説明

蒸着装置

【課題】 本発明は、極力材料の無駄が発生しない蒸着装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 蒸着装置10aは、各基板14間を移動し、材料を加熱蒸発させ、各基板14に対して蒸発物を堆積させるための蒸発源12を備える。基板14を真空チャンバーA,Cに出入したりアライメントしたりする間に他の基板14を蒸着する。材料の無駄が非常に少なく、製造されるOLEDの製造コストを下げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発物を堆積させる蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のOLED(organic light emitting display)の有機層は、蒸着やインクジェット法で有機材料を積層して形成されている。有機材料が低分子であれば蒸着、高分子であればインクジェット法が用いられる。
【0003】
蒸着は、真空チャンバー内でAlqなどの有機材料を蒸発源(加熱源)で加熱する必要がある。しかし、有機材料の蒸発の停止/開始を瞬時に切り替えることは難しい。有機材料は温度変化が激しいと突沸したり、もしくは熱変質したりする可能性がある。したがって、OLEDの製造ラインが動き出すと、有機材料は常時加熱される。
【0004】
有機材料が常時加熱されることで、真空チャンバー内に基板の出し入れなどをおこなっている間も有機材料が無駄に消費される。OLEDの有機材料は高価であるにもかかわらず、製造プロセス中での使用効率が極めて低くなる。OLEDの製造コストを上げる大きな要因となる。
【0005】
そこで有機材料の使用効率を上げる方式が考えられている。例えば、基板までの距離を短く保った線状もしくは点状蒸発源を基板面に合わせて移動させる方式が知られている。
【0006】
また特許文献1には、外段取りアライメントによって、クラスタタイプの蒸着装置において真空チャンバー内でのアライメント処理時間を削減し、できるだけ材料費を無駄にしない方式が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−367781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前者の方式を用いた場合であっても、基板の入れ替えやメタルマスクのアライメントを行う間の待ち時間でも蒸発源の材料は継続して蒸発することから、実際に蒸着を行う時間以外で蒸発する材料の割合は無視できないほど高く、これらの技術を用いても製造時のコスト上昇は避けることができない。
【0009】
また、後者の方式、すなわち、特許文献1に記載の方式を用いた場合であっても、基板の真空チャンバー内への出し入れの際にも蒸発源の材料の蒸発は継続しており、材料費の無駄が発生している。
【0010】
そこで本発明は、極力材料の無駄が発生しない蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の蒸着装置の要旨は、複数の基板上に蒸発物を堆積させる蒸着装置であって、前記基板が配置される真空室と、前記複数の基板間を移動し、材料を加熱蒸発させ、各基板に対して蒸発物を堆積させるための蒸発源とを備えたことにある。
【0012】
前記複数の基板は同一の真空室内に配置されてもよい。
【0013】
前記複数の基板は複数の真空室内に配置され、隣接する真空室同士は前記蒸発源が通過可能なように空間的に接続されていてもよい。
【0014】
前記隣接する真空室間に、両真空室同士の空間的な遮断・接続をおこなう開閉機構が設けられており、且つ各真空室は独立して真空排気可能であってもよい。
【0015】
前記蒸発源は各基板間を循環運動もしくは往復運動をおこなう手段を設けてもよい。
【0016】
前記蒸発源は複数存在し、該複数の蒸発源は異なる材料を蒸発させてもよい。
【0017】
前記蒸発源は複数存在し、該複数の蒸発源は互いに異なる基板に対して蒸発物を堆積させるように移動してもよい。
【0018】
前記蒸発源は複数存在し、該複数の蒸発源は同一基板に対して蒸発物を堆積させるように同期して移動してもよい。
【0019】
前記蒸発源によって蒸発物が堆積されていない基板に対して他の工程をおこなう手段を含んでもよい。
【0020】
前記他の工程をおこなう手段は前記基板を真空室に出し入れする手段および/または前記基板に対する蒸着用マスクの位置合わせをおこなう手段であってもよい。
【0021】
前記蒸発物は有機物であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、1つの蒸発源が移動することにより、1つの蒸発源が複数の位置で基板への蒸着をおこなうことから、蒸発源の待機時間(蒸着に寄与しない時間)を他の基板への蒸着に利用することが可能となり、製造プロセス中で実際の蒸着に寄与しない蒸発物の量を少なくすることができる。従って、材料の使用効率を上げることができ、生産性向上や製造コスト削減に大きな効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の蒸着装置の実施形態について図面を用いて説明する。蒸着装置で基板に蒸着(成膜)されるのはOLEDに使用されるAlqなどの有機材料である。
【0024】
本発明の蒸着装置は、複数の基板上に蒸発物を堆積させる。蒸着装置は、交互にまたは順番に基板の上方(蒸発物が堆積される基板の表面側を上方とする)へ移動し、材料を加熱蒸発させ、各基板に対して蒸発物を堆積させるための蒸発源を備える。蒸発源としては、抵抗加熱蒸発源、電子ビーム蒸発源、誘導加熱蒸発源などがある。以下、各実施例に分けて説明する。なお、図1から図4において、太線の矢印は基板14の動きを示し、細線の矢印は蒸発源12の動きを示す。
【実施例1】
【0025】
図1の蒸着装置10aは、蒸着がおこなわれる複数の真空チャンバーA,Cと、上記の蒸発源12と、真空チャンバーA,C同士を空間的につなぎ、蒸発源12が通過する通路Bと、蒸発源12を移動させるための手段とを備える。
【0026】
通路Bは、真空チャンバーA,Cと同じ気圧に保たれている。このため、通路Bを蒸発源12が移動した後、すぐに蒸着が開始できる。なお、図1から図4において、通路Bは線で示しているものもが、実際は高真空に保たれた空間である。
【0027】
また、基板14を真空チャンバーA,Cに出し入れするためのロボットアームなどを備えた搬送作業室16と、搬送作業室16に基板14を搬入するための基板搬入室18と、搬送作業室16から基板14が取り出される基板搬出室20も備える。搬送作業室14などは、いわゆる真空予備室の役目もする。さらに、各真空チャンバーA,Cは、基板14とマスクとのアライメントをおこなう手段を含む。なお、複数の蒸着装置10aの基板搬出室20と基板搬入室18とを接続し、1つの基板14に複数の材料を積層できる構成にしてもよい。
【0028】
蒸発源12を移動させるための手段は、レールと、レールに案内されて移動し、蒸発源12を支持するスライダーとを含む。
【0029】
蒸着装置10aは、真空チャンバーAと真空チャンバーCとが通路Bで接続されている。レールは、真空チャンバーA,Cと通路Bに設けられている。レールは、蒸発源12が真空チャンバーAと真空チャンバーCとを往復運動できるように設けられている。蒸発源12は、スライダーと共に真空チャンバーA,Cと通路Bを移動する。
【0030】
真空チャンバーAと真空チャンバーCとを空間的に遮断・接続できるゲートバルブを設けてもよい。例えば、真空チャンバーAと通路Bとの接続部にゲートバルブを設ける。ゲートバルブの開閉によって真空チャンバーAと真空チャンバーCとを通路Bを介して接続したり、遮断したりする。ゲートバルブを閉めた場合に、各真空チャンバーA,Cが独立して真空排気できる構成にする。すなわち、各真空チャンバーA,Cに真空引き用のポンプなどを設ける。いずれかの真空チャンバーA,Cが故障した場合、ゲートバルブを閉め、稼働できる真空チャンバーA,Cで独立して蒸着を行うことができる。
【0031】
次に、図1の蒸着装置10aを使用した蒸着プロセスについて説明する。表1に蒸着装置10aの蒸着プロセスについて示す。表1の矢印は蒸発源12が移動することを示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように、蒸発源12が真空チャンバーCにある時、真空チャンバーC内の基板14が蒸着される。そのとき、真空チャンバーAでは基板14の出入およびアライメントがおこなわれる。アライメントは、基板14とマスクとの位置をあわせ、基板14の所望の位置に蒸着が行えるようにすることである。
【0034】
真空チャンバーCでの蒸着が完了すると蒸発源12は真空チャンバーCから通路Bを通って真空チャンバーAに移動する。真空チャンバーAに蒸発源12が入ったときに、真空チャンバーAではアライメントが完了しており、すぐに蒸着が開始される。
【0035】
真空チャンバーCから真空チャンバーAに蒸発源12が移動し、真空チャンバーAで蒸着がおこなわれているとき、真空チャンバーCでは基板14の出入とアライメントがおこなわれる。
【0036】
上記のように、複数の基板14が順番に蒸着される。真空チャンバーA,Cでの蒸着時間と基板14の出入などの時間を調節し、蒸発源12が待機する時間をできるだけ短くする。例えば、基板14の真空チャンバーA,Cへの出入などに時間がかかるようであれば、基板14への蒸着時間が長くなるようにする。
【0037】
以上のように、複数の真空チャンバーA,Cを蒸発源12が移動する。すなわち、一の真空チャンバーA(C)で基板14の出入やアライメントがおこなわれているとき、蒸発源12を他の真空チャンバーC(A)に移動させ、そのチャンバーC(A)内の基板14への蒸着を行っている。従って、基板14の出入やアライメントの際に蒸発源12の材料を無駄に蒸発させていた時間を他の基板14への蒸着に利用することが可能となり、製造プロセス中で実際の蒸着に寄与しない蒸発物の量を小さくすることができる。言い換えると、材料を常時蒸発させながら不要な材料消費を極端に少なくしており、蒸発源12の有機材料の無駄が極めて少なくなる。従って、材料の使用効率を上げることができ、生産性向上や製造コスト削減に大きな効果がある。なお、蒸発源12が通路Bを通過する時間を短く調節することによって、さらに無駄が少なくなる。
【0038】
また、この場合、蒸発源12の蒸発の停止/開始を切り替えなくとも、材料の使用効率を高くできるため、蒸発源12の温度を大きく変化させる必要はなく、蒸発源12の温度を略一定に保持し、材料の突沸や熱変質などの危険も少ない。
【実施例2】
【0039】
実施例1は2つの真空チャンバーA,Cを用いたが、図2に示すように3つの真空チャンバーA,C,Eであってもよい。図2の蒸着装置10bは、図1の蒸着装置10aとは多少異なるが、基本的には同様の構成要素からなる。すなわち、蒸着装置10bは、複数の真空チャンバーA,C,E、通路B,D,F、搬送作業室16を含む。
【0040】
真空チャンバーA,C,Eの数が3つに増えたために、3つの通路B,D,Fが設けられている。蒸発源12a,12bを移動させるための手段は、実施例1と同様である。図中の矢印のように、蒸発源12a,12bは各真空チャンバーA,C,Eを循環するように移動する。したがって、真空チャンバーA,C,Eと通路B,D,Fによって、1つのループが形成されている。蒸発源12a,12bは各真空チャンバーA,C,Eを循環するため、複数であってもよい。例えば図2に示すように2つにすることができる。蒸発される材料を違えることによって、1つの真空チャンバーA(C,E)で複数の材料を順次蒸着するようにしてもよい。また、各蒸発源12a,12bで蒸発される材料を同じにしてもよい。
【0041】
次に、図2の蒸着装置10bにおける蒸着方法について説明する。表2に蒸着装置10bにおける蒸着プロセスを示す。表2の中で実線と点線の矢印の違いは、蒸発源12a,12bの違いである。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示すように、複数の基板14が順次蒸着される。実施例1と同様に、ある真空チャンバーA内で基板14の出入やアライメントをおこなっているときに、他の真空チャンバーC,Eでは蒸着がおこなわれる。複数の蒸発源12a,12bは互いの蒸発した材料が混在しないように、一定間隔を保つように同期しながら移動し、材料を蒸発させる。実施例1と同様に材料の無駄が非常に少なくする効果がある。
【実施例3】
【0044】
図3は線状の蒸発源12を利用した蒸着装置10cを示す。実施例1と異なるのは、蒸発源12が線状の蒸発源12であることである。図中の点線は蒸発原12の動きを示している。他の構成は、図1の蒸着装置10aと同様であり、蒸発源12は真空チャンバーAとCとを往復する。この蒸着装置10cにおける蒸着プロセスは表1と基本的に同じであるので省略する。
【0045】
実施例1などと同様に、ある真空チャンバーA(C)内で基板作業室16との基板14の出入やアライメントをおこなっているときに、他の真空チャンバーC(A)では蒸着がおこなわれる。したがって、材料の無駄が少なく、OLEDの製造コストを削減することができる。
【実施例4】
【0046】
さらに、図4では点状の蒸発源12a,12bが基板14上方の所望の位置を移動する蒸着装置10dを示す。図4の装置10dは、蒸発源12a,12bは基板14の上方で蛇行することによって、基板14の所望の位置に材料を蒸着することができる。蒸発した材料が拡散する範囲が狭い場合、図4に示すように、2つの蒸発源12a,12bを用いて複数の異なる材料を蒸発させ、複数の材料を積層することもできる。表3に図4の蒸着装置10dの蒸着プロセスを示す。
【0047】
【表3】

【0048】
本実施例も実施例1などと同様に、一のチャンバーA(C)内で基板作業室16との基板14の出入やアライメントをおこなっているときに、他の真空チャンバーC(A)では蒸着がおこなわれる。材料の無駄が少なく製造コストを下げることができる。
【0049】
なお、蒸発源12a,12bは2つであったが、製造される基板14によって他の数に変更してもよい。蒸発源12a,12bは基板14の上方を蛇行したが、他のコースをとってもよい。
【実施例5】
【0050】
上に説明した実施例はいずれも複数の真空チャンバーA,Cを用いたものであったが、1つの真空チャンバーであってもよい。1つの真空チャンバー内に複数の基板14が出入される。一の基板14の出入およびアライメントをおこなっているときに、他の基板14の蒸着がおこなわれる。通路Bが無く、上記の実施例よりも材料の無駄が少なくなる。
【0051】
1つの真空チャンバーに複数の基板14を配置した場合に、上記のゲートバルブを設け、各基板14を独立させる構成であってもよい。
【実施例6】
【0052】
実施例1から4の蒸着装置10a,10b,10c,10dと実施例5の蒸着装置を組み合わせてもよい。すなわち、各真空チャンバーA,Cで複数の基板14を蒸着し、かつ、蒸発源12は各真空チャンバーA,Cを移動するようにする。
【0053】
以上、実施例で説明したように、蒸発源12が複数の基板14の間を移動することによって、材料の無駄を極端に少なくすることができる。材料コストを削減することができ、OLEDの生産性を向上させ、製造コストを下げることができる。
【0054】
なお、OLEDについて実施例を説明したが、蒸着によって製造される他のものに適用してもよい。その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の蒸着装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の蒸着装置の他の構成を示し、真空チャンバーを3室にした図である。
【図3】本発明の蒸着装置の他の構成を示し、線状の蒸発源を用いた場合の図である。
【図4】本発明の蒸着装置の他の構成を示し、点状の蒸発源が移動する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10a,10b,10c,10d:蒸着装置
12,12a,12b:蒸発源
14:基板
16:搬送作業室
18:基板搬入室
20:基板搬出室
A,C,E:真空チャンバー(真空室)
B,D,F:通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基板上に蒸発物を堆積させる蒸着装置であって、
前記基板が配置される真空室と、
前記複数の基板間を移動し、材料を加熱蒸発させ、各基板に対して蒸発物を堆積させるための蒸発源と、
を備えたことを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記複数の基板は同一の真空室内に配置されることを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記複数の基板は複数の真空室内に配置され、隣接する真空室同士は前記蒸発源が通過可能なように空間的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記隣接する真空室間に、両真空室同士の空間的な遮断・接続をおこなう開閉機構が設けられており、且つ各真空室は独立して真空排気可能であることを特徴とする請求項3に記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記蒸発源が各基板間を循環運動もしくは往復運動をするための手段を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項6】
前記蒸発源は複数存在し、該複数の蒸発源は異なる材料を蒸発することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項7】
前記蒸発源は複数存在し、該複数の蒸発源は互いに異なる基板に対して蒸発物を堆積させるように移動することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項8】
前記蒸発源は複数存在し、該複数の蒸発源は同一基板に対して蒸発物を堆積させるように同期して移動することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項9】
前記蒸発源によって蒸発物が堆積されていない基板に対して他の工程をおこなうための手段を含むこと特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項10】
前記他の工程をおこなうための手段は、前記基板を真空室に出し入れする手段および/または前記基板に対する蒸着用マスクの位置合わせをおこなう手段であることを特徴とする請求項9に記載の蒸着装置。
【請求項11】
前記蒸発物が有機物である請求項1乃至請求項10に記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−2226(P2006−2226A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181207(P2004−181207)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【出願人】(599142729)奇美電子股▲ふん▼有限公司 (19)
【Fターム(参考)】