説明

蒸発濃縮機の洗浄方法、蒸発濃縮機の洗浄装置、排水処理方法及び排水処理装置

【課題】本発明の目的は、間接加熱部の伝熱効率の低下を抑制することができる蒸発濃縮機の洗浄方法、蒸発濃縮機の洗浄装置、排水処理方法及び排水処理装置を提供することにある。
【解決手段】本発明は、少なくとも水性塗料を含む排水を加熱する間接加熱部を備え、前記排水中の低沸点成分を含む水を蒸発させ、高沸点成分を濃縮する蒸発濃縮機の洗浄方法であって、前記蒸発させた低沸点成分を含む水の少なくとも一部を回収し、該低沸点成分を含む水で前記間接加熱部を洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも水性塗料を含む排水の排水処理方法及び排水処理装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、揮発性有機化合物(VOC)削減の観点から、揮発性有機溶剤を溶媒とする溶剤塗料から水を溶媒とする水性塗料へ切り替える動きが広がりつつある。水性塗料は一般に、水、樹脂(塗膜主成分であり、塗膜となる)、有機溶剤(樹脂を溶解、分散させるもの)、顔料(色づけするもの)、界面活性剤、消泡剤、凍結防止剤、タレ止剤、防錆剤等で構成される。上記有機溶剤は、一般に、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテルアルコール類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類等で構成される。このうち、一般に、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテルアルコール類は親水性であり、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類は疎水性である。
【0003】
塗料を使った塗装工程では、様々な塗料がスプレー塗装等により被塗装物に塗装される。しかし、被塗装物に噴霧された水性塗料の塗装効率は必ずしも完全ではない。例えば、自動車の車体への塗装効率は60%程度であるため、残りの40%は有効に使用されていない。したがって、塗装ブース等で塗装されなかった過剰の塗料を捕集するため、通常は水洗水で捕集、除去される。そして、水洗水は循環使用される。
【0004】
水性塗料はその性質から水との分離が容易ではないため、循環使用される水洗水に溶解した状態で蓄積されて、以下の問題が生じていた。
(a)発泡による水槽からの排水越流、環境悪化
(b)BOD(Biochemical Oxygen Demand:生物化学的酸素要求量)成分が腐敗し、腐敗臭が発生
(c)塗料成分の水槽、配管等への付着、沈降
(d)高濃度COD(Chemical Oxygen Demand:化学的酸素要求量)、高濃度BODのため放流処理が困難
【0005】
これらの問題を解決するため、従来、薬品処理や、蒸発乾固による処理が行われている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−672号公報
【特許文献2】特開2009−220047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本発明者らは、水性塗料を含む排水の処理方法として、排水を加熱することにより、排水の低沸点成分を蒸発させ、高沸点成分を濃縮して、それぞれを分離する方法を検討した。そして、この処理方法において、蒸発した低沸点成分を含む水を回収して、再度排水の処理に使用することにより、配管等への塗料成分の付着・沈降や発泡、腐敗等を防止することができることを見出した。しかし、排水処理を継続的に行うと、排水を加熱するための間接加熱部に塗料スケールが付着して、間接加熱部の伝熱効率が低下するため、蒸発濃縮の際における排水の加熱を十分に行うことができない虞がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、間接加熱部の伝熱効率の低下を抑制することができる蒸発濃縮機の洗浄方法、蒸発濃縮機の洗浄装置、排水処理方法及び排水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも水性塗料を含む排水を加熱する間接加熱部を備え、前記排水中の低沸点成分を含む水を蒸発させ、高沸点成分を濃縮する蒸発濃縮機の洗浄方法であって、前記蒸発させた低沸点成分を含む水の少なくとも一部を回収し、該低沸点成分を含む水で前記間接加熱部を洗浄する。
【0010】
また、前記蒸発濃縮機の洗浄方法において、前記回収した低沸点成分を含む水に、塗料スケールを溶解する有機溶剤を添加することが好ましい。
【0011】
また、前記蒸発濃縮機の洗浄方法において、前記間接加熱部を洗浄する際の前記低沸点成分を含む水の温度を60〜100℃の範囲とすることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、少なくとも水性塗料を含む排水の排水処理方法であって、前記排水を加熱する間接加熱部を備える蒸発濃縮機により、前記排水中の低沸点成分を含む水を蒸発させ、高沸点成分を濃縮する蒸発濃縮工程と、前記蒸発させた低沸点成分を含む水の少なくとも一部を回収し、前記蒸発濃縮工程後に、該低沸点成分を含む水で前記間接加熱部を洗浄する洗浄工程と、を備える。
【0013】
また、本発明は、少なくとも水性塗料を含む排水を加熱する間接加熱部を備え、前記排水中の低沸点成分を含む水を蒸発させ、高沸点成分を濃縮する蒸発濃縮機の洗浄装置であって、前記蒸発させた低沸点成分を含む水の少なくとも一部を回収し、該低沸点成分を含む水を前記間接加熱部に供給し、前記間接加熱部を洗浄する洗浄手段を備える。
【0014】
また、前記蒸発濃縮機の洗浄装置において、前記回収した低沸点成分を含む水に、塗料スケールを溶解する有機溶剤を添加する添加手段を備えることが好ましい。
【0015】
また、前記蒸発濃縮機の洗浄装置において、前記間接加熱部を洗浄する際の前記低沸点成分を含む水の温度を60〜100℃の範囲とする補助熱源を備えることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、少なくとも水性塗料を含む排水の排水処理装置であって、前記排水を加熱する間接加熱部を備え、前記排水中の低沸点成分を含む水を蒸発させ、高沸点成分を濃縮する蒸発濃縮手段と、前記蒸発させた低沸点成分を含む水の少なくとも一部を回収し、該低沸点成分を含む水を前記間接加熱部に供給し、前記間接加熱部を洗浄する洗浄手段と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、蒸発濃縮機に設置される間接加熱部に付着した塗料スケールを洗い流すことができ、低下した間接加熱部の伝熱効率を回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る排水処理装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る排水処理装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る排水処理装置の構成の一例を示す模式図である。図1に示す排水処理装置1は、水性塗料排水槽10、蒸発濃縮機12(加熱分離手段)、濃縮水槽14、圧縮機16及び蒸発水供給ライン32(熱回収利用手段)、熱交換器18、洗浄水槽19、排水ポンプ20、濃縮水ポンプ22、真空ポンプ24、排水流入ライン26、濃縮水循環ライン28、濃縮水排出ライン30、蒸発水返送ライン34(返送手段)、洗浄水導入ライン35、排気ライン36、補助蒸気ライン37、有機溶剤添加ライン39を備える。
【0021】
本実施形態で用いられる蒸発濃縮機12は、排水中の低沸点成分を含む水を間接的な加熱により蒸発させ、高沸点成分を濃縮することができる構造を有していれば、特に制限されるものではないが、蒸発が行われる場である蒸発部と、熱源と被加熱体との間で、伝熱板や伝熱管等の伝熱体を介して間接的に熱交換が行われる間接加熱部とを少なくとも備える。図1に示す蒸発濃縮機12は、蒸発缶12a(蒸発部)、間接加熱部38、補助蒸気ライン37、補助蒸気供給源を備えている。蒸発濃縮機12の蒸発缶12a内に設置される間接加熱部38は、例えば、特開2004−237136号公報、特開2008−188514号公報記載のように、多数本の伝熱管から構成され、その各伝熱管が水平横向きとなるように設けられている。そして、各伝熱管の一端には入口ヘッダーが、他端には出口ヘッダーが各々設けられており、加熱蒸気が伝熱管の内側を通ることで伝熱管外側の被加熱液が加熱される。また、本実施形態の蒸発濃縮機12は、必ずしも上記に制限されるものではなく、例えば、特開2009−090228号公報記載のように、蒸発缶と、該蒸発缶の外部に設置された熱交換器である間接加熱部を備えるものであってもよい。この熱交換器は、蒸気導入口と、凝縮水出口と、水平横向きの多数本の伝熱管を有する。そして、伝熱管の内部を被加熱液が通過する間に、蒸気導入口から導入された蒸気が伝熱管の外部から被加熱液を加熱する。また、特開平5−84401号公報記載のように、間接加熱部が上記伝熱管の代わりに、中空プレート状のヒーティングエレメント等により構成される中空構造であってもよい。このような中空構造の間接加熱部は中空構造の内側と外側で熱交換が可能である限り、その形状は特に制限されるものではない。
【0022】
ここで、本実施形態における低沸点成分とは、蒸発させる圧力と温度条件下において、水と共に蒸発した成分であり、高沸点成分とは、蒸発させる圧力と温度条件下において、水と共に蒸発しなかった成分である。例えば、大気圧中での沸点が171〜172℃の水性塗料溶剤であるエチレングリコールモノブチルエーテル(通称ブチルセロソルブ)は、90℃、0.07MPa条件で水と共に蒸発するため低沸点成分である。
【0023】
水性塗料排水槽10には、少なくとも水性塗料を含む排水が貯留される。この水性塗料排水槽10には、排水流入ライン26の一端が接続され、他端は排水ポンプ20及び熱交換器18を介して、蒸発缶12aに接続されている。蒸発缶12aの下方には、濃縮水循環ライン28の一端が接続され、他端は濃縮水ポンプ22を介して蒸発缶12aの上方に接続されている。また、濃縮水循環ライン28には、濃縮水排出ライン30の一端が接続され、他端は濃縮水槽14に接続されている。また、蒸発缶12aの上方には、蒸発水供給ライン32の一端が接続され、他端は、圧縮機16を介して間接加熱部38(入口側:例えば入口ヘッダー)に接続されている。また、蒸発水返送ライン34の一端は間接加熱部38(出口側:例えば出口ヘッダー)に接続され、他端は、熱交換器18を介して洗浄水槽19または水性塗料排水槽10に接続される。また、洗浄水槽19には有機溶剤添加ライン39が接続されている。また、洗浄水導入ライン35の一端は、洗浄水槽19に接続され、他端は排水流入ライン26に接続される。また、排気ライン36の一端は、熱交換器18と蒸発缶12a間の蒸発水返送ライン34に接続され、他端は真空ポンプ24を介して大気に開放されている。また、補助蒸気ライン37の一端は、蒸発水供給ライン32に接続され、他端は補助蒸気供給源(不図示)に接続される。
【0024】
次に、本実施形態に係る排水処理装置1の動作について説明する。
【0025】
水性塗料を含む排水は、水性塗料排水槽10に貯留される。水性塗料は一般に、水、樹脂(塗膜主成分であり、塗膜となる)、有機溶剤(樹脂を溶解、分散させるもの)、顔料(色づけするもの)、界面活性剤、消泡剤、凍結防止剤、タレ止剤、防錆剤等で構成される。上記有機溶剤は、一般に、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテルアルコール類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類等で構成される。水性塗料の低沸点成分としては、主に有機溶剤等が挙げられる。このうち、一般に、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテルアルコール類は親水性であり、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類は疎水性である。また、水性塗料の高沸点成分としては、主に樹脂、顔料、界面活性剤、消泡剤等が挙げられる。また、水性塗料を含む排水には、溶剤塗料、洗浄液等が含まれていてもよい。
【0026】
水性塗料排水槽10に貯留された水性塗料を含む排水(以下、単に排水と略す場合がある)は、排水ポンプ20により排水流入ライン26を通り、熱交換器18に導入される。そして、熱交換器18により、排水は、蒸発缶12aから排出される蒸気(低沸点成分を含む蒸発した水分)と熱交換される。ここで、蒸発した水分の方が排水より高温であるため、排水は予熱されることとなる。予熱された排水は、排水流入ライン26を通り蒸発缶12aに供給される。本実施形態のように、蒸発濃縮機12の蒸発缶12aに導入される排水を予め加熱させることができる点で、蒸発濃縮機12の蒸発缶12aに導入される前の排水と蒸発水返送ライン34により排水に返送される前の蒸発した水とを熱交換させる熱交換器18を設置することが好ましい。
【0027】
蒸発濃縮機12の蒸発缶12aに供給された排水は、蒸発濃縮機12の蒸発缶12a内に設置された間接加熱部38からの熱によって間接的に加熱される。運転初期では、補助蒸気供給源で発生した蒸気が補助蒸気ライン37から間接加熱部38(例えば、各伝熱管内側)に供給されることにより、間接加熱部38が加熱され、加熱された間接加熱部38からの熱により排水が間接的に加熱される。ここで、蒸発缶12aの内部は、真空ポンプ24により減圧されているため、排水中の水及び低沸点成分(以下、低沸点成分を含む水と記載する場合がある)は、飽和蒸気圧に等しい比較的低い温度で蒸発する。一方、排水中の高沸点成分は濃縮されていき、底部に高沸点成分を含む濃縮水として貯留される。また、高沸点成分を含む濃縮水は濃縮水ポンプ22により、蒸発缶12aから排出され、濃縮水循環ライン28を通り、蒸発缶12aの上部から蒸発缶12a内の間接加熱部38(例えば各伝熱管の外側面)に散布される。これにより、散布された排水(濃縮水も含む)は間接加熱部38内部の蒸気によって高温となるため、間接加熱部38の表面で排水中の低沸点成分を効果的に蒸発させることができる。
【0028】
蒸発濃縮機12により蒸発した低沸点成分を含む水(水蒸気)は、蒸発水供給ライン32を通り圧縮機16に供給される。圧縮機16及び蒸発水供給ライン32は、蒸発した水の熱エネルギーを、蒸発缶12a内に設置された間接加熱部38(例えば各伝熱管内側)に供給する熱回収利用手段として機能するものである。具体的には、蒸発した低沸点成分を含む水(水蒸気)は、圧縮機16により圧縮・昇温され、蒸発水供給ライン32を通り、間接加熱部38(例えば、各伝熱管)に供給されることにより、間接加熱部38が加熱され、加熱された間接加熱部38からの熱により蒸発缶12aの底部に貯留する排水が間接的に加熱される。なお、圧縮機16により圧縮・昇温された蒸発水により、排水を十分に加熱することができれば、補助蒸気の供給を停止してもよい。
【0029】
このように、蒸発した水の熱エネルギーを回収利用することで、エネルギーを有効活用することができ、排水処理に必要なエネルギーの効率化を図ることができる。本実施形態では、蒸発した水の熱エネルギーの少なくとも一部を、蒸発缶12a内に設置された間接加熱部38に供給する機能を有するものであれば、必ずしも圧縮機16及び蒸発水供給ライン32の構成に限定されるものではなく、例えば、圧縮機16に代えてエゼクター等を用いてもよい。また、本実施形態で用いる圧縮機16も上記機能を有するものであれば、その構成は特に制限されるものではない。
【0030】
なお、熱回収利用手段は、エネルギーを有効活用して、排水の加熱を行うためのシステムであるため、必ずしも設置する必要はない。熱回収利用手段を設置しない場合は、蒸発した水(水蒸気から液体に戻す)を直接熱交換器18に供給すればよい。
【0031】
次に、間接加熱部38を通過した低沸点成分を含む水(気体から液体)は、蒸発水返送ライン34から、熱交換器18に導入される。そして、熱交換器18により、低沸点成分を含む水(液体)は、水性塗料を含む排水と熱交換される。ここで、水性塗料を含む排水の方が、低沸点成分を含む水より低温であるため、低沸点成分を含む水は冷却されることとなる。冷却された低沸点成分を含む水は、蒸発水返送ライン34を通り、洗浄水槽19を介して水性塗料排水槽10に返送される。水性塗料排水槽10に返送される低沸点成分の中には、生物処理阻害性を含むものがあり、水性塗料を溶解する成分が含まれているため、上記のように、排水に低沸点成分を返送(供給)することにより、腐敗による悪臭や、水性塗料排水槽10の壁面及び各ライン等への塗料付着等を抑制することができる。本実施形態では、蒸発した水を回収して排水に返送する返送手段として、蒸発水返送ライン34のみの構成を例としたが、これに制限されるものではなく、例えば、ポンプ等を蒸発水返送ライン34に設置した構成等としてもよい。また、本実施形態では、蒸発水返送ライン34は、水性塗料排水槽10に接続された構成を例としているが、排水流入ライン26に接続した構成等であってもよい。
【0032】
また、濃縮水循環ライン28を通る高沸点成分を含む濃縮水の一部は、濃縮水排出ライン30を通り、濃縮水槽14に貯留される。濃縮水槽14に貯留された濃縮水(高沸点成分を含む)は、装置を無排水システムとすることができる点で、乾燥機等の蒸発乾固装置により蒸発乾固されることが好ましい。
【0033】
このように、蒸発した低沸点成分を含む水を回収して、再度排水の処理に使用することによって、処理に必要なエネルギーの効率化、配管等への塗料成分の付着・沈降や発泡による水槽からの排水越流、環境悪化の防止、さらに、薬品使用による水中の塩濃度の増加を抑制でき、かつ低コストな処理をすることができる。
【0034】
本実施形態では、蒸発缶12aの内部を真空ポンプ24により減圧させているが、蒸発缶12aは、排水を加熱して低沸点成分を含む水を蒸発させることができればよいため、必ずしも蒸発缶12aの内部を真空ポンプ24により減圧しておく必要はない。さらに、本実施形態では、低沸点成分を効率的に蒸発させる点で、濃縮水を濃縮水ポンプ22により循環させることが好ましいが、必ずしも濃縮水を循環させる必要はない。
【0035】
蒸発缶12a内部における排水の加熱温度は、排水中の低沸点成分、高沸点成分等の種類によって適宜設定されるものであるが、排水の加熱時に起こる発泡を抑制する点で、60〜100℃の範囲が好ましく、80〜95℃の範囲がより好ましい。
【0036】
本実施形態において、排水処理装置1の初期運転時や圧縮機16の能力が低い場合等では、圧縮機16による熱の回収利用が十分に行われず、排水の加熱が不十分となって、低沸点成分と高沸点成分との分離が効率的に行われない場合がある。そのため、排水処理装置1の初期運転時や圧縮機16の能力が低い場合等では、補助蒸気供給源で発生した補助蒸気を補助蒸気ライン37から蒸発缶12a内の間接加熱部38に供給し、排水の加熱に利用することが好ましい。例えば、小型ボイラー等を補助蒸気供給源として、小型ボイラーで発生した補助蒸気を利用してもよいし、工場内において、廃蒸気が余っている場合等は、その廃蒸気を発生する設備を補助蒸気供給源として、その設備で発生した蒸気を利用してもよい。
【0037】
以上が本実施形態における排水中の低沸点成分と高沸点成分とを分離する処理であるが、このような処理を継続していくと、蒸発缶12a内の間接加熱部38に塗料スケールが付着するため、間接加熱部38の伝熱効率が低下し、排水の加熱を十分に行うことができない。その結果、低沸点成分と高沸点成分とを分離する処理効率が低下してしまう。そこで、間接加熱部38に付着した塗料スケールを洗浄する必要がある。以下にその洗浄方法(洗浄工程)について説明する。
【0038】
まず、濃縮水ポンプ22により濃縮水を全て濃縮水排出ライン30から排出する。次に、バルブ26aを閉状態にし、水性塗料を含む排水が水性塗料排水槽10から排水流入ライン26に流出しない状態にして、バルブ35aを開状態にし、洗浄水槽19内に貯留した低沸点成分を含む水を、排水ポンプ20により、洗浄水導入ライン35から排水流入ライン26を経由させ、蒸発缶12aに導入させる。そして、蒸発缶12aに導入された低沸点成分を含む水を濃縮水ポンプ22により、濃縮水循環ライン28に送液し、蒸発缶12aの上部から蒸発缶12a内の間接加熱部38に供給する。これを繰り返し行い、低沸点成分を含む水で間接加熱部38を洗浄する。上記でも説明したように、低沸点成分を含む水には、水性塗料を溶解する成分が含まれているため、低沸点成分を含む水で間接加熱部38を洗浄することにより、間接加熱部38に付着した塗料スケールを溶解させることができる。このように、所定時間洗浄後、洗浄排水は濃縮水排出ライン30、濃縮水槽14を介して、排水処理装置1の系外へ排出される。
【0039】
本実施形態において、低沸点成分を含む水で間接加熱部38を洗浄するための蒸発濃縮機洗浄装置は、蒸発水返送ライン34、洗浄水槽19、洗浄水導入ライン35、排水流入ライン26、排水ポンプ20、濃縮水ポンプ22、濃縮水循環ライン28により構成されている。しかし、本実施形態の蒸発濃縮機洗浄装置は、蒸発させた低沸点成分を含む水を回収し、その低沸点成分を含む水を間接加熱部38に供給し、間接加熱部38を洗浄することができる構成であれば、上記構成に制限されるものではない。例えば、上記蒸発濃縮機洗浄装置の構成のうち、排水流入ライン26、排水ポンプ20、濃縮水ポンプ22、濃縮水循環ライン28は、本来排水の蒸発濃縮処理の際に使用されるものであるため、蒸発濃縮機洗浄装置の他の一例としては、洗浄水槽19内の低沸点成分を含む水を蒸発缶12aに供給するためのライン及びポンプ(排水流入ライン26及び排水ポンプ20に相当するもの)、蒸発缶12aに供給された低沸点成分を含む水を循環洗浄するためのライン及びポンプ(濃縮水ポンプ22及び濃縮水循環ライン28に相当するもの)を別途備えるものであってもよい。なお、循環洗浄するためのライン及びポンプ(濃縮水ポンプ22及び濃縮水循環ライン28に相当するもの等)の設置は、塗料スケールを効果的に洗い流す点で好ましいが、必ずしも必要ではない。また、蒸発濃縮機洗浄装置の他の一例としては、高圧噴射ノズルを間接加熱部38に噴射可能な位置で蒸発缶12aに設置し、その高圧噴射ノズルを介して、排水流入ライン26又は濃縮水循環ライン28から蒸発缶12aに供給される低沸点成分を含む水を間接加熱部38に吹き付けるような構成であってもよい。
【0040】
また、本実施形態では、有機溶剤添加ライン39(添加手段)から、塗料スケールを溶解する有機溶剤を洗浄水槽19内に追加添加することが好ましい。これは、間接加熱部38に塗料スケールが強固に付着しており、洗浄水槽19内の低沸点成分濃度が十分でなかった場合に適用される。水性塗料の低沸点成分に含まれる有機溶剤は、塗料スケールを溶解することができるものであるため、洗浄水槽19内において、塗料スケールを溶解することができる成分の濃度を高めることができるからである。塗料スケールを溶解する有機溶剤は、例えば、極性の強い溶剤が好ましい。具体例として、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、ブチルセロソロブ等を挙げることができる。また、N−メチルピロリドン等のプロトン系溶剤でもよい。
【0041】
また、本実施形態では、間接加熱部38に付着した塗料スケールの洗浄効果を高める点で、間接加熱部38を洗浄する際の低沸点成分を含む水の温度を60℃〜100℃の範囲とすることが好ましい。具体的には、例えば、小型ボイラーによる補助蒸気(補助熱源)や工場内の廃蒸気(補助熱源)を補助蒸気ライン37から蒸発缶12a内に供給して、低沸点成分を含む水又は蒸発缶12a内を加熱することにより行う。また、例えば、後述するように、洗浄水槽19を蒸発缶12aに接続する蒸発水返送ライン34を介して設置することにより、間接加熱部38を洗浄する際の低沸点成分を含む水は、蒸発缶12aにより蒸発した際の余熱を利用することができるため、必ずしも上記補助熱源を必要としない。
【0042】
以上のように、低沸点成分を含む水で間接加熱部38を洗浄することにより、間接加熱部38に付着した塗料スケールを洗い流すことができるため、間接加熱部38の伝熱効率の低下を抑制することができ、その後の排水の加熱による低沸点成分と高沸点成分の分離を効率的に行うことが可能となる。
【0043】
図2は、本発明の他の実施形態に係る排水処理装置の構成の一例を示す模式図である。図2に示す排水処理装置2において、図1に示す排水処理装置1の構成と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。図2に示す排水処理装置2は、蒸発水排出ライン40を備えている。
【0044】
図2に示す排水処理装置2では、洗浄水槽19は蒸発水返送ライン34により蒸発缶12aと接続されるとともに、洗浄水導入ライン35、排水流入ライン26および熱交換器18を介して再び蒸発缶12aに接続されるように設置されている。これにより、間接加熱部38を洗浄する際の低沸点成分を含む水は、蒸発缶12aにより蒸発した際の余熱を利用することができる。その結果、間接加熱部38を洗浄する際の低沸点成分を含む水の温度を60℃〜100℃の範囲に設定する際には、必ずしも上記補助熱源を必要としない。
【0045】
また、図2に示す排水処理装置2では、蒸発水排出ライン40の一端が、蒸発水返送ライン34に接続され、他端が濃縮水排出ライン30に接続されている。本実施形態では、より安定した無排水システムとするために、蒸発水の一部を蒸発水排出ライン40から濃縮水排出ライン30を通して、濃縮水槽14に貯留させ、その後、濃縮水と共に蒸発乾固させることが好ましい。なお、本実施形態では、蒸発水の一部を蒸発乾固させることができればよいため、例えば、蒸発水排出ライン40を直接脱水機、乾燥機等の蒸発乾固装置に接続させても良いし、濃縮水槽14に接続して、濃縮水と共に蒸発乾固装置により蒸発乾固させてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例では、図1に示す排水処理装置を用い、排水の蒸発濃縮を1週間行い、その後、蒸発した低沸点成分を含む水で間接加熱部を1時間洗浄した。洗浄時の低沸点成分を含む水を70℃に加熱し、蒸発缶内の圧力を大気圧とした。また、排水の蒸発濃縮における試験条件を表1にまとめた。
【0048】
【表1】

【0049】
比較例1では、排水の蒸発濃縮を1週間行い、その後、70℃の水(水道水)で間接加熱部を1時間洗浄した。
【0050】
比較例2では、排水の蒸発濃縮を1週間行い、その後、70℃の水酸化ナトリウム20%水溶液で間接加熱部を1時間洗浄した。
【0051】
比較例3では、排水の蒸発濃縮を1週間行い、その後、70℃の家庭用洗剤20%溶解液で間接加熱部を1時間洗浄した。
【0052】
比較例4では、排水の蒸発濃縮を1週間行い、その後、70℃の硫酸20%水溶液で間接加熱部を1時間洗浄した。
【0053】
まず、塗料スケール付着前の間接加熱部の総括伝熱係数は3000kcal/m/℃/hであった。そして、排水の蒸発濃縮1週間後、塗料スケール付着後の間接加熱部の総括伝熱係数は2000kcal/m/℃/hであった。そして、水、水酸化ナトリウム、家庭用洗剤、硫酸で間接加熱部を洗浄した比較例1〜4では、洗浄後の間接加熱部の総括伝熱係数がそれぞれ2000kcal/m/℃/h、2200kcal/m/℃/h、2000kcal/m/℃/h、2200kcal/m/℃/hであり、いずれも塗料スケール付着前の間接加熱部の総括伝熱係数まで回復させることができなかった。これに対し、低沸点成分を含む水で間接加熱部を洗浄した実施例では、洗浄後の間接加熱部の総括伝熱係数が3040kcal/m/℃/hに達し、塗料スケール付着前の間接加熱部の総括伝熱係数まで回復させることができた。
【0054】
なお、実施例及び各比較例の総括伝熱係数を濃縮水温度、間接加熱部温度、蒸発量、伝熱面積から、下式により算出した。
h=q/AΔT
h:総括伝熱係数
q:熱量
A:伝熱面積
ΔT:加熱部温度差(間接加熱部温度−濃縮水温度)
【符号の説明】
【0055】
1,2 排水処理装置、10 水性塗料排水槽、12 蒸発濃縮機、12a 蒸発缶、14 濃縮水槽、16 圧縮機、18 熱交換器、19 洗浄水槽、20 排水ポンプ、22 濃縮水ポンプ、24 真空ポンプ、26 排水流入ライン、28 濃縮水循環ライン、30 濃縮水排出ライン、32 蒸発水供給ライン、34 蒸発水返送ライン、35 洗浄水導入ライン、36 排気ライン、37 補助蒸気ライン、38 間接加熱部、39 有機溶剤添加ライン、40 蒸発水排出ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水性塗料を含む排水を加熱する間接加熱部を備え、前記排水中の低沸点成分を含む水を蒸発させ、高沸点成分を濃縮する蒸発濃縮機の洗浄方法であって、
前記蒸発させた低沸点成分を含む水の少なくとも一部を回収し、該低沸点成分を含む水で前記間接加熱部を洗浄することを特徴とする蒸発濃縮機の洗浄方法。
【請求項2】
前記回収した低沸点成分を含む水に、塗料スケールを溶解する有機溶剤を追加添加することを特徴とする請求項1記載の蒸発濃縮機の洗浄方法。
【請求項3】
前記間接加熱部を洗浄する際の前記低沸点成分を含む水の温度を60〜100℃の範囲とすることを特徴とする請求項1又は2記載の蒸発濃縮機の洗浄方法。
【請求項4】
少なくとも水性塗料を含む排水の排水処理方法であって、
前記排水を加熱する間接加熱部を備える蒸発濃縮機により、前記排水中の低沸点成分を含む水を蒸発させ、高沸点成分を濃縮する蒸発濃縮工程と、
前記蒸発させた低沸点成分を含む水の少なくとも一部を回収し、前記蒸発濃縮工程後に、該低沸点成分を含む水で前記間接加熱部を洗浄する洗浄工程と、を備えることを特徴とする排水処理方法。
【請求項5】
少なくとも水性塗料を含む排水を加熱する間接加熱部を備え、前記排水中の低沸点成分を含む水を蒸発させ、高沸点成分を濃縮する蒸発濃縮機の洗浄装置であって、
前記蒸発させた低沸点成分を含む水の少なくとも一部を回収し、該低沸点成分を含む水を前記間接加熱部に供給し、前記間接加熱部を洗浄する洗浄手段を備えることを特徴とする蒸発濃縮機の洗浄装置。
【請求項6】
前記回収した低沸点成分を含む水に、塗料スケールを溶解する有機溶剤を添加する添加手段を備えることを特徴とする請求項5記載の蒸発濃縮機の洗浄装置。
【請求項7】
前記間接加熱部を洗浄する際の前記低沸点成分を含む水の温度を60〜100℃の範囲とする補助熱源を備えることを特徴とする請求項5又は6記載の蒸発濃縮機の洗浄装置。
【請求項8】
少なくとも水性塗料を含む排水の排水処理装置であって、
前記排水を加熱する間接加熱部を備え、前記排水中の低沸点成分を含む水を蒸発させ、高沸点成分を濃縮する蒸発濃縮手段と、
前記蒸発させた低沸点成分を含む水の少なくとも一部を回収し、該低沸点成分を含む水を前記間接加熱部に供給し、前記間接加熱部を洗浄する洗浄手段と、を備えることを特徴とする排水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−40469(P2012−40469A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181580(P2010−181580)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】