説明

蒸着装置のメンテナンス方法

【課題】蒸着時における真空度の制御性を向上するために、蒸着装置のメンテナンスを適切に行うことを目的とする。
【解決手段】排気手段11を所定の減圧能力に保持した状態で、真空容器10内を排気し、所定の排気時間経過後の真空容器10内の圧力が基準圧力値よりも高い場合に、真空容器10内の蒸着物の除去を行う。多数の基板に蒸着を行う蒸着装置において、メンテナンスのタイミングを最適化することで、真空度の変動による蒸着膜の特性のばらつきを抑え、歩留まりの向上を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ等の蒸着対象物に対して反射防止膜等の蒸着を良好に行うための蒸着装置のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズや光学フィルム等の光透過性の基板の表面には、光の反射による見えにくさを解消するために、反射防止膜が施される。反射防止膜には、高い反射防止効果を得る構成として、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層して成膜された積層膜が広く用いられている。そしてこの積層膜は、入射光の波長帯域と、この波長帯域における高屈折率層及び低屈折率層の各屈折率とから個々の層の膜厚が設定されて、目的とする波長帯域の光に対して最も反射しにくい状態になるように構成される。
【0003】
低屈折率層形成用の蒸着材料としては、二酸化珪素(SiO)がよく用いられている。二酸化珪素は膜の硬度が高いので、反射防止膜を形成する基板が例えば合成樹脂、すなわちプラスチックレンズ等のように表面が比較的柔らかく傷つきやすい場合に、その欠点を補うことができるという利点を有する。高屈折率層形成用の蒸着材料としては、酸化タンタル(Ta)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化二オブ(Nb)などが用いられている(特許文献1参照)。
【0004】
このような反射防止膜等の各種の光学機能膜の多くは一般的に蒸着により成膜される。一方、蒸着装置においては、蒸着材料が不要な箇所に飛散するため、これを定期的に取り除くメンテナンス作業が必要である。このようなメンテナンスを容易にするために、蒸着装置内の構造について各種の工夫がなされている(特許文献2及び3参照)。
特許文献2に記載の方法では、蒸着源を保持する電極に電極カバーを設けることで、電極に付着する蒸着物を取り除くメンテナンス作業を軽減するようにしている。
特許文献3に記載の方法では、蒸着対象物を湾曲面状として蒸着源を取り囲む形状とすることで、蒸着装置内の不要な箇所への蒸着材料の付着を抑え、メンテナンス時間を短縮することを可能としている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−284778号公報
【特許文献2】特開2007−314877号公報
【特許文献3】特開2005−298895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した反射防止膜の高屈折率層形成用の材料の中で、酸化ジルコニウム、いわゆるジルコニア(ZrO)は、酸化タンタルや酸化ニオブ等と比較して安価であり、また蒸着により成膜する場合の成膜レートが高く、生産性に有利である。したがって、ジルコニアはコストの削減が可能な材料として有望である。
【0007】
しかしながら、ジルコニアを真空蒸着で成膜する場合、成膜時の真空度が屈折率に大きく影響するという問題がある。このためジルコニアを高屈折率層として用いた反射防止膜は、反射防止効果にバラツキが生じやすかった。特に、大きな真空容器になるほど、すなわち一度の蒸着で大量の基板に蒸着を行う場合ほど、このような真空度の制御が困難となってしまい、生産性が損なわれてしまうという問題があった。
【0008】
真空度を一定に保って蒸着膜の特性を良好に保持するには、蒸着装置内の定期的なメンテナンスが不可欠である。例えば特許文献2に記載されたような蒸着装置内の構造上の工夫を行うことによって、蒸着物が不要な箇所に付着することをある程度抑制することは可能であるが、蒸着回数が多くなるにつれ付着物は徐々に増加するので、真空度への影響は依然として残る。また、特許文献3に記載された方法は、基板の材料や形状が限定されるので、例えばレンズ基板への蒸着には適用することが難しい。特に、蒸着成分が金属酸化物や金属窒化物であると、金属と酸素や窒素との結合状態により蒸着表面にガスを吸着しやすい活性点が出現しやすく、吸着したガスが再放出されることにより真空度の変動を生じやすい。
【0009】
また、上述したジルコニアのような安価な材料を用いて大量の基板に蒸着を行い、コスト削減や生産性の向上を図ろうとする場合は、一度に大量の基板の蒸着を行ういわゆるバッチ式の蒸着装置を用いることが望ましい。この場合に、装置の大気解放毎にメンテナンスを行うと生産性を損なう恐れがある。一方で、成膜時の真空度によって特性が左右される材料を蒸着するためには、蒸着装置内の真空度を適切に制御することが必要である。
【0010】
以上の問題に鑑みて、本発明は、蒸着時における真空度の制御性を向上するために、蒸着装置のメンテナンスを適切に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、排気手段を所定の減圧能力に保持した状態で、真空容器内を排気し、所定の排気時間経過後の真空容器内の圧力が基準圧力値よりも高い場合に、真空容器内の蒸着物の除去を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、排気手段を所定の減圧能力に保持した状態で真空容器内を排気し、所定の排気時間経過後の真空容器内の圧力と基準圧力値とを比較することで、真空容器内の蒸着物の除去、すなわちメンテナンスを行うタイミングを決定する。このような基準でメンテナンスを行うことにより、蒸着装置内の蒸着物の付着量による真空度の変化を適切に捉えることができる。またこれにより、蒸着時の真空度を適切に制御することができるので、蒸着中の真空度によって特性の変動する材料を蒸着する場合において、特性の変動を抑えて蒸着膜を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蒸着装置のメンテナンスを行うタイミングを適切に選定しているので、蒸着時における真空度の制御を良好に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
先ず、本発明の蒸着装置のメンテナンス方法の実施の形態について説明する前に、メンテナンスと蒸着装置内の圧力の時間経過との関係について調べた結果を説明する。蒸着装置の真空容器いわゆるチャンバーの内壁には、蒸着回数を重ねることによって蒸着膜が徐々に堆積される。通常、一回、ないしは一連の蒸着処理を行った後は真空容器を大気解放する。本発明者等は、このような蒸着処理と大気解放とを繰り返しているうち、蒸着により成膜する反射防止膜の分光特性が変化することに気づいた。そこで、メンテナンスの前後において、所定の真空度に達する排気時間がどの程度変化するかを測定した。この例においては、蒸着対象物を蒸着装置内に配置せずに測定を行った。この結果を図1に示す。
【0015】
図1において、実線a1はメンテナンス前、すなわち真空容器内に蒸着膜が付着している状態で排気を行った場合を示す。一方実線a2は、メンテナンス後、すなわち真空容器内の蒸着膜を除去してクリーニングを行った後に排気した場合を示す。図1の結果から、メンテナンスの前は、実線a1で示すように、所定の圧力の例えば3.5×10−5Torr(≒4.7×10−3Pa)に至るまでに約10分の時間を要したことが分かる。これに対し、メンテナンス後の真空容器内が清浄な状態では、実線a2で示すように、5分程度で3.5×10−5Torrまで圧力が低下したことが分かる。これは、メンテナンス前は真空容器内に付着物が堆積し、表面が汚れている状態であることから、装置内部からのガス放出が多くなり、このため圧力の低下に時間を要したものと考えられる。メンテナンス後には蒸着による付着物からの放出ガスが低減することにより、排気速度が速くなっているといえる。
【0016】
このような排気状態の違いがあると、例えば反射防止膜を成膜する際に基準分光値から反射率特性がずれてしまうという問題が生じる。これは、基準分光を測定したときの真空容器内の状態と、実際に蒸着を行う際の真空容器内の状態との違いによって、蒸着条件が変化してしまうためである。この様子を図2及び図3に示す。この例では、蒸着対象物である基板として眼鏡用のプラスチックレンズを用い、反射防止膜の低屈折率材料層としてはSiO、高屈折率材料層としては金属酸化物であるZrO(ジルコニア)を用いた。
【0017】
図2は、メンテナンスの前に基準分光を合わせ、実際に反射防止膜を蒸着して反射率を測定した結果を示している。図2において、実線b1は基準値であり、破線b2は測定値であるから、両者はほぼ一致していることがわかる。
【0018】
一方、図3は、メンテナンス前に真空度、成膜速度及び膜厚をパラメータとして基準分光を合わせておき、そのパラメータにより、メンテナンス後に蒸着した場合の反射率分光特性を示したものである。図3中実線c1は基準値、破線c2は測定値を示す。図3の結果から、測定値は基準分光よりも短波長側にシフトすることがわかる。これは、メンテナンス後には蒸着装置の真空容器内の付着物が取り除かれるので、排気速度が変化し、真空度や成膜速度も変化するため、結果的に屈折率や膜厚がずれてしまうものと考えられる。
【0019】
このことから、蒸着装置の真空容器のメンテナンスを行うにあたって、そのタイミングを、圧力低下と排気時間の関係で決定することにより、設定した基準分光と実測値とのずれを抑制できることがわかる。そして、このようなタイミングでメンテナンスを行うことにより、基準分光との変位が少ない光学機能膜、例えば反射防止膜を作製することができると考えられる。
【0020】
また、蒸着装置の真空容器内に設置する基板の数によって、このようなずれが生じるかどうかも検討した。以下の例においても、基板として眼鏡用のプラスチックレンズを用い、蒸着枚数を1枚とした場合と200枚とした場合とで、それぞれ反射防止膜を蒸着により形成し、分光特性を測定した。この例においても反射防止膜の低屈折率材料層としてはSiO、高屈折率材料層としてはZrOを蒸着した。図4においては、1枚の例、図5においては200枚の例を示し、図4及び図5中実線d1及びe1はそれぞれの実測値、破線d2及びe2はそれぞれの基準分光値を示す。
【0021】
図4と図5の比較から明らかなように、基板200枚を蒸着装置内に装着して一度に蒸着を行う場合(図5)は、1枚のみを蒸着する場合(図4)と比べて、分光特性が全体的に長波長側にシフトし、特に波長λが700nm以上の波長帯域において基準分光値からより大きく反射率が低下してしまうことがわかる。反射率特性は、蒸着膜の屈折率nと膜厚dとの積(nd)に依存するが、この場合、基板の枚数が多くなることによって、屈折率nも膜厚dも共に大きくなっていると考えられる。
【0022】
また図4及び図5の結果から、蒸着する基板の枚数が多いときは、反射率等の光学特性の変動が顕著となることがわかる。これは、基板から放出されるガスが真空度に影響し、特にジルコニアのような蒸着時の真空度に特性が影響を受ける材料を蒸着する場合に、基板の枚数によっては特性のばらつきを生じさせてしまうものと考えられる。したがって、このように大量の基板を一度に蒸着する蒸着装置においては、そのメンテナンスのタイミングを適切に選定することが必要であるといえる。メンテナンスをタイミングよく行うことによって、蒸着膜の特性のばらつきを抑えて歩留まりの低下を確実に抑えることができ、生産性を格段に向上することが可能となる。
【0023】
次に、本発明の実施の形態による蒸着装置のメンテナンス方法について説明する。この例においては、比較的大量の基板を一度に蒸着する蒸着装置において、眼鏡用のプラスチックレンズに反射防止膜を蒸着により形成する例について説明する。図6は、本発明の実施の形態に用いる蒸着装置の一例の概略構成を示す。この蒸着装置1は、真空容器(チャンバー)10内に、蒸着物質を保持する蒸着源2と、電子銃3と、蒸着源2に対向して基板20を保持する基板保持部材5が配置される。図示の例では、ドーム型の基板保持部材5を設けて、例えば眼鏡用のプラスチックレンズが比較的多数枚、例えば100枚〜200枚程度保持され、図示しない駆動機構により矢印rで示すように回転する構成とする。また基板保持部材5の上部、真空容器10の内側に水晶膜厚計等の膜厚測定計6が設けられる。真空容器10には排気手段11が接続され、電子銃3に電源12が接続される。
【0024】
この蒸着装置1において蒸着を行う場合は、基板20を基板保持部材5に装着した後、真空容器10内に基板保持部材5を導入し、真空容器10内を密閉して、排気手段11により所定の真空度に排気する。そして、電源12により所定の電圧を電子銃3に印加する。電子銃3から出射された電子は図示しない偏向電子ビーム機構によって矢印bで示すように蒸着源2に向かい、蒸着源2内の蒸着材料、例えばジルコニアに照射される。電子照射によって加熱された蒸着材料は、矢印aで示すように基板保持部材5の内側に向かって飛散し、基板20の表面に成膜される。
なお、蒸着装置1としては図6に示す例に限定されるものではなく、その他イオンアシスト法を利用した蒸着装置等、各種構成の蒸着装置を採用できる。
【0025】
次に、このような蒸着装置を用いて反射防止膜を蒸着する工程を含むプラスチックレンズの表面処理工程に、本発明の実施の形態を適用した例について説明する。この例においては、図7にその一例の概略断面構成図を示すように、眼鏡用のプラスチックレンズより成る基板20の両側の表面に、ハードコートの密着性を向上させて耐衝撃性を強化するプライマー層21a及び21b、ハードコート22a及び22b、高屈折率層としてジルコニアを含む反射防止膜23a及び23b、更に撥水コート等の保護層24a及び24bをこの順に形成する例について説明する。
【0026】
図8は、この実施の形態に係るメンテナンス方法を含む処理工程のフローチャートの一例である。図8に示すように、先ず、処方度数に対応して曲率等が設定されて成形されたレンズ用の基板20を用意する(ステップS1)。次に、ポリウレタン等より成るプライマー層21a、21bを塗布等により形成する(ステップS2)。なお、プライマー層を設けない場合はもちろんこのステップS2は省略可能である。そして、ハードコート用組成液を基板20にディッピング等により塗布する(ステップS3)。その後基板20を例えば120℃、60分間加熱して、ハードコート22a、22bを硬化する(ステップS4)。次に、ハードコート22a、22bを硬化した基板20を水等の液体により例えば20分間洗浄する(ステップS5)。
【0027】
次に、基板20に金属酸化膜等を蒸着する蒸着工程に入る(ステップS10)。この蒸着工程では、先ず、基板20を蒸着装置1の真空容器10内に入れる(ステップS11)。そして、真空容器10内の空気を所定の減圧能力を有する排気手段によって排気する(ステップS12)。続いて、予め選定した基準となる圧力値、例えば3.5×10−5Torrに達するまでの時間を測定する(ステップS13)。そして、この基準圧力値に達する排気時間が、基準とする時間以下であるかどうかを判定する(ステップS14)。
【0028】
ここで排気時間が基準時間の例えば12分以下である場合は、所定の真空度に達した状態で、蒸着源2を電子照射等により加熱し、基板20の表面に金属酸化膜の蒸着を行う(ステップS15)。これにより、基板20の一方の表面の反射防止膜23aを形成する。次に、必要に応じて撥水コート24aを形成する(ステップS16)。なお、撥水コートを蒸着以外の方法で形成することも可能であり、その場合は蒸着装置での処理を終了して外部に搬出した後に撥水コート24a、24bを形成してもよい。
【0029】
その後、続けて蒸着を行う基板20があるかどうかを判断する(ステップS17)。例えば基板20のもう一方の表面に反射防止膜23bを蒸着し、撥水コート24bを形成する場合は、基板20を例えば裏返すなどの作業を行って、蒸着する基板を用意し(ステップS18)、ステップS11に戻る。ステップS17において、続けて蒸着する基板がないと判断された場合は、処理の終了(ステップS19)となる。
【0030】
一方、ステップS14において、基準圧力値に達する時間が基準とする時間を超えていると判断した場合は、真空容器10のメンテナンスを行う(ステップS20)。すなわち一旦排気を停止し、容器10内を大気解放して、蒸着材料の付着物の除去を行う。メンテナンス作業が終了した時点で、蒸着工程に戻るかどうか判断する(ステップS21)。蒸着工程を再び行う場合はステップS11に戻る。蒸着工程を行わない場合は、処理の終了(ステップS22)となる。
【0031】
図8に示す処理工程を経ることによって、蒸着装置の真空容器内の清浄状態を好ましく保持することができる。このようにして、蒸着対象物である基板上に成膜された蒸着膜は、メンテナンスの前後でその光学特性を均質に保つことが可能となる。一例として、ジルコニアを反射防止膜の高屈折率層として100〜200枚のレンズ基板上に蒸着する処理工程において、上述した基準となる時間及び圧力値に基づいてメンテナンスを行うことにより、ジルコニア膜の光学特性のばらつきを抑え、歩留まりの向上を図ることができた。また、その他の金属酸化物や金属窒化物を蒸着する場合においても、同様に膜質のばらつきを抑制することができた。
【0032】
なお、上述の例においては基準圧力値に達する時間は12分としたが、この時間は真空容器の体積、排気手段の種類や減圧能力、真空容器内に配置する基板の材質や状態、枚数(総体積)、更に目的とする真空度等の条件によって、予め選定しておくことが必要である。上記の例では真空容器内に眼鏡用のプラスチックレンズより成る基板を100〜200枚配置する例であり、メンテナンス直後では3.5×10−5Torrに達する時間が8〜9分であった。蒸着回数を重ねるにつれてこの真空度に到達する時間が長くなるが、この例では基準時間を12分とすることで、メンテナンスを適切なタイミングで行うことができ、上述したように蒸着膜の光学特性のばらつきを抑え、歩留まりの低下を回避することができた。
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、蒸着装置のメンテナンスのタイミングを最適化することで、確実に蒸着装置内の真空度の変動を抑制でき、膜質のばらつきを抑えて蒸着膜を形成することが可能となる。特に、大量の蒸着対象物に対して蒸着を行うバッチ式の蒸着装置において、無駄なメンテナンス工程を省き、膜質のばらつきに起因する歩留まりの低下を抑えることで、生産性の向上を図ることができる。したがって、蒸着対象物としてプラスチック等のレンズを用いる場合は、安定した光学特性のレンズを生産性よく製造することが可能となる。
【0034】
蒸着成分が金属酸化物や金属窒化物である場合においても、メンテナンスを適切に行うことで、真空度の変動を抑えることができる。
特に、蒸着材料としてジルコニアを蒸着する場合は、成膜時の蒸着環境の状態によって得られる層の屈折率が変動しやすいが、本発明を適用することにより、メンテナンスの前後においても膜質が保たれる。これにより、反射特性等がほぼ一定に保たれたジルコニア層を成膜することが可能となる。比較的安価な材料であるジルコニア膜を、大量のレンズへ実用的な歩留まりをもって一度に蒸着することが可能となるため、コストの低減化を図ることができる。
【0035】
また、本発明においては、蒸着装置の真空容器のメンテナンス管理を排気時の時間で管理するという比較的簡易な方法であり、蒸着処理を含む工程管理の定型化が可能となる。
【0036】
更に、メンテナンスのタイミングを最適化することで真空度のバラツキを抑えることができるので、真空度の変動がある場合に使用し難いとされる水晶膜厚計を利用することが可能となる。また、水晶振動子を利用した水晶膜厚計は光学式の膜厚測定計と比べて比較的安価であり、蒸着装置の設備コストを抑えることも可能となる。
【0037】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】蒸着装置のメンテナンス前後の排気時間に対する真空度の変化を示す図である。
【図2】蒸着装置のメンテナンス前における蒸着膜の分光特性と基準分光値とを示す図である。
【図3】蒸着装置のメンテナンス後における蒸着膜の分光特性と基準分光値とを示す図である。
【図4】基板からのガス放出量の違いによる分光特性の変化を示す図である。
【図5】基板からのガス放出量の違いによる分光特性の変化を示す図である。
【図6】蒸着装置の一例の概略構成図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る反射防止膜の蒸着方法によって反射防止膜を形成した基板の一例の断面構成図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係る反射防止膜の製造工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
1・・蒸着装置、2・・蒸着源、3・・基板、4・・電子銃、5・・基板保持部材、6・・膜厚測定計、10・・真空容器、11・・排気手段、12・・電源、20・・基板、21a,21b・・下地層、22a,22b・・ハードコート、23a,23b・・反射防止膜、24a,24b・・保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着装置における真空容器内の蒸着物の除去を行う蒸着装置のメンテナンス方法であって、
排気手段を所定の減圧能力に保持した状態で前記真空容器内を排気し、
所定の排気時間経過後の前記真空容器内の圧力が基準圧力値よりも高い場合に、前記真空容器内の蒸着物の除去を行う
ことを特徴とする蒸着装置のメンテナンス方法。
【請求項2】
請求項1記載の蒸着装置のメンテナンス方法において、
蒸着対象物に成膜する成分が、金属酸化物及び又は金属窒化物であることを特徴とする蒸着装置のメンテナンス方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の蒸着装置のメンテナンス方法において、
蒸着対象物に成膜する成分が、酸化ジルコニウムであることを特徴とする蒸着装置のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−197275(P2009−197275A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40242(P2008−40242)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】