説明

蒸着装置及び蒸着方法

【課題】蒸着対象物の表面に分布が均一の蒸着を高速で行うことができる技術を提供する。
【解決手段】本発明の蒸着装置10は、蒸気放出器100が、蒸発材料の蒸気の導入側から放出側に向って4n-1(nは自然数)の等比級数で段階的に分岐する連通口を介して連通された箱状の第1〜第3蒸気分岐部1〜3を備えている。第3蒸気分岐部3の蒸気放出側端部に、蒸発材料の蒸気を蒸着対象物に向って面状に放出する複数の蒸気放出口3Bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機ELディスプレイや有機EL照明デバイスや蒸着重合膜等を作製する際における蒸着技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置としては、例えば、特許文献1、2に記載されたものが知られている。
特許文献1、2に記載された装置は、導入された蒸気をパイプを分岐させることによって複数の流出口から蒸気を流出させるようにしている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に係る従来技術の場合、蒸気を流出させる流出開口部が一列に並べられているため、蒸気流の面内分布を均一にすることが困難であり、特に大型基板に対して均一な成膜を行うことができないという問題がある。
【0004】
また、特許文献2に係る従来技術では、異なる種類の蒸気を用いて共蒸着を行うことができず、例えば有機EL素子の発光層などを形成する際に必要なホスト材料とドーパント材料を用いた共蒸着を行うことができない。
【0005】
さらに、特許文献2に係る従来技術では、管の分岐の数が2n-1であり、分岐回数が非常に多いので拡散速度が遅く、また構成が複雑でコストが高くなるという問題がある。
さらにまた、特許文献1、2に記載された装置では、曲管内を蒸気を流す際のコンダクタンスが小さく、高速の成膜が困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−90572号公報
【特許文献2】特開2004−79904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、蒸着対象物の表面に分布が均一の蒸着を高速で行うことができる技術を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、異なる蒸発材料を用いて共蒸着や蒸着重合を行うことができる技術を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、装置構成が簡素で安価な蒸着技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明は、蒸着対象物が配置される真空槽と、前記真空槽の外部に設けられた蒸気発生源と、前記蒸気発生源から供給された蒸発材料の蒸気を前記蒸着対象物に向って面状に放出する蒸気放出器とを備え、前記蒸気放出器は、前記蒸発材料の蒸気の導入側から放出側に向って4n-1(nは自然数)の等比級数で段階的に分岐する連通口を介して連通された複数の箱状の蒸気分岐部を備え、当該蒸気分岐部のうち最終段の蒸気分岐部の蒸気放出側端部に、前記蒸発材料の蒸気を前記蒸着対象物に向って放出する複数の蒸気放出口が設けられている蒸着装置である。
本発明では、前記蒸気放出器は、1個の蒸気導入口に対して4個の蒸気放出口を有する箱状の蒸気分岐器を重ねて構成されている場合にも効果的である。
本発明では、前記蒸気放出器の前記複数の蒸気放出口は、隣接する蒸気放出口の間の距離が等しくなるように配置されている場合にも効果的である。
本発明では、前記蒸気放出器内に、前記蒸発材料の蒸気の導入側から放出側に向って4n-1(nは自然数)の等比級数で段階的に分岐する複数の分岐配管部を有する分岐配管器が設けられるとともに、当該分岐配管部のうち最終段の分岐配管部に前記蒸発材料の蒸気を放出する複数の蒸気放出ノズルが設けられ、当該複数の蒸気放出ノズルの先端部が前記蒸気放出器の蒸気放出口の内側に配置されている場合にも効果的である。
本発明では、前記蒸気発生源は、異なる蒸発材料の蒸気を発生させる複数の蒸発源を有し、当該複数の蒸発源のうち所定の蒸発源が前記蒸気放出器に接続されるとともに、当該複数の蒸発源のうち前記所定の蒸発源以外の所定の蒸発源が前記分岐配管器に接続されている場合にも効果的である。
一方、本発明は、上述したいずれかの蒸着装置が複数個近接して配置され、当該複数の蒸着装置に対して独立して蒸発材料の蒸気を供給するように構成されている蒸着装置である。
他方、本発明は、上述したいずれかの蒸着装置を用い、真空中で蒸着対象物の表面に有機膜を形成する方法であって、前記有機蒸発材料として、有機EL装置の有機薄膜層を形成するためのホスト材料とドーパント材料を用いる蒸着方法である。
【0010】
本発明の場合、蒸気放出器が、蒸発材料の蒸気の導入側から放出側に向って4n-1(nは自然数)の等比級数で段階的に分岐する連通口を介して連通された複数の箱状の蒸気分岐部を備え、当該蒸気分岐部のうち最終段の蒸気分岐部の蒸気放出側端部に、蒸発材料の蒸気を蒸着対象物に向って面状に放出する複数の蒸気放出口が設けられていることから、蒸気放出器内において蒸発材料の蒸気を十分に拡散させた後に放出することができ、これにより種々の蒸着対象物、特に大型基板の表面に分布が均一の成膜を行うことができる。
また、本発明においては、複数の箱状の蒸気分岐部を介して蒸発材料の蒸気が拡散されるので、流れる蒸気のコンダクタンスが大きく、高速で蒸着を行うことができる。
本発明において、蒸気放出器が、1個の蒸気導入口に対して4個の蒸気放出口を有する箱状の蒸気分岐器を重ねて構成されている場合には、構成が簡素且つコンパクトで製造コストの安い蒸着装置を提供することができる。
本発明において、蒸気放出器の複数の蒸気放出口について、隣接する蒸気放出口の間の距離が等しくなるように配置すれば、各蒸気放出口から放出される蒸気の面内分布がより一層均一になるため、蒸着対象物の表面に対する成膜の均一性を一層向上させることができる。
本発明において、蒸気放出器内に、蒸発材料の蒸気の導入側から放出側に向って4n-1(nは自然数)の等比級数で段階的に分岐する複数の分岐配管部を有する分岐配管器が設けられるとともに、当該分岐配管部のうち最終段の分岐配管部に蒸発材料の蒸気を放出する複数の蒸気放出ノズルが設けられ、当該複数の蒸気放出ノズルの先端部が前記蒸気放出器の蒸気放出口の内側に配置されている場合には、異なる種類の蒸発材料の蒸気をそれぞれ混合することなく拡散させて蒸着対象物に向って放出することができるので、蒸気放出器と分岐配管器との間における蒸発材料の相互汚染を防止することができる。
一方、上述したいずれかの蒸着装置が複数個近接して配置され、当該複数の蒸着装置に対して独立して蒸発材料の蒸気を供給するように構成されている場合には、特に大型基板の表面に分布が均一の成膜を行うことができる。
また、本発明によれば、複数の蒸着装置のうち所定のもののみを動作させることにより、種々の形状及び大きさの蒸着対象物に対して成膜を行うことができる。
他方、上述したいずれかの蒸着装置を用い、有機蒸発材料として、有機EL装置の有機薄膜層を形成するためのホスト材料とドーパント材料を用いる場合には、大型の有機EL装置の有機薄膜を均一な膜厚及び膜質で蒸着形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蒸着対象物の表面に分布が均一の蒸着を高速で行うことができる技術を提供することができる。
また、本発明によれば、異なる蒸発材料を用いて共蒸着や蒸着重合を行うことができる。
さらに、本発明によれば、装置構成が簡素で安価な蒸着技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る蒸着装置の内部を示す斜視図
【図2】(a)(b):同蒸着装置の蒸気放出器の構成を示す斜視図
【図3】(a)(b):同実施の形態における蒸気導入口及び蒸気放出口の位置関係を示す平面図
【図4】本発明に用いる面状の蒸気放出器の他の例を示す斜視図
【図5】(a)(b):同面状の蒸気放出器の内部構成を示す概略図
【図6】同面状の蒸気放出器を用いた蒸着装置を示す平面図
【図7】本発明の他の実施の形態の要部を示す概略構成図
【図8】本発明の他の実施の形態を示す概略構成図
【図9】本発明の他の実施の形態を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る蒸着装置の内部を示す斜視図、図2(a)(b)は、同蒸着装置の蒸気放出器の構成を示す斜視図である。図3(a)(b)は、同実施の形態における蒸気導入口及び蒸気放出口の位置関係を示す平面図である。
【0014】
以下、上下関係については図1及び図2に示す構成に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1又は図2に示すように、本実施の形態の蒸着装置10は、図示しない真空槽内に、蒸発材料の蒸気を基板(蒸着対象物)5に向って面状に放出する蒸気放出器100が設けられて構成されるものである。
【0015】
この蒸気放出器100は、真空槽内の基板5の下方に設けられるもので、蒸気分岐である複数の(本実施の形態では第1〜第3)蒸気分岐器1、2、3から構成されている。
後述するように、この蒸気放出器100は、有機材料の蒸気の導入側から放出側に向って4n-1(nは自然数)の等比級数で段階的に分岐(増加)する複数の連通口を有している。
【0016】
図2(a)に示すように、本実施の形態の第1蒸気分岐器1は、例えばステンレス等の金属材料からなる箱状(本例では、幅及び奥行きが高さより大きい長方体形状)の部材、すなわち、セルボックスからなる。
【0017】
第1蒸気分岐器1の底面1aの中央部分には、蒸発材料の蒸気を導入するための蒸気導入口1Aが設けられている。一方、蒸気分岐器の上面1bの四隅部分には、蒸発材料の蒸気を放出するための4個の蒸気放出口1Bが設けられている。
【0018】
本発明の場合、特に限定されることはないが、より均一な膜厚及び膜質の成膜を行う観点からは、第1蒸気分岐器1の上面1bにおいて、同一の平面内において隣接する蒸気放出口1Bの間の距離が等しくなるように構成することが好ましい。また、同様の観点からは、4個の蒸気放出口1Bに対して重心の位置に蒸気導入口1Aを設けることが好ましい。
【0019】
また、本発明の場合、特に限定されることはないが、有機材料の蒸気の逆流れを生じさせない、即ち圧力勾配を保持する観点からは、蒸気放出口1Bの面積の和が、蒸気導入口1Aの面積より大きくならない(小さくなる)ように設定することが好ましい。
【0020】
そして、本実施の形態においては、図2(b)に示すように、上記構成を有する第1蒸気分岐器1の上面1bに、第2蒸気分岐器2が4個取り付けられている。
第2蒸気分岐器2の基本構成は、第1蒸気分岐器1と同一であり、その大きさが第1蒸気分岐器1より小さい点が第1蒸気分岐器1と異なるものである。
【0021】
すなわち、第2蒸気分岐器2の底面の中央部分に、蒸発材料の蒸気を導入するための蒸気導入口2Aが設けられ、他方、第2蒸気分岐器2の上面2bの四隅部分には、蒸発材料の蒸気を放出するための4個の蒸気放出口2Bが設けられている。
【0022】
この場合、第1蒸気分岐器1の蒸気放出口1Bと、第2蒸気分岐器2の蒸気導入口2Aとが接続されるように、第1蒸気分岐器1の上面1bに、第2蒸気分岐器2をそれぞれ配置する。そして、これら第1蒸気分岐器1の蒸気放出口1Bと第2蒸気分岐器2の蒸気導入口2Aによって連通口が構成される。
【0023】
また、本発明の場合、特に限定されることはないが、有機材料の蒸気の逆流れを生じさせない、即ち圧力勾配を保持する観点からは、第2蒸気分岐器2においても、蒸気放出口2Bの面積の和が、蒸気導入口2Aの面積より大きくならない(小さくなる)ように設定することが好ましい。
【0024】
さらに、本実施の形態においては、図1に示すように、各第2蒸気分岐器2の上面2bに、第3蒸気分岐器3がそれぞれ4個固定されるようになっている。
第3蒸気分岐器3の基本構成は、第1及び第2蒸気分岐器1、2と同一であり、その大きさが第1及び第2蒸気分岐器1、2より小さいものである。
【0025】
この場合、第2蒸気分岐器2の蒸気放出口2Bと、第3蒸気分岐器3の蒸気導入口3Aとが接続されるように、各第2蒸気分岐器2の上面2bに、第3蒸気分岐器3をそれぞれ配置する。そして、これら第2蒸気分岐器2の蒸気放出口2Bと第3蒸気分岐器3の蒸気導入口3Aによって連通口が構成される。
さらに、第3蒸気分岐器3の上面3bには、それぞれ四隅部分に蒸気放出口3Bが設けられている。
【0026】
本発明の場合、特に限定されることはないが、有機材料の蒸気の逆流れを生じさせない、即ち圧力勾配を保持する観点からは、第3蒸気分岐器3においても、蒸気放出口3Bの面積の和が、蒸気導入口3Aの面積より大きくならない(小さくなる)ように設定することが好ましい。
【0027】
図3(a)(b)に示すように、本実施の形態の蒸気放出口3Bは、それぞれ同一の水平面内に配置され、符号16で示す正方形の頂点の位置に配置することが好ましい。すなわち、第3蒸気分岐器3の上面3bにおいて、隣接する蒸気放出口3Bの間の距離が等しく(P1)なるように構成することが好ましい。
【0028】
さらに、本発明の場合、特に限定されることはないが、より均一な膜厚及び膜質の成膜を行う観点からは、隣接する第3蒸気分岐器3同士についても、X方向及びY方向に関し、それぞれ隣接する蒸気放出口3Bの間の距離が等しく(P2)、かつ、隣接する全ての蒸気放出口3Bの間の距離が等しくなるなるように構成することが好ましい(P1=P2)。
また、同様の観点からは、4個の蒸気放出口3Bに対して重心の位置に蒸気導入口3Aを設けることが好ましい。
【0029】
さらにまた、本発明の場合、特に限定されることはないが、より均一な膜厚及び膜質の成膜を行う観点からは、隣接する第2蒸気分岐器2並びに第2蒸気分岐器2同士についても、同一の平面内において、X方向及びY方向に関し、それぞれ隣接する蒸気放出口2Bの間の距離が等しく、かつ、隣接する全ての蒸気放出口2Bの間の距離が等しくなるように構成することが好ましい。
また、同様の観点からは、4個の蒸気放出口2Bに対して重心の位置に蒸気導入口2Aを設けることが好ましい。
【0030】
一方、図1に示すように、本実施の形態の場合、第1蒸気分岐器1は、例えば有機EL装置の有機層を形成するための、蒸気発生源である複数(本例では2個)のホスト材料蒸発源21、ドーパント材料蒸発源31に接続されている。
ここで、ホスト材料蒸発源21の蒸発容器内には、有機EL素子の有機薄膜形成用のホスト材料50hが収容されている。
【0031】
また、ドーパント材料蒸発源31の蒸発容器内には、有機EL素子の有機薄膜形成用のドーパント材料50dが収容されている。
そして、ホスト材料蒸発源21、ドーパント材料蒸発源31の周囲には、加熱手段20が配設されている。
【0032】
また、ホスト材料蒸発源21、ドーパント材料蒸発源31は、それぞれキャリア蒸気供給装置17h、17dに接続され、キャリア蒸気源18から供給されるキャリアガスが、それぞれホスト材料蒸発源21、ドーパント材料蒸発源31に供給されるように構成されている。
【0033】
さらに、本例の場合、ホスト材料蒸発源21は、バルブ22を介して供給管6hに接続され、ドーパント材料蒸発源31は、バルブ32を介して供給管6dに接続されている。
なお、供給管6h及び供給管6dの近傍には、それぞれコンダクタンスの小さい蒸気放出ノズル7h、7dが設けられ、これら蒸気放出ノズル7h、7dから放出される有機材料の蒸気の量を膜厚センサ8h、8dによってそれぞれ測定するように構成されている。
また、詳細は図示しないが、上述した蒸気放出器100内には、蒸着の際に蒸気放出器100を加熱するためのヒータが設けられている。
【0034】
このような構成を有する本実施の形態において、基板5上に有機材料の膜を蒸着形成する場合には、真空槽内の圧力を所定の圧力にした状態で、ホスト材料蒸発源21から供給管6hを介してホスト材料50hの蒸気を第1蒸気分岐器1内に導入する。
【0035】
また、ドーパント材料蒸発源31からドーパント材料50dの蒸気を、供給管6dを介して第1蒸気分岐器1内に導入する。
第1蒸気分岐器1内に導入されたホスト材料50hの蒸気とドーパント材料50dの蒸気は、第1蒸気分岐器1、第2蒸気分岐器2及び第3蒸気分岐器3によって分岐拡散されて蒸気放出器100内を通過し、最終段である第3蒸気分岐器3の各蒸気放出口3Bから基板5に向って面状に放出され、これにより基板5全表面に有機材料の蒸着膜が形成される。
【0036】
以上述べたように本実施の形態によれば、蒸気放出器100が、有機材料の蒸気の導入側から放出側に向って4n-1(nは自然数)の等比級数で段階的に分岐する連通口を有する第1〜第3蒸気分岐器1〜3を備え、これら第1〜第3蒸気分岐器1〜3のうち最終段の第3蒸気分岐器3の蒸気放出側端部に、複数の蒸気放出口3Bがそれぞれ設けられていることから、蒸気放出器100内において蒸発材料の蒸気を十分に拡散させた後、複数の蒸気放出口3Bから面状に有機材料の蒸気を放出することができ、これにより特に大型基板の表面に分布が均一の成膜を行うことができる。
【0037】
また、本実施の形態においては、第1〜第3蒸気分岐部1〜3が箱状に形成されているため、流れる蒸気のコンダクタンスが配管の場合に比べて大きく、高速で蒸着を行うことができる。
さらに、本実施の形態では、蒸気放出器100において、第1〜第3蒸気分岐器1〜3における蒸気放出口1B〜3Bが同一の平面内に配置されるとともに、第1〜第3蒸気分岐器1〜3における蒸気放出口1B〜3Bは、それぞれの隣接する蒸気放出口1B〜3Bの距離が等しくなるように配置することにより、第3蒸気分岐器3における各蒸気放出口3Bから放出される有機材料の蒸気の面内分布がより均一になるため、基板5の表面に対する膜厚及び膜質の均一性をより向上させることができる。
【0038】
その一方で、本実施の形態によれば、従来技術に比べ配管の分岐級数を減少させることができ、更にはセルボックスを用いて蒸気分岐器100を構成しているため、構成が簡素でコンパクトな蒸着装置10を提供することができる。
【0039】
このように、本実施の形態によれば、有機EL装置の有機薄膜層を形成するためのホスト材料とドーパント材料を用いることにより、大型の有機EL装置の有機薄膜を均一な膜厚及び膜質で蒸着形成することができる。
【0040】
さらに、本実施の形態では、異なる蒸気を発生させる複数の蒸気発生源、すなわち、ホスト材料蒸発源21、ドーパント材料蒸発源31を供給管6h並びに供給管6dを介して蒸気分岐器100に導入するよう構成されていることから、異なる蒸気を確実に混合させて基板5の表面に対して均一な成膜を行うことができる。
【0041】
図4は、本発明に用いる面状の蒸気放出器の他の例を示す斜視図、図5(a)(b)は、同面状の蒸気放出器の内部構成を示す概略図、図6は、同面状の蒸気放出器を用いた蒸着装置を示す平面図である。
【0042】
以下、上記実施の形態と対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
図4、図5(a)(b)及び図6に示すように、本例の蒸気放出器100Aは、真空槽4内に設けられるもので、上述した第1〜第3蒸気分岐器1〜3をそれぞれ合体させた場合と同等の大きさのセルボックスからなる第1〜第3蒸気分岐器101〜103を有している。
【0043】
ここで、第1蒸気分岐器101の容積より第2蒸気分岐器102の容積が大きく、さらに、第2蒸気分岐器102の容積より第3蒸気分岐器103の容積が大きくなるように構成され、第1蒸気分岐器101上に第2蒸気分岐器102が取り付けられ、第2蒸気分岐器102上に第3蒸気分岐器103が取り付けられている。
【0044】
第1蒸気分岐器101の下部には、図示しない蒸気供給源から供給管106を介して蒸発材料の蒸気を導入するための蒸気導入部107が設けられ、この蒸気導入部107と第1蒸気分岐器101は、一つの連通口108を介して連通されている。
【0045】
そして、本実施の形態の蒸着装置10Aでは、有機材料の蒸気の導入側から放出側に向って4n-1(nは自然数)の等比級数で段階的に分岐(増加)する複数の連通口を有している。すなわち、第1蒸気分岐器と第2蒸気分岐器との間には、4個の第1連通口104が設けられ、第2蒸気分岐器と第3蒸気分岐器との間には、8個の第2連通口105が設けられている。そして、第3蒸気分岐器の上面には、64個の蒸気放出口103Bが設けられている。
【0046】
本発明の場合、特に限定されることはないが、より均一な膜厚及び膜質の成膜を行う観点からは、第1及び第2連通口104、105は、上述した蒸気放出口1B(蒸気導入口2A)、蒸気放出口2B(蒸気導入口3A)と同一の条件で設けることがより好ましく、また、蒸気放出口103Bについても、上述した蒸気放出口3Bと同一の条件で設けることがよりことが好ましい。
このような構成を有する本例によれば、製造しやすいため、コストダウンを図ることができる。また、蒸気分岐が非平衡(非対称)になった際、再び平衡に戻すことが可能になる。
【0047】
図7は、本発明の他の実施の形態の要部を示す概略構成図であり、以下、上記実施の形態と対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
図7に示すように、本実施の形態の蒸着装置10Bは、真空槽4内に、図1〜図3(a)(b)に示す蒸気放出器100に対応する蒸気放出器100Bが設けられている。
【0048】
この蒸気放出器100Bは、第1〜第3蒸気分岐器1〜3と同一の基本構成を有するボックス分岐器11を備え、このボックス分岐器11内に、インナー分岐器12が設けられて構成されている。
ボックス分岐器11は、第1蒸気分岐器1の下部に、第1蒸気分岐器1と連通するように蒸気導入部13が設けられ、この蒸気導入部13に供給管6hを介して例えば有機EL装置の有機層を形成するためのホスト材料用蒸発源(図示せず)に接続されている。
【0049】
一方、インナー分岐器12は、例えば金属材料からなる配管を継手等によって連結して一体的に構成したもので、有機材料の蒸気の導入側から放出側に向って4n-1(nは自然数)の等比級数で段階的に分岐する複数(本実施の形態では第1〜第3)分岐配管部121〜123を有している。
【0050】
ここで、インナー分岐器12は、供給管6hとは別の供給管6dを介して例えば有機EL装置の有機層を形成するためのドーパント材料用蒸発源(図示せず)に接続された蒸気導入部14を有している。
【0051】
そして、ボックス分岐器11の第1蒸気分岐器1内には、蒸気導入部14の上部に取り付けられた第1分岐継手51が配置されている。この第1分岐継手51には、例えば水平方向に延び且つ隣接するものの角度が90度となるように連結された4個の第1水平配管部51Hが設けられ、さらに、第1水平配管部51Hの先端部には、それぞれ例えば鉛直上方に延びる第1鉛直配管部51Vが取り付けられている。
【0052】
ここで、4個の第1鉛直配管部51Vは、ボックス分岐器11の第1蒸気分岐器1と第2蒸気分岐器2との間に設けた連通口11aを介してそれぞれの先端部が第2蒸気分岐器2内に挿入され、さらに、第1鉛直配管部51Vの先端部(上端部)には、第2分岐継手52がそれぞれ取り付けられている。
【0053】
各第2分岐継手52には、例えば水平方向に延び且つ隣接するものの角度が90度となるように構成された4個の第2水平配管部52Hが取り付けられている。さらに、第2水平配管部52Hの先端部には、それぞれ例えば鉛直上方に延びる第2鉛直配管部52Vが取り付けられている。
【0054】
ここで、各第2鉛直配管部52Vは、ボックス分岐器11の第2蒸気分岐器2と第3蒸気分岐器3との間に設けた連通口12aを介してそれぞれの先端部がボックス分岐器11の第3蒸気分岐器3内に挿入され、第2鉛直配管部52Vの先端部(上端部)には、第3分岐継手53がそれぞれ取り付けられている。
【0055】
各第3分岐継手53には、例えば水平方向に延び且つ隣接するものの角度が90度となるように構成された4個の第3水平配管部53Hが取り付けられ、さらに、各第3水平配管部53Hの先端部には、例えば鉛直上方に延びる蒸気放出ノズル53Nが取り付けられている。
【0056】
ここで、各蒸気放出ノズル53Nの先端部(上端部)は、第3蒸気分岐器3の上面に設けた蒸気放出口13a内に配置されている。
本発明の場合、特に限定されることはないが、より均一な膜厚及び膜質の成膜を行う観点からは、同一の段の水平配管部並びに鉛直配管部の長さが等しくなるように構成することが好ましい。
【0057】
また、ボックス分岐器11についても、特に限定されることはないが、より均一な膜厚及び膜質の成膜を行う観点からは、隣接する第1〜第3蒸気分岐器1〜3並びに第1〜第3蒸気分岐器1〜3同士について、同一の平面内において、X方向及びY方向に関し、それぞれ隣接する連通口11a、12a並びに蒸気放出口13aの間の距離が等しく、かつ、隣接する全ての蒸気放出口13aの間の距離が等しくなるなるように構成することが好ましい。
【0058】
なお、詳細は図示しないが、上述した蒸気放出器100A内には、蒸着の際に蒸気放出器100Aを加熱するためのヒータが設けられている。
このような構成を有する本実施の形態において、基板5上に有機材料の膜を蒸着形成する場合には、真空槽4内の圧力を所定の圧力にした状態で、供給管6h及び蒸気導入部13を介して例えば上記ホスト材料の蒸気をボックス分岐器11内に導入する。
【0059】
また、例えば上記ドーパント材料の蒸気を、供給管6d及び蒸気導入部14を介してインナー分岐器12内に導入する。
ボックス分岐器11内に導入されたホスト材料の蒸気は、第1蒸気分岐器1、第2蒸気分岐器2及び第3蒸気分岐器3によって分岐拡散され、最終段である第3蒸気分岐器3の各蒸気放出口13aから基板5に向って面状に放出される。
【0060】
一方、インナー分岐器12内に導入されたドーパント材料の蒸気は、第1分岐継手51、第1水平配管部51H、鉛直配管部51V、第2分岐継手52、第2水平配管部52H、第2鉛直配管部52V、第3分岐継手53、第3水平配管部53Hによって分岐拡散され、蒸気放出ノズル53Nから基板5に向って面状に放出される。
これにより、基板5全表面に例えばホスト材料及びドーパント材料の膜が共蒸着形成される。
【0061】
以上述べたように本実施の形態によれば、上記実施の形態の効果に加え、異なる種類の蒸発材料の蒸気をそれぞれ混合することなく拡散させて基板5に向って放出することができるので、ボックス分岐器11とインナー分岐器12との間における蒸発材料の相互汚染を防止することができる。
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0062】
図8は、本発明の他の実施の形態を示す概略構成図であり、以下、上記実施の形態と対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
図8に示すように、本実施の形態の有機EL製造用の蒸着装置10Cは、図4〜図6に示す蒸気放出器100Aと同一構成のボックス分岐器11と、図7に示すインナー分岐器12とを組み合わせた蒸気放出器100Cを有している。
【0063】
ここで、蒸気放出器100Cは、ボックス分岐器11に蒸気を導入する蒸気導入部11aと、インナー分岐器12に蒸気を導入する蒸気導入部12aを有している。
一方、真空槽4の外部には、有機層を蒸着によって形成するための第1〜第3蒸発源7〜9が設けられている。
【0064】
第1蒸発源7は、例えば、正孔注入層材料蒸発源71、正孔輸送層材料蒸発源72、第1ホスト材料蒸発源73、第2ホスト材料蒸発源74、第3ホスト材料蒸発源75、第4ホスト材料蒸発源76が、ボックス分岐器11の蒸気導入部11aに接続された供給管6hに、独立して切換可能なバルブ70を介してそれぞれ接続されている。
【0065】
第2蒸発源8は、例えば、第1アシスタントドーパント材料蒸発源81、第2アシスタントドーパント材料蒸発源82が、ボックス分岐器11の蒸気導入部11aに接続された供給管6dに、独立して切換可能なバルブ80を介してそれぞれ接続されている。
【0066】
第3蒸発源9は、例えば、第1ドーパント材料蒸発源91、第2ドーパント材料蒸発源92、第3ドーパント材料蒸発源93、第4ドーパント材料蒸発源94が、ボックス分岐器11の蒸気導入部12aに接続された供給管6aに、独立して切換可能なバルブ90を介してそれぞれ接続されている。
【0067】
このような構成を有する本実施の形態では、上記実施の形態と同様の効果に加え、第1〜第3蒸気供給源7〜9が、蒸気放出器100Cに対して供給する有機材料の蒸気の量を独立して制御するバルブ70〜90をそれぞれ有することから、これらバルブ70〜90の切り換えを行うことにより、光の三原色の有機材料の蒸気を用いてフルカラーや白色の有機層を積層形成することが可能になる。
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0068】
図9は、本発明の他の実施の形態を示す平面図であり、以下、上記実施の形態と対応する部分には、同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
図9に示すように、本実施の形態の蒸着装置10Dは、上述した蒸着装置10、10A、10B、10Cのいずれかを複数、すなわち、3×4個並べて近接配置したものである。
【0069】
詳細は図示しないが、各蒸着装置10、10A、10B、10Cは、独立して制御可能な蒸気供給源を有し、各蒸気供給源は、上述した供給管を介して蒸気放出器にそれぞれ接続されている。
そして、蒸気放出口110は、隣接するもの同士の距離が等しくなるように、それぞれの位置が設定されている。
【0070】
このような構成を有する本実施の形態によれば、非常に大型の基板の表面に分布が均一の成膜を行うことができる。
また、本実施の形態によれば、12個の蒸着装置10、10A、10B、10Cのうち所定のもののみを動作させることにより、種々の形状及び大きさの蒸着対象物に対して成膜を行うことができる。
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0071】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上記実施の形態においては、隣接する蒸気放出口を正方形の頂点の位置に配置することにより、蒸気放出口同士の距離が等しくなるようにしたが、本発明はこれに限られず、蒸気放出口が長方形の頂点の位置に配置することもできる。
ただし、より均一な成膜を行う観点からは、上記実施の形態のように、蒸気放出口が正方形の頂点の位置に配置することにより、隣接する蒸気放出口の距離が等しくなるように構成することが好ましい。
【0072】
また、上記実施の形態においては、蒸気放出口を上方に向けて蒸気を上方に放出するようにしたが、本発明はこれに限られず、斜め上下方向、水平方向又は鉛直下方に向けて蒸気を放出することもできる。
【0073】
一方、蒸気放出器の蒸気分岐部の数は上記実施の形態には限られず、2個又は4個以上設けることもできる。
ただし、大型基板に対応する観点からは、上記実施の形態のように、3個以上の蒸気分岐部を設け、これにより64個以上の蒸気放出口を設けることが好ましい。
【0074】
さらにまた、本発明は、有機EL装置の有機層を形成する場合のみならず、有機EL装置の電極層を形成する場合にも適用することができる。
加えて、本発明は、複数の原料モノマーを用いて蒸着重合を行う装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…第1蒸気分岐器(蒸気分岐部)
2…第2蒸気分岐器(蒸気分岐部)
3…第3蒸気分岐器(蒸気分岐部)
3B…蒸気放出口
4…真空槽
5…基板(蒸着対象物)
10…蒸着装置
21…ホスト材料蒸発源(蒸気発生源)
31…ドーパント材料蒸発源(蒸気発生源)
100…蒸気放出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着対象物が配置される真空槽と、
前記真空槽の外部に設けられた蒸気発生源と、
前記蒸気発生源から供給された蒸発材料の蒸気を前記蒸着対象物に向って面状に放出する蒸気放出器とを備え、
前記蒸気放出器は、前記蒸発材料の蒸気の導入側から放出側に向って4n-1(nは自然数)の等比級数で段階的に分岐する連通口を介して連通された複数の箱状の蒸気分岐部を備え、当該蒸気分岐部のうち最終段の蒸気分岐部の蒸気放出側端部に、前記蒸発材料の蒸気を前記蒸着対象物に向って放出する複数の蒸気放出口が設けられている蒸着装置。
【請求項2】
前記蒸気放出器は、1個の蒸気導入口に対して4個の蒸気放出口を有する箱状の蒸気分岐器を重ねて構成されている請求項1記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記蒸気放出器の前記複数の蒸気放出口は、隣接する蒸気放出口の間の距離が等しくなるように配置されている請求項1又は2のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記蒸気放出器内に、前記蒸発材料の蒸気の導入側から放出側に向って4n-1(nは自然数)の等比級数で段階的に分岐する複数の分岐配管部を有する分岐配管器が設けられるとともに、当該分岐配管部のうち最終段の分岐配管部に前記蒸発材料の蒸気を放出する複数の蒸気放出ノズルが設けられ、当該複数の蒸気放出ノズルの先端部が前記蒸気放出器の蒸気放出口の内側に配置されている請求項1乃至3のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記蒸気発生源は、異なる蒸発材料の蒸気を発生させる複数の蒸発源を有し、当該複数の蒸発源のうち所定の蒸発源が前記蒸気放出器に接続されるとともに、当該複数の蒸発源のうち前記所定の蒸発源以外の所定の蒸発源が前記分岐配管器に接続されている請求項4記載の蒸着装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の蒸着装置が複数個近接して配置され、当該複数の蒸着装置に対して独立して蒸発材料の蒸気を供給するように構成されている蒸着装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6記載の蒸着装置を用い、真空中で蒸着対象物の表面に有機膜を形成する方法であって、
前記有機蒸発材料として、有機EL装置の有機薄膜層を形成するためのホスト材料とドーパント材料を用いる蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−107302(P2012−107302A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258797(P2010−258797)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】