説明

蒸着装置及び蒸着方法

【課題】 良質の膜を形成可能な蒸着装置及び蒸着方法を提供する。
【解決手段】 有機EL薄膜の材料である有機材料1が装入されたルツボ容器10内には、有機材料1の気化面に接するように発熱体12が配置されている。発熱体12は、電磁誘導により発熱する磁性体材料からなる材料を含んで形成されており、加熱制御装置30がコイル20に所定の電流を供給することにより誘導加熱される。これにより、有機材料1の気化面が発熱体12により直接加熱され、有機材料1は安定して気化し、これにより良質の膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置及び蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を構成する有機EL薄膜は、例えば、基板上に形成された電極上に有機材料を蒸着することにより形成される。有機材料の蒸着は、ルツボ容器に装入された有機材料を所定の成膜レートが実現されるように加熱して気化させ、気化した有機材料を基板上の電極に付着させることにより行われる。この際、有機材料の加熱は、例えば抵抗加熱又は誘導加熱によりルツボ容器を発熱させ、ルツボ容器が発する熱により有機材料を加熱することにより行われている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開第02/014575号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、抵抗加熱を用いる方法では、ルツボ容器全体を加熱するので、有機材料全体の温度が上昇し、有機材料が分解してしまうという問題がある。又、ルツボ容器全体の温度を均一にしてから有機材料の成膜レートを制御するので、成膜レートを一定にするには時間がかかってしまうという問題がある。このため、有機材料の温度も不安定になりやすく、有機EL薄膜の成膜レートを制御するのが難しいという問題がある。これらのことから、抵抗加熱を用いる方法は、多量の有機材料が装入された大型なルツボ容器を加熱するのには適しておらず、大量生産には不向きである。
【0004】
また、成膜レートを維持するためにルツボ容器全体の加熱を維持すると、有機材料の上面(気化面)より中心部が高温となって有機材料が分解したりする可能性がある。この場合、有機材料の性質が変化し、その結果、形成される有機EL素子の特性も変化してしまうという問題がある。
【0005】
また、誘導加熱を用いる方法では、抵抗加熱の場合よりも短い時間で、ルツボ容器を所定温度まで加熱することができる。しかし、加熱速度が速いために、ルツボ容器全体が高温になってしまう場合がある。この場合、有機材料の中心部分が最も熱くなり、有機材料内で熱対流が発生したり、有機材料の上面(気化面)から突物(液体又は固体の状態にある有機材料)が飛散したりすることがある。このような突物が基板上に付着すると良質の有機EL薄膜を形成することができないという問題がある。又、このような突物が発生する場合、成膜レートが不安定になりやすいという問題がある。
【0006】
従って、本発明は、良質の膜を形成可能な蒸着装置及び蒸着方法を提供することを目的とする。また、本発明は、大量生産にも対応可能な蒸着装置及び蒸着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点にかかる蒸着方法は、基板上に有機EL(エレクトロルミネッセンス)膜を形成する蒸着方法であって、前記有機EL膜の材料となる有機材料が装入された容器内に配置された、電磁誘導により発熱する第1固体物を、誘導加熱することにより前記有機材料を気化して前記基板上に前記有機EL膜を形成する工程を備える、ことを特徴とする。
【0008】
前記第1固体物が前記有機材料の上面に接触してもよい。
【0009】
前記第1固体物の底面は、少なくとも1つの平面と、前記平面の外周部において前記平面に対して傾斜して前記平面から突出する突出面と、を有していてもよい。
【0010】
前記第1固体物は、少なくとも1つの開孔を有してもよい。
【0011】
前記第1固体物は、前記有機材料よりも小さい比重を有してもよい。
【0012】
前記容器内に配置された前記第1固体物と前記容器の上板との間に、電磁誘導により発熱する第2固体物が配置されており、前記第2固体物を誘導加熱することにより前記容器内の温度を制御する工程をさらに備えてもよい。
【0013】
前記容器の上板、側壁、及び、底の少なくとも1つを加熱する工程をさらに備えてもよい。
【0014】
本発明の第2の観点にかかる蒸着装置は、基板上に有機EL(エレクトロルミネッセンス)膜を形成する蒸着装置であって、前記有機EL膜の材料となる有機材料が装入された容器と、前記容器内に配置され、電磁誘導により発熱する第1固体物と、前記第1固体物を誘導加熱することにより前記有機材料を気化して前記基板上に前記有機EL膜を形成する加熱手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
前記第1固体物が前記有機材料の上面に接触してもよい。
【0016】
前記第1固体物の底面は、少なくとも1つの平面と、前記平面の外周部において前記平面に対して傾斜して前記平面から突出する突出面と、を有していてもよい。
【0017】
前記第1固体物は、少なくとも1つの開孔を有してもよい。
【0018】
前記第1固体物は、前記有機材料よりも小さい比重を有してもよい。
【0019】
前記容器内に配置された前記第1固体物と前記容器の上板との間に配置され、電磁誘導により発熱する第2固体物をさらに備え、前記加熱手段は、前記第2固体物を誘導加熱することにより前記容器内の温度を制御してもよい。
【0020】
前記加熱手段は、前記容器の上板、側壁、及び、底の少なくとも1つをさらに加熱してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、良質の膜を形成可能な蒸着装置及び蒸着方法を提供することができる。また、本発明によれば、大量生産にも対応可能な蒸着装置及び蒸着方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態にかかる、有機EL(エレクトロルミネッセンス)薄膜の蒸着装置及び蒸着方法について図面を参照して説明する。
本発明の実施の形態にかかる蒸着装置は、例えば図1に示すように、ルツボ容器10と、コイル20と、加熱制御装置30と、基板保持部材40と、から構成されている。
【0023】
ルツボ容器10は、有機EL薄膜の原料となる有機材料1を装入するためのものであり、電磁誘導により発熱する磁性体材料からなる材料を含んで形成されている。また、ルツボ容器10の蓋(上板)11の中央部分には、穴11aが形成されている。加熱により気化した有機材料1は、蓋11の穴11aを介してルツボ容器10の外部に拡散し、基板保持部材40によって保持された基板2上に形成された電極3等の上に付着する。
【0024】
また、ルツボ容器10は、その内部に発熱体12を有している。発熱体12は、電磁誘導により発熱する磁性体材料からなる材料を含んで形成されており、有機材料1よりも小さい比重を有していてもよい。発熱体12は、ルツボ容器10の内径よりも僅かに小さい直径を有する円盤状に形成されている。また、発熱体12は、例えば図2に示すように、少なくとも1つの開孔12aを有し、加熱された有機材料1は開孔12aを介して拡散する。上記したように、発熱体12は、ルツボ容器10の内径よりも僅かに小さい直径を有し、好ましくは有機材料1よりも小さい比重を有していてもよく、加熱により溶解した有機材料1上に浮くことができ、有機材料1の上面(気化面)に常に接していることができる。又、昇華材の場合は常に有機材料1の上面(気化面)に接することができる。これにより、有機材料1の上面(気化面)を直接加熱することが可能となり、有機材料1の上面(気化面)を選択的に安定して気化させることができる。
【0025】
コイル20は、例えば、ルツボ容器10の側壁を取り囲むように配置されている。所定の大きさ及び所定周波数の電流がコイル20に供給されることにより、ルツボ容器10内の発熱体12が誘導加熱される。この際、有機材料1の上面(気化面)が常に加熱されるので、有機材料1の上面(気化面)のみから気化される状態が維持される。又、ルツボ容器10が磁性材料からなる材料を含んで形成されている場合、ルツボ容器10も加熱されることとなる。これにより、ルツボ容器10内に装入された有機材料1が加熱されても良い。
【0026】
加熱制御装置30は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリから構成されるコンピュータ、及び、コイル20に電流を供給するための電源等を備える。また、加熱制御装置30は、有機材料1の成膜レートを制御するための膜厚センサ(図示せず)を備える。メモリは、有機EL薄膜を形成するためのプログラムを記憶しており、CPUは、メモリのプログラムに従い、膜厚センサ(図示せず)により検出される成膜レートに応じてコイル20に供給する電力の大きさ及び周波数等を制御する。これにより、CPUは、ルツボ容器10内に設けられた発熱体12または、ルツボ容器10及びルツボ容器10内に設けられた発熱体12の発熱温度を変化させ、これによりルツボ容器10内に装入された有機材料1の成膜レートを制御する。即ち、CPUは、有機材料1の気化速度(成膜レート)を制御し、これにより有機EL薄膜の膜厚を制御する。
【0027】
基板保持部材40は、ルツボ容器10の蓋11に形成された穴11aに対向するように、有機EL薄膜が形成される基板2を保持する。
【0028】
以上のような構成を有する蒸着装置では、ルツボ容器10内に設けられた発熱体12または、ルツボ容器10及びルツボ容器10内に設けられた発熱体12を電力制御し、成膜レートを安定させる。即ち、有機材料1が気化する上面(気化面)が直接加熱され、これにより、有機材料1の上面(気化面)を選択的に均一に加熱することが可能となり、有機材料1内部の熱分解を防止できる。又、有機材料1の上面(気化面)の温度が均一となる。その結果、有機材料1内で熱対流が発生したり、気化面から突物(液体又は固体の状態にある有機材料1)が飛散したりすることがなく、有機材料1は安定して気化し、良質な有機EL薄膜を形成することができる。また、ルツボ容器10内に設けられた発熱体12または、ルツボ容器10及びルツボ容器10内に設けられた発熱体12を電力制御するので、有機材料1の上面(気化面)を選択的に加熱することができ、ルツボ容器全体を加熱する抵抗加熱を用いる場合よりも加熱時間が短くなる。その結果、装置立上げ時間を短縮でき、大量生産にも対応することができる。
【0029】
なお、ルツボ容器10内に装入される有機材料1及び有機材料1の加熱温度は、形成対象となる有機EL薄膜の種類等に応じて変更される。例えば有機EL素子を製造する場合、形成対象となる有機EL薄膜は、電子輸送層、発光層、及び、正孔輸送層等である。なお、有機EL素子は、一対の電極間に、電子輸送層、発光層、及び、正孔輸送層がこの順で積層されることにより構成される。そして、一方の電極(陰極)から電子輸送層を介して発光層に電子が供給され、他方の電極(陽極)から正孔輸送層を介して発光層に正孔が供給され、供給された電子と正孔とが発光層内で結合することにより光が放出される。
【0030】
電子輸送層を形成するための有機材料1としては、例えば化学式1で表されるDQXがある。また、発光層を形成するための有機材料1としては、例えば化学式2で表されるDPAがある。また、正孔輸送層を形成するための有機材料1としては、例えば化学式3で表されるTPDがある。なお、化学式2において、Rnはメチル基又はエチル基を表している。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
【化3】

【0034】
次に、上記した蒸着装置を用いて行われる、有機EL薄膜の蒸着方法について説明する。
なお、蒸着装置は、例えば圧力制御等が可能なチャンバ等の処理室内に配置され、蒸着処理は所定の圧力下において行われる。また、形成対象の有機EL薄膜が複数種類ある場合は、有機EL薄膜の種類に応じた有機材料1を有する蒸着装置が複数用意され、各蒸着装置によって各有機EL薄膜が形成される。
【0035】
初めに、形成する有機EL薄膜の原料となる有機材料1がルツボ容器10内に装入され、有機材料1上に発熱体12が配置される。続いて、ルツボ容器10の蓋11に対向するように、有機EL薄膜が積層される電極3が形成された基板2が基板保持部材40にセットされ、処理室内の圧力が所定の大きさに設定される。
【0036】
処理室内の圧力が所定の大きさに設定された後、加熱制御装置30は、メモリのプログラムに従って電源を制御し、所定の大きさ及び所定周波数の電流をコイル20に供給する。これにより、ルツボ容器10内に設けられた発熱体12または、ルツボ容器10及びルツボ容器10内に設けられた発熱体12が電磁誘導により発熱し、ルツボ容器10内の有機材料1の成膜レートが所定成膜レートになるように加熱される。
【0037】
この際、上記したように、発熱体12が常に有機材料1の気化面に接触しており、有機材料1の気化面が選択的に加熱される。これにより、有機材料1の気化面が均等に加熱され、有機材料1を安定して気化させることができる。又、有機材料1内部の温度上昇が抑制され、有機材料1の熱分解を防止できる。その結果、有機EL薄膜の成膜レートが安定し、良質な有機EL薄膜を形成することができる。また、ルツボ容器10内の有機材料1の気化面以外の温度上昇を抑えているので、有機材料1の気化面から突物が飛散することを防止でき、突物がルツボ容器10の内壁や電極3上に付着するといった事態を回避することができる。
【0038】
加熱制御装置30は、電力を制御しながら以上の状態を所定時間維持することにより、基板2の電極3上に所定の厚さを有する有機EL薄膜を形成する。
【0039】
所定時間が経過すると、ルツボ容器10の上部に設けられたシャッター(図示せず)を閉じることにより、基板2上に有機材料1が付着することを防止する。その後、有機EL薄膜が形成された基板2は処理室から搬出される。
【0040】
複数種類の有機EL薄膜を基板2上に形成する場合、基板2は、次の有機EL薄膜を形成するための蒸着装置が設置された処理室に搬入される。そして、上記と同様に蒸着処理が行われる。
【0041】
以上のようにして、基板2の電極3等の上に、所定の厚さを有する有機EL薄膜が形成される。また、有機EL薄膜の形成時には、上記したように、有機材料1が安定して気化するので、有機EL薄膜の成膜レートも安定し、均質な有機EL薄膜を形成することができる。
【0042】
なお、上記実施の形態では円盤状に形成された発熱体12を例として示した。しかし、発熱体12の形状は円板状に限定されない。発熱体12は、例えば図3(a)から図3(d)に示すような形に形成されていてもよい。なお、図3(b)から図3(d)は、図3(a)のA−A’線における断面図である。
【0043】
具体的には、発熱体12は、図3(b)に示すように、開孔12aの周囲に短い同心円状の突起12bが設けられていてもよい。このような構成と好ましくは比重との組み合わせを選ぶことにより、発熱体12と有機材料1の上面(気化面)とが常に接触している状態を維持することができる。これにより、有機材料1を効率よく上方に拡散させることができる。
【0044】
また、発熱体12は、図3(c)又は図3(d)に示すように、縁部の上下又は上に複数の棒状の突起12cが設けられていてもよい。このような構成によれば、有機材料1が液状となった場合でも、また、有機材料1の気化によって有機材料1の液面が変化した場合でも、発熱体12が傾いたりすることなく安定する。
【0045】
また、発熱体12の縁部に設けられた突起12cは、例えば図4(a)から図4(d)に示すように、リング状に形成されていてもよい。なお、図4(b)から図4(d)は、図4(a)のA−A’線における断面図である。
【0046】
また、発熱体12は、例えば図5(a)から図5(d)に示すように、食器の皿のような形に形成されていてもよい。なお、図5(b)から図5(d)は、図5(a)のA−A’線における断面を示している。具体的には、発熱体12は、平坦な中央部分12dと、上方に傾いた外周部分12eとを備えている。このような構成によれば、有機材料1が溶解した際に有機材料1と発熱体12との間に生じる表面張力により、発熱体12が沈んでしまうことをより確実に防止することができる。この場合、開孔12aは、図5(a)に示すように、中央部分12dに形成されていてもよく、外周部分12eに形成されていてもよく、これらの両方に形成されていてもよい。又、図5(c)に示すように、外周部分12eの縁部に突起12cを設けてもよく、図5(d)に示すように、開口部12aの周囲に突起12bを設けてもよい。本構成では発熱体12と有機材料1に働く表面張力により発熱体が沈むことを効果的に防止できる。又、適宜本構成を組み合わせてもよい。
【0047】
また、ルツボ容器10は、その全体が磁性体材料からなる材料を含んで形成されている必要はなく、例えば図6(a)から図7(b)に示すように、有機材料1の種類、成膜レートなどの成膜条件(蒸着条件)に応じて種々の変形が可能である。但し、何れの場合においても、ルツボ容器10内に配置される発熱体12は、磁性体材料からなる材料を含んで形成されており、誘導加熱により発熱することにより有機材料1の上面(気化面)を直接加熱する。
【0048】
具体的には、図6(a)に示すように、ルツボ容器10は磁性体材料からなる材料を含んで形成されず、有機材料1を加熱しなくてもよい。この場合、有機材料1は、発熱体12のみによって加熱される。このように、有機材料1を加熱するものが発熱体12だけであっても、発熱体12は有機材料1の上面(気化面)に接触しているので、有機材料1の上面(気化面)の温度が最も高くなる。これにより、有機材料1の上面から気化が生じ、有機材料1内部の熱分解は発生せず、又、突物の飛散は起こらない。また、発熱体12は、ルツボ容器10と比較して小さいので、熱容量が小さく、温度の制御が容易である。これにより、有機材料1の気化速度(成膜レート)をより高い精度で制御することができる。
【0049】
また、図6(b)に示すように、図6(a)の構成に加えて、ルツボ容器10の側壁上部を覆う第1の外部発熱体51が設置されてもよい。第1の外部発熱体51は、誘導加熱又は抵抗加熱により発熱する材料から形成される。この場合、加熱制御装置30は、コイル20に交流電流を供給することにより発熱体12及び第1の外部発熱体51を誘導加熱する。又は、加熱制御装置30は、直流電源を備え、コイル20に交流電流を供給することにより発熱体12を誘導加熱すると共に、第1の外部発熱体51に直流電流を供給することにより第1の外部発熱体51を抵抗加熱する。これにより、ルツボ容器10の側壁上部は、第1の外部発熱体51からの輻射熱によって加熱される。このようにすれば、気化した有機材料1がルツボ容器10内の上部で冷えてルツボ容器10の内壁上部に付着することを防止できる。
【0050】
また、図6(c)に示すように、図6(b)の構成に加えて、ルツボ容器10の底部を覆う第2の外部発熱体52、及び、有機材料1が装入されている部分の側壁(側壁下部)を覆う第3の外部発熱体53がさらに設けられてもよい。第2の外部発熱体52及び第3の外部発熱体53は、それぞれ、誘導加熱又は抵抗加熱により発熱する材料から形成される。
【0051】
また、図6(d)に示すように、図6(a)の構成に加えて、ルツボ容器10の側壁上部及び蓋11を覆う、蓋のない箱状に形成された第4の外部発熱体54がさらに設けられてもよい。第4の外部発熱体54は、誘導加熱又は抵抗加熱により発熱する材料から形成され、ルツボ容器10の蓋11に形成された穴11aと連通する開孔54aを有する。
【0052】
加熱制御装置30は、有機EL薄膜の形成時に、上記と同様に、誘導加熱又は抵抗加熱により第4の外部発熱体54を発熱させる。ルツボ容器10の側壁上部及び蓋11は、第4の外部発熱体54からの輻射熱により加熱される。このようにすれば、図6(b)の場合と同様に、気化した有機材料1がルツボ容器10内の上部で冷えてルツボ容器10の内壁上部に付着することを防止できる。また、第4の外部発熱体54は蓋のない箱状に形成されているので、ルツボ容器10にかぶせるだけで設置可能である。即ち、第4の外部発熱体54をルツボ容器10の側壁に固定する必要はなく、容易に設置することができる。
【0053】
また、図7(a)に示すように、ルツボ容器10の蓋11のみが、誘導加熱により発熱する磁性体材料からなる材料を含んで形成されていてもよく、図7(b)に示すように、ルツボ容器10の蓋11とルツボ容器10の側壁上部とが、磁性体材料からなる材料を含んで形成されていてもよい。このようにしても、上記と同様に、気化した有機材料1がルツボ容器10内の上部で冷えてルツボ容器10の内壁上部に付着することを防止できる。
【0054】
また、ルツボ容器10の各部分を、例えば図8(a)から図8(d)に示すように、互いに異なる特性(比透磁率μ、抵抗率ρなど)を有する磁性体材料からなる材料を含んで形成してもよい。この場合、どの部分にどのような特性を有する磁性体材料を含んだ材料を使用するかは、例えば、使用する有機材料1の種類、形成対象である有機EL薄膜の種類、及び、成膜レート等の条件に応じて決定される。このようにすれば、成膜条件に応じて、ルツボ容器10の全体に緩やかな温度勾配を形成することが可能となり、成膜条件に合った最適な状態で有機EL薄膜の形成処理を行うことができる。
【0055】
また、以上では、ルツボ容器10内に1つの発熱体12が設置される場合を例として示した。しかし、ルツボ容器10内には上記した発熱体12の他に、さらに、図9に示すように、1つ以上の第2の発熱体71が設けられてもよい。第2の発熱体71は、電磁誘導により発熱する磁性体材料からなる材料を含んで形成され、コイル20に電流が供給されることにより発熱する。また、第2の発熱体71は、例えば、図10(a)から図10(c)に示すような平面形状を有し、ルツボ容器10の蓋11と発熱体12との間に配置される。
【0056】
具体的には、第2の発熱体71は、図10(a)に示すように、リング状に形成されていてもよく、図10(b)に示すように、その一部が欠けたオープンリング状に形成されていてもよく、図10(c)に示すように、発熱体12と同様に形成されていてもよい。なお、これら3つの中では、図10(b)に示すオープンリング状の発熱体71が、最も設置が容易である。例えば、発熱体71の直径をルツボ容器10の内径よりも僅かに大きく形成することにより、発熱体71自身の弾性力により発熱体71を蓋11と発熱体12との間に固定することができる。
【0057】
以上のような第2の発熱体71を設けることにより、有機材料1の気化面から突物が飛散したとしても、ルツボ容器10の外部にまで飛散することは防止することができる。また、蓋11と発熱体12との間の部分を第2の発熱体71で加熱することにより、ルツボ容器10が均等に加熱され、気化した有機材料1がルツボ容器10内の上部で冷えてルツボ容器10の内壁上部に付着することを防止できる。
【0058】
また、図1から図10に示したルツボ容器10及び発熱体12の構成は、有機材料1の種類、成膜レートなどの成膜条件に応じて適宜選択することが可能であり、また、これらの構成のいくつかを適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0059】
また、以上では、本発明を有機EL薄膜の蒸着装置及び蒸着方法に適用した場合を例にとって説明したが、本発明は、蒸着により膜を形成する他の蒸着装置及び蒸着方法にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態にかかる蒸着装置の構成図である。
【図2】図1の蒸着装置を構成する発熱体の構成を示す平面図である。
【図3】発熱体の他の構成を示す図である。
【図4】発熱体の他の構成を示す図である。
【図5】発熱体の他の構成を示す図である。
【図6】図1の蒸着装置を構成するルツボ容器の他の構成を示す図である。
【図7】図1の蒸着装置を構成するルツボ容器の他の構成を示す図である。
【図8】図1の蒸着装置を構成するルツボ容器の他の構成を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態にかかる蒸着装置の他の構成を示す図である。
【図10】図9の蒸着装置を構成する第2の発熱体の構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 有機材料
2 基板
3 電極
10 ルツボ容器
11 蓋
11a 穴
12 発熱体
12a 開孔
12b 突起
12c 突起
12d 中央部分
12e 外周部分
20 コイル
30 加熱制御装置
40 基板保持部材
51 第1の外部発熱体
52 第2の外部発熱体
53 第3の外部発熱体
54 第4の外部発熱体
71 第2の発熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に有機EL(エレクトロルミネッセンス)膜を形成する蒸着方法であって、前記有機EL膜の材料となる有機材料が装入された容器内に配置された、電磁誘導により発熱する第1固体物を、誘導加熱することにより前記有機材料を気化して前記基板上に前記有機EL膜を形成する工程を備える、ことを特徴とする蒸着方法。
【請求項2】
前記第1固体物が前記有機材料の上面に接触している、ことを特徴とする請求項1に記載の蒸着方法。
【請求項3】
前記第1固体物の底面は、少なくとも1つの平面と、前記平面の外周部において前記平面に対して傾斜して前記平面から突出する突出面と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸着方法。
【請求項4】
前記第1固体物は、少なくとも1つの開孔を有する、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の蒸着方法。
【請求項5】
前記第1固体物は、前記有機材料よりも小さい比重を有する、ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の蒸着方法。
【請求項6】
前記容器内に配置された前記第1固体物と前記容器の上板との間に、電磁誘導により発熱する第2固体物が配置されており、前記第2固体物を誘導加熱することにより前記容器内の温度を制御する工程をさらに備える、ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の蒸着方法。
【請求項7】
前記容器の上板、側壁、及び、底の少なくとも1つを加熱する工程をさらに備える、ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の蒸着方法。
【請求項8】
基板上に有機EL(エレクトロルミネッセンス)膜を形成する蒸着装置であって、
前記有機EL膜の材料となる有機材料が装入された容器と、
前記容器内に配置され、電磁誘導により発熱する第1固体物と、
前記第1固体物を誘導加熱することにより前記有機材料を気化して前記基板上に前記有機EL膜を形成する加熱手段と、
を備えることを特徴とする蒸着装置。
【請求項9】
前記第1固体物が前記有機材料の上面に接触している、ことを特徴とする請求項8に記載の蒸着装置。
【請求項10】
前記第1固体物の底面は、少なくとも1つの平面と、前記平面の外周部において前記平面に対して傾斜して前記平面から突出する突出面と、を有することを特徴とする請求項8又は9に記載の蒸着装置。
【請求項11】
前記第1固体物は、少なくとも1つの開孔を有する、ことを特徴とする請求項8乃至10の何れか1項に記載の蒸着装置。
【請求項12】
前記第1固体物は、前記有機材料よりも小さい比重を有する、ことを特徴とする請求項8乃至11の何れか1項に記載の蒸着装置。
【請求項13】
前記容器内に配置された前記第1固体物と前記容器の上板との間に配置され、電磁誘導により発熱する第2固体物をさらに備え、
前記加熱手段は、前記第2固体物を誘導加熱することにより前記容器内の温度を制御する、
ことを特徴とする請求項8乃至12の何れか1項に記載の蒸着装置。
【請求項14】
前記加熱手段は、前記容器の上板、側壁、及び、底の少なくとも1つをさらに加熱する、ことを特徴とする請求項8乃至13の何れか1項に記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−59640(P2006−59640A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239530(P2004−239530)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】