説明

蒸着温度計測装置、蒸着装置

【課題】蒸着時の蒸着対象物の温度を正確かつ精密に取得することのできる蒸着温度計測装置、及びこれを用いた蒸着装置を提供することを目的とする。
【解決手段】受熱量に応じた検出信号を出力する温感素子と、温感素子からの出力信号を記録する記憶部と、を含む電子温度センサと、蒸着面に貫通孔の設けられた基板と、を備え、基板の貫通孔内に電子温度センサを配設した蒸着温度計測装置とする。また、この蒸着温度計測装置をコートドームに配設した蒸着装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着温度を測定する装置、特にレンズに機能性膜を成膜する際の温度を計測する蒸着温度計測装置、及びそれを備えた蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば眼鏡レンズ等のレンズにおいて、その表面に反射防止膜や撥水膜等の機能性薄膜を設けることがある。
こうした薄膜は、成膜材料を気化しレンズ表面に付着させる蒸着法によって成膜される。例えば、下記特許文献1では、蒸着材料を気化させる電子銃の制御方法について開示されている。
【0003】
下記特許文献1では、初めに蒸着原料が確実に気化する出力よりも小さい初期出力で蒸着材料の加熱を開始する。そして、所定の時間が経過するまでは加熱部の出力を徐々に増大させ、その後、出力のフィードバック制御へと移行する。
すなわち、蒸着した薄膜の膜厚を光学式膜厚計にて測定可能な状態まで移行させてから、フィードバック制御を開始させるものである。これにより、気化開始の出力に個体差のある蒸着材料であっても、成膜した薄膜に吸収などの不具合を生じることなく、かつ、蒸着処理全体の加工時間が無駄に増大するのを防ぐことができるとされている。
【0004】
また、下記特許文献2では、イオンアシスト法による蒸着において、イオン銃に導入する複数種類のガスの導入流量の設定値を変更するにあたり、段階的に設定値を変更しながら目的の設定値へと移行することが記載されている。
これにより、一旦現在の設定値をリセットすることなく成膜を行えるため、成膜時間を短縮することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−77519号公報
【特許文献2】国際公開第2007/114118号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2では、例えば蒸着室内の側壁近傍に設けられた基板温度計によって蒸着室内の温度を計測し、蒸着時の温度条件を管理している。
ところが、実際には、こうした基板温度計によって計測された蒸着室内の温度と、蒸着を行うレンズ表面の実温度とが異なる場合がある。
【0007】
蒸着時において、蒸着室内は高真空環境となるため、熱伝導の媒体となる気体の原子数が極端に少ない。したがって、ヒータ等の周囲環境からレンズ基板への熱伝導率は著しく低下する。
このため、レンズの蒸着面の温度を上昇させようとして蒸着室内の温度を上昇させても、レンズ表面の実際の温度は基板温度計で計測された温度よりも低くなってしまうことがある。
また、レンズの温度を下げようとしても、レンズから周囲環境への放熱量が小さいため過熱状態が維持され、レンズ表面の実温度は基板温度計によって計測された温度よりも実際には高くなってしまうことがある。
【0008】
蒸着時の温度は、基板温度計によって計測された温度により管理されるので、上述の場合には、設定温度と実際のレンズ表面の温度が異なったまま蒸着が行われることになる。
したがって、例えば反応性蒸着を行っている場合にレンズの温度が低すぎると、酸化等の反応活性が低くなり、所望の膜を形成することができなくなる恐れがある。また、原料の屈折率が膜の仕様屈折率よりも低くなったり、例えば反射防止膜を成膜する場合には密着性が悪くなってしまったりする可能性がある。
また、レンズの温度が高い場合には、レンズ基板の劣化やクラックが生じたり、多層蒸着の場合には、層間の元素移動が発現したりして、光学特性に影響を及ぼしてしまうことも考えられる。
【0009】
これを防ぐ方法の一つとして、例えば不可逆性のサーモラベルをレンズ基板上に配置し、レンズ表面の温度を直接測定する方法がある。サーモラベルは、その測定対象に直接貼り付けることができ、ある一定の温度に達すると変色する薬剤が表面に塗布されている。
例えば不可逆性のサーモラベルの場合、温度の上昇により一度変色すると、その後たとえ温度が下がったとしても変色は消えずに残る。
このため、例えばレンズ基板上面にサーモラベルを貼り付けて蒸着を行い、蒸着後のサーモラベルの変色を確認することで、蒸着中における最高温度を確認することが可能である。また、サーモラベルは薄いため熱容量も小さく、レンズ基板表面に直接貼り付けられることから、蒸着面の実温度をある程度正しく測定することができる。
【0010】
ところが、サーモラベルでは、一般的に温度が薬剤の融点に達することによって変色を生じさせている。したがって、融点の異なる複数の薬剤を配置することによって温度の刻みを設けているため、例えば5℃程度の間隔での計測となり温度の刻みが大きい。このため、精密な温度管理を行うことができない。
【0011】
また、サーモラベルでは、例えば上述のように、蒸着時の最高温度等の一時点における温度情報が取得されるものであり、蒸着時の温度履歴を時系列に知ることはできない。
可逆性のサーモラベルを用いれば、温度に応じて常時色が変化するので、時系列データを取得することは可能であるが、蒸着の間ずっと色の変化を監視し続けるのは非常に手間がかかる。
【0012】
そこで本発明は上記課題に鑑み、蒸着時の蒸着対象物の温度を正確かつ精密に取得することのできる蒸着温度計測装置、及びこれを用いた蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明による蒸着温度計測装置は、受熱量に応じた検出信号を出力する温感素子と、温感素子からの出力信号を記録する記憶部と、を含む電子温度センサと、蒸着面に貫通孔の設けられた基板とを備える。
また、この電子温度センサは、基板の貫通孔内に配設される。
【0014】
また、本発明の蒸着装置は、蒸着室内に配設され、蒸着材料を収容する容器と、蒸着材料を気化する加熱源と、蒸着材料の上方に配設され、レンズ基板が設置されるコートドームと、蒸着室内を排気する排気部と、加熱源と排気部を制御する制御部と、を含む。
また、受熱量に応じた検出信号を出力する温感素子と、温感素子からの出力信号を記録する記憶部と、を含む電子温度センサと、電子温度センサが配設される貫通孔が蒸着面に設けられた基板と、を備え、コートドームに配設される蒸着温度計測装置と、を含む。
【0015】
本発明の蒸着温度計測装置によれば、基板の蒸着面に設けられた貫通孔内に電子温度センサを配設するため、蒸着面近傍における温度を直接測定することができる。
また、電子温度センサによって温度を測定するため、サーモラベルに比べて刻み幅の小さい温度データが取得される。
【0016】
また、本発明の蒸着装置によれば、上述の蒸着温度計測装置がコートドームに配設されるため、蒸着対象と同等の環境にて、温度の計測を行うことができる。
【0017】
また、上述の電子温度センサはサーモボタンであることが望ましい。小型の電子温度センサであるサーモボタンを用いることにより、容易に貫通孔内に配設でき、かつ刻み幅の小さい温度データの取得が可能となる。
【0018】
また、基板には、レンズ基板を用いることにより、製造時において実際にレンズ基板に蒸着を施すのと同等の環境下で温度計測を行える。
【0019】
また、電子温度センサを基板の貫通穴に配設することによって、その温感素子または受熱面を、基板の蒸着面近傍に配設することが好ましい。これにより、蒸着面そのものの温度を直接測定することが可能となり、より正確な温度データを取得できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、蒸着面近傍における温度を、細かい温度の刻み幅で、直接測定することができる。このため、正確かつ精密な蒸着温度の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る蒸着温度計測装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る蒸着装置を示す概略構成図である。
【図3】Aは実施例1における蒸着温度計測装置の上面図であり、Bはその側面図であり、Cは比較例1においてレンズ基板上にサーモボタンを配置した様子を示す上面図であり、Dはその側面図であり、Eは比較例2においてレンズ基板上にサーモラベルを配置した様子を示す上面図であり、Fはその側面図である。
【図4】A,C,E,G,Iは実施例1、比較例1において測定された温度を示す説明図であり、B,D,F,H,Jは比較例2におけるサーモラベルを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態に係る蒸着温度計測装置及び蒸着装置について、図1〜図4を基に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0023】
図1は、本実施形態による蒸着温度計測装置100の構成を示す概略構成図である。
本実施形態による蒸着温度計測装置100は、主面1aに貫通孔3の設けられた基板1と、
貫通孔3内に配設された電子温度センサ2と、を含む。
【0024】
基板1には、例えば平板状の樹脂基板を用いることができる。基板1を構成する材料としては、蒸着を行うレンズ基板の熱伝導率に近いものが好ましい。また特に、レンズ基板を用いると、蒸着装置100への熱伝導を、蒸着を行うレンズ基板と同等にでき、レンズ基板表面の実際の蒸着温度をより正確に計測することができるので、より好ましい。
【0025】
基板1の蒸着面とされる主面1aには、例えばその中央部付近に貫通孔3が設けられている。また、この貫通孔3内には、電子温度センサ2が配設されている。
電子温度センサ2は、略円柱状に形成されており、一方の端面である上面2aと他方の端面である底面2bとを有している。
電子温度センサ2は、受熱量に応じた検出信号を出力する温感素子を備えているものであれば特に限定しない。また、温感素子からの出力信号を補正、成形したり、温度情報に変換する演算処理部や、この演算処理部または温感素子からの出力信号を記録する記憶部を備えていてもよい。こうした記憶部を備えている場合には、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等に接続し、記憶部に記録された温度データを読み出すことが可能とされることが好ましい。このような電子温度センサ2としては、例えばサーモボタンを用いることが可能である。
【0026】
また、本実施の形態では、電子温度センサ2の底面2bと基板1の底面1bとの間には空間が設けられている。したがって、蒸着温度計測装置100を例えば蒸着装置内に載置しても、電子温度センサ2の底面は、その載置面に接触せず、基板1とのみ接触する構成とされている。
【0027】
電子温度センサ2を貫通孔3内に配設する方法については特に限定しない。例えば、図1では電子温度センサ2の上面2aにフランジ部を設け、フランジ部を基板1の主面1aに固定する図としてある。
他にも、貫通孔3内にその内壁から一部突出する突出部を設け、この突出部と電子温度センサ2の底面2bを接触固定してもよい。
【0028】
ただし、電子温度センサ2の受熱面または温感素子が基板1の上面と同じ高さ、もしくはその近傍に配置されるように電子温度センサ2を配設することが好ましい。
これにより、基板1の蒸着面位置における温度を計測することができ、レンズを蒸着する際のレンズ蒸着面と同等の環境による温度計測が可能となる。
【0029】
この蒸着温度計測装置100は、蒸着装置200に取り付けられ、蒸着時のレンズ温度を計測する。
図2は、本実施形態による蒸着装置200を示す概略構成図である。
本実施形態による蒸着装置200は、例えばレンズ等の蒸着対象が内部に載置される蒸着室10と、蒸着室10内に配設され、蒸着材料を収容する容器20と、容器20内に収容された蒸着材料を気化する加熱源30と、を備える。
また、蒸着材料の上方に配設され、レンズ基板110が配置されるコートドーム50と、蒸着室10内を排気する排気部60と、加熱源30と排気部60を制御する制御部70と、を備える。
【0030】
蒸着室10内の例えば下方には蒸着材料を配置するルツボ等によって構成される容器20が配置されている。この容器には、例えば蒸着材料20,21のように複数の材料を配置することが可能とされている。
また、加熱源30は、例えば電子銃によって構成され、電子ビームを蒸着材料20,21に照射することにより、蒸着材料20,21を気化させる。複数種の蒸着材料を容器20内に別々に配置する場合、複数の電子銃を配置し、それぞれの蒸着材料に別々に電子ビームを照射するようにしてもよい。
また、シャッタ23を開閉自在に設け、容器20から気化した蒸着材料の遮断、開放を制御してもよい。
【0031】
容器20の上方には、コートドーム50が配設され、このコートドーム50の下面にレンズ基板110が配置される。
なお、この蒸着室10内の上部には、モニターガラス91が配設されており、気化した蒸着材料20、21をモニターガラス91に蒸着させることが可能とされている。
モニターガラス91に蒸着された蒸着膜は、光学式膜厚計90によってその膜厚が計測される。この計測されたデータは制御部70に送られ、レンズ基板110に成膜された蒸着膜の膜厚が管理、監視される。
【0032】
また、蒸着室10内には、ガス発生装置41によって蒸着膜の強度や膜質を改善するためのガスが充填される。このガス雰囲気中にて、イオン銃40からのイオンビームをレンズ基板110に照射することで蒸着をアシストし、蒸着膜の強度や膜質を改善する。
【0033】
また、排気部60は蒸着室10内を排気し、蒸着室内を所定の真空度とする。この真空度は、真空計7によって計測され、制御部70に送られる。
また、ヒータ80は、例えばハロゲンヒータ等が用いられ、蒸着を行うレンズ基板110を予熱する。
【0034】
また、制御部70は、シーケンサユニットが主体であるが、これに指令を送るPC(パーソナルコンピュータ)等を備え、シャッタ23,加熱源30,イオン銃40,ガス発生装置41,排気部60,ヒータ80等の制御を行う。
【0035】
本実施形態の蒸着装置200において、蒸着温度計測装置100は、コートドーム50の中央部付近または端部の下面に配設されている。すなわち、図1における基板1の上面を蒸着面として下方に向け、コートドーム50の下面に固定されている。
これにより、コートドーム50に配設されたレンズ基板110と同様の環境下において温度が計測される。また特に、電子温度センサ2は基板1に設けられた貫通孔3内に配設されているため、蒸着面近傍の温度を直接測定することができ、より正確な温度を計測することが可能である。
【0036】
また、蒸着温度計測装置100の電子温度センサ2を、例えば制御部70や外部のモニタ等に接続する構成とし、計測される蒸着温度を常時管理、監視するようにしてもよい。
【0037】
2.実施例
<実施例1>
(1)蒸着温度計測装置
以下に、本発明による蒸着温度計測装置、蒸着装置の実施例について説明する。
図3Aの上面図及び図3Bの側面図に示すように、蒸着温度計測装置100の基板1(図1参照)には、直径70mm、厚さ6.1mmの平板状のレンズ基板(屈折力0D)を用い、その主面1aの中央部に11.5mm径の貫通孔3を設けた。
また、電子温度センサ2には、サーモボタン(ダグラス・セミコンダクター社製)を用い、上述の貫通孔3内に配設することによって蒸着温度計測装置100を構成した。
(2)蒸着装置
蒸着装置には、上述の構成による蒸着温度計測装置100をコートドーム50に配設し、蒸着装置200(図2参照)を構成した。また、蒸着材料にはSiOとNbを用い、真空度3×10−3Paの条件にて蒸着を行った。
そして、蒸着が終了すると、サーモボタンを取り出してPCに接続し、記録された温度データを読み出した。
【0038】
<比較例1>
図3Cの上面図及び図3Dの側面図に示すように、直径70mmの切削、研磨後のレンズ基板4の凹面上にサーモボタン5を配置し、テープ材6によってレンズ基板4とサーモボタン5とを固定した。
そして、この基板4の凹面側を蒸着面として蒸着装置200のコートドーム50に配設したこと以外は、実施例1と同様にして蒸着を行った。
【0039】
<比較例2>
図3Eの上面図及び図3Fの側面図に示すように、直径70mmの切削、研磨後のレンズ基板7の凹面上に5点表示タイプ(75℃,80℃,85℃,90℃,95℃)のサーモラベル(thermodemand 4E:日油技研工業社製)8を貼り付けた。そして、凹面側を蒸着面として蒸着装置200のコートドーム50に配設したこと以外は、実施例1と同様にして蒸着を行った。
【0040】
なお、実施例1の蒸着温度計測装置100、及び比較例1,2におけるレンズ基板4,7を蒸着装置200のコートドーム50に一緒に配置しており、一度の蒸着過程において、実施例1、比較例1,2を同時に実施した。
また、同様の実験を繰り返すことにより、上述の実施例及び比較例をそれぞれ合計5回実施し、蒸着時の温度の計測を行った。
【0041】
図4A〜図4Jに実施例1、比較例1,2の結果を示す。図4A,C,E,G,Iは5回実施した実施例1及び比較例1においてそれぞれ計測された温度であり、横軸は時間(分)、縦軸は計測された温度(℃)である。また、図4B,D,F,H,Jは5回実施した比較例2におけるサーモラベルを示す模式図である。
【0042】
1回目においては、比較例2の図4Bに示すサーモラベルの表示から、レンズ基板4の蒸着面の最高温度は、75℃以上80℃未満であったことがわかる。
これに対して、図4の線L1に示す比較例1では、30℃程の初期温度から序々に温度が上昇し、最大で60℃よりわずかに大きい程度の温度が計測されている。
比較例1では、レンズ基板4の凹面上にサーモボタン5が配設されているため、サーモボタン5によって影になった部分の温度の上昇がにぶる。サーモボタン5はこの部分の温度の影響を受けることにより、実際のレンズ基板4の蒸着面の温度よりも低くなってしまっている。
【0043】
一方、本実施形態による蒸着装置100を用いた実施例1では、図4Aの線L1に示すように、最高温度がおよそ75℃程であり、サーモラベルを用いた比較例2とよく一致しており、正確に温度を計測できているものと考えられる。
実施例1においては、サーモボタンが基板1の主面1aに設けられた貫通孔3内に配設され、サーモボタンの底面2b側は基板1には接触せず空間となっている。したがって、比較例1のような温度が低下した領域に直接接触することが無い。また、この空間は真空となることにより熱伝導も小さいため、サーモボタンの下面側の環境による影響を受けることなく、正確な温度計測を行うことができる。
【0044】
また、貫通孔3内にサーモボタン等の電子温度センサ2を配設することにより、その受熱面または温感素子を蒸着面と同一面内もしくはその近傍に配置することが可能である。これにより、蒸着面と同等の環境にて温度が計測されるため、より正確な温度を計測することができる。
また、サーモボタンは、受熱量に応じた検出信号を出力する温感素子とその検出信号を記録するメモリを備えた電子センサであり、蒸着面温度の時系列データを取得することができる。このため、サーモラベルによる温度計測よりも、より詳細な温度データを取得することができる。また、サーモボタン等のこうした電子温度センサを用いることにより、例えば0.1℃程度の高分解能で温度を計測することができるため、より精密な温度の測定が可能となる。
【0045】
2回目の蒸着においても、図4Dの比較例2に示すように、サーモラベルでは75℃以上80℃未満の計測温度となっている。また、図4Cの線L4の比較例1では最高温度が65℃程度と、10℃も低くなっている。
これに対して、実施例1の線L3では、最高温度がおよそ78℃であり、サーモラベルによって計測された温度とよく一致している。
【0046】
また、3回目の蒸着では、図4Fに示すように、蒸着面の最高温度が75℃以上80℃未満となっているのに対し、図4Eの線L6に示す比較例1では、最高温度が64℃と低い温度が計測されている。
一方、実施例1による図4Eの線L5では、最高温度が79℃であり、サーモラベルを用いた比較例2とよく一致する。
【0047】
また同様に、4,5回目においても、図4H,Jに示すように、サーモラベルを用いた計測では、蒸着面の最高温度は、75℃以上80℃未満である。
これに対し、図4Gの線L8、図4Iの線L10に示す比較例1では、最高温度は65℃程度であり、正確な温度の計測ができていないと考えられる。
一方、実施例1による図4Gの線L7、図4Iの線L9では、最高温度がそれぞれ75℃、79℃であり、サーモラベルを用いた比較例2とよく一致する。
【0048】
このように、本発明によれば、基板に設けた貫通孔内にサーモボタン等の電子温度センサを配設した蒸着温度計測装置を例えばコートドームに配置することにより、蒸着を行うレンズ基板と同等の環境にて温度を測定することができる。
また、貫通孔内に電子温度センサを配設することにより、電子温度センサの受熱面または温感素子を蒸着面と同一面内、またはその近傍に配置することが可能であるため、蒸着面そのものの温度をより正確に測定することが可能である。
【0049】
以上、本発明による蒸着温度計測装置、及び蒸着装置の実施の形態について説明した。本発明は上記実施の形態にとらわれることなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、考えられる種々の形態を含むものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0050】
1・・・基板、2・・・電子温度センサ、3・・・貫通孔、4,7,110・・・レンズ基板、5・・・サーモボタン、6・・・テープ材、8・・・サーモラベル、10・・・蒸着室、20・・・容器、21,22・・・蒸着材料、23・・・シャッタ、30・・・加熱源、40・・・イオン銃、41・・・ガス発生装置、50・・・コートドーム、60・・・排気部、61・・・真空計、70・・・制御部、80・・・ヒータ、90・・・光学式膜厚計、91・・・モニターガラス、100・・・蒸着温度計測装置、





【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着面に貫通孔の設けられた基板と、
受熱量に応じた検出信号を出力する温感素子と、前記温感素子からの出力信号を記録する記憶部と、を含む電子温度センサと、
を備え、前記電子温度センサは、前記基板の貫通孔内に配設された
蒸着温度計測装置。
【請求項2】
前記電子温度センサはサーモボタンである請求項1に記載の蒸着温度計測装置。
【請求項3】
前記基板は、レンズ基板である請求項1又は2いずれか1項に記載の蒸着温度計測装置。
【請求項4】
前記電子温度センサの温感素子または受熱面は、前記基板の表面近傍に配設される請求項1〜3に記載の蒸着温度計測装置。
【請求項5】
蒸着室内に配設され、蒸着材料を収容する容器と、
前記蒸着材料を気化する加熱源と、
前記蒸着材料の上方に配設され、レンズ基板が設置されるコートドームと、
前記蒸着室内を排気する排気部と、
前記加熱源と前記排気部を制御する制御部と、
受熱量に応じた検出信号を出力する温感素子と、前記温感素子からの出力信号を記録する記憶部と、を含む電子温度センサと、前記電子温度センサが配設される貫通孔が蒸着面に設けられた基板と、を備え、前記コートドームに配設される蒸着温度計測装置と、
を含む
蒸着装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−12660(P2012−12660A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150137(P2010−150137)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】