説明

蒸発器を備えたマイクロ流体装置およびその使用方法

マイクロ化学過程を実施するための装置であって、(a)蒸気透過性マイクロ流体チップ構造体(1)〔ここで、該チップ構造体は、該チップ構造体で包囲され第1および第2の対向端を有する供給導管(11a-c)(ここで、該供給導管は、該供給導管の対向端から互いの方向に第1および第2の流体材料を流動させることにより該第1および第2の流体材料が相互作用できるようにする)と、該供給導管をその第1および第2の端の間に位置する中間位置(55)で開閉するように操作可能な、該チップ構造体中のバルブ機構(13b)(これにより、該チップ構造体は、該中間位置の両側で該流体材料を該供給導管内に盲目的に充填できるように該中間位置が閉状態にある充填状態から、該流体材料が相互作用できるように該中間位置が開状態にある相互作用状態に、逐次的に移行可能である)と、を有する〕と;(b)該相互作用状態において該チップ構造体の該供給導管からの該流体材料の蒸発を補償すべく該チップ構造体の周囲に蒸気環境を形成するための蒸発器(100)と;を備える、上記装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本特許出願は、2003年1月31日出願の英国特許出願第0302302.5号の優先権を主張する。結果として、その全内容が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0002】
発明の分野
本発明は、マイクロ流体装置および方法に関し、限定するものではないが、とくに、マイクロ流体チップにおけるタンパク質結晶化の改善に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
タンパク質結晶化を行うためのマイクロ流体チップは、TopazTMシステムの一部分としてFluidigm Corporation (www.fluidigm.com)により開発された。このチップについては、論文'A Robust and Scalable Microfluidic Metering Method that allows Protein Crystal Growth by Free Interface Diffusion', Hansen et al, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States (PNAS), Vol. 99, No. 26, 2002, p. 16531-16536に論じられる。
【0004】
このマイクロ流体チップは、異なる体積のウェルのアレイが上部面に形成されている下部ガラス層と、ガラス層の上部面上に封止状態で置かれた下部面を有する水蒸気透過性不活性エラストマー性上部層と、を備えたラミネート構造体を生成する「多層ソフトリソグラフィー」(またはMSLTM)と呼ばれる方法により作製される。エラストマー性層の下部面は、その中に形成された流体グルーブのアレイを有する。各流体グルーブは、隣接ガラス層と共に流体供給導管を形成し、複数のウェルと交差する。エラストマー性層は、流体グルーブの上方に離間して複数の供給導管と交差するように配置された制御導管の形態のバルブのアレイをも含む。液圧で制御導管を加圧することにより、制御導管を下方に十分に変形させて(すなわち、半径方向に膨張させて)、交差する供給導管を交差位置で閉状態にする。
【0005】
導管は、ユニットセルを既定するように配置される。すなわち、ユニットセルの中央部制御導管と各外部制御導管との間にウェルを位置決めした状態で、3つの制御導管が各供給導管と交差する。各ユニットセル中の外部制御導管を関連する中央部導管から等距離離間させることにより、ユニットセル中のウェルが異なる体積であるときに中央部導管のそれぞれの側に異なる体積が生成されるようにする。
【0006】
使用時、関連する供給導管が閉状態になるように中央部制御導管を操作してから、(i)ユニットセルの中央部制御導管の一方の側に盲目的に充填されるように空気圧によりタンパク質溶液を供給導管に押入し、かつ(ii)ユニットセルの中央部制御導管の反対側に盲目的に充填されるように空気圧により結晶化試薬を各供給導管に押入することにより、最初に反応物質をチップに充填する。次に、関連する供給導管が閉状態になるように各ユニットセルの外部制御導管を操作し、その後、関連する供給導管が開状態になるように中央部制御導管を減圧する。このようにすると、ユニットセルは密閉されたセルになり、その中でタンパク質溶液および結晶化試薬は互いの方向に拡散可能であり、その結果、うまくいけば、チップのウェルのいくつかでタンパク質結晶が生じる。
【0007】
タンパク質結晶化反応モードでは、中央部制御導管は、無制限にまたは少なくとも試薬ウェルへのタンパク質の拡散および/もしくはその逆の拡散に要する程度の時間にわたり、開放状態を保持するものと推測される。これに関連して、それぞれの分子の分子サイズに起因して、たとえば、塩型または小分子型試薬の溶液では、試薬の拡散速度は、典型的には、タンパク質の拡散速度よりもかなり大きいが、ポリエチレングリコール(PEG)のような大分子サイズの試薬もまた遅い拡散速度を有する。このように、迅速拡散試薬がタンパク質ウェルに拡散するには典型的には数時間を要するにすぎないであろうが、タンパク質が試薬ウェルに拡散するには典型的には数日間または数週間を要するであろう(緩速拡散試薬では、この逆になる)。
【0008】
このことに注目したところ、中央部制御導管が数時間後に自然に供給導管を再度閉状態にすることが本出願人により観察された。これは、迅速拡散試薬だけが密閉セルの試薬側のウェルからタンパク質側のウェルに拡散するのに十分な時間を有することおよび/またはその逆であることを意味する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、この現象を防止する手段を提供することである。
【0010】
これに関連して、タンパク質溶液中および/または結晶化試薬中の水が供給導管から蒸発してチップの水蒸気透過性上部層から送出されることが原因で中央部制御導管が再度閉状態になることを本出願人は確認した。言い換えれば、チップは脱水状態になる。蒸発過程により供給導管内の圧力低下が起こると、中央部導管内の圧力が供給導管内の圧力よりも大きくなるので、供給導管は自然に再度閉状態になる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明によれば、本明細書の請求項1に記載されるようなマイクロ化学過程を実施のための装置が提供される。
【0012】
本発明は、限定するものではないが、チップ構造体からの蒸発が補償されなければ、たとえば、その結果として供給導管内の圧力が低下してバルブ機構により中間位置で再度閉状態になることが原因で、バルブ機構が相互作用状態において中間位置で供給導管を再度閉状態にするように動作するようなものであるときに、とくに有利である。これは、以下の実施形態に記載されるように、バルブ機構が、チップ構造体で包囲され中間位置で供給導管と離間状態で交差する制御導管の形態のバルブを有し、供給導管および制御導管が、制御導管内の圧力が供給導管内の圧力よりも大きいときに中間位置で供給導管が閉状態になるようにするのに十分な程度に制御導管をその位置で膨張させることができるように構築され配置されている場合があてはまるであろう。したがって、供給導管からの蒸発が補償されないかぎり、供給導管と制御導管との閉状態圧力差が形成される。一例として、制御導管および供給導管が相互作用状態の開始時に大気圧にあれば、供給導管内でそこから蒸発が起こって大気圧未満の圧力または真空が形成され、バルブは再度閉状態になるであろう。充填状態では、中間位置でバルブを閉状態にすべく液圧または空気圧により制御導管を加圧することが可能である。
【0013】
好ましくは、チップ構造体は、少なくとも部分的に、エラストマー材料などの不活性弾性材料、好ましくはポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコーンエラストマーから形成され、供給導管およびバルブ機構は、弾性材料中に位置する。チップ構造体は、弾性材料に隣接してガラスなどの剛性材料をさらに含んでいてもよい。その場合には、供給導管は、弾性材料と剛性材料との境界に沿って形成される。すなわち、供給導管の一方の側は弾性材料で占められ、反対側は剛性材料で占められる。
【0014】
好ましくは、蒸発器は、チップ構造体から蒸発する蒸気と同一の蒸気を含有する蒸気環境をチップ構造体の周囲に形成する。典型的には、蒸気は、以下の実施形態に記載されるように水蒸気であろう。この場合、蒸発器は、チップ構造体の周囲に湿潤局所環境を保持すべく加湿装置のように作用するものであってもよい。
【0015】
蒸発器はマイクロ流体チップ構造体が脱水状態にならないように作用するものと推測されよう。言い換えれば、蒸発器は、チップ構造体を水和状態に保持する。「脱水状態」、「水和」などの用語の使用は、本明細書中では、水蒸気に関連するだけでなく、密閉セルから蒸発する流体に応じて、他の蒸気に関連することもある。
【0016】
好ましくは、蒸発器は、チップ構造体の周囲の局所環境を飽和または実質的に飽和するようなものである。蒸気が水蒸気である場合、90〜100%の相対湿度(RH)、より好ましくは95〜100%RH、さらにより好ましくは100%RHまたは実質的に100%RHを達成することが好ましい。一実施形態では、以下に記載されるように、100%RHが達成される。
【0017】
以下に記載されるような実施形態では、蒸発器は、チップ構造体を包囲することのできる包囲体の少なくとも一部分を含み、かつ包囲体内で蒸気を発生させるための蒸気発生機構をさらに有する。以下の実施形態に記載されるように、包囲体の少なくとも一部分はハウジングであってよい。蒸気発生機構は、包囲体の少なくとも一部分に含まれうる。蒸気発生機構は、蒸発性液体を貯蔵するための貯蔵部、たとえば、蒸発性液体を吸収担持するための1つ以上の吸収性パッドを有しうる。
【0018】
包囲体の少なくとも一部分は、チップ構造体を包囲体中に収容したときにチップ構造体に位置整合するウィンドウを含み、その結果、それを介して供給導管が観察可能である。
【0019】
包囲体は、チップ構造体を支持するキャリヤーを有しうる。包囲体のハウジングは、キャリヤー上に着座するように適合化される。理想的には、ハウジングは、たとえば、キャリヤーおよびハウジングの界接表面に封止状態で係合するシールを介して、キャリヤー上に封止状態で着座可能である。
【0020】
包囲体の両側から供給導管を目視できるように、キャリヤーは、好ましくは、チップ構造体を上に着座させたときにハウジングウィンドウから見て反対側にチップ構造体に位置整合するウィンドウをも有する。このように、包囲体の一方の側から他方の側にチップ構造体を貫通して分析シグナルまたは検査シグナル(たとえば、光または他の電磁線)を伝播させるようにすれば、たとえば、画像形成装置または分析機器により、流体材料の相互作用を監視することができる。
【0021】
包囲体は、好ましくは、チップ構造体の周囲に封止環境もしくは気密環境またはその周囲に実質的封止環境もしくは実質的気密環境を形成する。この目的のために、包囲体を構成する部品の接合(たとえば、ハウジングとキャリヤーとの接合など)を行うための1つ以上のシールを提供しうる。
【0022】
好ましくは、蒸発性液体は、蒸発が起こる周囲実験条件(たとえば、大気圧および室温)で蒸発させるのに十分な程度に揮発性である。
【0023】
本発明の一態様において、蒸発器は、蒸発性液体の供給源を含む。
【0024】
本発明の他の態様において、本明細書の請求項17に記載されるようにマイクロ化学過程を実施するための装置が提供される。
【0025】
本発明の一実施形態では、バルブ機構は、チップ構造体で包囲され中間位置で供給導管と離間状態で交差する制御導管の形態のバルブを有し、供給導管および制御導管は、制御導管内の圧力が供給導管内の圧力よりも所定圧力差だけ大きいときに中間位置で供給導管が閉状態になるようにするのに十分な程度に制御導管をその位置で膨張させることができるように構築され配置されており、そして補償機構は、チップの相互作用状態において制御導管と供給導管との間の圧力差を所定圧力差未満に保持するように適合化されている。
【0026】
本発明の一実施形態では、補償機構は、相互作用状態においてチップを水和するように動作する。
【0027】
一例として、補償機構は、相互作用状態においてチップ構造体からの蒸発を補償すべくチップ構造体の周囲に蒸気環境を形成するための蒸発器であってよい。
【0028】
供給導管は、マイクロ流体チップ構造体中の1セットのそのような供給導管のうちの1つであってよく、バルブ機構は、対応する形で追加の供給導管上で操作可能である。この場合、バルブ機構のバルブの制御導管は、それぞれの中間位置でそのセットの供給導管またはサブセットの供給導管を横切って延在しうる。
【0029】
バルブ機構は、それぞれの中間位置でさらなるセットまたはサブセットの供給導管を横切って延在させるための制御導管の形態の1つ以上のさらなるバルブを有しうる。
【0030】
バルブ機構は、中間位置を含みかつ内部で相互作用状態において流体材料が相互作用する密閉セルを供給導管内に形成するようにさらに操作可能であり、そして蒸発器または補償機構は、相互作用状態において密閉セルからの流体材料の蒸発を補償すべく使用するのに適合している。
【0031】
一例として、チップ構造体中のバルブ機構は、中間位置の両側の第1および第2の端位置で供給導管を開閉してそれらの間で供給導管内に密閉セルを形成するように操作可能であり、それにより、充填状態では、端位置は開状態にあり、かつ相互作用状態では、端位置は密閉セル内で流体材料が相互作用できるように閉状態にある。
【0032】
供給導管(複数可)に対するバルブ(複数可)は、第1のバルブ(複数可)であってよく、バルブ機構は、供給導管(複数可)に、端位置においてそれを閉状態にすべく作用する、第1のバルブに対応する第2のバルブを有しうる。
【0033】
第2のバルブは、いくつかの異なる供給導管にそれらの対応する端位置で作用しうる。
【0034】
好ましくは、供給導管および制御導管は、チップ構造体中に規律的アレイとして配置される。
【0035】
本発明のさらなる態様によれば、マイクロ流体チップ構造体と併用するのに適合している蒸発器であって、チップ構造体を覆うように配置するためのケーシング構造体と、チップの周囲のケーシング内に蒸気環境を発生させるための、ケーシング構造体により保有された蒸気発生機構と、を有する、上記蒸発器が提供される。
【0036】
蒸気発生機構は、好ましくはチップ構造体に使用時に面するケーシング構造体の内表面上に取り付けられる。蒸気発生機構は、ケーシング構造体上に取外し可能に保有されうる。蒸気発生機構は、たとえば、吸収性構造体の場合のように、蒸発性液体を貯蔵するための貯蔵部を有しうる。
【0037】
ケーシング構造体は、好ましくは、検査シグナルまたは分析シグナル(たとえば光)を受け取ったときにチップに当たるようにするための手段を含む。すなわち、ケーシング構造体は、シグナルに対して透過性である。より好ましくは、ケーシング構造体は、シグナルがそれを通って伝播してからシグナルがチップを通って伝播するように適合化される。一例として、ケーシング構造体は、チップを目視するためにチップに使用時に位置整合する1つ以上のウィンドウセクションを含みうる。
【0038】
ケーシング構造体は、チップを包囲するように適合化された包囲体の少なくとも一部分(たとえば包囲体の蓋部分)を形成しうる。ケーシング構造体は、包囲体の残りの部分(複数可)、たとえば、チップを保有し蓋部分を着座させうるキャリヤー部分、を含みうる。好ましくは、ケーシング構造体は、チップに対する封止包囲体または実質的封止包囲体を形成する。一例として、ケーシング構造体は、その部品間の接合部にシールを含みうる。
【0039】
本発明のこの態様のチップは、本発明の装置のチップに対応しうる。
【0040】
好ましくは、装置/蒸発器/補償機構は、手持ち可能なユニットである。本発明の一実施形態では、以下に記載されるように、通常の大きさの成人したヒトの1つの手に納まりかつその手で持ち運べるサイズに設定される。
【0041】
本発明の装置または蒸発器は、使用時に、チップ表面に支持状態で配置される蒸気不透過性カバー部分をさらに含みうる。カバーは、流体コネクターをチップ表面に係合させることができるように1つ以上の切抜きを有しうる。一実施形態では、以下に記載されるように、カバー部分はガラス製である。
【0042】
本発明によれば、本明細書の請求項38に記載の工程を含む第1および第2の流体材料を相互作用させる方法がさらに提供される。
【0043】
本方法は、流体材料を供給導管に盲目的に充填する前にチップを蒸気環境により水和させる準備工程を含みうる。
【0044】
蒸気環境は、本発明の蒸発器または補償機構により生成可能である。
【0045】
本方法は、平衡状態に達するのに十分な継続時間にわたり第1および第2の流体材料を相互作用させた後で蒸気環境中の飽和レベルを減少させる工程をさらに含みうる。
【0046】
好ましくは、相互作用はタンパク質結晶化反応である。たとえば、第1の流体材料はタンパク質溶液であり、第2の流体材料は結晶化試薬溶液である。典型的には溶液の一方または両方が水溶液である。
【0047】
蒸気環境は封止環境であってもよい。さらに、蒸気は、とくにタンパク質結晶化の場合、水蒸気でありうる。その場合、飽和レベルは、好ましくは90〜100%RH、より好ましくは95〜100%RHの範囲内である。タンパク質結晶化の場合、タンパク質および試薬の拡散が平衡状態に達した後または終了した後、たとえば、蒸気環境を除去することにより、RHレベルを低下させることが便利であろう。こうすると、水溶液中のタンパク質および試薬の相対濃度が増大するので、タンパク質結晶化が促進される。
【0048】
本発明の他の態様および特徴は、本明細書の特許請求の範囲に示されている。
【0049】
本発明は、互いに組み入れられる本発明のさまざまな態様の特徴をさらに提供する。
【0050】
このほかのさらなる好ましい特徴は、本発明の代表的実施形態に見いだされる。次に、このことに関して添付の図面の図を参照しながら説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
発明の代表的実施形態の詳細な説明
図1A〜3Aには、先に本明細書中に詳述したように、TopazTMシステムの一部分としてFluidigm Corporation (7100 Shoreline Court, South San Francisco, CA 94080, U.S.A.)から入手可能な先行技術の透明タンパク質結晶化マイクロ流体チップ1が示されている。チップ1は、ガラスベース層3を有し、その上にエラストマーポリジメチルシロキサン(PDMS)から形成された上部層5が装着されている。
【0052】
ガラス層は、約74〜75mmの長さL、約50mmの幅W、および約1mmの高さh1を有する。ガラス層3の上部表面6には、288個のウェル7(マイクロウェル)の規律的アレイが提供されている。図1Bから明らかなように、個々のウェル7の体積はさまざまである。
【0053】
上部層5は、MSLTM法(その詳細については、とくに、前掲のFluidigmのウェブサイトに見いだされる)により形成され、図1および2を見ればわかるであろうが、その下部表面12に形成された1セットのマイクロ流体供給導管11と、供給導管11上に形成されそれに直交して配置された1セットのマイクロ流体バルブ制御導管13a,13bと、を有する。上部層5は約6mmの高さh2を有し、チップは約7mmの全高さh3である。バルブ制御導管13a,13bは、約20〜50μmの範囲内の距離t1だけ供給導管の上に離間して配置されている。バルブ制御導管13a,13bの上方のエラストマー材料の厚さt2は、約5mmである(寸法どおりに示されているわけではない)。
【0054】
図1Aから明らかなように、各供給導管11は、上部層5の両端にセットで配置された複数の試薬入口14の1つと流体連通している。各試薬入口14は、上部表面15から上部層5を貫通して下部表面12に向かって下方に延在し、供給導管11の1つと交差する。さらに、各供給導管11は、中央位置で同様に上部層5を貫通して下方に延在し供給導管11とその合流位置で交差する共通タンパク質入口17と流体連通している。
【0055】
図1Bに示されるように、各供給導管11は、3つの分岐セクション11a〜cに分岐する。上部層5は、各分岐セクション11a〜cが2つのウェル7の上方に配設されるようにベース層3の上部表面6上に封止状態で置かれる。このように、各分岐セクション11a〜cは、ウェル7と流体連通して配置される。この連結部において、供給導管11が上部チップ層5の下部表面12中のグルーブとして形成されているが、ベースチップ層3の上部表面6と協同してそのような導管を形成することは指摘するに値する。
【0056】
図1Bを見れば、3つの制御導管13a,13bが各分岐セクション11a〜cを横切ることがさらにわかるであろう。これ以降では最外部制御導管13aを同義的に「閉込めバルブ」とも呼び、これ以降では内部または中央部制御導管13bを同義的に「境界バルブ」」とも呼ぶ。境界バルブ13bは、各分岐セクション11a〜c中のウェル7間に位置決めされ、閉込めバルブ13aは、ウェル7の外側に位置する。
【0057】
図1Bに示される構成体は、チップ1のいわゆる「ユニットセル」19を形成し、合計で48個存在する。これ以降により完全に詳述されるように、ユニットセル19は異なる試薬入口14に連通しており、これにより各ユニットセル19に異なる試薬が供給される。
【0058】
図2および3を参照すればわかるであろうが、閉込めバルブおよび境界バルブ13a,13bは、図2に示される収縮状態または休止状態(供給導管11の分岐セクション11a〜cは開状態にある)から、図3に示される膨張状態(分岐セクション11a〜cは、バルブ13a,13bが分岐セクション11a〜cと交差する位置でエラストマー材料により閉状態にされている)に、可逆的に変位しうるように操作可能である。
【0059】
これ以降でより詳細に論述されるように、バルブ13a,13bは独立して操作可能であり、それにより、閉込めバルブ13aが開状態にあるときに境界バルブ13bを閉状態にすることが可能であり、その逆も可能である。このようにして、タンパク質および試薬を互いに接触させることなくユニットセル19に計量導入することが可能であり、次に、封止環境または閉状態環境において相互拡散(いわゆる「自由界面拡散」)させることが可能である。
【0060】
次に図3Aについて説明する。ここには、チップ1を含む装置20が示されている。装置20は、アルミニウムなどの蒸気不透過性金属から作製された、チップ1を保有するためのキャリヤーフレーム21を有する。この目的のために、キャリヤーフレーム21は、チップ1のベース層3が凹設可能な凹部23を有する。キャリヤーフレーム21はまた、たとえば画像形成装置などを用いてチップ1のユニットセル19を観察できるように、フレームを貫通してアパーチャー25を設けて形成される。チップ1のベース層3は、凹部23に装着したときにアパーチャー25を覆う。
【0061】
境界キャリヤーピン27および閉込めキャリヤーピン29は、キャリヤーフレーム21の側壁構造体32の第1の面31を貫通して凹部23中に延在する。その目的についてはこれ以降で詳述する。
【0062】
アキュムレーター33は、1対の蝶ネジ35によりキャリヤーフレーム21の側壁構造体32の第2の面34に連結するように適合化されており、それにより、アキュムレーターは1対の流体コネクター37を摺動収容する。アキュムレーター33の機能についても、これ以降で詳述する。
【0063】
装置20は、4つの蝶ネジ43によりキャリヤーフレーム21の側壁構造体32の上端面41に連結することのできる透明カバーフレーム39をさらに有する。カバーフレーム39にはまた、カバーフレーム39をキャリヤーフレーム21に連結したときにチップ1中のユニットセル19を観察できるように中央アパーチャー45が設けられている。カバーフレーム39はさらに、1対の試薬加圧ピン47をも有する。その目的は、以下で明らかにする。
【0064】
使用時、最初に、アキュムレーター33がすでに取り付けられているキャリヤーフレーム21にチップ1を装着する。閉込めキャリヤーピン29の内部端(図示せず)を最も近い流体コネクター37の内部端(図示せず)にチューブ(図示せず)で連結する。次に、閉込めキャリヤーピン29を介してアキュムレーター33に水をポンプ移送する。他方の流体コネクター37の内部端(図示せず)を、チップ1の上部表面15中に位置し閉込めバルブ13aの全部と流体連通している閉込めバルブ入口49中に着座する閉込めコネクターピン(図示せず)に連結する。次に、閉込めコネクターピンを閉込めバルブ入口49から外した状態で、閉込めコネクターピンの先端に流動するように、アキュムレーター33中の水を空気圧によりポンプ移送することにより、チューブおよびピンから空気を除去する。次に、閉込めコネクターピンを閉込めバルブ入口49中に配置する。
【0065】
次に、境界面バルブ13bに水を充填する。これに関連して、境界キャリヤーピン27の内部端(図示せず)を、対向端に境界コネクターピン(図示せず)が取り付けられているチューブ(図示せず)に連結する。次に、境界コネクターピンの先端に水がくるまで境界キャリヤーピン27を介してチューブに水をポンプ移送することにより、チューブおよびピンから空気を除去する。次に、境界コネクターピンをチップ1の上部表面15の境界バルブ入口51(各境界バルブ13bと流体連通している)に挿入する。次に、各境界バルブ13b中に水が充填されるように、大気圧よりも15psi高い空気圧源に境界キャリヤーピン27を連結する。このようにして、境界バルブ13bを加圧し、各分岐セクション11a〜cのウェル7間で供給導管11が閉状態になるようにする。この段階では、閉込めバルブ13aは、開状態にある。
【0066】
次に、ウシ血清アルブミン(BSA)のようなタンパク質溶液(5μL)をタンパク質入口17中にピペットで添加し、大気圧よりも5psi高い圧力でチップ1の供給導管11内を空気圧により加圧する。このようにすると、タンパク質が流動して、閉状態にある境界バルブ13bの一方の側で各ユニットセル19の分岐セクション11a〜cが盲目的に充填される。
【0067】
次に、異なる結晶化試薬を各試薬入口14中にピペットで添加する。次に、カバーフレーム39をキャリヤーフレーム21に取り付け、試薬加圧ピン47を空気圧源に連結する。キャリヤーフレーム21に装着したとき、カバーフレーム39は、カバーフレーム39の下側に形成されている1対の凹部53(図3A)が試薬入口14のセットとそれぞれ位置整合するように、チップ1の上部表面15上に支持状態で存在する。凹部53は、それぞれ、試薬加圧ピン47の1つに連通し、試薬入口14のセットの上方に封止キャビティーを形成する。次に、大気圧よりも5psi高い圧力で試薬入口14を加圧するように空気圧源を操作することにより、タンパク質側から見て境界バルブ13bの反対側で異なる結晶化試薬が各ユニットセル19に盲目的に充填されるようにする。
【0068】
各ユニットセル19中のタンパク質は同一であるが、試薬はユニットセルごとに異なることが推測されよう。さらに、ユニットセル19中の分岐セクション11a〜cのウェル7の体積が異なることに基づいて、タンパク質は、3つの異なる比率で各試薬と反応するであろう。より詳細には、タンパク質と各試薬との比は、5:1、1:1、および1:5であろう。
【0069】
タンパク質および試薬をユニットセル19の分岐セクション11a〜c中に計量供給した後、アキュムレーター33および閉込めバルブ入口49中の閉込めコネクターピンまで延在するチューブの中の水を閉込めバルブ13aに充填して供給導管11の分岐セクション11a〜cを閉状態にすべく、閉込めキャリヤーピン29を空気圧源に連結して大気圧よりも15psi高い圧力でこれを加圧することにより、閉込めバルブ13aを閉状態にする。次に、内部の水に加えられた空気圧を除去することにより、境界バルブ13bを開状態にする。
【0070】
このようにすると、各分岐セクション11a〜c中の閉状態にある閉込めバルブ13a間で各ユニットセル19中に密閉セルが形成される。次に、タンパク質および結晶化試薬を反対側のウェル7の方向に拡散させることができる。
【0071】
次に、閉込めキャリヤーピン29に取り付けられた圧力源を取り除いて新しい加圧源をそれに連結させた後、チップ1を保存する。アキュムレーター33は、この移行時、閉込めバルブ13aを閉状態に保持するように作用する。
【0072】
先に本明細書中で述べたように、タンパク質と試薬との間の典型的な分子サイズの差に起因して、試薬が密閉セルの試薬側のウェル7からタンパク質側のウェル7に拡散するには、典型的には数時間程度を要するにすぎないが、タンパク質がタンパク質側のウェル7から試薬側のウェル7に拡散するには、数日間または数週間を要するであろう。したがって、タンパク質がそのウェル7から試薬ウェル7まで拡散するのに十分な程度に長い時間にわたり境界バルブ13bを開状態に保持することが重要である。境界バルブ13bを開状態に保持する必要性はまた、400〜10,000g/molの範囲内の分子量を有するPEGのような緩速拡散性大分子量試薬についてもあてはまる。境界バルブ13bは、密閉セル内で平衡状態が達されるまで試薬およびタンパク質を拡散させるのに十分な程度に長い時間にわたり開状態を保持する必要がある。
【0073】
しかしながら、わずか数時間の結晶化反応の後に境界バルブ13bが自然に再度閉状態になることが本出願人により観察された。この点に関して、図4〜6を参照されたい。
【0074】
図4は、タンパク質結晶化反応過程を開始してからわずか4時間後(すなわち、反応物質の相互拡散のために境界バルブ13bを最初に開状態にした4時間後)において境界バルブ13bが交点55で分岐セクション11a〜cを誤って閉状態にしたときのチップ1のユニットセル19の1つを示す写真である。この点に関して、チップ1のガラスベース層3の上部表面6に当接して潰れているので、分岐セクション11a〜cが全部は見えないことに留意すべきであろう。
【0075】
図5は、チップ1における蛍光剤(Fluorocein)を含有する結晶化試薬57(PBS)の拡散を表すグラフである。図5Aは、時間ゼロ(すなわち、内部の圧力を除去することにより境界バルブ13bを開状態にする前)における結晶化試薬を示している。図5Bは、境界バルブ13bを開状態にした6時間後、結晶化試薬57の一部分は密閉セルのその開始側(グラフの左手側)のウェル7からタンパク質側(右手側)のウェル7に拡散しているが、2つのウェル7間の中点59には結晶化試薬57が存在しないことを示している。これは、境界バルブ13bが自然に閉状態になったために結晶化試薬が分岐セクションの試薬側からタンパク質側にそれ以上拡散できなくなったことが原因である。
【0076】
図6は、蛍光剤(Alexa 488)でタグ付けされたタンパク質(BSA)60が10日後にチップ1中をどれくらい遠くまで拡散しているかを示している。見てわかるように、タンパク質60は、わずか数時間後であるが境界バルブ13bが閉状態になったために開始したのと同一側の分岐セクション11a〜cに依然として存在する。実際上、タンパク質のほぼ全部が依然としてそのウェル7中に存在する。
【0077】
境界バルブ13bが自然に再度閉状態になるのはチップ1が脱水状態になることが原因であることを本出願人は確認した。言い換えれば、分岐セクション11a〜c中に密閉セルを形成した後、タンパク質溶液および/または試薬の水は、チップ1の上部層5が蒸気浸透性であることおよびチップ1が封止包囲体中に収容されないという事実により、装置20から蒸発する。たとえば、水蒸気は、とくに、カバーフレーム39のアパーチャー45から逃散することができる。
【0078】
抑制されないまま蒸発が進行すると、密閉セル中に負圧を生じ、それにより境界バルブ13bは再び分岐セクション11a〜c中よりも高圧になるので、境界バルブ13bは分岐セクション11a〜cを再度閉状態にする。また、脱水状態および生じた負圧により、図4に示されるように、分岐セクション11a〜cは潰れる。
【0079】
図7〜9には、チップの脱水状態の問題を解決すべくチップ1を保有するキャリヤーフレーム21(図3A)に装着するように適合化された本発明に係る蒸発器ユニット100が示されている。
【0080】
蒸発器ユニット100は、長方形の形状を有しかつエンドレス側壁構造体103と側壁構造体103をキャッピングするルーフ105とにより規定された透明蒸気不透過性の蓋またはハウジング101を有する。ハウジングは、約80〜81mmの長さL1、約64mmの幅W1、および約11〜12mmの高さh4を有する。図8および9を見ればわかるであろうが、ハウジング101は、側壁構造体103およびルーフ105のそれぞれの内部表面109a,109bにより境界付けられた密閉キャビティーまたは内部体積107を提供する。
【0081】
ルーフ105の内部表面109bには、ルーフ105中のガラスインサートまたはウィンドウ113の両側に位置する2つの凹部111a,111bが設けられている。各凹部111a,111b内には、吸収性パッド115を取外し可能に装着しうる。より良く理解できるように、図7および8には、1つのパッド115だけがその関連する凹部111b内に示されている。
【0082】
ハウジング101は、封止状態で内部に固定されるガラスウィンドウ113用のアパーチャー117をルーフ105中に設けてPerspex(登録商標)から成形される。ガラスウィンドウ113を用いれば、それを介してチップ1のユニットセル19を観察したり、またはキャリヤーフレーム21(図3A)中のハウジングウィンドウ113およびアパーチャー25を介してチップ1を貫通するように光や他の電磁線などの分析シグナルを伝播させたりすることができる。
【0083】
ハウジング101の側壁構造体103は、キャリヤーフレーム21の上端面41にハウジング101を装着できるように、チップ1用のキャリヤーフレーム21の側壁構造体32の上端面41に一致するサイズおよび形状に形成される。さらに、図9に示されるように、ハウジング101は、ハウジング101を蝶ネジ121でキャリヤーフレーム21にネジ留めできるように、側壁構造体103を貫通するボア119を有する。
【0084】
ハウジング101に加えて、蒸発器ユニット100は、ハウジング101の側壁構造体103の下平面プロファイルのものと一致する平面プロファイルを有する蒸気不透過性プラスチック材料(たとえばシリコーンゴム)の環状ガスケット123を有する。このほか、ガスケット123には、蝶ネジ121を通すためのアパーチャー125が設けられている。
【0085】
図9に示されるように、蒸発器ユニット100をキャリヤーフレーム21に取外し可能に連結させる場合、ガスケット123は、側壁構造体103とキャリヤーフレーム21との間の接合部でシールを形成する。
【0086】
使用時、マイクロ流体チップ1のガラスベース層3によりキャリヤーフレーム21中のアパーチャー25が封止状態で密閉されるように、シーラントが使用される。好適なシーラントは、シリコーンシーラント、グリース、または鉱油である。他の実施形態では、ハウジング101の場合のように、ウィンドウがアパーチャー25中に封止状態で固定されるように、キャリヤーフレーム21を改造しうる。
【0087】
このことに注目し、蒸発器ユニット100のキャリヤーフレーム21およびハウジング101が蒸気不透過性であることを思い出せば、当然のことながら、上に装着された装填チップ1を有するキャリヤーフレーム21に蒸発器ユニット100を取り付けた場合、チップ1の周囲に気密封止包囲体が提供される。したがって、密閉セルから逃散する水蒸気は、チップ1の局所環境中に保持される。さらに、吸収性パッド115は水を吸収しているので、包囲体中に水蒸気が生成される。言い換えれば、チップ1は、タバコ用加湿装置の等価物中に収容される。
【0088】
使用時、ガラスベース層3とアパーチャー25との境界面をシーラントで封止した状態で、チップ1がキャリヤーフレーム21上に装填される。次に、振盪により過剰分を除去しながら、吸収性パッド115を脱イオン水で湿潤させる。次に、パッド115をハウジング101に装填し、ガスケット123を介してハウジング101をキャリヤーフレーム21上でネジ留めする。次に、この集成体を1〜2日間放置してチップ1を水和させる。この点に関して、ハウジング101とキャリヤーフレーム21とにより形成される包囲体の内部容積は、気密封止容積であり、内部容積は、水蒸気で飽和された状態になりうる。たとえば、十分な体積の水を吸収性パッドに吸収させた場合、相対湿度100%(RH)が達成される。
【0089】
次に、ハウジング101を取り除き、チップ1を準備し、先行技術の装置20に対して先に記載したのと同じようにして(すなわち、境界バルブ13bを閉状態にして)タンパク質および試薬を計量供給する。次に、カバーフレーム39をキャリヤーフレーム21から取り外し、あらかじめ湿潤させた蒸発器ユニット100と置き換える。次に、閉込めバルブ13aを閉状態にし、境界バルブ13bを開状態にする。
【0090】
熟練した読者であれば推測できるであろうが、蒸発器ユニット100は、タンパク質結晶化反応の終始にわたりチップを水和状態に保持する。したがって、境界バルブ13bは終始にわたり開状態に保持されるので、タンパク質が密閉セルの試薬側におよび/またはその逆に拡散するための時間が確保される。
【0091】
結晶化過程中にチップ1を水和させて境界バルブ13bが自然に再度閉状態になるのを防止する蒸発器ユニット100の有効性を実証する目的で、次に、図10および11を参照する。
【0092】
図10は、図4に示されるのと同一のタンパク質結晶化過程(ただし、チップ1を蒸発器ユニット100中に収容した状態で行われる)を開始した4時間後におけるチップ1のユニットセル19の1つを示す写真である。この写真を図4と比較することにより、蒸発器ユニット100の有益な作用が示される。見てわかるように、供給導管11の分岐セクション11a〜cは輪郭が明瞭である(すなわち、潰れていない)。また、分岐セクション11a〜cと境界バルブ13bとの交差部55は、依然として開状態である。
【0093】
図11は、蒸発器ユニット100中にチップ1を収容して10日間保存した後におけるタンパク質溶液(BSA)の拡散の度合を示している。この目的のために、タンパク質を蛍光染料(Alexa 488)でタグ付けした。見てわかるように(とくに図11を図6と比較することにより)、タンパク質は、密閉セルのその開始側のウェル7から試薬ウェル7に移動した。さらに、タンパク質が境界バルブ13bとの交差部55を含めて分岐セクション11a〜cに位置することは明らかである。この場合にも、これは、蒸発器ユニット100がチップ1を水和状態に保持するように作用することにより境界バルブ13bが開状態に保持されることを示している。
【0094】
蒸発器ユニット100は、境界バルブ13bを開状態に保持する点で効を奏するが、本出願人は、特定の水性タンパク質結晶化試薬を用いた場合、100%の相対湿度が内部で生成されているときに蒸発器ユニット100によりチップ1が過飽和または過水和される可能性があることをつきとめた。言い換えれば、供給導管11の分岐セクション11a〜cからの水蒸気の送出速度が水蒸気の進入速度よりも小さい。これにより分岐セクション11a〜cの1つ以上で圧力が増加するので、圧力が低下して閉込めバルブ13aが再度閉状態になるまで、関連する閉込めバルブ13aの一方および/または他方が強制的に開状態になる。これは「バーピング」として知られており、タンパク質-試薬混合物の一部分が漏れを生じうるという意味で問題である。
【0095】
バーピングの問題に対処すべく、タンパク質結晶化試薬が2つの異なるセットのうちの1つに分類されることを確認した。すなわち、第1のセットでは、100%RHを与える蒸発器ユニット100を使用したとき、閉込めバルブ13aのバーピングを生じることなく、境界バルブ13bが開状態に保持され、第2のセットでは、境界バルブ13bを依然として開状態に保持したままでバーピングを防止するには、チップ1の周囲のRHレベルを低下させる必要がある。第2のセットの試薬では、蒸発器ユニット100を用いてより低いRH、好ましくは95%、または実質的に95%を保持することが有効であることを見いだした。これは、減少量(たとえば60μL)の水を吸収性パッド115に吸収させることにより達成しうる。
【0096】
このことを考慮すれば、使用時、すべてが一方の試薬セットまたは他方の試薬セットに属する複数の異なる結晶化試薬をチップ1に充填してから、RHレベルをその特定の試薬セットに必要とされるRHレベルに制御するように蒸発器ユニット100を操作することが好ましい。
【0097】
100%RHセットに分類される試薬の例は、もちろん、先に記載したPBSである。低RHセットに分類される試薬の例は、2モルNaCl(塩化ナトリウム)および2モルNH4SO4(硫酸アンモニウム)である。これらは吸湿性試薬であるので、おそらく、低RHレベルが必要とされるのであろう。
【0098】
チップ1の水和状態の制御におけるさらなる改善は、閉込めバルブおよび境界バルブ13a,13b中で水以外の液体、たとえば、チップ1のPDMS中で緩速拡散速度を有する液体、好ましくは、タンパク質結晶化反応に不活性である液体を用いることにより、達成することができる。好ましくは、液体は、非水性または実質的に非水性の液体、たとえばフッ素化シリコーン油、具体例としては100センチポイズのMED-400フッ素化シリコーン油(Polymer Systems Technology, High Wycombe, Buckinghamshire, United Kingdom)である。
【0099】
図12には、場合により蒸発器ユニット100で使用することのできるガラスカバー200が示されている。使用時、チップ1の上部表面15の上にガラスカバー200を置いて、その全体を覆う。次に、ガラスカバー200をハウジング101で包囲する。ガラスカバー200は、1対の切抜き201を有する。この切抜きにより、使用時、チップ1の上部表面15中の閉込めバルブ入口および境界バルブ入口49,51は露出状態になるので、それぞれのコネクターピンをその中に挿入することができる。
【0100】
ガラスカバー200は、チップ1の上部表面15から蒸発する水蒸気に対するバリヤーとして作用する。それは、典型的には、結晶化過程を開始した約3日後に所定の位置に置かれるであろう。言い換えると、ハウジング101をキャリヤーフレーム21から取り除き、ガラスカバー200をチップ表面15の上に置き、そしてキャリヤーフレーム21をハウジングに再び固定することになろう。ガラスカバー200は、水和過程を遅らせてチップ1の過水和を防止するのに役立つ。
【0101】
本発明の代表的実施形態は、チップ構造体が相互作用状態のときにチップバルブ機構により供給導管が中間位置で自然に再度閉状態になるのを防止する手段を提供することがわかるであろう。これにより、反応物質が最後まで拡散できるようになるだけでなく、相互作用状態のときに中間位置で供給導管が周期的に閉状態になるようにバルブ機構を操作して、密閉セルの開始側から密閉セルの反対側への流体材料の拡散を調節することもできる。
【0102】
疑問を生じないように述べておくが、本発明は、添付の図面の図を参照して以上に記載した実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲内の変形形態、変更形態、および他の実施形態をすべて包含する。一例として、本発明は、チップからの水の蒸発を補償する場合に限定されるものではない。チップ中の流体材料(複数可)からの蒸発物は非水性であってもよいが、抑制しないまま進行させた場合に供給導管が自然に再度閉状態になる作用を生じるものであろう。本発明は、この問題をも解決する傾向がある。さらに、本明細書中に記載の実施形態は、特許請求の範囲で述べた特徴および「発明の概要」と題する節で述べた内容を組み入れるように変更または変形することが可能である。さらに、パラメーターまたは性質を参照する際の「実質的に」、「約」などのような用語の使用は、そのパラメーターの正確な値またはその正確な性質を含めた意味を有する。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】図1Aは、タンパク質結晶化用のマイクロ流体チップの概略平面図である。図1Bは、チップのユニットセルの1つを示す図1Aの差込図Iの拡大詳細図であり、供給ラインの平行アレイと、供給導管に直交して配置されたバルブ制御導管の平行アレイと、を含む。
【図2】図2は、図1AのラインII-IIに沿ったマイクロ流体チップの拡大概略断面側面図であり、供給導管およびバルブ制御導管の空間的配置を示している。
【図3】図3は、図2に対応するものであるが、バルブ制御導管により閉状態にされた供給導管を示している。図3Aは、マイクロ流体チップが組み込まれたタンパク質結晶化用の先行技術装置の分解斜視図である。
【図4】図4は、タンパク質に対する試薬としてリン酸緩衝食塩水(PBS)を使用したときにチップの脱水状態が原因で4時間の結晶化過程の後でバルブ制御導管の1つにより供給導管が誤って再度閉状態にされたチップのユニットセルの写真である。
【図5】図5Aおよび5Bは、図4に示されるユニットセル中における試薬の拡散の蛍光モニタリングを示すグラフである。
【図6】図6は、図4のユニットセル中におけるタンパク質の拡散の度合を示す写真である。
【図7】図7は、透明ハウジングと、ハウジング内に装着可能な吸収性パッドと、シーリングガスケットと、を含む本発明に係る蒸発器の分解斜視図である。
【図8】図8は、より明確にするために吸収性パッドの1つが省略されている蒸発器の下面平面図である。
【図9】図9は、チップおよび蒸発器がチップキャリヤー上に集成されている本発明に係る装置の側面断面図である。
【図10】図10は、図4のときと同一の反応物質を用いた4時間の結晶化過程の後の蒸発器により水和状態に保持されたチップのユニットセルの写真である。
【図11】図11は、図10のユニットセル中におけるタンパク質の拡散の度合を示す写真である。
【図12】図12は、場合により蒸発器と併用しうるガラススライドの概略斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ化学過程を実施するための装置であって、
(a)蒸気透過性マイクロ流体チップ構造体と、ここで、該チップ構造体は、
該チップ構造体で包囲され第1および第2の対向端を有する供給導管(ここで、該供給導管は、該供給導管の対向端から互いの方向に第1および第2の流体材料を流動させることにより該第1および第2の流体材料が相互作用できるようにする)と、
該供給導管をその第1および第2の端の間に位置する中間位置で開閉するように操作可能な、該チップ構造体中のバルブ機構(これにより、該チップ構造体は、該中間位置の両側で該流体材料を該供給導管内に盲目的に充填できるように該中間位置が閉状態にある充填状態から、該流体材料が相互作用できるように該中間位置が開状態にある相互作用状態に、逐次的に移行可能である)と、
を有する;
(b)該相互作用状態において該チップ構造体の該供給導管からの該流体材料の蒸発を補償すべく該チップ構造体の周囲に蒸気環境を形成するための蒸発器と;
を備える、上記装置。
【請求項2】
前記バルブ機構が、前記中間位置を含みかつ内部で前記相互作用状態において前記流体材料が相互作用する密閉セルを前記供給導管内に形成するようにさらに操作可能であり、しかも前記蒸発器が、前記相互作用状態において該密閉セルからの前記流体材料の蒸発を補償すべく使用するのに適合している、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記チップ構造体中の前記バルブ機構が、前記中間位置の両側の第1および第2の端位置で前記供給導管を開閉してそれらの間で前記供給導管内に密閉セルを形成するように操作可能であり、それにより、前記充填状態では、該端位置が開状態にあり、かつ前記相互作用状態では、該端位置が、該密閉セル内で前記流体材料が相互作用できるように閉状態にある、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記バルブ機構が、前記チップ構造体からの蒸発が補償されなければ前記相互作用状態において前記中間位置で前記供給導管を再度閉状態にするように動作するようなものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記蒸発器が、蒸発性液体を吸収担持するための1つ以上の吸収性部材の形態の蒸気発生機構を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記蒸発器が、前記チップ構造体を包囲することのできる包囲体の少なくとも一部分を含み、かつ該包囲体内で蒸気を発生させるための蒸気発生機構をさらに有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記蒸気発生機構が、蒸発性液体を吸収担持するための1つ以上の吸収性部材の形態である、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記包囲体の少なくとも一部分が、前記蒸気発生機構を保有するハウジングである、請求項6または7に記載の装置。
【請求項9】
前記包囲体の少なくとも一部分が、前記チップ構造体を前記包囲体中に収容したときに前記チップ構造体に位置整合するウィンドウを含み、その結果、それを介して前記供給導管が観察可能である、請求項6、7、または8に記載の装置。
【請求項10】
前記包囲体の少なくとも一部分が、前記チップ構造体を前記包囲体中に収容したときに前記チップ構造体に位置整合するウィンドウを含み、その結果、それを介して前記密閉セルが観察可能である、請求項2または請求項3に従属する場合の請求項6、7、または8に記載の装置。
【請求項11】
前記包囲体が、前記チップ構造体を支持するキャリヤーを有する、請求項6〜10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記包囲体のハウジングが、前記キャリヤー上に着座するように適合化されている、請求項8および11に記載の装置。
【請求項13】
前記ハウジングが前記キャリヤー上に封止状態で着座可能である、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記キャリヤーおよび前記ハウジングの界接表面を封止状態で係合させるためにシールが提供されている、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記包囲体が、前記チップ構造体の周囲に封止環境またはその周囲に実質的封止環境を形成するように適合化されている、請求項6〜14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記バルブ機構が、前記チップ構造体で包囲され前記中間位置で前記供給導管と離間状態で交差する制御導管の形態のバルブを有し、前記供給導管および該制御導管が、(i)前記供給導管内の圧力よりも大きい圧力に該制御導管を加圧して前記中間位置において該制御導管により前記供給導管を閉状態に締め付けることにより前記充填状態で前記供給導管を閉状態にしてから(ii)前記供給導管内の圧力に対して該制御導管内の圧力を減少させることにより前記相互作用状態で前記供給導管を開状態にすべく前記バルブ機構を逐次的に操作できるように構築され配置されており、かつ前記蒸発器が、使用時に、前記供給導管と該制御導管との間の圧力差が該制御導管により前記供給導管を再度閉状態にするような圧力差にならないように前記相互作用状態で前記供給導管からの蒸発を補償するよう適合している、請求項1〜15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
マイクロ化学過程を実施するための装置であって、
(a)蒸気透過性マイクロ流体チップ構造体と、ここで、該チップ構造体は、
該チップ構造体で包囲され第1および第2の対向端を有する供給導管(ここで、該供給導管は、該供給導管の対向端から互いの方向に第1および第2の流体材料を流動させることにより該第1および第2の流体材料が相互作用できるようにする)と、
該供給導管をその第1および第2の端の間に位置する中間位置で開閉するように操作可能な、該チップ構造体中のバルブ機構(これにより、該チップ構造体は、該中間位置の両側で該流体材料を該供給導管内に盲目的に充填できるように該中間位置が閉状態にある充填状態から、該流体材料が該供給導管内で相互作用できるように該中間位置が開状態にある相互作用状態に、逐次的に移行可能である)と、
を有し、
該バルブ機構は、該チップ構造体の該供給導管からの蒸発が補償されなければ該相互作用状態において該中間位置で該供給導管を再度閉状態にするように動作するようなものである;
(b)該チップ構造体の該相互作用状態において該中間位置で該供給導管が再度閉状態にならないように該チップ構造体の該供給導管からの蒸発を補償するための補償機構と;
を備える、上記装置。
【請求項18】
前記バルブ機構が、前記中間位置を含みかつ内部で前記相互作用状態において前記流体材料が相互作用する密閉セルを前記供給導管内に形成するようにさらに操作可能であり、前記バルブ機構が、前記チップ構造体の該密閉セルからの蒸発が補償されなければ前記相互作用状態において前記中間位置で前記供給導管を再度閉状態にするように動作するようなものであり、かつ前記補償機構が、使用時に、前記供給導管が再度閉状態にならないように該密閉セルからの前記流体材料の蒸発を補償するよう適合している、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記チップ構造体中の前記バルブ機構が、前記中間位置の両側の第1および第2の端位置で前記供給導管を開閉してそれらの間で前記供給導管内に密閉セルを形成するように操作可能であり、それにより、前記充填状態では、該端位置が開状態にあり、かつ前記相互作用状態では、該端位置が、該密閉セル内で前記流体材料が相互作用できるように閉状態にある、請求項17または18に記載の装置。
【請求項20】
前記バルブ機構が、前記チップ構造体で包囲され前記中間位置で前記供給導管と離間状態で交差する制御導管の形態のバルブを有し、前記供給導管および該制御導管が、(i)前記供給導管内の圧力よりも大きい圧力に該制御導管を加圧して前記中間位置において該制御導管により前記供給導管を閉状態に締め付けることにより前記充填状態で前記供給導管を閉状態にしてから(ii)前記供給導管内の圧力に対して該制御導管内の圧力を減少させることにより前記相互作用状態で前記供給導管を開状態にすべく前記バルブ機構を逐次的に操作できるように構築され配置されており、かつ前記補償機構が、使用時に、前記供給導管と該制御導管との間の圧力差が該制御導管により前記供給導管を再度閉状態にするような圧力差にならないように前記相互作用状態で前記供給導管からの蒸発を補償するよう適合している、請求項17、18、または19に記載の装置。
【請求項21】
前記バルブ機構が、前記チップ構造体で包囲され前記中間位置で前記供給導管と離間状態で交差する制御導管の形態のバルブを有し、前記供給導管および該制御導管が、該制御導管内の圧力が前記供給導管内の圧力よりも所定圧力差だけ大きいときに前記中間位置で前記供給導管が閉状態になるようにするのに十分な程度に該制御導管をその位置で膨張させることができるように構築され配置されており、かつ前記補償機構が、前記チップの前記相互作用状態において該制御導管と前記供給導管との間の圧力差を該所定圧力差未満に保持するように適合化されている、請求項17、18、または19に記載の装置。
【請求項22】
前記補償機構が、前記相互作用状態において前記チップ構造体の前記供給導管からの蒸発を補償すべく前記チップ構造体の周囲に蒸気環境を形成するための蒸発器である、請求項17〜21のいずれか1項に記載の装置。
【請求項23】
前記制御導管が、前記供給導管を選択的に開閉するように液圧で加圧可能である、請求項16、20、または21のいずれか1項に記載の装置。
【請求項24】
マイクロ流体チップ構造体と併用するのに適合している蒸発器であって、該チップ構造体を覆うように配置するためのケーシング構造体と、該チップの周囲の該ケーシング内に蒸気環境を発生させるための、該ケーシング構造体により保有された蒸気発生機構と、を有する、上記蒸発器。
【請求項25】
前記蒸気発生機構が、前記チップ構造体に使用時に面する前記ケーシングの内表面上に取り付けられている、請求項24に記載の蒸発器。
【請求項26】
前記蒸気発生機構が、前記ケーシング構造体上に取外し可能に保有可能である、請求項24または25に記載の蒸発器。
【請求項27】
前記蒸気発生機構が吸収性構造体である、請求項24〜26のいずれか1項に記載の蒸発器。
【請求項28】
前記ケーシング構造体が、前記チップを目視するために前記チップに使用時に位置整合するウィンドウセクションを含む、請求項24〜27のいずれか1項に記載の蒸発器。
【請求項29】
前記ケーシング構造体が、前記チップを包囲するように適合化された包囲体の少なくとも一部分を形成する、請求項24〜28のいずれか1項に記載の蒸発器。
【請求項30】
前記ケーシング構造体が、前記チップを封止状態で包囲するように適合化されている、請求項29に記載の蒸発器。
【請求項31】
前記ケーシング構造体が、蓋部分と、該蓋部分を着座させうるキャリヤー部分と、該蓋部分と該キャリヤー部分との間の境界部を封止するためのシールと、を有する、請求項30に記載の蒸発器。
【請求項32】
前記蓋部分が前記蒸気発生機構を保有する、請求項31に記載の蒸発器。
【請求項33】
前記チップ構造体が、請求項1〜23のいずれか1項に記載のチップ構造体に対応する、請求項24〜32のいずれか1項に記載の蒸発器。
【請求項34】
請求項24〜33のいずれか1項に記載の蒸発器と、前記ケーシング構造体を上に配置することのできるマイクロ流体チップ構造体との組合せ。
【請求項35】
前記マイクロ流体チップ構造体が、タンパク質結晶化に使用するのに適合している、請求項34に記載の組合せ。
【請求項36】
前記蒸気発生手段が水蒸気を発生する、請求項34または35に記載の組合せ。
【請求項37】
前記蒸気発生機構が、使用時に、前記チップ構造体の周囲で90〜100%の範囲内の相対湿度(RH)を達成するよう適合している、請求項36に記載の組合せ。
【請求項38】
第1および第2の流体材料を相互作用させる方法であって、
供給導管と、該供給導管を中間位置で選択的に閉状態にするためのバルブ機構と、を有する蒸気透過性マイクロ流体チップ構造体を提供する工程と;
該供給導管をその中間位置で閉状態にするように該バルブ機構を操作する工程と;
該中間位置の両側で第1および第2の流体材料を該供給導管に盲目的に充填する工程と;
該中間位置で該供給導管を開状態にして該第1および第2の流体材料を相互作用させるように該バルブ機構を操作する工程と;
該流体材料の相互作用時に該チップの周囲に蒸気環境を形成する工程と;
を含む、上記方法。
【請求項39】
前記バルブ機構が、前記中間位置を含む密閉セルを前記供給導管内に形成するように適合化されており、かつ前記バルブ機構が、前記中間位置が開状態のときに前記流体材料が該密閉セル内で相互作用するように操作される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記バルブ機構が、前記供給導管からの前記流体材料の蒸発がそれらの相互作用時に補償されなければ前記中間位置で前記供給導管を再度閉状態にするようなものであり、かつ前記蒸気環境が、前記バルブ機構により前記中間位置が再度閉状態になることがないようにそのような蒸発を補償する、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記相互作用がタンパク質結晶化反応である、請求項38〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記第1の流体材料がタンパク質溶液であり、かつ前記第2の流体材料が結晶化試薬である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記蒸気環境が、請求項24〜33のいずれか1項に記載の蒸発器により形成される、請求項38〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
平衡状態に達するのに十分な継続時間にわたり前記第1および第2の流体材料を相互作用させた後で前記蒸気環境中の飽和レベルを減少させる工程を含む、請求項38〜43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記蒸気環境が、前記供給導管を開状態にした後、所定時間にわたり飽和環境である、請求項38〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記蒸気環境は封止環境である、請求項38〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記蒸気が水蒸気であり、かつ前記蒸気環境が90〜100%の相対湿度(RH)の範囲内に保持される、請求項38〜46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記流体材料の少なくとも一方が水性流体である、請求項38〜47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記タンパク質および前記試薬の少なくとも一方が水溶液中にある、請求項42および47に記載の方法。
【請求項50】
前記タンパク質と前記試薬との相互作用が平衡状態に達した後または終了した後、RHレベルが低減される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記チップ構造体が、前記流体材料を前記供給導管に盲目的に充填する前に前記蒸気材料で飽和される、請求項38〜50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
蒸気透過性マイクロ流体タンパク質結晶化チップ構造体を提供する工程と、ここで、該チップ構造体は、それに包囲された供給導管と、該供給導管をその中間位置で選択的に閉状態にするように操作可能なバルブ機構と、を有する、
該中間位置で該供給導管を閉状態にする工程と、
該中間位置の一方の側でタンパク質流体を、該中間位置の反対側で結晶化試薬流体を、該供給導管に盲目的に充填する工程と、
該中間位置で該供給導管を開状態にするように該バルブ機構を操作する工程と、
平衡状態に達するように該流体を相互作用させるのに十分な継続時間にわたり該バルブ機構が該中間位置で該供給導管を再度閉状態にすることがないように該供給導管からの流体の蒸発を補償する工程と、
を含む、タンパク質結晶化方法。
【請求項53】
添付の図面の図7〜9または図7〜9および12を参照して本明細書に記載したのと実質的に同様である、マイクロ化学過程を実施するための装置。
【請求項54】
添付の図面の図7〜9または図7〜9および12を参照して本明細書に記載したのと実質的に同様である、マイクロ流体チップと併用するのに適合している蒸発器。
【請求項55】
添付の図面の図7〜9または図7〜9および12を参照して本明細書に記載したのと実質的に同様である、第1および第2の流体材料を相互作用させる方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2006−520257(P2006−520257A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501713(P2006−501713)
【出願日】平成16年1月28日(2004.1.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000958
【国際公開番号】WO2004/067174
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】