説明

蒸気弁装置およびこれを備える蒸気タービンプラント

【課題】蒸気タービンプラントの起動時などに速やかに予熱(暖機)を完了することを可能とした蒸気弁装置を提供し、蒸気タービンプラントの起動時間を短縮する。
【解決手段】本発明に係る蒸気弁装置は、蒸気入口と蒸気出口と蒸気入口から前記蒸気出口に至る蒸気流路とを備えるケーシングと、蒸気通路の途中に設けられた蒸気通路開閉手段と、ケーシングの外周に設けられた誘導加熱装置と、を具備することを特徴とする。また好ましくは、誘導加熱装置の更に外周側に非導電体からなる保温材を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産業用や発電用の蒸気タービンプラントに係り、特にその蒸気弁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用や発電用の蒸気タービンプラントに用いられる蒸気弁装置としては、例えば特許文献1や特許文献2に示される構造のものが一般的に知られている。
【0003】
図2に、従来技術としての蒸気弁装置の一部切り欠き断面図を示す。蒸気弁装置100は、ケーシング1と、ケーシング1内に配置された図示しない弁体と、この弁体に一端が接続されるとともに他端がケーシング1の外部に延伸する弁棒13と、ケーシング1の外周を包囲する保温材5によって構成される。
【0004】
ケーシング1は、ケーシング本体2とケーシング本体2にボルトなどて締結された上蓋3とから構成される。ケーシング本体2は、蒸気入口2aと蒸気出口2bとを備えるとともに、その内部に蒸気入口2aから蒸気出口2bへと至る図示しない蒸気通路を備えている。そして、前述の弁体は、この蒸気通路内に移動可能に配置される。
【0005】
一般に、発電用蒸気タービンに供される蒸気は500℃以上の高温であるため、外部への熱放散を抑制し蒸気温度の低下を防止する目的でケーシング1のケーシング本体2及び上蓋3の周囲には保温材5が設置される。
【0006】
このような構成からなる蒸気弁装置100において、弁棒13が上下動することによりケーシング1内の蒸気通路内に配置された弁体が移動して蒸気通路を開閉させ、これにより蒸気入口2aから蒸気出口2bへと通流する蒸気の遮断や流量調節が行われる。
【0007】
蒸気タービンプラントが起動するときなどでは、蒸気弁装置100のケーシング1内部に高温の蒸気が導かれるため、ケーシング1の内面と外面で温度差が発生する。このようなケーシング1の内面と外面の温度差によって、ケーシング1の内部に内部応力が発生する。蒸気弁装置以外の蒸気配管などにおいても、内面と外面の温度差による内部応力は発生するが、上述の通り蒸気弁装置100は蒸気通路の開閉を行うことで流量を調整する装置であるため内部流路の形状が複雑であり、通常の配管に比べて内外面の温度差に起因する内部応力の影響を受けやすい。
【0008】
このように、蒸気弁装置に作用する内部応力は、ケーシング1の材料に歪を生じさせ、特に起動、停止を繰り返す蒸気タービンプラントにおいては、この内部応力が起動停止のよって変動する繰り返し応力として作用する。この繰り返し応力は、ケーシング1の材料に疲労が蓄積させてケーシングの寿命を消費し、最悪の場合ではケーシング1の破壊に繋がる惧れもある。そのため、従来技術では、蒸気タービンプラントの起動前に少量の蒸気を弁入口2aから蒸気通路内に流し、ケーシング1を内部から暖機する方法が取られる。
【特許文献1】特開2006−46110
【特許文献2】特開2007−192168
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のように起動前に少量の蒸気を蒸気入口2aから蒸気通路内に流して暖機する技術では、弁ケーシング1の内面から外面に向かって一方向の熱伝導による予熱であるため、外表面が所定の温度に達するまでに時間が必要となる。そしてこの時間はケーシング1の肉厚に比例する。
【0010】
蒸気タービンプラントの効率を向上させるために、蒸気タービンに供給される蒸気の高温高圧化が一層進んでおり、これに伴い蒸気弁装置100のケーシング1の肉厚も厚くなっている。このため、少量の蒸気を蒸気入口2aから蒸気通路に導入して予熱する上述の従来技術では、暖機に必要な時間が長くなり、蒸気タービンプラントのの起動時間を長くする一因となってた。
【0011】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、蒸気タービンプラントの起動時などに速やかに予熱(暖機)を完了することを可能とした蒸気弁装置を提供し、これによって蒸気タービンプラントの起動時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本願の請求項1に記載した発明に係る蒸気弁装置は、蒸気入口と蒸気出口と蒸気入口から前記蒸気出口に至る蒸気流路とを備えるケーシングと、蒸気通路の途中に設けられた蒸気通路開閉手段と、ケーシングの外周に設けられた誘導加熱装置と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蒸気弁装置によれば、蒸気タービンプラントの起動時などに速やかに予熱(暖機)を完了することが可能となり、これによって蒸気タービンプラントの起動時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る蒸気弁装置の一部切り欠き断面図である。なお、図1において、図2と同一の構成要件には同一の符号を付し、その詳細な説明を一部省略する。
【0015】
蒸気弁装置100は、ケーシング1と、ケーシング1内に配置された弁体12と、この弁体12に一端が接続されるとともに他端がケーシング1を貫通してその外部に延伸する弁棒13と、弁体12の周囲のケーシング1内に配置された円筒形状のストレーナ11と、ケーシング1の外周部に絶縁体4を介して設けられたワークコイル10と、ワークコイル10の更に外側を包囲する保温材5と、ワークコイル10に接続されてワークコイルへ高周波電流を流す高周波電流制御装置7によって構成される。
【0016】
ケーシング1は、ケーシング本体2とケーシング本体2にボルトなどて締結された上蓋3とから構成される。ケーシング本体2は、蒸気入口2aと蒸気出口2bとを備えるとともに、その内部に蒸気入口2aから蒸気出口2bへと至る蒸気通路15を備えている。蒸気通路15の一部には弁座14が設けられており、前述の弁体12は、この弁座14と係合離脱することにより蒸気通路15を開閉して蒸気通路15を通流する蒸気の流量を調節する。弁体12の弁座14に対する係合離脱は、ケーシング1の外部に延伸した弁棒13を操作する(図1では上下動させる)ことで行われる。
【0017】
なお、蒸気通路15に配置されたストレーナ11は、蒸気入口2aから流入する蒸気に含まれるスケールなどを取り除く目的で設けられている。また、保温材5は、グラスウールや漆喰などといった非導電体の材料で構成され、ケーシング1をワークコイル10の外側から包囲するように巻回されて設けられている。
【0018】
また、本実施の形態においては、ケーシング1の蒸気通路15の面に例えば熱電対などからなる内面温度センサ6aが設けられるとともに、ケーシング1の外面に同様に熱電対などからなる外面温度センサ6bが設けられている。そして、これらの内面温度センサ6a、6bは前述の高周波電流制御装置7に接続されている。
【0019】
蒸気弁装置100は、図示しない蒸気発生源であるボイラと、ボイラで発生した蒸気が導かれる図示しないタービンとを備える蒸気タービンプラントのボイラとタービンの間の蒸気配管に配置されてタービンへ供給される蒸気の流量を調整する。すなわち、蒸気弁装置100のケーシング1の蒸気入口2aが蒸気配管のボイラ側の配管に接続され、蒸気出口2bが蒸気配管のタービン側に接続される。
【0020】
このような構成からなる蒸気弁装置100を備える蒸気タービンプラントにおいて、プラント起動、すなわち蒸気タービンの起動時などには蒸気弁装置100の暖機(予熱)が行われる。この蒸気弁装置100の暖機はケーシング1を予熱することにて行われるが、本実施の形態では、蒸気入口2aより少量の蒸気を流入させると同時に、高周波電流制御装置7からワークコイル1に高周波電流を印加する。
【0021】
高周波電流制御装置7から印加された高周波電流はワークコイル1に作用し、導電体である鋼鉄製のケーシング1の表面付近に高密度の渦電流が発生する。ケーシング1は電気抵抗を有するので、この高密度の渦電流によるジュール熱でケーシング1表面が加熱される。このようにすることで、ケーシング1は蒸気通路15に導入された蒸気による内面からの加熱に加えて、外面からもワークコイル1の高周波誘導加熱によって加熱される。
【0022】
なお、本実施の形態においては特に、ワークコイル1によってケーシング1を外面から予熱(暖機)するにあたり、高周波電流制御装置7がケーシング1の内面と外面の温度に応じてワークコイル1に印加する高周波電流を制御するようになっている。この場合、高周波電流制御装置7は、ケーシング1の外面と内面に温度センサ6a、6bによって計測された温度に基づき、ケーシング1の内面と外面の温度が一致するように印加電流を制御し、さらにケーシング1の内面、外面の温度が予め定めた所定温度に達したところでワークコイル1への通電を自動的に停止するように構成することが好ましい。
【0023】
したがって本実施の形態の蒸気弁装置100によれば、ケーシング1の内面、外面の両方から予熱を行うことができるため短時間でケーシング1の温度が上昇して暖機に必要な時間を短縮することができる。このため、本実施の形態の蒸気弁装置100を備える蒸気タービンプラントの起動時間を短縮することが可能となる。
【0024】
さらに本実施の形態においては、保温材5の材質をグラスウールや漆喰などの非導電体としている。高周波誘導加熱は導電体のみに作用し、非導電体を加熱することはないため、このように保温材5を非導電体とすることで、高周波電流制御装置7からワークコイル1に供給される電気エネルギーをケーシングの加熱のみに効率よく利用できるうえ、保温材5が加熱されることがないので、保温材5の過熱焼損を防止することもできる。
【0025】
また本実施の形態においては、ケーシング外面と内面の温度を監視しながらワークコイル1に印加する高周波電流を制御する高周波電流制御装置7を備えたので、効率よく短時間にケーシング1を加熱することができる。
【0026】
なお、起動時のケーシング1の内外面の温度や、起動時に供給される蒸気の条件が予め大凡定まっている蒸気タービンプラントなどでは、高周波電流制御装置7はケーシング外面と内面の温度を監視しながらワークコイル1に印加する機能を持たせなくてもよい。このような場合、ワークコイル1にどのように高周波電流を供給するかを、例えばケーシング1の内外面の温度や、起動時に供給される蒸気の条件に基づいて予め決定しておき、この予め決定した方法で高周波電流制御装置7からワークコイル1に高周波電流を供給することで、同様に効率よくケーシング1の暖機(予熱)が行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る蒸気弁装置の一部切り欠き断面図。
【図2】従来の蒸気弁装置の一部切り欠き断面図。
【符号の説明】
【0028】
1・・・ケーシング
2・・・ケーシング本体
2a・・・蒸気入口
2b・・・蒸気出口
3・・・上蓋
4・・・絶縁体
5・・・保温材
6a,6b・・・温度センサ
7・・・高周波電流制御装置
10・・・ワークコイル
11・・・ストレーナ
12・・・弁体
13・・・弁棒
14・・・弁座
15・・・蒸気通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気入口と、蒸気出口と、前記蒸気入口から前記蒸気出口に至る蒸気流路とを備えるケーシングと、
前記蒸気通路の途中に設けられた蒸気通路開閉手段と、
前記ケーシングの外周に設けられた誘導加熱装置と、
を具備することを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項2】
請求項1記載の蒸気弁装置において、前記誘導加熱装置の更に外周側に非導電体からなる保温材が設けられていることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項記載の蒸気弁装置において、
前記誘導加熱装置は前記誘導加熱装置の外周に絶縁体を介して配置されていることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項4】
請求項1または3のいずれか1項記載の蒸気弁装置において、
前記蒸気通路内面の温度を計測する第1温度センサと、
前記ケーシングの外周面の温度を計測する第2温度センサと、
前記第1および第2温度センサにより計測された蒸気通路内面温度およびケーシング外周面温度に基づき、前記誘導加熱装置に供給する電流を制御する電流制御装置と、
を更に備えることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の蒸気弁装置を、ボイラと蒸気タービンの間に備えることを特徴とする蒸気タービンプラント。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−236039(P2009−236039A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84407(P2008−84407)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】