蒸発源および蒸着装置
【課題】坩堝の輻射熱を遮熱し、且つノズルに詰まりを生じない蒸発源および蒸着装置を提供する。
【解決手段】蒸着源1は、蒸着材料Mを加熱して蒸発させる坩堝5から突出するようにして設けられ、蒸発した蒸着材料Mを基板に向けて噴射するノズル12と、並列に配置した複数の金属板15を有し、これら複数の金属板15のうち最も基板に近い金属板15をノズル12のノズル先端面13よりも基板に近い位置に設けたリフレクタと、リフレクタを構成する複数の金属板15のうち一部と一体的に構成され、ノズル12とリフレクタとの間を閉塞するカバー部材8と、を備える。
【解決手段】蒸着源1は、蒸着材料Mを加熱して蒸発させる坩堝5から突出するようにして設けられ、蒸発した蒸着材料Mを基板に向けて噴射するノズル12と、並列に配置した複数の金属板15を有し、これら複数の金属板15のうち最も基板に近い金属板15をノズル12のノズル先端面13よりも基板に近い位置に設けたリフレクタと、リフレクタを構成する複数の金属板15のうち一部と一体的に構成され、ノズル12とリフレクタとの間を閉塞するカバー部材8と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被蒸着体に所定の蒸着材料を蒸着させるための蒸発源および蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定の対象物に蒸着膜を形成して構成する装置として有機ELディスプレイや有機EL照明等がある。このうち有機ELディスプレイは、バックライトを必要としない低消費電力・軽量薄型の画像表示装置として多く利用されている。その構造としては、透明性のガラス基板上に所定の蒸着膜を薄膜層として形成する。この薄膜層としては、発光層や注入層、輸送層等の有機EL薄膜層、また金属配線を形成する電極層等がある。
【0003】
各層の基板への形成には主に真空蒸着法が用いられる。真空蒸着法は、10−3〜10−5Paの高真空状態を維持したチャンバに蒸着材料の分子を放出する蒸発源を配置する。蒸発源は蒸着材料を封入する坩堝とヒータ断面部材で構成される。ヒータにより坩堝を高温加熱して蒸着材料を蒸発または昇華(以下、蒸発)させ、坩堝に設けたノズルにより蒸着材料の分子を外部に向けて放出する。チャンバ内には基板およびこの基板に密着させた蒸着マスク(メタルマスク)を配置しており、坩堝から蒸発した蒸着材料を基板上に蒸着させる。蒸着マスクには所定パターンの開口部が形成されており、これにより基板上に所定パターンの薄膜層が成膜される。
【0004】
蒸着材料は常温では基本的には固形状態になっており、高真空下において坩堝内部で高温で加熱されて蒸発する。このため、蒸発源のノズル部から輻射を生じており、このチャンバ内に配置した基板および蒸着マスクの温度上昇の原因となる。基板はガラス素材であり、蒸着マスクは一般的には低熱膨張な金属素材である。その素材としてインバー材、スーパーインバー材、42−アロイ等が用いられる。また、基板サイズはテレビ生産を目指すメーカも増え、今日拡大の一途をたどり、1辺が1.0mや1.5mを超えるものも扱われはじめた。このため、蒸着マスクと基板とはますます合わせずれが増大してきた。
【0005】
基板上に形成する薄膜層のパターンは、発光色毎に薄膜層を塗り分ける場合、非常に高い精度が要求される。このため、基板と蒸着マスクとの間は予め厳格にアライメント(位置決め)を施して密着させており、このアライメント精度を維持しながら蒸着を行わなければならない。このときに、輻射熱の作用により、基板と蒸着マスクとの熱膨張の差を生じると、基板と蒸着マスクのパターン間に寸法のずれを生じる。特に、輻射熱により両者が高温になると大きな位置ずれを生じ、正確なパターン形成を行うことができなくなる。
【0006】
この問題に対して、坩堝上部に断熱部材(放射阻止体)を配置した技術が特許文献1に開示されている。この技術では、坩堝の輻射熱が基板に作用することを防止するための放射阻止体を坩堝上部に設けている。坩堝には蒸着材料を射出するための突出部が設けられており、この突出部の周囲に放射阻止体を配置している。そして、蒸発した蒸着材料が放射阻止体に付着しないようにするために、突出部の射出側開口部と同じ高さまたはそれよりも低い位置に放射阻止体を設けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−214185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の突出部の出射側開口部は放射阻止体よりも突出しているか、或いは同じ高さ位置となるように構成している。このため、突出部の先端部位は放射阻止体から基板および蒸着マスクに向けて露出している。突出部は周囲へ熱放射するため、温度低下が発生する。
【0009】
突出部は蒸発させた蒸着材料の通過経路になっており、高温であれば格別の問題はないが、一定温度以下の温度低下にともない突出部の孔の内面に付着した蒸着材料が析出する。そして、孔の内面で析出した蒸着材料が徐々に成長して、最終的には突出部の孔の先端近傍を塞ぎ、詰まりを生じる。突出部に詰まりを生じると、蒸着作業を継続して行うことができず、真空チャンバの真空状態を解除してメンテナンスを行わなければならない。
【0010】
また、坩堝は極めて高温状態になっていることから、輻射熱の作用を基板や蒸着マスクに及ぼさないようにするためには、放射阻止体に高い遮熱機能を持たせなくてはならない。通常は複数枚の両面が鏡面のミラーを離間、積層したリフレクタと呼ばれる放射阻止体を形成するが、1枚で構成する場合には熱膨張率の低い材料の板材の厚みを大きくしなければならない。従って、放射阻止体の全体の厚みとしては薄くすることが困難である。
【0011】
従来の方法では、突出部は放射阻止体よりも突出させており、従って突出部の長さは放射阻止体の厚みよりも長く構成しなければならない。このため蒸発した蒸着材料の通過経路となる突出部の全長は長いものとなる。このため、長い突出部ほど周囲への輻射による放熱が大きく、孔の内部で蒸着材料の析出を生じやすくなり、突出部(特に、先端部近傍の領域)で詰まりを生じやすくなる。
【0012】
そこで、本発明は、坩堝の輻射熱を遮熱し、且つノズルに詰まりを生じないにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するため、本発明の第1の蒸発源は、蒸着材料を加熱して蒸発させる蒸発手段に設けられ、蒸発した前記蒸着材料を被蒸着体に向けて噴射する噴射部と、並列に配置した複数の金属板を有し、当該金属板のうち最も前記被蒸着体に近い金属板を前記噴射部の先端面よりも前記被蒸着体に近い位置に設けた遮熱手段と、前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうちの一部と一体的に構成され、前記噴射部と前記遮熱手段との間を閉塞する防着手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
この蒸発源によれば、噴射部の先端面は遮熱手段の最外層よりも内層側に位置させている。これにより、遮熱手段内部の高い温度領域に噴射部を配置することができ、噴射部の長さを短く構成できることから、噴射部に詰まりは生じなくなる。噴射部から蒸発した蒸着材料は防着手段により閉塞されていることから、遮熱手段に付着することもない。且つ、防着手段は遮熱手段の熱により高温状態になっていることから、防着手段に蒸着材料が析出して固形化することがなくなる。
【0015】
また、第2の蒸発源は、第1の蒸発源であって、前記防着手段は、前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうち1枚の金属板を用いて構成したことを特徴とする。
【0016】
この蒸発源によれば、遮熱手段の金属板と同一の金属板を防着手段として用いているため、遮熱手段の持つ熱を効率的に防着手段に伝達できる。しかも、防着手段のために専用の金属板を用意する必要がないため、構成が簡単になる。
【0017】
また、第3の蒸発源は、第2の蒸発源であって、前記防着手段は、前記蒸発手段側の開口面積が最も狭く、前記被蒸着体側に向けて徐々に開口面積が広くなるような凹状に構成したことを特徴とする。
【0018】
この蒸発源によれば、防着手段は開口面積が徐々に広がるような凹状となっている。噴射部から噴射した蒸着材料は拡散して飛散していくため、防着手段の開口面積を広げるようにすることで、防着手段が蒸着材料の飛散方向を制限することはない。
【0019】
また、第4の蒸発源は、第3の蒸発源であって、前記噴射部の先端面を前記防着手段の最も基端側の部位よりも突出させたことを特徴とする。
【0020】
この蒸発源によれば、噴射部の先端面が防着手段から突出しているため、噴射部が噴射した蒸着材料が防着手段の内側に付着することがなくなる。
【0021】
また、第5の蒸発源は、第3の蒸発源であって、前記遮熱手段を収容するハウジング手段の前記被蒸着体に対向する面よりも前記防着手段の最も先端側の部位を突出させたことを特徴とする。
【0022】
この蒸発源によれば、防着手段の先端側をハウジング手段の基板対向面よりも突出させていることで、ハウジング手段に蒸着材料が付着することを抑制できるようになる。
【0023】
また、第6の蒸発源は、第2の蒸発源であって、前記防着手段を構成する金属板は、前記遮熱手段を構成する金属板のうち前記蒸着材料が固形化しない温度であり、且つそのうち最も低い温度を持つ金属板を用いて構成したことを特徴とする。
【0024】
この蒸発源によれば、防着手段の金属板は蒸着材料が固形化しない熱を持つ金属板を選択していることで、噴射部の詰まりを回避できる。且つ、蒸着材料が固形化しない熱を持つ金属板のうち最も低温の金属板を選択していることで、外部空間に露出する防着手段に過剰に高い温度を持たせることがなくなる。
【0025】
また、第7の蒸発源は、第2の蒸発源であって、前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうち前記蒸着材料が固形化しない温度を持つ金属板の位置に前記噴射部の先端面を位置させたことを特徴とする。
【0026】
この蒸発源によれば、噴射部の全長を蒸着材料が固形化しないような温度状況下に位置させるような長さに制限していることで、噴射部の詰まりを生じなくなる。且つ、当該位置まで噴射部を構成することを許容することで、噴射する蒸着材料に所定の指向性を持たせることができるようになる。
【0027】
また、本発明の蒸着装置は、第1乃至第7の何れかの蒸発源を配置した蒸着装置になる。本発明の蒸発源は有機ELディスプレイや有機EL照明等の有機EL装置を製造するときの蒸着装置に適用することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、蒸発手段の熱を遮断する遮熱手段よりも蒸発手段側に噴射部の先端面を設けていることから、高い温度状態に噴射部全体を配置することができ、噴射部の長さを短くすることができる。これにより、輻射熱を遮熱すると共に噴射部に詰まりを生じることがなくなる。また、噴射部と蒸発手段とを閉塞するための防着手段を設けていることから、遮熱手段に蒸着材料が付着することがなくなり、防着手段が高温状態になっていることから、防着手段に蒸着材料が固形化することもなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】蒸発源の構成を示す図である。
【図2】蒸発源から側方に向けて蒸着材料を蒸着させている図である。
【図3】蒸発源の断面図である。
【図4】リフレクタの金属板をカバー部材として用いた一例を説明した図である。
【図5】リフレクタの金属板をカバー部材として用いた他の例を説明した図である。
【図6】カバー部材を溶接によりリフレクタと接合した例を説明した図である。
【図7】カバー部材を漏斗状に構成したときの蒸着源の構成を示す図である。
【図8】蒸発源から上方に向けて蒸着材料を蒸着させている図である。
【図9】真空蒸着装置の一例を説明した図である。
【図10】複数の真空蒸着チャンバを備えたシステムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の蒸発源1の概略を示しており、図2は蒸発源1を用いて蒸着を行う場合の一例を示している。図1および図2に示す矢印はZ方向が重力方向であり、XおよびYの2方向が水平面方向を形成している。なお、以下においては、有機ELディスプレイを構成する基板に所定の有機薄膜層を蒸着させる場合について説明しているが、これに限定されることはない。例えば、金属薄膜層や無機薄膜層等を蒸着させるものであってもよい。また、有機ELディスプレイではなく、有機EL照明を構成する有機薄膜層を蒸着させるものであってもよい。
【0031】
図2に示すように、蒸発源1は蒸着材料Mを基板2に蒸着させるための装置になっている。基板2は蒸着材料Mを蒸着させるための被蒸着体であり、蒸着マスク(メタルマスク)3を基板に密着させて蒸着させる。蒸着マスク3には所定のマスクパターン3Aを貫通領域として形成しており、マスクパターン3Aを通過して蒸着材料Mを基板2に蒸着させる。有機ELディスプレイを構成する有機薄膜層の場合には、発光層や注入層、輸送層等の材料が蒸着材料Mになり、金属配線を形成する電極層の場合には当該材料が蒸着材料Mとなる。
【0032】
基板2には正確なパターン形成を行わなければならない。このために、基板2と蒸着マスク3との間は厳格にアライメントがされている。基板2はガラス素材であり、蒸着マスク3は金属素材(例えば、ニッケル系の合金(インバー)等)である。従って、金属素材である蒸着マスク3はガラス素材である基板2よりも熱膨張率が低いものになっている。これにより、基板2や蒸着マスク3に高温が作用すると、基板2と蒸着マスク3との間に熱膨張率の差に基づく位置ずれが生じる。
【0033】
図1に示すように、蒸発源1は坩堝5とリフレクタ6とハウジング7とカバー部材8とを備えて概略構成している。坩堝5は箱状をした蒸発手段であり、内部に蒸着材料Mを設けている。この蒸着材料Mは固形状態等で坩堝5の内部に予め充填されている。坩堝5の外周面には坩堝5を加熱するための加熱手段としてのヒータ11が設けられている。このヒータ11の加熱作用により坩堝5は高温状態になり、内部の蒸着材料Mが蒸発する。
【0034】
本図では、坩堝5は4つの面(上面5A、下面5B、第1側面5C、第2側面5D)を有して構成されている。そして、このうちヒータ11を上面5Aおよび下面5Bに取り付けている。勿論、任意の面にヒータ11を取り付けるようにしてもよい。第1側面5CにはY方向に1列にノズル12を配列している。ノズル12は蒸着材料Mを噴射するための噴射部であり、基端面は坩堝5に開口しており、先端面(ノズル先端面13)から蒸発した蒸着材料Mが噴射される。ノズル12には貫通孔が形成されており、この貫通孔が噴射される蒸着材料Mに指向性を与える。よって、ノズル12には指向性を与える程度の長さを持たせる。
【0035】
リフレクタ6(6A〜6D)は坩堝5(ヒータ11)の輻射熱を断熱するための遮熱手段であり、坩堝5を取り囲むようにして配置している。リフレクタ6は複数の金属板15を有して構成されており、各金属板15はステンレス鋼やモリブデン、タングステン等を素材とした金属材料となっている。そして、各金属板15の表面は鏡面研磨が施されており、放射率を小さくすることで外部へ放出する輻射熱のエネルギーを低減する。
【0036】
リフレクタ6は複数の金属板15を相互に所定間隔をもって並列に配置した構成となっており、金属板15と空間とが多層に積層された構造になっている。このため、金属板15の単体としては肉薄で構成されるが、リフレクタ6の全体としては厚みが大きくなる。リフレクタ6は坩堝5の周囲を取り囲むようにして配置しており、坩堝5の各面5A〜5Dに対応する箇所のリフレクタ6が6A〜6Dとする。図1の例では、リフレクタ6A〜6Dはそれぞれ個別的に設けるようにしているが、リフレクタ6A〜6Dの各金属板15をそれぞれ1枚で構成するようにしてもよい。このうち、リフレクタ6Cには帯状に細い開口部(リフレクタ開口部6E)を形成する。このリフレクタ開口部6Eは坩堝5に1列に配列したノズル12が露出する箇所に形成する。
【0037】
ハウジング7はリフレクタ6(および坩堝5)を収容するハウジング手段である。ハウジング7は箱状をしており、周囲4つの面7A〜7D(5A〜5Dに対応)のうち面7C(第1側面5Cに対応する面:基板に対向する基板対向面)の一部に帯状に細い開口部(ハウジング開口部7E)を形成している。ハウジング開口部7Eはリフレクタ開口部6Eと同じ面の側に設けており、ハウジング開口部7Eおよびリフレクタ開口部6Eを介してノズル12が外部空間に露出するようにする。なお、ハウジング開口部7Eはリフレクタ開口部6Eよりも広い開口面積を有している。
【0038】
図3に示すように、カバー部材8はノズル12(ノズル先端面13)とリフレクタ6との間を閉塞して、ノズル12から噴射した蒸着材料Mがリフレクタ6に付着しないように設けた防着部材である。カバー部材8はハウジング7に着脱可能に設けられており、取り外しを行うことにより、ハウジング7およびカバー部材8のメンテナンスを行うことができる。なお、リフレクタ6もハウジング7に着脱可能に設けられており、リフレクタ6を取り外してメンテナンスを行うことが可能になっている。
【0039】
カバー部材8はリフレクタ6Cを構成する複数の金属板15のうち1枚の金属板15を用いて構成している。カバー部材8は凹状に構成しており、基端側(坩堝5に近い側)から先端側(基板2に近い側)に向けて開口面積が徐々に広くなるように形成している。従って、カバー部材8にはテーパ面8Tが形成される。
【0040】
ハウジング7の面7C側の構成としては、リフレクタ6Cの領域は複数の金属板15を所定間隔で積層させた構造となっているが、カバー部材8の部位は1枚の金属板15が設けられた構造となっている。従って、基板2を基準にしてハウジング7を見ると、カバー部材8の厚みはリフレクタ6Cの厚みよりも薄くなっている。
【0041】
坩堝5の高熱をカバー部材8に直接的に作用させないために、カバー部材8と坩堝5とは非接触に設けるようにする。一方、カバー部材8の外部空間(基板2が臨んでいる空間)にノズル12のノズル先端面13を突出させるようにしている。このために、カバー部材8の基端側にはノズル12を突出させるためのノズル露出孔16がY方向に1列に配列するように設けている。図1および図3の例では、カバー部材8の基端側には底面が形成されており、当該底面にノズル露出孔16を設けるようにする。これにより、各ノズル露出孔16からノズル12を外部空間に向けて突出させることができる。ノズル露出孔16はノズル12よりも僅かに大きな径を持たせるようにして、カバー部材8とノズル12とを非接触にしつつ、カバー部材8とノズル12との隙間をできる限り小さいものとする。
【0042】
本発明では、リフレクタ6Cの最外層の金属板15(最も基板2に近い金属板15)をノズル12のノズル先端面13よりも基板2に近くなるように配置している。換言すれば、ノズル先端面13はリフレクタ6の最外層の金属板15よりも内層側に位置するように構成している。リフレクタ6Cは金属板15と空間との多層の積層構造となっており、1層ごとに熱流束が低下していく。これにより、坩堝5の温度は極めて高温であったとしても、リフレクタ6Cの最外層にはその熱が殆ど伝達されなくなる。従って、リフレクタ6Cにおいては最外層(最も基板2に近い層)から最内層(最も坩堝5に近い層)に向けて段階的に温度が上昇していく。
【0043】
ここで、ノズル12の孔の内面は蒸着材料Mの通過経路になっている。ノズル12が低温状態になると、孔の内面に付着した蒸着材料Mが冷却されて析出する。そして、析出して固形化した蒸着材料Mが徐々に成長することにより、ノズル12を塞ぐようになり、最終的にはノズル詰まりを招来する。これにより、基板2に対しての蒸着作業を継続することができず、真空状態を解除してメンテナンスを行う必要がある。
【0044】
前述したように、リフレクタ6Cは段階的に温度が変化しており、各段はそれぞれの温度の4乗に比例したエネルギーを輻射で放熱し、例えば表面状態が同一な場合、つまり放射率が同じ場合、坩堝5の外部への放出エネルギーは(段数+1)分の1に低減できる。このため、最外層の放熱状態が坩堝5に及ぼす影響を低減できる。この段階的に温度が下がることを利用して、n段目のリフレクタの熱をカバー部材8に伝導させれば、ノズル12が冷却されることを防ぎ、孔の内面に付着した蒸着材料Mが析出して固形化することがない。これにより、ノズル詰まりの発生を回避できる。
【0045】
そして、ノズル12はリフレクタ6Cの厚みには影響を受けることはない。つまり、ノズル12のノズル先端面13がリフレクタ6Cの最外層の金属板15よりも内層側に位置させるようにすればよいため、遮熱機能を向上させるためにリフレクタ6Cの厚みを極端に厚くしたとしても、ノズル12の全長は大きく構成する必要がない。これにより、ノズル12の全長を短く構成することができ、ノズル12からの放熱を抑制することができる。
【0046】
このとき、ノズル先端面13よりも基板2の側にリフレクタ6のうち少なくとも1つの金属板15が位置する。これにより、蒸着材料Mの噴射方向に金属板15が位置するため、蒸着材料Mがリフレクタ6に付着するおそれがある。金属板15に蒸着材料Mが付着すると断熱機能が低下し、輻射熱を遮熱できなくなる。そこで、ノズル12とリフレクタ6との間に防着部材としてのカバー部材8を介在させている。これにより、カバー部材8がリフレクタ6を保護するため、リフレクタ6に蒸着材料Mが付着することはない。カバー部材8はあくまでもリフレクタ6に蒸着材料Mを付着させないために設けており、遮熱機能は有していない。従って、防着部材に蒸着材料Mを付着させても遮熱機能には影響はない。
【0047】
そして、カバー部材8はリフレクタ6Cのうち1枚の金属板15を用いて構成している。つまり、複数枚の金属板15のうち1枚の金属板15をカバー部材8およびリフレクタ6の両者の機能を持つようにしており、換言すればリフレクタ6を構成する一部の金属板15がカバー部材8と一体的に構成されている。前述したように、金属板15は遮熱機能により熱の作用を受けており、段階的に温度が異なるものの、各金属板15は高温状態を維持している。
【0048】
この高温状態の金属板15をカバー部材8として利用することで、カバー部材8を高温状態にすることができる。カバー部材8にはノズル12から噴射した蒸着材料Mが付着する。カバー部材8が低温状態になると、付着した蒸着材料Mが析出して固形化する。そして固形化した蒸着材料Mが徐々に成長すると、ノズル先端面13を塞ぐようになり、ノズル詰まりと同様の結果を招来する。そこで、リフレクタ6を構成する1枚の金属板15をカバー部材8として利用して高温状態を維持することで、カバー部材8に蒸着材料Mが付着したとしても再蒸発して析出することがなくなる。
【0049】
また、カバー部材8は基端側が最も開口面積が狭く、先端側に向けて徐々に開口面積を拡大させている。このために、リフレクタ6Cおよびカバー部材8の両者の機能を持つ金属板15はハウジング開口部7Eの周縁部で基板に向かうように形状にしている。そして、先端から坩堝5に向かうテーパ面8Tを形成するようにしている。
【0050】
ノズル先端面13から噴射された蒸着材料Mは拡散するように飛散していく。ノズル先端面13はハウジング7の面7Cを基準にすると窪んだ位置に設けられており、飛散方向にはカバー部材8が位置している。そこで、カバー部材8の開口面積を基端側から先端側に向けて徐々に拡大させるように形成していることで、カバー部材8が蒸着材料Mの飛散方向を制限しないようにしている。これにより、基板2の所望の範囲に蒸着材料Mを蒸着させ、且つカバー部材8に不要な蒸着材料Mを付着させないようにすることができる。
【0051】
この点、噴射される蒸着材料Mの拡散角度よりもカバー部材8のテーパ面8Tの傾斜角度を大きくすれば、カバー部材8に蒸着材料Mをより付着させないようにすることができる。ただし、この場合には、ハウジング7のハウジング開口部7Eの開口面積が大きくなり、外部空間に余計な温度上昇を及ぼすおそれがある。そこで、カバー部材8のテーパ面の傾斜角度を蒸着材料Mの拡散角度と平行(或いはほぼ平行な角度)とすることで、外部空間に余計な温度上昇を及ぼすことなく、且つ蒸着材料Mの飛散方向を制限することがなくなる。
【0052】
また、カバー部材8は高温状態のリフレクタ6の金属板15と一体的に構成しており、ハウジング7とは非接触になっている。ハウジング7は外部空間に曝されており、理想的には常温状態を維持している。このため、ハウジング7とカバー部材8とが接触すると、カバー部材8に与えている熱がハウジング7に分散されてしまい、ハウジング7の温度が上昇し、カバー部材8の温度が低下する。これにより、カバー部材8に付着した蒸着材料Mが析出して固形化するおそれがある。このため、カバー部材8をハウジング7と非接触にすることで、熱の分散によるカバー部材8の温度低下を回避することができる。
【0053】
ノズル12のノズル先端面13はカバー部材8の基端側に設けたノズル露出孔16よりも突出させるようにしている。これにより、ノズル先端面13から噴射された蒸着材料Mがカバー部材8の内側(ハウジング7の内部側)から回り込んでリフレクタ6に付着することがなくなる。
【0054】
また、カバー部材8の先端側の部位をハウジング7の面7C(基板2に向いている面)よりも基板2に向けて突出させている。ノズル12から噴射された蒸着材料Mは指向性を持っており、噴射後の蒸着材料Mがハウジング7に向けて付着することは殆どないが、ごく微量な蒸着材料Mがハウジング7に付着するおそれもある。そこで、カバー部材8の先端側の部位を突出させることで、ハウジング7はカバー部材8の影になることから、付着するおそれがなくなる。
【0055】
また、前述したように、カバー部材8はリフレクタ6Cの各金属板15のうち1枚を用いて構成しているが、任意の金属板15をカバー部材8として使用してもよい。図4は最外層の金属板15をカバー部材8として用いているが、図5のように最外層から2層目を用いるようにしてもよい。ただし、最外層の金属板15が最も低温になっており、最内層の金属板15が最も高温になっている。従って、各金属板15から最適な金属板15を選択してカバー部材8として使用する。
【0056】
リフレクタ6Cの金属板15をカバー部材8として使用しているのは、カバー部材8を高温状態に維持して、付着した蒸着材料Mを固形化させないためである。従って、蒸着材料Mが固形化しない最低限の温度をカバー部材8に持たせていればよく、それ以上の温度を与える必要はない。逆に不要に高い温度をカバー部材8に持たせると、外部空間に余分な熱を与えることになる。リフレクタ6Cは最内層から最外層に向けて段階的に温度が低下していくため、蒸着材料Mが固形化しない温度を持たせるような層に位置する金属板15を用いるようにする。これにより、蒸着材料Mの析出を防止しつつ、外部空間に不要な温度上昇を与えないようにすることができる。
【0057】
蒸着材料Mが析出して固形化する温度は蒸着材料Mの種類によって異なる。そこで、坩堝5に充填した蒸着材料Mの種類によって、固形化しない最低限の温度の熱量をカバー部材8に供給可能な金属板15を複数の金属板15から選択することができる。これにより、蒸着材料Mに応じた最適な金属板15を選択することができる。
【0058】
また、ノズル12は蒸着材料Mが固形化しない温度を持つ金属板15の位置までの長さで構成することができる。不要な放熱を回避するためにノズル12の長さは短く構成することが望ましいが、噴射する蒸着材料に指向性を与えるために、ある程度の長さを持たせるようにする。蒸着材料Mが固形化しない温度状況下であればノズル12を長く構成することが許容される。これにより、ノズル12から噴射する蒸着材料Mに十分な指向性を与えることができ、且つノズル12に詰まりを生じないようにすることができる。
【0059】
前述してきたカバー部材8はリフレクタ6を構成する金属板15のうち1枚を利用していたが、図6に示すように、リフレクタ6とは異なる金属板21を用意して、当該金属板21をリフレクタ6の金属板15のうち任意の金属板15と溶接により一体化してもよい。これにより、一体化した金属板21にはリフレクタ6の金属板15から熱が伝達されて高温状態にすることができる。
【0060】
また、図7のように、カバー部材8を漏斗状に構成することもできる。漏斗状の先端部分(開口面積が変化しない部分)8Aにノズル12を挿入するように構成し、先端部分8Aとノズル12との間は非接触を維持しつつ、且つ近接させるようにする。これにより、リフレクタ6Cとノズル12との間が極めて近接するようになる。この構成により、リフレクタ開口部6Eの開口面積を狭くすることができ、輻射熱の影響を最小限にすることができる。且つ、ノズル12に沿うようにしてカバー部材8(の開口面積が変化しない部分)を設けていることで、リフレクタ6Cとの間を閉塞することができる。
【0061】
このとき、漏斗状のカバー部材8の先端部分8Aからテーパ面8Tの部分に移行する部位にノズル先端面13が位置するようにことが望ましい。これにより、リフレクタ開口部6Eの開口面積を最小限にすることができ、且つリフレクタ6Cとの間を閉塞することができる。
【0062】
図1の例では、蒸発源1から側方(水平面方向)に向けて蒸着材料Mを噴射していたが、図8に示すようにノズル12を上方に向けるようにして蒸発源1を構成してもよい。このときには、基板2および蒸着マスク3は蒸発源1の上方に配置しておき、蒸発源1から上方(垂直方向)に向けて蒸着材料Mを噴射するようにする。
【0063】
図9は蒸発源1を備える真空蒸着装置30の一例を示している。真空蒸着装置30は所定のチャンバ(真空蒸着チャンバ)を構成しており、内部空間は真空ポンプ31(図中でVP)が真空引きすることにより真空状態となっている。基板2および蒸着マスク3は垂直方向に立てた状態で搬送されており、真空蒸着装置30の所定位置で停止される。蒸発源1は移動テーブル32に固定されて搭載されており、真空蒸着装置30の壁面に設けたレール33に沿って移動テーブル32が移動する。駆動手段としてはボールネジ34を設けており、レール33を垂直方向(Z方向)に延在させることで、移動テーブル32は垂直方向に移動する。従って、移動テーブル32に搭載されている蒸発源1も垂直方向に移動する。
【0064】
基板2は広範な面積を有しており、蒸発源1が固定された移動テーブル32を移動させて蒸着を行っていく。この例では、蒸発源1を移動可能にしているが、基板2を移動させてもよい。蒸発源1には噴射した蒸着材料Mの膜厚を測定するためのレートセンサ35を設けており、蒸着状況を監視している。
【0065】
図10は複数の真空蒸着装置30により構成されるシステム40の一例を示している。このシステム40では、基板移動装置41〜43と中継チャンバ44〜47と真空蒸着チャンバ(真空蒸着装置)48〜59とを有して構成されている。各真空蒸着チャンバ48〜59はそれぞれ異なる蒸着材料Mを基板2に蒸着させている。例えば、注入層であれば正孔注入層や電子注入層、輸送層であれば正孔輸送層や電子輸送層、発光層であればR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の3色の発光層、或いは電極層であれば陽極層と陰極層といったように、それぞれ異なる蒸着材料Mを蒸着する。
【0066】
図10の例では、3つの真空蒸着チャンバ48〜51と52〜55と56〜59との4つが1つのステージを構成しており、合計3段のステージ構成となっている。基板移動装置41は1段目のステージの各チャンバ、42は2段目のステージの各チャンバ、43は3段目のステージの各チャンバに基板を移動させる。中継チャンバ44〜47は次の段のステージに基板を移行させるための中継地点として設けている。
【0067】
有機ELディスプレイの場合には、基板2に複数の有機薄膜層を積層して構成するため、図10のようなシステム40を構築することで、基板2に有機薄膜層を順次積層させていくことができるようになる。
【符号の説明】
【0068】
1 蒸発源 2 基板
3 蒸着マスク 5 坩堝
6 リフレクタ 6E リフレクタ開口部
7 ハウジング 7E ハウジング開口部
8 カバー部材 11 ヒータ
12 ノズル 13 ノズル先端面
15 金属板 16 ノズル露出孔
30 真空蒸着装置 40 システム
M 蒸着材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、被蒸着体に所定の蒸着材料を蒸着させるための蒸発源および蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定の対象物に蒸着膜を形成して構成する装置として有機ELディスプレイや有機EL照明等がある。このうち有機ELディスプレイは、バックライトを必要としない低消費電力・軽量薄型の画像表示装置として多く利用されている。その構造としては、透明性のガラス基板上に所定の蒸着膜を薄膜層として形成する。この薄膜層としては、発光層や注入層、輸送層等の有機EL薄膜層、また金属配線を形成する電極層等がある。
【0003】
各層の基板への形成には主に真空蒸着法が用いられる。真空蒸着法は、10−3〜10−5Paの高真空状態を維持したチャンバに蒸着材料の分子を放出する蒸発源を配置する。蒸発源は蒸着材料を封入する坩堝とヒータ断面部材で構成される。ヒータにより坩堝を高温加熱して蒸着材料を蒸発または昇華(以下、蒸発)させ、坩堝に設けたノズルにより蒸着材料の分子を外部に向けて放出する。チャンバ内には基板およびこの基板に密着させた蒸着マスク(メタルマスク)を配置しており、坩堝から蒸発した蒸着材料を基板上に蒸着させる。蒸着マスクには所定パターンの開口部が形成されており、これにより基板上に所定パターンの薄膜層が成膜される。
【0004】
蒸着材料は常温では基本的には固形状態になっており、高真空下において坩堝内部で高温で加熱されて蒸発する。このため、蒸発源のノズル部から輻射を生じており、このチャンバ内に配置した基板および蒸着マスクの温度上昇の原因となる。基板はガラス素材であり、蒸着マスクは一般的には低熱膨張な金属素材である。その素材としてインバー材、スーパーインバー材、42−アロイ等が用いられる。また、基板サイズはテレビ生産を目指すメーカも増え、今日拡大の一途をたどり、1辺が1.0mや1.5mを超えるものも扱われはじめた。このため、蒸着マスクと基板とはますます合わせずれが増大してきた。
【0005】
基板上に形成する薄膜層のパターンは、発光色毎に薄膜層を塗り分ける場合、非常に高い精度が要求される。このため、基板と蒸着マスクとの間は予め厳格にアライメント(位置決め)を施して密着させており、このアライメント精度を維持しながら蒸着を行わなければならない。このときに、輻射熱の作用により、基板と蒸着マスクとの熱膨張の差を生じると、基板と蒸着マスクのパターン間に寸法のずれを生じる。特に、輻射熱により両者が高温になると大きな位置ずれを生じ、正確なパターン形成を行うことができなくなる。
【0006】
この問題に対して、坩堝上部に断熱部材(放射阻止体)を配置した技術が特許文献1に開示されている。この技術では、坩堝の輻射熱が基板に作用することを防止するための放射阻止体を坩堝上部に設けている。坩堝には蒸着材料を射出するための突出部が設けられており、この突出部の周囲に放射阻止体を配置している。そして、蒸発した蒸着材料が放射阻止体に付着しないようにするために、突出部の射出側開口部と同じ高さまたはそれよりも低い位置に放射阻止体を設けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−214185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の突出部の出射側開口部は放射阻止体よりも突出しているか、或いは同じ高さ位置となるように構成している。このため、突出部の先端部位は放射阻止体から基板および蒸着マスクに向けて露出している。突出部は周囲へ熱放射するため、温度低下が発生する。
【0009】
突出部は蒸発させた蒸着材料の通過経路になっており、高温であれば格別の問題はないが、一定温度以下の温度低下にともない突出部の孔の内面に付着した蒸着材料が析出する。そして、孔の内面で析出した蒸着材料が徐々に成長して、最終的には突出部の孔の先端近傍を塞ぎ、詰まりを生じる。突出部に詰まりを生じると、蒸着作業を継続して行うことができず、真空チャンバの真空状態を解除してメンテナンスを行わなければならない。
【0010】
また、坩堝は極めて高温状態になっていることから、輻射熱の作用を基板や蒸着マスクに及ぼさないようにするためには、放射阻止体に高い遮熱機能を持たせなくてはならない。通常は複数枚の両面が鏡面のミラーを離間、積層したリフレクタと呼ばれる放射阻止体を形成するが、1枚で構成する場合には熱膨張率の低い材料の板材の厚みを大きくしなければならない。従って、放射阻止体の全体の厚みとしては薄くすることが困難である。
【0011】
従来の方法では、突出部は放射阻止体よりも突出させており、従って突出部の長さは放射阻止体の厚みよりも長く構成しなければならない。このため蒸発した蒸着材料の通過経路となる突出部の全長は長いものとなる。このため、長い突出部ほど周囲への輻射による放熱が大きく、孔の内部で蒸着材料の析出を生じやすくなり、突出部(特に、先端部近傍の領域)で詰まりを生じやすくなる。
【0012】
そこで、本発明は、坩堝の輻射熱を遮熱し、且つノズルに詰まりを生じないにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するため、本発明の第1の蒸発源は、蒸着材料を加熱して蒸発させる蒸発手段に設けられ、蒸発した前記蒸着材料を被蒸着体に向けて噴射する噴射部と、並列に配置した複数の金属板を有し、当該金属板のうち最も前記被蒸着体に近い金属板を前記噴射部の先端面よりも前記被蒸着体に近い位置に設けた遮熱手段と、前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうちの一部と一体的に構成され、前記噴射部と前記遮熱手段との間を閉塞する防着手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
この蒸発源によれば、噴射部の先端面は遮熱手段の最外層よりも内層側に位置させている。これにより、遮熱手段内部の高い温度領域に噴射部を配置することができ、噴射部の長さを短く構成できることから、噴射部に詰まりは生じなくなる。噴射部から蒸発した蒸着材料は防着手段により閉塞されていることから、遮熱手段に付着することもない。且つ、防着手段は遮熱手段の熱により高温状態になっていることから、防着手段に蒸着材料が析出して固形化することがなくなる。
【0015】
また、第2の蒸発源は、第1の蒸発源であって、前記防着手段は、前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうち1枚の金属板を用いて構成したことを特徴とする。
【0016】
この蒸発源によれば、遮熱手段の金属板と同一の金属板を防着手段として用いているため、遮熱手段の持つ熱を効率的に防着手段に伝達できる。しかも、防着手段のために専用の金属板を用意する必要がないため、構成が簡単になる。
【0017】
また、第3の蒸発源は、第2の蒸発源であって、前記防着手段は、前記蒸発手段側の開口面積が最も狭く、前記被蒸着体側に向けて徐々に開口面積が広くなるような凹状に構成したことを特徴とする。
【0018】
この蒸発源によれば、防着手段は開口面積が徐々に広がるような凹状となっている。噴射部から噴射した蒸着材料は拡散して飛散していくため、防着手段の開口面積を広げるようにすることで、防着手段が蒸着材料の飛散方向を制限することはない。
【0019】
また、第4の蒸発源は、第3の蒸発源であって、前記噴射部の先端面を前記防着手段の最も基端側の部位よりも突出させたことを特徴とする。
【0020】
この蒸発源によれば、噴射部の先端面が防着手段から突出しているため、噴射部が噴射した蒸着材料が防着手段の内側に付着することがなくなる。
【0021】
また、第5の蒸発源は、第3の蒸発源であって、前記遮熱手段を収容するハウジング手段の前記被蒸着体に対向する面よりも前記防着手段の最も先端側の部位を突出させたことを特徴とする。
【0022】
この蒸発源によれば、防着手段の先端側をハウジング手段の基板対向面よりも突出させていることで、ハウジング手段に蒸着材料が付着することを抑制できるようになる。
【0023】
また、第6の蒸発源は、第2の蒸発源であって、前記防着手段を構成する金属板は、前記遮熱手段を構成する金属板のうち前記蒸着材料が固形化しない温度であり、且つそのうち最も低い温度を持つ金属板を用いて構成したことを特徴とする。
【0024】
この蒸発源によれば、防着手段の金属板は蒸着材料が固形化しない熱を持つ金属板を選択していることで、噴射部の詰まりを回避できる。且つ、蒸着材料が固形化しない熱を持つ金属板のうち最も低温の金属板を選択していることで、外部空間に露出する防着手段に過剰に高い温度を持たせることがなくなる。
【0025】
また、第7の蒸発源は、第2の蒸発源であって、前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうち前記蒸着材料が固形化しない温度を持つ金属板の位置に前記噴射部の先端面を位置させたことを特徴とする。
【0026】
この蒸発源によれば、噴射部の全長を蒸着材料が固形化しないような温度状況下に位置させるような長さに制限していることで、噴射部の詰まりを生じなくなる。且つ、当該位置まで噴射部を構成することを許容することで、噴射する蒸着材料に所定の指向性を持たせることができるようになる。
【0027】
また、本発明の蒸着装置は、第1乃至第7の何れかの蒸発源を配置した蒸着装置になる。本発明の蒸発源は有機ELディスプレイや有機EL照明等の有機EL装置を製造するときの蒸着装置に適用することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、蒸発手段の熱を遮断する遮熱手段よりも蒸発手段側に噴射部の先端面を設けていることから、高い温度状態に噴射部全体を配置することができ、噴射部の長さを短くすることができる。これにより、輻射熱を遮熱すると共に噴射部に詰まりを生じることがなくなる。また、噴射部と蒸発手段とを閉塞するための防着手段を設けていることから、遮熱手段に蒸着材料が付着することがなくなり、防着手段が高温状態になっていることから、防着手段に蒸着材料が固形化することもなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】蒸発源の構成を示す図である。
【図2】蒸発源から側方に向けて蒸着材料を蒸着させている図である。
【図3】蒸発源の断面図である。
【図4】リフレクタの金属板をカバー部材として用いた一例を説明した図である。
【図5】リフレクタの金属板をカバー部材として用いた他の例を説明した図である。
【図6】カバー部材を溶接によりリフレクタと接合した例を説明した図である。
【図7】カバー部材を漏斗状に構成したときの蒸着源の構成を示す図である。
【図8】蒸発源から上方に向けて蒸着材料を蒸着させている図である。
【図9】真空蒸着装置の一例を説明した図である。
【図10】複数の真空蒸着チャンバを備えたシステムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の蒸発源1の概略を示しており、図2は蒸発源1を用いて蒸着を行う場合の一例を示している。図1および図2に示す矢印はZ方向が重力方向であり、XおよびYの2方向が水平面方向を形成している。なお、以下においては、有機ELディスプレイを構成する基板に所定の有機薄膜層を蒸着させる場合について説明しているが、これに限定されることはない。例えば、金属薄膜層や無機薄膜層等を蒸着させるものであってもよい。また、有機ELディスプレイではなく、有機EL照明を構成する有機薄膜層を蒸着させるものであってもよい。
【0031】
図2に示すように、蒸発源1は蒸着材料Mを基板2に蒸着させるための装置になっている。基板2は蒸着材料Mを蒸着させるための被蒸着体であり、蒸着マスク(メタルマスク)3を基板に密着させて蒸着させる。蒸着マスク3には所定のマスクパターン3Aを貫通領域として形成しており、マスクパターン3Aを通過して蒸着材料Mを基板2に蒸着させる。有機ELディスプレイを構成する有機薄膜層の場合には、発光層や注入層、輸送層等の材料が蒸着材料Mになり、金属配線を形成する電極層の場合には当該材料が蒸着材料Mとなる。
【0032】
基板2には正確なパターン形成を行わなければならない。このために、基板2と蒸着マスク3との間は厳格にアライメントがされている。基板2はガラス素材であり、蒸着マスク3は金属素材(例えば、ニッケル系の合金(インバー)等)である。従って、金属素材である蒸着マスク3はガラス素材である基板2よりも熱膨張率が低いものになっている。これにより、基板2や蒸着マスク3に高温が作用すると、基板2と蒸着マスク3との間に熱膨張率の差に基づく位置ずれが生じる。
【0033】
図1に示すように、蒸発源1は坩堝5とリフレクタ6とハウジング7とカバー部材8とを備えて概略構成している。坩堝5は箱状をした蒸発手段であり、内部に蒸着材料Mを設けている。この蒸着材料Mは固形状態等で坩堝5の内部に予め充填されている。坩堝5の外周面には坩堝5を加熱するための加熱手段としてのヒータ11が設けられている。このヒータ11の加熱作用により坩堝5は高温状態になり、内部の蒸着材料Mが蒸発する。
【0034】
本図では、坩堝5は4つの面(上面5A、下面5B、第1側面5C、第2側面5D)を有して構成されている。そして、このうちヒータ11を上面5Aおよび下面5Bに取り付けている。勿論、任意の面にヒータ11を取り付けるようにしてもよい。第1側面5CにはY方向に1列にノズル12を配列している。ノズル12は蒸着材料Mを噴射するための噴射部であり、基端面は坩堝5に開口しており、先端面(ノズル先端面13)から蒸発した蒸着材料Mが噴射される。ノズル12には貫通孔が形成されており、この貫通孔が噴射される蒸着材料Mに指向性を与える。よって、ノズル12には指向性を与える程度の長さを持たせる。
【0035】
リフレクタ6(6A〜6D)は坩堝5(ヒータ11)の輻射熱を断熱するための遮熱手段であり、坩堝5を取り囲むようにして配置している。リフレクタ6は複数の金属板15を有して構成されており、各金属板15はステンレス鋼やモリブデン、タングステン等を素材とした金属材料となっている。そして、各金属板15の表面は鏡面研磨が施されており、放射率を小さくすることで外部へ放出する輻射熱のエネルギーを低減する。
【0036】
リフレクタ6は複数の金属板15を相互に所定間隔をもって並列に配置した構成となっており、金属板15と空間とが多層に積層された構造になっている。このため、金属板15の単体としては肉薄で構成されるが、リフレクタ6の全体としては厚みが大きくなる。リフレクタ6は坩堝5の周囲を取り囲むようにして配置しており、坩堝5の各面5A〜5Dに対応する箇所のリフレクタ6が6A〜6Dとする。図1の例では、リフレクタ6A〜6Dはそれぞれ個別的に設けるようにしているが、リフレクタ6A〜6Dの各金属板15をそれぞれ1枚で構成するようにしてもよい。このうち、リフレクタ6Cには帯状に細い開口部(リフレクタ開口部6E)を形成する。このリフレクタ開口部6Eは坩堝5に1列に配列したノズル12が露出する箇所に形成する。
【0037】
ハウジング7はリフレクタ6(および坩堝5)を収容するハウジング手段である。ハウジング7は箱状をしており、周囲4つの面7A〜7D(5A〜5Dに対応)のうち面7C(第1側面5Cに対応する面:基板に対向する基板対向面)の一部に帯状に細い開口部(ハウジング開口部7E)を形成している。ハウジング開口部7Eはリフレクタ開口部6Eと同じ面の側に設けており、ハウジング開口部7Eおよびリフレクタ開口部6Eを介してノズル12が外部空間に露出するようにする。なお、ハウジング開口部7Eはリフレクタ開口部6Eよりも広い開口面積を有している。
【0038】
図3に示すように、カバー部材8はノズル12(ノズル先端面13)とリフレクタ6との間を閉塞して、ノズル12から噴射した蒸着材料Mがリフレクタ6に付着しないように設けた防着部材である。カバー部材8はハウジング7に着脱可能に設けられており、取り外しを行うことにより、ハウジング7およびカバー部材8のメンテナンスを行うことができる。なお、リフレクタ6もハウジング7に着脱可能に設けられており、リフレクタ6を取り外してメンテナンスを行うことが可能になっている。
【0039】
カバー部材8はリフレクタ6Cを構成する複数の金属板15のうち1枚の金属板15を用いて構成している。カバー部材8は凹状に構成しており、基端側(坩堝5に近い側)から先端側(基板2に近い側)に向けて開口面積が徐々に広くなるように形成している。従って、カバー部材8にはテーパ面8Tが形成される。
【0040】
ハウジング7の面7C側の構成としては、リフレクタ6Cの領域は複数の金属板15を所定間隔で積層させた構造となっているが、カバー部材8の部位は1枚の金属板15が設けられた構造となっている。従って、基板2を基準にしてハウジング7を見ると、カバー部材8の厚みはリフレクタ6Cの厚みよりも薄くなっている。
【0041】
坩堝5の高熱をカバー部材8に直接的に作用させないために、カバー部材8と坩堝5とは非接触に設けるようにする。一方、カバー部材8の外部空間(基板2が臨んでいる空間)にノズル12のノズル先端面13を突出させるようにしている。このために、カバー部材8の基端側にはノズル12を突出させるためのノズル露出孔16がY方向に1列に配列するように設けている。図1および図3の例では、カバー部材8の基端側には底面が形成されており、当該底面にノズル露出孔16を設けるようにする。これにより、各ノズル露出孔16からノズル12を外部空間に向けて突出させることができる。ノズル露出孔16はノズル12よりも僅かに大きな径を持たせるようにして、カバー部材8とノズル12とを非接触にしつつ、カバー部材8とノズル12との隙間をできる限り小さいものとする。
【0042】
本発明では、リフレクタ6Cの最外層の金属板15(最も基板2に近い金属板15)をノズル12のノズル先端面13よりも基板2に近くなるように配置している。換言すれば、ノズル先端面13はリフレクタ6の最外層の金属板15よりも内層側に位置するように構成している。リフレクタ6Cは金属板15と空間との多層の積層構造となっており、1層ごとに熱流束が低下していく。これにより、坩堝5の温度は極めて高温であったとしても、リフレクタ6Cの最外層にはその熱が殆ど伝達されなくなる。従って、リフレクタ6Cにおいては最外層(最も基板2に近い層)から最内層(最も坩堝5に近い層)に向けて段階的に温度が上昇していく。
【0043】
ここで、ノズル12の孔の内面は蒸着材料Mの通過経路になっている。ノズル12が低温状態になると、孔の内面に付着した蒸着材料Mが冷却されて析出する。そして、析出して固形化した蒸着材料Mが徐々に成長することにより、ノズル12を塞ぐようになり、最終的にはノズル詰まりを招来する。これにより、基板2に対しての蒸着作業を継続することができず、真空状態を解除してメンテナンスを行う必要がある。
【0044】
前述したように、リフレクタ6Cは段階的に温度が変化しており、各段はそれぞれの温度の4乗に比例したエネルギーを輻射で放熱し、例えば表面状態が同一な場合、つまり放射率が同じ場合、坩堝5の外部への放出エネルギーは(段数+1)分の1に低減できる。このため、最外層の放熱状態が坩堝5に及ぼす影響を低減できる。この段階的に温度が下がることを利用して、n段目のリフレクタの熱をカバー部材8に伝導させれば、ノズル12が冷却されることを防ぎ、孔の内面に付着した蒸着材料Mが析出して固形化することがない。これにより、ノズル詰まりの発生を回避できる。
【0045】
そして、ノズル12はリフレクタ6Cの厚みには影響を受けることはない。つまり、ノズル12のノズル先端面13がリフレクタ6Cの最外層の金属板15よりも内層側に位置させるようにすればよいため、遮熱機能を向上させるためにリフレクタ6Cの厚みを極端に厚くしたとしても、ノズル12の全長は大きく構成する必要がない。これにより、ノズル12の全長を短く構成することができ、ノズル12からの放熱を抑制することができる。
【0046】
このとき、ノズル先端面13よりも基板2の側にリフレクタ6のうち少なくとも1つの金属板15が位置する。これにより、蒸着材料Mの噴射方向に金属板15が位置するため、蒸着材料Mがリフレクタ6に付着するおそれがある。金属板15に蒸着材料Mが付着すると断熱機能が低下し、輻射熱を遮熱できなくなる。そこで、ノズル12とリフレクタ6との間に防着部材としてのカバー部材8を介在させている。これにより、カバー部材8がリフレクタ6を保護するため、リフレクタ6に蒸着材料Mが付着することはない。カバー部材8はあくまでもリフレクタ6に蒸着材料Mを付着させないために設けており、遮熱機能は有していない。従って、防着部材に蒸着材料Mを付着させても遮熱機能には影響はない。
【0047】
そして、カバー部材8はリフレクタ6Cのうち1枚の金属板15を用いて構成している。つまり、複数枚の金属板15のうち1枚の金属板15をカバー部材8およびリフレクタ6の両者の機能を持つようにしており、換言すればリフレクタ6を構成する一部の金属板15がカバー部材8と一体的に構成されている。前述したように、金属板15は遮熱機能により熱の作用を受けており、段階的に温度が異なるものの、各金属板15は高温状態を維持している。
【0048】
この高温状態の金属板15をカバー部材8として利用することで、カバー部材8を高温状態にすることができる。カバー部材8にはノズル12から噴射した蒸着材料Mが付着する。カバー部材8が低温状態になると、付着した蒸着材料Mが析出して固形化する。そして固形化した蒸着材料Mが徐々に成長すると、ノズル先端面13を塞ぐようになり、ノズル詰まりと同様の結果を招来する。そこで、リフレクタ6を構成する1枚の金属板15をカバー部材8として利用して高温状態を維持することで、カバー部材8に蒸着材料Mが付着したとしても再蒸発して析出することがなくなる。
【0049】
また、カバー部材8は基端側が最も開口面積が狭く、先端側に向けて徐々に開口面積を拡大させている。このために、リフレクタ6Cおよびカバー部材8の両者の機能を持つ金属板15はハウジング開口部7Eの周縁部で基板に向かうように形状にしている。そして、先端から坩堝5に向かうテーパ面8Tを形成するようにしている。
【0050】
ノズル先端面13から噴射された蒸着材料Mは拡散するように飛散していく。ノズル先端面13はハウジング7の面7Cを基準にすると窪んだ位置に設けられており、飛散方向にはカバー部材8が位置している。そこで、カバー部材8の開口面積を基端側から先端側に向けて徐々に拡大させるように形成していることで、カバー部材8が蒸着材料Mの飛散方向を制限しないようにしている。これにより、基板2の所望の範囲に蒸着材料Mを蒸着させ、且つカバー部材8に不要な蒸着材料Mを付着させないようにすることができる。
【0051】
この点、噴射される蒸着材料Mの拡散角度よりもカバー部材8のテーパ面8Tの傾斜角度を大きくすれば、カバー部材8に蒸着材料Mをより付着させないようにすることができる。ただし、この場合には、ハウジング7のハウジング開口部7Eの開口面積が大きくなり、外部空間に余計な温度上昇を及ぼすおそれがある。そこで、カバー部材8のテーパ面の傾斜角度を蒸着材料Mの拡散角度と平行(或いはほぼ平行な角度)とすることで、外部空間に余計な温度上昇を及ぼすことなく、且つ蒸着材料Mの飛散方向を制限することがなくなる。
【0052】
また、カバー部材8は高温状態のリフレクタ6の金属板15と一体的に構成しており、ハウジング7とは非接触になっている。ハウジング7は外部空間に曝されており、理想的には常温状態を維持している。このため、ハウジング7とカバー部材8とが接触すると、カバー部材8に与えている熱がハウジング7に分散されてしまい、ハウジング7の温度が上昇し、カバー部材8の温度が低下する。これにより、カバー部材8に付着した蒸着材料Mが析出して固形化するおそれがある。このため、カバー部材8をハウジング7と非接触にすることで、熱の分散によるカバー部材8の温度低下を回避することができる。
【0053】
ノズル12のノズル先端面13はカバー部材8の基端側に設けたノズル露出孔16よりも突出させるようにしている。これにより、ノズル先端面13から噴射された蒸着材料Mがカバー部材8の内側(ハウジング7の内部側)から回り込んでリフレクタ6に付着することがなくなる。
【0054】
また、カバー部材8の先端側の部位をハウジング7の面7C(基板2に向いている面)よりも基板2に向けて突出させている。ノズル12から噴射された蒸着材料Mは指向性を持っており、噴射後の蒸着材料Mがハウジング7に向けて付着することは殆どないが、ごく微量な蒸着材料Mがハウジング7に付着するおそれもある。そこで、カバー部材8の先端側の部位を突出させることで、ハウジング7はカバー部材8の影になることから、付着するおそれがなくなる。
【0055】
また、前述したように、カバー部材8はリフレクタ6Cの各金属板15のうち1枚を用いて構成しているが、任意の金属板15をカバー部材8として使用してもよい。図4は最外層の金属板15をカバー部材8として用いているが、図5のように最外層から2層目を用いるようにしてもよい。ただし、最外層の金属板15が最も低温になっており、最内層の金属板15が最も高温になっている。従って、各金属板15から最適な金属板15を選択してカバー部材8として使用する。
【0056】
リフレクタ6Cの金属板15をカバー部材8として使用しているのは、カバー部材8を高温状態に維持して、付着した蒸着材料Mを固形化させないためである。従って、蒸着材料Mが固形化しない最低限の温度をカバー部材8に持たせていればよく、それ以上の温度を与える必要はない。逆に不要に高い温度をカバー部材8に持たせると、外部空間に余分な熱を与えることになる。リフレクタ6Cは最内層から最外層に向けて段階的に温度が低下していくため、蒸着材料Mが固形化しない温度を持たせるような層に位置する金属板15を用いるようにする。これにより、蒸着材料Mの析出を防止しつつ、外部空間に不要な温度上昇を与えないようにすることができる。
【0057】
蒸着材料Mが析出して固形化する温度は蒸着材料Mの種類によって異なる。そこで、坩堝5に充填した蒸着材料Mの種類によって、固形化しない最低限の温度の熱量をカバー部材8に供給可能な金属板15を複数の金属板15から選択することができる。これにより、蒸着材料Mに応じた最適な金属板15を選択することができる。
【0058】
また、ノズル12は蒸着材料Mが固形化しない温度を持つ金属板15の位置までの長さで構成することができる。不要な放熱を回避するためにノズル12の長さは短く構成することが望ましいが、噴射する蒸着材料に指向性を与えるために、ある程度の長さを持たせるようにする。蒸着材料Mが固形化しない温度状況下であればノズル12を長く構成することが許容される。これにより、ノズル12から噴射する蒸着材料Mに十分な指向性を与えることができ、且つノズル12に詰まりを生じないようにすることができる。
【0059】
前述してきたカバー部材8はリフレクタ6を構成する金属板15のうち1枚を利用していたが、図6に示すように、リフレクタ6とは異なる金属板21を用意して、当該金属板21をリフレクタ6の金属板15のうち任意の金属板15と溶接により一体化してもよい。これにより、一体化した金属板21にはリフレクタ6の金属板15から熱が伝達されて高温状態にすることができる。
【0060】
また、図7のように、カバー部材8を漏斗状に構成することもできる。漏斗状の先端部分(開口面積が変化しない部分)8Aにノズル12を挿入するように構成し、先端部分8Aとノズル12との間は非接触を維持しつつ、且つ近接させるようにする。これにより、リフレクタ6Cとノズル12との間が極めて近接するようになる。この構成により、リフレクタ開口部6Eの開口面積を狭くすることができ、輻射熱の影響を最小限にすることができる。且つ、ノズル12に沿うようにしてカバー部材8(の開口面積が変化しない部分)を設けていることで、リフレクタ6Cとの間を閉塞することができる。
【0061】
このとき、漏斗状のカバー部材8の先端部分8Aからテーパ面8Tの部分に移行する部位にノズル先端面13が位置するようにことが望ましい。これにより、リフレクタ開口部6Eの開口面積を最小限にすることができ、且つリフレクタ6Cとの間を閉塞することができる。
【0062】
図1の例では、蒸発源1から側方(水平面方向)に向けて蒸着材料Mを噴射していたが、図8に示すようにノズル12を上方に向けるようにして蒸発源1を構成してもよい。このときには、基板2および蒸着マスク3は蒸発源1の上方に配置しておき、蒸発源1から上方(垂直方向)に向けて蒸着材料Mを噴射するようにする。
【0063】
図9は蒸発源1を備える真空蒸着装置30の一例を示している。真空蒸着装置30は所定のチャンバ(真空蒸着チャンバ)を構成しており、内部空間は真空ポンプ31(図中でVP)が真空引きすることにより真空状態となっている。基板2および蒸着マスク3は垂直方向に立てた状態で搬送されており、真空蒸着装置30の所定位置で停止される。蒸発源1は移動テーブル32に固定されて搭載されており、真空蒸着装置30の壁面に設けたレール33に沿って移動テーブル32が移動する。駆動手段としてはボールネジ34を設けており、レール33を垂直方向(Z方向)に延在させることで、移動テーブル32は垂直方向に移動する。従って、移動テーブル32に搭載されている蒸発源1も垂直方向に移動する。
【0064】
基板2は広範な面積を有しており、蒸発源1が固定された移動テーブル32を移動させて蒸着を行っていく。この例では、蒸発源1を移動可能にしているが、基板2を移動させてもよい。蒸発源1には噴射した蒸着材料Mの膜厚を測定するためのレートセンサ35を設けており、蒸着状況を監視している。
【0065】
図10は複数の真空蒸着装置30により構成されるシステム40の一例を示している。このシステム40では、基板移動装置41〜43と中継チャンバ44〜47と真空蒸着チャンバ(真空蒸着装置)48〜59とを有して構成されている。各真空蒸着チャンバ48〜59はそれぞれ異なる蒸着材料Mを基板2に蒸着させている。例えば、注入層であれば正孔注入層や電子注入層、輸送層であれば正孔輸送層や電子輸送層、発光層であればR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の3色の発光層、或いは電極層であれば陽極層と陰極層といったように、それぞれ異なる蒸着材料Mを蒸着する。
【0066】
図10の例では、3つの真空蒸着チャンバ48〜51と52〜55と56〜59との4つが1つのステージを構成しており、合計3段のステージ構成となっている。基板移動装置41は1段目のステージの各チャンバ、42は2段目のステージの各チャンバ、43は3段目のステージの各チャンバに基板を移動させる。中継チャンバ44〜47は次の段のステージに基板を移行させるための中継地点として設けている。
【0067】
有機ELディスプレイの場合には、基板2に複数の有機薄膜層を積層して構成するため、図10のようなシステム40を構築することで、基板2に有機薄膜層を順次積層させていくことができるようになる。
【符号の説明】
【0068】
1 蒸発源 2 基板
3 蒸着マスク 5 坩堝
6 リフレクタ 6E リフレクタ開口部
7 ハウジング 7E ハウジング開口部
8 カバー部材 11 ヒータ
12 ノズル 13 ノズル先端面
15 金属板 16 ノズル露出孔
30 真空蒸着装置 40 システム
M 蒸着材料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を加熱して蒸発させる蒸発手段に設けられ、蒸発した前記蒸着材料を被蒸着体に向けて噴射する噴射部と、
並列に配置した複数の金属板を有し、当該金属板のうち最も前記被蒸着体に近い金属板を前記噴射部の先端面よりも前記被蒸着体に近い位置に設けた遮熱手段と、
前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうちの一部と一体的に構成され、前記噴射部と前記遮熱手段との間を閉塞する防着手段と、
を備えたことを特徴とする蒸発源。
【請求項2】
前記防着手段は、前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうち1枚の金属板を用いて構成したこと
を特徴とする請求項1記載の蒸発源。
【請求項3】
前記防着手段は、前記蒸発手段側の開口面積が最も狭く、前記被蒸着体側に向けて徐々に開口面積が広くなるような凹状に構成したこと
を特徴とする請求項2記載の蒸発源。
【請求項4】
前記噴射部の先端面を前記防着手段の最も基端側の部位よりも突出させたこと
を特徴とする請求項3記載の蒸発源。
【請求項5】
前記遮熱手段を収容するハウジング手段の前記被蒸着体に対向する面よりも前記防着手段の最も先端側の部位を突出させたこと
を特徴とする請求項3記載の蒸発源。
【請求項6】
前記防着手段を構成する金属板は、前記遮熱手段を構成する金属板のうち前記蒸着物質が固形化しない温度であり、且つそのうち最も低い温度を持つ金属板を用いて構成したこと
を特徴とする請求項2記載の蒸発源。
【請求項7】
前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうち前記蒸着材料が固形化しない温度を持つ金属板の位置に前記噴射部の先端面を位置させたこと
を特徴とする請求項2記載の蒸発源。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の蒸発源を配置した蒸着装置。
【請求項1】
蒸着材料を加熱して蒸発させる蒸発手段に設けられ、蒸発した前記蒸着材料を被蒸着体に向けて噴射する噴射部と、
並列に配置した複数の金属板を有し、当該金属板のうち最も前記被蒸着体に近い金属板を前記噴射部の先端面よりも前記被蒸着体に近い位置に設けた遮熱手段と、
前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうちの一部と一体的に構成され、前記噴射部と前記遮熱手段との間を閉塞する防着手段と、
を備えたことを特徴とする蒸発源。
【請求項2】
前記防着手段は、前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうち1枚の金属板を用いて構成したこと
を特徴とする請求項1記載の蒸発源。
【請求項3】
前記防着手段は、前記蒸発手段側の開口面積が最も狭く、前記被蒸着体側に向けて徐々に開口面積が広くなるような凹状に構成したこと
を特徴とする請求項2記載の蒸発源。
【請求項4】
前記噴射部の先端面を前記防着手段の最も基端側の部位よりも突出させたこと
を特徴とする請求項3記載の蒸発源。
【請求項5】
前記遮熱手段を収容するハウジング手段の前記被蒸着体に対向する面よりも前記防着手段の最も先端側の部位を突出させたこと
を特徴とする請求項3記載の蒸発源。
【請求項6】
前記防着手段を構成する金属板は、前記遮熱手段を構成する金属板のうち前記蒸着物質が固形化しない温度であり、且つそのうち最も低い温度を持つ金属板を用いて構成したこと
を特徴とする請求項2記載の蒸発源。
【請求項7】
前記遮熱手段を構成する複数の金属板のうち前記蒸着材料が固形化しない温度を持つ金属板の位置に前記噴射部の先端面を位置させたこと
を特徴とする請求項2記載の蒸発源。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の蒸発源を配置した蒸着装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−184486(P2012−184486A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49869(P2011−49869)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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