説明

蒸気タービン

【課題】仕事効率を可能な限り保持しながら、低流量状態時に発生するランダム応力を低減できる蒸気タービンを提供すること。
【解決手段】ロータに取り付けられた複数の動翼2と、複数の静翼1とを備える蒸気タービンにおいて、ロータ周方向において隣り合う動翼2又は静翼1の間に架け渡され、蒸気流路をロータ径方向において区画する仕切板6,7を備え、その仕切板6,7を、翼長の2分の1に相当する位置から回転軸25側に位置するように、ロータ径方向において間隔を介して複数枚設置するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンに係り、特に低流量状態での運転が行われる蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
発電設備として利用される蒸気タービンは、そのタービン動翼及び静翼に性能上適切な蒸気流量が供給されるよう設計される。しかし、低圧段長翼において特に顕著となるが、設計条件から外れた低流量状態の運転時(例えば、排気真空の悪化時)では、遠心力によって蒸気の流れがロータ径方向の外側に偏って、ロータ径方向の内側の蒸気の流れが更に少なくなることで、ロータ径方向の内側に逆流域が生じることがある。このような蒸気の逆流域では、図1(出展:V.A.Khaimov, P.V.Khaimov, Y.A.Voropaev, and O.E.Kotlyar)に示すように渦流れが生じ、その蒸気流れの乱れがタービン動翼及び静翼に対して大きな負荷(振動応力)を与える。この振動応力はランダム応力と呼ばれる。
【0003】
このようにロータ径方向の外側に偏る蒸気流れの抑制を目的とした技術としては、タービン動翼及び静翼に仕切板を取り付けて蒸気流路をロータ径方向の外側と内側とに区画し、さらに、その静翼の後縁部のうち仕切板からロータ径方向の外側に位置する部分を回動可能とすることで静翼出口角度を調整可能とし、ロータ径方向の外側と内側の流量配分を調整可能とした技術がある(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−195302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載の技術は、静翼出口角度を静翼出口を絞る方向に調整することで、ロータ径方向の外側(翼先端側)の蒸気流量を抑制しつつロータ径方向の内側(翼根元側)の蒸気流量を増加し、流量配分の適正化を図るものである。しかし、このように流量配分を調節すると、仕事効率の高い翼先端側の蒸気流量が低減し、仕事効率の低い翼根元側の蒸気流量が増えてしまう。すなわち、特許文献1の技術では、ランダム応力の抑制には一応の効果が期待できるものの、仕事効率の点からは改善の余地がある。
【0006】
ランダム応力に対するその他の技術としては、翼の高剛性化や高強度材料の使用が挙げられる。ところが、翼の高剛性化のために翼根元幅を拡大すると、タービン全体のサイズも拡大し、タービンの製作費の高騰を招く。また、高強度材料を使用する場合にも、前者と同様に製作費の高騰を招いてしまう。さらに、これらの対応策は、ランダム応力の直接の原因である逆流域の渦流れの抑制を図るものでないことも指摘できる。
【0007】
本発明の目的は、仕事効率を可能な限り保持しながら、低流量状態時に発生するランダム応力を低減できる蒸気タービンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、ロータに取り付けられた複数の動翼と、複数の静翼とを備える蒸気タービンにおいて、ロータ周方向において隣り合う動翼又は静翼の間に架け渡され、蒸気流路をロータ径方向において区画する仕切板を備え、前記仕切板を、翼長の2分の1に相当する位置からロータ回転軸側に位置するように、ロータ径方向において間隔を介して複数枚設置するものとする。
【0009】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記複数の仕切板がロータ径方向に配置される間隔は、ロータ径方向の内側で発生する渦流のサイズよりも小さくするものとする。
【0010】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記仕切板は蒸気の流れに合わせて形成するものとする。
【0011】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記仕切板は翼形状とするものとする。
【0012】
(5)上記(1)において、好ましくは、前記仕切板は、そのロータ軸方向における断面が、蒸気入口部の曲率が蒸気出口部の曲率より大きい涙滴形状となるように形成するものとする。
【0013】
(6)上記(1)において、好ましくは、前記仕切板は、その蒸気入口部が、前記動翼又は静翼の前縁部から後縁部に至るまでの間に位置するように設置するものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低流量状態時のロータ径方向の内側に発生する逆流域の渦のサイズを小さくできるので、仕事効率を可能な限り保持しながら、蒸気タービンに作用するランダム応力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】低流量状態での蒸気流れの概略図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る蒸気タービンの低圧段落における概略図。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る蒸気タービンの低圧段落における概略図。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る蒸気タービンの低圧段落における概略図。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係る蒸気タービンの低圧段落における概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0017】
図2は本発明の第1の実施の形態に係る蒸気タービンの低圧段落における概略図である。この図に示す蒸気タービンは、静翼1と、動翼2と、静翼仕切板6と、動翼仕切板7を備えており、図中の左方向から右方向へ作動流体である蒸気が流通している。
【0018】
静翼1は、ダイヤフラム外輪3とダイヤフラム内輪4の間に架け渡されており、ロータ周方向に複数設置されている。蒸気タービンには、ロータ軸方向に間隔を介して複数のダイヤフラム外輪3及びダイヤフラム内輪4が設置されており、各ダイヤフラム外輪3とダイヤフラム内輪4の間には、複数の静翼1がロータ周方向にロータ(タービンロータ)における回転軸(シャフト)25を中心にして放射状に架け渡されている。
【0019】
静翼仕切板6は、ロータ周方向において隣り合う2つの静翼1の間に架け渡され、蒸気流路をロータ径方向において区画する部材であり、ロータ径方向において間隔を介して複数枚設置されている。ロータ周方向において隣り合う2つの静翼1の間に設置された複数の静翼仕切板6は、いずれも、その静翼1の翼長の2分の1に相当する位置から回転軸25側に位置するように設置されている。これにより、ダイヤフラム外輪3とダイヤフラム内輪4の間の空間には、ロータ径方向における静翼仕切板6の数に応じて、静翼1の翼長の半分に相当する位置からダイヤフラム内輪4(回転軸25)に近いところに2以上の環状の蒸気流路が形成される。
【0020】
なお、本実施の形態における静翼仕切板6は、ロータ周方向において隣り合う2つの静翼1に対して2枚ずつ設置されている。ここでは、ロータ径方向の外側に位置するものを外側静翼仕切板6aとし、ロータ径方向の内側に位置するものを内側静翼仕切板6bとする。外側静翼仕切板6aは、静翼1の翼長の概ね2分の1に相当する位置に設置されており、内側静翼仕切板6bは、その外側静翼仕切板6aよりも回転軸25側に設置されている。また、各静翼仕切板6は、それぞれ、各静翼1に対してその前縁部11(蒸気入口部)から後縁部12(蒸気出口部)に至るまでの全範囲に渡って架け渡されている。そのため、本実施の形態における静翼仕切板6の蒸気入口部61は静翼1の前縁部11に位置し、静翼仕切板6の蒸気出口部62は静翼1の後縁部12に位置している。
【0021】
なお、各静翼仕切板6の形状は、ロータ軸方向の蒸気流れに対する抵抗を低減してタービン効率を向上させる観点から、環状流路に流れ込む蒸気の流れに合わせて形成することが好ましい。図2に示す例では、図中の略右上方向に向かって静翼1に流れ込む蒸気の流れに合わせて、蒸気入口部61は回転軸25に対して斜めに形成されている。
【0022】
動翼2は、回転軸25に取り付けられたホイール26を介してロータに取り付けられている。回転軸25には、ロータ軸方向に間隔を介して複数のホイール26が取り付けられており、各ホイール26には、ロータ周方向に複数の動翼2が回転軸25を中心にして放射状に取り付けられている。なお、図2に示した動翼2は、蒸気流通方向(図2中の矢印参照)において静翼1の下流側に設置されている。
【0023】
動翼仕切板7は、ロータ周方向において隣り合う2つの動翼2の間に架け渡され、蒸気流路をロータ径方向において区画する部材であり、ロータ径方向において間隔を介して複数枚設置されている。静翼仕切板6と同様に、ロータ周方向において隣り合う2つの動翼2の間に設置された複数の動翼仕切板7は、いずれも、その動翼2の翼長の2分の1に相当する位置から回転軸25側に位置するように設置されている。
【0024】
なお、本実施の形態における動翼仕切板7は、蒸気流通方向の上流側に位置する静翼仕切板6の蒸気出口部62の設置位置に合わせて、ロータ周方向において隣り合う2つの動翼2に対して2枚ずつ設置されている。ここでは、ロータ径方向の外側に位置するものを外側動翼仕切板7aとし、ロータ径方向の内側に位置するものを内側動翼仕切板7bとする。外側動翼仕切板7aは、ロータ径方向において、外側静翼仕切板6aの蒸気出口部62の設置位置に相当する位置に設置されており、動翼2に取り付けられた状態で回転軸25と略平行な流路を形成するように形成されている。また、内側動翼仕切板7bは、ロータ径方向において、内側静翼仕切板6bの蒸気出口部62の設置位置に相当する位置に設置されており、外側動翼仕切板7aと同様に回転軸25と略平行な流路を形成するように形成されている。また、各動翼仕切板7は、静翼仕切板6と同様に、それぞれ、動翼2の前縁部21から後縁部22に至るまでの全範囲に渡って架け渡されており、その蒸気入口部71は前縁部21に位置し、その蒸気出口部72は後縁部22に位置している。
【0025】
一般的に、蒸気タービンにおいて低流量状態となると、静翼又は動翼の翼長の2分の1に相当する位置からロータ径方向の内側の空間において、蒸気の逆流域が生じて図1のような渦流れが生じるおそれがある。しかし、上記のように構成される本実施の形態の蒸気タービンでは、静翼1又は動翼2の翼長の2分の1に相当する位置から回転軸25側(ロータ径方向の内側)に位置する空間において、複数の仕切板6,7がロータ径方向に設置されている。このように複数の仕切板6,7を設置すると、たとえ逆流域が生じても、そこに生じる渦のサイズは、大きくてもせいぜいロータ径方向に複数枚設置した仕切板6,7の間隔程度となるので、仕切板6,7が無い場合と比較して逆流域に発生する渦のサイズを小さくすることができる。これにより、蒸気乱れの乱れ成分を低減できるので、蒸気タービンに作用するランダム応力を低減させることができる。なお、逆流域に発生する渦のサイズ(直径)が予め分かっている場合には、仕切板6,7がロータ径方向に配置される間隔が当該渦のサイズよりも小さくなるように、仕切板6,7を配置することが好ましい。
【0026】
さらに、本実施の形態は、逆流域に生じる渦のサイズを小さくすることでランダム応力の低減を図っており、特許文献1に記載の技術のように、仕切板6,7によって形成される複数の環状流路のうち、ロータ径方向外側の流路の蒸気流量を強制的に低減する一方でロータ径方向内側の流路の蒸気流量を強制的に増加することで、逆流域の発生を抑制してランダム応力の低減を図ろうとしていない。そのため、仕事効率の高い翼先端側の蒸気流量が積極的に低減することがないので、仕事効率を可能な限り保持することができる。したがって、本実施の形態によれば、仕事効率を可能な限り保持しながら、蒸気タービンに作用するランダム応力を低減することができる。
【0027】
図3は本発明の第2の実施の形態に係る蒸気タービンの低圧段落における概略図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。この図に示す蒸気タービンは、静翼仕切板6Aを備えている点で第1の実施の形態のものと異なる。
【0028】
静翼仕切板6Aは、そのロータ軸方向における断面が、蒸気の流れに合うように、翼形状となるように形成されている。このように静翼仕切板6Aを形成すると、第1の実施の形態の場合と比較して、ロータ軸方向の蒸気流れに対する抵抗を低減できるので、タービン効率をさらに向上させることができる。
【0029】
図4は本発明の第3の実施の形態に係る蒸気タービンの低圧段落における概略図である。この図に示す蒸気タービンは、動翼仕切板7Aを備えている点で第1の実施の形態のものと異なる。動翼仕切板7Aは、そのロータ軸方向における断面が、蒸気入口部71の曲率が蒸気出口部72の曲率より大きい涙滴形状に形成されている。このように動翼仕切板7Aを形成すると、第1の実施の形態の場合と比較して、ロータ軸方向の蒸気流れに対する抵抗を低減できるので、タービン効率をさらに向上させることができる。
【0030】
図5は本発明の第4の実施の形態に係る蒸気タービンの低圧段落における概略図である。この図に示す蒸気タービンは、静翼仕切板6Bを備えている点で第1の実施の形態のものと異なる。静翼仕切板6Bは、その蒸気入口部61が、静翼1の前縁部11から後縁部12に至るまでの間に位置するように設置されており、その蒸気出口部62が、静翼1の後縁部12に位置するように設置されている。すなわち、静翼仕切板6Bの蒸気入口部61は、静翼1のロータ軸方向の途中に位置している。このように静翼仕切板6Bを形成しても、逆流域に発生する渦のサイズを小さくすることができるので、蒸気タービンに作用するランダム応力を低減させることができる。
【0031】
なお、以上の説明においては、低圧段落における静翼1と、蒸気流通方向の下流側でこの静翼1と隣り合う動翼2に対して、仕切板6,7を設置する場合について説明したが、低圧段落における静翼1又は動翼2のいずれか1つに仕切板6,7を設置すれば、上記において説明したランダム応力の低減効果を発揮することができるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0032】
1 静翼
2 動翼
3 ダイヤフラム外輪
4 ダイヤフラム内輪
6 静翼仕切板
7 動翼仕切板
11 前縁部(静翼)
12 後縁部(静翼)
21 前縁部(動翼)
22 後縁部(動翼)
25 回転軸
26 ホイール
61 蒸気入口部(静翼仕切板)
62 蒸気出口部(静翼仕切板)
71 蒸気入口部(動翼仕切板)
72 蒸気出口部(動翼仕切板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータに取り付けられた複数の動翼と、複数の静翼とを備える蒸気タービンにおいて、
ロータ周方向において隣り合う動翼又は静翼の間に架け渡され、蒸気流路をロータ径方向において区画する仕切板を備え、
前記仕切板は、翼長の2分の1に相当する位置からロータ回転軸側に位置するように、ロータ径方向において間隔を介して複数枚設置されていることを特徴とする蒸気タービン。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸気タービンにおいて、
前記複数の仕切板がロータ径方向に配置される間隔は、ロータ径方向の内側で発生する渦流のサイズよりも小さいことを特徴とする蒸気タービン。
【請求項3】
請求項1に記載の蒸気タービンにおいて、
前記仕切板は、蒸気の流れに合わせて形成されていることを特徴とする蒸気タービン。
【請求項4】
請求項3に記載の蒸気タービンにおいて、
前記仕切板は、翼形状となっていることを特徴とする蒸気タービン。
【請求項5】
請求項1に記載の蒸気タービンにおいて、
前記仕切板は、そのロータ軸方向における断面が、蒸気入口部の曲率が蒸気出口部の曲率より大きい涙滴形状となるように形成されていることを特徴とする蒸気タービン。
【請求項6】
請求項1に記載の蒸気タービンにおいて、
前記仕切板は、その蒸気入口部が、前記動翼又は静翼の前縁部から後縁部に至るまでの間に位置するように設置されていることを特徴とする蒸気タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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