説明

蒸発燃料処理装置

【課題】空気成分と燃料成分とに分離する分離手段を用いながら、蒸発燃料の分離回収効率が高いと共に、キャニスタを効率よく脱離再生できる蒸発燃料処理装置を提供する。
【解決手段】燃料タンク1と、蒸発燃料を吸着するキャニスタ3と、該キャニスタ3へ負圧を印加して蒸発燃料を脱離するアスピレータ4と、蒸発燃料含有ガスを空気成分と燃料成分とに分離する分離膜モジュール5とを有する。アスピレータ4によってキャニスタ3内から蒸発燃料を脱離する際、燃料タンク1からの蒸発燃料含有ガスG1を導入室5bへ導入し、透過室5cへ分離された燃料成分G3を燃料タンク1へ回収しながら、キャニスタ3からのパージガスG4を透過室5cの中途部へ供給し、キャニスタ3と透過室5cとの間には調圧弁27及び濃度センサ37が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンクと、該燃料タンクで発生した蒸発燃料を吸着するキャニスタと、該キャニスタへ負圧を印加してキャニスタ内から蒸発燃料を脱離する負圧印加手段と、蒸発燃料含有ガスを空気成分と燃料成分とに分離する分離膜を備える分離手段とを有し、分離膜を介して蒸発燃料含有ガスから蒸発燃料を燃料タンクへ分離回収する蒸発燃料処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の蒸発燃料処理装置として、例えば下記特許文献1がある。特許文献1の蒸発燃料処理装置では、負圧印加手段として真空ポンプを使用しており、当該真空ポンプによってキャニスタから脱離された蒸発燃料を含む蒸発燃料含有ガス(パージガス)を、分離手段としての分離膜モジュールに導入して、分離膜を介して燃料成分(透過ガス)を燃料タンクへ分離回収している。詳しくは、真空ポンプはキャニスタと分離膜モジュールとの間に設けられており、キャニスタからのパージガスは、分離膜モジュールの導入室へ供給される。一方、分離膜を透過しなかった空気(不透過ガス)は、最終的に脱離促進用ガスとしてキャニスタへ供給される。なお、キャニスタから蒸発燃料の脱離回収中は、燃料タンクからの蒸発燃料含有ガスは処理されない構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−116872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の分離膜を備える分離膜モジュールでは、分離膜を挟んで導入室と透過室とにおける蒸発燃料の分圧差が大きいほど、分離効率(単位時間当たりの透過分離量)が高いことが知られている。したがって、導入室に蒸発燃料が存在している状態において、透過室における燃料成分濃度が低いほど、分離効率が高いことになる。しかしながら、特許文献1では真空ポンプによって分離膜モジュールの導入室へ正圧を付加しているのみであり、透過室においては積極的なガス流動が図られていない。これでは、透過室において燃料成分濃度(蒸発燃料の分圧)が恒常的に高い状態となっており、蒸発燃料の分離回収効率には限界があった。
【0005】
また、この種の分離膜モジュールでは、導入室と透過室との差圧の程度もガス透過量に影響する。したがって、導入室や透過室へ作用する圧力に応じて、不透過ガス量や透過ガス量も変動する。しかし、特許文献1では分離膜を透過しなかった不透過ガスを最終的にキャニスタへ供給しているが、真空ポンプによる圧力印加の程度は常に一定であり、分離膜モジュールへ作用する圧力の制御については特に着目していない。したがって、キャニスタに供給される不透過ガスの流量も一定である。したがって、この点においても蒸発燃料の分離効率に限界があると共に、キャニスタを効率良く脱離再生させることも不可能であった。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、蒸発燃料含有ガスを空気成分と燃料成分とに分離する分離手段を用いながら、蒸発燃料の分離回収効率が高いと共に、キャニスタを効率よく脱離再生できる蒸発燃料処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために本発明は、燃料タンクと、該燃料タンクで発生した蒸発燃料を吸着するキャニスタと、該キャニスタへ負圧を印加してキャニスタ内から蒸発燃料を脱離する負圧印加手段と、蒸発燃料含有ガスを空気成分と燃料成分とに分離する分離手段とを有し、該分離手段は、蒸発燃料含有ガスから燃料成分を優先的に透過分離させる分離膜と、該分離膜によって区分けされた導入室と透過室とを備え、蒸発燃料含有ガスを前記分離手段へ導入し、前記分離膜を介して蒸発燃料を前記燃料タンクへ回収する蒸発燃料処理装置であって、前記負圧印加手段によって前記キャニスタ内から蒸発燃料を脱離(パージ)する際、前記燃料タンクからの蒸発燃料含有ガスを前記分離手段の導入室へ導入し、前記負圧印加手段による負圧を前記分離手段の透過室を介して前記キャニスタへ印加することで、前記分離膜を介して前記透過室へ分離された燃料成分(透過ガス)を前記燃料タンクへ回収しながら、前記キャニスタからのパージガスを前記分離手段の透過室へ供給している。
【0008】
キャニスタ内から蒸発燃料を脱離しながら、燃料タンクからの蒸発燃料含有ガスも分離手段へ導入していれば、キャニスタ内に吸着されている蒸発燃料と共に、燃料タンク内で再発生した蒸発燃料も同時に処理回収できる。これにより、蒸発燃料の処理中における燃料タンクの急激な内圧上昇や、システム停止中におけるキャニスタへの負荷(蒸発燃料吸着量)等を低減できる。なお、キャニスタからのパージガスも、脱離された蒸発燃料を含む蒸発燃料含有ガスと言えるが、通常、当該パージガス中の燃料成分濃度は、燃料タンクからの蒸発燃料含有ガス中の燃料成分濃度よりも低い。したがって、キャニスタからのパージガスを分離手段の透過室へ供給すれば、透過室内がパージガスによって掃気されるので、透過室における燃料成分濃度を積極的に下げることができる。而して、分離膜による蒸発燃料の透過分離が促進され、蒸発燃料の分離回収効率が向上する。蒸発燃料の分離効率の向上により、分離手段や負圧印加手段の小型化も可能となる。パージガスは、透過分離された燃料成分と共に燃料タンクへ回収される。
【0009】
そのうえで本発明では、前記キャニスタと前記分離手段の透過室との間に、前記負圧印加手段によって前記透過室へ印加される負圧の程度を調圧する調圧手段が設けられている。これによれば、分離手段の透過室を的確に負圧化して導入室との間に有効な差圧を生じさせることができ、燃料成分の透過分離をより促進することができる。また、透過室における負圧の程度の調圧により不透過ガスの流量も調整されるので、キャニスタへの脱離促進用ガスの流量を調整することができ、キャニスタを効率良く脱離再生させることもできる。
【0010】
ここで、上述のように、透過室における燃料成分濃度が低いほど、燃料成分の分離効率も高い。したがって、パージガスを透過室へ供給する本発明においては、図4に示すように、パージガス中の燃料成分濃度が低いほど、不透過ガス中の燃料成分濃度も低くなる。しかし、パージガス中の燃料成分濃度が比較的高い水準にある場合は、不透過ガス中の燃料成分濃度をある所定の目標濃度Dsまで下げるには、図4の実線で示すように、透過室の負圧の程度を大きくしなければならない。一方、パージガス中の燃料成分濃度が比較的低ければ、図4の一点鎖線で示すように、透過室の負圧の程度は小さくてよい。また、透過室の負圧の程度が大きいほど分離膜のガス透過量は多くなり、負圧の程度が小さいほど分離膜のガス透過量は少なくなる。したがって、不透過ガス流量は、図5に示すように、透過ガス流量とは逆に透過室の負圧の程度が大きいほど少なく、負圧の程度が小さいほど多くなる。さらに、キャニスタ内に吸着されていた蒸発燃料の脱離に伴い、パージガス中の燃料成分濃度は経時的に減少する。しかも、キャニスタへの脱離促進用ガスの供給量が多いほど蒸発燃料の脱離が促進される。これらの特性を総合的に考慮すると、パージガスを透過室へ供給する本発明においては、パージガス中の燃料成分濃度が高い蒸発燃料脱離初期は、蒸発燃料含有ガスから燃料成分の分離を主目的として、透過室へ大きな負圧を印加することが好ましい。一方、パージガス中の燃料成分濃度がある程度低下すれば、透過室における負圧の程度が低くても、蒸発燃料含有ガスから燃料成分は分離される。しかも、不透過ガス流量は増大するので、キャニスタを迅速に再生することができる。
【0011】
そこで蒸発燃料処理装置には、上記構成に加えて、パージガス中の燃料成分濃度を検知する濃度検知手段を設けたうえで、該濃度検知手段によって検知されたパージガス中の燃料成分濃度に応じて、前記調圧手段による調圧の程度を制御することが好ましい。これによれば、蒸発燃料含有ガスから効率よく燃料成分を透過分離しながら、キャニスタの脱離再生も効率よく短時間で行うことができる。
【0012】
前記調圧手段としては特に限定されず種々の手段を使用することができるが、中でも調圧手段として電磁弁を使用し、該電磁弁の開弁時間/(開弁時間+閉弁時間)で定められるデューティ比を制御することで調圧することが好ましい。これによれば、迅速且つ的確に調圧できると共に、装置の小型化にも有利である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蒸発燃料含有ガスを空気成分と燃料成分とに分離する分離手段を用いながら、パージガスによって透過室を積極的に掃気することで、蒸発燃料の分離回収効率を向上できると共に、燃料成分の透過分離及びキャニスタの脱離再生を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】蒸発燃料処理装置の模式図である。
【図2】アスピレータの縦断面図である。
【図3】分離膜モジュールにおけるガス流動を示す模式図である。
【図4】パージガス中の燃料成分濃度と不透過ガス中の燃料成分濃度との関係を、透過室における負圧の程度に関連して示す模式グラフである。
【図5】透過室における負圧の程度と不透過ガス流量との関係を示す模式グラフである。
【図6】パージガス中の燃料成分濃度に基づいて調圧弁によって透過室に印加される負圧の程度を制御する模式チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の代表的な実施の形態について説明するが、これに限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。特に、本発明の蒸発燃料処理装置に必須の構成要素である燃料タンク、キャニスタ、負圧印加手段、及び分離手段を備える基本的構成を有する限り、その他種々の構成要素を付加できる。蒸発燃料処理装置は、揮発性の高い燃料(例えばガソリンなど)を燃料とする、自動車などの車輌へ好適に適用できる。
【0016】
(実施例)
蒸発燃料処理装置は、図1に示すように、燃料Fを貯留する燃料タンク1、燃料タンク1内の燃料Fを図外の内燃機関(エンジン)へ圧送供給する燃料ポンプ2、燃料タンク1内で発生した蒸発燃料(ベーパ)を吸着するキャニスタ3、キャニスタ3へ負圧を印加して当該キャニスタ3内から蒸発燃料を吸引脱離させるアスピレータ4、蒸発燃料含有ガスを空気成分と燃料成分とに分離する分離膜モジュール5、燃料タンク1内の蒸発燃料をキャニスタ3へ導入して吸着捕捉させる捕捉ベーパ通路10、及び燃料タンク1内の蒸発燃料を分離膜モジュール5へ導入して処理させる処理ベーパ通路11などを有する。アスピレータ4が本発明の負圧印加手段に相当し、分離膜モジュール5が本発明の分離手段に相当する。
【0017】
燃料タンク1は密閉タンクである。燃料タンク1には、当該燃料タンク1の内圧を検知する圧力検知手段として、圧力センサ36が設けられている。圧力センサ36からの検知信号は、エンジン・コントロール・ユニット(ECU)35へ入力される。燃料ポンプ2は燃料タンク1内に配され、燃料供給通路12を通して燃料Fをエンジンへ圧送する。キャニスタ3の内部には吸着材Cが充填されている。吸着材Cとしては、空気は通すが蒸発燃料を吸着・脱離可能な多孔質体を使用できる。本実施例では多孔質体として活性炭を使用している。符号33は、キャニスタ3内(吸着材C)を加熱するヒータである。吸着材Cは、温度が高いほど特定成分(本発明では蒸発燃料)の吸着量が少なく、温度が低いほど特定成分の吸着量が多くなる特性を有する。したがって、吸着材Cに吸着捕捉されている蒸発燃料を脱離する際は、吸着材Cの温度はできるだけ高い方が好ましい。しかし、蒸発燃料が吸着材Cから脱離されるとき、その気化熱によって吸着材Cの温度は低下する。そこで、蒸発燃料脱離の際にヒータ33で吸着材Cを加熱することで、脱離効率を向上することができる。
【0018】
分離膜モジュール5は、密閉容器5aと、当該密閉容器5a内を導入室5bと透過室5cとに区切るように配された分離膜5dとからなる。ここでの分離膜5dには、燃料成分に対する溶解拡散係数が高く、燃料成分を優先的に透過分離するが空気成分は透過し難い公知の分離膜を使用している。詳しくは、分離膜5dは、ガス分離の主体的機能を果たす非多孔質な薄膜層(機能層)と、当該薄膜層を支持する多孔質支持層とからなる。薄膜層には、例えば架橋されて三次元不溶化されたシリコーンゴム等が使用される。多孔質支持層には、例えばポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、又はポリビニリデンフルオロライド(PVDE)等の合成樹脂や、セラミックが使用される。分離膜5dとしては、中空糸状、平板状、ハニカム状、スパイラル状などの形態がある。
【0019】
燃料タンク1とキャニスタ3とは、捕捉ベーパ通路10を介して連通されている。捕捉ベーパ通路10上には、当該捕捉ベーパ通路10の連通状態と遮断状態とを切り替える開閉手段として、捕捉ベーパ通路弁20が設けられている。また、キャニスタ3には、その先端が大気開放された大気通路13が連結されている。大気通路13上にも、当該大気通路13の連通状態と遮断状態とを切り替える開閉手段として、大気通路弁23が設けられている。燃料タンク1と分離膜モジュール5の導入室5bとは、処理ベーパ通路11を介して連通されている。処理ベーパ通路11上には、当該処理ベーパ通路11の連通状態と遮断状態とを切り替える開閉手段として、処理ベーパ通路弁21が設けられている。
【0020】
キャニスタ3と分離膜モジュール5の導入室5bとは、不透過ガス通路16を介して連通されている。なお、不透過ガス通路16は、その途中で分岐して、吸気通路30にも連結されている。吸気通路30は、エンジン駆動中に当該エンジンへ空気(大気)を吸入する通路である。符号31は、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量に応じて吸入空気量を制御するストッロルバルブである。符号32は、エアフィルタである。不透過ガス通路16上の分岐点と吸気通路30との間には、当該不透過ガス通路16の連通状態と遮断状態とを切り替える圧抜弁26が設けられている。不透過ガス通路16は、スロットルバルブ31より上流(エアフィルタ32側)において吸気通路30と連結されている。
【0021】
また、キャニスタ3と分離膜モジュール5の透過室5cとは、パージ通路17を介して連通されている。パージ通路17上、すなわちキャニスタ3と分離膜モジュール5の透過室5cとの間には、アスピレータ4によって透過室5cへ印加される負圧の程度を調圧する調圧弁27が設けられている。当該調圧弁27が、本発明の調圧手段に相当する。また、パージ通路17上、すなわちキャニスタ3と分離膜モジュール5の透過室5cとの間には、パージガス中の燃料成分濃度を検知する濃度センサ37が設けられている。当該濃度センサ37が、本発明の濃度検知手段に相当する。濃度センサ37からの検知信号は、ECU35へ入力される。
【0022】
捕捉ベーパ通路弁20、処理ベーパ通路弁21、大気通路弁23、圧抜弁26、及び調圧弁27は、ECU35によって開閉タイミングが制御される電磁弁である。ECU35は、中央処理装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)などを有する。ROMには所定の制御プログラムが予め記憶されており、CPUが、当該制御プログラムに基づいて、蒸発燃料処理装置の各構成要素を所定のタイミングで制御操作する。なお、蒸発燃料の処理中は調圧弁27は高速で開閉が繰り返され、開弁時間/(開弁時間+閉弁時間)で定められるデューティ比がECU35によって制御されることで、調圧される。
【0023】
燃料供給通路12には、分岐通路14が分岐状に連結されており、その他端にアスピレータ4が連結されている。アスピレータ4には、分離膜モジュール5の透過室5cに至る回収通路15も連結されている。アスピレータ4は、燃料ポンプ2から吐出された燃料Fの一部を導入して負圧を発生させる負圧発生手段である。詳しくは、図2に示すように、アスピレータ4はベンチュリ部41とノズル部45とから構成されている。ベンチュリ部41は、絞り42と、絞り42の燃料流動方向上流側に設けられた先窄まり状の減圧室43と、絞り42の燃料流動方向下流側に設けられた末拡がり状のディフューザ部44と、吸引ポート41pとを備えている。減圧室43、絞り42、およびディフューザ部44は、それぞれ同軸に形成されている。吸引ポート41pは、減圧室43に連通形成されている。吸引ポート41pに、回収通路15が連結される。ノズル部45は、ベンチュリ部41の上流側に接合されている。ノズル部45は、アスピレータ4内に燃料Fを導入する導入ポート45pと、導入された燃料Fを噴射するノズル本体46とを備えている。導入ポート45pに、分岐通路14が連結される。ノズル本体46は減圧室43内に同軸収納されており、当該ノズル本体46の噴射口46pは絞り42に臨んでいる。
【0024】
燃料ポンプ2から吐出された燃料Fの一部は、燃料供給通路12から分岐通路14を通してアスピレータ4内へ導入される。すると、導入された燃料Fがノズル本体46から噴射され、絞り42及びディフューザ部44の中央部を軸方向に高速で流動する。このとき、減圧室43においては、ベンチュリ効果によって負圧が発生する。これにより、吸引ポート41pを介して回収通路15に負圧(吸引力)が生じる。回収通路15を通して吸引ポート41pから吸引されたガスは、ノズル本体46から噴射された燃料Fと共にディフューザ部44から混合排出される。
【0025】
分離膜モジュール5の密閉容器5aには、図3に示すように、燃料タンク1からの蒸発燃料含有ガスG1を導入する導入ポート5mと、分離膜5dを透過しなかった主として空気成分からなるガス(以下、不透過ガスと称す)G2を排気する不透過ガスポート5nと、分離膜5dを透過した主として燃料成分かならるガス(以下、透過ガスと称す)G3を排気回収する回収ポート5fと、キャニスタ3からのパージガスG4を導入する掃気ポート5pとが、内外貫通状に形成されている。導入ポート5m及び不透過ガスポート5nは導入室5bに形成されている。導入ポート5mに、処理ベーパ通路11が連結される。不透過ガスポート5nに、不透過ガス通路16が連結される。なお、導入ポート5mと不透過ガスポート5nとは、導入室5bにおいて互いに対向状に形成されている。したがって、導入室5bへ導入された蒸発燃料含有ガスは、分離膜5dに沿って導入ポート5m側から不透過ガスポート5n側へ流動していく。これにより、蒸発燃料含有ガスG1と分離膜5dとの累積接触面積や接触時間が増大するので、高い精度で蒸発燃料を透過分離することができる。すなわち、蒸発燃料の分離残しを避けることができる。
【0026】
一方、回収ポート5f及び掃気ポート5pは透過室5cに形成されている。回収ポート5fに、回収通路15が連結される。掃気ポート5pに、パージ通路17が連結される。回収ポート5fは、蒸発燃料含有ガスG1の流動方向に対して上流端(導入ポート5m側)に形成されている。したがって、導入室5bの下流域も含めて分離膜5dを透過した透過ガスG3も分離膜5dに沿って流動し、回収ポート5fから排気される。これにより、透過室5cにおけるガス流動方向は、導入室5bにおけるガス流動方向とは逆になる。そのうえで、掃気ポート5pは、ガス流動方向の中途部に形成されている。掃気ポート5pを透過ガスG3の流動方向上流端(蒸発燃料含有ガスG1の流動方向下流端)に形成することもできるが、この場合、パージガスG4による透過室5cの掃気効果が低減するおそれがある。なお、掃気ポート5pの形成箇所は1箇所である。すなわち、キャニスタ3と分離膜モジュール5の透過室5cとの連結部は、1箇所である。
【0027】
掃気ポート5pの形成箇所(透過室5cとキャニスタ3との連通箇所)は、透過室5cの中途部であれば特に限定されないが、透過室5cにおける透過ガスG3の流動方向に対して、できるだけ上流に形成することが好ましい。これにより、透過室5c内をほぼ全体的に掃気できるからである。但し、パージガスG4中の燃料成分濃度と透過室5cにおける燃料成分濃度とがほぼ一致する部位以下流(透過ガスG3の流動方向基準)とすることが好ましい。パージガスG4中の燃料成分濃度と透過室5cにおける燃料成分濃度とがほぼ一致する部位より上流に掃気ポート5pを形成すると、当該燃料成分濃度がほぼ一致する部位より上流域では、パージガスG4によって透過室5c内の燃料成分濃度が高められ、分離膜5dによる分離効率が低下するからである。最も好ましくは、パージガスG4中の燃料成分濃度と透過室5cにおける燃料成分濃度とがほぼ一致する部位に掃気ポート5pを形成する。なお、システム(蒸発燃料処理装置)稼動中は、キャニスタ3内から蒸発燃料が脱離されるに伴い、パージガスG4中の燃料成分濃度は経時的に減少する。したがって、パージガスG4中の燃料成分濃度は、当該パージガスG4を透過室5cへ供給する供給初期濃度を基準とすることが好ましい。一般的に、パージガスG4中の初期燃料成分濃度は、10vol%程度である。
【0028】
パージガスG4中の燃料成分濃度と透過室5cにおける燃料成分濃度とがほぼ一致する部位は、蒸発燃料含有ガスG1中の燃料成分濃度、分離膜モジュール5の寸法、及び分離膜5dによる分離性能等に応じて決まる。極端に厳しい寒冷地や熱帯地を除いて、車輌走行中、一般的に燃料Fは25〜45℃程度の温度範囲にある。このような温度範囲では燃料タンク1内において蒸発燃料含有ガスG1中の燃料成分濃度は、凡そ30〜50vol%となる。そして、蒸発燃料含有ガスG1は、導入室5b内を分離膜5dに沿って流動することで、蒸発燃料含有ガスG1の流動方向上流側から下流にかけて燃料成分濃度が漸減する。一方、導入室5bにおける燃料成分濃度が高いほど燃料成分の透過分離量も高いことから、透過室5cにおいては、透過ガスG3の流動方向上流側から下流にかけて燃料成分濃度が漸増している。例えば、燃料成分50vol%程度の蒸発燃料含有ガスG1が導入室5bに導入されたとすると、透過室5cにおける燃料成分濃度は、下流域で50vol%以上、中流域で15〜20vol%程度、下流域では5vol%未満となる。このような傾向は、分離膜モジュール5の寸法や分離膜5dの種類等によって一定であり、予め測定把握しておくことができる。したがって、掃気ポート5pの形成箇所は、想定される蒸発燃料含有ガスG1中の燃料成分濃度やパージガスG4中の燃料成分濃度、分離膜モジュール5の寸法、及び分離膜5dの種類等に応じて、適宜設計することができる。
【0029】
蒸発燃料含有ガスG1中の燃料成分濃度は、燃温が高いほど高くなる。これを前提として、蒸発燃料含有ガスG1中の燃料成分濃度は、一般的に想定される通常走行中の燃温変動範囲の下限温度(例えば25℃)での濃度を基準とすることが好ましい。もちろん、一般的に想定される通常走行中の燃温変動範囲において、比較的高い燃温での濃度を基準としても構わない。但し、比較的高い燃温での濃度を基準とすると、燃温が低下した場合には、パージガスG4中の燃料成分濃度と透過室5cにおける燃料成分濃度とがほぼ一致する部位より上流に、掃気ポート5pが位置することになる。一方、蒸発燃料含有ガスG1中の燃料成分濃度を比較的低い燃温での濃度を基準とすれば、燃温が上昇しても、パージガスG4中の燃料成分濃度と透過室5cにおける燃料成分濃度とがほぼ一致する部位より下流に、掃気ポート5pが位置している。
【0030】
次に、蒸発燃料処理装置による蒸発燃料の処理機構について説明する。なお、以下の説明において、各弁の開閉タイミングや燃料ポンプ2の駆動タイミング等は、全てECU35によって制御操作される。駐車中(オフ時)は、大気通路弁23は開弁しているが、捕捉ベーパ通路弁20、処理ベーパ通路弁21、圧抜弁26、及び調圧弁27はそれぞれ閉弁している。給油時には、捕捉ベーパ通路弁20が開弁される。そして、給油に伴って燃料タンク1の内圧が上昇すると、燃料タンク1内の蒸発燃料含有ガスが捕捉ベーパ通路10を通してキャニスタ3内に流入する。すると、キャニスタ3内の吸着材Cによって蒸発燃料が選択的に吸着捕捉される。残余の空気は吸着材Cを透過し、キャニスタ3から大気通路13を通して大気中に放散される。これにより、大気汚染を回避しながら燃料タンク1が圧力開放され、燃料タンク1の破損が防止される。給油完了後は、捕捉ベーパ通路弁20が再度開弁される。
【0031】
車輌走行中(エンジン稼動中)は、大気通路弁23が閉弁される一方、処理ベーパ通路弁21が開弁されると共に、調圧弁27の開弁量が制御される。捕捉ベーパ通路弁20は常時閉弁されており、圧抜弁26も基本的には閉弁されている。また、ヒータ33が通電され、キャニスタ3内が加熱される。処理ベーパ通路弁21が開弁されると、燃料タンク1内の蒸発燃料含有ガスG1は、処理ベーパ通路11を通して分離膜モジュール5の導入室5bへ導入される。すると、図3に示すように、蒸発燃料含有ガスG1は、導入室5b内を導入ポート5mから不透過ガスポート5nへ向けて、分離膜5dに沿って流動していく。その間に、蒸発燃料含有ガスG1中の燃料成分が分離膜5dを優先的に透過することで、透過室5cには主として蒸発燃料からなる透過ガスG3が分離精製される。一方、分離膜5dを透過せずに導入室5bに残存している不透過ガスG2は、不透過ガス通路16を通してキャニスタ3へ導入される。これにより、キャニスタ3内に吸着されている蒸発燃料の脱離が促進される。
【0032】
これと併行して、燃料ポンプ2が駆動されると、当該燃料ポンプ2から吐出された燃料Fの一部が、燃料供給通路12から分岐通路14を通してアスピレータ4へ導入される。すると、アスピレータ4によって負圧が発生し、回収通路15及び分離膜モジュール5の透過室5c内が減圧される。これにより、分離膜5dを透過した透過ガスG3は、透過室5c内を分離膜5dに沿って流動し、回収ポート5fから回収通路15を通してアスピレータ4へ吸引され、燃料タンク1内へ燃料Fと共に吐出回収される。
【0033】
また、アスピレータ4による負圧は、分離膜モジュール5の透過室5cを介してパージ通路17からキャニスタ3内へも印加される。これにより、キャニスタ3内に吸着されていた蒸発燃料が吸引脱離(パージ)される。そして、キャニスタ3からのパージガスは、パージ通路17を通して分離膜モジュール5の透過室5cへ供給される。すると、パージガスG4中の燃料成分濃度は透過室5c内の燃料成分濃度より低いため、図3に示すように、パージガスG4によって透過室5c内が掃気され、透過室5c内の燃料成分濃度すなわち燃料成分の分圧が積極的に低減される。これにより、分離膜5dによる分離効率が向上する。なお、透過室5cの上流域では中下流域に比べて燃料成分濃度が低くなっているが、パージガスG4は透過室5cの中途部に供給されるので、当該上流域における燃料成分濃度がパージガスG4によって高められることはない。パージガスG4も、透過ガスG3と共に回収ポート5fから排気され、最終的に燃料タンク1へ回収される。
【0034】
また、蒸発燃料の処理中は、パージガス中の燃料成分濃度が濃度センサ37によってモニタリングされている。そして、当該濃度センサ37からの検知信号に基づき、調圧弁27の開弁量が制御される。具体的には、図6に示すように、パージガス中の燃料成分濃度が比較的高い蒸発燃料処理初期は、透過室5cに印加される負圧の程度が比較的大きくなるように、調圧弁27の開弁量が制限される。これにより、蒸発燃料含有ガスからの燃料成分の分離が促進される。そして、キャニスタ3から蒸発燃料が徐々に脱離されることで経時的にパージガス中の燃料成分が低下するので、これに伴い透過室5cに印加される負圧の程度も徐々に小さくなるように、調圧弁27の開弁量が徐々に大きくされる。パージガス中の燃料成分濃度が低下すれば、図4に示すように、透過室5c内の負圧の程度が小さくても蒸発燃料含有ガスから燃料成分は容易に分離される。一方、透過室5c内の負圧の程度が低下すれば、不透過ガス流量が増大するので、キャニスタ3からの蒸発燃料脱離がより促進される。これにより、キャニスタ3の再生時間が短縮される。
【0035】
また、エンジン駆動中に燃料タンク1の内圧が所定値(例えば5kPa)以上となったことが圧力センサ36によって検知されると、圧抜弁26が開弁される。すると、不透過ガスは不透過ガス通路16を通して吸気通路30へ導入され、燃料タンク1が圧抜きされる。燃料タンク1の内圧が十分(例えば大気圧程度)に低下したことが圧力センサ36によって検知されると、再度圧抜弁26は閉弁される。
【0036】
(変形例)
圧抜弁26に代えて、不透過ガス通路16の分岐点に三方弁を設けることもできる。また、蒸発燃料の処理中に燃料タンク1の内圧が所定値以上となった場合も、キャニスタ3を介して圧抜きすることもできる。この場合、分岐通路14上に電磁弁を設けておく。そのうえで、蒸発燃料の処理中に燃料タンク1の内圧が所定値以上となったことが圧力センサ36によって検知されると、処理ベーパ通路弁21及び分岐通路上の電磁弁を閉弁する一方、捕捉ベーパ通路弁20を開弁する。すると、給油時と同様にして燃料タンク1内が圧抜きされる。そして、燃料タンク1の内圧が十分に低下したことが圧力センサ36によって検知されると、再度捕捉ベーパ通路弁20が閉弁される一方、処理ベーパ通路弁21及び分岐通路上の電磁弁が閉弁され、蒸発燃料の処理が再開される。したがって、このような変形例では、不透過ガス通路16を必ずしも吸気通路30へ分岐連通させる必要はない。当然、圧抜弁26も不要となる。
【0037】
また、上記実施例1,2では不透過ガスをキャニスタ3へ供給しているが、キャニスタ3と共に、又はキャニスタ3へ供給せずに、不透過ガスを吸気通路30や大気中へ排気することもできる。不透過ガスを吸気通路30へ排気する場合は、蒸発燃料の処理中、燃料タンク1の内圧が所定値未満でも、適宜のタイミングで圧抜弁26を開弁する。または、圧抜弁26を設けなくてもよい。不透過ガスを大気中へ排気する場合は、不透過ガス通路16の先端を大気開放しておけばよい。不透過ガスをキャニスタ3へ供給しない場合は、不透過ガス通路16をキャニスタ3へ連結しなければよい。この場合、蒸発燃料処理中も大気通路弁23を開弁して、大気通路13から大気を脱離促進ガスとしてキャニスタ3内へ導入することが好ましい。
【0038】
負圧印加手段は、アスピレータ4に代えて、回収通路15上に設けた真空ポンプとすることもできる。この場合も、蒸発燃料の処理手順は上記実施例と同じである。
【0039】
分離膜モジュール5は、上記実施例のようにひと繋がりの構成(1部材)とすることもできるし、ガス流動方向に対して直列に複数に分割することもできる。この場合、パージガスは、複数列ある分離膜モジュールのうちいずれか1つの透過室へ供給したり、各分離膜モジュール同士を連結するいずれかの連結部に供給すればよい。
【0040】
調圧弁27としては、デューティ比が制御される電磁弁とするほか、内部にニードル弁やバタフライ弁等を備える弁とすることもできる。この場合、ニードル弁やバタフライ弁等を駆動することで開弁量を制御できる。
【0041】
また、上記実施例ではパージガス中の燃料成分濃度に応じて調圧弁の開弁量を制御したが、適度な分離効率と不透過ガス流量とを確保できる一定の負圧に調圧するのみでも構わない。又は、蒸発燃料の処理を開始してからの経過時間に基づいて徐々に調圧弁の開弁量を大きくするよう制御することもできる。
【符号の説明】
【0042】
1 燃料タンク
2 燃料ポンプ
3 キャニスタ
4 アスピレータ
5 分離膜モジュール
5b 導入室
5c 透過室
5d 分離膜
5f 回収ポート
5m 導入ポート
5n 不透過ガスポート
5p 掃気ポート
10 捕捉ベーパ通路
11 処理ベーパ通路
13 大気通路
14 分岐通路
15 回収通路
16 不透過ガス通路
17 パージ通路
27 調圧弁
36 圧力センサ
37 濃度センサ
41 ベンチュリ部
41p 吸引ポート
43 減圧室
44 ディフューザ部
45 ノズル部
45p 導入ポート
46 ノズル本体
46p 噴射口
51 第1モジュール部
52 第2モジュール部
53b・53c 連結管
C 吸着材
F 燃料
1 蒸発燃料含有ガス
2 空気成分(不透過ガス)
3 燃料成分(透過ガス)
4 パージガス




【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクと、該燃料タンクで発生した蒸発燃料を吸着するキャニスタと、該キャニスタへ負圧を印加してキャニスタ内から蒸発燃料を脱離する負圧印加手段と、蒸発燃料含有ガスを空気成分と燃料成分とに分離する分離手段とを有し、該分離手段は、蒸発燃料含有ガスから燃料成分を優先的に透過分離させる分離膜と、該分離膜によって区分けされた導入室と透過室とを備え、蒸発燃料含有ガスを前記分離手段へ導入し、前記分離膜を介して蒸発燃料を前記燃料タンクへ回収する蒸発燃料処理装置であって、
前記負圧印加手段によって前記キャニスタ内から蒸発燃料を脱離する際、前記燃料タンクからの蒸発燃料含有ガスを前記分離手段の導入室へ導入し、前記負圧印加手段による負圧を前記分離手段の透過室を介して前記キャニスタへ印加することで、前記分離膜を透して前記透過室へ分離された燃料成分を前記燃料タンクへ回収しながら、前記キャニスタからのパージガスを前記分離手段の透過室へ供給し、
前記キャニスタと前記分離手段の透過室との間に、前記負圧印加手段によって前記透過室へ印加される負圧の程度を調圧する調圧手段が設けられていることを特徴とする、蒸発燃料処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸発燃料処理装置であって、
前記パージガス中の燃料成分濃度を検知する濃度検知手段を備えており、
該濃度検知手段によって検知されたパージガス中の燃料成分濃度に応じて、前記調圧手段による調圧の程度を制御することを特徴とする、蒸発燃料処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の蒸発燃料処理装置であって、
前記調圧手段が電磁弁であり、該電磁弁の開弁時間/(開弁時間+閉弁時間)で定められるデューティ比を制御することで調圧されることを特徴とする、蒸発燃料処理装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−82752(P2012−82752A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229737(P2010−229737)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】