説明

蒸着材及び該蒸着材を用いて形成された蒸着膜

【課題】プラズマ式の蒸着法により蒸着膜を成膜する際、特に蒸着材の昇華が始まる初期段階において、従来よりも低エネルギーでの成膜を実現し、かつ装置の改良を行うことなく昇華した蒸着材料に指向性を付与し得る蒸着材及び該蒸着材を用いて成膜された蒸着膜を提供する。
【解決手段】上面に1又は2以上の突起11が形成された基部10aと、少なくとも突起11と同数の貫通孔12が突起11と対応する位置に設けられ基部10aの上面にすべての突起11を貫通孔12が収容するように設置されたマスク10bとを含み、突起11は基部10a表面からの最大高さhが1〜10mmであり、基部10a表面から突出する部分の最大幅wが1〜10mmであり、マスク10bに設けられた貫通孔12は高さHが突起11の最大高さhの1.2〜3倍であり、かつ幅Wが突起11の最大幅wの1〜4倍であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性プラズマ蒸着法により蒸着膜を成膜する際に用いられる蒸着材及び該蒸着材を用いて形成された蒸着膜に関する。更に詳しくは、従来よりも低エネルギーで蒸着膜を成膜することができ、かつ昇華した蒸着材料に指向性を付与し得る蒸着材及び該蒸着材を用いて形成された蒸着膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、LCD(Liquid Crystal Display)や、有機EL、プラズマディスプレイパネル、薄膜太陽電池等の透明電極には、透明で導電性のあるITO(錫ドープ酸化インジウム)を透明導電材料として用い、これによって形成された透明導電膜が一般的に利用されてきた。ITOは、透明性に優れ、低抵抗であるという利点を有する一方、インジウムが非常に高価なことからITOにより形成される透明導電膜を利用すると、その太陽電池等も必然的に高価なものになってしまうという問題があった。またインジウムの資源枯渇の問題も指摘されている。更にITO膜は耐久性に問題があり、熱処理により抵抗増加を生じたり、還元剤やエッチングの際の酸性薬品により変質したりする問題点が指摘されている。このような点から、近年では、ITOに代わる透明導電材料としてZnOが注目され、これによって形成されるZnO膜が太陽電池の分野等において広く利用されつつある。
【0003】
一方、このような透明導電膜の成膜方法には、真空にした容器の中で膜形成材料を何らかの方法で気化させ、近傍に置いた基材上に堆積させて薄膜を形成する物理蒸着法(以下、PVD法という)が利用されている。PVD法には、真空蒸着法、分子線蒸着法、イオンプレーティング、電子ビーム蒸着法又はスパッタリング法等があり、中でも、基材を加熱せずに成膜が可能である等の理由から反応性プラズマ蒸着法(以下、RPD法という。)が注目を集めている。
【0004】
RPD法も含め、膜形成材料を昇華させてこれを基材上に堆積させる原理を採用する物理蒸着法においては、昇華させた膜形成材料が被蒸着物の狙った箇所にうまく堆積せず、蒸着膜の膜厚や組成にムラが生じたり、また、昇華させた膜形成材料が被蒸着物から外れて装置内部に付着することによって装置内部を汚染し、或いは材料が無駄になるといった問題が生じている。このような問題を解消するため、単位面積あたりの蒸気の吐出流量を、中央部よりも基板端部の位置において最大となるように蒸気の通過孔を形成した制御板を配置すると共に、通過孔を経た蒸気の流れに指向性を付与する仕切り板が配置された蒸発源が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この発明では、ノズル開口の長手方向において、昇華した蒸着材料の流量分布を適切に制御することにより、基板の幅方向における膜厚分布を制御し、またノズル開口における蒸着材料の流れに指向性を付与することで蒸着材の利用効率を向上させている。
【0005】
また、フィルム状の基板の上に蒸発源から発生させた蒸気を連続的に付着させて薄膜を製造する装置において、フィルム状の基板に入射する蒸気の入射角を規制するしゃへい板を備えたことを特徴とする真空蒸着装置が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。また、成膜材料蒸気を排出するための開口を有するルツボ本体と、開口を囲んでルツボ本体から突出する成膜材料蒸気の排出口となる筒状部とを有し、かつ筒状部は成膜材料の排出方向に向かって広がるように側面が少なくとも1方向に傾斜する形状を有し、蒸発流の指向性を真空蒸着装置の構成等に応じて適正にできる真空蒸着用ルツボが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。更に、電子ビームを照射することにより蒸発源を加熱して蒸着材料を蒸発させる電子ビーム蒸着装置において、蒸発源の直上に蒸着材料の蒸発方向を制御するシールドを配置し、蒸発する蒸着材料の蒸発方向を制御して蒸発した蒸着材料の指向性を向上する電子ビーム蒸着装置が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−121098号公報(請求項1、段落[0013]、段落[0014])
【特許文献2】特開平6−228743号公報(請求項3)
【特許文献3】特開2007−297695号公報(請求項1、段落[0012])
【特許文献4】特開平10−259474号公報(請求項7、段落[0016])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の特許文献1〜4に示された発明では、いずれも装置の一部として仕切り板やシールド等を設けることにより、昇華させた膜形成材料に指向性を付与している。このため、装置内部への蒸着材料の付着や材料が無駄になるといった問題は依然として起こっており、解決には至っていない。また、このように装置等にシールド等を設けることで、昇華させた膜形成材料に指向性を付与する場合、仕切り板やシールド等に蒸着材料が相当量付着し、頻繁に洗浄処理を実施する必要がある。更に、材料組成を変更する場合等も仕切り板やシールド等を都度取替える必要がある、或いは取替えない場合には不純物が混入するといった不具合が生じる。
【0008】
また、プラズマ式の蒸着法においては、蒸着材の昇華が始まるまでは、昇華を開始させるために高エネルギーのプラズマを蒸着材に照射する必要がある。蒸着材の昇華が一端開始されれば、これが起点となって昇華が活性し連鎖的な昇華がおこるため、昇華が一端開始された後は初期段階よりも低エネルギーで成膜することができる。ところが、蒸着材の昇華が始まる初期段階においては、高エネルギーのプラズマを蒸着材に照射する必要がある。このように初期段階において、高エネルギーのプラズマを蒸着材に照射することが原因となり、蒸着材が割れるといった問題が生じる。また、プラズマ放電の電流値が高くなると、蒸着材料の一部がイオン化される前に基材に衝突し、これが原因となって基材がダメージを受けたり、成膜される蒸着膜の導電性が悪化するといった問題も生じている。
【0009】
本発明の目的は、プラズマ式の蒸着法により蒸着膜を成膜する際、特に蒸着材の昇華が始まる初期段階において、従来よりも低エネルギーでの成膜を実現し、かつ装置の改良を行うことなく昇華した蒸着材料に指向性を付与し得る蒸着材及び該蒸着材を用いて成膜された蒸着膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点は、反応性プラズマ蒸着法により蒸着膜を成膜するための蒸着材であって、蒸着材10は上面に1又は2以上の突起11が形成された基部10aと、少なくとも突起11と同数の貫通孔12が突起11と対応する位置に設けられ基部10aの上面にすべての突起11を貫通孔12が収容するように設置されたマスク10bとを含み、突起11は基部10a表面からの最大高さhが1〜10mmであり、基部10a表面から突出する部分の最大幅wが1〜10mmであり、マスク10bに設けられた貫通孔12は高さHが突起11の最大高さhの1.2〜3倍であり、かつ幅Wが突起11の最大幅wの1〜4倍であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に突起11は基部10aの形成に用いた材料と同一組成の材料を用いて円錐状又は半球状に形成された焼結体、或いは同一組成の材料を焼成して得られた焼結体を粉砕して得られた粉砕物からなることを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に突起11は基部10aの表面に機械研削処理又は化学浸食処理を施すことにより形成されたであることを特徴とする。
【0013】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更にマスク10bが基部10aの形成に用いた材料と同一組成の材料により形成されたことを特徴とする。
【0014】
本発明の第5の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更にマスク10bが基部10aよりも導電率の低い材料により形成されたとを特徴とする。
【0015】
本発明の第6の観点は、第1ないし第5の観点に基づく蒸着材を用いて形成された蒸着膜である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の観点の蒸着材は、上面に1又は2以上の突起が形成された基部と、少なくとも突起と同数の貫通孔が形成されたマスクとを含む。貫通孔は、基部が有する突起と対応する位置に設けられ、すべての突起を貫通孔が収容するように基部の上面にマスクが設置される。突起は基部表面からの最大高さhが1〜10mmであり、基部表面から突出する部分の最大幅wが1〜10mmである。マスクに設けられた貫通孔は、高さHが突起の最大高さhの1.2〜3倍であり、かつ幅Wが突起の最大幅wの1〜4倍である。これにより、蒸着材の昇華が始まる初期段階において、従来よりも低エネルギーでの成膜が可能になるとともに、装置の改良を行うことなく昇華した蒸着材料に指向性を付与することができる。
【0017】
本発明の第6の観点の蒸着膜は、本発明の蒸着材を用い、従来よりも低エネルギーで成膜されているため、ダメージが少なく、高い導電率を発現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の蒸着材を示す斜視図である。
【図2】本発明の蒸着材を構成する基部とマスクをそれぞれ別々に示した斜視図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】本発明の蒸着材を構成するマスクの一例を示す斜視図である。
【図5】プラズマ放電電流と放電時間との関係を示す図である。
【図6】RPD装置の主要部を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明は、RPD法により蒸着膜を成膜する際に好適に用いることができる蒸着材及びこの蒸着材を用いて形成された蒸着膜である。一般に、RPD法とは、通常の蒸着装置にプラズマビーム発生器を設置してアーク放電を起こし、アークプラズマ中を通過する昇華した粒子をイオン化し加速して陰極に蒸着する方法であり、通常の蒸着法に比べて高速の成膜が可能となる。通常の蒸着法の飛来粒子の運動エネルギーは0.1eV、スパッタリング法のそれは100eV程度であるのに対して、RPD法のそれは数十eVであり、蒸着法とスパッタリング法の中間に属する。従って、RPD法は通常の蒸着法に比べ基材との密着性が良好な薄膜を形成することができ、またスパッタリング法に比べ高密度、低欠陥な成膜が可能であり基材温度を上げなくても結晶性の良い膜が得られる。
【0021】
図6に示すように、このRPD法に用いられる装置60は、真空チャンバ61とチャンバ61側壁に設けられたプラズマビーム発生器62とを備える。チャンバ61は導電性部材で構成され接地されている。チャンバ61内の底部には、蒸着材10を載置するハース64と、ハース64側にプラズマビームを導くプラズマビームコントローラ66が設けられる。プラズマビームコントローラ66は、ハース64と同心でハース64を囲む環状形状を有し、磁界を形成するために、その内部に磁石66aやコイル66bが配置されている。チャンバ61内の上部には、ハース64と対向するように配置された、基材67を保持する基材ホルダ68が設けられる。基材ホルダ68は導電性部材で構成され、図示しないバイアス制御手段を介して接地されている。なお、基材ホルダ68は、複数の基材をチャンバ内に搬送可能な構成としてもよい。またチャンバ61の側壁にはアルゴンガス等を導入及び排出するガス導入口61a及びガス排出口61bがそれぞれ設けられる。プラズマビーム発生器62は圧力勾配型であり、発生したプラズマビームを収束させる磁石62aやコイル62bが配置され、熱電子放出素子としてLaB6及びTaが用いられる。また、このプラズマビーム発生器62の周囲にはプラズマビームをチャンバ61内に導くビームガイド用のステアリングコイル62cが設置されている。なお、プラズマビーム発生器62は2基以上用いてもよい。例えば、プラズマビーム発生器を3基用いる場合は、2基を共蒸着用に用い、残りの1基をプラズマアシスト用として用いることもできる。
【0022】
このようなRPD法による蒸着膜の形成に用いられる本発明の蒸着材は、図1又は図2に示すように、基部10aとマスク10bとを含む。基部10aの上面には1又は2以上の突起11が形成される。突起11が形成されることにより、上記RPD法により蒸着膜を成膜する際、特に蒸着材10の昇華が始まる初期段階において、従来よりも低エネルギーでの成膜を実現させ得る。プラズマ式の蒸着原理は、チャンバ内においてプラズマ状態になっているアルゴンガス等の電子が、導電性の高い物質又は領域に集中して移動することを利用するものである。即ち、プラズマ状態になっている電子が蒸着材の表面に衝突することにより蒸着材の昇華が始まるが、従来の蒸着材では、蒸着材の表面が平面であるため、プラズマが蒸着材の表面に当たっても、蒸着材内部へ熱拡散してしまうことから、昇華が始まる初期段階において非常に高いエネルギーが必要であった。
【0023】
例えば、図5に示すように、先ず、蒸着材の昇華を促進するため、初期段階においてプラズマ放電電流を一定勾配αでA値まで増加させる必要がある。このとき、従来の蒸着材を用いた場合、A値は60アンペア程度必要となる。このため、高エネルギー又は急激な加熱により蒸着材に割れが生じたり、或いは基材や膜にダメージを与えていた。一方、本発明の蒸着材は、所定サイズ及び所定個数の突起を有するため、この蒸着材が有する突起にプラズマの集中的な照射がおこる。このため、従来の蒸着材を用いた場合に比べ、初期段階において低いエネルギーとすることができる。即ち、本発明の蒸着材を用いれば、上記A値を40アンペア以下に抑えることができる。
【0024】
突起11は基部10a表面からの最大高さhが1〜10mm、好ましくは1〜5mmであって、突起11の基部10a表面から突出する部分の最大幅wが1〜10mm、好ましくは1〜5mmの範囲にある。最大高さhを上記範囲としたのは、1mm未満では蒸着材の昇華を促進する効果が十分に得られず、一方、10mmを越えると突起部分に割れが発生する場合があるからである。また、最大幅wを上記範囲としたのは、1mm未満では蒸着材の支持ができない等の不具合が生じ、一方、10mmを越えると蒸着材の昇華を促進する効果が十分に得られないからである。
【0025】
突起11は基部10aの形成に用いた材料と同一組成の材料を用いて形成されたものが好ましく、また、円錐状又は半球状に形成された焼結体、或いは同一組成の材料を焼成して得られた焼結体を粉砕して得られた粉砕物からなることが好ましい。基部10aの形成に用いた材料と同一組成の材料を用いて形成されたものが好ましい理由は、膜への不純物混入を防止するためである。また、突起11は基部10aの表面に機械研削処理又は化学浸食処理を施すことにより形成されたものであってもよい。
【0026】
上記突起11が形成された基部10aの上面に設置されるマスク10bには、少なくとも突起11と同数の貫通孔12が形成される。貫通孔11は、上記基部10aが有する突起11と対応する位置に設けられ、すべての突起11を貫通孔12が収容するように基部10aの上面に設置される。これにより、図3に示すように、基部10aに設けられた突起11は、貫通孔12の側壁によって包囲される。
【0027】
蒸着材の昇華は、上述のように突起11を起点として開始する。突起11を起点として蒸着材の昇華が開始すると、昇華した蒸着材料はマスク10bに形成された貫通孔12を通過して被蒸着物まで到達することになる。このため、貫通孔12を通過する際に、貫通孔12の側壁によって放射状に上昇する蒸着材料に指向性が付与され得る。貫通孔12の数は、少なくとも突起11と同数設けられていればよく、突起11の数よりも多く設けられていても構わない。マスク10bの開口率、即ち貫通孔の体積も含めたマスクの全体積に対する貫通孔の全体積の割合は、20〜90%であることが好ましい。下限値未満では、単位面積時間あたりの蒸発量(基板への堆積量)が著しく低下すること、またマスクへの堆積量が著しく増加するといった不具合が生じやすい。一方、上限値を越えると、マスクの強度不足によりマスクが破損し易くなるといった不具合を生じやすいからである。
【0028】
貫通孔12の大きさは、突起11を収容できる大きさである。即ち、高さHは突起11の最大高さhの1.2〜3倍であり、幅Wは突起11の最大幅wの1〜4倍である。貫通孔12の高さHが下限値未満では、昇華した蒸着材料に対して指向性を付与する効果が十分でなくなる。一方、上限値を越えると、プラズマが蒸着材に到達し難くなり、結果的に蒸着速度が低下するといった不具合を生じる。また、貫通孔12の幅Wが下限値未満では、突起11を収容することができず、一方、上限値を越えると、昇華した蒸着材料に対して指向性を付与する効果が十分でなくなる。このうち、貫通孔12の高さHは突起11の最大高さhの1.3〜1.5倍であり、かつ幅Wは突起11の最大幅wの1.2〜1.7倍であることが好ましい。
【0029】
マスク10bは、基部10aの形成に用いた材料と同一組成の材料によって形成されたものであることが好ましい。同一組成の材料にて形成されることにより、マスク表面からの一部蒸発によって指向性が低下するといった点では劣るものの、マスク10bの一部が昇華して蒸着膜に付着しても、同一組成の材料によって形成されているため、膜の組成に影響を与えることはない。また、マスク10bは、基部10aよりも導電率の低い材料により形成することもできる。導電率の低い材料にて形成されることにより、プラズマの照射を避けることができるため、結果的に高い指向性を維持できるといった効果が得られる。
【0030】
貫通孔12の形状は、図1又は図2に示すような円柱状、即ち上面からの形状が円形状であるか、上面からの形状がハニカム状であるか、或いは図4に示すように上面からの形状が格子状であることが好ましい。円形状であれば、特に、成膜面における膜厚のバラツキを抑制するのに効果的である。また、ハニカム状であれば、マスクの強度を損なうことなく、開口率を大きくするのに効果的である。また、格子状であれば、マスクの製造において、ブラスト加工を利用したドライエッチング等による貫通孔の形成が容易となる。
【0031】
次に、本発明の蒸着材を製造する方法について説明する。この蒸着材10は、表面に昇華を促進するための上記突起11が形成された上記基部10aの上面に、昇華した蒸着材料に指向性を付与するための上記マスク10bを設置することによって形成される。基部10aの製造とマスク10bの製造とは別個独立して行うことができるが、いずれを先に行っても構わない。ここでは、最初に基部10aの製造手順について説明する。
【0032】
基部10aは、その表面に昇華を促進するための上記突起11が形成されれば、成分等については特に限定されず、従来公知の蒸着材と同材料にて製造することができる。従来の蒸着材としては、例えば、ZnO純度が98%以上のZnO粉末から作られたZnOのペレットからなり、Ga等の元素を含む透明導電膜を成膜するために用いられるZnO蒸着材がその一例として挙げられる。このZnO蒸着材を例に挙げ、以下、基部10aの製造手順について詳細に説明する。
【0033】
先ず、金属酸化物粉末としてZnO粉末及びGa23粉末を用意し、この金属酸化物粉末と、バインダと、有機溶媒とを混合して、濃度が好ましくは30〜75質量%、更に好ましくは40〜65質量%のスラリーを調製する(第1工程)。スラリーの濃度を30〜75質量%に限定したのは、75質量%を越えると上記スラリーが非水系であるため、安定した混合造粒が難しく、30質量%未満では均一な組織を有する緻密なZnO焼結体が得られ難いからである。ZnO粉末は、純度が98%以上の高純度ZnO粉末であることが好ましく、98.4%以上であることが更に好ましい。ZnO粉末の純度が98%以上であれば、不純物の影響による導電率の低下を抑えることができるからである。ZnO粉末の平均粒径は0.1〜5.0μmの範囲内にあることが好ましい。0.1μm未満では、粉末が細かすぎて凝集するため、粉末のハンドリングが悪くなり、高濃度スラリーを調製し難い傾向があり、5.0μmを越えると、微細構造の制御が難しく、緻密なペレットが得られ難い傾向があるからである。
【0034】
Ga23粉末は、製造後の蒸着材に含まれるGa元素が所定の割合で含まれるように添加する。Ga23粉末を添加する場合は、Ga元素の濃度が多結晶ZnO蒸着材となったときに0.1〜15質量%の範囲になるように添加混合されるのが好ましい。Ga23粉末は、その平均粒径が0.01〜1μmの範囲内のものを使用することが好ましい。0.01〜1μmの範囲内のものを使用すれば、Ga23粉末を均一に分散するのに好適であるからである。この実施の形態ではZnO粉末以外の金属酸化物粉末として、Ga23粉末を添加するが、Ga23粉末以外では、Y23粉末、La23粉末、Sc23粉末、CeO2又はCe23粉末、Pr612粉末、Nd23粉末、Pm23粉末、Sm23粉末等が挙げられる。CeO2粉末を添加する場合は、Ce存在量の偏在の防止とZnOマトリックスとの反応性及びCe化合物の純度を考慮した場合、1次粒子径がナノスケールの酸化セリウム粒子を添加することが好ましい。なお、本明細書において平均粒径とは、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)に従い、日機装社製(FRA型)を用い、分散媒としてヘキサメタりん酸Naを使用し、1回の測定時間を30秒として3回測定した値を平均化したものである。
【0035】
バインダとしてはポリエチレングリコールやポリビニルブチラール等を、有機溶媒としてはエタノールやプロパノール等を用いることが好ましい。バインダは0.2〜5.0質量%添加することが好ましい。
【0036】
金属酸化物粉末とバインダと有機溶媒との湿式混合、特に金属酸化物粉末と分散媒である有機溶媒との湿式混合は、湿式ボールミル又は撹拌ミルにより行われる。湿式ボールミルでは、ZrO2製ボールを用いる場合には、直径5〜10mmの多数のZrO2製ボールを用いて8〜24時間、好ましくは20〜24時間湿式混合される。ZrO2製ボールの直径を5〜10mmと限定したのは、5mm未満では混合が不十分となることからであり、10mmを越えると不純物が増える不具合があるからである。また混合時間が最長24時間と長いのは、長時間連続混合しても不純物の発生が少ないからである。
【0037】
次に、上記スラリーを噴霧乾燥して、好ましくは平均粒径が50〜250μm、更に好ましくは50〜200μmの混合造粒粉末を得る(第2工程)。噴霧乾燥はスプレードライヤを用いて行われることが好ましい。
【0038】
次に、この造粒粉末を型に入れ、加圧成形して円柱状の成形体を得る(第3工程)。型は一軸プレス装置又は冷間静水圧成形装置(CIP(Cold Isostatic Press)成形装置)が用いられる。一軸プレス装置では、造粒粉末を750〜2000kg/cm2(73.6〜196.1MPa)、好ましくは1000〜1500kg/cm2(98.1〜147.1MPa)の圧力で一軸加圧成形し、CIP成形装置では、造粒粉末を1000〜3000kg/cm2(98.1〜294.2MPa)、好ましくは1500〜2000kg/cm2(147.1〜196.1MPa)の圧力でCIP成形する。圧力を上記範囲に限定したのは、成形体の密度を高めるとともに焼結後の変形を防止し、後加工を不要にするためである。
【0039】
上記第3工程において、後述の第4の実施形態を除き、後述する第5工程で形成される突起の数に相応した数の凹部を成形体の表面に形成する。凹部は、突起11を基部10a表面に固定するものであり、例えば、造粒粉末を作製する時に用いたバインダを接着剤として突起11を凹部に固定することによって形成することができる。
【0040】
成形体を得た後、通常は、この成形体を所定の温度で焼成し焼結体を得る(第4工程)が、上記第3工程に続いて、以下の第1〜第4実施形態に示すいずれかの工程を経ることにより、基部10aの表面に突起11を1又は2以上形成する(第5工程)。
【0041】
第1実施形態では、先ず、上記第3工程において凹部を成形体の表面に形成した後、押し出し成形により、上記成形体と同一組成の細長い棒状の成形物を形成する。そして、この細長い棒状の成形物を、後述の焼成により形成される突起11の最大高さhが上記範囲内になるように、所定の長さに切断して細棒体を得る。押し出し成形については、特に限定されず、一般的な押し出し成形機を用いることができる。得られた細棒体の下部を、第3工程において成形体の表面に形成された凹部に挿入して成形体の表面に突状物を設ける。具体的には、造粒粉末を作製する時に用いたバインダを接着剤として突起を凹部に固定する方法で行うのが好ましい。
【0042】
そして、成形体の表面に設けられた突状物を焼成する。第5工程における突状物の焼成は、成形体を焼成し焼結体を得る第4工程において同時に行われる。焼結は大気、不活性ガス、真空又は還元ガス雰囲気中で1000℃以上、好ましくは1200〜1400℃の温度で1〜10時間、好ましくは2〜5時間行う。これにより所望のZnOを主成分とするペレットが得られる。ペレットの相対密度は90%以上であることが好ましく、95%以上であることが更に好ましい。相対密度が90%以上であれば、成膜時のスプラッシュを低減できるからである。
【0043】
また、突起11を除いたペレットの大きさは、直径が5〜50mmであって、厚さが2〜30mmであることが好ましい。このペレットの直径を5〜50mmとするのは安定かつ高速な成膜の実施のためであり、その直径が5mm未満ではスプラッシュ等が発生する不具合があり、50mmを越えるとハース(蒸着材溜)への充填率が低下することに起因する蒸着における膜の不均一及び成膜速度の低下をもたらす不具合がある。また、その厚さを2〜30mmとするのは安定かつ高速な成膜の実施のためであり、その厚さが2mm未満ではスプラッシュ等が発生する不具合があり、30mmを越えるとハース(蒸着材溜)への充填率が低下することに起因する蒸着における膜の不均一及び成膜速度の低下をもたらす不具合がある。また、このZnOのペレットは、多結晶体であっても単結晶体であってもよい。以上により、表面に所望の突起11が形成された基部10aを得ることができる。
【0044】
第2実施形態では、上記第3工程において凹部を成形体の表面に形成した後、上記第3工程にて成形体の形成に用いた粉末と同一組成の混合造粒粉末を、上記凹部の開口部に相応した半径を有する円錐状又は半球状の雌型の金型に詰めて成形することにより、円錐体又は半球体を得る。このとき、好ましくは1000〜3000kg/cm2(98.1〜294.2MPa)の圧力で加圧することにより、突起11の密度を高めるとともに焼結後の変形を防止し、後加工を不要にする。
【0045】
このようにして得られた円錐体又は球状体を金型から取り出し、この円錐体又は球状体の基部を、第3工程において成形体の表面に形成された凹部に挿入して成形体の表面に突状物を設ける。具体的には、造粒粉末を作製する時に用いたバインダを接着剤として突起を凹部に固定する方法で行うのが好ましい。
【0046】
そして、成形体の表面に設けられた突状物を焼成する。この第5工程における突状物の焼成は、上述の第1実施形態と同様、成形体を焼成し焼結体を得る第4工程において同時に行われ、第1実施形態と同条件で行うことができる。また、突起11を除いたペレットの好ましい大きさは、上記第1実施形態と同様である。
【0047】
第3実施形態では、上記第3工程において凹部を成形体の表面に形成した後、上記第3工程で得られる成形体を焼成して得られた焼結体と同一組成の焼結体を粉砕して、凹部の開口部より小さく凹部の深さより大きい粉砕物を得る。粉砕物を得るために用いられる焼結体は、第3工程で得られる成形体と同一材料、同一条件にて形成された成形体を、上記第4工程における条件と同じ条件で焼成し得られた焼結体である。焼結体の粉砕は、石臼式摩砕機、気流式粉砕機又は衝撃式粉砕機にて行うのが好ましい。
【0048】
このようにして得られた粉砕物の基部を、第3工程において成形体の表面に形成された凹部10aに挿入して成形体の表面に突状物を設ける。具体的には、瞬間接着剤を用いた方法で行うのが好ましい。
【0049】
そして、第4工程において、表面に突状物が設けられた成形体を焼成する。ここでの焼成は、第1実施形態と同一条件で行うことができる。この形態における突状物は、焼成が一度行われ、既に焼結体となっているため、成形体の焼結と、突状物と成形体との接合を主な目的とするものである。また、突起11を除いたペレットの好ましい大きさは、上記第1実施形態と同様である。
【0050】
第4実施形態では、上述の第1〜第3実施形態と異なり、この第3工程において、成形体の表面に凹部を設ける必要はないが、後工程の表面処理を考慮して、第3工程において形成される成形体の厚さを第1〜第3実施形態における成形体よりも厚く形成する必要がある。
【0051】
この実施の形態では、通常の蒸着材の製造工程と同様、第3工程に続いて成形体を所定の温度で焼成し焼結体を得る(第4工程)。第4工程に続いて、この焼結体の表面に機械研削処理又は化学浸食処理を施すことにより基部10aの表面に突起11を形成する(第5工程)。機械研削処理には、旋盤・フライス加工、レーザー加工又は水圧式加工を好適に用いることができる。また、化学浸食処理には、酸アルカリ処理を好適に用いることができる。
【0052】
続いて、基部10aの上面に設置するマスク10bの製造手順について説明する。マスク10bを、基部10aの形成に用いた材料と同一組成の材料によって形成する場合は、突起11の形成を行う第5工程を経る必要がないこと、及び貫通孔12を形成する点を除き、上記基部10aの製造手順とほぼ同じ方法にて製造することができる。即ち、基部10aの製造手順における上記第1〜第3工程を経ることによって成形体を得た後、この成形体を上記基部10aの製造手順における第4工程と同じ条件で焼成し焼結体を得る。このとき、ペレットの大きさは、直径が基部10aの直径と同じ5〜50mmであることが好ましい。一方、厚さは、後工程で形成する貫通孔12の高さに相当するため、突起11の最大高さhの1.2〜3倍、好ましくは1.3〜1.5倍とする。
【0053】
マスク10bを、基部10aの形成に用いた材料よりも導電率の低い材料により形成する場合は、上記基部10aの製造手順における第1工程において、材料の組成を変更する以外は、上記方法と同様に、成形体を得る。そしてこの成形体を上記基部10aの製造手順における第4工程と同じ条件で焼成し焼結体を得ることができる。
【0054】
このようにして得られた焼結体に貫通孔12を設ける方法としては、機械研削処理又は化学浸食処理を施す方法である。例えば、次の第1〜第3の方法が挙げられる。第1の方法は、ダイヤモンド電着工具(ドリル)を用いた機械研削処理方法である。具体的には、このドリルを利用して穴開け加工を行う。これにより、図1又は図2に示すような円柱状、即ち上面からの形状が円形状の貫通孔12を設けることができる。
【0055】
第2の方法は、レーザーを用いた加工処理方法である。具体的には、例えば、YAGレーザーを用いて切削加工を行う。これにより、上面からの形状がハニカム状の貫通孔12を設けることができる(図示しない)。第3の方法は、ブラスト加工を利用したドライエッチング処理方法である。具体的には、加工したい形状のマスクを固定し、微細砥粒を高圧のエア又はガスと一緒に表面に吹付けて加工する。これにより、図4に示すように、上面からの形状が格子状の貫通孔12を設けることができる。上記第1〜第3の方法によって焼結体に所望の貫通孔12を設けることにより、本発明の蒸着材10を構成するマスク10bを得ることができる。なお、上記第1〜第3の方法では、予め基部10aに突起11を形成した位置を記憶しておき、このデータに基づいて貫通孔12をあける位置を決める。
【0056】
上述の方法によって得られたマスク10bを基部10aの上面に設置する。このとき、すべての突起11を貫通孔12が収容するように基部10a上面にマスク10bを設置する。
【0057】
次に、本発明により製造された蒸着材及び上記RPD装置を用いて、RPD法により蒸着膜を成膜する成膜工程について説明する。
【0058】
先ず、図6に示すRPD装置60において、本発明により製造された蒸着材10をハース64に装填し、基材ホルダ68に基材67を装着する。基材67としては、ガラス基材、半導体ウェーハ、樹脂フィルム等が例示される。次に、図示しないターボ分子ポンプによりチャンバ61内を真空引きする。その後、Arガスをガス供給口61aからチャンバ11内に供給し、チャンバ61内の全圧を5×10-3〜3×10-2Paに制御する。また、必要に応じて酸素ガスを混合しても良い。またバイアス制御手段を稼働させ、基材ホルダ68に所定のバイアス電圧を印加して、基材ホルダ68をチャンバ61に対し負の電位に保持する。次に、プラズマビーム発生器62からアーク放電を行い、プラズマビームコントローラ66により磁界を発生させ、アークプラズマをハース64に装填した蒸着材10側へと導く。
【0059】
そして、プラズマビーム発生器62からアーク放電を行う際、図5に示すように、プラズマ放電電流を一定勾配αでA値まで増加させることにより蒸着材10の昇華を開始させる。このように、蒸着材10の昇華が開始するまで一定勾配αでプラズマ放電電流を増加させるのは、初期段階の昇華を促進するための高エネルギーを投入する必要があるためであるが、本発明の蒸着材を用いることにより、A値を30〜40アンペアの範囲とすることができる。これは本発明の蒸着材を用いれば、蒸着材が有する突起にプラズマの集中的な照射がおこるため、従来よりも低エネルギーで昇華を開始させることができるからである。これにより、高エネルギーの投入又は急激な加熱による蒸着材の割れを防止することができ、蒸着材の割れによって生じていた成膜速度の変動や割れ端面から発生するスプラッシュの発生を解消することができる。また、基材や膜へのダメージも低減できる。
【0060】
続いてA値よりも低い電流値であるB値まで低下させて基材67へ蒸着膜の成膜を継続する。ここでB値まで電流値を低下させても安定成膜が行われるのは、一度蒸着材表面から蒸発又は昇華が行われると表面が活性状態となり、少ない電流でも蒸発又は昇華が可能となるためである。B値としてはA値よりも低い電流値である10〜80アンペアの範囲内で選択される。B値を上記範囲内としたのは、下限値未満では蒸発又は昇華が停止してしまって成膜されず、上限値を越えると安定した成膜を維持することができない、また成膜速度の制御が困難になる等の不具合を生じるためである。
【0061】
蒸着材10はアークプラズマに晒され昇華すると同時にプラズマ中でイオン化し、イオン化した蒸着材料は、バイアス電圧による電界によって加速され、基材67に向かい、高エネルギーで基材67表面に蒸着する。
【0062】
以上、本発明の蒸着材を用いることにより、特に蒸着材の昇華が始まる初期段階において、従来よりも低エネルギーでの成膜を実現し得る。これにより、成膜工程における低エネルギー化が図られるとともに、高エネルギーの投入又は急激な加熱による蒸着材の割れを防止することができ、蒸着材の割れによって生じていた成膜速度の変動や割れ端面から発生するスプラッシュの発生を解消することができる。また、基材や膜へのダメージも低減できる。
【0063】
更に、装置の改良を行うことなく昇華した蒸着材料に指向性を付与し得るため、膜厚や組成にムラが生じるといった不具合を解消できる。また、昇華した蒸着材料による装置内部の汚染を防止し、或いは材料の有効利用が可能になる。
【0064】
また、本発明の蒸着材を用いて形成された蒸着膜は、従来よりも低エネルギーで成膜され、ダメージの少なく、高い導電率を発現し得る。
【実施例】
【0065】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0066】
<実施例1>
先ず、純度が99.7%の高純度ZnO粉末と、純度が99.5%の高純度Ga23粉末と、バインダと、有機溶媒とを用意した。これらを混合して、濃度が30質量%のスラリーを調製した。このとき、ZnO粉末は平均粒径が2μm、Ga23粉末は平均粒径が1.5μmのものを使用し、有機溶媒としてはエタノールを用い、バインダとしてはポリビニルブチラールを用いた。また、バインダの添加量は0.5質量%とした。また、Ga23粉末は、形成後の蒸着材に含まれるGa元素が、5質量%含まれるように添加した。これらをボールミルによる湿式混合により、濃度30質量%のスラリーを調製した。
【0067】
次に、調製したスラリーをスプレードライヤを用いて噴霧乾燥し、平均粒径が200μmの混合造粒粉末を得た後、この造粒粉末を所定の型に入れて一軸プレス装置によりプレス成形した。そして、得られた成形体の表面に、プレスにより凹部を形成した。
【0068】
次に、上記得られた混合造粒粉末の一部を、成形体の表面に形成した凹部の開口部に相応した半径を有する円錐状の雌型の金型に詰め、50MPaの圧力で加圧した。得られた円錐体を金型から取り出し、この円錐体の基部を、造粒粉末を作製する時に用いたバインダを接着剤として上記凹部に挿入接着し、成形体の表面に突状物を設けた。
【0069】
次に、突状物が設けられた成形体を大気雰囲気中1300℃の温度で5時間焼結させることにより、基部表面から高さが3mmであって、突起の基部表面から突出する部分の最大径が2mmである円錐状の突起を33個有する基部を得た。また、この基部の突起を除いた厚さ及び直径は、それぞれ20mm、30mmであった。
【0070】
続いて、上記得られた混合造粒粉末の一部を所定の型に入れて一軸プレス装置によりプレス成形し、上記成形体とは別の成形体を得た。この成形体を大気雰囲気中1300℃の温度で5時間焼結させることにより、厚さ及び直径がそれぞれ4.5mm、30mmの焼結体を得た。この焼結体に、機械研削処理として、ダイヤモンド電着工具(ドリル)を用いて穴開け加工を施した。これにより、円柱状、即ち上面からの形状が円形状の貫通孔を有するマスクを得た。
【0071】
最後に、上記得られた基部のすべての突起を貫通孔が収容するように、基部上面に上記マスクを設置することにより、次の表1に示すZnO蒸着材を得た。
【0072】
<実施例2>
YAGレーザーを用いて、切削加工を施すことにより、上面からの形状がハニカム状の貫通孔を有するマスクを得たこと以外は、実施例1と同様に、ZnO蒸着材を得た。
【0073】
<実施例3>
ブラスト加工を利用したドライエッチング処理方法により、上面からの形状が格子状の貫通孔を有するマスクを得たこと以外は、実施例1と同様に、ZnO蒸着材を得た。
【0074】
<比較例1>
マスクを設置しなかったこと以外は、実施例1と同様に、ZnO蒸着材を得た。即ち、この蒸着材は、実施例1〜3の蒸着材を構成する基部に相当するものである。
【0075】
<比較例2>
焼結体の表面に突起状形成物を付与しなかったこと及びマスクを設置しなかったこと以外は、実施例1と同様に、ZnO蒸着材を得た。即ち、この蒸着材には突起が形成されておらず、マスクも設置していないものである。
【0076】
【表1】

<比較試験及び評価>
実施例1〜3及び比較例1,2で得られた蒸着材、及び図6に示すRPD装置を用い、ガラス基材に蒸着膜を成膜した。その際、図5に示すように、プラズマ放電電流は、一定勾配αを5アンペア/分に設定し、蒸着材の昇華が開始するA値まで上昇させた。続いて20アンペア(B値)まで低下させ、以降B値に固定して蒸着膜の成膜を行った。
【0077】
蒸着材の昇華が開始したプラズマ放電電流のA値、昇華した蒸着材料の直進度、装置内部における蒸着材料の付着度、異常放電の発生の有無及び蒸着膜の導電率を評価した。これらの結果を以下の表2に示す。直進度は、蒸着材上方の一定空間内を通過する昇華した蒸着材料の割合を、ダミー基板への付着量を測定することにより算出した。即ち、直進度が100%の場合、昇華した蒸着材料は、この空間内を100%通過したことを意味する。一定空間とは、図6において、ハース64から基材67までの距離を高さ、ハースの内径を底面とする円筒状の空間をいう。装置内部への付着度は、装置内部の特定部位において、比較例1の蒸着材を用いて蒸着した際に付着した蒸着材料の付着量を100とした際の相対比率により示した。異常放電の発生の有無は、B値の電流に対して±50%以上の電流値の増減がある場合を「あり」と評価した。更に、導電率は、三菱化学社製のロレスタ(HP型、MCP−T410、プローブは直列1.5mmピッチ)を用い、雰囲気が25℃の所謂常温において定電流印加による4端子4探針法により測定した。
【0078】
【表2】

表1及び表2から明らかなように、実施例1〜3と比較例1,2を比較すると、実施例1〜3では直進度が非常に高く、昇華した蒸着材料に十分な指向性が付与されていることが判る。その結果、実施例1〜3では比較例1,2よりも非常に付着度が低く、装置内部において余分に付着する蒸着材料も大幅に低減された。また、比較例2と比較すると、実施例1〜3では、突起の存在によって低エネルギーによる成膜が可能であったことから、異常放電も発生せず、膜に与えるダメージも少なかったため、高い導電率の蒸着膜を成膜することができた。
【符号の説明】
【0079】
10 蒸着材
10a 基部
10b マスク
11 突起
12 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性プラズマ蒸着法により蒸着膜を成膜するための蒸着材であって、
前記蒸着材(10)は上面に1又は2以上の突起(11)が形成された基部(10a)と、少なくとも前記突起(11)と同数の貫通孔(12)が前記突起(11)と対応する位置に設けられ前記基部(10a)の上面にすべての前記突起(11)を前記貫通孔(12)が収容するように設置されたマスク(10b)とを含み、
前記突起(11)は前記基部(10a)表面からの最大高さhが1〜10mmであり、前記基部(10a)表面から突出する部分の最大幅wが1〜10mmであり、
前記マスク(10b)に設けられた貫通孔(12)は高さHが前記突起(11)の最大高さhの1.2〜3倍であり、かつ幅Wが前記突起(11)の最大幅wの1〜4倍である
ことを特徴とする蒸着材。
【請求項2】
前記突起(11)は前記基部(10a)の形成に用いた材料と同一組成の材料を用いて円錐状又は半球状に形成された焼結体、或いは前記同一組成の材料を焼成して得られた焼結体を粉砕して得られた粉砕物からなる請求項1記載の蒸着材。
【請求項3】
前記突起(11)は前記基部(10a)の表面に機械研削処理又は化学浸食処理を施すことにより形成された請求項1記載の蒸着材。
【請求項4】
前記マスク(10b)が前記基部(10a)の形成に用いた材料と同一組成の材料により形成された請求項1ないし3いずれか1項に記載の蒸着材。
【請求項5】
前記マスク(10b)が前記基部(10a)よりも導電率の低い材料により形成された請求項1ないし3いずれか1項に記載の蒸着材。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1項に記載の蒸着材を用いて形成された蒸着膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−149040(P2011−149040A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9719(P2010−9719)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】