説明

蒸気発生装置、蒸着装置

【課題】膜質の良い有機薄膜を形成する。
【解決手段】供給装置40と加熱部材25の間には遮蔽板61が配置されているため、加熱部材25からの輻射熱や加熱部材25上で発生した蒸着材料39の蒸気が供給装置40へ到達しない。供給装置40は高温に加熱されないから、供給装置40内の蒸着材料39が溶融、蒸発しない。供給装置40から落下した蒸着材料39は遮蔽板61に落下すると、移動装置65により移動して、落下口63から加熱部材25上に乗せられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸着材料の蒸気を発生させる蒸気発生装置と、その蒸気発生装置を用いた蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は近年最も注目される表示素子の一つであり、高輝度で応答速度が速いという優れた特性を有している。有機EL素子は、ガラス基板上に赤、緑、青の三色の異なる色で発色する発光領域が配置されている。発光領域は、アノード電極膜、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層及びカソード電極膜がこの順序で積層されており、発光層中に添加された発色剤で、赤、緑、又は青に発色するようになっている。
【0003】
ホール輸送層、発光層、電子輸送層等は一般に有機材料で構成されており、このような有機材料の膜の成膜には蒸着装置が広く用いられる。
図6の符号203は、従来技術の蒸着装置であり、真空槽211の内部に蒸着容器212が配置されている。蒸着容器212は、容器本体221を有しており、該容器本体221の上部は、一乃至複数個の放出口224が形成された蓋部222で塞がれている。
【0004】
蒸着容器212の内部には、粉体の有機蒸着材料200が配置されている。蒸着容器212の側面と底面にはヒータ223が配置されており、真空排気系215により真空槽211内を真空排気し、ヒータ223が発熱すると蒸着容器212が昇温し、蒸着容器212内の有機蒸着材料200が加熱される。
【0005】
有機蒸着材料200が蒸発温度以上の温度に加熱されると、蒸着容器212内に、有機材料蒸気が充満し、放出口224から真空槽211内に放出される。
放出口224の上方にはホルダ210が配置されており、ホルダ210に基板205を保持させておけば、放出口224から放出された有機材料蒸気が基板205表面に到達し、ホール注入層やホール輸送層や発光層等の有機薄膜が形成される。有機材料蒸気を放出させながら、基板205を一枚ずつ放出口224上を通過させれば、複数枚の基板205に逐次有機薄膜を形成することができる。
【0006】
しかし、複数枚の基板205に成膜するには、蒸着容器212内に多量の有機蒸着材料200を配置する必要がある。実際の生産現場では、有機材料を250℃〜450℃に加熱しながら120時間以上連続して成膜処理を行うため、蒸着容器212内の有機蒸着材料200は長時間高温に曝されることになり、蒸着容器212中の水分と反応して変質したり、加熱による分解が進行する。その結果、初期状態に比べて有機蒸着材料200が劣化し、有機薄膜の膜質が悪くなる。
【特許文献1】特表2001−523768号公報
【特許文献2】特表2003−525349号公報
【特許文献3】特開2004−204289号公報
【特許文献4】特開2005−29885号公報
【特許文献5】特開2006−111920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、その目的は、連続成膜した場合でも、膜質の良い有機薄膜を成膜することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は蒸気発生装置であって、蒸着材料が配置されるタンクと、前記タンクに配置された前記蒸着材料を所定量落下させる供給装置と、前記供給装置が落下させた前記蒸着材料が載せられる遮蔽板と、前記遮蔽板に載せられた前記蒸着材料を、前記遮蔽板上で移動させる移動装置と、前記遮蔽板に形成され、前記遮蔽板上を移動した前記蒸着材料が落下する落下口と、前記落下口から落下した前記蒸着材料を加熱する蒸発室とを有する蒸気発生装置である。
本発明は蒸気発生装置であって、前記移動装置は回転軸と、前記回転軸を、当該回転軸と平行な回転軸線を中心に回転させる回転手段と、前記回転軸と一緒に回転する収集部材とを有する蒸気発生装置である。
本発明は蒸気発生装置であって、前記遮蔽板にはリング状の溝が形成され、前記落下口は前記溝の底面に位置する蒸気発生装置である。
本発明は蒸着装置であって、前記蒸気発生装置と、前記蒸発室に接続され、前記蒸発室内で発生した蒸気が供給される放出装置と、前記放出装置から内部空間に前記蒸気が放出される真空槽とを有する蒸着装置である。
【発明の効果】
【0009】
蒸着材料が供給装置内で蒸発も溶融もしないから蒸着材料が劣化せず、しかも、供給装置から決められた量の蒸着材料を正確に蒸発室に配置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1の符号1は有機EL素子の製造に用いられる製造装置の一例を示している。製造装置1は搬送室2と、1又は複数の蒸着装置10a〜10cと、スパッタ室7と、搬出入室3a、3bと、処理室6、8とを有しており、各蒸着装置10a〜10cと、スパッタ室7と、搬出入室3a、3bと、処理室6、8はそれぞれ搬送室2に接続されている。
【0011】
搬送室2と、各蒸着装置10a〜10cと、スパッタ室7と、搬出入室3a、3bと、各処理室6、8には、真空排気系9が接続されている。真空排気系9により、搬送室2内部と、蒸着装置10a〜10cの内部と、処理室6、8内部と、スパッタ室7内部と、搬入室3a内部と、搬出室3b内部に真空雰囲気が形成される。
【0012】
搬送室2の内部には搬送ロボット5が配置されており、搬送ロボット5により、基板は真空雰囲気中で搬送され、処理室6、8内部で加熱やクリーニング等の処理がされ、スパッタ室7で基板表面上に透明導電膜(下部電極)が形成され、蒸着装置10a〜10cで、電子注入層、電子輸送層、発光層、ホール輸送層、ホール注入層等の有機薄膜が形成され、スパッタ室7内部で有機薄膜上に上部電極が形成され、有機EL素子が得られる。得られた有機EL素子は搬出室3bから外部に搬出される。
【0013】
尚、この製造装置1に搬入する前に、予め他の製造装置で基板表面に下部電極を形成しておき、必要であれば、該下部電極を所定形状にパターニングしてから、上記製造装置1に搬入し、下部電極上に有機薄膜と上部電極とを、記載した順番に形成して、有機EL素子を製造してもよい。
【0014】
次に、有機薄膜の成膜に用いられる蒸着装置について説明する。
図1の蒸着装置10a〜10cのうち、少なくとも1台は本発明の蒸着装置10bで構成されている。図2は本発明の蒸着装置10bの模式的な断面図であり、蒸着装置10bは、真空槽からなる成膜槽11と、放出装置50と、1又は2以上の蒸気発生装置20とを有している。
【0015】
放出装置50は少なくとも一部が成膜槽11内部に配置され、放出装置50の成膜槽11内部に配置された部分には、1又は複数の放出口55が形成されている。放出口55を介して、成膜槽11の内部空間と放出装置50の内部空間とが接続されている。
各蒸気発生装置20には配管78の一端が接続され、配管78の他端は放出装置50に接続されている。配管78の一端と他端の間には切替装置70が設けられている。
【0016】
切替装置70を開状態にすると蒸気発生装置20が放出装置50に接続され、蒸気発生装置20で発生した蒸気は放出装置50へ移動し、放出口55から成膜槽11内部に放出される。逆に、切替装置70を閉状態にすると蒸気発生装置20が放出装置50から遮断され、蒸気発生装置20で発生した蒸気が、放出装置50へ移動しなくなる。
【0017】
蒸気発生装置20が複数の場合、切替装置70は個別に開状態と閉状態に切替可能であり、各蒸気発生装置20を放出装置50に個別に接続又は遮断することができる。
各蒸気発生装置20は同じ構成を有しており、同じ部材には同じ符号を用いて説明する。図3は蒸気発生装置20の断面図である。蒸気発生装置20は、タンク31と、供給装置40と、移動装置65と、蒸発室21とを有している。
【0018】
タンク31は蒸発室21の上方に配置されている。供給装置40は接続管42(直管)と供給回転軸35とを有している。接続管42は蒸発室21とタンク31の間に配置され、上端と下端が、タンク31の内部空間と蒸発室21の内部空間にそれぞれ気密に接続されている。従って、タンク31の内部空間と蒸発室21の内部空間は気密に接続されている。
【0019】
供給回転軸35は周囲に突条36が螺旋状に形成され、突条36の少なくとも一部が接続管42内に位置するよう接続管42に挿通されている。
供給回転軸35は回転手段41に接続されている。回転手段41は、供給回転軸35を接続管42の中心軸線を中心として接続管42内で回転させる。
【0020】
図3はタンク31に蒸着材料39を収容した状態を示している。
蒸着材料39は粉体であって、突条36表面と接続管42内壁面との間の隙間は、蒸着材料39の平均粒径よりも小さくされ、供給回転軸35が静止した状態では蒸着材料39はタンク31内に留まるが、供給回転軸35が回転すると、タンク31内の蒸着材料39は、突条36間の溝に入り込む。
【0021】
突条36間の溝のうち、接続管42内に位置する部分が通路となり、溝に入り込んだ蒸着材料39は該通路を通って接続管42内を下方へ移動し、通路の下端に到達すると、該通路から零れ落ちる。供給回転軸35と接続管42との間の隙間は筒状であって、その隙間の下端で構成されるリング状の開口(供給口45)は蒸発室21の内部空間に露出している。
【0022】
蒸着材料39が通る通路の下端は供給口45の一部分であるから、供給口45のうち、通路の下端が位置する場所が落下場所になり、その落下場所から零れ落ちた蒸着材料39が蒸発室21内部に落下する。蒸発室21内部の、供給回転軸35と接続管42よりも下方位置には、遮蔽板61が供給口45と対面するように配置されている。
【0023】
蒸着材料39の落下場所は供給回転軸35の回転により移動するが、上述したように、落下場所は供給口45の一部であり、供給口45内を移動するから、落下した蒸着材料39は常に遮蔽板61上に載せられる。
回転手段41には供給回転軸35の回転量と、蒸着材料39の落下量の関係が設定されている。回転手段41に蒸着材料39の必要量を入力すると、回転手段41は必要量が落下するよう供給回転軸35を回転させ、必要量の蒸着材料39が遮蔽板61に載せられる。
【0024】
遮蔽板61には貫通孔(落下口63)が形成されている。移動装置65は、後述するように、遮蔽板61上を移動する収集部材67を有しており、収集部材67は蒸着材料39を遮蔽板61上で移動させ、落下口63から落下させる。落下口63は蒸発室21の内部空間と面している。蒸発室21内部の落下口63の下方位置には加熱部材25が配置されており、落下口63から落下した蒸着材料39は加熱部材25上に配置される。
【0025】
加熱部材25と蒸発室21のいずれか一方又は両方には、ヒーター等の加熱手段48が取り付けられている。電源47から加熱手段48に通電すると、加熱手段48が発熱し、加熱部材25と蒸発室21のうち、加熱手段48が取り付けられた部材が直接加熱され、加熱手段48が取り付けられてない部材も輻射熱や熱伝導で間接的に加熱され、結局、蒸発室21と加熱部材25の両方が加熱手段48で加熱される。
【0026】
上記配管78の一端は蒸気発生装置20のうち蒸発室21に接続され、切替装置70が開状態では、蒸発室21の内部空間が放出装置50に接続される。蒸発室21に接続された真空排気系で直接蒸発室21の内部を真空排気するか、切替装置70を開状態にして、放出装置50を介して蒸発室21内部を真空排気して、真空雰囲気を形成する。
【0027】
蒸発室21内部に真空雰囲気を形成した状態で、加熱部材25を蒸着材料39の蒸発温度以上に加熱し、蒸着材料39を加熱部材25上に配置すると、蒸着材料39が加熱されて蒸発し、蒸着材料39の蒸気が蒸発室21内部に発生する。上述したように、供給回転軸35と接続管42の下方、即ち供給装置40の下方には遮蔽板61が配置され、遮蔽板61の下方に加熱部材25が配置されているから、加熱部材25からの輻射熱と、加熱部材25上で発生した蒸気は、遮蔽板61に入射し、供給装置40には入射しない。しかも、遮蔽板61上には、遮蔽板61と供給装置40の間の空間を取り囲む壁部材62が配置されている。
【0028】
壁部材62の上端と下端は遮蔽板61表面と蒸発室21の天井にそれぞれ密着し、遮蔽板61と供給装置40の間の空間は密閉され、側方に回り込んだ蒸気と、側方(例えば蒸発室21内壁面)からの輻射熱とが供給装置40には入射しない。
従って、供給装置40には蒸着材料39の蒸気が入り込まず、しかも、加熱部材25や蒸発室21からの輻射熱で加熱されないから、供給装置40は蒸着材料39の蒸発温度未満に維持される。
【0029】
タンク31は蒸発室21の外部に、蒸発室21及び加熱手段48から離間して配置されているから、タンク31も蒸着材料39の蒸発温度未満に維持され、タンク31内や供給装置40内部で、蒸着材料39が蒸発溶融せず、蒸着材料39が変質しない。蒸着材料39が蒸発溶融しないから、供給装置40内で蒸着材料39が詰らず、供給装置40が決められた量の蒸着材料39を正確に供給口45から落下させることができる。
【0030】
次に、この蒸着装置10bを用いて、電子注入層、電子輸送層、発光層、ホール輸送層、ホール注入層等の有機薄膜を成膜する工程について説明する。
成膜すべき有機薄膜の膜厚は予め決められている。決められた膜厚の成膜に必要な蒸着材料39の必要量を求め、回転手段41に、求めた必要量と、回転量と落下量との関係を設定しておく。
【0031】
少なくとも成膜槽11には真空排気系9が接続されている。成膜槽11の内部を真空排気し、成膜槽11内部と、蒸発室21内部と、蒸発室21から成膜槽11までの蒸気の移動経路(放出装置50、切替装置70、配管78)の内部空間に、所定圧力(例えば10-5Pa)の真空雰囲気を形成する。
【0032】
加熱部材25と、蒸発室21と、蒸気の移動経路とを加熱手段48で加熱し、蒸着材料39の蒸発温度以上の加熱温度(250℃以上400℃以下)にし、その温度を維持する。蒸発室21に真空排気系9が直接接続されている場合には、その真空排気系9と蒸発室21との間のバルブを閉じる。
【0033】
予め、タンク31には、電子注入材料、電子輸送材料、発光材料、ホール輸送材料、ホール注入材料等の有機材料を蒸着材料39として収容しておき、回転手段41により、設定された必要量の蒸着材料39を供給口45から遮蔽板61上に落下させる。落下した蒸着材料39を移動装置65により遮蔽板61上を移動させ、全量を落下口63から加熱部材25に落下させ、蒸発室21を放出装置50に接続した状態で、蒸着材料39の蒸気を発生させる。
【0034】
蒸着材料39の蒸気は、圧力差により、蒸発室21から、移動経路を通って放出口55から成膜槽11内に放出される。このとき、蒸発室21と、放出装置50と、蒸気の移動経路は、蒸着材料39の蒸発温度以上になっているから、蒸気は途中で析出しない。
【0035】
成膜槽11の内部には基板ホルダ15が配置されている。少なくとも放出口55から蒸気が放出され始める前に、基板81を成膜槽11内部に搬入して基板ホルダ15に保持させ、基板81表面を放出装置50の放出口55と対面させておく。放出口55から放出された蒸着材料39の蒸気は、基板81表面に到達して有機薄膜が成長する。
【0036】
上述したように、供給口45から遮蔽板61に落下する蒸着材料39の量は、決められた膜厚の成膜に必要な量である。その蒸着材料39は、全量が落下口63から加熱部材25に落下して蒸発するから、放出口55から蒸気が放出され始めてから、蒸気が放出されなくなるまで、基板81を放出口55と対面させておけば、基板81表面上に決められた膜厚の有機薄膜が形成される。蒸着材料39を供給口45から落下させ始めてから所定時間が経過するか、蒸発室21内の圧力が所定圧力以下に下がったら、成膜が終了したと判断する。
【0037】
成膜が終了した基板81を基板ホルダ15から取り外し、新たな基板81を基板ホルダ15に取り付け、基板81の交換を行った後、上述した工程で有機薄膜を成膜する。基板81の交換と有機薄膜の成膜とを複数回繰り返せば、複数枚の基板81を連続して成膜処理することができる。
【0038】
複数枚の基板81を連続して成膜処理する場合であっても、必要量の蒸着材料39だけしか加熱されないから、蒸着材料39が劣化せず、連続成膜の最後まで有機薄膜の膜質が劣化しない。
【0039】
次に、本発明の蒸気発生装置20のうち、移動装置と遮蔽板についてより詳細に説明する。図3、4は移動装置65と遮蔽板61の組み合わせの一例を、図5(a)、(b)は移動装置75と遮蔽板71の組み合わせの他の例をそれぞれ示している。
【0040】
移動装置65、75は回転軸66、76と、回転軸66、76に接続された板状の収集部材67、77とを有している。
回転軸66、76は鉛直方向に立設された状態で、供給回転軸35に接続されている。回転軸66、76は回転手段41により、供給回転軸35と同時に、鉛直方向に立設した状態を維持したまま、一の鉛直線(回転軸線C)を中心に回転する。
【0041】
収集部材67、77は、遮蔽板61よりも上方であって、かつ、供給装置40よりも下方に位置し、回転軸66、76の回転により、遮蔽板61、71上を、収集部材67、77が回転軸線Cの周りを移動する。
回転軸66、76は鉛直方向に立設されているから、回転軸66、76と回転軸線Cとは平行である。ここでは、回転軸線Cと回転軸66、76の中心軸線は一致している。
尚、回転軸66、76は、供給回転軸35と異なる回転手段に接続されてもよく、この場合、供給回転軸35と回転軸66、76の回転軸線は別軸であってもよい。
【0042】
第一例の移動装置65と遮蔽板61の組み合わせでは、遮蔽板61の上側の面(表面)が平坦であり、該表面が略水平になっている(図3、図4)。供給口45から落下した蒸着材料39は、回転軸66の側面と壁部材62の内壁面との間の領域に載せられる。
収集部材67の下端は平坦であり、その下端は、回転軸66側面から壁部材62内壁面に亘って、遮蔽板61の表面と近接して対面している。
【0043】
収集部材67の下端と遮蔽板61の表面との間は離間し、収集部材67が移動可能になっているが、その間隔は可能な限り狭くなっている。収集部材67の下端が、弾性変形可能な部材や、ブラシ状の部材で構成される場合は、収集部材67の下端を遮蔽板61表面に接触させてもよい。
【0044】
供給口45から落下する蒸着材料39は、回転軸35の側面から壁部材62の内壁面までのリング状の領域に載せられる。即ち、収集部材67の下端は、回転軸66側面から、蒸着材料39が載せられる領域の縁(外周)に亘って、遮蔽板61表面と近接する。ここでは、遮蔽板61表面の壁部材62で囲まれた領域は円形であり、回転軸線Cはその円の中心を通る。
【0045】
回転軸66が回転すると、収集部材67は、回転軸66側面から蒸着材料39が載せられる領域の縁まで亘って、遮蔽板61表面と微小間隔を空けて対面したまま移動する。
【0046】
収集部材67下端と遮蔽板61表面との間の隙間は、蒸着材料39が通過しない程狭くされており(例えば蒸着材料39の平均粒径以下)、収集部材67が通過した領域にあった蒸着材料39は、収集部材67にかき集められ、収集部材67と一緒に、回転軸66側面と壁部材62内壁面の間の領域を移動する。
【0047】
回転軸66が一回転すると、収集部材67が、蒸着材料39が載せられる領域全部と近接したことになるから、遮蔽板61に落下した蒸着材料39全部が収集部材67でかき集められる。かき集められた蒸着材料39は収集部材67と一緒に移動する。
【0048】
遮蔽板61には落下口63が1又は2以上が形成されている。各落下口63は少なくとも回転軸66の側面から壁部材62の内壁面、即ち、回転軸66から、蒸着材料39が移動する領域の縁に亘って形成されているから、収集部材67が落下口63上を通過する際、かき集められた蒸着材料39が全て落下口63から落下する。
【0049】
次に、第二例の移動装置75と遮蔽板71の組み合わせについて説明する。
図5(a)、(b)に示す遮蔽板71は、上側の面(表面)のうち、少なくとも蒸着材料39が載せられる部分に、すり鉢状の溝74が形成されている。
溝74は略水平な底面と、該底面の両側に配置された斜面とで構成されている。供給口45から落下した蒸着材料39は斜面に載せられると、重力により底面へ移動する。
【0050】
収集部材77の下端は、溝74底面の一方の側の斜面の下端から、他方の側の斜面の下端まで亘って、該底面に対面する。その底面と収集部材77下端との間の隙間は、蒸着材料39が通過しないほど狭くされているから、収集部材77が一回転すると、底面へ移動した蒸着材料39全部が収集部材77でかき集められる。
【0051】
落下口73は溝74の底面に1又は2以上形成されている。各落下口73は溝74底面の一方の側の斜面から他方の側の斜面に渡って形成されている。収集部材77が落下口73上を通過する時には、その下端全部が落下口73と対面するから、かき集められた蒸着材料39が全て落下口73から落下する。
収集部材67、77は回転軸66、76に固定してもよいし、回転軸66、76と相対的に移動可能にしてもよい。
【0052】
第二例の組み合わせで、収集部材77が回転軸76に固定された場合、溝74のリング中心を、回転軸線Cが通るようにすれば、収集部材77は溝74底面と対面したまま移動する。尚、溝74に底面を設けず、2つの斜面の下端を直接接触させて、底面の無い溝74を形成してもよい。
【0053】
この場合、収集部材77を、2つの斜面の下端まで近接するような形状にし、落下口73を2つの斜面の下端まで達するよう設ければ、各斜面を滑り落ちた蒸着材料39を収集部材77でかき集めることができる。回転軸66、76と回転軸線Cの向きは鉛直の場合に限定されない。遮蔽板61、71の表面(又は溝74の底面)が水平面から一方向に傾斜している場合には、回転軸66、76と、その回転軸線Cを、その傾斜した表面(又は底面)と垂直にする。
【0054】
その回転軸66、76に、傾斜した表面(又は底面)と、下端が近接するよう収集部材67、77を取り付け、傾斜した表面(又は底面)と下端との間の隙間を、蒸着材料39が通過しない程狭くする。その状態で回転軸66、76を回転させれば、収集部材67、77は、下端が遮蔽板61、71の表面(又は溝74底面)と近接したまま移動し、一回転した時に、遮蔽板61、71に落下した蒸着材料39が全部かき集められる。
【0055】
要するに、回転軸66、76とその回転軸線Cを、遮蔽板61、71の蒸着材料39が載せられる表面(又は底面)に対して垂直にすれば、その回転軸66、76に取り付けた収集部材67、77で、蒸着材料39をかき集めることができる。遮蔽板61、71の表面(又は底面)が水平面から傾斜している場合、落下口63、73が少なくとも傾斜の下端まで形成されていれば、収集部材67、77でかき集められた蒸着材料39の全量が落下口63、73から落下する。
【0056】
回転軸66、76を回転させる回転手段が、供給回転軸35を回転させる回転手段41と同じである場合には、回転軸66、76を供給回転軸35とは別に回転手段41に接続してもよい。また、回転軸66、76を供給回転軸35に取り付けてもよい。更に、供給回転軸35を回転軸66、76とし、供給回転軸35に直接収集部材67、77を取り付けてもよい。
【0057】
回転軸66、76を回転させる回転手段が、供給回転軸35を回転させる回転手段41と同じである場合には、回転軸66、76の回転速度は供給回転軸35の回転速度と同じになり、単位時間当たりの供給口45からの落下量と、単位時間当たりの落下口63、73からの落下量は略等しくなる。
【0058】
回転軸66、76を回転させる回転手段が、供給回転軸35を回転させる回転手段41と異なる場合は、装置が複雑にはなるが、回転軸66、76の回転速度を、供給回転軸35の回転速度から変えることができる。従って、単位時間当たりの落下口63、73からの落下量を、単位時間当たりの供給口45からの落下量を超えない範囲で自由に変えることができ、蒸着材料39の蒸気の発生速度を自由に変え、成膜速度を容易に調整することができる。
【0059】
回転軸66、76の配置場所は特に限定されないが、回転軸66、76を供給口45と対面しない位置(ここでは供給口54のリング内側)に配置すれば、蒸着材料39が回転軸66、76上に溜まらない。
収集部材67、77の上に蒸着材料39が落下する場合は、蒸着材料39が留まらずに零れ落ちるよう、収集部材67、77の上端を狭くしておけばよい。
【0060】
収集部材67、77は、粉体(粒状体を含む)有機材料を集めるものであれば、形状は板状に限定されない。収集部材67、77や回転軸66、76の構成材料は特に限定されないが、例えば、金属、合金、セラミック等である。
【0061】
以上は蒸着材料39を加熱部材25上で加熱する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、蒸発室21底壁を加熱部材とし、蒸発室21を加熱しながら、蒸発室21の底壁に落下口63、73から蒸着材料39を落下させて、蒸着材料39を加熱蒸発させてもよい。
【0062】
加熱部材25の加熱方法は特に限定されない。例えば、加熱部材25をステンレス等の高抵抗の導電材料で構成し、蒸発室21の内部に電磁場を形成して、加熱部材25を誘導加熱することもできる。更に、蒸発室21にレーザー光が透過可能な窓を設け、該窓を介して、外部のレーザー発生装置から、加熱部材25表面にレーザー光を照射して、加熱部材25を加熱してもよい。
【0063】
加熱部材25の落下口63、73と面する表面(載置面)を水平面から傾けておけば、載置面に落下した蒸着材料39は、重力により載置面上を移動するから、短時間に蒸着材料39が蒸発する。加熱部材25の構成材料は特に限定されないが、金属、合金、無機物等熱伝導率が高いものが望ましい。その中でも、シリコンカーバイト(SiC)は熱伝導率と機械的強度の両方に優れているので特に望ましい。
【0064】
遮蔽板61、71及び壁部材62、72は特に限定されないが、加熱部材25や蒸発室21からの輻射熱が入射する面の赤外線反射率を高くし、輻射熱を吸収させないか、遮蔽板61、71と壁部材62、72の一部又は全部を断熱材料(例えばSi34等のセラミック材料)で構成し、表面が輻射熱を吸収しても、その熱が供給装置40側の裏面まで伝達しないようにすれば、供給装置40をより確実に、蒸着材料39の蒸発温度未満に維持することができる。
【0065】
遮蔽板61、71及び壁部材62、72の、蒸発室21の内部空間に面する面に、別部材を取り付け、遮蔽板61、71の表面上で輻射熱を反射させずに、吸収させれば、表面が蒸着材料39の蒸発温度以上になり、遮蔽板61、71に蒸着材料39の蒸気が析出しない。
【0066】
蒸着材料39の蒸気を発生させる際に、蒸発室21にパージガスを導入し、蒸気をパージガスで押し流せば、蒸気の移動効率が高くなる。
蒸発室21にパージガスを導入する場合には、例えば、図3に示すように、蒸発室21を内部を仕切り部材24で分け、一方の空間に加熱部材25を、他方の部材にフィルタ27を配置する。
【0067】
フィルタ27を加熱手段48で加熱しながら、該フィルタ27が配置された空間に、ガス導入系28からパージガス(Ar、Ne、Xe等)を供給し、フィルタ27を通過して加熱されたパージガスを、加熱部材25が配置された空間に導入する。蒸着材料39の蒸気は加熱されたパージガスで押し流されるから、蒸気が析出しない。
【0068】
放出装置50に複数の蒸気発生装置20が接続されている場合、蒸気発生装置20にそれぞれ異なる蒸着材料39を収容しておけば、基板81表面上に2種類以上の異なる有機薄膜を形成することができる。
具体的には、一の有機薄膜を成膜後、基板81を交換せずに、基板ホルダ15に保持したまま、成膜が終了した蒸発室21を放出装置50から遮断し、別の蒸気発生装置20の蒸発室21を放出装置50に接続して、該蒸発室21で異なる蒸着材料の蒸気を発生させる。
【0069】
例えば、3色以上の異なる色の有機薄膜(着色層)を形成する場合、基板81と放出装置50の間にマスクを配置し、1つの色の着色層の成膜が終了し、次の着色層の成膜を開始するまでの間に、マスクと基板81との相対的な位置関係を変えれば、各色の着色層が基板81表面上の異なる領域に形成される。
【0070】
上部電極と下部電極のいずれか一方又は両方をパターニングし、各着色層に個別に電圧印加可能にしておけば、選択した場所の選択した色の着色層に電圧を印加して発光させることで、画像や文字をフルカラー表示することができる。
また、マスクを用いないか、マスクと基板81との位置関係を変えなければ、各色の着色層が同じ場所に積層され、白色光用の有機EL素子が得られる。
【0071】
蒸気発生装置20の設置場所は特に限定されず、蒸気発生装置20の一部又は全部を、放出装置50と同じ真空槽11内部に設置してもよい。蒸発室21と成膜槽を一体化し、蒸発室21内に基板81を配置して成膜を行ってもよい。
本発明の蒸気発生装置20及び蒸着装置10bは、有機EL素子の有機薄膜の成膜以外の成膜にも用いることができる。
【0072】
供給装置40は、蒸着材料39を遮蔽板61、71上に落下させるものであれば特に限定されない。例えば、供給口45を遮蔽板61、71と対面しない位置に配置し、供給口45から落下した蒸着材料39を、水平面から傾斜した板に落下させ、該板の表面を滑り落ちた蒸着材料39を、遮蔽板61、71上に落下させてもよい。
【0073】
更に、供給回転軸35の代わりに、供給口から所定量の蒸着材料39を押し出す押し出し手段を設けてもよい。また、蒸着材料39の溶融や蒸発をより確実に防止するために、供給装置40とタンク31のいずれか一方又は両方に冷却手段を取り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】有機EL素子の製造装置の一例を示す模式的な平面図
【図2】本発明の蒸着装置の一例を示す模式的な断面図
【図3】本発明の蒸気発生装置の一例を説明するための断面図
【図4】本発明に用いる移動装置の一例を説明する平面図
【図5】(a)、(b):本発明に用いる移動装置の他の例を説明する断面図と平面図
【図6】従来技術の蒸着装置を説明するための断面図
【符号の説明】
【0075】
10b……蒸着装置 20……蒸気発生装置 21……蒸発室 31……タンク 40……供給装置 41……回転手段 61、71……遮蔽板 63、73……落下口 65、75……移動装置 66、76……回転軸 67、77……収集部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料が配置されるタンクと、
前記タンクに配置された前記蒸着材料を所定量落下させる供給装置と、
前記供給装置が落下させた前記蒸着材料が載せられる遮蔽板と、
前記遮蔽板に載せられた前記蒸着材料を、前記遮蔽板上で移動させる移動装置と、
前記遮蔽板に形成され、前記遮蔽板上を移動した前記蒸着材料が落下する落下口と、
前記落下口から落下した前記蒸着材料を加熱する蒸発室とを有する蒸気発生装置。
【請求項2】
前記移動装置は回転軸と、
前記回転軸を、当該回転軸と平行な回転軸線を中心に回転させる回転手段と、
前記回転軸と一緒に回転する収集部材とを有する請求項1記載の蒸気発生装置。
【請求項3】
前記遮蔽板にはリング状の溝が形成され、
前記落下口は前記溝の底面に位置する請求項2記載の蒸気発生装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の蒸気発生装置と、
前記蒸発室に接続され、前記蒸発室内で発生した蒸気が供給される放出装置と、
前記放出装置から内部空間に前記蒸気が放出される真空槽とを有する蒸着装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−84679(P2009−84679A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43482(P2008−43482)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】