20…偏向器制御部、21…対物レンズ制御部、22…二次電子検出系回路制御部、23…ステージ制御部、24…X線レンズ交換部、25…X線レンズ駆動部、26、26a…回折格子、27…回折格子交換部、28…X線検出器、29…X線レンズ駆動系制御部、30…X線検出系回路制御部、31…回折格子交換制御部、32…画像表示部、33…スペクトル表示部、34…操作画面、35…二次電子像、36…スペクトル、37…元素マップ像、38…X線レンズ交換軸、39…透過・散乱電子、40…透過・散乱電子検出器、41…透過・散乱電子検出系回路部、42…X線レンズ保持部、43…記憶部、44…透過・散乱電子像。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内で荷電粒子線を試料に照射し、前記試料から発生するX線を検出して前記試料を分析する荷電粒子線分析装置において、
構成の異なるX線レンズを前記真空容器内に2個以上装備していることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
2個以上の前記X線レンズを保持するためのX線レンズ保持手段を更に有することを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記X線レンズを駆動するための駆動手段を更に有することを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
2個以上の前記X線レンズを交換するX線レンズ交換手段を更に有することを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
2個以上の前記X線レンズを保持するためのX線レンズ保持部と、2個以上の前記X線レンズを交換するX線レンズ交換部とを更に有し、
前記X線レンズ保持部と前記X線レンズ交換部が一体型構造であることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
2個以上の前記X線レンズを保持するためのX線レンズ保持部と、2個以上の前記X線レンズを交換するX線レンズ交換部とを更に有し、
前記X線レンズ保持部と前記X線レンズ交換部が分離型構造であることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項7】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
各々の前記X線レンズはそれぞれ形状が異なることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項8】
請求項7記載の荷電粒子線分析装置において、
各々の前記X線レンズはそれぞれテーパー角が異なることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項9】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
各々の前記X線レンズはそれぞれ密度が異なる材料で形成されていることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項10】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記試料から発生する前記X線を分光する複数の回折格子を有し、
複数の前記回折格子は、各々構成が異なることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項11】
請求項10記載の荷電粒子線分析装置において、
各々の前記回折格子はそれぞれ格子間隔が異なることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項12】
請求項11記載の荷電粒子線分析装置において、
各々の前記回折格子はそれぞれ材質が異なることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項13】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記試料から発生する前記X線を分光する複数の回折格子を有し、
前記X線のエネルギーに応じて2個以上の前記X線レンズと複数の前記回折格子を選択・設置する手段を有することを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項14】
真空容器内で荷電粒子線を試料に照射し、前記試料から発生するX線を検出して前記試料を分析する荷電粒子線分析方法において、
前記真空容器内には、構成の異なる2個以上のX線レンズが備えられ、
前記X線のエネルギーに応じた前記X線レンズを用いて分析することを特徴とする荷電粒子線分析方法。
【請求項15】
真空容器内で荷電粒子線を試料に照射し、前記試料から発生するX線を検出して前記試料を分析する荷電粒子線分析方法において、
前記真空容器内には、構成の異なる2個以上のX線レンズと、前記X線を分光する複数の回折格子とが備えられ、
前記X線のエネルギーに応じた前記X線レンズと前記回折格子を組合せて分析することを特徴とする荷電粒子線分析方法。
【請求項16】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記試料から発生する前記X線を分光する複数の回折格子を更に有し、
前記X線レンズの数をM、前記回折格子の数をNとした場合、
N≧M
であることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項17】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記X線レンズは、マルチキャピラリX線レンズであることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項18】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記X線を検出する検出器は、波長分散型X線検出器であることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項1】
真空容器内で荷電粒子線を試料に照射し、前記試料から発生するX線を検出して前記試料を分析する荷電粒子線分析装置において、
構成の異なるX線レンズを前記真空容器内に2個以上装備していることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
2個以上の前記X線レンズを保持するためのX線レンズ保持手段を更に有することを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記X線レンズを駆動するための駆動手段を更に有することを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
2個以上の前記X線レンズを交換するX線レンズ交換手段を更に有することを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
2個以上の前記X線レンズを保持するためのX線レンズ保持部と、2個以上の前記X線レンズを交換するX線レンズ交換部とを更に有し、
前記X線レンズ保持部と前記X線レンズ交換部が一体型構造であることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
2個以上の前記X線レンズを保持するためのX線レンズ保持部と、2個以上の前記X線レンズを交換するX線レンズ交換部とを更に有し、
前記X線レンズ保持部と前記X線レンズ交換部が分離型構造であることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項7】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
各々の前記X線レンズはそれぞれ形状が異なることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項8】
請求項7記載の荷電粒子線分析装置において、
各々の前記X線レンズはそれぞれテーパー角が異なることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項9】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
各々の前記X線レンズはそれぞれ密度が異なる材料で形成されていることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項10】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記試料から発生する前記X線を分光する複数の回折格子を有し、
複数の前記回折格子は、各々構成が異なることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項11】
請求項10記載の荷電粒子線分析装置において、
各々の前記回折格子はそれぞれ格子間隔が異なることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項12】
請求項11記載の荷電粒子線分析装置において、
各々の前記回折格子はそれぞれ材質が異なることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項13】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記試料から発生する前記X線を分光する複数の回折格子を有し、
前記X線のエネルギーに応じて2個以上の前記X線レンズと複数の前記回折格子を選択・設置する手段を有することを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項14】
真空容器内で荷電粒子線を試料に照射し、前記試料から発生するX線を検出して前記試料を分析する荷電粒子線分析方法において、
前記真空容器内には、構成の異なる2個以上のX線レンズが備えられ、
前記X線のエネルギーに応じた前記X線レンズを用いて分析することを特徴とする荷電粒子線分析方法。
【請求項15】
真空容器内で荷電粒子線を試料に照射し、前記試料から発生するX線を検出して前記試料を分析する荷電粒子線分析方法において、
前記真空容器内には、構成の異なる2個以上のX線レンズと、前記X線を分光する複数の回折格子とが備えられ、
前記X線のエネルギーに応じた前記X線レンズと前記回折格子を組合せて分析することを特徴とする荷電粒子線分析方法。
【請求項16】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記試料から発生する前記X線を分光する複数の回折格子を更に有し、
前記X線レンズの数をM、前記回折格子の数をNとした場合、
N≧M
であることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項17】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記X線レンズは、マルチキャピラリX線レンズであることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【請求項18】
請求項1記載の荷電粒子線分析装置において、
前記X線を検出する検出器は、波長分散型X線検出器であることを特徴とする荷電粒子線分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−220337(P2012−220337A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86286(P2011−86286)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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