説明

蒸気タービン用制御弁及び蒸気タービン発電プラント

【課題】概ね600℃を超すような主蒸気や再熱蒸気温度条件のプラントにおいても、廉価なコストの蒸気制御弁を得ること。
【解決手段】弁ケーシングを外壁20と内壁21により2重壁によって構成するとともに、内外壁間に形成された外側蒸気室25を弁座部分で上流と下流に分割して、少なくとも2個の独立した上部蒸気室25aおよび下部蒸気室25bとして構成するとともに、該外側蒸気室のそれぞれに独立した系統からインターロック弁を介して蒸気または流体を流通せしめる。蒸気弁の急速閉鎖時に、上部蒸気室25aを主弁7より上流側の系統とほぼ同一の圧力、下部蒸気室25bを主弁7より下流側の系統とほぼ同一圧力になるように制御し、内壁の圧力による変形を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高温蒸気流路に設けられる蒸気タービン用制御弁、及びその制御弁を備えた蒸気タービン発電プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、蒸気タービン発電プラントにおいては、蒸気タービンに供給される駆動用蒸気を制御するために、主蒸気止め弁,蒸気加減弁,組合せ再熱蒸気弁等の種々の制御弁が付設されている。
【0003】
図14は、一般的な蒸気タービン発電プラントの概略構成を示す系統図であり、ボイラー100で発生した蒸気は主蒸気止め弁101、蒸気加減弁102を通過し高圧タービン103で仕事をした後、逆止弁104を経由して再びボイラー100の再熱器にて加熱され、再熱蒸気止め弁105、インターセプト弁106を経て中圧タービン107、低圧タービン108へ流入し仕事をする。低圧タービン108で仕事をした蒸気は復水器109で復水され、給水ポンプ110にて昇圧され再びボイラー100に供給されるように循環する。
【0004】
また、プラントの運用効率を高めるために、プラントによっては主蒸気止め弁101の前からボイラー100の再熱器の前に接続された高圧タービンバイパス弁111やボイラー100の再熱器の後から復水器109に接続された低圧タービンバイパス弁112が設置され、タービンの運転に係わらずボイラー系統単独の循環運転が出来るようになっている。
【0005】
図15は、上記蒸気タービン発電プラントの蒸気加減弁等に使用される従来の蒸気制御弁の縦断面図であり、弁胴部1に上蓋2をボルト3にて固定することにより圧力容器状の弁ケーシング4が形成され、その弁ケーシング4内には、弁棒5を介して弁座6に対して接離される主弁7が配設されるとともに、その主弁7の外周部に蒸気中の異物を捕捉するストレーナ8が設けられている。上記弁棒5は案内片9により保持されており、その弁棒5の端部に主弁7を上下方向に作動させる駆動装置(図示せず)が設置されている。
【0006】
しかして、蒸気管(図示せず)を流れる蒸気は、矢印Aに示すように弁ケーシング4により形成される蒸気室4a内に流入し、主弁7と弁座6の間に形成される流路を通過して矢印Bへと流出する。また、弁ケーシング4には弁座前ドレン排出口10、弁座後ドレン排出口11が設けられており、タービン起動時に蒸気室4aの内部に蓄積されたドレンを排出する機能を有している。
【0007】
ところで、火力発電プラントの蒸気条件の高温・高圧化は、その効率向上に寄与する非常に重要かつ基本的な要因であり、上記各蒸気制御弁はボイラーにて発生した高温の蒸気が直接作用するため非常に厳しい環境下での使用となる。
【0008】
特に、室温程度まで各タービン103、107、108の温度が低下した状態から低圧タービン108などに蒸気を送出して起動を行うコールドスタート(冷気起動)の際には、その上流側に設置されている主蒸気止め弁101をはじめとする各蒸気制御弁には従来に比較してかなり高温・高圧の蒸気がそのまま供給される。すると、蒸気室4aが急激に加熱されて、弁ケーシング4の内側から外側に向かって大きな温度勾配が生じ、最悪の場合には弁ケーシング4にひび割れ等の致命的な損傷が生じる可能性がある。
【0009】
そこで、このような急激な温度勾配が弁ケーシング4に生じることを避けるために、蒸気制御弁の蒸気室4aの内部を2重構造とする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、従来の蒸気室(外部蒸気室)の内部に空隙を設けて内部蒸気室を設け、この外部蒸気室と内部蒸気室の間に暖気用の蒸気を流すことにより、各蒸気室の壁に生じる温度勾配を低減させようとするものである。このような構造であれば、内部蒸気室の外側に流通する暖気用蒸気により、例えば高温・高圧の蒸気が内部蒸気室に流入しようとしても、内部蒸気室の壁には、大きな温度勾配は生じなくなり、かつ外部蒸気室も従来と同程度の温度勾配で済むことになる。
【0010】
一方、内部蒸気室を設ける代わりに、蒸気室内壁を遮熱体で被覆して、この遮熱体の外部を大気により冷却することにより、蒸気室に高温・高圧の蒸気が流通しても内壁には温度勾配が生じないようにする技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特公平7−54089号公報
【特許文献2】特開昭58−124009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
わが国の火力発電プラントの蒸気条件は標準的に主蒸気圧力24.1MPa、主蒸気温度538℃、再熱蒸気温度566℃が採用されてきた。しかし、オイルショック以来、省エネルギ化が強力に推進され、その後の地球温暖化問題に対する急速な関心の高まりから火力発電プラントの高効率化が押し進められ主蒸気や再熱蒸気温度は、593℃、600℃、610℃というようにステップ的に上昇してきている。
【0012】
昨今の趨勢は、主蒸気や再熱蒸気温度についてより高温化の方向にあり、さらに630℃、650℃、700℃、725℃以上の蒸気温度の採用が検討されている。
【0013】
このように概ね600℃を超すような主蒸気や再熱蒸気温度条件では、従来からこれら弁装置の弁ケーシング材料として使用されているクロム−モリブデン−バナジウム鋼に代表されるフェライト系合金などの耐熱合金鋼の使用が困難となり、自ずとオーステナイト系耐熱鋼を使わなければならない。このことは、従来にも増して製造コストが急騰し採算上大きな問題となる。
【0014】
そのため、上記特許文献1および2に開示の技術では、高価な耐熱鋼の使用を極力減らし、弁ケーシングについては従来材の使用を可能とするとともに、直接高温・高圧の蒸気に曝される部分にのみ限定して耐熱鋼を使用するというものである。しかし、これらの文献には、実際の蒸気タービン発電プラントの運用を考慮した蒸気弁の構造および蒸気タービン発電プラントの蒸気系統は一切開示されていない。
【0015】
本発明は、このような点に鑑み、概ね600℃を越すような主蒸気や再熱蒸気温度条件のプラントにおいても、廉価なコストの蒸気制御弁を用いた蒸気タービン発電プラントの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に係る発明は、蒸気タービンに供給される駆動用蒸気を制御する蒸気タービン用制御弁であって、前記制御弁の弁ケーシングを耐圧容器として機能する外壁と、温度隔壁として機能する内壁とからなる少なくとも2重壁により構成するとともに、前記内壁の肉厚を前記外壁の肉厚より薄く構成し、前記外壁と内壁の間に形成された外側蒸気室内には蒸気または流体を流通させるようにした蒸気タービン用制御弁において、前記外側蒸気室は、弁座部を基準に、少なくとも2個以上の独立した蒸気室に分割されていることを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、分割された各蒸気室には、それぞれ異なる条件の蒸気または流体が流通されることを特徴とする。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に係る発明において、分割された各蒸気室を通過した後、その蒸気室から排出された蒸気または流体は、蒸気タービンまたは蒸気タービンサイクルの途中段落において熱回収されることを特徴とする。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに係る発明において、耐圧容器として機能する外壁はフェライト系耐熱鋼、Cr−Mo鋼もしくはCr−Mo−V鋼により形成され、温度隔壁として機能する内壁はオーステナイト系耐熱鋼、またはNi基耐熱合金鋼により形成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項5に係る発明は、ボイラと、このボイラの下流側に接続されるとともに、このボイラからの蒸気温度を低減させる減温器と、この減温器の下流側を分岐して一方を請求項1記載の制御弁の外側蒸気室のうち、弁座部より上流側に設けられた蒸気室に導くとともに、他方を請求項1記載の制御弁の外側蒸気室のうち、弁座部より下流側に設けられた蒸気室にインターロック弁を介して導く一方、前記上流側に設けられた蒸気室内の導入蒸気はこの蒸気室の流体出口下流に設けられたインターロック弁を介して蒸気タービンに回収するとともに、前記下流側に設けられた蒸気室内の導入蒸気は流体出口から蒸気タービンに回収することを特徴とする。
【0021】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において、前記インターロック弁は、前記制御弁が急閉した際に、同時に急閉することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明は、弁ケーシングを外壁と内壁により2重壁によって構成するとともに、内外壁間に形成された外側蒸気室を弁座部分で上流と下流に分割して、少なくとも2個の独立した上部蒸気室および下部蒸気室として構成するとともに、該外側蒸気室のそれぞれに独立した系統からインターロック止弁を介して蒸気または流体を流通させるように構成したので、例えば蒸気弁が急速に閉鎖した場合においても、上部蒸気室には主弁より上流側の系統とほぼ同一の圧力が負荷されるとともに、下部蒸気室は主弁より下流側の系統とほぼ同一圧力になるように制御されるので、内壁が圧力により大きく変形することはなくなるため、蒸気タービンに供給される駆動用蒸気と直接接する内壁は温度隔壁としての機能を持たせ、また外壁は耐圧容器としての機能を持たせることができる。また、圧力容器となる外壁はフェライト系耐熱鋼等の従来材料を用い、温度隔壁の機能を有する内壁のみに、オーステナイト系耐熱鋼やNi基耐熱合金(固溶強化型超耐熱合金)等を用いる等それぞれの蒸気室の材料を自由に組合せて使い分けすることが可能となり、概ね600℃を超すような主蒸気や再熱蒸気温度条件のプラントにおいても、廉価なコストの蒸気制御弁を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
まず、本発明の実施の形態を説明する前に、その前提となる技術を図6乃至図13を用いて説明する。
【0024】
図6は本発明の前提とする技術ににおける主蒸気止め弁101の断面形状を示す図であり、図15に示す従来構造と同一部品には同一部品符号を附し、その詳細な説明は省略する。
【0025】
図6に示すように、主蒸気止め弁の弁ケーシングは、圧力容器を形成する肉厚の外壁20及び温度隔壁を形成する薄肉の内壁21によって2重壁に構成されている。すなわち、上記外壁20は圧力容器を形成する肉厚の弁胴部20aとその弁胴部20aにボルト20bにより固着された上蓋20cにより構成されており、その弁胴部20a内に温度隔壁を形成する薄肉の内部弁胴21aが配設され、その内部弁胴21aにボルト21bにより内蓋21cを固着することにより内壁21が形成されている。上記内部弁胴21aには弁座21dが形成されており、上記内部弁胴21aにより形成された内部蒸気室内には、上記弁座21dに協働する主弁7及びストレーナ8が設けられている。
【0026】
また、上記弁胴部20aには入口短管22及び出口短管23が設けられており、その入口短管22と出口短管23には、弁座前ドレン排出口10と弁座後ドレン排出口11が加工されている。これらの入口短管22や出口短管23は、ボイラーや蒸気タービンと図示しない蒸気配管に突合わせ溶接にて取り付けられるが、各短管の先端に一体的にフランジを形成しフランジ取付けとしても良い。
【0027】
図7は、図6に示す主蒸気止め弁101を使用したプラントの系統図であり、ボイラー100で発生した蒸気は上記主蒸気止め弁101および蒸気加減弁102を経て高圧タービン103に供給される。一方、主蒸気止め弁101の上流側から分岐された分岐管には減圧減温装置26が接続されており、ボイラー100から発生した主蒸気の一部が主蒸気止め弁101の上流から分岐し、上記減圧減温装置26においてそれぞれの運用条件に応じて調整されて、上記蒸気止め弁101の流体入口27から前記外壁20及び内壁21によって形成されている外側蒸気室25に供給される。上記外側蒸気室25を通過した蒸気は流体出口28から排出され、高圧タービン103の抽気段に導入される。
【0028】
ここで、減圧減温装置26について図8を用いて説明する。
【0029】
減圧減温装置26は調圧弁30より図9の特性の如く、蒸気弁内に供給される蒸気タービン駆動用蒸気圧力P1に対して出口の流体圧力P2が同等かまたは若干低圧となる差圧Dを持たせ、かつその圧力は少なくとも内側蒸気室の設計応力以下となる圧力(又は差圧)に圧力制御を行うように差圧調節器31にて演算され調整される。同時に冷却水調節弁32から供給された冷却水は、減温管33に設置されたスプレーノズル34から噴射される。この時の減温管33内部温度は図10の特性の如く、蒸気弁内に供給される蒸気タービン駆動用蒸気温度T1に対して流体温度T2が若干低温となる温度差Cを持たせ、かつその温度は高くとも既存のフェライト系耐熱合金鋼が使用可能な、例えば600℃程度以下に温度制御を行うように温度調節器35にて演算調整され、蒸気弁内に供給される蒸気温度T1が600℃以上になった場合にも、外側蒸気室25に流通する流体温度は600℃を設定温度として一定温度制御に移行する特性となっている。
【0030】
これら外側蒸気室25に流通する流体の流量は、当該主蒸気止め弁101に流入する蒸気流量(蒸気熱量)に応じて増減させ過度の冷却や加熱を防止するように流量調整され、この流量制御には内壁21内蒸気および外側蒸気室25内蒸気の温度監視を行うための図示しない温度検出器を設置しており、冷却や加熱による過度の温度あるいは温度差が設定値(目標値)以上と認められた場合には、外側蒸気室25に流通する流体の流量を減圧減温装置26によって増減することは説明するまでもない。
【0031】
また、当該蒸気弁の未使用中(蒸気が流れていない間)の外側蒸気室に流体を流通せしめる場合も含め、図8における減圧減温装置26には、差圧調節器31や温度調節器35にその運用状態に従って対応可能なように、図示しない外部制御装置からの制御信号が入力できる構成となっており、その流入する蒸気温度、圧力状態に従って温度制御、圧力制御、流量制御を行うばかりか、蒸気タービンプラントの冷却(プラント停止)過程や蒸気タービンプラントの起動(プラント暖気)過程のあらかじめ決められ設定された冷却速度や暖気速度に応じて温度制御、圧力制御、流量制御を行う流体制御システムとなっている。
【0032】
従って、図6に示す主蒸気止め弁では、外壁20は蒸気弁内に供給される圧力P1と同等か又は若干低圧の蒸気圧力が作用する圧力容器となるが、外壁20の内側すなわち外側蒸気室25内は600℃を越すことがない蒸気温度のため、外壁としては従来と同様なフェライト系耐熱鋼が使用可能となる。
【0033】
一方、内壁21の内面に作用する蒸気温度は、蒸気弁内に供給される蒸気がそのまま作用することになるため、耐食・耐熱性に優れた例えばSUS316やSUS310系のオーステナイト系耐熱鋼や、例えばインコネル625等のNi基耐熱合金(固溶強化型超耐熱合金)が好ましい。なお、設計条件によっては例えば新12Cr鋳鋼、新12Cr鍛鋼のフェライト系耐熱鋼と組み合わせて使用しても問題はない。また、入口短管22や出口短管23の材料は内壁21と同様のオーステナイト系耐熱鋼やNi基耐熱合金(固溶強化型超耐熱合金)が好ましい。
【0034】
オーステナイト系耐熱鋼は現在主要弁の蒸気室に使用している低合金鋼の材料特性よりも耐力が格段に小さくなり、かつ熱膨張係数も大きくなる。蒸気室の熱応力は一般的に下記の式で表わされる。
σt=α×E×ΔT<σys
ここで
σt:熱応力
α:熱膨張係数
ΔT:温度差
σys:オステナイト系耐熱鋼の耐力値
上式で判る様に熱応力を小さくするためにはΔTを小さくする必要がある。先述の通りオーステナイト系耐熱鋼の材質はσys が非常に低値で、且つαが大きいため尚一層ΔTを小さく押える必要がある。
【0035】
本発明の前提となる技術の内壁は、圧力容器よりむしろ機能的に高温蒸気に曝される単なる温度隔壁となるが、本発明によれば温度差(ΔT)を任意に調整(設定)できることから、上記の要請に対して十分に応えるものである。
【0036】
従って、外側蒸気室は圧力容器となるため肉厚は厚肉となり重量も重くなるが、直接高温蒸気が作用すること無く温度が低いため従来材料を用いることが可能なことから、蒸気室全体を高価なオーステナイト系耐熱鋼等で製作するのに比べ、廉価なコストで弁装置を提供することができることになる。
【0037】
ここで内外両壁間の外側蒸気室25に供給される流体は600℃を越さない温度であり、内壁21には熱応力の発生が懸念されるが、上述のように、内壁21には大きな蒸気圧力が作用せず圧力容器の機能を持たないことからその肉厚は薄くできること、および内壁21に作用する温度差は常に一定となるように制御されることから、内壁21に発生する熱応力は適正に管理することが可能となる。
【0038】
しかし、それでも内壁21に発生する熱応力が許容値を越える場合には、内壁の数を増やして多層化し、それぞれの多層化された各々の外側蒸気室に、各々の減圧減温装置26を設置して、供給する蒸気温度を内側から外側の外側蒸気室に向かい段階的に減少させた温度設定とすることで、各々の内壁に作用する温度差を小さく押さえることが可能であり、より一層各々の内壁に発生する熱応力を適正に管理することができる。
【0039】
以上の説明のように、通常の蒸気タービン運転中、少なくとも当該蒸気弁の使用中(蒸気が流れている間)は連続して外側蒸気室に外壁の冷却を目的とした蒸気または流体を流通することができるため、蒸気タービンに供給される駆動用蒸気と直接接する内壁は温度隔壁としての機能を持たせ、また外壁は耐圧容器としての機能を持たせ、各々の肉厚は内、外壁とも同一かまたは内壁のほうが外壁より肉厚を薄く構成することが出来る。
【0040】
なお、内壁21の肉厚を薄くした場合には、主弁7が急閉した場合でも弁座21d部分が変形しないように部分的に肉厚を厚くすることや内壁21と外壁20との間に補強リブを追設したり、または内壁21の肉厚形状をハニカム状に構築する等、その構造物としての剛性を高めるための有効な手段を用いることができる。
【0041】
また、これら内、外壁は、形状や材質の特性に応じ、その素材は各々鋳造または鍛造や圧延の製造手段により、また整形(造形)はプレスまたは機械加工や製缶溶接の加工手段により、これら異種の製造方法を組合せて構成することが可能である。
【0042】
以上に説明の構成とすれば、下記のように運用の幅が広がることが明白であり、さらに有効なプラント運用が可能となる。
【0043】
(1) プラント停止等の蒸気が流れない蒸気タービンの冷却過程において、該外側蒸気室に内、外壁の冷却を目的として蒸気または空気等の流体を流通せしめることにより、特に蒸気温度の高い蒸気タービンプラントにおいては早期に蒸気弁本体を冷却することが可能となり、保守点検(分解点検)開始までの時間短縮を図ることができる。
【0044】
(2) プラント起動等の蒸気が流れない蒸気タービンの暖気過程において、該外側蒸気室にタービンの起動前に蒸気または流体を流通せしめることにより、早期に蒸気弁本体を昇温(加熱)することが可能となり、起動時間の短縮に有効である。
【0045】
すでに説明の内外壁間の外側蒸気室に流通する流体の供給源は、図7において当該蒸気弁装置の上流側直前から当該蒸気弁装置に流入する蒸気を分岐して減圧減温装置26に流入させているが、その他図14に示す再熱蒸気止め弁105等の低圧の再熱蒸気ラインに設置される蒸気弁では、例えば特に図示していないが高圧タービン103の抽気蒸気、または蒸気タービンサイクル途中段からの分岐蒸気を外側蒸気室25に流通する流体の供給源とすることで目的が達成出来る。
【0046】
また図11に示すように、蒸気タービン以外の新たに準備した供給源40から単独に流通せしめる場合や図12示すように供給源選択装置41を設け、上流側直前からの分岐と蒸気タービン以外の新たに準備した供給源40のいずれかを任意に選択できるようにし、たとえば蒸気タービンプラントの冷却(プラント停止)過程や蒸気タービンプラントの起動(プラント暖気)過程の場合には、新たに準備した供給源40を選択すること等ができる。なお、蒸気タービン以外の新たに準備した供給源40からの流体は、蒸気に限らず窒素(N2ガス)や空気等、蒸気タービンプラントの冷却(プラント停止)過程や蒸気タービンプラントの起動(プラント暖気)過程の目的に応じて流体の種類を選定しても目的が達成出来る。
【0047】
一方、すでに説明の両壁間の外側蒸気室を通過した蒸気は、図7において再び蒸気タービンの抽気段落に接続して熱回収しているが、その他図示していないが蒸気タービンサイクル途中段に接続して熱回収する方法や、図13に示すようにタービンプラント以外に暖房として消費することや専用の熱回収装置42を新たに設け熱回収することも可能である。
【0048】
このように、内外壁間の外側蒸気室に流通する蒸気等の流体の供給源やその外側蒸気室を通過した蒸気等の流体の回収先やそれらの方法や手段の組合せは多種多様であり、ここではそれらを限定するものではない。
【0049】
以上説明した前提技術を踏まえて、本発明の実施の形態を説明する。
【0050】
図1は、本発明の第1の実施の形態である主蒸気止め弁101の断面形状を示す図である。なお、図1において、図6に示す構造と同一部品には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0051】
この第1の実施の形態と前提技術との大きな相違点は、内壁21を弁座部分にて2分割としたことである。
【0052】
すなわち、弁ケーシングを外壁20及び内壁21により2重壁によって構成するとともに、内外両壁20,21間に形成された外側蒸気室25を弁座部分にて上流と下流に分割して、少なくとも2個の独立した上部蒸気室25a、及び下部蒸気室25bとし、該外側蒸気室のそれぞれに独立した系統から蒸気または流体を流通せしめるように構成したものである。
【0053】
本実施の形態の大きな目的は、蒸気弁の本来の機能に係わる改善である。すなわち図6において、通常の運転状態では主弁7は弁座21dから離れ、主弁7と弁座21dとから形成される幾何学空間をボイラーからの蒸気が流れる。蒸気タービンに異常が発生すると、これら蒸気弁は閉鎖するように動作するため、主弁7は再び弁座21dに着座し流入蒸気を遮断する。この時、弁座21dの上流はボイラーからの蒸気圧力が存在し、一方弁座21dの下流は接続先の圧力(最悪は復水器109の器内圧力である真空)まで低下するが、内、外壁の間に設けた外側蒸気室25には減圧減温装置26からの蒸気が供給され続けていることから、特に内壁21の弁座21dの下流に位置した部分には、瞬時に外圧が作用し外圧容器となってしまうため大きな変形を生ずることが懸念される。
【0054】
このような事象を改善するために、図6に示す温度隔壁を構成した内壁21と外壁20により形成された外側蒸気室25は、本実施の形態である図1では弁座21d部分にて上下に2分割され、上部蒸気室25aと下部蒸気室25bから成り立っている。上部蒸気室25aを形成する上部内壁21aには弁座21dが形成されており、その下端が外壁20の内面に溶接等の接続手段により完全に密着するように固定され、かつ上部内壁21aには下部蒸気室25bを形成する下部内壁21bが溶接等の接続手段により完全に密着し一体化されている。
【0055】
蒸気入口A部分の上部内壁21aは、入口短管22と図2に示すように高温割れや熱影響部(HAZ)の鋭敏化を防止する目的に、開先角度を大きめとしてたとえばV開先で60〜80°に設定したTIG溶接24等の手段にて完全に密着するように固定され、蒸気出口B部分の下部内壁21bも同様に出口短管23に固定される。入口短管22と出口短管23には、弁座前ドレン排出口10と弁座後ドレン排出口11が加工されている。入口短管22や出口短管23は、ボイラーや蒸気タービンと図示しない蒸気配管に突合わせ溶接にて取り付けられるが、各短管の先端に一体的にフランジを形成し、蒸気配管とフランジ取付けとしても良い。
【0056】
このように、本発明では、該外側蒸気室を弁座部分にて上流と下流に分割して、少なくとも2個の独立した外側蒸気室を設けていることが大きな特徴である。
【0057】
この外側蒸気室には、図3に示すように減圧減温装置26からの蒸気が、図1の上部流体入口27aからそれぞれの運用条件に応じて調整されて供給され、やがて上部流体出口28aから常時開のインターロック止弁44を介して排出されるように流れる。また、減圧減温装置26から分岐したもう一方の蒸気は、常時開のインターロック止弁45を介して図1の下部流体入口27bから供給され、やがて下部流体出口28bから排出されるように流れ、再び蒸気タービンの抽気段落に接続して熱回収される。
【0058】
また、例えば蒸気タービンに異常が発生し主弁7が弁座21dに着座し流入蒸気を遮断した場合には、弁座21dの上流はボイラーからの蒸気圧力が存在し、一方弁座21dの下流は接続先の圧力(最悪は復水器113の器内圧力である真空)まで低下する。しかし、本実施の形態においては、常時開のインターロック止弁44とインターロック止弁45が、主弁7が弁座21dに着座し流入蒸気を遮断したことを条件に急閉するように構成されている。したがって、主弁7が弁座21dに着座し流入蒸気を遮断した場合においても、上部蒸気室25aには減圧減温装置26からの蒸気が供給され、下部蒸気室25bには減圧減温装置26からの蒸気が供給されなくなり、接続先の圧力(最悪は復水器113の器内圧力である真空)が作用するようになるため、上部内壁21a及び下部内壁21bは圧力がバランスし、上部内壁21a及び下部内壁21b が変形することはない。
【0059】
図3では、一つの減圧減温装置26から蒸気を供給しているが、上部蒸気室25aと下部蒸気室25bに各々に減圧減温装置26を設置することも可能であり、またすでに説明の図11〜図13のような系統と組み合わせて運用することが出来る。
【0060】
また、外側蒸気室の数を多層化したり分割化する場合に、それぞれの外側蒸気室に段階的に低下させた蒸気温度を供給するには、それぞれの外側蒸気室に応じた減圧減温装置26を個別に設置することも可能である。
【0061】
図4は本発明の他の実施の形態を示す図である。なお、図中、図1に示す構造と同一部品には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0062】
この実施の形態の大きな相違点は、弁ケーシングが内,外、少なくとも2重壁により構成され、その間に外側蒸気室を設けた蒸気弁であるが、弁座部を基準に外側蒸気室が弁座の上流側にのみ設けられ、弁座の下流側には内壁が設けられていない点である。
【0063】
また、従来の蒸気弁を例示した図15では弁棒5に一体的に結合された主弁7を弁座6の下流側から駆動するものであるが、図4では主弁7を上下方向に作動させるアクチュエータ(図示せず)が端部に設置された弁棒5が、上蓋50cを貫通して弁座50dの上流側から駆動するような構造であり、弁座50dの下流は出口管55となっている。
【0064】
この実施の形態の大きな目的は、従来構造を示す図15において、弁座6の上流蒸気室は蒸気中の異物を捕捉するストレーナ8などが格納されること、及び弁座6の下流蒸気室は弁棒5を保持するための案内片9などが格納されるため、その蒸気室は自ずと大きくなり熱応力的には不適切な構造であったことから可能な限り蒸気室の大きさを小型にすることである。その結果、弁座6の下流側に内壁を設置する必要がなくなった。
【0065】
ボルト50bにより上蓋50cが固着された弁胴部50aからなる外壁50の内部には、内部弁胴51a、内蓋51c、ボルト51bからなる温度隔壁を構成する内壁51が配設されている。また内壁51の内部には従来と同様にストレーナ8や主弁7が組み立てられている。
【0066】
上記上蓋50cには、弁棒5を囲繞するように第1の弁棒リーク蒸気溝52a及び第2の弁棒リーク蒸気溝52bが形成されている。上記第1の弁棒リーク蒸気溝52aはバイパス孔53により流体入口27に連通されており、第2の弁棒リーク溝52bは弁棒リークオフ管54に連通されている。また、内蓋51cの一部は、弁棒5を包囲しながら上蓋50cの第1の弁棒リーク蒸気溝52aまで差し込まれている。
【0067】
しかして、弁棒5からのリークオフ蒸気は第1の弁棒リーク蒸気溝52aにて、流体入口27から分岐されたバイパス穴53から供給された流体と混合し、やがて第2の弁棒リーク蒸気溝52bに到達後、弁棒リークオフ管54から排出される。このようにして、蒸気弁内に供給される蒸気タービン駆動用蒸気が、内外壁間に設けられた外側蒸気室25に混入しないように防止される。
【0068】
蒸気入口部分Aの内壁51aは、入口短管22と図2に示すように高温割れや熱影響部(HAZ)の鋭敏化を防止する目的に、開先角度を大きめとしてたとえばV開先で60〜80°に設定したTIG溶接等の手段にて完全に密着するように固定されるとともに、蒸気出口部分Bの出口管55に図5に示すように高温割れや熱影響部(HAZ)の鋭敏化を防止する目的に、開先角度を大きめとしてたとえばV開先で60〜80°に設定したTIG溶接等の手段にて完全に密着するように固定されている。
【0069】
外壁50と溶接にて一体化された出口管55には弁座50dが形成されており、当該出口管55部分には内壁は設置されていない。入口短管22には、弁座前ドレン排出口10が加工されるが、出口管55にはドレン溜りが存在しないことから、弁座後ドレン排出口は設置されていない。
【0070】
入口短管22や出口管55は、ボイラーや蒸気タービンと図示しない蒸気配管に突合わせ溶接にて取り付けられるが、各短管の先端に一体的にフランジを形成し、蒸気配管とフランジ取付けとしても良い。内壁51と外壁50の間に設けた外側蒸気室25には、図1に示す本発明の実施の形態と同じように温度制御、圧力制御、流量制御を行う流体制御システムが接続されており、同様な効果や作用が得られるので説明は省略する。
【0071】
以上説明の本発明の実施の形態において、内壁の強度上必要な肉厚は、図1や図4に示す胴の形状が胴長の場合よりも、球体に構成すると半分の肉厚で良いことは機械工学的に知られている。
【0072】
例えば、図1または図4において弁座を基準に内壁部分をそれぞれ概略球体に形成することは可能であり、肉厚が薄くできることは熱応力的強度が良好な結果となる。
【0073】
しかも球形の場合は比較的均一化された肉厚にすることが可能で応力集中に関する強度的見地からも好都合であり、結果的に熱応力の集中する箇所を低減でき蒸気室強度を向上させることができることは容易に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施の形態の断面図。
【図2】本発明における部分詳細断面を示す図。
【図3】本発明の一実施の形態のプラント系統図を示す図。
【図4】本発明の他の実施の形態の断面図。
【図5】本発明の他の実施の形態における部分詳細断面を示す図。
【図6】本発明の前提となる技術を示す図。
【図7】本発明の前提となる技術のプラント系統図を示す図。
【図8】本発明の前提となる技術における減圧減温装置の系統図。
【図9】本発明の前提となる技術における蒸気圧力特性を示す図。
【図10】本発明の前提となる技術における蒸気温度特性を示す図。
【図11】本発明の前提となる他の技術のプラント系統図を示す図。
【図12】本発明の前提となる他の技術のプラント系統図を示す図。
【図13】本発明の前提となる他の技術のプラント系統図を示す図。
【図14】従来のプラント系統図を示す図。
【図15】従来の蒸気弁の断面図。
【符号の説明】
【0075】
7 主弁
20 外壁
21 内壁
21d 弁座
22 入口短管
23 出口短管
25 外側蒸気室
25a 上部蒸気室
25b 下部蒸気室
26 減圧減温装置
27 流体入口
28 流体出口
30 調圧弁
31 差圧調節器
32 冷却水調節弁
33 減温管
34 スプレーノズル
35 温度調節器
40 供給源
41 供給源選択装置
44、45 インターロック止弁
50 外壁
51 内壁
52a 第1の弁棒リーク蒸気溝
52b 第2の弁棒リーク蒸気溝
55 出口管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービンに供給される駆動用蒸気を制御する蒸気タービン用制御弁であって、前記制御弁の弁ケーシングを耐圧容器として機能する外壁と、温度隔壁として機能する内壁とからなる少なくとも2重壁により構成するとともに、
前記内壁の肉厚を前記外壁の肉厚より薄く構成し、
前記外壁と内壁の間に形成された外側蒸気室内には蒸気または流体を流通させるようにした蒸気タービン用制御弁において、
前記外側蒸気室は、弁座部を基準に、少なくとも2個以上の独立した蒸気室に分割されていることを特徴とする蒸気タービン用制御弁。
【請求項2】
分割された各蒸気室には、それぞれ異なる条件の蒸気または流体が流通されることを特徴とする、請求項1記載の蒸気タービン用制御弁。
【請求項3】
分割された各蒸気室を通過した後、その蒸気室から排出された蒸気または流体は、蒸気タービンまたは蒸気タービンサイクルの途中段落において熱回収されることを特徴とする、請求項1または2記載の蒸気タービン用制御弁。
【請求項4】
耐圧容器として機能する外壁はフェライト系耐熱鋼、Cr−Mo鋼もしくはCr−Mo−V鋼により形成され、温度隔壁として機能する内壁はオーステナイト系耐熱鋼、またはNi基耐熱合金鋼により形成されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の蒸気タービン用制御弁。
【請求項5】
ボイラと、
このボイラの下流側に接続されるとともに、このボイラからの蒸気温度を低減させる減温器と、
この減温器の下流側を分岐して一方を請求項1記載の制御弁の外側蒸気室のうち、弁座部より上流側に設けられた蒸気室に導くとともに、他方を請求項1記載の制御弁の外側蒸気室のうち、弁座部より下流側に設けられた蒸気室にインターロック止弁を介して導く一方、
前記上流側に設けられた蒸気室内の導入蒸気はこの蒸気室の流体出口下流に設けられたインターロック止弁を介して蒸気タービンに回収するとともに、前記下流側に設けられた蒸気室内の導入蒸気は流体出口から蒸気タービンに回収することを特徴とする蒸気タービン発電プラント。
【請求項6】
前記インターロック止弁は、前記制御弁が急閉した際に、同時に急閉することを特徴とする、請求項5記載の蒸気タービン用制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−192168(P2007−192168A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12656(P2006−12656)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】