説明

荷電粒子線露光方法、荷電粒子線露光装置及びデバイス製造方法

【課題】 繋ぎが確実に行え、所望パターンを露光できる荷電粒子線露光方法を提供する。
【解決手段】 複数の荷電粒子線を基板上の互いに異なる位置に入射させ、前記複数の荷電粒子線を偏向する偏向器によって定められる各荷電粒子線の要素露光領域内で、荷電粒子線を偏向させるとともに、各荷電粒子線の照射を制御することによって、前記基板上の複数の前記要素露光領域内にパターンを露光する荷電粒子線露光方法において、前記要素露光領域同士が隣接する部分では要素露光領域を重複させて露光する多重露光領域を設定する段階と、前記多重露光領域において、どちらか一方の前記要素露光領域にのみ存在するパターンは、多重露光しない段階とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に半導体集積回路等の露光に用いられる電子線露光装置、イオンビーム露光装置等に適した荷電粒子線露光(描画)方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線露光装置には、ビームをスポット状にして使用するポイントビーム型、サイズ可変の矩形断面にして使用する可変矩形ビーム型、及びステンシルを使用して所望断面形状にするステンシルマスク型等の装置がある。
【0003】
ポイントビーム型の電子ビーム露光装置では、スループットが低いので、研究開発用にしか使用されていない。可変矩形ビーム型の電子ビーム露光装置では、ポイント型と比べるとスループットが1〜2桁高いが、0.1μm程度の微細なパターンが高集積度で詰まったパターンを露光する場合などでは、やはりスループットの点で問題が多い。他方、ステンシルマスク型の電子ビーム露光装置は、可変矩形アパーチャに相当する部分に複数の繰り返しパターン透過孔を形成したステンシルマスクを用いる。従って、ステンシルマスク型の電子ビーム露光装置では、繰り返しパターンを露光する場合のメリットが大きいが、1枚のステンシルマスクに納まらない多数の転写パターンが必要な半導体回路に対しては、複数牧のステンシルマスクを作成しておいて、それを1枚ずつ取り出して使用する必要があり、マスク交換の時間が必要になるため、著しくスループットが低下するという問題点がある。
【0004】
この問題点を解決する装置として、複数の電子ビームを設計上の座標に沿って試料面に照射し、設計上の座標に沿ってその複数の電子ビームを偏向させて試料面を走査させるとともに、描画するパターンに応じて複数の電子ビームを個別にon/offしてパターンを描画するマルチ電子ビーム型露光装置がある。マルチ電子ビーム型露光装置は、ステンシルマスクを用いずに任意の描画パターンを描画できるのでスループットがより改善できるという特徴がある。
【0005】
図5(A)に、従来のマルチ電子ビーム型露光装置の概要を示す。501a,501b,501cは、個別に電子ビームをon/offできる電子銃である。502は、電子銃501a,501b,501cからの複数の電子ビームをウエハ503上に縮小投影する縮小電子光学系であり、504は、ウエハ503に縮小投影された複数の電子ビームを偏向させる偏向器である。
【0006】
図5(B)に示すように、電子銃501a,501b,501cからの電子ビームB1,B2,B3は、偏向器504によって同一の偏向量を与えられる。それにより、それぞれのビーム基準位置を基準として、各電子ビームは偏向器504が定める配列(要素露光領域)に従ってウエハ上での位置を順次整定して移動する。すなわち、同一の配列に従って露光すべきパターンを露光する様子を示している。各電子ビームは、同時刻の配列上の位置を(1,1)、(1,2)、....(1,16)、(2,1)、(2,2)、....(2,16)、(3,1)、..となるように位置を整定して移動していく。ここで、それぞれの電子ビームの小露光領域ES1,ES2,ES3は、偏向器504によって定まり、各要素露光領域は隣接される。そして、各小露光領域では、電子ビームを偏向するとともに電子ビームの照射を制御することによって露光すべきパターン(P,P,P)が露光される。
【特許文献1】特開平10−64812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
各電子ビームB1,B2,B3が露光するパターンP,P,Pによって図5(B)のような連続するパターンPを露光しようとする場合がある。しかしながら、偏向器504の偏向精度もしくは縮小電子光学系502の経時変化等により、図5(C)のように各小露光領域ES1,ES2,ES3が隣接せず、互いに離れることがある。その結果、連続するべきパターンPは、互いに接しないP,P,Pに分断されて、露光される。よって、このようなパターンが露光されたウエハから製造された半導体素子においては、配線の断線等により所望の動作を達成できず、半導体素子製造の歩留まりを著しく低下させるという問題点がある。
【0008】
本発明は、繋ぎを確実に行うことができ、所望パターンを的確に露光することができる荷電粒子線描画方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のある形態は、複数の荷電粒子線を基板上の互いに異なる位置に入射させ、前記複数の荷電粒子線を偏向する偏向器によって定められる各荷電粒子線の要素露光領域内で、荷電粒子線を偏向させるとともに、各荷電粒子線の照射を制御することによって、前記基板上の複数の前記要素露光領域内にパターンを露光する荷電粒子線露光方法において、前記要素露光領域同士が隣接する部分では前記要素露光領域を重複させて露光する多重露光領域を設定する段階と、前記多重露光領域において、どちらか一方の前記要素露光領域にのみ存在するパターンは、多重露光しない段階とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る荷電粒子線露光方法は、注目パターンを設定する段階と、前記多重露光領域の幅が前記注目パターンの長辺以上となるように設定する段階とを有することを特徴としてもよい。
【0011】
本発明のデバイス製造方法のある形態は、上記いずれかの荷電粒子線露光方法を用いてデバイスを製造する段階を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、複数の荷電粒子線を基板上の互いに異なる位置に入射させる照射手段と、前記複数の荷電粒子線を、各要素露光領域内で偏向させる偏向手段と、各荷電粒子線の照射を制御する照射制御手段と、少なくとも2つの要素露光領域が重なった多重露光領域内に存在し、かつ、前記少なくとも2つの要素露光領域のうちのいずれか1つの要素露光領域にのみ存在するパターンを多重露光しないように設定する制御手段と、を備える荷電粒子線露光装置であってもよい。本発明に係るデバイス製造方法のある形態は、前記荷電粒子線露光装置を用いて、基板を露光する段階と、露光された前記基板を現像する段階とを備える。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、ラスタースキャン荷電粒子線露光装置において、繋ぎが確実に行え、所望のパターンを露光できる荷電粒子線露光方法を提供することができる。また、この方法を用いてデバイスを製造すれば、従来以上に歩留まりの高いデバイスを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
荷電粒子線露光装置の一例として本発明の実施例では電子線露光装置を示す。なお、本発明は電子線に限らずイオンビームを用いた露光装置にも同様に適用できる。
【実施例1】
【0015】
<電子ビーム露光装置の構成要素の説明>
図1は本発明の実施例1に係る電子線露光装置の要部概略図である。
図1において、電子銃(図示せず)で発生した電子線はクロスオーバ像を形成する(以下、このクロスオーバ像を電子源1と記す)。
【0016】
この電子源1から放射される電子ビームは、ビーム整形光学系2を介して、電子源1の像3(SI)を形成する。像SIからの電子ビームは、コリメータレンズ4によって略平行の電子ビームとなる。略平行な電子ビームは複数の開口を有するアパチャ−アレイ5を照明する。
【0017】
アパーチャアレイ5は、複数の開口を有し、電子ビームを複数の電子ビームに分割する。アパーチャアレイ5で分割された複数の電子ビームは、静電レンズが複数形成された静電レンズアレイ6により、像SIの中間像を形成する。中間像面には、静電型偏向器であるブランカーが複数形成されたブランカーアレイ7が配置されている。
【0018】
中間像面の下流には、2段の対称磁気タブレット・レンズ81,82で構成された縮小電子光学系8があり、複数の中間像がウエハ9上に投影される。このとき、ブランカーアレイ7で偏向された電子ビームは、ブランキングアパーチャBAによって遮断されるため、ウエハ9には照射されない。一方、ブランカーアレイ7で偏向されない電子ビームは、ブランキングアパーチャBAによって遮断されないため、ウエハ9に照射される。
【0019】
下段のダブレット・レンズ82内には、複数の電子ビームを同時にX,Y方向の所望の位置に変位させるための偏向器10、及び複数の電子ビームのフォーカスを同時に調整するフォーカスコイル12が配置されている。13はウエハ9を搭載し、光軸と直交するXY方向に移動可能なXYステージである。ステージ13上にはウエハ9を固着するための静電チャック15と電子ビームの形状を測定するための電子ビーム入射側にナイフエッジを有する半導体検出器14が配置されている。
【0020】
<システム構成及び露光方法の説明>
本実施例に係るシステム構成図を図2に示す。ブランカーアレイ制御回路21は、ブランカーアレイ7を構成する複数のブランカーを個別に制御する回路であり、偏向器制御回路22は、偏向器10を制御する回路である。電子ビーム形状検出回路23は、半導体検出器14からの信号を処理する回路であり、フォーカス制御回路24は、フォーカスコイル12の焦点距離を調整することにより縮小電子光学系8の焦点位置を制御する回路であり、ステージ駆動制御回路25は、ステージ13の位置を検出する不図示のレーザ干渉計と共同してステージ13を駆動制御する制御回路である。主制御系26は、上記複数の制御回路を制御し、電子ビーム露光装置全体を管理する。
【0021】
本実施例に係る露光方法の説明図を図3に示す。図3にはニ点鎖線で表した円内の部分拡大図が含まれでいる。 主制御系26は、露光制御データに基づいて、偏向制御回路22に命じ、偏向器10によって、複数の電子ビームを偏向させるとともに、ブランカーアレイ制御回路21に命じ、ウエハ9に露光すべきピクセルPXに応じた指令値に基づいてブランカーアレイ7のブランカーを個別にon/offさせる。各電子ビームは、図3に示すように、ウエハ9上の対応する要素露光領域(EF)をラスタースキャン露光する。各電子ビームEBの要素露光領域(EF)は、2次元に隣接するように設定されているので、その結果、同時に露光される複数の要素露光領域(EF)で構成されるサブフィールド(SF)が露光される。
【0022】
主制御系26は、サブフィールド(SF1)を露光後、次のサブフィールド(SF2)
を露光する為に、偏向制御回路22に命じ、偏向器10によって、複数の電子ビームを偏向させる。
【0023】
本実施例に係る描画方法では、図4において、隣接する実線で表した要素露光領域1と点線で表した要素露光領域2とは重複させ、隣接の要素露光領域1及び要素露光領域2の双方で描画(露光)する多重描画領域(多重露光領域)を設定している。そして、要素露光領域1内の実線で表した部分は要素露光領域1で描画し、要素露光領域2内の点線で表した部分は要素露光領域2で描画し、破線で表した部分は要素露光領域1及び要素露光領域2で描画し、かつ多重描画領域では多重描画を行う。
【0024】
そのため、たとえ要素露光領域同士の相対的位置関係が設計上の関係から多少ずれても、その形状が歪むだけで、連続パターンは連続パターンとして露光できる。また、多重描画領域の幅は、描画するパターンの中でその線幅の一様性が厳しい例えばゲートのようなパターンを注目パターンとして設定する。そして、その長辺をLとした時、多重描画領域の幅をL以上に設定している。その結果、多重描画領域に位置する注目パターンは、どちらか一方の要素領域のみで存在するので、繋ぎなしのパターンとして露光できる。
【実施例2】
【0025】
(デバイスの生産方法)
次に上記説明した電子線露光装置を利用したデバイスの生産方法の例を実施例2として説明する。 図6は微小デバイス(ICやLSI等の半導体チップ、液晶パネル、CCD、薄膜磁気ヘッド、マイクロマシン等)の製造のフローを示す。ステップ1(回路設計)では半導体デバイスの回路設計を行なう。ステップ2(EBデータ変換)では設計した回路パターンに基づいて露光装置の露光制御データを作成する。一方、ステップ3(ウエハ製造)ではシリコン等の材料を用いてウエハを製造する。ステップ4(ウエハプロセス)は前工程と呼ばれ、上記用意した露光制御データが入力された露光装置とウエハを用いて、リソグラフィ技術によってウエハ上に実際の回路を形成する。次のステップ5(組み立て)は後工程と呼ばれ、ステップ4によって作製されたウエハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の工程を含む。ステップ6(検査)ではステップ5で作製された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行なう。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、これが出荷(ステップ7)される。
【0026】
図7は上記ウエハプロセスの詳細なフローを示す。ステップ11(酸化)ではウエハの表面を酸化させる。ステップ12(CVD)ではウエハ表面に絶縁膜を形成する。ステップ13(電極形成)ではウエハ上に電極を蒸着によって形成する。ステップ14(イオン打込み)ではウエハにイオンを打ち込む。ステップ15(レジスト処理)ではウエハに感光剤を塗布する。ステップ16(露光)では上記説明した露光装置によって回路パターンをウエハに焼付露光する。ステップ17(現像)では露光したウエハを現像する。ステップ18(エッチング)では現像したレジスト像以外の部分を削り取る。ステップ19(レジスト剥離)ではエッチングが済んで不要となったレジストを取り除く。これらのステップを繰り返し行なうことによって、ウエハ上に多重に回路パターンが形成される。
【0027】
本実施例の製造方法を用いれば、従来は製造が難しかった高集積度の半導体デバイスを低コストに製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例に係る電子線露光装置の要部概略を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係るシステムを説明するための図である。
【図3】本発明の実施例に係る描画方法を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例に係る多重描画を説明するための図である。
【図5】従来のマルチ電子ビーム露光装置を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例に係るデバイスの製造フローを示す図である。
【図7】本発明の実施例に係るウエハプロセスのフローを示す図である
【符号の説明】
【0029】
1:電子源、2:ビーム整形光学系、3(SI):電子源の像、4:コリメータレンズ、5:アパーチャアレイ、6:静電レンズ・アレイ、7:ブランカーアレイ、8:縮小電子光学系、9:ウエハ、10:偏向器、12:フォーカスコイル、13:XYステージ、14:半導体検出器、15:静電チャック、81,82:タブレット・レンズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の荷電粒子線を基板上の互いに異なる位置に入射させ、前記複数の荷電粒子線を偏向する偏向器によって定められる各荷電粒子線の要素露光領域内で、荷電粒子線を偏向させるとともに、各荷電粒子線の照射を制御することによって、前記基板上の複数の前記要素露光領域内にパターンを露光する荷電粒子線露光方法において、
前記要素露光領域同士が隣接する部分では前記要素露光領域を重複させて露光する多重露光領域を設定する段階と、
前記多重露光領域において、どちらか一方の前記要素露光領域にのみ存在するパターンは、多重露光しない段階と
を有することを特徴とする荷電粒子線露光方法。
【請求項2】
注目パターンを設定する段階と、
前記多重露光領域の幅が前記注目パターンの長辺以上となるように設定する段階と
を有することを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線露光方法。
【請求項3】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の荷電粒子線露光方法を用いてデバイスを製造する段階を有することを特徴とするデバイス製造方法。
【請求項4】
複数の荷電粒子線を基板上の互いに異なる位置に入射させる照射手段と、
前記複数の荷電粒子線を、各要素露光領域内で偏向させる偏向手段と、
各荷電粒子線の照射を制御する照射制御手段と、
少なくとも2つの要素露光領域が重なった多重露光領域内に存在し、かつ、前記少なくとも2つの要素露光領域のうちのいずれか1つの要素露光領域にのみ存在するパターンを多重露光しないように設定する制御手段と、を備える荷電粒子線露光装置。
【請求項5】
請求項4に記載の荷電粒子線露光装置を用いて、基板を露光する段階と、
露光された前記基板を現像する段階と、を備えるデバイス製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−19434(P2006−19434A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194769(P2004−194769)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】